説明

赤外線センサ素子のパッケージ

【課題】リッドおよび赤外線透過部材の線膨張係数差に起因してリッドと赤外線透過部材との接合部が破損するのを防止できる赤外線センサ素子のパッケージを提供する。
【解決手段】赤外線センサ素子Aのパッケージ1は、一面が開口した矩形箱状に形成され且つ赤外線センサ素子Aが内底面2aに配設されるパッケージ本体2と、パッケージ1の外側からパッケージ1の内側へ赤外線を取り込むための開口部を有し且つパッケージ本体2の前記一面を覆う形でパッケージ本体2に接合されたリッド3と、リッド3の開口部3bを覆う形で設けられた赤外線透過部材4とを備える。リッド3を形成する材料の線膨張係数と赤外線透過部材4を形成する材料の線膨張係数との差異に起因してリッド3と赤外線透過部材4との接合部5に生じる熱応力を緩和するための可撓部である第1の薄肉部(応力緩和構造)3dがリッド3に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線センサ素子のパッケージに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、図6に示すように、赤外線を検出する赤外線センサ素子A’がエポキシ樹脂系接着剤によって固着されるベース(ステム)21’と、有底筒状に形成され且つ底壁31a’に赤外線が入射する開口部31b’が形成されたキャップ31’と、SiやGe等の半導体で形成されキャップ31’の開口部31b’を覆う形で設けられた赤外線透過部材4’とを備え、キャップ31’と赤外線透過部材4’とを固着材によって接合する赤外線センサ素子A’のパッケージ1’が提案されている(特許文献1参照)。ここにおいて、キャップ31’は、底壁31a’側とは反対側の端部に形成されたフランジ部31c’がベース21’における赤外線センサ素子A’が固着される表面側に接合されている。また、ベース21’とキャップ31’とは、金属やセラミックで形成されている。また、キャップ31’と赤外線透過部材4’との接合部51’を構成する前記固着材は、鉛−錫共晶半田等の材料からなる。
【0003】
なお、図6に示す構成のベース21’の所定の位置には、金属製のピン11’がベース2’を貫通する形で設けられており、ピン11’と赤外線センサ素子A’とは、金属製のワイヤ12’により電気的に接続されている。また、キャップ31’の底壁31a’には、真空封止用穴313’が貫設されており、真空封止用穴313’は、鉛−錫共晶半田等からなる前記固着材よりも溶融温度が低い封止材314’により塞がれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−132654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図6に示す構成の赤外線センサ素子A’のパッケージ1’では、キャップ31’に使用される材料である金属等と赤外線透過部材4’に使用される材料であるSi等の半導体とで線膨張係数が異なり、例えば、回路基板などにパッケージ1’を二次実装するときにパッケージ1’の周囲温度が変化すると、キャップ31’および赤外線透過部材4’それぞれに使用される材料の線膨張係数差に起因して、前記固着材により形成された接合部51’に熱応力が発生し接合部51’が破損するおそれがあった。
【0006】
また、パッケージ1’の小型化などを目的として、図6に示す構成の赤外線センサ素子A’のパッケージ1’の代わりに、一面が開放された箱状に形成されたセラミック基板からなるパッケージ本体(図示せず)と、赤外線センサ素子A’に対応する部位に開口部(図示せず)を有し鉄等の金属で形成されたリッド(図示せず)と、SiやGe等の半導体で形成されリッドの前記開口部を覆う形でリッドに固着材(例えば、鉛−錫共晶半田)により接合された赤外線透過部材(図示せず)とを備えた赤外線センサ素子A’のパッケージ(図示せず)が考えられる。当該パッケージでは、パッケージ本体およびリッドそれぞれに使用される材料の線膨張係数差、或いはリッドおよび赤外線透過部材それぞれに使用される材料に起因して、前固着材により形成された各接合部(図示せず)に熱応力が発生し当該各接合部が破損するおそれがあった。
【0007】
