説明

赤外線用カメラの後側焦点調整システム及び赤外線用カメラの後側焦点調整方法

【課題】赤外線用カメラにおいて、赤外センサの真空処理によるセンサの検出面の位置の個体差があっても、合焦可能な赤外線用カメラの後側焦点調整方法の提供を目的とする。
【解決手段】カメラ本体に取り付けられるレンズユニットと、カメラ本体とを備え、カメラ本体は、真空室内に配置され、赤外光を検知する検知面を有する赤外センサと、赤外センサの検知面の光軸方向における位置を測定した検知面位置情報を記憶する記憶手段と、検知面位置情報をレンズユニットに送信する送信手段とを備え、レンズユニットは、カメラ本体の送信手段から送信される検知面位置情報を受信する受信手段と、レンズ群の光軸方向の位置を調整する焦点位置調整手段とを備え、レンズユニットの受信手段において受信した検知面位置情報に応じて、赤外センサの検知面の位置を後側焦点として、レンズ群の光軸方向の基準位置を調整する赤外線用カメラの後側焦点調整システム等を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、真空室内に配置される赤外センサを用いる赤外線用カメラに関し、特に、交換レンズを用いても合焦可能とする後側焦点調整システム及び後側焦点調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遠赤外、赤外あるいは近赤外線等の放射エネルギーを検出して映像に変換する赤外線用カメラは、例えば、警備上の監視、自動車走行時や災害時における暗所での人や動物の感知等に用いられる。この赤外線用カメラは、レンズ群と、レンズ群を透過した赤外光を検知する赤外センサとを備え、赤外センサで検出した信号を画像情報に変換処理して画像を得る。例えば、特許文献1には、広角にすべく設計された複数のレンズからなる遠赤外線カメラ用レンズを用いたレンズユニットと、赤外センサとを備えた撮像装置が開示されている。
【0003】
従来、防犯カメラ等の定点観察用途、自動車のナイトビジョン等の赤外線カメラは、人や動物の有無が判別可能である程度であり、広角撮像は可能であるが、解像度が不十分であった。しかし、近年、赤外線カメラ用のレンズにおいても、高い解像度のものが求められ、且つ、広角、高倍率といった目的に応じて、可視光カメラのように、望遠や広角等、用途に応じて用いられる交換レンズへの期待が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−63942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示の撮像装置のように、赤外線用カメラで鮮明な画像を得るためには、レンズ群を透過した赤外光が赤外センサのセンサ面で結像させる必要がある。レンズ交換が可能な可視光カメラの場合、レンズをカメラ本体に取り付けるフランジ面から後側焦点までの距離(フランジバック)が等しく設計される。しかし、赤外センサとしてボロメータを用いる赤外線用カメラの場合、ボロメータは、金属やセラミックからなる容器内に素子が平面上に並べられ、真空封入されたものが用いられる。そして、ボロメータの真空処理は、所定の減圧量に設定されるが、ボロメータの真空度を均一に製造することは困難である。また、減圧することにより光軸方向における素子の検出面の位置が変化するが、その検出面の位置の変化量が個々の赤外センサごとに異なり一定ではない。そのため、レンズの合焦位置の制御を自動で行うことが困難となる。また、フランジバックを一定にした交換レンズでは、焦点が合わず、高画質が得られない場合があり、製品の品質の均一化を図ることができない。
【0006】
そこで、本件発明は、真空室内に配置された赤外センサを用いる赤外線用カメラにおいて、赤外センサの真空処理によるセンサの検出面の位置の個体差があっても、合焦可能な赤外線用カメラの後側焦点調整方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意研究を行った結果、以下の赤外線用カメラの後側焦点調整システム及び赤外線用カメラの後側焦点調整方法を採用することで上記課題を達成するに到った。
【0008】
本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整システムは、レンズ群を備え、カメラ本体に取り付けられるレンズユニットと、当該レンズ群を透過した赤外光を赤外センサで検知して画像信号に変換処理するカメラ本体とを備える。そして、当該カメラ本体は、真空室内に配置され、赤外光を検知する検知面を有する赤外センサと、当該赤外センサの検知面の光軸方向における位置を測定した検知面位置情報を記憶する記憶手段と、当該検知面位置情報をレンズユニットに送信する送信手段とを備え、当該レンズユニットは、カメラ本体の送信手段から送信される検知面位置情報を受信する受信手段と、レンズ群の光軸方向の位置を調整する焦点位置調整手段とを備え、当該レンズユニットの受信手段において受信した検知面位置情報に応じて、赤外センサの検知面の位置を後側焦点として、レンズ群の光軸方向の基準位置を調整することを特徴とする。
