説明

貴金属含有担持触媒、およびそれを用いたα,β−不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高選択性かつ高生産性で製造することができる触媒、およびそれを用いたα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供する。
【解決手段】オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒であって、酸量が0.12mmol/g以下の無機酸化物担体に、少なくとも貴金属が担持されてなる貴金属含有担持触媒とする。また、その貴金属含有担持触媒の存在下、液相中でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための担持触媒、およびそれを用いたα,β−不飽和カルボン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α,β−不飽和カルボン酸は、工業上有用な物質が多く、例えば、アクリル酸やメタクリル酸は、合成樹脂原料などの用途に極めて大量に使用されている。
【0003】
α,β−不飽和カルボン酸の製造方法としては、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素により液相酸化してα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法が知られている。この方法では貴金属含有担持触媒が多く用いられており、例えば、シリカ、シリカアルミナ、カーボンブラックに担持したパラジウム触媒(特許文献1)、活性炭に担持した金触媒(特許文献2)、活性炭に担持した貴金属触媒(特許文献3)などが提案されている。使用する担体の物性については、特許文献2には疎水性担体を用いることが好ましい旨が記載されており、特許文献3には特定の比表面積を持つ担体を用いる旨が記載されている。
【特許文献1】米国特許第3624147号明細書
【特許文献2】特開2001−172222号公報
【特許文献3】特開2004−141828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような触媒を使用した液相酸化においては、反応成績、特に目的生成物の選択性及び生産性が十分といえず、更なる触媒性能の向上が望まれていた。
【0005】
従って本発明の目的は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高選択性かつ高生産性で製造することができる触媒、およびそれを用いたα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の問題を解決するため、担体物性に対する反応成績への影響を検討した結果、担体の酸量と反応成績に密接な関係があることを見出した。そして、特定の酸量を有する無機酸化物担体を用いて、その担体に少なくとも貴金属を担持させた触媒を用いることで、製造されるα,β−不飽和カルボン酸の選択性及び生産性が向上することを見出し、上記の問題を解決するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒であって、酸量が0.12mmol/g以下の無機酸化物担体に、少なくとも貴金属が担持されてなる貴金属含有担持触媒である。
【0008】
さらに、前記貴金属含有担持触媒の存在下、液相中でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を高選択性かつ高生産性で得ることができる貴金属含有担持触媒およびそれを用いたα,β−不飽和カルボン酸の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の触媒は、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒であって、酸量が0.12mmol/g以下の無機酸化物担体に、少なくとも貴金属が担持されてなる貴金属含有担持触媒(以下単に「触媒」と称することもある)である。
【0011】
ここで、担体の酸量は、アンモニア−昇温脱離法(temperature−programmed desorption、TPD法)によって測定することができる。TPD法とは、吸着分子が吸着された試料の温度を連続的に上昇させたときに、吸着分子が脱離する過程(具体的には温度に対する吸着分子の脱離量)の測定から試料表面の状態を探る非平衡的方法である。そして、吸着分子としてアンモニアを用いる事で、試料表面の酸点にアンモニアが吸着し、その脱離過程におけるアンモニア量から、試料表面の酸量を求める事ができる。このような酸量の測定方法は、「触媒、vol.33、No.3、1991、249−251頁」などに記載されている。
【0012】
より具体的には、次のようにして担体の酸量を測定することができる。まず、0.5gの試料(担体)をHeガス雰囲気下400℃で前処理し、その後100℃でアンモニアを10分間吸着させる。2時間Heでパージすることにより、物理吸着しているアンモニアを除去した後、10℃/minで昇温しながら400℃までアンモニア脱離スペクトルを測定する。この測定は、例えば日本ベル製マルチタスクTPD(商品名)等の昇温脱離装置で測定できる。この脱離スペクトルを、予め酸量がわかっている参照試料の脱離スペクトルと比較することにより、試料の酸量を求めることができる。なお、参照試料としては、例えば触媒学会のJRC−Z−HY5.6(酸量:0.83mmol/g)を用いることができる。
【0013】
