説明

誘電体装荷アンテナ

【課題】アンテナの帯域幅を狭めることなく、アンテナの小型化を実現できる誘電体装荷アンテナを実現する。
【解決手段】アンテナ素子10およびグラウンド導体11を備えた逆F型アンテナにおいて、誘電体12がアンテナ素子10を覆うように配置される。アンテナ素子10は、給電点から開放端に至るまでの2つのエッジに沿ったエッジ経路の長さが異なるものであり、誘電体12は、長い側のエッジ経路の少なくとも一部を覆い、短い側のエッジ経路を覆わないような配置とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆F型アンテナの放射素子に誘電体を配置した誘電体装荷アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、小型化に適したアンテナとして逆F型アンテナが知られている。一般に、逆F型アンテナは、図20に示すように、放射素子100がグラウンド導体101と所定間隔を有して平行状に延長して配置され、この放射素子100の一端が短絡素子102を介してグラウンド導体101に接続される。また、放射素子100への給電は、給電点に同軸ケーブル等を接続して行なわれる。逆F型アンテナでは、放射素子100の素子長さを、信号波長の約1/4に設定することができる。
【0003】
上記逆F型アンテナをさらに小型化する手法として、特許文献1には、放射電極とグランド電極の間にセラミックなどの高誘電体を配置する技術が開示されている。このような誘電体装荷アンテナでは、アンテナに比誘電率εの高誘電体を配置することで、1/ε1/2に比例してアンテナの長さを短くすることができる。
【特許文献1】特開2005−236624号公報(公開日:2005年9月2日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構成では、アンテナ小型化を図れる一方で、アンテナの帯域幅が狭くなるといった問題がある。この問題について、図21および図22を参照して説明すると以下の通りである。
【0005】
ここで、誘電体を配置していないあるアンテナにおいて、図21に示すようなアンテナ特性が示されているとする。図21における横軸は周波数を示しており、縦軸はVSWR(電圧定在波比)を示している。ここで、VSWRは、アンテナへの入力波に対する反射波の割合を示すものであり、VSWRの値が低いほどアンテナの入力特性が高いことを示す。一般にはVSWRの値が3以下程度であれば良好な入力特性であるとみなされる。図21において特性が示されるアンテナでは、VSWR=3を閾値とすれば、その帯域幅はf(下限周波数)〜f(上限周波数)である。また、上記アンテナでは、f〜fが所望のアンテナ帯域であるとする。
【0006】
上記アンテナにおいて、アンテナの小型化を図るためにアンテナ長を短くすると、アンテナ帯域が高周波数側に移動し、低周波数側で所望のアンテナ帯域が得られなくなる(図22における実線のグラフ(ε=1))。ここで、上記アンテナに誘電体を配置することで、アンテナの下限周波数を下げることができる(図22における一点鎖線のグラフ(ε=3))。しかしながらこの場合、同時にアンテナの上限周波数も大きく低下するため、その結果、アンテナの帯域幅が狭まることになる。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、アンテナの帯域幅を狭めることなく、アンテナの小型化を実現できる誘電体装荷アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る誘電体装荷アンテナは、上記課題を解決するために、アンテナ素子およびグラウンド導体を備えた逆F型アンテナであって、上記アンテナ素子を覆う誘電体を備えた誘電体装荷アンテナにおいて、上記アンテナ素子は、給電点から開放端に至るまでの2つのエッジ経路の長さが異なるものであり、上記誘電体は、長い側のエッジ経路の少なくとも一部を覆い、短い側のエッジ経路を覆わないような配置とされていることを特徴としている。
【0009】
上記の構成によれば、上記誘電体がアンテナ素子における長い側のエッジ経路の少なくとも一部を覆うことで、アンテナの下限周波数を下げることができる。アンテナの小型化を図るためにアンテナ長を短くすると、アンテナ帯域が高周波数側に移動するが、アンテナの下限周波数を下げることで、これを打ち消すことになり、アンテナの小型化を図ることができる。一方で、上記誘電体が短い側のエッジ経路を覆わないような配置とすることで、アンテナの帯域幅が減少することを防止できる。
