説明

調理容器及びその製造方法並びに前記調理容器を使用した調理器

【課題】電磁誘導熱を発生させつつ銅又は銅合金の色調を保持して美観性に優れているとともにフランジ部の強度が大きく、しかも熱効率が向上した調理容器等を提供する。
【解決手段】フランジ部2aを有し、銅又は銅合金を基材とした銅鍋21と、銅鍋21の内側を被覆する保護層23とを有する多層構造の調理容器2Aにおいて、銅鍋21の胴壁面は透明樹脂層24で被覆され、銅鍋21の底壁面及びフランジ部2aには磁性金属層22が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁誘導加熱方式の調理容器及びその製造方法並びに前記調理容器を使用した調理器に関し、特に有効に電磁誘導熱を発生させつつ銅又は銅合金の色調を保持して美観性に優れているとともにフランジ部の強度が大きく、しかも熱効率が向上した調理容器及びその容器の製造方法並びにこの調理容器を使用した調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
調理器の一種として電気炊飯器(以下、「炊飯器」という)が知られている。この炊飯器は、一般家庭において既に必需品の一つとなっており、種々のタイプのものが開発され、市販されている。この炊飯器には、炊飯時に鍋内の圧力を常圧状態で炊飯するもの及び所定の圧力に調整して炊飯するものが知られている。
【0003】
これらの加熱源としては、電熱線を使用して鍋を加熱する電熱線加熱方式、或いは電磁誘導コイルに高周波電流を流して高周波磁界を発生させて、それを負荷としての調理用鍋に与えて渦電流を生じさせ、この渦電流損失による鍋の自己発熱によって加熱するようにした電磁誘導加熱方式がある。近年は、後者の電磁誘導加熱方式を採用した炊飯器が、強い加熱力を有し、かつ短時間で美味しいご飯を炊き上げることができるので、広く普及してきている。
【0004】
この電磁誘導加熱方式を採用した炊飯器の鍋の基材としては、アルミニウム又はアルミニウム合金や銅又は銅合金と、ステンレス鋼といった異なる金属材料からなる金属板を貼り合わせて多層構造とした、いわゆるクラッド材が特に用いられるようになってきている。このクラッド材は、各種の金属を組み合わせることによって、それぞれの金属が持っている長所を利用し、単一材では得難い性質を持たせたものである。
【0005】
例えば、アルミニウム又はアルミニウム合金や銅又は銅合金は、熱伝導性に優れているが、電気伝導性も優れているために電磁誘導加熱によっては発熱し難い。それに対し、ステンレス鋼は、熱伝導性が低く、しかも電気抵抗がアルミニウム又はアルミニウム合金や銅又は銅合金よりも相対的に高いために電磁誘導加熱によって発熱しやすい。そこで、アルミニウム又はアルミニウム合金や銅又は銅合金とステンレス鋼からなるクラッド材を用いると、電磁誘導によってステンレス鋼(一般的には電磁誘導加熱効率の高いフェライト系ステンレス鋼が用いられている)が効率よく発熱を起こし、発生した熱は熱伝導性に優れたアルミニウム又はアルミニウム合金や銅又は銅合金によってむら無く鍋の全体に亘って伝導されるため、強い熱でご飯をおいしく炊き上げることができるようになっている。
【0006】
近年、このクラッド材において、熱伝導性に優れた材料として、銅又は銅合金が多く使用されるようになってきている。銅又は銅合金は伸延性、圧延性に優れているため、線条加工及び板加工が容易に可能であることから、広く調理容器等にも用いられている。しかも、銅又は銅合金は、アルミニウム等を用いた場合に比べると美観性に優れていることから、この銅又は銅合金で形成された表面を露出させて炊飯器の鍋を形成すれば、美しい外観を伴った鍋を提供することができる。
【0007】
例えば、下記特許文献1には、銅又は銅合金やアルミニウム又はアルミニウム合金を電磁誘導加熱部に用いながら、高い発熱量を得つつ炊飯工程を遂行することが可能であるとともに、銅又は銅合金素材の色を生かした美しい外観を伴った電磁誘導加熱式の炊飯器用鍋が開示されている。ここで、図5を用いて、従来の炊飯器用鍋の概略を説明する。なお、図5は下記特許文献1に開示されている炊飯器用鍋の部分拡大断面図である。
【0008】
