説明

超電導ケーブル

【課題】プーリングアイをケーブル本体に好適に接続することで、超電導導体及び断熱管に張力を加えることなく布設可能な超電導ケーブルを提供する。
【解決手段】内管121と外管122とを有する断熱管120と、内管121の内側に収納されたケーブルコア110とを備え、さらに内管121の外表面にテンションメンバー140を配置している。プーリングアイ130には、テンションメンバー140と外管122とが接続されており、テンションメンバー140は、断熱管120の可撓性を損なわないよう、プーリングアイ130が接続された側の端部のみで内管121に固定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブルの技術分野に関し、特に管路や洞道内への布設に好適な超電導ケーブルの技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブルは、例えば発電所から需要地まで電力を送る送電線の一部に使用されており、特に都市部近郊の地中施設(管路、洞道)に布設されるケースが多い。従来の超電導ケーブルの一例を図8に示す。同図に示すように、超電導ケーブル900は、フォーマ911、超電導導体912、電気絶縁層913及び保護層914を備えたケーブルコア910と、これを内部に収納する断熱管920とから構成されている。
【0003】
断熱管920は、二本の可撓性同軸管をそれぞれ内管921と外管922とし、この内管921と外管922との間に断熱層923を配置して構成されている。ケーブルコア910が冷却されているときは、内管921と外管922とで形成された空間が真空引きされて断熱性が高められている。
【0004】
超電導ケーブル900が使用可能となる超電導状態では、ケーブルコア910と断熱管920の内管921との間の空間が液体窒素等の冷媒で充填され、これによりケーブルコア910及び内管921が極低温状態に冷却されている。このような冷却状態では、ケーブルコア910が熱収縮しているが、ケーブルコア910に過大な張力がかかった状態にならないよう、断熱管920の内管921及び外管922には波付け加工を施して高い可撓性を持たせている。
【0005】
上記のような構成の超電導ケーブルを管路などの地中部に布設する際には、超電導ケーブルの先端にプーリングアイと呼ばれる金具を取り付け、これにロープなどを取り付けて数百mの長さにわたって管路や洞道に引き込む方法がとられる。このとき、超電導ケーブルの先端には大きな張力が加わるため、超電導導体が損傷してしまったり、断熱管の内管及び外管に施された波付け加工が延伸してしまって、超電導ケーブルを好ましい状態で管路等の内部に引き込むのが困難といった問題があった。
【0006】
そこで、特許文献1ではケーブルコアの中心を形成しているフォーマをプーリングアイに接続するように構成された超電導ケーブルが開示されており、これによりプーリングアイに加えられた張力をフォーマが分担するようにしている。その結果、超電導導体や断熱管の内管、外管に張力が直接加えられるのを防止することが可能となっている。
【特許文献1】特開2005−312283号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術では以下のような問題があった。
特許文献1では、プーリングアイに加えられる張力をフォーマが分担するように構成されているため、この張力によってフォーマが引っ張られて延伸してしまうおそれがあった。フォーマが延伸してしまうと、その外周に巻き付けられた超電導導体に引張応力が加えられ、これにより超電導導体も延伸してその超電導特性が劣化してしまうといった問題があった。
【0008】
また、超電導導体は、管路等への布設後その両端が拘束されるが、上記のように引張応力が加えられたままの状態で拘束されることから、その後液体窒素でケーブルコアが冷却されると、熱収縮により両端から引っ張られてさらに引張応力が加えられる。そのため、比較的機械的強度の低い酸化物超電導線を用いた場合には、機械的なダメージを受けて臨界電流特性等が劣化してしまうといった問題があった。
【0009】
さらに、管路等が屈曲した部分では超電導ケーブルも屈曲され、フォーマを引っ張ることでケーブルコアが屈曲方向に引っ張られて断熱管の内管に押し付けられてしまう。その結果、超電導導体が側圧を受けて超電導線にダメージを与えてしまうといった問題があった。一例として、布設前に8000A近い臨界電流を持つ超電導ケーブルが、布設作業の影響によって10%程度臨界電流を低下させ、さらに冷却によるダメージに起因して10%程度臨界電流を低下させることで、臨界電流が6400A程度まで低下してしまうことがあった。
