説明

超仕上げ方法及び超仕上げ装置

【課題】 第1溝と第2溝とを有するワークに対して互いに対応した高精度の超仕上げ加工を連続してスムーズになし得るようにする。
【解決手段】 アンギュラの方向が互いに異なる第1溝と第2溝とを有するワークWを駆動装置に装着し、ワークWを駆動しながら第1溝に超仕上げ砥石を前進して押し当てかつオシレーションしてその後に後退させる第1溝仕上げ工程と、ワークWを駆動しながら第2溝に超仕上げ砥石を前進して押し当てかつオシレーションしてその後に後退させる第2溝仕上げ工程との間に、砥石ホルダの傾斜角度が第1溝から第2溝に適合するように揺動リンクを角度変更する角度変更工程と、超仕上げ砥石を第1溝から第2溝に対向するようにリンク部材と平行な方向に移動する溝変更工程とが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超仕上げ方法及び超仕上げ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超仕上げ装置には、平行な一対のリンク部材と、この一対のリンク部材に交差して連結されていて互いに平行な一対の揺動リンクと、一対のリンク部材の先端側に連結されていて前記揺動リンクに対して平行な砥石ホルダとを備え、一対の揺動リンクの基部が機体側に揺動軸廻りに揺動自在に枢支され、砥石ホルダに超仕上げ砥石が外方突出状に保持されると共に、超仕上げ砥石を先端側に向けて流体圧力にて押圧するシリンダ手段が組み込まれ、砥石ホルダの超仕上げ砥石側が一対のリンク部材から揺動リンクの基部側と平行に突出され、前記一対の揺動リンクの一方を揺動軸廻りに往復揺動させることにより、砥石ホルダを超仕上げ砥石先端側の揺動中心廻りに(揺動角度±βだけ)オシレーションさせると共に、前記一方の揺動リンクを揺動軸廻りに角度変更させることにより砥石ホルダを前記揺動中心廻りに角度変更させてオシレーションの揺動中心角αを変更するようにした超仕上げユニットを具備したものがある。
【0003】
この種の従来の超仕上げユニットによる超仕上げ方法では、例えばワークが、アンギュラの方向が互いに異なる第1溝と第2溝とを有するアンギュラ玉軸受け等である場合に、これら第1溝と第2溝とを超仕上げする場合には、超仕上げユニットを一対のリンク部材と平行なX方向と超仕上げ砥石をワークの溝に向けて前後させるY方向とに大きく正確に移動させる移動手段が設けられていなかったこともあって、ワークを駆動装置に装着してワークを駆動しながら第1溝に超仕上げ砥石を押し当ててオシレーションして超仕上げし、次に第2溝を超仕上げするときには、ワークの第2溝が超仕上げ砥石に適合するようにワークを駆動装置に装着し直し、その後に、ワークを駆動しながら第2溝に超仕上げ砥石を前進して押し当てかつオシレーションして第2溝を超仕上げ加工していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−269111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、従来の場合、第1溝を超仕上げ加工するときと第2溝を超仕上げ加工するときとでは、ワークの駆動装置への装着状態が微妙に異なっているため、第1溝と第2溝とに互いに対応した高精度の超仕上げをなすことが困難になった。また、第1溝と第2溝とに連続したスムーズな超仕上げをなすことができなかった。
本発明は上記問題点に鑑み、第1溝と第2溝とを有するワークに対して互いに対応した高精度の超仕上げ加工を連続してスムーズになし得る超仕上げ方法及び超仕上げ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この技術的課題を解決する本発明の技術的手段は、平行な一対のリンク部材と、この一対のリンク部材に交差して連結されていて互いに平行な一対の揺動リンクと、一対のリンク部材の先端側に連結されていて前記揺動リンクに対して平行な砥石ホルダとを備え、一対の揺動リンクの基部が機体側に揺動軸廻りに揺動自在に枢支され、砥石ホルダに超仕上げ砥石が外方突出状に保持されると共に、超仕上げ砥石を先端側に向けて流体圧力にて押圧するシリンダ手段が組み込まれ、砥石ホルダの超仕上げ砥石側が一対のリンク部材から揺動リンクの基部側と平行に突出され、
前記一対の揺動リンクの一方を揺動軸廻りに往復揺動させることにより、砥石ホルダを超仕上げ砥石先端側の揺動中心廻りにオシレーションさせると共に、前記一方の揺動リンクを揺動軸廻りに角度変更させることにより砥石ホルダを前記揺動中心廻りに角度変更させてオシレーションの揺動中心角を変更するようにした超仕上げユニットを具備し、
アンギュラの方向が互いに異なる第1溝と第2溝とを有するワークを駆動装置に装着し、ワークを駆動しながら第1溝に超仕上げ砥石を前進して押し当てかつオシレーションしてその後に後退させる第1溝仕上げ工程と、ワークを駆動しながら第2溝に超仕上げ砥石を前進して押し当てかつオシレーションしてその後に後退させる第2溝仕上げ工程との間に、砥石ホルダの傾斜角度が第1溝から第2溝に適合するように揺動リンクを角度変更する角度変更工程と、超仕上げ砥石を第1溝から第2溝に対向するようにリンク部材と平行な方向に移動する溝変更工程とが設けられている点にある。
【0007】
また、本発明の他の技術的手段は、前記ワークが第1溝と第2溝と溝間小径部とを有するアンギュラ玉軸受けであり、前記第1溝仕上げ工程は、第1溝に超仕上げ砥石を前進して押し当てかつオシレーションしてその後に超仕上げ砥石を第1溝から僅かに離間させるべく後退させる工程とされ、この第1溝仕上げ工程の後に前記角度変更工程が設けられ、この角度変更工程は、砥石ホルダの傾斜角度が第2溝に適合するように揺動リンクを角度変更させかつその後に溝間小径部よりも超仕上げ砥石を後退させる工程とされている点にある。
【0008】
また、本発明の他の技術的手段は、前記ワークが第1溝と第2溝と溝間小径部とを有するアンギュラ玉軸受けであり、前記溝変更工程の後に前記角度変更工程が設けられ、この角度変更工程は、超仕上げ砥石を溝間小径部よりも後退した位置から第2溝に近い位置に前進させかつその第2溝近接位置で砥石ホルダの傾斜角度が第2溝に適合するように揺動リンクを角度変更させる工程とされ、第2溝仕上げ工程は、第2溝から僅かに離間した状態から第2溝に超仕上げ砥石を前進して押し当てかつオシレーションしてその後に超仕上げ砥石が第1溝から後退させる工程とされている点にある。