下記特許文献1に開示されている炊飯器用鍋は、電磁誘導による発熱部と、前記発熱部の内側に配される伝熱部とを備え、前記発熱部は、磁性材料からなる金属層と非磁性材料からなる金属層から構成され、前記非磁性材料からなる金属層は、前記磁性材料からなる金属層より外側に配されるとともに、前記磁性材料からなる金属層よりも薄く構成したものである。この鍋50は、図5に示すように、1mm厚のアルミニウム(伝熱部)51、0.8mm厚のフェライト系ステンレス鋼(磁性材料からなる金属層)52、5μm厚の銅(非磁性材料からなる金属層)53からなるクラッド材をプレス成形して得られるものであり、鍋の内面はアルミニウム上に非粘着性の高いフッ素樹脂コーティング54を施し、一方、鍋の外面は銅を保護するための透明ポリエステル系保護コーティング55を施してあるため、銅基材の光沢を長期間に亘って維持できる構成となっている。
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている炊飯器用鍋によれば、磁性材料からなる金属層の外側に非磁性材料からなる金属層が設けられていることから、鍋の電磁誘導発熱を起こすためには電磁調理容器が発する高周波電流の周波数によって非磁性材料からなる金属層の厚みを変更しなければならず、設計及び製造が面倒であるという課題を有している。
【0010】
このような、従来技術の課題を解決するため、下記特許文献2には、製造が容易で、有効に電磁誘導熱を発生させつつ銅又は銅合金の色調を保持することのできる美観性に優れた炊飯器用鍋の発明が開示されている。下記特許文献2に開示されている炊飯器用鍋の具体的構成を図6を用いて説明する。なお、図6Aは下記特許文献2に開示されている炊飯器用鍋の断面図であり、図6Bは図6AのVIB部分の拡大図である。
【0011】
この炊飯器用鍋60は、基材として銅又は銅合金層からなる外壁面及びアルミニウム又はアルミニウム合金層からなる内壁面を有し、フランジ部61が形成された銅鍋62と、この銅鍋62の内側を被覆する保護層63とを有する多層構造を有し、この銅鍋62の胴壁面は透明樹脂層64で被覆され、また、この銅鍋62の底壁面には磁性材料からなる金属層65が設けられている。この炊飯器用鍋60によれば、炊飯器用鍋60は、底壁が多層構造となっているので強度や耐衝撃性に優れており、しかも、熱伝導率が高い銅又は銅合金及びアルミニウム又はアルミニウム合金で形成された銅鍋62の底壁面に磁性材料からなる金属層65が設けられているから、調理時に熱源として電磁誘導により発生した熱が銅鍋62の全体に素早く均一に伝達され、その結果、銅鍋62内の被調理物が均一に加熱調理されるので調理ムラがなくなるという効果を奏するとされている。
【0012】
加えて、銅鍋62の胴壁面が透明樹脂層64により被覆されているので、銅鍋62の外壁面に銅色肌が現われ、この銅色肌が持つ美観により炊飯器用鍋60に高級感を演出することができ、また、銅鍋62の胴壁面は透明樹脂層64により被覆されているのみで磁性金属が除去されているので、銅鍋62の軽量化にも資することができ、また、銅鍋62の内側には保護層63が被覆されているので、銅が容器内に溶出することがなくなり、安全面の不安を解消できるようになるという効果も奏するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−145558号公報
【特許文献2】特開2008−194360号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述したように、上記特許文献2に開示されている炊飯器用鍋60によれば、銅鍋62の胴壁の外壁面を銅色肌となるようにしながら、調理時に熱源として電磁誘導により発生した熱が銅鍋62の全体に素早く均一に伝達され、その結果、銅鍋62内の被調理物が均一に加熱調理されるので調理ムラがなくなるという効果を奏する。しかしながら、この炊飯器用鍋60の銅鍋62は、胴壁部分からフランジ部61にかけて、内側部分に保護層63が、また、外側部分には透明樹脂層64が被覆されているが、これらの保護層63及び透明樹脂層64は実質的に機械的強度を有しておらず、実質的に銅又は銅合金層及びアルミニウム又はアルミニウム合金層によってのみ機械的強度を維持しているものとなっている。
【0015】
銅又は銅合金及びアルミニウム又はアルミニウム合金は、ステンレス鋼よりも軟性であるとともに熱伝導率が良好であるという性質を有している。そのため、上記特許文献2に開示されている炊飯器用鍋60の銅鍋62のフランジ部及び胴壁部分は、軟質な金属である銅又は銅合金層及びアルミニウム又はアルミニウム合金層のみで機械的強度を維持しているものとなっているため、例えば炊飯器用鍋60を誤って落下させた場合には容易に変形してしまうという課題がある。加えて、炊飯器用鍋60を炊飯器の本体内に載置した場合には、外壁面が熱伝導率が良好な銅又は銅合金からなっているため、熱がフランジ部61から炊飯器の熱容量が大きい本体内に伝わり易いので、熱効率が悪くなるという課題も存在している。
