説明

負荷感応型磁気クラッチ装置

【課題】負荷感応型磁気クラッチにおいて、低負荷伝達経路から高負荷伝達経路への切換え操作を迅速かつ確実に行うことができ、さらに、負荷の変動によりクラッチの負荷トルク伝達経路が切換わるクラッチ戻りの発生を防止する負荷感応型磁気クラッチ装置を提供する。
【解決手段】歯形磁性体12aを備える継鉄回転体12と、同一回転中心軸18bで回転し、クラッチ突起16と係合するクラッチ係合部3を有する高トルク入力手段2を備え、前記クラッチ突起16は磁性体からなり、クラッチ係合部3に前記クラッチ突起16が磁力によって吸着するクラッチ保持磁性体4を有し、磁極回転体14と前記継鉄回転体12間で伝達可能なトルクを上まわる負荷トルクが作用することで前記クラッチ突起16が前記クラッチ保持磁性体4に吸着することを特徴とする負荷感応型磁気クラッチ装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの回転体間で磁気の吸引力によって回転トルクを伝達する負荷感応型磁気クラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの回転体間で磁気の吸引力によって回転トルクを伝達する負荷感応型磁気クラッチ装置において、磁気の吸引力によって伝達可能な回転トルクを上回る負荷トルクが作用したときに、回転体を回転軸方向に磁気の吸引力の作用で自動的にスライド移動し、この回転体のスライド移動作用を利用して、負荷トルクの大小によって回転トルクの伝達経路を低負荷伝達経路と高負荷伝達経路に切り換える磁気クラッチ装置が本出願人により提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2010-189080号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記磁気クラッチ装置は、
出力回転手段と低トルク回転手段間に予め設定した値を超える負荷トルクが作用した場合に、出力回転手段がスライドすることで、出力回転手段を高トルク回転手段に係合し、高負荷伝達経路にトルク伝達経路を切換えることができ、また、負荷トルクが磁極と側部磁性体間の磁気吸引力を下回ると、出力回転手段の磁極は低トルク回転手段の歯形磁性体と対向する位置に移動し、低負荷伝達経路にトルク伝達経路が切替わるので、負荷トルクの増減に伴い磁気クラッチの切換を自動的に行うことができるが、
例えば、手動チェーンブロックに応用した場合では、荷の巻上げ操作時に、クラッチ部に加わる負荷トルクが、手動チェーンブロックに備わるメカニカルブレーキ(負荷作動ブレーキ)の作用によって減少することにより、低負荷伝達経路に切り換わるクラッチ戻りが発生するという課題を有していた。
【0005】
本発明は、負荷感応型磁気クラッチにおいて、負荷トルクの伝達経路を低負荷伝達経路から高負荷伝達経路への切換え操作を迅速かつ確実に行うことができ、さらに、クラッチ部に加わる負荷の変動によりクラッチの負荷トルク伝達経路が高負荷伝達経路から低負荷伝達経路に切換わるクラッチ戻りの発生を防止できる負荷感応型磁気クラッチ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するもので、
円周上に列設された磁極を有し、端部に咬合クラッチのクラッチ突起を備える、出力回転手段を形成する磁極回転体と、前記磁極回転体と同一回転中心軸で回転し、前記磁極と歯先が対向するように列設される歯形形状部を有し、前記磁極回転体と磁気吸引力によるトルクを伝達する歯形磁性体を備える、低トルク入力手段を形成する継鉄回転体と、前記同一回転中心軸で回転し、前記出力回転手段に設けたクラッチ突起と係合する咬合クラッチのクラッチ係合部を有する高トルク入力手段を備え、
前記クラッチ突起は磁性体からなり、前記クラッチ係合部に前記クラッチ突起が磁力によって吸着するクラッチ保持磁性体を有し、前記磁極回転体と前記低トルク入力手段間で伝達可能なトルクを上まわる負荷トルクが作用することで前記クラッチ突起が前記クラッチ保持磁性体に吸着することを特徴とする。
