説明

赤外線撮像装置及びペルチェ封入真空ケース

【課題】赤外線撮像装置に関し、赤外線検出素子の感度を補正する感度補正機構として、温度ムラのない赤外線を照射可能にし、一定温度に達するまでのタイムラグを短縮し、感度補正機構の厚みを薄くして小型化を可能にする
【解決手段】物体が輻射する赤外線を対物レンズ系16で収束し、光路穴を通して赤外線検出素子13の受光面に投射し、赤外線による映像を表示する。赤外線検出素子13の感度補正時に、赤外線検出素子13の受光面に、感度補正用の基準温度を発生するペルチェ2,3からの赤外線を照射する。ペルチェ2,3は、表面に赤外線反射防止塗装が施され、該ペルチェ2,3の表面からの赤外線が、密閉ケースの赤外線透過窓4を通して直接、赤外線検出素子13の受光面に照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線撮像装置及びペルチェ封入真空ケースに関する。近年、赤外線撮像装置は多様化し、車輌、艦船、航空機等に搭載されたり、屋外等に設置されたりして、種々の監視装置や探知装置として使用されている。このため赤外線撮像装置に対する高性能化や小型化が一層強く要求されている。本発明はこのような赤外線撮像装置の感度補正機構に好適に適用される。
【背景技術】
【0002】
赤外線撮像装置は、図5に示すように、物体が輻射する赤外線を対物レンズ系16で収束し、赤外線検出器17に実装した赤外線検出素子13の受光面に投射して赤外線を検出する。そして、赤外線検出素子13が出力する光起電力(電圧)をアンプ回路18で増幅し、ビデオ回路19を経てCRTモニタ20に赤外線の映像を表示する。
【0003】
赤外線検出素子13は、サファイア等からなる基板12の表面に2次元状に等ピッチで配列形成されている。それぞれの赤外線検出素子13は、HgCdTe等の角片(一辺が例えば25μm)で形成された受光部からなる。基板12は液体窒素、ジュールトムソン冷却器、循環冷却器等の冷却器15を内装した基台14上に搭載され、赤外線検出素子13は極低温(80K前後)に冷却して使用される。
【0004】
赤外線検出素子13を構成する多数の画素には感度のばらつきが有り、この各画素の感度のばらつきを検出して電気的に補正する感度補正が行われる。また、この赤外線検出素子13の感度のばらつきは、経時的に変化することが知られている。感度補正は、定期的又は適当な時期に実施することにより、赤外線検出素子13の感度のばらつきが補正され、赤外線撮像装置の画質が改善される。感度補正の手法として、低温基準熱源と高温基準熱源とを使用して赤外線検出素子13の感度を補正する手法が用いられる。
【0005】
図6及び図7に従来の赤外線撮像装置の感度補正部の構成を示す。感度補正部は、低温側ペルチェ2と低温側温度基準板21とを重ね合わせ、高温側ペルチェ3と高温側温度基準板31とを重ね合わせ、赤外線検出器17の受光面13に、温度制御した温度基準板21,31を照射させる構成を有する。
【0006】
図6及び図7の(a)は、物体が輻射する赤外線を対物レンズ系16で収束し、光路穴を通して赤外線検出素子13の受光面に投射し、赤外線による映像をCRTモニタにより表示する場合の態様を示している。図6及び図7の(b),(c)は、感度補正時の態様を示し、(b)は低温側温度基準板21の赤外線を赤外線検出素子13の受光面に照射させる場合、(c)は高温側温度基準板31の赤外線を赤外線検出素子13の受光面に照射させる場合を示している。
【0007】
温度基準板21,31は、一般的に熱伝導性の良い銅やアルミニウム等が用いられる。温度基準板21,31の表面の受光素子面13側には、赤外線反射防止塗装が施される。温度基準板21,31及びペルチェ2,3の周囲は、結露を防止し、温度を一定に保つために密閉構造にされ、温度基準板21,31から照射する赤外線を透過させるウィンドウ4(図6参照)又は熱源集光レンズ11(図7参照)が取付けられる。ペルチェ2,3からの熱は温度基準板21,31に伝えられるが、温度基準板21,31には厚みがあるため、温度ムラが生じる。