【0009】
また、本発明の他の技術的手段は、前記角度変更工程は、砥石ホルダの傾斜角度を第1溝又は第2溝に対するオシレーションの揺動中心角よりも大きくなるように変更するものである点にある。
また、本発明の他の技術的手段は、前記砥石ホルダの傾斜角度を、オシレーションの揺動中心角にオシレーションの揺動角度を加算した加算角度以下に設定した点にある。
【0010】
また、本発明の他の技術的手段は、駆動装置に第1溝を第2溝より奥側に配置してワークを装着し、第1溝仕上げ工程の前に、砥石ホルダの傾斜角度を第1溝に対するオシレーションの揺動中心角よりも大きく設定した状態で、砥石ホルダをリンク部材と平行な方向に移動してワーク内に砥石ホルダを入れて超仕上げ砥石を第1溝側に移動させるツールイン工程が設けられている点にある。
【0011】
また、本発明の他の技術的手段は、駆動装置に第2溝を第1溝より奥側に配置してワークを装着し、第2溝仕上げ工程の後に、砥石ホルダの傾斜角度を第2溝に対するオシレーションの揺動中心角よりも大きく設定した状態で、砥石ホルダをリンク部材と平行な方向に移動してワーク内から砥石ホルダを出すツールアウト工程が設けられている点にある。
また、本発明の他の技術的手段は、平行な一対のリンク部材と、この一対のリンク部材に交差して連結されていて互いに平行な一対の揺動リンクと、一対のリンク部材の先端側に支持軸を介して連結されていて前記揺動リンクに対して平行な砥石ホルダとを備え、一対の揺動リンクの基部が機体側に揺動軸廻りに揺動自在に枢支され、砥石ホルダに超仕上げ砥石が外方突出状に保持されると共に、超仕上げ砥石を先端側に向けて流体圧力にて押圧するシリンダ手段が組み込まれ、砥石ホルダの超仕上げ砥石側が一対のリンク部材から揺動リンクの基部側と平行に突出され、
前記一対の揺動リンクの一方を揺動軸廻りに往復揺動させることにより、砥石ホルダを超仕上げ砥石先端側の揺動中心廻りにオシレーションさせると共に、前記一方の揺動リンクを揺動軸廻りに角度変更させることにより砥石ホルダを前記揺動中心廻りに角度変更させてオシレーションの揺動中心角を設定変更するようにした超仕上げユニットを具備した超仕上げ装置であって、
前記一対のリンク部材と平行なX方向と超仕上げ砥石をワークの溝に向けて前後させるY方向とに超仕上げユニットを移動させる移動機構を具備した点にある。
【0012】
また、本発明の他の技術的手段は、前記一対のリンク部材の支持軸を支持する軸受部分に互いに対向する軸受突出部が突出され、前記一方の揺動リンクを揺動軸廻りに大きく揺動したときに、一対のリンク部材の軸受突出部同士がX方向にずれて噛み合うようにした点にある。
また、本発明の他の技術的手段は、一対のリンク部材のうちの砥石ホルダの基部側を支持する支持軸に、シリンダ手段に流体を供給するための供給流路が設けられている点にある。
【0013】
また、本発明の他の技術的手段は、前記供給流路は、支持軸の軸心に穿孔されていてシリンダ手段のシリンダに連通する第1連通孔と、第1連通孔に連通しかつリンク部材の外面に沿う第2連通孔とをL字状に有し、シリンダに流体を供給するためのホースが第2連通孔に連結されてリンク部材の長手方向に沿って配置されている点にある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、第1溝仕上げ工程と第2溝仕上げ工程との間に、揺動リンクを角度変更する角度変更工程と、超仕上げ砥石をリンク部材と平行な方向に移動する溝変更工程とが設けられているので、第1溝を超仕上げ加工するときと第2溝を超仕上げ加工するときとでは、ワークの駆動装置への装着が変更されることがなくなるため、第1溝と第2溝とに互いに対応した高精度の超仕上げをなすことができる。また、第1溝を超仕上げ加工するときと第2溝を超仕上げ加工するときとに、ワークを駆動装置に装着し直す必要がなくなり、第1溝と第2溝とを連続したスムーズな超仕上げをなすことができる。
【0015】
また、本発明によれば、X方向とY方向とに超仕上げユニットを移動させる移動機構を具備しているので、第1溝を超仕上げ加工するときと第2溝を超仕上げ加工するときとでは、ワークの駆動装置への装着を変更する必要がなくなり、ワークを駆動装置に装着したままで、第1溝の超仕上げ加工から第2超仕上げ加工に簡単に砥石ホルダ乃至超仕上げ砥石を移動させることができ、第1溝と第2溝とに互いに対応した高精度の超仕上げをなすことができる。また、第1溝を超仕上げ加工するときと第2溝を超仕上げ加工するときとに、ワークを駆動装置に装着し直す必要がなくなり、第1溝と第2溝とを連続したスムーズな超仕上げをなすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態を示す超仕上げ装置の側面図である。
【図2】同超仕上げ装置の平面図である。
【図3】同超仕上げユニットの側面断面図である。
【図4】同超仕上げユニットの平面図である。
【図5】同図3のA−A線断面図である。
【図6】同図3のB−B線断面図である。
【図7】同砥石ホルダ及びホース部分の側面断面図である。
【図8】同砥石ホルダ及びホース部分の底面図である。
【図9】同リンク部材の前部の拡大平面図である。
【図10】同リンク部材の後部の拡大平面図である。
【図11】同超仕上げ砥石部分の拡大平面図である。
【図12】同制御装置のブロック図である。
【図13】同フローチャートである。
【図14】同超仕上げの工程を示す工程図である。
【図15】同超仕上げの工程を示す工程図である。
【図16】他の超仕上げの工程を示す工程図である。
【図17】同超仕上げの工程を示す工程図である。
【図18】同超仕上げの工程を示す工程図である。
【図19】他の超仕上げの工程を示す工程図である。
【図20】同超仕上げの工程を示す工程図である。
【図21】同超仕上げの工程を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1及び図2において、超仕上げ装置は、超仕上げユニット1と超仕上げユニット1をX方向(前後方向、後述する一対のリンク部材14と平行な方向)とY方向(左右方向、後述する超仕上げ砥石41をワークWの溝に向けて前後させる方向)とに移動させる移動機構2と図12に示す制御装置3とを具備している。
【0018】
