説明

走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーおよび該試料延伸ホルダーを用いた試料の表面状態の観察方法

【課題】 走査型プローブ顕微鏡の試料台の上に試料の被観察部である中心部がプローブの深針に近接するように設置し、試料の両端部を対向する一対の把持具で把持し、対向位置にある一対の把持具が反対方向に移動可能であり、試料の被観察部である中心部が静止状態を保つように試料に歪みを与えることができる走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーおよび該試料延伸ホルダーを用いた試料の表面状態の観察方法を提供する。
【解決手段】 走査型プローブ顕微鏡に設置された試料10を延伸させる試料延伸ホルダー1であって、試料10の両端部を把持する一対の把持具9と、一対の把持具9を移動可能に支持する支持部材4と、対向位置にある一対の把持具9を互いに離間する方向に移動させる移動機構7とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーおよび該試料延伸ホルダーを用いた試料の表面状態の観察方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、走査型プローブ顕微鏡の試料台の上に試料の被観察部である中心部がプローブの深針に近接するように設置し、試料の両端部を対向する一対の把持具で把持し、対向位置にある一対の把持具が反対方向に移動可能であり、試料の被観察部である中心部が静止状態を保つように試料に歪みを与える試料延伸ホルダーおよび試料の表面状態の観察方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、走査型プローブ顕微鏡を用いて変形が与えられた試料の表面状態の観察や変形前後における試料の表面状態を観察する方法が知られている。例えば、特許文献1および特許文献2には、カンチレバーおよび深針を有するプローブと、試料台とを備え、深針を試料台にセットされた試料に対して相対的に移動させることにより、試料の表面状態を観察することができる走査型プローブ顕微鏡およびこれを用いた観察方法が記載されている。
【0003】
この走査型プローブ顕微鏡は、加熱または冷却された試料の表面状態を観察できるように加熱または冷却手段を備えるとともに、延伸された試料の表面状態を観察できるように延伸機構を備えている。
【0004】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の走査型プローブ顕微鏡およびこれを用いた観察方法の場合、試料の両端近傍を固定する一対の固定手段を備えており、一方の固定手段に対して他方の固定手段が相対的に移動することによって試料に歪が与えられるような延伸機構であるため、歪みにより深針と試料の被観察部の相対位置が移動し、常に試料の被観察部における表面状態の観察を実施することは難しく、その改良が求められていた。
【0005】
また、特許文献1および特許文献2に記載の走査型プローブ顕微鏡を用いてポリエチレンやポリプロピレンをはじめとする結晶性ポリマーからなる試料の表面状態を観察する場合、一方の固定手段に対して他方の固定手段が相対的に移動することによって試料に歪が与えられるような延伸機構であるために、試料の両端近傍を固定する一対の固定手段のうち片方の固定手段に保持された試料の端部に応力が集中し、ネッキング現象による変形が生じ、試料の被観察部に歪みを与えて表面状態の観察を実施することは難しく、その改良が求められていた。
【0006】
【特許文献1】特開2003−247931号公報
【特許文献2】特開2002−71543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたもので、走査型プローブ顕微鏡の試料台の上に試料の被観察部である中心部がプローブの深針に近接するように設置し、試料の両端部を対向する一対の把持具で把持し、対向位置にある一対の把持具が反対方向に移動可能であり、試料の被観察部である中心部が静止状態を保つように試料に歪みを与えることができる走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーおよび該試料延伸ホルダーを用いた試料の表面状態の観察方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、このような実情に鑑み、鋭意検討の結果、本発明が、上記課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。
すなわち、本発明の走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーは、走査型プローブ顕微鏡に設置された試料を延伸させる試料延伸ホルダーであって、試料の両端部を把持する一対の把持具と、前記一対の把持具を移動可能に支持する支持部材と、対向位置にある一対の把持具を互いに離間する方向に移動させる移動機構とを備えたことを特徴とするものである。
