説明

貴金属の磁気ナノ粒子

本発明は、制御された微細構造を有する貴金属のナノ粒子であって、該微細構造が該ナノ粒子中において強磁性挙動の発現をもたらすことによって、標準的な強磁性金属が超常磁性体として挙動する(ヒステリシスサイクルの消失)範囲における非常に小さな磁石(<5nm)の使用を可能にする該貴金属ナノ粒子に関する。本発明によるナノ粒子は、例えば、磁気記録のサイズを減少させるため、及び生体臨床医学における生体分子認識、核磁気共鳴画像、薬剤の放出制御又は過温症の処置のための手段として使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の対象は、ナノテクノロジーの応用分野に属する。非常に小さなサイズ(<5nm)の磁石は、標準的な強磁性金属が超常磁性体として挙動する範囲内において提供される(ヒステリシスサイクルの消失)。開発されたナノ粒子を用いることによって、磁気記録におけるサイズを低減させることが最初に提案された。生体分子の認識のための手段として生体臨床医学における用途、及び核磁気共鳴画像、薬剤の放出制御又は過温症の処置における用途も提案されている。
【0002】
本発明の対象は、磁気的挙動の発現をもたらす制御された微細構造を有する貴金属のナノ粒子である。また、該ナノ粒子の製造方法も本発明の対象である。
【背景技術】
【0003】
ストーナー条件を満たさない貴金属における強磁性の発現[N.タカノ、T.カイ、K.シイキ、及びF.テラサキ、Solid State Comun. 、第97巻(1996年)、第153頁]は、現在までのところパラジウムのナノ粒子の場合について報告されている現象であって、該現象は、次の因子による制限された現象に起因するとされている:小さなサイズ、ナノ粒子における高い表面積/体積比に基づく表面異方性及び/又は双晶化ナノ粒子中の双晶の稜中へ導入された異方性[B.サンペドロ、P.クレスポ、A.ヘマンド、R.リトラン、J.C.サンチェス−ロペス、C.ロペス−カルテス、A.フェルナンデス、J.ラミレス、J.ゴンザレス−カルベット、及びM.バレット、Phys. Rev. Let.、第91巻(2003年)、第237203−1頁;T.シノハラ、T.サトウ、及びT.タニヤマ、Phys. Rev. Let.、第91巻(2003年)、第197201頁;T.タニヤマ、E.オータ、及びT.サトウ、Phys. B第237巻(1997年)、第286頁;E.フーガー、及びK.オズーフ、Europhys. Let. 、第63巻(2003年)、第90頁;V.クマー、及びY.カワゾエ、Phys. Rev. B第66巻(2002年)、第144413頁]。これらの研究においては、ナノ粒子のサイズは2〜15nmとされている。
【0004】
先行する一部の研究においては、ヒステリシスサイクルは報告されていないが、Auに強磁性が存在する可能性が指摘されている[H.ホリ、T.テラニシ、M.タキ、S.ヤマダ、M.ミヤケ、及びY.ヤマモト、J. Mag. Mag. Mat. 、第226巻(2001年)、1910頁]。
【0005】
芯が鉄で外層が金から成るAu/Feナノ粒子であって、チオールで機能化されるか、又は界面活性剤で保護された該ナノ粒子が報告されている[B.ラベル、E.E.カーペンター、及びV.G.ハリス、J. of Appl. Phys. 、第91巻(2002年)、第8195頁]。鉄芯の磁性挙動はこの種のナノ粒子における超常磁性の発現を増大させ、該ナノ粒子の生体臨床医学における適用可能性が提案されている(WO03072830、EP1339075及びWO03057175)。同様に、金ナノ粒子であって、該粒子に磁性挙動を付与する有機残基で機能化された金ナノ粒子が報告されている(EP1211698)。
【0006】