本願発明は、前記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、リッドを形成する材料と赤外線透過部材を形成する材料との線膨張係数差に起因してリッドと赤外線透過部材との接合部が破損するのを防止することができる赤外線センサ素子のパッケージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、一面が開放された箱状に形成され赤外線センサ素子が内底面に配設されるパッケージ本体と、平面視における赤外線センサ素子に対応する部位に開口部を有しパッケージ本体の前記一面側を覆う形でパッケージ本体の前記一面側に接合されたリッドと、赤外線を透過する材料により形成され且つリッドの前記開口部を覆う形でリッドに固着材により接合された赤外線透過部材とを備え、リッドを形成する材料と赤外線透過部材を形成する材料との線膨張係数差に起因してリッドと赤外線透過部材との間の固着材により形成された接合部に生じる熱応力を緩和する可撓部から構成される応力緩和構造が、リッドの前記接合部の外側における前記開口部の周部と、赤外線透過部材の周部における前記接合部よりも内側の部位との少なくとも一方に設けられてなることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、リッドと赤外線透過部材との間の固着材により形成された接合部に生じる熱応力を緩和する可撓部から構成される応力緩和構造が、リッドの前記接合部の外側における前記開口部の周部と、赤外線透過部材における前記接合部よりも内側の部位との少なくとも一方に設けられていることにより、リッドを形成する材料と赤外線透過部材を形成する材料との線膨張係数差に起因してリッドと赤外線透過部材との前記接合部に生じる熱応力を緩和することができ、前記接合部の破損を防止することができる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記応力緩和構造は、前記リッドに形成された応力緩和構造形成用溝の底部からなる第1の薄肉部と、前記赤外線透過部材に形成された応力緩和構造形成用溝の底部からなる第2の薄肉部との少なくとも一方からなることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、前記リッドと前記赤外線透過部材とのいずれか一方に応力緩和構造形成用溝を形成するだけで前記応力緩和構造を実現できるので、作製が比較的容易であるという利点がある。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記第1の薄肉部は、平面視で前記リッドの前記接合部の外側における前記接合部の外周全体に沿った部位に形成され、前記第2の薄肉部は、平面視で前記赤外線透過部材の前記接合部の内側における前記接合部の内周全体に沿った部位に形成されることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、前記応力緩和構造が、前記可撓部である前記リッドの前記接合部の外側における前記接合部の外周全体に沿った部位に形成された第1の薄肉部と前記赤外線透過部材の前記接合部の内側における前記接合部の内周全体に沿った部位に形成された第2の薄肉部との少なくとも一方からなることにより、前記リッドを形成する材料と赤外線透過部材を形成する材料との線膨張係数差に起因してリッドと赤外線透過部材との前記接合部に生じる熱応力をより緩和しやすくすることができ、前記接合部の破損をより確実に防止することができる。
【0014】
請求項4の発明は、請求項3の発明において、前記第1の薄肉部は、前記リッドの前記パッケージ本体側とは反対側に応力緩和構造形成用溝を形成することにより設けられ、前記第2の薄肉部は、前記赤外線透過部材の前記リッド側に応力緩和構造形成用溝を形成することにより設けられることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、前記第1の薄肉部は、前記リッドの前記パッケージ本体側とは反対側の前記接合部の外側における前記接合部の外周全体に沿った部位に応力緩和構造形成用溝を形成することにより設けられ、前記第2の薄肉部は、前記赤外線透過部材の前記リッド側の前記接合部の内側における前記接合部の内周全体に