説明

超音波技法を用いて材料の厚みを測定するための方法

本発明は、多層構造の材料の厚みを測定するための方法に関する。この方法は、1つ又は複数の超音波変換器5を用いて、異なる周波数を含む1つ又は複数の超音波信号を2つ以上の材料1、2から成る多層構造内に送信すること、使用中の周波数においてその音響特性が異なる材料を測定すること、1つ又は複数の超音波変換器を用いて、多層構造の前面及び背面から反射される超音波信号を測定すること、並びに反射された超音波信号から多層構造内の材料の厚みを求めることを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波技法を用いて材料の厚みを測定するために方法に関する。特に、本発明は、既知の音響特性(すなわち、減衰及び音速)を有する2層以上の多層材料の組成及び厚みを測定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波は、聴力の範囲よりも高い周波数(>20kHz)を有する機械的振動を伝搬することから生成される。超音波診断への応用例では、一般的に縦波が用いられる。縦波は全てのタイプの媒質、気体、流体及び固体を通って伝搬することができるため、種々の応用例において有用である。超音波が媒質を通って進行するとき、その超音波は吸収、反射及び散乱に起因して減衰する。このように、媒質の材料特性が超音波伝搬の特性を変更するため、記録された超音波信号を用いて材料特性を評価することができる。
【0003】
多くの応用例において、超音波は、対象領域(評価中の物体)に達する前に、音響的に既知の材料の未知の組成を通って進行しなければならない。これらの場合に、対象物の超音波評価を成功させるには、その前に、上を覆う材料の影響を考慮し、これを除去しなければならない。一例として、超音波を用いて骨を診断評価するには、骨を覆う軟部組織を通して超音波測定を実施せざるを得ない。
【0004】
多くの工業的な過程は、2つ以上の材料の組成及び厚みを測定することに依拠する。市販の超音波厚み計は、2つ以上の材料の厚みを測定するが、これらの技法は、種々の材料層間の音響的に観測できる界面(すなわち、超音波反射)と、層状構造内の材料の順序が予め分かっていることとを必要とする。材料特性を厳密に監視することによって、効率を高めることができ、製品品質を改善することができる。そのような測定が、許容できる精度及び正確さで、迅速且つ非破壊的に達成できる場合には、さらなる利点が得られる可能性がある。これまで、材料特性は、或る形の破壊分析(サンプル分離、目視(peeking))によって測定されてきたが、超音波測定及び信号解析を用いることによって音響的に解析することができる。
関連技術の説明
骨の質及び量のような、骨特性の正確な超音波測定は、医学において久しく求められてきた。そのような測定技法を利用できるようになると、電離放射線(すなわち、現時点で「最も確実な標準的(golden standard)」技法である、二重エネルギーX線吸収測定、すなわちDXA)を用いることなく、大きな患者群を正確に且つ再現可能に連続して検診できるようになる。しかしながら、定量的な超音波技法の診断値を改善するためには、その測定は、典型的な骨折部位、たとえば、近位大腿骨又は椎骨から実施されるべきである。それにもかかわらず、そのような解剖学的位置は、骨を覆い、且つ骨の超音波評価を妨げる大量の軟部組織に起因して難しい。
【0005】
骨粗鬆症診断において、大部分の臨床用定量的超音波(QUS)デバイスは、典型的な骨折部位ではない、踵骨の透過測定に基づく。透過測定とは対照的に、椎骨及び近位大腿骨のような典型的な骨折部位において、反射測定及び後方散乱測定が行なわれる場合もある。骨格の骨を包囲する軟部組織層の変化に富んだ厚み及び組成は、骨の超音波測定にとって望ましくない著しい影響を及ぼす。以前には、軟部組織によって引き起こされる誤差は著しく、典型的には4%〜130%であることが分かっていた。
【0006】
水中体重法(underwater weighting)又は生体電気インピーダンス法を用いて、体の多数の部位の皮下脂肪厚を1組のノギスを用いて測定することによって、典型的には、体組成が測定される。局所的な軟部組織組成は典型的には、非侵襲的であるDXA又はMRI技法を用いて求められるが、電離放射線を伴い(すなわち、DXA)、それらの機器は高額であり、大きくて重い(DXA及びMRI)。超音波技法の利点は、低価格であり、小さく持ち運べるサイズであり、非電離の測定原理であることに関連する。持ち運びできる低コストの機器を用いて、許容できる精度及び正確さで、局所的な測定を非侵襲的に成し遂げることができれば有利であろう。
【0007】
以前に、特開第2000−237189号公報及び同第2001−128973号公報において特定の多周波数手法が導入されている。しかしながら、それらの技法は、透過(TT)−幾何学に基づいており、その技法の使用は限られる。さらに、これらの技法は、超音波減衰が周波数に線形に関連付けられるものと仮定する。たとえば、近位大腿骨(典型的な骨粗鬆症骨折部位)からの骨を評価する場合にTT−幾何学を用いることは、超音波が臀部を通って進行するときに生じる大きな減衰に起因して難しい。さらに、超音波骨解析装置に関連する英国特許第2257253号明細書もTT−測定幾何学に基づく。この技法(英国特許第2257253号明細書)において用いられる軟部組織補正法は、脂肪が多い部位−脂肪が少ない部位−骨の界面からの多数の反射に基づく。これは、たとえば、脂肪が少ない組織と脂肪が多い(脂肪)組織との間に明らかな界面が見られない場合に特に難しい。さらに、超音波を用いることによって体脂肪を特定する米国特許第5941835号明細書は、異なる軟部組織層からの反射に基づく。これは、たとえば、脂肪が少ない組織と脂肪が多い(脂肪)組織との間で明らかな超音波エコーが見られない場合に問題となる。米国特許第4512195号明細書は、超音波生体組織特性測定方式を導入し、これは、超音波評価において軟部組織によって引き起こされる誤差を除去するために、組織界面及び異なる周波数からの超音波反射に基づく。その方式は、全ての組織において、所定の一定の音速値を用いる。それにより、その軟部組織補正は、所定の単一の音速値、及び組織界面からの反射に基づく。音速値を一定にすることによって、異なる組織間の実際の音速値が異なる場合に、誤差が引き起こされる可能性がある。さらに、その方式は、音響的に観測可能な組織界面を必要とするが、それは多くの場合に達成するのが難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、超音波技法を用いて材料の厚みを測定するための方法を提供することである。該方法によれば、これまでの方法に関連する不都合が解消される。また、本発明の目的は、既知の音響特性(すなわち、減衰及び音速)を有する、2層以上の多層材料の組成及び厚みを測定するための方法も提供する。さらに、本発明の目的は、自然又は人工の多層材料を定量的に特性評価する際に用いることができる方法を提供することである。特に、本発明の目的は、骨を覆う軟部組織の量及び組成を求めることができる方法を提供することであり、それゆえ、該方法は、臨床的な骨超音波測定の精度を大幅に高めることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、多層構造の材料の厚みは、1つ又は複数の超音波変換器を用いて、2つ以上の材料から成る多層構造内に異なる周波数を含む1つ又は複数の超音波信号を送信すること、使用中の周波数に対してその音響特性が異なる材料を測定すること、1つ又は複数の超音波変換器を用いて、多層構造の前面及び背面から反射される超音波信号を測定すること、並びに反射された超音波信号から、多増構造内の材料の厚みを求めることによって測定される。該方法は、音響的に観測可能な前面及び背面からの反射のみに基づくため、多層材料内の他の界面が音響的に観測できない場合であっても、その測定にとって不都合はない。