【0010】
そこで、本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、プーリングアイをケーブル本体に好適に接続することで、超電導導体及び断熱管に張力を加えることなく布設可能な超電導ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の超電導ケーブルの第1の態様は、超電導導体と、それぞれ波付け加工された円筒状の内管と外管とを有して前記内管の内側に前記超電導導体を収納する断熱管とを具備するケーブル本体を少なくとも備える超電導ケーブルであって、前記内管又は前記外管の外表面に設置されたテンションメンバーと、前記ケーブル本体の少なくともいずれか一方の端部に設置されているプーリングアイと、を備え、前記テンションメンバーの先端が前記プーリングアイに接続されていることを特徴とする。このような態様により、超電導導体及び断熱管に張力を加えることなく超電導ケーブル全体を牽引でき、極低温状態に冷却しても断熱管の可撓性を損なわない。
【0012】
本発明の超電導ケーブルの他の態様は、前記テンションメンバーは、前記プーリングアイに接続されている前記端部あるいはその近傍のみで前記内管又は前記外管に固定されていることを特徴とする。このような態様により、プーリングアイが牽引されると、超電導導体と断熱管の内管又は外管がテンションメンバーを介してプーリングアイに牽引される。
【0013】
本発明の超電導ケーブルの他の態様は、前記プーリングアイは、プーリングアイ本体と固定金具とを備え、前記テンションメンバーが前記内管の外表面に設置されてその先端が前記プーリングアイ本体に接続され、前記固定金具には前記外管の端部が接続されていることを特徴とする。このような態様により、プーリングアイが牽引されると、超電導導体と断熱管の内管とがテンションメンバーを介してプーリングアイに牽引され、それと同時に外管が固定金具を介してプーリングアイに牽引される。
【0014】
本発明の超電導ケーブルの他の態様は、前記プーリングアイは、プーリングアイ本体と固定金具とを備え、前記テンションメンバーが前記外管の外表面に設置されてその先端が前記固定金具に接続され、前記プーリングアイ本体には前記外管の端部が接続されていることを特徴とする。このような態様により、プーリングアイが牽引されると、テンションメンバーと断熱管の外管とがプーリングアイによって一体に牽引され、これにより超電導導体と断熱管とが一体に牽引される。
【0015】
本発明の超電導ケーブルの他の態様は、前記超電導導体は、前記テンションメンバーより小さいヤング率を有する円筒形状のフォーマの外周に配置されており、前記フォーマが前記プーリングアイに接続されていることを特徴とする。フォーマに応力をほとんどかけない状態で、フォーマもプーリングアイに接続させるように構成することが可能となる。
【0016】
本発明の超電導ケーブルの他の態様は、前記テンションメンバーは、ステンレステープをピッチ300mm以上2000mm以下として前記内管又は前記外管に螺旋状に巻付けて形成されていることを特徴とする。このようにピッチ300mm以上2000mm以下とした場合、超電導ケーブルが曲折した状態でもテンションメンバーに均等に力をかけることができる。
【0017】
本発明の超電導ケーブルの他の態様は、前記テンションメンバーは、高張力高分子繊維を撚って形成された1以上の繊維テープを前記内管又は前記外管の外表面に配置して形成されていることを特徴とする。このように金属に比べて熱伝導率が小さい高分子繊維を用いることで、内管と外管の間でスペーサとしての機能を有することもできる。
【0018】
本発明の超電導ケーブルの他の態様は、前記テンションメンバーは、高張力高分子繊維を網状に撚り合わせて形成したものを前記内管又は前記外管の外表面を覆うように配置して形成されていることを特徴とする。このように網状に撚り合わせて形成されたテープ状のものを巻きつけて施工するということにより、簡単にテンションメンバーを形成することが可能である。
【0019】
本発明の超電導ケーブルの他の態様は、前記テンションメンバーは、厚さ又は直径が前記内管と前記外管との間隔に略等しい断面を有する線状体を前記内管と前記外管との間に略等間隔に4本以上10本以下配置して形成されていることを特徴とする。このようにテンションメンバーを配置することで、テンションメンバーは牽引の役割とともに、内管と外管との間隔を一定にするためのスペーサの役割を果たすことができる。