【0016】
本発明は、上記のような従来技術が抱える課題を解決するためになされたものであって、本発明は、有効に電磁誘導熱を発生させつつ銅又は銅合金の色調を保持して美観性に優れているとともにフランジ部の強度が大きく、しかも熱効率が向上した調理容器及びその製造方法並びに前記調理容器を使用した調理器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記本発明の第1の目的を達成するため、本発明の第1形態の調理容器は、フランジ部を有し、銅又は銅合金を基材とした銅鍋と、前記銅鍋の内側を被覆する保護層とを有する多層構造の調理容器において、前記銅鍋の胴壁面は透明樹脂層で被覆され、前記銅鍋の底壁面及びフランジ部には磁性材料からなる金属層が形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の第2形態の調理容器は、第1形態の調理容器において、前記銅鍋は、前記銅又は銅合金の内側表面にアルミニウム又はアルミニウム合金層が形成されており、前記保護層は前記アルミニウム又はアルミニウム合金層の表面に形成されていることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の第3形態の調理容器は、第1又は第2形態の調理容器において、前記磁性材料からなる金属層の表面には銅色の塗料が塗布されており、前記銅色の塗料の表面も前記透明樹脂層で被覆されていることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の第4形態の調理容器は、第1〜第3のいずれかの形態の調理容器において、前記保護層はフッ素樹脂で形成されていることを特徴とする。
【0021】
また、本発明の第5形態の調理容器は、第4形態の調理容器において、前記フッ素樹脂で形成された保護層は銅色の塗料が混合されていることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の第6形態の調理容器は、第1〜第3のいずれかの形態の調理容器において、前記保護層はガラス材で形成されていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の第7形態の調理容器は、第1〜第6のいずれかの形態の調理容器において、前記磁性材料からなる金属層はフェライト系ステンレス鋼で形成されていることを特徴とする。
【0024】
また、本発明の第8形態の調理容器は、第1〜第7のいずれかの形態の調理容器において、前記磁性材料からなる金属層は前記銅鍋のフランジ部及び底壁に嵌め込まれていることを特徴とする。
【0025】
さらに、上記本発明の第2の目的を達成するため、本発明の第9形態の調理容器の製造方法は、
(1)所定の肉厚を有する銅板又は銅合金板と磁性板とを接合したクラッド材を用い、前記磁性板が外側に位置するように、上方にフランジ部が形成された有底筒状容器を形成する容器成型工程と、
(2)前記筒状容器のフランジ部及び底部の前記磁性板を残した状態で、前記筒状容器の胴壁面から前記磁性板を除去して前記銅板又は銅合金板を露出させる銅面露出工程と、
(3)外部に露出している銅板又は銅合金板を透明樹脂層で被覆する銅面被覆工程と、からなることを特徴とする。
【0026】
また、本発明の第10形態の調理容器の製造方法は、第9形態の調理容器の製造方法において、前記(2)の銅面露出工程後に露出された銅面を研磨して鏡面加工する工程を備えることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の第11形態の調理容器の製造方法は、第9形態の調理容器の製造方法において、前記(2)の銅面露出工程後に前記磁性板の表面を銅色の塗料で被覆した後、前記(3)の工程において同時に銅色の塗料層も透明樹脂層で被覆する工程を備えていることを特徴とする。
【0028】
さらに、上記本発明の第3の目的を達成するため、本発明の第12形態の調理器は、前記第1〜第8のいずれかの形態の調理容器と、前記調理容器が収容される電磁誘導加熱手段を有する調理器本体と、からなることを特徴とする。
【0029】