【0007】
また、前記歯形磁性体の列の前記高トルク入力手段が配置された側の側方に前記継鉄回転体に取着された中空円板状の側部磁性体を備え、前記高トルク入力手段の前記クラッチ係合部には、正転時に前記クラッチ突起と係合する正転時トルク伝達側面と、逆転時に前記クラッチ突起と係合する逆転時トルク伝達側面を有することを特徴とする。
【0008】
また、前記クラッチ保持磁性体は、前記正転時トルク伝達側面と逆転時トルク伝達側面の中間部に、前記クラッチ突起と前記クラッチ保持磁性体間の磁力による吸着力がを減少する咬合クラッチ離脱部を有することを特徴とする。
【0009】
また、前記咬合クラッチ離脱部に前記クラッチ突起と当接してクラッチ突起とクラッチ保持磁性体との磁力による吸着を離脱させる咬合クラッチ離脱用突起を有することを特徴とする。
【0010】
また、前記クラッチ係合部は、前記正転時トルク伝達側面と前記クラッチ離脱部間、または逆転時トルク伝達側面と前記咬合クラッチ離脱部間のいずれか一方にのみ前記クラッチ保持磁性体を配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、円周上に列設された磁極を有し、端部に咬合クラッチのクラッチ突起を備える、出力回転手段を形成する磁極回転体と、前記磁極回転体と同一回転中心軸で回転し、前記磁極と歯先が対向するように列設される歯形形状部を有し、前記磁極回転体と磁気吸引力によるトルクを伝達する歯形磁性体を備える、低トルク入力手段を形成する継鉄回転体と、前記同一回転中心軸で回転し、前記出力回転手段に設けたクラッチ突起と係合する咬合クラッチのクラッチ係合部を有する高トルク入力手段を設けた構成としたので、予め設定した回転トルクを上回る負荷トルクが作用すると、出力回転手段が回転中心線方向に所定量スライドして、回転トルクの伝達を出力回転手段と低トルク回転手段の経路から、出力回転手段と高トルク回転手段の経路に簡単な構成で切り換えることが可能で、装置の小形化、クラッチ切換えの確実性、及びコストの低減を可能にでき、また、前記出力回転手段と前記高トルク入力手段を咬合クラッチによって係合するようにしたので、高トルク回転手段への伝達切り換えを簡単確実に行うことができるという効果を有し、さらに、高トルク入力手段のクラッチ係合部にクラッチ保持磁性体を設けたので、クラッチ突起がクラッチ保持磁性体に吸引されるため、咬合クラッチの係合動作を迅速かつ確実に行うことができ、また、磁力によって吸着されたクラッチ突起はクラッチ保持磁性体に吸着されているため、クラッチ戻りの発生を防止することができる。
【0012】
また、前記歯形磁性体の列の前記高トルク入力手段が配置された側の側方に、前記継鉄回転体に取着された中空円板状の側部磁性体を備えたので、負荷トルクの増加に伴い出力回転手段を高トルク手段方向にスライドさせクラッチ突起がクラッチ係合部に係合できるので、低負荷伝達から高負荷伝達に確実に切り替えることが出来る。また、正転時トルク伝達側面と逆転時トルク伝達側面をそれぞれ有しているので、正転操作時と逆転操作時それぞれの操作に適切なクラッチ係合を適宜選択可能と出来る。また、クラッチ保持磁性体に咬合クラッチ離脱部を設けたので、出力回転手段と高トルク入力手段間のトルクが減少した時に、出力回転手段を高トルク入力手段から低トルク入力手段に切換える動作を、高トルク入力手段を逆転させることで、クラッチ保持磁性体に保持されたクラッチ突起を咬合クラッチ離脱部に相対移動させ、クラッチ突起とクラッチ保持用磁性体との吸着力を低減し、磁極と歯形磁性体の歯形形状部間に働く磁力によって、出力回転手段を高トルク入力手段から低トルク入力手段への伝達に切換え、円滑に低負荷を伝達するモードにクラッチを切換えることができる。
【0013】
