説明

超音波探触子、該超音波探触子を備えた光音響・超音波システム並びに検体イメージング装置

【課題】 光音響波の周波数帯域と超音波エコーで用いられる超音波の周波数帯域が離れている場合でも、形成される画像が劣化することのない超音波探触子、及びそれを備えた検体イメージング装置を提供することである。
【解決手段】 本発明の超音波探触子は、超音波を送信及び受信可能な第1のアレイ素子と、光音響波を受信可能な第2のアレイ素子と、を有する。前記第1のアレイ素子は、走査方向と垂直な方向に配列した機械電気変換素子を複数有し、前記第2のアレイ素子は、2次元に配列した機械電気変換素子を複数有し、前記第1のアレイ素子と前記第2のアレイ素子は、同一平面上であって、且つ、前記走査方向に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送信及び受信し、光音響波を受信するための超音波探触子(超音波プローブ)、及びこれを備えた光音響・超音波システム、検体イメージング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の超音波を用いて断層像を得る装置は、超音波を試料に送信し反射した超音波を受信する探触子と、探触子に超音波信号を与えるための送信部と、反射波を受信するための受信部と、受信した反射信号を輝度信号に変換し可視化する手段で構成されている。そして、この装置により取得された時系列断層画像を用いることで、試料の内部を観察することが可能となっている。また、上記装置の一つの形態においては、探触子を走査する走査手段によって超音波を二次元的に走査し三次元像を得ることも行われている。
【0003】
一方、検体の検査においては形態画像だけでなく機能画像を表示する装置の開発も近年進められている。そして、このような装置の一つに光音響分光分析法を利用した装置がある。この光音響分光分析法は、所定の波長をもつ可視光、近赤外光、又は中間赤外光を検体に照射した際に、検体内の特定物質がこの照射光のエネルギーを吸収した結果生じる弾性波(光音響波)を検出して、その特定物質の濃度を定量的に計測するものである。検体内の特定物質としては、例えば血液中に含まれるグルコースやヘモグロビンなどである。この光音響分光分析法を用いた光音響画像を取得する技術は、例えば特許文献1に開示されている。この技術はPAT(Photo Acoustic Tomography)と呼ばれる。
【0004】
また、特許文献2には、光音響画像と通常の超音波エコー画像の双方を、共通の一次元配列機械電気変換素子を用いて再構成する方法、及び一次元配列機械電気変換素子の間にグラスファイバーを用いた照明系を配置する構成が開示されている。この特許文献2では、超音波画像と光音響画像を同時に取得することによって形態画像と機能画像を表示している。この際、超音波エコー画像を形成するための超音波の送受信と、光音響画像を形成するための光音響波の受信は共通の探触子によってなされている。
【0005】
なお、本明細書では、光音響分光分析法(光音響イメージング法)によって発生する弾性波を光音響波と呼び、通常のパルスエコー法において送受信される音波を超音波と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2001−507952号公報
【特許文献2】特開2005−21380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
光音響分光分析法で用いられる光音響波の周波数帯域は、超音波エコーで用いられる超音波の周波数帯域と比較すると、一般的に低い。例えば、光音響波の周波数帯域は1MHzを中心周波数として、200KHz乃至2MHzの範囲に分布しており、これは超音波エコーで用いられる超音波の中心周波数3.5MHzよりも低い。そして、特許文献2では、光音響波と超音波エコーで用いられる超音波を共通の探触子で受信している。
【0008】
しかしながら、特許文献2のように、周波数帯域が異なる光音響波と超音波を共通の探触子で受信すると、超音波画像において空間分解能の劣化を招くという課題がある。この課題を解決するために、特許文献2ではハーモニックイメージング法を適用しているが、高調波成分は基本波成分よりも信号が減衰するため感度が低下するおそれがある。
【0009】
また、光音響波と超音波の周波数帯域がより離れている場合(例えば、光音響波の中心帯域が1MHz程度で、超音波の中心帯域が10MHz程度)、特許文献2のように共通の探触子で受信すると上記課題は顕著となる。
【0010】