【0010】
該方法は、上を覆う軟部組織の量及び組成を求めることができるため、臨床的な超音波測定の精度を大幅に高めることができる。特に、本発明は、軟部組織が骨測定に及ぼす影響を除去するために適用することができる。該方法は、骨−軟部組織界面(これは音響的に容易に観測可能である)からの反射のみに基づくため、他の組織界面は、超音波エコーが生じなくても、その測定を損なわない。該方法を用いて、局所的な軟部組織組成を正確に且つ再現可能に評価することができる。さらに、該方法は、自然又は人工の多層材料を定量的に特性評価する際に用いることができる。
【0011】
本発明の一実施の形態によれば、該方法は、使用中の周波数において超音波減衰係数及び音速の値が分かっている材料を測定することを含む。内部の層界面における真の音響反射を用いなくても、パルス−エコー技法を用いて、多層材料の層厚に関する評価を行うことができる。
【0012】
本発明の一実施の形態によれば、該方法は、1つの超音波変換器を用いて、異なる周波数を含む1つ又は複数の超音波信号を送信すること、同じ変換器を用いて、反射された超音波信号を測定すること、及び2つ以上の超音波周波数を観測することを含む。該方法によれば、材料又は組織を特性評価する際に送信機及び受信機としての役割を果たす1つの広帯域変換器を用いて測定システムを有利に構成できる(enable)ようになる。
【0013】
本発明のさらなる実施の形態によれば、該方法は、2つ以上の超音波変換器を用いて、異なる周波数を有する2つ以上の超音波信号を送信すること、2つ以上の超音波変換器を用いて反射された超音波信号を測定すること、及び2つ以上の超音波周波数を観測することを含む。有利なことに、該方法によれば、異なる周波数において材料又は組織を特性評価することに関する反射情報を与える2つの狭帯域変換器を用いる測定システムを構成できるようになる。
【0014】
本発明のさらなる実施の形態によれば、該方法は、生物学的組織の厚みを測定することを含む。該方法によれば、特定の音響特性を有する2つ以上の層によって形成される体組織を診断し、監視できるようになる。
【0015】
本発明のさらなる実施の形態によれば、該方法は、軟部組織内の脂肪が少ない組織及び脂肪が多い組織の厚みを測定することを含む。該方法は、脂肪が少ない組織及び脂肪が多い組織から成る局所的な軟部組織組成を正確に評価する。軟部組織組成を監視することによって、治療の効果を評価し、効率を高め、且つ追跡調査の質を改善するのを助けることができる。実施例1及び2を参照されたい。
【0016】
本発明のさらなる実施の形態によれば、該方法は、上を覆う軟部組織が骨の音響測定に及ぼす影響を測定及び補正することを含む。その軟部組織は、既知の音響特性を有する脂肪が多い組織及び脂肪が少ない組織から成るように単純化することができるため、本技法を適用して、軟部組織が骨測定に及ぼす影響を除去することができる。軟部組織の影響を除去することによって、診断上の骨パラメータの測定の精度が改善されるであろう。実施例1及び2を参照されたい。
【0017】
本発明のさらなる実施の形態によれば、該方法は、壁の多層構造の材料厚を測定することを含む。該方法を用いて、いくつかの層から成る種々の種類の壁のような構造を解析し、品質管理することができる。壁構造に関するそのような情報は、技術者が、たとえば、壁の侵食を追跡し、壁のような構造の機械的な完全性を推定するのを助けるであろう。さらに、壁のような構造の層厚に関する情報によって、壁のような構造をリアルタイムに、且つ非破壊的に品質管理できるようになる。
【0018】
本発明のさらなる実施の形態によれば、該方法は、構造を覆うコーティングの厚みを測定することを含む。数多くの応用例において、コーティング完全性、均質性及び厚みは、コーティングの機能的性能に関連する重要な情報であり、該方法は、製造工程を最適化するのを助ける(すなわち、コーティング厚に関する情報を提供する)ことに加えて、コーティングされた製造物を品質管理できるようにする。
【0019】
本発明のさらなる実施の形態によれば、該方法は、構造を覆うコートペイントの厚みを測定することを含む。コートペイント完全性、均質性及び厚みは、コートペイントの機能的性能(たとえば、機械的な耐摩耗性)に関連する重要な情報であり、該方法は、製造工程を最適化するのを(たとえば、コートペイントの消費を最適化する、技術的性能を最適化するのを)助ける(すなわち、コートペイント厚に関する情報を提供する)ことに加えて、塗装された製造物を品質管理し、バッチ間で一定の品質を確保できるようにする。
【0020】
本発明のさらなる実施の形態によれば、該方法は、自然又は人工の構造、典型的には、たとえば木、ゴム、プラスチック、セラミック又はコンクリートから成る層状の複合材料内の個々の層の厚みを測定することを含む。それにより、該方法は、典型的には、たとえば航空宇宙、自動車及び消費製品技術において適用するために必要とされる、層状構造の新規の非破壊的な材料の特性評価を提供する。該方法は、製造工程を最適化するのを助けることに加えて、層状製造物を品質管理できるようにする。
【0021】
本発明のさらなる実施の形態によれば、該方法は、多層構造が、多層構造の背後に配置される対象物の音響測定に及ぼす影響を測定及び補正することを含む。その多層構造は、既知の音響特性を有する2つ以上の材料から成るように単純化することができるため、本技法を適用して、多層構造が物体測定に及ぼす影響を除去することができる。多層構造の影響を除去することによって、対象物パラメータの測定の精度が改善されるであろう。実施例1及び2を参照されたい。
【0022】
本発明の二重周波数超音波技法(DFUS)又は多周波数超音波技法(MFUS)は、音響特性が分かっている2層以上の多層材料の未知の組成及び厚みを求めるための新規の計算技法である。
【0023】