本発明に用いられる担体の酸量は0.12mmol/g以下である。0.12mmol/gを超える酸量の担体を用いると、得られる触媒の触媒性能(α,β−不飽和カルボン酸の選択性及び/又は生産性)が低いものとなる。0.07mmol/g以下が好ましい。また、担体の酸量が小さいことは、触媒性能の観点からは問題にならないが、あまり小さくしても触媒性能はほぼ同等であり、担体の製造時に酸量を減らす工程が必要になる等手間がかかることから、担体の酸量は、0.001mmol/g以上が好ましく、0.01mmol/g以上がより好ましい。
【0014】
担体としては、無機酸化物が用いられ、例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、カルシア、チタニアおよびジルコニア等を挙げることができる。なかでも、様々な酸量のものが存在しており上記の特定の酸量のものが入手しやすいという点で、シリカ、チタニア、ジルコニアを用いることが好ましい。担体は、1種を用いることもでき、2種以上を併用することもできる。2種以上の担体を併用する場合、異なる材質の担体を併用することもでき、同じ材質で酸量の異なる担体を併用することもできる。また、2種以上の担体を併用する場合、用いた担体全体として測定した酸量が上記の条件を満たせば良い。すなわち、上記の酸量に関する条件を満たす担体を2種以上組み合わせて使用することができる。また、上記の酸量に関する条件を満たさない担体であっても、他の担体を組み合わせることで担体全体として測定した酸量が上記の条件を満たせば、同様に使用することができる。
【0015】
さらに前処理をして酸量を所定範囲に調整した担体を用いても構わない。前処理の方法は特に限定されないが、例えば酸量の多い担体について塩基性物質を加えて酸点を中和する方法、加熱処理して表面積を減らすことで酸点を減らす方法等が挙げられる。
【0016】
担体の好ましい比表面積は、担体の種類等により異なるので一概に言えないが、シリカの場合、50m2/g以上が好ましく、100m2/g以上がより好ましい。また、1500m2/g以下が好ましく、1000m2/g以下がより好ましい。なお、担体の比表面積は、小さいほど有用成分がより表面に担持された触媒の製造が可能となり、大きいほど有用成分が多く担持された触媒の製造が可能となる。
【0017】
担体の細孔容積は特に限定されないが、0.1cc/g以上が好ましく、0.2cc/g以上がより好ましい。また、2.0cc/g以下が好ましく、1.5cc/g以下がより好ましい。
【0018】
また、担体の好ましい体積平均粒径については、装置の形状、サイズによって異なり、特に限定されないが、0.5μm以上が好ましく、1.0μm以上がより好ましい。また、200μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましい。担体の体積平均粒径は、大きいほど触媒と反応液の分離が容易になり、小さいほど反応液と触媒の分散性が良くなる。
【0019】
本発明の貴金属含有担持触媒の貴金属としては、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金、銀、オスミウムを挙げることができるが、中でもパラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、金が好ましく、特にパラジウムが好ましい。貴金属は1種を用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0020】
貴金属を担体に担持させる方法は特に限定されないが、貴金属塩を担体に担持させた後に加熱処理を行い担体上の貴金属塩を一旦貴金属酸化物とし、その後還元する方法が好ましい。
【0021】
使用する貴金属塩は特に限定されないが、例えば、貴金属の、塩化物、酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、テトラアンミン錯体およびアセチルアセトナト錯体等が好ましく、貴金属の、酢酸塩、硝酸塩、テトラアンミン錯体およびアセチルアセトナト錯体がより好ましい。
【0022】
貴金属塩を担体に担持させる方法としては、貴金属塩の溶解液に担体を浸漬した後に溶媒を蒸発させる方法、または、担体の細孔容積分の貴金属塩の溶解液を担体に吸収させた後に溶媒を蒸発させる、いわゆるポアフィリング法による方法が好ましい。貴金属塩を溶解させる溶媒としては、貴金属塩を溶解するものであれば特に限定されない。また、加熱処理の温度は、用いる貴金属塩の分解温度以上の温度とすることが好ましい。加熱処理の時間は、貴金属塩が貴金属酸化物となる時間であれば特に限定されないが、1時間以上が好ましく、また12時間以下が好ましい。
【0023】
還元時に用いる還元剤は特に限定されないが、例えば、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、水素化ホウ素ナトリウム、水素、蟻酸、蟻酸の塩、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブチレン、1,3−ブタジエン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、アリルアルコール、メタリルアルコール、アクロレインおよびメタクロレイン等が挙げられる。水素、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、蟻酸、蟻酸の塩が好ましい。これらを2種以上併用することもできる。
【0024】
液相中での還元の際に使用する溶媒としては、水が好ましいが、担体の分散性によっては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、t−ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等の有機酸類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類等の有機溶媒を単独又は複数組み合わせて用いることができる。これらと水との混合溶媒を用いることもできる。
