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質量分析装置
説明

質量分析装置

【課題】分析部で選択イオンを変更するタイミングの制御を容易化することができる質量分析装置を提供すること。
【解決手段】蓄積部20は、イオン源10で生成されたイオンを蓄積し、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出し、第1分析部30は、蓄積部20が排出するイオンパルスから、質量電荷比に基づいて第1の目的イオンを選択し、コリジョンセル30は、第1の目的イオンの一部又は全部を開裂させてプロダクトイオンを生成し、第2分析部50は、第1の目的イオン及びプロダクトイオンから、質量電荷比に基づいて第2の目的イオンを選択し、検出器60は、第2の目的イオンを検出する。制御部90は、第1分析部30では質量が大きい第1の目的イオンほど光軸方向の運動エネルギーを高くし、第2分析部50では質量が大きい第2の目的イオンほど光軸方向の運動エネルギーを高くするように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析装置に関し、特に、三連型四重極質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
四重極質量分析計は、双曲線状の四重極ポールにRF電圧とDC電圧を印加することで所望の質量電荷比のイオンのみ通過させる質量分析装置である。これを2つ連結した三連型四重極質量分析計は単体の四重極質量分析計に比べて特異性や定量性が向上するため、近年、構造解析や定量分析で頻繁に使用されるようになってきた。三連型四重極質量分析計では、イオン源で生成したイオンがイオンガイドを通過して第1分析部に入り、第1分析部で四重極マスフィルターにより所望のイオンが選択される。第1分析部で選択されたイオン(プリカーサーイオン)はコリジョンセルへと導かれ、コリジョンセルでガス分子との衝突によりある確率で開裂を起こし断片化される。プリカーサーイオンや断片化されたイオン(プロダクトイオン)はコリジョンセルを通過し、第2分析部で四重極マスフィルターにより目的のイオンのみが選択され、検出器で検出される。
【0003】
通常、三連型四重極質量分析計では、イオン源から検出器へとイオンが輸送される過程でイオンを蓄積する工程はない。しかし、非特許文献1では、コリジョンセルにイオンを蓄積した後、排出することでイオンパルスを生成し、そのイオンパルスの最大強度を記録することで高感度化を実現させている。また、特許文献1には、三連型四重極質量分析計においてコリジョンセル或いは第1分析部前段のイオンガイドにおいて蓄積したイオンを排出することでイオンパルスを生成し、その面積強度を記録することで高感度化を実現する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−127714号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】祢on-trapping technique for ion/molecule reaction studies in the center quadrupole of a triple quadrupole mass spectrometer・ G.G. Dolnikowski, M.J. Kristo, C.G. Enke and J.T. Watson, International Journal of Mass Spectrometry and Ion Processes, 82(1988)1-15
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように蓄積動作を行うことによってイオンをパルス化する三連型四重極質量分析計では、高感度化につながることが指摘されているが、イオンパルスを発生させることにより各部が動作するタイミング設定が複雑になるという問題がある。例えば、第1分析部上流のイオンガイドでイオンの蓄積と排出を行ってイオンパルスを発生した場合、第1分析部、第2分析部での選択イオンの変更は前後2つのイオンパルスが分析部を通過する合間に行わなければならない。分析部での選択イオンを変更するタイミングは、前のイオンパルスが排出されてからのある遅延時間により与えることができる。しかし、通常、イオンパルスの飛行速度は質量電荷比に依存するので、分析速度を低下させないためにはこの遅延時間を質量電荷比によって変化させなければならない。そのため、タイミング制御がよりいっそう複雑になる。
【0007】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、分析部で選択イオンを変更するタイミングの制御を容易化することができる質量分析装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る質量分析装置は、
試料をイオン化するイオン源と
前記イオン源で生成されたイオンを蓄積し、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する蓄積部と、
前記蓄積部が排出するイオンパルスから、質量電荷比に基づいて第1の目的イオンを選択する第1分析部と、
前記第1の目的イオンの一部又は全部を開裂させてプロダクトイオンを生成するコリジョンセルと、
前記第1の目的イオン及び前記プロダクトイオンから、質量電荷比に基づいて第2の目的イオンを選択する第2分析部と、
前記第2の目的イオンを検出する検出器と、
前記第1分析部では質量が大きい前記第1の目的イオンほど光軸方向の運動エネルギーを高くし、前記第2分析部では質量が大きい前記第2の目的イオンほど光軸方向の運動エネルギーを高くするように制御する制御部と、を含む。
【0009】
従来手法では、第1分析部や第2分析部において、質量電荷比に関係なく第1の目的イオンや第2の目的イオンの光軸方向の運動エネルギーを一定に制御していたため、質量が大きい第1の目的イオンや第2の目的イオンほど飛行速度が小さくなり、第1分析部や第2分析部を通過するのに必要な時間が長くなっていた。本発明によれば、第1分析部と第2分析部で質量の大きいイオンほど光軸方向の運動エネルギーを大きくすることで、イオンが第1分析部と第2分析部を通過するために必要な時間を質量電荷比に関わらずほぼ一定とすることができる。従って、第1分析部と第2分析部で選択するイオンを変更するタイミングの制御を容易化することができる。
【0010】
(2)この質量分析装置において、
前記制御部は、
前記第1の目的イオンの質量電荷比に応じて前記第1分析部の軸電圧を変更することにより、前記第1の目的イオンの光軸方向の運動エネルギーを変更し、
前記第2の目的イオンの質量電荷比に応じて前記第2分析部の軸電圧を変更することにより、前記第2の目的イオンの光軸方向の運動エネルギーを変更するようにしてもよい。
【0011】
このように、第1分析部や第2分析部の軸電圧を変更することで、これらの分析部での選択イオンの光軸方向の運動エネルギーが所望の値になるように容易に変更することができる。
【0012】
(3)この質量分析装置において、
前記制御部は、
前記第1の目的イオンの質量電荷比と前記第1分析部の軸電圧との関係を示す数式又はテーブルに基づいて前記第1分析部の軸電圧を変更し、
前記第2の目的イオンの質量電荷比と前記第2分析部の軸電圧との関係を示す数式又はテーブルに基づいて前記第2分析部の軸電圧を変更するようにしてもよい。
【0013】
このようにすれば、第1分析部や第2分析部の軸電圧を変更する制御を容易化することができる。
【0014】
(4)この質量分析装置において、
前記制御部は、
前記蓄積部から連続して排出される2つのイオンパルスに対して、前記第1分析部で異なる前記第1の目的イオンを選択する場合、前記第1の目的イオンの選択の変更を開始する時刻は前のイオンパルスが前記第1分析部を通過し終わる時刻よりも後、前記第1の目的イオンの選択の変更を終了する時刻は後のイオンパルスが前記第1分析部を通過し始める時刻よりも前となるように制御し、
前記コリジョンセルから入射する連続する2つのイオンパルスに対して、前記第2分析部で異なる前記第2の目的イオンを選択する場合、前記第2の目的イオンの選択の変更を開始する時刻は前のイオンパルスが前記第2分析部を通過し終わる時刻よりも後、前記第2の目的イオンの選択の変更を終了する時刻は後のイオンパルスが前記第2分析部を通過し始める時刻よりも前となるように制御するようにしてもよい。
