走査プローブ顕微鏡用標準試料及びキャリア濃度測定方法
【課題】キャリア濃度と局所的電気特性(広がり抵抗、静電容量特性及び非線形誘電率特性を含む)との相関を従来よりも正確に求めることができる走査プローブ顕微鏡用標準試料及びキャリア濃度測定方法を提供する。
【解決手段】標準試料10は、シリコン単結晶よりなる半導体基板1の上に、不純物を添加せずにエピタキシャル成長させたシリコン膜よりなる不活性層3と、不純物を添加してエピタキシャル成長させたシリコン膜よりなる活性層2A〜2Fと、を交互に積層して形成される。各活性層2A〜2Fはそれぞれ異なるキャリア濃度(不純物濃度)を有しており、キャリア濃度が少なく電気抵抗率の大きな不活性層3で分離されている。このため、異なる活性層間での信号電流のリークを抑制して、キャリア濃度と局所的電気特性との相関を正確に求めることができる。
【解決手段】標準試料10は、シリコン単結晶よりなる半導体基板1の上に、不純物を添加せずにエピタキシャル成長させたシリコン膜よりなる不活性層3と、不純物を添加してエピタキシャル成長させたシリコン膜よりなる活性層2A〜2Fと、を交互に積層して形成される。各活性層2A〜2Fはそれぞれ異なるキャリア濃度(不純物濃度)を有しており、キャリア濃度が少なく電気抵抗率の大きな不活性層3で分離されている。このため、異なる活性層間での信号電流のリークを抑制して、キャリア濃度と局所的電気特性との相関を正確に求めることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査プローブ顕微鏡を用いた半導体材料中のキャリア濃度(不純物濃度)の定量測定に好適な走査プローブ顕微鏡用標準試料及びキャリア濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(大規模集積回路)等の半導体装置の高集積化に伴い、LSIに含まれる半導体素子(例えばトランジスタ等)の微細化が進んでいる。このため、半導体装置内の微細な領域における局所的なキャリア濃度(不純物濃度)分布を高い分解能で正確に評価することが求められている。
【0003】
半導体装置内の微細な領域におけるキャリア濃度分布を測定する方法として、走査型プローブ顕微鏡を応用した走査型広がり抵抗顕微鏡(SSRM:Scanning Spread Resistance Microscope)法、走査型容量顕微鏡(SCM:Scanning Capacitance Microscope)法及び走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM:Scanning Non-linear Dielectric Microscope)法等が知られている。
【0004】
走査型広がり抵抗顕微鏡法は、図8に示すように、直流電源33を介してプローブ21と検査対象物(試料)51との間に直流電圧を印加した状態でプローブ21を一定の応力で検査対象物51に接触させ、プローブ21に流れ込む電流を電流計35で検出する。そして、検査対象物51とプローブ21との間の電圧及びプローブ21に流れ込む電流から広がり抵抗を求める。
【0005】
プローブ21の先端の接触部分の半径(以下、接触半径という)をaとし、試料の抵抗率をρとすると、プローブ近傍で試料の抵抗率ρが一定とみなせる場合には、広がり抵抗Rcと検査対象物51の抵抗率ρとの間にRc≒ρ/2πaの関係式が成り立つ。また、試料が半導体材料(例えばシリコン)の場合には、抵抗率ρと不純物濃度(キャリア濃度)とは図9に示すような関係がある。したがって、広がり抵抗から検査対象物51のキャリア濃度に関する定性的な知見が得られる。
【0006】
以上のような測定を、プローブ21を一定のピッチで移動させながら繰り返すことで、検査対象物51内の広がり抵抗の分布及びキャリア濃度分布を求めることができる。
【0007】
ところで、キャリア濃度分布をより正確に測定するためには、上述の関係式に基づいて検査対象物51の正確な抵抗率ρを求める必要がある。ところが、走査プローブ顕微鏡に用いられるプローブ21の先端の形状は測定に使用するプローブ毎に異なり、その先端も微細であることから、プローブ21の接触半径aを知ることは容易ではない。このため、上述の関係式に基づいて、広がり抵抗の測定結果のみからキャリア濃度を正確に求めることは困難である。
【0008】
そこで、従来、図10(a)に示すような標準試料80を用いて広がり抵抗の測定値とキャリア濃度との相関を直接求め、これに基づいて検査対象物のキャリア濃度を定量する方法が試みられている。ここで、標準試料80は、図10(a)に示すように、単結晶シリコン基板81の一方の面側にキャリア濃度が異なる複数のエピタキシャルシリコン膜82A〜82Dを積層したものである。各エピタキシャルシリコン膜82A〜82Dのキャリア濃度は既知である。また、積層方向に平行な一方の切断面をプローブが接触する面とし、その反対側の切断面にシリコン層82A〜82Dと共通接続された電極84を形成している。広がり抵抗とキャリア濃度との相関は、標準試料80のシリコン層82A〜82Dを横切る方向にプローブ21を移動させながら広がり抵抗の分布を測定することで求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−64061号公報
【特許文献2】特開2003−322599号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of Vacuum Science and Technology B, 16, 394 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の標準試料80で広がり抵抗を測定する場合に、例えば図10(b)に示すように、電流はプローブ21が接触するエピタキシャルシリコン膜82Bだけでなく、それに隣接するエピタキシャル膜82C、82A等にも流れてしまう。そのため、標準試料80における広がり抵抗の分布は標準試料80のキャリア濃度の分布を正確に反映せず、図11に示すように、広がり抵抗の分布に勾配が生じてしまう。したがって、従来の標準試料80では、キャリア濃度と広がり抵抗との相関を正確に決定ことが困難である。
【0012】
そこで、キャリア濃度と局所的電気特性(広がり抵抗、静電容量特性及び非線形誘電率特性を含む)との相関を従来よりも正確に求めることができる走査プローブ顕微鏡用標準試料及びキャリア濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一観点によれば、不純物が添加された半導体からなり、キャリア濃度がそれぞれ異なる複数の活性層と、キャリア濃度が前記複数の活性層の何れよりも低い半導体材料により形成され、前記複数の活性層のそれぞれの間に配置された不活性層と、前記複数の活性層に共通に接続された電極とを有する走査プローブ顕微鏡用標準試料が提供される。
【発明の効果】
【0014】