【0020】
本発明の超電導ケーブルの他の態様は、前記内管及び前記外管は、それぞれの直径の5%以上20%以下の波高でかつ前記波高の1倍以上4倍以下のピッチとなるよう波付け加工されていることを特徴とする。内管、外管は、ともにこのように波付け加工されることによって高い可撓性を有する。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、少なくともいずれか一方の端部にプーリングアイを設置するとともに、テンションメンバーを断熱管の内管又は外管の外表面に設け、テンションメンバーをプーリングアイに接続することにより、超電導導体及び断熱管に張力を加えることなく布設することが可能な超電導ケーブルを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の好ましい実施の形態における超電導ケーブルについて、図面を参照して詳細に説明する。同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。
【0023】
本発明の実施の形態に係る超電導ケーブルの構造を、図1、図2及び図3を用いて以下に説明する。図1は、本実施形態の超電導ケーブル100を示す長手方向断面図であり、図2は超電導ケーブル100に備えられたケーブル本体101の断面図、図3はケーブル本体101に備えられたケーブルコア110を示す側面図である。なお、図1では、ケーブルコア110については、断面図でなく側面図で示している。
【0024】
超電導ケーブル100は、ケーブルコア110と断熱管120とを備えたケーブル本体101と、その端部に接続されたプーリングアイ130とから構成されており、ケーブルコア110は断熱管120の内部に収納されている。
【0025】
ケーブルコア110は、フォーマ111の外周に超電導導体112を配置し、その外周に電気絶縁層113と保護層114とを設けた構造としている。本実施形態では、超電導導体112として例えばBi系やY系超電導材料を用いることができ、これをテープ状に形成したテープ状線をフォーマ111上に螺旋状に巻付けて配置することができる。
【0026】
フォーマ111は、超電導導体112の形状を保持するのに用いられるものであり、例えば非磁性の金属材料を用いることができる。電気絶縁層113は、クラフト紙等の絶縁紙を超電導導体112の上部に巻付けて形成することができる。保護層114は、導電性の紙あるいは銅の編組線を用いて形成することができる。図1には省略しているが、保護層114と電気絶縁層113の間に、超電導導体を配置することもできる。この場合、超電導体は、超電導導体112と逆向きの電流を流すことで、ケーブルから発生する磁界を閉じ込めて、漏洩磁界を下げることができる。
【0027】
また、断熱管120は、同軸管である内管121と外管122、及びその間に配置された断熱層123を備えている。内管121及び外管122には、例えばステンレスあるいはアルミニウム等の金属を用いることができ、断熱層123には、アルミ蒸着の高分子材フィルムとポリエチレンネットとを積層させて構成されたスーパーインシュレーションを用いることができる。
【0028】
プーリングアイ130は、ケーブル本体101を牽引する際に用いられるものであり、プーリングアイ本体131と、これにネジ接続された固定金具132とを備えている。プーリングアイ本体131には、布設時に超電導ケーブル本体101を牽引するロープ等を接続するための引張り帽131aが設けられている。
【0029】
ケーブル本体101の端部にプーリングアイ130が接続された本実施形態の超電導ケーブル100は、使用可能となる前の所定の管路等に布設されるときの状態のものである。この場合には、ケーブルコア110及び断熱管120を固定する必要はとくになく、布設中にこれらが損傷するのを防止することが重要である。
【0030】
超電導ケーブル100が所定の管路等に布設された後は、プーリングアイ130がケーブル本体101から切り離され、これに代えて所定の端末封止金具が取り付けられる。端末封止金具にはケーブルコア110及び断熱管120が固定され、これによりケーブルコア110が例えば断熱管120の中心に位置するように保持される。この状態で超電導導体112が液体窒素などを用いて極低温状態に冷却され、超電導状態が実現される。
【0031】
