説明

超伝導量子干渉素子

【課題】超高感度な超伝導量子干渉素子を提供する。
【解決手段】磁束を捕捉するための領域5を開けた二次元電子ガス3に超伝導体電極1,2を接続することにより、超伝導体−二次元電子ガス−超伝導体接合を超高感度な超伝導量子干渉素子として利用することができる。また、ゲート電極4を備える。これにより、超伝導量子干渉素子の臨界電流値ICや抵抗値RNを可変することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超伝導量子干渉素子に関する。
【背景技術】
【0002】
地磁気よりも弱い非常に微弱な磁場を精密に測定できる技術として、超伝導量子干渉素子(SQUID:Superconducting QUantum Interference Device)を用いた計測方法があり、脳磁界計測や存在が予言されている重力波の観測等に用いられている。
【0003】
超伝導量子干渉素子は超伝導体のリングにジョセフソン接合を有する構成であり、ジョセフソン接合を1つ持つ超伝導量子干渉素子をrf−SQUID、ジョセフソン接合を2つ持つ超伝導量子干渉素子をdc−SQUIDと呼んでいる。通常、単にSQUIDと言う場合には、感度の高い点から広く用いられているdc−SQUIDを指すのが一般的である。
【0004】
dc−SQUIDは、超伝導体同士を弱くつなげた時に、それぞれの超伝導体の持つ巨視的位相の差に従った超伝導電流が流れるという直流ジョセフソン効果(DC Josephson effect)を利用している。すなわち超伝導体同士の位相差がθの時に流れる超伝導電流Iの大きさは、I=ICsinθと表される。ここで、ICはジョセフソン接合を流れる最大の超伝導電流で、臨界電流と呼ばれる。
【0005】
図4は、2つのジョセフソン接合を持つdc−SQUID(以下、簡単のため単にSQUIDと記す。なお、rf−SQUIDを示す場合には、rf−SQUIDと厳密に記す。)の構成を示す模式図である。U字型をした2つの超伝導体101,102がA,B点のそれぞれにおいてジョセフソン接合(Josephson junction)により弱くつなげられている。電流端子106から電流を流すと、A点とB点では、それぞれの位相差θAとθBに従った超伝導電流が流れる。このとき、このSQUIDに磁場を加えると、超伝導体101,102中では、マイスナー効果により、磁場は遮断されて、表面の極浅い領域を除いて磁場は進入できないが、超伝導体101,102で囲まれた内側の磁束捕捉領域105には、磁束Φが存在できる。マクスウェルの法則から超伝導体101,102中を一周したときのベクトルポテンシャルの周回積分は、これを貫く磁束(magnetic flux)と等しく、かつ超伝導位相(superconducting phase)は、量子力学的な要請から一意に決まる必要があるために、θA−θB=2πΦ/Φ0となる。ここでは、Φ0は磁束量子と呼ばれ、その大きさは、Φ0=h/2e=20.6gauss/μm2という非常に小さな値である。すなわち、ミクロンオーダーの小さな領域での数ガウスという磁束の変化も容易に検出できる。
【0006】
ジョセフソン効果は、2つの超伝導体を弱く結合させることで発現する。このため、2つの超伝導体の間に細いくびれや段差を形成したり、数ミクロン以下の金属あるいは数十オングストロームという原子十数層の非常に薄い絶縁層を挿入することでジョセフソン接合を形成することができる。絶縁層を挟んだサンドイッチ構造の素子では、超伝導体中のクーパー対(運動量の正反対な2つの電子の対)はトンネル効果により他方の電極に移動するために、トンネル接合あるいは超伝導体(Superconductor)−絶縁体(Insulator)−超伝導体(Superconductor)の頭文字をとりSIS接合と呼ぶ。また、金属(Normal metal)を挟んだ場合には、超伝導体(Superconductor)−金属(Normal metal)−超伝導体(Superconductor)の頭文字をとってSNS接合と呼ぶ。また特に、超伝導体同士が点接触でつながっている接合はポイントコンタクト接合、細いくびれや段差でつながった接合は弱結合素子(weak link)と呼ばれる。広義には、トンネル接合以外のジョセフソン素子は弱結合素子に分類される。
