説明

超電導部材冷却装置

【課題】高温超電導部材を過冷却温度の液体窒素により冷却する装置において、過冷却液体窒素を得るために冷凍機の冷却ヘッドを液体窒素中に直接浸漬させるにあたって、冷凍機のシリンダ部から液体窒素への熱侵入を可及的に防止して、冷却装置の冷却効率の低下を防止し、かつ液体窒素の液面レベルの変動を防止する。
【解決手段】冷凍機のシリンダ部の外周面に断熱部を設ける。その断熱部を真空断熱構造とするか、または断熱材によってシリンダ部分を取囲んだ構成とする。さらに、冷凍機のシリンダ部外周面の断熱部を、冷却ヘッドの外周面の上下方向中間位置まで延長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、超電導トランスや超電導マグネット、そのほか各種の超電導コイル、あるいは超電導ケーブルなどの超電導部材、特に高温超電導部材を、液体窒素によって低温に冷却・保持するための超電導部材冷却装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導コイルなどの超電導部材、特に高温超電導を利用した超電導部材を冷却するにあたっては、冷却媒体として比較的安価な液体窒素(LN)を使用することが多い。この場合一般には大気圧の飽和液体窒素、すなわち約77Kの液体窒素が用いられている。すなわち、真空断熱されたクライオスタットと称される大気に実質的に開放された冷却容器に超電導部材を収容しておき、その冷却容器内に約77Kの大気圧飽和液体窒素を注入してその液体窒素中に超電導部材を浸漬させ、冷却・保持するのが通常である。
【0003】
ところで高温超電導部材においては、若干でも温度が下がれば、超電導特性が大幅に向上することが知られている。例えば臨界電流は、77Kから70Kに下がっただけでも数倍に大きくなることが知られている。
【0004】
そこで大気圧の液体窒素を減圧して例えば65K程度に温度降下させた液体窒素中に超電導部材を浸漬させて、超電導部材を77Kよりも低い温度まで冷却することが考えられる。その場合、液体窒素中に超電導部材を浸漬させるための容器では、液体窒素の減圧状態を維持させる必要がある。一方、一般に使用されているクライオスタットでは、実質的に大気に開放させた状態での使用を前提としているため、この種の汎用クライオスタットを減圧した液体窒素に適用しようとすれば、蓋部や電流導入端子等の箇所における封止の点で不充分となり、外部から水分を含む大気圧の空気が内部に吸い込まれて、電流導入端子のガス抜穴での水分凍結による閉塞や超電導部材表面への氷の付着が生じたりし、実用上運転が不可能となるおそれがある。そのため前述の目的のためには、新たに特殊な容器を設計、製作しなければならず、その場合コストの大幅な上昇を招く問題があり、そのため実用化はためらわれていたのが実情である。
【0005】
また一方、大気圧の飽和液体窒素中に超電導部材を浸漬させて超電導部材を作動させた場合、超電導部材の発熱によって飽和液体窒素が直ちに気化してガス気泡が発生するため、そのガス気泡によって電気絶縁性が低下したり、冷却効率が低下したりしてしまう問題があるが、前述のように減圧によって例えば65K程度に温度降下された液体窒素中に超電導部材を浸漬させた場合も、減圧下では超電導部材の発熱によって前記同様に直ちに液体窒素が気化して気泡が発生するから、気泡発生に対する根本的な解決策とはならない。したがってこのことも減圧された液体窒素の使用がためらわれていた一因である。
【0006】
そこで本発明者等は、既に特開平10−54637号において、液体窒素によって高温超電導部材を冷却するにあたって、特殊な真空封止などを行なわずに、大気開放の極く一般的な汎用クライオスタットを超電導部材冷却容器として用いながらも、より低温に高温超電導部材を冷却して超電導性能を向上させ得るようにするとともに、高温超電導部材作動時における高温超電導部材の発熱による液体窒素からのガス気泡の発生を抑制するようにした超電導部材冷却装置を提案している。
【0007】
