説明

走行車両

【課題】四輪自動車と同じような操作感覚で運転(操縦)可能なコンバイン等の走行車両において、主変速レバーと操向ハンドルとを直進用及び旋回用HST機構に連動連結するための機構を簡素化する。
【解決手段】互いに直交する2つの軸線P,S回りに回動可能な制御体131を備える。制御体131は、操向ハンドルの操作に伴う縦軸線P回りの正逆回動にて旋回用HST機構を作動させ、主変速レバーの操作に伴う横軸線S回りの正逆回動にて直進用HST機構を作動させるように構成する。制御体131の縦軸線P回りの回動量を旋回用HST機構の制御量に変換する旋回出力軸164の軸線AX2と、制御体131の横軸線S回りの回動量を直進用HST機構の制御量に変換する中間軸155の軸線とを実質的に同一平面上に位置させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、コンバイン等の農作業機やクレーン車等の特殊作業機のような走行車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、走行車両としてのコンバインにおいては、走行機体に搭載されたエンジンからの動力を、直進用変速機、旋回用変速機及び差動機構を介して左右の走行クローラに伝達するように構成されている。
【0003】
かかる構成のコンバインの一例が特許文献1に開示されている。特許文献1のコンバインでは、直進用変速機の駆動出力量、すなわち走行機体の直進速度が操縦部に設けられた主変速レバーの傾動操作量に応じて調節される。主変速レバーが中立位置にあれば走行機体は直進しない。また、旋回用変速機の駆動出力量、すなわち走行機体の旋回方向及び旋回速度は、操縦部のうち操縦座席の前方に配置された操向ハンドルの回動方向及び回動操作量に応じて調節される。
【0004】
この場合、主変速レバーと操向ハンドルとは、ロッドやアーム、枢支ピン等を多用した機械式連動機構を介して直進用及び旋回用変速機に連動連結されている。当該機械式連動機構の作用により、特許文献1のコンバインは、クローラタイプのものでありながら、四輪自動車と同じような操作間隔で運転(操縦)可能になっている。
【特許文献1】特開2000−177619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のコンバインでは、機械式連動機構が長尺のロッドやアーム、枢支ピン等を多用していて、かなり複雑な構造であるため、当該機械式連動機構に要する部品コストが嵩み、近年高まっているコストダウンの要請にそぐわないという問題があった。
【0006】
本願発明は、前述の先行技術を更に改良して、主変速レバー等の操作手段と各変速機とを連動連結するための構造をできるだけ簡素化し、近年高まっているコストダウンの要請に応えることを技術的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この技術的課題を解消するため、請求項1の発明は、走行機体に搭載されたエンジンの動力を変速して左右の走行部に伝達する直進用変速機及び旋回用変速機と、前記直進用変速機に対する直進操作具と、前記旋回用変速機に対する旋回操作具とを備えている走行車両であって、互いに直交する2つの軸線回りに回動可能な制御体を備えており、前記制御体は、前記旋回操作具の操作に伴う前記第1軸線回りの正逆回動にて前記旋回用変速機を作動させ、前記直進操作具の操作に伴う前記第2軸線回りの正逆回動にて前記直進用変速機を作動させるように構成されており、前記制御体の前記第1軸線回りの回動量を前記旋回用変速機の制御量に変換するための旋回用軸の軸線と、前記制御体の前記第2軸線回りの回動量を前記直進用変速機の制御量に変換するための直進用軸の軸線とが実質的に同一平面上に位置しているというものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載した走行車両において、前記制御体の外周部には、前記旋回用軸に支持された旋回リンクの先端部と前記直進用軸に支持された直進リンクの先端部とが摺動可能に係合しており、前記旋回リンクの回動半径と前記直進リンクの回動半径とが実質的に同じ長さに設定されているというものである。
【発明の効果】
【0009】
本願発明によると、互いに直交する2つの軸線回りに回動可能な制御体を備えていて、前記制御体は、前記旋回操作具の操作に伴う前記第1軸線回りの正逆回動にて前記旋回用変速機を作動させ、前記直進操作具の操作に伴う前記第2軸線回りの正逆回動にて前記直進用変速機を作動させるように構成されているので、「前記直進操作具を中立以外の位置に操作した状態で、前記旋回操作具を中立以外の位置に操作すると、前記旋回操作具の操作量が大きいほど小さな旋回半径で走行機体が左又は右に旋回する」という動作を、前記制御体における前記第1軸線回りの正逆回動と前記第2軸線回りの正逆回動との両方にて実行できることになる。すなわち、前記制御体が、前記旋回操作具の操作に連動して前記旋回用変速機を作動させる機能と、前記直進操作具の操作に連動して前記直進用変速機を作動させる機能との両方を兼ね備えることになる。
【0010】
従って、特許文献1のように長尺のロッドやアーム、枢支ピン等を多用した操作系統の構造に比べて、部品点数が少なくて済むし、加工精度や組み立て精度の精粗によって動作にバラツキが生ずるのを回避できるという効果を奏する。
【0011】
しかも、前記制御体の前記第1軸線回りの回動量を前記旋回用変速機の制御量に変換するための旋回用軸の軸線と、前記制御体の前記第2軸線回りの回動量を前記直進用変速機の制御量に変換するための直進用軸の軸線とが実質的に同一平面上に位置しているので、前記制御体の動作範囲(特に前記第2軸線回りの回動範囲)が制限されることになり、特許文献1のように長尺のロッドやアーム、枢支ピン等を多用した操作系統の構造に比べて、操作系統において前記第1軸線に沿った寸法を大幅に短縮できる。
【0012】
従って、前記操作系統の構造を、特許文献1の場合に比べて著しく簡単且つ小型にでき、その結果、前記走行機体の操縦部周辺の省スペース化に寄与できるという効果を奏する。
【0013】
特に請求項2の発明では、前記制御体の外周部には、前記旋回用軸に支持された旋回リンクの先端部と前記直進用軸に支持された直進リンクの先端部とが摺動可能に係合しており、前記旋回リンクの回動半径と前記直進リンクの回動半径とが実質的に同じ長さに設定されているから、前記操作系統全体の構造をより一層コンパクトにできるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本願発明を具体化した実施形態を、走行車両としてのコンバインに適用した場合の図面(図1〜図24)に基づいて説明する。
【0015】
図1〜図20は本願発明の第1実施形態を示している。図1はコンバインの側面図、図2はコンバインの平面図、図3は動力伝達系のスケルトン図、図4はミッションケース内部のスケルトン図、図5はステアリングボックスの配置態様を示す正面説明図、図6は図5の要部拡大正面図、図7はステアリングボックスの配置態様を示す平面説明図、図8は図7の要部拡大平面図、図9は機械式連動機構を模式的に示す説明図、図10はステアリングボックスの平面図、図11は図10のXI−XI視側面図、図12は図10のXII−XII視側面断面図、図13は図11及び図12のXIII−XIII視平面断面図、図14は図11及び図12のXIV−XIV視平面断面図、図15は図11及び図12のXV−XV視平面断面図、図16は図11及び図12のXVI−XVI視側面断面図、図17は図10及び図13のXVII−XVII視側面断面図、図18は図16の要部拡大図、図19は図13の要部拡大図、図20は滑り子部材の別例を示す説明図である。
【0016】
(1).コンバインの概略構造
まず、図1及び図2を参照しながら、コンバインの概略構造について説明する。
【0017】
走行車両の一例であるコンバインは、走行部としての左右一対の走行クローラ2,2にて支持された走行機体1を備えている。走行機体1の前部には、圃場の植立穀稈(未刈穀稈)を刈り取りながら取り込む刈取装置3が単動式の油圧シリンダ4にて昇降調節可能に装着されている。