超電導ケーブル100が超電導状態にあるとき、内管121の内側は液体窒素で冷却されて極低温状態に維持される一方、外管122の外側は例えば室温状態となっていることから、極低温状態と室温状態との間の熱移動をできるだけ低減させるよう、断熱管120を用いて高い断熱性を実現する必要がある。そこで、内管121と外管122との間に断熱層123を設けるとともに、内管121と外管122との間を例えば0.1MPa以下の高真空状態に排気維持している。このような高真空状態を維持できるようにするために、断熱管120には溶接不良やクラック、ピンホール等がないようにして、高い気密性を実現している。
【0032】
内管121及び外管122は、ともに波付けされて高い可撓性を有しており、これにより冷却中及び極低温状態において超電導導体112に大きな応力が加わるのを防止している。すなわち、超電導ケーブル100が使用可能となる状態では、ケーブルコア110と断熱管120の内管121との間の空間に液体窒素等の冷媒が充填され、例えば77K程度の極低温状態に冷却される。これによりケーブルコア110及び内管121はともに熱収縮するが、このとき両者が必ずしも等しい長さだけ熱収縮するとは限らない。そこで、内管121を波付け加工して高い可撓性を持たせることにより、ケーブルコア110と内管121との熱収縮の差を吸収させるようにしている。このように、内管121に高い可撓性を持たせることで、極低温状態でケーブルコア110に内管121から大きな応力が加えられたままになるのを防止している。
【0033】
また、外管122の外側は通常は室温状態であることから、外管122には上記のような熱収縮が発生しない。その結果、ケーブルコア110及び内管121と外管122との間で長さが異なってしまうことになるが、外管122に対しても波付け加工して可撓性を持たせることで、ケーブルコア110及び内管121が熱収縮したのと略等しい長さだけ外管122も収縮できるようにしている。これにより、ケーブルコア110及び断熱管120のいずれにも応力が発生しない構成としている。
【0034】
本実施形態では、布設時にプーリングアイ130に加えられる張力がケーブル本体101に直接加わるのを防止するために、内管121の外表面にテンションメンバー140を配置するようにしている。テンションメンバー140は、超電導ケーブル100の布設時に利用されるものであるが、布設が完了した後も内管121の外表面に設置されたままとなる。そこで、超電導ケーブル100の布設時はケーブル本体101の変形等を防止するためにこれを一体に牽引できるようにするとともに、極低温状態に冷却中断熱管120の可撓性を損なわないようにテンションメンバー140を設置する必要がある。本実施形態では、テンションメンバー140を以下のように配置している。
【0035】
テンションメンバー140は、ケーブル本体101がプーリングアイ130と接続される側の端部において、内管121に固定されている。図1及び図2では、テンションメンバー140が内管121に固定される位置を固定部141で示している。テンションメンバー140は、ステンレス、Ni合金等の高張力合金、またはアラミド樹脂やアラミド繊維等の高張力スーパー繊維、等を用いて形成し、張力を高めることができる。
【0036】
上記のように内管121に固定されたテンションメンバー140を、本実施形態ではプーリングアイ本体131に固定している。また、これと同時に固定金具132には外管122を固定している。プーリングアイ本体131にテンションメンバー140を固定する方法、及び固定金具132に外管122を固定する方法は、ともに溶接接続する方法を用いている。このような接続により、プーリングアイ130が牽引されると、ケーブルコア110と断熱管120の内管121とがテンションメンバー140を介してプーリングアイ130に牽引され、それと同時に外管122が固定金具132を介してプーリングアイ130に牽引される。
【0037】
ケーブル本体101にプーリングアイ130を接続する工程を、図1を用いて以下に説明する。まず、プーリングアイ本体131の第1溶接部131bにテンションメンバー140の端部を溶接して接合する。その後、固定金具132をプーリングアイ本体131のネジ部にねじ込んで固定し、固定金具132の先端にある第2溶接部132aに外管122を溶接接合する。なお、第2溶接部132aの溶接は全周溶接とするのがよく、これにより外部から水などが浸入しないよう気密化するのが好ましい。
【0038】
上記のように、プーリングアイ130でテンションメンバー140と外管122とを牽引するようにした結果、ケーブルコア110に張力が直接加わることなく、内管121に固定されたテンションメンバー140でケーブルコア110及び内管121を管路等に引き込むことが可能となる。また、固定金具132で外管122を同時に牽引するようにしたことにより、ケーブルコア110と内管121及び外管122を一体に牽引することが可能となり、それぞれの間に大きな応力が発生したり変形してしまうのを防止することができる。
