説明

赤外線カメラ調整装置及び赤外線カメラ調整方法

【課題】可視光のキャリブレーションと同様な高精度のキャリブレーションを行うことのできる赤外線カメラ調整装置を提供する。
【解決手段】本発明の赤外線カメラ調整装置1は、赤外線の反射材となる金属箔2と赤外線の光源となる部材3とを組み合わせて模様が形成されたキャリブレーションボード4と、金属箔2及び部材3を加熱する平面ヒータ5とを備え、部材3では外界よりも高い温度の赤外線が放射され、反射材である金属箔2からは外界の温度と同じ赤外線が放射されるようにして、金属箔2と部材3との境目で赤外線の光量のコントラストが明瞭に現れるようにすることで高精度なキャリブレーションが行えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線カメラのキャリブレーションを行うための赤外線カメラ調整装置及びその方法に係り、特に赤外線カメラのキャリブレーションを可視光のキャリブレーションと同様に高精度に行う赤外線カメラ調整装置及びその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、赤外線カメラを用いて対象物の検出や位置を同定するための手法が各種提案されている。例えば、夜間の道路上の障害物の検出や位置の同定のためには、中〜遠赤外線カメラを2個用いてステレオ計測を行うことが有効であるという観点から、1組のステレオカメラと遠赤外線センサとを用いて車外の歩行者を認識するための車外監視装置が提案されている(特許文献1)。また、1組のステレオカメラとして赤外線カメラを用い、視界不良時でも航空機のパイロットが操縦を可能にするための技術が提案されている(特許文献2)。
【0003】
このように2つのカメラで計測を行う場合には、個々のカメラにおける内部パラメータや、カメラ間の位置関係を表す外部パラメータを正確に計測してキャリブレーションを行うことが重要となる。カメラの内部パラメータとしては、焦点距離、画像の縦横比、画像中心、レンズ歪などがあり、カメラの外部パラメータとしては、世界座標に対するレンズの中心座標、光軸方向などの外部パラメータがある。これら各種パラメータを決定するための一連のプロセスがキャリブレーションと呼ばれるものである。
【0004】
このようなキャリブレーションの方法として、ターゲット板に参照点を印刷したキャリブレーションボードを用いる方法が提案されている。その方法として、対象となる計測領域の3次元位置を求める際に、予め3次元形状が既知なキャリブレーションボードを計測領域に設置することで、対象の3次元位置計測のための変換パラメータの導出を簡便に行うようにしたもの(特許文献3)や、Roger Y.Tsai等による方法(Roger Y,Tsai,”A Versatile Camera Calibration Technique for High-Accuracy 3D Machine Metrology Using Off-the Shelf TV Cameras and Lenses”, IEEE J.Robotics and Automation, Vol.RA-3,No4,pp.323-344,1987)が提案されている。このRoger Y.Tsai等による方法は、平面上に多数の点を配置したキャリブレーションボードに対してカメラを傾けて撮影し、各点の世界座標と画面座標との組からカメラのパラメータを決定するものである。
【0005】
また、市松模様を印刷したキャリブレーション用の立体を用いる方法が提案されている(特許文献4)。
【0006】
しかしながら、上述した従来のキャリブレーション方法はいずれも可視光が前提であるために、ここで使用されているターゲットパターンを中〜遠赤外線の帯域で使用することは困難であった。
【0007】
一方、別の用途では、中〜遠赤外線カメラの画像と可視光カメラの画像とを重ね合わせて構造物のひび割れを検出する撮像装置が提案されており、カメラ内やカメラ間のパラメータをキャリブレーションする方法についても開示されている(特許文献5)。しかしながら、この提案においてレンズ歪の特性などは「予め計測」とされているが、赤外線帯域で高い精度で簡便に計測する方法については記載されていない。さらに、カメラ間の位置関係も「既知」とされているが、レンズ中心のずれや受光素子の傾きも含めたカメラ系として考えた場合には、画像からカメラの位置関係を計測したほうが正確な値を得ることができるので、そのほうが望ましいと考えられる。これらについても、対応点などが撮影できていれば、先に挙げたRoger Y.Tsai等の方法によって計算できるが、赤外線帯域で十分な精度をもったターゲットパターンの撮影方法が無いという問題は上述した従来例のキャリブレーション方法と同じであった。