沿った部位に応力緩和構造形成用溝を形成することにより設けられることにより、前記赤外線透過部材を前記固着材により前記リッドに接合する場合において、前記リッドの前記パッケージ本体とは反対側の表面および前記赤外線透過部材の前記リッド側の表面のうち前記応力緩和構造形成用溝が形成された一方で、前記固着材の量を適宜設定することで、前記固着材が、その表面張力によって、前記リッドの前記パッケージ本体側とは反対側の表面における前記開口部の周縁と前記可撓部との間の部位と前記赤外線透過部材の前記リッド側の表面における前記赤外線透過部材の外周と前記可撓部との間の部位との少なくとも一方に留まるから、溶融した前記固着材が、前記リッドの前記パッケージ本体側とは反対側の表面における前記第1の薄肉部の外側と前記赤外線透過部材の前記リッド側の表面における前記第2の薄肉部の内側との少なくとも一方に流れ出すのを防止することができる。
【0016】
請求項5の発明は、請求項1の発明において、前記応力緩和構造は、前記リッドと連続一体に形成され且つ前記リッドの前記開口部の周部から前記パッケージ本体側とは反対側に突出する形で形成された突出部からなることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、前記応力緩和構造が、前記リッドの前記開口部の周部から前記パッケージ本体側とは反対側に突出した突出部からなることにより、前記可撓部の突出量を大きくすることで、前記リッドを形成する材料と前記赤外線透過部材を形成する材料との線膨張係数差に起因して前記固着材により形成された前記接合部に生じる熱応力を緩和しやすくすることができる。
【0018】
請求項6の発明は、請求項1の発明において、前記応力緩和構造は、前記リッドの前記接合部の外側の部位に形成された第1の環状溝の底部、前記リッドの第1の環状溝が形成された表面とは反対側の表面における第1の環状溝に対応する部位の外側の部位に形成された第2の環状溝の底部、および第1の環状溝と第2の環状溝との間の部位で構成された前記可撓部と、前記赤外線透過部材の前記接合部よりも内側の部位に形成された第3の環状溝の底部、前記赤外線透過部材の第3の環状溝が形成された表面とは反対側の表面における第3の環状溝に対応する部位の内側の部位に形成された第4の環状溝の底部、および第3の環状溝と第4の環状溝の間の部位とで構成された前記可撓部との少なくとも一方からなること特徴とする。
【0019】
この発明によれば、第1の環状溝の底部、第2の環状溝の底部および第1の環状溝と第2の環状溝との間の部位で構成された前記可撓部と、第3の環状溝の底部、第4の環状溝の底部および第3の環状溝と第4の環状溝との間の部位で構成された前記可撓部が前記接合部に生じる熱応力を緩和する前記可撓部を構成することにより、前記接合部で生じる熱応力を吸収する前記可撓部の長さを長くすることができるので、前記リッドを形成する材料と前記赤外線透過部材を形成する材料との線膨張係数差に起因して前記固着材により形成された前記接合部で発生する熱応力をより緩和することができる。
【0020】
請求項7の発明は、請求項6の発明において、前記第1の環状溝は、前記リッドの前記パッケージ本体側とは反対側の表面における前記接合部の外側の部位に平面視で前記赤外線透過部材の外周全体に沿う形で形成され、前記第3の環状溝は、前記赤外線透過部材の前記リッド側の表面における前記接合部の内側の部位に平面視で前記赤外線透過部材の外周に沿う形で形成されてなることを特徴とする。
【0021】
この発明によれば、前記第1の環状溝は、前記リッドの前記パッケージ本体側とは反対側の表面における前記接合部の外側の部位に平面視で前記赤外線透過部材の外周全体に沿う形で形成され、前記第3の環状溝は、前記赤外線透過部材の前記リッド側の表面における前記接合部よりも内側の部位に平面視で前記赤外線透過部材の外周に沿う形で形成されてなることにより、前記赤外線透過部材を前記固着材により前記リッドに接合する場合において、前記リッドの前記パッケージ本体とは反対側の前記第1の環状溝が形成された表面と、前記赤外線透過部材の前記リッド側の前記第3の環状溝が形成された表面の少なくとも一方で、前記固着材の量を適宜設定することで、前記固着材が、その表面張力によって、前記リッドの前記第1の環状溝が形