説明

超音波探触子

【課題】簡単な構成で、音響レンズにおける超音波の伝播損失を従来よりも小さくした超音波探触子を提供する。
【解決手段】この超音波探触子は、被検体に超音波を送信し、及び/又は、被検体によって反射される超音波を受信するための複数の振動子を含む振動子アレイと、振動子アレイの超音波送受信面上に、振動子アレイと反対側に凹面を有するように配置された少なくとも1層の音響媒体と、少なくとも1層の音響媒体上に、少なくとも1層の音響媒体側に凸面を有するように配置され、隣接する音響媒体の音速値よりも小さい音速値を有する音響レンズとを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波診断装置において超音波を送信及び/又は受信する複数の超音波トランスデューサを含む超音波探触子に関し、特に、高い周波数を有する超音波の送受信に好適な超音波探触子に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野においては、被検体の内部を観察して診断を行うために、様々な撮像技術が開発されている。特に、超音波を送受信することによって被検体の内部情報を取得する超音波撮像は、リアルタイムで画像観察を行うことができる上に、X線写真やRI(radio isotope)シンチレーションカメラ等の他の医用画像技術と異なり、放射線による被曝がない。そのため、超音波撮像は、安全性の高い撮像技術として、産科領域における胎児診断の他、婦人科系、循環器系、消化器系等を含む幅広い領域において利用されている。
【0003】
超音波撮像とは、音響インピーダンスが異なる領域の境界(例えば、構造物の境界)において超音波が反射される性質を利用する画像生成技術である。通常、超音波診断装置(又は、超音波撮像装置、超音波観測装置とも呼ばれる)には、被検体に接触させて用いられる超音波探触子や、被検体の体腔内に挿入して用いられる超音波探触子が備えられている。あるいは、被検体内を光学的に観察する内視鏡と超音波トランスデューサアレイとを組み合わせた超音波内視鏡も使用されている。
【0004】
超音波を送信及び/又は受信する超音波トランスデューサとしては、例えば、圧電体の両端に電極を形成した振動子が用いられる。振動子の電極に電圧を印加すると、圧電体が伸縮して超音波が発生する。さらに、複数の振動子を1次元又は2次元状に配列し、所定の遅延を与えた複数の駆動信号によって駆動することにより、超音波ビームを所望の方向に向けて形成することができる。一方、振動子は、伝播する超音波を受信することによって伸縮し、電気信号を発生する。この電気信号は、超音波の受信信号として用いられる。
【0005】
図13は、従来の超音波探触子を模式的に示す一部断面斜視図である。アジマス方向(X軸方向)に配列された複数の振動子102を筐体(ケース)100に収納して、振動子102の電極からの引出し線をケーブル(シールドケーブル)に接続することにより、超音波探触子が構成される。振動子102の背面上には、不要な超音波を吸収するために、バッキング材101が配置される。また、圧電セラミックを用いる圧電振動子の場合には、振動子102の音響インピーダンスと人体等の音響インピーダンスとの間に大きな差が存在し、境界面において超音波の反射が生じて伝播損失となってしまうので、振動子102の前面上に、少なくとも1層の音響整合層(図13においては、2層の音響整合層103a及び103bを示す)が配置される。さらに、複数の振動子102の配列方向(アジマス方向)と直交するエレベーション方向(Y軸方向)に超音波を集束させるために、音響整合層103b上に音響レンズ104が配置される。
【0006】
ここで、音響インピーダンスとは、音響媒質の密度と音響媒質中の音速との積で表される物質固有の定数であり、その単位としては、一般に、MRayl(メガ・レイル)が用いられ、1MRayl=1×10kg・m−2・s−1である。一般的な圧電セラミックの音響インピーダンスは、約25MRayl〜約35MRaylであり、人体の音響インピーダンスは、約1.5MRaylである。
【0007】
音響レンズ104としては、人体の音響インピーダンスと同程度の音響インピーダンスを有し、人体内の音速値よりも小さい音速値を有するシリコーンゴム等の材料を用いて、外部に向けて凸型の形状、即ち、蒲鉾状の形状を有するように形成されたものが、一般的に用いられる。人体内の音速値は、水中の音速値とほぼ等しく、1500m/s程度であり、シリコーンゴムの音速値は、800m/s〜1000m/s程度である。
【0008】