DFUS技法は、同じ変換器が超音波信号を送信及び受信するパルス−エコー幾何学に基づく。DFUS又はMFUSにおいて必要とされる多数の周波数は、構造内の異なる材料層の数に等しい数であり、単一の広帯域超音波変換器を用いて、又は異なる周波数を有する多数の超音波変換器を用いて生成することができる。本計算方法は、調査される材料の特定の音響特性が分かっていること、すなわち、1)その材料に関する超音波減衰係数の値が分かっており、且つそれらの値が周波数に依存すること、2)超音波減衰係数の値が材料層毎に異なること、及び3)材料毎の音速が分かっていることを必要とする。条件1〜3が満たされるとき、多層材料内の各材料成分の全厚を求めることができる。その解析は、多層構造の下側界面からの、周波数とは無関係な音の反射に基づく。その解析は、多層構造の上側表面反射と下側界面反射との間の時間差を利用する。この情報を用いて、多層構造内の各材料の厚みを求めることができ、多層構造の組成を評価することができる。DFUS解法の数学的な導出が実施例1において提示される(MFUS解法も同じようにして導出することができる)。DFUS技法は多層構造の下側からの反射に基づくため(それは音響的に容易に観測可能であるように設定することができる)、多層構造内の異なる層からの音響的に観測可能な反射は不要である。したがって、その技法を用いて、音響的に観測できない層構造であっても、材料の多層構造の組成及び厚みを求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】広帯域超音波変換器を用いる測定の概略図である。
【図2】2つの超音波変換器を用いる測定の概略図である。
【図3】広帯域超音波変換器による、層状の脂肪が多い組織及び脂肪が少ない組織の全厚の測定の概略図である。
【図4】実施例1による、音響的に異なる3つのエラストマの全厚の測定の概略図である。
【図5a】実施例2による、基準信号スペクトルから求められる実効周波数帯域を示す図である。
【図5b】実施例2による、高周波数及び低周波数積分反射係数の計算のための周波数帯域がいかにして得られるかを示す図である。
【図6】実施例2による、DXAを用いて測定されるようなダイエット中の体組織内の変化を示す図である。
【図7a】実施例2による、単一変換器DFUS法を用いる結果を示す図である。
【図7b】実施例2による、2変換器DFUS法を用いる結果を示す図である。
【図8】実施例2による、DFUS補正を用いる場合、及び補正を用いない場合に求められるような平均積分反射係数(IRC)値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1では、層状材料4が単一の広帯域超音波変換器5を用いて測定される。超音波は2つの材料1、2から成る多層材料4を通って伝搬し、多層構造の下側から反射される。測定されるパルス−エコー信号が解析するために記録される。多層材料の下側からの反射が用いられ、基準反射体(平滑な金属板のような標準化された反射体)からの反射と比較される。両方の信号(材料測定及び基準測定)に対して、高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて、超音波信号の周波数応答(周波数スペクトル)が計算される。材料の下側からの超音波反射と標準反射体からの超音波反射との比として反射係数が計算される。反射係数スペクトルから、2つの典型的な周波数が求められ(Δf1及びΔf2)、DFUSに基づく厚み計算のために、対応する反射係数値(単一値又は平均値)が用いられる。DFUS技法を用いて、材料1及び2の全厚みを求めることができる。
【0026】
図2では、2つの材料1、2から成る層状材料4が、異なる周波数を用いる2つの超音波変換器5で測定される。超音波は2つの異なる周波数を有する多層材料を通って伝搬し、超音波エコーが多層構造の下側から反射される。低周波数及び高周波数両方のパルス−エコー信号が解析するために記録される。信号(低周波数及び高周波数)毎に多層材料の下側からの反射が用いられる。超音波信号の周波数応答(周波数スペクトル)が、いずれの場合にも高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて計算される。同じアルゴリズムを用いて、標準化された反射体からの基準パルス−エコー測定の周波数スペクトルが計算される。低超音波周波数(Δf2)及び高超音波周波数(Δf1)の測定のための典型的な周波数範囲が求められる。高周波数及び低周波数において、材料の下側からの超音波反射の周波数スペクトルと基準反射体からの超音波反射の周波数スペクトルとの比として反射係数が計算される。いずれの反射係数スペクトル(低周波数及び高周波数の場合)も、DFUSに基づく厚み計算において求められた周波数範囲(Δf1及びΔf2)において用いられる。最後に、DFUS技法を用いて、材料1及び2の全厚を求めることができる。
【0027】
図3では、脂肪が多い組織1及び脂肪が少ない組織2の全厚が、広帯域超音波変換器5を用いるDFUS技法で求められる。最初に、超音波信号が軟部組織を通して送信される。軟部組織−骨6の界面から超音波が反射される。測定されたパルス−エコー信号が記録され、後に解析するために保存される。界面反射(軟部組織−骨)の周波数スペクトルが、高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて計算される。その後、計算された周波数スペクトルが、基準測定(標準化された反射体、たとえば、研磨された鋼板のパルス−エコー測定)の周波数スペクトルと比較される。単一の広帯域変換器を用いるとき、2つの典型的な周波数における反射係数が求められる。最後に、DFUS技法を用いて、脂肪が多い組織及び脂肪が少ない組織の全厚が計算される。これらの厚みに関する情報を用いて、軟部組織が骨の超音波測定に及ぼす影響を数学的に除去することができる。最後に、軟部組織に関して補正された骨パラメータの値が計算される。
【実施例】
【0028】
実施例1
概要
定量的な超音波は、骨粗鬆症の臨床的な検診の可能性を有することが示唆されてきた。大部分の市販の超音波デバイスは、一般的な骨折部位ではない踵骨の透過測定に基づいている。透過測定とは対照的に、椎骨及び近位大腿骨のような典型的な骨折部位において、反射測定及び後方散乱測定を行なうことができる。これらの領域において骨を覆う軟部組織は、測定の信頼性に影響を及ぼす。この実施例1では、軟部組織によって引き起こされる誤差を除去するために二重周波数超音波(DFUS)技法が提示される。その技法は、エラストマサンプルを用いて予め検証される。さらに検証するために、不均質の軟部組織で覆われるヒト海綿骨サンプル(n=25)が、2.25MHz及び5.0MHzの周波数において測定される。DFUS技法は、広帯域超音波後方散乱において、及び積分反射係数(5.0MHz時)において、軟部組織によって引き起こされた平均誤差を、58.6%から−4.9%に、及び127.4%から23.8%にそれぞれ低減した(p<0.01)。結論として、上を覆う軟部組織の組成及び厚みを求めることができる第1の超音波技法である二重周波数超音波技法は、臨床的な超音波測定の精度を高めることができ、有意な臨床値を有することができる。
方法−エラストマサンプルによる検証