上記提案の超電導部材冷却装置は、基本的には、超電導部材を収容してその超電導部材を冷却するための冷却容器を実質的に大気圧に開放した構成とし、かつ大気圧で過冷却状態とした例えば67K程度の液体窒素を前記冷却容器内に配置して、その大気圧で過冷却状態の液体窒素によって超電導部材を冷却するようにしている。そしてまた上記提案の超電導部材冷却装置において、超電導部材に対する冷却媒体として機能させる大気圧で過冷却状態の液体窒素は、次のようにして得ている。すなわち、前述の冷却容器とは別に減圧用容器を設けて、その減圧用容器内に熱交換器を配設しておき、減圧用容器内に熱交換用液体窒素(例えば約77Kの大気圧の飽和液体窒素)を供給するとともに、その減圧用容器内の圧力を真空ポンプによって減圧して、減圧用容器内の液体窒素を大気圧から減圧させることによりその温度を例えば65Kの低温に降下させる。一方、前記熱交換用液体窒素とは別に、大気圧の冷却用液体窒素(例えば約77Kの飽和液体窒素)を前記熱交換器に導き、その熱交換器において減圧用容器内の65Kの減圧された熱交換用液体窒素と熱交換させて、例えば67K程度まで大気圧のまま冷却させ、大気圧で過冷却状態とする。そしてこの大気圧で過冷却状態の例えば67Kの冷却用液体窒素を前述の冷却容器に導いて、超電導部材を67Kに近い温度(例えば70K)の低温に冷却することとしている。
【0008】
このような特開平10−54637号の提案の超電導部材冷却装置においては、通常の77K程度の大気圧の飽和液体窒素を冷却媒体として用いた場合よりも超電導部材を確実に低温に冷却することができ、そのため超電導部材の性能を向上させることができ、しかもこの場合、冷却容器内の過冷却状態の冷却用液体窒素の液面上の空間が、冷却用液体窒素から蒸発した大気圧の窒素ガスで満たされているため、外部から水分を含む大気圧の空気が内部に吸い込まれるおそれは少なく、そのため冷却容器の蓋部や電流導入端子等の封止も特に厳密さが要求されず、さらには超電導部材を浸漬させた冷却用液体窒素が前述のように過冷却状態であるため、超電導部材の作動時において超電導部材が発熱しても、その発熱部位周辺で液体窒素が気化温度に達するには温度的余裕があり、そのため直ちにはガス気泡が発生せず、したがってガス気泡によって絶縁性が低下したり冷却効率が低下したりするおそれも少ないなどの利点がある。
【0009】
しかしながら上記提案の超電導部材冷却装置については、未だ次のような問題があった。
【0010】
すなわち、上記提案の超電導部材冷却装置においては、冷却用の液体窒素とは別に熱交換用液体窒素を減圧用容器内に供給し、真空ポンプによりその減圧用容器内を減圧して熱交換用液体窒素を温度降下させ、その温度降下した熱交換用液体窒素と冷却用液体窒素とを熱交換させることにより大気圧で過冷却状態の冷却用液体窒素を得るようにしているが、この場合減圧用容器内の熱交換用液体窒素は減圧によって徐々に蒸発気化し、かつその気化ガスがポンプにより排気されて行くから、減圧用容器内の液体窒素液面は急激に低下して行き、遂には減圧用容器内の熱交換器が露出してしまうことになる。このように熱交換器が液面から露出してしまえば、充分な熱交換能率が得られなくなって、冷却用液体窒素を充分な過冷却状態となるように冷却することが困難となるから、実際上は熱交換器が液面から露出する以前に、改めて減圧用容器内に液体窒素を補給しなければならず、またこの液体窒素補給時には運転を一旦停止させなければならない。
【0011】
このように前記提案の超電導部材冷却装置では、減圧用容器内の液体窒素補給のために運転を停止する必要があるところから、長時間連続して運転することができないという問題があり、また液体窒素補給およびそのための運転停止−運転再開のための手間も煩雑となるという問題がある。もちろん短時間の運転の場合は特に問題とはならないが、超電導部材の実用化へ向けた実験・研究、測定等においては、長時間連続して運転することが求められることが多く、したがって減圧用容器への熱交換用液体窒素補給が前記提案の装置の普及に対する大きなネックとなっていたのが実情である。
【0012】
そこで本発明者等は、前記提案に倣い、大気圧もしくは大気圧よりも高い圧力下で過冷却状態とした液体窒素を超電導部材に対する冷却用媒体として用いながらも、液体窒素を冷凍機によって大気圧下での過冷却となる温度まで冷却し、得られた過冷却状態の低温の液体窒素を、そのまま直接超電導部材を冷却するための冷却媒体として用いることとし、これにより前記提案の場合のような減圧用容器や熱交換器を用いないようにし、それに伴なって減圧用容器内への熱交換用液体窒素の補給のための運転停止を回避し得るようにして、長時間の連続運転を可能とした超電導部材冷却装置を、特許第2859250号において提案している。
【0013】
上記特許による超電導部材冷却装置は、基本的には、超電導部材を収容してその超電導部材を冷却するための大気に実質的に開放された冷却容器と、前記冷却容器へ供給すべき液体窒素を収容するための大気圧に実質的に開放された供給側容器と、前記供給側容器へ液体窒素を供給するための液体窒素供給手段と、前記供給側容器内の液体窒素を、大気圧下での過冷却温度まで冷却するための冷凍機と、前記供給側容器内において大気圧下での過冷却温度まで冷却された液体窒素を前記冷却容器に移送するための移送手段とを有してなり、供給側容器および冷却容器の液面上の空間を大気圧とするかまたは大気圧よりも高い圧力とし、かつ前記移送手段によって前記冷却容器内に供給された過冷却状態の液体窒素中に前記超電導部材を浸漬させるようにしたことを特徴とするものであり、その具体例を図4に示す。