【0018】
走行機体1には、フィードチェン6付きの脱穀装置5と、脱穀後の穀粒を貯留するグレンタンク7とが横並び状に搭載されている。この場合、脱穀装置5が走行機体1の進行方向左側に、グレンタンク7が走行機体1の進行方向右側に配置されている。走行機体1の後部には排出オーガ8が旋回可能に設けられている。グレンタンク7内の穀粒は、排出オーガ8の先端籾投げ口から例えばトラックの荷台やコンテナ等に搬出される。
【0019】
刈取装置3とグレンタンク7との間に設けられた操縦部9内には、走行機体1の旋回方向及び旋回速度を変更操作する旋回操作具としての操向ハンドル10や、オペレータが着座する操縦座席11等が配置されている。操縦座席11の一側方に配置されたサイドコラム12には、走行機体1の変速操作を行う直進操作具としての主変速レバー13、後述する油圧無段変速機50の出力及び回転数を所定範囲に設定保持する副変速レバー14、刈取装置3への動力継断操作用の刈取クラッチレバー15、並びに、脱穀装置5への動力継断操作用の脱穀クラッチレバー16が前後傾動可能に設けられている。
【0020】
主変速レバー13は、走行機体1の前進、停止、後退及びその車速を無段階に変更操作するためのものである。副変速レバー14は、作業状態に応じて後述するミッションケース18内の副変速機構51を変更操作し、後述する直進用HST機構53の出力及び回転数を、低速、中速、高速及び中立という4段階の変速段に設定保持するためのものである。刈取クラッチレバー15は刈取装置3への動力継断操作用のものであり、脱穀クラッチレバー16は脱穀装置5への動力継断操作用のものである。
【0021】
操縦部9の下方には、動力源としてのエンジン17が配置されている。エンジン17の前方には、当該エンジン17からの動力を適宜変速して左右両走行クローラ2に伝達するためのミッションケース18が配置されている。第1実施形態のエンジン17にはディーゼルエンジンが採用されている。
【0022】
刈取装置3は、バリカン式の刈刃装置19、4条分の穀稈引起装置20、穀稈搬送装置21及び分草体22を備えている。刈刃装置19は、刈取装置3の骨組を構成する刈取フレーム41(図1参照)の下方に配置されている。穀稈引起装置20は刈取フレーム41の上方に配置されている。穀稈搬送装置21は穀稈引起装置20とフィードチェン6の送り始端部との間に配置されている。分草体22は穀稈引起装置20の下部前方に突設されている。走行機体1は、エンジン17にて左右両走行クローラ2を駆動させて圃場内を移動しながら、刈取装置3の駆動にて圃場の未刈穀稈を連続的に刈り取る。
【0023】
脱穀装置5は、刈取穀稈を脱穀処理するための扱胴23と、扱胴23の下方に配置された揺動選別機構24及び風選別機構25と、扱胴23の後部から取り出される脱穀物を再処理する送塵口処理胴26とを備えている。扱胴23は脱穀装置5の扱室内に配置されている。揺動選別機構24は扱胴23にて脱穀された脱穀物を揺動選別するためのものであり、風選別機構25は前記脱穀物を風選別するためのものである。
【0024】
刈取装置3から送られてきた刈取穀稈の株元側はフィードチェン6に受け継がれる。そして、刈取穀稈の穂先側が脱穀装置5内に搬入され、扱胴23にて脱穀処理される。なお、扱胴23の回転軸95(図3参照)は、フィードチェン6による刈取穀稈の送り方向(走行機体1の進行方向)に沿って延びている。
【0025】
脱穀装置5の下部には、両選別機構24,25にて選別された穀粒のうち精粒等の一番物が集まる一番受け樋27と、枝梗付き穀粒や穂切れ粒等の二番物が集まる二番受け樋28とが設けられている。第1実施形態の両受け樋27,28は、走行機体1の進行方向前側から一番受け樋27、二番受け樋28の順で、側面視において走行クローラ2の後部上方に横設されている。
【0026】
両選別機構24,25による選別を経て一番受け樋27内に集められた精粒等の一番物は、当該一番受け樋27内の一番コンベヤ29及び揚穀筒31内の揚穀コンベヤ32(図3参照)を介してグレンタンク7に送られる。
【0027】
枝梗付き穀粒等の二番物は、一番受け樋27より後方の二番受け樋28に集められ、ここから、二番受け樋28内の二番コンベヤ30及び還元筒33内の還元コンベヤ34(図3参照)を介して二番処理胴35に送られる。そして、二番物は、二番処理胴35にて再脱穀されたのち、脱穀装置5内に戻されて再選別される。藁屑は、排塵ファン36に吸い込まれて、脱穀装置5の後部に設けられた排出口(図示せず)から機外へ排出される。
【0028】
フィードチェン6の後方側(送り終端側)には排稈チェン37が配置されている。フィードチェン6の後端から排稈チェン37に受け継がれた排稈(脱粒した稈)は、長い状態で走行機体1の後方に排出されるか、又は脱穀装置5の後方にある排稈カッタ38にて適宜長さに短く切断されたのち、走行機体1の後方に排出される。
【0029】
(2).コンバインの動力伝達系
次に、図3及び図4を参照しながら、コンバインの動力伝達系について説明する。
【0030】
エンジン17からの動力の一方は、刈取装置3と脱穀装置5との2方向に分岐して伝達される。エンジン17からの他の動力は排出オーガ8に向けて伝達される。エンジン17から刈取装置3に向かう分岐動力は一旦、プーリ・ベルト伝動系及び走行クラッチ89を介して、ミッションケース18の油圧無段変速機50に伝達される。この場合、エンジン17からの分岐動力は、ミッションケース18の油圧無段変速機50等にて適宜変速され、ミッションケース18から左右外向きに突出した駆動出力軸77を介して左右の駆動輪90に出力するように構成されている。
【0031】
ミッションケース18は、前述した油圧無段変速機50と、複数の変速段を有する副変速機構51と、左右一対の遊星ギヤ機構68等を有する差動機構52とを備えている(図4参照)。油圧無段変速機50は、第1油圧ポンプ55及び第1油圧モータ56からなる直進用HST機構53(直進用変速機)と、第2油圧ポンプ57及び第2油圧モータ58からなる旋回用HST機構54(旋回用変速機)とにより構成されている。
【0032】
エンジン17の出力軸49から走行クラッチ89を介して油圧無段変速機50に向かう動力は、第1油圧ポンプ55及び第2油圧ポンプ57を貫通する共通ポンプ軸59に伝達される。直進用HST機構53では、共通ポンプ軸59に伝達された動力にて、第1油圧ポンプ55から第1油圧モータ56に向けて作動油が適宜送り込まれる。同様に、旋回用HST機構54では、共通ポンプ軸59に伝達された動力にて、第2油圧ポンプ57から第2油圧モータ58に向けて作動油が適宜送り込まれる。
【0033】
なお、詳細は図示していないが、共通ポンプ軸59には、油圧ポンプ55,57及び油圧モータ56,58に作動油を供給するためのチャージポンプが取り付けられている。チャージポンプは、共通ポンプ軸59と連動可能で且つエンジン17の動力にて駆動するように構成されている。
【0034】
直進用HST機構53は、操縦部9に配置された主変速レバー13や操向ハンドル10の操作量に応じて、第1油圧ポンプ55における回転斜板の傾斜角度を変更調節して、第1油圧モータ56への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第1油圧モータ56から突出した直進用モータ軸60の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
【0035】
直進用モータ軸60の回転動力は、直進伝達ギヤ機構62から従来周知の歯車機構からなる副変速機構51に伝達される一方、前述の直進伝達ギヤ機構62及びワンウェイクラッチ63を介して、ミッションケース18に突設された刈取PTO軸64にも伝達される。刈取PTO軸64に伝達された動力は、刈取装置3の骨組を構成する横長の刈取入力パイプ42(図1参照)内にある刈取入力軸43を介して、刈取装置3の各装置19〜21に伝達される。このため、刈取装置3の各装置19〜21は、車速同調速度で駆動することになる。
【0036】