それらの調査において、音響的に異なる3つのエラストマ(3a−3c、Teknikum Oy、Vammala、Finland、直径=26mm)が用いられた。エラストマ3a、3b及び3cの厚みはそれぞれ、10.25mm、5.50mm及び6.00mmであった。エラストマサンプル(エラストマ3、図4)が、上を覆って測定を妨げるエラストマ1及び2(図4)(RAPRA Technology Ltd、Shropshire、UK)の組み合わせを用いる場合と、その組み合わせを用いない場合とで測定された。
【0029】
図4は、エラストマサンプルの音響測定のための実験構成を示す。超音波信号内の対象領域が、エラストマ3の表面から生じるエコーにおいて位置特定される。エラストマ3の音響特性を求める際に、二重周波数超音波技法を用いて、エラストマ1及び2によって引き起こされるアーチファクトが最小限に抑えられた。
【0030】
図4に示されるように、層状のエラストマ材料が、異なる周波数を用いる2超音波変換器5で測定される。2つの異なる周波数を有する超音波が多層エラストマを通って伝搬し、エラストマ3の表面から信号が反射する。低周波数及び高周波数両方のパルス−エコー信号が解析するために記録される。エラストマ3の表面からの反射が信号(低周波数及び高周波数)毎に用いられる。超音波信号の周波数応答(周波数スペクトル)が、いずれの場合にも高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて計算される。同じアルゴリズムを用いて、変換器−エラストマ3の距離に対応する変換器−鋼板距離を用いて、標準反射体(すなわち、研磨された鋼板)からの基準パルス−エコー測定の周波数スペクトルが計算される。低超音波周波数(2.25MHz)及び高超音波周波数(5.0MHz)の測定の場合の典型的な周波数範囲が求められる。低周波数及び高周波数において、エラストマ3の表面からの超音波反射の周波数スペクトルと基準反射体からの超音波反射の周波数スペクトルとの比として反射係数が計算される。いずれの反射係数スペクトル(低周波数及び高周波数の場合)も、DFUSに基づく厚み計算において用いられる。最後に、DFUS技法を用いて、エラストマ1及び2の全厚を求めることができる。エラストマ3の音響特性を求める際に、二重周波数超音波技法を用いて、エラストマ1及び2によって引き起こされるアーチファクトが最小限に抑えられた。
【0031】
測定を妨げるエラストマの組み合わせ(n=3、直径=15mm)は、種々の厚みを有する2つの異なるエラストマサンプルから成る(エラストマ1及び2、図4)。エラストマの厚みが、マイクロメータを用いて測定された。測定を妨げるエラストマの組み合わせにおけるエラストマ1及び2の厚みはそれぞれ、1.19mm及び3.22mm(組み合わせ1)、2.00mm及び1.85mm(組み合わせ2)、さらには3.01mm及び0.97mm(組み合わせ3)であった。エラストマ1及び2はそれぞれ40及び69の機械的ショア値を有する。
方法−生体組織による検証
ヒト海綿骨サンプル(n=25)が、上を覆うブタ軟部組織(n=25)を用いる場合、及び用いない場合に測定された。ヒト海綿骨サンプル(直径=16mm、厚み=7.5mm)は、ヒト大腿骨外側顆部(n=13)及び脛骨外側平坦部(n=12)から収集された(法医学業務に関する国内当局、許可1781/32/200/01)。地方の食肉処理場(Atria Oy、Kuopio、Finland)によって提供される新鮮な軟部組織サンプル(厚み=10mm〜20mm)が、30%の脂肪含有量を有するブタ軟部組織から、測定直前に準備された。
超音波測定
超音波変換器の中心周波数は2.25MHz及び5.0MHzであった。エラストマの全ての超音波測定は、脱気蒸留水槽(21℃)において行なわれた。エラストマ1及び2における超音波速度及び平均減衰は、透過幾何学における置換法を用いて求められたのに対して、積分反射係数(IRC)はパルス−エコー技法で求められる。エラストマ3a−3cのための超音波平均減衰及びIRCが、上を覆って測定を妨げるエラストマの組み合わせを用いる場合、及び用いない場合に求められた。脂肪が多い(脂肪)組織及び脂肪が少ない組織の音響特性、並びにヒト海綿骨の音響特性が、2.25MHz及び5.0MHzの周波数において求められた。生体組織(脂肪が多い組織及び脂肪が少ない組織、海綿骨)による上記の測定は、体温(37℃)における脱気リン酸緩衝食塩水(PBS)において行なわれた。
二重周波数超音波技法
エラストマ3a−3cのための超音波平均減衰及びIRCが、上を覆って測定を妨げるエラストマを用いる場合、及び用いない場合に求められた。測定を妨げるエラストマによって引き起こされるアーチファクトを除去するために、それらのエラストマの厚み及び音響特性は既知でなければならない。測定を妨げるエラストマ層の厚みは、二重周波数超音波技法を用いて求めることができる。
【0032】
補正されたIRC(IRCcorr)は以下のように求めることができる。
IRCcorr=IRCuncorr+2xα+2xα+K (1)
ただし、IRCuncorrは補正されていない積分反射係数(IRC)であり、xはエラストマ厚であり、αはエラストマのための超音波平均減数係数である。下付き文字1及び2はそれぞれエラストマ1及び2を指しており、Kはエラストマ1及び2の表面における超音波反射を補償するための補正係数であり、以下の通りである。
【0033】
=8.68ln((1−R(1−R) (2)
ただし、Rはエラストマ1及び2(それぞれ下付き文字1及び2)の対応する反射係数である。補正された平均減衰(Acorr)は以下のように求めることができる。
【0034】
corr=Auncorr−xα−xα−K (3)
ただし、Auncorrは補正されていない平均減衰であり、Kはエラストマ1、2及び3の表面における超音波反射を補償するための補正係数であり、以下の通りである。
【0035】
=8.68ln((1−R)(1−R)(1−R)) (4)
骨−軟部組織の組み合わせのIRC及び広帯域超音波後方散乱(BUB)測定のための軟部組織補正が、エラストマの場合と同じようにして行なわれた(式1)。脂肪が少ない組織及び脂肪が多い組織から成る不均質な混合物において明らかな音響的境界は存在しなかったため、K項は無視することができる。
結果及び結論
エラストマ2は、エラストマ1に比べて高い平均減衰及びIRCを示したのに対して、エラストマ1及び2の音速(SOS)の変化はわずかにすぎなかった(表1)。平均減衰及びIRCは、いずれのエラストマにおいても、周波数の関数として増加した(表1)。脂肪が多い組織と比べた場合に脂肪が少ない組織において、SOSが高く、平均減衰が低かった(表2)。予想されるように、平均減衰は、脂肪が少ない組織及び脂肪が多い組織において周波数の関数として増加した(表2)。
【0036】
表1は、2.25MHz及び5.0MHzにおけるエラストマ1及び2の積分反射係数(IRC)、音速(SOS)及び平均減衰の値(平均±SD)を示す。二重周波数超音波技法において、エラストマ3のための音響パラメータの値を求める際に、エラストマ1及び2の音響特性の平均値を用いて、それらのエラストマの測定を妨げる影響を除去した(図4)。
【0037】
【表1】

