説明

貴金属触媒の製造方法

【課題】高い生成量でアルキレンオキサイドを製造可能な貴金属触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】貴金属を担持させた炭素材料と、樹脂とを、溶媒中で混合する工程を含む貴金属触媒の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属触媒の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
水素、酸素及びプロピレンを反応させてプロピレンオキサイドを製造するために、貴金属触媒とチタノシリケート触媒とが用いられる。このような貴金属触媒としては、パラジウムを活性炭に担持したのみの触媒が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−168358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高い生成量でアルキレンオキサイドを製造可能な貴金属触媒が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の[1]〜[7]を提供するものである。
[1]貴金属を担持させた炭素材料と、樹脂とを、溶媒中で混合する工程を含む貴金属触媒の製造方法。
[2]樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル及びポリスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である[1]記載の製造方法。
[3]貴金属が、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム及び金からなる群から選ばれる少なくとも1種である[1]又は[2]記載の製造方法。
[4]前記工程が、樹脂を溶解させた溶媒と、貴金属を担持した炭素材料とを混合する工程である[1]〜[3]のいずれか一項記載の製造方法。
[5][1]〜[4]のいずれか一項記載の製造方法により製造された貴金属触媒、及びチタノシリケート触媒の存在下、水素、酸素及びオレフィンを反応させるアルキレンオキサイドの製造方法。
[6]オレフィンがプロピレンである[5]記載の製造方法。
[7]チタノシリケート触媒が、MWW構造を有するチタノシリケート、及びその前駆体からなる群から選ばれる少なくとも1種である[5]又は[6]記載の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の製造方法によれば、高い生成量でアルキレンオキサイドを製造可能な貴金属触媒を、製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の製造方法は、貴金属を担持させた炭素材料と、樹脂とを、溶媒中で混合する工程を含む貴金属触媒の製造方法である。
この方法によって製造された貴金属触媒は、酸素と水素とから過酸化水素を生成させることができる。さらに該貴金属触媒は、チタノシリケート触媒と併用することにより、水素、酸素及びオレフィンから、アルキレンオキサイドを製造(以下「本製造」という場合がある。)するために用いられる触媒として有用である。
【0008】
貴金属を担持した炭素材料における貴金属としては、例えば、パラジウム、白金、ルテニウム、オスミウム、ロジウム、イリジウム及び金等が挙げられる。貴金属は単独でも、2種以上を含む合金又は混合物でもよい。中でも、貴金属としては、パラジウム、白金、金、及びこれらからなる合金又は混合物が好ましく、パラジウム、パラジウムと金との合金又は混合物、及びパラジウムと白金との合金又は混合物がより好ましく、パラジウムがさらに好ましい。
貴金属触媒とチタノシリケート触媒との存在下、本製造を行う際、これらの貴金属であると、系中での過酸化水素発生を促進し、アルキレンオキサイドが高い生成量で得られる傾向がある。
【0009】
前記の炭素材料としては、活性炭、カーボンブラック、グラファイト及びカーボンナノチューブ等が挙げられる。中でも、炭素材料としては、表面積が高い点で、活性炭が好ましい。
前記活性炭として、その原料、活性化方法については特に限定されず、細孔容積が大きいものが好ましい。前記原料としては、木材、オガクズ、ヤシ殻、石炭、石油質等が挙げられる。活性化方法としては、これらの原料から得られる炭を、水蒸気や二酸化炭素、空気などで高温処理して活性化する方法や、塩化亜鉛等の薬品を用いて活性化する方法で得られたものが好ましく、薬品を用いて活性化する方法で得られたものがより好ましい。これらの方法により活性化された活性炭は、細孔容積および平均細孔直径が大きくなるため、好ましい。また、活性炭の形状についても、特に限定されず、粉末状、粒状、破砕状、繊維状、ハニカム状等いずれの形状の活性炭を用いてもよい。
【0010】
貴金属を炭素材料に担持する方法としては、例えば、貴金属化合物を炭素材料に担持した後、貴金属を還元する方法、貴金属コロイドと炭素材料とを混合する方法等が挙げられる。
【0011】
貴金属化合物を炭素材料に担持した後、該貴金属化合物を還元する方法は、まず、含浸法等により貴金属化合物を炭素材料に担持させ、次いで、該貴金属化合物を還元して0価の貴金属とする。
