説明

誘電体磁器組成物

【課題】 Q×f値を向上するとともに、十分に高い比誘電率εrを得ることも可能な誘電体磁器組成物を提供すること。
【解決手段】 本発明の誘電体磁器組成物は、下記組成式(1)で表される酸化物誘電体からなるものである。
a・CaO−b・LiO1/2−c・BiO3/2−d・REO3/2−e・TiO…(1)
[但し、上記式(1)中、REは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。また、a〜eは、各成分の比率(モル%)を表し、
26<a≦45、
0<b≦12、
0<c≦(a+d)/4、
0≦d≦12.5、
50≦e≦60、
0.65≦b/(c+d)<1.0、
(a+b+d)/e<1.0、
dが0でない場合、b≧0.9×d、
a+b+c+d+e=100
となる関係を満たす値である。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話等の電子機器においては、使用周波帯域が高周波に移行してきており、電子機器に用いられる誘電体フィルタには、高周波帯域で優れた誘電特性を有する誘電体材料を用いることが求められる。このような誘電特性として、主として、Q×f値(Q:品質係数、f:共振周波数)がある。なお、品質係数Qは、誘電正接tanδの逆数である。Q×f値は、誘電体材料の損失特性を表し、この値が大きいほど損失が小さいことを意味する。したがって、Q×f値が大きい誘電体材料を用いることで、損失が小さい誘電体フィルタを得ることができる。
【0003】
また、近年、携帯電話等の電子機器には小型化が求められており、それに伴って誘電体フィルタにも小型化が求められている。そのためには、一般に、高い比誘電率εrを有する誘電体材料を用いることが有効とされている。これは、誘電体中を伝わる電磁波の波長は、比誘電率εrに応じて1/√εr倍に短縮されるためである。
【0004】
上記の観点から、小型で且つ高誘電特性の誘電体フィルタを実現するためには、Q×f値及び比誘電率εrが高い誘電体材料が好適である。しかしながら、通常、Q×f値と比誘電率εrとの間には、一方が大きくなると他方が小さくなるというトレードオフの関係がある。そこで、これらの値の両立を実現すべく誘電体材料の開発が進められている。
【0005】
例えば、本出願人により、下記組成式:
a・CaO−b・LiO1/2−c・BiO3/2−d・REO3/2−e・TiO…(1)
[但し、但し、上記式(1)中、REは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種の希土類元素を表す。また、a〜eは、各成分の比率(モル%)を表し、10≦a≦25、10≦b≦20、8≦c≦15、2≦d≦10、50≦e≦60、0.65≦b/(c+d)<1.0、a+b+c+d+e=100となる関係を満たす。]で表される誘電体磁器組成物を用いることにより、Q×f値が大きく、共振周波数の温度変化係数τfが小さく且つ高い比誘電率εrを有する誘電体磁器を実現することが提案されている(下記特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2006−273703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1に記載の誘電体磁器組成物によれば、ある程度高いQ×f値が得られ、しかも比誘電率εrが高い誘電体材料を提供することができる。しかしながら、近年では、誘電体材料に対し、素子中の特定箇所に用いるために従来よりも更に高いQ×f値が要求される場合がある一方、その場合であっても十分な小型化が可能であることが求められており、かかる要求に応えるため、一層の高Q×f値化が可能であるとともに、十分に高い比誘電率εrを得ることができる誘電体磁器組成物が求められている。
【0007】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、Q×f値を向上するとともに、十分に高い比誘電率εrを得ることも可能な誘電体磁器組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために、上記組成式(1)で表される誘電体磁器組成物を構成する成分の比率について更に検討を行なったところ、特にCaOの比率が大きい組成において、各成分の比率を適切な範囲に調整することにより、高いQ×f値及び比誘電率εrが得られるようになることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の誘電体磁器組成物は、下記組成式(1)で表される酸化物誘電体からなることを特徴とする。