また、高トルク入力手段のクラッチ係合部の正転時トルク伝達側面と逆転時トルク伝達側面の中間部に、咬合クラッチ離脱用突起を設けたので、前記出力回転手段が高トルク入力手段から低トルク入力手段への伝達に切換える動作を、高トルク入力手段をそれまでの回転方向とは逆方向に回転させることで、クラッチ突起を前記咬合クラッチ離脱用突起に当接し、咬合クラッチをクラッチ保持磁性体から離脱させるので、出力回転手段を高トルク入力手段から低トルク入力手段への伝達に確実に切換え、円滑に低負荷を伝達するモードに切換えることができる。また、本発明は、正転時トルク伝達側面と咬合クラッチ離脱部間、または逆転時トルク伝達側面とクラッチ離脱部間のいずれか一方にのみ前記クラッチ保持磁性体を配置したので、正転操作時、または逆転操作時のいずれか一方にのみ咬合クラッチ保持機能を発揮し、他方では咬合クラッチ保持機能を発揮されず、所定負荷トルク以下になったらトルクの伝達経路が低負荷トルク伝達経路に自動的に切り替わるように適宜用途に応じて選択出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の負荷感応型磁気クラッチ装置の全体構成図。
【図2】図1の低トルク入力手段、継鉄回転体、側部磁性体及び磁極回転体を示す拡大構成説明図。
【図3】図1の高トルク入力手段を示す拡大構成説明図。
【図4】(a) 低負荷を伝達する状態(低負荷伝達モード)を示す説明図、(b)低トルク入力手段、継鉄回転体、側部磁性体、磁極回転体、クラッチ突起を示す拡大構成説明図。
【図5】(a) 高負荷を伝達する状態(高負荷伝達モード)を示す説明図、(b)低トルク入力手段、継鉄回転体、側部磁性体、磁極回転体、クラッチ突起を示す拡大構成説明図。
【図6】クラッチ離脱用突起を示す構成説明図。
【図7】クラッチ離脱用突起を示す構成説明図。
【図8】クラッチ離脱用傾斜面を示す構成説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0016】
図1において、1は後記する回転トルク入力手段6に固設された非磁性の中空軸状の入力部材、2は回転トルク入力手段6に連結された高トルク入力手段、3は高トルク入力手段2に設けられた咬合クラッチのトルク伝達用係合部を構成する係合凹部で、後記する咬合クラッチのクラッチ突起16と係合する係合凹部(クラッチ係合部)からなり、図3に示す、高トルク入力手段2の正転時にクラッチ突起16と係合する正転時トルク伝達側面3aと逆転時にクラッチ突起16と係合する逆転時トルク伝達側面3bを有する。4は前記係合凹部3の凹部底面に設けられ、後記するクラッチ突起16を吸着するクラッチ保持磁性体である。クラッチ突起16は永久磁石15によって励磁される強磁性体からなり、後記するクラッチ切換動作でクラッチ突起16が高トルク入力手段2の係合凹部3側に移動すると、クラッチ保持磁性体4に吸着し、保持される。クラッチ突起16とクラッチ保持磁性体は吸着状態において両者が密着することなくエアギャップを有することが好ましい。クラッチ保持磁性体4は、図7に示すように、正転時トルク伝達側面3aと逆転時トルク伝達側面3bのどちらか片側のみに配置されるが、操作する負荷の種類に応じて適宜図6または図8に示すように両側に配置することもできる。高トルク入力手段2はクラッチ保持磁性体4以外は、非磁性体で構成されている。
【0017】
4aはクラッチ保持磁性体4の中央部(クラッチ離脱部3c)に設けられたクラッチ離脱用傾斜面で、高負荷を伝達するモードから低負荷を伝達するモードにクラッチを切換える際に、クラッチ突起16の先端とクラッチ保持磁性体4のエアギャップを両者を相対回転させることで除々に大きくし、クラッチ保持磁性体4とクラッチ突起16との吸着力が解消する位置に容易に移動できるようにする作用を有する。