貴金属化合物としては、貴金属の塩化物等が挙げられる。貴金属化合物としてパラジウムを用いる場合、例えば、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム等の4価のパラジウム化合物;塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセトナート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロ(ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラアンミンパラジウム(II)、ジブロモテトラアンミンパラジウム(II)、ジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)、パラジウムトリフルオロアセテート(II)等の2価パラジウム化合物等が挙げられる。
【0012】
含浸法は、例えば、室温で10分間〜30時間、炭素材料を貴金属化合物溶液(例えば、上記貴金属化合物の水溶液)へ含浸することにより、行うことができる。
【0013】
上記貴金属化合物を担持させた炭素材料に含まれる貴金属化合物を還元することにより、貴金属を担持させた炭素材料とすることができる。
還元する方法としては、還元剤を用いて液相又は気相で還元する方法等が挙げられる。
気相で還元する方法(気相還元)としては、水素を還元剤として、好ましくは0℃〜500℃で還元する方法が挙げられる。
また、前記の貴金属化合物として、不活性ガス雰囲気下、熱分解時でアンモニアガスを発生する貴金属化合物を用いた場合、貴金属化合物を担体に担持した後、不活性ガス雰囲気下で熱処理すればよい。貴金属化合物から発生するアンモニアガスが、還元剤として働く。該熱処理の温度は、貴金属化合物の種類等によって異なる。貴金属化合物としてジクロロテトラアンミンパラジウム(II)を用いた場合は、100℃〜500℃が好ましく、200℃〜350℃がより好ましい。
【0014】
液相で還元する場合(液相還元)の還元剤としては、水素、ヒドラジン1水和物、ホルムアルデヒド及び水素化ホウ素ナトリウム等が挙げられる。ヒドラジン1水和物やホルムアルデヒドを用いる場合には、アルカリを併用してもよい。該液相還元の反応条件は、貴金属化合物及び担体の種類や、用いる還元剤の種類及び量に応じて、適切な条件を調節することができる。
【0015】
貴金属コロイドと炭素材料とを混合する方法により、貴金属を担持させた炭素材料を製造するには、貴金属コロイドと炭素材料とを溶媒(例えば、水)中で混合し、該混合物からろ過等により固形物を取得する。貴金属コロイドの分散媒をそのまま上記溶媒としてもよい。
混合する温度は、特に限定されないが、0℃〜100℃が好ましく、15℃〜40℃がより好ましい。混合する時間は、特に限定されないが、10分間〜30時間が好ましく、30分間〜18時間がより好ましい。
貴金属コロイドは、市販のものを使用してもよいし、また、例えば、貴金属粒子をクエン酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンやヘキサメタリン酸ナトリウム等の分散剤で分散させることにより調製することもできる。
【0016】
貴金属を担持させた炭素材料における貴金属の含有量は、貴金属を担持させた炭素材料の質量に対して、0.01質量%〜20質量%が好ましく、0.1質量%〜10質量%がより好ましい。
【0017】
本発明の製造方法に用いられる樹脂としては、溶媒に溶解可能な樹脂であることが好ましい。
樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリ尿素、ポリエステル、ポリウレタン、ポリイミド、ポリエチレンイミン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ナイロン6、ナイロン66、シリコーン樹脂等が挙げられる。中でも、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル及びポリスチレンが好ましく、ポリメタクリル酸メチル及びポリスチレンがより好ましい。これらの樹脂であると、入手容易であり、得られる貴金属触媒を用いて行う本製造において、アルキレンオキサイドの生成量が高い傾向がある。中でも、疎水性樹脂であると、さらにアルキレンオキサイドの生成量が高く、かつアルカンの副生が少ない傾向があるため、好ましい。ここで、疎水性樹脂とは、水に不溶又は難溶な樹脂のことをいう。
【0018】
本発明の製造方法に用いられる溶媒としては、上記樹脂を溶解可能な溶媒が好ましく、使用する樹脂に応じて適宜選択する。このような溶媒としては、例えば、水、アルコール溶媒、ケトン溶媒、ニトリル溶媒、エーテル溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、エステル溶媒、グリコール溶媒、アミド溶媒等が挙げられる。
【0019】
アルコール溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、tert−ブタノール、1−ヘキサノール、シクロヘキサノール、2−エチルヘキサノール等が挙げられる。
ケトン溶媒としては、例えば、アセトン、2−ブタノン、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
ニトリル溶媒としては、例えば、アセトニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられる。
エーテル溶媒としては、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール等が挙げられる。