【0008】
温度基準板21,31に温度ムラが生じると、赤外線透過窓としてウィンドウ4を用いた図6の構成の場合、受光面13の全検出素子に均一温度の赤外線を照射することができない。このため感度補正の効果が低下する。これを避けるため、図7のように、赤外線検出器17と温度基準板21,31との間に、赤外線を透過する集光レンズ11を設け、受光面13の全検出素子に温度基準板21,31の中心部分の赤外線を照射することにより、温度ムラの影響を無くす手法が採られることもある。温度基準板を用いた赤外線検出素子の感度補正については例えば下記の特許文献等に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−258252号公報
【特許文献2】特開2005−337772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来、温度基準板21,31を用いた赤外線検出素子の感度補正において、温度基準板21,31は温度ムラを生じ、精度の良い感度補正が行われないという問題があった。また、ペルチェ2,3の熱が温度基準板21,31に伝わり、温度基準板21,31の表面が一定温度に達するまでにタイムラグが生じ、迅速な感度補正をおこなうことができないという問題があった。更に、温度基準板21,31と集光レンズ11とを取付けるため、感度補正機構の厚み(図6に示すT1、図7に示すT2)が増し、小型化の妨げになるという問題があった。
【0011】
本発明は、温度ムラのない熱源を赤外線検出素子に照射することができ、感度補正用の熱源が一定温度に達するまでのタイムラグを短縮することができ、また、感度補正機構の厚みを薄くすることができる感度補正機構を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決する赤外線撮像装置の形態は、物体が輻射する赤外線を対物レンズ系で収束し、光路穴を通して赤外線検出素子の受光面に投射し、赤外線による映像を表示する赤外線撮像装置において、前記光路穴を塞ぐようスライドし、前記赤外線検出素子の受光面に、感度補正用の基準温度を発生するペルチェからの赤外線を照射する感度補正機構を備え、前記感度補正機構は、前記ペルチェを密閉ケース内に封入し、該ペルチェは、前記赤外線検出素子の受光面の側の表面に赤外線反射防止塗装が施され、該赤外線反射防止塗装が施されたペルチェの表面からの赤外線が、前記密閉ケースの赤外線透過窓を通して直接、前記赤外線検出素子の受光面に照射される構成を有するものである。
【0013】
また、ペルチェ封入真空ケースは、表面に赤外線反射防止塗装が施されたペルチェを封入し、該ペルチェから発生される赤外線を直接透過させる透過板を1つの面に有するペルチェ封入真空ケースであって、前記ペルチェの装着後に溶接処理により密閉した密閉構造を有し、ケース内を真空処理するための排気管を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
開示の赤外線撮像装置の感度補正機構は、温度基準板を用いることなく、赤外線反射防止塗装を施したペルチェ自体から感度補正用の赤外線を照射するため、温度ムラのない熱源を赤外線検出素子に照射することができ、感度補正用の熱源が一定温度に達するまでのタイムラグを短縮することができ、また、感度補正機構の厚みを薄くすることができ、赤外線撮像装置を小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ウィンドウを使用し、乾燥気体充填用ケースを用いた感度補正機構の構成例を示す図である。
【図2】ウィンドウを使用し、真空ケースを用いた感度補正機構の構成例を示す図である。
【図3】真空ケース構造の一例を示す図である。
【図4】熱源集光レンズを使用し、乾燥気体充填用ケースを用いた感度補正機構の構成例を示す図である。
【図5】赤外線撮像装置の構成例を示す図である。