しかしながら、このような音響レンズにおける超音波の伝播損失はやや大きい。近年においては、超音波診断装置に対して広帯域化が要望されており、体表用プローブに対しては、5MHz〜7MHzに達する周波数帯域が要求され、内視鏡用プローブや術中プローブに対しては、10MHz以上に達する周波数帯域が要求されている。実際に、高周波タイプの超音波探触子は市販されているが、感度が低いので、従来の3.5MHz程度以下の周波数帯域を有する超音波探触子を用いた場合と比較して、良好な超音波画像が得られない。そこで、音響レンズにおける超音波の伝播損失をいかにして小さくするかが、感度向上のための課題となっている。
【0009】
関連する技術として、特許文献1には、被検体の体表への密着が良く、高周波の超音波に対しても高感度の超音波探触子が開示されている。この超音波探触子は、圧電振動子及び音響整合層の超音波送受信面を凹面形状にすると共に、その凹面形状の超音波送受信面の上に、材質がポリエーテルブロックアミドより成り、中央部が凸状の超音波伝播体を設けたことを特徴とする。
【0010】
また、特許文献2に開示されている超音波探触子は、圧電振動子及び音響整合層の超音波送受信面を凹面形状にすると共に、その凹面形状の超音波送受信面の上に、材質がブタジエンゴムより成り、中央部が凸状の超音波伝播体を設けたことを特徴とする。
【0011】
特許文献3には、試料からの超音波エコーのSN比を向上させる超音波探触子が開示されている。この超音波探触子においては、柱状の音響レンズの一端部に、超音波を放射する超音波発生部が設けられ、音響レンズの他端部に、この音響レンズ内を平面波状に伝播した超音波が音響レンズの外方の所定位置に集束するように超音波を放射する集束部が形成されており、集束部の界面で反射されて音響レンズの側面部に入射する超音波を他方向に反射させる加工面が該側面部に形成されている。
【0012】
特許文献4には、線型あるいは曲線型の超音波変換器が開示されている。この超音波変換器においては、両面フレキシブル回路が、圧電超音波変換器配列との相互作用をもたらすために使用される。特許文献4には、超音波変換器が、水より大きい音響速度を有する凹型音響レンズを有することが望ましいと記載されている。
【0013】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載されているように圧電振動子の超音波送受信面を凹面形状に形成することは、実際には困難であり、可能であったとしてもコストアップを招く。また、特許文献3に開示されている超音波探触子は、構造物の非破壊検査に用いられるものであり、人体用の超音波探触子に適用しても効果は期待できない。さらに、特許文献4に記載されている凹型音響レンズは、伝播損失の低減効果に疑問があり、また、それ自体では被検体の表面に密着し難いので、音響レンズと被検体との間に音響媒質を挿入する必要がある。
【特許文献1】特開平5−244695号公報(第1−2頁、図1)
【特許文献2】特開平5−316595号公報(第1−2頁、図1)
【特許文献3】特開平7−159385号公報(第1−2頁、図1)
【特許文献4】特表2003−518394号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、簡単な構成で、音響レンズにおける超音波の伝播損失を従来よりも小さくした超音波探触子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の1つの観点に係る超音波探触子は、被検体に超音波を送信し、及び/又は、被検体によって反射される超音波を受信するための複数の振動子を含む振動子アレイと、振動子アレイの超音波送受信面上に、振動子アレイと反対側に凹面を有するように配置された少なくとも1層の音響媒体と、少なくとも1層の音響媒体上に、少なくとも1層の音響媒体側に凸面を有するように配置され、隣接する音響媒体の音速値よりも小さい音速値を有する音響レンズとを具備する。ここで、振動子アレイの超音波送受信面とは、振動子アレイが超音波を送信するだけの場合には超音波送信面を意味し、振動子アレイが超音波を受信するだけの場合には超音波受信面を意味する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、振動子アレイと反対側に凹面を有する少なくとも1層の音響媒体上に、少なくとも1層の音響媒体側に凸面を有し、隣接する音響媒体の音速値よりも小さい音速値を有する音響レンズを配置することにより、簡単な構成で、音響レンズにおける超音波の伝播損失を従来よりも小さくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子を模式的に示す一部断面斜視図であり、図2は、本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す平面図である。
