説明

誘電積層体の製造方法及び得られた誘電積層体を用いた粒子状含炭素化合物除去装置

【課題】本発明は、大掛りな装置を必要とせず、目的とする触媒粒子の性状を変化させずに誘電体表面に容易に結合・固定化すると共にプラズマ放電場の特性を最大限に生かすための触媒粒子を、誘電体のプラズマ放電性能を阻害することなく誘電体表面に容易に結合・固定化する誘電積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】誘電体表面にポリシラザン類含有溶液層を形成し、該溶液層が固化する前に溶液層に触媒粒子を散布して触媒粒子層を形成した後、該溶液層を固化して、誘電体表面に触媒粒子層を結合・固定化することを特徴とする誘電積層体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ放電性能の優れた誘電積層体の製造方法、得られた誘電積層体を用いた粒子状含炭素化合物除去装置及びそれを用いたガスの処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の燃焼排ガスは炭素系粒子状物質(PM)を含んでいるので環境衛生上大きな問題であり、その除去方法が盛んに研究され、例えば、DPF/酸化触媒法が提案されている。しかし、DPF/酸化触媒法ではPM堆積による圧損上昇により燃費が悪化するという欠点があった。又、酸化触媒により、PMを燃焼除去しDPFを再生させるには300℃以上の温度が必要であるが、ディーゼルエンジンからの排ガス温度は100〜300℃程度であり、酸化触媒が機能する範囲にない。然るに、排ガス温度を上昇させるための燃料噴射が必要となり、燃費が悪化するという欠点があった。
【0003】
一方、電圧を印加することによって発生するプラズマ放電は、化学反応、例えば、ディーゼルエンジン排ガス中の炭素系粒子状物質(PM)処理のような固体粒子及び/又は液体粒子を含むガスの処理、フロンガス処理、VOC処理などのようなガスの処理、オゾンなどの有用生成物の生産などにおける有害物質の無害化もしくは有害物質の有用物質への変換に利用することができ、また、物理変化、例えば、電気エネルギーを光エネルギーへ転換すること等に利用できる。
【0004】
上記プラズマ放電は、通常、プラズマ反応器内で誘電体に電圧印加し、誘電体間の空間にプラズマを発生させるが、燃焼排ガスを処理した場合、誘電体表面にPMが蓄積し、放電を阻害する現象が起き、この放電阻害によるプラズマのPM除去能力が低下するという欠点があった。この問題の解決するために、誘電体の表面にPMの除去に有効な触媒(例えば、CuO、NiO、Mn、MnO、Mn、SnO、Sm、FeO、Fe、Fe、V、Co、ZnO、Ga、Y、ZrO、La、CaO、MgO、MoO等の金属酸化物)層を形成することが提案されている。(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−216193号公報
【0005】
上記金属酸化物触媒の固定化には、一般物理的手法にCVD法やスパッタリング法などの物理的手法又はゾル-ゲル法や電析法など化学的手法が用いられる。しかしながら、物理的手法では大掛りで高価な装置を必要とする、物理的手法では反応条件設定や反応操作が複雑である等の問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、大掛りな装置を必要とせず、目的とする触媒粒子の性状を変化させずに誘電体表面に容易に結合・固定化する誘電積層体の製造方法を提供することにある。又、異なる目的は、プラズマ放電場の特性を最大限に生かすための触媒粒子を、誘電体のプラズマ放電性能を阻害することなく誘電体表面に容易に結合・固定化する誘電積層体の製造方法を提供することにある。
【0007】
更に、異なる目的は、誘電体のプラズマ放電性能が優れ、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の燃焼排ガスのPMを効率よく除去しうる誘電積層体、それを用いた粒子状含炭素化合物除去装置及びそれを用いたガスの処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]誘電体表面にポリシラザン類含有溶液層を形成し、該溶液層が固化する前に溶液層に触媒粒子を散布して触媒粒子層を形成した後、該溶液層を固化して、誘電体表面に触媒粒子層を結合・固定化することを特徴とする誘電積層体の製造方法、
[2]誘電体の比誘電率が2〜10,000であることを特徴とする前記[1]に記載の誘電積層体の製造方法、