副変速機構51は、操縦部9に配置された副変速レバー14の操作にて、直進用モータ軸60からの回転動力(回転方向及び回転数)の調節範囲を低速及び高速という2段階の変速段に切り換えるためのものである。なお、副変速の低速と高速との間には、中立(副変速の出力が0(零)になる位置)を有している。副変速機構51の構成要素である駐車ブレーキ軸65には、湿式多板ディスク等の駐車ブレーキ66が設けられている。
【0037】
副変速機構51からの回転動力は、駐車ブレーキ軸65に固着された副変速出力ギヤ67から差動機構52に伝達される。差動機構52は、左右対称状に配置された一対の遊星ギヤ機構68と、遊星ギヤ機構68と駐車ブレーキ軸65との間に位置した中継軸69とを備えている。駐車ブレーキ軸65の副変速出力ギヤ67は、中継軸69に取り付けられた中間ギヤ70に噛み合っており、中間ギヤ70は、サンギヤ軸75に固定されたセンタギヤ76(詳細は後述する)に噛み合っている。
【0038】
各遊星ギヤ機構68は、1つのサンギヤ71と、サンギヤ71の外周に噛み合う複数個の遊星ギヤ72と、これら遊星ギヤ72の外周に噛み合うリングギヤ73と、複数個の遊星ギヤ72を同一半径上に回転可能に軸支してなるキャリヤ74とを備えている。両遊星ギヤ機構68のキャリヤ74は、同一軸線上において適宜間隔を開けて相対向するように配置されている。両遊星ギヤ機構68の間に位置したサンギヤ軸75の中央部には、中間ギヤ70と噛み合うセンタギヤ76が固着されている。サンギヤ軸75のうちセンタギヤ76を挟んだ両側にはサンギヤ71がそれぞれ固着されている。
【0039】
内周面の内歯と外周面の外歯とを有する各リングギヤ73は、その内歯を複数個の遊星ギヤ72に噛み合わせた状態で、サンギヤ軸75に同心状に配置されている。各リングギヤ73は、キャリヤ74の外側面から左右外向きに突出した駆動出力軸77に回転可能に軸支されている。駆動出力軸77の先端部には駆動輪90が取り付けられている。従って、副変速機構51から左右の遊星ギヤ機構68に伝達された回転動力は、各キャリヤ74の駆動出力軸77ひいては左右の駆動輪90に同方向の同一回転数にて伝達され、左右の走行クローラ2を駆動させることになる。
【0040】
旋回用HST機構54においては、操向ハンドル10の回動操作量に応じて、第2油圧ポンプ57における回転斜板の傾斜角度を変更調節して、第2油圧モータ58への作動油の吐出方向及び吐出量を変更することにより、第2油圧モータ58から突出した旋回用モータ軸61の回転方向及び回転数を任意に調節するように構成されている。
【0041】
第1実施形態では、ミッションケース18内に、操向ブレーキ79を有する操向ブレーキ軸78と、操向クラッチ81を有する操向クラッチ軸80と、逆転ギヤ84を介して左リングギヤ73に連結する左入力ギヤ機構82と、右リングギヤ73の外歯に常時噛み合う右入力ギヤ機構83とを備えている。旋回用モータ軸68の回転動力は、旋回伝達ギヤ機構85から、操向ブレーキ軸78及び操向クラッチ81を介して操向クラッチ軸80に伝達される。操向クラッチ軸80には左右一対の伝動ギヤ86,87が固着されており、操向クラッチ軸80に伝達された回転動力は、左右の伝動ギヤ86,87から、これに対応する左右の入力ギヤ機構82,83に伝達される。
【0042】
副変速機構51を中立にして、操向ブレーキ79を入り状態とし且つ操向クラッチ64を切り状態とした場合は、第2油圧モータ58から左右の遊星ギヤ機構68への動力伝達が阻止される。中立以外の副変速出力時に、操向ブレーキ79を切り状態とし且つ操向クラッチ64を入り状態とした場合は、第2油圧モータ58の回転動力が、左入力ギヤ機構82及び逆転ギヤ84を介して左リングギヤ73に伝達される一方、右入力ギヤ機構83を介して右リングギヤ73に伝達される。その結果、第2油圧モータ58の正回転(逆回転)時は、互いに逆方向の同一回転数で左リングギヤ73が逆転(正転)し、右リングギヤ73が正転(逆転)することになる。
【0043】
以上の構成から分かるように、各モータ軸60,61からの変速出力は、副変速機構51及び差動機構52を経由して左右の走行クローラ2の駆動輪90に伝達される。その結果、走行機体1の車速(走行速度)及び進行方向が決まる。
【0044】
すなわち、第2油圧モータ58を停止させて左右リングギヤ73を静止固定させた状態で、第1油圧モータ56が駆動すると、直進用モータ軸60からの回転出力はセンタギヤ76から左右のサンギヤ71に同一回転数で伝達され、両遊星ギヤ機構68の遊星ギヤ72及びキャリヤ74を介して、左右の走行クローラ2が同方向の同一回転数にて駆動し、走行機体1が直進走行することになる。
【0045】
逆に、第1油圧モータ56を停止させて左右サンギヤ71を静止固定させた状態で、第2油圧モータ58が駆動すると、旋回用モータ軸61からの回転動力にて、左遊星ギヤ機構68が正又は逆回転し、右遊星ギヤ機構68は逆又は正回転する。そうすると、左右の走行クローラ2の駆動輪90のうち一方が前進回転、他方が後退回転するため、走行機体1はその場でスピンターンすることになる。
【0046】
また、第1油圧モータ56を駆動させつつ第2油圧モータ58を駆動させると、左右の走行クローラ2の速度に差が生じ、走行機体1は前進又は後退しながらスピンターン旋回半径より大きい旋回半径で左又は右に旋回することになる。このときの旋回半径は左右の走行クローラ2の速度差に応じて決定される。
【0047】
さて、図3に示すように、エンジン17からの動力のうち脱穀装置5に向かう分岐動力は、脱穀クラッチ91を介して脱穀入力軸92に伝達される。脱穀入力軸92に伝達された動力の一部は、脱穀駆動機構93を介して、送塵口処理胴26の回転軸94と、扱胴23の回転軸95及び排稈チェン37とに伝達される。
【0048】
また、脱穀入力軸92からは、プーリ及びベルト伝動系を介して、風選別機構25の唐箕ファン軸96、一番コンベヤ29と揚穀コンベヤ32、二番コンベヤ30と還元コンベヤ34と二番処理胴35、揺動選別機構24の揺動軸97、排塵ファン36の排塵軸98、並びに排稈カッタ38にも動力伝達される。排塵軸98を経由した分岐動力は、フィードチェンクラッチ99及びフィードチェン軸100を介してフィードチェン6に伝達される。
【0049】
なお、脱穀入力軸92からの動力は、流し込みクラッチ101を介して刈取入力軸43にも伝達可能である。すなわち、ミッションケース18を経由せずに直接、エンジン17からの動力を刈取装置3に伝達することにより、車速の速い遅いに拘らず、刈取装置3を一定の高速にて強制駆動させ得る構成になっている。
【0050】
エンジン17から排出オーガ8に向かう動力は、グレン入力ギヤ機構102及び動力継断用のオーガクラッチ103を介して、グレンタンク7内の底コンベヤ104及び排出オーガ8における縦オーガ筒内の縦コンベヤ105に動力伝達され、次いで、受継スクリュー106を介して、排出オーガ8における横オーガ筒内の排出コンベヤ107に動力伝達される。
【0051】
(3).変速操向制御のための構造
次に、図1、図2、図5〜図17を参照しながら、走行機体1の車速及び進行方向を調節する変速操向制御のための構造について説明する。
【0052】
操縦部9の底面を構成するステップ床部材111上のうち操縦座席11の前方には、縦長箱状のステアリングコラム112が立設されている。ステアリングコラム112の上面からは、当該ステアリングコラム112内部の略中央で上下方向に延び且つ回転自在に軸支されたハンドル軸113が上向きに突出している。ハンドル軸113の上端には、旋回操作具としての操向ハンドル10が取り付けられている。ハンドル軸113の下端は、ステップ床部材111の下面側にあるステアリングボックス120から上向きに突出した入力中継軸115に、自在継手114(図9参照)を介して連結されている。
【0053】
第1実施形態のステアリングボックス120は、操縦部9のステップ床部材111を支持する支持フレーム118に取り外し可能に取り付けられている。ステップ床部材111の下面側に配置されたステアリングボックス120は密閉構造になっている。ステアリングボックス120には、主変速レバー13及び操向ハンドル10に対する機械式連動機構121が内蔵されている。