【0014】
図4において、冷却対象となる超電導部材1は冷却容器3の底部に配置されている。この冷却容器3は、大気に実質的に開放された一般的な汎用のクライオスタットからなるものであって、その外周壁部および底壁部が真空断熱構造5とされ、また上端には開閉可能な蓋部7が設けられている。この蓋部7は、容器本体に対して真空封止されたものではなく、またこの蓋部7には汎用のクライオスタットと同様な電流導入端子等が設けられており、このような蓋部7と容器本体部分との間の隙間や電流導入端子等を通じて冷却容器3の内部は実質的に大気開放された状態となっている。なお蓋部7には安全弁19が設けられているが、この安全弁19は、内部圧力が外部の大気圧に対して例えば+0.1kgf/cm2を越えた場合に開放されて、内部圧力を大気圧〜大気圧+0.1kgf/cm2の範囲内、すなわち大気圧もしくは大気圧より若干高い圧力に保持するように機能する。そして超電導部材1は蓋部7から支持部材9A,9Bによって吊下げた状態となっている。冷却容器3内の底部には、後述するようにトランスファチューブ45を介して大気圧での過冷却状態の液体窒素(冷却用液体窒素)11が供給されて、超電導部材1がその液体窒素11に浸漬される。またその冷却容器3内における液体窒素11の液面11Aよりもわずかに下方の位置には、水平横断面の外形形状が冷却容器3の水平横断面内周形状と実質的に相似の形状をなしかつ上下方向に所定の厚みを有する断熱部材13が配設されている。この断熱部材13は、要は全体として上下方向への熱伝導が液体窒素よりも格段に少ないものとなっていれば良いが、通常はFRPなど熱伝導率の小さい材料によって形成するか、あるいは中空構造としてその中空部分を真空断熱構造としたりすれば良い。なおこの断熱部材13は、前述の支持部材9A,9Bによって蓋部7から吊下げられており、またその断熱部材13の周囲が冷却容器3の内周壁面に対して若干の隙間14を保つように作られている。一方冷却容器3における冷却用液体窒素11の液面11Aの上方に残された空間(蓋部7と液面11Aとの間の空間)15には、外部の第1の窒素ガス供給源16から窒素ガス供給管18を経て大気圧の窒素ガスが供給される。また冷却容器3内における断熱部材13の下面側の位置には、後述する還流管17の基端側開口端が開口している。
【0015】
さらに前述のように大気に実質的に開放された冷却容器3とは別に、供給側容器21が配設されている。
【0016】
供給側容器21は、前述の冷却容器3と同様に大気に実質的に開放されたものであって、その外周壁部および底壁部が真空断熱構造23とされ、また上端には開閉可能な蓋部25が設けられている。この蓋部25は容器本体に対して真空封止されたものではなく、このような蓋部25と容器本体部分との間の隙間などを通じて供給側容器21の内部は実質的に大気に開放された状態となっている。この供給側容器21には、外部の液体窒素供給源27から、制御弁29および供給管31を介して液体窒素33が供給されるようになっている。そして供給側容器21内における液体窒素33の液面33Aよりもわずかに下方の位置には、水平横断面の外形形状が供給側容器21の水平横断面形状と実質的に相似の形状をなしかつ上下方向に所定の厚みを有する断熱部材35が、蓋部25から支持部材37A,37Bによって吊下げられた状態で配設されている。この断熱部材35も、前記冷却容器3内の断熱部材13と同様に全体として上下方向への熱伝達が液体窒素よりも格段に少ないものとなっていれば良く、例えばFRPなどの熱伝導率の小さい材料によって作られるか、あるいは中空な真空断熱構造とすれば良い。またこの断熱部材35の周囲が供給側容器21の内周壁面に対して若干の隙間39を保持していることも、冷却容器3内の断熱部材13と同様である。
【0017】