[3]誘電体の形状が、誘電体積層バリア放電プラズマ反応器に適用可能な板状、網状、管状、ハニカム状、棒状、球状、方状又はそれらを組合せた形状であることを特徴とする前記[1]に記載の誘電積層体の製造方法、
[4]ポリシラザン類含有溶液の溶媒が、キシレン、ターペン、ジブチルエーテル又はソルベッソであることを特徴とする前記[1]に記載の誘電積層体の製造方法、
[5]ポリシラザン類含有溶液層を100〜500℃に加熱して固化することを特徴とする前記[1]に記載の誘電積層体の製造方法、
[6]ポリシラザン類含有溶液層の形成方法が、スプレー法、ローラー法、フローコート法、スピンコート法又はディップコート法であることを特徴とする前記[1]に記載の誘電積層体の製造方法、
[7]触媒粒子の粒径が10〜500nmであり、且つ、触媒粒子層の厚さが10nm〜5μmであることを特徴とする前記[1]に記載の誘電積層体の製造方法、
[8]触媒粒子が、α−Fe、β−Fe、Fe、FeOなど鉄酸化物、V、V、V、V12などバナジウム酸化物、TiO、TiO、Ti、TiOなどチタン酸化物及びZnO、ZnOなど亜鉛酸化物よりなる群から選ばれた1種以上の金属酸化物であることを特徴とする前記[1]に記載の誘電積層体の製造方法、
[9]触媒粒子の周囲に、CuO、CuOなど銅酸化物粉末、Co、CoOなどコバルト酸化物粉末、α−MnO、β−MnO、γ−MnO、δ−MnO、ε−MnO、η−MnO、γ−Mn、α−Mn、β−Mnなどマンガン酸化物粉末、Pt粉末及びPd粉末よりなる群から選ばれた1種以上の粉末が請求項1記載の方法で散布されていることを特徴とする前記[8]に記載の誘電積層体の製造方法、
[10]触媒粒子に、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類よりなる群から選ばれた1種以上の元素が化学的に結合していることを特徴とする前記[8]に記載の誘電積層体の製造方法、
[11]前記[1]〜[10]のいずれかに記載の誘電積層体の製造方法で製造されたことを特徴とする誘電積層体、
[12]プラズマ反応器内におけるプラズマ放電反応及び触媒反応により粒子状含炭素化合物を除去するための粒子状含炭素化合物除去装置であって、プラズマ反応器に前記[11]に記載の誘電積層体が設置されていることを特徴とする粒子状含炭素化合物除去装置、
[13]前記[12]に記載の粒子状含炭素化合物除去装置のプラズマ反応器に、粒子状含炭素化合物の含まれるガスを供給し、プラズマ放電反応及び触媒反応により粒子状含炭素化合物を除去することでガスを無害化することを特徴とするガスの処理方法、および
[14] 粒子状含炭素化合物の含まれるガスが、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンの燃焼排ガスであることを特徴とする前記[13]に記載のガスの処理方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の誘電積層体の製造方法は、大掛りな装置を必要とせず、目的とする触媒粒子をその性状が変化することなく且つその表面が覆われることなく、誘電体表面に容易に結合・固定化することができ、又、プラズマ放電場の特性を最大限に生かすための触媒粒子を、誘電体のプラズマ放電性能を阻害することなく誘電体表面に容易に結合・固定化することができる。
【0010】
得られた誘電積層体は、触媒粒子が誘電体のプラズマ放電性能を阻害することのないシリカ膜により誘電体に積層されているので、誘電体のプラズマ放電性能が優れている。プラズマ放電場では、反応性の高い活性酸素種の生成や紫外線の発生、電子やイオンの移動が生じるためこれらを効率よく利用することにより、低温下でもPM酸化促進に有効な触媒機能が得られると考えられる。その結果、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の燃焼排ガスのPMを低温下でも効率よく除去することができる。従って、それを用いた粒子状含炭素化合物除去装置及びそれを用いた排ガスの処理方法はガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の燃焼排ガスのPMを効率よく除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の誘電積層体の製造方法は、誘電体表面にポリシラザン類含有溶液層を形成し、該溶液層が固化する前に溶液層に触媒粒子を散布して触媒粒子層を形成した後、該溶液層を固化して、誘電体表面に触媒粒子層を結合・固定化することを特徴とする。
【0012】