【0054】
機械式連動機構121は、
1.主変速レバー13を中立以外の位置に傾動操作した状態で、操向ハンドル10を中立以外の位置に回動操作すると、その回動操作量が大きいほど小さな旋回半径で走行機体1が左又は右に旋回し、且つ旋回半径が小さいほど走行機体1の車速(前進及び後退峙の旋回速度)が減速する、
2.主変速レバー13を前進及び後退のいずれの方向に傾動操作した場合であっても、操向ハンドル10の回動操作方向と走行機体1の旋回方向とが一致する(操向ハンドル10を左に回せば走行機体1が左旋回し、操向ハンドル10を右に回せば走行機体1は右旋回する)、
3.主変速レバー13が中立位置にあると操向ハンドル10を操作しても機能しない、
という各種動作を実行するために、主変速レバー13や操向ハンドル10からの操作力を適宜変換して、ステアリングボックス120の側面から外向きに突出する変速出力軸136及び旋回出力軸164(詳細は後述する)に伝達するように構成されている。
【0055】
図9〜図17に示すように、機械式連動機構121は、ステアリングボックス120内に両端を軸支された縦向きの旋回入力軸122を備えている。第旋回入力軸122の上端部に固着されたギヤ123と、入力中継軸115のうちステアリングボックス120内に突出する下端部に固着されたギヤ116とを噛み合わせることにより、入力中継軸115と旋回入力軸122とが動力伝達可能に連結されている。従って、操向ハンドル10の回動操作力は、入力中継軸115を介して旋回入力軸122に伝達される。
【0056】
旋回入力軸122の上部にはスライダ125が摺動可能に被嵌されており、下部にはホルダ部材126が回転及び摺動不能に嵌着されている。スライダ125は、ボール型キー127等にて旋回入力軸122の縦軸線P方向に沿って自在に摺動し得る状態で、旋回入力軸122と一緒に前記縦軸線P回りに回転するように構成されている。旋回入力軸122の縦軸線Pは特許請求の範囲に記載した第1軸線に相当する。
【0057】
旋回入力軸122のうちホルダ部材126より下側の部分には、巻きばね128が被嵌されている。巻きばね128の始端128a及び終端128bは、ステアリングボックス120に固着された上向き凸状のピン129と、ホルダ部材126に固着された下向き凸状のピン130との両方を挟持していて、ホルダ部材126ひいては操向ハンドル10を、左右に回した位置から中立位置(直進走行位置)に常時戻し付勢するように構成されている。すなわち、操向ハンドル10における左右方向への回動操作は、巻きばね128の弾性に抗して行われる。そして、元の中立位置(直進走行位置)への回動操作は、巻きばね128の弾性復原力を利用している。
【0058】
ホルダ部材126の回動可能範囲は、中立位置から左右への最大切れ角度θ1,θ2の範囲内に規制されている(例えばθ1=67.5°、θ2=67.5°、図13及び図15参照)。そして、両ギヤ116,123のギヤ比の関係から、操向ハンドル10の回動可能範囲が中立位置を挟んで左右に約135°ずつの角度範囲になっている。
【0059】
ステアリングボックス120内の下部には、旋回入力軸122の縦軸線P方向から見た平面視で、旋回入力軸122の周囲を囲うリング状の制御体131が配置されている。制御体131の内面のうち、平面視で旋回入力軸122の回転中心を通って旋回入力軸122の縦軸線Pと直交する横軸線S上の部位には、左右一対の内向きボス部132が形成されている。両内向きボス部132をホルダ部材126にねじ軸133にて回転可能に枢着することによって、制御体131は横軸線Sの回りに回動可能に構成されている。
【0060】
従って、制御体131は互いに直交する2つの軸線P,S回りに回動可能になっている。横軸線Sは特許請求の範囲に記載した第2軸線に相当する。制御体131の外周部には、周方向に延びる円形カム134が形成されている。円形カム134はその全周にわたって延びるカム溝134aを備えている。
【0061】
ステアリングボックス120内の上部には、旋回入力軸122を挟んで左右両側のうち一方に、横向きの主変速レバー入力軸135が配置されており、他方には横向きの変速入力軸136が配置されている。主変速レバー入力軸135と変速入力軸136とは平面視で互いに平行状に延びていて、ステアリングボックス120に回動可能に軸支されている。主変速レバー入力軸135及び変速入力軸136の一端部は、ステアリングボックス120の各側面から外向きに突出している。
【0062】
図5〜図8に示すように、第1実施形態では、主変速レバー入力軸135がステアリングボックス120から走行機体1の左右中央側に向けて突出しており、主変速レバー入力軸135の突出端に固着された主変速アーム137には、サイドコラム12上の主変速レバー13が、その前後傾動操作にて主変速レバー入力軸135が回転するようにロッド等の連動連結手段138を介して連結されている。
【0063】
また、変速出力軸136は、ステアリングボックス120から走行機体1の後方側に向けて突出しており、変速出力軸136の突出端に固着された変速出力アーム139は、ミッションケース18の直進用HST機構53から突出した直進制御軸149に、直進用リンク機構140を介して、変速出力軸136の回転にて変速作動するように連動連結されている。
【0064】
直進制御軸149は、直進用HST機構53における第1油圧ポンプ55の回転斜板の傾斜角度(斜板角)を調節するためのものであり、直進用HST機構53の変速出力を調節する調節部として機能する。すなわち、直進制御軸149の正逆回転にて第1油圧ポンプ55の斜板角調節をすることにより、第1油圧モータ56の回転数制御及び正逆転切換を実行し、走行速度(車速)の無段階変更並びに前後進の切り換えが行われる。
【0065】
直進用リンク機構140は、ミッションケース18の上面に固定されたブラケット143に回動可能に軸支された横支軸144、変速出力アーム139と横支軸144の一端に固着された第1揺動アーム145とをつなぐターンバックル141付き中継ロッド142、並びに、横支軸144の他端に固着された第2揺動アーム146と直進制御軸149に固着された直進操作アーム148とをつなぐ変速ロッド147を備えている。
【0066】
中継ロッド142の一端部は、球関節状継手を介して変速出力アーム139に連結されており、中継ロッド142の他端部は、球関節状継手を介して第1揺動アーム145に連結されている。変速ロッド147の一端部は、球関節状継手を介して第2揺動アーム146に連結されており、変速ロッド147の他端部は、直進制御軸149側の直進操作アーム148に、横向きの枢着ピンを介して回動可能に枢着されている。
【0067】
主変速レバー入力軸135のうちステアリングボックス120内の部分には、一対の主変速フォークアーム151が固着されていて、主変速フォークアーム151の先端に設けられたボールベアリング152は、スライダ125の外周に形成された環状溝125aに嵌り係合している。このため、主変速レバー入力軸135の回転ひいては主変速レバー13の回動操作によって、スライダ125は旋回入力軸122に沿って上下摺動するように構成されている。すなわち、スライダ125は、主変速レバー13が中立位置のときに、図12に実線で示す箇所に位置するが、主変速レバー13の中立位置から前後への回動操作にて上下動することになる。
【0068】
また、スライダ125と制御体131との間は、両端にピン154を有する揺動リンク153にて連結されていて、主変速レバー13が中立位置のときに、スライダ125が上下動することはなく、制御体131は中立位置の水平姿勢のままで傾き回動しない。主変速レバー13を中立位置から前後に回動操作すると、スライダ125が上下動して、制御体131が、ねじ軸133を中心として横軸線Sの回りに、水平姿勢を挟んで上下方向に適宜角度α1,α2の範囲内を傾き回動することになる(図16参照)。
【0069】
ステアリングボックス120のうち変速出力軸136の略真下の部位には、変速出力軸136と平行状に延びる直進用軸としての中間軸155がステアリングボックス120内に突出するように軸支されている。詳細は後述するが、中間軸155は、制御体131の横軸線S回りの回動量を直進用HST機構53の制御量に変換するためのものである。