移動機構2は、下部支持台5と、下部支持台5に対してY方向(左右方向)に移動自在に組み込まれた第1移動体6と、第1移動体6に対してX方向(前後方向)に移動自在に組み込まれた第2移動体7と、第1移動体6をY方向に往復駆動するサーボモータにより構成した第1モータ8と、第2移動体7をX方向に往復駆動するサーボモータにより構成した第2モータ9とを備え、第2移動体7上に超仕上げユニット1が取り付けられている。従って、第1モータ8と第2モータ9との駆動制御により超仕上げユニット1がX方向及びY方向に正確に往復移動されるようになっている。
【0019】
図3及び図4において、超仕上げユニット1は、ユニット支持台11と、サーボモータにより構成した揺動モータ12と、ユニット支持台11上に固定されたリンク台13と、平行な左右一対のリンク部材14と、この一対のリンク部材14に交差して連結されていて互いに平行な前後一対の揺動リンク15と、揺動リンク15に対して平行な砥石ホルダ16とを備える。
【0020】
揺動モータ12はユニット支持台11上に取り付けられ、その駆動軸18はユニット支持台11の上壁から下方突出され、駆動軸18の下方突出部に駆動プーリ19が固着されている。
図5にも示すように、リンク台13は断面コの字状に形成されて上部支持壁21と下部支持壁22と連結壁23とを有している。上下方向の前後一対の揺動軸25がリンク台13の上部支持壁21と下部支持壁22と間でそれぞれベアリング26を介して軸心廻り回転自在に支持され、この一対の揺動軸25に揺動リンク15の基部が固着され、これにより一対の揺動リンク15の基部はリンク台13(機体側)にそれぞれ揺動軸25廻りに揺動自在に枢支されている。
【0021】
後側の揺動軸25は下部支持壁22から下方に突出されており、この揺動軸25の下方突出部に従動プーリ28が固着されている。従動プーリ28と駆動プーリ19とにタイミングベルト29が巻回されており、揺動モータ12の駆動により後側の揺動軸25乃至後側の揺動リンク15が揺動軸25の軸心廻りに往復揺動するように構成されている。
図3〜図6に示すように、前記一対のリンク部材14は、それぞれ一対の揺動リンク15と砥石ホルダ16とを厚み(上下)方向に挟む一対の挟持杆31,32を有し、各一対の挟持杆31,32は互いに上下方向に間隔をおいてボルトナット等の連結部材33,34により連結固定されている。また、一対の挟持杆31,32間にスペーサ35,38が設けられている。
【0022】
一対の揺動リンク15は一対のリンク部材14にそれぞれ支軸36廻りに相対揺動自在に連結されている。各支軸36は上下一対の挟持杆31,32に挿通されると共に、それぞれベアリング37を介して一対の揺動リンク15に対して軸心廻りに回動自在に支持されている。これにより、一対のリンク部材14と一対の揺動リンク15とが支軸36廻りに相対回動自在に連結されている。
【0023】
一対のリンク部材14の先端側に砥石ホルダ16が上下方向の支持軸(トラニオン軸)39を介して連結されており、一対のリンク部材14と一対の揺動リンク15と砥石ホルダ16とで6節の平行リンク機構を構成している。
図6〜図9に示すように、砥石ホルダ16に、超仕上げ砥石41が外方突出状に保持されると共に、超仕上げ砥石41を先端側に向けて流体圧力(実施形態では空気圧力)にて押圧するシリンダ手段42が組み込まれている。砥石ホルダ16は円筒状のシリンダ43とシリンダカバー44とロッドカバー45とを有し、シリンダ手段42のロッドは超仕上げ砥石41で形成されている。砥石ホルダ16の超仕上げ砥石41側が一対のリンク部材14から揺動リンク15の基部側と平行に突出されている。超仕上げ砥石41はロッドカバー45にガイド部材46を介して出退移動自在に保持されている。
【0024】
4本の各支持軸39は頭部39aと軸部39bとを有し、各支持軸39の頭部39aはリンク部材14の長手方向に長く形成されていて、頭部39aは2本の止ねじ47よって軸部39bを挟んで一対のリンク部材14の各挟持杆31,32に締め付け固定されている。各支持軸39の軸部39bは左右一対のリンク部材14の各挟持杆31,32に挿通されると共に、砥石ホルダ16のシリンダ43にベアリング48を介して軸心廻りに回動自在に支持されている。ただし、4本の支持軸39のうちのシリンダ43の後部側に位置する1本の支持軸39(支持軸39A)は、他の3本の支持軸39に比べて頭部39aがやや厚くかつリンク部材14の挟持杆31,32の先端(前側)側に向けて長く形成されており、頭部39aの前側のみが前記2本の止ねじ47よって挟持杆31,32に締め付け固定され、頭部39aの後側には後述する供給流路64が形成されている。
【0025】
図9に示すように、前記一対のリンク部材14(各挟持杆31,32)の支持軸39を支持する軸受部分に互いに対向する方向に軸受突出部51が突出されており、これによりリンク部材14における軸受部分の幅を確保してリンク部材14の所定の剛性を維持し、揺動リンク15を揺動軸25廻りに大きく揺動したときに、一対のリンク部材14の軸受突出部51同士がX方向にずれて噛み合うようにしている。
【0026】
図10に示すように、前記一対のリンク部材14の支軸36を支持する部分に、互いに対向する方向に噛合凸部54が突出されており、これによりリンク部材14における軸受部分の幅を確保して、揺動リンク15を揺動軸25廻りに大きく揺動したときに、一対のリンク部材14の噛合凸部54同士がX方向にずれて噛み合うようにしている。
また、揺動軸25の基部側(右側)のリンク部材14の支軸36を支持する軸受部分には、嵌合凸部55と該嵌合凸部55を挟む一対の嵌合凹部56とが又は嵌合凸部55と嵌合凹部56とが設けられ、揺動リンク15が大きく揺動した際に嵌合凹部56が揺動軸25に嵌合するように構成されている。これにより、狭いスペースで、リンク部材14の所定の剛性を維持したままで揺動リンク15の揺動範囲が広くとれるようにしている。
【0027】
なお、本実施形態では図9に示すように揺動リンク15乃至砥石ホルダ16の傾斜角度θは最大で±55°に設定されている。また、超仕上げ砥石41の揺動中心Oは、一対の揺動軸25の軸心を結ぶ直線上にあって、揺動軸25の軸心とこれに近接する支軸36の軸心との離間幅と、揺動中心Oとこれに近接する支持軸39の軸心との離間幅とが同一になる位置にある。
【0028】
図11に示すように超仕上げ砥石41の先端側は、超仕上げ砥石41の揺動中心Oを中心とした円弧面状の先端接当面41aとされ、その先端接当面41aの幅D1は、ワークWのボール溝(後述する第1溝69、第2溝70)の円弧面の幅D2よりも大に設定されている。