成された前記パッケージ本体側とは反対側の表面における前記開口部の周縁と前記可撓部との間の部位と、前記赤外線透過部材の前記リッド側の前記第3の環状溝が形成された表面における前記赤外線透過部材の外周縁と前記可撓部との間の部位との少なくとも一方に留まるから、溶融した前記固着材が、前記リッドの前記パッケージ本体側とは反対側の表面における前記第1の環状溝の外側と前記赤外線透過部材の前記リッド側の表面における前記第3の環状溝の内側との少なくとも一方に流れ出すのを防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
請求項1の発明によれば、リッドと赤外線透過部材との間の固着材により形成された接合部に生じる熱応力を緩和する応力緩和構造が設けられていることにより、リッドを形成する材料と赤外線透過部材を形成する材料との線膨張係数差に起因してリッドと赤外線透過部材との接合部に生じる熱応力を緩和することができるので、接合部の破損を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態1の赤外線センサ素子のパッケージを示し、(a)は概略断面図、(b)は概略平面図である。
【図2】同上の他の構成例の要部概略断面図である。
【図3】実施形態2の赤外線センサ素子のパッケージの要部概略断面図である。
【図4】実施形態3の赤外線センサ素子のパッケージを示し、(a)は要部概略平面図、(b)は要部概略断面図である。
【図5】同上の他の構成例の要部概略断面図である。
【図6】従来例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施形態1)
以下、実施形態1について図1に基づいて説明する。
【0025】
本実施形態の赤外線センサ素子Aのパッケージ1は、一面が開放された箱状に形成され赤外線センサ素子Aが内底面2aに配設されるパッケージ本体2と、赤外線が入射する開口部3bを有しパッケージ本体2の前記一面に覆着された矩形板状のリッド3と、赤外線を透過させる材料で形成され且つリッド3の開口部3bを覆う形でリッド3に固着材である低融点ガラスにより接合された赤外線透過部材4とを備える。また、パッケージ本体2の内底面2aには、赤外線センサ素子Aを駆動させるとともに赤外線センサ素子Aから出力される信号の処理を行うASIC(Application Specific Integrated Circuit)である半導体集積回路素子Bが配設されている。ここで、パッケージ本体2の内底面2aには、赤外線センサ素子Aと半導体集積回路素子Bとの間での信号の伝送や半導体集積回路素子Bへの電力供給を行うための配線パターン(図示せず)が形成されており、当該配線パターンには、赤外線センサ素子AがワイヤA1を介して電気的に接続されるとともに半導体集積回路素子BがワイヤB1を介して電気的に接続されている。
【0026】
また、本実施形態のパッケージ1は、赤外線センサ素子Aの感度を向上させるためにパッケージ1の内部を真空状態にしてある。ここで、パッケージ本体2の内側には、パッケージ1を真空封止する際にパッケージ1の内部に存在する気体を吸着して取り除くためのゲッタCが配設されている。
【0027】
赤外線センサ素子Aは、Siで形成されたベース基板(図示せず)の表面側に赤外線を吸収するとともに当該吸収による温度変化を検知する抵抗ボロメータ形のセンシングエレメントである温度検知部(図示せず)を備えるものが使用されている。ここで、赤外線センサ素子Aは、温度検知部がリッド3の開口部3bの投影領域に位置するように配設されている。なお、温度検知部としては、温度に応じて誘電率が変化するセンシングエレメント、サーモパイル型のセンシングエレメントや焦電型のセンシングエレメントを採用してもよい。また、赤外線センサ素子Aとしては、ベース基板の一表面側に複数の温度検知部がアレイ状(一次元アレイ状または二次元アレイ状)に形成されたものであってもよい。
【0028】
パッケージ本体2は、アルミナで形成されている。パッケージ本体2の内底面2aには、赤外線センサ素子Aおよび半導体集積回路素子Bそれぞれがエポキシ樹脂や半田等のダイボンド材からなるダイボンド部A2,B2を介して接合されている。
【0029】