【0010】
上記誘電体装荷アンテナでは、上記誘電体は、アンテナ素子の開放端エッジを覆うように配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の誘電体装荷アンテナは、以上のように、アンテナ素子およびグラウンド導体を備えた逆F型アンテナであって、上記アンテナ素子を覆う誘電体を備えた誘電体装荷アンテナにおいて、上記アンテナ素子は、給電点から開放端に至るまでの2つのエッジ経路の長さが異なるものであり、上記誘電体は、長い側のエッジ経路の少なくとも一部を覆い、短い側のエッジ経路を覆わないような配置とされている構成である。
【0012】
それゆえ、アンテナの下限周波数を下げ、アンテナの小型化を図ることができると共に、アンテナの帯域幅が減少することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の一実施形態について図1ないし図17に基づいて説明すると以下の通りである。先ずは、本実施の形態に係る誘電体装荷アンテナの構成を図1を参照して説明する。
【0014】
図1に示す誘電体装荷アンテナは、アンテナ素子(放射素子)10、グラウンド導体11、および誘電体12を備えて構成されている。アンテナ素子10およびグラウンド導体11は、導体パターンとして具備されており、アンテナ素子10は、グラウンド導体11との接続点から開放端までの間に給電点を有している。また、アンテナ素子10において、給電点から開放端までの形状は直線状ではなく、コの字形状となっている。誘電体12は、アンテナ素子10の一部を覆うようにして配置される。
【0015】
本発明の誘電体装荷アンテナは、アンテナ素子10の一部を誘電体12によって覆うことによってアンテナ長を短くし、アンテナの小型化を図るものである。特に、誘電体12がアンテナ素子10の全体ではなく一部を覆うことによって、アンテナの帯域幅を狭めることなくアンテナの小型化を図れるようにした点に特徴を有する。
【0016】
本発明の誘電体装荷アンテナでは、誘電体12がアンテナ素子10の一部を覆うように配置されるものであるが、その配置箇所によってアンテナ特性は大きく異なる。この点について以下に説明する。
【0017】
図2〜図4は、誘電体の配置箇所をそれぞれ異ならせた誘電体装荷アンテナの構成を示すものである。図2〜図4においては、アンテナ素子およびグラウンド導体の形状は全て同じであり、誘電体の配置箇所のみが異なっている。
【0018】
先ず、図2は、アンテナ素子の給電点から開放端までにおける電流経路の長い側と短い側との両方を覆った構成であり、この構成は従来例に相当する。尚、アンテナ素子の電流経路について説明すると以下の通りである。
【0019】
アンテナ素子を流れる信号電流は高周波であるため、エッジ効果によってアンテナ素子のエッジ部分に信号電流が集中する。すなわち、アンテナ素子における電流経路とは、アンテナ素子の給電点から開放端にかけてのエッジ経路を指し、アンテナ素子では、図8に示すように、その給電点から開放端にかけて大きく分けて2つの電流経路(エッジ経路)A,Bが存在する。また、図2〜図4に示すアンテナ素子においては、給電点から開放端までの形状は直線状ではなく、コの字形状となっているため、電流経路Aの長さは電流経路Bの長さよりも長くなっている。すなわち図2の構成では、誘電体は電流経路A,Bの両方を覆うように配置されている。
【0020】
図5は、図2のアンテナ構成におけるアンテナ特性を示すグラフであり、誘電体の比誘電率に対する下限周波数および比帯域幅を表している。図5より、誘電体の比誘電率が増加するにしたがい、アンテナの下限周波数が低下していることが分かる。
【0021】
一方で、誘電体の比誘電率が増加するにしたがい、アンテナの比帯域幅も低下してしまう。尚、アンテナの比帯域幅は、アンテナの上限周波数をf、アンテナの上限周波数をfとする場合、
比帯域幅[%]=2×((f−f)/(f+f))×100
で表される。本発明のアンテナを例えば無線LANに適用することを考えた場合、無線LANの帯域は2.4〜2.5GHzであるが、製造偏差などのばらつきを考慮すると、アンテナでカバーする帯域は2.3〜2.6GHz程度とすることが好ましい。これを比帯域幅に換算すると約12%である。図5のグラフでは、比誘電率が3の時点(この時の下限周波数は約2.20GHz)で比帯域幅が12%を下回っており、アンテナの比帯域幅を維持しつつアンテナを小型化することが困難であると分かる。
【0022】
次に、図3は、アンテナ素子の給電点から開放端までにおける電流経路の長い側(電流経路A)のみを誘電体で覆った構成であり、この構成が本願発明に相当する。