前記クラッチ離脱用傾斜面4aは後記する出力回転手段17の磁極回転体14と継鉄回転体12間に作用する負荷トルクが高負荷トルクから低負荷トルクに減少した時、出力回転手段17を高トルク入力手段2から低トルク入力手段11へのトルク伝達に切換える際に、図8に示すように、高トルク入力手段2をそれまでの回転方向とは逆の方向に回転させることで、正転動作時では、正転トルク伝達側面3a側のクラッチ保持磁性体4に吸着されているクラッチ突起16を正転時トルク伝達側面3aから逆転時トルク伝達側面3b側に相対移動させ、この移動時に、クラッチ突起16の先端とクラッチ保持磁性体4の間隔は前記離脱用傾斜面4a1で拡大し、クラッチ突起16とクラッチ保持磁性体4aとのエアギャップを増大させ、クラッチ保持用磁性体4との吸着力が解消されることでクラッチは戻り、磁気クラッチを低負荷伝達モードに切換える作用を有する。同様に逆転操作時では、逆転時トルク伝達側面8b側のクラッチ保持磁性体4bに吸着されているクラッチ突起16を逆転時トルク伝達側面から正転時トルク伝達側面方向に移動させ、この移動時に、クラッチ突起16の先端とクラッチ保持磁性体4の間隔は離脱用傾斜面4bで拡大し、クラッチ突起16とクラッチ保持磁性体4bとのエアギャップを増大させ、クラッチ保持磁性体4との吸着力が解消されることでクラッチは戻り、磁気クラッチを低負荷伝達モードに切り替える作用を有する。16aは正転時トルク伝達側面3aに当接しトルクを伝達するクラッチ突起を示す。
【0018】
16bは係合凹部3との係合が外れたクラッチ突起を示す。16cは逆転時トルク伝達側面3bに当接しトルクを伝達するクラッチ突起を示す。
【0019】
また、クラッチ切換後において、負荷トルクが増大するとクラッチ突起16は再び係合凹部3にスライド移動し、回転操作方向に応じて正転時トルク伝達側面3a又は逆転時トルク伝達側面3bに当接して回転トルクを伝達する。
【0020】
5は前記係合凹部3の正転時トルク伝達側面3aと逆転時トルク伝達側面3bの中間部に設けられたクラッチ離脱用突起で、正転離脱用傾斜面5aと逆転離脱用傾斜面5bを有する。前記クラッチ離脱用突起5は図6、7に示すように、高トルク入力手段2をそれまでの回転方向と逆方向に回転操作することで、クラッチ突起16をクラッチ離脱用突起5方向に相対移動させ、この移動によって、クラッチ保持用磁性体4に吸着されているクラッチ突起16は離脱用突起5の正転離脱用傾斜面5a又は逆転離脱用斜面5bに当接し、クラッチ突起16をクラッチ保持磁性体4から離脱させる作用を有する。16aは正転時トルク伝達側面3aに当接しトルクを伝達するクラッチ突起を示す。16bはクラッチ保持磁性体4との係合が外れたクラッチ突起を示す。16cは逆転時トルク伝達側面3bに当接しトルクを伝達するクラッチ突起を示す。
【0021】
クラッチ突起16は一旦係合凹部3から離脱しても、磁力によって伝達可能なトルクを上まわる負荷トルクが作用すると再び係合凹部3内にスライド移動し、回転操作方向に応じて正転時トルク伝達側面3aまたは逆転時トルク伝達側面3bに当接して回転トルクを伝達する。
【0022】
6は回転トルク入力手段で、入力部材1と高トルク入力手段2に連結手段で固設され、高トルク入力手段2と共に外周フレーム20に軸受け19eで回転可能に軸支されている。図1では、手動チェーンブロックに使用されるハンドホイールを例示しているが、平ベルト用プーリーや、歯車などトルクを入力する手段であれば何でも良い。
【0023】
7は増速機構として作用する遊星歯車機構、7aは入力部材1に連結されたプラネタリキャリア、7bはプラネタリキャリア7aと対をなすプラネタリキャリア、7cはプラネタリキャリア7a、7bに回転可能に軸支されたプラネタリギア、7dはプラネタリキャリア7a、7bに植設されたプラネタリギヤ軸でプラネタリギヤ7cを軸受けで軸支している、8はプラネタリギヤ7cが内接咬合するリングギヤ、9は太陽ギヤ軸10に設けられた太陽ギヤ、10は増速機構の出力軸である太陽ギヤ軸である。プイラネタリギヤ7cは太陽ギヤ9と外接噛合し、前記リングギヤ8と内接噛合し、プラネタリキャリア7aの回転を増速し、太陽ギヤ軸10を増速回転する。