そして、砥石ホルダ16のオシレーションの揺動中心角αはボール溝のアンギュラと一致するように設定され、オシレーションにより超仕上げ砥石41を揺動中心Oを中心として揺動させても超仕上げ砥石41の先端接当面41aがボール溝の円弧面全体に接当した状態を保持する最大の揺動角に砥石ホルダ16乃至超仕上げ砥石41の揺動角度(±β)が設定される。つまり、砥石ホルダ16の傾斜角度θが、オシレーションの揺動中心角αにオシレーションの揺動角度βを加算した加算角度(α+β)内に設定されていれば、ボール溝の円弧面全体が超仕上げ砥石41の先端接当面41aの一部に接触した状態を常に保持する。従って、後述する角度変更工程やツールイン工程等では、砥石ホルダ16の傾斜角度(θ)を、オシレーションの揺動中心角αにオシレーションの揺動角度βを加算した加算角度(α+β)以下に設定するのである。
【0029】
而して、一方(後側)の揺動リンク15を揺動軸25廻りに往復揺動させることにより、砥石ホルダ16を揺動中心O廻りに(揺動角度±βだけ)オシレーションさせると共に、前記一方の揺動リンク15を揺動軸25廻りに角度変更させることにより砥石ホルダ16を前記揺動中心O廻りに角度変更させてオシレーションの揺動中心角αを変更するように構成されている。
【0030】
図6に示すように、砥石ホルダ16が一対のリンク部材14に直交する直交状態から傾斜揺動した傾斜状態で、リンク部材14先端側の砥石ホルダ16、超仕上げ砥石41及び砥石ホルダ16の取付部分並びにシリンダ手段42に流体を供給する供給流路64が、一対のリンク部材14間の中央P1から超仕上げ砥石41先端までの突出距離を半径r1とした円C1内に略納められている。
【0031】
即ち、一対のリンク部材14の各挟持杆31,32の角部に斜めに切り欠かれた切欠部59が設けられ、支持軸39(トラニオン軸)の頭部39aの外周部に斜めに切り欠かれた切欠部60が設けられ、更に、砥石ホルダ16先端側(ロッドカバー45)の左右の角部に斜めに切り欠かれた切欠部61が設けられている。
また、一対のリンク部材14のうちの砥石ホルダ16の基部側を支持するリンク部材14の支持軸39(トラニオン軸)に、シリンダ手段42に流体を供給するための供給流路64が設けられている。
【0032】
図6及び図7に示すように、前記供給流路64は、支持軸39の軸心に穿孔されていてシリンダ手段42のシリンダ43に連通する第1連通孔65と、第1連通孔65に連通しかつリンク部材14の外面に沿う第2連通孔66とをL字状に有し、シリンダ手段42のシリンダ43に流体を供給するためのホース67が第2連通孔66に連結されている。ホース67はリンク部材14の長手方向に沿ってリンク部材14基部側(後方側)に向けて配置されている。
【0033】
これらにより、砥石ホルダ16が一対のリンク部材14に直交する直交状態から傾斜揺動した傾斜状態で、リンク部材14先端側の砥石ホルダ16部分が、一対のリンク部材14の長手方向に直交する面内において、砥石ホルダ16の中心軸における一対のリンク部材14間の中央P1を中心とし該中央P1から超仕上げ砥石41先端までの長さを半径r1とした円C1(実施形態ではφ61.6mm)内に納められている。
【0034】
より厳密に言えば、砥石ホルダ16が傾斜揺動した傾斜状態で、リンク部材14先端側の砥石ホルダ16、超仕上げ砥石41及び砥石ホルダ16の取付部分並びにシリンダ手段42に流体を供給する供給流路64(ホース67を含む)が、中央P1から超仕上げ砥石41の先端側にL(2mm程度)だけずれた中心P2から超仕上げ砥石41先端までの突出距離を半径r2とした円C2(実施形態ではφ57.6mm)内に納められている。なお、円C2は円C1内にある。
【0035】
従って、例えばワークWがアンギュラの方向が互いに異なる第1溝69と第2溝70とを有する小径のアンギュラ玉軸受けハブである場合でも、供給流路64を形成した支持軸39(トラニオン軸)及びシリンダ43に流体を供給するためのホース67を含めて、リンク部材14先端側の砥石ホルダ16部分が、砥石ホルダ16がワークWの軸心に直交する面に対して傾斜した状態で通過可能となり、砥石ホルダ16がワークWの軸心に直交する面に対して平行になった状態で通過不能になるような小径(実施形態では内径がφ57.6mm)のワークWに対しても超仕上げ加工が施せるように構成されている。
【0036】
また、シリンダ手段42乃至砥石ホルダ16の小型化のために図示省略の増圧弁を使用してホース67から高圧エアー(例えば12〜15kg/cm2)をシリンダ手段42に送るようにしている。
図12において、制御装置3は、コントローラ71およびサーボアンプ72,73,74等からなる。
【0037】
コントローラ71は、種々の演算処理を行うCPU、超仕上げ加工条件の記憶およびサーボアンプ72,73,74を制御するためのプログラム等を記憶するRAM、大容量磁気ディスク等の記憶装置、超仕上げ加工条件等を入力しかつ超仕上げ加工の状況を表示させる入出力装置(タッチパネル)および異常を知らせる警報装置等からなる。
コントローラ71は、予め入力された超仕上げ砥石41のオシレーションの揺動中心角α、オシレーションの揺動角度β、揺動数および加工時間等に従って、サーボアンプ72に対し揺動モータ12の制御を指示する。また、コントローラ71は、揺動モータ12だけではなく、圧力制御部に対して超仕上げ砥石41がワークWの被研削面を押圧する圧力を指示し、予め入力された加工時間等に従ってX方向の移動をサーボアンプ73に対して第2モータ9の制御を指示し、Y方向の移動をサーボアンプ74に対して第1モータ8の制御を指示する。
【0038】
次に、ワークWが、アンギュラの方向が互いに異なる第1溝69と第2溝70とを有しこれら溝間に溝間小径部77を有するアンギュラ玉軸受けハブである場合について、第1溝69と第2溝70とを超仕上げ加工をする場合の動作を、図13のフローチャート及び図14及び図15の工程図を参照しながら説明する。