上記ポリシラザン類は、Si−Nを基礎骨格としSi−H又はN−Hの結合を少なくとも1つ以上持つ構造を有する無機ポリマーであり、全て水素が結合しているパーヒドロポリシラザン(PHPS)が好適に使用される。ポリシラザン類は加熱(500℃以下)すると雰囲気中の水分子と反応して、Si−Nの結合がSi−Oに転化し緻密なシリカ膜を形成する。この転化したシリカの純度は極めて高く、4.0程度の誘電率を有している。尚、PHPSの場合の反応は下記の通りである。
−(SiHNH)−+HO→−(SiO)−+NH+H
【0013】
上記ポリシラザン類含有溶液は、ポリシラザン類を溶媒に溶解した溶液である。溶媒としては、ポリシラザン類を溶解しうるものであれば特に限定されないが、揮発性を有し、ポリシラザン類を溶解した際にある程度の粘性を有するものが好ましく、キシレン、ジブチルエーテル、ターペン、ソルベッソ等の有機溶媒が好ましい。
【0014】
上記ポリシラザン類含有溶液の濃度は、薄すぎると粘度が低くなり誘電体表面に適度な厚さのポリシラザン類含有溶液層を形成しにくくなり、濃すぎると粘度が高くなり触媒粒子を均一に散布積層しにくくなるので、5〜30重量%が好ましい。
【0015】
上記誘電体は、プラズマ放電に使用されている誘電体であれば特に限定されないが、誘電性能は比誘電率が2〜10,000のものが好ましく、例えば、セラミックス、金属酸化物、ペロブスカイト、ゼオライト、耐熱プラスチック、有機ポリマー等が挙げられる。
【0016】
上記誘電体の形状は、誘電積層体バリア放電プラズマ反応器に適用可能な形状であれば特に限定されず、例えば、板状、網状、管状、ハニカム状、棒状、球状、方状又はそれらを組合せた形状が挙げられ、板状が好ましく、厚さが0.01〜10mmの薄板状が最も好ましい。
【0017】
上記触媒粒子は、放電プラズマ場におけるPMの除去に有効な触媒粒子であり、例えば白金、金、銀、銅、鉄、ニッケル等の金属やCuO、NiO、Mn、MnO、Mn、SnO、Sm、α−Fe、β−Fe、Fe、FeO、V、V、V、V12、TiO、TiO、Ti、TiO、Co、ZnO、ZnO、Ga、Y、ZrO、La、CaO、MgO、MoO3等の金属酸化物が挙げられ、α−Fe、β−Fe、Fe、FeOなど鉄酸化物、V、V、V、V12などバナジウム酸化物、TiO、TiO、Ti、TiOなどチタン酸化物及びZnO、ZnOなど亜鉛酸化物よりなる群から選ばれた1種以上の金属酸化物が好ましい。これら金属酸化物は単独で使用されてもよいし、2種以上の金属酸化物が併用されてもよい。
【0018】
上記α−Fe、β−Fe、Fe、FeOなど鉄酸化物、V、V、V、V12などバナジウム酸化物、TiO、TiO、Ti、TiOなどチタン酸化物及びZnO、ZnOなど亜鉛酸化物は、その粒子の周囲に、CuO、CuOなど銅酸化物粉末、Co、CoOなどコバルト酸化物粉末、α−MnO、β−MnO、γ−MnO、δ−MnO、ε−MnO、η−MnO、γ−Mn、α−Mn、β−Mnなどマンガン酸化物粉末、Pt粉末及びPd粉末よりなる群から選ばれた1種以上の粉末が請求項1記載の方法で散布されていると、放電プラズマ場におけるPMの除去効果が向上するので好ましい。
【0019】
又、上記α−Fe、β−Fe、Fe、FeOなど鉄酸化物、V、V、V、V12などバナジウム酸化物、TiO、TiO、Ti、TiOなどチタン酸化物及びZnO、ZnOなど亜鉛酸化物は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等のアルカリ土類金属及びランタン、セシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウム等の希土類よりなる群から選ばれた1種以上の元素が化学的に結合していると、放電プラズマ場におけるPMの除去効果が向上するので好ましい。
【0020】
上記触媒粒子の粒径は、小さすぎると取り扱いが困難になり、大きすぎると触媒粒子層としての表面積が小さくなりPMの除去効果が低下する傾向にあるので、10〜500nmが好ましく、且つ、触媒粒子層の厚さは10nm〜5μmが好ましい。
【0021】
本発明の誘電積層体の製造方法においては、図1に示したように、誘電体1の表面にポリシラザン類含有溶液層2を形成する。誘電体1表面にポリシラザン類含有溶液層を形成する方法は、誘電体表面にポリシラザン類含有溶液層を均一に塗布しうる方法であればよく、例えば、スプレー法、ローラー法、フローコート法、スピンコート法、ディップコート法等が挙げられる。又、ポリシラザン類含有溶液層の厚さは、散布する触媒粒子の大きさ、誘電体表面に結合・固定化される触媒粒子層の厚さにより適宜決定すればよい。
【0022】
