説明

超広帯域無線通信装置

【課題】10GHz程度の超広帯域を簡易な構成で利用可能とすることで、短距離高速通信を低価格で実現可能とする超広帯域無線通信装置を提供する。
【解決手段】 クロック153aをクロック152aより所定時間だけ遅らせることで、入出力処理部153は入出力処理部152より所定時間だけ遅れて動作するようにしている。バイアス手段154は、入出力処理部153からトリガ信号22が入力されると、これに一定のバイアスを付加している。コンパレータ155は、入出力処理部152からトリガ信号21を入力するとともに、バイアス手段154からバイアスが付加されたトリガ信号22を入力し、トリガ信号21がトリガ信号22よりも大きいときだけ、所定の出力を行うよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超広帯域を利用して短距離無線通信を行う超広帯域無線通信装置の技術分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、新しいコンセプトの無線通信技術として、500MHz乃至数GHzの帯域幅を利用した超広帯域無線システムであるUWB(Ultra Wide Band)無線通信システムが注目されている。
【0003】
UWBは、広帯域を利用することでパルス幅がナノ秒程度かそれ以下の超短パルス波を用いたインパルス無線方式である。パルスを用いた無線通信システムでは、パルス幅が狭くなるほど平均送信電力が小さくなり、到達距離も短くなる。そのため、広帯域化してパルス幅を狭めるほど、同じ周波数帯を使う他の無線機器との混信の可能性を低減させることが可能となり、消費電力も少なくなるという特徴がある。
【0004】
UWBは、その出力が極めて低いことから短距離の通信に好適な通信方式であり、ワイヤレスUSBの通信方式等に利用されている(特許文献1)。ワイヤレスUSBは高々1Gbps程度を極近距離で通信することを目的としており、1GHz程度の広帯域を利用することで機器間の距離が3m以内の場合には有線のUSB2.0と同等の480Mbpsでの高速通信を可能としており、また10m離れた場合でも110Mbpsを確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−186940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のUWBを用いた通信方式で実現できる通信速度は、高々1Gbps程度までであり、さらに高速なデータ通信を実現するためには、シャノンの定理からも明らかなように、利用する帯域をさらに拡大する必要がある。しかし、さらに帯域を拡大して10GHz程度の超広帯域を実現するためには、従来は、光学的インパルス生成を利用するか、InPなどの高価な半導体材料を用いる必要があった。そのため、10GHz程度の超広帯域を利用した無線通信装置を低価格で実現することができない、といった問題があった。
【0007】
そこで、本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、10GHz程度の超広帯域を簡易な構成で利用可能とすることで、短距離高速通信を低価格で実現可能とする超広帯域無線通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の超広帯域無線通信装置の第1の態様は、所定ビット数からなる送信データのビット値に対応してトリガ信号を出力する演算制御部と、前記演算制御部から前記トリガ信号を入力して送信信号を生成する送信信号生成部と、前記送信信号を送信する送信アンテナと、所定の受信波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信した前記受信波を入力して所定の受信信号を検波する受信信号処理部と、前記受信信号処理部からの信号を入力して受信データを判定する受信データ判定部とを備えた超広帯域無線通信装置であって、前記送信信号生成部は、前記送信信号として、前記トリガ信号の立ち上がりから所定時間だけ出力される超広帯域インパルス信号を生成することを特徴とする。
【0009】
本発明の超広帯域無線通信装置の他の態様は、前記演算制御部は、前記送信データに従ってそれぞれ前記トリガ信号を出力する入出力処理部を2つ備え、前記入出力処理部の一方が他方より前記所定時間だけ遅れて前記トリガ信号を出力するように構成され、前記送信信号生成部は、前記一方の入出力処理部から前記トリガ信号を入力して一定のバイアスを付加するバイアス手段と、前記他方の入出力処理部から入力した前記トリガ信号と前記バイアス手段の出力とを比較して前記他方の入出力処理部から入力した前記トリガ信号が前記バイアス手段の出力より大きくなる前記所定時間だけ前記超広帯域インパルス信号を出力するコンパレータを備えることを特徴とする。