【0018】
図1及び図2に示すように、この超音波探触子は、被検体に超音波を送信し、及び/又は、被検体によって反射される超音波を受信するための複数の超音波トランスデューサ(振動子)2を含む振動子アレイと、振動子アレイの前面(超音波送受信面)上に、振動子アレイと反対側に凹面を有するように配置された少なくとも1層の音響媒体3(ここでは、2層の音響整合層3a及び3bを示す)と、音響媒体3上に、音響媒体3側に凸面を有するように配置された音響レンズ4と、振動子アレイの背面(超音波送受信面に対向する面)上に配置されたバッキング材1と、上記各部を収納する筐体(ケース)100とを有している。
【0019】
複数の振動子2は、アジマス方向(X軸方向)に配列されて1次元振動子アレイを構成している。音響レンズ4は、複数の振動子2から送信される超音波を、それらの振動子の配列方向(アジマス方向)と直交するエレベーション方向(Y軸方向)に集束させる。音響整合層3bの凹面と音響レンズ4の凸面とは密着しており、音響レンズ4は、音響整合層3bと反対側に平面を有している。
【0020】
複数の振動子2から送信される超音波を集束させるためには、音響レンズ4が、隣接する音響整合層3bの音速値よりも小さい音速値を有することが必要であり、さらに、人体の音速値(1500m/s程度)よりも小さい音速値を有することが望ましい。なお、複数の振動子をX軸方向及びY軸方向に配列することにより2次元振動子アレイを構成しても良い。
【0021】
図3は、図1に示す音響レンズの役割りを説明するための図である。一般に、光学設計においては、レンズの色収差を低減するために、図3に示すようなレンズ配置を用いることが知られている(ユージン・ヘクト(Eugene Hecht)著、「ヘクト光学」、及び、山崎雅之、他著、「波動光学入門」を参照)。即ち、平凸レンズを用いてコリメート光を集束させる場合に、平凸レンズの平面側を入力光に向けるよりも、平凸レンズの凸面側を入力光に向ける方が、屈折角が小さくなるので、入力光が屈折する際の波長成分の分散による焦点位置のずれが抑制されて、色収差を低減することができる。
【0022】
弾性波である超音波においても、同様の現象が起こる。即ち、振動子から送信される超音波を、平凸シリンドリカルレンズを用いて一軸方向に集束させる場合に、平凸シリンドリカルレンズの平面側を振動子側に向けるよりも、平凸シリンドリカルレンズの凸面側を振動子側に向ける方が、屈折角が小さくなるので、超音波が屈折する際の周波数成分の分散による焦点位置のずれが抑制されて、超音波の伝播効率を向上させることができる。また、超音波の受信時においては、受信感度を向上させることができる。
【0023】
しかしながら、超音波の場合には、振動子と音響レンズとの間に空気層が存在すると、振動子と空気層との界面において超音波が殆ど反射してしまうので、図3に示すレンズ配置をそのまま用いることはできない。そこで、本実施形態においては、振動子アレイと音響レンズとの間に、振動子アレイと反対側に凹面を有する少なくとも1層の音響媒体(図1に示す音響整合層3a及び3b)を配置して、音響レンズ4の凸面を音響整合層3bの凹面に密着させることにより、超音波の反射を低減している。
【0024】
再び図2を参照すると、各々の振動子2は、バッキング材1上に形成された個別電極2aと、個別電極2a上に形成された圧電体2bと、圧電体2b上に形成された共通電極2cとを含んでいる。通常、複数の振動子の共通電極2cは、接地電位(GND)に共通接続される。また、複数の振動子の個別電極2aは、例えば、バッキング材1の上面及び下面にそれぞれ固定された2枚のFPC(フレキシブルプリント基板)に形成されたプリント配線を介してケーブル(シールドケーブル)に接続され、さらに、ケーブルを介して超音波診断装置本体内の電子回路に接続される。また、複数の振動子2の間や周囲には、振動子間における干渉を低減し、振動子の横方向の振動を抑えて振動子が縦方向のみに振動するようにするために、エポキシ樹脂等の充填材5が充填されている。
【0025】