【0023】
図6は、図3のアンテナ構成におけるアンテナ特性を示すグラフである。図6より、誘電体の比誘電率が増加するにしたがい、アンテナの下限周波数が低下していることが分かる。また、図6のグラフでは、誘電体の比誘電率が増加しても、これに伴うアンテナの比帯域幅の低下は抑制されている。その結果、図5のグラフでは、比誘電率が11の時点(この時の下限周波数は約2.05GHz)でも比帯域幅が12%を上回っており、アンテナの比帯域幅を維持しつつアンテナを小型化可能であることが分かる。
【0024】
次に、図4は、アンテナ素子の給電点から開放端までにおける電流経路の短い側(電流経路B)のみを誘電体で覆った構成であり、この構成は比較例として示すものである。
【0025】
図7は、図4のアンテナ構成におけるアンテナ特性を示すグラフである。図7より、誘電体の比誘電率が増加するにしたがい、アンテナの下限周波数が低下していることが分かる。一方で、誘電体の比誘電率が増加するにしたがい、アンテナの比帯域幅も低下してしまう。図7のグラフでは、比誘電率が3の時点(この時の下限周波数は約2.15GHz)で比帯域幅が12%を下回っており、アンテナの比帯域幅を維持しつつアンテナを小型化することが困難であると分かる。
【0026】
以上、図5〜図7の比較より、本発明の誘電体装荷アンテナにおいて、アンテナ素子を覆うように配置される誘電体は、アンテナ素子の給電点から開放端までにおける電流経路の長い側のみを覆う配置とすることで、アンテナの比帯域幅を維持しつつアンテナを小型化することができる。
【0027】
続いて、上記誘電体の配置におけるさらなる好適条件について検討する。先ずは、誘電体における誘電体幅とアンテナ特性との関係について検討する。ここで、図9に示すように、アンテナ素子の開放端におけるエッジをエッジa、電流経路A側(図8参照)のエッジをエッジb、電流経路B側(図8参照)のエッジをエッジcとする。誘電体は、上記エッジaおよびエッジbを覆うように配置され、この時、誘電体幅はエッジbから該誘電体のエッジc側端部までの距離とする。またここでは、誘電体幅が3mmの時に、該誘電体はエッジcを覆うものとなる。
【0028】
図10は、誘電体幅を変化させた場合のアンテナ特性を示すグラフである。図10より、誘電体幅を増加させるにつれて、下限周波数および比帯域幅が低下していることが分かる。そして、誘電体幅が3mmでは、すなわち、誘電体はエッジcを覆う場合には、比帯域幅が12%を下回る。これより、上記誘電体幅の範囲は、エッジbを含み、かつエッジcまでを含まない距離とすることが好ましい。
【0029】
次に、誘電体における誘電体長さとアンテナ特性との関係について検討する。図11は、誘電体がエッジaを含むように配置される構成を示す。図11では、誘電体がエッジaおよびエッジbを含むが、エッジcを含まない配置とされる。また、この時、誘電体長さはエッジa(すなわち開放端)から該誘電体の長手方向におけるエッジaの反対側の端部までの距離とする。
【0030】
図12は、図11の構成において、誘電体長さを変化させた場合のアンテナ特性を示すグラフである。図12より、誘電体長さを増加させるにつれて、下限周波数が低下していることが分かる。また、誘電体がアンテナ素子のエッジcを含まないため、誘電体長さの増加に伴う比帯域幅の低下は抑制されており、比帯域幅が12%を上回る良好な値を維持できている。
【0031】
さらに、図13は、誘電体がエッジaを含まないように配置される構成を示す。図13では、誘電体がエッジbを含むが、エッジaおよびエッジcを含まない配置とされる。また、この時、誘電体長さは該誘電体の長手方向長さとする。
【0032】
図14は、図13の構成において、誘電体長さを変化させた場合のアンテナ特性を示すグラフである。尚、このグラフでは、誘電体におけるエッジa側の端部を固定させた状態で誘電体長さを変化させている。図14より、誘電体長さを増加させるにつれて、下限周波数が低下していることが分かる。また、誘電体がアンテナ素子のエッジcを含まないため、誘電体長さの増加に伴う比帯域幅の低下は抑制されており、比帯域幅が12%を上回る良好な値を維持できている。
【0033】
さらに、図12および図14のグラフを比較すると、図12のグラフの方が、全般的に下限周波数の低下量が大きいことが分かる。これより、誘電体はアンテナ素子の開放端側のエッジを含むように配置されることが好ましい。
【0034】
本発明の誘電体装荷アンテナは、上記説明の例に限定されるものではなく、種々の変形例が考えられる。本発明のバリエーションを示す具体例を図15〜図18に示す。