上記一観点による走査プローブ顕微鏡用標準試料は、不純物が添加されてキャリア濃度が高い半導体材料からなる複数の活性層のそれぞれの間に、キャリア濃度が低く抵抗率が大きい半導体材料からなる不活性層を配置しているので、異なる活性層間での信号電流のリークを抑制することができる。したがって、上記一観点による走査プローブ顕微鏡用標準試料では、プローブが接触している活性層からの局所的電気特性のみを精度よく測定することができ、キャリア濃度と局所的電気特性との相関を従来よりも正確に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(a)は第1実施形態に係る標準試料を示す斜視図であり、図1(b)は図1(a)に示す標準試料のキャリア濃度の分布を示す図である。
【図2】図2は、プローブの接触部分が活性層の厚さよりも大きい場合の問題を示す模式図である。
【図3】図3は、第1実施形態に係る標準試料の製造途中の構造を示す断面図である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る標準試料を用いたキャリア濃度と広がり抵抗との相関の求め方を示す模式図である。
【図5】図5は、第1実施形態に係る標準試料で広がり抵抗の測定を行う際の電流の流路を示す模式図である。
【図6】図6は、実験例による標準試料の広がり抵抗の測定結果を示す図である。
【図7】図7は、第2実施形態に係る標準試料を示す斜視図である。
【図8】図8は、走査型広がり抵抗顕微鏡法の原理を示す模式図である。
【図9】図9は、室温におけるシリコンの抵抗率ρとn型不純物濃度及びp型不純物濃度との関係を示す図である。
【図10】図10(a)は従来の標準試料を示す斜視図であり、図10(b)は従来の標準試料中を流れる信号電流を示す模式図である。
【図11】図11は、従来の標準試料中のキャリア濃度分布及び広がり抵抗分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0017】
(第1実施形態)
図1(a)は、実施形態に係る標準試料を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示す標準試料のキャリア濃度の分布を示す図である。
【0018】
図1(a)に示すように、標準試料10は半導体基板1の上(図では左側)に、不活性層3及び活性層2A〜2Eを交互に積層した構造を有している。ここでは、半導体基板1はシリコン単結晶からなるものとする。活性層2A〜2E及び不活性層3は半導体基板1の上に形成されたエピタキシャル膜であり、半導体基板1と同じ半導体材料(ここではシリコン)からなる。
【0019】
活性層2A〜2Eには、それぞれ異なる濃度の不純物が添加されており図1(b)に示すように、半導体基板1から離れた活性層ほどキャリア濃度が高くなっている。活性層2A〜2Eのキャリア濃度は1015cm-3〜1021cm-3程度であり、正確なキャリア濃度は例えば4探針法等で測定して求めた抵抗率ρと図9に示すような不純物濃度と抵抗率との関係を示すデータとにより決定される。
【0020】
各活性層2A〜2Eに添加する不純物は、例えば、リン(P)、ヒ素(As)及びアンチモン(Sb)等のn型不純物や、ホウ素(B),アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)等のp型不純物とすることができる。
【0021】
各活性層2A〜2Eのそれぞれの厚さは、走査プローブ顕微鏡のプローブの先端の接触部分よりも十分に大きくすることが好ましい。図2は、プローブの接触部分が活性層の幅よりも大きい場合の問題を示す模式図である。例えば、図2に示すように、各活性層2A、2B、2Cの厚さがプローブ21の先端の接触部分の大きさよりも小さいと、プローブ21の先端が複数の活性層2A、2B、2Cに同時に接触してしまう。そして、複数の活性層2A、2B、2Cを通過した電流がプローブ21に流れ込んでしまい、キャリア濃度と広がり抵抗との相関を正確に求められなくなってしまう。例えば、プローブ21の先端の接触部分の大きさが30nm程度の場合には、各活性層2A〜2Eの厚さは100nm以上とすることが好ましい。
【0022】
図1(a)に示すように、不活性層3は各活性層2A〜2Eの間に配置されている。この不活性層3は、不純物を添加せずに形成されたシリコン(Si)膜からなり、その抵抗率は他の活性層2A〜2Eよりも大きい。不活性層3は、隣接する活性層間に電流が流れることを阻止するのに十分な厚さとすることが重要であり、例えば30nm以上の厚さとすることが好ましい。なお、不活性層3に少量の不純物が含有されていてもよいが、そのキャリア濃度は活性層2A〜2Eのうちキャリア濃度が最も低い活性層のキャリア濃度よりも低いことが必要である。例えば、不活性層3のキャリア濃度は1015cm-3未満とする。
【0023】
各不活性層3及び各活性層2A〜2Eからなる積層膜の厚さ(図1(a)において長さL1)は、一般的な走査プローブ顕微鏡による測定が可能な範囲よりも小さくすることが好ましく、例えば40μm程度又はそれ以下とする。
【0024】
標準試料10の上面には、不活性層3及び活性層2A〜2Eを基板面に対して垂直に切断した断面が表れている。また、標準試料10の底面には電極4が形成されている。電極4は、例えば金(Au)などの金属膜からなり、活性層2A〜2Eに共通接続されている。標準試料10の大きさは例えば長さLが5000μm程度、幅Wが3000μm程度、厚さTが100μm程度とすることができる。なお、図1では、活性層の数は2A〜2Eの5層とした例を示しているが、これに限定されるものではなく、必要に応じて活性層の数を適宜増減させてもよい。
【0025】
図3は、標準試料10の製造途中の構造を示す断面図である。以下、図3を参照しつつ標準試料10の製造方法について説明する。
【0026】
まず、図3に示すように、シリコン(Si)単結晶よりなる半導体基板1(ウエハ)を用意する。そして、この半導体基板1上に活性層2A〜2E及び不活性層3をCVD(化学的気相成長)法により形成する。
【0027】
すなわち、半導体基板1の表面を1000℃以上に程度に加熱しながら、トリクロロシラン(SiHCl3)からなる原料ガスと接触させる。これにより、半導体基板1の上に不純物を添加していないシリコン(Si)がエピタキシャル成長して不活性層3が完成する。
【0028】
次に、不活性層3が形成された半導体基板1の上面を1000℃以上に加熱しながら、トリクロロシランとフォスフィン(PH3)とを含む原料ガスと接触させる。これにより、不活性層3の上に不純物としてリン(P)を含むシリコン(Si)膜がエピタキシャル成長し、活性層2Aが完成する。活性層2Aに含まれる不純物濃度は、トリクロロシランとフォスフィンとの比率で適宜調整する。その後、活性層2Aの電気抵抗率を例えば4探針法等で測定する。
【0029】
以後、同様の工程を繰り返すことにより、活性層2Aの上に、順に、不活性層3、活性層2B、不活性層3、活性層2C、不活性層3、活性層2D、不活性層3、活性層2E、不活性層3及び活性層2Eを形成する。活性層2A〜2Eの成膜時には、基板1から離れた活性層2A〜2Eほど不純物濃度が高くなるように、トリクロロシランに対するフォスフィンガスの割合を増加する。以上の工程により、図3に示す積層構造が完成する。
【0030】