さらに供給側容器21には、その供給側容器21内の液体窒素33を、大気圧下での飽和液体窒素の温度よりも低い過冷却温度(約77Kよりも低い温度、例えば65〜70K)に冷却するための冷凍機41が配設されている。この冷凍機41は、冷凍媒体ガス(通常はヘリウムガス)を圧縮するための圧縮部(コンプレッサ)41Aと、圧縮された高圧の冷凍媒体ガスを膨張させて低温を得るとともにその低温を冷却対象(液体窒素)と熱交換するための冷却ヘッド41Bと、圧縮部41Aからの高圧の媒体ガスと冷却ヘッド41Bから戻る膨張された低圧の媒体ガスの流れを切替えるためのモーターバルブ等の切替部41Cと、その切替部41Cと冷却ヘッド41Bとの間で冷凍媒体ガスを往復させる通路を内部に形成したシリンダ部41Dとからなるものであり、その切替部41Cが供給側容器21の蓋部25上に配置され、シリンダ部41Dが切替部41Cから蓋部25を下方へ貫通して供給側容器21内の液体窒素の液面33A上の空間47を通り、その下端が液体窒素中に浸漬され、その部分すなわち液体窒素中に浸漬された部分に冷却ヘッド41Bが設けられている。ここで、シリンダ部41Dは一般にステンレス鋼により作られている。また冷却ヘッド41Bは、その外面に銅等の良伝熱材料からなる伝熱ブロックを設けた構成とされている。なお圧縮部41Aは通常は供給側容器21から離れた位置に配置され、その圧縮部41Aと切替部41Cとの間が、高圧ガス管路41E、低圧ガス管路41Fによって結ばれている。
【0018】
また供給側容器21内には、蓋部25から吊下げられた状態で送液ポンプ43が配設されている。この送液ポンプ43は、その取入口(汲出口)が供給側容器21における断熱部材35よりも下方(通常は供給側容器21の底部近く)に位置するように配設されている。そしてこの送液ポンプ43の出口側はトランスファーチューブ45に接続されており、このトランスファーチューブ45は前述のように冷却容器3内に導かれている。さらに前記冷却容器3からの還流管17が供給側容器21内へ導かれており、その還流管17の先端側開口端が供給側容器の底部(前記冷凍機41の冷却ヘッド41Bよりも下方の位置)において開口している。
【0019】
また供給側容器21における液体窒素33の液面33Aの上方に残された空間(蓋部25と液面33Aとの間の空間)47には、外部の第2の窒素ガス供給源49から窒素ガス供給管51を経て大気圧もしくは大気圧以上の圧力の窒素ガスが供給されるようになっている。
【0020】
ここで、液体窒素供給源27、制御弁29、および供給管31は、供給側容器21に液体窒素を供給するための液体窒素供給手段63を構成している。さらに送液ポンプ43およびトランスファチユーブ45は、供給側容器21内において大気圧で過冷却状態に冷却された液体窒素を冷却容器3に移送するための移送手段65を構成している。一方第1の窒素ガス供給源16、窒素ガス供給管18は、冷却容器3における液面上の空間15に大気圧もしくは大気圧以上の圧力の窒素ガスを供給するための第1の窒素ガス供給手段67を構成しており、また第2の窒素ガス供給源49、窒素ガス供給管51は、供給側容器21における液面上の空間47に大気圧もしくは大気圧以上の圧力の窒素ガスを供給するための第2の窒素ガス供給手段69を構成している。
【0021】
以上のような図4に示される実施例の超電導部材冷却装置の全体的な機能について以下に説明する。
【0022】
液体窒素供給手段63の液体窒素供給源27から供給側容器21に供給される液体窒素は、77K程度のものであるが、その液体窒素は供給側容器21内において、冷凍機41の冷却ヘッド41Bによって大気圧もしくは大気圧以上の圧力のもとで冷却されて、大気圧下での飽和液体窒素温度(77K程度)よりも低い温度、例えば65〜70K程度まで温度降下される。そしてその65〜70K程度に過冷却された大気圧もしくは大気圧より高い圧力の液体窒素33は、送液ポンプ43によって供給側容器21の底部付近から汲み上げられ、トランスファチューブ45を介して、大気に実質的に開放された冷却容器3内に導かれる。冷却容器3内に導かれた過冷却状態の液体窒素を図4では符号11で示しており、これが冷却用液体窒素に相当する。
【0023】
冷却容器3内においては、前述のような例えば65〜70Kの過冷却状態の液体窒素11によって超電導部材1が例えば67〜72K程度に冷却・保持される。また冷却容器3内において超電導部材1からの熱などによって例えば70K程度以上に温度上昇した液体窒素は、還流管17を介して供給側容器21へ戻る。このようにして供給側容器21へ還流された流体窒素は、冷凍機41の冷却ヘッド41Bにより再び65〜70K程度まで大気圧もしくは大気圧以上の圧力のもとで冷却され、前述のように送液ポンプ43によって冷却容器3に再び送られることになる。
【0024】
ここで、冷却容器3内における冷却用液体窒素11の液面11Aの上方の空間15には窒素ガス供給管18を介して大気圧もしくは大気圧以上の圧力の窒素ガスが導入される。したがって冷却容器3の液面上の空間15は大気圧もしくは大気圧以上の圧力の窒素ガスで満たされることになる。そのため冷却容器3内の圧力が確実に大気圧もしくは大気圧以上の圧力に維持され、蓋部7の封止部分や電流導入端子部分などを介して外部から空気が引き込まれて侵入することが確実に防止される。