【0024】
11は太陽ギヤ軸に連結され、回転トルク入力手段6に対し遊星歯車機構の増速比で高速回転する低トルク入力手段、11aは低トルク入力手段のボス部である。
【0025】
低トルク入力手段11は軸受け19bを介して前記ボス部11a外周にボス部11aに対して回転及び軸方向にスライド可能に軸受されている。
【0026】
12は継鉄回転体で、低トルク入力手段11のボス部11aの外周に備えられ円周上に2列に列設された複数の歯先を有する歯形形状継鉄(歯形形状磁性体)12a、12aを備える。前記継鉄回転体12は軟磁性体が好ましい。13aは一方の歯形形状継鉄12aの側面で低トルク入力手段11のボス部11aに外挿されたドーナツ円板状の側部磁性体、13bは他方の歯形形状継鉄12aの側面で低トルク入力手段11のボス部11aに外挿されたドーナツ円板状の側部磁性体である。
【0027】
14は円周上に2列に列設された磁極14a、14aを有する磁極回転体である。磁極14aは歯形形状継鉄12aの歯先の列の外周に対向配置されている。15は前記1対の磁極14a、14a間に設けられたドーナツ円板状の永久磁石で、一方の側面がN極、他方の側面がS極となっている。磁極14a、14aはドーナツ円板状の永久磁石15の側面に固着され、各磁極14a、14aの内周には複数の歯形形状部14b、14bが列設され、永久磁石15によって歯形形状部14bの歯先にN極又はS極が励磁されている。前記磁極回転体14、永久磁石15は出力回転手段17に固設されている。
【0028】
16は強磁性体からなり係合凹部3と係脱することで咬合クラッチを構成するクラッチ突起である。クラッチ突起16は永久磁石15によって励磁されるように出力回転手段17の磁極回転体14の側面から係合凹部3に向かって突出して設けられ、高負荷時に前記高トルク入力手段2に設けた係合凹部3に係合し、クラッチ保持磁性体4にエアギャップを有して吸着する。
【0029】
17は前記永久磁石15を有する前記磁極回転体14及びクラッチ突起16を備えた出力回転手段、17aは出力回転手段17のボス部である。出力回転手段17のボス部17aの内周にはスプライン17bが設けられており、出力軸18に設けたスプライン18aとスプライン結合しており、出力軸18と同一回転中心軸18bで回転し、出力回転手段17から出力軸18に回転トルクを伝達するとともに、出力回転手段17を出力軸18の軸方向にスライド可能に支持する。出力回転手段17は、磁極回転体14、永久磁石15、クラッチ突起16以外の材質は、非磁性体にて構成されている。
【0030】
19aは出力軸18に外挿され高トルク入力手段2と共に回転トルク入力手段6を軸支する軸受け、19bは出力回転手段17のボス部17aに外挿され低トルク入力部材11を軸支する軸受け、19cはプラネタリキャリア7aと共に入力部材1を軸支する軸受け、出力軸18は軸受け19d、19eでフレームに軸支されている。20は外周フレームである。
【0031】
次に、本発明の磁気クラッチ機構の切換動作について説明する。
【0032】
図4(a)(b)に示すクラッチが低負荷を伝達する状態では、低トルク入力手段11の歯形形状継鉄12aの歯型形状部の歯先と出力回転手段17に設けた磁極14aの歯型形状部14bの歯先が対向した状態にあり、永久磁石15で励磁された磁極14aの歯形形状部14bと低トルク入力手段11に設けた歯形形状継鉄12aは、両者の歯型形状部の歯先間のエアギャップを介して磁気回路を形成し、両回転手段間に強力な磁気吸引力が発生する。
【0033】
この状態においては、磁極14aと歯形形状継鉄12a間の磁力による回転中心軸方向の吸引力は、磁極14aと側部磁性体13a、13bの磁力による回転中心軸方向の吸引力と釣合い状態にあり、歯形形状継鉄12aと磁極14aは、回転中心軸方向に対する機械的規制手段(ストッパ)を必要とせず、磁力によって図4(a)に示す状態を維持し、歯形形状継鉄12aから磁極14aにトルクを伝達し、歯形形状継鉄12aは磁極14aを低トルク入力手段11と同速で回転する。これによって、出力回転手段17は回転トルク入力手段6に比して高速で回転する。