【0039】
なお、ケーブルコア110のフォーマ111もプーリングアイ130に接続させるように構成することも可能であるが、この場合にはヤング率がテンションメンバー140より小さいフォーマ111を用いるのが好ましい。これにより、プーリングアイ130からケーブル本体101に加えられる応力をテンションメンバー140が分担するようにし、フォーマ111はほとんど分担しないようにすることができる。
【0040】
本発明の別の実施の形態に係る超電導ケーブルを、図4を用いて以下に説明する。本実施形態では、プーリングアイ230とケーブル本体101との接続方法が、上記の実施形態と異なっている。また、テンションメンバー240が、本実施形態では外管122の外表面に固定されている点も、上記の実施形態と異なっている。本実施形態のテンションメンバー240は、固定部241で外管122に固定されている。
【0041】
図4に示すように、プーリングアイ本体231には外管122が第1溶接部231bで溶接接続されており、固定金具232にはテンションメンバー240の端部が第2溶接部232aで溶接接続されている。プーリングアイ本体231には、布設時に超電導ケーブル本体101を牽引するロープ等を接続するための引張り帽231aが設けられている。本実施形態では、テンションメンバー240を固定金具232に固定し、プーリングアイ本体231には外管122を固定するようにしている。
【0042】
ケーブル本体101とプーリングアイ本体231との接続を上記のように行うことにより、プーリングアイ230が牽引されると、テンションメンバー240と外管122とがプーリングアイ230に一体に牽引され、これによりケーブルコア110と断熱管120とが一体に牽引される。その結果、ケーブルコア110に張力が加えられるおそれはなく、また断熱管120が引き伸ばされてしまうおそれもなくなる。
【0043】
なお、本実施形態でもケーブルコア110のフォーマ111をプーリングアイ230に接続させるように構成することが可能であるが、この場合にもテンションメンバー240より小さいヤング率のフォーマ111を用いるのが好ましい。
【0044】
本実施形態では、上記構成に加えて、プーリングアイ230を牽引してケーブル101を管路等に引き込むときに、摩擦等によって断熱管120やテンションメンバー240が損傷するのを防止するために、テンションメンバー240の外周に保護被覆部250を設けている。この保護被覆部250はまた、布設後には断熱管120等が腐食するのを防止している。保護被覆部250は、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ナイロンなどの樹脂を用いて形成することができる。このような保護被覆部は、第1の実施形態でも設置することが可能である。
【0045】
断熱管120の構成を、製造工程手順により説明する。ステンレスまたはアルミニウムの他に、銅あるいはこれらを主成分とする合金のいずれかの金属からなる厚さ0.5mmから2mmまでの板を用い、ケーブルコア110を収納するように円筒状に形成する。その後、外部から波つけ加工を施して、内管121を形成する。その後、内管121の外側に、断熱層123を内管に隙間なく巻きつけて形成する。さらにその外側に、厚さ0.5mmから2mmまでの金属板を、円筒状に形成して、その外部に波つけ加工を施して、外管122を形成する。波付け加工は、内管121又は外管122の直径に対し5から20%の深さの波高とし、ひとつの山谷のピッチ(波周期)を波高の1倍から4倍となるよう行っている。
【0046】
また、テンションメンバー140または240は、超電導ケーブル100の布設中はこれを一体に牽引できるようにしてケーブル本体101の変形等を防止するとともに、超電導状態の時には断熱管120の可撓性を損なわないようにするために、テープ状に形成されたステンレステープを内管121または外管122の外表面に螺旋状に巻付けて形成されている。これに限らず、例えば内管121または外管122に沿って長手方向に配置してもよい。ステンレステープを螺旋状に巻付けてテンションメンバー140または240を形成する場合には、巻付けのピッチを300mm以上2000mm以下とするのが好ましい。ここで、巻付けのピッチとは、1本のステンレステープを内管121または外管122の外周に螺旋状に1回転周回させたときの長手方向の移動距離としている。
