説明

赤外分光分析用加圧セル

【課題】赤外分光分析を行う際に使用する試料調整用加圧セルにおいて、干渉縞が発生しやすくなるような平滑すぎる試料面を作らずに、意図的に試料に適度な凸凹を与えることにより、微小試料であっても良好な赤外吸収スペクトルを得ることが出来る加圧セルを提供することを目的とする。
【解決手段】赤外分光分析用加圧セルであって、上台セル板1、上台ホルダー3、下台セル板2、下台ホルダー4を有し、前記上台セル板には試料接触面の逆側に2個以上の棒状つまみ6を、前記上台ホルダーには上台セル板の棒状つまみを遊挿可能な棒状つまみ通し孔10を、前記下台セル板には試料接触面の逆側に2個以上の柱状固定穴7を、前記下台ホルダーには下台セル板の柱状固定穴に挿着可能な下台セル板固定部8を具備していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に赤外分光分析時に試料を適切な厚さに調整する目的で用いられる加圧セルに関するものであり、特に微小試料が圧延時に過度に平滑にプレスされることによって発生することのある干渉縞を発生させにくくし、良好なスペクトルを得るための加圧セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体関連分野や液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ等の平面ディスプレイなどの産業分野はますます発展を遂げているが、そのような製造工程には少なからず微小な異物が存在し、製品に混入することで歩留まりに大きな影響を与えるばかりか、製造メーカーの信用問題にも発展しかねない。よってこれらの微小異物を分析・解析して収率向上や品質管理のための対策を立てることが重要である。
【0003】
そのような微小異物の分析には、その同定能力の高さ故に顕微赤外分光分析が広く用いられている(例えば、非特許文献1参照)。その際には試料の適切な前処理が必要となる。多くの場合、金属製ニードルを装着したハンディータイプの器具を用いて試料のサンプリングを行った後、試料を適切な厚みに調整する作業を行う。
【0004】
一般的なプラスチック素材では良好なスペクトルを得るために、試料の厚みは数μmもしくはそれ以下であることが望ましい。このような作業を行うときに、KBrプレートやダイヤモンドセルを用いてプレスする方法が知られている。
【0005】
特に前記のダイヤモンドセルは広く用いられており、例えば図6で示すように2枚1組のセル板20のダイヤモンド部21に試料22を挟み、ネジ23で締め付けることにより試料を圧延し、その後試料が付着しているセル板1枚を用いて測定を行う方法がある。
【0006】
しかしながらダイヤモンドセルを使用する際、あまりにきれい且つ平滑にプレスされると、赤外吸収スペクトルに干渉縞が発生することがある。この場合、もう一度プレスをしなおすことが求められるが、微小な試料になるとプレスしなおす時に試料が薄くなりすぎたり、最悪の場合、失われることもある。
【0007】
以下に先行技術文献を示す。
【非特許文献1】FT−IRの基礎と実際(第2版) 1994年3月25日発行 (株)東京化学同人 156ページ〜161ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、干渉縞が発生しやすくなるような平滑すぎる試料面を作らずに、意図的に試料に適度な凸凹を与えることにより、微小試料であっても良好な赤外吸収スペクトルを得ることが出来る加圧セルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明は、赤外分光分析を行うにあたって、測定用試料を調整するための赤外分光分析用加圧セルであって、上台セル板、上台ホルダー、下台セル板、下台ホルダーを有し、前記上台セル板には試料接触面の逆側に2個以上の棒状つまみを、前記上台ホルダーには上台セル板の棒状つまみを遊挿可能な貫通孔を、前記下台セル板には試料
接触面の逆側に2個以上の柱状の穴を、前記下台ホルダーには下台セル板の柱状の穴に挿着可能な固定部をそれぞれ具備していることを特徴とする赤外分光分析用加圧セルである。
【0010】