典型的な磁性金属と酸化物(例えば、Fe、Co、Ni及びこれらの磁性酸化物)のナノ粒子に関しては多数の研究報文と特許が存在する:F.デルモンテ、M.P.モラレス、D.レビー、A.フェルナンデス、M.オカナ、A.ロイグ、E.モリンス、K.オグラディー、及びC.G.セマ、Langmuir 、第13巻(1997年)、第3627頁;D.スニル、H.D.ガフネイ、及びM.H.ラファイロビッチ、J. Non-Cryst. Solids 、2003年、第319頁;S.オカモト、O.キタカニ、及びN.キクチ、Phys. Rev. 、B第67巻(2003年);M.グズマン、J.L.デルプラッケ、及びG.J.ロング、J. Appl. Phys. 、第92巻(2002年)、第2634頁;Y.D.ヤオ、Y.Y.チェン及びS.D.F.リー、J. Magn. Magn. Mater. 、第239巻(2002年)、第249頁;日本国特許公報JP2003/132519。しかしながら、粒径が5nm以下の標準的な強磁性材料の場合には、強磁性挙動が消失し、このためヒステリシスサイクルと飽和保磁力の発現が失われる。現在のところ、このことに起因して、磁気記録における情報密度を増大させる可能性は制限されている:J.L.ドルマン、Revue Phys. Appl. 、第16巻(1981年)、第275頁。
【0007】
機能化[C.M.シェン、Y.K.スー、H.T.ヤン、及びH.J.ガオ、Chem. Phys. Lett. 、第373巻(2003年)、第39頁;S.チェン、K.フアン、及びJ.A.スチームズ、Chem. Mater. 、第12巻(2000年)、第540頁]又は界面活性剤の使用[G.シュミット、B.モラン、及びJ.O.マルム、Angew. Chem. 、第101巻(1989年)、第772頁;J.S.ブラッドレイ、J.M.ミラー、及びE.W.ヒル、J. Am. Chem. Soc. 、第113巻(1991年)、4016頁;H.ボネンマン、W.ブリジョー、R.ブリクマン、E.ディンジャス、T.ジョセン、及びB.コラル、Angew. Chem. 、第103巻(1991年)、第1344頁;K.R.ブラウン、及びM.J.ナタン、Langmuir 、第14巻(1998年)、第726頁;Z.S.ピラ、及びP.V.カマット、J. Phys. Chem. 、B第108巻(2004年)、第945頁]によって保護される金属ナノ粒子を製造する方法に関しては、多くの報告がなされている。特に、金属塩をホウ化水素で還元した後、チオール型誘導体で機能化させることによって金ナノ粒子を調製する方法は十分に確立された方法である:M.ブルスト、M.ワルカー、D.ベセル、D.シュリフィン、及びR.ホワイマン、J. Chem. Soc. Chem. Commun. 、1994年、第801頁;WO0232404。
【0008】
同様に、パラジウムナノ粒子を第四アンモニウム塩で安定化させる方法も報告されている:M.T.レーツ、及びM.マーセ、Adv. Mater. 、第11巻(1999年)、第773頁;M.レーツ、W.ヘルビッグ、S.A.クエイサー、U.スチミング、N.ブロイヤー、及びR.ボーゲル、Science 、第20巻(1995年)、第367頁。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、直径が5nm未満の非常に小さなサイズを有する粒子を調製するために、文献仁報告されているチオール類で機能化させたAu及びPdのナノ粒子の製造方法を適合させた。特に、金属−硫黄共有結合で変性された相で包囲された金属芯又は該相中に埋設された金属芯の調製法が制御される。これらのナノ粒子が磁性挙動を示すことが判明した。室温までの温度において、該磁性挙動は、金属1グラムあたり1emu のオーダーの磁化に達する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち本発明は、塊状状態(mass state)では非磁性の貴金属の磁性ナノ粒子(粒径:5nm未満)であって、(a)貴金属から形成される芯、及び(b)少なくとも1つの金属−硫黄共有結合を含む化合物から形成される異方性外層を含む該磁性ナノ粒子に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