a・CaO−b・LiO1/2−c・BiO3/2−d・REO3/2−e・TiO…(1)
[但し、上記式(1)中、REは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。また、a〜eは、各成分の比率(モル%)を表し、
26<a≦45、
0<b≦12、
0<c≦(a+d)/4、
0≦d≦12.5、
50≦e≦60、
0.65≦b/(c+d)<1.0、
(a+d+b)/e<1.0、
a+b+c+d+e=100、更に、
dが0でない場合、b≧0.9×d、
となる関係を満たす値である。]
【0010】
なお、上記組成式(1)における各元素の組成は、酸化物誘電体についてそれ単独で誘電結合プラズマ発光分光分析及び蛍光X線分析を行うことにより得られた分析値として表している。
【0011】
このような組成を有する本発明の誘電体磁器組成物によれば、従来にも増して大きなQ×f値が得られるとともに、高い比誘電率εrを得ることも可能となる。また、上記組成の誘電体磁器組成物は、その製造時において、従来よりも低い(例えば1200℃以下)温度でも十分に焼結させることができるという特性も有している。そのため、かかる誘電体磁器組成物によれば、誘電体フィルタ等の素子を形成する際、低温で効率のよい焼成が可能となるとともに、誘電体磁器組成物と同時に焼成する電極材料として、従来の高価なPdやPtに代えて、融点が低いため従来の高温では焼成できなかったAg−Pd合金等を用いることが可能となる。その結果、素子等の製造工程を簡便化できるほか、より安価で導体抵抗も低いAg−Pd合金等を用いることによる、低コスト化及び高特性化を実現することも可能となる。
【0012】
上記本発明の誘電体磁器組成物において、上記式(1)におけるa〜eは、0<c≦(a+d)/5で表される関係を満たす値であるとより好ましい。また、式(1)中、a〜eは、0.93≦(a+b+c+d)/e<1で表される関係を更に満たす値であると更に好ましい。これらの関係を満たすことで、Q×f値及び比誘電率εrをより高いレベルで両立させることが可能となる。
【0013】
また、上記式(1)中、REは少なくともNdを含むと好ましく、この場合、Ndの一部がLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種により置換されていてもよい。REとしてNdを含むと、高い比誘電率εrとともに、特に高いQ×f値が得られ易くなる。
【0014】
さらに、式(1)中、Caの一部がBa、Sr及びMgからなる群より選ばれる少なくとも1種により置換されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Q×f値を向上するとともに、十分に高い比誘電率εrを得ることも可能な誘電体磁器組成物を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0017】
[誘電体磁器組成物]
本実施形態の誘電体磁器組成物は、下記組成式(1)で表される酸化物誘電体からなるものである。この酸化物誘電体は、主としてペロブスカイト構造を有するものとなる。
a・CaO−b・LiO1/2−c・BiO3/2−d・REO3/2−e・TiO…(1)
[但し、上記式(1)中、REは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。また、a〜eは、各成分の比率(モル%)を表し、
26<a≦45、
0<b≦12、
0<c≦(a+d)/4、
0≦d≦12.5、
50≦e≦60、
0.65≦b/(c+d)<1.0、
(a+b+d)/e<1.0、
dが0でない場合、0.9×b>d、
a+b+c+d+e=100、
となる関係を満たす値である。]
【0018】
