質量分析用四重極イオントラップにおけるイオン分離
予め定義された狭い質量電荷比範囲にあるイオンが、電場の調整及び排出周波数波形の使用によってイオントラップ内で分離される。従って質量電荷比分離ウィンドウが制御され、周波数成分の数を増加させることなく分解能が改善される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、四重極イオントラップにおけるイオン分離に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極イオントラップは、質量分析計において予め定義された特定の範囲内の質量電荷比(m/z、ここでmは質量、zは素電荷の数)を有するイオンを保存するのに使用される。イオントラップでは、保存されたイオンを操作することができる。例えば、特定の質量電荷比を有するイオンを分離又は分解することができる。また、イオンは、質量電荷比に基づきイオントラップから検出器に選択的に排出又は除去し質量スペクトルを生成することができる。保存されたイオンはまた、フーリエ変換型アナライザ、RF四重極型アナライザ、飛行時間型アナライザ、又は第2の四重極イオントラップアナライザなどの関連付けられたタンデム質量アナライザに抽出、移動、又は排出することができる。
【0003】
全てのイオントラップは、効率的に保存又は操作可能なイオン数に制限がある。加えて特定のイオンの構造情報を得るには、特定のm/z(又は複数のm/z)を有するイオンをイオントラップにおいて選択的に分離し、他の全てのイオンをイオントラップから除去することが必要となる可能性がある。MS/MS試験では、分離されたイオンはその後プロダクトイオンに分解され、特定のイオンの構造情報を取得するために分析される。従って、イオントラッピング機器におけるイオン分離を効率的にする幾つかの必要性がある。
【0004】
四重極イオントラップは、実質的に四重極電場を使用してイオンをトラップする。純粋な四重極電場では、イオンの運動は、Mathieuの方程式と呼ばれる2次微分方程式に対する解で数学的に記述される。2次元及び3次元四重極イオントラップの両方を含む全ての高周波(RF)及び直流(DC)四重極デバイスに適用する一般的事例に対して解を展開することができる。2次元四重極トラップは米国特許第5,420,425号に記載され、3次元四重極トラップは米国特許第4,540,884号に記載されており、この両方は引用により全体が本明細書に組み込まれる。
【0005】
一般的に、Mathieuの式の解及びイオンの対応する運動は、換算パラメータau及びquによって特徴付けられ、ここでuは、電場の対称軸に沿った変位に対応するx、y、又はzの空間方位を表わす。
au=(KaeU)/(mro2ω2) qu=(KqeV)/(mro2ω2)
式中、
V=印加高周波(RF)正弦波電圧の振幅
U=印加直流(DC)電圧の振幅
e=イオンの電荷
m=イオンの質量
ro=デバイスの特性寸法
ω=2πf
f=RF電圧の周波数
Ka=auに対するデバイス−電場幾何形状依存係数
Kq=quに対するデバイス−電場形状依存係数
【0006】
RF電圧は、イオンの運動をデバイス内部に閉じ込めるように作用するRF四重極電場を生成する。この運動は、特性周波数(一次周波数とも呼ばれる)及び付加的な高次周波数で特徴付けられ、これらの特性周波数は、イオンの質量及び電荷に依存する。また別の特性周波数が、四重極電場が作用する各次元と関係付けられる。すなわち、3次元四重極イオントラップにおいて別個の軸方向(z次元)及び半径方向(x及びy次元)の特性周波数が指定される。2次元四重極イオントラップでは、イオンは、x及びy次元において別個の特性周波数を有する。特定のイオンに対しては、特定の特性周波数は、イオンの質量及びイオンの電荷の他、トラッピング電場の幾つかのパラメータにも依存する。
【0007】
イオンの運動は、その特性周波数の1つ又はそれ以上を有する補助AC電場を用いてイオンを共鳴させることによって励起することができる。補助AC電場は、比較的小さな振動(AC)電位を適切な電極に印加することによって、主四重極電場上に重畳される。特定のm/zを有するイオンを励起するために、補助AC電場は、イオン運動の特性周波数又はその近傍で振動する成分を含む。1つより多いm/zを有する複数のイオンが励起されることになる場合には、補助電場は、励起されることになる各m/zのそれぞれの特性周波数で振動する複数の周波数成分を含むことができる。
【0008】
補助AC電場を生成するために、波形発生器により補助波形を生成し、生成された波形を伴う電圧が変圧器により適切な電極に印加される。補助波形は、幾つかの相対位相と共に加えられるあらゆる数の周波数成分を含むことができる。本明細書ではこれらの波形は、共鳴排出周波数波形又は単に排出周波数波形と呼ぶ。これらの排出周波数波形を用いて、一連の不要イオンをイオントラップから共鳴排出させることができる。
【0009】
イオンの特性周波数に近い振動周波数成分を含む補助電場によってイオンが駆動されると、イオンは、電場から運動エネルギーを得る。十分な運動エネルギーがイオンに結合される場合には、その振動振幅は、イオントラップの閉じ込めを越えることができる。イオンはその後、トラップの壁に衝突し、或いは適切な開口が存在する場合にはイオントラップから排出されることになる。
【0010】
異なるm/zのイオンは異なる特性周波数を有するので、異なるm/zのイオンの振動振幅は、イオントラップを励起することによって選択的に決定することができる。振動振幅のこの選択的操作を使用して、トラップから不要イオンを何時でも除去することができる。トラップが最初にイオンで満たされると、例えば排出周波数波形を利用し、イオン蓄積中にm/z比の狭い範囲を分離することができる。このような方法により関心のあるイオンだけでトラップを満たすことができるので、高い信号対ノイズ比で所望のm/z比を検出することが可能になる。また、MS/MS試験を実施するためにトラップを満たした後、又はMSn試験における各解離段階後に特定のm/zの範囲をイオントラップ内部で分離することができる。
【0011】
イオン分離は、正弦波で表わされる離散周波数成分を加算することによって通常生成される広帯域共鳴排出周波数波形を使用して実行することができる(米国特許第5,324,939号に記載)。すなわち加算された正弦波は、排出を望むイオンのm/zの範囲に対応するが保持を望むイオンのm/zの範囲に対応する周波数成分を除いた離散周波数を有する。除外された周波数は、排出周波数波形における周波数ノッチを定める。従って、排出周波数波形が印加された時には、不要なm/zを有するイオンは、これらのm/z比値が排出波形に欠けている周波数成分のものに相当するので、所望のm/zのイオンが保持されるときには基本的に同時に排出又は他の方法で除去することができる。
【0012】
全ての不要イオンを実質的に同時に排出又は他の方法で除去するためには、排出周波数波形が近接した離散周波数成分を含む必要がある。従って、排出周波数波形は通常、多数の正弦波から生成される。一般的には、このような波形生成の制御は複雑な問題である。正弦波の離散周波数が均一な間隔にあり、各正弦波が同一の相対振幅を有する場合には、この一般的な問題を簡単にすることができる。
【0013】
波形生成を更に簡略化するために、離散周波数は、比較的広範囲にわたって離隔(例えば、少なくとも1500Hz間隔を置いて)することができ、システムは、周波数成分の間にあるイオンを共鳴状態にさせるようにRF電圧を変調する手段を含むことができる(例えば、米国特許第5,457,315号を参照)。
【0014】
実質的に1amu(原子質量単位、1.660538×10-27キログラム)よりも小さい幅のm/z範囲を分離することが望ましい場合には、広帯域排出周波数波形は、波形生成が実施可能でなくなる程近接して配置された多くの周波数成分を必要とする可能性がある。更に、このような波形は、利用される場合には非現実的な長時間の間印加されなければならない。例えば、760kHzのRF周波数では、500Hz間隔でm/z1200を超えて一様な単位分解能分離を得ることは困難である。代替の技術では、補助電場は、単一の周波数成分だけを含み、不要イオンは、トラッピングRF電圧の振幅を緩慢に増大又は減少させることにより排出される(Schwartz,J.C.;Jardine,I.Rapid Comm. Mass Spectrum.6 1992 313を参照)。
【0015】
【特許文献1】米国特許第5,420,425号公報
【特許文献2】米国特許第4,540,884号公報
【特許文献3】米国特許第5,324,939号公報
【特許文献4】米国特許第5,457,315号公報
【特許文献5】米国公開特許出願2003−0173524A1公報
【非特許文献1】Schwartz,J.C.;Jardine,I.Rapid Comm. Mass Spectrum.6 1992 313
【発明の開示】
【0016】
予め定義された狭いm/z範囲内のイオンは、電場を調整し排出波形を用いることによってイオントラップ内で分離される。従って、質量電荷比分離ウィンドウは、周波数成分の数を増やすことなく制御され、改良された分解能を有する。
一般的には、本発明は、イオントラップでイオンを分離するための方法及び装置を提供する。イオントラップは、イオントラップ内でイオンの保持に寄与する第1の値を有する電場の生成を利用するように構成される。分離されることになるイオンは、質量電荷比下限及び質量電荷比上限によって定義される質量電荷比のある範囲と特性周波数の対応する初期範囲とを有する。イオントラップは、複数の電極を有する。
【0017】
本発明の1つの態様では、本発明は、排出周波数波形を少なくとも1つの電極に印加する段階を含み、排出周波数波形が少なくとも第1の周波数エッジと第2の周波数エッジとを有し、分離されることになるイオンの範囲の少なくとも対応する初期周波数が、第1及び第2の周波数エッジ間の周波数範囲内に含まれ、第1及び第2の周波数エッジ間の特性周波数の対応する初期範囲を有する全イオンが最初にイオントラップ内に保持されるようにする方法を対象とする。電場は、第2の値から第3の値まで調整されて、第2の値及び第3の値は、分離されることになる質量電荷比範囲の外にある実質的に全てのイオンがイオントラップから除去されるように選択される。
【0018】
本発明の別の態様において、特性周波数は、第1の次元の周波数成分と第2の次元の周波数成分とを含む。イオントラップは、第1の次元に沿って整列された電極と第2の次元に沿って整列された電極とから構成された電極を含み、本方法は、排出周波数波形の第1の部分を第1の次元に対して整列された電極にわたって印加する段階であって、排出波形の第1の部分が第1の次元において少なくとも第1の周波数エッジと第2の周波数エッジとを含み、分離されることになる質量電荷比の範囲の第1の次元における特性周波数の少なくとも対応する初期範囲が、第1のエッジと該第2のエッジとの間の周波数範囲内に含まれるようにする段階と;排出周波数波形の第2の部分を第2の次元に対して整列された電極にわたって印加する段階であって、排出周波数波形の第2の部分が、を第2の次元において第3の周波数エッジと第4の周波数エッジとを含み、分離されることになるイオン範囲の第2の次元における少なくとも対応する初期周波数が、第3のエッジと第4のエッジとの間の周波数範囲内に含まれるようにする段階とを含む。
【0019】
別の態様において、本発明は、少なくとも2つの周波数を備え、少なくとも第1のエッジを有する第1の排出周波数波形を少なくとも1つの電極に印加する段階と、電場を第2の値から第3の値まで調整する段階であって、これらの値は、最初に第1のエッジと質量電荷比範囲の直近の限界との間に特性周波数を有する少なくとも全てのイオンがイオントラップから除去されるように選択されるようにする段階とを含む方法を対象にする。
【0020】
別の態様において、特性周波数成分は、第1の次元の周波数成分と第2の次元の周波数成分とを含む。イオントラップは、第1の次元に沿って整列された電極と第2の次元に沿って整列された電極とから構成される複数の電極を含む。本方法は、少なくとも2つの周波数を備え、少なくとも第1のエッジを有する第1の排出周波数波形を第1の次元に対して整列された少なくとも1つの電極に印加する段階と、電場を第2の値から第3の値まで調整する段階であって、これらの値が、第1のエッジと質量電荷比範囲の直近の限界との間に特性周波数を有する全てのイオンがイオントラップから除去されるように選択する段階とを含む。
【0021】
別の態様において、特性周波数は、第1の次元の周波数成分と第2の次元の周波数成分とを含む。イオントラップは、第1の次元に沿って整列された電極と第2の次元に沿って整列された電極とから構成される電極を含む。本方法は、排出周波数波形の第1の部分を第1の次元に対して整列された電極にわたって印加する段階であって、排出波形の第1の部分が少なくとも2つの周波数を含み、第1の排出周波数波形が少なくとも第1の周波数エッジを有する段階と;排出周波数波形の第2の部分を第2の次元に対して整列された電極にわたって印加する段階であって、排出周波数波形の第2の部分が少なくとも2つの周波数を含み、第2の排出周波数波形が少なくとも第2の周波数エッジを有する段階とを含む。
【0022】
特定の実装は、以下の特徴の1つ又はそれ以上を含むことができる。電場は四重極電場とすることができる。電場は、RF電圧を調整することによって調整することができる。電場はDC電圧を調整することによって調整されてもよい。電場の第2の値は、質量電荷比上限を上回るイオンがイオントラップから排出されるように選択することができる。電場の第3の値は、質量電荷比下限を下回るイオンがイオントラップから排出されるように選択することができる。電場は、1つの段階的遷移で第2の値から第3の値まで調整することができる。段階的遷移は約1ms未満で実施することができる。電場は、少なくとも1つの緩慢な遷移で第2の値から第3の値まで調整することができる。少なくとも1つの緩慢な遷移の時間は、分離されることになる質量電荷比又は必要な分離分解能にある程度依存することができる。電場の第2の値を印加する前に、前の値が印加されて、第1の周波数エッジと第2の周波数エッジとの間に特性周波数の対応する初期範囲があるように、分離されることになる質量電荷比の範囲が設定されるようにすることができる。排出周波数波形は、離散周波数から選択された一連の順序付けられた周波数を用いて生成することができる。離散周波数は、実質的に均一に離間して配置することができる。離散周波数は、互いに約750Hz又はそれ未満で離間して配置することができる。離散周波数は、互いに約500Hz又はそれ未満で離間して配置することができる。電極は、第1の次元に対して整列された電極と第2の次元に対して整列された電極とを含むことができる。排出波形は、第1の次元に対して整列された電極と第2の次元に対して整列された電極とに同時に印加することができる。排出波形は、第1の次元に対して整列された電極及び第2の次元に対して整列された電極に順次的に印加することができる。波形は、少なくとも2つの波形部分を含むことができる。波形部分は、実質的に同時に印加することができる。波形部分は順次的に印加することができる。波形部分は、交互に順次的に複数回印加することができる。2つの波形部分の第1の部分は、排出周波数波形の第1のエッジを定義することができる。2つの波形部分の第2の部分は、排出周波数波形の第2のエッジを定義することができる。排出周波数波形は、少なくとも2つの次元の周波数成分を含むことができる。第1の次元における周波数成分は、第1の次元に対して整列された電極に印加され、これと順次的に、第2の次元における周波数成分は、第2の次元に対して整列された電極に印加することができる。第1の次元における周波数成分は、第1の次元に対して整列された電極に印加され、これと同時に第2の次元における周波数成分は、第2の次元に対して整列された電極に印加することができる。イオントラップは、RF四重極イオントラップとすることができる。RF四重極イオントラップは、2Dイオントラップとすることができる。RF四重極イオントラップは、3Dイオントラップであってよい。
【0023】
別の態様において、本発明は、上記方法に従ってイオントラップを制御する命令を備えたコンピュータ可読媒体内に有形に具現化されるコンピュータプログラム製品を対象にする。
【0024】
本発明は、以下の利点の1つ又はそれ以上を実現するために実装することができる。高分解能分離は、1Th(トンプソン=amu/素電荷数)よりも狭いm/z範囲の分離として定義される。例えば、これは、0.5Th、0.3Th、0.1Th、又は<0.1Thのm/z範囲の分離を意味する可能性がある。場合によっては、1Th又はそれ以上のm/z範囲の分離でさえも動作条件の特定のセットの下では実施可能ではない。これらの場合には、高分解能分離は、別の分離技術を用いて実施可能なものよりも更に狭いm/z範囲を分離することを意味する。高分解能分離は、分離中に形成されるあらゆるフラグメントイオンを排出する能力を維持しながら達成することができ、その結果、既存の高分解能分離方法における問題を解決する。高分解能分離は、周波数ノッチエッジ近傍に特定の周波数項(すなわち、離散周波数の正規の及び/又は均一な間隔に位置しない周波数項)を導入することなく均一な離散周波数を用いて達成することができる。実質的に四重極イオントラップは、イオン周波数がイオントラップの1つの次元(例えばx)における振動振幅の増大と共にシフトアップし、他の次元(例えばy)における振動振幅の増大と共にシフトダウンするように構成することができる。x方向における排出周波数波形ノッチを上回る周波数とy方向における排出周波数波形ノッチを下回る周波数とでイオンを励起することによって、先鋭で対称的な合成分離プロフィールウィンドウを得ることができ、このウィンドウはまた、完全な分離試験の分離分解能を改善することになる。
【0025】
本発明のこれら並びに別の特徴及び利点は、添付図面の各図を参照しながら以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0026】
別に指定されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者によって通常理解される意味を有する。矛盾がある場合には、定義を含む本明細書が規定する。別に指定されない限り、用語「含む」及び「含んでいる」は、非限定的な意味で用いられ、すなわち「含まれる」対象は、より大きな集合体又はグループの一部又は構成要素であって集合体又はグループの他の部分又は構成要素の存在を排除しないことを示すのに使用される。開示される材料、方法、及び実施例は、例証に過ぎず、限定を意図するものではない。当業者であれば、本明細書で説明したものと類似した又は均等な方法及び材料を用いて、本発明を実施することができる点を理解するであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、質量電荷比(m/z)範囲の例示的な分離ウィンドウ100(図表A)を示し、この比の範囲は、質量電荷比上限110及び質量電荷比下限105によって定義される。また、周波数スペクトルにおける対応する排出周波数波形ノッチ115(図表B)も示され、該排出周波数波形ノッチは、第1及び第2のエッジ120、125でそれぞれ定義される。該波形により、分離されることになる質量範囲外のイオンの少なくとも一部をイオントラップから排出することが可能になる。分離ウィンドウ100は、3次元四重極イオントラップ内に保持されるイオンでは、本実施例においてm/z99.5Thから100.5Thまでのm/z比の範囲である。周波数ノッチ115は、分離ウィンドウ100に基づいて定義され、排出波形の周波数スペクトル内で欠けている周波数範囲である周波数間隙を指定する。実施例では、周波数ノッチ115は、公称分離q=0.83(軸方向次元)及びω=2π1022.64kHzのRF周波数に基づいて計算される。イオントラップに印加されるRF振幅は、所望のm/zウィンドウ100内において保持されることになるイオンが、欠けている周波数成分にほぼ対応する特性周波数を有するように設定される。不要イオンは、m/z分離ウィンドウ100の外にあるm/z値と、理想排出波形周波数ノッチ115の外にある特性周波数とを有する。よって不要イオンは、周波数ノッチ115を有する排出周波数波形に基づいて生成された補助AC電場からエネルギーを吸収し、イオントラップから排出されることになる。或いは不要イオンは、補助AC電場からエネルギーを吸収し、例えば、イオントラップ内の電極であるロッドへ衝突させることによって不要イオンが中性化又は除去されるように軌道を生成する。
【0028】