【0015】
このようにすれば、第1分析部や第2分析部における選択イオンの変更中に、イオンパルスがこれらの分析部に入射しないようにすることができるので、イオンの損失を抑えることができる。さらに、イオンパルスが第1分析部や第2分析部を通過する間は軸電圧を一定にすることができるので、これらの分析部の通過時間を全ての選択イオンに対して洩れなくほぼ一定にすることができる。
【0016】
(5)この質量分析装置において、
前記蓄積部は、
前記イオン源で生成されたイオンを蓄積し、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する周期が一定であるようにしてもよい。
【0017】
このようにすれば、各トランジションにつき蓄積部ではイオンの排出動作を1回しか行わないとき、トランジション間の強度比較が可能となる。
【0018】
(6)この質量分析装置において、
前記コリジョンセルは、
前記第1の目的イオン及び前記プロダクトイオンを蓄積し、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出するようにしてもよい。
【0019】
このように、コリジョンセルでイオンを蓄積し、イオンパルスを排出することで、検出器に入射するイオンパルスの幅の拡がりを抑えることができるので、検出感度をより向上させることができる。また、コリジョンセルに入射するイオンがコリジョンセルで一旦蓄積されるので、コリジョンセルでの開裂効率を上げることができる。
【0020】
(7)この質量分析装置において、
前記蓄積部は、
前記イオン源で生成されたイオンを蓄積し、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する周期が一定であり、
前記コリジョンセルは、
前記第1の目的イオン及び前記プロダクトイオンを蓄積し、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する周期が一定であり、
前記蓄積部の前記周期と、前記コリジョンセルの前記周期が等しいようにしてもよい。
【0021】
このようにすれば、各トランジションにつき蓄積部とコリジョンセルで共にイオンの排出動作を1回しか行わないとき、トランジション間の強度比較が可能となる。
【0022】
(8)この質量分析装置において、
前記コリジョンセルは、
前記第1分析部で前記第1の目的イオンの質量電荷比が変更される場合、変更前の最後のイオンパルスを排出する排出動作により当該コリジョンセルにあるイオンをすべて排出するようにしてもよい。
【0023】
このように、コリジョンセルに残留しているイオンをすべて排出することで、トランジション間のイオンの干渉(クロストーク)を抑えることができる。
【0024】
(9)この質量分析装置において、
前記コリジョンセルは、
前記第1分析部で前記第1の目的イオンの質量電荷比が変更される場合、変更前の最後のイオンパルスを排出する排出時間を変更前の他のイオンパルスを排出する排出時間よりも長くするようにしてもよい。
【0025】
このように、第1の目的イオンの質量電荷比が変更される前の最後のイオンパルスの排出時間を長くすることで、トランジション間のイオンの干渉(クロストーク)を低減させることができる
(10)この質量分析装置において、
前記コリジョンセルは、
前記第1の目的イオンが入射している間は、前記第1の目的イオン及び前記プロダクトイオンを蓄積するようにしてもよい。
【0026】
このようにすれば、第1の目的イオンはすべてコリジョンセルで蓄積されるので、コリジョンセルでの開裂効率を上げることができる。
【0027】
(11)この質量分析装置において、
前記第1分析部は、
前記第1の目的イオンを選択するための第1の四重極マスフィルターを含み、
前記第2分析部は、
前記第2の目的イオンを選択するための第2の四重極マスフィルターを含むようにしてもよい。
【0028】
(12)この質量分析装置において、
前記第1分析部は、
第1の四重極マスフィルターに対するプリフィルター及びポストフィルターの少なくとも一方を含み、
前記第2分析部は、
第2の四重極マスフィルターに対するプリフィルター及びポストフィルターの少なくとも一方を含むようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態の質量分析装置の構成を示す図。
【図2】四重極マスフィルターに印加する電圧の説明図。
【図3】第1実施形態の質量分析装置の動作シーケンスの一例を示す図。
【図4】第2実施形態の質量分析装置の動作シーケンスの一例を示す図。
【図5】変形例1の質量分析装置の構成を示す図。
【図6】プリフィルター、四重極マスフィルター、ポストフィルターに印加する電圧の説明図。
【図7】変形例2の質量分析装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0031】
1.第1実施形態
(1)構成
まず、第1実施形態の質量分析装置の構成について説明する。第1実施形態の質量分析装置は、いわゆる三連型の四重極質量分析装置であり、その構成の一例を図1に示す。なお、図1は、本実施形態の質量分析装置を鉛直方向に切断した時の概略断面図である。
【0032】
図1に示すように、第1実施形態の質量分析装置1は、イオン源10、蓄積部20、第1分析部30、コリジョンセル40、第2分析部50、検出器60、電源部80、制御部90を含んで構成されている。なお、本実施形態の質量分析装置は図1の構成要素の一部を省略した構成としてもよい。
【0033】
イオン源10は、図示しないクロマトグラフ等の試料導入装置から導入された試料を所定の方法でイオン化する。イオン源10は、例えば、ESI法等の大気圧イオン化法によって連続的にイオンを生成する大気圧連続イオン源として実現することができる。
【0034】
イオン源10の後段には、中心に開口部を有する電極12が設けられており、さらにその後段に蓄積部20が設けられている。
【0035】
蓄積部20は、イオンガイド22の両端に入口電極24と出口電極26を配置した構成であり、外部からガスを導入するためのガス導入手段28(ニードルバルブ等)を備えている。イオンガイド22は、四重極ポールや六重極ポール等の多重極ポールを用いて形成されている。入口電極24と出口電極26は、それぞれその中心に開口部が設けられている。蓄積部20は、イオン源10で生成されたイオンを蓄積する蓄積動作と、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する排出動作と、を繰り返し行う。
【0036】
蓄積部20の後段には、四重極マスフィルター32を含む第1分析部30が設けられている。第1分析部30は、蓄積部20が排出するイオンパルスから質量電荷比(イオンの質量mをイオンの価数zで割ったもの(m/z))に基づいて第1のイオンを選択し、当該第1のイオンを含むイオンパルスを通過させる。具体的には、第1分析部30は、四重極マスフィルター32に印加される選択電圧(RF電圧とDC電圧)に応じた質量電荷比のイオンを選択して通過させる。第1分析部30で選択されるイオンはプリカーサーイオンと呼ばれる。
【0037】
第1分析部30の後段には、コリジョンセル40が設けられている。コリジョンセル40は、イオンガイド42の両端に入口電極44と出口電極46を配置した構成であり、外部からヘリウムやアルゴン等のガスを導入するためのガス導入手段48(ニードルバルブ等)を備えている。入口電極44と出口電極46は、それぞれその中心に開口部が設けられている。コリジョンセル40にガスを導入することで、プリカーサーイオンはガス分子との衝突によりある確率で開裂を起こし断片化される。但し、プリカーサーイオンが開裂を起こすには、衝突エネルギーがプリカーサーイオンの解離エネルギー以上でなければならない。この衝突エネルギーはイオンガイド22と42の軸電圧の電位差による位置エネルギーの差にほぼ等しくなる。コリジョンセル40で断片化されたイオンはプロダクトイオンと呼ばれる。
【0038】
コリジョンセル40の後段には、四重極マスフィルター52を含む第2分析部50が設けられている。第2分析部50は、コリジョンセル40が出射するイオンパルスから質量電荷比に基づいて第2のイオンを選択し、当該第2のイオンを含むイオンパルスを通過させる。具体的には、第2分析部50は、四重極マスフィルター52に印加される選択電圧(RF電圧とDC電圧)に応じた質量電荷比のイオンを選択して通過させる。