【0008】
また、別のアプローチとして、プリズムで可視光と遠赤外線とを分光し、可視光カメラで可視光を撮影するとともに、遠赤外線カメラで遠赤外線を撮影して画像を結合させる装置が提案されている(特許文献6)。しかし、撮像面の素子サイズはそれぞれ異なるとともに、可視光と遠赤外線とでは波長が大きく違うので収差が発生する。このため、レンズの特性(歪や焦点距離など)を同じにして扱うと誤差が生じてしまうので、高い精度での調整を行うためには実際撮影した画像を用いる必要があった。
【0009】
一方、上述した従来の手法では、カメラの内部パラメータとカメラ間の外部パラメータとを同時に推定することを示したが、ステレオ計測を2台のカメラではなく、1台のカメラで実現するための方法が開示されている(特許文献7)。しかし、この場合にもカメラの内部パラメータを事前に計測しておく必要があることに変わりはない。このように、カメラの内部パラメータだけを計測する必要がある場合でも、上述したRoger Y.Tsai等に提案されている方法を用いればよいが、赤外線帯域で十分な精度をもったターゲットパターンが必要になることに変わりはない。
【0010】
また、中〜遠赤外線(波長4μm〜13μm)の帯域においてキャリブレーションを行う方法の一例として、橋本謙太郎等によって提案されている方法(橋本謙太郎、高松淳、小川原光一、池内克史“赤外線画像のステレオ処理に基づく手の形状推定”第19回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2001)、pp.1283-1284、2001年9月)がある。この方法では、板状の部材に豆球を取り付けて豆球の発熱部分をマーカにしてキャリブレーションを行っている。
【特許文献1】特開2005−234694号公報
【特許文献2】特開2001−344597号公報
【特許文献3】特開2001−264037号公報
【特許文献4】特開2002−350131号公報
【特許文献5】特開2005−338359号公報
【特許文献6】特開平10−73412号公報
【特許文献7】特開平10−239054号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した橋本謙太郎等によって提案されている方法では、中〜遠赤外線(波長4μm〜13μm)の帯域において可視光と同じような高精度のキャリブレーションを実現することは困難であった。
【0012】
その理由としては、中〜遠赤外線(波長4μm〜13μm)の帯域においては、紙や木材、プラスチックのような可視光で乱反射する物体は赤外線放射を行うので、赤外線の光源となり、この光源としての明るさは温度に比例するので、温度分布に隠れてターゲットの模様が見えないか、あるいは画像処理に十分な鮮明さが得られないかのどちらかになってしまうからである。
【0013】
さらに、塗料を塗ったとしても塗料と部材がともに光源となってしまう、あるいは塗料が薄い場合にはそのまま赤外線が透過してしまうので、やはりターゲットの模様が見えないか、画像処理に十分な鮮明さが得られないかのどちらかになってしまう。
【0014】
そこで、ターゲット板に温度が高い部分と低い部分を作ることによって模様を描くことも考えられるが、温度は塗料と違って周囲に伝播して滲んでしまうため、画像処理に十分な鮮明さは得られない。
【0015】
このため中〜遠赤外線の帯域においてターゲット板やターゲットの立体を用いた方式で、可視光のように高い精度でキャリブレーションを行うことは困難であった。
【0016】
ちなみに、橋本謙太郎等の方法においても、部材に熱が伝わり滲みが発生する点や、豆球の形状が高さを持ち真球でないこと、製品によるばらつきがあることなどによって、斜めから見たときに画像での中心と豆球の中心が同じ位置に見えない場合があり、可視光の計測に比べて精度が低くなるという問題点があった。
【0017】
さらに、橋本謙太郎等の方法において特許文献2で開示されたキャリブレーション方法を用いる場合には、マーカのIDとなる記号を描く方法も考えられるが、IDを描く際には豆球では自由な形状を描けず、自動化部分の実現が困難になってしまうという問題点もあった。
【0018】