図2は、離散周波数を含む周波数スペクトルの周波数ノッチを示す。離散周波数は、排出周波数波形を構成するのに使用される有限数の正弦波に割当てられる。例えば典型的な広帯域周波数波形は、500Hz(波形の周期が2ms)毎に間隔を置いた10kHzから500kHzの間の離散周波数を有する正弦波周波数成分から構成される。すなわち、本実施例では、全部で981個の離散周波数が排出周波数波形の生成に使用される。不要イオンの全てを効率的に排出するのに十分な数の周波数成分が存在するように周波数間隔が正確に選択される場合には、波形周波数成分の間に特性周波数を有するこうしたイオンでも排出されることになる。
【0029】
離散周波数の間隔は、効率的に分離することができる最小のm/z範囲によって定められる分離分解能を制限する。離散周波数が500Hzの増分で間隔が置かれる場合には、除去される周波数は、500Hzの整数倍の実排出波形周波数ノッチを定める。すなわち実周波数ノッチは、分離幅に量子化値をもたらす。実排出周波数波形ノッチが目標分離ウィンドウよりもより狭くならないように離散周波数を丸めることは一般的に行われている。
【0030】
図2は、第1及び第2の例示的な排出波形周波数スペクトル(図表a及びb)を示し、それぞれ目標周波数ノッチ220及び230、及び丸められた対応する周波数ノッチ220及び240を備えている。第1及び第2の周波数スペクトルは、離散周波数成分を実質的に指定し、離散的逆フーリエ変換計算又は同様のものによる排出周波数波形を生成するのに使用することができる。両方のスペクトルにおいて、離散周波数は、500Hz毎に間隔が置かれ、各離散周波数に対して、相対振幅が対応する垂直方向の実線の長さで表わされる。離散周波数の相対位相は、米国特許第5,324,939号で教示されるような特定の方法で設定されるべきである。
【0031】
目標周波数ノッチ210及び230は、それぞれの所望の分離ウィンドウに対応し、分離ウィンドウ100のノッチと類似する。目標ノッチ210は、周波数エッジ211及び212によって定められ、目標ノッチ230は、周波数エッジ231及び232によって定められる。離散周波数が排出周波数波形の生成に使用される場合には、周波数エッジ211、212、231及び232は、最も近い500Hzに丸められる(低い周波数エッジに切り下げられ、高い周波数エッジに切り上げられる)。従って、丸められた周波数ノッチ220及び240の幅は、目標周波数ノッチ210及び230よりもそれぞれ広い。本実施例では、目標周波数ノッチ210及び230は、m/z69±0.5Th及びm/z614±0.5Thの分離ウィンドウにそれぞれ対応する。この丸め処理は、最少ノッチ幅が本実施例における所望のノッチ幅である±0.5Thに少なくとも対応することを保証する。よって目標ノッチ210及び230の各々は、異なる公称m/z値に対するものであるが、同一の公称分離qにおいて1.0amu/単位電荷(Th)の同一幅を有する分離ウィンドウに対応する。より高いm/zイオンは互いにより近接して配置された特性周波数を有するので、目標周波数ノッチ210(69Thを中心とするm/z)は、目標周波数ノッチ230(614Thを中心とするm/z)よりも大きな周波数幅を有する。同様の効果により、丸め誤差は高いm/zイオンにおいてより顕著である。
【0032】
図3は、目標周波数ノッチと丸められた周波数ノッチを、分離qが0.83の1Thのような固定分離ウィンドウ幅に対する中心m/zの関数として比較する。各周波数ノッチは、周波数エッジの対応するペアで表わされる。破線は、目標周波数ノッチの周波数エッジを表わし、実線は、最も近い500Hzに丸められた対応する周波数ノッチを定める関連する量子化排出波形周波数を表わす。丸め処理の影響は、破線とそれぞれの実線との間の差によって明確に示される。
【0033】
図4a及び図4bは、丸められた分離幅(m/z単位)420及び440をそれぞれ示し、分離ウィンドウの中心m/zの関数として示された第1及び第2の図表が図示されている。丸められた分離幅420及び440は、本実施例にて同一の1Thの値を有する目標分離幅410及び430に対応する。丸められた分離幅420及び440は、離散周波数成分の異なる間隔を使用して排出波形を構成することによって得られる。
【0034】
丸められた分離幅420は、各500Hzにおける離散周波数を使用することに対応し(図4a)、丸められた分離幅440は、各250Hzにおける離散周波数を使用することに対応する(図4b)。周波数間隔区間が500Hzから250Hzにまで減少すると、丸められた分離幅の精度が高くなる。しかしながら周波数間隔の減少は、排出波形の計算に2倍の正弦波成分を必要とする。波形が2倍の長さになるので、波形計算は2倍よりも長くなり、デジタル化された波形を保存するのに2倍の量のメモリが必要となる可能性がある。
【0035】
図6a〜図7は、イオン分離に使用することができる例示的装置を示す。代替的な実装では、異なる装置を用いて、本発明の1つ又はそれ以上の態様を実装することができる。
【0036】
図6aは、リニア又は2次元(2D)四重極イオントラップの例示的な四重極電極構造600を示す。四重極構造は、対向電極の2つのセットを含み、該電極は、座標系のz方向に沿った中心軸を有する細長い内部容積を定めるロッドを含む。対向電極のX方向セットは、座標系のx軸に沿って配置されたロッド610及び620を含み、対向電極のY方向セットは、座標系のy軸に沿って配置されたロッド605及び615を含む。605、610、615、620のロッドの各々は、本体又は中央セクション630、及び前部及び後部セクション635、640に切り込まれる。
【0037】
1つの実施形態では、各ロッド(又は電極素子)は、2次元四重極電場の等電位面に実質的に一致するような双曲線プロフィールを有する。高周波(RF)電圧が各ロッドに印加され、1つの位相がX方向セットに印加され、反対の位相がY方向セットに印加される(RF発生器を介して)。これが、x及びy方向におけるRF四重極封じ込め電場を構築し、これらの方向においてイオンを閉じ込めるようにする。また、別の形状の電極素子を用いて、多数の目的に対して適切なトラッピング電場を生成することができる。
【0038】
イオンを軸方向に(z方向に)拘束するために、中央セクション630内の電極は、前部及び後部セクション635、640内のものとは異なるDCポテンシャルを受けることができる。従って、DC「ポテンシャル井戸」が、四重極電場の半径方向封じ込めに加えて、z方向に形成され、全ての3次元におけるイオン封じ込めをもたらす。
【0039】
イオンは、z軸の中心線に沿ってトラップ内に導入され、従って、中央セクション内に効率的に送られる。電極構造を高真空状態で動作させることができ、又は、幾らかのヘリウムを構造内に導入し、ヘリウムとの衝突によって励起イオンの運動エネルギーを失わせるようにすることができる。このようにしてイオンを構造の中央セクション内でより効率的に捕捉することができる。これらの衝突はまた、衝突冷却イオン全てが同様の(小さな)位置及び速度を得るので、性能が改善される。これにより、例えばイオン排出中など、引き続きイオンが操作される時に、イオンは初期状態のより小さなセットが基本的に与えられることになる。
【0040】
開口645は、ロッド605、610、615、620の1つの中央セクション630の少なくとも1つに定められる。追加のAC双極子電場が半径方向に印加されると、トラップされたイオンは、開口645を貫通して中心軸に直交する方向でその質量電荷比に基づいて選択的に排出することができる。本実施例では、開口及び印加双極子電場は、X方向ロッドセット上に存在する。
【0041】
図6bは、RF及びAC電圧を2次元イオントラップ600’に印加するための従来の装置を示す。イオントラップ600’では、ロッド電極605、610、615、620は、セグメントに分割されず、従って、装置の説明を簡単に行う。しかしながらRF及びAC電圧を電極605、610、615、620に印加するための基本方式は、ロッド電極がセグメント化される場合には変わらない。例えば、米国公開特許出願2003−0173524A1に記載された、RF及びAC電圧を印加する別の方法が好適であり、必要に応じて使用されてもよい。
【0042】
図7は、第2の例示的なイオントラップ質量分析計である3次元四重極イオントラップ700を示し、ほぼ双曲線プロフィールのリング電極702と、双曲線のプロフィールの互いに面する2つのエンドキャップ704及び706とを含む。RF発生器708によって供給されるRF電圧は通常、リング電極702に印加され、エンドキャップ704及び706は、RF電圧に対し接地電位にある。これによって3次元、x、y、及びz全てにおいてRF四重極封じ込め電場が構築されるが、これは半径方向に対称なデバイスであることにより、イオンの運動は半径方向(r)及び軸方向(z)の変位に関して検討される場合が多い。リング電極を4つのセクションに切り込むこむことができ、従って、x及びy次元において独立した励起をこうしたデバイス内に生成することができる点に留意されたい。エンドキャップ704及び706の両端には、変圧器750を介してAC発電機738により追加の双極子励起AC電場を印加することができる。デジタル信号プロセッサ又はコンピュータ712は、RF発生器708及び最終的にはRF増幅器710に対してRF制御電圧を形成するRF電圧制御ゼネレータ714を駆動し、RF増幅器710は、リング電極上にRF電圧(傾斜していてもよい)を印加する。RF電圧は、エンドキャップ704、706間に印加されるACの略双極子電場と組み合わされて、質量分析されることになるイオンをトラップの中心から排出させる。
【0043】
イオントラップ600及び700の両方において、本発明の各種の態様は、関連電場が別の次元で印加される差を用いて実装することができる。
【0044】
多重周波数共鳴排出波形を使用して特定のm/z又はm/zの範囲のイオンを分離することができることは、上記で詳細に説明された。この多重周波数共鳴波形は、トラップから排出されことになるイオンのm/zに対応する運動の特性周波数に一致又はほぼ一致する周波数成分を含む。これらの排出周波数波形は、指定された間隔を有する離散周波数の範囲全体を通じて多くの正弦波成分を加算することによって生成することができる。トラップ内に保持されることになるイオンの特性周波数に一致する周波数成分は、代表的波形から除外される。除外された成分は、排出波形の周波数スペクトル内に離散排出周波数波形ノッチを定める。本発明の1つの態様によれば、該離散周波数ノッチを用いて、m/z分離ウィンドウを指定することができ、その幅及び中間点は図8から図10を参照して以下に詳細に説明されるように連続的に変更することができる。
【0045】
図8は、引用により全体が本明細書に組み込まれる米国特許第5,324,939号に記載のような従来方法によって計算された例示的な排出周波数波形を示す。例示的な排出波形は、隣接する成分の周波数間に500Hzの間隔を有する離散周波数成分を使用する。目標排出波形周波数ノッチは、分離が必要とされるm/z範囲、及び分離が実行されることになるqによって定義される。m/z範囲の下限をm1で識別し、m/z範囲の上限をm2で識別する。m1及びm2の値に基づいて目標周波数ノッチに対して対応する目標周波数エッジf1及びf2を計算することができる。より高いm/zのイオンは、より低い周波数を有するので、m1<m2に対してf1>f2である点に留意されたい。次いで、目標ノッチの周波数エッジf1及びf2は、最も近い500Hzの外にある周波数f’1及びf’2にそれぞれ丸められる。丸められたノッチの周波数エッジf’1及びf’2は、m’1とm’2との間の丸められたm/z分離範囲に対応する。
【0046】
丸められたノッチの周波数エッジf’1及びf’2は、排出波形内に含まれるが、これらの間に周波数は存在しない。従来技術では、f’1>f1且つf’2<f2であるので、丸め処理により、所望のm/z範囲の外側のイオンの小さな範囲は排出されない結果となる。加えて、m’2よりも僅かに低く且つm’1よりも僅かに高いm/z値を備えるイオンは、それらが電場によって影響を受けるべき波形周波数ノッチエッジに未だ十分に接近しているときに排出されることになる。
【0047】
本発明の1つの態様によれば、この「丸め誤差」が回避され、連続可変の分離ウィンドウを指定することができる。1つの実装では、2つの異なる四重極電場値が分離プロセス中に使用される。本明細書で使用されるように、RF及びDC成分値のいずれか又は両方が既に変化している場合には、四重極電場値は異なるものと考えられ、よって、印加RF電圧及びDC電圧の一方又は両方を調整することによって四重極電場値を変更することができる。第2の四重極電場値は、丸められたノッチ周波数エッジf’2に質量電荷比上限m2を設定し、第3の四重極電場値は、丸められたノッチ周波数エッジf’1に質量電荷比の下限m1を設定する。四重極電場のDC振幅及びRF振幅は高精度に制御可能であるので、指定されたm/z分離ウィンドウ限界m1及びm2は、丸められたノッチ周波数エッジf’1及びf’2で高精度に設定することができ、丸められたノッチエッジと目標ノッチエッジとの間の周波数差を連続的に補償する。本技術はまた、連続した有効分離ウィンドウ幅をm/zで指定することができる。
【0048】
図9、図10a、及び図10bは、本技術の実装を示す。本技術は、2次元又は3次元イオントラップのような四重極イオントラップを含むシステム内に実装することができる。この実装では、分離中に2つの異なるRF電圧値910、920が使用される。分離前では、RF電圧値は、イオントラップ内の広い範囲のイオンをトラップするのに使用される第1の値970に調整される(ステップ1010)。次いでRF又はDC電圧が、第2の電圧値910に調整され(ステップ1020)、排出周波数波形940が印加される(ステップ1030)。RF電圧の第2の値910において、目標イオン範囲のm/z上限m2は、丸められた排出周波数波波形ノッチの下側周波数エッジf’2(第1のエッジ)に対応する。例えば2〜8ms又はそれ以上の時間期間後に、RF電圧は、例えば約1msより小さい範囲内の段階的方法で第3の値920に調整される(ステップ1040)。RF電圧の第3の値920において、目標イオン範囲のm/z下限m1は、丸められた排出周波数波形ノッチの上側周波数エッジf’1(第2のエッジ)に対応する。例えば2〜8msである2ms又はそれ以上のような時間期間後に、排出周波数波形940は停止される(ステップ1050)。RF電圧はまた、出発値又は第1の値970に戻るか又は次のステップに適切な値に設定するように調整することができる。次いで分離されたイオンは、要望どおりに利用される(ステップ1060)。RF電圧は、単一のステップを受けると共に、排出周波数波形が作動される。
【0049】
本実装では、システムは、排出周波数波形で使用される波形周波数成分よりも極めて正確であるRF電圧を調整する。従って、合成分離ウィンドウのエッジでのm/zは高精度に設定することができ、連続可変の分離m/z分解能又はm/z分離ウィンドウを得ることができる。更に、排出周波数波形における周波数間隔は均一であり、これにより、不均一周波数エッジ成分の加算、これらの振幅の制御、又は「エッジスケーリング因子」の利用に伴う問題が回避される。
【0050】
m/z上限及びm/z下限は、質量分析計のオペレータによる入力に応じて設定することができる。1つの実施例では、質量分析計は、オペレータからの関心のあるイオンの選択を受けて、選択されたイオンに関連付けられた予め定義されたm/z限界を使用する。或いは、オペレータがm/z限界を直接入力してもよい。
【0051】
f’2未満とf’1を超える周波数成分全てを同時に使用するのではなく、排出周波数波形を2つの部分に分離することができ、異なるRF電圧値の印加と同期して異なる部分を印加することができる。波形の一部は、分離されることになる質量範囲外の一部のイオン又は実質的に全てのイオンをイオントラップから排出するのを可能にする波形である。例えば、RF電圧が第2の値910を有するときにはf’2未満の周波数成分を印加することができ、RF電圧が第3の値920を有するときにはf’1を超える周波数成分を印加することができる。これは、共鳴される(排出される)イオンのいずれかのフラグメントイオンが共鳴排出プロセス中に生じる可能性があるのであまり望ましいことではない。このようなフラグメントイオンは、排出波形の現在印加された部分が対応する排出周波数成分を持たないm/z値に収まる可能性がある。これらのフラグメントイオンは、分離プロセス後も残存することができ、従って、関心のあるイオンの分離が不完全なものとなる。これらは、プロダクトイオンm/zスペクトルにおいて「アーチファクト」ピークとして現われる恐れがある。従って、波形の全ての周波数成分が分離方法の全持続期間中に同時に印加される場合、これはより効率的である。或いは、このような「アーチファクト」(フラグメント)イオンは、高m/z及び低m/zイオンの多重連続排出サイクルによって最終的には除去することができる。
【0052】
質量スペクトルにおけるこのような「アーチファクト」ピークは、排出波形の2つの部分をトラップ内の別個の次元で印加することによって回避することができる。すなわち、排出波形の高周波成分及び低周波成分を単一の方向に沿って配置された電極に印加するのではなく、高周波成分は、第1の次元で分極される電場を生成するように配置された電極の第1のセットに印加することができ、低周波成分は、第1の次元とは異なる第2の(ほぼ直交する)次元で分極される電場を生成するように配置された電極の第2のセットに印加することができる。例えば上述の2Dリニアトラップでは、排出波形周波数の第1のセットをx次元において2つのロッドにわたり印加することができ、排出波形周波数の第2のセットをy方向において2つのロッドにわたり印加することができる。2Dトラップがイオン分離に使用される場合には、排出イオンは検出されないので、ロッド内にスロットは必要ではない。高周波及び低周波成分が同時且つ異なる方向に向けて印加される場合には、フラグメンテーション(分解)問題は回避することができる。或いは、高周波及び低周波成分を異なる方向に沿って順次的に印加することができ、高周波及び低周波成分の両方を繰り返し印加することによって、フラグメンテーション(分解)「アーチファクト」イオン問題を回避することができる。
【0053】
図8、図9、及び図10aを参照しながら上述された本技術を使用して排出周波数波形ノッチの有効幅を計測する目的で、一連の実験を行った。
【0054】
図11は、化合物パーフルオロトリブチルアミンからのm/z614.0Thイオンの分離に関連付けられた分離ウィンドウの実験的幅を定める実験結果を示す。実験的幅は、分離ウィンドウの異なる目標幅に対して得られた。実験的分離ウィンドウを可視化するために、m/z614Thを含む一連の前駆体m/zを選択した。各前駆体m/zは、対応する分離幅を用いて分離し、614Thにおけるイオンの強度を計測しプロットした。分離中、RF電圧値は、丸められた排出周波数波形ノッチのそれぞれのエッジに質量m1及びm2を連続的に設定するように調整した。RF電圧を調整することなく、丸められた分離ウィンドウは、水平線で示される幅を有した。本質的に、分離ウィンドウの目標幅0.6、0.8、及び1.0は、例えばそれぞれ1、2、及び3つの離散周波数成分が欠けた周波数排出波形を使用することによって得られたと考えることができる。
【0055】
図12は、従来の分離方法及び本発明の1つの態様に従って実装された分離技術に対する分離ウィンドウの幅の比較を示している。従来の分離方法では、上述のように、最も近い500Hzに丸められた周波数成分から生成された排出周波数波形を使用する段階を含み、目標分離ウィンドウに一致しない離散分離幅を定める。対照的に、本発明の1つの態様を実装する技術は、目標分離ウィンドウの分離幅に実質的に一致する実験的分離ウィンドウを生成する。
【0056】
図11及び12に示すデータは、本発明を実装することによって、排出周波数波形ノッチが量子化されているにもかかわらず、分離ウィンドウの幅を連続的に変更することができることを例証している。更に、正味m/z分離ウィンドウの幅は、排出周波数波形の「離散的」周波数間隔によって定義される分解能よりも更に細かくすることができる。分離プロフィールウィンドウのエッジもまた更に精密に制御することができる。
【0057】
代替的な実装においては、図9及び図10aを参照しながら上述した本技術は、様々な又は追加の特徴部を含むことができる。例えば、システムは、より大きな波形ノッチ又は異なる始動RF電圧の利用、又は逆スキャン段階の追加、或いはRF振幅の迅速ジャンプをより低速のスキャン技術との置き換えを行うことができる。代替的技術の例示的実装が図10bに図示されており、図13及び14に要約している。これらの代替的技術は、更に高い分解能の分離を与え、又は「アーチファクト」ピークの発現確率を最小にすることができる。
【0058】