【0009】
本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整システムは、前記赤外センサは、ボロメータ、サーモパイル又はサーミスタを用いることがより好ましい。
【0010】
本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整システムでは、前記レンズユニットは、カメラ本体に着脱可能な交換レンズであるとより好ましい。
【0011】
本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整方法は、上記赤外線用カメラの後側焦点調整システムを用いた赤外線用カメラの後側焦点調整方法である。そして、真空室内に配置された赤外センサの光軸方向における検知面の位置を測定し、測定した赤外センサの検知面の光軸方向における位置を検知面位置情報として、カメラ本体に有する記憶手段に記憶し、カメラ本体に備える前記送信手段により、前記カメラ本体に取り付けられたレンズユニットに対して当該検知面位置情報を送信し、レンズユニットの前記受信手段において受信した当該検知面位置情報に基づき、赤外センサの検知面の位置を後側焦点として、レンズ群の光軸方向の位置を調整することにより、レンズユニットの焦点を合わせることを特徴とする。
【0012】
本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整方法は、前記赤外センサの検知面位置は、試験用カメラを用いて、撮像距離、撮像対象及び室温を所定の値とした試験環境で撮像して測定されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整システム及び赤外線用カメラの後側焦点調整方法は、赤外センサの真空処理に起因する個体誤差に対応して、交換レンズのフランジバックを設定することができるので、赤外線用カメラの撮像性能を均質かつ高性能に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】赤外線用カメラの一例を示す模式図である。
【図2】本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整システムの構成を示すブロック図である。
【図3】本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整方法を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整システム及び赤外線用カメラの後側焦点調整方法の好ましい実施の形態を説明する。
【0016】
まず、本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整システムを適用する赤外線用カメラについて説明する。図1は、赤外線用カメラ1の要部構成を示す模式図である。図1に示す赤外線用カメラ1は、特に、中赤外、遠赤外の撮像に用いられ、複数のレンズを有するレンズユニット11と、カメラ本体12とからなる。レンズユニット11は、鏡筒13に複数のレンズ14が光軸Lに沿って保持され、これらのレンズ14のうち、ズームレンズ、フォーカスレンズ等が光軸方向に移動可能に設けられる。また、レンズユニット11の像面側の端部には、レンズマウント15を備え、カメラ本体12に備えるカメラマウント16と係合してカメラ本体12に取り付けられる。また、カメラ本体12には、レンズユニット11と赤外センサ17との間にシャッタ6が設けられる。
【0017】
カメラ本体12は、レンズユニット11のレンズ群を透過した赤外光を赤外センサ17で検知して画像信号に変換処理する。図2に示すように、このカメラ本体12は、赤外センサ17の他に、記憶手段2と、送信手段3とを備える。
【0018】
赤外センサ17は、撮像性能、設置環境の観点から、ボロメータ、サーモパイル又はサーミスタを用いることが好ましい。この赤外センサ17は、真空室17a内に配置され、赤外光を検知する検知面17bを有する。具体的には、収納室17cの開口17dに面した位置に検知面17bを配置し、この開口17dにゲルマニウム製の窓17eを嵌合して減圧処理することにより真空密封する。そして、感度、信号雑音比を大きくするために、所望の温度に保持する。ボロメータの検出面は、シリコン、ゲルマニウム等の半導体、白金、ニッケル等の金属、ニオブ、錫などの超伝導体、カルコゲナイドガラスなどの誘電体からなる薄膜を用いることができる。