以上の各工程において、活性層2A〜2Eと不活性層3との間で不純物が拡散するのを抑制するために、半導体基板1の加熱は赤外線輻射加熱を用いて行うことが好ましい。この場合、数秒で1000℃以上となるように急速に加熱して短時間で成膜及び冷却を行うことができる。
【0031】
次に、図3に示す構造が形成された半導体基板1を、ダイシングソー等で切断して直方体状に整形し、積層構造を露出させる。その後、切断面を、例えばCMP法などで研磨して平坦化する。そして、一方の切断面の上にスパッタ法等で金(Au)膜を堆積させて電極4を形成する。
【0032】
以上の工程により本実施形態に係る標準試料10が完成する。
【0033】
なお、上述の例では、活性層2A〜2Eにn型不純物としてリン(P)を添加して標準試料10を作製する例について説明したが、これに限定されるものではなく、活性層2A〜2Eにp型不純物を添加してもよい。p型不純物としてホウ素(B)を添加する場合には、例えば活性層2A〜2Eを成膜する際の原料ガスとしてトリクロロシランとジボラン(B2H6)との混合ガスを用いればよい。
【0034】
図4は、実施形態に係る標準試料を用いたキャリア濃度と広がり抵抗との相関の求め方を示す模式図である。図5は、第1実施形態に係る標準試料で広がり抵抗の測定を行う際の電流の流路を示す模式図である。以下、図4及び図5を参照しつつ、標準試料10を用いたキャリア濃度と広がり抵抗Rcとの相関の求め方について説明する。
【0035】
図4に示すように、標準試料10の電極4に直流電源33を接続し、この直流電源33を介して標準試料10とプローブ21との間に所定の直流電圧を印加する。次に、走査プローブ顕微鏡のプローブ21を標準試料10の表面に一定の応力で接触させる。そして、プローブ21に流れ込む電流を対数アンプ31で増幅した後、検出器32で検出する。検出器32で検出した電流と、プローブ21及び標準試料10の間の電圧とにより広がり抵抗を求める。
【0036】
本実施形態に係る標準試料10は、各活性層2A〜2E間に不活性層3が配置されている。このため、例えば図5に示すように、プローブ21の先端が活性層2Bと接触しているときに、隣接する他の活性層2A、2Cとの間で電流(信号電流)が流れるのを抑制することができる。したがって、プローブ21が活性層2Bに接触している間は、活性層2Bのキャリア濃度を反映した広がり抵抗を正確に求めることができる。
【0037】
以上の測定を、プローブ21を矢印Aに示す方向(活性層2A〜2E及び不活性層3を横切る方向)に一定のピッチで移動させつつ繰り返し行うことで、標準試料10の広がり抵抗の分布を求める。これにより、それぞれキャリア濃度が異なる活性層2A〜2Eにおける広がり抵抗を正確に測定できる。したがって、標準試料10を用いることにより、キャリア濃度と広がり抵抗との相関が従来よりも正確に求まる。
【0038】
また、標準試料10の測定に使用したプローブを用いて検査対象物(半導体装置等)について走査型広がり抵抗顕微鏡法で広がり抵抗の分布を測定することで、標準試料10で求めた相関を利用して検査対象物のキャリア濃度分布を求めることができる。
【0039】
(実験例)
図6は、実験例に係る標準試料の広がり抵抗の測定結果を示す図である。なお、図6において縦軸は広がり抵抗の対数値を示し、横軸は図4に示すような構造の標準試料の左端を基準点(0)として矢印A方向の位置を示している。以下、図6を参照しつつ本願発明者らが行った実験例について説明する。
【0040】
本願発明者らは、各活性層2A〜2Eにそれぞれ異なる濃度でリン(P)を添加した標準試料10(図1参照)を作製した。なお、赤外干渉法により測定した各活性層の厚さはそれぞれ4μm程度であり、不活性層3の厚さはそれぞれ1μm程度である。作製した標準試料10について四探針法で抵抗率を測定した。その結果、半導体基板1の抵抗率は5.0〜8.0Ωcm、活性層2Aの抵抗率は5.0Ωcm、活性層2Bの抵抗率は0.75Ωcm、活性層2Cの抵抗率は0.30Ωcm、活性層2Dの抵抗率は0.05Ωcm、活性層2Eの抵抗率は0.015Ωcmであった。これらの抵抗率から求めた各活性層のキャリア濃度は、それぞれ活性層2Aが1.0×1015cm-3、活性層2Bが6.7×1015cm-3、活性層2Cが1.8×1016cm-3、活性層2Dが2.5×1017cm-3、活性層2Eが1.5×1018cm-3であった。
【0041】
次に、標準試料10について走査型広がり抵抗顕微鏡法で広がり抵抗の分布を測定した。その結果、図6に示すような広がり抵抗の分布が得られた。図6に示すように、各活性層に対応する部分では、広がり抵抗はプローブの位置によらずに一定の値となっている。このことから、キャリア濃度の異なる他の活性層から流入する電流の影響を抑制でき、キャリア濃度と広がり抵抗との相関が正確に求まることが確認できた。
【0042】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る標準試料を示す斜視図である。
【0043】
図7に示すように、本実施形態に係る標準試料11は、標準試料10(第1実施形態、図1参照)と同様に、半導体基板1の上に不活性層3及び活性層2A〜2Eが交互に積層された構造を有している。また、標準試料11の表面及び底面は、不活性層3及び活性層2A〜2Eの積層方向に平行な面からなり、底面には活性層2A〜2Eと共通に接続された電極4が形成されている点も標準試料10と同様である。ただし、本実施形態の標準試料11は、表面に絶縁膜5が形成されている点で標準試料10と異なる。
【0044】
この絶縁膜5は、例えば酸化シリコン(SiO2)よりなり、標準試料10を大気中に放置して自然酸化することで形成したものである。なお、絶縁膜5は、自然酸化以外にも、熱酸化法や周知の成膜法を用いて任意の厚さに形成してもよい。また、絶縁膜5を酸化シリコン以外の膜としてもよい。
【0045】
この標準試料11は、走査型非線形誘電率顕微鏡及び走査型容量顕微鏡等によるキャリア濃度測定の際の標準試料として用いることができる。
【0046】
すなわち、走査型非線形誘電率顕微鏡及び走査型容量顕微鏡等では、標準試料11の表面に形成された絶縁膜5の上にプローブを接触させつつ、標準試料11に交流信号を印加する。そして、プローブ側に流れ込む信号電流を検出することで、絶縁膜5を介したプローブと標準試料11との間の静電容量(又は非線形誘電率)を測定する。さらに、プローブを活性層2A〜2Eを横切るように一定のピッチで移動させながら上述の測定を繰り返し行う。以上の測定により、既知のキャリア濃度を有する活性層に対する静電容量(又は非線形誘電率)の相関を求めることができる。この相関を利用して検査対象物の静電容量(又は非線形誘電率)の測定結果を校正することで検査対象物のキャリア濃度を定量できる。
【0047】
本実施形態の標準試料11は、キャリア濃度が異なる活性層間をキャリア濃度が低く抵抗率が大きい不活性層3で分離している。したがって、静電容量(又は非線形誘電率)測定において異なる活性層間に交流電流(信号電流)が流れるのを不活性層3で阻止することができる。このため、キャリア濃度と静電容量(又は非線形誘電率)との相関をより正確に求めることができ、走査型非線形誘電率顕微鏡及び走査型容量顕微鏡等によるキャリア濃度の定量測定にも好適である。