【0007】
SQUIDが高感度で動作するには、図4のジョセフソン接合A,Bが同じ特性を持つこと(臨界電流値ICや接合抵抗値RNが同一であること)が必要であり、かつ通常電圧変化を用いて磁束の変化を取り出すために、接合の抵抗値は大きい方が良い。これに素子の機械的、経年変化での安定性、周辺回路を含めた作製プロセスの容易さを考慮すると、トンネル接合を用いたSQUIDが一番適している。このため、現在では、SQUIDという場合、通常はトンネル接合のSQUIDを指す。
【0008】
ただし、トンネル接合は、その素子構造がコンデンサと同じ形状であり、このために弱結合素子に比べて接合容量Cが大きくなる。このため素子を流れる超伝導電流が臨界電流値を超えると、ゼロ電圧状態から電圧状態に遷移し、その後は電流を一度ゼロに戻さない限り、電圧がゼロの状態に戻れないラッチング(latching)という動作を行う。通常、SQUIDは磁場の変化を電圧変化として測定をを行うので、このラッチング動作は望ましくない。このためにトンネル接合を用いたSQUIDでは、電流をバイパスする分岐抵抗R(shunt resistance)をジョセフソン接合と並列に入れる必要がある。現在のニオブ(niobium)を用いたSQUIDでは、約2×10-7Φ0/Hz1/2の感度を達成している(非特許文献1参照)。
【0009】
上述のように、SQUIDは非常に感度が高いが、実際の測定対象となる磁場は数ミリ角あるいはそれ以上の比較的大きな領域を対象としている。しかしSQUID自体は、数十から数百ミクロン角程度の寸法のために大きな領域の磁場の変化を測定するには工夫が必要であった。このため、比較的大きな領域における磁場の変化を検出するためにSQUIDの超伝導体ループと誘導結合するピックアップコイルと呼ばれる二次コイルをつける形態が用いられてきた。このピックアップコイルの形状により、磁場計(magnetometer)や磁場勾配計(gradiometer)という磁場計測器がある。比較的大きな領域における磁場変化の検出には、このような二次コイルを用いる方法が有用であるが、逆にナノサイズの局所的な領域における微小磁場を計測するためには、ピックアップコイルを用いず、SQUIDと被測定物とを直接誘導結合させる方が感度は高くなる。
【0010】
上述のように、SQUIDは磁場の変化を電圧の変化として測定している。このため、SQUIDの感度を決めるのは、電圧のゆらぎがあるときに測定できる磁場の限界で決まる。SQUIDの検出できる最小のエネルギーは、SQUIDのループが持つインダクタンスLとトンネル接合容量Cを用いて、次式で示される。
【数1】

【0011】
ここで、kBはボルツマン定数、Tは絶対温度を表し、Rは分岐抵抗を表している。また、βCは、マッカンバー(McCumber)係数と呼ばれ、
【数2】

【0012】
のときに感度が最大となる。このため、トンネル接合では分岐抵抗Rを調節して
【数3】

【0013】
となるようにしている。式(1)から明らかなように温度が低く、かつインダクタンスLと接合容量Cが小さいほど感度は高くなる。式(1)では、絶対零度T=0Kでは雑音がゼロになるが、実際はSQUIDループを流れる雑音電流による反動を考慮しなければならず、検出エネルギー限界は次式(3)のようにプランク定数の半分となる。
【数4】

【0014】
エネルギー感度を上げるべくインダクタンスLと接合容量Cを小さくするためには、SQUIDのループ寸法を小さくし、かつジョセフソントンネル接合の面積を小さくすればよい。しかしながら、接合面積を小さくすると臨海電流値ICも小さくなるので、分岐抵抗Rを大きくしなければならない。また、接合容量Cを小さくし過ぎると、トンネル接合自体の持つ帯電エネルギーEC=e2/2Cが大きくなり、超伝導電流を担うクーパー対の持つ粒子性が顕著となることで、SQUIDの位相がゆらぎ、検出感度が低下する。
【0015】
このためにトンネル接合の面積は、最小でも500nm角程度にとどめておく必要がある。したがって、ナノメートル寸法のループを持つSQUIDの場合には弱結合素子の方が有利であるとされている(非特許文献2参照)。