図13及び図14は、同じ目標m/z分離ウィンドウ幅に対して図9を参照して説明された技術におけるよりも幾分大きな排出周波数波形ノッチ幅で排出周波数波形1340が構成された代替的な実装を示す。図10aを参照して説明した方法と同様に、イオントラップ内にイオンをトラップするためにRF電圧が第1の値で印加される(ステップ1410)。より広い排出周波数波形ノッチ幅では、排出周波数波形1340が実際に印加される前に、RF電圧1370は、関心のあるm/z範囲が目標排出周波数波形ノッチの中心に置かれるように設定される(ステップ1415)。これにより、分離されることになる所望のイオンが排出周波数波形ノッチのエッジから離され、本方法の後続の緩慢なスキャン段階の余地が与えられる。次いで、排出周波数波形1340が作動され(ステップ1415)、RF電圧が第2の値1310まで緩慢に傾斜する(ステップ1430)。RF電圧は、時間T1の間で傾斜し、該時間T1は、段階的高周波ケース(図9)に対して排出波形が印加されている間の時間t1よりも長い。例えば時間T1は、10ms、15ms、20ms、又はそれよりも長いなど、5msよりも長くすることができる。RF電圧の第2の値1310は逆方向(負方向)に伸びて、m2をf’2の排出周波数波形ノッチのエッジにする。時間T1の間、より高いm/zイオンを関心のあるイオンの最も高いm/zまで共鳴させ、イオントラップから排出する。次いでRF電圧を第1の値1370まで階段的に又はスキャンバックして戻す(ステップ1440)。RF電圧は、第1の値1370から第3の値1320まで緩慢に傾斜される(ステップ1450)。RF電圧は、時間T2の間で傾斜され、該時間T2は、10ms、15ms、20ms、又はそれよりも長いなど、5msよりも長くすることができる。第3の値1320は、m1をf’1の高周波排出周波数波形ノッチエッジに設定する。時間T2の間、より低いm/zイオン(関心のある最も低いm/zを下回る)は、スキャンされて共鳴に至り、イオントラップから排出され、或いは他の場合には除去される。段階的又はスキャン方式において、RF電圧は、第2のRF電圧値に戻り(ステップ1460)、次いで排出周波数波形1340の印加が終わる(ステップ1470)。次いで、本技術によって分離されたイオンは要求に応じて利用される(ステップ1480)。代替的実装では、本方法のスキャン段階、RF電圧が最初に順方向にスキャンされ、次いで逆方向にスキャンされて同様の結果をもたらすように逆にすることができる。
【0059】
図15〜図17は、適切なRF電圧値の選択及びスキャン速度の低減によって高分解能の分離が達成されることを示している。図16aから図16dまでは、分離ウィンドウの幅を比較的高いm/z値で1Th未満まで調整することができることを示している。図11と同様に、実験的分離ウィンドウの幅は、連続的な実験において排出周波数波形ノッチにわたり前駆体m/zを段階的にし、関心のあるイオン強度を分離後質量スペクトルでプロットすることによって可視化される。このケースでは、m/z524.3が、ペプチドMRFAのエレクトロスプレーイオンであり、その強度が、それぞれm/z525.3及びm/z526.3における第2及び第3の同位元素ピークの強度と共にプロットされている。同位元素ピークは、分離分解能に対する考察をもたらす。最良の分離分解能を図16dに示し、該図では0.1m/zの要求分離幅に対し実験的分離幅0.08Thを示す。これは、最大高さの半分において示されるピークの幅である。分離分解能を計算するために、この幅は、分離が行われるm/zすなわちm/z524.3に分けられる。これは、6500よりも大きい分離分解能である。
【0060】
順方向及び逆方向RFスキャン分離段階中に24ms/(Th又は原子質量単位/単位電荷)のRFスキャン速度を使用することによって、化合物メリチンの四重極荷電イオンの単一の炭素13同位元素(図16a)を他の同位元素全てから分離することが可能となる(図16b)。別の利用が図17に示され、ここでは、526Thの同じ公称m/zにおいて関心のある2つのイオンを示している。これらの2つの同重体イオンは、本明細書で説明したもののような高分解能分離技術を用いてのみ個々に分離することができる。分離されると、MS/MSを各イオンに個々に実行し、交差汚染の無い構造情報を与えることができる。
【0061】
上述のように、上記の技術はまた、高周波及び低周波成分をそれぞれ含むもののような2つの部分に排出周波数波形を分割することによって実装することができる。システムは、2つの部分を2つの異なる時間に、又はRF電圧段階と同期して、或いは、例えば2D四重極イオントラップにおけるx及びy電極のような異なる向きの電極上で2つの別個の双極子電場を用いて同時に印加することができる。
【0062】
1つの実装では、システムは、イオントラップの2つの異なる方向に印加される2つの独立した双極子電場によりイオンを分離する。本技術は、振動振幅依存性の周波数変化を活用することによってm/z分離ウィンドウの境界を改善することができる。トラッピング電位場は実質的には四重極であるが、電極及び電極構造内のスロット、孔、間隙、及び形状偏差は、四重極よりも高次の八重極及び他の多重極項を導入することができる。これらの高次項に起因して、トラップされたイオンの振動振幅が増大するにつれて、これらの振動周波数が変化することができる。
【0063】
1つの実装では、第1の方向(例えばx軸に沿う)におけるイオン振動振幅の増大には、当該第1の方向において振動の振動周波数を高め、第2の方向(例えばy軸に沿う)におけるイオン振動振幅の増大には、第2(例えばy)の方向において振動の振動周波数を低くすることが望ましい。本実装では、排出周波数波形は2つの別個の波形に細分され、2つの別個の双極子電場が、排出周波数波形ノッチを上回る高周波と排出周波数波形ノッチを下回る低周波とで生成される。分離中は、高周波波形はx方向に印加され、低周波波形はy方向に印加される。
【0064】
例えば、2次元リニアイオントラップでは、四重極項よりも高次の項は、外形が四重極電場の等電位面に一致する位置から内方に変位されたyロッドにより生成することができる。これは、正の四重極、八重極、十二重極、及び/又はより高次の電位の組み合わせである高次多重極項をトラッピング電場に対して生成し、これによって振動振幅がy方向で増大するとイオン周波数が低下するようになる。又はロッド内のスロットのような開口が存在することで、高次の多重極電場項をもたらすことが知られている。従って、ロッドが全く移動する必要がなく、それでも周波数は振動振幅の増大と共により低い周波数にシフトすることになる。これは、イオン分離には有用となる場合があるが、振動振幅の増大に伴う負方向の周波数シフトは、質量分析時に質量スペクトルの品質不良をもたらすことが示されている。この理由から、質量分析に使用されるスロットを含む対向ロッドは通常、ある程度まで外方に離間して配置され、或いはその外形が変更される。本ケースでは、この延伸は、ロッドスロットの影響を相殺するのを助け、負方向の周波数シフトを弱め、又はより一般的には振動振幅に等しい正方向にすることができる。この結果、同じイオントラップが分離と質量分析の両方に使用される場合には、yロッドを内方に離間して配置すると同時にスロットを含むxロッドは外方に離間して配置し、或いはロッドの外形を適切に鈍化又は先鋭化させることによって、その性能を向上させることができる。
【0065】
ロッドのいずれかの従来位置からの変位を利用し、適切な大きさにされて位置付けられたスロット及び/又は開口の付加と組み合わせ、或いは、電極の表面形状を望ましい電界効果をもたらすような外形にしてRF四重極イオントラップを設計することができる。
【0066】
図5aは、例えば米国特許第5,420,425号に記載の延伸2次元リニアイオントラップのxロッド電極にわたり印加される広帯域排出周波数波形500を概略的に示す。上述のように、周波数のある狭帯域が排出波形周波数から除去され、DC、AC、及びRFのレベルは、関心のあるm/z比の範囲で安定性が維持されるように選択される。この狭帯域周波数は、排出周波数波形ノッチとして知られる。この本双極子電場の周波数成分と一致する特性振動周波数を有するトラップイオンは、励起電場に共鳴結合する。イオントラップは延伸設計であるので、x方向において振動振幅が増大するにつれて、イオン周波数は高くなる。従って、排出周波数波形ノッチ510の範囲内に存在し、周波数ノッチ510の高周波側520(低m/z側)に近い特性周波数を有するトラップイオンは、その振動振幅が増大するにつれて周波数ノッチ510から更に外方にシフトする。イオンは、排出周波数波形ノッチ510の立ち下がりエッジ520の高周波側に「向かって進む」、又は良好に結合するので、このことはイオンの排出を促進させる。それ故に、補助波形の印加が完了(及び終了)した後の時間内に同時に保持されたイオンによりプロットが行われる場合には、図5aの下側に示すように、合成分離ウィンドウの低m/z側は急勾配570を有することになる。
【0067】
他方、低周波側530(高m/z側)に近い特性周波数を有するトラップイオンは、排出周波数波形ノッチ510の外側又は排出周波数波形ノッチの内側で且つ境界近傍で開始できるが、その振幅が増大すると、周波数ノッチ510にシフトすることになる。このシフトに起因してイオンの排出が遅延され、又は阻止される可能性さえある。イオンは、排出周波数波形ノッチ510の立ち上がりエッジ530から本質的に「離れる方向に進む」。それ故に、補助波形が印加され終了した後の時間内に同時に保持されたイオンによりプロットが行われる場合には、合成分離ウィンドウの高m/z側は緩やかな勾配580(図5aを参照)を有し、合成分離ウィンドウのエッジは、不鮮明に見えることになる。これらの周波数シフトの影響を組み合わせて、非対称プロフィール540を生成する。
【0068】
図5bに示すように、500と比較してこの排出波形501から周波数のより狭い範囲を除去することによって高い分解能(511で示すような)を得るようにする試みにおいて、排出周波数波形ノッチ510を更に狭くすることができる。しかしながら、非対称プロフィールは、排出周波数波形ノッチが狭められるときに相対強度(イオン保持)(541を540と比較)が急激に低下して、高分解能を達成する本方法が無効になるような影響をもたらす。
【0069】
これらの作用はまた、排出周波数波形の印加継続期間と、イオンが排出周波数波形から迅速にエネルギーを吸収して排出される方法に影響する他のパラメータとによっても影響される。これらのパラメータは、波形電圧の振幅、イオントラップの圧力、分離q値、及び高次電場成分の振幅の符号を含む。
【0070】
高次電場成分は、八重極電場、及び十二重極電場、並びに他の高次の多重極項電場を含むことができる。正の八重極電場(本明細書の目的におけるもの)は、四重極電場の正極と同じ軸上に正極を有するものとして定義される。一例として四重極電場がx軸上に正極を有する2Dイオントラップを考察する。この四重極電場と共に同時生成され(同じ印加電圧で形成され)、且つこの四重極電場上に重畳された正の八重極電場はまた、x軸上に正極を有することになる。この重畳された正極は、x軸に沿ってより大きな変位において電場を強化する。y軸上では四重極電場は負極を有する。正の八重極電場は、y軸上に正極を有する。八重極電場からのこの正極は、y軸に沿ったより大きな変位における全体の電場を弱める。正の十二重極電場は、x軸上に正極を有するが、y軸上で負極を有する。従って、正の十二重極電場は、x軸及びy軸の両方に沿ってより大きな変位で全体電場を強化する。八重極及び十二重極よりも高次の電場でも同様に動作する。これらの電場におけるイオンの運動の周波数に及ぼす影響を以下に説明する。
【0071】
主として正の四重極(x軸上に正極を備える)及び正の八重極電場から構成される電場を生成するRF四重極イオントラップでは、x次元におけるイオンの振動周波数は、x軸に沿ったイオンの振動振幅が増大するにつれて増大することになる。これは、正の八重極電場がx軸に沿ってより大きな変位で電場を強化する結果である。同一の構造では、y次元におけるイオンの振動周波数は、y軸に沿うイオンの振動振幅が増大するにつれて減少することになる。これは、正の八重極電場がy軸に沿ってより大きな変位において全電場を弱める結果である。
【0072】
同様に、正の四重極(x軸上に正極を備える)を含む電場及び負の八重極電場を生成するRF四重極イオントラップでは、イオンのx次元の振動周波数は、x軸に沿う振動振幅が増大するにつれて減少することになる。同一の構造では、y次元におけるイオンの振動周波数は、y軸に沿うイオンの振動振幅が増大するにつれて増大することになる。
【0073】
四重極及び正の十二重極電場を生成するように設計されたRF四重極イオントラップにより、イオンの振動振幅がx軸及びy軸のいずれかの軸に沿って増大するにつれて対応する振動周波数が増大するように、x軸及びy軸の両方の軸に沿ったイオンの運動に影響を与えることができるようになる。四重極及び負の十二重極電場を生成するように設計されたRF四重極イオントラップにより、イオンの振動振幅がいずれかの軸に沿って増大するにつれて対応する振動周波数が減少するように、x次元及びy次元の両方のイオンの運動に影響を与えることができるようになる。
【0074】
高次多重極電場を備える電場を生成する際には、重畳された多重極電場全てに留意する必要がある。例えば、正の十二重極電場は、正の八重極電場の弱化を克服するのに十分な程度まで、y軸に沿ったより大きな変位での電場を強化することができる。従って、y次元におけるイオン周波数は、正の八重極電場だけの場合のようにy軸に沿って振動が増大するにつれて減少することはできない。
【0075】
この考察では、1つの実施例としてx軸が正の四重極電場極を有する2Dイオントラップを示した。四重極電場がこのように配向されない場合でも同様の動作が生じる。それにもかかわらず、八重極電場は、1つの軸に沿ったより大きな変位において電場を強化すると同時に、他の軸に沿ったより大きな変位においては電場を弱化することになる。十二重極電場では、いずれかの軸に沿ったより大きな変位においても電場を強化することになる。3Dイオントラップにおける高次電場は同様の方法で動作する。r軸及びz軸(円筒座標系)に沿って又は3軸(x、y、及びz)上でのより大きな変位における電場を強化及び弱化する高次電場に関して考察することができる。
【0076】
図18及び図19は、イオン分離を改善するための3つの方法の利用を示している。最初に、イオンは、イオントラッピングステップ1910においてトラップされる。関心のあるイオンのm/z比範囲1810よりも大きなm/z比を有するトラップイオンは、1810よりも大きいm/z比を有するイオンの第1の範囲を排出するために、広帯域排出周波数波形の低周波成分1800によって励起される(ステップ1920)。排出周波数波形のこれらの低周波成分1800は、別個の波形として(排出周波数波形のより高い周波数成分に対して)イオントラップのx方向電極に印加される。x及びy電極は、四重極、八重極、十二重極、及びより高次の電位の組み合わせの結果として得られる電位が、そのy振動振幅が増加するにつれてイオン周波数を負方向にシフトさせるように、離間して配置され且つ外形が形成される。その結果、分離ウィンドウ1810の下限周波数(m/z上限)に近いイオン周波数を備えるトラップイオンは、イオンの振動振幅が増大するにつれて分離ウィンドウから外へシフトする。イオンは分離ウィンドウ1810の立ち上がりエッジ1830に「向かって進む」ので、これによりイオンの排出が促進される。それ故に、排出周波数波形が印加された後に保持されたイオンの相対強度を示すプロットにおいて、合成分離ウィンドウのm/zの上限が図18aの下側に示す急勾配1880を有し、鮮鋭な分離ウィンドウエッジをもたらすことになる。
【0077】
同様に、関心のあるイオンのm/z比の範囲1810よりも小さいm/z比を有するトラップイオンが、1820よりも小さいm/z比を有するイオンの第2の範囲を排出するために、広帯域排出周波数波形の高周波成分1805によって励起される(ステップ1930)。排出周波数波形のこれらの高周波成分1805は、別個の波形として(排出周波数波形のより低い周波数成分に対して)イオントラップのy方向電極に印加される。x及びy電極は、四重極、八重極、十二重極、及びより高次の電位の組み合わせの結果として得られる電位が、そのx振動振幅が増加するにつれてイオン周波数を正方向にシフトさせるように、離間して配置され且つ外形が形成される。その結果、分離ウィンドウ1810の上限周波数(m/z下限)に近いイオン周波数を備えるトラップイオンはまた、イオンの振動振幅が増大するにつれて分離ウィンドウ1810から外へシフトする。これによりまた、イオンが分離ウィンドウ1810のエッジ1820に「向かって進む」ので、イオンの排出が促進される。それ故に、排出周波数波形が印加された後に保持されたイオンの相対強度を示すプロットにおいて、合成分離ウィンドウのm/zの下限がまた、図18aの下側に示す急勾配1870を有することになる。本方法を用いることにより、合成分離ウィンドウのすぐ外側で開始できるどのようなトラップイオンも、合成分離ウィンドウの内側にある周波数まで(従来技術図5のように)シフトすることはできず、上述の従来技術の非対称プロフィール540が排除される。このような最適化された合成分離ウィンドウプロフィールでは、合成分離ウィンドウ1810の幅は、関心のあるイオンの保持効率を低下させることなく図18bに示すように縮小することができる。これは、ノッチエッジがあまり鮮鋭ではないことに起因して関心のあるイオンが損失されることを示す従来技術の541に図示されたものとは異なる。
【0078】
本方法の1つの実装では、1つ又は他の分離波形によって生成され得るいずれかのフラグメントイオンの蓄積を回避するために、2つの波形はx及びy電極対に同時に印加される。或いは、2つの波形は順次的に印加されてもよい。本方法の有効性は、波形印加時間、波形電圧振幅、各方向における非線形高次電場成分の動作、及び分離ウィンドウの周波数の幅を含む幾つかの変数に依存する。双曲線形電極の単純な離間配置、理論双曲線形状からの電極プロフィールの変更、及び合成電場に影響を及ぼす追加電極の付加を含む多くの方法で高次電場を得ることができる。当業者であれば、導入される高次電場の全ての影響を考慮及び認識することができる。例えば、2次元トラップでは、正の十二重極電場と組み合わせた正の四重極電場は、振動振幅の増大に伴ってイオン周波数をx及びyの両方で増大させることになる。従って、八重極項及び十二重極項の加算効果(並びに他の高次多重極電場項)を考慮すべきである。これは、イオンの挙動を支配する全ての多重極電場項の組み合わされた効果となる。
【0079】
異なる次元において2つの波形を印加するこれらの考察では、1つの次元における低m/zイオン及び他の次元における高m/zイオンの排出について説明した。或いは、2つの波形は、低m/zイオン及び高m/zイオンの両方を排出してもよい。2つの波形が同時に印加される場合には、全ての不要イオンは運動エネルギーを得ることができ、いずれかの次元で排出することができる。これは、2つの次元においてイオン運動の望ましくない結合作用を引き起こす恐れがある。波形を順次的に印加する方が良い場合もある。振幅依存性周波数シフトによって与えられる分離分解能の改善を利用するには、分離ウィンドウにおいて急勾配を生じない側上でノッチをより広くすることが最も良い場合がある。第1の波形では、例えば低m/z側上に急勾配を与えるように設定され、第2の波形では、高m/z側上に急勾配を与える。高m/z側上で分離ウィンドウの緩やかな傾斜を生じるのを回避するために、追加の周波数成分が第1の波形の高m/z側において除外されることになる。第2の波形は、高m/z側上で急勾配を生成することになる。同様に、低m/z側上で分離ウィンドウの緩やかな傾斜を生じるのを回避するために、追加の周波数成分が第2の波形の低m/z側において除外されることになる。低m/z側上で幾つかの周波数成分を有する利点は、形成されたフラグメントイオンが排出される点である。これは、これらの周波数が所望のm/z下限にあまり近接しない限り有利である。
【0080】
本明細書では2Dリニアイオントラップについて詳細に説明したが、これらの技術はまた、3D四重極イオントラップにおいても使用することができる。従来の3次元(3D)四重極イオントラップは、引用により全体が本明細書に組み込まれる米国特許第4,540,884号に記載されている。主四重極トラッピング電場上に重畳された正の主要八重極電場を有する3Dイオントラップは、開口を含むエンドキャップ電極を外形が四重極電場の等電位面に一致する位置から外側に変位させ、双曲線形状を変えることなくリング電極のr0を縮小させることとによって達成することができる。イオン周波数は、z方向において振動振幅が増大するにつれて高くなる。排出波形の高周波成分及び排出周波数波形の低周波成分は、それぞれz及びr方向において励起されることになる。これは、ドーナツ型リング電極を4つのセグメントに分割することにより達成することができる。その結果、r次元を明確にx及びy方向に分けて、近似双極子共鳴励起をいずれかの方向又は両方向に別個に印加することができるようになる。一例として、排出波形の低周波成分と排出周波数波形の高周波成分との組合せを、x、y、及びzの全ての組合せ、すなわちx及びy、x及びz、y及びzに印加することができる。勿論、3つの異なる波形を印加して、例えば3つの方向x、y、及びzの各次元において分極された異なる排出波形双極子電場を生成することも可能である。幾つかの構成及び組合せによって、1つではなく2つの合成分離プロフィールウィンドウを形成することができる。