脂肪族炭化水素溶媒としては、例えば、ペンタン、へキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等が挙げられる。
芳香族炭化水素溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられる。
ハロゲン化炭化水素溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン等が挙げられる。
エステル溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル、乳酸エチル、ピルビン酸エチル等が挙げられる。
グリコール溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
アミド溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等が挙げられる。
これらの溶媒は、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0020】
貴金属を担持させた炭素材料と、樹脂とを、溶媒中で混合する(混合工程)ことにより、混合液を作製する。該混合液中、貴金属を担持させた炭素材料の含有量は、樹脂の含有量1質量部に対して、好ましくは1質量部〜10,000質量部、より好ましくは2質量部〜1,000質量部である。
樹脂の含有量は、樹脂と溶媒との合計量に対して、好ましくは0.0001質量%〜50質量%、より好ましくは0.001質量%〜20質量%である。
【0021】
混合する温度は、好ましくは10℃〜200℃、より好ましくは20℃〜150℃である。混合する時間は、好ましくは10分間〜30時間、より好ましくは1時間〜24時間である。
混合する順番は特に限定されないが、樹脂を溶媒に溶解させた後、貴金属を担持させた炭素材料を混合することが好ましい。
混合は、窒素雰囲気で行っても、大気下で行ってもよい。
【0022】
混合工程で作製した混合液は、冷却すること(冷却工程)が好ましい。混合液を冷却することにより、該混合液に溶解している樹脂を析出させる。冷却工程を行うことにより、炭素材料と樹脂との親和性が低くても、樹脂が炭素材料に担持されやすくなる傾向がある。
冷却工程を行う場合、冷却する際の温度は、好ましくは0℃〜50℃、より好ましくは0℃〜30℃である。また、工程1.で混合した温度よりも、10度〜200度低いことが好ましく、20度〜150度低いことがより好ましく、30度〜120度低いことがさらに好ましい。冷却する際の時間は、好ましくは30分間〜36時間、より好ましくは1時間〜24時間である。冷却は、窒素雰囲気で行っても、大気下で行ってもよい。
【0023】
冷却工程で冷却された混合物に、使用する樹脂の貧溶媒を添加することによっても、樹脂の析出をさらに促進させることはできる。しかしながら、該方法で製造された触媒は、本製造において、高い生成量でアルキレンオキサイドを得られなくなる恐れがあるため、貧溶媒を用いての樹脂析出促進は好ましくない。
【0024】
混合工程で得られた混合物、又はさらに冷却工程を経た混合物から、例えば、ろ過により固体を取得することで、貴金属触媒を得ることができる。得られた貴金属触媒に対して、必要に応じて乾燥を行ってもよい。乾燥を行う場合、乾燥温度は30℃〜200℃が好ましい。乾燥方法は、減圧乾燥又は不活性ガス雰囲気下での乾燥が好ましい。
【0025】
本発明の製造方法により得られる貴金属触媒、及びチタノシリケート触媒の存在下、水素、酸素及びオレフィンを反応させることにより、アルキレンオキサイドを製造することができる。
【0026】
<チタノシリケート触媒>
チタノシリケート触媒は、チタノシリケートを主成分とする触媒であり、オレフィンをエポキシ化する機能を有する
チタノシリケートとは、4配位Ti(チタン原子)を持つシリケートの総称であり、多孔構造を有するものである。前記チタノシリケート触媒を構成するチタノシリケートとは、実質的に4配位Tiをもつチタノシリケートを意味し、200nm〜400nmの波長領域における紫外可視吸収スペクトルにおける最大の吸収ピークが、210nm〜230nmの波長領域に現れるものである(例えば、Chemical Communications 1026−1027,(2002) 図2(d)、(e)参照)。この紫外可視吸収スペクトルは、拡散反射装置を付属した紫外可視分光光度計を用いて、拡散反射法にて測定することができる。
【0027】
前記チタノシリケート触媒を構成するチタノシリケートは、酸素10員環以上の細孔を有するものが、オレフィンに対する高いエポキシ化能を有する点で好ましい。細孔が小さすぎると、細孔内に入ったオレフィンと細孔内にある活性点との接触が阻害されたり、細孔内におけるオレフィンの物質移動が制限されたりすることがある。なお、ここでいう細孔とは、Si−O結合あるいはTi−O結合から構成されるものを意味する。該細孔は、サイドポケットと呼ばれるハーフカップ状の細孔であってもよく、該細孔は、チタノシリケートの一次粒子を貫通している必要はない。また、「酸素10員環以上」とは、(a)細孔において最も細い場所の断面、又は(b)細孔入口における環構造のいずれかにおいて、酸素原子数が10以上であることを意味する。チタノシリケートが酸素10員環以上の細孔を有することは、一般にX線回折パターンの解析により確認することができる。また、チタノシリケートが既知の構造であれば、そのX線回折パターンと対比させることで簡便に確認できる。
