説明

走査型顕微鏡装置

【課題】高S/N、高感度かつ高速で分光検出を行う。
【解決手段】標本1にレーザ光を照射する光源3と、光源3から照射されたレーザ光を標本1上で走査させるXYガルバノミラー14と、XYガルバノミラー14により走査されたレーザ光を標本1に照射する一方、レーザ光の照射位置において発生した蛍光を集光する対物レンズ92と、XYガルバノミラー14と対物レンズ92との間に配置され、レーザ光と蛍光とを分離するノンディスキャン検出用励起DM56と、分離された蛍光を入射端72から入射して導光し、直線状に形成された射出端74から射出する落射用ファイバ70と、落射用ファイバ70の射出端74から射出された蛍光を射出端74の長手方向に直交する方向に分散させる回折格子32と、回折格子32により分散させられた蛍光の分散方向に沿って配列された複数のセルを有するマルチアノードPMT40とを備える走査型顕微鏡装置100を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型顕微鏡装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光検出光路に分光器を配置し、標本から発せられる光の分光検出を行う顕微鏡装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1では、レーザ走査型顕微鏡(LSM)により、ディスキャン光路の共焦点ピンホールを通過させた光を回折格子で分光し、スペクトルが生成される位置に配置した1次元方向に32個の検出部(セル)を備えるマルチアノード型光電子増倍管(PMT)によって分光データを取得することとしている。また、特許文献1には、多光子検出に有効なノンディスキャン光路に回折格子およびマルチアノードPMTを配置し、ディスキャン光と同じようにノンディスキャン光の分光検出を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−185581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ノンディスキャン光路において、特許文献1の図6の共焦点ピンホールと共役な位置に像を結像させると、走査と同時に光が共焦点ピンホール上で光軸と直交する方向に動くため、標本面の光軸中心付近の1点の分光データしか取得できないという問題がある。また、光検出光路に配置する共焦点ピンホールやスリットにより散乱光が遮断され、蛍光の検出効率が大きく損なわれるという問題がある。また、対物瞳位置を前述のピンホールと共役な位置に配置すると、スキャンによりピンホールに入射される光の入射角は変わるが位置は変わらない。ただし、瞳には面積があるため、投影された入射光の多くがピンホールでけられてしまい、蛍光を大きく損失することとなる。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、高いS/Nが得られ、高感度かつ高速で分光検出を行うことができる走査型顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、標本にレーザ光を照射する光源と、該光源から照射された前記レーザ光を前記標本上で走査させるスキャナと、該スキャナにより走査された前記レーザ光を前記標本に照射する一方、該レーザ光の照射位置において発生した蛍光を集光する対物レンズと、前記スキャナと前記対物レンズとの間に配置され、前記レーザ光と前記蛍光とを分離する波長分離部と、該波長分離部により分離された前記蛍光を入射端から入射して導光し、略直線状に形成された射出端から射出する落射用ファイバと、該落射用ファイバの前記射出端から射出された前記蛍光を該射出端の長手方向に直交する方向に分散させる分散素子と、該分散素子により分散させられた前記蛍光の分散方向に沿って配列された複数の検出部を有する光電子増倍管とを備える走査型顕微鏡装置を提供する。
【0007】
本発明によれば、光源から発せられスキャナによって走査されたレーザ光が対物レンズにより標本に照射されると、標本において発生した蛍光が対物レンズによって集光されて波長分離部で分離され、落射用ファイバにより分散素子へと導光される。そして、分散素子により蛍光が分散させられて光電子増倍管の複数の検出部によって検出される。
【0008】
この走査型顕微鏡装置においては、波長分離部により、標本において発生した蛍光をスキャナに戻すことなくレーザ光の光路から分離し、落射用ファイバによって光電子増倍管へと導光することで、標本から光電子増倍管までの光路中での蛍光の損失を最小限に抑えることができる。
【0009】
また、落射用ファイバの射出端を、分散素子の分散方向、すなわち、光電子増倍管の複数の検出部の配列方向に直交する方向に延びる直線状に形成することで、対物レンズにより集光された蛍光を無駄なく複数の検出部に入射させることができる。これにより、分散させた蛍光を検出部ごとに1度で検出することができ、高S/N、高感度かつ高速で分光検出を行うことができる。
【0010】
上記発明においては、前記スキャナにより前記標本上で走査された前記レーザ光の照射位置において透過方向に向かって発生した蛍光を集光するコンデンサレンズと、該コンデンサレンズにより集光された前記蛍光を入射端から入射して導光し、前記分散素子による分散方向に直交する方向に延びる略直線状に形成された射出端から前記分散素子に向けて前記蛍光を射出する透過用ファイバと、該透過用ファイバの射出端から射出された前記蛍光を前記落射用ファイバの射出端から射出される前記蛍光の光路に入射し、前記落射用ファイバからの前記蛍光に代えて前記透過用ファイバからの前記蛍光を前記分散素子に入射させる透過蛍光入射部とを備えることとしてもよい。
【0011】
このように構成することで、透過蛍光入射部の作動により、透過用ファイバからの蛍光を落射用ファイバからの蛍光に代えて分散素子に入射させることで、光電子増倍管により標本においてレーザ光の透過方向に発生した蛍光を検出することができる。したがって、標本から戻る方向に発生した蛍光の分光検出と標本を透過する方向に発生した蛍光の分光検出とを切り替えて行うことができる。
【0012】
本発明は、標本にレーザ光を照射する光源と、該光源から照射された前記レーザ光を前記標本上で走査させるスキャナと、該スキャナにより前記標本上で走査された前記レーザ光の照射位置において透過方向に向かって発生した蛍光を集光するコンデンサレンズと、該コンデンサレンズにより集光された前記蛍光を入射端から入射して導光し、略直線状に形成された射出端から射出する透過用ファイバと、該透過用ファイバの前記射出端から射出された前記蛍光を該射出端の長手方向に直交する方向に分散させる分散素子と、該分散素子により分散させられた前記蛍光の分散方向に沿って配列された複数の検出部を有する光電子増倍管とを備える走査型顕微鏡装置を提供する。
【0013】