リッド3の材料には、Feが採用されている。ここで、リッド3における平面視で略中央部には、平面視矩形状の前述の開口部3bが形成されている。リッド3は、シーム溶接によりパッケージ本体2に接合されている。ここに、リッド3の外周部とパッケージ本体2との間にはシーム溶接部51が形成されている。なお、リッド3は、例えば、半田等を用いてパッケージ本体2に接合されてもよい。また、リッド3の材料としては、鉄に限らず、例えば、ステンレスやコバール等の金属を採用してもよいし、ステンレス等からなる部材の表面にニッケル等をコーティングした部材を使用してもよい。
【0030】
赤外線透過部材4は、矩形板状であって赤外線透過率の高いSiで形成されている。赤外線透過部材4は、Si基板により形成されている。なお、赤外線透過部材4は、赤外線透過部材4に入射する赤外線を赤外線センサ素子Aに集光できるようにリッド3に接合される側とは反対側に凸曲面を有するレンズ状に形成されたものであってもよい。赤外線透過部材4をレンズ状に形成するには、例えば、陽極酸化技術を応用した半導体レンズの製造方法を利用することができる(特許第3897055号公報参照)。また、赤外線透過部材4の材料としては、Siに限られず、Ge、ZnSe、ZnS等の半導体を採用してもよい。なお、本実施形態では、赤外線透過部材4が、低融点ガラスによりリッド3に接合される例について説明するが、例えば、赤外線透過部材4が、リッド3との接合面に金属層が形成されたものであって、半田によりリッド3に接合されるものであってもよい。
【0031】
ところで、本実施形態では、前述のように、リッド3が鉄で形成され、赤外線透過部材4がSiで形成されており、両者で線膨張係数が異なる。従って、低融点ガラスにより形成された接合部5には、リッド3および赤外線透過部材4の線膨張係数差に起因して熱応力が生じる。
【0032】
これに対して、本実施形態のパッケージ1では、接合部5に生じる熱応力を緩和するための応力緩和構造として、平面視でリッド3におけるパッケージ本体2側とは反対側の表面において接合部5の外側における接合部5の外周全体に沿った部位に可撓部である第1の薄肉部3dが形成されている。ここで、第1の薄肉部3dは、リッド3のパッケージ本体2側とは反対側の表面において接合部5の外側における接合部5に沿った部位に設けられた断面矩形状の応力緩和構造形成用溝3eの底部で構成されている。
【0033】
従って、パッケージ1の周囲温度が変化した場合に、第1の薄肉部3dが撓むことで接合部5に生じる応力を緩和することができるので、接合部5や、接合部5とリッド3および赤外線透過部材4との間の界面が破損するのを防止することができる。
【0034】
また、リッド3と赤外線透過部材4とのいずれか一方に応力緩和構造形成用溝3eを形成するだけで前記応力緩和構造を実現できるので、作製が比較的容易であるという利点がある。
【0035】
ところで、リッド3と赤外線透過部材4とは、前述のように、固着材である低融点ガラスにより接合されている。従って、リッド3と赤外線透過部材4とを接合する際、溶融した低融点ガラスが、リッド3の表面における接合部5の外側に流れ出すおそれがある。
【0036】
これに対して、本実施形態のパッケージ1では、図1に示すように、第1の薄肉部3dを形成するための応力緩和構造形成用溝3eが、リッド3のパッケージ本体2とは反対側の表面であって且つ接合部5の外側における接合部5の外周全体に沿った部位に形成されているので、溶融した低融点ガラスの量を適宜設定することで、溶融した低融点ガラスは、その表面張力によって、リッド3の開口部3bの周縁と応力緩和構造形成用溝3eとの間の部位に留まる。従って、赤外線透過部材4を低融点ガラスによりリッド3に接合する場合において、溶融した低融点ガラスが、リッド3の開口部3bの周縁と応力緩和構造形成用溝3eとの間の部位からリッド3のパッケージ本体2とは反対側の表面における第1の薄肉部3dの外側に流れ出すのを防止することができる。
【0037】