【0010】
本発明の超広帯域無線通信装置の他の態様は、前記演算制御部は、前記トリガ信号として、前記送信データに従って生成されたポジティブ信号と極性が前記ポジティブと反対のネガティブ信号とを出力する入出力処理部を備え、前記送信信号生成部は、前記入出力処理部から前記ネガティブ信号を入力して一定のバイアスを付加するバイアス手段と、前記バイアス手段の出力を所定の遅延時間だけ遅延させる遅延手段と、前記ポジティブ信号と前記遅延手段の出力とを比較して前記ポジティブ信号が前記遅延手段の出力よりも大きくなる前記所定時間だけ前記超広帯域インパルス信号を出力するコンパレータと、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の超広帯域無線通信装置の他の態様は、前記遅延時間は、前記トリガ信号のパルス幅に前記所定時間を加算した時間に略等しいことを特徴とする。
【0012】
本発明の超広帯域無線通信装置の他の態様は、前記バイアスは、前記バイアスを付加しない信号がその立上がり時に前記所定時間だけ前記バイアスを付加した信号より大きくなるように決定していることを特徴とする。
【0013】
本発明の超広帯域無線通信装置の他の態様は、前記超広帯域インパルス信号は、1GHzを超える広帯域を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、10GHz程度の超広帯域を利用したインパルスを簡易な構成で生成することで、数Gbps程度の短距離高速通信を低価格で実現できる超広帯域無線通信装置を提供することが可能となる。また、超広帯域化により電力スペクトル密度を低減することで、他システムへの干渉を低減した近距離高速通信を容易に実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超広帯域無線通信装置の構成を示すブロック図である。
【図2】信号生成部で生成される送信信号の周波数スペクトルの一例を示す図である。
【図3】第1の実施形態の受信データ判定部の構成を示す図である。
【図4】第1の実施形態の演算制御部及び送信信号生成部の構成を示すブロック図である。
【図5】入出力処理部から出力されるトリガ信号を模式的に示す図である。
【図6】コンパレータに入力されるトリガ信号の一例を示す図である。
【図7】第2の実施形態の演算制御部及び送信信号生成部の構成を示すブロック図である。
【図8】遅延回路により所定の遅延時間が付加されたトリガ信号を、ポジティブ信号からなるトリガ信号と比較して模式的に示す図である。
【図9】第3の実施形態の演算制御部及び送信信号生成部の構成を示すブロック図である。
【図10】入出力処理部から出力されるトリガ信号の一例を示す図である。
【図11】第4の実施形態の演算制御部及び送信信号生成部の構成を示すブロック図である。
【図12】入出力処理部から出力される送信ビット列の一例を示す図である。
【図13】入出力処理部からの出力及びコンパレータからの出力を加算した合波器の出力の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の好ましい実施の形態における超広帯域無線通信装置について、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0017】
本発明の超広帯域無線通信装置は、10GHz程度の超広帯域を利用して生成したインパルスを通信用の信号に用いており、これにより数Gbps程度の短距離高速通信を可能としている。また、このような超広帯域なインパルスを簡易な構成で生成可能としている。
【0018】
本発明の第1の実施の形態に係る超広帯域無線通信装置の構成を、図1に示すブロック図を用いて説明する。本実施形態の超広帯域無線通信装置100は、送信データの入力及び受信データの出力を行うデータ入出力部101と、送信データをもとに所定のインパルスからなる送信信号を要求するトリガ信号を作成する演算制御部111と、演算制御部111からトリガ信号を入力して広帯域インパルスからなる送信信号を生成する信号生成部120と、送信信号を送信するための送信アンテナ131と、所定の受信波を受信するための受信アンテナ132と、受信波を検波するための受信信号処理部140と、受信信号処理部140から受信波を入力して受信データを判定する受信データ判定部112とを備えている。
【0019】