【0025】
還元剤が気体の場合、溶液中への溶解度を挙げる為にオートクレーブ等の加圧装置中で行うことが好ましい。その際、加圧装置の内部は還元剤で加圧する。その圧力は0.1MPa(ゲージ圧;以下圧力はゲージ圧表記とする)以上とすることが好ましく、また1.0MPa以下とすることが好ましい。
【0026】
また、還元剤が液体の場合、貴金属塩の還元を行う装置に制限はなく、溶液中に還元剤を添加することで行うことができる。この時の還元剤の使用量は特に限定されないが、貴金属塩1モルに対して1モル以上とすることが好ましく、また100モル以下とすることが好ましい。
【0027】
還元温度および還元時間は、用いる貴金属塩や還元剤等により異なるが、還元温度は−5℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。また、150℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましい。還元時間は0.1時間以上が好ましく、0.25時間以上がより好ましく、0.5時間以上がさらに好ましい。また、4時間以下が好ましく、3時間以下がより好ましく、2時間以下がさらに好ましい。
【0028】
担体に対する貴金属の担持率は、担持前の担体質量に対して0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また、40質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。
【0029】
得られた貴金属含有担持触媒は、水、有機溶媒等で洗浄することが好ましい。水、有機溶媒等での洗浄により、例えば、塩化物、酢酸根、硝酸根、硫酸根等の貴金属化合物由来の不純物が除去される。洗浄の方法および回数は特に限定されないが、不純物によってはオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの液相酸化反応を阻害する恐れがあるため、不純物を十分除去できる程度に洗浄することが好ましい。洗浄された触媒は、ろ別または遠心分離などにより回収した後、そのまま反応に用いてもよい。
【0030】
また、回収された触媒を乾燥してもよい。乾燥方法は特に限定されないが、乾燥機を用いて空気中または不活性ガスで乾燥することが好ましい。乾燥された触媒は、必要に応じて反応に使用する前に活性化することもできる。活性化の方法には特に限定されないが、例えば、水素気流中の還元雰囲気下で熱処理する方法が挙げられる。この方法によれば、貴金属表面の酸化被膜と洗浄で取り除けなかった不純物を除去することができる。
【0031】
なお、本発明の貴金属含有担持触媒では、貴金属以外の金属成分を含むものとすることができる。貴金属以外の金属成分としては、例えば、アンチモン、テルル、タリウム、鉛、ビスマス等が挙げられる。貴金属以外の金属成分は、2種以上含むこともできる。高い触媒活性を発現させる観点から、貴金属含有担持触媒に含まれる金属のうち、50質量%以上が貴金属であることが好ましい。
【0032】
貴金属以外の金属成分を含む貴金属含有担持触媒は、対応する金属の塩や酸化物等の金属化合物が担体に担持された状態で前記の還元を行うことで得ることができる。その際の金属化合物の担持方法としては特に限定されないが、貴金属塩を担持する方法と同様に行うことができる。また、貴金属以外の金属の金属化合物は、貴金属塩を担持する前に担持することもでき、貴金属塩を担持した担持後に担持することもでき、貴金属塩と同時に担持することもできる。
【0033】
得られた貴金属含有担持触媒の物性は、BET比表面積測定、XRD測定、COパルス吸着法、TEM観察等により確認できる。
【0034】
次に、本発明の貴金属含有担持触媒を用いてα,β−不飽和カルボン酸を製造する方法について説明する。α,β−不飽和カルボン酸の製造方法としては、液相中で、原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化して、α,β−不飽和カルボン酸とする反応を、本発明の貴金属含有担持触媒の存在下で行う方法が好ましい。このような方法によれば、高選択性かつ高生産性でα,β−不飽和カルボン酸が製造可能となる。
【0035】
オレフィンとしては、例えば、プロピレン、イソブチレン、2−ブテン等が挙げられる。また、α,β−不飽和アルデヒドとしては、例えば、アクロレイン、メタクロレイン、クロトンアルデヒド(β−メチルアクロレイン)、シンナムアルデヒド(β−フェニルアクロレイン)等が挙げられる。
【0036】
製造されるα,β−不飽和カルボン酸は、原料がオレフィンの場合、オレフィンと同一炭素骨格を有するα,β−不飽和カルボン酸であり、原料がα,β−不飽和アルデヒドの場合、α,β−不飽和アルデヒドのアルデヒド基がカルボキシル基となったα,β−不飽和カルボン酸である。具体的には、原料がプロピレンまたはアクロレインの場合はアクリル酸が得られ、原料がイソブチレンまたはメタクロレインの場合はメタクリル酸が得られる。
【0037】
本発明の貴金属含有担持触媒は、プロピレンまたはアクロレインからアクリル酸、イソブチレンまたはメタクロレインからメタクリル酸を製造する液相酸化で特に好適である。
【0038】
原料のオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドには、不純物として飽和炭化水素および/または低級飽和アルデヒド等が少々含まれていてもよい。
【0039】