【0019】
また、カメラ本体2には、記憶手段2を有し、赤外センサ17の検知面17bの光軸方向における位置を測定した検知面位置情報を記憶する。記憶手段2は、カメラ本体2に内蔵されたメモリや、カメラ本体2に接続可能な外部メモリを用いることができる。検知面17bの位置の測定方法は特に限定されるものではない。検知面17bの位置の測定方法の詳細は後述する。
【0020】
送信手段3は、有線あるいは無線でレンズユニット11側にデータを送信可能な手段である。送信手段3により、記憶手段2に記録された検知面位置情報をレンズユニット11側に送信する。
【0021】
次に、レンズユニット11には、受信手段4と、焦点位置調整手段5とを備える。受信手段4は、カメラ本体12の送信手段3から送信される検知面位置情報を受信する。本件発明では、カメラ本体12の送信手段3及びレンズユニット11の受信手段4は、両者が電気的に接続された有線通信や、赤外線通信等の無線通信により、検知面位置情報を送受信可能な手段である。なお、可視光用カメラの技術において、カメラマウント16とレンズマウント15とは、係合して機械的に接続され、同時に電力・電気信号等を伝えるための電気的接続手段を有する場合がありこれをカメラ本体12とレンズユニット11との通信手段としても良い。また、カメラマウント16とレンズマウント15との当接部に通信手段を備える構成に限らず、カメラ本体12とレンズユニット11とが通信可能に接続されれば良い。
【0022】
受信手段4と、レンズ14の光軸方向の位置を調整する焦点位置調整手段5とを備える。焦点位置調整手段5は、レンズ移動機構5a及び制御手段5bを備える。レンズ移動機構5aは、駆動源を含む駆動機構であり、レンズ14を光軸に沿って所望の位置に移動させることが出来る。制御手段5bは、レンズユニット11の受信手段4において受信した検知面位置情報に基づき、赤外センサ17の検知面17bの位置を後側焦点としてレンズ14の光軸方向の基準位置を特定する。また、制御手段5bは、特定したレンズ14の位置情報に応じて、レンズ移動機構5aを稼働させる処理を行う。
【0023】
次に、本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整方法を図3のブロック図を用いて説明する。本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整方法は、上述の赤外線用カメラの後側焦点調整システムを用いる。そして、レンズユニット11側に赤外センサの検知面位置情報を伝達し、これに基づき、赤外センサ17の検知面17bの位置を後側焦点として、レンズ群の光軸方向の位置を調整することにより、レンズユニット11の焦点を合わせることを特徴とする。
【0024】
まず、真空室内17aに配置された赤外センサ17の検知面17bの光軸方向における位置を特定する(S1)。ボロメータ、サーモパイル、サーミスタ等、検知素子を真空密封して用いる赤外センサ17は、真空密封処理により、検知面17bの位置が僅かにずれてしまう。レンズユニット11の後側焦点は検知面に合わせる必要があるので、検知面17bの位置ずれが僅かであっても、レンズ群の焦点が合わず、望ましい画像を得ることが出来ない。そこで、本件発明では、真空密封後の赤外センサ17の検知面17bの光軸方向における位置を個別に特定し、その結果を元にレンズユニット11の焦点を合わせられるようにした。
【0025】
赤外センサ17の検知面17bの光軸方向における位置を特定する方法は、特に限定を要しない。赤外センサ17としてボロメータを用いる場合、真空室内17aに検知素子を配置し、ゲルマニウム等の窓で蓋をして真空密封するので、真空室内17aの位置を外部から見ることができず、検知面17bの位置を検知できない。そこで、例えば、以下の方法が考えられる。まず、真空処理済みの赤外センサ17(ボロメータ)を、被写体の大きさ、距離及び温度等を一定とした所定の試験環境に配置し、レンズユニット11を用いて試験用の被写体の撮影を行う。このとき、最初にレンズユニット11のフランジバックは、赤外センサ17の設計上の検知面17bの位置に合わせておき、被写体を撮影しながら、試験用のレンズユニット11のレンズ位置を光軸方向にずらして調整する。調整した結果、ずらした各レンズ14の移動量を測定し、フランジバックの位置を赤外センサ17の検知面の位置として特定することができる。このような方法を用いて特定した赤外センサ17の検知面17bの光軸方向における位置を検知面位置情報として、カメラ本体12に有する記憶手段2に記憶する(S2)。なお、検知面位置情報は、製造初期の赤外センサ17の検知面17bの位置に限定されるものではなく、使用過程におけるメンテナンス時に、改めて赤外センサ17の検知面17bの位置を特定することにより得た情報も含まれる。