【0034】
次に、負荷トルクが増大し、負荷トルクが歯形形状継鉄12aと磁極14aの磁気吸引力を越えると、低トルク入力手段11と出力回転手段17は相対回転し、磁極14aと歯形形状継鉄12aの両者の歯形形状部の歯先間に形成されていた磁気回路が側部磁性体13a、13bを流れる磁気回路に変位するため、磁極14aと歯形形状継鉄12a間の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力は減少する。一方、磁極14aと側部磁性体13a、13bの磁力による吸引力の回転中心線方向の分力は増加する。この磁極14aと側部磁性体13a、13bの磁力による吸引力の回転中心線方向の分力が磁極14aと歯形形状継鉄12a間の磁力による吸引力の回転中心線方向の分力より増加することにより、磁極14aは回転中心線方向にスライドし、磁極14aと歯形形状継鉄12aの相対位置が変位して、図5(a)に示すように、磁極14aの歯形形状部と側部磁性体13a、13b間で磁気回路を形成し、クラッチ突起16は回転トルク入力手段6と同じ速度で回転する高トルク入力手段2の係合凹部3に係合し、クラッチ保持磁性体4に吸着して高負荷低速回転に切換えられる。
【0035】
歯形形状継鉄12aと磁極14aが相対回転している時には、両者間に働く磁気吸引力は相当量減少するので、その差を利用して、クラッチ突起16とクラッチ保持磁性体4との間隔を小さく設定し、クラッチ突起16とクラッチ保持磁性体4間に働く回転中心軸方向の磁気吸引力を、歯形形状継鉄12aと磁極14aが相対回転している時に歯形形状継鉄12aと磁極14a間に働く回転中心軸方向の磁気吸引力より大きく設定することが出来るので、側部磁性体13a、13bは必ずしも必要としない。しかし、確実な切り替え動作、及び回転中心軸方向のスライド量を大きく設定するには、側部磁性体13を備えることが好ましい形態である。
【0036】
磁極14aがスライドし、側部磁性体13a、13bと対向した状態で回転すると、クラッチ突起16は高トルク入力手段2の係合凹部3の正転時トルク伝達側面3a、又は逆転時トルク伝達側面3bと係合し、クラッチ突起16を介して、出力回転部材17を高トルク入力手段2と一体となって同速で回転する。
【0037】
この高負荷回転時においても、磁極14aと歯形形状継鉄12aは連続して相対的に回転し、磁極14aの歯形形状部14bと歯形形状継鉄12aの歯型形状部が対向した状態時に、磁極14aと歯形形状継鉄12aの歯型形状部間に最大のスラスト力が発生し、磁極14aの山(歯先)と歯形形状継鉄12aの谷(歯底)が対向した時にスラスト力は最小となる。
【0038】
次に、負荷が所定トルク以下に減少すると、磁極14aと歯形形状継鉄12aの両者の歯形形状部の歯先同志が磁力で引き合い円周方向で歯先の位置が一致し向き合い、磁極14aと側部磁性体13a、13b間に形成されていた磁気回路が歯形形状継鉄12aの歯型形状部の歯先を流れる磁気回路に切り替わるので、磁極14aと歯形形状継鉄12aの磁力による吸引力の回転中心線方向の分力が増加し、磁極14aと側部磁性体13a、13bの磁力による吸引力の回転中心線方向の分力は減少し、磁極14aと歯形形状継鉄12aの磁力による吸引力の回転中心線方向の分力が前記磁性14aと側部磁性体13a、13bの磁力による吸引力の回転中心線方向の分力を上回るため、戻しのスラスト力が発生し、磁極14aは低トルク入力手段11の歯形形状継鉄12aと対向する位置にスライドし、低負荷モードに戻ろうとするが、クラッチ突起16はクラッチ保持磁性体4と磁力によって吸着されているので、咬合クラッチの係合は維持される。
【0039】