【0081】
本発明の方法は、デジタル電子回路、又はコンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又はそれらの組合せにおいて実装することができる。本発明の方法は、データ処理装置(例えば、プログラマブルプロセッサ、コンピュータ、又は多重コンピュータ)により実行され、或いはデータ処理装置の動作を制御するために、コンピュータプログラム製品として、すなわち情報担体(例えば機械可読記憶装置又は伝播信号)において有形的に具現化されるコンピュータプログラムとして実装することができる。コンピュータプログラムは、コンパイラ型言語又はインタープリタ型言語を含むプログラミング言語のいずれの形式で記述されてもよく、スタンドアロンプログラムとして、又はモジュール、コンポーネント、サブルーチン、或いはコンピュータ環境での使用に好適な他のユニットとして含むいずれかの形態でも展開することができる。コンピュータプログラムは、1つの場所にあるか、或いは複数の場所にわたって分散され通信ネットワークによって相互接続された1つのコンピュータ又は多重コンピュータ上で実行されるように展開することができる。
【0082】
本発明の方法段階は、コンピュータプログラムを実行し、入力データに対して動作して出力を生成することにより本発明の機能を果たす1つ又はそれ以上のプログラマブルプロセッサを用いて実施することができる。方法段階はまた、例えばFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)又はASIC(特定用途向け集積回路)のような特定用途向け論理回路によって実施することができ、本発明の装置は、該特定用途向け論理回路として実装することができる。
【0083】
コンピュータプログラムの実行に好適なプロセッサは、例証として、汎用及び特定用途の両方のマイクロプロセッサ、及びデジタルコンピュータのいずれかの種類のいずれかの1つ又はそれ以上のプロセッサを含む。一般に、プロセッサは、命令及びデータを読出し専用メモリ又はランダムアクセスメモリ又はその両方から受け取ることになる。コンピュータの基本的な要素は、命令を実行するためのプロセッサと、命令及びデータを記憶するための1つ又はそれ以上のメモリデバイスである。一般に、コンピュータはまた、例えば磁気ディスク、磁気光ディスク、又は光ディスクのような、データを保管するための1つ又はそれ以上の大容量記憶装置を含み、或いはこれからデータを受け取り又はこれにデータを転送し若しくは両方を行うように動作可能に結合される。コンピュータプログラム命令及びデータを具現化するのに好適な情報担体は、例証として、例えばEPROM、EEPROM、及びフラッシュメモリデバイスのような半導体メモリデバイス;例えば内蔵ハードディスク又はリムーバブルディスクのような磁気ディスク;磁気光ディスク;並びにCD−ROM及びDVD−ROMディスクを含む、不揮発性メモリの全ての形式を含む。プロセッサ及びメモリは、特定用途向け論理回路を用いて補完或いは組み込まれてもよい。
【0084】
ユーザとの対話を可能にするために、本発明は、例えばCRT(陰極線管)又はLCD(液晶ディスプレイ)モニタのような、情報をユーザに表示するための表示装置、キーボード、及び、例えばマウス又はトラックボールのようなユーザがコンピュータへの入力を与えることができるポインティングデバイスを有するコンピュータ上に実装することができる。他の種類のデバイスを使用して、同様にユーザとの対話を可能にすることができ、すなわち、例えば、ユーザに提供されるフィードバックは、例えば視覚フィードバック、聴覚フィードバック、又は触覚フィードバックのような感覚フィードバックのいずれかの形態とすることができ;ユーザからの入力は、音響、言語、又は触覚入力を含むどのような形態でも受け取ることができる。
【0085】
本発明の特定の実施形態に関する上記の説明は、例証及び説明の目的で提示される。これらは、包括的ではなく、又は開示された正確な形態に本発明を限定するものではなく、上記の教示の観点から多くの明確な修正形態及び/又は変形形態が実施可能である。実施形態は、本発明の原理及びその実用的用途を最も良く説明するために選択され説明されており、これによって当業者は、企図される特定の用途に好適な様々な修正形態と共に本発明及び種々の実施形態を利用することができるようになる。本発明の範囲は、添付の請求項並びにその均等物によって定義されるものとする。
【0086】
当業者であれば、種々の例示的な実施形態に基づいて説明された特徴を組み合わせることが可能であり、場合によっては、本発明の別の例示的な実施形態を形成することができるであろう。
【0087】
本発明をその詳細な説明と共に説明してきたが、上述の説明は例証を意図するものであり、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は、添付の請求項の範囲によって定義される点を理解されたい。他の態様、利点、及び修正は、添付の請求項の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】例示的分離ウィンドウ及び対応する排出周波数波形ノッチを示す概略図である。
【図2】排出波形に対する例示的な目標ノッチ周波数エッジ、及び目標周波数ノッチを広帯域排出周波数波形において離散周波数成分に丸めた結果得られる実ノッチ周波数エッジを示す概略図である。
【図3】排出波形に対する例示的な目標ノッチ周波数エッジ、及び目標周波数ノッチを広帯域排出周波数波形において離散周波数成分に丸めた結果得られる実ノッチ周波数エッジを示す概略図である。
【図4a】排出波形に対する離散周波数成分の使用の結果得られる例示的な分離ウィンドウを示す概略図である。
【図4b】排出波形に対する離散周波数成分の使用の結果得られる例示的な分離ウィンドウを示す概略図である。
【図5a】従来技術の分離技術を用いた結果得られる非対称分離プロフィールを示す概略図である。
【図5b】従来技術の分離技術を用いた結果得られる非対称分離プロフィールを示す概略図である。
【図6a】2Dリニア四重極イオントラップ、及び2Dリニア四重極イオントラップの電極にRF及びAC電圧を印加する回路を示す概略図である。
【図6b】2Dリニア四重極イオントラップ、及び2Dリニア四重極イオントラップの電極にRF及びAC電圧を印加する回路を示す概略図である。
【図7】3D四重極イオントラップ、及び3D四重極イオントラップの電極にRF及びAC電圧を印加するための回路を示す概略図である。
【図8】従来技術の方法に従ってどのようにm/z範囲の分離が得られるかを示す概略図である。
【図9】段階的手法を用いて本発明の1つの様態に従ってどのようにm/z範囲の分離が得られるかを示す概略図である。
【図10a】本発明の1つの様態による四重極イオントラップの動作方法を示すフローチャートである。
【図10b】本発明の1つの様態による四重極イオントラップの動作方法を示す概略図である。
【図11】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図12】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図13】排出周波数波形を緩慢な順方向及び逆方向スキャンと組み合わせる傾斜スキャン手法を使用して本発明の1つの様態に従ってどのようにm/z範囲の分離が得られるかを示す概略図である。
【図14】本発明の1つの様態による四重極イオントラップの動作方法を概略的に示すフローチャートである。
【図15】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図16a】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図16b】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図16c】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図16d】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図17】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図18】本発明の1つの様態による四重極イオントラップの動作方法を示す概略図である。
【図19】本発明の1つの様態に従う四重極イオントラップの動作方法を概略的に示すフローチャートである。
【技術分野】
【0001】
本出願は、四重極イオントラップにおけるイオン分離に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極イオントラップは、質量分析計において予め定義された特定の範囲内の質量電荷比(m/z、ここでmは質量、zは素電荷の数)を有するイオンを保存するのに使用される。イオントラップでは、保存されたイオンを操作することができる。例えば、特定の質量電荷比を有するイオンを分離又は分解することができる。また、イオンは、質量電荷比に基づきイオントラップから検出器に選択的に排出又は除去し質量スペクトルを生成することができる。保存されたイオンはまた、フーリエ変換型アナライザ、RF四重極型アナライザ、飛行時間型アナライザ、又は第2の四重極イオントラップアナライザなどの関連付けられたタンデム質量アナライザに抽出、移動、又は排出することができる。
【0003】
全てのイオントラップは、効率的に保存又は操作可能なイオン数に制限がある。加えて特定のイオンの構造情報を得るには、特定のm/z(又は複数のm/z)を有するイオンをイオントラップにおいて選択的に分離し、他の全てのイオンをイオントラップから除去することが必要となる可能性がある。MS/MS試験では、分離されたイオンはその後プロダクトイオンに分解され、特定のイオンの構造情報を取得するために分析される。従って、イオントラッピング機器におけるイオン分離を効率的にする幾つかの必要性がある。
【0004】
四重極イオントラップは、実質的に四重極電場を使用してイオンをトラップする。純粋な四重極電場では、イオンの運動は、Mathieuの方程式と呼ばれる2次微分方程式に対する解で数学的に記述される。2次元及び3次元四重極イオントラップの両方を含む全ての高周波(RF)及び直流(DC)四重極デバイスに適用する一般的事例に対して解を展開することができる。2次元四重極トラップは米国特許第5,420,425号に記載され、3次元四重極トラップは米国特許第4,540,884号に記載されており、この両方は引用により全体が本明細書に組み込まれる。
【0005】
一般的に、Mathieuの式の解及びイオンの対応する運動は、換算パラメータau及びquによって特徴付けられ、ここでuは、電場の対称軸に沿った変位に対応するx、y、又はzの空間方位を表わす。
au=(KaeU)/(mro2ω2) qu=(KqeV)/(mro2ω2)
式中、
V=印加高周波(RF)正弦波電圧の振幅
U=印加直流(DC)電圧の振幅
e=イオンの電荷
m=イオンの質量
ro=デバイスの特性寸法
ω=2πf
f=RF電圧の周波数
Ka=auに対するデバイス−電場幾何形状依存係数
Kq=quに対するデバイス−電場形状依存係数
【0006】
RF電圧は、イオンの運動をデバイス内部に閉じ込めるように作用するRF四重極電場を生成する。この運動は、特性周波数(一次周波数とも呼ばれる)及び付加的な高次周波数で特徴付けられ、これらの特性周波数は、イオンの質量及び電荷に依存する。また別の特性周波数が、四重極電場が作用する各次元と関係付けられる。すなわち、3次元四重極イオントラップにおいて別個の軸方向(z次元)及び半径方向(x及びy次元)の特性周波数が指定される。2次元四重極イオントラップでは、イオンは、x及びy次元において別個の特性周波数を有する。特定のイオンに対しては、特定の特性周波数は、イオンの質量及びイオンの電荷の他、トラッピング電場の幾つかのパラメータにも依存する。
【0007】
イオンの運動は、その特性周波数の1つ又はそれ以上を有する補助AC電場を用いてイオンを共鳴させることによって励起することができる。補助AC電場は、比較的小さな振動(AC)電位を適切な電極に印加することによって、主四重極電場上に重畳される。特定のm/zを有するイオンを励起するために、補助AC電場は、イオン運動の特性周波数又はその近傍で振動する成分を含む。1つより多いm/zを有する複数のイオンが励起されることになる場合には、補助電場は、励起されることになる各m/zのそれぞれの特性周波数で振動する複数の周波数成分を含むことができる。
【0008】
補助AC電場を生成するために、波形発生器により補助波形を生成し、生成された波形を伴う電圧が変圧器により適切な電極に印加される。補助波形は、幾つかの相対位相と共に加えられるあらゆる数の周波数成分を含むことができる。本明細書ではこれらの波形は、共鳴排出周波数波形又は単に排出周波数波形と呼ぶ。これらの排出周波数波形を用いて、一連の不要イオンをイオントラップから共鳴排出させることができる。
【0009】
イオンの特性周波数に近い振動周波数成分を含む補助電場によってイオンが駆動されると、イオンは、電場から運動エネルギーを得る。十分な運動エネルギーがイオンに結合される場合には、その振動振幅は、イオントラップの閉じ込めを越えることができる。イオンはその後、トラップの壁に衝突し、或いは適切な開口が存在する場合にはイオントラップから排出されることになる。
【0010】
異なるm/zのイオンは異なる特性周波数を有するので、異なるm/zのイオンの振動振幅は、イオントラップを励起することによって選択的に決定することができる。振動振幅のこの選択的操作を使用して、トラップから不要イオンを何時でも除去することができる。トラップが最初にイオンで満たされると、例えば排出周波数波形を利用し、イオン蓄積中にm/z比の狭い範囲を分離することができる。このような方法により関心のあるイオンだけでトラップを満たすことができるので、高い信号対ノイズ比で所望のm/z比を検出することが可能になる。また、MS/MS試験を実施するためにトラップを満たした後、又はMSn試験における各解離段階後に特定のm/zの範囲をイオントラップ内部で分離することができる。
【0011】
イオン分離は、正弦波で表わされる離散周波数成分を加算することによって通常生成される広帯域共鳴排出周波数波形を使用して実行することができる(米国特許第5,324,939号に記載)。すなわち加算された正弦波は、排出を望むイオンのm/zの範囲に対応するが保持を望むイオンのm/zの範囲に対応する周波数成分を除いた離散周波数を有する。除外された周波数は、排出周波数波形における周波数ノッチを定める。従って、排出周波数波形が印加された時には、不要なm/zを有するイオンは、これらのm/z比値が排出波形に欠けている周波数成分のものに相当するので、所望のm/zのイオンが保持されるときには基本的に同時に排出又は他の方法で除去することができる。
【0012】
全ての不要イオンを実質的に同時に排出又は他の方法で除去するためには、排出周波数波形が近接した離散周波数成分を含む必要がある。従って、排出周波数波形は通常、多数の正弦波から生成される。一般的には、このような波形生成の制御は複雑な問題である。正弦波の離散周波数が均一な間隔にあり、各正弦波が同一の相対振幅を有する場合には、この一般的な問題を簡単にすることができる。
【0013】
波形生成を更に簡略化するために、離散周波数は、比較的広範囲にわたって離隔(例えば、少なくとも1500Hz間隔を置いて)することができ、システムは、周波数成分の間にあるイオンを共鳴状態にさせるようにRF電圧を変調する手段を含むことができる(例えば、米国特許第5,457,315号を参照)。
【0014】
実質的に1amu(原子質量単位、1.660538×10-27キログラム)よりも小さい幅のm/z範囲を分離することが望ましい場合には、広帯域排出周波数波形は、波形生成が実施可能でなくなる程近接して配置された多くの周波数成分を必要とする可能性がある。更に、このような波形は、利用される場合には非現実的な長時間の間印加されなければならない。例えば、760kHzのRF周波数では、500Hz間隔でm/z1200を超えて一様な単位分解能分離を得ることは困難である。代替の技術では、補助電場は、単一の周波数成分だけを含み、不要イオンは、トラッピングRF電圧の振幅を緩慢に増大又は減少させることにより排出される(Schwartz,J.C.;Jardine,I.Rapid Comm. Mass Spectrum.6 1992 313を参照)。
【0015】
【特許文献1】米国特許第5,420,425号公報
【特許文献2】米国特許第4,540,884号公報
【特許文献3】米国特許第5,324,939号公報
【特許文献4】米国特許第5,457,315号公報
【特許文献5】米国公開特許出願2003−0173524A1公報
【非特許文献1】Schwartz,J.C.;Jardine,I.Rapid Comm. Mass Spectrum.6 1992 313
【発明の開示】
【0016】
予め定義された狭いm/z範囲内のイオンは、電場を調整し排出波形を用いることによってイオントラップ内で分離される。従って、質量電荷比分離ウィンドウは、周波数成分の数を増やすことなく制御され、改良された分解能を有する。
一般的には、本発明は、イオントラップでイオンを分離するための方法及び装置を提供する。イオントラップは、イオントラップ内でイオンの保持に寄与する第1の値を有する電場の生成を利用するように構成される。分離されることになるイオンは、質量電荷比下限及び質量電荷比上限によって定義される質量電荷比のある範囲と特性周波数の対応する初期範囲とを有する。イオントラップは、複数の電極を有する。
【0017】
本発明の1つの態様では、本発明は、排出周波数波形を少なくとも1つの電極に印加する段階を含み、排出周波数波形が少なくとも第1の周波数エッジと第2の周波数エッジとを有し、分離されることになるイオンの範囲の少なくとも対応する初期周波数が、第1及び第2の周波数エッジ間の周波数範囲内に含まれ、第1及び第2の周波数エッジ間の特性周波数の対応する初期範囲を有する全イオンが最初にイオントラップ内に保持されるようにする方法を対象とする。電場は、第2の値から第3の値まで調整されて、第2の値及び第3の値は、分離されることになる質量電荷比範囲の外にある実質的に全てのイオンがイオントラップから除去されるように選択される。
【0018】
本発明の別の態様において、特性周波数は、第1の次元の周波数成分と第2の次元の周波数成分とを含む。イオントラップは、第1の次元に沿って整列された電極と第2の次元に沿って整列された電極とから構成された電極を含み、本方法は、排出周波数波形の第1の部分を第1の次元に対して整列された電極にわたって印加する段階であって、排出波形の第1の部分が第1の次元において少なくとも第1の周波数エッジと第2の周波数エッジとを含み、分離されることになる質量電荷比の範囲の第1の次元における特性周波数の少なくとも対応する初期範囲が、第1のエッジと該第2のエッジとの間の周波数範囲内に含まれるようにする段階と;排出周波数波形の第2の部分を第2の次元に対して整列された電極にわたって印加する段階であって、排出周波数波形の第2の部分が、を第2の次元において第3の周波数エッジと第4の周波数エッジとを含み、分離されることになるイオン範囲の第2の次元における少なくとも対応する初期周波数が、第3のエッジと第4のエッジとの間の周波数範囲内に含まれるようにする段階とを含む。
【0019】
別の態様において、本発明は、少なくとも2つの周波数を備え、少なくとも第1のエッジを有する第1の排出周波数波形を少なくとも1つの電極に印加する段階と、電場を第2の値から第3の値まで調整する段階であって、これらの値は、最初に第1のエッジと質量電荷比範囲の直近の限界との間に特性周波数を有する少なくとも全てのイオンがイオントラップから除去されるように選択されるようにする段階とを含む方法を対象にする。
【0020】