まず、図14(a)に示すように駆動装置79に第1溝69を第2溝70より奥側に配置してワークWを図3に示すベアリング80を介して軸心廻りに回転自在に装着し、図13のステップS1(以下図13を省略する)に示す如く砥石ホルダ16の傾斜角度θを第1溝69に対するオシレーションの揺動中心角αよりも大きく設定し、かつ砥石ホルダ16の傾斜角度θを、オシレーションの揺動中心角αにオシレーションの揺動角度βを加算した加算角度(α+β)以下に設定した状態、例えば砥石ホルダ16の傾斜角度θを、オシレーションの揺動中心角αにオシレーションの揺動角度βを加算した加算角度(α+β)に設定した状態で、ステップS2及び図14(b)に示すように砥石ホルダ16をリンク部材14と平行な方向に(X方向)移動してワークW内に砥石ホルダ16を入れ、超仕上げ砥石41を第1溝69側に移動させる(ツールイン工程)。
【0039】
その後、ステップS3及び図14(c)に示すようにワークWを駆動しながら第1溝69に超仕上げ砥石41を前進して押し当てかつステップS4に示す如くシリンダ手段42により超仕上げ砥石41を加圧してオシレーションし、ステップS5に示す如くシリンダ手段42による超仕上げ砥石41の加圧を停止する。その後にステップS6及び図14(d)に示すように超仕上げ砥石41を第1溝69からに後退させる(第1溝仕上げ工程)。
【0040】
次に、ステップS7に示す如く砥石ホルダ16の揺動を停止して、ステップS8及び図15(e)に示すように、砥石ホルダ16の傾斜角度θが第1溝69から第2溝70に適合するように揺動リンク15を角度変更する(角度変更工程)と共に、ステップS9に示す如く超仕上げ砥石41を第1溝69から第2溝70に対向するようにリンク部材14と平行な方向(X方向)に移動する(溝変更工程)。なお、上記角度変更工程と溝変更工程とはどちらを先にしてもよいし、ワークWが大きい場合には角度変更工程をしながら溝変更工程をなすことも可能である。
【0041】
次に、ステップS10及び図15(f)に示すようにワークWを駆動しながら第2溝70に超仕上げ砥石41を前進(Y方向に移動)して押し当てかつステップS11に示す如くシリンダ手段42により超仕上げ砥石41を加圧してオシレーションし、ステップS12に示す如くシリンダ手段42による超仕上げ砥石41の加圧を停止する。その後に図15(g)に示すように超仕上げ砥石41を第2溝70から後退させる(第2溝仕上げ工程)。
【0042】
その後、ステップS14に示す如く砥石ホルダ16の揺動を停止して、ステップS15及び図15(h)に示すように砥石ホルダ16をリンク部材14と平行な方向(X方向)に移動してワークW内から砥石ホルダ16を出す(ツールアウト工程)。その後、ステップS16に示す如く砥石ホルダ16の傾斜角度θを0°に戻す。
上記実施形態では、砥石ホルダ16が一対のリンク部材14に直交する直交状態から傾斜揺動した傾斜状態で、小径のワークW内に、リンク部材14先端側の砥石ホルダ16、超仕上げ砥石41及び砥石ホルダ16の取付部分並びにシリンダ手段42に流体を供給する供給流路64を入れることができるようになり、自動車のハブ等の小さなワークWのボール溝にも超仕上げ加工を施すことができる。
【0043】
しかも、シリンダ手段42に流体を供給するための供給流路64は、支持軸39の軸心に穿孔されていてシリンダ手段42のシリンダ43に連通する第1連通孔65と、第1連通孔65に連通しかつリンク部材14の外面に沿う第2連通孔66とをL字状に有し、シリンダ43に流体を供給するためのホース67が第2連通孔66に連結されてリンク部材14の長手方向に沿って配置されているので、シリンダ43に流体を供給するためのホース67も含めて、一対のリンク部材14の先端側をコンパクトに構成して、一対のリンク部材14間の中央から超仕上げ砥石41先端までの突出距離を半径r1とした円C1内に略納めることができ、極力小さな径のワークWに対してもそのボール溝等に超仕上げ加工を簡単かつ良好に施すことができる。
【0044】
また、上記実施の形態では、第1溝仕上げ工程と第2溝仕上げ工程との間に、砥石ホルダ16の傾斜角度が第1溝69から第2溝70に適合するように揺動リンク15を角度変更する角度変更工程と、超仕上げ砥石41を第1溝69から第2溝70に対向するようにリンク部材14と平行な方向に移動する溝変更工程とが設けられているので、第1溝69を超仕上げ加工するときと第2溝70を超仕上げ加工するときとでは、ワークWの駆動装置79への装着を変更する必要がないため、第1溝69と第2溝70とに互いに対応した高精度の超仕上げをなすことができる。また、第1溝69と第2溝70とを連続したスムーズな超仕上げをなすことができる。
【0045】
また、角度変更工程では、砥石ホルダ16の傾斜角度θを第1溝69又は第2溝70に対するオシレーションの揺動中心角αよりも大きくなるように変更するので、砥石ホルダ16の傾斜角度θを第1溝69又は第2溝70に対するオシレーションの揺動中心角αよりも大きくして、ワークWの径がより小さい場合でも、一対のリンク部材14の先端側のX方向の幅を小さくした状態で、ワークW内をY方向によりスムーズに移動可能になる。
【0046】
また、砥石ホルダ16の傾斜角度θを、オシレーションの揺動中心角αにオシレーションの揺動角度βを加算した加算角度(α+β)以下に設定したので、溝変更工程の後に砥石ホルダ16をY方向に前進させて超仕上げ砥石41を溝に押し付ければ、砥石ホルダ16の傾斜角度θを揺動調整することなくそのままオシレーション動作に移ることができ、超仕上げをよりスムーズになすことができる。
【0047】
また、第1溝仕上げ工程の前に、砥石ホルダ16の傾斜角度θを第1溝69に対するオシレーションの揺動中心角αよりも大きく設定した状態で、砥石ホルダ16をリンク部材14と平行な方向に移動してワークW内に砥石ホルダ16を入れて超仕上げ砥石41を第1溝69側に移動させるツールイン工程が設けられているので、ワークWの内径が砥石ホルダ16の長さよりも多少小さい場合であっても、リンク部材14の先端側をワークW内に挿入して超仕上げ工程を施すことができる。
【0048】
また、上記実施の形態では、超仕上げ装置は一対のリンク部材14と平行なX方向と超仕上げ砥石41をワークWの溝に向けて前後させるY方向とに超仕上げユニット1を移動させる移動機構2を具備しているので、第1溝69を超仕上げ加工するときと第2溝70を超仕上げ加工するときとでは、ワークWの駆動装置79への装着を変更する必要がなくなり、ワークWを駆動装置79に装着したままで、第1溝超仕上げ加工から第2溝超仕上げ加工に簡単に砥石ホルダ16乃至超仕上げ砥石41を移動させることができ、第1溝69と第2溝70とに互いに対応した高精度の超仕上げをなすことができる。また、第1溝69を超仕上げ加工するときと第2溝70を超仕上げ加工するときとに、ワークWを駆動装置79に装着し直す必要がなくなり、第1溝69と第2溝70とを連続したスムーズな超仕上げをなすことができる。