本実施形態では、送信データの入力及び受信データの出力を行うデータ入出力部101を設けた構成としているが、外部からの送信データの入力を演算制御部111で行い、受信データの外部への出力を受信データ判定部112で行うようにしてもよい。あるいは、受信データを受信データ判定部112から演算制御部111に出力し、演算制御部111において外部あるいはデータ入出力部101と送受信データの入出力を行わせるようにしてもよい。
【0020】
また、図1に示す超広帯域無線通信装置100では、演算制御部111と受信データ判定部112とをまとめて通信データ処理部110とする構成としているが、ハードウェアの構成等によって適宜変更できる。
【0021】
信号生成部120は、演算制御部111からトリガ信号を入力して所定のインパルス信号を生成する送信信号生成部121と、送信信号生成部121で生成されたインパルス信号を波形整形するバンドパスフィルタ(BPF)122と、BPF122で波形整形されたインパルス信号を増幅する増幅器123とを備えた構成としている。
【0022】
信号生成部120で生成される送信信号の周波数スペクトルの一例を図2に示す。送信信号生成部121で生成されるインパルス信号は、図2(a)に示すように、例えば10GHz程度の広帯域なスペクトルを有するベースバンドのインパルス信号である。BPF122は、このようなインパルス信号を、例えば図2(b)のように波形整形する。図2(b)では、送信信号生成部121で生成されたインパルス信号の低周波成分を低減している。図2(b)のように波形整形されたインパルス信号は、増幅器123で所定のパワーレベルまで増幅され、送信信号として送信アンテナ131から送信される。
【0023】
なお、本実施形態の信号生成部120は、ベースバンドで生成したインパルス信号を用いて送信信号を生成したが、ベースバンドで生成したインパルス信号を所定の高周波帯域までアップコンバートしたものを送信信号に用いるように構成することも可能である。この場合でも、インパルス信号の帯域は10GHz程度の広帯域とするのがよい。
【0024】
次に、受信アンテナ132で受信された受信波は、受信信号処理部140に入力され、ここで受信波の検波が行われる。受信信号処理部140に入力された受信波は、まず増幅器141で増幅された後、BPF142で所定の帯域にろ波される。送信信号の帯域を図2に示すような10GHz程度とした場合には、BPF142では10GHz程度の受信波をろ波させるようにする。
【0025】
また、ベースバンドで生成したインパルス信号を所定の高周波電波でアップコンバートして送信している場合には、所定の周波帯域までダウンコンバートするか、或いはダイオードなどを用いて包絡線検波する必要がある。BPF142は、アップコンバート前のインパルス信号と同じ周波数帯をろ波するように設定しておくものとする。
【0026】
検波部143は、BPF142でろ波された受信波を入力して受信波を検波する。ここで検波された各受信波は、通信データ処理部110の受信データ判定部112に出力され、ここで受信データを判定するための処理が行われる。
【0027】
受信データ判定部112の構成を図3に示す。受信データ判定部112は、相関回路112aとデータ変換部112bとから構成されており、検波部143から入力した受信波は、まず相関回路112aで所定の閾値判定が行われ、インパルスの検知が行われる。
【0028】
相関回路112aは、コンパレータ161と閾値設定部162とを備えており、検波部143から入力した受信波と閾値設定部162で設定されている閾値とがコンパレータ161に入力される。コンパレータ161は、入力した受信波からインパルスを検知するものであり、入力信号を閾値設定部162から入力した閾値と比較し、入力信号が閾値を超える場合には’1’に相当する信号を、また閾値を超えない場合には’0’に相当する信号を、それぞれデータ変換部112bに出力するよう構成されている。
【0029】
データ変換部112bは、コンパレータ161から所定ビット数のシリアルデータである受信信号を入力すると、これを入出力処理部163でパラレルデータに変換している。データ変換部112bでは、パラレル変換したデータに対し必要な処理を行って受信データに変換するが、ここでは、10ビットで受信したデータを8ビットに変換する処理を8B10B変換部164で行う例を示している。この処理は演算制御部111にて、送信データに8B10B変換を行っている場合である。8B10B変換部164で行う処理は、送信部の8B10B変換で8ビットから10ビットに変換されたデータを、再び8ビットに戻して受信データを復元する処理となる。
【0030】