請求項2に記載の本発明は、前記上台セル板および上台セル板の、試料接触部分が赤外線透過性材料からなることを特徴とする請求項1記載の赤外分光分析用加圧セルである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の赤外分光分析用加圧セルを用いることにより、前処理として微小試料を圧延した後、上台セル板のみを微細に動かすことにより、試料の表面に適度な凸凹を付与することが出来る。このため、あらゆる微小試料に対しても干渉縞の少ない赤外吸収スペクトルを得ることができ、分析時間及び解析時間を短縮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明である加圧セル板を実施の形態に沿って図1〜5を参照しながら詳細に説明する。なお図1〜5は本発明の実施例の一つである。
【0013】
図1は本発明の赤外分光分析用加圧セル一式の構成の一例を示す断面説明図である。本発明の赤外分光分析用加圧セルは、上台セル板1、下台セル板2、上台ホルダー3、下台ホルダー4を有する。
【0014】
図2は本発明の赤外分光分析用加圧セルの上台セル板の構成の一例を示す平面概略図である。赤外線透過部9とともに、試料の凸凹を調整するための棒状つまみ6が設けてある。
【0015】
図3は本発明の赤外分光分析用加圧セルの下台セル板の構成の一例を示す平面概略図である。赤外線透過部9とともに、下台セル板を固定するための柱状固定穴7が設けてある。
【0016】
図4は本発明の赤外分光分析用加圧セルの上台ホルダーの構成の一例を示す平面概略図である。棒状つまみ6を貫通させるための棒状つまみ通し孔10が設けてある。
【0017】
図5は本発明の赤外分光分析用加圧セルの下台ホルダーの構成の一例を示す平面概略図である。セル位置固定部11とともに下台セル板を固定するための下台セル板固定部8が設けてある。
【0018】
上台セル板1及び下台セル板2の赤外線透過部の材質はダイヤモンド、ゲルマニウム、セレン化亜鉛などの赤外線透過性材料が使用できる。特に洗浄の簡便さ、硬度、靭性の点からダイヤモンドが好適である。
【0019】
上台セル板1の棒状つまみ6の形状および長さについては、加圧時に上台ホルダー3側から触れられれば特に制限はないが、操作の関係上、好ましくは直径が1〜5mmの柱状であって、上台ホルダー3から10mm〜20mm突き出ている状態が好ましい。また棒状つまみの数も2個以上あれば特に制限はないが、好ましくは3〜4個である。
【0020】
下台セル板2の柱状固定穴7は、2個以上あれば特に制限はなく、断面形状についても特に制限はないが、好ましくは直径が1〜5mmの円柱状で、穴の数が3〜4個である。
【0021】
上台ホルダー3の棒状つまみ通し孔10は前記棒状つまみ6の水平可動範囲が0.1mm以上であれば特に制限はないが、好ましくは水平稼動範囲が0.5mm〜2mmである
。また棒状つまみ通し穴の数は棒状つまみの数に合わせて2個以上あれば特に制限はないが、好ましくは3〜4個である。孔の断面形状については、特に制約はない。
【0022】
下台ホルダー4の下台セル板固定部8の高さは下台セル板2に設けた柱状固定穴7の深さよりも小さいことが必要であり、好ましくは直径が1〜5mmの円柱状で、高さは下台セル板2の厚みの1/2〜3/4である。また下台セル板固定部8の数は下台セル板に設けた柱状固定穴の数に応じて2個以上あれば特に制限はないが、好ましくは3〜4個である。
【0023】
上台セル板1及び下台セル板2自体の大きさは特に制限はないが、棒状つまみ6を除いた大きさは、好ましくは縦5〜30mm、横5〜30mm、厚さ0.5〜5mmである。
【0024】
上台ホルダー3自体の大きさは特に制限はないが、好ましくは縦30〜80mm、横30〜80mm、高さ2〜12mmである。
【0025】
下台ホルダー4自体の大きさは特に制限はないが、好ましくは縦45〜95mm、横45〜95mm、高さ2〜12mmである。下台ホルダー4には、下台セル板の取付け位置を容易に決定できるように、セル位置固定部11を設けてもよい。
【実施例】
【0026】
上記の発明について具体的な実施例を以下に示すが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
本発明の赤外分光分析用加圧セルとして、上台セル板1は全体の大きさが直径15mm、厚み2mmの円盤状で赤外線透過部に2mm角のダイヤモンドを使用したものをベースとし、直径2mm、成形時に上台ホルダー3の棒状つまみ通し孔から15mm出るような棒状つまみ6を等間隔に3個設けたものを用意した。
【0028】