【0028】
前記チタノシリケート触媒を構成するチタノシリケート、特に実質的にチタノシリケート触媒を構成するチタノシリケートとしては、例えば、下記〔1〕〜〔7〕に記載のチタノシリケートが挙げられる。
〔1〕 酸素10員環の細孔を有する結晶性チタノシリケート;
IZA(国際ゼオライト学会)の構造コードでMFI構造を有するTS−1(例えば、米国特許第4410501号)、MEL構造を有するTS−2(例えば、Journal of Catalysis 130, 440−446, (1991))、MRE構造を有するTi−ZSM−48(例えば、Zeolites 15, 164−170, (1995))、FER構造を有するTi−FER(例えば、Journal of Materials Chemistry 8, 1685−1686 (1998))等。
〔2〕 酸素12員環の細孔を有する結晶性チタノシリケート;
BEA構造を有するTi−Beta(例えば、Journal of Catalysis 199,41−47,(2001))、MTW構造を有するTi−ZSM−12(例えば、Zeolites 15, 236−242, (1995))、MOR構造を有するTi−MOR(例えば、The Journal of Physical Chemistry B 102, 9297−9303, (1998))、ISV構造を有するTi−ITQ−7(例えば、Chemical Communications 761−762,(2000))、MSE構造を有するTi−MCM−68(例えば、Chemical Communications 6224−6226, (2008))、MWW構造を有するTi−MWW(例えば、Chemistry Letters 774−775, (2000))等。
〔3〕 酸素14員環の細孔を有する結晶性チタノシリケート;
DON構造を有するTi−UTD−1(例えば、Studies in Surface Science and Catalysis 15, 519−525, (1995))等。
〔4〕 酸素10員環の細孔を有する層状チタノシリケート;
Ti−ITQ−6(例えば、Angewandte Chemie International Edition 39, 1499−1501, (2000))等。
〔5〕 酸素12員環の細孔を有する層状チタノシリケート;
Ti−MWW前駆体(例えば、ヨーロッパ公開特許1731515A1)、Ti−YNU−1(例えば、Angewandte Chemie International Edition 43, 236−240, (2004))、Ti−MCM−36(例えば、Catalysis Letters 113, 160−164, (2007))、Ti−MCM−56(例えば、Microporous and Mesoporous Materials 113, 435−444,(2008))等。
〔6〕 メソポーラスチタノシリケート;
Ti−MCM−41(例えば、Microporous Materials 10, 259−271,(1997))、Ti−MCM−48(例えば、Chemical Communications 145−146,(1996))、Ti−SBA−15(例えば、Chemistry of Materials 14, 1657−1664,(2002))等。
〔7〕 シリル化チタノシリケート;
シリル化したTi−MWW等、上記〔1〕〜〔4〕記載のチタノシリケートをシリル化した化合物
【0029】
「酸素12員環」とは、すでに酸素10員環の説明で述べた上述の(a)又は(b)の場所において酸素原子数が12である環構造を意味する。同様に「酸素14員環」とは、前記(a)又は(b)の場所において酸素原子数が14である環構造を意味する。
【0030】
前記チタノシリケートには、結晶性チタノシリケートの層状前駆体、結晶性チタノシリケートの層間を拡張したチタノシリケート等、層状構造を有するチタノシリケートを含む。層状構造であることは、電子顕微鏡観察あるいはX線回折パターンの測定により確認することができる。層状前駆体とは、例えば、脱水縮合等の処理を行うことにより結晶化チタノシリケートを形成するチタノシリケートを意味する。層状チタノシリケートが酸素12員環以上の細孔を有することは、対応する結晶性チタノシリケートの構造から容易に確認できる。
【0031】
また、上記〔1〕〜〔5〕及び〔7〕のチタノシリケートは、細孔径0.5nm〜1.0nmの細孔を有している。この細孔径とは、(a)細孔において最も細い場所の断面又は(c)細孔入口における、最も長い径を意味し、好ましくは前記場所における直径を意味する。かかる細孔径は、X線回折パターンの解析により求めることができる。
【0032】
前記チタノシリケートの中でも、規則性メソ細孔を有するメソポーラスチタノシリケートが好ましい。規則性メソ孔とは、メソ孔が規則的に繰り返し配列された構造を意味する。チタノシリケートがメソポーラスチタノシリケートである場合、細孔径2nm〜10nmのメソ細孔を有しているものがより好ましい。
【0033】
上述のチタノシリケートのシリル化は、シリル化剤とチタノシリケートとを接触させる方法、欧州公開特許EP1488853A1記載の方法により行うことができる。該シリル化剤として、例えば、1,1,1,3,3,3−ヘキサメチルジシラザン及びトリメチルクロロシラン等が挙げられる。
【0034】