【0038】
表2は、2.25MHz及び5.0MHzにおける脂肪が少ない組織及び脂肪が多い(脂肪)組織の音速(SOS)及び平均減衰の値(平均±SD)を示す。二重周波数超音波技法において、海綿骨組織のための音響パラメータの値を求める際に、それらの平均値を用いて、上を覆う軟部組織の測定を妨げる影響を除去した。
【0039】
【表2】

【0040】
DFUS技法は、IRC及び平均減衰(2.25MHz時)において、測定を妨げるエラストマによって引き起こされる平均誤差を、37.5%−77.5%から−12.0%−4.9%に、そして70.0%−201.1%から−1.1%−34.6%にそれぞれ低減した(表3)。さらに高い周波数(5.0MHz)では、DFUS技法は、IRC及び平均減衰において、測定を妨げるエラストマによって引き起こされる平均誤差を、103.6%−289.4%から−15.9%−5.6%に、そして33.8%−158.3%から−29.7%−6.5%にそれぞれ低減した(表3)。
【0041】
表3は、2.25MHz及び5.0MHzにおけるエラストマ(3a−3c)の積分反射係数(IRC)及び平均減衰の値を示す。そのエラストマ3a−3cのための音響パラメータの値も、上を覆って測定を妨げるエラストマ(1及び2)が存在する場合に求められた(図4)。補正されていない値(平均±SD)及び補正された値(二重周波数超音波技法)も提示される。パラメータの平均値を用いて、絶対誤差が計算される。
【0042】
【表3】