上記酸化物誘電体中のCaには、比誘電率εrを向上させる効果と、共振周波数の温度変化係数τfをプラス側に大きくする効果がある。ここで、τfは、共振周波数fの安定性を表し、τfの絶対値が小さいほど温度変化に対する誘電特性の変化が小さい誘電体材料となる。酸化物誘電体において、Caの比率がCaO換算で26モル%以下であると、高いQ×f値と高い比誘電率εrとを両立することが困難となる。一方、45モル%を超えると、τfが大きくなりすぎて好ましくない。したがって、CaのCaO換算による含有量aは、26モル%を超え45モル%以下となる。より高いQ×f値及び比誘電率εrを得るとともに、一層安定した温度特性を得るためには、CaのCaO換算による含有量aは、26モル%を超え40モル%以下であることが特に好ましい。
【0019】
また、酸化物誘電体においては、CaOのCaの一部がアルカリ土類金属元素(Sr,Ba,Mgから選ばれる1種又は2種以上)により置換されてもよい。Caの一部をSr、Ba等のイオン半径がCaより大きな元素で置換することで、比誘電率εrを高めることができる。また、Caの一部を、Mg等のイオン半径がCaより小さな元素で置換すると、Q×f値を高めることができる。
【0020】
酸化物誘電体中のLiは、比誘電率εrと共振周波数の温度変化係数τfに作用を及ぼす。LiのLiO1/2換算による含有量bは、0モル%よりも大きく12モル%以下とする。Liを含まない場合、共振周波数の温度変化係数τfがプラス側に大きくなりすぎる。一方、12モル%を超えると、比誘電率εrが低くなりすぎる。
【0021】
酸化物誘電体中のBiは、比誘電率εrを高める効果があることから、少なくともBiを含むことが好ましい。しかし、Biが多すぎると、むしろ比誘電率εrが低下し、さらにQ×f値も低下する。そこで、εrとQ×f値のバランスから適量範囲を決める必要がある。
【0022】
一方、酸化物誘電体中の希土類元素REは、共振周波数の温度変化係数τfの制御に寄与し、RE量が増加するとτfはマイナス方向での絶対値が大きくなる傾向にある。ただし、本実施形態の組成においては、ある程度の量のREを含むことで、高いQ×f値を達成できるようになる。
【0023】
Q×f値を高め、十分な比誘電率εrを得るとともに、最低限の共振周波数の温度変化係数τfを得るためには、Ca、Bi及びREの量は、それぞれをCaO、BiO3/2及びREO3/2に換算した量であるa、c及びdの比率が、0<c≦(a+d)/4を満たすとともに、dのモル比が0≦d≦12.5を満たすことが望ましい。
【0024】
ここで、REO3/2において、REはNdであることが好ましく、さらにはその一部がランタニド族元素(La,Ce,Pr,Sm,Y,Yb,Dyから選ばれる1種又は2種以上)によって置換されていてもよい。REをNdとすることで、比誘電率εr、Q×f値と温度特性(温度安定性)の各特性のバランスが良くなる上、特性と材料コストのバランスも良好となる。また、Ndの一部を、La,Ce,Pr等、イオン半径がNdより大きな元素で置換することで、比誘電率εrを高くすることができる。一方、Ndの一部を、Sm,Y,Yb,Dy等、イオン半径がNdよりも小さな元素で置換することで、Q×f値を高くすることができる。
【0025】
また、酸化物誘電体におけるTiが多すぎると、ペロブスカイト結晶相の形成に必要な量以上の過剰なTiによって、TiOなどのTiを多く含む異相が生成しやすい。逆にTiが少なすぎると、ペロブスカイトのAサイトに入るはずの他の金属元素を多く含む異相が発生しやすい。いずれの場合にも、異相の発生により特性が大幅に低下するおそれがある。そのため、TiのTiO換算による含有量eは50モル%以上、60モル%以下とする必要がある。
【0026】
酸化物誘電体においては、1価元素Liと、3価元素であるBi及び希土類元素REの総和とのモル比b/(c+d)も、適正範囲に制御する必要がある。まず、b/(c+d)<1.0とすることで、ほぼ単相のペロブスカイト構造を持つ酸化物誘電体が得られる。なお、b/(c+d)≧1であると、LiO・TiOからなる異相の生成によって比誘電率εrが低下する。逆に、Liが少なくなりすぎる、すなわちb/(c+d)<0.65であると、BiTiやBiTi等の異相が生成し、これにより比誘電率εr及びQ×f値が低下し、さらに温度変化係数τfはプラス方向での絶対値が大きくなる。したがって、0.65≦b/(c+d)<1とすることで、高特性の酸化物誘電体が実現される。
【0027】