【0039】
第2分析部50の後段には中心に開口部が設けられた電極56が設けられており、電極56の後段に、検出器60が設けられている。検出器60は、第2分析部50を通過したイオンパルスを検出し、検出強度に応じたアナログ信号を出力する。検出器60が出力するアナログ信号は、図示しないA/D変換器によってサンプリングされデジタル信号に変換された後、最終的には四重極質量分析装置1と通信するパーソナルコンピューターのメモリ装置にイオン強度として保存される。
【0040】
第1分析部30と第2分析部50で選択するイオンの質量電荷比の組み合わせはトランジションと呼ばれる。通常、トランジションとは第1分析部30、第2分析部50で共に選択イオンを固定するマルチプルリアクションモード(MRM)におけるイオンの組み合わせに対して用いられるが、第2分析部50でスキャンを行うプロダクトイオンスキャン、第1分析部30でスキャンを行うプリカーサーイオンスキャン、両方の分析部でスキャンを行うニュートラルロススキャンに対しても、ある時刻において第1分析部30と第2分析部50で選択したイオンの質量電荷比の組み合わせを定義することができるので、本明細書ではこれらの場合もトランジションと呼ぶことにする。
【0041】
各トランジションに対して、蓄積部20で1つのイオンパルスしか排出しない場合、検出器60に入射したそれぞれのイオンパルスの面積強度がそれぞれのトランジションのイオン強度になる。蓄積部20の出口電極26が開放し始める周期を一定とすれば、各トランジションのイオン強度はイオン源10で一定時間、即ち一定な開放周期、の間に生成されたプリカーサーイオンの量に比例する。その結果、どのトランジションでもイオン源10で同じ時間間隔で生成されたイオンを観測することになるのでトランジションごとの強度比較が可能となる。
【0042】
なお、電極12と蓄積部20の入口電極24との間の空間により第1差動排気室70が形成されている。また、蓄積部20の入口電極24と出口電極26との間の空間により第2差動排気室71が形成されている。また、蓄積部20の出口電極26とコリジョンセル40の出口電極46との間の空間により第3差動排気室72が形成されている。さらに、コリジョンセル40の出口電極46の後段の空間により第4差動排気室73が形成されている。
【0043】
電源部80は、イオン源10で生成されたイオンから所望のトランジションのイオンを選択して検出器60まで到達させるように、電極12、24、26、44、46、56、イオンガイド22、42及び四重極マスフィルター32、52に、それぞれ独立に又は他と連動して所望の電圧を印加する。また、制御部90は、電源部80の印加電圧の切替タイミングを制御する。
【0044】
なお、イオンの輸送経路(光軸62)は必ずしも図1のように直線でなくてもよく、バックグラウンドイオンを除去するためイオンの輸送経路を曲げてもよい。
【0045】
(2)動作
次に、第1実施形態の質量分析装置1の動作について説明する。以下では、イオン源10において生成されるイオンが正イオンであるものとして説明するが、負イオンであってもよい。負イオンについても、電圧極性を反転させれば以下と同様の説明を適用することができる。
【0046】
イオン源10で生成したイオンは電極12の開口部を通過し、第1差動排気室70を経て、入口電極24から蓄積部20に入射する。
【0047】
蓄積部20ではイオンを一旦蓄積した後、排出する。そのため、電源部80から蓄積部20の出口電極26にパルス電圧を印加する。出口電極26に印加するパルス電圧をイオンガイド22の軸電圧V1より高くすると出口電極26は閉鎖し、イオンは蓄積部20に蓄積される。一方、出口電極26に印加するパルス電圧をイオンガイド22の軸電圧V1より低くすると出口電極26は開放され、蓄積部20からイオンが排出される。
【0048】
イオン源10は大気圧中にあるので、蓄積部20には入口電極24の開口部から大量の空気が流入する。蓄積部20にあるイオンは流入した空気との衝突により運動エネルギーが低下し、蓄積時に出口電極26の電位障壁に跳ね返されて入口電極24に戻ってきたイオンのエネルギーは、初めて入口電極24を通過したときよりも低くなる。そのため、入口電極24の電圧を調整すれば、上流からのイオンを通過させ、下流から戻ってきたイオンは通過させないようにすることができる。これにより、蓄積部20の蓄積効率をほぼ100%に維持することができる。
【0049】
蓄積部20に蓄積されたイオンは空気との衝突によって運動エネルギーが低下するため、蓄積部20から排出されるときのイオンの全エネルギーはイオンガイド22の軸電圧V1による位置エネルギーとほぼ等しくなる。入口電極24からの空気の流入量が不足して、イオンの運動エネルギーの低下が不十分な場合は、ガス導入手段28からガスを導入することで蓄積効率が改善する。
【0050】
蓄積部20の出口電極26から排出されたイオンはパルスとなって第1分析部30を通過する。第1分析部30には四重極マスフィルター32が設けられており、所望の質量電荷比のイオンのみを選択して通過させる。四重極マスフィルター32には、イオンを質量電荷比ごとに選択するための選択電圧(RF電圧とDC電圧)と軸電圧V2が電源部80から供給される。具体的には、図2に示すように、四重極マスフィルター32を構成する4本のポール状の電極のうち、対向する2つの電極32aと32bにはVsinωt+DC+φの電圧が印加され、対向する残りの2つの電極32cと32dには−(Vsinωt+DC)+φの電圧が印加される。VsinωtがRF電圧、DCがDC電圧、φが軸電圧V2に相当する。この選択電圧(RF電圧とDC電圧)に応じて選択されたプリカーサーイオンのみが、光軸62上に残り、コリジョンセル40に入射する。第1分析部30で選択されたプリカーサーイオンが本発明における第1の目的イオンに相当する。コリジョンセル40に入射したプリカーサーイオンは、コリジョンセル40の中で、ガス導入手段48から導入したガスと衝突する。このときの衝突エネルギーがプリカーサーイオンの解離エネルギーより大きい場合は、一部のプリカーサーイオンはある確率で開裂して様々なプロダクトイオンとなる。衝突エネルギーはイオンガイド22と42の軸電圧の電位差V1−V3による位置エネルギーの差とほぼ等しい。このプロダクトイオンは、開裂しなかったプリカーサーイオンとともに、第2分析部50に入射する。
【0051】
第2分析部50には四重極マスフィルター52が設けられており、選択電圧に応じて所望の質量電荷比のイオンのみを選択して通過させる。四重極マスフィルター52には、イオンを質量電荷比ごとに選択するための選択電圧(RF電圧とDC電圧)と軸電圧V4が電源部80から供給される。四重極マスフィルター52に印加される選択電圧(RF電圧とDC電圧)と軸電圧V4については、図2に示した四重極マスフィルター32と同様である。この選択電圧(RF電圧とDC電圧)に応じて選択されたイオン(プロダクトイオン又はプリカーサーイオン)は、光軸62上に残り、検出器60に入射する。第2分析部50で選択されたイオンが本発明における第2の目的イオンに相当する。
【0052】
電源部80は、制御部90の制御の下、図示しないパーソナルコンピューターからユーザーが指定したシーケンスで動作するので、蓄積部20において所望のタイミングで発生させたイオンパルスに対して、第1分析部30、第2分析部50では所望のトランジションのイオンを選択できる。
【0053】
一般にイオンの速度が等しい場合、質量の大きなイオンほど運動エネルギーが大きくなる。第1分析部或いは第2分析部を通過するイオンの光軸62方向の運動に関する運動エネルギーは第1分析部の軸電位V2或いは第2分析部の軸電圧V4によって制御できる。特に、本実施形態では、質量が大きいイオンほど第1分析部30或いは第2分析部50を通過する時の光軸62方向の運動エネルギーが大きくなるように軸電圧V2、V4を変化させ、質量電荷比に関係なく第1分析部30或いは第2分析部50の通過時間をほぼ同じにする。
【0054】
第1分析部30を通過するイオンの光軸62方向の運動エネルギーはイオンガイド22と四重極マスフィルター32の軸電圧の電位差V1−V2に比例し、第2分析部50を通過するイオンの光軸62方向の運動エネルギーはイオンガイド42と四重極マスフィルター52の軸電圧の電位差V3−V4に比例する。このため、例えば、第1分析部30で選択イオンの通過時間を等しくするには、質量電荷比が大きいイオンほど電位差V1−V2を大きくする。さらに、軸電圧V1が一定のときは質量電荷比の大きいイオンほどV2を小さくする。同様に、第2分析部50で選択イオンの通過時間を等しくするには、質量電荷比が大きいイオンほど電位差V3−V4を大きくする。軸電圧V3が一定のときは質量電荷比の大きいイオンほどV4を小さくする。