【0009】
本発明によれば、移動機構を作動させ、対向位置にある一対の把持具を互いに離間する方向に移動させて試料を対向する方向に延伸させることができる。したがって、試料の被観察部である中心部が静止状態に保たれつつ、試料の延伸状態を観察することができる。
【0010】
本発明の一態様は、前記移動機構は、一つの軸の両側に左ネジと右ネジを形成した送りネジからなることを特徴とする。
本発明によれば、移動機構を一つの軸の両側に左ネジと右ネジを形成した送りネジから構成したため、送りネジを手動またはモータ等を用いて一方向に回転させるだけで一対の把持具を互いに離間する方向に移動させることができ、また送りネジを反対方向に回転させるだけで一対の把持具を互いに近接する方向に移動させることができる。
【0011】
本発明の一態様は、前記支持部材は熱伝導体からなり、該熱伝導体は熱源に接触するとともに試料の裏面に接触していることを特徴とする。
本発明によれば、支持部材を構成する熱伝導体は、試料の被観察部表面の裏面側と接触しており、また、熱源は熱伝導体と接触しており、この結果、熱伝導体を介して試料と熱源との間で熱の伝達が行われる。熱源としては、カートリッジヒータ等を用いればよく、支持部材を構成する熱伝導体としては、アルミニウム合金や銅合金等の金属材料を用いればよい。
【0012】
本発明の一態様は、前記支持部材は、上方に突出した凸状の中心部を有し、該凸状の中心部は、試料の裏面を支持する中央部の平坦面と、該平坦面の両側に形成されたテーパ部とからなっていることを特徴とする。
本発明によれば、試料は、支持部材の凸形状の中心部の平坦面によって支持され、且つテーパ部によって案内されるようになっている。したがって、試料が延伸される際に、試料がテーパ部に案内されつつ平坦面に支持されているため、試料に、延伸方向とは直交する方向に歪みが与えられることがない。
【0013】
また、本発明の試料の表面状態の観察方法は、上述の走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーを、試料の被観察部である中心部にプローブの深針が近接するように設置し、恒温度制御下で、歪みが与えられた試料の被観察部の表面状態を観察することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、試料の両端部を把持する対向位置にある一対の把持具を互いに離間する方向に移動させることができるため、試料の被観察部である中心部が静止状態を保つように試料に歪みを与えることができる。したがって、試料の歪みにより深針と試料の被観察部の相対位置が移動することがなく、常に試料の被観察部における表面状態の観察を実施することができる。
【0015】
また、本発明によれば、試料の両端部を把持する一対の把持具に均等に応力が加わるため、試料の端部に応力が集中することがなく、ネッキング現象による変形が生じることがない。したがって、試料の被観察部に歪みを与えて表面状態の観察を確実に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーおよび該試料延伸ホルダーを用いた試料の表面状態の観察方法の基本構成および実施形態を説明する。
図1および図2は、本発明の走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの基本構成を示す図である。
図1は本発明の走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの基本構成を示す模式的断面図である。図2(a)乃至図2(c)は、図1に示す走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーを示す図であり、図2(a)は走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの模式的平面図、図2(b)は走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの模式的正面図、図2(c)は走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの模式的側面図である。
【0017】
図1に示すように、試料延伸ホルダー1は、固定台2と、固定台2の上方に配置された断熱材3と、断熱材3の上方に配置された支持部材4と、支持部材4の下面に設けられた熱源5と、支持部材4に移動可能に支持された一対の移動部材6,6と、一対の移動部材6,6に螺合される送りネジ7と、一対の移動部材6,6との間で試料10の両端を把持する一対の押え板8,8とを備えている。試料延伸ホルダー1は、固定台2により走査型プローブ顕微鏡の試料台21の上に設置され固定される。
【0018】