上述の〔1〕〜〔7〕のチタノシリケートのうち、チタノシリケート触媒を構成するものとして、好ましくは、Ti−MWW及びTi−MWW前駆体であり、より好ましくは、Ti−MWW前駆体である。もちろん、このようなTi−MWW又はTi−MWW前駆体をシリル化して、チタノシリケート触媒に用いてもよく、Ti−MWW又はTi−MWW前駆体を公知の方法で成型して、チタノシリケート触媒に用いてもよい。
【0035】
本発明の製造方法に用いるチタノシリケート触媒において、チタン原子の含有量は、ケイ素原子の含有量1モルに対して、0.001モル〜0.1モルであることが好ましく、0.005モル〜0.05モルであることが好ましい。
【0036】
<アルキレンオキサイドの製造>
本製造において、本発明の製造方法により得られた貴金属触媒の使用量は、チタノシリケート触媒の使用量1質量部に対して、0.01質量部〜100質量部が好ましく、0.1質量部〜100質量部がより好ましい。
【0037】
本製造は、溶媒中で行うことが好ましい。該溶媒としては、水、有機溶媒又はこれらの混合溶媒が好ましい。有機溶媒としては、例えば、アルコール溶媒、ケトン溶媒、ニトリル溶媒、エーテル溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン化炭化水素溶媒、エステル溶媒、グリコール溶媒及びそれらの混合物があげられる。好ましい有機溶媒としては、ニトリル溶媒が挙げられる。
【0038】
ニトリル溶媒としては、直鎖状又は分枝鎖状飽和脂肪族ニトリル、あるいは芳香族ニトリルが挙げられ、具体的には、アセトニトリル、プロピロニトリル、イソブチロニトリル、ベンゾニトリル等が挙げられ、アセトニトリルが好ましい。
溶媒としては、水とニトリルとの混合溶媒が好ましく、その質量比率、水:ニトリルは、90:10〜0.01:99.99であることが好ましく、50:50〜0.1:99.9であることがより好ましく、40:60〜5:95であることがさらに好ましい。
【0039】
酸素としては、酸素ガス等の分子状酸素が挙げられる。酸素ガスは、圧力スウィング法で製造した酸素ガスであってもよいし、深冷分離等で製造した高純度酸素ガスであってもよい。また、酸素としては空気を用いてよい。
水素としては、一般に、水素ガスが用いられる。また、酸素ガス及び/又は水素ガスは、本製造の進行を妨げない不活性ガスで希釈してから用いることもできる。不活性ガスとしては、窒素,アルゴン,二酸化炭素、メタン,エタン,プロパンが挙げられる。酸素ガス及び水素ガスの流通量、並びに、これらのガスを希釈するための不活性ガスの濃度は、用いるオレフィンの物質量や反応スケール等の他の条件に応じて調節する。
【0040】
反応器に供給する酸素と水素とのモル比としては、例えば、好ましくは酸素:水素=1:50〜50:1であり、より好ましくは1:5〜5:1である。
【0041】
本製造に用いられるオレフィンとしては、例えば、炭素数2〜10の直鎖状又は分枝鎖状オレフィン、炭素数4〜10の環状オレフィン等が挙げられる。
炭素数2〜10の直鎖状又は分枝鎖状オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、2−ブテン、イソブテン、2−ペンテン、3−ペンテン、2−ヘキセン、3−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、2−ヘプテン、3−ヘプテン、2−オクテン、3−オクテン、2−ノネン、3−ノネン、2−デセン及び3−デセン等が挙げられる。
炭素数4〜10の環状オレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロへキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロノネン、シクロデセン等が挙げられる。
オレフィンとしては、好ましくは炭素数2〜6の直鎖状又は分枝鎖状オレフィンであり、より好ましくはプロピレンである。
【0042】
本製造におけるオレフィンの使用量は、酸素1モルに対して、好ましくは0.2モル〜5モルである。なお、本製造を連続形式の反応形式で行う場合、オレフィンの使用量は、本製造に用いられる溶媒1kgに対して、好ましくは0.01g〜1000gである。
【0043】
本製造に用いる反応器は、流通式固定床反応器、流通式スラリー完全混合反応器等が挙げられる。
本製造における反応温度は、好ましくは0℃〜150℃であり、より好ましくは40℃〜90℃である。
本製造における反応圧力は、ゲージ圧力で、好ましくは0.1MPa〜20MPaであり、より好ましくは1MPa〜10MPaである。
本製造終了後、反応器から取り出した液相もしくは気相の物質を蒸留分離することによりアルキレンオキサイドを得ることができる。
【0044】
本製造において、多環化合物を添加剤として共存させることが好ましい。本製造において多環化合物を共存させることにより、プロパン副生を抑制することができ、水素効率を向上させる傾向があることから好ましい。ここで、水素効率とは、消費された水素量に対するプロピレンオキサイド生成量を意味する。
該多環化合物としては、具体的には、アントラセン、テトラセン、9−メチルアントラセン、ナフタレン、テトラセン、ジフェニルエーテル、アントラキノン、9,10−フェナントラキノン、ベンゾキノン、2−エチルアントラキノン、特開2009−23998号公報記載の化合物、特開2008−106030号公報記載の化合物等が挙げられる。
中でも、アントラセン、テトラセン、9−メチルアントラセン、ナフタレン、テトラセン、アントラキノン、9,10−フェナントラキノン、2−エチルアントラキノン等の縮合多環芳香族化合物が好ましく、アントラキノンがより好ましい。