【0025】
また冷却容器3内における冷却用液体窒素11の液面下には断熱部材13が配設されているから、冷却用液体窒素11の液面(気液界面であるため約77K)とその断熱部材13よりも下側、特に超電導部材1が位置している冷却容器底部との間で確実に熱勾配を与えることができる。またその断熱部材13の存在によって液面11A付近に底部側との間での対流撹拌が阻止される。そしてこれらの結果、超電導部材1が位置する底部の冷却用液体窒素11を、確実に65K程度の低温の過冷却状態に維持することができる。そしてこのように超電導部材1が例えば65〜70Kの過冷却状態の低温の液体窒素11によって取囲まれるため、超電導部材1の作動時において超電導部材1が発熱しても、その周囲の液体窒素が大気圧下での気化温度(約77K)以上となるまでには10K程度の余裕があり、そのため超電導部材1の発熱によってその周囲の液体窒素が直ちに気化してガス気泡が発生してしまうことを有効に防止できる。
【0026】
なお供給側容器21内における液体窒素33の液面33Aの上方の空間47にも、窒素ガス供給管51を介して大気圧もしくは大気圧以上の圧力の窒素ガスが導入されて、その大気圧もしくは大気圧以上の圧力の窒素ガスで満たされることになる。そのため供給側容器21内の圧力が確実に大気圧もしくは大気圧以上の圧力に維持され、蓋部25の封止部分などを介して外部から空気が引き込まれて侵入することが確実に防止される。
【0027】
また冷却容器3と同様に、供給側容器21内における液体窒素33の液面下にも断熱部材35が配設されており、そのため液体窒素33の液面(気液界面であるため約77K)とその断熱部材35よりも下側、特に送液ポンプ43の取入口付近との間で確実に熱勾配を与えることができる。またその断熱部材35の存在によって液面33A付近と断熱部材35よりも下側の部分との間での対流撹拌が阻止される。そしてこれらの結果、送液ポンプ43の取入口付近の液体窒素33を、確実に65〜70K程度の低温の過冷却状態に維持して、その65〜70K程度の低温の過冷却状態の液体窒素を冷却容器3へ送り込むことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0028】
図4に示される装置において、冷凍機41の圧縮部41Aでは室温(約300K)の媒体ガス(通常はヘリウムガス)を圧縮し、その圧縮された約300Kの高圧ガスが高圧ガス管路41E、切替部41Cおよびシリンダ部41Dを通って冷却ヘッド41Bに至り、冷却ヘッド41Bにおいて膨張させられて所要の低温が得られる。なお膨張後の低圧の媒体ガスは、冷却ヘッド41Bからシリンダ部41D、切替部41C、低圧ガス管路41Fを通って圧縮部41Aに戻る。ここで、供給側容器21における液面33A、すなわち液相と気相との界面は、前述のように大気圧もしくは大気圧より若干高い圧力下での飽和温度(約77K以上)となっているから、過冷却温度(例えば65〜70K)の液体窒素を得るためには、冷凍機41の冷却ヘッド41Bの温度が飽和温度よりも低い例えば65K程度の温度となるようにし、かつその冷却ヘッド41Bを液面33Aよりもある程度低い位置(例えば液面より15〜20mm程度低い位置)の液中に浸漬させておかなければならない。そしてこのように冷凍機41の冷却ヘッド41Bを配置すれば、必然的にシリンダ部41Dは液面位置を通り、その下部は液体窒素中に浸漬されることになる。
【0029】
ところが既に述べたようにシリンダ部41Dの内部には、切替部41Cから冷却ヘッド41Bに向って高圧の媒体ガスが通るが、その温度は常温付近であって、液体窒素の温度よりも格段に高いため、シリンダ部41Dにおける液体窒素中に浸漬された部分においては媒体ガスから液体窒素中に多量の熱が流れ込み、液体窒素への大きな熱侵入が生じてしまう。その結果、超電導部材冷却装置における冷却効率が低下する問題があり、また上述のようなシリンダ部41Dからの熱侵入は、液体窒素の液面からの蒸発を招くが、その熱侵入量は一定していないのが通常であるため、熱侵入量の変動によって供給側容器21の液面33Aのレベルが不安定となり、その結果システム全体としても作動状態の不安定化を招いてしまう問題がある。
【0030】