【0070】
中間軸155の内端には、直進リンク156が上下方向に自在に回動するように設けられている。直進リンク156のうち、平面視で旋回入力軸122の回転中心を通って横軸線Sと直角に延びる直交軸線W上の部分には、当該部分において制御体131の円形カム134に周方向に摺動可能に係合する変速用滑り子部材157が、前記直交軸線Wの回りに自在に回転するように設けられている。
【0071】
図18に示すように、変速用滑り子部材157は、直進リンク156にボールベアリング157bにて回転自在に軸支された軸部157aと、軸部157aの先端に一体に設けられた球体157cとにより構成されている。変速用滑り子部材157の球体157cは、制御体131における円形カム134のカム溝134a内に摺動及び回転自在に挿入されている。
【0072】
直進リンク156には、変速出力軸136に回転自在に連結された変速出力リンク158の先端側が連結リンク159を介して連結されている。このため、制御体131の横軸線S回りの傾き回動に連動して、直進リンク156ひいては変速出力リンク158が上下回動することになる。
【0073】
変速出力軸136には、非減速アーム160の基端が回転自在に被嵌されている。非減速アーム160は、先端に穿設された長孔160aに主変速フォークアーム151の先端に設けられたピン161を嵌り係合させることにより、主変速フォークアーム151の上下動に連動して回動するように構成されている(図17参照)。
【0074】
また、変速出力軸136のうち変速出力リンク158と非減速アーム160との間の部位には、変速出力リンク158又は非減速アーム160を選択して、変速出力軸136に一体回転するように連結するための切り換え部材162が、変速出力軸136の軸線方向に摺動可能に設けられている。
【0075】
図14に示すように、切り換え操作機構169にて切り換え部材162を変速出力軸136に沿って摺動させることにより、切り換え部材162に設けられたピン163の変速出力リンク158への係合にて変速出力軸136と変速出力リンク158とを結合する旋回減速状態と、ピン163の非減速アーム160への係合にて変速出力軸136と非減速アーム160とを結合する旋回非減速状態とに選択的に切り換え得るように構成されている。
【0076】
その結果、旋回時に左右の走行クローラの速度差が大きくなり過ぎないようにしたり(鈍感な旋回フィーリングにしたり)、若しくは、路上や乾田等での旋回を機敏にしたり湿田や泥土面等での旋回性能を向上させたり(機敏な旋回フィーリングにしたり)できることになる。
【0077】
切り換え操作機構169は、以下に述べるような構成になっている。すなわち、図16に示すように、ステアリングボックス120には、変速出力軸136と平行状に延びる切り換え操作軸170が摺動自在及び回転自在に軸支されている。切り換え操作軸170に固着された切り換え板171は、切り換え部材162に形成された環状溝172に嵌まり係合している。切り換え操作軸170の一端はステアリングボックス120の外側に突出していて、突出端に把手173が設けられている。
【0078】
把手173を握って切り換え操作軸170をその軸線方向に摺動させることにより、前述した旋回減速状態と旋回非減速状態との切り換えを、ステアリングボックス120の外側から行うように構成されている。なお、切り換え操作軸170には、変速出力軸136と変速出力リンク158とを結合する旋回減速状態と、変速出力軸136と非減速アーム160とを結合する旋回非減速状態とに保持するためのボールクラッチ174が設けられている。
【0079】
ステアリングボックス120の側面のうち変速出力軸136の略真下の部位には、変速出力軸136と直交方向に延びる旋回用軸としての旋回出力軸164が、ステアリングボックス120の内外に突出するように軸支されている。詳細は後述するが、旋回出力軸164は、制御体131の縦軸線P回りの回動量を旋回用HST機構54の制御量に変換するためのものである。旋回出力軸164のうちステアリングボックス120内の端部には、旋回リンク165の基端が固着されている。旋回リンク165のうち平面視で横軸線S上の部分には、当該部分において制御体131の円形カム134に周方向に摺動自在に係合する旋回用滑り子部材166が設けられている。
【0080】
図19に示すように、旋回用滑り子部材166は、旋回リンク165に取り付けられた軸部166aと、軸部166aの先端に一体に設けられた球体166bと、球体166bに回転自在に且つ軸部166aの軸線に対して任意の方向に自在に傾き得るように被嵌されたリング体166cとにより構成されている。旋回用滑り子部材166のリング体166cは、制御体131における円形カム134のカム溝134a内に摺動及び回転自在に挿入されている。
【0081】
図11に示すように、中間軸155の軸線AX1と旋回出力軸164の軸線AX2とは略同一平面上に位置している。また、図13及び図15に示すように、直進リンク156の回動半径r1(中間軸155から変速用滑り子部材157までの長さともいえる)と、旋回リンク165の回動半径r2(旋回出力軸164から旋回用滑り子部材166までの長さともいえる)とは、実質的に同じ長さ(r1≒(又は=)r2)に設定されている。
【0082】
一方、旋回出力軸164のうち外端に固着された旋回出力アーム167は、ミッションケース18の旋回用HST機構54から突出した旋回制御軸189に、旋回用リンク機構180を介して、旋回出力軸164の回転にて変速作動するように連動連結されている。
【0083】
旋回制御軸189は、旋回用HST機構54における第2油圧ポンプ57の回転斜板の傾斜角度(斜板角)を調節するためのものであり、旋回用HST機構54の変速出力を調節する調節部として機能する。すなわち、旋回制御軸189の正逆回転にて第2油圧ポンプ57の斜板角調節をすることにより、第2油圧モータ58の回転数制御及び正逆転切換を実行し、走行機体1の操向角度(旋回半径)の無段階変更並びに左右旋回方向の切り換えが行われる。
【0084】
図5〜図8に示すように、旋回用リンク機構180は、ミッションケース18の上面に固定されたブラケット183に回動可能に軸支された中継支軸184、旋回出力アーム167と中継支軸184の一端に固着された第1アーム185とをつなぐターンバックル181付き中継ロッド182、並びに、中継支軸184の他端に固着された第2アーム186と旋回制御軸189に固着された旋回操作アーム188とをつなぐ旋回ロッド187を備えている。
【0085】
中継ロッド182の一端部は、球関節状継手を介して旋回出力アーム167に連結されており、中継ロッド182の他端部は、球関節状継手を介して第1アーム185に連結されている。旋回ロッド187の一端部は、球関節状継手を介して第2アーム186に連結されており、旋回ロッド187の他端部は、旋回制御軸189側の旋回操作アーム188に、横向きの枢着ピンを介して回動可能に枢着されている。
【0086】
なお、ステアリングボックス120は、旋回入力軸122の縦軸線Pと直角の平面A(図11参照)にて、ダイキャスト又は鋳造製の上部ボックス体120aと、同じくダイキャスト又は鋳造製の下部ボックス体120aとの二つ割りの構造になっている。そして、両ボックス体120a,120bは、その間にシール用のガスケット(図示せず)を挟んだ状態で、複数本のボルト(図示せず)にて着脱可能に結合されている。内部には、コンバインにおける各種の油圧機器(例えば刈取装置3を昇降動する油圧シリンダ)に使用される作動油が出入りして、出入りする作動油にて機械式連動機構121を潤滑するという構成になっている。詳細は図示していないが、ステアリングボックス120には、作動油が出入りするための入口及び出口が設けられている。
【0087】
(4).機械式連動機構の作動
次に、図9〜図17を参照しながら、主変速レバー13や操向ハンドル10を操作したときの機械式連動機構121の作動について説明する。
【0088】