本発明によれば、光源から発せられスキャナによって走査されたレーザ光が標本に照射されると、標本においてレーザ光の透過方向に向かって発生した蛍光がコンデンサレンズによって集光され、透過用ファイバにより分散素子へと導光される。したがって、標本から光電子増倍管までの光路途中での蛍光の損失を最小限に抑え、高S/N、高感度かつ高速で分光検出を行うことができる。
【0014】
上記発明においては、前記波長分離部と交換可能に配置され、前記対物レンズにより集光された前記蛍光を前記レーザ光の光路に戻す蛍光戻し部と、該蛍光戻し部と前記波長分離部とを切り替える切替え手段と、前記対物レンズの焦点位置と共役な位置に配置され、前記切替え手段によって切り替えられた前記蛍光戻し部により前記レーザ光の光路に戻されて前記スキャナを通過した前記蛍光を部分的に通過させる共焦点ピンホールと、該共焦点ピンホールを通過した前記蛍光を前記落射用ファイバの射出端から射出される前記蛍光の光路に入射させる逆走査蛍光入射部とを備えることとしてもよい。
【0015】
このように構成することで、切替え手段により、波長分離部に変えて蛍光戻し部を光路上に配置すれば、標本において発生した蛍光が蛍光戻し部によってスキャナに戻される。そして、蛍光は共焦点ピンホールを通過して逆走査蛍光入射部によって落射用ファイバから光路に入射させられる。したがって、スキャナに戻さない蛍光とスキャナに戻す蛍光とを切り替えて観察することができ、多光子励起観察による分光検出のための構成を一光子励起観察による分光検出のための構成と共用することができる。
【0016】
また、上記発明においては、前記落射用ファイバの入射端が前記対物レンズの瞳位置に共役な位置に配置されるとともに、該落射用ファイバの入射端の径および受光可能最大角度が以下の式を満たすこととしてもよい。
φD≧φpo×βPL (1)
αre≧θa (2)
ここで、
φD:落射用ファイバの入射端の径
φpo:対物レンズの瞳径
βPL:対物レンズの瞳位置から落射用ファイバの入射端への投影倍率
αre:落射用ファイバの入射端の受光可能最大角度
θa:スキャナによる走査範囲で決まる落射用ファイバの入射端への最大入射角度
【0017】
落射用ファイバの入射端の径および受光可能最大角度が式(1),(2)を満たすことで、スキャナによる走査範囲全体からの蛍光を落射用ファイバの入射端に入射させることができ、蛍光の光量損失を防ぐことができる。
【0018】
また、上記発明においては、前記落射用ファイバの入射端の受光可能最大角度が、さらに以下の式を満たすこととしてもよい。
αre>θb (3)
ここで、
αre:落射用ファイバの入射端の受光可能最大角度
θb:対物レンズの取り込み可能視野で決まる落射用ファイバの入射端への最大入射角度
【0019】
標本の深部(例えば、標本の表面から500μ程度)では、散乱光が多いため走査範囲の外側からも蛍光が発生する。落射用ファイバの入射端の受光可能最大角度が式(3)を満たすことで、深部観察において、より多くの蛍光散乱光を集光することができる。
【0020】
また、上記発明においては、前記落射用ファイバの射出端の幅方向の寸法および長手方向の寸法が、以下の式を満たすこととしてもよい。
W×βPM<P (4)
×βPM<P (5)
αro÷βPM<θp (6)
ここで、
W:落射用ファイバの射出端の幅方向の寸法
βPM:落射用ファイバの射出端を光電子増倍管に投影する倍率
:光電子増倍管の各検出部の配列方向の幅寸法
:落射用ファイバの射出端の長手方向の寸法
:光電子増倍管の各検出部の配列方向に直交する方向の寸法
αro:落射用ファイバの射出角度
θp:光電子増倍管の許容受光角度
【0021】
落射用ファイバの射出端の幅方向の寸法および長手方向の寸法が式(4),(5),(6)を満たすことで、落射用ファイバの射出端から射出される蛍光を、波長分解能を損なうことなく効率的に光電子増倍管に入射させることができる。
【0022】
また、上記発明においては、前記透過用ファイバの入射端が前記コンデンサレンズの瞳位置と共役な位置に配置されるとともに、該透過用ファイバの入射端の径および受光可能最大角度が以下の式を満たすこととしてもよい。
φD>φp×βcd (7)
αte>θc (8)
ここで、
φD:透過用ファイバの入射端の径
φp:コンデンサレンズの瞳径
βcd:コンデンサレンズの瞳位置から透過用ファイバの入射端への投影倍率
αte:透過用ファイバの受光可能最大角度
θc:スキャナの走査範囲で決まる透過用ファイバへの最大入射角度
【0023】
透過用ファイバの入射端の径および受光可能最大角度が式(7),(8)を満たすことで、スキャナの走査範囲全体からの蛍光を透過用ファイバの入射端に入射することができ、蛍光の光量損失を防ぐことができる。
【0024】
また、上記発明においては、前記透過用ファイバの入射端の受光可能最大角度が、さらに以下の式を満たすこととしてもよい。
αte>θd (9)
ここで、
αte:透過用ファイバの受光可能最大角度
θd:コンデンサレンズの取り込み可能視野で決まる透過用ファイバへの最大入射角度
【0025】
透過用ファイバの入射端の受光可能最大角度が式(9)を満たすことで、深部観察において、より多くの蛍光散乱光を集光することができる。
【0026】
上記発明においては、前記透過用ファイバの射出端の幅方向の寸法および長手方向の寸法が、以下の式を満たすこととしてもよい。
W×βPM<P (10)
×βPM<P (11)
αro÷βPM<θp (12)
ここで、
W:透過用ファイバの射出端の幅方向の寸法
βPM:透過用ファイバの射出端を光電子増倍管に投影する倍率
:光電子増倍管の各検出部の配列方向の幅寸法
:透過用ファイバの射出端の長手方向の寸法
:光電子増倍管の各検出部の配列方向に直交する方向の寸法
αto:透過用ファイバの射出角度
θp:光電子増倍管の許容受光角度
【0027】
透過用ファイバの射出端の幅方向の寸法および長手方向の寸法が式(10),(11),(12)を満たすことで、透過射用ファイバの射出端から射出される蛍光を、波長分解能を損なうことなく効率的に光電子増倍管に入射させることができる。
【0028】
また、上記発明においては、前記光電子増倍管の前記検出部の受光面近傍に配列された複数のシリンドリカルレンズを備え、該シリンドリカルレンズの配列ピッチが前記検出部の配列ピッチと略一致し、かつ、各前記シリンドリカルレンズが各前記検出部にそれぞれ対応して配置されていることとしてもよい。
【0029】
このように構成することで、光電子増倍管の検出部間に電極を構成するための不感帯(ギャップ)が存在する場合であっても、シリンドリカルレンズにより各検出部の受光面に効率的に蛍光を入射させ、ギャップによる蛍光の光量損失を防ぐことができる。
【0030】
また、上記発明においては、前記シリンドリカルレンズのレンズパワーがない方向の寸法が、前記検出部に入射される前記蛍光の入射範囲の寸法より大きいこととしてもよい。
このように構成することで、光電子増倍管の検出部に入射される蛍光の光量損失を防ぐことができる。
【0031】