試料10を一対の移動部材6,6の上に配置した後に、一対の押え板8,8を固定用ネジ19により一対の移動部材6,6に固定することにより、試料10は、試料10の両端部が一対の移動部材6,6および一対の押え板8,8に把持された状態で試料延伸ホルダー1にセットされるようになっている。移動部材6と押え板8は試料10の端部を把持する把持具9を構成する。また、支持部材4は熱源5からの熱を試料10に伝導する熱伝導性が良好な熱伝導体を構成する。すなわち、支持部材4の中心部4aは、試料10の裏面に接触して試料10を支持するとともに熱源5からの熱を試料10に伝達する機能を有している。
【0019】
前記一対の移動部材6,6には、雌ネジ6a,6bが形成されているのに対し、送りネジ7には、雄ネジ7a,7bが形成されている。そして、送りネジ7の雄ネジ7a,7bはそれぞれ右ネジと左ネジとから構成され、同様に、移動部材6,6の雌ネジ6a,6bはそれぞれ右ネジと左ネジとから構成されている。送りネジ7は、支持部材4の凸状の中心部4aに回転可能に支持されている。
【0020】
したがって、送りネジ7が回転することにより、一対の移動部材6,6は互いに近接する方向または離間する方向に移動するようになっている。試料10の一端は、移動部材6と押え板8からなる把持具9により把持され、試料10の他端は、移動部材6と押え板8からなる把持具9により把持される。送りネジ7の回転により、対向位置にある一対の把持具9,9が互いに離間する方向に移動すると、試料10は対向する両方向から引張られて延伸する。すなわち、送りネジ7は対向位置にある一対の把持具9,9を互いに離間する方向に移動させる移動機構を構成する。
【0021】
本発明の固定台2の寸法および形状は、特に制限されるものではなく、市販の走査型プローブ顕微鏡の試料台21に応じて決めればよいが、好ましくは直径20mm〜50mmの円盤である。なお、試料台21も固定台2と概略同一の寸法である。固定台2および試料台21の寸法があまりにも小さいと固定台2の上に搭載する熱源5や移動部材6の設計が困難になるとともに試料10の寸法や最大延伸倍率が制限されるという問題がおこる場合があり、逆に、固定台2および試料台21の寸法があまりにも大きくなると走査型プローブ顕微鏡に試料台21を設置することが困難になるという問題がおこる場合がある。また、試料台21を走査することにより表面状態を観察する走査型プローブ顕微鏡の場合には、試料延伸ホルダー1の重量が大きくなることや熱源からの熱伝導によりピエゾ素子の特性が不安定になり、試料の表面状態測定の安定性および操作性が低下するという問題がおこる場合がある。
【0022】
試料10の恒温度は、熱源5と、支持部材4からなる熱伝導体とによって達成される。支持部材4からなる熱伝導体は試料10の被観察部表面の裏面側と接触しており、また、熱源5は熱伝導体と連結されており、熱伝導体を介して試料10と熱源5との間で熱の伝達が行われる。熱源5としてはカートリッジヒーターを用いればよく、熱伝導体としては金属材料が好ましく、特に熱伝導体の観点からアルミニウム合金や銅合金が好ましい。場合によっては、熱源5としてペルチェ素子を用いることもできる。
【0023】
恒温度範囲は、特に限定されるものではなく、−70℃〜200℃であり、その範囲の間で温度を±1℃の精度で制御することが好ましい。温度検出の方法は、特に限定されるものではなく、K熱電対や白金測温抵抗体等を使用する温度検出方法を用いればよい。温度制御の方法は、特に限定されるものではなく、温度調節計によるヒーター電力のPID制御や液体窒素の流量制御等の方法が好ましい。
【0024】
また、試料台21を走査することにより表面状態を観察する走査型プローブ顕微鏡に本発明の試料延伸ホルダー1を設置する場合には、熱源5と固定台2の間に断熱材3を挿入することが望ましく、断熱材3によって熱源5から固定台2への熱伝導が遮蔽されるため、熱による試料台21の走査機能への悪影響を防止することができる。
【0025】
本発明の試料延伸ホルダー1で用いる一対の移動部材6,6の移動方法は、一本の軸に右ネジと左ネジを有する送りネジ7により互いに反対方向に移動する方法とするため、一対の移動部材6,6は互いに離間する方向に移動する。送りネジ7を回転させる駆動方式は、手動式やステッピングモータ等を使用して駆動する方式とすることが望ましい。必要に応じて、パルス出力によるステッピングモータ制御による方法を使用して、走査型プローブ顕微鏡から離れた位置からコンピュータを使用して駆動することもできる。
【0026】
試料延伸ホルダー1への試料10の固定方法としては、押え板8を用いて移動部材6の上にネジにより挟み込み固定する方法等を用いればよく、特に制限されるわけではない。移動部材6および押え板8の寸法および形状については、試料10の最大延伸倍率を200%以上にすることができる寸法および形状である。移動部材6および押え板8の試料10との接触面にはすべり防止用の溝を形成することが望ましく、また、移動部材6および押え板8の材質は、強度の観点から金属材料が望ましい。
【0027】
試料10としては、シート状、フィルム状いずれも用いることができるが、延伸応力を軽減できる点からフィルムを用いることが好ましい。
試料の材質については、特に制限されるわけではないが、ゴムや高分子が好ましく、高分子は、結晶性ポリマー、非晶性ポリマーのいずれも用いることができる。