【0048】
なお、標準試料11の絶縁膜5がシリコン自然酸化膜である場合には、標準試料11を走査型広がり抵抗顕微鏡法によるキャリア濃度の定量測定のための標準試料として用いることに何ら支障はない。これは、絶縁膜5がシリコン自然酸化膜の場合には、その膜厚が1nm程度と薄く、走査型広がり顕微鏡法でプローブを接触させる際に絶縁膜5を容易に突き破ることができるためである。
【0049】
(その他の実施形態)
第1実施形態及び第2実施形態において、標準試料10及び11を構成する半導体基板1及びそのエピタキシャル膜である活性層2A〜2E及び活性層3がシリコンからなる例について説明したが、これに限定されるものではない。半導体基板1及び活性層2A〜2E及び不活性層3を構成する半導体材料としては、その他にもSiGe、Ge、GaAs等を用いてもよい。
【0050】
以上の諸実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0051】
(付記1)不純物が添加された半導体からなり、キャリア濃度がそれぞれ異なる複数の活性層と、キャリア濃度が前記複数の活性層の何れよりも低い半導体材料により形成され、前記複数の活性層のそれぞれの間に配置された不活性層と、前記複数の活性層に共通に接続された電極とを有することを特徴とする走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0052】
(付記2)前記不活性層の厚さが30nm以上であることを特徴とする付記1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0053】
(付記3)前記不活性層のキャリア濃度が1015cm-3未満であることを特徴とする付記1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0054】
(付記4)前記不純物は、リン、アンチモン、ホウ素及びアルミニウムのいずれかから選択されることを特徴とする付記1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0055】
(付記5)前記活性層及び不活性層に垂直な断面の上に、絶縁膜が形成されていることを特徴とする付記1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0056】
(付記6)前記活性層及び前記不活性層は、半導体単結晶基板の上にエピタキシャル成長法により形成された層であることを特徴とする付記1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0057】
(付記7)前記活性層の厚さが100nm以上であることを特徴とする付記1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0058】
(付記8)半導体基板上に、不純物成分を添加せずに半導体材料を堆積させて不活性層を形成する工程と、前記不活性層上に第1の濃度の不純物成分を添加しつつ半導体層を堆積させて第1の活性層を形成する工程と、前記第1の活性層の上に不純物成分を添加せずに半導体材料を堆積させて不活性層を形成する工程と、前記第1の濃度と異なる濃度の不純物を添加しつつ半導体材料を堆積させて第2の活性層を形成する工程と、前記不活性層及び前記第1及び第2の活性層が形成された前記半導体基板を基板面に垂直な断面が露出するように切り出す工程と、前記断面の一つに金属膜を堆積させて前記第1及び第2の活性層に共通に接続する電極を形成する工程と、を有することを特徴とする走査プローブ顕微鏡用標準試料の製造方法。
【0059】
(付記9)走査プローブ顕微鏡により、標準試料の表面の局所的電気的特性を測定し、前記局所的電気特性とキャリア濃度との相関を求める工程と、前記標準試料の表面の局所的電気的特性を測定するのに使用したプローブで、検査対象物の局所的電気特性の分布を測定する工程と、前記標準試料の局所的電気特性とキャリア濃度との相関に基づいて、前記検査対象物の局所的電気特性の分布からキャリア濃度分布を求める工程とを有し、前記標準試料は不純物が添加された半導体からなり、キャリア濃度がそれぞれ異なる複数の活性層と、キャリア濃度が前記複数の活性層の何れよりも低い半導体材料により形成され、前記複数の活性層のそれぞれの間に配置された不活性層と、前記複数の活性層に共通に接続された電極とを有することを特徴とするキャリア濃度測定方法。
【符号の説明】
【0060】
1、81…半導体基板、2A、2B、2C、2D、2E…活性層、3…不活性層、4、84…電極、5…絶縁膜、10、11、80…標準試料、21…プローブ、31…対数アンプ、32…検出器、33…直流電源、35…電流計、51…検査対象物、82A,82B、82C、82D…エピタキシャルシリコン膜。
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査プローブ顕微鏡を用いた半導体材料中のキャリア濃度(不純物濃度)の定量測定に好適な走査プローブ顕微鏡用標準試料及びキャリア濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、LSI(大規模集積回路)等の半導体装置の高集積化に伴い、LSIに含まれる半導体素子(例えばトランジスタ等)の微細化が進んでいる。このため、半導体装置内の微細な領域における局所的なキャリア濃度(不純物濃度)分布を高い分解能で正確に評価することが求められている。
【0003】
半導体装置内の微細な領域におけるキャリア濃度分布を測定する方法として、走査型プローブ顕微鏡を応用した走査型広がり抵抗顕微鏡(SSRM:Scanning Spread Resistance Microscope)法、走査型容量顕微鏡(SCM:Scanning Capacitance Microscope)法及び走査型非線形誘電率顕微鏡(SNDM:Scanning Non-linear Dielectric Microscope)法等が知られている。
【0004】
走査型広がり抵抗顕微鏡法は、図8に示すように、直流電源33を介してプローブ21と検査対象物(試料)51との間に直流電圧を印加した状態でプローブ21を一定の応力で検査対象物51に接触させ、プローブ21に流れ込む電流を電流計35で検出する。そして、検査対象物51とプローブ21との間の電圧及びプローブ21に流れ込む電流から広がり抵抗を求める。
【0005】
プローブ21の先端の接触部分の半径(以下、接触半径という)をaとし、試料の抵抗率をρとすると、プローブ近傍で試料の抵抗率ρが一定とみなせる場合には、広がり抵抗Rcと検査対象物51の抵抗率ρとの間にRc≒ρ/2πaの関係式が成り立つ。また、試料が半導体材料(例えばシリコン)の場合には、抵抗率ρと不純物濃度(キャリア濃度)とは図9に示すような関係がある。したがって、広がり抵抗から検査対象物51のキャリア濃度に関する定性的な知見が得られる。
【0006】
以上のような測定を、プローブ21を一定のピッチで移動させながら繰り返すことで、検査対象物51内の広がり抵抗の分布及びキャリア濃度分布を求めることができる。
【0007】