本実施形態においては、圧電体2bの材料として圧電セラミックが用いられる。圧電セラミックは、電気・機械エネルギー変換能力が高いので、体内の深部まで到達可能な強力な超音波を発生することができ、また、受信感度も高い。具体的な材料としては、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(Ti,Zr)O)や、同様のペロブスカイト系結晶構造を有する変成組成の材料や、一般にリラクサ系材料と呼ばれている材料等を用いることができる。
【0026】
圧電体2bの材料として圧電セラミックを用いる場合には、圧電セラミックの音響インピーダンスと被検体(人体等)との音響インピーダンスとの間に大きな差が存在するので、それらの中間の音響インピーダンスを有する音響整合層を振動子2の前面上に配置することにより、音響インピーダンスの整合を図って、超音波の伝播効率を上げることが必要となる。
【0027】
図1に示すように、音響整合層を2層構造とする場合に、第1の音響整合層3aの材料としては、例えば、石英ガラスや、有機材料(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂等)に高い音響インピーダンスを有する材料粉末(ジルコニア、タングステン、フェライト紛等)を混入した材料を用いることができる。第2の音響整合層3bの材料としては、例えば、有機材料(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、アクリル樹脂等)を用いることができる。
【0028】
音響レンズ7は、例えば、シリコーンゴムによって形成されており、複数の振動子2から送信され、第1の音響整合層3a及び第2の音響整合層3bを伝播した超音波を、被検体内の所定の深度において集束させる。また、バッキング材1は、フェライト粉や金属粉やPZT粉入りのエポキシ樹脂や、フェライト粉入りのゴムのように、音響減衰の大きい材料を含んでおり、複数の振動子2から発生する不要な超音波の減衰を早める。
【0029】
本実施形態においては、第2の音響整合層3bが凹面を有しており、第2の音響整合層3bの厚さが位置によって変化するので、超音波探触子の周波数特性も位置によって変化することが考えられる。そこで、超音波探触子の周波数特性を、シミュレーションによって求めることにした。
【0030】
このシミュレーションにおいては、超音波探触子に含まれている各構成要素を等価的な四端子回路に置き換えることにより、超音波の伝送系を、バッキング材、振動子、第1の音響整合層、第2の音響整合層、音響レンズが直列に接続された四端子回路網と考える。各構成要素は固有の音響インピーダンスを有しており、超音波の伝送系を介して超音波を送信又は受信する際に、特有の周波数特性が生じる。従って、この四端子回路網の一端に電圧を入力し、他端を被検体の等価回路によって終端することにより、超音波探触子の発振性能を、送受波特性VTG(Voltage Transfer Gain)として計算することができる。
【0031】
図4は、第1及び第2の音響整合層の厚さを変化させたときの超音波探触子の周波数帯域幅の変化を示す図である。図4において、横軸は、第1の音響整合層の厚さを表しており、縦軸は、第2の音響整合層の厚さを表している。ここで、音響整合層の厚さは、超音波の中心波長をλとして、λ/4を基準とした相対値で表されている。
【0032】
第1及び第2の音響整合層の厚さが与えられると、超音波探触子の周波数特性が計算される。その周波数特性に基づいて、周波数帯域幅BW(%)が、次式(1)によって求められる。
BW(%)=100×(f−f)/f ・・・(1)
ここで、周波数f及びfは、音圧がピーク値から6dB減衰する2つの周波数であり(f<f)、周波数fは、次式(2)によって表されるように、周波数fと周波数fとの中心周波数である。
=(f+f)/2 ・・・(2)
【0033】
シミュレーションは、0次元無限平板である圧電体を想定して、以下の計算条件に従って行われた。
バッキング材の音響インピーダンス: 6.0MRayl
圧電体の音響インピーダンス: 30MRayl
圧電体の電気機械結合係数k33': 0.69
超音波の中心周波数: 8.0MHz
第1の音響整合層の音響インピーダンス: 8.38MRayl
第2の音響整合層の音響インピーダンス: 2.34MRayl
音響レンズの音響インピーダンス: 1.5MRayl
被検体の音響インピーダンス: 1.5MRayl
【0034】
図4において、第1の音響整合層の厚さと第2の音響整合層の厚さとの組合せによって周波数帯域幅が示されているが、周波数帯域幅が60%以上となる領域が、実用上適していると言える。そのような領域の中で、第2の音響整合層の厚さを連続的に変化させるために、図4において、第1の音響整合層の厚さが同一で第2の音響整合層の厚さが異なる3つの点A、B、Cを抽出し、それらの点における周波数特性を調べた。