また、上記発明においては、前記検出部により検出された前記蛍光を波長分離する画像処理部と、該画像処理部により波長分離された前記蛍光の像を表示するモニタとを備えることとしてもよい。
このように構成することで、画像処理部により、クロスオーバーが激しい複数の蛍光色素を分離してモニタ上に表示することができる。
【0032】
また、上記発明においては、所定の時間ごとの前記標本の分光検出結果を記憶する記憶部を備えることとしてもよい。
このように構成することで、標本の経時変化を観察することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、高いS/Nが得られ、高感度かつ高速で分光検出を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る走査型顕微鏡装置の概略構成図である。
【図2】図1のマルチアノードPMTの拡大概略図である。
【図3】図2のセルの拡大概略図である。
【図4】(a)は図1の落射用ファイバの落射用ファイバの入射端を示した図であり、(b)は(a)の落射用ファイバの全体を示した図であり、(c)は(b)の落射用ファイバの射出端を示した図である。
【図5】図1の対物レンズと落射用ファイバの入射端との間の光学系を示す概略図である。
【図6】図1のマルチアノードPMTの別の拡大概略図である。
【図7】本発明の第1の実施形態の変形例に係る走査型顕微鏡装置の対物レンズと落射用ファイバの入射端との間の光学系を示す概略図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る走査型顕微鏡装置の概略構成図である。
【図9】本発明の第1の実施形態の別の変形例に係る走査型顕微鏡装置の分光検出ユニット周辺を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
〔第1の実施形態〕
以下、本発明の第1の実施形態に係る走査型顕微鏡装置について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る走査型顕微鏡装置100は、図1に示すように、一光子励起観察と多光子励起観察とを切替えて標本1を観察することができる顕微鏡装置である。標本1としては、例えば、生細胞であって、CFP(シアン色蛍光タンパク質)、GFP(緑色蛍光タンパク質)、YFP(黄色蛍光タンパク質)等の蛍光波長のクロスオーバーが大きい複数の蛍光色素によって標識されたもの(多重染色蛍光標本)を用いることとしてもよい。
【0036】
この走査型顕微鏡装置100は、標本1にレーザ光を照射する一光子励起用光源(光源)2および多光子励起用光源(光源)3(以下、単に「光源2,3」という。)と、一光子励起観察用の光路を有するスキャンユニット10およびスキャンユニット導入投光管50と、光源2,3から発せられたレーザ光を標本1に照射するとともに標本1の照射位置において発生する蛍光を集光する対物レンズ92と、多光子励起観察用の光路を構成する落射観察光学系90とを備えている。符号94は、目視観察用の顕微鏡観察鏡筒である。
【0037】
一光子励起用光源2としては、例えば、ArKr(アルゴン・クリプトン)レーザ等が用いられる。一光子励起用光源2は可視レーザユニット6に備えられている。可視レーザユニット6には、一光子励起用光源2から発せられたレーザ光の透過波長を制御するAOTF(波長可変フィルタ)4が設けられている。符号8は、可視レーザユニット6からのレーザ光をスキャンユニット10へ導光する可視用シングルモードファイバである。
多光子励起用光源3としては、例えば、IRパルスレーザ等が用いられる。
【0038】
スキャンユニット10は、光源2,3から発せられたレーザ光をそれぞれ同一光路へと導くスキャナ合成DM(ダイクロイックミラー)12と、スキャナ合成DM12からのレーザ光を反射して標本1上で走査させるXYガルバノミラー(スキャナ)14と、XYガルバノミラー14により反射されたレーザ光を集光する瞳投影レンズ16とを備えている。
【0039】
スキャンユニット導入投光管50には、スキャンユニット10の瞳投影レンズ16を透過したレーザ光をコリメートする結像レンズ52と、結像レンズ52を透過したレーザ光を反射して対物レンズ92に入射させるとともに標本1において発生した蛍光を反射してスキャンユニット10へ戻す蛍光戻しミラー(蛍光戻し部)54とが備えられている。なお、符号93は対物レンズ92の瞳位置を示している。
【0040】
蛍光戻しミラー54は、一光子励起観察において標本1からの蛍光をXYガルバノミラー14に戻してディスキャンさせるものであり、XYガルバノミラー14と対物レンズ92との間の光路に挿脱可能に配置されている。また、蛍光戻しミラー54は、図示しない切替え手段により、ノンディスキャン検出用励起DM(波長分離部)56と交換可能となっている。
【0041】
ノンディスキャン検出用励起DM56は、多光子励起観察において標本1からの蛍光をXYガルバノミラー14に戻さずに(ノンディスキャン)検出するためのものであり、結像レンズ52からのレーザ光を反射して対物レンズ92に入射させる一方、標本1からの蛍光を透過してレーザ光と蛍光とを分離するようになっている。なお、切換え手段としては、特に限定されるものでなく、例えば、手動で蛍光戻しミラー54とノンディスキャン検出用励起DM56を切り換えることとしてもよいし、自動で切り換えを行うことができる装置を採用することとしてもよい。
【0042】
また、前記スキャンユニット10には、レーザ光が照射された標本1において発生し対物レンズ92により集光されて蛍光戻しミラー54およびXYガルバノミラー14を介してレーザ光の光路を逆方向に戻される蛍光をレーザ光から分離する励起DM18と、励起DM18により分離された蛍光を集光する共焦点レンズ22と、対物レンズ92の焦点位置に共役な位置に配置され、共焦点レンズ22により集光された蛍光を部分的に通過させる共焦点ピンホール24とを備えている。
【0043】
さらに、スキャンユニット10には、共焦点ピンホール24を通過した蛍光の一部を透過し一部を反射する第1分光DM26および第2分光DM27と、第1分光DM26によって反射された蛍光の強度を検出する1CH_PMT28および第2分光DM27によって反射された蛍光の強度を検出する2CH_PMT29と、第1分光DM26および第2分光DM27を透過した蛍光の分光検出を行う分光検出ユニット30とを備えている。
【0044】
分光検出ユニット30は、蛍光を一方向に分散させる回折格子32と、回折格子32により分散された蛍光を集光する集光レンズ34と、集光レンズ34により集光された蛍光を検出する複数のセル(検出部、図2参照)42を有するマルチアノードPMT(光電子増倍管)40とを備えている。
【0045】
マルチアノードPMT40は、回折格子32により一方向に分散される蛍光の分散方向に沿って、複数のセル42が1次元に配列されて構成されている。マルチアノードPMT40としては、例えば、32個のセル42が1次元に配列されて構成される32CHマルチアノードPMT(浜松ホトニクス社製)を採用することができる。