別の態様において、特性周波数成分は、第1の次元の周波数成分と第2の次元の周波数成分とを含む。イオントラップは、第1の次元に沿って整列された電極と第2の次元に沿って整列された電極とから構成される複数の電極を含む。本方法は、少なくとも2つの周波数を備え、少なくとも第1のエッジを有する第1の排出周波数波形を第1の次元に対して整列された少なくとも1つの電極に印加する段階と、電場を第2の値から第3の値まで調整する段階であって、これらの値が、第1のエッジと質量電荷比範囲の直近の限界との間に特性周波数を有する全てのイオンがイオントラップから除去されるように選択する段階とを含む。
【0021】
別の態様において、特性周波数は、第1の次元の周波数成分と第2の次元の周波数成分とを含む。イオントラップは、第1の次元に沿って整列された電極と第2の次元に沿って整列された電極とから構成される電極を含む。本方法は、排出周波数波形の第1の部分を第1の次元に対して整列された電極にわたって印加する段階であって、排出波形の第1の部分が少なくとも2つの周波数を含み、第1の排出周波数波形が少なくとも第1の周波数エッジを有する段階と;排出周波数波形の第2の部分を第2の次元に対して整列された電極にわたって印加する段階であって、排出周波数波形の第2の部分が少なくとも2つの周波数を含み、第2の排出周波数波形が少なくとも第2の周波数エッジを有する段階とを含む。
【0022】
特定の実装は、以下の特徴の1つ又はそれ以上を含むことができる。電場は四重極電場とすることができる。電場は、RF電圧を調整することによって調整することができる。電場はDC電圧を調整することによって調整されてもよい。電場の第2の値は、質量電荷比上限を上回るイオンがイオントラップから排出されるように選択することができる。電場の第3の値は、質量電荷比下限を下回るイオンがイオントラップから排出されるように選択することができる。電場は、1つの段階的遷移で第2の値から第3の値まで調整することができる。段階的遷移は約1ms未満で実施することができる。電場は、少なくとも1つの緩慢な遷移で第2の値から第3の値まで調整することができる。少なくとも1つの緩慢な遷移の時間は、分離されることになる質量電荷比又は必要な分離分解能にある程度依存することができる。電場の第2の値を印加する前に、前の値が印加されて、第1の周波数エッジと第2の周波数エッジとの間に特性周波数の対応する初期範囲があるように、分離されることになる質量電荷比の範囲が設定されるようにすることができる。排出周波数波形は、離散周波数から選択された一連の順序付けられた周波数を用いて生成することができる。離散周波数は、実質的に均一に離間して配置することができる。離散周波数は、互いに約750Hz又はそれ未満で離間して配置することができる。離散周波数は、互いに約500Hz又はそれ未満で離間して配置することができる。電極は、第1の次元に対して整列された電極と第2の次元に対して整列された電極とを含むことができる。排出波形は、第1の次元に対して整列された電極と第2の次元に対して整列された電極とに同時に印加することができる。排出波形は、第1の次元に対して整列された電極及び第2の次元に対して整列された電極に順次的に印加することができる。波形は、少なくとも2つの波形部分を含むことができる。波形部分は、実質的に同時に印加することができる。波形部分は順次的に印加することができる。波形部分は、交互に順次的に複数回印加することができる。2つの波形部分の第1の部分は、排出周波数波形の第1のエッジを定義することができる。2つの波形部分の第2の部分は、排出周波数波形の第2のエッジを定義することができる。排出周波数波形は、少なくとも2つの次元の周波数成分を含むことができる。第1の次元における周波数成分は、第1の次元に対して整列された電極に印加され、これと順次的に、第2の次元における周波数成分は、第2の次元に対して整列された電極に印加することができる。第1の次元における周波数成分は、第1の次元に対して整列された電極に印加され、これと同時に第2の次元における周波数成分は、第2の次元に対して整列された電極に印加することができる。イオントラップは、RF四重極イオントラップとすることができる。RF四重極イオントラップは、2Dイオントラップとすることができる。RF四重極イオントラップは、3Dイオントラップであってよい。
【0023】
別の態様において、本発明は、上記方法に従ってイオントラップを制御する命令を備えたコンピュータ可読媒体内に有形に具現化されるコンピュータプログラム製品を対象にする。
【0024】
本発明は、以下の利点の1つ又はそれ以上を実現するために実装することができる。高分解能分離は、1Th(トンプソン=amu/素電荷数)よりも狭いm/z範囲の分離として定義される。例えば、これは、0.5Th、0.3Th、0.1Th、又は<0.1Thのm/z範囲の分離を意味する可能性がある。場合によっては、1Th又はそれ以上のm/z範囲の分離でさえも動作条件の特定のセットの下では実施可能ではない。これらの場合には、高分解能分離は、別の分離技術を用いて実施可能なものよりも更に狭いm/z範囲を分離することを意味する。高分解能分離は、分離中に形成されるあらゆるフラグメントイオンを排出する能力を維持しながら達成することができ、その結果、既存の高分解能分離方法における問題を解決する。高分解能分離は、周波数ノッチエッジ近傍に特定の周波数項(すなわち、離散周波数の正規の及び/又は均一な間隔に位置しない周波数項)を導入することなく均一な離散周波数を用いて達成することができる。実質的に四重極イオントラップは、イオン周波数がイオントラップの1つの次元(例えばx)における振動振幅の増大と共にシフトアップし、他の次元(例えばy)における振動振幅の増大と共にシフトダウンするように構成することができる。x方向における排出周波数波形ノッチを上回る周波数とy方向における排出周波数波形ノッチを下回る周波数とでイオンを励起することによって、先鋭で対称的な合成分離プロフィールウィンドウを得ることができ、このウィンドウはまた、完全な分離試験の分離分解能を改善することになる。
【0025】
本発明のこれら並びに別の特徴及び利点は、添付図面の各図を参照しながら以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0026】
別に指定されない限り、本明細書で使用される全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する当業者によって通常理解される意味を有する。矛盾がある場合には、定義を含む本明細書が規定する。別に指定されない限り、用語「含む」及び「含んでいる」は、非限定的な意味で用いられ、すなわち「含まれる」対象は、より大きな集合体又はグループの一部又は構成要素であって集合体又はグループの他の部分又は構成要素の存在を排除しないことを示すのに使用される。開示される材料、方法、及び実施例は、例証に過ぎず、限定を意図するものではない。当業者であれば、本明細書で説明したものと類似した又は均等な方法及び材料を用いて、本発明を実施することができる点を理解するであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1は、質量電荷比(m/z)範囲の例示的な分離ウィンドウ100(図表A)を示し、この比の範囲は、質量電荷比上限110及び質量電荷比下限105によって定義される。また、周波数スペクトルにおける対応する排出周波数波形ノッチ115(図表B)も示され、該排出周波数波形ノッチは、第1及び第2のエッジ120、125でそれぞれ定義される。該波形により、分離されることになる質量範囲外のイオンの少なくとも一部をイオントラップから排出することが可能になる。分離ウィンドウ100は、3次元四重極イオントラップ内に保持されるイオンでは、本実施例においてm/z99.5Thから100.5Thまでのm/z比の範囲である。周波数ノッチ115は、分離ウィンドウ100に基づいて定義され、排出波形の周波数スペクトル内で欠けている周波数範囲である周波数間隙を指定する。実施例では、周波数ノッチ115は、公称分離q=0.83(軸方向次元)及びω=2π1022.64kHzのRF周波数に基づいて計算される。イオントラップに印加されるRF振幅は、所望のm/zウィンドウ100内において保持されることになるイオンが、欠けている周波数成分にほぼ対応する特性周波数を有するように設定される。不要イオンは、m/z分離ウィンドウ100の外にあるm/z値と、理想排出波形周波数ノッチ115の外にある特性周波数とを有する。よって不要イオンは、周波数ノッチ115を有する排出周波数波形に基づいて生成された補助AC電場からエネルギーを吸収し、イオントラップから排出されることになる。或いは不要イオンは、補助AC電場からエネルギーを吸収し、例えば、イオントラップ内の電極であるロッドへ衝突させることによって不要イオンが中性化又は除去されるように軌道を生成する。
【0028】
図2は、離散周波数を含む周波数スペクトルの周波数ノッチを示す。離散周波数は、排出周波数波形を構成するのに使用される有限数の正弦波に割当てられる。例えば典型的な広帯域周波数波形は、500Hz(波形の周期が2ms)毎に間隔を置いた10kHzから500kHzの間の離散周波数を有する正弦波周波数成分から構成される。すなわち、本実施例では、全部で981個の離散周波数が排出周波数波形の生成に使用される。不要イオンの全てを効率的に排出するのに十分な数の周波数成分が存在するように周波数間隔が正確に選択される場合には、波形周波数成分の間に特性周波数を有するこうしたイオンでも排出されることになる。
【0029】
離散周波数の間隔は、効率的に分離することができる最小のm/z範囲によって定められる分離分解能を制限する。離散周波数が500Hzの増分で間隔が置かれる場合には、除去される周波数は、500Hzの整数倍の実排出波形周波数ノッチを定める。すなわち実周波数ノッチは、分離幅に量子化値をもたらす。実排出周波数波形ノッチが目標分離ウィンドウよりもより狭くならないように離散周波数を丸めることは一般的に行われている。
【0030】
図2は、第1及び第2の例示的な排出波形周波数スペクトル(図表a及びb)を示し、それぞれ目標周波数ノッチ220及び230、及び丸められた対応する周波数ノッチ220及び240を備えている。第1及び第2の周波数スペクトルは、離散周波数成分を実質的に指定し、離散的逆フーリエ変換計算又は同様のものによる排出周波数波形を生成するのに使用することができる。両方のスペクトルにおいて、離散周波数は、500Hz毎に間隔が置かれ、各離散周波数に対して、相対振幅が対応する垂直方向の実線の長さで表わされる。離散周波数の相対位相は、米国特許第5,324,939号で教示されるような特定の方法で設定されるべきである。
【0031】
目標周波数ノッチ210及び230は、それぞれの所望の分離ウィンドウに対応し、分離ウィンドウ100のノッチと類似する。目標ノッチ210は、周波数エッジ211及び212によって定められ、目標ノッチ230は、周波数エッジ231及び232によって定められる。離散周波数が排出周波数波形の生成に使用される場合には、周波数エッジ211、212、231及び232は、最も近い500Hzに丸められる(低い周波数エッジに切り下げられ、高い周波数エッジに切り上げられる)。従って、丸められた周波数ノッチ220及び240の幅は、目標周波数ノッチ210及び230よりもそれぞれ広い。本実施例では、目標周波数ノッチ210及び230は、m/z69±0.5Th及びm/z614±0.5Thの分離ウィンドウにそれぞれ対応する。この丸め処理は、最少ノッチ幅が本実施例における所望のノッチ幅である±0.5Thに少なくとも対応することを保証する。よって目標ノッチ210及び230の各々は、異なる公称m/z値に対するものであるが、同一の公称分離qにおいて1.0amu/単位電荷(Th)の同一幅を有する分離ウィンドウに対応する。より高いm/zイオンは互いにより近接して配置された特性周波数を有するので、目標周波数ノッチ210(69Thを中心とするm/z)は、目標周波数ノッチ230(614Thを中心とするm/z)よりも大きな周波数幅を有する。同様の効果により、丸め誤差は高いm/zイオンにおいてより顕著である。
【0032】
図3は、目標周波数ノッチと丸められた周波数ノッチを、分離qが0.83の1Thのような固定分離ウィンドウ幅に対する中心m/zの関数として比較する。各周波数ノッチは、周波数エッジの対応するペアで表わされる。破線は、目標周波数ノッチの周波数エッジを表わし、実線は、最も近い500Hzに丸められた対応する周波数ノッチを定める関連する量子化排出波形周波数を表わす。丸め処理の影響は、破線とそれぞれの実線との間の差によって明確に示される。
【0033】
図4a及び図4bは、丸められた分離幅(m/z単位)420及び440をそれぞれ示し、分離ウィンドウの中心m/zの関数として示された第1及び第2の図表が図示されている。丸められた分離幅420及び440は、本実施例にて同一の1Thの値を有する目標分離幅410及び430に対応する。丸められた分離幅420及び440は、離散周波数成分の異なる間隔を使用して排出波形を構成することによって得られる。
【0034】
丸められた分離幅420は、各500Hzにおける離散周波数を使用することに対応し(図4a)、丸められた分離幅440は、各250Hzにおける離散周波数を使用することに対応する(図4b)。周波数間隔区間が500Hzから250Hzにまで減少すると、丸められた分離幅の精度が高くなる。しかしながら周波数間隔の減少は、排出波形の計算に2倍の正弦波成分を必要とする。波形が2倍の長さになるので、波形計算は2倍よりも長くなり、デジタル化された波形を保存するのに2倍の量のメモリが必要となる可能性がある。
【0035】
図6a〜図7は、イオン分離に使用することができる例示的装置を示す。代替的な実装では、異なる装置を用いて、本発明の1つ又はそれ以上の態様を実装することができる。
【0036】
図6aは、リニア又は2次元(2D)四重極イオントラップの例示的な四重極電極構造600を示す。四重極構造は、対向電極の2つのセットを含み、該電極は、座標系のz方向に沿った中心軸を有する細長い内部容積を定めるロッドを含む。対向電極のX方向セットは、座標系のx軸に沿って配置されたロッド610及び620を含み、対向電極のY方向セットは、座標系のy軸に沿って配置されたロッド605及び615を含む。605、610、615、620のロッドの各々は、本体又は中央セクション630、及び前部及び後部セクション635、640に切り込まれる。
【0037】
1つの実施形態では、各ロッド(又は電極素子)は、2次元四重極電場の等電位面に実質的に一致するような双曲線プロフィールを有する。高周波(RF)電圧が各ロッドに印加され、1つの位相がX方向セットに印加され、反対の位相がY方向セットに印加される(RF発生器を介して)。これが、x及びy方向におけるRF四重極封じ込め電場を構築し、これらの方向においてイオンを閉じ込めるようにする。また、別の形状の電極素子を用いて、多数の目的に対して適切なトラッピング電場を生成することができる。
【0038】
イオンを軸方向に(z方向に)拘束するために、中央セクション630内の電極は、前部及び後部セクション635、640内のものとは異なるDCポテンシャルを受けることができる。従って、DC「ポテンシャル井戸」が、四重極電場の半径方向封じ込めに加えて、z方向に形成され、全ての3次元におけるイオン封じ込めをもたらす。
【0039】
イオンは、z軸の中心線に沿ってトラップ内に導入され、従って、中央セクション内に効率的に送られる。電極構造を高真空状態で動作させることができ、又は、幾らかのヘリウムを構造内に導入し、ヘリウムとの衝突によって励起イオンの運動エネルギーを失わせるようにすることができる。このようにしてイオンを構造の中央セクション内でより効率的に捕捉することができる。これらの衝突はまた、衝突冷却イオン全てが同様の(小さな)位置及び速度を得るので、性能が改善される。これにより、例えばイオン排出中など、引き続きイオンが操作される時に、イオンは初期状態のより小さなセットが基本的に与えられることになる。
【0040】
開口645は、ロッド605、610、615、620の1つの中央セクション630の少なくとも1つに定められる。追加のAC双極子電場が半径方向に印加されると、トラップされたイオンは、開口645を貫通して中心軸に直交する方向でその質量電荷比に基づいて選択的に排出することができる。本実施例では、開口及び印加双極子電場は、X方向ロッドセット上に存在する。
【0041】
図6bは、RF及びAC電圧を2次元イオントラップ600’に印加するための従来の装置を示す。イオントラップ600’では、ロッド電極605、610、615、620は、セグメントに分割されず、従って、装置の説明を簡単に行う。しかしながらRF及びAC電圧を電極605、610、615、620に印加するための基本方式は、ロッド電極がセグメント化される場合には変わらない。例えば、米国公開特許出願2003−0173524A1に記載された、RF及びAC電圧を印加する別の方法が好適であり、必要に応じて使用されてもよい。
【0042】
図7は、第2の例示的なイオントラップ質量分析計である3次元四重極イオントラップ700を示し、ほぼ双曲線プロフィールのリング電極702と、双曲線のプロフィールの互いに面する2つのエンドキャップ704及び706とを含む。RF発生器708によって供給されるRF電圧は通常、リング電極702に印加され、エンドキャップ704及び706は、RF電圧に対し接地電位にある。これによって3次元、x、y、及びz全てにおいてRF四重極封じ込め電場が構築されるが、これは半径方向に対称なデバイスであることにより、イオンの運動は半径方向(r)及び軸方向(z)の変位に関して検討される場合が多い。リング電極を4つのセクションに切り込むこむことができ、従って、x及びy次元において独立した励起をこうしたデバイス内に生成することができる点に留意されたい。エンドキャップ704及び706の両端には、変圧器750を介してAC発電機738により追加の双極子励起AC電場を印加することができる。デジタル信号プロセッサ又はコンピュータ712は、RF発生器708及び最終的にはRF増幅器710に対してRF制御電圧を形成するRF電圧制御ゼネレータ714を駆動し、RF増幅器710は、リング電極上にRF電圧(傾斜していてもよい)を印加する。RF電圧は、エンドキャップ704、706間に印加されるACの略双極子電場と組み合わされて、質量分析されることになるイオンをトラップの中心から排出させる。
【0043】
イオントラップ600及び700の両方において、本発明の各種の態様は、関連電場が別の次元で印加される差を用いて実装することができる。
【0044】
多重周波数共鳴排出波形を使用して特定のm/z又はm/zの範囲のイオンを分離することができることは、上記で詳細に説明された。この多重周波数共鳴波形は、トラップから排出されことになるイオンのm/zに対応する運動の特性周波数に一致又はほぼ一致する周波数成分を含む。これらの排出周波数波形は、指定された間隔を有する離散周波数の範囲全体を通じて多くの正弦波成分を加算することによって生成することができる。トラップ内に保持されることになるイオンの特性周波数に一致する周波数成分は、代表的波形から除外される。除外された成分は、排出波形の周波数スペクトル内に離散排出周波数波形ノッチを定める。本発明の1つの態様によれば、該離散周波数ノッチを用いて、m/z分離ウィンドウを指定することができ、その幅及び中間点は図8から図10を参照して以下に詳細に説明されるように連続的に変更することができる。
【0045】
図8は、引用により全体が本明細書に組み込まれる米国特許第5,324,939号に記載のような従来方法によって計算された例示的な排出周波数波形を示す。例示的な排出波形は、隣接する成分の周波数間に500Hzの間隔を有する離散周波数成分を使用する。目標排出波形周波数ノッチは、分離が必要とされるm/z範囲、及び分離が実行されることになるqによって定義される。m/z範囲の下限をm1で識別し、m/z範囲の上限をm2で識別する。m1及びm2の値に基づいて目標周波数ノッチに対して対応する目標周波数エッジf1及びf2を計算することができる。より高いm/zのイオンは、より低い周波数を有するので、m1<m2に対してf1>f2である点に留意されたい。次いで、目標ノッチの周波数エッジf1及びf2は、最も近い500Hzの外にある周波数f’1及びf’2にそれぞれ丸められる。丸められたノッチの周波数エッジf’1及びf’2は、m’1とm’2との間の丸められたm/z分離範囲に対応する。
【0046】
丸められたノッチの周波数エッジf’1及びf’2は、排出波形内に含まれるが、これらの間に周波数は存在しない。従来技術では、f’1>f1且つf’2<f2であるので、丸め処理により、所望のm/z範囲の外側のイオンの小さな範囲は排出されない結果となる。加えて、m’2よりも僅かに低く且つm’1よりも僅かに高いm/z値を備えるイオンは、それらが電場によって影響を受けるべき波形周波数ノッチエッジに未だ十分に接近しているときに排出されることになる。