次に、溶液層2に溶液層が固化する前に触媒粒子を散布して触媒粒子層3を形成した後、該溶液層2を固化して、誘電体1表面に触媒粒子層3を結合・固定化する。溶液層2を固化するには100〜500℃に加熱すればよく、溶媒は蒸発し、ポリシラザン類は雰囲気中の水分子と反応して、Si−Nの結合がSi−Oに転化し緻密なシリカ膜4となり誘電体1表面に触媒粒子層3が結合・固定化され、誘電積層体が得られる。尚、上記反応を促進するために、加熱する際に水蒸気を添加してもよい。
【0023】
本発明の粒子状含炭素化合物除去装置は、プラズマ反応器内におけるプラズマ放電反応及び触媒反応により粒子状含炭素化合物を除去するための粒子状含炭素化合物除去装置であって、プラズマ反応器に上記誘電積層体が設置されていることを特徴とする。
【0024】
一般に、プラズマ反応器は2つの金属電極間に少なくとも1つの誘電体が設けられ、金属電極と誘電体との間又は誘電体と誘電体との間に放電空間が設けられており、金属電極間に高電圧を印加することによって、放電空間にプラズマ放電が発生するように構成されており、本発明においては誘電体として上記誘電積層体が設置されている。
【0025】
上記粒子状含炭素化合物除去装置は、プラズマ反応器が内設され、プラズマ反応器に排ガスを供給されるようになされていればよいが、一般にプラズマ反応器、プラズマ反応器の金属電極間に高電圧を印加する高電圧電源、プラズマ反応器の放電空間に排ガスを供給する排ガス導入口及び放電空間中のプラズマ放電で処理された排ガスを排出する排ガス排出口を具備する。
【0026】
次に、図面を参照して本発明の粒子状含炭素化合物除去装置を説明する。図2は本発明の粒子状含炭素化合物除去装置の一例を示す断面説明図である。図中10は粒子状含炭素化合物除去装置であり、ガス導入口101及びガス排出口102が開口され、その中央部にプラズマ反応器9が内設されている。
【0027】
図中5はパルス電圧を印加するための電源に接続されているアルミニウム電極であり、その両面にアルミナからなる誘電体1、1が積層されている。誘電体1の表面にはシリカ膜4を介して触媒粒子層3が結合・固定化されている。51はアースに接続されているアルミニウム電極であり、その両面にアルミナからなる誘電体11、11が積層されている。電極5(誘電体1)と電極51(誘電体11)は触媒粒子層3が内側になるように対向し、アルミナスペーサー8、8により放電空間7が形成されるように積層されている。触媒により粒子状含炭素化合物除去を促進するためには、粒子状含炭素化合物を触媒表面に接触させる必要がある。粒子状含炭素化合物を含むガスを触媒層の表層に流して粒子状含炭素化合物を触媒層に付着させる方法、又、電圧印加により生じる静電捕集で粒子状含炭素化合物を効率よく付着させる方法が考えられる。尚、該装置では粒子状含炭素化合物として炭素系粒子状物質(PM)6を予め触媒粒子層3に付着させている。
【0028】
上記電極の種類としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、好適には例えば、金、銀、コバルト、ニッケル、亜鉛、鉄、銅、ステンレス、アルミニウム、これらの合金などが挙げられる。尚、2つの金属電極は互いに同種のものであってもよいし、互いに異なる種類のものであってもよい。又、電極は、本発明の目的を阻害しない限り特定の形状に限定されることはなく、種々の形状を有することができる。
【0029】
上記放電空間7は、プラズマ放電の発生可能な空間であればよく、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、好ましくは0.05〜20mm、より好ましくは0.1〜5mmである。
【0030】
本発明のガスの処理方法は、請求項12に記載の粒子状含炭素化合物除去装置のプラズマ反応器に、粒子状含炭素化合物の含まれるガスを供給し、プラズマ放電反応及び触媒反応により粒子状含炭素化合物を除去することでガスを無害化することを特徴とする。
【0031】
プラズマ反応器は、2つの電極間に高電圧電源を用いて高電圧を印加することによって、放電空間にプラズマ放電を引き起こす構造になっている。この場合、印加する電圧の種類は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、交流電圧、正直流電圧、負直流電圧およびパルス電圧のいずれであってもよいが、交流電圧またはパルス電圧が好ましく、パルス電圧がより好ましい。好ましいパルス電圧の種類は、特に限定されず、正パルス電圧、負パルス電圧、正および負のパルス電圧波形を有するパルス電圧のいずれであってもよいが、とりわけ、正および負のパルス電圧波形を有するパルス電圧が好ましく、正負パルスまたは負正パルスがより好ましく、正負パルスが最も好ましい。ピーク電圧は100V〜50kVの範囲とすることが好ましく、パルス電圧(絶対値)の立ち上がり時間は10ナノ秒〜0.01秒であるのが好ましい。また、パルス電圧の半値幅は0.01μ秒〜1秒であるのが好ましく、パルス電圧の周波数は1Hz〜10kHzの範囲内であるのが好ましい。又、電極間に印加する高電圧は、プラズマ放電を発生させる程度に高い電圧であれば特に限定されないが、好ましくは100V〜50kVである。