さらに、本発明の第13形態の調理器は、第12形態の調理器において、前記調理器本体は、前記調理容器を収納する収容ケースに、前記調理容器の銅鍋の胴壁面に対向させて補助加熱ヒータを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明は上記のような構成を備えることにより、以下に述べるような優れた効果を奏する。すなわち、第1形態の調理容器によれば、調理容器は多積層構造となっているので強度や耐衝撃性に優れており、しかも、熱伝導率が高い銅又は銅合金で形成された銅鍋の底壁面に磁性材料からなる金属層が設けられているから、調理時に熱源として電磁誘導により発生した熱が容器全体に素早く均一に伝達される。その結果、容器内の被調理物が均一に加熱調理されるので調理ムラがなくなる。加えて銅又は銅合金で形成された銅鍋のフランジ部に磁性材料からなる金属層が形成されているから、フランジ部の機械的強度が強くなるので変形し難くなり、しかも磁性材料からなる金属層は銅又は銅合金よりも熱伝導率が低いので、銅又は銅合金で形成された銅鍋から熱が外部に逃げ難くなるため、熱効率が向上する。
【0031】
また、銅鍋の胴壁面が透明樹脂層により被覆されているので、容器の外壁面に銅色肌が現われ、この銅色肌が持つ美観により調理容器に高級感を演出することができる。また、銅鍋の胴壁面は透明樹脂層により被覆されているのみで磁性金属が除去されているので、鍋の軽量化にも資する。また、銅鍋の内側には保護層が被覆されているので、銅が容器内に溶出することがなくなり安全面の不安を解消できる。
【0032】
なお、銅及び銅合金の表面に直接磁性金属層を形成しても付着強度が弱いので、磁性金属層と銅鍋の間にアルミニウム又はアルミニウム合金層を形成してもよい。
【0033】
また、本発明の第2形態の調理容器によれば、アルミニウム又はアルミニウム合金は銅又は銅合金よりも比重が小さい金属であり、しかも安価であるので、伝熱部材の一部としてアルミニウム又はアルミニウム合金を使用すれば、全てが銅又は銅合金からなる銅鍋と同等の熱伝導性を維持することができるようにした場合、より軽量とすることができるとともに安価となる。この場合において、アルミニウム又はアルミニウム合金層の厚さは銅鍋を構成する銅又は銅合金層の厚さよりも厚くなるようにしてもよい。
【0034】
また、本発明の第3形態の調理容器によれば、銅鍋の底壁面に設けられた磁性材料からなる金属層も銅色に塗装されているので、銅色肌が持つ美観により調理容器の外側の胴壁面だけでなく底壁面にも高級感を演出することができる。
【0035】
また、本発明の第4形態の調理容器によれば、保護層はフッ素樹脂で形成されているので、撥水性・耐薬品性・耐熱性などに優れた調理容器を得ることができる。
【0036】
また、本発明の第5形態の調理容器によれば、保護層としてのフッ素樹脂層が銅色であるので、特に銅鍋の内面側にアルミニウム又はアルミニウム合金層を形成した場合においても、銅色肌が持つ美観により調理容器の外側だけでなく内側にも高級感を演出することができる。
【0037】
また、本発明の第6形態の調理容器によれば、保護層がガラス材で形成されているので、より透明性に優れた保護層を得ることができ、特に銅又は銅合金のみからなる銅鍋を用いた場合には銅色肌が持つ美観を十分に現出させることができ、調理容器の内側に更なる高級感を演出することができる。
【0038】
また、本発明の第7形態の調理容器によれば、磁性材料からなる金属層はフェライト系ステンレス鋼で形成されているので、発熱効率がよく、耐蝕性・耐熱性に優れた調理容器を得ることができる。
【0039】
また、本発明の第8形態の調理容器によれば、磁性金属層を銅鍋の底面及びフランジの底面に埋め込んだので、磁性金属と銅鍋との間の接合強度が強くなるとともに、熱伝導率がさらに良好となる。
【0040】
さらに、本発明の第9形態の調理容器の製造方法によれば、第1形態の調理容器と同様の調理容器を容易に作製することができる。
【0041】
また、本発明の第10形態の調理容器の製造方法によれば、露出された銅面が研磨され鏡面加工されているので、美観性が特に優れた調理容器を得ることができる。
【0042】
また、本発明の第11形態の調理容器の製造方法によれば、第3形態の調理容器と同様の調理容器を容易に作製することができる。
【0043】
さらに、本発明の第12形態の調理器によれば、第1〜第8のいずれかの形態の調理容器を収容する調理器を得ることができる。
【0044】
また、本発明の第13形態の調理器によれば、銅鍋の胴壁面は磁性金属で覆われていないので補助加熱ヒータからの熱は遮熱されることなく銅面から鍋全体に効率よく伝えることができ、特に熱効率に優れた調理器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の第1実施形態に係る内鍋を収納した炊飯器本体の断面図を示したものである。
【図2】本発明の第1実施形態に係る内鍋の斜視図である。