また一方、システム全体の冷却効率を向上させるためには、供給側容器21内の過冷却液体窒素の液面33A、すなわち気液界面(例えば77K)から冷却ヘッド41B(例えば65K)への侵入熱を少なくすることが望まれる。このような気液界面33Aから冷却ヘッド41Bへの侵入熱は、気液界面33Aと冷却ヘッド41Bとの間の距離で決定されるから、その侵入熱を少なくするためには、冷却ヘッド41Bの位置をできるだけ下げるようにすれば良いが、一般に市販の冷凍機においては、シリンダ部41Dの長さが予め固有の長さに定まってしまっているため、冷却ヘッド41Bの位置を任意に下げることはできず、したがって気液界面からの冷却ヘッド部への侵入熱を少なくするにも限界があった。
【0031】
この発明は以上のような事情を背景としてなされたもので、大気圧もしくは大気圧以上の圧力に加圧された供給側容器内の液体窒素中に冷凍機の冷却ヘッドを浸漬させて、大気圧下での過冷却温度に液体窒素を冷却して、その過冷却温度の液体窒素を超電導部材へ導いて超電導部材を冷却するにあたり、冷凍機のシリンダ部からの液体窒素への熱侵入を可及的に防止し、これによって冷凍機の冷却効率の低下を防止するとともに、液体窒素液面の変動を可及的に防止することを基本的な目的とするものである。
【0032】
さらにこの発明は、供給側容器内の気液界面から冷却ヘッドへの熱侵入を可及的に少なくし、これによってシステム全体の冷却効率を向上させることをも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0033】
前述のような課題を解決するため、この発明の超電導部材冷却装置においては、基本的には、冷凍機のシリンダ部に断熱を施すこととし、さらにはその断熱を冷凍機の冷却ヘッドの上下方向中間位置まで延長することとした。
【0034】
具体的には、請求項1の発明の超電導部材冷却装置は、液面上に空間を残して液体窒素を収容しかつその液面上の空間を大気圧もしくは大気圧以上の圧力とされる供給側容器と、その供給側容器内の液体窒素を大気圧下での過冷却温度まで冷却するための冷凍機とを備え、供給側容器内の過冷却温度の液体窒素を冷却対象の超電導部材へ導いてその超電導部材を冷却するように構成された超電導部材冷却装置において、前記冷凍機は、媒体ガスを圧縮するための圧縮部と、圧縮された高圧の媒体ガスを膨張させて低温を得るとともにその低温を供給側容器内の液体窒素と熱交換させるための冷却ヘッドと、前記圧縮部からの高圧の媒体ガスと前記冷却ヘッドからの低圧の媒体ガスの流れを切替えるための切替部と、その切替部と冷却ヘッドとの間で媒体ガスを往復させるシリンダ部とを有してなり、前記切替部が前記供給側容器の外側上方に配置されるとともに、冷却ヘッドの上端が供給側容器内の液体窒素の前記液面よりも15mm以上低い位置となるように配置され、シリンダ部が供給側容器内の液体窒素の液面上方の空間を横切って液体窒素の液面下まで延出されている構成とされ、そのシリンダ部の外周面に断熱部が設けられていることを特徴とするものである。
【0035】
このような請求項1の発明の超電導部材冷却装置においては、冷凍機のシリンダ部の外周面に断熱部が設けられているため、そのシリンダ部における液体窒素中に浸漬された部分でも、シリンダ部から液体窒素への熱侵入量が少なく、そのため冷凍機の冷却効率が低下することが防止され、またシリンダ部からの熱侵入による液体窒素の蒸発自体も少なくなるため、液体窒素の液面レベルの変動も少なくなる。
【0036】
また請求項2の発明の超電導部材冷却装置は、請求項1に記載の超電導部材冷却装置において、前記断熱部が、前記冷却ヘッドの外周面の上下方向中間位置まで延長されていることを特徴とするものである。
【0037】
このような請求項2の発明の超電導部材冷却装置においては、冷凍機の冷却ヘッドの外周面の上下方向中間位置まで断熱部が延長されていて、冷却ヘッドの外周面の上部が断熱されているため、供給側容器における気液界面から冷却ヘッドへの熱侵入が少なくなり、そのためシステム全体として冷却効率を向上させることができる。
【0038】
そしてこのような請求項2の発明の効果は、請求項3で規定しているように冷却ヘッドの下端が供給側容器の底面近くまで延伸されている場合に特に有効に発揮される。
【0039】
ここで、シリンダ部の外周面の断熱部あるいは冷却ヘッド外周面の上下方向中間位置まで延長される断熱部としては、請求項4において規定しているように真空断熱構造としても、あるいは請求項5において規定しているように断熱材によって形成しても良い。
【発明の効果】
【0040】