【0032】
ガス導入口から放電空間内に粒子状含炭素化合物の含まれるガスを供給し、電極間に高電圧を印加することによってプラズマ放電が放電空間内に発生する。このプラズマ放電反応及び触媒反応により粒子状含炭素化合物を除去することでガスを無害化し、ガス排出口から排出する。
【0033】
上記粒子状含炭素化合物の含まれるガスとしては、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンの燃焼排ガスが好適に処理される。ガスの温度は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、ガスから液体や固体の生成が生じるような低温域から常温ないし数百度程度の高温域までのいずれの温度であってもよいが、ガスから液体や固体の生成が生じない範囲とするのが好ましい。又、反応器本体に導入されるガス圧力は、好ましくは0.1torr〜10気圧である。
【0034】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではなく、適宜変更して実施されるものである。
【実施例】
【0035】
板状アルミナ誘電体(50×50×1mm)片側表面の中央部分(30×50mm)にパーヒドロポリシラザン(PHPS)20重量%キシレン溶液をスプレー法により均一に塗布してPHPSキシレン溶液層を形成した。次に、キシレンが揮発する前に、表1に示した金属酸化物触媒粒子を各々篩にかけて均一に散布して触媒粒子層を形成した。次いで、450℃で1時間空気中で加熱してPHPSをシリカ転化し、触媒粒子層がシリカ膜で結合・固定化された誘電積層体を得た。表1には、各金属酸化物触媒の平均粒子径、表面積、担持量及び触媒総表面積を示した。尚、上記板状アルミナ誘電体の表面は多数の凹凸があったが、片側表面の中央部分にパーヒドロポリシラザン(PHPS)20重量%キシレン溶液をスプレー法により均一に塗布してPHPSキシレン溶液層を形成した後、450℃で1時間空気中で加熱してPHPSをシリカ転化したところ、その表面は平滑であったことから、シリカ膜が形成されていると言える。
【0036】
【表1】

【0037】
得られた誘電積層体を図2のようにアルミニウム電極と組合せた。触媒粒子層の表面に、1面あたり約1.6mgのPMを塗布して付着させた。PMを付着させた誘電積層体とアルミナ誘電体を使用し、図2に示した通りの粒子状含炭素化合物除去装置を作製した。尚、放電空間は50×30×0.5mmであった。粒子状含炭素化合物除去装置を200℃に保温し、ガス導入口101から200℃に昇温した10モル%の酸素を含有する窒素ガスを500ml/minの速度で供給し、放電空間7を通過させた。同時に、図4(左)に示したパルス電圧(ピーク電圧:12kV)を電極5と電極51の間に200Hzで印加することによって、放電空間7でプラズマ放電(電力:1W)を発生させた。その時の高圧側放電電流波形を図4(右)に示す。放電空間7から出るガスを赤外線分光分析装置に送り、放電反応及び触媒反応により生成したPM酸化生成物の濃度を計測した。生成物濃度の経時変化から、プラズマ放電反応及び触媒反応によるPM酸化速度を計算して、結果を図3に示した。
【0038】
Fe、V、TiO及びZnOは触媒なしより高いPM酸化速度を有する。この結果から、プラズマ放電場ではエンジン排ガス温度程度の低温下でもFe、V、TiO、ZnO及びこれらの組み合わせによりPMの酸化が促進され、上記問題を解決するに有効であると言える。特に、Feについては、現在資源枯渇が懸念されている貴金属触媒に比べ極めて安価であり、又、安全性や環境負荷の面からも優位であることから、ディーゼル乗用車など移動媒体への搭載も可能であり、その普及の鍵となるPM排出量削減課題の克服をもって、地球温暖化防止に貢献できるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの燃焼排ガス等のPMを効率よく除去することができるので、PM排出量削減課題を克服することができ、地球温暖化防止に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の誘電積層体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の粒子状含炭素化合物除去装置の一例を示す断面説明図である。