さらに、超音波探触子と光学系とからなる光音響・超音波システムについては、以下のような課題がある。すなわち、特許文献2においては光音響波の発生には光ファイバを用いレーザー光を導入しているが、光音響波を発生させる為には非常に強力なレーザー光が必要であり、ファイバーに悪影響を与えるおそれがあった。特に試料が厚く、光減衰が大きい場合にはこの問題は深刻である。
【0011】
発明者の模擬検体を用いた実験によると、cmオーダーを超える厚さの試料に検出に十分な光音響波を発生させるには、光ファイバに導入するレーザー光強度は数十kJ/cmを超え、光ファイバへの負担が大きくなることが判明した。従ってある程度の容量のある試料を検出する為の光学系としては、光ファイバを選択しないことが好ましい。
【0012】
本発明の目的は、光音響波の周波数帯域と超音波エコーで用いられる超音波の周波数帯域が離れている場合でも、形成される画像が劣化することのない超音波探触子、及びそれを備えた検体イメージング装置を提供することである。
【0013】
また、本発明の別の目的は、上記の超音波探触子と光学系とからなり、十分な光音響波を検出するために大きな光強度のパルス光を照射可能な光音響・超音波システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題に鑑み本発明の超音波探触子は、超音波を送信及び受信可能な第1のアレイ素子と、光音響波を受信可能な第2のアレイ素子と、を有する超音波探触子であって、前記第1のアレイ素子は、第1の方向に配列した機械電気変換素子を複数有し、前記第2のアレイ素子は、2次元に配列した機械電気変換素子を複数有し、前記第1のアレイ素子と前記第2のアレイ素子は、同一平面上であって、且つ、前記第1の方向と垂直な第2の方向に配置されていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の光音響・超音波システムは、光源から出射された光を検体に導入するための光学系と、前記超音波探触子と、を有する光音響・超音波システムであって、前記第1のアレイ素子と前記第2のアレイ素子との間隙に前記光学系が配置されていることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の検体イメージング装置は、パルス光を発生する光源と、前記超音波探触子と、前記光源と超音波探触子とを制御し画像を形成するシステム制御部と、を有する。前記システム制御部は、前記第1のアレイ素子を用いて検体内部の形態情報に基づく画像を形成し、前記光源と前記第2のアレイ素子を用いて検体内部の機能情報に基づく画像を形成する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光音響波の周波数帯域と超音波エコーで用いられる超音波の周波数帯域が離れている場合でも、形成される画像が劣化することのない超音波探触子、及びそれを備えた検体イメージング装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)本発明の一実施形態にかかる超音波探触子を示す図である。(b)本発明の一実施形態にかかる超音波探触子に用いるトランスデューサを構成する超音波用トランスデューサ及び光音響用トランスデューサの配列を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる超音波探触子を備えた検体イメージング装置の構成を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる超音波探触子を用いた信号収集方法を説明するための図である。
【図4】本発明の超音波用トランスデューサのビーム形状を示す図である。
【図5】本発明の超音波用トランスデューサの高さ方向のビーム形状を示す図である。
【図6】本発明の超音波用トランスデューサの高さ方向のビーム太さと探触子の関係を示す図である。
【図7】(a)本発明の別の実施形態にかかる超音波探触子、及び、光学系を含む光音響・超音波システムを示す斜視図である。(b)該光音響・超音波システムの断面図で、光の入射を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しつつ本発明をより詳細に説明する。なお、同一の構成要素には原則として同一の参照番号を付して、説明を省略する。
【0020】
(実施形態1:超音波探触子および検体イメージング装置)