ところで、キャリア濃度分布をより正確に測定するためには、上述の関係式に基づいて検査対象物51の正確な抵抗率ρを求める必要がある。ところが、走査プローブ顕微鏡に用いられるプローブ21の先端の形状は測定に使用するプローブ毎に異なり、その先端も微細であることから、プローブ21の接触半径aを知ることは容易ではない。このため、上述の関係式に基づいて、広がり抵抗の測定結果のみからキャリア濃度を正確に求めることは困難である。
【0008】
そこで、従来、図10(a)に示すような標準試料80を用いて広がり抵抗の測定値とキャリア濃度との相関を直接求め、これに基づいて検査対象物のキャリア濃度を定量する方法が試みられている。ここで、標準試料80は、図10(a)に示すように、単結晶シリコン基板81の一方の面側にキャリア濃度が異なる複数のエピタキシャルシリコン膜82A〜82Dを積層したものである。各エピタキシャルシリコン膜82A〜82Dのキャリア濃度は既知である。また、積層方向に平行な一方の切断面をプローブが接触する面とし、その反対側の切断面にシリコン層82A〜82Dと共通接続された電極84を形成している。広がり抵抗とキャリア濃度との相関は、標準試料80のシリコン層82A〜82Dを横切る方向にプローブ21を移動させながら広がり抵抗の分布を測定することで求めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−64061号公報
【特許文献2】特開2003−322599号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of Vacuum Science and Technology B, 16, 394 (1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の標準試料80で広がり抵抗を測定する場合に、例えば図10(b)に示すように、電流はプローブ21が接触するエピタキシャルシリコン膜82Bだけでなく、それに隣接するエピタキシャル膜82C、82A等にも流れてしまう。そのため、標準試料80における広がり抵抗の分布は標準試料80のキャリア濃度の分布を正確に反映せず、図11に示すように、広がり抵抗の分布に勾配が生じてしまう。したがって、従来の標準試料80では、キャリア濃度と広がり抵抗との相関を正確に決定ことが困難である。
【0012】
そこで、キャリア濃度と局所的電気特性(広がり抵抗、静電容量特性及び非線形誘電率特性を含む)との相関を従来よりも正確に求めることができる走査プローブ顕微鏡用標準試料及びキャリア濃度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一観点によれば、不純物が添加された半導体からなり、キャリア濃度がそれぞれ異なる複数の活性層と、キャリア濃度が前記複数の活性層の何れよりも低い半導体材料により形成され、前記複数の活性層のそれぞれの間に配置された不活性層と、前記複数の活性層に共通に接続された電極とを有する走査プローブ顕微鏡用標準試料が提供される。
【発明の効果】
【0014】
上記一観点による走査プローブ顕微鏡用標準試料は、不純物が添加されてキャリア濃度が高い半導体材料からなる複数の活性層のそれぞれの間に、キャリア濃度が低く抵抗率が大きい半導体材料からなる不活性層を配置しているので、異なる活性層間での信号電流のリークを抑制することができる。したがって、上記一観点による走査プローブ顕微鏡用標準試料では、プローブが接触している活性層からの局所的電気特性のみを精度よく測定することができ、キャリア濃度と局所的電気特性との相関を従来よりも正確に求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1(a)は第1実施形態に係る標準試料を示す斜視図であり、図1(b)は図1(a)に示す標準試料のキャリア濃度の分布を示す図である。
【図2】図2は、プローブの接触部分が活性層の厚さよりも大きい場合の問題を示す模式図である。
【図3】図3は、第1実施形態に係る標準試料の製造途中の構造を示す断面図である。
【図4】図4は、第1実施形態に係る標準試料を用いたキャリア濃度と広がり抵抗との相関の求め方を示す模式図である。
【図5】図5は、第1実施形態に係る標準試料で広がり抵抗の測定を行う際の電流の流路を示す模式図である。
【図6】図6は、実験例による標準試料の広がり抵抗の測定結果を示す図である。
【図7】図7は、第2実施形態に係る標準試料を示す斜視図である。
【図8】図8は、走査型広がり抵抗顕微鏡法の原理を示す模式図である。
【図9】図9は、室温におけるシリコンの抵抗率ρとn型不純物濃度及びp型不純物濃度との関係を示す図である。
【図10】図10(a)は従来の標準試料を示す斜視図であり、図10(b)は従来の標準試料中を流れる信号電流を示す模式図である。
【図11】図11は、従来の標準試料中のキャリア濃度分布及び広がり抵抗分布の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【0017】
(第1実施形態)
図1(a)は、実施形態に係る標準試料を示す斜視図であり、図1(b)は、図1(a)に示す標準試料のキャリア濃度の分布を示す図である。
【0018】
図1(a)に示すように、標準試料10は半導体基板1の上(図では左側)に、不活性層3及び活性層2A〜2Eを交互に積層した構造を有している。ここでは、半導体基板1はシリコン単結晶からなるものとする。活性層2A〜2E及び不活性層3は半導体基板1の上に形成されたエピタキシャル膜であり、半導体基板1と同じ半導体材料(ここではシリコン)からなる。
【0019】
活性層2A〜2Eには、それぞれ異なる濃度の不純物が添加されており図1(b)に示すように、半導体基板1から離れた活性層ほどキャリア濃度が高くなっている。活性層2A〜2Eのキャリア濃度は1015cm-3〜1021cm-3程度であり、正確なキャリア濃度は例えば4探針法等で測定して求めた抵抗率ρと図9に示すような不純物濃度と抵抗率との関係を示すデータとにより決定される。
【0020】
各活性層2A〜2Eに添加する不純物は、例えば、リン(P)、ヒ素(As)及びアンチモン(Sb)等のn型不純物や、ホウ素(B),アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)等のp型不純物とすることができる。
【0021】
各活性層2A〜2Eのそれぞれの厚さは、走査プローブ顕微鏡のプローブの先端の接触部分よりも十分に大きくすることが好ましい。図2は、プローブの接触部分が活性層の幅よりも大きい場合の問題を示す模式図である。例えば、図2に示すように、各活性層2A、2B、2Cの厚さがプローブ21の先端の接触部分の大きさよりも小さいと、プローブ21の先端が複数の活性層2A、2B、2Cに同時に接触してしまう。そして、複数の活性層2A、2B、2Cを通過した電流がプローブ21に流れ込んでしまい、キャリア濃度と広がり抵抗との相関を正確に求められなくなってしまう。例えば、プローブ21の先端の接触部分の大きさが30nm程度の場合には、各活性層2A〜2Eの厚さは100nm以上とすることが好ましい。
【0022】