【0035】
図5は、図4に示す3つの点における周波数特性を示す図である。ここで、図5の(A)は、点Aにおける周波数特性を示しており、図5の(B)は、点Bにおける周波数特性を示しており、図5の(C)は、点Cにおける周波数特性を示している。また、図6は、図4に示す3つの点における音響整合層の厚さと周波数帯域幅とを示す表である。図6には、3つの点A、B、Cについて、第1及び第2の音響整合層の厚さと、3つの周波数f、f、fと、それらの周波数に基づいて求められた周波数帯域幅(%)とが示されている。図5及び図6に示すように、3つの点A、B、Cにおける周波数特性及び周波数帯域幅は、実用上十分な均一性を有している。
【0036】
従って、第1の音響整合層の厚さをTとし、第2の音響整合層の厚さをTとした場合に、図7に示すように、T/(λ/4)が1.40であり、T/(λ/4)が0.2〜0.8の範囲で連続的に変化する超音波探触子において、実用上十分な周波数特性及び周波数帯域幅を確保できることが分る。このように、本実施形態に係る超音波探触子においては、音響レンズ4の中心部から送信される超音波の帯域と音響レンズ4の周辺部から送信される超音波の帯域とが略同一となるように、バッキング材1や、振動子2や、音響整合層3a及び3bが構成されている。
【0037】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図8は、本発明の第2の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す側面図である。本実施形態においては、複数の振動子2を含む振動子アレイと、音響レンズ4との間に、3層の音響整合層6a〜6cが配置されている。ここで、第1の音響整合層6a及び第2の音響整合層6bは均一な厚さを有しており、音響レンズ4に隣接する第3の音響整合層6cは、振動子アレイと反対側に凹面をしている。音響レンズ4の凸面は、音響整合層6cの凹面に密着している。これにより、超音波の反射が低減される。さらに、音響レンズ4の音速値を、音響整合層6cの音速値よりも小さくすることにより、複数の振動子2から送信される超音波が一軸上に集束される。その他の点に関しては、図1及び図2に示す第1の実施形態と同様である。本実施形態によれば、3層の音響整合層6a〜6cを配置することにより、振動子2と音響レンズ4との間における音響インピーダンスの変化をなだらかにすることができるので、超音波の伝播効率や受信感度をさらに向上させることができる。なお、4層以上の音響整合層を設けるようにしても良い。
【0038】
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。
図9は、本発明の第3の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す側面図である。本実施形態においては、複数の振動子2を含む振動子アレイと、音響レンズ4との間に、2層の音響整合層7a及び7bが配置されている。ここで、第1の音響整合層7aは、振動子アレイと反対側に凹面をしており、第2の音響整合層7bは、振動子アレイ側に凸面を有すると共に、振動子アレイと反対側に凹面を有している。第1の音響整合層7aの凹面と第2の音響整合層7bの凸面とは密着し、音響整合層7bの凹面と音響レンズ4の凸面とは密着している。これにより、超音波の反射が低減される。さらに、音響レンズ4の音速値を、音響整合層7bの音速値よりも小さくすることにより、複数の振動子2から送信される超音波が一軸上に集束される。その他の点に関しては、図1及び図2に示す第1の実施形態と同様である。本実施形態によれば、複数の音響整合層間の境界面を様々な形状とすることにより、設計の自由度を向上させることができる。なお、3層以上の音響整合層を設けるようにしても良い。
【0039】
次に、本発明の第4の実施形態について説明する。
図10は、本発明の第4の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す側面図である。本実施形態においては、音響レンズ4上に、被検体との密着性を向上させるために弾性を有する第2の音響媒体8が配置されている。この音響媒体8は、シリコーンゲルのように、人体の音響インピーダンス(1.5MRayl)に近い音響インピーダンスを有することが望ましく、弾性があるので人体との密着性を向上させ、超音波の伝播効率を向上させることができる。その他の点に関しては、第1〜第3の実施形態と同様である。