液相酸化反応に用いる分子状酸素源には、空気が経済的であり好ましいが、純酸素または純酸素と空気の混合ガスを用いることもでき、必要であれば、空気または純酸素を窒素、二酸化炭素、水蒸気等で希釈した混合ガスを用いることもできる。この空気等のガスは、通常オートクレーブ等の反応容器内に加圧状態で供給される。
【0040】
液相酸化反応に用いる溶媒は特に限定されないが、例えば、水、アルコール類、ケトン類、有機酸類、有機酸エステル類、炭化水素類等が使用できる。アルコール類としては、例えば、ターシャリーブタノール、シクロヘキサノール等が挙げられる。ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。有機酸類としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、イソ吉草酸等が挙げられる。有機酸エステル類としては、例えば、酢酸エチル、プロピオン酸メチル等が挙げられる。炭化水素類としては、例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン等が挙げられる。中でも炭素数2〜6の有機酸類、炭素数3〜6のケトン類、ターシャリーブタノールが好ましい。溶媒は1種でも、2種以上の混合溶媒でもよい。また、アルコール類、ケトン類、有機酸類および有機酸エステル類からなる群から選ばれる少なくとも1種を使用する場合は、水との混合溶媒とすることが好ましい。その際の水の量は特に限定されないが、混合溶媒の質量に対して、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。また、70質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。混合溶媒は均一であることが望ましいが、不均一な状態で用いても差し支えない。
【0041】
液相酸化反応は連続式、バッチ式の何れの形式で行ってもよいが、生産性を考慮すると工業的には連続式が好ましい。
【0042】
液相酸化反応の原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの使用量は、溶媒100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。また、20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0043】
分子状酸素の使用量は、原料であるオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒド1モルに対して、0.1モル以上が好ましく、0.3モル以上がより好ましく、0.5モル以上が特に好ましい。また、30モル以下が好ましく、25モル以下がより好ましく、20モル以下が特に好ましい。
【0044】
通常、触媒は液相酸化を行う反応液に懸濁させた状態で使用されるが、固定床で使用してもよい。触媒の使用量は、反応器内に存在する溶液100質量部に対して、反応器内に存在する触媒として0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が特に好ましい。また、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下が特に好ましい。
【0045】
液相酸化を行う温度および圧力は、用いる溶媒および反応原料によって適宜選択される。反応温度は30℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましい。また、200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。反応圧力は0MPa以上が好ましく、2MPa以上がより好ましい。また、10MPa以下が好ましく、7MPa以下がより好ましい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について実施例、比較例を挙げて更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。下記の実施例および比較例中の「部」は質量部である。
【0047】
(担体の酸量測定)
担体の酸量測定には、日本ベル製全自動昇温脱離スペクトル装置(商品名:マルチタスクTPD)を用いてアンモニア−TPD法により測定した。その方法は、「触媒、vol.33、No.3、1991、249−251頁」の方法に準じて行った。具体的には、次のように測定した。0.5gの担体をHeガス雰囲気下400℃で前処理し、100℃でアンモニアを10分間吸着させた。2時間Heでパージすることにより、物理吸着しているアンモニアを除去した後、10℃/minで400℃まで昇温し、アンモニア脱離スペクトルを測定した。この脱離スペクトルを、予め酸量がわかっている触媒学会の参照触媒JRC−Z−HY5.6(酸量:0.83mmol/g)の脱離スペクトルと比較することにより、担体の酸量を求めた。
【0048】
(原料および生成物の分析)
原料および生成物の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。なお、オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの反応率、α,β−不飽和アルデヒドの選択率、α,β−不飽和カルボン酸の選択率、生産性は以下のように定義される。
【0049】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドの反応率(%)
=(B/A)×100
α,β−不飽和アルデヒドの選択率(%)=(C/B)×100
α,β−不飽和カルボン酸の選択率(%)=(D/B)×100
α,β−不飽和カルボン酸の生産性(g−MAA/(g−貴金属×h))
=E/(F×G)
