説明

超音波強度分布計測方法

【課題】本発明は、被計測空間内の超音波強度分布を計測する超音波強度分布計測方法に関し、被計測空間内に超音波を送信し反射超音波を受信して受信信号を得るシステムにおける、被計測空間内の、超音波の送信から各ポイントで反射した超音波の受信に至るまでの実効的な超音波強度分布を計測する。
【解決手段】超音波送信用として用いられる第1の振動子から被計測空間内に超音波を送信させ被計測空間内に配置した超音波センサに超音波を受信させて被計測空間内の第1の音圧を求め、本来は超音波受信用として用いられる第2の振動子から被計測空間内に超音波を送信させ被計測空間内に配置した超音波センサに超音波を受信させて第2の音圧を求め、上記の第1の音圧と第2の音圧を用いて、被計測空間内の実効的な超音波強度分布を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被計測空間内の超音波強度分布を計測する超音波強度分布計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
様々な分野において、許可された者以外の者の立入りが禁止されている空間内に不審者が侵入したことを検知して警報を発するなど、様々な安全対策が求められている。例えば、停止中の自動車内に超音波送信機から超音波を送信し超音波受信機で反射超音波を受信して超音波のドプラシフトを検出することにより不審者の侵入を検出するシステムが考えられている。この場合に、自動車の車室内にはシートやその他の様々な物が存在しており、このため超音波が複雑に反射して車室内の超音波強度分布は一様又は滑らかな変化にはならず、車室内で複雑な強度分布を持つ。このためその車室内にどの程度の強度の超音波を送信すればよいか、あるいは受信感度をどの程度に設定すればよいか不明となる。さらには、送信強度や受信感度の如何によらず死角となる領域が存在するときはその領域を認識して死角を最小とするように車室内の設計変更等を行なうことも重要である。
【0003】
ここで、車室内の超音波の強度分布を測定するにあたり、超音波送信機から超音波を送信させ、車室内の各ポイントに超音波マイクロホンを順次に配置してその超音波マイクロホンでの受信信号の強度から車室内の超音波強度分布を求めることが考えられる。しかしながら、この場合、超音波受信機の指向性を無視することになり、超音波送信機で超音波を送信して超音波受信機で反射超音波を受信するまでのトータルの実効的な強度分布を求めることはできない。
【0004】
また、別の手段として、上記の超音波マイクロホンに代えて車室内に超音波反射体を置き、その超音波反射体を順次移動させながら超音波送信機から超音波を送信し超音波受信機で反射超音波を受信してその受信強度を調べることが考えられる。しかしこの場合、その超音波反射体のみから超音波が反射する訳ではなく、車室の壁面や、車室内のシートやその他の置き物からも反射するため、その超音波反射体を置いたポイントのみの強度を測定することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、被計測空間内に超音波を送信し反射超音波を受信して受信信号を得るシステムにおける、被計測空間内の、超音波の送信から各反射ポイントで反射した超音波の受信に至るまでの実効的な超音波強度分布を計測する超音波強度分布計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の超音波強度分布計測方法は、被計測空間内に超音波を送信する第1の振動子と、被計測空間内で反射して戻ってきた超音波を受信して受信信号を得る第2の振動子と、上記受信信号に基づいて被計測空間内における移動体の有無を検出する移動体検出部とを備えた移動体検出装置を稼動させたときの、被計測空間内の実効的な超音波強度分布を計測する超音波強度分布計測方法であって、
上記第1の振動子から前記被計測空間内に超音波を送信させその第1の振動子から第1の基準距離離れた第1の基準点と被計測空間内の複数の計測点それぞれに超音波センサを配置し超音波センサに超音波を受信させて第1の基準点の音圧である第1の基準音圧および複数の計測点それぞれの音圧である複数の第1の計測音圧を求める第1ステップと、
上記第2の振動子から被計測空間内に超音波を送信させ第2の振動子から第2の基準距離離れた第2の基準点と被計測空間内の複数の計測点それぞれに超音波センサを配置し超音波センサに超音波を受信させて第2の基準点の音圧である第2の基準音圧および複数の計測点それぞれの音圧である複数の第2の計測音圧を求める第2ステップと、