本実施形態に係る超音波探触子は、超音波を送信及び受信可能な第1のアレイ素子と、光音響波を受信可能な第2のアレイ素子と、を有する。第1のアレイ素子は、第1の方向に配列した機械電気変換素子を複数有する。第2のアレイ素子は、2次元に配列した機械電気変換素子を複数有する。また、第1のアレイ素子と第2のアレイ素子は、同一平面上であって、且つ、第2の方向に配置されている。本発明において同一平面とは、実質的に同一平面とみなせる状態であれば必ずしも厳密に同一平面であることを要しない。実質的に同一平面とは、アレイ素子を配列した平面内に、加工精度の範囲内の凹凸や検体とアレイ素子との接触状態に悪影響を与えない範囲内の傾斜や段差も許容され得る。また前記平面の表面に被検体との接触抵抗等を軽減する目的で意図的に凹凸等を設けた場合であっても、前記と同様に被検体とアレイ素子との接触状態に悪影響を与えない範囲内の凹凸等であれば許容され得る。
【0021】
尚、本実施形態の超音波探触子と該超音波探触子を備えた検体イメージング装置では、第2の方向は典型的には走査方向であり、第1の方向は典型的には該走査方向と垂直な方向である。
【0022】
また、本実施形態の超音波探触子と該超音波探触子を備えた検体イメージング装置は、第1のアレイ素子と第2のアレイ素子を走査することなく、静止した状態でも検体の像を取得可能である。
【0023】
以下、図面を用いて具体的に説明する。図1は本発明にかかる超音波探触子の構成図である。図1(a)に概観図、図1(b)にトランスデューサ部の拡大図を示す。超音波探触子は探触子ケース30、ケーブル31、及びトランスデューサ4より構成されている。トランスデューサ4は超音波を送信及び受信可能な第1のアレイ素子である超音波用トランスデューサ4a、及び光音響波を受信可能な第2のアレイ素子である光音響用トランスデューサ4bより構成される。超音波トランスデューサ4aは一次元アレイ(リニア)型であり、光音響用トランスデューサ4bは二次元アレイ型である。
【0024】
超音波トランスデューサ4aは検体内部の形態情報を描出する目的で使用されるため、機能情報を取得する光音響用トランスデューサよりも高周波な超音波を送受信可能なトランスデューサである。ここで超音波トランスデューサ4aの周波数帯域は、典型的な値としては7乃至12MHz程度を指す。また、形態情報とは検体内部の形態に基づく情報であり、通常のパルスエコー法により得られる情報のことである。
【0025】
一方、光音響用トランスデューサ4bは検体内部の機能情報を描出する目的で使用されるため、形態情報を取得する超音波トランスデューサよりも低周波な超音波(光音響波)を受信可能なトランスデューサである。ここで光音響用トランスデューサ4bの周波数帯域は、典型的な値としては1乃至4MHz程度を指す。また、機能情報とは光音響分光分析法(光音響イメージング法)により得られる情報であり、例えば血液中に含まれるグルコースやヘモグロビンなどの検体内の特定物質の濃度に関する情報である。
【0026】
超音波トランスデューサ4aに一次元アレイを用いた理由は、以下である。超音波トランスデューサ4aは、比較的高周波な超音波を送受信するため、素子密度を大きくする必要がある。例えば、一次元アレイにおいてもトランスデューサアレイ数は128〜256素子にのぼるため、該超音波トランスデューサを仮に二次元アレイとすると、コスト面で妥当ではないからである。
【0027】
また、光音響用トランスデューサ4bに二次元アレイを用いた理由は、光利用効率を重視したことが大きな理由である。つまり、一回のレーザ光の照射により発生する光音響波を二次元に配列された素子で受信することで、素子を一次元に配列した場合よりも多くの光音響波を受信することができる。光音響波は超音波エコーの周波数よりも一般的に低いため、素子密度が小さいて済む。そのため、2次元アレイとしてもコスト面での影響は小さい。一列のトランスデューサアレイ数は10〜50程度である。
【0028】
超音波トランスデューサ4aは、複数の機械電気変換素子を備えている。機械電気変換素子は、電気信号と機械振動(超音波)との相互変換を行う素子であり、たとえば圧電素子が用いられる。この複数の機械電気変換素子は走査方向と垂直な方向(第1の方向)に配列されている。
【0029】
また、光音響用トランスデューサ4bは、機械電気変換素子が二次元に配列された素子である。機械電気変換素子としては、圧電現象を用いたトランスデューサ、光の共振を用いたトランスデューサ、容量の変化を用いたトランスデューサなど音響波を検知できるものであれば、どのような検出器を用いてもよい。ただし、検出対象の大きさに幅がある場合には発生する光音響波の帯域も広くなる為、必要とされるトランスデューサも帯域が広いものがより好ましい。この点を考慮すると近年研究が盛んになっている静電容量型超音波トランスデューサは本目的に対して最適なトランスデューサの一つである。もしくは、検出帯域の異なる複数のトランスデューサを組み合わせた素子を用いることでも同様の効果を期待できる。