【図6】従来の感度補正部の構成(ウィンドウ使用)を示す図である。
【図7】従来の感度補正部の構成(熱源集光レンズ使用)を示す図である。
【図8】赤外線撮像装置の一実施例を示す図である。
【図9】真空ケースを取付けた感度補正機構の正面図、側面図及び平面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、ペルチェ2,3の周囲に、赤外線透過窓(ウィンドウ)4を使用し、乾燥気体充填用ケースを用いた感度補正機構の構成例を示す。図2は、赤外線透過窓(ウィンドウ)4を使用し、真空ケースを使用した感度補正機構の構成例を示す。図3は、真空ケース構造の一例を示す。図4は熱源集光レンズ11を使用し、乾燥気体充填用ケースを用いた感度補正機構の構成例を示す。
【0017】
各図において、1はフレームであり、ペルチェ2,3を固定するための金具である。2は低温側ペルチェ、3は高温側ペルチェである。4は赤外線を透過するウィンドウである。5はペルチェ周囲を密閉するためのカバー(蓋)である。6はパッキングであり、フレーム1とカバー5との接触面に使用される。
【0018】
7は気体封入詮であり、シール付座金とネジとにより構成される。8はペルチェ周囲を真空にするための真空ケースである。9は真空ケース内に実装されるペルチェ及び温度センサ用の端子である。10は真空ケース8内を真空にするための排気管である。11は赤外線を透過する熱源集光レンズである。
【0019】
この赤外線撮像装置では、図1の(a)に示すように、物体が輻射する赤外線を対物レンズ系16で収束し、光路穴を通して赤外線検出素子13の受光面に投射し、赤外線による映像を図5に示したCRTモニタ20により表示する。
【0020】
赤外線検出素子13の感度補正を行う際には、図1の(b),(c)に示すように、ペルチェ2,3を固定したフレーム1をスライドさせて光路穴を塞ぎ、赤外線検出素子13の受光面に、感度補正用の基準温度を発生するペルチェ2,3からの赤外線を照射する。図1の(b)は低温側ペルチェ2の赤外線を照射する場合、図1の(c)は高温側ペルチェ3の赤外線を照射する場合を示している。
【0021】
ペルチェ2,3は、赤外線検出素子13の受光面の側の表面に赤外線反射防止塗装が施され、該赤外線反射防止塗装が施されたペルチェ2,3の表面からの赤外線が、密閉ケースの赤外線透過窓を通して直接、赤外線検出素子13の受光面に照射される。
【0022】
この感度補正機構では、温度基準板を用いず、直接ペルチェ2,3の表面に赤外線反射防止塗装を施し、ペルチェ2,3からの赤外線を赤外線検出器17の受光面13に照射することにより、温度基準板で生じる温度ムラの発生や、温度基準板の温度が安定するまでのタイムラグが無くなり、精度の良い感度補正を迅速に行うことが可能になる。
【0023】
近年、ペルチェの種類が増え、赤外線検出器17の受光面13全体をカバーする範囲に赤外線を照射することができるほど十分大きいサイズのペルチェが出現し、また、赤外線反射防止塗装を焼付け塗装により行う際の耐熱温度の十分高いペルチェが出現したことにより、温度基準板を使用することなく、ペルチェ2,3からの赤外線を赤外線検出器17の受光面13に照射することが可能となった。
【0024】
また、温度基準板を用いないため、感度補正部を薄くして小型化することができる。なお、温度ムラの発生がないことから必ずしも集光レンズ11を用なくてもよく、密閉性を維持するための薄い透明板のウィンドウ4を用いることにより、更に感度補正部を薄くして小型化することができる。
【0025】
逆に光路長を長くする場合、感度補正部と赤外線検出器17との間にスペースが生じ、光束が広がって検出素子13への照射範囲がペルチェ2,3の面積を超えてしまう場合は、ペルチェ2,3の表面に光束を集光するため、ウィンドウ4に代えて、図4に示すように熱源集光レンズ11を用いる構成とすることができる。
【0026】