【図3】図3Aは図2のIIA−IIA線に沿った断面図であり、図3Bは図3AのIIIB部分の拡大図であり、図3Cは図3AのIIIC部分の拡大図である。
【図4】図4Aは第2実施形態に係る内鍋の断面図であり、図4Bは図4AのIVB部分の拡大図であり、図4Cは図4AのIVC部分の拡大図である。
【図5】従来の炊飯器用鍋の部分拡大断面図である。
【図6】図6Aは別の従来例の内鍋の断面図であり、図6Bは図6AのVIB部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明をこれらに特定することを意図するものではなく、本発明は、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものも等しく適応し得るものである。
[第1実施形態]
最初に、第1実施形態に係る内鍋を収納した電磁誘導式の炊飯器を図1を用いて説明する。なお、図1は本発明の第1実施形態に係る内鍋を収納した電磁誘導式の炊飯器本体の断面図である。
【0047】
この電磁誘導式の炊飯器(以下、「炊飯器」という。本発明の「調理器」に相当。)1は、炊飯中の内鍋内の圧力を所定圧力、例えば1.2気圧程度に加圧して炊飯する圧力式炊飯器である。この炊飯器1は、上方が開口した深底の容器からなる内鍋2A(本発明の「調理容器」に相当)と、上方が開口し、この開口から内鍋2Aを収容し内鍋内の被炊飯物を加熱する加熱手段を有する炊飯器本体8と、内鍋2A及び炊飯器本体8の開口を覆う開閉自在な蓋体14と、を有している。
【0048】
内鍋2Aは、上方に被炊飯物が投入される大きさの開口を有する深底の筒状容器からなり、銅又は銅合金及びステンレス鋼等との積層材(クラッド材)で形成されている。上方の開口部には、開口縁が所定長さ外方へ延びたフランジ部2aが形成され、このフランジ部2aは、炊飯器本体8内に内鍋2Aが収容されたときに、フレームカバー3の肩部に係止される。この内鍋2Aの構造については後述する。
【0049】
炊飯器本体8は、上方に内鍋2Aが収容される大きさの開口を有し、有底で内鍋2Aの外形と略同じ形状の内鍋収容ケース4と、この内鍋収容ケース4を保持するフレームカバー3とからなる。これらのフレームカバー3及び内鍋収容ケース4は、合成樹脂材の成型体で形成されている。また、内鍋収容ケース4とフレームカバー3との間に所定の隙間spが形成され、この隙間spが機器取付け及び通風空間スペースとなっている。この隙間spには、ファンモータ9、制御基板10等が装着されている。この隙間spを設けることにより、内鍋収容ケース4とフレームカバー3との間を断熱でき、また、ファンモータ9を駆動させることによって制御基板10等が冷却される。
【0050】
内鍋収容ケース4は、内鍋2Aの外形と略同じ形状を有し深底の筒状容器となっている。この内鍋収容ケース4は、内鍋2Aの底部を収容する鉢状の底部4aと、この底部4aから延設されて内鍋2Aの胴部を囲む筒状胴部4bとを有し、筒状胴部4bは底部4aの上方開口部から段部4abを経て外側へ膨出し、開口の直径を拡大した大径の筒状となっている。段部4abは所定の幅長を有しており、この段部4abを底辺、胴部の内側側壁面4b’を一辺とする箇所に筒状の空間スペース4spが形成されている。
【0051】
この空間スペース4spは、内鍋収容ケース4に内鍋2Aが収容されたときに、内鍋2Aの胴部とケース4の内側側壁面4b’との間に形成されている。この空間スペース4spには、内側側壁面4b’に沿って補助加熱ヒータ6hとリング状の鉄板5とが装着される。この補助加熱ヒータ6hによって、内鍋2Aの胴壁面は磁性金属で覆われていないので補助加熱ヒータ6hからの熱は遮熱されることなく銅面から鍋全体に効率よく伝えることができ、特に熱効率に優れた調理容器を得ることができる。
【0052】
鉢状の底部4aには、その中心部に所定大きさの開口部4cが設けられている。この開口部4cには内鍋底の温度を検出する温度センサ7が設けられている。この温度センサ7により、内鍋底の温度を検出して内鍋2A内の炊飯量等が検出される。また、底部4aの外底壁面には、同心状に分巻された電磁誘導コイル6a、6bが装着されている。これらの電磁誘導コイル6a、6bにより、内鍋2Aに渦電流が誘起されて内鍋2Aが自己発熱する。この胴部上方の開口部には、開口縁が所定長さ外方へ延びたフランジ4dが形成され、このフランジ4dがフレームカバー3の肩部に係止されている。
【0053】