【0030】
本実施形態に係る超音波探触子は以下のようにして作製する。まず超音波トランスデューサ4a(一次元アレイトランスデューサ)と光音響用トランスデューサ4b(二次元アレイトランスデューサ)を従来と同様の方法にて作製する。これは圧電振動子の切り出し、バッキング材への固着、振動子のダイシング、音響整合層の貼付及び配線部の引き出しによって行われる。また、超音波トランスデューサには音響レンズが取り付けられる。
【0031】
そして、超音波トランスデューサと光音響用トランスデューサを間隔を空けて並べた後、モールド固定する。そしてハウジングにはめ込むことにより完成する。
【0032】
なお、トランスデューサの上面、下面にはそれぞれ整合層、バッキング、配線、また超音波トランスデューサの上面には音響レンズが配置されているが、図面では省略されている。
【0033】
超音波トランスデューサ4aと光音響用トランスデューサ4bとの位置関係は、2次元アレイである光音響用トランスデューサ4bのいずれか一辺と平行に超音波トランスデューサ4aが配置されることになるのである。また、本実施形態では、2つのアレイ素子が1つの探触子ケース30に収容されているが、超音波トランスデューサ4aを収容する探触子ケースと光音響用トランスデューサ4bを収容する探触子ケースと有し、全体として1つの探触子を構成していてもよい。その際、2つのアレイ素子は同一平面上にあればよく、多少間隔があいていても構わない。
【0034】
図2に本実施形態に係る超音波探触子を用いた検体イメージング装置のブロック図を示す。超音波用トランスデューサ4aから超音波を送信するためにシステム制御部1、送信ビームフォーマ2、送信アンプ3を通して超音波信号が生成され、超音波探触子4aへ電圧が印加される。送信された超音波は試料14より反射し探触子4aによって受信される。受信された超音波信号は受信アンプ5、アナログ−デジタル変換、遅延、重み付け制御を行う受信ビームフォーマ6を通して超音波探触子の各素子信号が整相加算される。そして、超音波信号処理部10によって検波、輝度信号に変換された後画像処理部11内の画像メモリに蓄積される。
【0035】
一方、光音響波は下記のようにして検出される。まず、検体14に対して光源13からパルスレーザ光を照射する。パルスレーザ光は、システム制御部1から光源13に駆動信号を送信することで発振される。検体14にパルスレーザ光が照射されることで、検体内部のヘモグロビンなどの検出対象がレーザ光のエネルギーを吸収し、この吸収したエネルギー量に応じて検出対象の温度が上昇する。これに起因して検出対象が瞬間的に膨張して弾性波(光音響波)を発生する。発生した光音響波は光音響用トランスデューサ4bにて受信され、受信アンプ7、アナログ−デジタルコンバータ8を通した後、光音響信号処理部9にて画像再構成処理される。再構成された光音響信号は輝度信号として画像処理部11内の画像メモリに蓄積される。
【0036】
そして、画像処理部11において超音波信号と光音響信号の重ね合わせが行われた後、画像表示部12によって表示される。
【0037】
次に、本実施形態に係る超音波探触子を用いて超音波信号と光音響波信号の三次元信号を取得する方法について説明する。上記したように超音波探触子は一次元アレイ、光音響波探触子は二次元アレイであるため、本実施形態に係る超音波探触子を用いてボリュームデータを取得するためには該超音波探触子を走査する。
【0038】
図3に本実施形態に係る超音波探触子の走査の概念図を示す。20a、20b、20cは走査エリアを示す。走査は超音波トランスデューサと光音響用トランスデューサの並び方向である第2の方向(図3のX方向)に探触子を移動させる。走査エリア20aの走査が終了すると探触子は走査エリアのストライプ幅分縦方向(Y方向)へ移動した後検査エリア20b上を逆方向に移動する。以上の走査を繰り返し行うことによって全検査エリアの信号を取得する。
【0039】
走査にあたっては、以下の3つのパターンが考えられる。(a)光音響信号の取得をステージ停止時に、超音波信号の取得をステージ移動時に行う方法。(b)光音響信号の取得及び超音波信号の取得両方をステージ停止時に行う方法。(c)光音響信号及び超音波信号の取得両方をステージ移動時に行う方法。これらの何れの方法を用いても同様の信号を取得することが可能である。
【0040】