【0055】
理論的には、蓄積部20とコリジョンセル40を出射直前のイオンの運動エネルギーが0で、さらに第1分析部30、第2分析部50で衝突等による速度変化がないとすると、第1分析部30を通過する質量電荷比m/zのイオンの速度v1は次式(1)で計算される。
【0056】
【数1】

【0057】
ここで、mはイオンの質量、zは価数、eは電荷素量、K1は第1分析部30を光軸62方向に進むこのイオンの運動エネルギーである。数式(1)より、速度v1を一定にするには、質量mが大きなイオンほど、運動エネルギーK1を大きくしないといけないことがわかる。また、速さv1を一定値A1としたとき、軸電圧V2は次式(2)で計算される。
【0058】
【数2】

【0059】
つまり、第1分析部30で選択されるイオンの質量電荷比m/zに応じて軸電圧V2を式(2)のように変化させれば、第1分析部30を通過するイオンの光軸方向の飛行速度は質量電荷比に関係なくすべてA1となる。従って、数式(2)を質量電荷比m/zと軸電圧V2との対応として用いることで、第1分析部30を通過するイオンの光軸方向の飛行速度を一定速度A1にすることができる。
【0060】
同様に、第2分析部50を通過する質量電荷比m/zのイオンの速度v2は次式(3)で計算される。
【0061】
【数3】

【0062】
K2は第2分析部50を光軸62方向に進むこのイオンの運動エネルギーである。数式(3)より、速度v2を一定にするには、質量mが大きなイオンほど、運動エネルギーK2を大きくしないといけないことがわかる。また、速さv2を一定値A2としたとき、軸電圧V4は次式(4)で計算される。
【0063】
【数4】

【0064】
つまり、第2分析部50で選択されるイオンの質量電荷比m/zに応じて軸電圧V4を式(4)のように変化させれば、第2分析部50を通過するイオンの光軸方向の飛行速度は質量電荷比に関係なくすべてA2となる。従って、数式(4)を質量電荷比m/zと軸電圧V4との対応として用いることで、第2分析部50を通過するイオンの光軸方向の飛行速度を一定速度A2にすることができる。
【0065】
そこで、本実施形態では、イオンの質量電荷比に関係なく第1分析部30の通過時間をほぼ同じにするために、制御部90は、式(2)に従って、電源部80から供給される軸電圧V2を、第1分析部30で選択されるイオンの質量電荷比m/zに応じて変更する。同様に、イオンの質量電荷比に関係なく第2分析部50の通過時間をほぼ同じにするために、制御部90は、式(4)に従って、電源部80から供給される軸電圧V4を、第2分析部50で選択されるイオンの質量電荷比m/zに応じて変更する。あるいは、選択イオンの質量電荷比と軸電圧との対応を示したテーブルを作成して図示しない記憶部に記憶させておき、制御部90は、このテーブルを参照して軸電圧V2,V4を選択イオンの質量電荷比ごとに変更するようにしてもよい。例えば、複数の標準サンプルをイオン化し、質量電荷比が既知の複数のイオンに関して第1分析部30と第2分析部50を通過するための飛行時間がすべて所望の値になるように軸電圧V2とV4を調整する。ここで得られた質量電荷比と軸電圧V2,V4との関係を内挿することで装置の全マスレンジにわたる質量電荷比と軸電圧V2,V4のテーブルを作成することができる。あるいは、このテーブルで示される質量電荷比と軸電圧との対応関係を近似する数式を求めておき、制御部90は、この数式に従って、軸電圧V2,V4を選択イオンの質量電荷比ごとに変更するようにしてもよい。
【0066】
図3は、質量分析装置1の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図である。図3は、第1分析部30と第2分析部50でそれぞれ質量電荷比がM1/zのイオンとm1/zのイオンを選択するトランジションTR1から、第1分析部30と第2分析部50でそれぞれ質量電荷比がM2/zのイオンとm2/zのイオンを選択するトランジションTR2に変更する場合のタイミングチャートである。
【0067】
図3に示すように、蓄積部20の入口電極22には一定の電圧(電極12よりも低い電圧)が印加されており、蓄積部20の入口は常に開放されている。そのため、イオン源10で生成したほぼ100%のイオンが蓄積部20に入射して蓄積される。
【0068】
蓄積部20の出口電極26には2つの異なる電圧が周期的に印加される。出口電極26の電圧がイオンガイド22の軸電圧よりも高い時は、蓄積部20の出口が閉鎖され、イオンが蓄積される。一方、出口電極26の電圧がイオンガイド22の軸電圧よりも低い時は、蓄積部20の出口が開放され、イオンが排出される。すなわち、蓄積部20の出口電極26の電圧が周期的に切り替わることで、蓄積部20は蓄積動作と排出動作を交互に繰り返す。
【0069】
具体的には、時刻tまでは蓄積部20にイオンが蓄積され、時刻t〜tにおいて蓄積部20からイオンパルスipが排出される。また、時刻t〜時刻tにおいて蓄積部20にイオンが蓄積され、時刻t〜tにおいて蓄積部20からイオンパルスipが排出される。また、時刻t〜時刻tにおいて蓄積部20にイオンが蓄積され、時刻t〜tにおいて蓄積部20からイオンパルスipが排出される。そして、これらのイオンパルスip,ip,ipは、順番に第1分析部30に入射する。
【0070】
第1分析部30では、時刻t13〜t14にかけて選択電圧(RF電圧とDC電圧)が切り替わり、時刻t13までは質量電荷比がM1/zのイオンが選択され、時刻t14からは質量電荷比がM2/zのイオンが選択される。これにより、イオンパルスip,ipは、第1分析部30を通過する間に、それぞれ質量電荷比がM1/zのイオンのイオンパルスip11,ip12となる。また、イオンパルスipは、第1分析部30を通過する間に、質量電荷比がM2/zのイオンのイオンパルスip13となる。イオンパルスip11,ip12,ip13の時間幅は蓄積部20の出口電極26の開放時間とほぼ同じである。このイオンパルスip11,ip12,ip13はコリジョンセル40に入射する。
【0071】
時刻t13〜t14の変更時間は、質量電荷比がM1/zの選択イオン(プリカーサーイオン)から質量電荷比がM2/zの選択イオン(プリカーサーイオン)への変更(トランジションTR1からTR2への変更)に際し、選択電圧(RF電圧、DC電圧)が安定化するまでに要する過渡時間(以下、「変更時間」という)である。時刻t13〜t14の変更時間に第1分析部に進入したイオンパルスは検出器60まで到達しない、或いは到達してもトランジションが特定できないのでその信号は破棄しなければならず、検出感度の低下をもたらす。そこで、時刻t13〜t14の変更時間に第1分析部30へイオンを入射させないようにするため、時刻t13はトランジションTR1の最後のイオンパルスip12が第1分析部30を通過し終わる時刻tより後にする。また、時刻t14はトランジションTR2の最初のイオンパルスipが第1分析部30を通過し始める時刻tより前にする。
【0072】
第1分析部30の軸電圧V2は、選択電圧(RF電圧、DC電圧)の変更と連動して、V2(M1/z)からV2(M2/z)に変更する。軸電圧V2の変更開始時刻t11はトランジションTR1の最後のイオンパルスip12が第1分析部30を通過し終わる時刻tよりも後、変更終了時刻t12はトランジションTR2の最初のイオンパルスipが第1分析部30に入射し始める時刻tより前にする。
【0073】
前述したように、本実施形態では、選択イオンが第1分析部30を通過する時間が、選択イオンの質量電荷比に関係なくほぼ同じになるように、式(2)或いはあらかじめ作成したテーブルや数式に基づいて、選択イオンの質量電荷比に応じて軸電圧V2を変更する。これにより、蓄積部20の出口が開放し始めてからイオンパルスが第1分析部30を通過し終えるまでの時間は、第1分析部30での選択イオンに関係なくほぼ一定になる。従って、トランジションTR1の最後のイオンパルスが蓄積部20から排出される時刻tから第1分析部30を通過し終わる時刻tまでの時間は、第1分析部30での選択イオンに関係なくほぼ一定である。そのため、トランジションTR1の最後のイオンパルスが蓄積部20から排出される時刻tから第1分析部30の選択電圧(RF電圧、DC電圧)の変更開始時刻t13までの時間Tdは、第1分析部30での選択イオンに関係なくほぼ一定にすることができる。