【0045】
多環化合物の使用量は、本製造に用いられる溶媒1kgあたり、0.001mmol〜500mmolが好ましく、0.01mmol〜50mmolがより好ましい。
【0046】
本製造において、アンモニウムイオン、アルキルアンモニウムイオンまたはアルキルアリールアンモニウムイオンを含む塩(以下、これらの塩を「アンモニウム塩」と総称する場合がある。)を添加剤として共存させてもよい。アンモニウム塩を共存させることにより、高い水素効率となる傾向がある。アンモニウム塩としては、例えば、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム、ピロリン酸水素アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ハロゲン化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどの無機酸の塩、酢酸アンモニウムなどの有機酸塩などが挙げられ、中でも好ましくは、リン酸水素2アンモニウムである。
アンモニウム塩の使用量は、本製造に用いられる溶媒1kgあたり、0.001mmol〜100mmolが好ましい。
【0047】
本発明の製造方法により得られる貴金属触媒、及びチタノシリケート触媒の存在下、水素、酸素及びオレフィンを反応させた後、反応混合物には目的物であるアルキレンオキサイド、未反応のオレフィン、及び副生物であるアルカン等が含まれている。該反応混合物から蒸留分離等、公知の精製手段により、目的とするアルキレンオキサイドを分離することができる。
【実施例】
【0048】
次に実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。尚、下記の例中で用いた分析装置及び分析方法は、以下のとおりである。
【0049】
〔元素分析〕
(1)Pdを担持した活性炭又は貴金属触媒中のPd含有量は、マイクロウェーブ分解−ICP発光分析法(検出限界は0.01質量%未満である)により、測定した。
(2)チタノシリケート触媒中のTi(チタン)、Si(ケイ素)の含有量は、アルカリ融解−硝酸溶解−ICP発光分析法により、測定した。
【0050】
〔粉末X線回折法〕
サンプルを以下の装置、条件で粉末X線回折パターンを測定した。
装置:理学電機社製RINT2500V
線源:Cu Kα線
出力 40kV−300mA
走査範囲:2θ=0.75°〜30°
走査速度: 1°/分
測定されたX線回折パターンが、欧州公開特許1731515号公報FIG.1と同等であれば、測定したサンプルはTi−MWW前駆体であると判断した。
定されたX線回折パターンが、欧州公開特許1731515号公報FIG.2と同等であれば、測定したサンプルはTi−MWWであると判断した。
【0051】
[紫外可視吸収スペクトル]
サンプルをメノウ製の乳鉢でよく粉砕したものをペレット化(7mmφ)することにより測定用サンプルを調製した。次いで、該測定用サンプルについて以下の装置及び条件で紫外可視吸収スペクトルを測定した。
装置:拡散反射装置(HARRICK製 Praying Mantis)
付属品:紫外可視分光光度計(日本分光製 V−7100)
圧力:大気圧
測定値:反射率
データ取込時間:0.1秒
バンド幅:2nm
測定波長:200nm〜900nm
スリット高さ:半開
データ取込間隔:1nm
ベースライン補正(リファレンス):BaSOペレット(7mmφ)
200nm〜400nmにおける最大吸収波長が、210nm〜230nmの範囲にある場合、測定したサンプルはチタノシリケートであると判断した。
【0052】
調製例1〔貴金属を担持した炭素材料の調製〕
活性炭(日本エンバイロケミカルズ株式会社製、特製白鷺)9.5gと、水900mLと、を1Lナスフラスコ中に仕込み、空気雰囲気下、室温にて撹拌した。攪拌後の懸濁液に、パラジウム(Pd)コロイド(日揮触媒化成製)0.90mmolを含む水分散液80mLを、空気雰囲気下、室温にてゆっくり滴下した。滴下終了後、さらに懸濁液を空気雰囲気下、20℃にて6時間撹拌した。攪拌終了後、ロータリーエバポレータを用いて水分を除去し、80℃にて10時間真空乾燥することにより、Pdを担持した活性炭a 9.5gを得た。また、ICP発光分析から求められたPd含量は1.01質量%であった。
【0053】
実施例1〔貴金属触媒の製造〕
ポリビニルアルコール(和光純薬工業株式会社製、重合度約500)0.39gと、水150mLと、を200mLナスフラスコ中に仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら、90℃まで昇温した。同温度で1時間保持した後、Pdを担持した活性炭a 1.95gと、水50mLを加えて懸濁液を作製し、該懸濁液を同温度のまま3時間保持した。その後加熱を止め、20℃まで放冷した後に、懸濁液をろ過し、得られた固体を80℃にて10時間真空乾燥することにより、貴金属触媒A 2.25gを得た。また、ICP発光分析から求められた貴金属触媒A中のPd含量は、0.81質量%であった。
【0054】
実施例2〔貴金属触媒の製造〕
ポリ酢酸ビニル(ナカライテスク社製、約75%エタノール溶液、重合度約500)0.52gと、エタノール150mLと、を200mLナスフラスコ中に仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら、80℃まで昇温した。同温度で1時間保持した後、Pdを担持した活性炭a 1.95gと、エタノール50mLを加えて懸濁液を作製し、該懸濁液を同温度のまま3時間保持した。その後加熱を止め、20℃まで放冷した後に、懸濁液をろ過し、得られた固体を80℃にて10時間真空乾燥することにより、貴金属触媒B2.33gを得た。また、ICP発光分析から求められた貴金属触媒B中のPd含量は、0.76質量%であった。