【0047】
本発明の1つの態様によれば、この「丸め誤差」が回避され、連続可変の分離ウィンドウを指定することができる。1つの実装では、2つの異なる四重極電場値が分離プロセス中に使用される。本明細書で使用されるように、RF及びDC成分値のいずれか又は両方が既に変化している場合には、四重極電場値は異なるものと考えられ、よって、印加RF電圧及びDC電圧の一方又は両方を調整することによって四重極電場値を変更することができる。第2の四重極電場値は、丸められたノッチ周波数エッジf’2に質量電荷比上限m2を設定し、第3の四重極電場値は、丸められたノッチ周波数エッジf’1に質量電荷比の下限m1を設定する。四重極電場のDC振幅及びRF振幅は高精度に制御可能であるので、指定されたm/z分離ウィンドウ限界m1及びm2は、丸められたノッチ周波数エッジf’1及びf’2で高精度に設定することができ、丸められたノッチエッジと目標ノッチエッジとの間の周波数差を連続的に補償する。本技術はまた、連続した有効分離ウィンドウ幅をm/zで指定することができる。
【0048】
図9、図10a、及び図10bは、本技術の実装を示す。本技術は、2次元又は3次元イオントラップのような四重極イオントラップを含むシステム内に実装することができる。この実装では、分離中に2つの異なるRF電圧値910、920が使用される。分離前では、RF電圧値は、イオントラップ内の広い範囲のイオンをトラップするのに使用される第1の値970に調整される(ステップ1010)。次いでRF又はDC電圧が、第2の電圧値910に調整され(ステップ1020)、排出周波数波形940が印加される(ステップ1030)。RF電圧の第2の値910において、目標イオン範囲のm/z上限m2は、丸められた排出周波数波波形ノッチの下側周波数エッジf’2(第1のエッジ)に対応する。例えば2〜8ms又はそれ以上の時間期間後に、RF電圧は、例えば約1msより小さい範囲内の段階的方法で第3の値920に調整される(ステップ1040)。RF電圧の第3の値920において、目標イオン範囲のm/z下限m1は、丸められた排出周波数波形ノッチの上側周波数エッジf’1(第2のエッジ)に対応する。例えば2〜8msである2ms又はそれ以上のような時間期間後に、排出周波数波形940は停止される(ステップ1050)。RF電圧はまた、出発値又は第1の値970に戻るか又は次のステップに適切な値に設定するように調整することができる。次いで分離されたイオンは、要望どおりに利用される(ステップ1060)。RF電圧は、単一のステップを受けると共に、排出周波数波形が作動される。
【0049】
本実装では、システムは、排出周波数波形で使用される波形周波数成分よりも極めて正確であるRF電圧を調整する。従って、合成分離ウィンドウのエッジでのm/zは高精度に設定することができ、連続可変の分離m/z分解能又はm/z分離ウィンドウを得ることができる。更に、排出周波数波形における周波数間隔は均一であり、これにより、不均一周波数エッジ成分の加算、これらの振幅の制御、又は「エッジスケーリング因子」の利用に伴う問題が回避される。
【0050】
m/z上限及びm/z下限は、質量分析計のオペレータによる入力に応じて設定することができる。1つの実施例では、質量分析計は、オペレータからの関心のあるイオンの選択を受けて、選択されたイオンに関連付けられた予め定義されたm/z限界を使用する。或いは、オペレータがm/z限界を直接入力してもよい。
【0051】
f’2未満とf’1を超える周波数成分全てを同時に使用するのではなく、排出周波数波形を2つの部分に分離することができ、異なるRF電圧値の印加と同期して異なる部分を印加することができる。波形の一部は、分離されることになる質量範囲外の一部のイオン又は実質的に全てのイオンをイオントラップから排出するのを可能にする波形である。例えば、RF電圧が第2の値910を有するときにはf’2未満の周波数成分を印加することができ、RF電圧が第3の値920を有するときにはf’1を超える周波数成分を印加することができる。これは、共鳴される(排出される)イオンのいずれかのフラグメントイオンが共鳴排出プロセス中に生じる可能性があるのであまり望ましいことではない。このようなフラグメントイオンは、排出波形の現在印加された部分が対応する排出周波数成分を持たないm/z値に収まる可能性がある。これらのフラグメントイオンは、分離プロセス後も残存することができ、従って、関心のあるイオンの分離が不完全なものとなる。これらは、プロダクトイオンm/zスペクトルにおいて「アーチファクト」ピークとして現われる恐れがある。従って、波形の全ての周波数成分が分離方法の全持続期間中に同時に印加される場合、これはより効率的である。或いは、このような「アーチファクト」(フラグメント)イオンは、高m/z及び低m/zイオンの多重連続排出サイクルによって最終的には除去することができる。
【0052】
質量スペクトルにおけるこのような「アーチファクト」ピークは、排出波形の2つの部分をトラップ内の別個の次元で印加することによって回避することができる。すなわち、排出波形の高周波成分及び低周波成分を単一の方向に沿って配置された電極に印加するのではなく、高周波成分は、第1の次元で分極される電場を生成するように配置された電極の第1のセットに印加することができ、低周波成分は、第1の次元とは異なる第2の(ほぼ直交する)次元で分極される電場を生成するように配置された電極の第2のセットに印加することができる。例えば上述の2Dリニアトラップでは、排出波形周波数の第1のセットをx次元において2つのロッドにわたり印加することができ、排出波形周波数の第2のセットをy方向において2つのロッドにわたり印加することができる。2Dトラップがイオン分離に使用される場合には、排出イオンは検出されないので、ロッド内にスロットは必要ではない。高周波及び低周波成分が同時且つ異なる方向に向けて印加される場合には、フラグメンテーション(分解)問題は回避することができる。或いは、高周波及び低周波成分を異なる方向に沿って順次的に印加することができ、高周波及び低周波成分の両方を繰り返し印加することによって、フラグメンテーション(分解)「アーチファクト」イオン問題を回避することができる。
【0053】
図8、図9、及び図10aを参照しながら上述された本技術を使用して排出周波数波形ノッチの有効幅を計測する目的で、一連の実験を行った。
【0054】
図11は、化合物パーフルオロトリブチルアミンからのm/z614.0Thイオンの分離に関連付けられた分離ウィンドウの実験的幅を定める実験結果を示す。実験的幅は、分離ウィンドウの異なる目標幅に対して得られた。実験的分離ウィンドウを可視化するために、m/z614Thを含む一連の前駆体m/zを選択した。各前駆体m/zは、対応する分離幅を用いて分離し、614Thにおけるイオンの強度を計測しプロットした。分離中、RF電圧値は、丸められた排出周波数波形ノッチのそれぞれのエッジに質量m1及びm2を連続的に設定するように調整した。RF電圧を調整することなく、丸められた分離ウィンドウは、水平線で示される幅を有した。本質的に、分離ウィンドウの目標幅0.6、0.8、及び1.0は、例えばそれぞれ1、2、及び3つの離散周波数成分が欠けた周波数排出波形を使用することによって得られたと考えることができる。
【0055】
図12は、従来の分離方法及び本発明の1つの態様に従って実装された分離技術に対する分離ウィンドウの幅の比較を示している。従来の分離方法では、上述のように、最も近い500Hzに丸められた周波数成分から生成された排出周波数波形を使用する段階を含み、目標分離ウィンドウに一致しない離散分離幅を定める。対照的に、本発明の1つの態様を実装する技術は、目標分離ウィンドウの分離幅に実質的に一致する実験的分離ウィンドウを生成する。
【0056】
図11及び12に示すデータは、本発明を実装することによって、排出周波数波形ノッチが量子化されているにもかかわらず、分離ウィンドウの幅を連続的に変更することができることを例証している。更に、正味m/z分離ウィンドウの幅は、排出周波数波形の「離散的」周波数間隔によって定義される分解能よりも更に細かくすることができる。分離プロフィールウィンドウのエッジもまた更に精密に制御することができる。
【0057】
代替的な実装においては、図9及び図10aを参照しながら上述した本技術は、様々な又は追加の特徴部を含むことができる。例えば、システムは、より大きな波形ノッチ又は異なる始動RF電圧の利用、又は逆スキャン段階の追加、或いはRF振幅の迅速ジャンプをより低速のスキャン技術との置き換えを行うことができる。代替的技術の例示的実装が図10bに図示されており、図13及び14に要約している。これらの代替的技術は、更に高い分解能の分離を与え、又は「アーチファクト」ピークの発現確率を最小にすることができる。
【0058】
図13及び図14は、同じ目標m/z分離ウィンドウ幅に対して図9を参照して説明された技術におけるよりも幾分大きな排出周波数波形ノッチ幅で排出周波数波形1340が構成された代替的な実装を示す。図10aを参照して説明した方法と同様に、イオントラップ内にイオンをトラップするためにRF電圧が第1の値で印加される(ステップ1410)。より広い排出周波数波形ノッチ幅では、排出周波数波形1340が実際に印加される前に、RF電圧1370は、関心のあるm/z範囲が目標排出周波数波形ノッチの中心に置かれるように設定される(ステップ1415)。これにより、分離されることになる所望のイオンが排出周波数波形ノッチのエッジから離され、本方法の後続の緩慢なスキャン段階の余地が与えられる。次いで、排出周波数波形1340が作動され(ステップ1415)、RF電圧が第2の値1310まで緩慢に傾斜する(ステップ1430)。RF電圧は、時間T1の間で傾斜し、該時間T1は、段階的高周波ケース(図9)に対して排出波形が印加されている間の時間t1よりも長い。例えば時間T1は、10ms、15ms、20ms、又はそれよりも長いなど、5msよりも長くすることができる。RF電圧の第2の値1310は逆方向(負方向)に伸びて、m2をf’2の排出周波数波形ノッチのエッジにする。時間T1の間、より高いm/zイオンを関心のあるイオンの最も高いm/zまで共鳴させ、イオントラップから排出する。次いでRF電圧を第1の値1370まで階段的に又はスキャンバックして戻す(ステップ1440)。RF電圧は、第1の値1370から第3の値1320まで緩慢に傾斜される(ステップ1450)。RF電圧は、時間T2の間で傾斜され、該時間T2は、10ms、15ms、20ms、又はそれよりも長いなど、5msよりも長くすることができる。第3の値1320は、m1をf’1の高周波排出周波数波形ノッチエッジに設定する。時間T2の間、より低いm/zイオン(関心のある最も低いm/zを下回る)は、スキャンされて共鳴に至り、イオントラップから排出され、或いは他の場合には除去される。段階的又はスキャン方式において、RF電圧は、第2のRF電圧値に戻り(ステップ1460)、次いで排出周波数波形1340の印加が終わる(ステップ1470)。次いで、本技術によって分離されたイオンは要求に応じて利用される(ステップ1480)。代替的実装では、本方法のスキャン段階、RF電圧が最初に順方向にスキャンされ、次いで逆方向にスキャンされて同様の結果をもたらすように逆にすることができる。
【0059】
図15〜図17は、適切なRF電圧値の選択及びスキャン速度の低減によって高分解能の分離が達成されることを示している。図16aから図16dまでは、分離ウィンドウの幅を比較的高いm/z値で1Th未満まで調整することができることを示している。図11と同様に、実験的分離ウィンドウの幅は、連続的な実験において排出周波数波形ノッチにわたり前駆体m/zを段階的にし、関心のあるイオン強度を分離後質量スペクトルでプロットすることによって可視化される。このケースでは、m/z524.3が、ペプチドMRFAのエレクトロスプレーイオンであり、その強度が、それぞれm/z525.3及びm/z526.3における第2及び第3の同位元素ピークの強度と共にプロットされている。同位元素ピークは、分離分解能に対する考察をもたらす。最良の分離分解能を図16dに示し、該図では0.1m/zの要求分離幅に対し実験的分離幅0.08Thを示す。これは、最大高さの半分において示されるピークの幅である。分離分解能を計算するために、この幅は、分離が行われるm/zすなわちm/z524.3に分けられる。これは、6500よりも大きい分離分解能である。
【0060】
順方向及び逆方向RFスキャン分離段階中に24ms/(Th又は原子質量単位/単位電荷)のRFスキャン速度を使用することによって、化合物メリチンの四重極荷電イオンの単一の炭素13同位元素(図16a)を他の同位元素全てから分離することが可能となる(図16b)。別の利用が図17に示され、ここでは、526Thの同じ公称m/zにおいて関心のある2つのイオンを示している。これらの2つの同重体イオンは、本明細書で説明したもののような高分解能分離技術を用いてのみ個々に分離することができる。分離されると、MS/MSを各イオンに個々に実行し、交差汚染の無い構造情報を与えることができる。
【0061】
上述のように、上記の技術はまた、高周波及び低周波成分をそれぞれ含むもののような2つの部分に排出周波数波形を分割することによって実装することができる。システムは、2つの部分を2つの異なる時間に、又はRF電圧段階と同期して、或いは、例えば2D四重極イオントラップにおけるx及びy電極のような異なる向きの電極上で2つの別個の双極子電場を用いて同時に印加することができる。
【0062】
1つの実装では、システムは、イオントラップの2つの異なる方向に印加される2つの独立した双極子電場によりイオンを分離する。本技術は、振動振幅依存性の周波数変化を活用することによってm/z分離ウィンドウの境界を改善することができる。トラッピング電位場は実質的には四重極であるが、電極及び電極構造内のスロット、孔、間隙、及び形状偏差は、四重極よりも高次の八重極及び他の多重極項を導入することができる。これらの高次項に起因して、トラップされたイオンの振動振幅が増大するにつれて、これらの振動周波数が変化することができる。
【0063】
1つの実装では、第1の方向(例えばx軸に沿う)におけるイオン振動振幅の増大には、当該第1の方向において振動の振動周波数を高め、第2の方向(例えばy軸に沿う)におけるイオン振動振幅の増大には、第2(例えばy)の方向において振動の振動周波数を低くすることが望ましい。本実装では、排出周波数波形は2つの別個の波形に細分され、2つの別個の双極子電場が、排出周波数波形ノッチを上回る高周波と排出周波数波形ノッチを下回る低周波とで生成される。分離中は、高周波波形はx方向に印加され、低周波波形はy方向に印加される。
【0064】
例えば、2次元リニアイオントラップでは、四重極項よりも高次の項は、外形が四重極電場の等電位面に一致する位置から内方に変位されたyロッドにより生成することができる。これは、正の四重極、八重極、十二重極、及び/又はより高次の電位の組み合わせである高次多重極項をトラッピング電場に対して生成し、これによって振動振幅がy方向で増大するとイオン周波数が低下するようになる。又はロッド内のスロットのような開口が存在することで、高次の多重極電場項をもたらすことが知られている。従って、ロッドが全く移動する必要がなく、それでも周波数は振動振幅の増大と共により低い周波数にシフトすることになる。これは、イオン分離には有用となる場合があるが、振動振幅の増大に伴う負方向の周波数シフトは、質量分析時に質量スペクトルの品質不良をもたらすことが示されている。この理由から、質量分析に使用されるスロットを含む対向ロッドは通常、ある程度まで外方に離間して配置され、或いはその外形が変更される。本ケースでは、この延伸は、ロッドスロットの影響を相殺するのを助け、負方向の周波数シフトを弱め、又はより一般的には振動振幅に等しい正方向にすることができる。この結果、同じイオントラップが分離と質量分析の両方に使用される場合には、yロッドを内方に離間して配置すると同時にスロットを含むxロッドは外方に離間して配置し、或いはロッドの外形を適切に鈍化又は先鋭化させることによって、その性能を向上させることができる。
【0065】
ロッドのいずれかの従来位置からの変位を利用し、適切な大きさにされて位置付けられたスロット及び/又は開口の付加と組み合わせ、或いは、電極の表面形状を望ましい電界効果をもたらすような外形にしてRF四重極イオントラップを設計することができる。
【0066】
図5aは、例えば米国特許第5,420,425号に記載の延伸2次元リニアイオントラップのxロッド電極にわたり印加される広帯域排出周波数波形500を概略的に示す。上述のように、周波数のある狭帯域が排出波形周波数から除去され、DC、AC、及びRFのレベルは、関心のあるm/z比の範囲で安定性が維持されるように選択される。この狭帯域周波数は、排出周波数波形ノッチとして知られる。この本双極子電場の周波数成分と一致する特性振動周波数を有するトラップイオンは、励起電場に共鳴結合する。イオントラップは延伸設計であるので、x方向において振動振幅が増大するにつれて、イオン周波数は高くなる。従って、排出周波数波形ノッチ510の範囲内に存在し、周波数ノッチ510の高周波側520(低m/z側)に近い特性周波数を有するトラップイオンは、その振動振幅が増大するにつれて周波数ノッチ510から更に外方にシフトする。イオンは、排出周波数波形ノッチ510の立ち下がりエッジ520の高周波側に「向かって進む」、又は良好に結合するので、このことはイオンの排出を促進させる。それ故に、補助波形の印加が完了(及び終了)した後の時間内に同時に保持されたイオンによりプロットが行われる場合には、図5aの下側に示すように、合成分離ウィンドウの低m/z側は急勾配570を有することになる。
【0067】
他方、低周波側530(高m/z側)に近い特性周波数を有するトラップイオンは、排出周波数波形ノッチ510の外側又は排出周波数波形ノッチの内側で且つ境界近傍で開始できるが、その振幅が増大すると、周波数ノッチ510にシフトすることになる。このシフトに起因してイオンの排出が遅延され、又は阻止される可能性さえある。イオンは、排出周波数波形ノッチ510の立ち上がりエッジ530から本質的に「離れる方向に進む」。それ故に、補助波形が印加され終了した後の時間内に同時に保持されたイオンによりプロットが行われる場合には、合成分離ウィンドウの高m/z側は緩やかな勾配580(図5aを参照)を有し、合成分離ウィンドウのエッジは、不鮮明に見えることになる。これらの周波数シフトの影響を組み合わせて、非対称プロフィール540を生成する。
【0068】
図5bに示すように、500と比較してこの排出波形501から周波数のより狭い範囲を除去することによって高い分解能(511で示すような)を得るようにする試みにおいて、排出周波数波形ノッチ510を更に狭くすることができる。しかしながら、非対称プロフィールは、排出周波数波形ノッチが狭められるときに相対強度(イオン保持)(541を540と比較)が急激に低下して、高分解能を達成する本方法が無効になるような影響をもたらす。
【0069】
これらの作用はまた、排出周波数波形の印加継続期間と、イオンが排出周波数波形から迅速にエネルギーを吸収して排出される方法に影響する他のパラメータとによっても影響される。これらのパラメータは、波形電圧の振幅、イオントラップの圧力、分離q値、及び高次電場成分の振幅の符号を含む。
【0070】
高次電場成分は、八重極電場、及び十二重極電場、並びに他の高次の多重極項電場を含むことができる。正の八重極電場(本明細書の目的におけるもの)は、四重極電場の正極と同じ軸上に正極を有するものとして定義される。一例として四重極電場がx軸上に正極を有する2Dイオントラップを考察する。この四重極電場と共に同時生成され(同じ印加電圧で形成され)、且つこの四重極電場上に重畳された正の八重極電場はまた、x軸上に正極を有することになる。この重畳された正極は、x軸に沿ってより大きな変位において電場を強化する。y軸上では四重極電場は負極を有する。正の八重極電場は、y軸上に正極を有する。八重極電場からのこの正極は、y軸に沿ったより大きな変位における全体の電場を弱める。正の十二重極電場は、x軸上に正極を有するが、y軸上で負極を有する。従って、正の十二重極電場は、x軸及びy軸の両方に沿ってより大きな変位で全体電場を強化する。八重極及び十二重極よりも高次の電場でも同様に動作する。これらの電場におけるイオンの運動の周波数に及ぼす影響を以下に説明する。
【0071】
主として正の四重極(x軸上に正極を備える)及び正の八重極電場から構成される電場を生成するRF四重極イオントラップでは、x次元におけるイオンの振動周波数は、x軸に沿ったイオンの振動振幅が増大するにつれて増大することになる。これは、正の八重極電場がx軸に沿ってより大きな変位で電場を強化する結果である。同一の構造では、y次元におけるイオンの振動周波数は、y軸に沿うイオンの振動振幅が増大するにつれて減少することになる。これは、正の八重極電場がy軸に沿ってより大きな変位において全電場を弱める結果である。