8B10B変換部164で復元された受信データは、入出力処理部165で再びシリアルデータに変換されてデータ入出力部101に出力される。なお、本実施形態では、データ変換部112bの8B10B変換部164でデータ変換を行う例を説明したが、コンパレータ161から出力される受信信号に対し、データ変換等の処理が必要ない場合には、データ変換部112bを設けず、コンパレータ161から直接データ入出力部101等に出力させるようにしてもよい。
【0031】
シリアルデータをパラレルデータに変換する入出力処理部163、及びパラレルデータをシリアルデータに変換する入出力処理部165には、シリアライザ・デシリアライザ(SERDES)を用いることができる。SERDESは高速のデータ転送が可能であり、例えばSEDESを搭載したFPGA(Field Programmable Gate Array)を用いてデータ変換部112bを構成することができる。
【0032】
本実施形態の超広帯域無線通信装置100では、送信信号生成部121が演算制御部111からトリガ信号を入力すると、このトリガ信号の立ち上がり時の高周波成分を利用して超広帯域インパルス信号を発生している。トリガ信号の立ち上がりを利用して超広帯域インパルス信号を発生するよう構成された本実施形態の演算制御部111及び送信信号生成部121を、図4を用いて説明する。図4は、本実施形態の演算制御部111及び送信信号生成部121の構成を示すブロック図である。
【0033】
演算制御部111では、データ入出力部101から所定ビット数のシリアルデータである送信データを入力すると、これを入出力処理部151でパラレルデータに変換したのち、このパラレルデータを入出力処理部152と153に供給している。入出力処理部152と153は、それぞれクロック152aと153aで動作が制御されるよう構成されており、入出力処理部151からパラレル変換された送信データを受け取ると、これをシリアル変換してそれぞれのクロックに従ってトリガ信号を出力する。
【0034】
また、本実施形態では、クロック153aをクロック152aより所定時間だけ遅らせており、これにより入出力処理部153は入出力処理部152より所定時間だけ遅れて動作するようにしている。その結果、入出力処理部152と153とが入出力処理部151から同時に送信データを入力しても、入出力処理部153から出力されるトリガ信号は、入出力処理部152から出力されるトリガ信号より常に所定時間だけ遅れて出力されることになる。
【0035】
入出力処理部152及び153から出力されるトリガ信号を模式的に図5に示す。同図では、入出力処理部153から出力されるトリガ信号22が入出力処理部152から出力されるトリガ信号21より遅延時間100psだけ遅延して出力されることを示している。この遅延時間は、送信信号に用いるインパルスのパルス幅に略等しく設定されている。
【0036】
入出力処理部152と153とから出力される2つのトリガ信号21、22は、ともに送信信号生成部121に出力される。送信信号生成部121は、バイアス手段154とコンパレータ155とを備えている。バイアス手段154は、入出力処理部153からトリガ信号22が入力されると、これに一定のバイアスを付加している。
【0037】
コンパレータ155は、入出力処理部152からトリガ信号21を入力するとともに、バイアス手段154からバイアスが付加されたトリガ信号22を入力し、トリガ信号21がトリガ信号22よりも大きいときだけ、所定の出力を行うよう構成されている。コンパレータ155に入力されるトリガ信号21、22の一例を図6に示す。トリガ信号22にはバイアス手段154で所定のバイアスが付加されているため、同図(a)に示すように、大部分の区間においてトリガ信号22がトリガ信号21より大きくなっており、この間はコンパレータ155からの出力はない。
【0038】
これに対し、トリガ信号21が立ち上がる符号30の時点では、トリガ信号21がトリガ信号22より大きくなっており、この間のみコンパレータ155からの出力が発生する。その結果、図6(b)に示すようなインパルスが生成される。このように、本実施形態では、トリガ信号の立ち上がりを利用してインパルスを生成し、これを送信信号に用いている。コンパレータ155から出力されるインパルスのパルス幅は、クロック152aと153aとの時間差である遅延時間100psに略等しくなっており、これにより帯域幅10GHz程度の広帯域なインパルスを生成している。
【0039】