ナノ粒子の粒径は好ましくは1.0〜2.0nm、より好ましくは1.2〜1.4nmである。
【0012】
芯用貴金属はAu、Pd、Pt、Ag又は塊状状態で非強磁性のいずれかの他の金属である。
【0013】
芯がAu又はPdから形成される場合には、異方性外層はAu−S/Pd−S化合物とAu−S−R/Pd−S−R化合物を1/1000〜1000/1(Au−S/Au−S−R又はPd−S/Pd−S−R)の割合で含有する。
【0014】
Rは、他の分子(特に、タンパク質又はその他の生体分子)へ結合した脂肪族鎖である。
【0015】
本発明による磁性ナノ粒子は強磁性挙動、低保磁場を伴う強磁性挙動又は常磁性挙動を発現する。
【0016】
本発明は、非強磁性貴金属の前駆体に化学量論的に過剰量の一般式HS−Rで表されるチオール誘導体を還元剤の存在下で反応させることを含む上記の磁性ナノ粒子の製造方法にも関する。
【0017】
非磁性貴金属が金の場合には、該前駆体は、テトラクロロ金酸に化学量論的に過剰量のいずれかの第四アンモニウム塩を反応させることによって調製される。
【0018】
非磁性貴金属がパラジウムの場合には、該前駆体は、いずれかのパラジウム塩(特に硝酸塩、硫酸塩又は塩化物)に化学量論的に過剰量のいずれかの第四アンモニウム塩を反応させることによって調製される。
【0019】
さらに本発明は、種々の分野における上記の磁性ナノ粒子の使用にも関する:
a)磁気記録中の情報密度の増大、
b)生体臨床医学における診断技術の開発、
c)薬剤の制御放出、
d)過温症の処置、
e)核磁気共鳴における画像の改良、
f)バイオセンサー及びバイオチップ、
g)磁気印刷、
h)磁気光学的用途、及び
i)符号化。
【0020】
添付図面について簡単に説明する。
図1は、a)ドデカンチオールで機能化された金のナノ粒子、及びb)ドデカンチオールで機能化されたパラジウムのナノ粒子の透過型電子顕微鏡によって得られた顕微鏡写真である。
【0021】
図2は、ドデカンチオールで機能化されたナノ粒子(粒径:1.4nm)の微細構造を示す模式図である。金属のナノ粒子は、芯/外層構造から構成される。
【0022】
図3は、常套の金箔及びチオールで機能化された金(Au−SR)のナノ粒子試料に関するXANESスペクトルである。
【0023】
図4は、常套の金箔及びチオールで機能化された金(Au−SR)のナノ粒子試料に関するEXAFS振動のフーリエ変換スペクトルである。
【0024】
図5は、常套のパラジウム箔及びチオールで機能化されたパラジウム(Pd−SR)のナノ粒子試料に関するEXAFS振動のフーリエ変換スペクトルである。
【0025】
図6は、a)チオール誘導体で機能化された金のナノ粒子に関する室温と5Kで測定したヒステリシスサイクル、及びb)チオール誘導体で機能化されたパラジウムのナノ粒子に関する種々の温度で測定したヒステリシスサイクルである。
【0026】
図7は、磁性ナノ粒子に基づくバイオセンサー器具の模式図である。
【0027】
本発明の対象は、磁性挙動の発現が観測されるナノ粒子から成る。該ナノ粒子は、共有結合又は双極子相互作用に起因する強い表面異方性をもたらす「芯−外層(core-crust)」型又は「ナノ複合材」型の微細構造(microstructure)が形成されるように変性された貴金属(特に、金及びパラジウム)のナノ粒子である。所望の磁気特性を得るためには、いずれの場合にも、前駆体塩を種々の条件下で還元することによって貴金属のコロイド状ナノ粒子(図1参照)を調製することが基本となる:
i)R−SH(式中、Rは一般に脂肪族鎖を示す)型の種々の有機化合物のチオール誘導体の存在下での金又はパラジウムの還元。還元剤はホウ化水素である。所望の微細構造を得るためには、この反応は過剰のチオール誘導体の存在下でおこなう。