【0040】
次に、本発明の第5の実施形態について説明する。
図11は、本発明の第5の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す側面図である。本実施形態においては、第1の音響レンズ4aが、音響整合層3b側のみならず、音響整合層3bと反対側にも凸面を有しており、両凸シリンドリカルレンズの形状を有している。また、第1の音響レンズ4a上に、第2の音響レンズ4bが配置されていて、組合せレンズが構成されている。第2の音響レンズ4bは、第1の音響レンズ4a側に凹面を有すると共に、音響レンズ4aと反対側に平面を有しており、平凹シリンドリカルレンズの形状を有している。
【0041】
第2の音響整合層3bの凹面と第1の音響レンズ4aの凸面(図中左側)とは密着し、第1の音響レンズ4aの凸面(図中右側)と第2の音響レンズ4bの凹面とは密着している。これにより、超音波の反射が低減される。音響レンズ44aは、隣接する音響整合層3bの音速値よりも小さい音速値を有しており、さらに、人体の音速値(1500m/s程度)よりも小さい音速値を有することが望ましい。その他の点に関しては、第1〜第4の実施形態と同様である。
【0042】
ここで、第2の音響レンズ4bが、第1の音響レンズ4aの音速値よりも大きい音速値を有する場合には、組合せレンズの焦点距離が、単独の平凸シリンドリカルレンズを用いる場合(図1)と比較して短くなる。一方、第2の音響レンズ4bが、音響レンズ4aの音速値よりも小さい音速値を有する場合には、組合せレンズの焦点距離が、単独の平凸シリンドリカルレンズを用いる場合(図1)と比較して長くなる。さらに、第1の音響レンズ4aと第2の音響レンズ4bとの間に、それらの音速値よりも小さい音速値を有する音響媒体を充填するようにしても良い。このように、凸レンズと凹レンズとを組み合わせて組合せレンズを構成することにより、光学における色消し(色収差の補正)と同様に、超音波の周波数による焦点位置のずれを補正することができる。
【0043】
次に、本発明の第6の実施形態について説明する。
図12は、本発明の第6の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す側面図である。本実施形態においては、図1及び図2に示す複数の振動子(圧電振動子)2を含む振動子アレイの替わりに、複数の微細超音波トランスデューサ(MUT:micro ultrasonic transducers)9を含む振動子アレイが用いられる。微細超音波トランスデューサ9としては、静電型微細超音波トランスデューサ(cMUT:capacitance MUT)と、圧電型微細超音波トランスデューサ(pMUT:piezoelectric MUT)と、電磁型微細超音波トランスデューサ(eMUT:electromagnetic MUT)が該当する。
【0044】
図12の(a)に示すように、静電型微細超音波トランスデューサ(cMUT)11は、バッキング材1上に形成された個別電極11aと、空隙(真空部)11bを介して個別電極11aと対向するように設けられた共通電極11cとを含んでいる。複数の微細超音波トランスデューサの個別電極11aは、例えば、バッキング材1の上面及び下面にそれぞれ固定された2枚のFPCに形成されたプリント配線を介してケーブル(シールドケーブル)に接続され、さらに、ケーブルを介して超音波診断装置本体内の電子回路に接続される。
【0045】
図12の(b)に示すように、圧電型微細超音波トランスデューサ(pMUT)12は、バッキング材1上に空隙(真空部)12aを介して形成された個別電極12bと、圧電体(振動体)12cと、共通電極12dとを含んでいる。複数の微細超音波トランスデューサの個別電極12bは、例えば、バッキング材1の上面及び下面にそれぞれ固定された2枚のFPCに形成されたプリント配線を介してケーブル(シールドケーブル)に接続され、さらに、ケーブルを介して超音波診断装置本体内の電子回路に接続される。
【0046】
図12の(c)に示すように、電磁型微細超音波トランスデューサ(eMUT)13は、バッキング材1上に形成された電磁コイル13aと、空隙(真空部)13bを介して電磁コイル13aに対向するように設けられた磁性体(振動体)13cとを含んでいる。複数の微細超音波トランスデューサの個別電極(電磁コイル13aの一端)は、例えば、バッキング材1の上面及び下面にそれぞれ固定された2枚のFPCに形成されたプリント配線を介してケーブル(シールドケーブル)に接続され、さらに、ケーブルを介して超音波診断装置本体内の電子回路に接続される。