【0026】
次に、カメラ本体12に備える送信手段3により、カメラ本体12に取り付けられたレンズユニット11に対して検知面位置情報を送信する(S3)。そして、レンズユニット11の受信手段4において検知面位置情報を受信する(S4)。本件発明では、レンズユニット11は、カメラ本体12に固定される場合や、交換レンズである場合、いずれのレンズユニットでも使用できる。交換レンズの場合、レンズユニットを取り替える度に検知面位置情報をカメラ本体12から送信する構成としても良い。
【0027】
次に、受信した当該検知面位置情報に基づき、赤外センサ17の検知面17bの位置を後側焦点として特定する(S5)。そして、特定した後側焦点に応じて、レンズユニット11に備え、モータ、ギア等を有するレンズ移動機構5aを制御手段5bで制御して、レンズ群の光軸方向の位置を調整する(S6)。このようにしてレンズユニット11の焦点を合わせる。
【0028】
図1に示す形態では、レンズ群を簡略化して記載しているが、望遠、入射角等、所望の目的に応じた設計のレンズ群を用いれば良く、後側焦点位置をセンサ面とするものであれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整システムは、赤外センサの真空処理による、検知面の位置の個体誤差に対応して、交換レンズのフランジバックを設定することができるので、赤外線用カメラの撮像性能を均質かつ高性能に保つことができる。本件発明に係る赤外線用カメラの後側焦点調整システムは、出荷時の赤外センサの検知面位置情報に限らず、赤外センサ内の真空度の経時変化に伴う検知面の位置変化にも対応可能である。
【符号の説明】
【0030】
1・・・赤外線用カメラ
2・・・記憶手段
3・・・送信手段
4・・・受信手段
5・・・焦点位置調整手段
11・・・レンズユニット
12・・・カメラ本体
17・・・赤外センサ
17b・・・検出面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズ群を備え、カメラ本体に取り付けられるレンズユニットと、
当該レンズ群を透過した赤外光を赤外センサで検知して画像信号に変換処理するカメラ本体とを備え、
当該カメラ本体は、
真空室内に配置され、赤外光を検知する検知面を有する赤外センサと、
当該赤外センサの検知面の光軸方向における位置を測定した検知面位置情報を記憶する記憶手段と、
当該検知面位置情報をレンズユニットに送信する送信手段とを備え、
当該レンズユニットは、
カメラ本体の送信手段から送信される検知面位置情報を受信する受信手段と、
レンズ群の光軸方向の位置を調整する焦点位置調整手段とを備え、
当該レンズユニットの受信手段において受信した検知面位置情報に応じて、赤外センサの検知面の位置を後側焦点として、レンズ群の光軸方向の基準位置を調整することを特徴とする赤外線用カメラの後側焦点調整システム。
【請求項2】
前記赤外センサは、ボロメータ、サーモパイル又はサーミスタを用いる請求項1に記載の赤外線用カメラの後側焦点調整システム。
【請求項3】
前記レンズユニットは、カメラ本体に着脱可能な交換レンズである請求項1又は請求項2に記載の赤外線用カメラの後側焦点調整システム。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の赤外線用カメラの後側焦点調整システムを用いた赤外線用カメラの後側焦点調整方法であって、
真空室内に配置された赤外センサの光軸方向における検知面の位置を測定し、
測定した赤外センサの検知面の光軸方向における位置を検知面位置情報として、カメラ本体に有する記憶手段に記憶し、
カメラ本体に備える前記送信手段により、前記カメラ本体に取り付けられたレンズユニットに対して当該検知面位置情報を送信し、
レンズユニットの前記受信手段において受信した当該検知面位置情報に基づき、赤外センサの検知面の位置を後側焦点として、レンズ群の光軸方向の位置を調整することにより、レンズユニットの焦点を合わせることを特徴とする赤外線用カメラの後側焦点調整方法。
【請求項5】
前記赤外センサの検知面位置は、試験用カメラを用いて、撮像距離、撮像対象及び室温を所定の値とした試験環境で撮像して測定される請求項4に記載の赤外線用カメラの後側焦点調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−173546(P2012−173546A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36070(P2011−36070)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000133227)株式会社タムロン (355)
【Fターム(参考)】