【0016】
単一スピン検出可能なSQUIDに課せられる主たる条件としては、式(1)から明らかなように、SQUIDの動作温度Tをできるだけ低くすることと、ジョセフソン接合の接合容量CとSQUIDループのインダクタンスLをできるだけ小さくすることである。トンネル障壁を持たない弱結合ジョセフソン素子では接合容量Cは非常に小さい。インダクタンスLを小さくするためには、SQUIDループを小さくする必要があり、このため必然的にジョセフソン接合自体も小さくなる。
【非特許文献1】D. Koelle, R. Kleiner, F. Ludwig, E. Dantsker and John Clarke, "High-transition-temperature superconducting quantum interference devices", Reviews of Modern Physics, 1999, Vol. 71, No. 3, p.631-633
【非特許文献2】John Gallop, "SQUIDs: some limits to measurement", Superconductor Science and Technology, 2003, Vol. 16, p.1575-1582
【非特許文献3】John Gallop, P. W. Josephs-Franks, Julia Davies, Ling Hao and John Macfarlane, "Miniature dc SQUID devices for the detection of single atomic spin-flips", Physica C, 2002, Vol. 368, p.109-113
【非特許文献4】Sergei V. Sharov, Andrei D. Zaikin, "Influence of parity on the persistent currents of superconducting nanorings", Physical Review B71, 2005, p.014518.1-014518.7
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、弱結合素子の電流特性は素子構造やその寸法に直接的に依存する。現在の最先端のナノテクノロジーを用いてもサブナノサイズでの同一の弱結合素子を製造することは至難の業である。このため従来の弱結合素子においてもSQUIDの特性自体を理論限界に相当する量子測定の領域にまで持っていくことは難しいことが実験的に示されていた。
【0018】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、磁場検出感度を極限まで高めた超高感度な超伝導量子干渉素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係る超伝導量子干渉素子は、ヘテロ構造体に形成された二次元電子ガス層と、二次元電子ガス層に接続する第1、第2の超伝導電極層と、二次元電子ガス層の中央部分を取り除いた領域と、を有することを特徴とする。
【0020】
本発明にあっては、超伝導体−二次元電子ガス−超伝導体接合の二次元電子ガス層の中央部分を取り除くことにより、その中央部分を取り除いた領域において磁束を捕捉する超高感度で微小な超伝導量子干渉素子の提供を可能とする。また、超伝導量子干渉素子ループが小さく、背景磁場雑音の影響を低減することができる。さらに、ピックアップコイルを用いておらず、簡単な構造であるので、他の機能素子との組み合わせが容易である。
【0021】
上記超伝導量子干渉素子において、ヘテロ構造体の上にゲート電極を有することを特徴とする。
【0022】
上記超伝導量子干渉素子において、ヘテロ構造体の側面にゲート電極を有することを特徴とする。
【0023】
上記超伝導量子干渉素子において、ヘテロ構造体は基板上に形成されたものであって、当該基板上のヘテロ構造体を形成した面とは反対の面にゲート電極を有することを特徴とする。
【0024】
上記超伝導量子干渉素子において、ゲート電極に印加した電圧により二次元電子ガス層における2つの電流経路の電気的特性を制御することを特徴とする。