図1(a)に示すように、不活性層3は各活性層2A〜2Eの間に配置されている。この不活性層3は、不純物を添加せずに形成されたシリコン(Si)膜からなり、その抵抗率は他の活性層2A〜2Eよりも大きい。不活性層3は、隣接する活性層間に電流が流れることを阻止するのに十分な厚さとすることが重要であり、例えば30nm以上の厚さとすることが好ましい。なお、不活性層3に少量の不純物が含有されていてもよいが、そのキャリア濃度は活性層2A〜2Eのうちキャリア濃度が最も低い活性層のキャリア濃度よりも低いことが必要である。例えば、不活性層3のキャリア濃度は1015cm-3未満とする。
【0023】
各不活性層3及び各活性層2A〜2Eからなる積層膜の厚さ(図1(a)において長さL1)は、一般的な走査プローブ顕微鏡による測定が可能な範囲よりも小さくすることが好ましく、例えば40μm程度又はそれ以下とする。
【0024】
標準試料10の上面には、不活性層3及び活性層2A〜2Eを基板面に対して垂直に切断した断面が表れている。また、標準試料10の底面には電極4が形成されている。電極4は、例えば金(Au)などの金属膜からなり、活性層2A〜2Eに共通接続されている。標準試料10の大きさは例えば長さLが5000μm程度、幅Wが3000μm程度、厚さTが100μm程度とすることができる。なお、図1では、活性層の数は2A〜2Eの5層とした例を示しているが、これに限定されるものではなく、必要に応じて活性層の数を適宜増減させてもよい。
【0025】
図3は、標準試料10の製造途中の構造を示す断面図である。以下、図3を参照しつつ標準試料10の製造方法について説明する。
【0026】
まず、図3に示すように、シリコン(Si)単結晶よりなる半導体基板1(ウエハ)を用意する。そして、この半導体基板1上に活性層2A〜2E及び不活性層3をCVD(化学的気相成長)法により形成する。
【0027】
すなわち、半導体基板1の表面を1000℃以上に程度に加熱しながら、トリクロロシラン(SiHCl3)からなる原料ガスと接触させる。これにより、半導体基板1の上に不純物を添加していないシリコン(Si)がエピタキシャル成長して不活性層3が完成する。
【0028】
次に、不活性層3が形成された半導体基板1の上面を1000℃以上に加熱しながら、トリクロロシランとフォスフィン(PH3)とを含む原料ガスと接触させる。これにより、不活性層3の上に不純物としてリン(P)を含むシリコン(Si)膜がエピタキシャル成長し、活性層2Aが完成する。活性層2Aに含まれる不純物濃度は、トリクロロシランとフォスフィンとの比率で適宜調整する。その後、活性層2Aの電気抵抗率を例えば4探針法等で測定する。
【0029】
以後、同様の工程を繰り返すことにより、活性層2Aの上に、順に、不活性層3、活性層2B、不活性層3、活性層2C、不活性層3、活性層2D、不活性層3、活性層2E、不活性層3及び活性層2Eを形成する。活性層2A〜2Eの成膜時には、基板1から離れた活性層2A〜2Eほど不純物濃度が高くなるように、トリクロロシランに対するフォスフィンガスの割合を増加する。以上の工程により、図3に示す積層構造が完成する。
【0030】
以上の各工程において、活性層2A〜2Eと不活性層3との間で不純物が拡散するのを抑制するために、半導体基板1の加熱は赤外線輻射加熱を用いて行うことが好ましい。この場合、数秒で1000℃以上となるように急速に加熱して短時間で成膜及び冷却を行うことができる。
【0031】
次に、図3に示す構造が形成された半導体基板1を、ダイシングソー等で切断して直方体状に整形し、積層構造を露出させる。その後、切断面を、例えばCMP法などで研磨して平坦化する。そして、一方の切断面の上にスパッタ法等で金(Au)膜を堆積させて電極4を形成する。
【0032】
以上の工程により本実施形態に係る標準試料10が完成する。
【0033】
なお、上述の例では、活性層2A〜2Eにn型不純物としてリン(P)を添加して標準試料10を作製する例について説明したが、これに限定されるものではなく、活性層2A〜2Eにp型不純物を添加してもよい。p型不純物としてホウ素(B)を添加する場合には、例えば活性層2A〜2Eを成膜する際の原料ガスとしてトリクロロシランとジボラン(B2H6)との混合ガスを用いればよい。
【0034】
図4は、実施形態に係る標準試料を用いたキャリア濃度と広がり抵抗との相関の求め方を示す模式図である。図5は、第1実施形態に係る標準試料で広がり抵抗の測定を行う際の電流の流路を示す模式図である。以下、図4及び図5を参照しつつ、標準試料10を用いたキャリア濃度と広がり抵抗Rcとの相関の求め方について説明する。
【0035】
図4に示すように、標準試料10の電極4に直流電源33を接続し、この直流電源33を介して標準試料10とプローブ21との間に所定の直流電圧を印加する。次に、走査プローブ顕微鏡のプローブ21を標準試料10の表面に一定の応力で接触させる。そして、プローブ21に流れ込む電流を対数アンプ31で増幅した後、検出器32で検出する。検出器32で検出した電流と、プローブ21及び標準試料10の間の電圧とにより広がり抵抗を求める。
【0036】
本実施形態に係る標準試料10は、各活性層2A〜2E間に不活性層3が配置されている。このため、例えば図5に示すように、プローブ21の先端が活性層2Bと接触しているときに、隣接する他の活性層2A、2Cとの間で電流(信号電流)が流れるのを抑制することができる。したがって、プローブ21が活性層2Bに接触している間は、活性層2Bのキャリア濃度を反映した広がり抵抗を正確に求めることができる。
【0037】
以上の測定を、プローブ21を矢印Aに示す方向(活性層2A〜2E及び不活性層3を横切る方向)に一定のピッチで移動させつつ繰り返し行うことで、標準試料10の広がり抵抗の分布を求める。これにより、それぞれキャリア濃度が異なる活性層2A〜2Eにおける広がり抵抗を正確に測定できる。したがって、標準試料10を用いることにより、キャリア濃度と広がり抵抗との相関が従来よりも正確に求まる。
【0038】
また、標準試料10の測定に使用したプローブを用いて検査対象物(半導体装置等)について走査型広がり抵抗顕微鏡法で広がり抵抗の分布を測定することで、標準試料10で求めた相関を利用して検査対象物のキャリア濃度分布を求めることができる。
【0039】
(実験例)
図6は、実験例に係る標準試料の広がり抵抗の測定結果を示す図である。なお、図6において縦軸は広がり抵抗の対数値を示し、横軸は図4に示すような構造の標準試料の左端を基準点(0)として矢印A方向の位置を示している。以下、図6を参照しつつ本願発明者らが行った実験例について説明する。
【0040】
本願発明者らは、各活性層2A〜2Eにそれぞれ異なる濃度でリン(P)を添加した標準試料10(図1参照)を作製した。なお、赤外干渉法により測定した各活性層の厚さはそれぞれ4μm程度であり、不活性層3の厚さはそれぞれ1μm程度である。作製した標準試料10について四探針法で抵抗率を測定した。その結果、半導体基板1の抵抗率は5.0〜8.0Ωcm、活性層2Aの抵抗率は5.0Ωcm、活性層2Bの抵抗率は0.75Ωcm、活性層2Cの抵抗率は0.30Ωcm、活性層2Dの抵抗率は0.05Ωcm、活性層2Eの抵抗率は0.015Ωcmであった。これらの抵抗率から求めた各活性層のキャリア濃度は、それぞれ活性層2Aが1.0×1015cm-3、活性層2Bが6.7×1015cm-3、活性層2Cが1.8×1016cm-3、活性層2Dが2.5×1017cm-3、活性層2Eが1.5×1018cm-3であった。