まず、(a)光音響信号の取得をステージ停止時に、超音波信号の取得をステージ移動時に行う方法では、ステージ停止時にパルスレーザを照射し、光音響信号を取得する。その後、ステージ移動中に超音波信号の送受信を続け、それぞれの位置におけるスライス画像を取得するというプロセスを繰り返す。この場合、例えば、光音響用トランスデューサ4bの走査方向(X方向)への長さを1つのステップ幅とし、パルスレーザ照射、光音響信号検出、1ステップ幅移動を1セットとして、このセットを繰り返す。超音波信号の取得は、トランスデューサ4を1ステップ幅移動する際に、超音波トランスデューサ4aを用いて取得する。尚、トランスデューサ4のステップ幅は光音響用トランスデューサ4bで光音響波を検出できる範囲に基づいて決定することができる。つまり、光音響用トランスデューサ4bで光音響波を検出できるX方向における範囲が狭い場合は、トランスデューサ4のステップ幅を狭くする。
【0041】
次に、(b)光音響信号の取得及び超音波信号の取得両方をステージ停止時に行う方法では、ステージ停止中にまずパルスレーザの照射、光音響信号を取得する。その後、超音波信号の送受信を行い、スライス画像を取得する。この手順は逆でもよい。そして、ステージ移動を行い同様のプロセスを繰り返す。本方法の場合は一回のステージ移動量は超音波信号から生成されるスライス画像より、ボリュームデータが作れる程度、つまりスライス画像の解像度と同じオーダーの量である。尚、この方法において、1箇所の画像情報を取得するだけで検体の情報を得ることができる場合は、ステージを移動することなく静止したままで像を得ることができる。
【0042】
そして、(c)光音響信号及び超音波信号の取得両方をステージ移動時に行う方法ではパルスレーザの照射、光音響信号の取得、及び超音波信号の送受信をステージ移動時に行う。このとき、パルスレーザは十から数十ヘルツで動作し、超音波信号の送受信はキロヘルツオーダーで動作する為、そのデューティー比は100程度として各々のデータ取得が行われる。
【0043】
上記したように、トランスデューサ4の走査のストライプ幅(Y方向の長さ)は光音響波探触子である光音響用トランスデューサ4b(二次元アレイ)の幅に等しい。これは光音響波信号より画像を再構成する場合には全ての位置における光音響波信号からボリュームエリア内の輝度信号が演算されるためである。つまり、光音響用トランスデューサの幅よりストライプ幅が太い場合には未測定部分が発生し、逆にストライプ幅より光音響用トランスデューサ幅が太い場合には未使用素子が発生する。このため、ストライプ幅と光音響用トランスデューサの幅を等しくすることがそれぞれの幅の最適な条件である。
【0044】
一方、超音波用探触子である超音波トランスデューサによって本ストライプにおける超音波信号を取得する場合には、超音波トランスデューサの一次元アレイ長をストライプ幅より長くする必要がある。
【0045】
図4を用いて超音波トランスデューサによる超音波ビームのリニア走査について説明する。図4は超音波トランスデューサ4aをトランスデューサ4の走査方向(X方向)からみた図である。一般に、一回の超音波ビーム21の送信及び受信は複数の素子によって行われる。従って、この際のZ方向へのビームの中心22は、探触子端面より内側にならざるを得ない。つまり、超音波トランスデューサ4aのビーム走査方向23(Y方向)によって得られる超音波画像は、超音波トランスデューサ4aのアレイ長からビーム送受信に使用される開口幅だけ狭くなる。したがって、もしストライプ幅と同じ幅のリニア探触子を用いて走査を行った場合にはストライプ間に信号を取得できない部分が生ずる。
【0046】
また、送受信ビーム開口を小さくするか、もしくはステアリング等の方法の工夫によって探触子端面においても画像化することは可能である。しかしながら、この方法を用いた場合には探触子中心と探触子端面におけるビーム形成の方法が異なり、解像度及び画質にむらが生じる。
【0047】
そこで、本実施形態では超音波用トランスデューサ4aのアレイ長をストライプ幅よりも長くすることで、ストライプ間の超音波信号の欠落をなくすことができる。
【0048】
上記を考慮し、本実施形態のトランスデューサ4は、走査方向と垂直な方向における超音波トランスデューサ4aの長さを、走査方向と垂直な方向における光音響用トランスデューサ4bの長さよりも長くすることが好ましい。超音波の送受信に使用される素子の長さ(開口幅)の1/2分、上下それぞれ長くするのが好ましい。上下を合計すると、超音波トランスデューサ4aの長さは開口幅の分長くなることになる。一般的に、超音波ビームの開口は数十素子を用いて形成されるため、超音波トランスデューサ4aのアレイ長はストライプ幅よりも数十素子分だけ長くすることが好ましい。