上記第1ステップで求められた第1の基準音圧に対する複数の計測点それぞれの複数の第1の計測音圧それぞれの第1の比率と、上記第2ステップで求められた第2の基準音圧に対する複数の計測点の複数の第2の計測音圧それぞれの第2の比率とに基づいて、被計測空間内の実効的な超音波強度分布を求める第3ステップとを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の超音波強度分布計測方法は、本来は、超音波受信用として用いられる第2の振動子を超音波送信用として用いることで実効的な超音波強度分布を計測するものである。第1の振動子から超音波を送信して超音波センサで受信したときの受信強度と第2の振動子から超音波を送信して超音波センサで受信したときの受信強度とから、超音波センサを配置したポイントの実効的な強度分布を求めることができ、それを同時に又は順次に被計測空間内の各ポイントで行なうことにより、被計測空間全域に亘る実効的な超音波強度分布を計測することができる。
【0008】
ここで、本発明の超音波強度分布計測方法において、上記第1ステップが前記超音波センサで超音波を受信して得た受信信号から計測対象の周波数の超音波に起因する信号成分を抽出しその信号成分に基づいて第1の基準音圧および複数の第1の計測音圧を求めるステップであり、
上記第2ステップが超音波センサで超音波を受信して得た受信信号から計測対象の周波数の超音波に起因する信号成分を抽出しその信号成分に基づいて第2の基準音圧および複数の第2の計測音圧を求めるステップであることが好ましい。
【0009】
不審者侵入時に特定の周波数の超音波に基づくドプラシフトを検出するシステムの場合、超音波センサで受信して得た超音波のうちその周波数成分のみを抽出しその周波数成分のみに基づく超音波強度分布を計測することが好ましい。
【0010】
ここで、本発明の超音波強度分布計測方法は、典型的には、自動車の車室を被計測空間とするものである。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば被計測空間内の実効的な超音波強度分布を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態の超音波強度分布計測方法を示す模式図である。
【図2】車室内を横から見て示した図である。
【図3】車室内を上から見て示した図である。
【図4】第1の振動子から発せられた超音波の周波数分布(A)および第2の振動子から発せられた超音波の周波数分布(B)を示す図である。
【図5】車室内の送信側のみの超音波強度分布を示す図である。
【図6】車室内の本来は受信に使用される側の超音波強度分布を示す図である。
【図7】送信側と受信側との双方を合わせたときの超音波強度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
図1は、本発明の第1実施形態の超音波強度分布計測方法を示す模式図である。
【0015】
被計測空間10を区画する壁面11には、この被計測空間10内に超音波を送信する第1の振動子12と、被計測空間10内で反射して戻ってきた超音波を受信する第2の振動子13が固定されている。また被計測空間10の内部には、様々な反射物体14が存在する。被計測空間10内に不審者等の移動物体が存在すると、その移動物体からの反射超音波はドプラシフトにより周波数が変化する。そこで、第2の振動子13で受信して得た信号からドプラシフトした成分を抽出することにより被計測空間内に侵入者等の移動物体が存在するか否かが検出される。
【0016】
侵入者等の検出の場面についての説明はこの程度とし、ここでは被計測空間10内の実効的な超音波強度分布の計測方法を説明する。
【0017】
図1には、コンピュータ等で実現した処理回路が示されている。
【0018】
この処理回路20は、送信制御部21、受信部22、演算部23、表示部24、およびそれらの各部を制御する制御部25から構成されている。
【0019】
ここでは、被計測空間10内に超音波マイクロホン31を持ち込み、被計測空間内で順次移動させながら以下の通りのシーケンスで被計測空間内の各ポイントの超音波強度を計測する。この場合において、第2の振動子13は、侵入者を検出する場面では反射超音波の受信素子として利用されるが、ここでは、この第2の振動子13も、第1の振動子12と同様、超音波送信素子として利用する。
【0020】
先ず、超音波マイクロホン31を第1の振動子12から単位距離(例えば100mm)だけ離れた第1の基準点31Aに置いて送信制御部21に第1の振動子12からの超音波の送信を指示させて第1の振動子12から超音波を送信させ、超音波マイクロホン31でピックアップし受信部22で受信信号を生成する。その生成された受信信号を演算部23に入力し演算部23でその受信信号に基づいて第1の基準音圧P10を求める。