【0074】
コリジョンセル40の入口電極44には一定の電圧(蓄積部20の出口電極26の開放時の電圧よりも低い電圧)が印加されており、コリジョンセル40の入口は常に開放されている。そのため、第1分析部30を通過したほぼ100%のイオンがコリジョンセル40に入射する。コリジョンセル40の出口電極46にも、一定の電圧(入口電極44よりも低い電圧)が印加されており、コリジョンセル40の出口も常に開放されている。そして、イオンパルスip11,ip12,ip13の各々は、コリジョンセル40を通過する間に一部のイオンが開裂してプロダクトイオンが生成され、コリジョンセル40の出口ではプロダクトイオンを含むイオンパルスip21,ip22,ip23となる。これらのイオンパルスip21,ip22,ip23は、順番に第2分析部50に入射する。
【0075】
第2分析部50では、時刻t23〜t24にかけて選択電圧(RF電圧とDC電圧)が切り替わり、時刻t23までは質量電荷比がm1/zのイオンが選択され、時刻t24からは質量電荷比がm2/zのイオンが選択される。これにより、イオンパルスip21,ip22は、第2分析部50を通過する間に、それぞれ質量電荷比がm1/zのイオンのイオンパルスip31,ip32となる。また、イオンパルスip23は、第2分析部50を通過する間に、質量電荷比がm2/zのイオンのイオンパルスip33となる。コリジョンセル40で個々のプロダクトイオンが生成したときの場所、時刻、速度等が違うので、イオンパルスip31,ip32,ip33の時間幅は、蓄積部20の出口電極26の開放時間よりも広がる。そして、第2分析部50を通過したイオンパルスip31,ip32,ip33は検出器60に入射する。
【0076】
時刻t23〜t24の変更時間は、質量電荷比がm1/zの選択イオンから質量電荷比がm2/zの選択イオンへの変更(トランジションTR1からTR2への変更)に際し、選択電圧(RF電圧、DC電圧)が安定化するまでに要する過渡時間(以下、「変更時間」という)である。時刻t23〜t24の変更時間に第2分析部に進入したイオンパルスは検出器60まで到達しない、或いは到達してもトランジションが特定できないのでその信号は破棄しなければならず、検出感度の低下をもたらす。そこで、時刻t23〜t24の変更時間に第2分析部50へイオンを入射させないようにするため、時刻t23はトランジションTR1の最後のイオンパルスip32が第2分析部50を通過し終わる時刻tより後にする。また、時刻t24はトランジションTR2の最初のイオンパルスip23が第2分析部50を通過し始める時刻tより前にする。
【0077】
第2分析部50の軸電圧V4は、選択電圧(RF電圧、DC電圧)の変更と連動して、V4(m1/z)からV4(m2/z)に変更する。軸電圧V4の変更開始時刻t21はトランジションTR1の最後のイオンパルスip32が第2分析部50を通過し終わる時刻tよりも後、変更終了時刻t22はトランジションTR2の最初のイオンパルスip23が第2分析部50に入射し始める時刻tより前にする。
【0078】
前述したように、本実施形態では、選択イオンが第2分析部50を通過する時間が、選択イオンの質量電荷比に関係なくほぼ同じになるように、式(4)或いはあらかじめ作成したテーブルや数式に基づいて、選択イオンの質量電荷比に応じて軸電圧V4を変更する。そして、選択イオンが第1分析部30を通過する時間も選択イオンの質量電荷比に関係なくほぼ同じであるので、蓄積部20の出口が開放し始めてからイオンパルスが第2分析部50を通過し終えるまでの時間は、第2分析部50での選択イオンに関係なくほぼ一定になる。従って、トランジションTR1の最後のイオンパルスが蓄積部20から排出される時刻tから第2分析部50を通過し終わる時刻tまでの時間は、第2分析部50での選択イオンに関係なくほぼ一定である。そのため、トランジションTR1の最後のイオンパルスが蓄積部20から排出される時刻tから第2分析部50の選択電圧(RF電圧、DC電圧)の変更開始時刻t23までの時間Tdは、第2分析部50での選択イオンに関係なくほぼ一定にすることができる。
【0079】
以上に説明した第1実施形態の質量分析装置によれば、第1分析部30での選択イオンの質量が大きいほど、この選択イオンが第1分析部30を通過する時の光軸62方向の運動エネルギーが大きくなるように軸電圧V2を変化させることで、選択イオンが第1分析部30を通過する時間を質量電荷比に関係なくほぼ一定にすることができる。これにより、トランジションが変更される前の最後のイオンパルスが蓄積部20から排出されてから第1分析部30の選択電圧を変更するまでの時間Tdがほぼ一定になるので、第1分析部30で選択イオンを変更するタイミングの制御を簡単にすることができる。
【0080】
同様に、第1実施形態の質量分析装置によれば、第2分析部50での選択イオンの質量が大きいほど、この選択イオンが第2分析部50を通過する時の光軸62方向の運動エネルギーが大きくなるように軸電圧V4を変化させることで、選択イオンが第2分析部50を通過する時間を質量電荷比に関係なくほぼ一定にすることができる。これにより、トランジションが変更される前の最後のイオンパルスが蓄積部20から排出されてから第2分析部50の選択電圧を変更するまでの時間Tdがほぼ一定になるので、第2分析部50で選択イオンを変更するタイミングの制御を簡単にすることができる。
【0081】
2.第2実施形態
(1)構成
一般にプリカーサーイオンはある確率に基づいてプロダクトイオンへと開裂するので、上述した第1実施形態の質量分析装置1ではコリジョンセル40の中でイオンパルスの幅が広がってしまう。例えば、図3の例では、コリジョンセル40に入射するイオンパルスip11は、コリジョンセル40から出射するときにはより幅の広いイオンパルスip21になり、その結果、検出器60に入射するイオンパルスip31の幅も広がっている。一般に、検出器60に入射するイオンパルスの幅が広いほどイオンパルスに含まれるノイズが増えるので、イオン強度の検出感度を劣化させる原因となる。
【0082】
そこで、第2実施形態の質量分析装置では、蓄積部20だけでなくコリジョンセル40でもイオンを一旦蓄積してから排出することで、検出器60に入射するイオンパルスの幅を狭くする。そのため、電源部80は、制御部90による制御の下、コリジョンセル40でプロダクトイオンの蓄積動作と排出動作を繰り返し行うように、電極44、イオンガイド42、電極46に所望の電圧を印加する。
【0083】
各トランジションに対して、蓄積部20とコリジョンセル40で共に1つのイオンパルスしか排出しない場合、検出器60に入射したそれぞれのイオンパルスの面積強度がそれぞれのトランジションのイオン強度になる。蓄積部20の出口電極26が開放し始める周期を一定とするとともに、コリジョンセル40の出口電極46が開放し始める周期を一定とすれば、各トランジションのイオン強度はイオン源10で一定時間、即ち開放周期、の間に生成されたプリカーサーイオンの量に比例する。その結果、トランジション間の強度比較が可能となる。
【0084】
なお、第2実施形態の質量分析装置の構成は、図1に示した第1実施形態の質量分析装置の構成構成と同様であるため、図示と説明を省略する。
【0085】
(2)動作
次に、第2実施形態の質量分析装置の動作について説明する。以下では、イオン源10において生成されるイオンが正イオンであるものとして説明するが、負イオンであってもよい。負イオンについても、電圧極性を反転させれば以下と同様の説明を適用することができる。
【0086】
イオン源10、蓄積部20、第1分析部30、第2分析部50、検出器60の動作は、第1実施形態の質量分析装置と同じであるため、その説明を省略する。
【0087】
特に、本実施形態では、蓄積部20だけでなく、コリジョンセル40でもイオンを一旦蓄積した後、排出する。コリジョンセル40でイオンの蓄積と排出を繰り返すには、電源部80から出口電極46にパルス電圧を印加する。出口電極46に印加するパルス電圧をイオンガイド42の軸電圧V3より高くすると出口電極46は閉鎖し、イオンはコリジョンセル40に蓄積される。一方、出口電極46に印加するパルス電圧をイオンガイド42の軸電圧V3より低くすると出口電極46は開放され、コリジョンセル40からイオンが排出される。コリジョンセル40にはガス導入手段48より希ガス等のコリジョンガスを導入する。コリジョンガスにはプリカーサーイオンを開裂させてプロダクトイオンの生成を促す効果以外にも、衝突によってコリジョンセル40内のイオンの運動エネルギーを低下させる効果もある。そのため、蓄積時に出口電極46の電位障壁に跳ね返されて入口電極44に戻ってきたイオンのエネルギーは、初めて入口電極44を通過したときよりも低くなる。そのため、入口電極44の電圧を調整すれば、上流からのイオンを通過させ、下流から戻ってきたイオンは通過させないようにすることも可能である。これにより、コリジョンセル40の蓄積効率をほぼ100%に維持することができる。