フレームカバー3は、内鍋収容ケース4との間に所定のスペースが設けられ、内鍋収容ケース4より大きな外形を有した化粧ボックスとなっている。また、このフレームカバー3の前面には、操作パネル12が装着されている。この操作パネル12には、各種の操作スイッチ類及びそれらの各種スイッチ類によって設定される設定状態を表示する表示装置11が設けられている。
【0054】
蓋体14は、炊飯器本体8の内鍋収容ケース4の上方開口部を覆う内蓋15と、この内蓋15の上方に位置する中蓋16と、この中蓋16に装着されて内鍋内の圧力を制御する圧力弁機構17と、全体を覆う表蓋カバー18とを有し、一端が炊飯器本体8にヒンジ機構13で連結されている。この蓋体14は、他端に蓋体14の開放をロックする係止手段19が設けられている。
【0055】
圧力弁機構17は、圧力孔17aを有する弁座17bと、弁座17bの上に自重により圧力孔17aを塞ぐように載置される金属性のボール17cと、このボール17cを覆うカバー17dと、ボール17cを移動させるプランジャ17pとで構成されている。この圧力弁機構17は、内鍋2A内の圧力とボール17cの自重とのバランスによってボール17cが圧力孔17a上に載置されたり離れたりし、ボール17cがこのように移動することによって圧力孔17aが開閉される構造となっている。
【0056】
このボール17cは、プランジャ17pによって作動される。すなわち、プランジャ17pは、図示省略した制御手段からの出力を受けていないときは、ロッドがシリンダから突出して圧力孔上のボール17cを圧力孔17aの横方向に押し、この圧力孔17aを強制的に開放する。また、プランジャ17pが制御手段の出力を受けた時にはロッドがシリンダ内に引き込まれる。このとき金属製のボール17cは、自重により圧力孔17a上に戻り、この圧力孔17aが閉塞される。
【0057】
このようにしてプランジャ17pは、圧力弁開放機構として動作し、圧力弁機構17と圧力弁開放機構とは炊飯工程中に加圧された内鍋2A内の圧力を強制的に低下させる。また、内鍋2A内の圧力が異常に上昇したとき(例えば炊飯中に圧力弁が故障して開かないとき)に開放して内鍋2A内の圧力を逃がす安全弁を有している。
【0058】
次に、本発明の実施例に係る内鍋の構造について、図2及び図3を用いて説明する。なお、図2は本発明の第1実施形態に係る内鍋の斜視図である。図3Aは図2のIIA−IIA線に沿った断面図であり、図3Bは図3AのIIIB部分の拡大図であり、図3Cは図3AのIIIC部分の拡大図である。
【0059】
この内鍋2Aは、上方に被炊飯物が投入される大きさの開口を有し深底の筒状容器からなり、上方の開口部の開口縁が所定長さ外方へ延びたフランジ部2aが設けられており、鍋の基材として銅又は銅合金を使用している(以下、この部分を「銅鍋21」という。)。内鍋2Aはその銅鍋21の底壁面及びフランジ部2aの外面が磁性材料からなる金属層22、例えばフェライト系ステンレス鋼やチタンで形成され、銅鍋21の内側壁面は保護層23が被覆され、銅鍋21の外側胴壁面には透明樹脂層24が被覆された構成を有している。銅又は銅合金からなる基材とその基材を覆う磁性材料からなる金属層22とは、貼り合せた積層構造、いわゆるクラッド材となっている。また、透明樹脂層24は耐熱性及び耐水性を有する透明な樹脂材が用いられる。なお、銅及び銅合金の表面に直接磁性材料からなる金属層を形成しても、磁性材料からなる金属層の付着強度が弱いので、銅鍋21と磁性材料からなる金属層の間にアルミニウム又はアルミニウム合金層を形成してもよい。
【0060】
この構成の内鍋2Aによると、内鍋2Aは多層構造となっているので強度や耐衝撃性に優れており、しかも、熱伝導率が高い銅又は銅合金で形成された銅鍋21の底壁面が磁性材料からなる金属層22で形成されているから、調理時に電磁誘導により発生した熱が内鍋2Aに素早く均一に伝達される。その結果、内鍋2A内の被調理物が均一に加熱調理されるので調理ムラがなくなる。加えて銅又は銅合金で形成された銅鍋21のフランジ部2aの外面にも磁性材料からなる金属層22が形成されているから、フランジ部2aの機械的強度が強くなるので、例えば内鍋2Aを誤って落下させた場合に際しても、変形し難くなり、しかも磁性材料からなる金属層22は銅又は銅合金よりも熱伝導率が低いので、内鍋2Aを内鍋収容ケース4内に収納した際に、銅又は銅合金で形成された銅鍋21から熱が内鍋収容ケース4を介して外部に逃げ難くなるため、熱効率が向上する。
【0061】