この高負荷伝達モードから低負荷伝達モードへ切換える時に、高トルク入力手段2を回転トルク入力手段6によってそれまでの回転方向と逆の方向に回転させることで、図8に示すように、クラッチ突起16の相対位置を高トルク入力手段2に設けた係合凹部3の正転時トルク伝達側面3aから逆転時トルク伝達側面3b方向に移動させ、この移動動作時に、クラッチ突起16の先端とクラッチ保持磁性体4間の間隔はクラッチ離脱用傾斜面4aにより徐々に拡大するので、クラッチ突起16の先端とクラッチ保持磁性体4のエアギャップは増大し、クラッチ突起16と保持用磁性体4との吸着力(保持力)は低減し、磁極14aは低トルク入力手段11の歯形形状継鉄12aに吸引され対向する位置にスライドし、低負荷伝達モードに切り換わる。
【0040】
また、正転時トルク伝達側面3aと逆転時トルク伝達側面3bの中間部に咬合クラッチ離脱用突起5を設けると、高トルク入力手段2を回転トルク入力手段6によって、それまでの回転方向と逆方向に回転させることで、図6及び図7に示すように、クラッチ突起16を高トルク入力手段2に設けた係合凹部3の正転時トルク伝達側面3aから逆転時トルク伝達側面3bに移動させ、この移動動作時に、クラッチ突起16はクラッチ離脱用突起5の正転離脱用傾斜面5aに当接し、傾斜面でガイドされクラッチ保持磁性体4から離脱させ、磁極14aは低トルク入力手段11の歯形形状継鉄12aと対向する位置にスライドし、低負荷伝達モードに切換わり、出力軸18は回転トルク入力手段6に比して高速で回転する。
【0041】
以上の通り、本発明によると、出力回転手段17の磁極14aに付加される負荷により、出力回転手段17に設けた磁極14aと低トルク入力手段11に設けた歯形形状継鉄12aとが相対回転した時に、永久磁石15の磁力によって発生するスラスト力を利用して、磁極14aを回転軸方向にスライドすることで出力回転手段17を高トルク入力手段2に、クラッチ突起16と係合凹部3からなる咬合クラッチによって連結する構成としているので、従来公知の装置において必要としていた別体としてのスラスト変換機構を設ける必要がないため、部品点数が少なく、構造が簡単で、小型・軽量化が可能となり、製品コストを大幅に削減することができ、また、高負荷時には、磁極14aと歯形形状継鉄12aの相対回転により発生するスラスト力により、磁極14aに設けたクラッチ突起16を高トルク入力手段2に係合する構成としているので、高負荷時においても、動力伝達を正確に行うがことができ、かつクラッチの切換えをハイレスポンスに行うことができる。
【0042】
さらに、高トルク入力手段2のトルク伝達用係合部3にクラッチ保持磁性体4を設けたので、出力回転手段17が低トルク入力手段11から高トルク入力手段2に切換える動作時、クラッチ突起16がクラッチ保持磁性体4に吸引されるため、クラッチ突起16による切換え動作を迅速かつ確実に行うことができ、また、高負荷伝達モードにおける操作時、クラッチ突起16は常時クラッチ保持磁性体4に吸着されているため、クラッチに作用する負荷の変動によりクラッチ戻りの発生を防止することができる。また、クラッチ保持磁性体4にクラッチ突起16との離脱用傾斜面4aを設けたので、出力回転手段17と高トルク入力手段2間のトルクが減少し、出力回転手段17を高トルク入力手段2から、低トルク入力手段11への伝達に伝達経路を切換える操作を、高トルク入力手段2をそれまでの回転方向とは逆方向に回転させることで、クラッチ突起16を正転時トルク伝達側面3aまたは逆転時トルク伝達側面3bから離反する方向に移動させ、この移動動作時に、クラッチ突起16の先端とクラッチ保持磁性体4の間隔は前記離脱用傾斜面4aによりエアギャップが徐々に増大するので、円周方向の磁力は発生せずクラッチ突起16と保持用磁性体4との吸着力は低減し、出力回転手段17を高トルク入力手段2から低トルク入力手段11への伝達位置に切換え、円滑に低負荷伝達(高速)モードに切換えることができる。
【0043】