主変速レバー13が中立位置のときは、旋回入力軸122上のスライダ125が上下動しないから、制御体131は中立位置の水平姿勢で保持され、横軸線S回りに傾き回動することはない。この状態では、操向ハンドル10を左右いずれの方向に回動操作しても、制御体131の円形カム134に係合する変速用滑り子部材157及び旋回用滑り子部材166が両方とも上下方向に移動せず、ひいては、中継軸155(変速出力軸136)及び旋回出力軸164は停止状態に維持される。従って、両方のHST機構53,54は駆動しない。
【0089】
つまり、主変速レバー13を中立位置にセットして走行機体1を停止させた状態では、オペレータの不用意な接触等にて操向ハンドル10を回動させたとしても、両方のHST機構53,54が駆動することはなく、走行機体1を確実に停止状態に維持できる。従って、例えばメンテナンス作業等の際は、主変速レバー13を中立位置にセットしておくだけで、オペレータの意図に反して走行機体1が予想外の挙動をするおそれを確実に回避でき、安全性を十分に確保できる。
【0090】
次に、操向ハンドル10を中立位置(直進走行位置)に維持した状態のもとで、主変速レバー13を中立位置から傾動操作をしたときは、これに連動してスライダ125が上下動し、制御体131が横軸線S回りに上下動するように正逆傾き回動するから(図16の二点鎖線状態参照)、制御体131における円形カム134の直交軸線W上の部分に係合する変速用滑り子部材157は、旋回入力軸122の縦軸線Pに沿って中立位置から上下に距離L1又はL2だけ移動する。しかし、制御体131における円形カム134の横軸線S上の部分に係合する旋回用滑り子部材166は上下には移動しない。
【0091】
このとき、変速出力軸136における切り換え部材162のピン163を、切り換え操作機構169による操作で変速出力リンク158に係合させることにより、変速出力リンク158と変速出力軸136とが一体に回転するように連結しておく。
【0092】
そうすると、変速用滑り子部材157の上下への移動が、直進リンク156、連結リンク159、変速出力リンク158、切り換え部材162、変速出力軸136、変速出力アーム139及び直進用リンク機構140を介して、直進用HST機構53の直進制御軸149に伝達される。その結果、直進用HST機構53が制御体131における横軸線S回りの傾き回転にて中立位置から変速作動する。
【0093】
一方、制御体131が横軸線S回りに正逆傾き回転していても、制御体131における円形カム134の横軸線S上の部分に係合する旋回用滑り子部材166は、操向ハンドル10を操作しない限り上下には移動せず、ひいては、旋回用HST機構54が中立位置から変速作動することはない。従って、左右の両走行クローラ2には、直進用HST機構53から同じ回転数が同時に伝達されることになり、走行機体1は前進又は後退方向に直進走行する。
【0094】
直進走行時の走行速度(車速)は、直進用HST機構53における直進制御軸149の回動量にて決まり、当該回動量は、変速用滑り子部材157における上下への移動距離L1,L2、ひいては、制御体131における中立位置からの傾き回転角度α1,α2、更には、主変速レバー13の傾動操作量にて増減されるから、走行機体1における直進走行時の走行速度を、主変速レバー13の中立位置からの操作量に比例して調節できることになる。
【0095】
次に、主変速レバー13を中立位置以外の位置に操作した状態で、操向ハンドル10を中立位置から左又は右方向に回動操作して旋回入力軸122を回転させると、制御体131は、横軸線Sの回りに傾き回転した状態で旋回入力軸122と共に回転する。そうすると、円形カム134の横軸線S上の部分に係合する旋回用滑り子部材166が、旋回入力軸122による回転にて上下に移動し、当該上下への移動が、旋回リンク165、旋回出力軸164、旋回出力アーム167及び旋回用リンク機構180を介して、旋回用HST機構54の旋回制御軸189に伝達される。その結果、旋回用HST機構54が中立位置から変速作動する。
【0096】
このため、左右の走行クローラ2には、旋回用HST機構54の中立位置からの変速作動にて互いに逆方向の回転が同時に伝達されて、左右の走行クローラ2の相互間には速度差が付与されることになるから、走行機体1は操向ハンドル10を操作する方向に旋回する。
【0097】
旋回用HST機構54における中立位置からの変速作動量、つまり、旋回制御軸189の回動量は、制御体131が横軸線S回りに正逆傾き回動した状態で旋回入力軸122にて回転するのに伴う旋回用滑り子部材166の上下方向への移動量、ひいては、操向ハンドル10における中立位置からの回動操作角度(回動操作量)に比例するから、旋回用HST機構54による左右の走行クローラ2の速度差は、操向ハンドル10における中立位置からの回動操作角度(回動操作量)に比例して増大し、走行機体1の旋回半径が小さくなるのである。
【0098】
特に第1実施形態では、制御体131の円形カム134に係合する変速用滑り子部材157を横軸線S回りの傾き回転にて上下動させることによって、操向ハンドル10の回動操作量に比例して直進制御軸149をそれまでとは逆方向に回転させ、その時の旋回半径に対応して走行機体1の旋回速度を減速できる。
【0099】
すなわち、操向ハンドル10を中立位置から回動操作すると、制御体131が横軸線S回りに傾き回転した状態で旋回入力軸122にて回動して、制御体131の円形カム134に係合する変速用滑り子部材157が、制御体131の回動に伴って円形カム134の直交軸線W上の部分から横軸線S上の部分に近づくように移動する。このため、変速用滑り子部材157の上下移動距離L1,L2が、円形カム134の直交軸線W上の部分に位置している場合よりも小さくなり、ひいては、直進制御軸149の回動量(直進用HST機構53の変速作動量)が小さくなって、左右の走行クローラ2への伝達回転数が減速方向に制御され、走行機体1の旋回に際しての走行速度が遅くなる。
【0100】
従って、操向ハンドル10の回動操作量が大きいほど、左右の走行クローラ2の速度差が大きくなって旋回半径が小さくなると共に、直進方向の速度が減速して、走行機体1全体としては走行速度(車速)が遅くなるから、旋回時において、走行機体1に旋回外向きに作用する遠心力を軽減できる。また、前進時と後進時とでは、操向ハンドル10の回動操作に対して制御体131の横軸線S回りの傾き回動方向が逆になるので、前後進時のいずれにおいても操向ハンドル10の回動操作方向と走行機体1の旋回方向とが一致することになる。
【0101】
ところで、走行機体1の旋回半径を操向ハンドル10の回動操作角度(回動操作量)に比例して自動的に小さくすることは、湿田等のように地面が柔らかい場合に、両走行クローラ2の地面へのめり込みの増大を招来するおそれがある。
【0102】
このような場合には、切り換え操作機構169による切り換え部材162の操作にて、変速出力リンク98を変速出力軸136に結合する状態から、非減速アーム160を変速出力軸136に結合する状態に切り換える。
【0103】
そうすると、主変速レバー13の操作は、操向ハンドル10の回動操作に拘らず、そのまま連動連結手段138、主変速アーム137、主変速レバー入力軸135、主変速フォークアーム151、非減速アーム160、変速出力軸136、変速出力アーム139及び直進用リンク機構140を介して、直進用HST機構53の直進制御軸149に伝達される。このため、操向ハンドル10の回動操作と主変速レバー13の傾動操作とが直接関連しなくなり、制御体131の円形カム134による減速状態から解放されることになり、主変速レバー13の傾動操作量に比例した走行速度(車速)が維持される。従って、柔らかい地面へのめり込みを抑制するというように、コンバインを湿田仕様にできる。
【0104】