また、銅鍋21の外側胴壁面が透明樹脂層24で被覆されているので、内鍋2Aの外壁面に銅色肌が現われ、この銅色肌が持つ美観により調理容器に高級感を演出することができる。なお、この透明樹脂層24を銅色の塗料を用いて形成すると、銅鍋21の内面に対してより美観性を付与することができる。また、銅鍋21の胴壁面は透明樹脂層24により被覆されているのみで磁性金属が除去されているので、内鍋2Aを軽量化することができる。さらに、銅鍋21の内面に保護層23を設けることより銅が容器内に溶出することがなくなるので安全面の不安を解消できる。
【0062】
また、保護層23の材料として通常はフッ素樹脂が用いられるが、フッ素樹脂として銅色の塗料を混合したものを用いると、フッ素樹脂をそのまま用いるよりも銅鍋21の内面に対してより美観性を付与することができるようになる。さらに、保護層としては、例えばガラス材等の透明部材を用いることもできる。ガラス材は透明であるから、銅鍋21の表面がそのまま視認できるので、内鍋2Aの意匠性を高めるのに適している。
【0063】
また、この内鍋2Aの製造方法としては、まず、
(1)所定の肉厚を有する銅板又は銅合金板と磁性板とを接合したクラッド材を用いて、磁性板が外側に位置するように上方にフランジ部が形成された有底の筒状容器を形成し、
(2)この筒状容器のフランジ部及び底部の磁性板を残した状態で、筒状容器の胴壁面から磁性板を削除して前記銅板又は銅合金板を露出させ、
(3)外部に露出している銅板又は銅合金板を透明樹脂層で被覆することによって製造する方法を採用できる。
【0064】
この銅面露出工程(2)後に、露出された銅面を研磨し鏡面加工してもよいし、銅面露出工程(2)又は被覆工程(3)後に、磁性板の外側を銅色の塗料で被覆した後、外部に露出している銅板又は銅合金板を透明樹脂層で被覆してもよい。
【0065】
この際、銅板又は銅合金板と磁性板との間の付着強度を大きくするために、銅板又は銅合金板と磁性板との間にアルミニウム又はアルミニウム合金層を形成した場合には、上記(2)の工程でさらに表面のアルミニウム又はアルミニウム合金層を除去して、銅又は銅合金層を露出すればよい。
【0066】
なお、ここでは銅鍋21が銅又は銅合金からなるもの用いた例を示したが、この銅鍋21を内面側を厚いアルミニウム又はアルミニウム合金層からなるものとし、外面側が内面側のアルミニウム又はアルミニウム合金層よりも薄い銅又は銅合金層からなるものとしてもよい。このアルミニウム合金層は、伝熱部材としての銅又は銅合金層の機能の一部を代替する機能を有する。すなわち、アルミニウム又はアルミニウム合金は、銅又は銅合金よりも比重が軽く、しかも、銅及び銅合金と同様に熱伝導率が良好な性質を有しているとともに安価であるので、伝熱部材の一部としてアルミニウム又はアルミニウム合金を使用すれば、伝熱部材の全てが銅又は銅合金からなる銅鍋と同等の熱伝導率を維持することができるようにした場合、より軽量とすることができるとともに安価となる。
【0067】
この場合には、銅鍋21の内面側は、アルミニウム又はアルミニウム合金層に起因する金属色を示すが、銅色の塗料を含む保護材で被覆することによって銅色となるようにしてもよい。
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態の内鍋2Bを図4を用いて説明する。なお、図4Aは第2実施形態に係る内鍋の断面図であり、図4Bは図4AのIVB部分の拡大図であり、図4Cは図4AのIVC部分の拡大図である。
【0068】
この内鍋2Bは、銅鍋21の鍋底部のフランジ部及び底壁に磁性材からなる金属層22’を嵌め込んだ構成となっており、他の構成は第1実施形態の内鍋2Aと同じ構成となっている。この内鍋2Bによれば、磁性材料からなる金属層22’をフランジ部及び鍋底壁面部分に嵌め込むだけでも、上記内鍋2Aと同じ効果を奏することができる。また、この内鍋2Bは、銅鍋21の外側のフランジ部及び胴壁面及び底壁面が透明樹脂層24で被覆されているから、銅鍋肌の持つ美観を最大限に現出させることができる。
【0069】
この場合も、銅又は銅合金と磁性金属との間の付着強度が弱いので、磁性材からなる金属層22’と銅鍋21の鍋底部のフランジ部及び底壁の間に薄いアルミニウム又はアルミニウム合金層を介在させることが好ましい。
【0070】
なお、上記第1実施形態の内鍋2A及び第2実施形態の内鍋2Bにおいては、磁性材料からなる金属層22及び22’の表面に透明樹脂層24を塗布した例を示した。このような構成であると、フランジ部2a及び鍋底部の底壁は磁性材料からなる金属層22及び22’の色がそのまま現れる。そこで、最初に銅色の塗料を塗布した後に透明樹脂層24を形成してもよい。このような構成の内鍋は、胴壁面のみならずフランジ部及び底壁面までもが銅色となることから、銅鍋肌の美観を十分に現出させることができるようになる。