ii)水溶性チオール誘導体の存在下における水性媒体中での金塩又はパラジウム塩の還元。この方法は、上記の方法i)と類似する。
【0028】
非常に小さなサイズのナノ粒子を形成させるための条件を採用するこれらの方法によって、金属製芯(<5nm)及び金属−硫黄共有結合を含む外層から構成される微細構造が得られる(図2参照)。この外層の存在又は表面双極子の存在によって、これらの粒子には強い異方性が発現する。所望の微細構造を得るためには、調製条件は厳密でなければならない。金とパラジウムの場合、チオール誘導体を用いる機能化(functionalisation)によって強磁性挙動が発現する。
【0029】
生成するナノ粒子の微細構造の評価を可能にする基本的なパラメーターはX線吸収スペクトルである。チオール類で機能化された金のナノ粒子の場合、金のL境界線(border)に対する閾値近傍のスペクトル(XANES)は、Auの5d準位からSへの電荷移動を示し、該電荷移動はこれらの粒子における強磁性挙動の発現に必要である(図3参照)。同様に、図4に含まれるEXAFS振動のフーリエ変換は、極めて小さな金属製芯の存在、及び硫黄に共有結合した金の変性層の存在を示す。
【0030】
チオール類で機能化されたパラジウムのナノ粒子の場合、EXAFS振動のフーリエ変換を、PdのK境界線に関する図5に示す。金の場合と同様に、スペクトルは、極めて小さな金属製芯の存在及び硫黄に結合したパラジウム相の存在を示す。いずれの場合にも、現象が大きいほど(より大きな保磁場及びより大きな磁化)、金属の凝集体(aggregate)は大きくなり、また、金属の変性層との相互作用も必要である。
【0031】
ヒステリシスサイクルの発現現象は、試料に応じて、室温まで延長することができ、5Kの温度における金属1gあたりの磁化は1emu であり、また、保磁場は860Oeとなる。
【0032】
塊状状態では非磁性である貴金属の磁性ナノ粒子の種々の特別な態様が特徴づけられており、これらについて以下に説明する。
【0033】
i)チオール類で機能化された金のナノ粒子。透過型電子顕微鏡で観察した直径1.4nmのナノ粒子(図1参照)。該粒子の無機部分は、介在する20個の硫黄原子に結合した30個の金原子によって包囲された13個の金原子の芯から成るものとしてモデル化することができる。これらの30個の金原子は全てが表面原子であって、金原子に共有結合した硫黄原子を介して30本のドデカンチオール鎖と連結する(図2参照)。室温においてこれらの粒子が発現する磁化及び保磁場はそれぞれ0.4emu /g及び250Oeである。これらの粒子の5Kにおける飽和磁化及び保磁場はそれぞれ1emu /g及び860Oeである(図6参照)。
【0034】
ii)チオール類で機能化されたパラジウムのナノ粒子。透過型電子顕微鏡で観察された直径1.2nmのナノ粒子は非晶質マス中に埋設された粒子である(図1参照)。これらのナノ粒子の微細構造は、PdS層によって包囲された非常に小さな金属製芯から構成される。これらの粒子が埋設されたポリマーマスは、いくつかのチオール鎖を有するPd−S結合から成る。これらの粒子が発現する飽和磁化は0.15emu /gであり、保磁場は30Oe(275K)〜50Oe(5K)である(図6参照)。
【0035】
iii)チオール類で機能化された直径が2nm又はそれよりも大きな金及びパラジウムのナノ粒子。これらの粒子は、直径が2nm未満の粒子に比べて小さな磁化と保磁場を発現する。これらの場合には、微細構造は、硫黄原子を介して有機酸に結合した表面金属原子を有する純粋な金属製芯のより典型的な構造である。
【0036】