以上の構成によると、互いに直交する2つの軸線P,S回りに回動可能な制御体131を備えていて、制御体131は、操向ハンドル10の操作に伴う縦軸線P回りの正逆回動にて旋回用HST機構54を作動させ、主変速レバー13の操作に伴う横軸線S回りの正逆回動にて直進用HST機構53を作動させるように構成されているので、「主変速レバー13を中立以外の位置に傾動操作した状態で、操向ハンドル10を中立以外の位置に回動操作すると、その回動操作量が大きいほど小さな旋回半径で走行機体1が左又は右に旋回する」という動作を、制御体131における縦軸線P回りの正逆回動と横軸線S回りの正逆回動との両方にて実行できることになる。すなわち、制御体131が、操向ハンドル10の回動操作に連動して旋回用HST機構54を作動させる機能と、主変速レバー13の傾動操作に連動して直進用HST機構53を作動させる機能との両方を兼ね備えることになる。
【0105】
従って、特許文献1のように長尺のロッドやアーム、枢支ピン等を多用した操作系統の構造に比べて、部品点数が少なくて済むし、加工精度や組み立て精度の精粗によって動作にバラツキが生ずるのを回避できる。
【0106】
また、第1実施形態では、操向ハンドル10の回動操作に連動して回動する旋回出力軸164の軸線AX2と、主変速レバー13の傾動操作に連動して回動する中間軸155の軸線AX1とが実質的に同一平面上に位置しているから、制御体131の動作範囲(特に横軸線S回りの上下傾き回動範囲)が制限されることになり、特許文献1のように長尺のロッドやアーム、枢支ピン等を多用した操作系統の構造に比べて、機械式連動機構121において縦軸線Pに沿った寸法を大幅に短縮できる。従って、機械式連動機構121の構造を、特許文献1の場合に比べて著しく簡単且つ小型にでき、操作系統全体のコンパクト化が可能になる。
【0107】
特に実施形態では、直進リンク156の回動半径r1と、旋回リンク165の回動半径r2とが実質的に同じ長さ(r1≒(又は=)r2)に設定されているから、操作系統全体の構造をより一層コンパクトにできる。
【0108】
しかも、実施形態では、機械式連動機構121を内蔵したコンパクトな収容ボックス120が、操縦部9の底面を構成するステップ床部材111下方の余剰スペースに配置されているので、かかる余剰スペースを有効利用して、ステアリングコラム112を小型化したりなくしたりできる。従って、ステップ床部材111の面積を拡大することなく、オペレータの足元空間を広くでき、コンバイン操縦時の快適性向上に寄与できる。
【0109】
なお、図18に示すように、変速用滑り子部材157は、円形カム134のカム溝134a内に摺動自在に嵌まる球体157cを、直進リンク156に軸部157aにて回転自在に支持するという構成であるため、これら相互間の摺動摩擦抵抗を大幅に低減できる。
【0110】
また、図19に示すように、旋回用滑り子部材166は、円形カム134のカム溝134a内に摺動自在に嵌まるリング体166cを、旋回リンク165に取り付けられた軸部166aと一体の球体166bに回転自在に且つ軸部166aの軸線に対して任意の方向に自在に傾き得るように被嵌するという構成であるため、前記と同様に、これら相互間の摺動摩擦抵抗を大幅に低減できる。
【0111】
(5).第2実施形態
次に、図20〜図24を参照しながら、本願発明の第2実施形態について説明する。図20は第2実施形態における機械式連動機構を模式的に示す説明図、図21はステアリングボックスの縦断側面図、図22は図21のXXII−XXII視平面断面図、図23は図21のXXIII−XXIII視平面断面図、図24は図21のXXIV−XXIV視平面断面図である。
【0112】
第2実施形態では、制御体191が変速制御体201と旋回制御体202とに2分割されているという点において、第1実施形態と相違している。その他の構成は概ね第1実施形態と同じである。以下には、第1実施形態との相違点について説明する。
【0113】
ステアリングボックス120内の下部において、ホルダ部材126を挟んで左右両側のうち一方側の部分には変速制御体201が、他方側の部分には旋回制御体202が各々設けられている。
【0114】
変速制御体201の外周には、旋回入力軸122の縦軸線P方向から見た平面視において、丸棒状体を旋回入力軸122の回転中心を中心とする半径Rの半円形に曲げて構成した半円形カム201aが設けられている。変速制御体201の両端部をホルダ部材126にねじ軸133にて回転可能に枢着することによって、制御体131は、平面視で旋回入力軸122の回転中心を通って旋回入力軸122の縦軸線Pと直交する横軸線S回りに回動可能に構成されている。
【0115】
一方、旋回制御体202の外周には、同様に、旋回入力軸72の軸線72aの方向から見た平面視において、丸棒状体を旋回入力軸122の回転中心を中心とする半径Rの半円形に曲げて構成した半円形カム202aが設けられている。旋回制御体202の中央部をホルダ部材126にピン軸194にて回転可能に枢着することによって、制御体131は、平面視で旋回入力軸122の回転中心を通って旋回入力軸122の縦軸線P及び横軸線Sと直交する直交軸線W回りに、両端が上下動するように回動可能に構成されている。
【0116】
また、スライダ125と変速制御体201との間、及び、スライダ125と旋回制御体202との間の両方はそれぞれ、揺動リンク153,153′にて連結されていて、主変速レバー13が中立位置のときには、スライダ125が上下動することはなく、両制御体201,202はいずれも中立位置の水平姿勢のままで傾き回動しない。
【0117】
主変速レバー13を中立位置から前後に回動操作すると、スライダ125が上下動して、変速制御体201が、ねじ軸133を中心として横軸線Sの回りに、水平姿勢を挟んで上下方向に適宜角度α1,α2の範囲内を傾き回動する(図24参照)。これと共に、旋回制御体202は、ピン軸194を中心として直交軸線Wの回りに、両端が水平姿勢を挟んで上下方向に適宜角度β1,β2の範囲内に互いに逆方向に天秤状に上下動するように傾き回動することになる(図21参照)。
【0118】
ステアリングボックス120内にある中間軸155の直進リンク156のうち直交軸線W上の部分には、当該部分において変速制御体201の半円形カム201aに嵌り係合する変速用滑り子部材157が、旋回入力軸122の縦軸線Pと直交する横軸線S回りに自在に回転するように設けられている。
【0119】
ステアリングボックス20の内にある旋回出力軸164の旋回リンク165のうち直交軸線W上の部分には、当該部分において旋回制御体202の半円形カム202aに嵌り係合する旋回用滑り子部材166が、前記直交軸線W回りに自在に回転するように設けられている。
【0120】
(6).機械式連動機構の作動
次に、主変速レバー13や操向ハンドル10を操作したときの機械式連動機構121の作動のうち、第1実施形態との相違点について説明する。
【0121】
操向ハンドル10を中立位置(直進走行位置)に維持した状態のもとで、主変速レバー13を中立位置から傾動操作をしたときは、これに連動してスライダ125が上下動し、変速制御体201が横軸線S回りに上下動するように傾き回動して半円形カム201aが上下動する一方(図24の二点鎖線状態参照)、旋回制御体202が直交軸線W回りに傾き回動して半円形カム202aが天秤状に傾斜する(図21の二点鎖線状態参照)。
【0122】
このとき、変速出力軸136における切り換え部材162のピン163を、切り換え操作機構169による操作で変速出力リンク158に係合させることにより、変速出力リンク158と変速出力軸136とが一体に回転するように連結しておく。
【0123】
そうすると、変速制御体201の正逆傾き回転にて半円形カム201aが上下動するとにより、半円形カム201aに嵌り係合する変速用滑り子部材157が上下動し、当該変速用滑り子部材157の上下動が、直進リンク156、連結リンク159、変速出力リンク158、切り換え部材162、変速出力軸136、変速出力アーム139及び直進用リンク機構140を介して、直進用HST機構53の直進制御軸149に伝達される。その結果、直進用HST機構53が変速制御体201における横軸線S回りの傾き回転にて中立位置から変速作動する。
【0124】