【0049】
図16〜図18は、ワークWが、アンギュラの方向が互いに異なる第1溝69と第2溝70とを有し、これら溝間に溝間小径部77を有するより小径のアンギュラ玉軸受けハブである場合について、第1溝69側で超仕上げ砥石41をターンさせて、第1溝69と第2溝70とを超仕上げ加工する場合の他の動作を示している。この動作を図16〜図18の工程図を参照しながら説明する。
【0050】
まず、図16(a)に示すように駆動装置79に第1溝69を第2溝70より奥側に配置してワークWを装着し、砥石ホルダ16の傾斜角度θを第1溝69に対するオシレーションの揺動中心角αよりも大きく設定し、かつ砥石ホルダ16の傾斜角度θを、オシレーションの揺動中心角αにオシレーションの揺動角度βを加算した加算角度(α+β)以下に設定した状態で、図16(b)に示すように砥石ホルダ16をリンク部材14と平行な方向に(X方向)移動してワークW内に砥石ホルダ16を入れ、超仕上げ砥石41を第1溝69側に移動させる(ツールイン工程)。ここまでは、前記図14及び図15の動作と同様である。
【0051】
その後、図16(c)(d)に示すようにワークWを駆動しながら第1溝69に超仕上げ砥石41を前進して押し当てかつオシレーションし、その後に図17(e)に示すように超仕上げ砥石41を第1溝69から僅かに離間させるべく後退させる(第1溝仕上げ工程)。
この第1溝仕上げ工程の後に、砥石ホルダ16の揺動を停止して、図17(f)に示すように、砥石ホルダ16の傾斜角度が第1溝69から第2溝70に適合するように揺動リンク15を角度変更する。この場合、砥石ホルダ16の傾斜角度θを第2溝70に対するオシレーションの揺動中心角αよりも大きく設定し、かつ砥石ホルダ16の傾斜角度θを、オシレーションの揺動中心角αにオシレーションの揺動角度βを加算した加算角度(α+β)以下に設定した状態、例えば砥石ホルダ16の傾斜角度θを、オシレーションの揺動中心角αにオシレーションの揺動角度βを加算した加算角度(α+β)に設定した状態にする。その後に図17(g)に示すように溝間小径部77よりも超仕上げ砥石41を後退させる(角度変更工程)。
【0052】
次に、図17(h)に示すように、超仕上げ砥石41を第1溝69から第2溝70に対向するようにリンク部材14と平行な方向に移動する(溝変更工程)。
これ以降は前記図14及び図15の動作と同様であって、図18(i)(j)に示すようにワークWを駆動しながら第2溝70に超仕上げ砥石41を前進して押し当てかつオシレーションし、その後に図18(k)に示すように超仕上げ砥石41を第2溝70から後退させる(第2溝仕上げ工程)。
【0053】
その後、砥石ホルダ16の揺動を停止して、図18(l)に示すように砥石ホルダ16をリンク部材14と平行な方向(X方向)に移動してワークW内から砥石ホルダ16ーを出す(ツールアウト工程)。その後、砥石ホルダ16の傾斜角度θを0°に戻す。
上記実施形態では、前記図14及び図15の実施形態の場合と同様に、第1溝69と第2溝70とに互いに対応した高精度の超仕上げをなすことができ、また、第1溝69を超仕上げ加工するときと第2溝70を超仕上げ加工するときとに、ワークWを駆動装置79に装着し直す必要がなくなり、第1溝69と第2溝70とを連続したスムーズな超仕上げをなすことができる。これに加えて、第1溝仕上げ工程は、第1溝69に超仕上げ砥石41を前進して押し当てかつオシレーションしてその後に超仕上げ砥石41を第1溝69から僅かに離間させるべく後退させる工程とされ、この第1溝仕上げ工程の後に角度変更工程が設けられ、この角度変更工程は、砥石ホルダ16の傾斜角度が第2溝70に適合するように揺動リンク15を角度変更させかつその後に溝間小径部77よりも超仕上げ砥石41を後退させる工程とされているので、ワークWが第1溝69と第2溝70と溝間小径部77とを有する小径のアンギュラ玉軸受けであっても、砥石ホルダ16の基端部がワークWの衝当することなく角度変更させることができるし、その後に溝間小径部77よりも超仕上げ砥石41を後退させる工程があるため、溝変更工程の際に超仕上げ砥石41が溝間小径部77に接触しないで済む。
【0054】
図19〜図21はワークWがアンギュラの方向が互いに異なる第1溝69と第2溝70とを有し、これら溝間に溝間小径部77を有するより小径のアンギュラ玉軸受けハブについて、第2溝70側で超仕上げ砥石41をターンさせて、第1溝69と第2溝70とを超仕上げ加工する場合の他の動作を示している。この動作を図19〜図21の工程図を参照しながら説明する。
【0055】
まず、図19(a)に示すように駆動装置79に第1溝69を第2溝70より奥側に配置してワークWを装着し、第1溝仕上げ工程の前に、砥石ホルダ16の傾斜角度(θ)を第1溝69に対するオシレーションの揺動中心角(α)よりも大きく設定し、かつ砥石ホルダ16の傾斜角度θを、オシレーションの揺動中心角αにオシレーションの揺動角度βを加算した加算角度(α+β)以下に設定した状態で、図19(b)に示すように砥石ホルダ16をリンク部材14と平行な方向に(X方向)移動してワークW内に砥石ホルダ16を入れ、超仕上げ砥石41を第1溝69側に移動させる(ツールイン工程)。
【0056】
その後、図19(c)(d)に示すようにワークWを駆動しながら第1溝69に超仕上げ砥石41を前進して押し当てかつオシレーションし、その後に図20(e)に示すように超仕上げ砥石41を第1溝69からに後退させる(第1溝仕上げ工程)。
次に、砥石ホルダ16の揺動を停止して、図20(f)に示すように超仕上げ砥石41を第1溝69から第2溝70に対向するようにリンク部材14と平行な方向(X方向)に移動する(溝変更工程)。この場合、砥石ホルダ16の傾斜角度θを第2溝70に対するオシレーションの揺動中心角αよりも大きく設定し、かつ砥石ホルダ16の傾斜角度θを、オシレーションの揺動中心角αにオシレーションの揺動角度βを加算した加算角度(α+β)以下に設定した状態、例えば砥石ホルダ16の傾斜角度θを、オシレーションの揺動中心角αにオシレーションの揺動角度βを加算した加算角度(α+β)に設定した状態で、溝変更する。ここまでは、前記図14及び図15の動作と同様である。
【0057】