【符号の説明】
【0071】
1…炊飯器 2A、2B…内鍋 2a…フランジ 3…フレームカバー 4…内鍋収容ケース 4a…底部 4b…筒状胴部 4b’…内側側壁面 4ab…段部 4sp…空間スペース 4c…開口部 4d…フランジ 5…リング状の鉄板 6a、6b…電磁誘導コイル 6h…補助加熱ヒータ 7…温度センサ 8…炊飯器本体 9…ファンモータ10…制御基板 11…表示装置 12…操作パネル 13…ヒンジ機構 14…蓋体 15…内蓋 16…中蓋 17…圧力弁機構 17a…圧力孔 17b…弁座 17c…金属性のボール 17d…カバー 17p…プランジャ 18…表蓋カバー 19…係止手段 21…銅鍋 22、22’…磁性材料からなる金属層 23…保護層 24…透明樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランジ部を有し、銅又は銅合金を基材とした銅鍋と、前記銅鍋の内側を被覆する保護層とを有する多層構造の調理容器において、
前記銅鍋の胴壁面は透明樹脂層で被覆され、前記銅鍋の底壁面及びフランジ部には磁性材料からなる金属層が形成されていることを特徴とする調理容器。
【請求項2】
前記銅鍋は、前記銅又は銅合金の表面にアルミニウム又はアルミニウム合金層が形成されており、前記保護層は前記アルミニウム又はアルミニウム合金層の表面に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の調理容器。
【請求項3】
前記磁性材料からなる金属層の表面には銅色の塗料が塗布されており、前記銅色の塗料の表面も前記透明樹脂層で被覆されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の調理容器。
【請求項4】
前記保護層はフッ素樹脂で形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の調理容器。
【請求項5】
前記フッ素樹脂で形成された保護層は銅色の塗料が混合されていることを特徴とする請求項4に記載の調理容器。
【請求項6】
前記保護層はガラス材で形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の調理容器。
【請求項7】
前記磁性材料からなる金属層はフェライト系ステンレス鋼で鋼形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の調理容器。
【請求項8】
前記磁性材料からなる金属層は前記銅鍋のフランジ部及び底壁に嵌め込まれていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の調理容器。
【請求項9】
(1)所定の肉厚を有する銅板又は銅合金板と磁性板とを接合したクラッド材を用い、前記磁性板が外側に位置するように、上方にフランジ部が形成された有底筒状容器を形成する容器成型工程と、
(2)前記筒状容器のフランジ部及び底部の前記磁性板を残した状態で、前記筒状容器の胴壁面から前記磁性板を除去して前記銅板又は銅合金板を露出させる銅面露出工程と、
(3)外部に露出している銅板又は銅合金板を透明樹脂層で被覆する銅面被覆工程と、からなることを特徴とする調理容器の製造方法。
【請求項10】
前記(2)の銅面露出工程後に露出された銅面を研磨して鏡面加工する工程を備えることを特徴とする請求項9に記載の調理容器の製造方法。
【請求項11】
前記(2)の銅面露出工程後に前記磁性板の表面を銅色の塗料で被覆した後、前記(3)の工程において同時に銅色の塗料層も透明樹脂層で被覆する工程を備えていることを特徴とする請求項9に記載の調理容器の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜8のいずれかに記載の調理容器と、前記調理容器が収容される電磁誘導加熱手段を有する調理器本体と、からなることを特徴とする調理器。
【請求項13】
前記調理器本体は、前記調理容器を収納する収容ケースに、前記調理容器の銅鍋の胴壁面に対向させて補助加熱ヒータを備えていることを特徴とする請求項12に記載の調理器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−10924(P2012−10924A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149848(P2010−149848)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】