【0047】
テンションメンバー140または240の形状は、テープ形状に限らず、例えば四角線や丸線等とすることができ、これを内管121または外管122に沿って配置したり、螺旋状に巻きつけて設置することができる。また、テンションメンバー140または240に用いる材料として、上記のステンレステープの他に、ステンレス線やインバー線等を用いてもよい。これらのステンレステープ又は線材を内管121または外管122の外表面に1層だけ巻付けてもよく、あるいは逆方向に2層巻付けてテンションメンバー140または240を形成してもよい。2層巻付けた場合には、それぞれの層がお互いに逆向きの回転方向に引っ張られることから、断熱管120にねじれが発生するのを防止することができる。
【0048】
テンションメンバー140または240に用いるさらに別の材料として、ケブラー(米国デュポン社の登録商標)やアリレート繊維等の高張力高分子繊維を用いることも可能である。これらを用いる場合、上記のように内管121または外管122に直接巻付けてテンションメンバー140または240を形成する他に、各繊維を用いて事前にテープ状に撚っておき、これを内管121または外管122の外表面に設置することも可能である。このように、テープ状に撚った後に内管121または外管122の外表面に設置したテンションメンバーの実施形態を図5に示す。テンションメンバー340は、上記のような高張力高分子繊維を撚って形成された複数の繊維テープ341で構成されている。テンションメンバー340をこのようなテープ状に形成することにより、テンションメンバー340が内管121または外管122に一端だけ固定されている場合でも、ケーブル本体101の全体を把持するようにして管内等に引き込むことが可能となる。
【0049】
本発明のさらに別の実施形態のテンションメンバーとして、内管121または外管122の外表面に網状に撚り合わせて形成することも可能である。このようにして形成されたテンションメンバーの実施例を図6に示す。テンションメンバー440は、高張力高分子繊維を用いて網状に撚り合わせて形成したものであり、これを内管121または外管122の外表面を覆うようにして設置している。テンションメンバー440をこのような網状に形成することにより、テンションメンバー440が内管121または外管122に一端だけ固定されている場合でも、ケーブル本体101の全体を把持するようにして管内等に引き込むことが可能となる。
【0050】
本発明のさらに別の実施形態のテンションメンバーを、図7を用いて説明する。本実施形態のテンションメンバー540は、厚さ又は直径が内管121と外管122との間隔に略等しい断面を有する線状に形成されており、これを4本から10本程度、内管121と外管122との間に略等間隔に配置して内管121に巻付けている。このように設置されたテンションメンバー540は、ケーブル本体101の布設時にこれを牽引するとともに、内管121と外管122との間隔を一定にするためのスペーサの役割を果たすことができる。
【0051】
なお、図7に示す実施形態では、テンションメンバー540が内管121だけでなく外管122にも接触することから、外管122からテンションメンバー540を経由して内管121に熱が伝わるのをできるだけ低減するために、できるだけ熱伝導の低い材料を用いてテンションメンバー540を形成するのがよい。
【0052】
内管121と外管122との間に設置される断熱層123は、図1のようにテンションメンバー140が内管121の外表面に設置されている第1の実施形態では、テンションメンバー140のさらに外周に配置されている。断熱層123には、例えばアルミニウムを樹脂フィルムに蒸着させて形成したものを用いることができる。なお、テンションメンバー140が断熱層123を損傷させるおそれがある場合には、テンションメンバー140の外周に金属鋼帯や繊維テープなどを巻付け、その上に断熱層123を設置するようにするのがよい。
【0053】
上記のように構成された超電導ケーブル100、200では、管路等に布設された後内管121の内部に液体窒素が充填されると、ケーブルコア110と内管121、及びその外表面にテンションメンバー140が設置されている場合にはこれが、ともに液体窒素温度まで冷却されて略等しい長さだけ熱収縮する。その結果、内管121及びテンションメンバー140がケーブルコア110に応力を加えるおそれはなく、超電導導体112を破損させたり特性を変化させてしまうといったおそれがなくなる。
【0054】