【0043】
軟部組織−骨の組み合わせにおいて、DFUS技法は、BUB及びIRCにおいて(5.0MHz時)、軟部組織によって引き起こされる平均誤差を、58.6%から−4.9%に、そして127.4%から23.8%にそれぞれ低減した(表4)。
【0044】
表4は、2.25MHz及び5.0MHz時のヒト海綿骨における積分反射係数(IRC)及び広帯域超音波後方散乱(BUB)の値(平均±SD)を示す。その骨サンプルの音響特性も、軟部組織層が上を覆っている状態で求められた。補正されていない値(平均±SD)及び補正された値(二重周波数超音波技法)も提示される。絶対誤差が、パラメータの平均値を用いて計算される。
【0045】
【表4】

【0046】
この実施例1では、骨超音波測定の軟部組織補正のための新たな超音波法が導入される。エラストマサンプルによる最初の検証は、超音波測定の精度の大きな改善を実証した。5.0MHz時のIRCの誤差は、103.6%−289.4%から−15.9%−5.6%に減少した。同様に、10mm〜20mmの軟部組織が上を覆う場合のヒト海綿骨サンプルでは、BUBの誤差(5.0MHz時)は、58.6%から−4.9%に減少した。
【0047】
結論として、実施例1において導入されるDFUS技法は、上を覆う軟部組織の量及び組成を求めることができる第1の超音波技法であり、それゆえ、臨床的超音波測定の精度を大幅に高めることができる。
実施例1のための付録
測定を妨げる層1及び2の厚みは、二重周波数超音波技法を用いて求めることができる。対象領域(たとえば、骨又はエラストマ3(図4))の第1の表面からの低周波数及び高周波数超音波の超音波反射振幅(A、A)は以下のように表すことができる。
【0048】
【数1】

【0049】
ただし、Hは測定を妨げる層の表面における超音波反射を含む反射項であり、αは減衰係数であり、xは測定を妨げる層の厚みである。下付き文字1,2、l及びhはそれぞれ、測定を妨げる層1及び2、低超音波周波数及び高超音波周波数を指す。超音波振幅A0,l及びA0,hはそれぞれ、低周波数及び高周波数の場合の、研磨された鋼板からの超音波反射振幅を指す。超音波反射係数が周波数に依存する場合には、その計算において考慮に入れることができる。
【0050】
H(f)=af (A3)
ただし、係数a及びbは反射項の周波数依存性を表す。したがって、低周波数における項Hと高周波数における項Hとの間の関係は以下のように表すことができる。
【0051】
=H(f/f=mH (A4)
ただし、fは周波数であり、係数mは、Hの周波数依存性を表す。ここで、超音波反射係数Aは、以下のように表すことができる。
【0052】
【数2】

【0053】
A6及びA7を代入することによって、式A5はA8のように表すことができる。
S=2kα1,h−2α1,l (A6)
J=2kα2,h−2α2,l (A7)
【0054】
【数3】

【0055】
測定を妨げる層の第1の表面からの反射とサンプルの表面からの反射との間の時間差Δt(図4を参照)は以下のように書くことができる。
【0056】
【数4】

【0057】
ただし、c、c及びcは、低超音波周波数及び高超音波周波数において測定される平均音速である。下付き文字wは水を指す。測定を妨げる層1の厚みは以下のように表すことができる。
【0058】
【数5】

【0059】
ここで、式A8及び式A10から、測定を妨げる層2の厚みを求めることができる。
【0060】
【数6】

【0061】
最後に、層2の所定の厚みを用いて、式A10から層1の厚みを計算することができる。
骨−軟部組織の組み合わせにおいて、二重周波数超音波技法を用いて、脂肪が多い(脂肪)組織及び脂肪が少ない組織の厚みを求めることができる。骨表面における反射は周波数に依存しないことが分かり(2.25MHz対5.0MHz)、軟部組織表面、及び脂肪が多い組織と脂肪が少ない組織との間の界面からの反射は最小であり、それゆえ、b=0及びm=1であることが分かった。脂肪が多い(脂肪)組織と脂肪が少ない組織との間に水分が存在しない(x=0)場合には、式A10は単純にすることができ、脂肪が少ない組織の厚みは以下のように表すことができる。
【0062】
【数7】