一部のナノ粒子の場合には、UV−VIS吸収スペクトルにおいて共鳴プラズモンが出現し、このことは電子の非局在化現象を示すものである。一方、別のナノ粒子の場合にはプラズモンが出現せず、このことは正孔と電子の局在化を示すものである。両方のタイプの粒子における磁気的挙動の発現の物理的機構は相違しなければならない。プラズモンの発現を伴う粒子の場合、ストーナー強磁性条件は、フェルミ準位における状態密度の増加の結果としてもたらされる。プラズモンの発現を伴わない粒子の場合、金属(Au又はPd)のd準位の電子が硫黄原子へ移動することによってもたらされる正孔密度の局在化が基本的な役割を果たさなければならない。
【0037】
硫化パラジウムの巨視的試料においては、強磁性挙動は観察されていない。
【0038】
本発明による磁性ナノ粒子の用途に関連して、いくつかの可能な用途について以下に説明する。
【0039】
i)薬剤の制御放出用器具における使用
本発明によるナノ粒子は、薬剤放出用トレーサーとして使用される放射性物質の代わりに使用することができる。放射性物質の代わりにこの種のナノ粒子を使用する場合には、磁気的特性の変化を測定することにより薬剤の放出を監視することができ、これによって放射線の有害な効果を回避することが可能となる。
【0040】
さらに、磁気ナノ粒子は、通常は皮膚に苦痛や傷跡をもたらす圧縮された空気又はガス(特に、ヘリウムガス)が常用されているワクチンのインペラー(impeller)の代替品として、ワクチン接種ガンにおいて使用することができる。この場合の推進力は、表皮を通過するときのナノ粒子を加速させる磁場の印加によって付与することができる。
【0041】
ii)過温症の処置における使用
磁性ナノ粒子が付着又は蓄積した領域(例えば、腫瘍部位)を局部的に加熱するために外部AC磁場が印加される。供与される製剤も、金属製芯と同様に、特定のリガンドを含んでおり、該リガンドは医薬であってもよく、あるいは、該リガンドは特定の組織中でのナノ粒子の蓄積を支援することができる。
【0042】
この系は、患者の中心軸方向に対して垂直に配設されるAC磁場発生器から成る。この系はAC周波数を有すると共に、100kHzの範囲内で調整可能であって、0〜15kA/mの可変性の場の強度を有する。類似の系は、塊状状態で強磁性の物質のナノ粒子に関して提案されている[A.ジョーダンら、J. Mag. Mag. Mat. 、第225巻(2001年)、第118頁〜第126頁参照]。
【0043】
貴金属のナノ粒子の有する主要な利点は、非常に小さなサイズ、金の生体適合性、及び
処置や腫瘍等の種類に応じた測定がおこなわれるような機能化の実施の可能性に起因する。
【0044】
iii)磁気共鳴(MR)における画像改良のための使用
貴金属のナノ粒子は、MRにおける画像改良のために使用することができる。MR画像は、腫瘍等の組織構造の効率的な観察を可能にするために十分なコントラストを欠く場合がある。この種の画像は、例えば、小さなサイズの腫瘍の検知とより良い処置の可能性をもたらす磁性ナノ粒子をコントラスト媒体として使用することによって改良することができる。AuやPdのような貴金属を芯に含有する本発明による磁性ナノ粒子はこのような用途に対して特に有用である。この理由は、元素状態の金属は、同じ金属の酸化物よりも良好な造影剤だからである。さらに、この種のナノ粒子は、その他のナノ粒子(例えば、芯にAuとFeを含むナノ粒子)よりも良好な生体適合性を示す。
【0045】
iv)バイオセンサー及びバイオチップとしての使用
図7は、A型リガンド(1)で機能化された磁性ナノ粒子に基づくバイオセンサー器具の模式図である。A型リガンドが生体分子(2)を認識すると、ナノ粒子が付着して信号が磁気センサー(3)内で検知される。この場合、該磁気センサーは保護不動態層(4)によって分離される。模式図に示すような器具のアレイ(array)は、バイオチップ型ユニットが形成されるように配設され、該ユニット内においては、各々の磁気抵抗性センサーは、生体分子アレイの1種の成分に対応する信号を読み取る。
【0046】
v)磁気的又は磁気光学的記録の密度増大のための使用