この発明の超電導部材冷却装置においては、冷凍機の冷却ヘッドを供給側容器内の液体窒素中に浸漬させて液体窒素を冷却ヘッドで直接冷却するように構成していることから、冷凍機のシリンダ部もその下部が液体窒素中に浸漬されることになるが、シリンダ部の外周面に断熱部が設けられているため、シリンダ部から液体窒素中への熱侵入を少なくすることができ、そのため超電導部材冷却装置の冷却効率の低下を防止することができるとともに、シリンダ部からの液体窒素中への熱侵入に伴なう液体窒素液面からの蒸発も少なくなるため、液面のレベル変動も少なくなって、システムの作動状態の安定化を図ることができる。また特に請求項2の発明の超電導部材冷却装置においては、上述の効果に加え、冷凍機のシリンダ部外周面の断熱部が、冷却ヘッドの上下方向中間位置まで延長されているため、供給側容器における気液界面から冷却ヘッドへの熱侵入が少なくなり、そのためシステム全体の冷却効果を安定して向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明の一例の超電導部材冷却装置の全体構成を示す略解図である。
【図2】図1における超電導部材冷却装置における要部、特に供給側容器における冷凍機付近の部分の拡大正面断面図である。
【図3】この発明の超電導部材冷却装置における供給側容器の部分の他の例を示す拡大正面断面図である。
【図4】従来の超電導部材冷却装置の全体構成を示す略解図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0042】
図1にこの発明の一実施例の超電導部材冷却装置の一例を示し、図2にその要部、すなわち供給側容器における冷凍機付近の部分を拡大して示す。なお図1、図2において、図4に示した従来技術と同一の要素については図4と同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0043】
図1、図2において、冷凍機41は、既に述べたように冷凍媒体ガス(通常はヘリウムガス)を圧縮するための圧縮部41Aと、圧縮された高圧の冷凍媒体ガスを膨張させて低温を得るとともにその低温を冷却対象と熱交換するための冷却ヘッド41Bと、圧縮部41Aからの高圧の媒体ガスおよび冷却ヘッド41Bからの低圧の媒体ガスの流れを切替える切替部41Cと、その切替部41Cと冷却ヘッド41Bとの間で冷凍媒体ガスを往復させる通路を内部に形成したシリンダ部41Dとからなるものであり、その切替部41Cが供給側容器21の蓋部25上に配置され、シリンダ部41Dが切替部41Cから蓋部25を下方へ貫通して供給側容器21内の液体窒素の液面33A上の空間47を通り、その下端が液体窒素中に浸漬され、その部分すなわち液体窒素中に浸漬された部分に冷却ヘッド41Bが設けられている。ここで、シリンダ部41Dは一般にステンレス鋼により作られている。また冷却ヘッド41Bは、その外面に銅等の良伝熱材料からなる伝熱ブロックを設けた構成とされている。さらに圧縮部41Aは供給側容器21から離隔して配置され、圧縮部41Aと切替部41Cとの間が高圧ガス管路41E、低圧ガス管路41Fによって結ばれている。
【0044】
そして冷凍機41のシリンダ部41Dの外周面には、断熱部71が設けられている。この断熱部71は、図2に詳細に示すように、真空断熱構造からなるものであって、内壁71Aと外周壁71Bとからなる2重壁構造とされ、内壁71Aと外壁71Bとの間が真空断熱用空間71Cとされており、さらにその真空断熱用空間の一端側に真空排気管71Dが接続されていて、図示しない真空ポンプによって真空排気するように構成されている。
【0045】
このような図1、図2に示される実施例において、冷凍機41のシリンダ部41Dはその下部が供給側容器21における液体窒素33の液面33A下に浸漬されているが、そのシリンダ部41Dの外周面は真空断熱構造によって断熱されているため、シリンダ部41D内を常温付近の高圧の媒体ガスが流れても、その媒体ガスの熱が液体窒素中に侵入するおそれが極めて少ない。そのため超電導部材冷却装置における冷却効率が低下するおそれが少なく、またシリンダ部41Dからの熱侵入量自体が少ないため、たとえその熱侵入量が変動しても、液体窒素の液面レベルが変動するおそれも少ない。
【0046】
なお上述の例では、断熱部71は冷凍機41のシリンダ部41Dの外周面のみを覆った構成としているが、図3に示すように冷却ヘッド41Bの外周面のうち、特に上下方向の中間位置まで断熱部71を延長させても良い。ここで、断熱部71の下端位置(延長先端位置)は、送液ポンプ43の上端位置のレベルまたはその近くとすることが望ましい。このようにすれば、供給側容器21内における液体窒素33の液面33A、すなわち気液界面33Aから冷却ヘッド41Bへの熱侵入が少なくなり、システム全体の冷却効率を向上させることができる。なお図3の例では、冷凍機41の冷却ヘッド41Bを、その下端が供給側容器21の底面近くまで延伸させた構成としており、このような場合に特に前述の作用効果を有効に発揮させることができる。