【0049】
また、超音波トランスデューサが生成する検体の深さ方向のビームのフォーカスの様子を図5に示す。超音波信号の送受信を行う超音波トランスデューサは、その高さ方向(Z方向)にもビームをフォーカスするために音響レンズ25が全面に配置されている。上記の横方向ビームの際と同様に超音波ビームは24の軌跡を描きフォーカスされる。しかしながら、超音波信号を取得する範囲は探触子直下からある距離までを持つため、超音波ビームの広がりを避けることは困難である。この際のビームの広がりは、フォーカス条件、レンズ条件にもよるが、探触子高さとほぼ等しいか、探触子高さより広くなる場合もある。
【0050】
図6に超音波トランスデューサ4aより発生されるビーム形状を示す。図6に示すように、超音波トランスデューサ4aより発生されるビームの幅は、検体の深さ方向の浅い部分及び深い部分において超音波トランスデューサ4aの幅を超える。
【0051】
一方、本発明では超音波トランスデューサ4aに近接した部分に光音響用トランスデューサ4bが配置されている。このため、超音波トランスデューサ4aからの超音波と光音響用トランスデューサ4bで検出される光音響波との干渉(クロストーク)が発生する可能性がある。従って、本実施形態に係る発明においては超音波トランスデューサ4aと光音響用トランスデューサ4bとの間に間隙を設けることによって、クロストークを防止することができる。この間隙の量は超音波トランスデューサ4aの幅、フォーカス条件等にも依存する。例えば、計算によれば、超音波トランスデューサ4aと光音響用トランスデューサ4bは、走査方向において超音波トランスデューサ4aの走査方向における長さの20%の長さ以上離れていれば問題が無い。
【0052】
以上の超音波探触子を用いることで、走査範囲の全ての超音波信号と光音響信号の取得が可能となる。なお、上記の形態においては、超音波信号の取得のために一次元アレイ探触子を用いたが、一次元探触子に限らず素子をさらにアレイ方向と垂直方向に分割した、一般に1.25次元、1.5次元、1.75次元と呼ばれる探触子を用いることもできる。
【0053】
1.25次元探触子は、アレイ方向と垂直方向に素子が奇数分割され、中心素子に対してその他の素子をスイッチングし開口制御機能を有する探触子である。また、1.5次元探触子はアレイ方向と垂直方向に素子分割されていることは1.25次元探触子と同様であるが、中心探触子と対称な探触子をそれぞれ独立制御することが可能な探触子である。また、1.75次元探触子はアレイ方向と垂直方向に素子分割されていることは1.25次元探触子と同様であるが、垂直方向の全ての素子を独立制御可能な探触子である。それぞれアレイ方向と垂直方向のフォーカシング、ステアリング機能の向上を目的として搭載されるが一次元アレイ探触子を用いた場合と同様の効果を得ることが可能である。
【0054】
また、上記の形態においては超音波信号の取得のために一次元アレイ探触子、光音響信号の取得のために二次元アレイ探触子を用いた。しかし、超音波信号、光音響信号何れの信号取得にも一次元アレイ探触子を用いることも可能である。このとき、探触子のアレイ長の関係を上記の形態と同様、超音波信号取得用のアレイ探触子を光音響信号取得用のアレイ探触子より長いアレイ長にすることによって同様の効果を得ることができる。
【0055】
(実施形態2:光音響・超音波システム)
次に、超音波探触子に光学系を組み合わせた光音響・超音波システムについて説明する。図7(a)は本実施形態にかかる超音波探触子及び光学系を含む光音響・超音波システムを示す斜視図である。
【0056】
超音波を送信および受信するための第1の探触子は、探触子ケース30a、ケーブル31a、及びトランスデューサ4aから構成されている。また、光音響波を受信するための第2の探触子は、探触子ケース30b、ケーブル31b、及びトランスデューサ4bから構成されている。トランスデューサ4aは超音波を送信及び受信可能な第1のアレイ素子であり、トランスデューサ4bは光音響波を受信可能な第2のアレイ素子である。また、超音波トランスデューサ4aは一次元アレイ(リニア)型であり、光音響用トランスデューサ4bは二次元アレイ型である。
【0057】
超音波トランスデューサ4aと光音響用トランスデューサ4bとの間隙に、光源から出射されたパルス光を検体に導入するための光学系としての光学プリズム32aが配置されている。また、第2の探触子のプリズム32aとは反対側に同様に光学プリズム32bを配置し、両側から光を導くようにすることが好ましい。発生する光音響波の強度は、レーザーの照射強度に大きく依存するため、対象領域への照射は出来る限り均一にすることが好ましいからである。