【図3】各金属酸化物のPM酸化速度を示すグラフである。
【図4】印加した電圧と高圧側電流の波形を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
1、11 誘電体
2 ポリシラザン類含有溶液層
3 触媒粒子層
4 シリカ膜
5、51 電極
6 炭素系粒子状物質(PM)
7 放電空間
8 スペーサー
9 プラズマ反応器
10 粒子状含炭素化合物除去装置
101 ガス導入口
102 ガス排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体表面にポリシラザン類含有溶液層を形成し、該溶液層が固化する前に溶液層に触媒粒子を散布して触媒粒子層を形成した後、該溶液層を固化して、誘電体表面に触媒粒子層を結合・固定化することを特徴とする誘電積層体の製造方法。
【請求項2】
誘電体の比誘電率が2〜10,000であることを特徴とする請求項1記載の誘電積層体の製造方法。
【請求項3】
誘電体の形状が、誘電積層体バリア放電プラズマ反応器に適用可能な板状、網状、管状、ハニカム状、棒状、球状、方状又はそれらを組合せた形状であることを特徴とする請求項1記載の誘電積層体の製造方法。
【請求項4】
ポリシラザン類含有溶液の溶媒が、キシレン、ターペン、ジブチルエーテル又はソルベッソであることを特徴とする請求項1記載の誘電積層体の製造方法。
【請求項5】
ポリシラザン類含有溶液層を100〜500℃に加熱して固化することを特徴とする請求項1記載の誘電積層体の製造方法。
【請求項6】
ポリシラザン類含有溶液層の形成方法が、スプレー法、ローラー法、フローコート法、スピンコート法又はディップコート法であることを特徴とする請求項1記載の誘電積層体の製造方法。
【請求項7】
触媒粒子の粒径が10〜500nmであり、且つ、触媒粒子層の厚さが10nm〜5μmであることを特徴とする請求項1記載の誘電積層体の製造方法。
【請求項8】
触媒粒子が、α−Fe、β−Fe、Fe、FeOなど鉄酸化物、V、V、V、V12などバナジウム酸化物、TiO、TiO、Ti、TiOなどチタン酸化物及びZnO、ZnOなど亜鉛酸化物よりなる群から選ばれた1種以上の金属酸化物であることを特徴とする請求項1記載の誘電積層体の製造方法。
【請求項9】
触媒粒子の周囲に、CuO、CuOなど銅酸化物粉末、Co、CoOなどコバルト酸化物粉末、α−MnO、β−MnO、γ−MnO、δ−MnO、ε−MnO、η−MnO、γ−Mn、α−Mn、β−Mnなどマンガン酸化物粉末、Pt粉末及びPd粉末よりなる群から選ばれた1種以上の粉末が請求項1記載の方法で散布されていることを特徴とする請求項8記載の誘電積層体の製造方法。
【請求項10】
触媒粒子に、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び希土類よりなる群から選ばれた1種以上の元素が化学的に結合していることを特徴とする請求項8記載の誘電積層体の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の誘電積層体の製造方法で製造されたことを特徴とする誘電積層体。
【請求項12】
プラズマ反応器内におけるプラズマ放電反応及び触媒反応により粒子状含炭素化合物を除去するための粒子状含炭素化合物除去装置であって、プラズマ反応器に請求項11記載の誘電積層体が設置されていることを特徴とする粒子状含炭素化合物除去装置。
【請求項13】
請求項12に記載の粒子状含炭素化合物除去装置のプラズマ反応器に、粒子状含炭素化合物の含まれるガスを供給し、プラズマ放電反応及び触媒反応により粒子状含炭素化合物を除去することでガスを無害化することを特徴とするガスの処理方法。
【請求項14】
粒子状含炭素化合物の含まれるガスが、ガソリンエンジン又はディーゼルエンジンの燃焼排ガスであることを特徴とする請求項13記載のガスの処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−190008(P2009−190008A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36318(P2008−36318)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 革新的次世代低公害車総合技術開発、革新的後処理システムの研究開発委託研究、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】