【0021】
次に同様にして、超音波マイクロホン31を第2の振動子から単位距離(例えば100mm)だけ離れた第2の基準点31Bに置いて送信制御部21に第2の振動子13からの超音波の送信を指示させて第2の振動子13から超音波を送信させ、超音波マイクロホン31でピックアップし受信部22で受信信号を得て演算部23でその受信信号に基づく第2の基準音圧P20を求める。
【0022】
その後超音波マイクロホン31を被計測空間内の各ポイントに移動させ、各ポイントごとに第1の振動子12から超音波を送信させて超音波マイクロホン31でピックアップしてそのポイントの第1の計測音圧P1i(iは計測ポイントの番号)を求め、それに引き続いて第2の振動子13から超音波を送信させ超音波マイクロホン31でピックアップしてそのポイントの第2の計測音圧P2i(iは計測ポイントの番号)を求める。これを各計測ポイントごとに繰り返す。
【0023】
演算部23では、このようにして求められた第1の基準音圧P10、第2の基準音圧P20、各計測ポイントごとの第1の計測音圧P1iおよび第2の計測音圧P2iに基づいて、各計測ポイントiごとの超音波減衰率rを以下の式に従って算出する。
【0024】
【数1】

【0025】
このようにして、実使用時の送信側の第1の振動子12から超音波を発し超音波マイクロホン31でピックアップしたときの減衰率r1i=P1i/P10と、実使用時には受信を担う第2の振動子13から超音波を発し超音波マイクロホン31でピックアップしたときの減衰率r2i=P2i/P20を求め、それらを乗算することにより、第1の振動子12から発した超音波が計測ポイントに置かれた反射体で反射して第2の振動子13に戻ってきた超音波を第2の振動子13で受信したときの減衰率が求められる。この減衰率rを各計測ポイントごとに算出することにより、被計測空間10内の実効的な超音波強度分布が求められる。実際には、反射体の反射率によっても減衰率は異なるが、ここでは、被計測空間内の相対的な超音波強度分布を求めれば足り、以上の計測法で十分である。尚、ここでは、上記(1)式に基づいて減衰率rを算出することを示したが、これは一例である。例えばdB表現の場合は割り算は引き算に、乗算は足し算となり見かけ上の式は異なることになるが本質的には上記(1)式と同等である。
【0026】
仮に、実使用時と同様にして第1の振動子12からは超音波を送信し超音波マイクロホン31で受信して減衰率r1iを求め、今度は超音波マイクロホン31の代わりに超音波送信機をその計測ポイントiにおいて超音波を送信して第2の振動子13で受信して減衰率r2iを求めることも一応考えられるが、超音波送信機は一般にある程度狭い指向性を持ち、したがって超音波マイクロホン31に代えて超音波送信機を置いて超音波を送信する構成にすると、その超音波送信機の指向性に起因して不正確な計測となってしまうおそれがある。これに対し超音波マイクロホン31は十分に広い指向性を持つものが存在し、第1および第2の振動子12,13の双方を超音波送信素子として利用する上記の計測法の方が高精度の計測が可能となる。
【0027】
次に、自動車の車室内を被計測空間とする第2実施形態について説明する。
【0028】
図2は、車室内を横から見て示した図、図3は、車室内を上から見て示した図である。尚、図2,図3では、超音波は複数のビーム形状に示されている。
【0029】
車室100内の運転席と助手席との中央の天井部分に、超音波音源として用いられる第1振動子と超音波受信機として用いられる第2振動子が並んで配置されモジュール化された超音波モジュール101が設置されている。
【0030】
この超音波モジュール101は、車室内のあらゆる方向に向けて超音波を送信し、反射超音波を受信し、受信信号に基づいて超音波のドプラシフト量を計算し、侵入者の有無を判定し、侵入者が存在する旨判定したときは警報音を発する構成となっている。
【0031】
ここでは、前述の第1実施形態と同様、超音波音源として用いられる振動子だけでなく本来は超音波受信機として用いられる振動子も超音波音源として用い、前述の第1の実施形態と同様の計測法により車室100内の各計測ポイントについて減衰率が求められる。この減衰率は送信側の減衰率と、本来は受信側となる側の減衰率との積である((1)式参照)。尚、ここに示す第2実施形態では、超音波マイクロホン31を横に4本並べ縦に4本並べた合計16本使い、16の計測ポイントについて同時に計測を行なっている。その16本の超音波マイクロホン31を上下および前後に移動させながら、車室100内の全ての計測ポイントについて計測を行なっている。