支持体上に所定状態で分布された貴金属のナノ粒子は、データ記憶用磁場を使用することによるコンパクトディスクの製造用基材として利用することができる。情報の読み取りは、磁気センサー(磁気抵抗性型)又はレーザーを用いるカー効果によっておこなうことができる。
【0047】
vi)磁気的な印刷と符号化における使用
貴金属の磁性ナノ粒子は、粉状形態に加工して貯蔵される。コロイド溶液(強磁性流体)調製においては、前駆体の粉末が使用される。ナノ粒子の機能化の態様を変化させることによって、強磁性流体は異なる種類の溶剤(有機溶剤又は水性溶剤)中で調製される。磁性インクは、バーコード等の磁性印刷や筆記等において加工される。
【実施例】
【0048】
本発明の実施態様に係る以下の2つの実施例には、チオール誘導体で変性された金とパラジウムのナノ粒子に関する調製法、微細構造の特性決定、及び強磁性挙動の記録が含まれる。
【0049】
実施例1:ドデカンチオール鎖で機能化された金のナノ粒子の強磁性挙動
98%のテトラオクチルアンモニウムブロミド[N(C17Br](アルドリッチ社製)0.11gをトルエン(予め乾燥処理と脱ガス処理に付したトルエン)20ml中に溶解させた溶液中へ、99%テトラクロロ金酸(HAuCl;アルドリッチ社製)0.075gをミリ−Q水7.5ml中に溶解させた溶液を添加した(金塩に対するアンモニウム塩のモル比:2)。この混合物を室温で30分間の強い電磁撹拌処理に付すことによって、全ての金前駆体を水性相から有機相へ抽出した。水性相はデカント用漏斗内で分離させた後、廃棄した。激しい電磁撹拌下において、有機相へドデカンチオール(0.1ml)を添加し(金前駆体に対するドデカンチオールのモル比:2)、次いで99%ホウ化水素ナトリウム(NaHB;アルドリッチ社製)0.09gをミリ−Q水6.25mlに溶解させた溶液を滴下した[該還元剤は、金前駆体に対して過剰量(11.7モル)添加した]。数秒後、オレンジ色の溶液は、金属製芯の形成に起因して濃黒色に変色した。強い電磁撹拌を1時間おこなった後、デカント用漏斗を用いて水性相を廃棄した。
【0050】
得られた溶液中のトルエンを回転蒸発器で除去した後、残渣を無水エタノール(200ml)中へ導入することによって金属粒子を沈殿させた。得られた分散液を−20℃で8時間放置した後、ミリポアフィルター(孔径:0.1ミクロン)を用いる濾過処理に付した。フィルター上に残存した沈殿物をトルエンに再び溶解させた後、無水エタノール中で沈殿させ、次いで濾過処理に付した。残存するドデカンチオールと不純物を除去するために、この処理操作を3回繰り返した。
【0051】
上記方法で得られたナノ粒子のX線吸収スペクトルを測定することによって、図4に示すフーリエ変換スペクトルを得た。得られたスペクトルは、極めて小さな金属製芯及び硫黄原子に共有結合した金から成る外層から形成された微細構造の存在を示す。この微細構造は、金ナノ粒子における強磁性挙動の発現にとって必要な条件である。ヒステリシスサイクルを5Kと室温において記録した(図6参照)。室温における磁化値及び保磁場はそれぞれ0.4emu /g及び250Oeであった。また、5Kにおける飽和磁化値及び保磁場はそれぞれ1emu /g及び860Oeであった。
【0052】
実施例2:ドデカンチオール鎖で機能化されたパラジウムのナノ粒子の強磁性挙動
98%のテトラオクチルアンモニウムブロミド[N(C17Br](アルドリッチ社製)0.55gをトルエン(予め乾燥処理と脱ガス処理に付したトルエン)20ml中に溶解させた溶液中へ、99%硝酸パラジウム(Pd(NO;アルドリッチ社製)0.050gを、ミリ−Q水を溶媒とする0.5N塩酸溶液10ml中に溶解させた溶液を添加した。この混合物を室温で30分間の強い電磁撹拌処理に付すことによって、全てのパラジウム前駆体を水性相から有機相へ抽出した。水性相はデカント用漏斗内で分離させた後、廃棄した。