【0058】
図7(b)は本実施形態の光音響・超音波システムの断面図で、光の入射を示す図である。光は点線のように試料に入射される。光源(不図示)からの光は当初、2つのアレイ素子4a,4bが配置される平面に垂直な方向に導かれてくる。それを、プリズム32a,32bによって光の進路を変え、第2のアレイ素子4bの下方へ出射されるようにする。
【0059】
このように、プリズム32aを2つの探触子の間に配置することによって、2次元のアレイ素子4bを使用した場合でも、光音響波を測定する光音響用トランスデューサ4bに効率的に光を照射可能となる。また、必然的に2つのアレイ素子4a,4bの間隔を空ける必要があるため、実施形態1で説明したクロストークを防止することもできる。
【0060】
両者の間隔について述べる。上に述べたような均一照射を実現するためには光路の太さはレーザーの照射角度によらず片側あたり光音響用トランスデューサ4bの幅の半分以上必要であることがわかる。従って超音波用トランスデューサ4aと、光音響用トランスデューサ4bとの間には、光音響用トランスデューサ4bの幅の少なくとも半分以上の間隙を有する必要がある。つまり、2つのアレイ素子は、第2の方向において第2のアレイ素子の第2の方向における長さの50%以上離れていることが好ましい。
【0061】
本実施形態の光音響・超音波システムの作製方法は、実施形態1での説明を同様であるため、省略する。
【0062】
また、上記の形態においてはプリズムは探触子の両脇に配置したが、探触子を取り囲むようにプリズムを配置することによってより好ましい照射量分布を得ることができる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例では本発明における探触子を乳房検査に使用した場合について具体的に述べる。乳房においては深さ4cmまでの超音波信号及び光超音波信号を取得することができれば良い。使用した探触子は上記の説明に用いた図1の探触子である。
【0064】
人体に照射できるレーザ光強度は100mJ/cmである為、十分な光音響信号を取得できる範囲は深さ4cm、幅4cmである。従って、光超音波探触子の1辺は4cmとした。また、素子ピッチは探触子感度及び使用周波数1MHzを考慮し2mmとし、400素子の二次元探触子を構成した。二次元探触子は様々な寸法の対象を検出する必要である為に帯域幅130%の静電容量型超音波トランスデューサを採用した。
【0065】
一方、超音波探触子は十分なビーム収束を行う為に32素子開口によってビームフォーミングを行った。従って、探触子は光超音波探触子より左右16素子分だけ長くなる。全素子を192素子、素子ピッチ0.25mm、中心周波数10MHzとし、アレイ長を48mmとした。さらに探触子表面に形成される音響レンズ半径はR8としている。上記の条件にて形成されるビームは探触子近傍及び深さ4cm近傍にて7mmに広がる為に、超音波探触子と光超音波探触子との間隙は1mmとしている。
【0066】
以上の探触子を用いて乳房を走査することを考えると、走査領域は20cmx20cmであり、ストライプ幅は4cmであるために4cmx20cmのストライプを5回形成することとした。また、探触子の走査はステップアンドリピートで行い、探触子が停止している際にレーザ照射を行い、光音響信号を二次元探触子にて取得した。そして、探触子が移動する間に超音波信号を一次元探触子によって取得し、各スライス面の超音波画像を生成し、補間処理を行った後ボリュームデータとして保存している。
【0067】
そして全ての走査が終了した後に光音響信号を用い画像再構成を行う。これによって生成された光音響画像をボリュームデータとして蓄積し、超音波画像との重ね合わせを行い、画面に表示する。以上の方法を用いて光音響信号と超音波信号の重ね合わせが可能となり、形態画像と機能画像が含まれた情報を使用者に提供することが可能となる。
【0068】
なお、本実施例においては超音波ビーム開口32素子としたが、必要とされるビーム解像度、もしくはビームフォーミング方法に応じて開口の大きさを変えることによっても同様の効果を得ることができる。
【0069】
また、図7に示す光音響・超音波システムも同様に乳房検査に使用できる。この場合、超音波探触子と光超音波探触子との間隙は最低1.4mmが必要である。一方必要なプリズム厚は、光音響探触子の一辺の長さ4cmの1/2である2cmに入射角45度を考慮し2.83cmであるため、探触子間隔は2.83cmとした。
【符号の説明】
【0070】
1 システム制御部
2 送信ビームフォーマ
3 送信アンプ