また、酸化物誘電体においては、上記式(1)中、a、b、d、eが、(a+b+d)/e<1.0を満たし、更に、dが0でない場合にb≧0.9×dを満たすことが好ましい。b及びdがb≧0.9×dを満たす関係である場合、Biと反応できるだけの余剰のLiを酸化物誘電体が含有することになり、誘電体磁器組成物の焼成時に、LiとBiの低融点化合物、例えばLiBiO(融点が約700℃)等を生成しながら焼結が進むため、低温焼成化を図ることができる。したがって、この要件を満たすことで、例えば、1200℃未満の焼成温度とした場合でも、焼結体の密度を向上させて比誘電率εrを高めることができる。
【0028】
また、ペロブスカイト構造を有する酸化物誘電体では、Aサイト原子とBサイト原子とのモル比A/Bが誘電特性に大きく関係する。本実施形態の誘電体磁器組成物に含まれる酸化物誘電体では、A/Bが1よりも小さいことが異相の発生低減や特性の向上に好適である。そして、Aサイトは主として、Ca、Li及びREからなり、Bサイトは主としてTiからなり、Biは主にAサイトに配位する。したがって、上記の通り、式(1)中のa,b,d,eは(a(Ca)+b(Li)+d(RE))/e(Ti)<1.0を満たすことが好ましい。
【0029】
なお、本実施形態の誘電体磁器組成物は、主として上述した酸化物誘電体から構成されるが、Q×f値、比誘電率εr、共振周波数の温度変化係数τfや設計上の焼成温度等を大きく変化させない限り、その他の成分を含んでいてもよい。ただし、十分な特性を得る観点からは、誘電体磁器組成物は、その90モル%以上が上記酸化物誘電体からなることが好ましく、不可避の混入成分を除いて全量が上記酸化物誘電体からなることが特に好ましい。
【0030】
[誘電体磁器組成物及び誘電体磁器の製造方法]
上述した誘電体磁器組成物及びこれを用いた誘電体磁器は、例えば、図1に示す製造プロセスにしたがって作製することができる。図1は、酸化物誘電体の作製から誘電体磁器の作製までの一連の製造プロセスを示すものであり、混合工程1、仮焼成工程2、粉砕工程3、造粒工程4、成型工程5、及び焼成工程6から構成される。酸化物誘電体の粉末は、図1に示す製造プロセスのうち、混合工程1から粉砕工程3までの工程により作製される。
【0031】
酸化物誘電体の製造に際しては、まず、主成分の原料粉末を所定量秤量し、これらを混合する(混合工程1)。主成分の原料粉末としては、酸化物粉末の他、加熱により酸化物となる化合物、例えば炭酸塩、水酸化物、蓚酸塩、硝酸塩等の粉末を用いることができる。この場合、原料粉末としては、1種類の金属の酸化物(化合物)に限らず、例えば2種類以上の金属を含む複合酸化物の粉末を原料粉末としてもよい。各原料粉末の平均粒径は、例えば0.1μm〜3.0μmの範囲内で適宜選択すればよい。混合方法としては、例えばボールミルによる湿式混合等を採用することができる。
【0032】
混合工程1の後、混合された原料粉末に対し、適宜乾燥、粉砕、篩いかけを行う。続いて、この原料粉末に対して仮焼成工程2を行う。仮焼成工程2では、例えば電気炉等を用い、900℃〜1200℃の温度範囲で所定時間保持し、仮焼を行う。このときの雰囲気は、O、Nまたは大気等の非還元性雰囲気とすればよい。また、仮焼における保持時間は、例えば0.5〜5.0時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0033】
仮焼後、粉砕工程3において、得られた仮焼体を例えば平均粒径0.1μm〜2.0μm程度になるまで粉砕する。粉砕手段としては、例えばボールミル等を用いることができる。ここまでの工程によって酸化物誘電体が得られ、この酸化物誘電体をそのまま用いるか、又は必要に応じて他の成分を添加することにより、誘電体磁器組成物が得られる。
【0034】
なお、酸化物誘電体の製造において、各成分の原料粉末を添加するタイミングは、上述した混合工程1のみに限定されるものではない。例えば、必要な原料粉末のうちの一部の成分の原料粉末のみを秤量、混合して仮焼し、これを粉砕した後に、他の成分の原料粉末を所定量添加して混合するようにしてもよい。
【0035】
このようにして誘電体磁器組成物を得た後には、上記のようにして得られた誘電体磁器組成物を、造粒工程4において造粒し、この造粒した顆粒を成型工程5において成型して所望の形状の成型体を得た後、更に焼成工程6において成型体を焼成することで、誘電体磁器を得ることができる。
【0036】