【0063】
ただし、下付き文字1及び2はそれぞれ、脂肪が多い組織及び脂肪が少ない組織を指す。
実施例2
概要
定量的な超音波は、骨粗鬆症の臨床的な検診の可能性を有することが示唆されてきた。しかしながら、大部分の市販の超音波デバイスは、一般的な骨折部位ではない踵骨の透過測定に基づいている。透過測定とは対照的に、椎骨、橈骨及び近位大腿骨のような典型的な骨折部位において、反射測定及び後方散乱測定を行なうことができる。残念なことに、これらの領域において骨を覆う軟部組織は、測定の信頼性を損なう。この実施例2では、二重周波数超音波(DFUS)技法が、ヒト遠位大腿骨の積分反射係数(IRC)測定から、軟部組織によって引き起こされる誤差をインビボで除去するために適用される。その技法が局所的な軟部組織組成の変化を追跡する能力が、ダイエット中のボディビルダーによって生体内で調査される。さらに、その技法の新規の単一変換器応用例が提示される。
【0064】
単一広帯域超音波変換器DFUS技法は、基準、すなわち、二重エネルギーx線吸光光度(DXA)測定(r=0.88)によって確認されるように、局所的な軟部組織組成を求めるための正確な方法であることが証明された。DFUSで補正されたIRC値は、上を覆う軟部組織の量及び組成に著しい変化があるにもかかわらず、ダイエット中のわずかな変化も検出されることを示した。制御DXA測定は、ダイエットが骨密度に影響を及ぼさないことを示したため、その結果は励みになる。
【0065】
結論として、簡単であるが、上を覆う軟部組織層の組成及び厚みを求めるための正確な技法である二重周波数超音波技法は、骨質の臨床的な超音波測定の精度を高めることができ、それゆえ、有意な臨床値を有する。さらに、その技法は、基準測定(DXA)で確認されるように、局所的な軟部組織の特性評価(すなわち、組成)のための迅速、且つ正確な手段であることが証明された。
材料及び方法
志願者であるボディビルダー(著者のうちの一人であり、年齢=27歳、身長=172cm、開始時体重=92kg)は、脂肪が少ない組織の同時損失を最小限に抑えながら、体脂肪含有量を低減するために、競技前の21週間低エネルギーダイエットを実施した。その志願者から、書面による同意が得られた。その志願者の朝の体重が、デジタル体重計を用いて標準的な方法で週に一度測定された。右大腿遠位部に位置する対象領域(ROI)における全相対体脂肪及び軟部組織組成が、DXA(Lunar Prodigy、Wessling、Germany)で3週間毎に求められた。DXA測定の2時間以上前には、飲物及び食品の摂取量が最小限に抑えられた。さらに、志願者の右大腿部に位置するROIの超音波測定が、DXA測定と共に、3週間毎に標準的な方法で実施された。
【0066】
全ての超音波測定(UltraPAC、Physical Acoustic Co.、NJ、USA)が2つの合焦型変換器(それぞれ中心周波数2.25MHz及び5.0MHzで、焦点距離50.3及び49.8mmである)(Panametrics Inc.、Waltham、MA、USA)を用いて手動で行なわれた。超音波ゲル(Aquasonic 100、Parker Laboratories Inc、Fairfield、NJ、USA)を用いることによって、音響結合が保証された。
【0067】
二重周波数超音波技法(DFUS)は、2つの超音波周波数で軟部組織−骨界面において積分反射係数(IRC)を測定することに基づく。積分反射係数(IRC)は以下のように計算された。
【0068】
【数8】

【0069】
ただし、Δfは実効周波数範囲であり、R(f)は軟部組織−骨界面における超音波反射係数スペクトルである。
軟部組織−骨界面における超音波反射は周波数とは無関係であり、脂肪が少ない組織及び脂肪が多い(脂肪)組織の場合に周波数依存の減衰係数が分かっているため、軟部組織組成は、DFUS技法を用いて求めることができる。以下の説明では、DFUS技法の数学的な基礎が手短に提示される。
【0070】
補正されたIRC(IRCcorr)は以下のように求めることができる。
IRCcorr=IRCuncorr+2xα+2xα (2)
IRCuncorrは補正されていないIRCであり、xは組織厚であり、αは超音波平均減衰であり、下付き文字L及びAはそれぞれ脂肪が少ない組織及び脂肪が多い組織を指す。
【0071】
脂肪が少ない組織及び脂肪が多い組織の層厚x及びxは、二重周波数超音波技法を用いて求めることができる。
手短に述べると、脂肪が少ない組織の厚みは以下のように表すことができる。
【0072】
【数9】