試料10の形状については、特に制限されるわけではないが、好ましくは、短冊状で被観察部である中心部の端にノッチを有する形状である。ノッチの形状については、半円形状やV字形状等いずれも用いることができる。
【0028】
試料延伸ホルダー1の詳細構造について、図2(a)乃至図2(c)を参照して更に説明する。
固定台2および断熱材3には、貫通孔14が形成されており、支持部材4と断熱材3にも、貫通孔15が形成されている。そして、固定台2および断熱材3の貫通孔14に固定用ネジ22を挿通し、固定用ネジ22を試料台21に締め付けることにより、固定台2および断熱材3は試料台21に固定される。また、支持部材4および断熱材3の貫通孔15に固定用ネジ23を挿通し、固定用ネジ23を固定台2に締め付けることにより、支持部材4と断熱材3の間に熱源5が挟み込んで固定される。
【0029】
熱源5は方形状のヒータからなり、熱源5にはヒータ用ケーブル18が接続されており、熱源5に電力が供給されるようになっている。また白金センサー16が熱源5に接触するように配置されており、白金センサー16には白金センサー用ケーブル17が接続されており、熱源5の温度を検出できるようになっている。そして、白金センサー16の検出値に基づいて熱源5に供給する電力を制御し、熱源5の発熱量を制御できるようになっている。
【0030】
支持部材4は、中心部4aに凸形状を有するアルミ合金の円盤状ディスクからなり、支持部材4には、中心部4aから左右に延びる凸形状のレール20が4本形成されている。支持部材4は、凸形状の中心部4aに送りネジ7を挿入する送りネジ挿入孔24と、この送りネジ挿入孔24と直交する方向にピン25を挿入する2個のピン挿入孔26とを有している。そして、2本のピン25をピン挿入孔26に挿入することにより、ピン25が送りネジ7の中央部の外周面に形成された円周溝に嵌合され、送りネジ7が支持部材4に固定されるとともに位置決めされるようになっている。
【0031】
移動部材6は凹形状の溝部27を有しており、支持部材4に形成された凸形状のレール20が移動部材6の凹形状の溝部27に嵌合されるようになっている。これにより、送りネジ7を回転することにより、一対の移動部材6は支持部材4に形成された凸形状のレール20に沿って互いに反対方向に移動することができる。試料10は、移動部材6の上に押え板8を介して固定用ネジ19の締め付けによってセットされる。したがって、引張試験を実施するに際して、試料10は中央部の被測定部が静止状態を保ちつつ中心より外方へ対向する方向に移動することが可能となる。
【0032】
走査型プローブ顕微鏡の試料台21に試料延伸ホルダー1を設置し、移動部材6と押え板8とからなる把持具9により試料10の一端を把持し、同様に、移動部材6と押え板8とからなる把持具9により試料10の他端を把持する。この状態で、一本の軸に右ネジと左ネジを有する送りネジ7により把持具9が互いに反対方向に移動するため、恒温度雰囲気下で試料10の被観察部である中心部が静止状態を保つように歪みが与えられる。この状態において、プローブ13(図1参照)の深針11が試料10の被観察部である中心部に対して相対的に移動することにより、または、試料台21がプローブ13の深針11に対して相対的に移動することにより、プローブ13のカンチレバー12のたわみ、カンチレバー12の振幅変化、カンチレバー12の振動位相変化等が検知され、延伸された試料10の被観察部である中心部の表面状態が観察される。場合によっては、試料が延伸された後に恒温度雰囲気下に設定されてもよい。
【0033】
本発明の走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーおよびこれを用いた試料の表面状態の観察方法では、市販の走査型プローブ顕微鏡に存在する種々の測定モードにおいて、延伸された試料10の被観察部である中心部の表面状態が観察されうる。そして、変形前後における表面状態の比較や互いの延伸倍率が異なる試料10の被観察部である中心部の表面状態の比較によって、例えばポリエチレンやポリプロピレンをはじめとする結晶性ポリマーからなる試料について、以下に明記するような解析がなされうるものと考えられる。
(1)球晶ラメラ構造の変形、回転、配向および破壊挙動の分析
(2)ネッキング変形挙動の解明
(3)上記(1)および(2)の温度依存型および空間分布の解析
【0034】
次に、図1および図2に示す走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーを更に具体化した実施形態を図3(a)乃至図3(d)を参照して説明する。図3(a)は走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの正面断面図、図3(b)は走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの平面図、図3(c)は走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの側面断面図である。また図3(d)は図3(b)のA−A線断面図である。図3(a)乃至図3(d)において、図1および図2と同一符号を付した部分は、同一または相当部分を示す。