【0088】
蓄積時はプリカーサーイオンもプロダクトイオンもコリジョンガスとの衝突を繰り返しながら入口電極44と出口電極46との間を往復運動することで、運動エネルギーがほとんどなくなる。その結果、コリジョンセル40から排出されたイオンの全エネルギーはイオンガイド42の軸電圧V3による位置エネルギーとほぼ等しくなる。
【0089】
第1実施形態と同様に、本実施形態でも質量電荷比が大きいイオンほど第1分析部30或いは第2分析部50を通過する時の光軸62方向の運動エネルギーが大きくなるように軸電圧V2、V4を変化させ、質量電荷比に関係なく第1分析部30或いは第2分析部50の通過時間をほぼ同じにする。そのため、第2実施形態でも、式(2)或いはあらかじめ作成したテーブルや数式に基づいて、選択イオンの質量電荷比に応じて軸電圧V2を変更し、式(4)或いはあらかじめ作成したテーブルや数式に基づいて、選択イオンの質量電荷比に応じて軸電圧V4を変更する。
【0090】
図4は、第2実施形態の質量分析装置1の動作シーケンスの一例を示すタイミングチャート図である。図4は、図3と同様に、第1分析部30と第2分析部50でそれぞれ質量電荷比がM1/zのイオンとm1/zのイオンを選択するトランジションTR1から、第1分析部30と第2分析部50でそれぞれ質量電荷比がM2/zのイオンとm2/zのイオンを選択するトランジションTR2に変更する場合のタイミングチャートである。
【0091】
図4に示すように、蓄積部20の入口電極22には一定の電圧(電極12よりも低い電圧)が印加されており、蓄積部20の入口は常に開放されている。蓄積部20の出口電極26には2つの異なる電圧が周期的に印加される。蓄積部20の出口電極26の電圧が周期的に切り替わることで、蓄積部20は蓄積動作と排出動作を交互に繰り返す。これにより、蓄積部20からイオンパルスip,ip,ipが排出され、順番に第1分析部30に入射する。
【0092】
第1分析部30では、時刻t13〜t14にかけて選択電圧(RF電圧とDC電圧)が切り替わり、時刻t13までは質量電荷比がM1/zのイオンが選択され、時刻t14からは質量電荷比がM2/zのイオンが選択される。時刻t13〜t14の変更時間に第1分析部30へイオンを入射させないようにするため、時刻t13はトランジションTR1の最後のイオンパルスip12が第1分析部30を通過し終わる時刻tより後にする。また、時刻t14はトランジションTR2の最初のイオンパルスipが第1分析部30を通過し始める時刻tより前にする。
【0093】
第1分析部30の軸電圧V2は、選択電圧(RF電圧、DC電圧)の変更と連動して、V2(M1/z)からV2(M2/z)に変更する。軸電圧V2の変更開始時刻t11はトランジションTR1の最後のイオンパルスip12が第1分析部30を通過し終わる時刻tよりも後、変更終了時刻t12はトランジションTR2の最初のイオンパルスipが第1分析部30に入射し始める時刻tより前にする。
【0094】
本実施形態でも、選択イオンが第1分析部30を通過する時間が、選択イオンの質量電荷比に関係なくほぼ同じになるように、式(2)或いはあらかじめ作成したテーブルや数式に基づいて、選択イオンの質量電荷比に応じて軸電圧V2を変更する。これにより、蓄積部20の出口が開放し始めてからイオンパルスが第1分析部30を通過し終えるまでの時間は、第1分析部30での選択イオンに関係なくほぼ一定になる。従って、トランジションTR1の最後のイオンパルスが蓄積部20から排出される時刻tから第1分析部30を通過し終わる時刻tまでの時間は、第1分析部30での選択イオンに関係なくほぼ一定である。そのため、トランジションTR1の最後のイオンパルスが蓄積部20から排出される時刻tから第1分析部30の選択電圧(RF電圧、DC電圧)の変更開始時刻t13までの時間Tdは、第1分析部30での選択イオンに関係なくほぼ一定にすることができる。
【0095】
第1分析部30で選択されたプリカーサーイオンのイオンパルスip11,ip12,ip13はコリジョンセル40に入射する。コリジョンセル40の入口電極44には一定の電圧(蓄積部20の出口電極26の開放時の電圧よりも低い電圧)が印加されており、コリジョンセル40の入口は常に開放されている。そのため、第1分析部30を通過したほぼ100%のプリカーサーイオンがコリジョンセル40に入射する。コリジョンセル40の出口電極46には2つの異なる電圧が周期的に印加される。出口電極46の電圧がイオンガイド42の軸電圧よりも高い時は、コリジョンセル40の出口が閉鎖され、イオンが蓄積される。一方、出口電極46の電圧がイオンガイド42の軸電圧よりも低い時は、コリジョンセル40の出口が開放され、プロダクトイオンや開裂しなかったプリカーサーイオンが排出される。すなわち、コリジョンセル40の出口電極46の電圧が周期的に切り替わることで、コリジョンセル40は蓄積動作と排出動作を交互に繰り返す。
【0096】
具体的には、時刻t30〜時刻t31においてコリジョンセル40にイオンが蓄積され、時刻t31〜t32においてコリジョンセル40からイオンパルスip21が排出される。また、時刻t32〜時刻t33においてコリジョンセル40にイオンが蓄積され、時刻t33〜t34においてコリジョンセル40からイオンパルスip22が排出される。また、時刻t34〜時刻t35においてコリジョンセル40にイオンが蓄積され、時刻t35〜t36においてコリジョンセル40からイオンパルスip23が排出される。
【0097】
コリジョンセル40でプリカーサーイオンの開裂効率を高くするには蓄積時間が長いほど有利である。そのため、イオンパルスがコリジョンセル40に入射し始める時刻は、出口電極46が閉鎖状態になった直後とした方がよい。例えば、イオンパルスip11がコリジョンセル40へ入射し始める時刻tは、このイオンパルスを蓄積するために出口電極46が閉鎖状態になった時刻t30の直後とした方がよい。但し、このように設定するのが困難な場合は、少なくともコリジョンセル40にイオンパルスが入射している間は出口電極46を閉鎖し、イオンを蓄積できるようにする。
【0098】
トランジションの変更に伴い、第1分析部30の選択イオンが変更される場合、次のトランジションのイオンパルスがコリジョンセル40に入射する前にコリジョンセル40内のイオンをすべて排出する。これにより、コリジョンセル40内のプロダクトイオンはすべて同じプリカーサーイオンに由来することになるので、トランジション間の干渉(クロストーク)を抑えることができる。例えば、トランジションTR1からTR2への変更では、第1分析部30の選択イオンが変わるので、トランジションTR1の最後のイオンパルスip22をコリジョンセル40から排出する開放動作の開放時間t34−t33は、コリジョンセル40内の全イオンを排出するだけの時間が必要である。しかし、コリジョンセル40で排出するイオンパルスがトランジションでの最後のイオンパルスでない場合や、最後のイオンパルスでも次のトランジションで第1分析部30の選択イオンが変わらない場合は、出口電極46の開放動作でコリジョンセル40内の全イオンを排出する必要はない。例えば、イオンパルスip21はトランジションTR1での最後のイオンパルスではないので、これらを排出するときはコリジョンセル40の全イオンを排出する必要はない。要するに、トランジションTR1の最後のイオンパルスip22をコリジョンセル40から排出する時間t34−t33は、トランジションTR1のその他のイオンパルス、例えばイオンパルスip21をコリジョンセル40から排出する時間t32−t31よりも長くする。
【0099】
コリジョンセル40から排出されたイオンパルスip21,ip22,ip23は、順番に第2分析部50に入射する。イオンパルスip21,ip22,ip23の時間幅はコリジョンセル40の出口電極46の開放時間とほぼ同じである。第2分析部50では、時刻t23〜t24にかけて選択電圧(RF電圧とDC電圧)が切り替わり、時刻t23までは質量電荷比がm1/zのイオンが選択され、時刻t24からは質量電荷比がm2/zのイオンが選択される。そして、第2分析部50を通過したイオンパルスip31,ip32,ip33は検出器60に入射する。