下台セル板2は、全体の大きさが直径15mm、厚み2mmの円盤状で赤外線透過部に2mm角のダイヤモンドを使用したものをベースとし、試料接触面の逆側である底部に直径2.05mmの円柱状固定穴7を等間隔に3個設けたものを用意した。
【0029】
上台ホルダー3は、全体の大きさが直径35mm、高さが5mmの円盤状のものをベースとし、成形時に棒状つまみ6が水平方向に1mmずつ動かせるような棒状つまみ通し孔10を等間隔に3個設けたものを用意した。
【0030】
下台ホルダー4は、全体の大きさが60mm角のものをベースとし、直径2mm、高さ1.3mmの円柱状の下台セル板固定部8を等間隔に3個設けたものを用意した。
【0031】
次に金属製ニードルを装着したハンディータイプの器具を用いて試料のサンプリングを行い、試料として約40μm角の大きさであるポリプロピレン片を採取し、下台セル板2の赤外線透過部9に設置した。
【0032】
そして上台セル板1を下台セル板2に重ねて、試料を圧延した後、棒状つまみ6を把持して上台セル板を動かし、試料表面に微細な凹凸を付与した。
【0033】
プレスした上台セル板と下台セル板のうち、サンプルが付着した方のセル板を用い、顕微赤外分光分析装置(日本分光(株)製、商品名;FT/IR―6000及びIRT−3000)の試料ステージに設置して、顕微赤外分光分析を100回連続して行った。
【0034】
<比較例>
実施例と同様にサンプリングを行った後、Thermo社製Micro Sample
Plan w/Diamond Windows(登録商標)(比較品)を用いて試料を圧延し、サンプルが付着した方のセル板を用い顕微赤外分光分析を100回連続して行った。
【0035】
<評価>
以下、実施例と比較例の結果を表1に示す。
【0036】
【表1】

干渉縞発生率については◎:5%未満、○5〜20%、△20%以上、
解析不能率については◎:5%未満、○5〜10%、△10%以上、
であることを意味する。
【0037】
本発明の赤外分光分析用加圧セルによって、平滑すぎるプレスにより干渉縞が発生する可能性が高い試料において、適度な凸凹を与えることが可能となり、干渉縞が発生する確率が大幅に減少し、良好なスペクトルを得ることができるため、スペクトルの解析が容易にできる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の赤外分光分析用加圧セル一式の構成の一例を示す断面説明図である。
【図2】本発明の赤外分光分析用加圧セル上台セル板1の構成の一例を示す平面概略図である。
【図3】本発明の赤外分光分析用加圧セル下台セル板2の構成の一例を示す平面概略図である。
【図4】本発明の赤外分光分析用加圧セル上台ホルダー3の構成の一例を示す平面概略図である。
【図5】本発明の赤外分光分析用加圧セル下台ホルダー4の構成の一例を示す平面概略図である。
【図6】従来市販されている赤外分光分析用加圧セルの構成の一例を示す断面概略図である。
【符号の説明】
【0039】
1…上台セル板
2…下台セル板
3…上台ホルダー
4…下台ホルダー
5…試料
6…棒状つまみ
7…柱状固定穴
8…下台セル板固定部
9…赤外線透過部
10…棒状つまみ通し孔
11…セル位置固定部
20…セル板
21…ダイヤモンド部
22…試料
23…ネジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外分光分析用加圧セルであって、上台セル板、上台ホルダー、下台セル板、下台ホルダーを有し、前記上台セル板には試料接触面の逆側に2個以上の棒状つまみを、前記上台ホルダーには上台セル板の棒状つまみを遊挿可能な貫通孔を、前記下台セル板には試料接触面の逆側に2個以上の柱状の穴を、前記下台ホルダーには下台セル板の柱状の穴に挿着可能な固定部を具備していることを特徴とする赤外分光分析用加圧セル。
【請求項2】
前記上台セル板および下台セル板の、試料と接触する部分が赤外線透過性材料からなることを特徴とする請求項1に記載の赤外分光分析用加圧セル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−103558(P2009−103558A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274952(P2007−274952)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】