【0041】
次に、標準試料10について走査型広がり抵抗顕微鏡法で広がり抵抗の分布を測定した。その結果、図6に示すような広がり抵抗の分布が得られた。図6に示すように、各活性層に対応する部分では、広がり抵抗はプローブの位置によらずに一定の値となっている。このことから、キャリア濃度の異なる他の活性層から流入する電流の影響を抑制でき、キャリア濃度と広がり抵抗との相関が正確に求まることが確認できた。
【0042】
(第2実施形態)
図7は、第2実施形態に係る標準試料を示す斜視図である。
【0043】
図7に示すように、本実施形態に係る標準試料11は、標準試料10(第1実施形態、図1参照)と同様に、半導体基板1の上に不活性層3及び活性層2A〜2Eが交互に積層された構造を有している。また、標準試料11の表面及び底面は、不活性層3及び活性層2A〜2Eの積層方向に平行な面からなり、底面には活性層2A〜2Eと共通に接続された電極4が形成されている点も標準試料10と同様である。ただし、本実施形態の標準試料11は、表面に絶縁膜5が形成されている点で標準試料10と異なる。
【0044】
この絶縁膜5は、例えば酸化シリコン(SiO2)よりなり、標準試料10を大気中に放置して自然酸化することで形成したものである。なお、絶縁膜5は、自然酸化以外にも、熱酸化法や周知の成膜法を用いて任意の厚さに形成してもよい。また、絶縁膜5を酸化シリコン以外の膜としてもよい。
【0045】
この標準試料11は、走査型非線形誘電率顕微鏡及び走査型容量顕微鏡等によるキャリア濃度測定の際の標準試料として用いることができる。
【0046】
すなわち、走査型非線形誘電率顕微鏡及び走査型容量顕微鏡等では、標準試料11の表面に形成された絶縁膜5の上にプローブを接触させつつ、標準試料11に交流信号を印加する。そして、プローブ側に流れ込む信号電流を検出することで、絶縁膜5を介したプローブと標準試料11との間の静電容量(又は非線形誘電率)を測定する。さらに、プローブを活性層2A〜2Eを横切るように一定のピッチで移動させながら上述の測定を繰り返し行う。以上の測定により、既知のキャリア濃度を有する活性層に対する静電容量(又は非線形誘電率)の相関を求めることができる。この相関を利用して検査対象物の静電容量(又は非線形誘電率)の測定結果を校正することで検査対象物のキャリア濃度を定量できる。
【0047】
本実施形態の標準試料11は、キャリア濃度が異なる活性層間をキャリア濃度が低く抵抗率が大きい不活性層3で分離している。したがって、静電容量(又は非線形誘電率)測定において異なる活性層間に交流電流(信号電流)が流れるのを不活性層3で阻止することができる。このため、キャリア濃度と静電容量(又は非線形誘電率)との相関をより正確に求めることができ、走査型非線形誘電率顕微鏡及び走査型容量顕微鏡等によるキャリア濃度の定量測定にも好適である。
【0048】
なお、標準試料11の絶縁膜5がシリコン自然酸化膜である場合には、標準試料11を走査型広がり抵抗顕微鏡法によるキャリア濃度の定量測定のための標準試料として用いることに何ら支障はない。これは、絶縁膜5がシリコン自然酸化膜の場合には、その膜厚が1nm程度と薄く、走査型広がり顕微鏡法でプローブを接触させる際に絶縁膜5を容易に突き破ることができるためである。
【0049】
(その他の実施形態)
第1実施形態及び第2実施形態において、標準試料10及び11を構成する半導体基板1及びそのエピタキシャル膜である活性層2A〜2E及び活性層3がシリコンからなる例について説明したが、これに限定されるものではない。半導体基板1及び活性層2A〜2E及び不活性層3を構成する半導体材料としては、その他にもSiGe、Ge、GaAs等を用いてもよい。
【0050】
以上の諸実施形態に関し、更に以下の付記を開示する。
【0051】
(付記1)不純物が添加された半導体からなり、キャリア濃度がそれぞれ異なる複数の活性層と、キャリア濃度が前記複数の活性層の何れよりも低い半導体材料により形成され、前記複数の活性層のそれぞれの間に配置された不活性層と、前記複数の活性層に共通に接続された電極とを有することを特徴とする走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0052】
(付記2)前記不活性層の厚さが30nm以上であることを特徴とする付記1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0053】
(付記3)前記不活性層のキャリア濃度が1015cm-3未満であることを特徴とする付記1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0054】
(付記4)前記不純物は、リン、アンチモン、ホウ素及びアルミニウムのいずれかから選択されることを特徴とする付記1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0055】
(付記5)前記活性層及び不活性層に垂直な断面の上に、絶縁膜が形成されていることを特徴とする付記1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0056】
(付記6)前記活性層及び前記不活性層は、半導体単結晶基板の上にエピタキシャル成長法により形成された層であることを特徴とする付記1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0057】
(付記7)前記活性層の厚さが100nm以上であることを特徴とする付記1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【0058】
(付記8)半導体基板上に、不純物成分を添加せずに半導体材料を堆積させて不活性層を形成する工程と、前記不活性層上に第1の濃度の不純物成分を添加しつつ半導体層を堆積させて第1の活性層を形成する工程と、前記第1の活性層の上に不純物成分を添加せずに半導体材料を堆積させて不活性層を形成する工程と、前記第1の濃度と異なる濃度の不純物を添加しつつ半導体材料を堆積させて第2の活性層を形成する工程と、前記不活性層及び前記第1及び第2の活性層が形成された前記半導体基板を基板面に垂直な断面が露出するように切り出す工程と、前記断面の一つに金属膜を堆積させて前記第1及び第2の活性層に共通に接続する電極を形成する工程と、を有することを特徴とする走査プローブ顕微鏡用標準試料の製造方法。
【0059】
(付記9)走査プローブ顕微鏡により、標準試料の表面の局所的電気的特性を測定し、前記局所的電気特性とキャリア濃度との相関を求める工程と、前記標準試料の表面の局所的電気的特性を測定するのに使用したプローブで、検査対象物の局所的電気特性の分布を測定する工程と、前記標準試料の局所的電気特性とキャリア濃度との相関に基づいて、前記検査対象物の局所的電気特性の分布からキャリア濃度分布を求める工程とを有し、前記標準試料は不純物が添加された半導体からなり、キャリア濃度がそれぞれ異なる複数の活性層と、キャリア濃度が前記複数の活性層の何れよりも低い半導体材料により形成され、前記複数の活性層のそれぞれの間に配置された不活性層と、前記複数の活性層に共通に接続された電極とを有することを特徴とするキャリア濃度測定方法。