【0100】
時刻t23〜t24の変更時間に第2分析部50へイオンを入射させないようにするため、時刻t23はトランジションTR1の最後のイオンパルスip32が第2分析部50を通過し終わる時刻tより後にする。また、時刻t24はトランジションTR2の最初のイオンパルスip23が第2分析部50を通過し始める時刻tより前にする。
【0101】
第2分析部50の軸電圧V4は、選択電圧(RF電圧、DC電圧)の変更と連動して、V4(m1/z)からV4(m2/z)に変更する。軸電圧V4の変更開始時刻t21はトランジションTR1の最後のイオンパルスip32が第2分析部50を通過し終わる時刻tよりも後、変更終了時刻t22はトランジションTR2の最初のイオンパルスip23が第2分析部50に入射し始める時刻tより前にする。
【0102】
本実施形態でも、選択イオンが第2分析部50を通過する時間が、選択イオンの質量電荷比に関係なくほぼ同じになるように、式(4)或いはあらかじめ作成したテーブルや数式に基づいて、選択イオンの質量電荷比に応じて軸電圧V4を変更する。これにより、コリジョンセル40の出口が開放し始めてからイオンパルスが第2分析部50を通過し終えるまでの時間は、第2分析部50での選択イオンに関係なくほぼ一定になる。従って、トランジションTR1の最後のイオンパルスがコリジョンセル40から排出される時刻t33から第2分析部50を通過し終わる時刻tまでの時間は、第2分析部50での選択イオンに関係なくほぼ一定である。そのため、トランジションTR1の最後のイオンパルスがコリジョンセル40から排出される時刻t33から第2分析部50の選択電圧(RF電圧、DC電圧)の変更開始時刻t23までの時間Tdは、第2分析部50での選択イオンに関係なくほぼ一定にすることができる。
【0103】
以上に説明した第2実施形態の質量分析装置によれば、第1分析部30での選択イオンの質量が大きいほど、この選択イオンが第1分析部30を通過する時の光軸62方向の運動エネルギーが大きくなるように軸電圧V2を変化させることで、選択イオンが第1分析部30を通過する時間を質量電荷比に関係なくほぼ一定にすることができる。これにより、トランジションが変更される前の最後のイオンパルスが蓄積部20から排出されてから第1分析部30の選択電圧を変更するまでの時間Tdがほぼ一定になるので、第1分析部30で選択イオンを変更するタイミングの制御を簡単にすることができる。
【0104】
同様に、第2実施形態の質量分析装置1によれば、第2分析部50での選択イオンの質量が大きいほど、この選択イオンが第2分析部50を通過する時の光軸62方向の運動エネルギーが大きくなるように軸電圧V4を変化させることで、選択イオンが第2分析部50を通過する時間を質量電荷比に関係なくほぼ一定にすることができる。これにより、トランジションが変更される前の最後のイオンパルスがコリジョンセル40から排出されてから第2分析部50の選択電圧を変更するまでの時間Tdがほぼ一定になるので、第2分析部50で選択イオンを変更するタイミングの制御を簡単にすることができる。
【0105】
また、本実施形態によれば、コリジョンセル40でイオンを蓄積し、イオンパルスを排出することで、検出器60に入射するイオンパルスの幅の拡がりを抑えることができるので、検出感度をより向上させることができる。
【0106】
3.変形例
本発明は本実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0107】
[変形例1]
例えば、第1分析部の四重極マスフィルターの前後や第2分析部の四重極マスフィルターの前後に、プリフィルターやポストフィルターを設けてもよい。図5に、この質量分析装置の構成例を示す。図5において、図1と同じ構成には同じ符号を付しており、その説明を省略する。
【0108】
蓄積部20の出口電極26から排出されたイオンはパルスとなって第1分析部30を通過する。第1分析部30には、四重極マスフィルター32と、その前段と後段にそれぞれプリフィルター31とポストフィルター33が設けられており、所望の質量電荷比のイオンのみを選択して通過させる。プリフィルター31とポストフィルター33はイオンガイドの役割を果たし、四重極マスフィルター32の前後に配置することで、イオンの透過率を上げることができる。四重極マスフィルター32には、イオンを質量電荷比ごとに選択するための選択電圧(RF電圧とDC電圧)と軸電圧V2が、プリフィルター31とポストフィルター33にはそれぞれ所望の軸電圧が電源部80から供給される。具体的には、図6に示すように、四重極マスフィルター32を構成する4本のポール状の電極のうち、対向する2つの電極32aと32bにはVsinωt+DC+φの電圧が印加され、対向する残りの2つの電極32cと32dには−(Vsinωt+DC)+φの電圧が印加される。また、プリフィルター31を構成する4本のポール状の電極のうち、対向する2つの電極31aと31bにはVsinωt+φの電圧が印加され、対向する残りの2つの電極31cと31dには−Vsinωt+φの電圧が印加される。また、ポストフィルター33を構成する4本のポール状の電極のうち、対向する2つの電極33aと33bにはVsinωt+φの電圧が印加され、対向する残りの2つの電極33cと33dには−Vsinωt+φの電圧が印加される。第1分析部30のRF電圧はVsinωt、DC電圧はDCであり、軸電圧V2はそれぞれ四重極マスフィルター32、プリフィルター31、ポストフィルター33の長さの重み付けをして電圧φ、φ、φを平均したものである。なお、電極31aと32a、電極31bと32b、電極31cと32c、電極31dと32dをそれぞれコンデンサーで接続し、電極31a,31b,31c,31dには軸電圧φを共通に印加するようにしてもよい。同様に、電極33aと32a、電極33bと32b、電極33cと32c、電極33dと32dをそれぞれコンデンサーで接続し、電極33a,33b,33c,33dには軸電圧φを共通に印加するようにしてもよい。
【0109】
そして、選択電圧(RF電圧とDC電圧)に応じて選択されたプリカーサーイオンのみが、光軸62上に残り、コリジョンセル40に入射し、コリジョンセル40で生成されたプロダクトイオンは、開裂しなかったプリカーサーイオンとともに、第2分析部50に入射する。
【0110】
第2分析部50には、四重極マスフィルター52と、その前段と後段にそれぞれプリフィルター51とポストフィルター53が設けられており、所望の質量電荷比のイオンのみを選択して通過させる。プリフィルター51とポストフィルター53はイオンガイドの役割を果たし、四重極マスフィルター52の前後に配置することで、イオンの透過率を上げることができる。四重極マスフィルター52には、イオンを質量電荷比ごとに選択するための選択電圧(RF電圧とDC電圧)と軸電圧が、プリフィルター51とポストフィルター53にはそれぞれ所望の軸電圧が電源部80から供給される。四重極マスフィルター52に印加される選択電圧(RF電圧とDC電圧)と軸電圧、プリフィルター51とポストフィルター53にそれぞれ印加される軸電圧については、図6に示した四重極マスフィルター32、プリフィルター31とポストフィルター33と同様で、第2分析部50のRF電圧、DC電圧、軸電圧V4も第1分析部30と同じ様に定義できる。選択電圧(RF電圧とDC電圧)に応じて選択されたイオン(プロダクトイオン又はプリカーサーイオン)は、光軸62上に残り、検出器60に入射する。
【0111】
本変形例でも、質量が大きいイオンほど第1分析部30を通過する時の光軸62方向の運動エネルギーが大きくなるように、プリフィルター31、四重極マスフィルター32、ポストフィルター33のそれぞれの軸電圧を変化させ、質量電荷比に関係なく第1分析部30の通過時間をほぼ同じにする。同様に、質量が大きいイオンほど第2分析部50を通過する時の光軸62方向の運動エネルギーが大きくなるように、プリフィルター51、四重極マスフィルター52、ポストフィルター53のそれぞれの軸電圧を変化させ、質量電荷比に関係なく第2分析部50の通過時間をほぼ同じにする。そのため、本変形例でも、式(2)或いはあらかじめ作成したテーブルや数式に基づいて、選択イオンの質量電荷比に応じて軸電圧V2を変更し、式(4)或いはあらかじめ作成したテーブルや数式に基づいて、選択イオンの質量電荷比に応じて軸電圧V4を変更する。
【0112】