造粒工程4においては、誘電体磁器組成物に、適当なバインダ、例えばポリビニルアルコール(PVA)あるいはアクリル系樹脂を少量添加することが望ましい。また、得られる顆粒の粒径は、80μm〜200μm程度とすることが望ましい。成型工程5においては、例えば100MPa〜300MPaの圧力で造粒した顆粒を加圧成型し、所望の形状の成型体を得る。
【0037】
そして、焼成工程6において、得られた成型体を所定の温度及び時間で加熱保持し、成型時に添加したバインダを除去して焼結体を得る。これにより、種々の誘電体素子に適用される誘電体磁器を得ることができる。
【0038】
ここで、本発明の誘電体磁器組成物は、上述した実施形態の組成を有していることから、従来同程度のQ×f値及びεrが得られた誘電体材料に比して、低温での焼成が可能である。したがって、焼成工程6における焼成温度は、例えば、Ag(70)−Pd(30)合金の融点以下の温度である1200℃以下の温度条件で焼成を行うことが可能である。また、焼成工程6における焼成雰囲気は、例えばO、Nまたは大気等の非還元性雰囲気とすればよい。加熱保持時間は、例えば0.5〜6時間の範囲で適宜選択すればよい。
【0039】
上述した本発明の誘電体磁器組成物は、上記実施形態のような特定の組成を有する酸化物誘電体から構成されることから、従来に比して高いQ×f値が得られるにもかかわらず、十分に高い比誘電率εrも得られるものとなる。また、共振周波数の温度変化係数τfについても実用的な範囲で得られるようになる。さらに、1200℃以下での焼成も可能なものである。したがって、本発明の誘電体磁器組成物は、高周波、特にマイクロ波用の共振器を構成し、導体としてAg−Pd合金を用いた積層誘電体フィルタ(バンドパスフィルタやローパスフィルタ、ハイパスフィルタ)、さらには、誘電体フィルタとして機能する構成を有する多層回路基板などにおいて、特に高Q×f値が要求される場合等の誘電体層の部分に極めて好適である。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
[誘電体磁器組成物及び誘電体磁器の作製]
まず、原料粉末として、高純度のCaCO、LiCO、Bi、Nd(OH)、TiO等を用意した。各原料粉末の平均粒径は0.1〜1.0μmであった。
【0042】
これらの原料粉末を所定量秤量し、ボールミルを使用してイオン交換水中で湿式混合を16時間行った。得られたスラリーを十分に乾燥させた後、大気中1000℃で4時間保持する仮焼を行い、仮焼体を得た。この仮焼体を平均粒径が0.5〜1.5μmの範囲となるようにボールミルを使用してイオン交換水中で湿式粉砕を行い、乾燥して、微粉砕された仮焼粉末(誘電体磁器組成物)を得た。なお、平均粒子径の測定は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装社製、MICROTRAC model 9320−X100)を使用して行った。
【0043】
その後、得られた仮焼粉末に、バインダとしてアクリル系樹脂を加えて造粒した後、圧力150MPaでプレス成型を行い、円柱状の成型体を得た。次いで、この成型体を1150℃で2時間焼成し、加工して直径:高さ=2:1の円柱状の焼結体試料(誘電体磁器)を得た。このようにして作製した誘電体磁器の組成は、蛍光X線分析装置(リガク社製、ZSX−100e)及び誘導結合プラズマ発光分析(ICP−AES)装置(島津社製ICPS−8000)により確認した。
【0044】
上記の製造方法により得られた各種の誘電体磁器の組成の一覧を表1及び2に示す。なお、表1及び2において、REO3/2の欄に記載されている元素記号は、REとして配合された元素の種類を示している。また、「(a+d)/5」及び「(a+d)/4」の欄に付されている「<」及び「>」の記号の意味は次の通りである。すなわち、同欄の左側に示しているBiO3/2の量(すなわち、cの値)が、「(a+d)/5」又は「(a+d)/4」よりも小さい場合は「<」で示し、大きい場合は「>」で示してある。
【0045】
さらに、表2において、B1〜B7については、CaOの右側の「置換」の欄が空欄となっているが、これは、Caの一部がBa、Sr、Mg等によって置換されていないことを表す。また、B8〜B10については、REO3/2の右側の欄が空欄となっているが、これは、REの全てがNdであり、REの一部がLa、Ce、Pr、Sm、Dy、Yb、Y等によって置換されていないことを表す。
【表1】