【符号の説明】
【0060】
1、81…半導体基板、2A、2B、2C、2D、2E…活性層、3…不活性層、4、84…電極、5…絶縁膜、10、11、80…標準試料、21…プローブ、31…対数アンプ、32…検出器、33…直流電源、35…電流計、51…検査対象物、82A,82B、82C、82D…エピタキシャルシリコン膜。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物が添加された半導体からなり、キャリア濃度がそれぞれ異なる複数の活性層と、
キャリア濃度が前記複数の活性層の何れよりも低い半導体材料により形成され、前記複数の活性層のそれぞれの間に配置された不活性層と、
前記複数の活性層に共通に接続された電極と
を有することを特徴とする走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【請求項2】
前記不活性層の厚さが、30nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【請求項3】
前記不活性層のキャリア濃度が、1015cm-3未満であることを特徴とする請求項1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【請求項4】
前記不純物は、リン、アンチモン、ホウ素及びアルミニウムのいずれかから選択されることを特徴とする請求項1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【請求項5】
前記活性層及び不活性層に垂直な断面の上に、絶縁膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【請求項6】
半導体基板上に、不純物成分を添加せずに半導体材料を堆積させて不活性層を形成する工程と、
前記不活性層上に第1の濃度の不純物成分を添加しつつ半導体層を堆積させて第1の活性層を形成する工程と、
前記第1の活性層の上に不純物成分を添加せずに半導体材料を堆積させて不活性層を形成する工程と、
前記第1の濃度と異なる濃度の不純物を添加しつつ半導体材料を堆積させて第2の活性層を形成する工程と、
前記不活性層及び前記第1及び第2の活性層が形成された前記半導体基板を基板面に垂直な断面が露出するように切り出す工程と、
前記断面の一つに金属膜を堆積させて前記第1及び第2の活性層に共通に接続する電極を形成する工程と、
を有することを特徴とする走査プローブ顕微鏡用標準試料の製造方法。
【請求項7】
走査プローブ顕微鏡により、標準試料の表面の局所的電気的特性を測定し、前記局所的電気特性とキャリア濃度との相関を求める工程と、
前記標準試料の表面の局所的電気的特性を測定するのに使用したプローブで、検査対象物の局所的電気特性の分布を測定する工程と、
前記標準試料の局所的電気特性とキャリア濃度との相関に基づいて、前記検査対象物の局所的電気特性の分布からキャリア濃度分布を求める工程とを有し、
前記標準試料は、不純物が添加された半導体からなり、キャリア濃度がそれぞれ異なる複数の活性層と、キャリア濃度が前記複数の活性層の何れよりも低い半導体材料により形成され、前記複数の活性層のそれぞれの間に配置された不活性層と、前記複数の活性層に共通に接続された電極とを有すること
を特徴とするキャリア濃度測定方法。
【請求項1】
不純物が添加された半導体からなり、キャリア濃度がそれぞれ異なる複数の活性層と、
キャリア濃度が前記複数の活性層の何れよりも低い半導体材料により形成され、前記複数の活性層のそれぞれの間に配置された不活性層と、
前記複数の活性層に共通に接続された電極と
を有することを特徴とする走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【請求項2】
前記不活性層の厚さが、30nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【請求項3】
前記不活性層のキャリア濃度が、1015cm-3未満であることを特徴とする請求項1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【請求項4】
前記不純物は、リン、アンチモン、ホウ素及びアルミニウムのいずれかから選択されることを特徴とする請求項1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【請求項5】
前記活性層及び不活性層に垂直な断面の上に、絶縁膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の走査プローブ顕微鏡用標準試料。
【請求項6】
半導体基板上に、不純物成分を添加せずに半導体材料を堆積させて不活性層を形成する工程と、
前記不活性層上に第1の濃度の不純物成分を添加しつつ半導体層を堆積させて第1の活性層を形成する工程と、
前記第1の活性層の上に不純物成分を添加せずに半導体材料を堆積させて不活性層を形成する工程と、
前記第1の濃度と異なる濃度の不純物を添加しつつ半導体材料を堆積させて第2の活性層を形成する工程と、
前記不活性層及び前記第1及び第2の活性層が形成された前記半導体基板を基板面に垂直な断面が露出するように切り出す工程と、
前記断面の一つに金属膜を堆積させて前記第1及び第2の活性層に共通に接続する電極を形成する工程と、
を有することを特徴とする走査プローブ顕微鏡用標準試料の製造方法。
【請求項7】
走査プローブ顕微鏡により、標準試料の表面の局所的電気的特性を測定し、前記局所的電気特性とキャリア濃度との相関を求める工程と、
前記標準試料の表面の局所的電気的特性を測定するのに使用したプローブで、検査対象物の局所的電気特性の分布を測定する工程と、
前記標準試料の局所的電気特性とキャリア濃度との相関に基づいて、前記検査対象物の局所的電気特性の分布からキャリア濃度分布を求める工程とを有し、
前記標準試料は、不純物が添加された半導体からなり、キャリア濃度がそれぞれ異なる複数の活性層と、キャリア濃度が前記複数の活性層の何れよりも低い半導体材料により形成され、前記複数の活性層のそれぞれの間に配置された不活性層と、前記複数の活性層に共通に接続された電極とを有すること
を特徴とするキャリア濃度測定方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−21898(P2011−21898A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164519(P2009−164519)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】
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