次に、前記図20(f)に示す溝変更工程の後に、図20(g)に示すように、超仕上げ砥石41を溝間小径部77よりも後退した位置から第2溝70に近い位置に前進させ、かつ図20(h)に示すようにその第2溝70近接位置で砥石ホルダ16の傾斜角度が第2溝70に適合するように揺動リンク15を角度変更させる(角度変更工程)。
これ以降は前記図14及び図15の動作と同様であって、図21(i)(j)に示すようにワークWを駆動しながら第2溝70に超仕上げ砥石41を小さく前進して押し当てかつオシレーションし、その後に図21(g)に示すように超仕上げ砥石41を第2溝70から後退させる(第2溝仕上げ工程)。
【0058】
その後、砥石ホルダ16の揺動を停止して、図21(l)に示すように砥石ホルダ16をリンク部材14と平行な方向(X方向)に移動してワークW内から砥石ホルダ16ーを出す(ツールアウト工程)。その後、砥石ホルダ16の傾斜角度θを0°に戻す。
上記実施形態では、前記図14及び図15の実施形態の場合と同様に、第1溝69と第2溝70とに互いに対応した高精度の超仕上げをなすことができ、また、第1溝69を超仕上げ加工するときと第2溝70を超仕上げ加工するときとに、ワークWを駆動装置79に装着し直す必要がなくなり、第1溝69と第2溝70とを連続したスムーズな超仕上げをなすことができる。これに加えて、図16〜図18の場合と同様に、ワークWが第1溝69と第2溝70と溝間小径部77とを有するアンギュラ玉軸受けであっても、砥石ホルダ16の基端部がワークWの衝当することなく角度変更させることができるし、その後に溝間小径部77よりも超仕上げ砥石41を後退させる工程があるため、溝変更工程の際に超仕上げ砥石41が溝間小径部77に接触しないで済む。
【0059】
なお、前記実施の形態では、ワークWがアンギュラの方向が互いに異なる第1溝69と第2溝70とを有するよりアンギュラ玉軸受けハブについて、第1溝69と第2溝70とを超仕上げ加工する場合について適用実施しているが、本願発明が適用されるワークWはアンギュラ玉軸受けに限定されず、リニアガイドのレールに設けられた玉転動溝、深溝玉軸受け、スラスト玉軸受の玉の軒道として設けられた第1溝69と第2溝70との超仕上げ加工にも適用実施することができる。
【0060】
また、前記実施の形態では、駆動装置79に第1溝69を第2溝70より奥側に配置してワークWを装着し、奥側の第1溝69から超仕上げ加工をし、その後に手前側の第2溝70を超仕上げ加工しているが、これに代え、駆動装置79に第2溝70を第1溝69より奥側に配置してワークWを装着し、手前側の第1溝69から超仕上げ加工をし、その後に奥側の第2溝70を超仕上げ加工するようにしてもよく、この場合には、第2溝仕上げ工程の後に、砥石ホルダ16の傾斜角度θを第2溝70に対するオシレーションの揺動中心角αよりも大きく設定した状態で、砥石ホルダ16をリンク部材14と平行な方向に移動してワークW内から砥石ホルダ16を出すツールアウト工程を設けるようにすればよい。これにより、ワークWの内径が砥石ホルダ16の長さよりも多少小さい場合であっても、超仕上げ工程を施した後にリンク部材14の先端側をワークW内からワークWに接触させることなくスムーズに取り出すことができる。
【0061】
また、前記実施の形態では、一対のリンク部材14を左右に離間させて前後方向に配置しているが、一対のリンク部材14の配置方向はこれに限定されず、上下方向、左右方向又は斜め方向に配置するようにしてもよい。
また、前記実施の形態では、平行な一対のリンク部材14と互いに平行な一対の揺動リンク15とこれに平行な砥石ホルダ16とで6節の平行リンク機構を構成しているが、これに代え、平行な一対のリンク部材14に加えてさらに1又は複数のリンク部材を平行に設けるようにしてもよいし、互いに平行な一対の揺動リンク15に加えてさらに1又は複数の揺動リンクを平行に設けるようにしてもよい。
【0062】
また、前記実施の形態では、一対のリンク部材14は直線状であるが、一対のリンク部材14は直線状でなくてもよく、例えばクランク状に屈曲していてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1 超仕上げユニット
2 移動機構
14 リンク部材
15 揺動リンク
16 砥石ホルダ
25 揺動軸
31 挟持杆
32 挟持杆
39 支持軸
41 超仕上げ砥石
42 シリンダ手段
43 シリンダ
51 軸受突出軸
64 供給流路
65 第1連通孔
66 第2連通孔
67 ホース
69 第1溝
70 第2溝
77 溝間小径部
W ワーク
O 揺動中心
α 揺動中心角
r1 半径
P1 中央

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行な一対のリンク部材(14)と、この一対のリンク部材(14)に交差して連結されていて互いに平行な一対の揺動リンク(15)と、一対のリンク部材(14)の先端側に連結されていて前記揺動リンク(15)に対して平行な砥石ホルダ(16)とを備え、一対の揺動リンク(15)の基部が機体側に揺動軸(25)廻りに揺動自在に枢支され、砥石ホルダ(16)に超仕上げ砥石(41)が外方突出状に保持されると共に、超仕上げ砥石(41)を先端側に向けて流体圧力にて押圧するシリンダ手段(42)が組み込まれ、砥石ホルダ(16)の超仕上げ砥石(41)側が一対のリンク部材(14)から揺動リンク(15)の基部側と平行に突出され、
前記一対の揺動リンク(15)の一方を揺動軸(25)廻りに往復揺動させることにより、砥石ホルダ(16)を超仕上げ砥石(41)先端側の揺動中心(O)廻りにオシレーションさせると共に、前記一方の揺動リンク(15)を揺動軸(25)廻りに角度変更させることにより砥石ホルダ(16)を前記揺動中心(O)廻りに角度変更させてオシレーションの揺動中心角(α)を変更するようにした超仕上げユニット(1)を具備し、
アンギュラの方向が互いに異なる第1溝(69)と第2溝(70)とを有するワーク(W)を駆動装置(79)に装着し、ワーク(W)を駆動しながら第1溝(69)に超仕上げ砥石(41)を前進して押し当てかつオシレーションしてその後に後退させる第1溝仕上げ工程と、ワーク(W)を駆動しながら第2溝(70)に超仕上げ砥石(41)を前進して押し当てかつオシレーションしてその後に後退させる第2溝仕上げ工程との間に、砥石ホルダ(16)の傾斜角度が第1溝(69)から第2溝(70)に適合するように揺動リンク(15)を角度変更する角度変更工程と、超仕上げ砥石(41)を第1溝(69)から第2溝(70)に対向するようにリンク部材(14)と平行な方向に移動する溝変更工程とが設けられていることを特徴とする超仕上げ方法。