【0055】
実施例3〔貴金属触媒の製造〕
メタクリル酸メチルポリマー(和光純薬工業株式会社製)0.39gと、水/エタノール=1/4(体積比)150mLとを200mLナスフラスコ中に仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら、80℃まで昇温した。同温度で1時間保持した後、Pdを担持した活性炭a 1.95gと、水/エタノール=1/4(体積比)150mLとを加えて懸濁液を作製し、該懸濁液を同温度のまま3時間保持した。その後加熱を止め、20℃まで放冷した後に、懸濁液をろ過し、得られた固体を80℃にて10時間真空乾燥することにより、貴金属触媒C2.34gを得た。また、ICP発光分析から求められた貴金属触媒C中のPd含量は、0.79質量%であった。
【0056】
実施例4〔貴金属触媒の製造〕
ポリスチレン(和光純薬工業株式会社製、重合度約2000)0.39gと、シクロヘキサン150mLを200mLナスフラスコ中に仕込み、窒素雰囲気下、撹拌しながら、80℃まで昇温した。同温度で1時間保持した後、Pdを担持した活性炭a 1.95gと、シクロヘキサン50mLを加え懸濁液を作製し、該懸濁液を同温度のまま3時間保持した。その後加熱を止め、20℃まで放冷した後に、懸濁液をろ過し、得られた固体を80℃にて10時間真空乾燥することにより、貴金属触媒D2.18gを得た。また、ICP発光分析から求められた貴金属触媒D中のPd含量は、0.81質量%であった。
【0057】
調製例2
〔焼成Pd/AC触媒の製造〕
調製例1で得られたPdを担持した活性炭a 2.4gを窒素雰囲気下300℃で6時間焼成することにより、焼成Pd/AC触媒2.4gを得た。また、ICP発光分析から求められた焼成Pd/AC触媒中のPd含量は1.03質量%であった。
【0058】
調製例3〔チタノシリケート触媒の調整〕
室温、空気雰囲気下、オートクレーブにピペリジン899g、純水2402g、テトラ−n−ブチルオルソチタネート112g、ホウ酸565g、ヒュームドシリカ(cab−o−sil M7D)410gを撹拌することによりゲルを調製した。得られたゲルを1.5時間熟成させた後、密閉し、さらに撹拌しながら8時間かけて160℃まで昇温した後、同温度で120時間保持することにより、懸濁液を得た。
該懸濁液をろ過した後、ろ液がpH10付近になるまでろ塊を水洗した。次に、ろ塊を質量減少が見られなくなるまで50℃で乾燥し、515gの固体aを得た。得られた固体a75gに2M硝酸3750mLを加えて混合物を作製し、該混合物を20時間リフラックスさせた。
次いで、リフラックスさせた混合物をろ過し、得られたろ塊を、ろ液が中性付近になるまで水洗し、その後、質量減少が見られなくなるまで150℃で真空乾燥して61gの白色粉末aを得た。この白色粉末aのX線回折パターン、紫外可視吸収スペクトルを測定した結果、Ti−MWW前駆体であることを確認した。
得られた白色粉末a 60gを530℃で6時間焼成し、54gの粉末tを得た。得られた粉末tがTi−MWWであることはX線回折パターンを測定することにより確認し、4配位Tiを持つチタノシリケートであることは紫外可視吸収スペクトルを測定することにより確認した。さらに、上記と同様の操作を2回実施し、合わせて162gの粉末tを得た。
室温、空気雰囲気下、得られた粉末t135gをオートクレーブに入れ、さらに、ピペリジン300g及び純水600gを仕込み、これらを撹拌することによりゲルを調製した。得られたゲルを1.5時間熟成させた後、密閉し、さらに撹拌しながら4時間かけて160℃まで昇温した後、同温度で24時間保持することにより、懸濁液を得た。
該懸濁液をろ過した後、ろ液がpH9付近になるまで水洗した。得られたろ塊を、質量減少が見られなくなるまで150℃で真空乾燥し、141gの白色粉末bを得た。この白色粉末bのX線回折分析を行ったパターンを測定した結果、Ti−MWW前駆体と同様のX線回折パターンを示し、酸素12員環の細孔を有する構造であることを確認した。また、紫外可視吸収スペクトル測定結果からチタノシリケートであることを確認した。また、ICP発光分析から求められたTi含量は1.61質量%であった。
得られた白色粉末bを、0.1質量%の過酸化水素を含む水/アセトニトリル=20/80(質量比)の混合溶媒80g中で1時間撹拌して、ろ過した。得られたろ塊を水80gで洗浄することにより、チタノシリケート触媒Aを得た。
【0059】
実施例5〔プロピレンオキサイドの製造〕
容量0.3Lのオートクレーブを反応器として用い、当該反応器にチタノシリケート触媒A 2.28g及び貴金属触媒A 0.75gを仕込んだ後、密閉した。この反応器中に、酸素/水素/窒素の体積比が3.4/3.8/92.8であるガスを339L/時間の供給速度で、0.7mmol/kgのアントラキノン、3.0mmol/kgのリン酸水素二アンモニウム塩を含む水/アセトニトリル=30/70(重量比)の溶液を135g/時間の供給速度で、プロピレンを54g/時間の供給速度で、それぞれ供給し、反応器からフィルターを介して反応生成物を含む溶液(液相)及び生成ガス(気相)を反応混合物から抜き出すという連続式反応(滞留時間:40分間)を行った。この間、反応器中の内容物の温度を50℃、反応器中圧力を6.0MPa(ゲージ圧)とした。