また、ケーブルコア110と内管121とで熱収縮する長さが異なる場合でも、内管121に可撓性を持たせていることから、内管121がケーブルコア110と略等しい長さに収縮される。また、第1の実施形態において、テンションメンバー140が熱収縮する長さがケーブルコア110や内管121と異なる場合でも、テンションメンバー140が第1固定部141のみで内管121に固定されていることから、テンションメンバー140が内管121に応力を加えることはない。
【0055】
さらに、上記のようにテンションメンバー140または240が容易に収縮できるような形状で内管121または外管122に設置されることから、テンションメンバー140または240も内管121、外管122及びケーブルコア110と略等しい長さに収縮することができる。その結果、内管121、外管122及びテンションメンバー140がケーブルコア110に応力を加えてこれを破損させたり特性を変化させてしまうといったおそれがなくなる。
【0056】
一方、断熱管120の外管122は、その温度が室温程度に維持されているため熱収縮することは無いものの、波付け加工されて高い可撓性を有していることから、内管121等の熱収縮に伴って容易に収縮することができる。このように、冷却によるケーブルコア110等の熱収縮に伴い、断熱管120の内管121と外管122、及びテンションメンバー140のいずれもが、ほとんど相互に応力を加えることなく収縮することができる。その結果、冷却時に内管または外管がテンションメンバーに引っ張られて容易に収縮できないといった従来の問題を解消することができ、ケーブルコア110及びこれに設置された超電導導体112を損傷するのを防止することができる。
【0057】
本実施形態の超電導ケーブル100を布設した一実施例として、長さ500mの超電導ケーブル100を所定の管路に引き込んだとき、プーリングアイ130には最大で170kNの張力が加えられたが、超電導導体112にはその張力が全く加えられなかった。その結果、超電導導体112の超電導性能には全く影響を与えることはなかった。本実施形態では、ケーブルコア110に張力が加えられることはないため、管路に沿ってケーブル本体101が屈曲されている部分でも、これが断熱管120に押し付けられて側圧が加えられるといった事態を避けることができる。これにより、超電導導体112の外周を取り巻いている電気絶縁層113に対しても、つぶれや擦れ等の損傷を加えることはなく、電気絶縁性能上の問題が発生することはなかった。
【0058】
また、超電導ケーブル100を所定の管路に布設した後、ケーブル本体101の端部を所定の終端接続部に接続して液体窒素を充填し、これによりケーブルコア110を所定の極低温状態まで冷却したところ、長さ500mのケーブルコア110は1.5m熱収縮した。ケーブルコア110とともに内管121及びテンションメンバー140も同様に熱収縮しており、それとともに外管122もスムーズに収縮されたことで、超電導ケーブル本体101が途中で座屈することもなく、また端部でクラックが発生してリークが生じるといった事態も回避できた。さらに、超電導導体112の臨界電流が低下することもなく、健全に布設及び冷却を行うことができたことを確認した。
【0059】
上記実施形態では、電力送電用の超電導電力ケーブルを例に説明したが、これに限定されず、例えば超電導電力貯蔵装置、あるいは核融合炉などで使用する大型超電導マグネットに電力供給する超電導バスラインなどに適用することも容易に可能である。本実施の形態における記述は、本発明に係る超電導ケーブルの一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における電導ケーブルの細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施形態に係る超電導ケーブルの長手方向断面図である。
【図2】本実施形態の超電導ケーブルに内蔵されるケーブル本体の断面図である。
【図3】本実施形態の超電導ケーブルに内蔵されるケーブルコアの側面図である。
【図4】本発明の別の実施形態に係る超電導ケーブルの長手方向断面図である。
【図5】本発明のさらに別の実施形態で用いられるテンションメンバーを示す斜視図である。
【図6】本発明のさらに別の実施形態で用いられるテンションメンバーを示す断面図である。
【図7】本発明のさらに別の実施形態に係る超電導ケーブルの径方向断面図である。
【図8】従来の超電導ケーブルの一例を示す長手方向断面図である。
【符号の説明】
【0061】
100、200、900 超電導ケーブル
101 ケーブル本体
110、910 ケーブルコア
111、911 フォーマ
