説明

調整板を有するギアボックス

本発明は、ハウジング(2)と、ハウジングにおいて回転可能に設けられた少なくとも1つのシャフト(6)と、ハウジング(2)におけるシャフト(6)又はシャフト(6)の外周に設けられた構成部材間の軸方向のあそび又は軸方向の締め付けを調整可能な少なくとも1つの調整板(9)とを備え、調整板(9)は、輪になるように曲げられた針金(10)よりなるギアボックス(1)に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングと、ハウジングにおいて回転可能なように支持された少なくとも1つのシャフトと、ハウジング内のシャフト又はシャフトの外周に設けられた構成部材間の軸方向のあそび又は軸方向の締め付けを調整することのできる少なくとも1つの調整板とを備えるギアボックスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に、2つの入力シャフトと2つの出力シャフトとを備える自動車変速機が開示されている。この場合、一方の出力シャフトは、変速機のハウジングにおいて、2つの円錐ころ軸受によって回転可能に支持されている。円錐ころ軸受が出力シャフトの径方向にも軸方向にも最適な力を受けることができるように、シャフトは、円錐ころ軸受を介してハウジングに軸方向においては出来る限りあそびがないように、そして同時に、不要な摩擦を避けるために、出来る限り応力のかかっていない状態で支持されるのがよい。
【特許文献1】国際公開第01/02749号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
シャフトが鋼鉄からなり、ハウジングが例えばアルミニウムからなる変速機では、シャフトに、その外周に設けた円錐ころ軸受によって、常温状態においてハウジングに対して軸方向に予圧がかけられる可能性がある。ギアボックスが運転温度に温まると予圧損失につながる。
【0004】
軸方向のあそび又は軸方向の予圧を調整するために、複数の調整板を使用することが知られている。なお、これらの調整板は、軸方向において、例えばハウジングと2つの円錐ころ軸受との間に設けられる。この場合、一括製造では、ある一定の製造誤差に狙いを正確に定めて対応することができるように異なる厚みを有する複数の調整板が設けられており、その結果、組み立てられたギアボックスでは一様に大きな予圧又は軸方向の一様に大きなあそびがその都度生じる。
【0005】
このような複数の調整板を板金から押し抜き、その後、研削処理を行って板厚の寸法精度を高くする。しかしながら、板金押し抜きでは材料屑が多くなる。
【0006】
したがって、本発明の目的は、ギアボックスにおけるシャフトの軸方向のあそび又は軸方向の予圧の調整が簡単且つ低コストであるように、ギアボックスを構成することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、請求項1及び請求項8により達成される。本発明の好ましい実施形態は、従属請求項2から7により導き出される。
【0008】
請求項1によれば、本発明は、調整板が輪になるように曲げられた針金を有していることを特徴とする。針金を輪になるように曲げることで、輪によってハウジングにおけるシャフトの軸方向のあそびを調整することができ、実際に金属屑がなくなる。
【0009】
輪は、好ましくは、長方形の断面を有していてもよい。曲げる前の断面が台形の形状を有している場合、長方形の断面は針金を曲げる際に生じる。この場合、台形は、短辺及び長辺を有し、短辺と長辺とは互いに平行であり、斜めに延びる二辺によって接続されている。短辺及び長辺の長さは、ロール曲げによって、その際に材料に作用する圧縮力又は張力により互いに同化され、その結果、ロール曲げ後、長方形又は実質的に長方形の断面が生じる。
【0010】
好ましい一形態では、輪は、閉じていない円周を有している。このことは、曲げられた針金では2つの針金端部が互いに接続されることなく対向している、ということを意味する。したがって、ロール曲げ後は、針金を、ただ長さに合うように切断すればよい。このことは、調整板の機能、つまり、軸方向のあそび又は軸方向の予圧の調整に影響を及ぼすことなく、製造コストを低く維持する。
【0011】
針金は、熱間圧延又は冷間圧延されていてもよい。したがって、例えば丸い断面を有する針金を、台形の断面を有する針金に変形させてもよい。このため、圧延過程において、針金を引っ張ってもよく、これにより、断面は引張力に合わせて縮小される。
【0012】
輪は、構造寸法に圧縮されていてもよい。このことは、丸く曲げられた針金の圧縮過程によって、その機能にとって決定的なものである所望の厚みが得られる、ということを意味している。同様に、又は、さらに、輪の軸方向の少なくとも1つの側面が研削されていてもよい。この研削処理により、非常に好適な許容差を有する調整板が製造される。
【0013】
ただし、シャフト又は軸上の構成部材の軸方向の位置固定のために機能する止め輪又はサークリップは、丸針金を曲げたものである。この場合、このような止め輪は、通常は溝の中にあり、しかしながら、止め輪の正確な厚みについては問題ではない。つまり、本発明は、輪になるように曲げられた針金を、ギアボックスにおけるシャフトの位置固定のためではなく、軸方向のあそび又は軸方向の予圧の調整のために使用することを意図している。したがって、シャフトの軸方向のあそびを、対向する2つのギアボックス壁の間、又は、1つのギアボックス壁と同軸状に配置された他方のシャフト又は他方の回転部との間で調整することができる。このような輪によって、シャフトの外周に設けられた構成部材間の軸方向のあそび又は締め付けも調整される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図に示す実施形態を参照して本発明を詳しく説明する。
【0015】
図1は、ギアボックスの一部を概略的に示す。このギアボックスの全体を1で示す。ギアボックス1は、ハウジング壁3とハウジング壁4とを有するハウジング2を備えている。ハウジング2において、回転軸5を中心に回転可能なように、シャフト6が支持されている。シャフト6の支持は、第1軸受7と第2軸受8とを介して行われる。第1軸受7及び第2軸受8は、例えば円錐ころ軸受などの傾斜接触軸受であることが好ましい。
【0016】