【0073】
脂肪が多い組織の厚みは以下のように表すことができる。
【0074】
【数10】

【0075】
ただし、下付き文字A及びLはそれぞれ脂肪が少ない組織及び脂肪が多い組織を指す。
1つの変換器手法では、高周波数及び低周波数の計算周波数帯域の場合の積分反射係数が、変換器実効帯域幅の低周波数端及び高周波数端における1MHz幅周波数帯域として求められる(図5)。2.25MHz及び5MHz変換器の実効(−6dB)帯域幅はそれぞれ、(1.7MHz−3.9MHz)及び(2.5MHz−6.2MHz)であった。時間領域における反射信号のためのROIは、周波数領域解析前に、ハミング窓(長さ2ms)を用いてウインドウ処理された。
【0076】
脂肪が少ない組織及び脂肪が多い(脂肪)組織のための超音波減衰係数が、予め、5つの異なる周波数の場合に実験によって求められた。現在の実施例では、そのデータに指数関数の当てはめを適用して、本実施例において適用される周波数帯域のための減衰係数を補間した。
【0077】
Customized Labview(v.6i、National Instruments、Austin、TX、USA)及びMatlab(Matlab6.5、The Mathworks Inc.、Natick、MA、USA)機能がそれぞれ、測定及びデータ解析のために構成された。統計解析のためにSPSS version11.5(SPSS Inc.、Chicago、IL、USA)が用いられた。線形相関係数を計算するために、ピアソンの相関解析が用いられた。
結果及び結論
ダイエットの21週間中に、ボディビルダーの体重は91.6kgから75.1kgに線形に減少した(r=0.99、n=22)。ROI内の局所的な体脂肪含有量は、DXA及びDFU技法のいずれによっても、同じような線形の減少を示した。さらに、DXA(図6)によって求められるように、脂肪が少ない組織の全質量が同時に減少することはなかった。重要なのは、大腿又は脊髄BMDにもROIにおけるBMDにも、ダイエット中の変化はなかったことである。(それぞれ、p=0.87、p=0.64及びp=0.16)。
【0078】
DXAにより求められた局所軟部組織組成とDFUSにより求められた局所軟部組織組成との間に有意な関連が見出された(図7)。重要なのは、単一変換器DFUS(5MHz時)が、2変換器手法よりも、局所軟部組織組成に関して良好な推定を与えたことである。脂肪含有量の減少に起因して減衰が減少するのに応じて、補正されていないIRCは、ダイエット中に明らかな増加傾向を示した(図8)。軟部組織補正IRC値は、ダイエット中にわずかな増加傾向しか示さなかった。重要なのは、全ての周波数において、補正されたIRC値が、追跡期間全体を通して、弱い(有意でない)傾向及び小さな変化(SD=±1.2dB)しか示さなかったことである。
【0079】
この実施例2では、局所軟部組織組成を求めるための二重周波数超音波技法の新規の単一変換器手法が提示された。さらに、2及び1変換器DFUS手法のインビボでの適用可能性が調査された。いずれのDFUS技法も、局所軟部組織組成をインビボで求めるための大きな可能性を示した。重要なのは、単一変換器手法(5MHz時)が、当初の2変換器DFUS技法よりも、局所軟部組織組成のさらに信頼度の高い推定値を与えたことである。これは、単一変換器手法の方が簡単であり、一度の手動超音波測定しか必要としないことによって説明することができる。
【0080】
補正されていないIRCは、脂肪含有量の減少に起因して減衰が減少するのに応じて、ダイエット中に明らかな増加傾向を示した。重要なのは、軟部組織補正IRC値が、ダイエット中にわずかしか増加傾向を示さなかったことである。
【0081】
結論として、簡単であるが、上を覆う軟部組織層の組成及び厚みを求めるための正確な技法である二重周波数超音波技法は、骨質の臨床的な超音波測定の精度を高めることができ、それゆえ、有意な臨床値を有する。さらに、その技法は、基準測定(DXA)で確認されるように、局所的な軟部組織の特性評価(すなわち、組成)のための迅速、且つ正確な手段であることが証明された。
【0082】
図5aでは、研磨された鋼板の表面及び骨の表面からの時間領域パルス−エコー信号が、高速フーリエ変換(FFT)アルゴリズムを用いて、周波数領域スペクトルに変換される。基準信号スペクトルから実効周波数帯域(−6dB)が求められる。
【0083】
図5bでは、研磨された鋼板の表面から測定されるパルス−エコースペクトルが、骨の表面から測定されるパルス−エコースペクトルと比較され、それゆえ、反射係数が周波数の関数として計算される。積分反射係数のための高周波数及び低周波数の計算周波数帯域が、変換器実効帯域幅の低周波数端及び高周波数端における1MHz幅周波数帯域として求められた。対応する反射係数が、DFUS計算において用いられた。
【0084】
図6は、DXAを用いて測定されるような、21週間にわたるダイエット中の体組成全体の変化を示す。脂肪が多い組織の(脂肪)質量が毎週780gずつ絶えず減少したのに対して、脂肪が少ない組織の質量は平均して毎週90gずつ増加した。
【0085】
図7(a)では、DXA技法によって、局所軟部組織組成を求めることができる。この研究では、対象領域が右大腿部に位置し、局所軟部組織組成が、DXA技法及びDFUS技法を用いて求められた。単一変換器DFUS法(5MHz)は、(b)の2変換器DFUS法に比べてより良好な性能を示した。
【0086】
図8では、ROI内の局所軟部組織組成がDFUS技法によって求められた。DFUS軟部組織補正を用いる場合、及び用いない場合に、骨−軟部組織表面からの超音波反射係数(IRC)が求められた。短い追跡時間、及びダイエット期間中に骨格から求められるような骨塩量値が変化しないことに起因して、骨表面からの反射はダイエット中に変化することは予想されない。補正されたIRC値は、ダイエット期間中にわずかな増加傾向(統計的に有意でない)及び小さな偏差しか示さなかったのに対して、補正されていないIRC値は、追跡中に統計的に有意な増加を示した。
【0087】
本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく、具体的に開示される実施形態に対して、多数の変形を加えることができることは明らかであろう。それゆえ、添付の特許請求の範囲が意図することは、本発明の範囲内に入るような全ての変形及び変更を包含することである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造の材料の厚みを測定するための方法であって、
1つ又は複数の超音波変換器(5)を用いて、異なる周波数を含む1つ又は複数の超音波信号を2つ以上の材料(1、2)から成る多層構造内に送信すること、
使用中の前記周波数においてその音響特性が異なる材料を測定すること、
1つ又は複数の超音波変換器を用いて、前記多層構造の前面及び背面から反射される超音波信号を測定すること、並びに
前記反射された超音波信号から前記多層構造内の前記材料の厚みを求めることを含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
使用中の周波数においてその超音波減衰係数及び音速の値が分かる材料を測定することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
1つの超音波変換器を用いて異なる周波数を含む1つ又は複数の超音波信号を送信すること、同じ変換器を用いて反射された超音波信号を測定すること、及び2つ以上の超音波周波数を観測することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
2つ以上の超音波変換器を用いて異なる周波数を有する2つ以上の超音波信号を送信すること、2つ以上の変換器を用いて反射された超音波信号を測定すること、及び2つ以上の超音波周波数を観測することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
生物学的組織の厚みを測定することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
軟部組織内の脂肪が少ない組織及び脂肪が多い組織の厚みを測定することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
上を覆う軟部組織が骨の音響測定に及ぼす影響を測定及び補正することを特徴とする、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
壁の多層構造の材料厚を測定することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
構造を覆うコーティングの厚みを測定することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
構造を覆うコートペイントの厚みを測定することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
自然及び人工の構造物、典型的には、木、ゴム、プラスチック、セラミック、金属、エラストマ又はコンクリートから成る層状複合材料内の個々の層の厚みを測定することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記多層構造の背後に位置する前記対象物の特性を超音波的に解析するときに、該多層構造の影響を除去することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【公表番号】特表2011−505213(P2011−505213A)
【公表日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536497(P2010−536497)
【出願日】平成20年12月2日(2008.12.2)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050704
【国際公開番号】WO2009/071742
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(510155014)
【出願人】(510155025)
【出願人】(510155036)
【Fターム(参考)】