【0072】
同様に、正の四重極(x軸上に正極を備える)を含む電場及び負の八重極電場を生成するRF四重極イオントラップでは、イオンのx次元の振動周波数は、x軸に沿う振動振幅が増大するにつれて減少することになる。同一の構造では、y次元におけるイオンの振動周波数は、y軸に沿うイオンの振動振幅が増大するにつれて増大することになる。
【0073】
四重極及び正の十二重極電場を生成するように設計されたRF四重極イオントラップにより、イオンの振動振幅がx軸及びy軸のいずれかの軸に沿って増大するにつれて対応する振動周波数が増大するように、x軸及びy軸の両方の軸に沿ったイオンの運動に影響を与えることができるようになる。四重極及び負の十二重極電場を生成するように設計されたRF四重極イオントラップにより、イオンの振動振幅がいずれかの軸に沿って増大するにつれて対応する振動周波数が減少するように、x次元及びy次元の両方のイオンの運動に影響を与えることができるようになる。
【0074】
高次多重極電場を備える電場を生成する際には、重畳された多重極電場全てに留意する必要がある。例えば、正の十二重極電場は、正の八重極電場の弱化を克服するのに十分な程度まで、y軸に沿ったより大きな変位での電場を強化することができる。従って、y次元におけるイオン周波数は、正の八重極電場だけの場合のようにy軸に沿って振動が増大するにつれて減少することはできない。
【0075】
この考察では、1つの実施例としてx軸が正の四重極電場極を有する2Dイオントラップを示した。四重極電場がこのように配向されない場合でも同様の動作が生じる。それにもかかわらず、八重極電場は、1つの軸に沿ったより大きな変位において電場を強化すると同時に、他の軸に沿ったより大きな変位においては電場を弱化することになる。十二重極電場では、いずれかの軸に沿ったより大きな変位においても電場を強化することになる。3Dイオントラップにおける高次電場は同様の方法で動作する。r軸及びz軸(円筒座標系)に沿って又は3軸(x、y、及びz)上でのより大きな変位における電場を強化及び弱化する高次電場に関して考察することができる。
【0076】
図18及び図19は、イオン分離を改善するための3つの方法の利用を示している。最初に、イオンは、イオントラッピングステップ1910においてトラップされる。関心のあるイオンのm/z比範囲1810よりも大きなm/z比を有するトラップイオンは、1810よりも大きいm/z比を有するイオンの第1の範囲を排出するために、広帯域排出周波数波形の低周波成分1800によって励起される(ステップ1920)。排出周波数波形のこれらの低周波成分1800は、別個の波形として(排出周波数波形のより高い周波数成分に対して)イオントラップのx方向電極に印加される。x及びy電極は、四重極、八重極、十二重極、及びより高次の電位の組み合わせの結果として得られる電位が、そのy振動振幅が増加するにつれてイオン周波数を負方向にシフトさせるように、離間して配置され且つ外形が形成される。その結果、分離ウィンドウ1810の下限周波数(m/z上限)に近いイオン周波数を備えるトラップイオンは、イオンの振動振幅が増大するにつれて分離ウィンドウから外へシフトする。イオンは分離ウィンドウ1810の立ち上がりエッジ1830に「向かって進む」ので、これによりイオンの排出が促進される。それ故に、排出周波数波形が印加された後に保持されたイオンの相対強度を示すプロットにおいて、合成分離ウィンドウのm/zの上限が図18aの下側に示す急勾配1880を有し、鮮鋭な分離ウィンドウエッジをもたらすことになる。
【0077】
同様に、関心のあるイオンのm/z比の範囲1810よりも小さいm/z比を有するトラップイオンが、1820よりも小さいm/z比を有するイオンの第2の範囲を排出するために、広帯域排出周波数波形の高周波成分1805によって励起される(ステップ1930)。排出周波数波形のこれらの高周波成分1805は、別個の波形として(排出周波数波形のより低い周波数成分に対して)イオントラップのy方向電極に印加される。x及びy電極は、四重極、八重極、十二重極、及びより高次の電位の組み合わせの結果として得られる電位が、そのx振動振幅が増加するにつれてイオン周波数を正方向にシフトさせるように、離間して配置され且つ外形が形成される。その結果、分離ウィンドウ1810の上限周波数(m/z下限)に近いイオン周波数を備えるトラップイオンはまた、イオンの振動振幅が増大するにつれて分離ウィンドウ1810から外へシフトする。これによりまた、イオンが分離ウィンドウ1810のエッジ1820に「向かって進む」ので、イオンの排出が促進される。それ故に、排出周波数波形が印加された後に保持されたイオンの相対強度を示すプロットにおいて、合成分離ウィンドウのm/zの下限がまた、図18aの下側に示す急勾配1870を有することになる。本方法を用いることにより、合成分離ウィンドウのすぐ外側で開始できるどのようなトラップイオンも、合成分離ウィンドウの内側にある周波数まで(従来技術図5のように)シフトすることはできず、上述の従来技術の非対称プロフィール540が排除される。このような最適化された合成分離ウィンドウプロフィールでは、合成分離ウィンドウ1810の幅は、関心のあるイオンの保持効率を低下させることなく図18bに示すように縮小することができる。これは、ノッチエッジがあまり鮮鋭ではないことに起因して関心のあるイオンが損失されることを示す従来技術の541に図示されたものとは異なる。
【0078】
本方法の1つの実装では、1つ又は他の分離波形によって生成され得るいずれかのフラグメントイオンの蓄積を回避するために、2つの波形はx及びy電極対に同時に印加される。或いは、2つの波形は順次的に印加されてもよい。本方法の有効性は、波形印加時間、波形電圧振幅、各方向における非線形高次電場成分の動作、及び分離ウィンドウの周波数の幅を含む幾つかの変数に依存する。双曲線形電極の単純な離間配置、理論双曲線形状からの電極プロフィールの変更、及び合成電場に影響を及ぼす追加電極の付加を含む多くの方法で高次電場を得ることができる。当業者であれば、導入される高次電場の全ての影響を考慮及び認識することができる。例えば、2次元トラップでは、正の十二重極電場と組み合わせた正の四重極電場は、振動振幅の増大に伴ってイオン周波数をx及びyの両方で増大させることになる。従って、八重極項及び十二重極項の加算効果(並びに他の高次多重極電場項)を考慮すべきである。これは、イオンの挙動を支配する全ての多重極電場項の組み合わされた効果となる。
【0079】
異なる次元において2つの波形を印加するこれらの考察では、1つの次元における低m/zイオン及び他の次元における高m/zイオンの排出について説明した。或いは、2つの波形は、低m/zイオン及び高m/zイオンの両方を排出してもよい。2つの波形が同時に印加される場合には、全ての不要イオンは運動エネルギーを得ることができ、いずれかの次元で排出することができる。これは、2つの次元においてイオン運動の望ましくない結合作用を引き起こす恐れがある。波形を順次的に印加する方が良い場合もある。振幅依存性周波数シフトによって与えられる分離分解能の改善を利用するには、分離ウィンドウにおいて急勾配を生じない側上でノッチをより広くすることが最も良い場合がある。第1の波形では、例えば低m/z側上に急勾配を与えるように設定され、第2の波形では、高m/z側上に急勾配を与える。高m/z側上で分離ウィンドウの緩やかな傾斜を生じるのを回避するために、追加の周波数成分が第1の波形の高m/z側において除外されることになる。第2の波形は、高m/z側上で急勾配を生成することになる。同様に、低m/z側上で分離ウィンドウの緩やかな傾斜を生じるのを回避するために、追加の周波数成分が第2の波形の低m/z側において除外されることになる。低m/z側上で幾つかの周波数成分を有する利点は、形成されたフラグメントイオンが排出される点である。これは、これらの周波数が所望のm/z下限にあまり近接しない限り有利である。
【0080】
本明細書では2Dリニアイオントラップについて詳細に説明したが、これらの技術はまた、3D四重極イオントラップにおいても使用することができる。従来の3次元(3D)四重極イオントラップは、引用により全体が本明細書に組み込まれる米国特許第4,540,884号に記載されている。主四重極トラッピング電場上に重畳された正の主要八重極電場を有する3Dイオントラップは、開口を含むエンドキャップ電極を外形が四重極電場の等電位面に一致する位置から外側に変位させ、双曲線形状を変えることなくリング電極のr0を縮小させることとによって達成することができる。イオン周波数は、z方向において振動振幅が増大するにつれて高くなる。排出波形の高周波成分及び排出周波数波形の低周波成分は、それぞれz及びr方向において励起されることになる。これは、ドーナツ型リング電極を4つのセグメントに分割することにより達成することができる。その結果、r次元を明確にx及びy方向に分けて、近似双極子共鳴励起をいずれかの方向又は両方向に別個に印加することができるようになる。一例として、排出波形の低周波成分と排出周波数波形の高周波成分との組合せを、x、y、及びzの全ての組合せ、すなわちx及びy、x及びz、y及びzに印加することができる。勿論、3つの異なる波形を印加して、例えば3つの方向x、y、及びzの各次元において分極された異なる排出波形双極子電場を生成することも可能である。幾つかの構成及び組合せによって、1つではなく2つの合成分離プロフィールウィンドウを形成することができる。
【0081】
本発明の方法は、デジタル電子回路、又はコンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又はそれらの組合せにおいて実装することができる。本発明の方法は、データ処理装置(例えば、プログラマブルプロセッサ、コンピュータ、又は多重コンピュータ)により実行され、或いはデータ処理装置の動作を制御するために、コンピュータプログラム製品として、すなわち情報担体(例えば機械可読記憶装置又は伝播信号)において有形的に具現化されるコンピュータプログラムとして実装することができる。コンピュータプログラムは、コンパイラ型言語又はインタープリタ型言語を含むプログラミング言語のいずれの形式で記述されてもよく、スタンドアロンプログラムとして、又はモジュール、コンポーネント、サブルーチン、或いはコンピュータ環境での使用に好適な他のユニットとして含むいずれかの形態でも展開することができる。コンピュータプログラムは、1つの場所にあるか、或いは複数の場所にわたって分散され通信ネットワークによって相互接続された1つのコンピュータ又は多重コンピュータ上で実行されるように展開することができる。
【0082】
本発明の方法段階は、コンピュータプログラムを実行し、入力データに対して動作して出力を生成することにより本発明の機能を果たす1つ又はそれ以上のプログラマブルプロセッサを用いて実施することができる。方法段階はまた、例えばFPGA(フィールドプログラマブルゲートアレイ)又はASIC(特定用途向け集積回路)のような特定用途向け論理回路によって実施することができ、本発明の装置は、該特定用途向け論理回路として実装することができる。
【0083】
コンピュータプログラムの実行に好適なプロセッサは、例証として、汎用及び特定用途の両方のマイクロプロセッサ、及びデジタルコンピュータのいずれかの種類のいずれかの1つ又はそれ以上のプロセッサを含む。一般に、プロセッサは、命令及びデータを読出し専用メモリ又はランダムアクセスメモリ又はその両方から受け取ることになる。コンピュータの基本的な要素は、命令を実行するためのプロセッサと、命令及びデータを記憶するための1つ又はそれ以上のメモリデバイスである。一般に、コンピュータはまた、例えば磁気ディスク、磁気光ディスク、又は光ディスクのような、データを保管するための1つ又はそれ以上の大容量記憶装置を含み、或いはこれからデータを受け取り又はこれにデータを転送し若しくは両方を行うように動作可能に結合される。コンピュータプログラム命令及びデータを具現化するのに好適な情報担体は、例証として、例えばEPROM、EEPROM、及びフラッシュメモリデバイスのような半導体メモリデバイス;例えば内蔵ハードディスク又はリムーバブルディスクのような磁気ディスク;磁気光ディスク;並びにCD−ROM及びDVD−ROMディスクを含む、不揮発性メモリの全ての形式を含む。プロセッサ及びメモリは、特定用途向け論理回路を用いて補完或いは組み込まれてもよい。
【0084】
ユーザとの対話を可能にするために、本発明は、例えばCRT(陰極線管)又はLCD(液晶ディスプレイ)モニタのような、情報をユーザに表示するための表示装置、キーボード、及び、例えばマウス又はトラックボールのようなユーザがコンピュータへの入力を与えることができるポインティングデバイスを有するコンピュータ上に実装することができる。他の種類のデバイスを使用して、同様にユーザとの対話を可能にすることができ、すなわち、例えば、ユーザに提供されるフィードバックは、例えば視覚フィードバック、聴覚フィードバック、又は触覚フィードバックのような感覚フィードバックのいずれかの形態とすることができ;ユーザからの入力は、音響、言語、又は触覚入力を含むどのような形態でも受け取ることができる。
【0085】
本発明の特定の実施形態に関する上記の説明は、例証及び説明の目的で提示される。これらは、包括的ではなく、又は開示された正確な形態に本発明を限定するものではなく、上記の教示の観点から多くの明確な修正形態及び/又は変形形態が実施可能である。実施形態は、本発明の原理及びその実用的用途を最も良く説明するために選択され説明されており、これによって当業者は、企図される特定の用途に好適な様々な修正形態と共に本発明及び種々の実施形態を利用することができるようになる。本発明の範囲は、添付の請求項並びにその均等物によって定義されるものとする。
【0086】
当業者であれば、種々の例示的な実施形態に基づいて説明された特徴を組み合わせることが可能であり、場合によっては、本発明の別の例示的な実施形態を形成することができるであろう。
【0087】
本発明をその詳細な説明と共に説明してきたが、上述の説明は例証を意図するものであり、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は、添付の請求項の範囲によって定義される点を理解されたい。他の態様、利点、及び修正は、添付の請求項の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】例示的分離ウィンドウ及び対応する排出周波数波形ノッチを示す概略図である。
【図2】排出波形に対する例示的な目標ノッチ周波数エッジ、及び目標周波数ノッチを広帯域排出周波数波形において離散周波数成分に丸めた結果得られる実ノッチ周波数エッジを示す概略図である。
【図3】排出波形に対する例示的な目標ノッチ周波数エッジ、及び目標周波数ノッチを広帯域排出周波数波形において離散周波数成分に丸めた結果得られる実ノッチ周波数エッジを示す概略図である。
【図4a】排出波形に対する離散周波数成分の使用の結果得られる例示的な分離ウィンドウを示す概略図である。
【図4b】排出波形に対する離散周波数成分の使用の結果得られる例示的な分離ウィンドウを示す概略図である。
【図5a】従来技術の分離技術を用いた結果得られる非対称分離プロフィールを示す概略図である。
【図5b】従来技術の分離技術を用いた結果得られる非対称分離プロフィールを示す概略図である。
【図6a】2Dリニア四重極イオントラップ、及び2Dリニア四重極イオントラップの電極にRF及びAC電圧を印加する回路を示す概略図である。
【図6b】2Dリニア四重極イオントラップ、及び2Dリニア四重極イオントラップの電極にRF及びAC電圧を印加する回路を示す概略図である。
【図7】3D四重極イオントラップ、及び3D四重極イオントラップの電極にRF及びAC電圧を印加するための回路を示す概略図である。
【図8】従来技術の方法に従ってどのようにm/z範囲の分離が得られるかを示す概略図である。
【図9】段階的手法を用いて本発明の1つの様態に従ってどのようにm/z範囲の分離が得られるかを示す概略図である。
【図10a】本発明の1つの様態による四重極イオントラップの動作方法を示すフローチャートである。
【図10b】本発明の1つの様態による四重極イオントラップの動作方法を示す概略図である。
【図11】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図12】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図13】排出周波数波形を緩慢な順方向及び逆方向スキャンと組み合わせる傾斜スキャン手法を使用して本発明の1つの様態に従ってどのようにm/z範囲の分離が得られるかを示す概略図である。
【図14】本発明の1つの様態による四重極イオントラップの動作方法を概略的に示すフローチャートである。
【図15】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図16a】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図16b】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図16c】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図16d】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図17】本発明の様態に基づくイオン分離の実験結果を示す図である。
【図18】本発明の1つの様態による四重極イオントラップの動作方法を示す概略図である。
【図19】本発明の1つの様態に従う四重極イオントラップの動作方法を概略的に示すフローチャートである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオントラップにおけるイオンのトラッピングに寄与する第1の値を有する電場の生成を利用して、前記イオントラップにおいてイオンを分離する方法であって、前記イオントラップが少なくとも2つの電極を含み、分離されることになるイオンが質量電荷比下限と質量電荷比上限とによって定義される質量電荷比のある範囲と特性周波数の対応する初期範囲とを有しており、
前記方法が、
少なくとも第1の周波数エッジと第2の周波数エッジとを有する排出周波数波形を少なくとも1つの前記電極に印加する段階であって、分離されることになるイオンの範囲の少なくとも前記対応する初期周波数を前記第1の周波数エッジと前記第2の周波数エッジとの間の前記周波数範囲内に含まれるようにし、前記第1及び第2の周波数エッジ間の特性周波数の前記対応する初期範囲を有する全イオンが最初に前記イオントラップ内に保持されるようにする段階と、
前記電場を第2の値から第3の値まで調整する段階と、
を含み、