反応開始から4時間後に抜き出した液相及び気相を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した結果、プロピレンオキサイドの生成量は180.2mmol/時間であり、副生プロパンの選択率は8.4%であった。
【0060】
実施例6〔プロピレンオキサイドの製造〕
貴金属触媒A 0.75gの代わりに貴金属触媒B0.78gを用いた以外は実施例5と同様の操作を行った。実施例5と同様の方法で、プロピレンオキサイドの生成量と副生プロパンの選択率とを分析した。結果を表1に示す。
【0061】
実施例7〔プロピレンオキサイドの製造〕
貴金属触媒A 0.75gの代わりに貴金属触媒C0.78gを用いた以外は実施例5と同様の操作を行った。実施例5と同様の方法で、プロピレンオキサイドの生成量と副生プロパンの選択率とを分析した。結果を表1に示す。
【0062】
実施例8〔プロピレンオキサイドの製造〕
貴金属触媒A 0.75gの代わりに貴金属触媒D0.73gを用いた以外は実施例5と同様の操作を行った。実施例5と同様の方法で、プロピレンオキサイドの生成量と副生プロパンの選択率とを分析した。結果を表1に示す。
【0063】
比較例1
貴金属触媒A 0.75gの代わりにPdを担持した活性炭a 0.64gを用いた以外は実施例5と同様の操作を行った。実施例5と同様の方法で、プロピレンオキサイドの生成量と副生プロパンの選択率とを分析した。結果を表1に示す。
【0064】
比較例2
貴金属触媒A 0.63gの代わりに調製例2で得られた焼成Pd/AC触媒0.63gを用いた以外は実施例6と同様の操作を行った。実施例5と同様の方法で、プロピレンオキサイドの生成量と副生プロパンの選択率とを分析した。結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
上記の結果から、本発明の製造方法により得られた貴金属触媒によれば、プロピレンオキサイドの生成量は高い値を示すことが確認された。
【0067】
比較例3
容量0.3Lのオートクレーブを反応器として用い、当該反応器にチタノシリケート触媒A 2.28g及び調製例2で得られた焼成Pd/AC触媒1.06gを仕込んだ後、密閉した。この反応器中に、酸素/水素/窒素の体積比が3.3/3.6/93.1であるガスを281L/時間の供給速度で、0.7mmol/kgのアントラキノン、3.0mmol/kgのリン酸水素二アンモニウム塩を含む水/アセトニトリル=30/70(重量比)の溶液を90g/時間の供給速度で、プロピレンを36g/時間の供給速度で、それぞれ供給し、反応器からフィルターを介して反応生成物を含む溶液(液相)及び生成ガス(気相)を反応混合物から抜き出すという連続式反応(滞留時間:60分間)を行った。この間、反応器中の内容物の温度を50℃、反応器中圧力を4.0MPa(ゲージ圧)とした。
反応開始から6時間後に抜き出した液相及び気相を、ガスクロマトグラフィーを用いて分析した。その結果、プロピレンオキサイドの生成量(mmol/時間)は、167.7であった。一方、表1で示されたように、本発明の製造方法における各実施例でのプロピレンオキサイドの生成量(mmol/時間)は、いずれも前記値を大幅に上回るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の製造方法によれば、高い生成量でアルキレンオキサイドを製造可能な貴金属触媒を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属を担持させた炭素材料と、樹脂とを、溶媒中で混合する工程を含む貴金属触媒の製造方法。
【請求項2】
樹脂が、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル及びポリスチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
貴金属が、パラジウム、白金、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、オスミウム及び金からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程が、樹脂を溶解させた溶媒と、貴金属を担持した炭素材料とを混合する工程である請求項1〜3のいずれか一項記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項記載の製造方法により製造された貴金属触媒、及びチタノシリケート触媒の存在下、水素、酸素及びオレフィンを反応させるアルキレンオキサイドの製造方法。
【請求項6】
オレフィンがプロピレンである請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
チタノシリケート触媒が、MWW構造を有するチタノシリケート、及びその前駆体からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5又は6記載の製造方法。

【公開番号】特開2012−213757(P2012−213757A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−45080(P2012−45080)
【出願日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】