本発明の目的は、中〜遠赤外線の帯域であっても可視光と同じような高精度のキャリブレーションを行うことのできる赤外線カメラ調整装置及びその方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述した課題を解決するために、本発明の赤外線カメラ調整装置は、赤外線カメラのキャリブレーションを行うための赤外線カメラ調整装置であって、赤外線の反射材と赤外線の光源となる部材とを組み合わせて模様が形成され、前記反射材及び前記部材が外界とは異なる温度に設定されたキャリブレーション用のターゲットを備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の赤外線カメラ調整方法は、赤外線カメラのキャリブレーションを行うための赤外線カメラ調整方法であって、赤外線の反射材と赤外線の光源となる部材とを組み合わせて模様が形成され、前記反射材及び前記部材が外界とは異なる温度に設定されたキャリブレーション用のターゲットを前記赤外線カメラで撮影することにより、前記赤外線カメラのキャリブレーションを行うためのパラメータを決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の赤外線カメラ調整装置及びその方法によれば、キャリブレーション用のターゲットにおいて、反射材及び部材はほぼ同じ温度となるように温度が設定されるが、反射材の反射面では外界の温度を映し出すことになるため、部材の領域では設定された温度の赤外線が放出され、反射材の領域では外界の温度と同じ赤外線が放出されることになる。したがって、反射材と部材との境目では赤外線の光量のコントラストが明瞭に現れることとなり、可視光の場合と変わらない高精度なキャリブレーションを行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は第1の実施形態に係る赤外線カメラ調整装置の構造を示す図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の赤外線カメラ調整装置1は、赤外線の反射材となる金属箔2、及び赤外線の光源となる部材3を組み合わせて模様が形成されたキャリブレーションボード4と、金属箔2及び部材3を同時に加熱することにより、金属箔2及び部材3を外界とは異なる温度に制御する平面ヒータ(温度制御部)5とを備えている。このキャリブレーションボード4と平面ヒータ5は、本発明におけるキャリブレーション用のターゲットを構成するものである。なお、図1では、キャリブレーションボード4の断面構造を示すために、中央部で分割した図を示している。
【0024】
金属箔2は、アルミニウムや銅などの赤外線を反射する金属であればよく、中〜遠赤外線の反射率が特に高いものを選択することが望ましい。そして、この金属箔2によって、例えば市松模様のような模様(図形)を描き、赤外線を反射する鏡面として作用させる。この金属箔2の厚さは1μm以上で、尚且つ1mm以下とすることが望ましい。なぜならば、1μmよりも薄くすると赤外線が薄膜を透過してしまい、1mmより厚くすると斜めから見た場合に誤差が生じてしまうためである。また、錆びを防ぐために金などの赤外線を反射し、尚且つ耐食性の優れた金属でコーティングしてもよい。このとき、1μmの金箔で金属箔2を形成することも考えられるが、コストや加工(蒸着すると時間がかかる)の面から、銅箔をエッチングによって十分な厚みに加工し、その上に金を蒸着コーティングするようにしたほうが効率的に作製することができる。
【0025】
この金属箔2の具体例としては、厚さが30〜50μmの銅箔を用いて1辺が100mmの格子を作り、この格子で市松模様を描いて銅箔部分に金でコーティングしたものが考えられる。
【0026】
部材3は、赤外線の光源となる紙、プラスチック、セラミック、エポキシ樹脂のような材料によって形成される。具体例としては、厚さ2mmのエポキシ樹脂製の板を400mm×300mmの大きさに加工して利用している。また、キャリブレーションボード4を立体とする場合には模様を描いたエポキシ樹脂製の板を組み合わせることによって実現できる。また、部材3には、平面ヒータ5に通電した際に、金属箔2及び部材3の温度を検出する図示しない温度センサが設けられている。
【0027】
平面ヒータ5は、キャリブレーションボード4の背面に取り付けられ、部材3を直接加熱して、金属箔2及び部材3がともに外界と異なる温度となるように制御する温度制御部である。なお、金属箔2及び部材3の温度は、上述したように部材3に設けた図示しない温度センサで検出しているが、平面ヒータ5に内蔵された温度センサで温度を検出し、この温度を金属箔2及び部材3の温度とみなしてもよい。
【0028】
本実施形態では加熱する装置として平面ヒータ5を用いたが、後述する第2の実施形態のように、ドライヤーのような温風発生器を用いて温風をキャリブレーションボード4に吹き付けて加熱するようにしてもよい。
【0029】
次に、このように構成された赤外線カメラ調整装置1を用いた赤外線カメラの調整方法(キャリブレーション方法)を図2のフローチャートに基づいて説明する。
【0030】
まず、キャリブレーションボード4を計測領域に設置し(ステップS101)、平面ヒータ5を通電して金属箔2及び部材3を加熱する(ステップS102)。