本実施形態の超広帯域無線通信装置100では、図4に示したような簡易な構成の演算制御部111及び送信信号生成部121により、10GHz程度の広帯域なインパルスを容易に生成することができ、これを送受信信号に用いることにより、数Gbps程度の短距離高速通信を実現することが可能となっている。また、インパルスのパルス幅を決定する遅延時間を、クロック152aと153aとの時間差で設定しており、これはディジタル的に行われることから、安定した遅延時間を実現することができる。
【0040】
本発明の第2の実施形態にかかる超広帯域無線通信装置を以下に説明する。第2の実施形態では、送信信号に用いるインパルスの生成方法が第1の実施形態と異なっている。本実施形態の演算制御部211及び送信信号生成部221の構成を、図7を用いて説明する。図7は、本実施形態の演算制御部211及び送信信号生成部221の構成を示すブロック図である。
【0041】
演算制御部211では、データ入出力部101から送信データを入力すると、これを入出力処理部251でパラレルデータに変換したのち、このパラレルデータを入出力処理部252に供給している。入出力処理部252は、入出力処理部251からパラレル変換された送信データを受け取ると、これをシリアル変換してトリガ信号を出力するが、さらにこのトリガ信号とは極性が逆の信号も併せて出力することが可能となっている。すなわち、入出力処理部252は極性が正のポジティブ信号と極性が負のネガティブ信号の2つの信号を出力することが可能となっている。入出力処理部252のこのような機能は、例えばLVDS(Low Voltage Differetial Signal)のような出力を持つSERDESを用いて実現することができる。
【0042】
本実施形態では、送信信号に用いるインパルスを生成するためのトリガ信号として、入出力処理部252から極性が逆で対称なポジティブ信号とネガティブ信号の2つを出力させるようにしている。ポジティブ信号とネガティブ信号は、クロック252aに従って同時に出力され、送信信号生成部221に入力される。
【0043】
本実施形態の送信信号生成部221は、バイアス手段253、遅延回路254、及びコンパレータ255を備えている。入出力処理部252から入力したポジティブ信号はコンパレータ255に直接入力され、ネガティブ信号はバイアス手段253に入力される。バイアス手段253は、入力したネガティブ信号に所定のバイアスを付加している。
【0044】
バイアス手段253でバイアスが付加された信号は、次に遅延回路254に入力され、ここで所定の遅延時間が付加される。バイアスが付加された信号は、ポジティブ信号とは対称な波形となっており、トリガ信号のパルス幅分だけずれた波形となっている。そこで、遅延回路254で付加する遅延時間として、トリガ信号のパルス幅分とインパルス生成のための遅延時間とを加えた時間を設定する必要がある。
【0045】
入出力処理部252のトリガ信号の繰り返し周波数を1GHzとしたとき、1パルス幅の時間は500psとなり、これにインパルス生成に必要な遅延時間100psを加算すると、遅延回路253による遅延時間は600psとなる。遅延回路253により所定の遅延時間が付加されたトリガ信号を、ポジティブ信号からなるトリガ信号と比較して模式的に図8に示す。同図において、ポジティブ信号からなるトリガ信号を符号23で示し、遅延時間が付加されたトリガ信号を符号24で示している。なお、同図で符号24’はネガティブ信号を示している。
【0046】
遅延回路254で所定の遅延時間を付加された信号は、コンパレータ255に入力され、ポジティブ信号と比較される。そして、ポジティブ信号が遅延回路253から入力した信号よりも大きくなる期間だけコンパレータ255から出力が行われる。遅延時間を図8に示すように設定したことにより、100ps程度の期間だけコンパレータ255から出力が行われ、10GHz程度の広帯域なインパルスが生成される。
【0047】
本実施形態では、1つの入出力処理部252だけからトリガ信号を出力させるように構成したことから、本実施形態の超広帯域無線通信装置の構成をさらに簡略にすることができる。なお、遅延時間がやや長くなることから、これを例えばアナログ遅延線を用いて実現する場合には、遅延線を長くする必要がある。
【0048】
本発明の第3の実施形態にかかる超広帯域無線通信装置を以下に説明する。第3の実施形態でも、送信信号に用いるインパルスを第1の実施形態及び第2の実施形態と異なる生成方法で実現している。本実施形態の演算制御部311及び送信信号生成部321の構成を、図9を用いて説明する。図9は、本実施形態の演算制御部311及び送信信号生成部321の構成を示すブロック図である。
【0049】