激しい電磁撹拌下において、有機相へドデカンチオール(0.1ml)を添加し(パラジウム前駆体に対するドデカンチオールのモル比:2)、次いで電磁撹拌を15分間おこなった後、99%ホウ化水素ナトリウム(NaHB;アルドリッチ社製)0.10gをミリ−Q水5mlに溶解させた溶液を素早く添加した[該還元剤は、パラジウム前駆体1モルに対して過剰量(12モル)添加した]。数秒後、オレンジ色の溶液は、金属製芯の形成に起因して鈍い色に変色した。この反応は、パラジウムの再酸化を回避するために、窒素雰囲気下でおこなった。強い電磁撹拌を30分間おこなった後、デカント用漏斗を用いて水性相を廃棄した。
【0053】
得られた溶液中のトルエンを回転蒸発器で除去した後、残渣をメタノール(200ml)中へ導入することによって金属粒子を沈殿させた。得られた分散液を−20℃で8時間放置した後、ミリポアフィルター(孔径:0.1ミクロン)を用いる濾過処理に付した。フィルター上に残存した沈殿物をトルエンに再び溶解させた後、メタノール中で沈殿させ、次いで濾過処理に付した。残存するドデカンチオールと不純物を除去するために、この処理操作を3回繰り返した。
【0054】
上記方法で得られたナノ粒子のX線吸収スペクトルを測定することによって、図5に示すフーリエ変換スペクトルを得た。得られたスペクトルは、硫黄原子に共有結合したパラジウムによって包囲された極めて小さな金属製芯から形成された微細構造の存在を示す。この微細構造は、パラジウムナノ粒子における強磁性挙動の発現にとって必要な条件である。ヒステリシスサイクルを種々の温度において記録した(図6参照)。該ナノ粒子は0.15emu /gの飽和磁化及び30Oe(275K)〜50Oe(5K)の保磁場を示した。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】図1は、a)ドデカンチオールで機能化された金のナノ粒子、及びb)ドデカンチオールで機能化されたパラジウムのナノ粒子の透過型電子顕微鏡によって得られた顕微鏡写真である。
【図2】図2は、ドデカンチオールで機能化されたナノ粒子(粒径:1.4nm)の微細構造を示す模式図である。
【図3】図3は、常套の金箔及びチオールで機能化された金(Au−SR)のナノ粒子試料に関するXANESスペクトルである。
【図4】図4は、常套の金箔及びチオールで機能化された金(Au−SR)のナノ粒子試料に関するEXAFS振動のフーリエ変換スペクトルである。
【図5】図5は、常套のパラジウム箔及びチオールで機能化されたパラジウム(Pd−SR)のナノ粒子試料に関するEXAFS振動のフーリエ変換スペクトルである。
【図6】図6は、a)チオール誘導体で機能化された金のナノ粒子に関する室温と5Kで測定したヒステリシスサイクル、及びb)チオール誘導体で機能化されたパラジウムのナノ粒子に関する種々の温度で測定したヒステリシスサイクルである。
【図7】図7は、磁性ナノ粒子に基づくバイオセンサー器具の模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1 A型リガンド
2 生体分子
3 磁気センサー
4 保護不動態層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塊状状態では非磁性の貴金属の磁性ナノ粒子(粒径:5nm未満)であって、(a)貴金属から形成される芯、及び(b)少なくとも1つの金属−硫黄共有結合を含む化合物から形成される異方性外層を含む該磁性ナノ粒子。
【請求項2】
芯用貴金属がAu、Pd、Pt、Ag又は塊状状態で非強磁性のいずれかの他の金属である請求項1記載の磁性ナノ粒子。
【請求項3】
粒径が1.0〜2.0nm(好ましくは1.2〜1.4nm)である請求項1又は2記載の磁性ナノ粒子。
【請求項4】
芯がAuから形成され、異方性外層がAu−S化合物とAu−S−R化合物を1/1000〜1000/1(Au−S/Au−S−R)割合で含有する請求項1から3いずれかに記載の磁性ナノ粒子。