シャフト6は、ギアボックス1の入力シャフト、出力シャフト、又は、カウンタシャフトであってもよい。シャフトは、複数のフローティングギア、固定ギア、中間ギア、及び/又は、ギアシフトクラッチを支持していてもよいが、これらは図1に記載されていない。
【0017】
調整板9によって、シャフト6の軸方向のあそび又は軸方向の予圧は、軸方向において正確に調整される。調整板9は、ハウジング壁3と第1軸受7との間に配置されている。調整板9によって、長さLに対する長さLの差が調整される。この場合、長さLは、軸受7,8を有するシャフト6の軸方向の取付寸法である。長さLは、ハウジング2の形状によって予め決められる。長さLと長さLとの差は、製造誤差により、異なる大きさで生じる可能性がある。その場合、軸方向のあそび又は軸方向の予圧を調整するために、一括製造では、厚みの異なる複数の調整板9を使用できる。シャフト6の軸方向の予圧は、例えば、ハウジング2がアルミニウムからなり、シャフト6が鋼鉄からなる場合に現れる可能性があり、この場合、予圧は、常温状態におけるギアボックス1に関連している。ギアボックス1が、運転中にその運転温度に達すれば、異なる熱膨張係数により、長さLは長さLよりも増大し、その結果、調整板9によって調整された予圧はより小さくなり、多くの場合は理想的にはゼロに設定される。その結果、軸受7,8を有するシャフト6は、軸方向においてあそびがなく、応力のかかっていない状態でハウジング2に配置される。
【0018】
図2は、図1の調整板9を製造することができる針金10の断面を示す。この場合、針金10は、輪になるように曲げられる薄く長い一片の金属であるのがよい。
【0019】
図2(a)は、円形の断面を有する針金10を示す。圧延処理によって、図2(a)の円形の断面は、図2(b)に示すような台形の断面に変形される。この圧延処理では、針金10を引っ張ることが好ましく、その場合、図2(b)の台形の針金の断面積は、図2(a)の円形の断面の断面積よりも小さい。
【0020】
台形の断面の平均寸法Xは、調整板9の最終的な厚みを表している。短辺11及び長辺12の長さを表す厚み寸法Z,Yは、図2(b)の針金を曲げる処理により生じる輪の直径に応じている。ロール曲げと、その際に材料に生じる圧縮力又は張力とによって、寸法Z,Yは、平均寸法Xに同化される。したがって、図2(c)に示すような長方形の断面を有する輪が生じる。この場合、断面の幅は、Xである。
【0021】
針金10を圧延する際に、寸法X,Y,Zの少なくとも1つを測定及び調整することができる。他の寸法Xを得るために、圧延の際に好んで使用される圧延装置を改造する必要はなく、十字圧延を後に行うだけでよい。
【0022】
針金10を輪になるように曲げた後、針金を適宜切断することができる。通常は、研削の必要がなくなる。これにより、研削の際に生じる可能性のある’まくれ’が軸方向の構造寸法を変化させることはない。手で組み立てる際に’まくれ’による負傷の恐れもない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明のギアボックスの一部を概略的に示す図である。
【図2】図2は、調整板用に使用される針金の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ギアボックス
2 ハウジング
3 ハウジング壁
4 ハウジング壁
5 軸
6 シャフト
7 第1軸受
8 第2軸受
9 調整板
10 針金
11 短辺
12 長辺
X 厚み
Y 厚み
Z 厚み
長さ
長さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング(2)と、
前記ハウジングにおいて回転可能に支持された少なくとも1つのシャフト(6)と、
前記ハウジング(2)における前記シャフト(6)又は前記シャフト(6)の外周に設けられた構成部材間の軸方向のあそび又は軸方向の予圧を調整可能な少なくとも1つの調整板(9)と
を備えるギアボックス(1)であって、
前記調整板(9)は、輪になるように曲げられた針金(10)よりなる
ことを特徴とするギアボックス(1)。
【請求項2】
請求項1に記載のギアボックス(1)において、
前記輪は、長方形又は実質的に長方形の断面を有している
ことを特徴とするギアボックス(1)。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のギアボックス(1)において、
前記輪は、閉じていない円周を有する
ことを特徴とするギアボックス(1)。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のギアボックス(1)において、
前記針金(10)は、圧延されている
ことを特徴とするギアボックス(1)。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のギアボックス(1)において、
前記針金(10)は、引っ張られている
ことを特徴とするギアボックス(1)。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のギアボックス(1)において、
前記輪は、圧縮されている
ことを特徴とするギアボックス(1)。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のギアボックス(1)において、
前記輪の少なくとも1つの側面は、研削されている
ことを特徴とするギアボックス(1)。
【請求項8】
輪になるように曲げた針金(10)を、ハウジング(2)における軸方向のあそび又は軸方向のシャフト(6)を調整するための調整板(9)として使用する
ことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−531616(P2009−531616A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−501920(P2009−501920)
【出願日】平成19年3月24日(2007.3.24)
【国際出願番号】PCT/EP2007/002619
【国際公開番号】WO2007/112871
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(506132120)ゲトラーク フォード トランスミシオーンス ゲーエムベーハー (18)
【Fターム(参考)】