なお、本実施形態のパッケージ1では、第1の薄肉部3dが、リッド3のパッケージ本体2とは反対側の表面の接合部5の外側における接合部5に沿った部位に形成される例について説明したが、これに限定されず、例えば、図2に示すように、第2の薄肉部4dが、平面視で赤外線透過部材4のリッド3側の表面の接合部5の内側における接合部5の内周全体に沿った部位に形成された断面矩形状の応力緩和構造形成用溝4eの底部から構成されるものであってもよい。この場合、溶融した低融点ガラスの量を適宜設定することで、溶融した低融点ガラスは、その表面張力によって、赤外線透過部材4の外周と応力緩和構造形成用溝4eとの間の部位に留まる。従って、赤外線透過部材4を低融点ガラスによりリッド3に接合する場合において、溶融した低融点ガラスが、赤外線透過部材4の外周と応力緩和構造形成用溝4eとの間の部位から、赤外線透過部材4のリッド3側の表面において第2の薄肉部4dの内側へ流れ出すのを防止することができる。なお、赤外線透過部材4に応力緩和構造形成用溝4eを形成する場合、赤外線透過部材4はSiで形成されているので、エッチングやハーフダイシングにより形成することができる。
【0038】
また、本実施形態のパッケージ1では、第1の薄肉部3dが、リッド3のパッケージ本体2側の表面の接合部5の外側における接合部5に沿った部位に形成された応力緩和構造形成用溝(図示せず)の底部から構成されるものであってもよいし、或いは、第2の薄肉部4dが、赤外線透過部材4のリッド3とは反対側の表面の接合部5の内側における接合部5の内周全体に沿った部位に形成された応力緩和構造形成用溝(図示せず)の底部から構成されるものであってもよい。
【0039】
また、本実施形態のパッケージ1では、第1の薄肉部3dが、リッド3のパッケージ本体2とは反対側の表面における接合部5の外側であって接合部5に沿った部位に1つの応力緩和構造形成用溝3eを設けることにより形成される例について説明したが、これに限定されず、リッド3のパッケージ本体2とは反対側の表面における接合部5の外側に接合部5の周方向と直交する方向で互いに並列する形で複数の応力緩和構造形成用溝3eを設けることにより形成してもよい。
【0040】
(実施形態2)
本実施形態の赤外線センサ素子Aのパッケージ1の基本構成は実施形態1とほぼ同じであり、図3に示すように、前記応力緩和構造として、リッド3と連続一体に形成され且つリッド3の開口部3bの周部からパッケージ本体2とは反対側に突出した突出部3fが設けられている点が相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
ここに、赤外線透過部材4は、固着材である低融点ガラスによって突出部3fの先端部31fに接合される。従って、本実施形態のパッケージ1では、溶融した低融点ガラスの量を適宜設定することで、溶融した低融点ガラスは、その表面張力によって、突出部3fの先端部31fに留まる。従って、赤外線透過部材4を低融点ガラスによりリッド3に接合する場合において、溶融した低融点ガラスがリッド3のパッケージ本体2とは反対側の表面における突出部3fの先端部31fの外側へ流れ出すのを防止することができる。
【0042】
ところで、前記各実施形態のパッケージ1では、接合部5で生じる熱応力をより緩和しやすくするために第1の薄肉部3dの長さを長く設定すると、リッド3の強度が低下してしまう。また、赤外線透過部材4の外周部に第2の薄肉部4dを設ける場合、赤外線透過部材4の中央部付近における赤外線が入射する領域の撓みを抑制する必要がある。従って、赤外線透過部材4に第2の薄肉部4dを設ける場合には、赤外線透過部材4の中央部付近の厚みを薄くすることができず、第2の薄肉部4dの長さが制限される。
【0043】
これに対して、本実施形態のパッケージ1では、突出部3fの突出量3fを大きくして突出部3fの長さを長くすることで接合部5に生じる熱応力をより緩和しやすくすることができるので、リッド3の強度を低下させず且つ赤外線透過部材4の中央部付近における赤外線が入射する領域の撓みを抑制しつつ、接合部5で発生した熱応力をより緩和しやすくすることができる。
【0044】
(実施形態3)
本実施形態のパッケージ1の基本構成は実施形態1とほぼ同じであり、図4に示すように、前記応力緩和構造が、リッド3のパッケージ本体2とは反対側の表面における接合部5の外側の部位に形成された第1の環状溝3gの底部と、リッド3のパッケージ本体2側の表面において第1の環状溝3gに対応する部位の外側に形成された第2の環状溝3hの底部と、当該一対の環状溝3g,3hの間の部位とで構成された可撓部3iからなり、第1の環状溝3gおよび第2の環状溝3hが平面視で赤外線透過部材4の外周全体に沿う形で形成されている点が相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0045】