その他の動作は第1実施形態の質量分析装置と同じであるため、その説明を省略する。なお、第1分析部30や第2分析部50にプリフィルターとポストフィルターのいずれか一方のみを設けるようにしてもよい。また、第1分析部30と第2分析部50のいずれか一方のみにプリフィルターやポストフィルターを設けるようにしてもよい。
【0113】
[変形例2]
また、例えば、図7に示すように、大気圧イオン源の代わりに、試料に電子を衝突させてイオン化する電子衝突イオン化源など試料を真空中でイオン化するイオン源を用いてもよい。図7において、図1と同じ構成については同じ符号を付しており、その説明を省略する。
【0114】
図7に示す変形例2の質量分析装置1は、イオン源10の代わりにイオン源14を設け、イオン源14と蓄積部20の入口電極24との間に数枚の電極からなる集束レンズ16を設け、イオン源14から蓄積部20の出口電極26までを第1差動排気室74、蓄積部20の出口電極26からコリジョンセル40の出口電極46までを第2差動排気室75、コリジョンセル40の出口電極46の後段の空間を第3差動排気室76としたものである。
【0115】
イオン源14で生成されたイオンは、集束レンズ16を通過して蓄積部20に入射する。イオン源14が真空中にあるので、蓄積部20では、蓄積効率を上げるためにガス導入手段28からガスを導入してイオンの運動エネルギーを低下させる。蓄積部20は、イオンを蓄積する蓄積動作と、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する排出動作とを繰り返し行い、蓄積部20から排出されたイオンパルスは、第1分析部30に入射する。その他の動作は第1実施形態の質量分析装置と同じであるため、その説明を省略する。
【0116】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0117】
1 質量分析装置、10 イオン源、12 電極、14 イオン源、16 集束レンズ、20 蓄積部、22 イオンガイド、24 入口電極、26 出口電極、28 ガス導入手段、30 第1分析部、32 四重極マスフィルター、40 コリジョンセル、42 、44 入口電極、46 出口電極、48 ガス導入手段、50 第2分析部、52 四重極マスフィルター、56 電極、60 検出器、62 光軸、70 第1差動排気室、71 第2差動排気室、72 第3差動排気室、73 第3差動排気室、74 第1差動排気室、75 第2差動排気室、76 第3差動排気室、80 電源部、90 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をイオン化するイオン源と
前記イオン源で生成されたイオンを蓄積し、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する蓄積部と、
前記蓄積部が排出するイオンパルスから、質量電荷比に基づいて第1の目的イオンを選択する第1分析部と、
前記第1の目的イオンの一部又は全部を開裂させてプロダクトイオンを生成するコリジョンセルと、
前記第1の目的イオン及び前記プロダクトイオンから、質量電荷比に基づいて第2の目的イオンを選択する第2分析部と、
前記第2の目的イオンを検出する検出器と、
前記第1分析部では質量が大きい前記第1の目的イオンほど光軸方向の運動エネルギーを高くし、前記第2分析部では質量が大きい前記第2の目的イオンほど光軸方向の運動エネルギーを高くするように制御する制御部と、を含む、質量分析装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御部は、
前記第1の目的イオンの質量電荷比に応じて前記第1分析部の軸電圧を変更することにより、前記第1の目的イオンの光軸方向の運動エネルギーを変更し、
前記第2の目的イオンの質量電荷比に応じて前記第2分析部の軸電圧を変更することにより、前記第2の目的イオンの光軸方向の運動エネルギーを変更する、質量分析装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記制御部は、
前記第1の目的イオンの質量電荷比と前記第1分析部の軸電圧との関係を示す数式又はテーブルに基づいて前記第1分析部の軸電圧を変更し、
前記第2の目的イオンの質量電荷比と前記第2分析部の軸電圧との関係を示す数式又はテーブルに基づいて前記第2分析部の軸電圧を変更する、質量分析装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記制御部は、
前記蓄積部から連続して排出される2つのイオンパルスに対して、前記第1分析部で異なる前記第1の目的イオンを選択する場合、前記第1の目的イオンの選択の変更を開始する時刻は前のイオンパルスが前記第1分析部を通過し終わる時刻よりも後、前記第1の目的イオンの選択の変更を終了する時刻は後のイオンパルスが前記第1分析部を通過し始める時刻よりも前となるように制御し、
前記コリジョンセルから入射する連続する2つのイオンパルスに対して、前記第2分析部で異なる前記第2の目的イオンを選択する場合、前記第2の目的イオンの選択の変更を開始する時刻は前のイオンパルスが前記第2分析部を通過し終わる時刻よりも後、前記第2の目的イオンの選択の変更を終了する時刻は後のイオンパルスが前記第2分析部を通過し始める時刻よりも前となるように制御する、質量分析装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記蓄積部は、
前記イオン源で生成されたイオンを蓄積し、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する周期が一定である、質量分析装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記コリジョンセルは、
前記第1の目的イオン及び前記プロダクトイオンを蓄積し、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する、質量分析装置。
【請求項7】
請求項6において、
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記蓄積部は、
前記イオン源で生成されたイオンを蓄積し、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する周期が一定であり、
前記コリジョンセルは、
前記第1の目的イオン及び前記プロダクトイオンを蓄積し、蓄積したイオンをイオンパルスとして排出する周期が一定であり、
前記蓄積部の前記周期と前記コリジョンセルの前記周期が等しい、質量分析装置。
【請求項8】
請求項6又は7において、
前記コリジョンセルは、
前記第1分析部で前記第1の目的イオンの質量電荷比が変更される場合、変更前の最後のイオンパルスを排出する排出動作により当該コリジョンセルにあるイオンをすべて排出する、質量分析装置。
【請求項9】
請求項6又は7において、
前記コリジョンセルは、
前記第1分析部で前記第1の目的イオンの質量電荷比が変更される場合、変更前の最後のイオンパルスを排出する排出時間を変更前の他のイオンパルスを排出する排出時間よりも長くする、質量分析装置。
【請求項10】
請求項6乃至9のいずれかにおいて、
前記コリジョンセルは、
前記第1の目的イオンが入射している間は、前記第1の目的イオン及び前記プロダクトイオンを蓄積する、質量分析装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかにおいて、
前記第1分析部は、
前記第1の目的イオンを選択するための第1の四重極マスフィルターを含み、
前記第2分析部は、
前記第2の目的イオンを選択するための第2の四重極マスフィルターを含む、質量分析装置。
【請求項12】
請求項11において、
前記第1分析部は、
第1の四重極マスフィルターに対するプリフィルター及びポストフィルターの少なくとも一方を含み、
前記第2分析部は、
第2の四重極マスフィルターに対するプリフィルター及びポストフィルターの少なくとも一方を含む、質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−138270(P2012−138270A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290100(P2010−290100)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】