【0025】
本発明にあっては、二次元電子ガス層を形成したヘテロ構造体に対応する位置にゲート電極を配置することにより、二次元電子ガス層のキャリア濃度や平均自由行程を制御することが可能となり、二次元電子ガス層における2つの電流経路の電気的特性を同一にすることができる。よって、超高感度な超伝導量子干渉素子を提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、磁場検出感度を極限まで高めた超高感度な超伝導量子干渉素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について図面を用いて説明する。図1は、本実施の形態における超伝導量子干渉素子の構成を示す斜視図である。
【0028】
同図に示す超伝導量子干渉素子は、超伝導体電極1,2が半導体ヘテロ構造のヘテロ接合面に形成された二次元電子ガス3に接続された超伝導体−二次元電子ガス−超伝導体接合である。二次元電子ガス3の中央部分は取り除かれて、磁束を捕捉する領域5が形成される。領域5を形成することで、超伝導体電極1,2間の電流経路が2つに分かれ、この接合自体が超伝導リングを兼ねて超伝導量子干渉素子として動作する。2つの電流経路に対応するヘテロ構造体の上部にゲート電極4が形成される。通常の金属を用いたSNS接合と異なり、金属の代わりに二次元電子ガス2を用いることで、電流経路の制御、すなわちキャリア濃度や電子の平均自由行程をゲート電極4により制御できる。このゲート電極4により、2つの電流経路における電気的特性を同一とするとともに、最適な臨界電流値IC並びに抵抗値RNを得ることができる。
【0029】
超高感度な超伝導量子干渉素子に要求される条件として、(1)超伝導量子干渉素子の2つのジョセフソン接合のICN積が同一であること、(2)ピックアップコイルを用いないので、検出感度を向上させるために超伝導量子干渉素子のインダクタンスLをできるだけ小さくすること、すなわち超伝導量子干渉素子ループを小さくすること、(3)動作マージンを取るためにはICはできるだけ大きくすること、(4)素子の温度はできるだけ低くすることの4点がある(非特許文献3参照)。これらの条件により、微小磁場の計測に最適な超伝導量子干渉素子のパラメータを計算すると、臨界電流値ICが数ミリアンペア、抵抗値RNが数十オームの状況において最高の感度が得られることがわかる。
【0030】
図2は、本実施の形態における別の超伝導量子干渉素子の構成を示す平面図である。同図に示す超伝導量子干渉素子は、二次元電子ガスが取り除かれた領域5を形成するように、2つの二次元電子ガス3A,3Bをそれぞれ超伝導体電極1,2に接続したものである。
【0031】
図3は、本実施の形態におけるさらに別の超伝導量子干渉素子の構成を示す平面図である。同図に示す超伝導量子干渉素子は、ヘテロ構造体の側面にゲート電極4を形成したものである。このように、ゲート電極4を側面に配置したサイドゲート構造でもジョセフソン接合における抵抗値を調節することができる。また、超伝導体−二次元電子ガス−超伝導体接合を配置した基板(図示せず)の裏面にゲート電極を配置したバックゲート構造も同様に用いることが可能である。
【0032】
次に、超伝導量子干渉素子を構成する部品材料について説明する。超伝導体電極1,2には、酸化物超伝導体を含むどのような超伝導材料でも用いることが可能である。しかしながら、超伝導体と半導体ヘテロ構造との間で良好な接触(オーミック接触)が望まれること、並びに高い臨界温度を持つ材料が適している。このため、単体の元素としては一番高い臨界温度を持つニオブ(Nb)、あるいは半導体ヘテロ構造とぬれが良く、作製の容易なアルミニウム(Al)などの金属超伝導体を用いることができる。また、複合材料超伝導体である窒化ニオブ(NbN)、二ホウ化マグネシウム(MgB2)や酸化物高温超伝導体などを用いることも可能である。
【0033】