ここで、Aは供給したオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドのモル数、Bは反応したオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドのモル数、Cは生成したα,β−不飽和アルデヒドのモル数、Dは生成したα,β−不飽和カルボン酸のモル数、Eは生成したα,β−不飽和カルボン酸の質量(g)、Fは使用した触媒の中に含まれる貴金属の質量(g)、Gは反応時間(h)である。
【0050】
なお、以下の実施例及び比較例は、イソブチレンからメタクリル酸を製造する反応であり、この場合のAは供給したイソブチレンのモル数、Bは反応したイソブチレンのモル数、Cは生成したメタクロレインのモル数、Dは生成したメタクリル酸のモル数、Eは生成したメタクリル酸の質量(g)、Fは使用したパラジウム含有担持触媒の中に含まれるパラジウムの質量(g)、Gは反応時間(0.5h)である。
【0051】
[実施例1]
(触媒調製)
酢酸パラジウム(N.E.ケムキャット製)2.1部を酢酸50.0部に加熱溶解させた。この溶液に、担体としてシリカ(酸量:0.022mmol/g、比表面積:528m2/g、細孔容積:0.67cc/g、体積平均粒径:58μm)20.0部を添加し、ロータリーエバポレーターにて、溶媒除去を行った。その後、空気中で室温から450℃まで2.5℃/分で昇温、450℃で3時間保持した後、室温まで降温した。その後、37質量%ホルムアルデヒド水溶液40.0部を加え、撹拌しながら70℃で2時間保持することでパラジウム塩を還元した。得られた固形物を吸引ろ過後純水1000部でろ過洗浄し、さらに次の反応で用いる溶媒である75質量%t−ブタノール水溶液で洗浄し、ろ過することで、パラジウム含有担持触媒21部を得た。なお、この触媒のパラジウム担持率は5質量%であった。
【0052】
(反応評価)
上記の方法で得た触媒の半量(10.5部、パラジウム金属0.5部、シリカ担体10部)と、反応溶媒として75質量%t−ブタノール水溶液75部とをオートクレーブ入れ、オートクレーブを密閉した。次いで、イソブチレンを2.0部導入し、攪拌(回転数1000rpm)を開始し、90℃まで昇温した。昇温完了後、オートクレーブに窒素を内圧2.4MPaとなるまで導入した後、圧縮空気を内圧4.8MPaとなるまで導入して、反応を開始した。反応中に内圧が0.1MPa低下した時点(内圧4.7MPa)で、酸素を0.1MPa導入する操作を繰り返した。したがって、酸素の導入直後の圧力(内圧)は4.8MPaである。反応開始後30分で反応を終了した。
【0053】
反応終了後、氷浴でオートクレーブ内を氷冷した。オートクレーブのガス出口にガス捕集袋を取り付け、ガス出口を開栓して出てくるガスを回収しながら反応器内の圧力を開放した。オートクレーブから触媒入りの反応液を取り出し、メンブランフィルターで触媒を分離して、反応液を回収した。回収した反応液と捕集したガスをガスクロマトグラフィーにより分析し、反応率、選択率、及び生産性を算出した。結果を表1に示す。
【0054】
[実施例2]
担体として実施例1で用いたシリカと物性の異なるシリカ(酸量:0.040mmol/g、比表面積405m2/g、細孔容積0.74cc/g、体積平均粒径:55μm)を用いた以外は、実施例1と同様な操作を行った。結果を表1に示す。
【0055】
[実施例3]
担体としてジルコニア(酸量:0.103mmol/g、比表面積24m2/g、細孔容積0.11cc/g、体積平均粒径:1μm)を用いた以外は、実施例1と同様な操作を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[比較例1]
担体として実施例1で用いたシリカと物性の異なるシリカ(酸量:0.142mmol/g、比表面積176m2/g、細孔容積0.69cc/g、体積平均粒径:53μm)を用いた以外は、実施例1と同様な操作を行った。結果を表1に示す。
【0057】
[比較例2]
担体としてシリカアルミナ(酸量:0.340mmol/g、比表面積468m2/g、細孔容積0.81cc/g、体積平均粒径:71μm、アルミナ含量:28質量%)を用いた以外は、実施例1と同様な操作を行った。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例3]
担体としてアルミナ(酸量:0.269mmol/g、比表面積219m2/g、細孔容積0.18cc/g、体積平均粒径:102μm)を用いた以外は、実施例1と同様な操作を行った。結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
以上のように、酸量が0.12mmol/g以下の無機酸化物担体に、少なくとも貴金属が担持された触媒とすることで、α,β−不飽和カルボン酸を高選択性かつ高生産性で製造可能となることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドからα,β−不飽和カルボン酸を製造するための触媒であって、酸量が0.12mmol/g以下の無機酸化物担体に、少なくとも貴金属が担持されてなる貴金属含有担持触媒。
【請求項2】
請求項1記載の貴金属含有担持触媒の存在下、液相中でオレフィンまたはα,β−不飽和アルデヒドを分子状酸素で酸化するα,β−不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2006−175353(P2006−175353A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−371166(P2004−371166)
【出願日】平成16年12月22日(2004.12.22)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】