112、912 超電導導体
113、913 電気絶縁層
114、914 保護層
120、920 断熱管
121、921 内管
122、922 外管
123、923 断熱層
130、230 プーリングアイ
131、231 プーリングアイ本体
132、232 固定金具
140、240、340、440、540 テンションメンバー
141、241 固定部
250 保護被覆部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導導体と、それぞれ波付け加工された円筒状の内管と外管とを有して前記内管の内側に前記超電導導体を収納する断熱管とを具備するケーブル本体を少なくとも備える超電導ケーブルであって、
前記内管又は前記外管の外表面に設置されたテンションメンバーと、
前記ケーブル本体の少なくともいずれか一方の端部に設置されているプーリングアイと、を備え、
前記テンションメンバーの先端が前記プーリングアイに接続されている
ことを特徴とする超電導ケーブル。
【請求項2】
前記テンションメンバーは、前記プーリングアイに接続されている前記端部あるいはその近傍のみで前記内管又は前記外管に固定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の超電導ケーブル。
【請求項3】
前記プーリングアイは、プーリングアイ本体と固定金具とを備え、
前記テンションメンバーが前記内管の外表面に設置されてその先端が前記プーリングアイ本体に接続され、
前記固定金具には前記外管の端部が接続されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超電導ケーブル。
【請求項4】
前記プーリングアイは、プーリングアイ本体と固定金具とを備え、
前記テンションメンバーが前記外管の外表面に設置されてその先端が前記固定金具に接続され、
前記プーリングアイ本体には前記外管の端部が接続されている
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の超電導ケーブル。
【請求項5】
前記超電導導体は、前記テンションメンバーより小さいヤング率を有する円筒形状のフォーマの外周に配置されており、
前記フォーマが前記プーリングアイに接続されている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の超電導ケーブル。
【請求項6】
前記テンションメンバーは、ステンレステープをピッチ300mm以上2000mm以下として前記内管又は前記外管に螺旋状に巻付けて形成されている
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の超電導ケーブル。
【請求項7】
前記テンションメンバーは、高張力高分子繊維を撚って形成された1以上の繊維テープを前記内管又は前記外管の外表面に配置して形成されている
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の超電導ケーブル。
【請求項8】
前記テンションメンバーは、高張力高分子繊維を網状に撚り合わせて形成したものを前記内管又は前記外管の外表面を覆うように配置して形成されている
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の超電導ケーブル。
【請求項9】
前記テンションメンバーは、厚さ又は直径が前記内管と前記外管との間隔に略等しい断面を有する線状体を前記内管と前記外管との間に略等間隔に4本以上10本以下配置して形成されている
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の超電導ケーブル。
【請求項10】
前記内管及び前記外管は、それぞれの直径の5%以上20%以下の波高でかつ前記波高の1倍以上4倍以下のピッチとなるよう波付け加工されている
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の超電導ケーブル。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−287897(P2008−287897A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−128826(P2007−128826)
【出願日】平成19年5月15日(2007.5.15)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】