【0035】
図3(a)乃至図3(d)に示すように、試料延伸ホルダー1は、固定台2と、固定台2の上方に配置された熱源5と、熱源5を保持する断熱材3と、熱源5の上方に配置された支持部材4と、支持部材4の下面に設けられた白金センサー16と、白金センサー16を保持するホルダー32と、支持部材4に移動可能に支持された一対の移動部材6,6と、一対の移動部材6,6に螺合される送りネジ7と、一対の移動部材6,6との間で試料10の両端を把持する一対の押え板8,8とを備えている。
【0036】
試料延伸ホルダー1は、固定台2により走査型プローブ顕微鏡の試料台21の上に設置され固定される。試料10を一対の移動部材6,6の上に配置した後に、一対の押え板8,8を固定用ネジ19により一対の移動部材6,6に固定することにより、試料10は、試料10の両端部が一対の移動部材6,6および一対の押え板8,8に把持された状態で試料延伸ホルダー1にセットされるようになっている。なお、押え板8および移動部材6のエッジ部は、試料10に損傷を与えないように丸みを帯びた面取りがなされている。移動部材6と押え板8は試料10の端部を把持する把持具9を構成する。また、支持部材4は熱源5からの熱を試料10に伝導する熱伝導体を構成する。
【0037】
前記一対の移動部材6,6には、雌ネジ6a,6bが形成されているのに対し、送りネジ7には、雄ネジ7a,7bが形成されている。そして、送りネジ7の雄ネジ7a,7bはそれぞれ右ネジと左ネジとから構成され、同様に、移動部材6,6の雌ネジ6a,6bはそれぞれ右ネジと左ネジとから構成されている。送りネジ7は、支持部材4の凸状の中心部4aに回転可能に支持されている。
【0038】
したがって、送りネジ7が回転することにより、一対の移動部材6,6は互いに近接する方向または離間する方向に移動するようになっている。試料10の一端は、移動部材6と押え板8からなる把持具9により把持され、試料10の他端は、移動部材6と押え板8からなる把持具9により把持される。なお、押え板8は試料10側が下向きに凸にわん曲して形成されており、押え板8は全体で試料10を押えることができるようになっている。送りネジ7の回転により、対向位置にある一対の把持具9,9が互いに離間する方向に移動すると、試料10は対向する両方向から引張られて延伸する。すなわち、送りネジ7は対向位置にある一対の把持具9,9を互いに離間する方向に移動させる移動機構を構成する。
【0039】
断熱材3と固定台2とは固定用ネジ33により固定され、ホルダー32と断熱材3とは固定用ネジ34により固定されている。また支持部材4とホルダー32とは固定用ネジ35により固定されている。
【0040】
熱源5は方形状のヒータからなり、熱源5にはヒータ用ケーブル18が接続されており、熱源5に電力が供給されるようになっている。また白金センサー16がホルダー32を介して熱源5に接触するように配置されており、白金センサー16には白金センサー用ケーブル17が接続されており、熱源5の温度を検出できるようになっている。そして、白金センサー16の検出値に基づいて熱源5に供給する電力を制御し、熱源5の発熱量を制御できるようになっている。
【0041】
支持部材4は、中心部4aに凸形状を有するアルミ合金の円盤状ディスクからなっている。凸形状の中心部4aは、試料10の裏面を支持する中央部の平坦面4afと、平坦面4afの両側に形成されたテーパ部4atとからなっている。支持部材4は、凸形状の中心部4aに送りネジ7を挿入する送りネジ挿入孔24と、この送りネジ挿入孔24と直交する方向にピン25を挿入する2個のピン挿入孔26とを有している。そして、2本のピン25をピン挿入孔26に挿入することにより、ピン25が送りネジ7の中央部の外周面に形成された円周溝に嵌合され、送りネジ7が支持部材4に固定されるとともに位置決めされるようになっている。
【0042】
本実施形態によれば、試料10は支持部材4の凸形状の中心部4aの平坦面4afによって支持され、且つテーパ部4atによって案内されるようになっている。したがって、試料10が延伸される際に、試料10がテーパ部4atに案内されつつ平坦面4afに支持されているため、試料10が延伸方向とは直交する方向に歪みを形成されることがない。
【0043】
移動部材6は送りネジ7に沿った方向に直線移動できるように支持部材4の凸形状の中心部4aの両側面(ネジ7と直交する方向の両側面)によって案内されるようになっている。これにより、送りネジ7を回転することにより、一対の移動部材6は送りネジ7の軸方向に沿って互いに反対方向に移動することができる。試料10は、移動部材6の上に押え板8を介して固定用ネジ19の締め付けによってセットされる。したがって、引張試験を実施するに際して、試料10は中央部の被測定部が静止状態を保ちつつ中心より外方へ対向する方向に移動することが可能となる。
【0044】