【0046】
図2に示すように、マルチアノードPMT40のセル42間に電極を構成するためのギャップ(不感帯)44が存在する場合は、複数のシリンドリカルレンズ45により構成されるシリンドリカルレンズアレイ46をセル42の受光面近傍に配置することとしてもよい。この場合、図3に示すように、シリンドリカルレンズ45は、セル42の配列ピッチと略一致するピッチで配列し(同図において符号P参照)、それぞれ各セル42に対して1対1で対応するように配置するのが望ましい。図2において、符号Sは回折格子32により分散された蛍光のスペクトル列の結像面を示している。なお、シリンドリカルレンズ45の入射面とスペクトル列の結像面Sを略一致させるのが望ましい。
【0047】
また、図3に示すように、シリンドリカルレンズ45は、レンズパワーがない方向の寸法をセル42の配列方向に直交する方向の寸法と略一致させるとともに、セル42に入射される蛍光の入射範囲の寸法(例えば、セル42上に投影される落射用ファイバ70の射出端74(図4(c)参照)の長手方向の寸法)より大きく設定することが望ましい。このようにすることで、シリンドリカルレンズ45により各セル42の受光面に効率的に蛍光を入射させ、ギャップ44による蛍光の光量損失を防ぐことができる。同図において、符号Tは、落射用ファイバ70の射出端74の投影像を示している。
【0048】
なお、分光検出ユニット30には、回折格子32に入射される一光子励起観察用の光路(すなわち、第2分光DM27からの蛍光の光路)に多光子励起観察用の光路からの蛍光を合成させる第1切替ミラー(逆走査蛍光入射部)36が設けられている。第1切替ミラー36は、言い換えれば、落射用ファイバ70の射出端74から射出される蛍光を共焦点ピンホール24を通過した蛍光の光路に入射させるものである。
【0049】
この第1切替ミラー36は、第2分光DM27と回折格子32との間の光路に挿脱可能に配置され、前記切替え手段により、一光子励起観察時には光路から外され、多光子励起観察時には光路に配置されるようになっている。
【0050】
落射観察光学系90は、多光子励起観察において蛍光戻しミラー54に代えてノンディスキャン検出用励起DM56を配置したスキャンユニット導入投光管50からの蛍光が入射される落射用ノンディスキャンユニット60と、落射用ノンディスキャンユニット60からの蛍光をスキャンユニット10の分光検出ユニット30に入射させる落射用ファイバ70および落射用ファイバ導入ユニット80とを備えている。
【0051】
落射用ノンディスキャンユニット60は、ノンディスキャン検出用励起DM56を透過した蛍光が入射される第1投影レンズ62と、第1投影レンズ62を透過した蛍光を反射する反射ミラー64と、反射ミラー64により反射された蛍光から赤外光を除去するIRカットフィルタ66と、IRカットフィルタ66により赤外光を除去された蛍光を集光して落射用ファイバ70端に入射させる第2投影レンズ68とを備えている。
なお、対物レンズ92の瞳位置93と落射用ファイバ70の入射側の端部(図1の符号72)は、第1投影レンズ62および第2投影レンズ68により光学的に共役となっている。
【0052】
第1投影レンズ62および反射ミラー64は、蛍光の光路に挿脱可能に配置されている。これら第1投影レンズ62および反射ミラー64を蛍光の光路から取り外した状態では、標本1からの蛍光が顕微鏡観察鏡筒94に入射され、図示しない透過光源等により目視観察を行うことができるようになっている。
【0053】
落射用ファイバ70は、図4(a)〜(c)に示すように、落射用ノンディスキャンユニット60の第2投影レンズ68により集光された蛍光が入射される入射端72と、導光した蛍光を落射用ファイバ導入ユニット80に向けて射出する射出端74とを備え、複数の素線を束ねたバンドルファイバにより構成されている。
【0054】
落射用ファイバ70の入射端72は、対物レンズ92の瞳位置93に共役な位置に配置され、図4(a)に示すように、複数素線が円形に束ねられた略円状に形成されている。また、入射端72の径および受光可能最大角度は以下の式(1),(2)を満たすように構成されている(図4(a)および図5参照)。
φD>φpo×βPL (1)
αre>θa (2)
ここで、
φD:落射用ファイバ70の入射端72の径
φpo:対物レンズ92の瞳径
βPL:対物レンズ92の瞳位置から落射用ファイバ70の入射端72への投影倍率
αre:落射用ファイバ70の入射端72の受光可能最大角度
θa:XYガルバノミラー14の振り角範囲で決まる落射用ファイバ70の入射端72への最大入射角度
【0055】
なお、図5において、符号SはXYガルバノミラー14の振り角範囲で決まる走査範囲の像高(画像の中心からの高さ)を示し、符号Foは対物レンズ92の取り込み可能視野で決まる像高を示し、符号θbは対物レンズ92の取り込み可能視野で決まる落射用ファイバ70の入射端72への最大入射角度を示している。
【0056】
落射用ファイバ70の射出端74は、図4(c)に示されるように、複数素線が直線状に束ねられ、前記回折格子32の分散方向、すなわち、マルチアノードPMT40のセル42の配列方向に直交する方向に延びる略直線状に形成されている。また、射出端74の幅方向の寸法および長手方向の寸法は以下の式(3),(4),(5)を満たすように構成されている(図4(c)および図6参照)。
W×βPM<P (3)
×βPM<P (4)
αro÷βPM<θp (5)
ここで、
W:落射用ファイバ70の射出端74の幅方向の寸法(入射スリット82の幅寸法がWより小さい場合は、入射スリット82の幅寸法をWとする。)
βPM:落射用ファイバ70の射出端74をマルチアノードPMT40のセル42に投影する倍率
:マルチアノードPMT40の各セル42の配列方向の幅寸法
:落射用ファイバ70の射出端74の長手方向の寸法
:マルチアノードPMT40の各セル42の配列方向に直交する方向の寸法
αro:落射用ファイバ70の射出角度
θp:マルチアノードPMT40の許容受光角度(感度特性が80%程度を目安とする。)
【0057】
落射用ファイバ導入ユニット80には、落射用ファイバ70の射出端74から射出された蛍光を整形する入射スリット82が設けられている。入射スリット82は、落射用ファイバ70の射出端74の長手方向と同一方向に沿って形成されている。また、落射用ファイバ導入ユニット80は、入射スリット82により整形された蛍光を略平行光にするコリメートレンズ84を備えている。
【0058】
多光子励起観察においては、第2分光DM27と回折格子32との間の光路に前記第1切替ミラー36を配置することで、回折格子32に入射される一光子励起観察用の光路にコリメートレンズ84を透過した蛍光を入射させて、回折格子32によって分散させることができるようになっている。
【0059】
このように構成された本実施形態に係る走査型顕微鏡装置100の作用について説明する。