【0031】
そして、金属箔2及び部材3が平面ヒータ5により十分に加熱され、前記温度センサで検出された温度が外界よりも高い温度になったら(ステップS103でYES)、平面ヒータ5への通電を継続しながら中〜遠赤外線カメラで撮影し、キャリブレーションを実施して(ステップS104)、本実施形態の赤外線カメラの調整方法は終了する。
【0032】
ここで、キャリブレーションの方法は、一般的なキャリブレーションの方法を実施すればよい。例えば、上述したRoger Y.Tsai等の方法を用いて行うことができる。すなわち、平面上に多数の点を配置したキャリブレーションボードを傾けて撮影することにより、各点の世界座標と、それらの点に対応する画面座標との組が与えられたときに、外部パラメータとして回転行列とベクトル、内部パラメータとして焦点距離、レンズ歪係数、スケール係数、画像原点を求めることでカメラのパラメータを決定する。
【0033】
具体的には、キャリブレーションボード4を色々な向きに傾けて赤外線カメラ1台で撮影し、前述した赤外線カメラの内部パラメータを計測する。その後、同様にキャリブレーションボード4を色々な向きに傾けて、赤外線カメラ2台の相対的な位置関係の外部パラメータを計測し、赤外線カメラ2台でのステレオ計測を可能にするだけのキャリブレーションを完了する。
【0034】
このキャリブレーションにおいて、金属箔2と部材3は高い温度に加熱され、部材3は光源となり、外界に比べて多くの赤外線を放射する。一方、金属箔2は部材3と同じように高い温度に加熱されるが、その表面は鏡面(反射面)となり、外界の温度を映し出すことになるため、外界の温度と同じ赤外線が放射されることになる。なお、外界とは本装置1の周辺空間をいう。例えば、本装置1を室内の中央で使用したとすると、金属箔2には壁や天井などの部材3よりも温度が低いと思われる領域の温度が映し出されることになる。
【0035】
ここで、部材3を加熱した状態のキャリブレーションボード4を赤外線カメラで撮影した写真の一例を図3に示す。図3に示すように、加熱されて多くの赤外線を放射している部材3の部分は白く写っている。これに対して、金属箔2の部分は、部材3よりも温度の低い外界の温度を映し出している。このように温度の低い部分では、赤外線の放射量が少ないので黒く写ることになる。
【0036】
したがって、金属箔2で形成された模様と部材3との境目では赤外線の光量のコントラストが明瞭に現れる、すなわちコントラストが明瞭に分かれて変化することとなるため、可視光の場合と同様に高精度なキャリブレーションを実行することが可能となる。
【0037】
このように、本実施形態の赤外線カメラ調整装置1では、赤外線の反射材となる金属箔2と赤外線の光源となる部材3とを組み合わせて模様を形成したキャリブレーションボード4を用い、金属箔2及び部材3が外界よりも高い温度になるように制御するようにしたので、外界の温度と同じ赤外線を放出する金属箔2と、設定された温度と同じ赤外線を放出する部材3との境目では、赤外線の光量のコントラストが明瞭に現れることになり、可視光の場合と変わらない高精度なキャリブレーションを行うことが可能になる。
【0038】
また、本実施形態の赤外線カメラ調整装置1では、部材3をキャリブレーションボード本体とし、反射材である金属箔2で模様を形成したので、自由な模様を描くことができ、これによって複数のマーカの自動識別等にも有効なターゲットを作成することができる。
【0039】
さらに、本実施形態の赤外線カメラ調整装置1では、温度制御部として平面ヒータ5を用いたので、金属箔2及び部材3を均一に加熱することができ、ボード上での部分的な温度ムラや、金属箔2から部材3への熱の伝わりによる滲みが発生することがなく、金属箔2と部材3との境目において、赤外線の光量のコントラストをムラなく、且つ明瞭に現すことが可能となる。
【0040】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態を図面に基づいて説明する。図4は、第2の実施形態に係る赤外線カメラ調整装置の構造を示す図である。
【0041】
図4に示すように、本実施形態の赤外線カメラ調整装置41は、強度を得るための構造材42の上に赤外線の反射材となる金属箔43を設置して赤外線の光源となる部材44で模様を形成したキャリブレーションボード45と、キャリブレーションボード45に温風を吹き付けるドライヤー(温度制御部)46とを備えている。このキャリブレーションボード4とドライヤー46は、本発明におけるキャリブレーション用のターゲットを構成するものである。なお、図4では、キャリブレーションボード45の断面構造を示すために、中央部で分割した図を示している。
【0042】