前記第2の値及び第3の値は、分離されることになる質量電荷比の前記範囲の外にある実質的に全てのイオンが前記イオントラップから除去されるように選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電場を調整する段階が、RF電圧を調整する段階を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電場を調整する段階が、DC電圧を調整する段階を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の値は、前記質量電荷比上限を上回るイオンが前記イオントラップから除去されるように選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第3の値は、前記質量電荷比下限を下回るイオンが前記イオントラップから除去されるように選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の値は、前記質量電荷比下限を下回るイオンが前記イオントラップから除去されるように選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第3の値が、前記質量電荷比上限を上回るイオンが前記イオントラップから除去されるように選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の値を印加する前に、前の値が印加されて、前記第1の周波数エッジと前記第2の周波数エッジとの間に特性周波数の対応する初期範囲があるように、分離されることになる質量電荷比の範囲が設定されるようにすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記排出周波数波形が、離散周波数から選択された一連の順序付けられた周波数を用いて生成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記離散周波数が、実質的に均一に離間して配置されていることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記排出周波数波形が、少なくとも2つの波形部分を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記2つの波形部分が、実質的に同時に印加されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記2つの波形部分が、順次的に印加されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記波形部分が、交互に順次的に複数回印加されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記2つの波形部分の第1の部分が、前記排出周波数波形の第1のエッジを定義することを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記2つの波形部分の第2の部分が、前記排出周波数波形の第2のエッジを定義することを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記電場を前記第2の値に調整する段階が、前記第1の周波数エッジの一方側に特性周波数を有する実質的に全てのイオンを前記イオントラップから排出することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記電場を前記第3の値に調整する段階が、前記第2の周波数エッジの一方側に特性周波数を有する実質的に全てのイオンを前記イオントラップから排出することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
イオントラップにおけるイオンのトラッピングに寄与する第1の値を有する電場の生成を利用して、前記イオントラップにおいてイオンを分離する方法であって、分離されることになるイオンが、第1の質量電荷比限界と第2の質量電荷比限界とによって定義される質量電荷比のある範囲と特性周波数の対応する初期範囲とを有し、前記特性周波数が、第1の次元の周波数成分と第2の次元の周波数成分とを含み、前記イオントラップが、前記第1の次元に沿って整列された電極と前記第2の次元に沿って整列された電極とから構成される電極を含み、
前記方法が、
前記第1の次元において少なくとも第1の周波数エッジと第2の周波数エッジとを有する排出周波数波形の第1の部分を前記第1の次元に対して整列された電極にわたって印加する段階であって、分離されることになる質量電荷比の前記範囲の前記第1の次元における特性周波数の少なくとも前記対応する初期範囲が、前記第1のエッジと前記第2のエッジとの間の周波数の前記範囲内に含まれるようにする段階と、
前記第2の次元において第3の周波数エッジと第4の周波数エッジとを有する前記排出周波数波形の第2の部分を前記第2の次元に対して整列された電極にわたって印加する段階であって、分離されることになるイオンの前記範囲の第2の次元における少なくとも前記対応する初期周波数が、前記第3のエッジと前記第4のエッジとの間の周波数の前記範囲内に含まれるようにする段階と、
を含む方法。
【請求項20】
前記排出周波数波形の第1の部分と前記排出周波数波形の第2の部分とが、実質的に同時に印加されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記排出周波数波形の第1の部分と前記排出周波数波形の第2の部分とが、順序的に印加されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記電場を第2の値から第3の値まで調整する段階を含み、前記第2の値及び第3の値は、分離されることになる質量電荷比範囲の外側にある実質的に全てのイオンが前記イオントラップから除去されるように選択されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記排出周波数波形が、離散周波数から選択された一連の順序付けられた周波数を用いて生成されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記離散周波数が、実質的に均一に離間して配置されていることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記2つの波形部分の一方を印加する段階が、第1の方向におけるイオンの振動振幅の増大とイオンの第1の振動周波数のシフトとを引き起こすことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記2つの波形部分の他方を印加する段階が、第2の方向におけるイオンの振動振幅の増大とイオンの第2の振動周波数のシフトとを引き起こすことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記第1の方向が、前記第2の方向の反対であることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
四重極イオントラップが、実質的に四重極非線形イオントラップであることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項29】
イオントラップにおける関心のあるイオンのトラッピング及び分離のための装置であって、
複数の電極を有するイオントラップ構造と、
前記複数の電極の少なくとも1つに電圧を印加して、前記イオントラップにおけるイオンの保持に寄与する電場を生成する発電機であって、前記保持されるイオンが質量電荷比下限と質量電荷比上限との間に延びる特定の質量電荷比範囲内に存在する質量電荷比を有する関心のあるイオンを含み、前記電場が前記電圧によって少なくとも部分的に決定される第1の値を有する発電機と、
第1及び第2の周波数エッジによって境界付けられる周波数ノッチを有する周波数分離波形を前記複数の電極の選択された電極に印加するための補助電圧源であって、前記電場が前記第1の値を有する場合に前記関心のあるイオンの特性周波数が前記周波数ノッチの内側に存在する補助電圧源と、
を備え、
前記電場が、第2の値から第3の値まで調整され、前記第3の値は、前記特定の質量電荷比範囲の外側に存在するイオンが前記イオントラップ構造から除去されると共に前記関心のあるイオンは内部に保持されたままとなるように前記保持されたイオンの特性周波数をシフトするよう選択されることを特徴とする装置。
【請求項30】
イオントラップにおける関心のあるイオンのトラッピング及び分離のための装置であって、前記関心のあるイオンが、第1の次元の周波数成分及び第2の次元の周波数成分を含む特性周波数の対応する初期範囲を有し、
前記装置が、
第1の次元に沿って整列された電極と第2の次元に沿って整列された電極とから構成される複数の電極を有するイオントラップ構造と、
前記複数の電極の少なくとも1つに電圧を印加して、前記イオントラップにおけるイオンの保持に寄与する電場を生成する発電機であって、前記保持されるイオンが質量電荷比下限と質量電荷比上限との間に延びる特定の質量電荷比範囲内に存在する質量電荷比を有する関心のあるイオンを含み、前記電場が前記電圧によって少なくとも部分的に決定される第1の値を有する発電機と、
周波数分離波形を前記複数の電極の選択された電極に印加するための補助電圧源と、
を備え、
前記周波数分離波形が前記第1の次元において第1のエッジと第2のエッジとを含む第1の部分を有し、前記電場が前記第1の値を有する場合に前記第1の次元の周波数成分を有する関心のあるイオンが前記第1のエッジ及び第2のエッジ間に存在し、前記周波数分離波形が前記第2の次元において第3のエッジと第4のエッジとを含む第2の部分を有し、前記電場が前記第1の値を有する場合に前記第2の次元の周波数成分を有する関心のあるイオンが前記第3のエッジ及び第4のエッジ間に存在することを特徴とする装置。
【請求項1】
イオントラップにおけるイオンのトラッピングに寄与する第1の値を有する電場の生成を利用して、前記イオントラップにおいてイオンを分離する方法であって、前記イオントラップが少なくとも2つの電極を含み、分離されることになるイオンが質量電荷比下限と質量電荷比上限とによって定義される質量電荷比のある範囲と特性周波数の対応する初期範囲とを有しており、
前記方法が、
少なくとも第1の周波数エッジと第2の周波数エッジとを有する排出周波数波形を少なくとも1つの前記電極に印加する段階であって、分離されることになるイオンの範囲の少なくとも前記対応する初期周波数を前記第1の周波数エッジと前記第2の周波数エッジとの間の前記周波数範囲内に含まれるようにし、前記第1及び第2の周波数エッジ間の特性周波数の前記対応する初期範囲を有する全イオンが最初に前記イオントラップ内に保持されるようにする段階と、
前記電場を第2の値から第3の値まで調整する段階と、
を含み、
前記第2の値及び第3の値は、分離されることになる質量電荷比の前記範囲の外にある実質的に全てのイオンが前記イオントラップから除去されるように選択されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記電場を調整する段階が、RF電圧を調整する段階を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電場を調整する段階が、DC電圧を調整する段階を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の値は、前記質量電荷比上限を上回るイオンが前記イオントラップから除去されるように選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第3の値は、前記質量電荷比下限を下回るイオンが前記イオントラップから除去されるように選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の値は、前記質量電荷比下限を下回るイオンが前記イオントラップから除去されるように選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第3の値が、前記質量電荷比上限を上回るイオンが前記イオントラップから除去されるように選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の値を印加する前に、前の値が印加されて、前記第1の周波数エッジと前記第2の周波数エッジとの間に特性周波数の対応する初期範囲があるように、分離されることになる質量電荷比の範囲が設定されるようにすることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記排出周波数波形が、離散周波数から選択された一連の順序付けられた周波数を用いて生成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記離散周波数が、実質的に均一に離間して配置されていることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記排出周波数波形が、少なくとも2つの波形部分を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記2つの波形部分が、実質的に同時に印加されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記2つの波形部分が、順次的に印加されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記波形部分が、交互に順次的に複数回印加されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記2つの波形部分の第1の部分が、前記排出周波数波形の第1のエッジを定義することを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記2つの波形部分の第2の部分が、前記排出周波数波形の第2のエッジを定義することを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記電場を前記第2の値に調整する段階が、前記第1の周波数エッジの一方側に特性周波数を有する実質的に全てのイオンを前記イオントラップから排出することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記電場を前記第3の値に調整する段階が、前記第2の周波数エッジの一方側に特性周波数を有する実質的に全てのイオンを前記イオントラップから排出することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
イオントラップにおけるイオンのトラッピングに寄与する第1の値を有する電場の生成を利用して、前記イオントラップにおいてイオンを分離する方法であって、分離されることになるイオンが、第1の質量電荷比限界と第2の質量電荷比限界とによって定義される質量電荷比のある範囲と特性周波数の対応する初期範囲とを有し、前記特性周波数が、第1の次元の周波数成分と第2の次元の周波数成分とを含み、前記イオントラップが、前記第1の次元に沿って整列された電極と前記第2の次元に沿って整列された電極とから構成される電極を含み、
前記方法が、
前記第1の次元において少なくとも第1の周波数エッジと第2の周波数エッジとを有する排出周波数波形の第1の部分を前記第1の次元に対して整列された電極にわたって印加する段階であって、分離されることになる質量電荷比の前記範囲の前記第1の次元における特性周波数の少なくとも前記対応する初期範囲が、前記第1のエッジと前記第2のエッジとの間の周波数の前記範囲内に含まれるようにする段階と、
前記第2の次元において第3の周波数エッジと第4の周波数エッジとを有する前記排出周波数波形の第2の部分を前記第2の次元に対して整列された電極にわたって印加する段階であって、分離されることになるイオンの前記範囲の第2の次元における少なくとも前記対応する初期周波数が、前記第3のエッジと前記第4のエッジとの間の周波数の前記範囲内に含まれるようにする段階と、
を含む方法。
【請求項20】
前記排出周波数波形の第1の部分と前記排出周波数波形の第2の部分とが、実質的に同時に印加されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記排出周波数波形の第1の部分と前記排出周波数波形の第2の部分とが、順序的に印加されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記電場を第2の値から第3の値まで調整する段階を含み、前記第2の値及び第3の値は、分離されることになる質量電荷比範囲の外側にある実質的に全てのイオンが前記イオントラップから除去されるように選択されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項23】
前記排出周波数波形が、離散周波数から選択された一連の順序付けられた周波数を用いて生成されることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記離散周波数が、実質的に均一に離間して配置されていることを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記2つの波形部分の一方を印加する段階が、第1の方向におけるイオンの振動振幅の増大とイオンの第1の振動周波数のシフトとを引き起こすことを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項26】
前記2つの波形部分の他方を印加する段階が、第2の方向におけるイオンの振動振幅の増大とイオンの第2の振動周波数のシフトとを引き起こすことを特徴とする請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記第1の方向が、前記第2の方向の反対であることを特徴とする請求項26に記載の方法。
【請求項28】
四重極イオントラップが、実質的に四重極非線形イオントラップであることを特徴とする請求項19に記載の方法。
【請求項29】
イオントラップにおける関心のあるイオンのトラッピング及び分離のための装置であって、
複数の電極を有するイオントラップ構造と、
前記複数の電極の少なくとも1つに電圧を印加して、前記イオントラップにおけるイオンの保持に寄与する電場を生成する発電機であって、前記保持されるイオンが質量電荷比下限と質量電荷比上限との間に延びる特定の質量電荷比範囲内に存在する質量電荷比を有する関心のあるイオンを含み、前記電場が前記電圧によって少なくとも部分的に決定される第1の値を有する発電機と、
第1及び第2の周波数エッジによって境界付けられる周波数ノッチを有する周波数分離波形を前記複数の電極の選択された電極に印加するための補助電圧源であって、前記電場が前記第1の値を有する場合に前記関心のあるイオンの特性周波数が前記周波数ノッチの内側に存在する補助電圧源と、
を備え、
前記電場が、第2の値から第3の値まで調整され、前記第3の値は、前記特定の質量電荷比範囲の外側に存在するイオンが前記イオントラップ構造から除去されると共に前記関心のあるイオンは内部に保持されたままとなるように前記保持されたイオンの特性周波数をシフトするよう選択されることを特徴とする装置。
【請求項30】
イオントラップにおける関心のあるイオンのトラッピング及び分離のための装置であって、前記関心のあるイオンが、第1の次元の周波数成分及び第2の次元の周波数成分を含む特性周波数の対応する初期範囲を有し、
前記装置が、
第1の次元に沿って整列された電極と第2の次元に沿って整列された電極とから構成される複数の電極を有するイオントラップ構造と、
前記複数の電極の少なくとも1つに電圧を印加して、前記イオントラップにおけるイオンの保持に寄与する電場を生成する発電機であって、前記保持されるイオンが質量電荷比下限と質量電荷比上限との間に延びる特定の質量電荷比範囲内に存在する質量電荷比を有する関心のあるイオンを含み、前記電場が前記電圧によって少なくとも部分的に決定される第1の値を有する発電機と、
周波数分離波形を前記複数の電極の選択された電極に印加するための補助電圧源と、
を備え、
前記周波数分離波形が前記第1の次元において第1のエッジと第2のエッジとを含む第1の部分を有し、前記電場が前記第1の値を有する場合に前記第1の次元の周波数成分を有する関心のあるイオンが前記第1のエッジ及び第2のエッジ間に存在し、前記周波数分離波形が前記第2の次元において第3のエッジと第4のエッジとを含む第2の部分を有し、前記電場が前記第1の値を有する場合に前記第2の次元の周波数成分を有する関心のあるイオンが前記第3のエッジ及び第4のエッジ間に存在することを特徴とする装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16a】
【図16b】
【図16c】
【図16d】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10a】
【図10b】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16a】
【図16b】
【図16c】
【図16d】
【図17】
【図18】
【図19】
【公表番号】特表2008−510290(P2008−510290A)
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527841(P2007−527841)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2005/027074
【国際公開番号】WO2006/023252
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(501192059)サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【国際出願番号】PCT/US2005/027074
【国際公開番号】WO2006/023252
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(501192059)サーモ フィニガン リミテッド ライアビリティ カンパニー (42)
【Fターム(参考)】
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