まず、一光子励起観察を行う場合には、スキャンユニット導入投光管50内のレーザ光の光路に蛍光戻しミラー54を配置するとともに、分光検出ユニット30の光路から第1切替ミラー36を外した状態に設定する。そして、ステージ(図示略)上に標本1を配置し、一光子励起用光源2からレーザ光を発生する。
【0060】
一光子励起用光源2から発せられたレーザ光は、AOTF4により透過波長が制御され、可視用シングルモードファイバ8によりスキャンユニット10へと導光される。スキャンユニット10へ導光されたレーザ光は、スキャナ合成DM12および励起DM18で反射されてXYガルバノミラー14により走査される。XYガルバノミラー14により走査されたレーザ光は、瞳投影レンズ16および結像レンズ52を透過して蛍光戻しミラー54で反射され、対物レンズ92によって標本1に照射される。
【0061】
レーザ光が照射されることにより標本1の照射位置において発生した蛍光は、対物レンズ92によって集光され、蛍光戻しミラー54で反射されてレーザ光の光路を逆方向に戻る。そして、蛍光は結像レンズ52および瞳投影レンズ16を透過し、XYガルバノミラー14を介して励起DM18に入射される。励起DM18に入射した蛍光は、レーザ光から分離された後、共焦点レンズ22により集光されて共焦点ピンホール24を通過させられる。
【0062】
共焦点ピンホール24を通過した蛍光は、第1分光DM26により一部が1CH_PMT28に入射されてその強度が検出される。また、第1分光DM26を透過した蛍光は、第2分光DM27により一部が2CH_PMT29に入射されてその強度が検出される。
【0063】
第1分光DM26および第2分光DM27を透過した蛍光は、分光検出ユニット30に入射されて回折格子32により一方向に分散させられる。そして、分散した蛍光は、集光レンズ34により集光されてマルチアノードPMT40の複数のセル42に入射される。これにより、各セル42において、分散された蛍光がそれぞれ検出される。
なお、第1分光DM26および第2分光DM27を光路から外し、全ての波長の蛍光を分光検出ユニット30に導くこともできる。
【0064】
次に、多光子励起観察を行う場合には、切換え手段により、スキャンユニット導入投光管50内のレーザ光の光路にノンディスキャン検出用励起DM56を配置するとともに、分光検出ユニット30の蛍光の光路に第1切替ミラー36を配置した状態に設定する。そして、ステージ上に標本1を配置し、多光子励起用光源3からレーザ光を発生する。
【0065】
多光子励起用光源3から発せられたレーザ光は、スキャナ合成DM12を透過し励起DM18で反射されてXYガルバノミラー14により走査される。そして、励起光は瞳投影レンズ16および結像レンズ52を透過してノンディスキャン検出用励起DM56で反射され、対物レンズ92によって標本1に照射される。
【0066】
レーザ光が照射された標本1において発生した蛍光は、対物レンズ92によって集光された後、ノンディスキャン検出用励起DM56を透過して落射用ノンディスキャンユニット60に入射される。落射用ノンディスキャンユニット60に入射した蛍光は、第1投影レンズ62を透過して反射ミラー64で反射され、IRカットフィルタ66によって赤外光が除かれる。そして、赤外光が除去された蛍光は、第2投影レンズ68を透過して落射用ファイバ70の入射端72に入射される。
【0067】
この場合に、落射用ファイバ70の入射端72の径および受光可能最大角度が式(1),(2)を満たすように構成されているので、XYガルバノミラー14による走査範囲全体からの蛍光を入射端72に入射させることができ、蛍光の光量損失を防ぐことができる。
【0068】
落射用ファイバ70に入射された蛍光は、射出端74から射出されて落射用ファイバ導入ユニット80の入射スリット82に入射される。そして、蛍光は入射スリット82により整形された後、コリメートレンズ84を透過して略平行光となって分光検出ユニット30に入射される。
【0069】
ここで、落射用ファイバ70の射出端74の幅方向の寸法および長手方向の寸法は式(3),(4),(5)を満たすように構成されている。すなわち、式(3)に示されるように、マルチアノードPMT40に投影される射出端74の幅方向の寸法がマルチアノードPMT40の各セル42の幅寸法より小さいので、回折格子32の分散とマルチアノードPMT40のセル42のピッチで決まる波長分解能を確保することができる。
【0070】
また、式(4)に示されるように、回折格子32の分散方向に直交する方向、すなわち、落射用ファイバ70の射出端74の長手方向の寸法がマルチアノードPMT40に投影されると、マルチアノードPMT40の各セル42の配列方向に直交する方向の寸法より小さいので、各セル42に入射される蛍光の光量損失を防ぐことができる。なお、式(5)を満たすことで、各セル42に入射される蛍光のNAが大きくなり感度が低下するのを防ぐとともに、波長分解能が低減するのを防ぐことができる。したがって、射出端74から射出される蛍光を波長分解能を損なうことなく効率的にマルチアノードPMT40へと導くことができる。
【0071】
分光検出ユニット30においては、落射用ファイバ導入ユニット80からの蛍光が第1切替ミラー36で反射され、回折格子32に入射される一光子励起観察用の光路と同一の光路に沿って回折格子32に入射される。そして、蛍光は回折格子32により一方向に分散され、集光レンズ34により集光されてマルチアノードPMT40の複数のセル42に入射される。
【0072】
この場合に、落射用ファイバ70の射出端74が、回折格子32の分散方向、すなわち、マルチアノードPMT40のセル42の配列方向に直交する方向に延びる直線状に形成されているので、落射用ファイバ70によって導光した蛍光を無駄なくセル42に入射させることができる。また、複数のセル42により、分散された蛍光を波長ごとに時系列的に検出するのではなく、1度に検出することができる。したがって、例えば、標本1が、複数の蛍光色素で標識された動きが速い生細胞であっても、正確に観察することができる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係る走査型顕微鏡装置100によれば、スキャンユニット10および落射観察光学系90により、一光子励起観察と多光子励起観察とを切り替えて行うことができる。そして、多光子励起観察においては、ノンディスキャン検出用励起DM56により標本1において発生した蛍光をレーザ光から分離するとともに、落射用ファイバ70によりXYガルバノミラー14に蛍光を戻すことなくマルチアノードPMT40に入射させることで、標本1からマルチアノードPMT40までの光路中での蛍光の損失を最小限に抑えることができる。また、複数のセル42を備えるマルチアノードPMT40により、分散された蛍光を1度に検出し、生細胞の経時変化をすばやく追跡することができる。これにより、高S/N、高感度かつ高速で分光検出を行うことができる。