【請求項2】
前記ワーク(W)が第1溝(69)と第2溝(70)と溝間小径部(77)とを有するアンギュラ玉軸受けであり、前記第1溝仕上げ工程は、第1溝(69)に超仕上げ砥石(41)を前進して押し当てかつオシレーションしてその後に超仕上げ砥石(41)を第1溝(69)から僅かに離間させるべく後退させる工程とされ、この第1溝仕上げ工程の後に前記角度変更工程が設けられ、この角度変更工程は、砥石ホルダ(16)の傾斜角度が第2溝(70)に適合するように揺動リンク(15)を角度変更させかつその後に溝間小径部(77)よりも超仕上げ砥石(41)を後退させる工程とされていることを特徴とする請求項1に記載の超仕上げ方法。
【請求項3】
前記ワーク(W)が第1溝(69)と第2溝(70)と溝間小径部(77)とを有するアンギュラ玉軸受けであり、前記溝変更工程の後に前記角度変更工程が設けられ、この角度変更工程は、超仕上げ砥石(41)を溝間小径部(77)よりも後退した位置から第2溝(70)に近い位置に前進させかつその第2溝(70)近接位置で砥石ホルダ(16)の傾斜角度が第2溝(70)に適合するように揺動リンク(15)を角度変更させる工程とされ、第2溝仕上げ工程は、第2溝(70)から僅かに離間した状態から第2溝(70)に超仕上げ砥石(41)を前進して押し当てかつオシレーションしてその後に超仕上げ砥石(41)が第1溝(69)から後退させる工程とされていることを特徴とする請求項1に記載の超仕上げ方法。
【請求項4】
前記角度変更工程は、砥石ホルダ(16)の傾斜角度(θ)を第1溝(69)又は第2溝(70)に対するオシレーションの揺動中心角(α)よりも大きくなるように変更するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の超仕上げ方法。
【請求項5】
前記砥石ホルダ(16)の傾斜角度(θ)を、オシレーションの揺動中心角(α)にオシレーションの揺動角度(β)を加算した加算角度(α+β)以下に設定したことを特徴とする請求項4に記載の超仕上げ方法。
【請求項6】
駆動装置(79)に第1溝(69)を第2溝(70)より奥側に配置してワーク(W)を装着し、第1溝仕上げ工程の前に、砥石ホルダ(16)の傾斜角度(θ)を第1溝(69)に対するオシレーションの揺動中心角(α)よりも大きく設定した状態で、砥石ホルダ(16)をリンク部材(14)と平行な方向に移動してワーク(W)内に砥石ホルダ(16)を入れて超仕上げ砥石(41)を第1溝(69)側に移動させるツールイン工程が設けられていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の超仕上げ方法。
【請求項7】
駆動装置(79)に第2溝(70)を第1溝(69)より奥側に配置してワーク(W)を装着し、第2溝仕上げ工程の後に、砥石ホルダ(16)の傾斜角度(θを第2溝(70)に対するオシレーションの揺動中心角(α)よりも大きく設定した状態で、砥石ホルダ(16)をリンク部材(14)と平行な方向に移動してワーク(W)内から砥石ホルダ(16)を出すツールアウト工程が設けられていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の超仕上げ方法。
【請求項8】
平行な一対のリンク部材(14)と、この一対のリンク部材(14)に交差して連結されていて互いに平行な一対の揺動リンク(15)と、一対のリンク部材(14)の先端側に支持軸(39)を介して連結されていて前記揺動リンク(15)に対して平行な砥石ホルダ(16)とを備え、一対の揺動リンク(15)の基部が機体側に揺動軸(25)廻りに揺動自在に枢支され、砥石ホルダ(16)に超仕上げ砥石(41)が外方突出状に保持されると共に、超仕上げ砥石(41)を先端側に向けて流体圧力にて押圧するシリンダ手段(42)が組み込まれ、砥石ホルダ(16)の超仕上げ砥石(41)側が一対のリンク部材(14)から揺動リンク(15)の基部側と平行に突出され、
前記一対の揺動リンク(15)の一方を揺動軸(25)廻りに往復揺動させることにより、砥石ホルダ(16)を超仕上げ砥石(41)先端側の揺動中心(O)廻りにオシレーションさせると共に、前記一方の揺動リンク(15)を揺動軸(25)廻りに角度変更させることにより砥石ホルダ(16)を前記揺動中心(O)廻りに角度変更させてオシレーションの揺動中心角を設定変更するようにした超仕上げユニット(1)を具備した超仕上げ装置であって、
前記一対のリンク部材(14)と平行なX方向と超仕上げ砥石(41)をワーク(W)の溝に向けて前後させるY方向とに超仕上げユニット(1)を移動させる移動機構(2)を具備したことを特徴とする超仕上げ装置。
【請求項9】
前記一対のリンク部材(14)の支持軸(39)を支持する軸受部分に互いに対向する軸受突出部(51)が突出され、前記一方の揺動リンク(15)を揺動軸(25)廻りに大きく揺動したときに、一対のリンク部材(14)の軸受突出部(51)同士がX方向にずれて噛み合うようにしたことを特徴とする請求項8に記載の超仕上げ装置。
【請求項10】
一対のリンク部材(14)のうちの砥石ホルダ(16)の基部側を支持する支持軸(39)に、シリンダ手段(42)に流体を供給するための供給流路(64)が設けられていることを特徴とする請求項8又は9に記載の超仕上げ装置。
【請求項11】
前記供給流路(64)は、支持軸(39)の軸心に穿孔されていてシリンダ手段(42)のシリンダ(43)に連通する第1連通孔(65)と、第1連通孔(65)に連通しかつリンク部材(14)の外面に沿う第2連通孔(66)とをL字状に有し、シリンダ(43)に流体を供給するためのホース(67)が第2連通孔(66)に連結されてリンク部材(14)の長手方向に沿って配置されていることを特徴とする請求項10に記載の超仕上げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2011−218506(P2011−218506A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91442(P2010−91442)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(596066024)西部自動機器株式会社 (11)
【Fターム(参考)】