走査型プローブ顕微鏡の試料台21に試料延伸ホルダー1を設置し、移動部材6と押え板8とからなる把持具9により試料10の一端を把持し、同様に、移動部材6と押え板8とからなる把持具9により試料10の他端を把持する。この状態で、一本の軸に右ネジと左ネジを有する送りネジ7により把持具9が互いに反対方向に移動するため、恒温度雰囲気下で試料10の被観察部である中心部が静止状態を保つように歪みが与えられる。この状態において、プローブ13の深針11が試料10の被観察部である中心部に対して相対的に移動することにより、または、試料台21がプローブ13の深針11に対して相対的に移動することにより、プローブ13のカンチレバー12のたわみ、カンチレバー12の振幅変化、カンチレバー12の振動位相変化等が検知され、延伸された試料10の被観察部である中心部の表面状態が観察される。場合によっては、試料が延伸された後に恒温度雰囲気下に設定されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は本発明の走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの基本構成を示す模式的断面図である。
【図2】図2(a)は走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの模式的平面図、図2(b)は走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの模式的正面図、図2(c)は走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの模式的側面図である。
【図3】図3(a)は走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの正面断面図、図3(b)は走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの平面図、図3(c)は走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーの側面断面図、図3(d)は図3(b)のA−A線断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 試料延伸ホルダー
2 固定台
3 断熱材
4 支持部材
4a 中心部
4af 平坦面
4at テーパ部
5 熱源
6 移動部材
6a,6b 雌ネジ
7 送りネジ
7a,7b 雄ネジ
8 押え板
9 把持具
10 試料
11 深針
12 カンチレバー
13 プローブ
14,15 貫通孔
16 白金センサー
17 白金センサー用ケーブル
18 ヒータ用ケーブル
19,22,23,33,34,35 固定用ネジ
20 レール
21 試料台
24 送りネジ挿入孔
25 ピン
26 ピン挿入孔
27 溝部
32 ホルダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走査型プローブ顕微鏡に設置された試料を延伸させる試料延伸ホルダーであって、
試料の両端部を把持する一対の把持具と、
前記一対の把持具を移動可能に支持する支持部材と、
対向位置にある一対の把持具を互いに離間する方向に移動させる移動機構とを備えたことを特徴とする走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダー。
【請求項2】
前記移動機構は、一つの軸の両側に左ネジと右ネジを形成した送りネジからなることを特徴とする請求項1記載の走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダー。
【請求項3】
前記支持部材は熱伝導体からなり、該熱伝導体は熱源に接触するとともに試料の裏面に接触していることを特徴とする請求項1または2記載の走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダー。
【請求項4】
前記支持部材は、上方に突出した凸状の中心部を有し、該凸状の中心部は、試料の裏面を支持する中央部の平坦面と、該平坦面の両側に形成されたテーパ部とからなっていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダー。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の走査型プローブ顕微鏡用試料延伸ホルダーを、試料の被観察部である中心部にプローブの深針が近接するように設置し、恒温度制御下で、歪みが与えられた試料の被観察部の表面状態を観察することを特徴とする試料の表面状態の観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−133041(P2006−133041A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321341(P2004−321341)
【出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】