【0074】
なお、本実施形態においては、落射用ファイバ70の入射端72の径および受光可能最大角度が式(1),(2)を満たすように構成することとしたが、例えば、式(1)を
φD≧φpo×βPL
とし、式(2)を
αre≧θa
としてもよい。
【0075】
また、標本の深部(例えば、標本1の表面から500μ程度)では、散乱光が多いため走査範囲の外側からも蛍光が発生する。そこで、落射用ファイバ70の入射端72の径および受光可能最大角度が、式(1),(2)に加えて、さらに以下の式(6)を満たすように構成することとしてもよい。
αre>θb (6)
ここで、
αre:落射用ファイバ70の入射端72の受光可能最大角度
θb:対物レンズ92の取り込み可能視野で決まる落射用ファイバ70の入射端72への最大入射角度
このようにすることで、深部観察においても、より多くの蛍光散乱光を集光することができる。
【0076】
また、本実施形態においては、走査型顕微鏡装置100が蛍光戻しミラー54、励起DM18、共焦点ピンホール24等により一光子励起観察を行うこととしたが、例えば、これらの構成を備えず、多光子励起観察のみを行う構成としてもよい。
【0077】
また、本実施形態は以下のように変形することができる。
例えば、対物レンズ92の瞳位置93と落射用ファイバ70の入射端72とを共役な配置にするのではなく、図7に示すように、標本面と落射用ファイバ70の入射端72とを対物レンズ92と第3投影レンズ69によって光学的に共役とし、落射用ファイバ70の入射端72の径および受光可能最大角度が式(6),(7)を満たすように構成することとしてもよい。
αob/βob<αre (6)
(φ2×S)×βob<φD (7)
ここで、
αob:対物レンズ92の開口角度(半角)
βob:標本面を落射用ファイバ70の入射端72に投影する倍率
αre:落射用ファイバ70の入射端72の受光可能最大角度(半角)
S:XYガルバノミラー14の振り角範囲で決まる走査範囲の像高
φ2×S:XYガルバノミラー14の振り角範囲で決まる標本面の走査範囲
φD:落射用ファイバ70の入射端72の径
この場合、落射用ファイバ70として、複数の素線からなるバンドルファイバではなく、蛍光の入射位置による透過率が変化しないものを用いることが望ましい。
【0078】
また、本変形例においては、落射用ファイバ70の入射端72の径が、さらに以下の式(8)を満たすように構成することとしてもよい。
(φ2×F)×βob<φD (8)
ここで、
F:対物レンズ92の取り込み可能視野で決まる像高
(φ2×F):対物レンズ92の取り込み可能範囲
βob:標本面を落射用ファイバ70の入射端72に投影する倍率
φD:落射用ファイバ70の入射端72の径
このようにすることで、深部観察において、より多くの蛍光散乱光を集光することができる。
【0079】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係る走査型顕微鏡装置について説明する。
本実施形態に係る走査型顕微鏡装置200は、多光子励起観察用の装置であり、図8に示すように、スキャンユニット10に代えて、多光子励起スキャンユニット110および分光検出ユニット30と、落射観察光学系90と、透過観察光学系190とを備える点で、第1の実施形態およびその変形例と異なる。
以下、第1の実施形態およびその変形例に係る走査型顕微鏡装置100と構成を共通する箇所には、同一符号を付して説明を省略する。
【0080】
多光子励起スキャンユニット110は、XYガルバノミラー14と、瞳投影レンズ16とにより構成されている。
スキャンユニット導入投光管50にはノンディスキャン検出用励起DM56が配置されている。
【0081】
透過観察光学系190は、XYガルバノミラー14により標本1上で走査されたレーザ光の照射位置において透過方向に向かって発生した蛍光を集光するコンデンサレンズ192と、コンデンサレンズ192により集光された蛍光が入射される透過用ノンディスキャンユニット160と、透過用ノンディスキャンユニット160からの蛍光を分光検出ユニット30に導光する透過用ファイバ170および透過用ファイバ導入ユニット180とを備えている。符号193は、コンデンサレンズ192の瞳位置を示している。
【0082】
透過用ノンディスキャンユニット160は、落射用ノンディスキャンユニット60と同様に、第1投影レンズ62と、反射ミラー64と、IRカットフィルタ66と、第2投影レンズ68とを備えている。
なお、コンデンサレンズ192の瞳位置193と透過用ファイバ170の入射端72は、透過用ノンディスキャンユニット160の第1投影レンズ62および第2投影レンズ68により光学的に共役となっている。
【0083】
透過用ファイバ170は、落射用ファイバ70と同様に構成され、コンデンサレンズ192の瞳位置193に共役な位置に配置されている。また、透過用ファイバ170の入射端72の径および受光可能最大角度は以下の式(9),(10)を満たすように構成されている。
φD>φP×βcd (9)
αte>θc (10)
ここで、
φD:透過用ファイバ170の入射端72の径
φP:コンデンサレンズ192の瞳径
βcd:コンデンサレンズ192の瞳位置から透過用ファイバ170の入射端72への投影倍率
αte:透過用ファイバ170の入射端72の受光可能最大角度
θc:XYガルバノミラー14の振り角範囲で決まる透過用ファイバ170の入射端72への最大入射角度
【0084】
また、射出端74の幅方向の寸法および長手方向の寸法は以下の式(11),(12),(13)を満たすように構成されている。
W×βPM<P (11)
×βPM<P (12)
αto÷βPM<θp (13)
ここで、
W:透過用ファイバ170の射出端74の幅方向の寸法(入射スリット82の幅寸法がWより小さい場合は、入射スリット82の幅寸法をWとする。)
βPM:透過用ファイバ170の射出端74をマルチアノードPMT40のセル42に投影する倍率
:マルチアノードPMT40の各セル42の配列方向の幅寸法
:透過用ファイバ170の射出端74の長手方向の寸法
:マルチアノードPMT40の各セル42の配列方向に直交する方向の寸法
αto:透過用ファイバ170の射出角度
θp:マルチアノードPMT40の許容受光角度(感度特性が80%程度を目安とする。)
【0085】
透過用ファイバ導入ユニット180は、透過用ファイバ170により導光された蛍光を分光検出ユニット30に導入するものであり、落射用ファイバ導入ユニット80と同様に構成されている。
【0086】
分光検出ユニット30は、落射観察光学系90からの蛍光と透過観察光学系190からの蛍光とを切り替えて回折格子32に導入させる第2切替ミラー(透過蛍光入射部)136を備えている。第2切替ミラー136は、言い換えれば、透過用ファイバ170の射出端74から射出された蛍光を落射用ファイバ70の射出端70から射出される蛍光の光路に入射し、落射用ファイバ70からの蛍光に代えて透過用ファイバ170からの蛍光を回折格子32に入射させるものである。