構造材42は、プラスチックなどの十分な強度が得られる板材であれば、どのような材質の板材であってもよく、大きさは一例として400mm×300mmで厚さが12mmの部材とする。
【0043】
金属箔43は、アルミニウムや銅などの赤外線を反射する金属であればよく、中〜遠赤外線の反射率が特に高いものを選択することが望ましい。そして、この金属箔43を、赤外線を反射する鏡面として作用させる。この金属箔43の具体例としては、紙の上に3〜10μmのアルミ箔を貼り付けたアルミ貼り合わせ紙を用意し、これを構造材42の上に貼り付けるようにする。このときアルミ箔の厚みは1μm以上とし、アルミ箔でなくてもアルミニウムの板であっても構わない。
【0044】
部材44は、赤外線の光源となるような塗料や顔料を使って金属箔43の表面に印刷で模様を描いたものであり、図4では1辺が100mmの格子で市松模様を描いたものである。模様を印刷する際には、塗料や顔料が薄いと赤外線が透過してコントラストが下がってしまうので、印刷に厚みを持たせるために多色刷りで何色かを重ね塗りするようにする。また、模様は、真っ白や真っ黒ではなく、表面に凸凹を作ってドットの塗り分けで中間色(灰色)を表現し、赤外線の輻射率を上げて高いコントラストを得られるようにすることが望ましい。
【0045】
また、立体のキャリブレーションボードを用いる場合にも、望む形状の立体に金属箔43を貼り付けて部材44を印刷すればよいので、目的に応じた形状をフレキシブルに作成することができる。
【0046】
ドライヤー46は、キャリブレーションボード45の表面へ温風を吹き付けて、金属箔43及び部材44を加熱するための温度制御部である。
【0047】
本実施形態では加熱する装置としてドライヤーを用いたが、構造材42として金属板などの熱伝導率の良い材料を用い、その金属板に第1の実施形態のように平面ヒータを取り付けて加熱するようにしても良い。
【0048】
このように構成された赤外線カメラ調整装置41において、赤外線カメラの調整方法(キャリブレーション方法)は、金属箔43及び部材44を加熱する際に平面ヒータ5の代わりにドライヤー46を用いること以外は第1の実施形態と同一なので、詳しい説明は省略する。
【0049】
本実施形態の赤外線カメラ調整装置41では、第1の実施形態と同じく、部材3は光源となり、外界に比べて多くの赤外線を放射する一方、金属箔2の表面は鏡面(反射面)となり、外界の温度を映し出すことになるため、外界の温度と同じ赤外線が放射される。
【0050】
したがって、部材3で形成された模様と金属箔2との境目では赤外線の光量のコントラストが明瞭に現れる、すなわちコントラストが明瞭に分かれて変化することとなるため、可視光の場合と同様に高精度なキャリブレーションを実行することが可能となる。とくに本実施形態では、反射材である金属箔43を利用してキャリブレーションボード本体を形成し、部材44によって模様を形成したので、印刷で模様を描くことができ、これによって短時間で容易に望みの模様を描くことが可能になる。
【0051】
また、本実施形態の赤外線カメラ調整装置41では、温度制御部としてドライヤー46を用いたので、金属箔43及び部材44を短時間に効率良く加熱することができる。また、金属箔43及び部材44をほぼ均一に加熱することができるので、ボード上での部分的な温度ムラや、金属箔2から部材3への熱の伝わりによる滲みが発生することがほとんどなく、金属箔43と部材44との境目において赤外線の光量のコントラストを明瞭に現すことが可能となる。
【0052】
以上説明した各実施形態では、キャリブレーションボードを構成する金属箔2及び部材3を外界よりも高い温度とする例について示したが、本発明はこの例に限定されるものではない。すなわち、本発明は金属箔2及び部材3が外界とは異なる温度となるように制御すればよく、キャリブレーションボードを構成する金属箔2及び部材3を外界よりも低い温度となるように制御にしてもよい。この場合の温度制御部としては、例えば、ペルチェ素子のような冷却装置を用いることができる。このように、本発明における温度制御部は加熱装置だけでなく、冷却装置でもよく、使用状況等に応じて適宜選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る赤外線カメラ調整装置の構造を示す図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る赤外線カメラ調整装置によるキャリブレーション方法を説明するためのフローチャートである。
【図3】本発明の第1実施形態に係るキャリブレーションボードを赤外線カメラで撮影した図である。
【図4】本発明の第2の実施形態に係る赤外線カメラ調整装置の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1、41 赤外線カメラ調整装置