真空ケース8は、図3に示すように、赤外線反射防止塗装を、赤外線検出素子13の受光面側の表面に施したペルチェ2,3と、ペルチェ2,3へ供給する電源用端子及び温度センサ用端子9と、赤外線を透過するウィンドウ4とが取付けられる。真空ケース8は、ペルチェ2,3を組み込む前は2つのパーツに分割されており、ペルチェ2,3を装着した後、溶接により密閉構造にし、排気管10からケース内の気体を吸引して真空処理される。
【実施例】
【0027】
図8は、この感度補正機構を適用した赤外線撮像装置の一実施例を示す。図8の(a)は赤外線撮像装置内部の斜視図、(b)感度補正機構の斜視図を示している。感度補正機構は、モータ81、ラック&ピニオン82、及びリニアスライドテーブル83によるスライド構造を有し、リニアスライドテーブル83の上にペルチェ2,3を取付けたフレーム1が搭載される。
【0028】
フレーム1の左右に低温側ペルチェ2と高温側ペルチェ3が取付けられ、真中の光路穴は、通常時、感度補正を行わないときに対物レンズ系16からの光束を透過させる光束用の穴である。ペルチェ2,3が取付けられている面の反対面には、放熱用のフィン84が取付けられる。
【0029】
図9は、フレーム1に真空ケース8を取付けた感度補正機構の正面図、側面図及び平面図を示す。図9の(a)は感度補正機構の正面図、(b)は感度補正機構を左側から見た側面図、(c)感度補正機構を右側から見た側面図、(d)は感度補正機構を上から見た平面図を示している。
【符号の説明】
【0030】
1 フレーム
2 低温側ペルチェ
3 高温側ペルチェ
4 赤外線透過窓(ウィンドウ)
5 カバー(蓋)
6 パッキング
7 気体封入詮
8 真空ケース
9 ペルチェ及び温度センサ用の端子
10 排気管
11 熱源集光レンズ
12 基板
13 赤外線検出素子
14 基台
15 冷却器
16 対物レンズ系
17 赤外線検出器
18 アンプ回路
19 ビデオ回路
20 CRTモニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体が輻射する赤外線を対物レンズ系で収束し、光路穴を通して赤外線検出素子の受光面に投射し、赤外線による映像を表示する赤外線撮像装置において、
前記光路穴を塞ぐようスライドし、前記赤外線検出素子の受光面に、感度補正用の基準温度を発生するペルチェからの赤外線を照射する感度補正機構を備え、
前記感度補正機構は、前記ペルチェを密閉ケース内に封入し、該ペルチェは、前記赤外線検出素子の受光面の側の表面に赤外線反射防止塗装が施され、該赤外線反射防止塗装が施されたペルチェの表面からの赤外線が、前記密閉ケースの赤外線透過窓を通して直接、前記赤外線検出素子の受光面に照射される構成を有することを特徴とする赤外線撮像装置。
【請求項2】
前記密閉ケースは、前記ペルチェ周囲を乾燥気体で充填した密閉構造を有することを特徴とする請求項1に記載の赤外線撮像装置。
【請求項3】
前記密閉ケースは、前記ペルチェを真空状態の中に封入した密閉構造を有することを特徴とする請求項1に記載の赤外線撮像装置。
【請求項4】
前記赤外線透過窓に熱源集光レンズを用いたことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の赤外線撮像装置。
【請求項5】
表面に赤外線反射防止塗装が施されたペルチェを封入し、該ペルチェから発生される赤外線を直接透過させる透過板を1つの面に有するペルチェ封入真空ケースであって、前記ペルチェの装着後に溶接処理により密閉した密閉構造を有し、ケース内を真空処理するための排気管を有することを特徴とするペルチェ封入真空ケース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−230475(P2010−230475A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78212(P2009−78212)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】