一方、旋回制御体202が直交軸線W回りに正逆傾き回転していても、旋回制御体202の半円形カム202aに嵌り係合する旋回用滑り子部材166は、操向ハンドル10を操作しない限り半円形カム202aに沿って上下には移動せず、ひいては、旋回用HST機構54が中立位置から変速作動することはない。従って、左右の両走行クローラ2には、直進用HST機構53から同じ回転数が同時に伝達されることになり、走行機体1は前進又は後退方向に直進走行する。
【0125】
直進走行時の走行速度(車速)は、直進用HST機構53における直進制御軸149の回動量にて決まり、当該回動量は、変速用滑り子部材157における上下への移動距離L1,L2、ひいては、制御体131における中立位置からの傾き回転角度α1,α2、更には、主変速レバー13の傾動操作量にて増減されるから、走行機体1における直進走行時の走行速度を、主変速レバー13の中立位置からの操作量に比例して調節できることになる。
【0126】
次に、前記した直進走行の状態で、操向ハンドル10を直進走行位置から右又は左方向に回転操作して第2旋回入力軸72を回転すると、
変速制御体201及び旋回制御体202の両方が、前記したように傾き回転した状態で旋回入力軸122と一緒に回転する。
【0127】
この場合、旋回制御体202は、半円形カム202aを天秤状に傾斜させたままで旋回入力軸122にて回転することにより、半円形カム202aに嵌り係合している旋回用滑り子部材166が旋回入力軸122による回転にて上下動し、当該上下への移動が、旋回リンク165、旋回出力軸164、旋回出力アーム167及び旋回用リンク機構180を介して、旋回用HST機構54の旋回制御軸189に伝達される。その結果、旋回用HST機構54が中立位置から変速作動する。
【0128】
このため、左右の走行クローラ2には、旋回用HST機構54の中立位置からの変速作動にて互いに逆方向の回転が同時に伝達されて、左右の走行クローラ2の相互間には速度差が付与されることになるから、走行機体1は操向ハンドル10を操作する方向に旋回する。
【0129】
旋回用HST機構54における中立位置からの変速作動量、つまり、旋回制御軸189の回動量は、旋回制御体202が直交軸線W回りに傾き回転した状態で旋回入力軸122にて回転するのに伴う旋回用滑り子部材166の上下方向への移動量、ひいては、操向ハンドル10における中立位置からの回動操作角度(回動操作量)に比例するから、旋回用HST機構54による左右の走行クローラ2の速度差は、操向ハンドル10における中立位置からの回動操作角度(回動操作量)に比例して増大し、走行機体1の旋回半径が小さくなる。
【0130】
以上のことから明らかなように、第2実施形態の構成を採用した場合も、第1実施形態と同様の作用効果を奏することになる。
【0131】
(7).他の実施形態
本願発明は、前述の実施形態に限らず、様々な態様に具体化できる。例えば本願発明は、前述のようなコンバインに限らず、トラクタ、田植機等の農作業機やクレーン車等の特殊作業用車両のような各種車両に対して広く適用できる。
【0132】
また、変速用滑り子部材157は、図18に示す構成に代えて、図19に示す構成にしてもよい。旋回用滑り子部材166は、図19に示す構成に代えて、図18に示す構成にしてもよい。
【0133】
更に、第1実施形態における制御体131の円形カム134を、丸形又は角形断面の部材を円形にした形態にするとか、或いは、円盤型の形態にする一方、これに周方向に摺動自在に係合する変速用滑り子部材及び旋回用滑り子部材を、溝型にするという構成にしても良い。すなわち、第2実施形態の構造に置き換えてもよい。
【0134】
しかし、前記したようにカム溝134aにして、当該カム溝134aに、変速用滑り子部材157及び旋回用滑り子部材166を周方向に摺動自在に挿入するという構成にした場合には、変速用滑り子部材157及び旋回用滑り子部材166の剛性を、これら滑り子部材157,166を溝型にする場合よりも向上できる等の利点がある。
【0135】
その他、各部の構成は図示の実施形態に限定されるものではなく、本願発明の趣旨を逸
脱しない範囲で種々変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】第1実施形態におけるコンバインの側面図である。
【図2】コンバインの平面図である。
【図3】動力伝達系のスケルトン図である。
【図4】ミッションケース内部のスケルトン図である。
【図5】ステアリングボックスの配置態様を示す正面説明図である。
【図6】図5の要部拡大正面図である。
【図7】ステアリングボックスの配置態様を示す平面説明図である。
【図8】図7の要部拡大平面図である。
【図9】機械式連動機構を模式的に示す説明図である。
【図10】ステアリングボックスの平面図である。
【図11】図10のXI−XI視側面図である。
【図12】図10のXII−XII視側面断面図である。
【図13】図11及び図12のXIII−XIII視平面断面図である。
【図14】図11及び図12のXIV−XIV視平面断面図である。
【図15】図11及び図12のXV−XV視平面断面図である。
【図16】図11及び図12のXVI−XVI視側面断面図である。
【図17】図10及び図13のXVII−XVII視側面断面図である。
【図18】図16の要部拡大図である。
【図19】図13の要部拡大図である。
【図20】第2実施形態における機械式連動機構を模式的に示す説明図である。
【図21】ステアリングボックスの縦断側面図である。
【図22】図21のXXII−XXII視平面断面図である。
【図23】図21のXXIII−XXIII視平面断面図である。
【図24】図21のXXIV−XXIV視平面断面図である。
【符号の説明】
【0137】
1 走行機体
9 操縦部
10 操向ハンドル
13 主変速レバー
18 ミッションケース
50 油圧無段変速機
53 直進用HST機構(直進用変速機)
54 旋回用HST機構(旋回用変速機)
111 ステップ床部材
112 ステアリングコラム
120 ステアリングボックス
121 機械式連動機構
122 旋回入力軸
125 スライダ
131,191 制御体
136 変速出力軸
140 直進用リンク機構
149 直進制御軸
155 中間軸(直進用軸)
156 直進リンク
157 変速用滑り子部材
158 変速出力リンク
164 旋回出力軸(旋回用軸)
165 旋回リンク
166 旋回用滑り子部材
180 旋回用リンク機構
189 旋回制御軸
201 変速制御体
202 旋回制御体
P 縦軸線(第1軸線)
S 横軸線(第2軸線)
W 直交軸線





【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行機体に搭載されたエンジンの動力を変速して左右の走行部に伝達する直進用変速機及び旋回用変速機と、前記直進用変速機に対する直進操作具と、前記旋回用変速機に対する旋回操作具とを備えている走行車両であって、
互いに直交する2つの軸線回りに回動可能な制御体を備えており、前記制御体は、前記旋回操作具の操作に伴う前記第1軸線回りの正逆回動にて前記旋回用変速機を作動させ、前記直進操作具の操作に伴う前記第2軸線回りの正逆回動にて前記直進用変速機を作動させるように構成されており、
前記制御体の前記第1軸線回りの回動量を前記旋回用変速機の制御量に変換するための旋回用軸の軸線と、前記制御体の前記第2軸線回りの回動量を前記直進用変速機の制御量に変換するための直進用軸の軸線とが実質的に同一平面上に位置している、
走行車両。
【請求項2】
前記制御体の外周部には、前記旋回用軸に支持された旋回リンクの先端部と前記直進用軸に支持された直進リンクの先端部とが摺動可能に係合しており、前記旋回リンクの回動半径と前記直進リンクの回動半径とが実質的に同じ長さに設定されている、
請求項1に記載した走行車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−248584(P2009−248584A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−95004(P2008−95004)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】