ここに、本実施形態のパッケージ1では、第1の環状溝3gが、リッド3のパッケージ本体2とは反対側の表面における接合部5の外側に、赤外線透過部材4の外周に沿う形で形成されている。従って、溶融した低融点ガラスの量を適宜設定することで、溶融した低融点ガラスは、その表面張力によって、リッド3の開口部3bの周縁と第1の環状溝3gとの間の部位に留まる。従って、赤外線透過部材4を低融点ガラスによりリッド3に接合する場合において、溶融した低融点ガラスが、リッド3のパッケージ本体2とは反対側の表面において第1の環状溝3gの外側へ流れ出すのを防止することができる。
【0046】
また、本実施形態のパッケージ1では、可撓部である第1の溝3gの底部、第2の溝3hの底部、および第1の溝3gと第2の溝3hとの間で熱応力を緩和するので、実施形態1に比べて、接合部5に生じる熱応力をより緩和しやすくすることができる。
【0047】
しかして、溶融した低融点ガラスがリッド3の表面に流れ出すのを防止しつつ、前記可撓部の長さを長く設定することができるので、接合部5で発生する熱応力を緩和することができる。
【0048】
なお、本実施形態のパッケージ1では、リッド3に形成された一対の第1の環状溝3gの底部、第2の環状溝3hの底部、および第1の環状溝3gと第2の環状溝3hとの間の部位で構成された可撓部3iを設ける例について説明したが、これに限定されず、例えば、図5に示すように、赤外線透過部材4のリッド3側の表面における接合部5の内側に平面視で赤外線透過部材4の外周に沿う形で形成された第3の環状溝4hの底部、赤外線透過部材4のリッド3側とは反対側の表面における第3の環状溝4hに対応する部位の内側の部位に形成された第4の環状溝4gの底部、および第3の環状溝4hと第4の環状溝4gとの間の部位で構成される可撓部4iを設ける構成としても前述と同様の効果が得られる。
【0049】
また、本実施形態のパッケージ1では、リッド3のパッケージ本体2側の表面における接合部5に対応する部位の外側の部位に形成された第1の環状溝(図示せず)の底部と、リッド3のパッケージ本体2側とは反対側の表面において前記第1の環状溝に対応する部位の外側に形成された第2の環状溝(図示せず)の底部と、当該一対の前記環状溝の間の部位とで構成された可撓部を設ける構成としてもよく、或いは、赤外線透過部材4のリッド3側の表面における接合部5の内側に平面視で赤外線透過部材4の外周に沿う形で形成された第3の環状溝(図示せず)の底部、赤外線透過部材4のリッド3側の表面における前記第3の環状溝に対応する部位の内側の部位に形成された第4の環状溝(図示せず)の底部、および前記第3の環状溝と前記第4の環状溝との間の部位で構成される可撓部を設ける構成としてもよい。この場合、前記可撓部の長さを長く設定することができるので、接合部5で発生する熱応力を緩和することができる。
【0050】
また、本実施形態のパッケージ1では、リッド3における接合部5の外側に、第1の環状溝3gおよび第2の環状溝3hを一対だけ形成する例について説明したが、第1の環状溝3gおよび第2の環状溝3hを接合部5の周方向に直交する方向で互いに並列する形で複数対形成するようにしてもよい。この場合、可撓部3iの長さを更に長く設定することができ、接合部5に生じる熱応力を更に緩和しやすくすることができる。
【0051】
また、前述の各実施形態では、リッド3の開口部3bおよび赤外線透過部材4が、平面視矩形状に形成された場合について説明したが、これに限定されず、リッド3の開口部3bおよび赤外線透過部材4が、平面視で丸形状に形成されたものや、平面視で4つの角に曲部を有する形状に形成されたものであってもよい。この場合、リッド3の開口部3bおよび赤外線透過部材4が、平面視矩形状に形成された場合に比べて接合部5で発生する熱応力をより緩和することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 パッケージ
2 パッケージ本体
2a 内底面
3 リッド
3b 開口部