【0032】
図4は、第1の振動子から発せられた超音波の周波数分布(A)および第2の振動子から発せられた超音波の周波数分布(B)を示す図である。
【0033】
いずれも40kHzの周波数に大きなピークを持つ。実際の侵入者検出の場面で40kHzの超音波を利用している。そこで、ここでは、フーリエ変換により40kHzを中心とした狭い帯域の信号のみを抽出し、その抽出した40kHzの周波数の超音波の音圧を求め、車室内の超音波強度分布を求めている。このように実際に使用される周波数の信号のみを抽出し、その周波数の信号に基づいて超音波強度分布を求めることにより、実際に即した超音波強度分布が求められる。
【0034】
図5は、車室内の送信側のみの超音波強度分布を示す図、図6は車室内の本来は受信に使用される側の超音波強度分布を示す図、図7は、送信側と受信側との双方を合わせたときの(すなわち、(1)式に従った)超音波強度分布を示す図である。
【0035】
超音波強度分布は送信側(図5)と受信側(図6)とではかなりの相違点があり、それらを統合した図7も図5,図6とは分布が異なっていることが分かる。
【0036】
このように、上記の各実施形態では、本来は受信側として使用される振動子から超音波を送信させることにより、被計測空間内の実効的な超音波強度分布を高精度に求めている。この超音波強度分布を、侵入者警報システムや被計測空間内のレイアウトなどの最適設計に反映させることができる。
【符号の説明】
【0037】
10 被計測空間
11 壁面
12,13 振動子
14 反射物体
20 処理回路
21 送信制御部
22 受信部
23 演算部
24 表示部
25 制御部
31 超音波マイクロホン
31A 基準点
100 車室
101 超音波モジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被計測空間内に超音波を送信する第1の振動子と、前記被計測空間内で反射して戻ってきた超音波を受信して受信信号を得る第2の振動子と、前記受信信号に基づいて前記被計測空間内における移動体の有無を検出する移動体検出部とを備えた移動体検出装置を稼動させたときの、前記被計測空間内の実効的な超音波強度分布を計測する超音波強度分布計測方法であって、
前記第1の振動子から前記被計測空間内に超音波を送信させ該第1の振動子から第1の基準距離離れた第1の基準点と該被計測空間内の複数の計測点それぞれに超音波センサを配置し該超音波センサに超音波を受信させて該第1の基準点の音圧である第1の基準音圧および該複数の計測点それぞれの音圧である複数の第1の計測音圧を求める第1ステップと、
前記第2の振動子から前記被計測空間内に超音波を送信させ該第2の振動子から第2の基準距離離れた第2の基準点と該被計測空間内の前記複数の計測点それぞれに超音波センサを配置し該超音波センサに超音波を受信させて該第2の基準点の音圧である第2の基準音圧および該複数の計測点それぞれの音圧である複数の第2の計測音圧を求める第2ステップと、
前記第1ステップで求められた前記第1の基準音圧に対する前記複数の計測点それぞれの前記複数の第1の計測音圧それぞれの第1の比率と、前記第2ステップで求められた前記第2の基準音圧に対する前記複数の計測点の前記複数の第2の計測音圧それぞれの第2の比率とに基づいて、前記被計測空間内の実効的な超音波強度分布を求める第3ステップとを有することを特徴とする超音波強度分布計測方法。
【請求項2】
前記第1ステップが前記超音波センサで超音波を受信して得た受信信号から計測対象の周波数の超音波に起因する信号成分を抽出し該信号成分に基づいて前記第1の基準音圧および前記複数の第1の計測音圧を求めるステップであり、
前記第2ステップが前記超音波センサで超音波を受信して得た受信信号から計測対象の周波数の超音波に起因する信号成分を抽出し該信号成分に基づいて前記第2の基準音圧および前記複数の第2の計測音圧を求めるステップであることを特徴とする請求項1記載の超音波強度分布計測方法。
【請求項3】
当該超音波強度分布計測方法が、自動車の車室を前記被計測空間とするものであることを特徴とする請求項1又は2記載の超音波強度分布計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−94999(P2011−94999A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246652(P2009−246652)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】