超伝導体電極1,2間の二次元電子ガス3の条件として、超伝導体とショットキー障壁のない良好な接触が得られること、二次元電子ガスのキャリア濃度が高いことが望ましいが、基本的にどのような二次元電子ガスでも利用可能である。このため、インジウムヒ素(InAs)のn形表面反転層、インジウムヒ素(InAs)/インジウムヒ素(InAs)のp形InAs表面反転層、インジウムガリウムヒ素(InGaAs)/インジウムアルミニウムヒ素(InAlAs)、インジウムヒ素(InAs)/アルミニウムアンモチン(AlSb)、インジウムヒ素(InAs)/アルミニウムガリウムアンモチン(AlGaSb)、アルミニウム窒化ガリウム(AlGaN)/窒化ガリウム(GaN)などの二次元電子ガス層を持つ半導体ヘテロ構造や、シリコン(Si)/シリコンゲルマニウム(SixGe1-x)を用いた超格子構造、グラファイトの単一原子層であるグラフェーン(graphene)やカーボンナノチューブ、そしてシリコン(Si)の反転層も用いることが可能である。
【0034】
二次元電子ガス3のキャリア濃度を制御するゲート電極4の材料としては、アルミニウム(Al)や金(Au)、接着性の良い金化合物(AuGeNi,AuGe)、あるいはハアニウム(Hf)、チタン(Ti)などの金属を用いることができる。ゲート電極は、二次元電子ガスへのリークがないようにゲート電極の下には絶縁層を配置することが重要である。サイドゲートを用いる場合には、側面からのリークを防ぐように絶縁層を置く、ないしは、側面に接触しないような構造にする。
【0035】
次に、超伝導量子干渉素子のサイズについて説明する。単一スピンの検出感度は、二次元電子ガスの長辺の大きさrと式(1)のエネルギー検出感度εに比例する。抵抗値Rと臨界電流値ICを式(2)を満たす状態に最適化した場合、r=1μmで10スピン、r=100nmで0.5スピンと計算できる。他の雑音の影響に対して、最高検出感度の5倍程度の許容が必要であることを考慮すると、最適な寸法は、r=50nm程度、接合の抵抗値R=20−30Ω、臨界電流値IC=2μA程度が望ましい値として計算される。このため二次元電子ガス層のサイズは150×200nm程度となる。
【0036】
次に、本超伝導量子干渉素子の利用例について説明する。
【0037】
本超伝導量子干渉素子は、単一スピンの変化を検出できるほどの高感度であり、スピントランジスタやスピンFETによって生成されたスピン電流の読み出し・検出器として利用することができる。検出感度を高めるためには、被測定物を磁束を検出する領域5に配置することが必要である。また、配置場所も中心ではなく、四隅のどちらかにずれた位置の方が感度が高くなることがシミュレーションにより明らかとなっている。被測定対象物としては、半導体に限らず、単分子磁石やナノ磁石などの磁性体、分子あるいは低次元超伝導体、有機分子、タンパク質やニューロンなどのバイオ関連物質など様々な材料に対して用いることができる。
【0038】
測定対象物がナノサイズの材料である場合には、構成原子・分子の持つ固有の量子力学的な状態が発現していることが想定され、計測による被測定物の量子状態の変化が懸念される。本超伝導量子干渉素子では、測定感度をゲート電圧の可変により自由に変えることができるので、被測定物の量子状態を壊さないような条件での測定も可能である。また、ゲート電圧の変化に対するキャリア濃度の変化は、二次元電子ガス層自体の寸法が小さいために高速応答可能であり、数十ギガヘルツでの動作も可能であると考えられ、高速な測定を実現できる。
【0039】
また、測定温度領域を変更した場合でも、ゲート電圧の可変により最も高い感度に合わせることが可能である。
【0040】
本超伝導量子干渉素子は、超伝導磁束ビット素子、超伝導位相量子素子やスピンビット素子などの量子ビットの読み出し方法として用いることができる。量子ビットの読み出しとして利用する場合、ゲート電圧の可変により必要なときだけ量子ビットと相互作用を起こし測定することができる。このため量子ビットに及ぼす影響を最小限にとどめることができる。
【0041】
本超伝導量子干渉素子を原子間力顕微鏡(AFM)や走査型トンネル顕微鏡(STM)等の走査型プローブ顕微鏡(SPM)と組み合わせることで、対象物を走査しながら微小磁束の検出を行うことができる。走査型プローブ顕微鏡と組み合わせることで、測定領域が微小領域に限られる欠点を補うことができる。
【0042】