演算制御部311では、データ入出力部101から送信データを入力すると、これを入出力処理部351でパラレルデータに変換したのち、このパラレルデータを入出力処理部352に供給している。入出力処理部352は、入出力処理部351からパラレル変換された送信データを受け取ると、これをシリアル変換してトリガ信号を出力しているが、さらにトリガ信号の高周波成分を増大させて出力させるようにしている。
【0050】
このような機能は、入出力処理部352として例えばSERDESを用いた場合、SERDESのプリエンファシス(Pre−Emphasis)機能を用いて実現することができる。入出力処理部352から出力されるトリガ信号の一例を図10に示す。トリガ信号の高周波成分を増大させることで、トリガ信号の立ち上がり時に高いピークを出現させることができる。
【0051】
本実施形態の送信信号生成部321は、閾値設定部353及びコンパレータ354を備えている。入出力処理部352から入力されたトリガ信号は、コンパレータ354に入力されて閾値設定部353で設定された所定の閾値(図10の符号31)と比較される。コンパレータ354は、トリガ信号が閾値設定部353で設定された閾値よりも大きくなる期間だけ出力を行うよう構成されている。本実施形態では、トリガ信号の立ち上がり時に出現する高いピークのみでインパルスを生成させるように閾値設定部353の閾値31を設定しており、トリガ信号の立ち上がり時の高周波成分でインパルスを生成するようにすることで、広帯域なインパルスの生成を実現している。
【0052】
本実施形態では、入出力処理部352から高周波成分を増大させたトリガ信号を出力させるようにすることで、トリガ信号の立ち上がり時の高周波成分でインパルスを出力させるように構成したことから、本実施形態の超広帯域無線通信装置の構成を簡略にすることができる。また、閾値設定部353で設定する閾値を調整するだけで、生成するインパルスのパルス幅をある程度調整することができる。
【0053】
本発明の第4の実施形態にかかる超広帯域無線通信装置を以下に説明する。第4の実施形態でも、送信信号に用いるインパルスを第1の実施形態から第3の実施形態のいずれとも異なる生成方法で実現している。本実施形態の演算制御部411及び送信信号生成部421の構成を、図11を用いて説明する。図11は、本実施形態の演算制御部411及び送信信号生成部421の構成を示すブロック図である。
【0054】
演算制御部411では、データ入出力部101から送信データを入力すると、これを入出力処理部451でパラレルデータに変換したのち、このパラレルデータを入出力処理部452に供給している。この際に、8B10Bなどの処理を行っても良い。また、演算制御部411には記憶部453が備えられており、送信データと同じビット数だけ’1’と’0’とを順次配列した第1固定値と、同じく’0’と’1’とを順次配列した第2固定値が記憶されている。
【0055】
演算制御部411の出力側には、入出力処理部452に加えて入出力処理部454、455が設けられており、入出力処理部454には記憶部453から第1固定値が、また入出力処理部455には記憶部453から第2固定値がそれぞれ入力される。入出力処理部454、455のそれぞれの出力を、コンパレータ457、458にそれぞれ入力し、閾値設定部457a、458aに設定された閾値と比較することで、各コンパレータから1ビットおきにインパルスを発生させている。ここでは、本発明の第3の実施形態を用いてインパルスを生成しているが、第1および第2の実施形態を利用してインパルスを生成することも出来る。また、コンパレータ457と458とから出力されるインパルスを併せると、1ビット毎にインパルスが発生していることになる。
【0056】
入出力処理部452からの図12に示されるビット列、及びコンパレータ457、458からの出力を合波器459に入力して加算することにより、合波器459からの出力は図13のようになる。すなわち、コンパレータ457と458とで生成された1ビット毎のインパルスの大きさが、入出力処理部452から’1’に相当するトリガが出力されているときにはさらに増大される。閾値設定部456aに設定する閾値を図13に示す閾値32とすることにより、送信データに相当するインパルス列がコンパレータ456から出力されるようにすることができる。
【0057】
上記の通り本発明によれば、10GHz程度の超広帯域を利用したインパルスを簡易な構成で生成することで、数Gbps程度の短距離高速通信を低価格で実現できる超広帯域無線通信装置を提供することが可能となる。本発明では、トリガ信号の立ち上がりを利用してインパルスを生成し、これを送信信号に用いている。また、超広帯域化により電力スペクトル密度を低減することで、他システムへの干渉を低減した近距離高速通信を容易に実現することが可能となる。
【0058】