【表2】

【0046】
[特性評価]
得られた各種の誘電体磁器について、その誘電特性(比誘電率εr及びQ×f値)を測定した。誘電特性の測定は、Hakki−Coleman法により行った。使用した測定器は、ネットワークアナライザ(ヒューレットパッカード社製、8510C)である。なお、測定時の共振周波数は3〜5GHzであった。
【0047】
また、相対密度については、1000〜1400℃で2時間焼成した焼結体試料のうち、最も高密度だった試料の密度を100%として、実際の焼結体の重量と寸法から求めた密度とを比較して相対密度を算出した。得られた結果をまとめて表3及び4に示す。
【表3】


【表4】

【0048】
表3及び表4に示すように、本発明の組成範囲に含まれる実施例のA3〜A6、A8〜A13、A15〜A20、A22〜A27、B1〜B10の誘電体磁器組成物を用いて得られた誘電体磁器は、本発明の組成範囲外である比較例の誘電体磁器組成物を用いた場合と比較して、総じて高いQ×f値が得られるとともに、十分に高い比誘電率εrが得られることが確認された。なお、A1、A2、A7、A14及びA21の誘電体磁器組成物を用いた場合は、焼結が不十分となり、誘電特性を十分に発揮し得る程度の誘電体磁器が得られなかった。
【0049】
また、A20、A26及びA27の誘電体磁器組成物、すなわち、cが(a+d)/5を超えたものは、他の実施例の誘電体磁器組成物を用いた場合に比べてQ×f値が低くなったことから、cが(a+d)/5以下である場合、特に優れたQ×f値が得られることが判明した。さらに、表4の結果から、Caの一部を他のアルカリ土類金属元素に、また、Ndの一部を他の希土類元素に置換しても、高いQ×f値及び高い比誘電率εrが十分に得られることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】酸化物誘電体の作製から誘電体磁器の作製までの一連の製造プロセスを示すフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式(1)で表される酸化物誘電体からなることを特徴とする誘電体磁器組成物。
a・CaO−b・LiO1/2−c・BiO3/2−d・REO3/2−e・TiO…(1)
[但し、上記式(1)中、REは、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種を表す。また、a〜eは、各成分の比率(モル%)を表し、
26<a≦45、
0<b≦12、
0<c≦(a+d)/4、
0≦d≦12.5、
50≦e≦60、
0.65≦b/(c+d)<1.0、
(a+b+d)/e<1.0、
dが0でない場合、b≧0.9×d、
a+b+c+d+e=100
となる関係を満たす値である。]
【請求項2】
前記式(1)中、a〜eは、下記式:
0<c≦(a+d)/5
で表される関係を満たす値である、ことを特徴とする、請求項1記載の誘電体磁器組成物。
【請求項3】
前記式(1)中、a〜eは、下記式:
0.93≦(a+b+c+d)/e<1
で表される関係を更に満たす値である、ことを特徴とする、請求項1又は2記載の誘電体磁器組成物。
【請求項4】
前記式(1)中、REが少なくともNdを含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記REにおいて、前記Ndの一部がLa、Ce、Pr、Nd、Sm、Dy、Yb及びYからなる群より選ばれる少なくとも1種により置換されている、ことを特徴とする請求項4記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
前記式(1)中、Caの一部がBa、Sr及びMgからなる群より選ばれる少なくとも1種により置換されている、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の誘電体磁器組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2009−203110(P2009−203110A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−46587(P2008−46587)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】