【0087】
この第2切替ミラー136は、図示しない切替え手段により、落射観察光学系90からの蛍光を分光検出する場合に光路上に配置され、透過観察光学系190からの蛍光を分光検出する場合に光路から外されるようになっている。第2切替ミラー136を光路に配置することで、落射用ファイバ70の射出端74から射出される蛍光を反射して回折格子32に入射させ、一方、第2切替ミラー136を光路から外すことで、透過用ファイバ170の射出端74から射出される蛍光を落射用ファイバ70からの光路と同一の光路に沿って回折格子32に入射させるようになっている。
【0088】
このように構成された本実施形態に係る走査型顕微鏡装置200の作用について説明する。
透過観察光学系190により多光子励起観察を行う場合には、分光検出ユニット30の光路から第2切替ミラー136を外した状態に設定し、ステージ上に標本1を配置して多光子励起用光源3からレーザ光を発生する。多光子励起用光源3から発せられたレーザ光は、XYガルバノミラー14により走査されて瞳投影レンズ16および結像レンズ52を透過し、ノンディスキャン検出用励起DM56で反射されて対物レンズ92によって標本1に照射される。
【0089】
レーザ光が照射されることにより標本1の照射位置において透過方向に向かって発生した蛍光は、コンデンサレンズ192により集光された後、第1投影レンズ62を透過して反射ミラー64で反射され、IRカットフィルタ66によって赤外光が除かれる。そして、赤外光が除去された蛍光は、第2投影レンズ68を透過して透過用ファイバ170の入射端72に入射される。
【0090】
この場合に、透過用ファイバ170の入射端72の径および受光可能最大角度が式(9),(10)を満たすように構成されているので、XYガルバノミラー14による走査範囲全体からの蛍光を入射端72に入射させることができ、蛍光の光量損失を防ぐことができる。
【0091】
透過用ファイバ170に入射された蛍光は、射出端74から射出されて透過用ファイバ導入ユニット180の入射スリット82およびコリメートレンズ84を介して略平行光となって分光検出ユニット30に入射される。
【0092】
分光検出ユニット30においては、透過用ファイバ導入ユニット180からの蛍光が落射用ファイバ70から蛍光の光路と同一の光路に沿って回折格子32に入射される。そして、蛍光は回折格子32により一方向に分散され、集光レンズ34により集光されてマルチアノードPMT40の複数のセル42に入射される。これにより、マルチアノードPMT40において、標本1のレーザ光の透過方向に発生した蛍光を検出することができる。
【0093】
以上説明したように、本実施形態に係る走査型顕微鏡装置200によれば、切替ミラー136の配置を変えるだけで、落射観察光学系90による標本1から戻る方向に発生する蛍光の分光検出と、透過観察光学系190による標本1を透過する方向に発生する蛍光の分光検出とを切り替えて行うことができる。
【0094】
なお、本実施形態においては、透過用ファイバ170の入射端72の径および受光可能最大角度が式(9),(10)を満たすように構成することとしたが、さらに以下の式(14)を満たすように構成することとしてもよい。
αte>θd (14)
ここで、
αte:透過用ファイバ170の入射端72の受光可能最大角度
θd:コンデンサレンズ192の取り込み可能視野で決まる透過用ファイバ170の入射端72への最大入射角度
このようにすることで、深部観察において、より多くの蛍光散乱光を集光することができる。
【0095】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。例えば、本発明を上記の実施形態および変形例に適用したものに限定されることなく、これらの実施形態および変形例を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定されるものではない。
例えば、一光子励起観察と多光子励起観察とを切り替えて行うことができる第1の実施形態に係る走査型顕微鏡装置100が、さらに透過観察光学系190を備えることとしてもよい。この場合、図9に示すように、入射スリット82とコンデンサレンズ84との間の光路に第2切替ミラー136を挿脱可能に配置し、落射用ファイバ70の射出端74から射出される蛍光の光路に透過用ファイバ170の射出端74から射出される蛍光を入射させる構成とすればよい。
【0096】
また、上記各実施形態および変形例においては、落射観察光学系90および透過観察光学系190により多光子励起による蛍光を検出することとして説明したが、これに代えて、例えば、CARS光(コヒーレントアンチストークスラマン散乱光)やSHG光(第2高調波発生光)等、非線形現象により発生する光を検出することとしてもよい。なお、CARS光やSHG光は、一般的に標本1の透過側に発生するので、透過観察光学系190を構成する透過用ファイバ170等によって検出することとすればよい。
【0097】
また、上記各実施形態において多重染色された蛍光標本を観察する場合、走査型顕微鏡装置100,200がセル42により検出された蛍光の分光スペクトルに基づいて、複数種の蛍光のそれぞれを波長分離する画像処理部と、画像処理部により波長分離された蛍光ごとの像を表示するモニタとを備えることとしてもよい。このようにすることで、画像処理部により、クロスオーバーが激しい複数の蛍光色素を分離してモニタ上に表示することができる。また、走査型顕微鏡装置100,200が所定の時間ごとの標本1の分光検出結果を記憶する記憶部を備えることとしてもよい。このようにすることで、標本1の経時変化を観察することができる。
【符号の説明】
【0098】
1 標本
2、3 光源(2:一光子励起用光源、3:多光子励起用光源)
14 XYガルバノミラー(スキャナ)
24 共焦点ピンホール
32 回折格子(分散素子)
36 第1切替ミラー(逆走査蛍光入射部)
40 マルチアノードPMT(光電子増倍管)
42 セル(検出部)
54 蛍光戻しミラー(蛍光戻し部)
56 ノンディスキャン検出用励起DM(波長分離部)
70 落射用ファイバ
72 入射端
74 射出端
92 対物レンズ
100、200 走査型顕微鏡装置
136 第2切替ミラー(透過蛍光入射部)
170 透過用ファイバ
192 コンデンサレンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本にレーザ光を照射する光源と、
該光源から照射された前記レーザ光を前記標本上で走査させるスキャナと、
該スキャナにより走査された前記レーザ光を前記標本に照射する一方、該レーザ光の照射位置において発生した蛍光を集光する対物レンズと、
前記スキャナと前記対物レンズとの間に配置され、前記レーザ光と前記蛍光とを分離する波長分離部と、
該波長分離部により分離された前記蛍光を入射端から入射して導光し、略直線状に形成された射出端から射出する落射用ファイバと、