【請求項5】
芯がPdから形成され、異方性外層がPd−S化合物とPd−S−R化合物を1/1000〜1000/1(Pd−S/Pd−S−R)割合で含有する請求項1から3いずれかに記載の磁性ナノ粒子。
【請求項6】
Rが脂肪族鎖若しくは他の分子(特に蛋白質又は他の生体分子)へ結合した脂肪族鎖であり、また、Rがマーカー、蛍光性基又は放射性同位体を含むことができる請求項4又は5記載の磁性ナノ粒子。
【請求項7】
強磁性挙動を示す請求項1から6いずれかに記載の磁性ナノ粒子。
【請求項8】
低保磁場を伴う強磁性挙動を示す請求項7記載の磁性ナノ粒子。
【請求項9】
常磁性挙動を示す請求項1から6いずれかに記載の磁性ナノ粒子。
【請求項10】
非磁性貴金属の前駆体及び化学量論的に過剰量の一般式HS−Rで表されるチオール誘導体を還元剤の存在下で反応させることを含む請求項1から9いずれかに記載の磁性ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
非磁性貴金属が金のときに、該前駆体が、テトラクロロ金酸に化学量論的に過剰量のいずれかの第四アンモニウム塩を反応させることによって調製される請求項10記載の方法。
【請求項12】
非磁性貴金属がパラジウムのときに、該前駆体が、いずれかのパラジウム塩(特に硝酸塩、硫酸塩又は塩化物)に化学量論的に過剰量のいずれかの第四アンモニウム塩を反応させることによって調製される請求項10記載の方法。
【請求項13】
磁気記録中の情報密度を増大させるために請求項1から9いずれかに記載の磁気ナノ粒子を使用する方法。
【請求項14】
薬剤の制御放出用器具において請求項1から9いずれかに記載の磁気ナノ粒子を使用する方法。
【請求項15】
過温症の処置のために請求項1から9いずれかに記載の磁気ナノ粒子を使用する方法。
【請求項16】
核磁気共鳴における画像の改良のために請求項1から9いずれかに記載の磁気ナノ粒子を使用する方法。
【請求項17】
バイオセンサーとして請求項1から9いずれかに記載の磁気ナノ粒子を使用する方法。
【請求項18】
磁気印刷において請求項1から9いずれかに記載の磁気ナノ粒子を使用する方法。
【請求項19】
磁気光学的用途において請求項1から9いずれかに記載の磁気ナノ粒子を使用する方法。
【請求項20】
符号化において請求項1から9いずれかに記載の磁気ナノ粒子を使用する方法。
【請求項21】
請求項1から9いずれかに記載の1種若しくは複数種の磁気ナノ粒子の個体群を含むシステム。
【請求項22】
異なる官能基を有する複数種の磁気ナノ粒子を含む請求項20記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−533847(P2007−533847A)
【公表日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504428(P2007−504428)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【国際出願番号】PCT/ES2005/070035
【国際公開番号】WO2005/091704
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(593005895)コンセホ・スペリオール・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス (67)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS
【出願人】(506324161)ウニベルシダッド・コンプルテンセ・デ・マドリッド (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD COMPLUTENSE DE MADRID
【Fターム(参考)】