【0047】
なお断熱部71は、前述の例では真空断熱構造としたが、必ずしも真空断熱構造とする必要はなく、場合によってはFRPなどの熱伝導率の低い樹脂系断熱材、その他無機系断熱材などの断熱材によってシリンダ部41Dあるいはさらに冷却ヘッド41Bの中間位置までの外周面を覆った構成としても良い。
【0048】
なお、本発明の超電導部材冷却装置は、図1、図2に示すように、供給側容器21における液体窒素33の液面下に、上下方向に熱勾配を与えかつ対流撹拌を防止するための断熱部材35が設けられている。
【0049】
さらに、前述の例では最終的な冷却対象となる超電導部材1を冷却容器3内に配置し、この冷却容器3内に供給側容器21から過冷却液体窒素を移送して超電導部材1を冷却するように構成しているが、超電導部材1を過冷却液体窒素によって冷却するための具体的構成は前述の例に限られるものではなく、要は供給側容器21から過冷却液体窒素を超電導部材へ導いてその超電導部材を冷却する構成であれば、任意の構成を適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 超電導部材
21 供給側容器
33 液体窒素
33A 液面
41 冷凍機
41A 圧縮部
41B 冷却ヘッド
41C 切替部
41D シリンダ部
71 断熱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液面上に空間を残して液体窒素を収容しかつその液面上の空間を大気圧もしくは大気圧以上の圧力とされる供給側容器と、
その供給側容器内の液体窒素を大気圧下での過冷却温度まで冷却するための冷凍機とを備え、
供給側容器内の過冷却温度の液体窒素を冷却対象の超電導部材へ導いてその超電導部材を冷却するように構成された超電導部材冷却装置において、
前記冷凍機は、媒体ガスを圧縮するための圧縮部と、圧縮された高圧の媒体ガスを膨張させて低温を得るとともにその低温を供給側容器内の液体窒素と熱交換させるための冷却ヘッドと、
前記圧縮部からの高圧の媒体ガスと前記冷却ヘッドからの低圧の媒体ガスの流れを切替えるための切替部と、
その切替部と冷却ヘッドとの間で媒体ガスを往復させるシリンダ部とを有してなり、
前記切替部が前記供給側容器の外側上方に配置されるとともに、冷却ヘッドの上端が供給側容器内の液体窒素の前記液面よりも15mm以上低い位置となるように配置され、
シリンダ部が供給側容器内の液体窒素の液面上方の空間を横切って液体窒素の液面下まで延出されている構成とされ、そのシリンダ部の外周面に断熱部が設けられていることを特徴とする、超電導部材冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超電導部材冷却装置において、前記断熱部が、前記冷却ヘッドの外周面の上下方向中間位置まで延長されていることを特徴とする、超電導部材冷却装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超電導部材冷却装置において、前記冷却ヘッドは、その下端が供給側容器の底面近くに位置するように延伸されており、前記断熱部が、前記冷却ヘッドの外周面の上下方向中間位置まで延長されていることを特徴とする、超電導部材冷却装置。
【請求項4】
前記断熱部が真空断熱構造とされている、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の超電導部材冷却装置。
【請求項5】
前記断熱部が断熱材により形成されている、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の超電導部材冷却装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−177677(P2010−177677A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52344(P2010−52344)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【分割の表示】特願2001−39721(P2001−39721)の分割
【原出願日】平成13年2月16日(2001.2.16)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【出願人】(800000035)株式会社産学連携機構九州 (34)
【Fターム(参考)】