4 トランスデューサ
4a 超音波用トランスデューサ
4b 光音響用トランスデューサ
5、7 受信アンプ
6 受信ビームフォーマ
8 アナログ−デジタルコンバーター
9 光音響信号処理部
10 超音波信号処理部
11 画像処理部
12 画像表示部
13 レーザー光源
14 検体
30a,30b 探触子ケース
32a,32b プリズム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を送信及び受信可能な第1のアレイ素子と、
光音響波を受信可能な第2のアレイ素子と、を有する超音波探触子であって、
前記第1のアレイ素子は、第1の方向に配列した機械電気変換素子を複数有し、
前記第2のアレイ素子は、2次元に配列した機械電気変換素子を複数有し、
前記第1のアレイ素子と前記第2のアレイ素子は、同一平面上であって、且つ、前記第1の方向と垂直な第2の方向に配置されていることを特徴とする超音波探触子。
【請求項2】
前記第1の方向における前記第1のアレイ素子の長さが、前記第1の方向における前記第2のアレイ素子の長さよりも長いことを特徴とする請求項1に記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記第1のアレイ素子と前記第2のアレイ素子は、前記第2の方向において前記第1のアレイ素子の前記第2の方向における長さの20%の長さ以上離れていることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記第1のアレイ素子と前記第2のアレイ素子は、前記第2の方向において前記第2のアレイ素子の前記第2の方向における長さの50%以上離れていることを特徴とする請求項1又は2に記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記第2の方向が、前記第1のアレイ素子と前記第2のアレイ素子の走査方向であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記第2のアレイ素子は、静電容量型超音波トランスデューサであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の超音波探触子。
【請求項7】
光源から出射された光を検体に導入するための光学系と、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の超音波探触子と、を有する光音響・超音波システムであって、
前記第1のアレイ素子と前記第2のアレイ素子との間隙に前記光学系が配置されていることを特徴とする光音響・超音波システム。
【請求項8】
前記第1のアレイ素子を含む第1の探触子と、前記第2のアレイ素子を含む第2の探触子との間を、前記平面に垂直な方向に導かれた光が、前記第1のアレイ素子と前記第2のアレイ素子との間隙から前記第2のアレイ素子の下方へ出射されるように、前記光学系が配置されていることを特徴とする請求項7に記載の光音響・超音波システム。
【請求項9】
前記第2の探触子の両側から光を導くように、前記光学系が配置されていることを特徴とする請求項8に記載の光音響・超音波システム。
【請求項10】
パルス光を発生する光源と、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の超音波探触子と、
前記光源と超音波探触子とを制御し画像を形成するシステム制御部と、を含み、
前記システム制御部は、
前記第1のアレイ素子を用いて検体内部の形態情報に基づく画像を形成し、
前記光源と前記第2のアレイ素子を用いて検体内部の機能情報に基づく画像を形成する、ことを特徴とする検体イメージング装置。
【請求項11】
前記第1のアレイ素子が送信及び受信する超音波の周波数が、前記第2のアレイ素子が受信する超音波の周波数よりも高いことを特徴とする請求項10に記載の検体イメージング装置。
【請求項12】
前記第1のアレイ素子が送信及び受信する超音波の周波数は7乃至12MHzであり、前記第2のアレイ素子が受信する超音波の周波数は1乃至4MHzであることを特徴とする請求項10に記載の検体イメージング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−22816(P2010−22816A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136365(P2009−136365)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】