また、トルク伝達用係合部3の正転時トルク伝達側面3aと逆転時トルク伝達側面3bの中間部に、クラッチ離脱用突起5を設けたので、前記出力回転手段17が高トルク入力手段2から低トルク入力手段11への伝達に伝達経路を切換える操作を、高トルク入力手段2をそれまでの回転方向とは逆の方向に回転させることで、クラッチ突起16を正転時トルク伝達側面3aまたは逆転時トルク伝達側面3b側から離反する方向に移動させ、この移動動作時に、クラッチ突起16は前記クラッチ離脱用突起5に当接し、クラッチ突起16をクラッチ保持磁性体4から離反させるので、出力回転手段17を高トルク入力手段2から低トルク入力手段11への伝達位置に切換え、円滑に低負荷伝達(高速)モードに切換えることができる。
【符号の説明】
【0044】
1 入力部材
2 高トルク入力手段
3 係合凹部
3a 正転時トルク伝達側面
3b 逆転時トルク伝達側面
3c 咬合クラッチ離脱部
4 クラッチ保持磁性体
4a クラッチ離脱用傾斜面
5 クラッチ離脱用突起
5a 正転離脱用傾斜面
5b 逆転離脱用傾斜面
6 回転トルク入力手段
11 低トルク入力手段
12 継鉄回転体
12a 歯形形状継鉄
13 側部磁性体
14 磁極回転体
14a 磁極
14b 歯形形状部
16 クラッチ突起
17 出力回転手段
18 出力軸
18b 回転中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円周上に列設された磁極を有し、端部に咬合クラッチのクラッチ突起を備える、出力回転手段を形成する磁極回転体と、前記磁極回転体と同一回転中心軸で回転し、前記磁極と歯先が対向するように列設される歯形形状部を有し、前記磁極回転体と磁気吸引力によるトルクを伝達する歯形磁性体を備える、低トルク入力手段を形成する継鉄回転体と、前記同一回転中心軸で回転し、前記出力回転手段に設けたクラッチ突起と係合する咬合クラッチのクラッチ係合部を有する高トルク入力手段を備え、
前記クラッチ突起は磁性体からなり、前記クラッチ係合部に前記クラッチ突起が磁力によって吸着するクラッチ保持磁性体を有し、前記磁極回転体と前記低トルク入力手段間で伝達可能なトルクを上まわる負荷トルクが作用することで、前記クラッチ突起が前記クラッチ保持磁性体に吸着することを特徴とする負荷感応型磁気クラッチ装置。
【請求項2】
前記歯形磁性体の列の前記高トルク入力手段が配置された側の側方に前記継鉄回転体に取着された中空円板状の側部磁性体を備え、前記高トルク入力手段の前記クラッチ係合部には、正転時に前記クラッチ突起と係合する正転時トルク伝達側面と、逆転時に前記クラッチ突起と係合する逆転時トルク伝達側面を有することを特徴とする請求項1記載の負荷感応型磁気クラッチ装置。
【請求項3】
前記クラッチ保持磁性体は、前記正転時トルク伝達側面と逆転時トルク伝達側面の中間部に、前記クラッチ突起と前記クラッチ保持磁性体間の磁力による吸着力が減少する咬合クラッチ離脱部を有することを特徴とする請求項2記載の負荷感応型磁気クラッチ装置。
【請求項4】
前記咬合クラッチ離脱部に前記クラッチ突起と当接してクラッチ突起とクラッチ保持磁性体との磁力による吸着を離脱させる咬合クラッチ離脱用突起を有することを特徴とする請求項3記載の負荷感応型磁気クラッチ装置。
【請求項5】
前記クラッチ係合部は、前記正転時トルク伝達側面と前記クラッチ離脱部間、または逆転時トルク伝達側面と前記咬合クラッチ離脱部間のいずれか一方にのみ前記クラッチ保持磁性体を配置したことを特徴とする請求項3または4記載の負荷感応型磁気クラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−52572(P2012−52572A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193860(P2010−193860)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000129367)株式会社キトー (101)
【Fターム(参考)】