3d 第1の薄肉部(応力緩和構造)
3e 応力緩和構造形成用溝
3f 可撓部(応力緩和構造)
3g 第1の環状溝
3h 第2の環状溝
4d 第2の薄肉部(応力緩和構造)
4e 応力緩和構造形成用溝
4g 第3の環状溝
4h 第4の環状溝
4 赤外線透過部材
5 接合部
A 赤外線センサ素子
B 半導体集積回路素子
C ゲッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面が開放された箱状に形成され赤外線センサ素子が内底面に配設されるパッケージ本体と、平面視における赤外線センサ素子に対応する部位に開口部を有しパッケージ本体の前記一面側を覆う形でパッケージ本体の前記一面側に接合されたリッドと、赤外線を透過する材料により形成され且つリッドの前記開口部を覆う形でリッドに固着材により接合された赤外線透過部材とを備え、リッドを形成する材料と赤外線透過部材を形成する材料との線膨張係数差に起因してリッドと赤外線透過部材との間の固着材により形成された接合部に生じる熱応力を緩和する可撓部から構成される応力緩和構造が、リッドの前記接合部の外側における前記開口部の周部と、赤外線透過部材の周部における前記接合部よりも内側の部位との少なくとも一方に設けられてなることを特徴とする赤外線センサ素子のパッケージ。
【請求項2】
前記応力緩和構造は、前記リッドに形成された応力緩和構造形成用溝の底部からなる第1の薄肉部と、前記赤外線透過部材に形成された応力緩和構造形成用溝の底部からなる第2の薄肉部との少なくとも一方からなることを特徴とする請求項1記載の赤外線センサ素子のパッケージ。
【請求項3】
前記第1の薄肉部は、平面視で前記リッドの前記接合部の外側における前記接合部の外周全体に沿った部位に形成され、前記第2の薄肉部は、平面視で前記赤外線透過部材の前記接合部の内側における前記接合部の内周全体に沿った部位に形成されることを特徴とする請求項2記載の赤外線センサ素子のパッケージ。
【請求項4】
前記第1の薄肉部は、前記リッドの前記パッケージ本体側とは反対側に応力緩和構造形成用溝を形成することにより設けられ、前記第2の薄肉部は、前記赤外線透過部材の前記リッド側に応力緩和構造形成用溝を形成することにより設けられることを特徴とする請求項3記載の赤外線センサ素子のパッケージ。
【請求項5】
前記応力緩和構造は、前記リッドと連続一体に形成され且つ前記リッドの前記開口部の周部から前記パッケージ本体側とは反対側に突出する形で形成された突出部からなることを特徴とする請求項1記載の赤外線センサ素子のパッケージ。
【請求項6】
前記応力緩和構造は、前記リッドの前記接合部の外側の部位に形成された第1の環状溝の底部、前記リッドの第1の環状溝が形成された表面とは反対側の表面における第1の環状溝に対応する部位の外側の部位に形成された第2の環状溝の底部、および第1の環状溝と第2の環状溝との間の部位で構成された前記可撓部と、前記赤外線透過部材の前記接合部よりも内側の部位に形成された第3の環状溝の底部、前記赤外線透過部材の第3の環状溝が形成された表面とは反対側の表面における第3の環状溝に対応する部位の内側の部位に形成された第4の環状溝の底部、および第3の環状溝と第4の環状溝の間の部位とで構成された前記可撓部との少なくとも一方からなること特徴とする請求項1記載の赤外線センサ素子のパッケージ。
【請求項7】
前記第1の環状溝は、前記リッドの前記パッケージ本体側とは反対側の表面における前記接合部の外側の部位に平面視で前記赤外線透過部材の外周全体に沿う形で形成され、前記第3の環状溝は、前記赤外線透過部材の前記リッド側の表面における前記接合部の内側の部位に平面視で前記赤外線透過部材の外周に沿う形で形成されてなることを特徴とする請求項6記載の赤外線センサ素子のパッケージ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−175341(P2010−175341A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−17103(P2009−17103)
【出願日】平成21年1月28日(2009.1.28)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】