該落射用ファイバの前記射出端から射出された前記蛍光を該射出端の長手方向に直交する方向に分散させる分散素子と、
該分散素子により分散させられた前記蛍光の分散方向に沿って配列された複数の検出部を有する光電子増倍管と、
を備える走査型顕微鏡装置。
【請求項2】
前記スキャナにより前記標本上で走査された前記レーザ光の照射位置において透過方向に向かって発生した蛍光を集光するコンデンサレンズと、
該コンデンサレンズにより集光された前記蛍光を入射端から入射して導光し、前記分散素子による分散方向に直交する方向に延びる略直線状に形成された射出端から前記分散素子に向けて前記蛍光を射出する透過用ファイバと、
該透過用ファイバの射出端から射出された前記蛍光を前記落射用ファイバの射出端から射出される前記蛍光の光路に入射し、前記落射用ファイバからの前記蛍光に代えて前記透過用ファイバからの前記蛍光を前記分散素子に入射させる透過蛍光入射部と、
を備える請求項1に記載の走査型顕微鏡装置。
【請求項3】
標本にレーザ光を照射する光源と、
該光源から照射された前記レーザ光を前記標本上で走査させるスキャナと、
該スキャナにより前記標本上で走査された前記レーザ光の照射位置において透過方向に向かって発生した蛍光を集光するコンデンサレンズと、
該コンデンサレンズにより集光された前記蛍光を入射端から入射して導光し、略直線状に形成された射出端から射出する透過用ファイバと、
該透過用ファイバの前記射出端から射出された前記蛍光を該射出端の長手方向に直交する方向に分散させる分散素子と、
該分散素子により分散させられた前記蛍光の分散方向に沿って配列された複数の検出部を有する光電子増倍管と、
を備える走査型顕微鏡装置。
【請求項4】
前記波長分離部と交換可能に配置され、前記対物レンズにより集光された前記蛍光を前記レーザ光の光路に戻す蛍光戻し部と、
該蛍光戻し部と前記波長分離部とを切り替える切替え手段と、
前記対物レンズの焦点位置と共役な位置に配置され、前記切替え手段によって切り替えられた前記蛍光戻し部により前記レーザ光の光路に戻されて前記スキャナを通過した前記蛍光を部分的に通過させる共焦点ピンホールと、
該共焦点ピンホールを通過した前記蛍光を前記落射用ファイバの射出端から射出される前記蛍光の光路に入射させる逆走査蛍光入射部と、
を備える請求項1または請求項2に記載の走査型顕微鏡装置。
【請求項5】
前記落射用ファイバの入射端が前記対物レンズの瞳位置に共役な位置に配置されるとともに、該落射用ファイバの入射端の径および受光可能最大角度が以下の式を満たす請求項1または請求項2に記載の走査型顕微鏡装置。
φD≧φpo×βPL (1)
αre≧θa (2)
ここで、
φD:落射用ファイバの入射端の径
φpo:対物レンズの瞳径
βPL:対物レンズの瞳位置から落射用ファイバの入射端への投影倍率
αre:落射用ファイバの入射端の受光可能最大角度
θa:スキャナによる走査範囲で決まる落射用ファイバの入射端への最大入射角度
【請求項6】
前記落射用ファイバの入射端の受光可能最大角度が、さらに以下の式を満たす請求項5に記載の走査型顕微鏡装置。
αre>θb (3)
ここで、
αre:落射用ファイバの入射端の受光可能最大角度
θb:対物レンズの取り込み可能視野で決まる落射用ファイバの入射端への最大入射角度
【請求項7】
前記落射用ファイバの射出端の幅方向の寸法および長手方向の寸法が、以下の式を満たす請求項1または請求項2に記載の走査型顕微鏡装置。
W×βPM<P (4)
×βPM<P (5)
αro÷βPM<θp (6)
ここで、
W:落射用ファイバの射出端の幅方向の寸法
βPM:落射用ファイバの射出端を光電子増倍管に投影する倍率
:光電子増倍管の各検出部の配列方向の幅寸法
:落射用ファイバの射出端の長手方向の寸法
:光電子増倍管の各検出部の配列方向に直交する方向の寸法
αro:落射用ファイバの射出角度
θp:光電子増倍管の許容受光角度
【請求項8】
前記透過用ファイバの入射端が前記コンデンサレンズの瞳位置と共役な位置に配置されるとともに、該透過用ファイバの入射端の径および受光可能最大角度が以下の式を満たす請求項2または請求項3に記載の走査型顕微鏡装置。
φD>φp×βcd (7)
αte>θc (8)
ここで、
φD:透過用ファイバの入射端の径
φp:コンデンサレンズの瞳径
βcd:コンデンサレンズの瞳位置から透過用ファイバの入射端への投影倍率
αte:透過用ファイバの受光可能最大角度
θc:スキャナの走査範囲で決まる透過用ファイバへの最大入射角度
【請求項9】
前記透過用ファイバの入射端の受光可能最大角度が、さらに以下の式を満たす請求項8に記載の走査型顕微鏡装置。
αte>θd (9)
ここで、
αte:透過用ファイバの受光可能最大角度
θd:コンデンサレンズの取り込み可能視野で決まる透過用ファイバへの最大入射角度
【請求項10】
前記透過用ファイバの射出端の幅方向の寸法および長手方向の寸法が、以下の式を満たす請求項8または請求項9に記載の走査型顕微鏡装置。
W×βPM<P (10)
×βPM<P (11)
αro÷βPM<θp (12)
ここで、
W:透過用ファイバの射出端の幅方向の寸法
βPM:透過用ファイバの射出端を光電子増倍管に投影する倍率
:光電子増倍管の各検出部の配列方向の幅寸法
:透過用ファイバの射出端の長手方向の寸法
:光電子増倍管の各検出部の配列方向に直交する方向の寸法
αto:透過用ファイバの射出角度
θp:光電子増倍管の許容受光角度
【請求項11】
前記光電子増倍管の前記検出部の受光面近傍に配列された複数のシリンドリカルレンズを備え、該シリンドリカルレンズの配列ピッチが前記検出部の配列ピッチと略一致し、かつ、各前記シリンドリカルレンズが各前記検出部にそれぞれ対応して配置されている請求項1から請求項3のいずれかに記載の走査型顕微鏡装置。
【請求項12】
前記シリンドリカルレンズのレンズパワーがない方向の寸法が、前記検出部に入射される前記蛍光の入射範囲の寸法より大きい請求項11に記載の走査型顕微鏡装置。
【請求項13】
前記検出部により検出された前記蛍光を波長分離する画像処理部と、該画像処理部により波長分離された前記蛍光の像を表示するモニタとを備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の走査型顕微鏡装置。
【請求項14】
所定の時間ごとの前記標本の分光検出結果を記憶する記憶部を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載の走査型顕微鏡装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−271569(P2010−271569A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−123912(P2009−123912)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】