変動する磁束電流ないしはスピン電流がある場合には、本超伝導量子干渉素子を、その信号の変化を電圧として増幅するスピン増幅器として利用することができる。この場合、検出信号のダイナミックレンジは、超伝導量子干渉素子を構成する材料の超伝導エネルギーギャップの大きさとバイアス点に依存する。
【0043】
超伝導体リングの一部に金属を挟んだSNSリングでは、リングを流れる超伝導電流が数チャネルであると永久電流が流れ、その大きさは流れている電子のパリティに依存することが理論的に予想されている(非特許文献4参照)。
【0044】
ゲート電圧を加え、本超伝導量子干渉素子を流れる超伝導電流が二次元電子ガスの1ないし数チャネルだけを利用して流れるようにし、入力電流をゼロにした場合、二次元電子ガス領域に永久電流が流れることが予想される。この場合、非特許文献4で示されているように、永久電流は、電子の数のパリティ(奇数、偶数)に大きく依存する。すなわち、電子が偶数個の場合には永久電流が流れるが、奇数個の場合には永久電流はゼロとなる。このパリティ効果は磁場の影響は受けない。したがって、このパリティ効果を利用して電子1個の出入りを検出できる高感度の電流計を実現することができる。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態によれば、磁束を捕捉するための領域5を開けた二次元電子ガス3に超伝導体電極1,2を接続することにより、超伝導体−二次元電子ガス−超伝導体接合を超高感度な超伝導量子干渉素子として利用することができる。また、超伝導量子干渉素子ループ自体が小さいため、背景磁場雑音の影響が小さくなり、相対的な磁場雑音を低減できる。
【0046】
本実施の形態によれば、ゲート電極4を備えることにより、超伝導量子干渉素子の臨界電流値ICや抵抗値RNを可変することができる。
【0047】
本実施の形態によれば、大きな寸法のピックアップコイルを用いておらず、比較的単純な作製プロセスであることから、小さな寸法に収まり、他の量子素子と組み合わせて製作することが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】一実施の形態における超伝導量子干渉素子の構成を示す斜視図である。
【図2】一実施の形態における別の超伝導量子干渉素子の構成を示す平面図である。
【図3】一実施の形態におけるさらに別の超伝導量子干渉素子の構成を示す平面図である。
【図4】従来の超伝導量子干渉素子の構成を示す平面図である。
【符号の説明】
【0049】
1,2…超伝導体電極
3,3A,3B…二次元電子ガス
4…ゲート電極
5…磁束捕捉領域
101,102…超伝導体
105…磁束捕捉領域
106…電流端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロ構造体に形成された二次元電子ガス層と、
前記二次元電子ガス層に接続する第1、第2の超伝導電極層と、
前記二次元電子ガス層の中央部分を取り除いた領域と、
を有することを特徴とする超伝導量子干渉素子。
【請求項2】
前記ヘテロ構造体の上にゲート電極を有することを特徴とする請求項1記載の超伝導量子干渉素子。
【請求項3】
前記ヘテロ構造体の側面にゲート電極を有することを特徴とする請求項1記載の超伝導量子干渉素子。
【請求項4】
前記ヘテロ構造体は基板上に形成されたものであって、当該基板上の前記ヘテロ構造体を形成した面とは反対の面にゲート電極を有することを特徴とする請求項1記載の超伝導量子干渉素子。
【請求項5】
前記ゲート電極に印加した電圧により前記二次元電子ガス層における2つの電流経路の電気的特性を制御することを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の超伝導量子干渉素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−224390(P2009−224390A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64490(P2008−64490)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】