【0035】
本発明の誘電体装荷アンテナは、アンテナ素子およびグラウンド導体を板金によって形成されたものとすることが好適であり、該板金はフラットな平板状に限定されるものではなく、折り曲げられたものであってもよい(図15,図16参照)。
【0036】
また、図1の例では、また、アンテナ素子は、給電点から開放端までの形状をコの字形状としているが、これに限定するものではなく、逆F型アンテナとして使用可能な形状であれば、その形状は特に限定されない(図16〜図18参照)。また、誘電体は、アンテナ素子の1辺を覆うものに限定されず、2辺以上を覆うものであっても良い(図18参照)。
【0037】
尚、図16および図17に示すようにアンテナ素子における給電点から開放端までの形状がS字型である場合、図19に示すように、電流経路Aが電流経路Bに比べて長くなるため電流経路A側が誘電体にて覆われる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
誘電体装荷アンテナにおいて、アンテナの帯域幅を狭めることなく、アンテナの小型化を実現でき、BLUE TOOTH(登録商標)やWireless LANなどの無線通信システムに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施形態を示すものであり、誘電体装荷アンテナの概略構成を示す平面図である。
【図2】アンテナ素子における誘電体の配置として、従来構成に相当する例を示す斜視図である。
【図3】アンテナ素子における誘電体の配置として、本発明に相当する例を示す斜視図である。
【図4】アンテナ素子における誘電体の配置として、本発明の比較例に相当する例を示す斜視図である。
【図5】図2に示すアンテナのアンテナ特性を示すグラフである。
【図6】図3に示すアンテナのアンテナ特性を示すグラフである。
【図7】図4に示すアンテナのアンテナ特性を示すグラフである。
【図8】アンテナ素子における電流経路を示す図である。
【図9】アンテナ素子に配置される誘電体の誘電体幅を示す図である。
【図10】アンテナ素子に配置される誘電体の誘電体幅を変化させた場合のアンテナ特性の変化を示すグラフである。
【図11】アンテナ素子に配置される誘電体の誘電体長さ(開放端エッジを含む場合)を示す図である。
【図12】アンテナ素子に配置される誘電体の誘電体長さを変化させた場合のアンテナ特性の変化を示すグラフである。
【図13】アンテナ素子に配置される誘電体の誘電体長さ(開放端エッジを含まない場合)を示す図である。
【図14】アンテナ素子に配置される誘電体の誘電体長さを変化させた場合のアンテナ特性の変化を示すグラフである。
【図15】本発明の誘電体装荷アンテナの一具体例を示す斜視図である。
【図16】本発明の誘電体装荷アンテナの一具体例を示す斜視図である。
【図17】本発明の誘電体装荷アンテナの一具体例を示す斜視図である。
【図18】本発明の誘電体装荷アンテナの一具体例を示す斜視図である。
【図19】アンテナ素子における電流経路を示す図である。
【図20】逆F型アンテナの概略構成を示す平面図である。
【図21】アンテナの帯域幅を説明するためのグラフである。
【図22】アンテナ素子への誘電体の配置によるアンテナの帯域幅の変化を説明するためのグラフである。
【符号の説明】
【0040】
10 アンテナ素子
11 グラウンド導体
12 誘電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンテナ素子およびグラウンド導体を備えた逆F型アンテナであって、上記アンテナ素子を覆う誘電体を備えた誘電体装荷アンテナにおいて、
上記アンテナ素子は、給電点から開放端に至るまでの2つのエッジに沿ったエッジ経路の長さが異なるものであり、
上記誘電体は、長い側のエッジ経路の少なくとも一部を覆い、短い側のエッジ経路を覆わないような配置とされていることを特徴とする誘電体装荷アンテナ。
【請求項2】
上記誘電体は、アンテナ素子の開放端エッジを覆うように配置されていることを特徴とする請求項1に記載の誘電体装荷アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2010−41082(P2010−41082A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198220(P2008−198220)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】