2、43 金属箔
3、44 部材
4、45 キャリブレーションボード
5 平面ヒータ(温度制御部)
42 構造材
46 ドライヤー(温度制御部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線カメラのキャリブレーションを行うための赤外線カメラ調整装置であって、
赤外線の反射材と赤外線の光源となる部材とを組み合わせて模様が形成され、前記反射材及び前記部材が外界とは異なる温度に設定されたキャリブレーション用のターゲットを備えることを特徴とする赤外線カメラ調整装置。
【請求項2】
前記キャリブレーション用のターゲットは、
赤外線の反射材と赤外線の光源となる部材とを組み合わせて模様が形成されたキャリブレーションボードと、
前記反射材及び前記部材を外界とは異なる温度に制御する温度制御部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の赤外線カメラ調整装置。
【請求項3】
前記温度制御部は、前記反射材及び前記部材を外界とは異なる温度とし、且つ前記反射材及び前記部材が同じ温度となるように制御することを特徴とする請求項2に記載の赤外線カメラ調整装置。
【請求項4】
前記キャリブレーションボードは、前記部材によりキャリブレーションボード本体が形成され、前記反射材により模様が形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の赤外線カメラ調整装置。
【請求項5】
前記キャリブレーションボードは、前記反射材によりキャリブレーションボード本体が形成され、前記部材により模様が形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の赤外線カメラ調整装置。
【請求項6】
前記温度制御部は、前記反射材及び前記部材を外界の温度よりも相対的に高い温度とすることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の赤外線カメラ調整装置。
【請求項7】
前記温度制御部は、前記反射材及び前記部材を外界の温度よりも相対的に低い温度とすることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の赤外線カメラ調整装置。
【請求項8】
赤外線カメラのキャリブレーションを行うための赤外線カメラ調整方法であって、
赤外線の反射材と赤外線の光源となる部材とを組み合わせて模様が形成され、前記反射材及び前記部材が外界とは異なる温度に設定されたキャリブレーション用のターゲットを前記赤外線カメラで撮影することにより、前記赤外線カメラのキャリブレーションを行うためのパラメータを決定することを特徴とする赤外線カメラ調整方法。
【請求項9】
前記反射材と前記部材とを組み合わせて模様が形成されたキャリブレーションボードの温度を、当該キャリブレーションボードの近傍に配置した温度制御部により、前記反射材及び前記部材が外界とは異なる温度となるように制御することを特徴とする請求項8に記載の赤外線カメラ調整方法。
【請求項10】
前記温度制御部により、前記反射材及び前記部材を外界とは異なる温度とし、且つ前記反射材及び前記部材が同じ温度となるように制御することを特徴とする請求項9に記載の赤外線カメラ調整方法。
【請求項11】
前記部材をキャリブレーションボード本体とし、前記反射材を前記キャリブレーションボードの模様として撮影することを特徴とする請求項8又は9に記載の赤外線カメラ調整方法。
【請求項12】
前記反射材をキャリブレーションボード本体とし、前記部材を前記キャリブレーションボードの模様として撮影することを特徴とする請求項8又は9に記載の赤外線カメラ調整方法。
【請求項13】
前記反射材及び前記部材を外界の温度よりも相対的に高い温度となるように制御することを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の赤外線カメラ調整方法。
【請求項14】
前記反射材及び前記部材を外界の温度よりも相対的に低い温度となるように制御することを特徴とする請求項9乃至12のいずれか1項に記載の赤外線カメラ調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−202971(P2008−202971A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36699(P2007−36699)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】