なお、本実施の形態における記述は、本発明に係る超広帯域無線通信装置の一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における超広帯域無線通信装置の細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0059】
100 超広帯域無線通信装置
101 データ入出力部
110 通信データ処理部
111、211、311、411 演算制御部
112 受信データ判定部
120 信号生成部
121、221、321、421 送信信号生成部
122、142 BPF
123、141 増幅器
131 送信アンテナ
132 受信アンテナ
140 受信信号処理部
143 検波部
151、152、153、163、165、251、252、351、352,451、452、454、455 入出力処理部
164 8B10B変換部
154、253 バイアス手段
155、161、255、354、456、457、458 コンパレータ
162、353 閾値設定部
453 記憶部
254 遅延回路
459 合波器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定ビット数からなる送信データのビット値に対応してトリガ信号を出力する演算制御部と、前記演算制御部から前記トリガ信号を入力して送信信号を生成する送信信号生成部と、前記送信信号を送信する送信アンテナと、所定の受信波を受信する受信アンテナと、前記受信アンテナで受信した前記受信波を入力して所定の受信信号を検波する受信信号処理部と、前記受信信号処理部からの信号を入力して受信データを判定する受信データ判定部とを備えた超広帯域無線通信装置であって、
前記送信信号生成部は、前記送信信号として、前記トリガ信号の立ち上がりから所定時間だけ出力される超広帯域インパルス信号を生成する
ことを特徴とする超広帯域無線通信装置。
【請求項2】
前記演算制御部は、前記送信データに従ってそれぞれ前記トリガ信号を出力する入出力処理部を2つ備え、
前記入出力処理部の一方が他方より前記所定時間だけ遅れて前記トリガ信号を出力するように構成され、
前記送信信号生成部は、前記一方の入出力処理部から前記トリガ信号を入力して一定のバイアスを付加するバイアス手段と、前記他方の入出力処理部から入力した前記トリガ信号と前記バイアス手段の出力とを比較して前記他方の入出力処理部から入力した前記トリガ信号が前記バイアス手段の出力より大きくなる前記所定時間だけ前記超広帯域インパルス信号を出力するコンパレータを備える
ことを特徴とする請求項1に記載の超広帯域無線通信装置。
【請求項3】
前記演算制御部は、前記トリガ信号として、前記送信データに従って生成されたポジティブ信号と極性が前記ポジティブと反対のネガティブ信号とを出力する入出力処理部を備え、
前記送信信号生成部は、前記入出力処理部から前記ネガティブ信号を入力して一定のバイアスを付加するバイアス手段と、前記バイアス手段の出力を所定の遅延時間だけ遅延させる遅延手段と、前記ポジティブ信号と前記遅延手段の出力とを比較して前記ポジティブ信号が前記遅延手段の出力よりも大きくなる前記所定時間だけ前記超広帯域インパルス信号を出力するコンパレータと、を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の超広帯域無線通信装置。
【請求項4】
前記遅延時間は、前記トリガ信号のパルス幅に前記所定時間を加算した時間に略等しい
ことを特徴とする請求項3に記載の超広帯域無線通信装置。
【請求項5】
前記バイアスは、前記バイアスを付加しない信号がその立上がり時に前記所定時間だけ前記バイアスを付加した信号より大きくなるように決定している
ことを特徴とする請求項2または請求項3に記載の超広帯域無線通信装置。
【請求項6】
前記超広帯域インパルス信号は、1GHzを超える広帯域を有している
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の超広帯域無線通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−135038(P2012−135038A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−53768(P2012−53768)
【出願日】平成24年3月9日(2012.3.9)
【分割の表示】特願2007−81452(P2007−81452)の分割
【原出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】