【0047】
微細超音波トランスデューサ11〜13と音響レンズ4との間には、空隙を埋めるために音響媒体10が充填されている。微細超音波トランスデューサ11〜13の振動メンブレンは使用周波数における超音波の波長と比較して十分に薄いので、音響整合層は設けなくても良い。また、複数の微細超音波トランスデューサ9の間や周囲に、振動子間における干渉を低減し、振動子の横方向の振動を抑えて振動子が縦方向のみに振動するようにするために、エポキシ樹脂等の充填材を充填するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、超音波診断装置において超音波を送受信するために用いられる超音波探触子において利用することが可能であり、セクタ型、リニア型、コンベックス型、ラジアル型等、いずれの形状の超音波探触子にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子を模式的に示す一部断面斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す平面図である。
【図3】図1に示す音響レンズの役割りを説明するための図である。
【図4】第1及び第2の音響整合層の厚さを変化させたときの超音波探触子の周波数帯域幅の変化を示す図である。
【図5】図4に示す3つの点における周波数特性を示す図である。
【図6】図4に示す3つの点における音響整合層の厚さと周波数帯域幅とを示す表である。
【図7】図1に示す音響整合層の厚さを示す側面図である。
【図8】本発明の第2の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す側面図である。
【図9】本発明の第3の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す側面図である。
【図10】本発明の第4の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す側面図である。
【図11】本発明の第5の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す側面図である。
【図12】本発明の第6の実施形態に係る超音波探触子の内部構造を示す側面図である。
【図13】従来の超音波探触子を模式的に示す一部断面斜視図である。
【符号の説明】
【0050】
1 バッキング材
2 振動子
2a 個別電極
2b 圧電体
2c 共通電極
3、10 音響媒体
3a、3b、6a〜6c、7a、7b 音響整合層
4 音響レンズ
5 充填材
8 第2の音響媒体
9 微細超音波トランスデューサ
9a 個別電極
9b 振動体
9c 共通電極
10 音響媒体
11 静電型微細超音波トランスデューサ(cMUT)
11a 個別電極
11b 空隙
11c 共通電極
12 圧電型微細超音波トランスデューサ(pMUT)
12a 空隙
12b 個別電極
12c 圧電体
12d 共通電極
13 電磁型微細超音波トランスデューサ(eMUT)
13a 電磁コイル
13b 空隙
13c 磁性体(振動体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に超音波を送信し、及び/又は、被検体によって反射される超音波を受信するための複数の振動子を含む振動子アレイと、
前記振動子アレイの超音波送受信面上に、前記振動子アレイと反対側に凹面を有するように配置された少なくとも1層の音響媒体と、
前記少なくとも1層の音響媒体上に、前記少なくとも1層の音響媒体側に凸面を有するように配置され、隣接する音響媒体の音速値よりも小さい音速値を有する音響レンズと、
を具備する超音波探触子。
【請求項2】
前記少なくとも1層の音響媒体の凹面と前記音響レンズの凸面とが密着している、請求項1記載の超音波探触子。
【請求項3】
前記音響レンズが、前記少なくとも1層の音響媒体と反対側に平面を有する、請求項1又は2記載の超音波探触子。
【請求項4】
前記音響レンズ上に配置され、被検体との密着性を向上させるために弾性を有する第2の音響媒体をさらに具備する、請求項3記載の超音波探触子。
【請求項5】
前記音響レンズが、前記少なくとも1層の音響媒体と反対側に凸面を有し、
前記音響レンズ側に凹面を有すると共に、前記音響レンズと反対側に平面を有する第2の音響レンズをさらに具備する、請求項1又は2記載の超音波探触子。
【請求項6】
前記複数の振動子の各々が、圧電振動子と、静電型振動子と、電磁気型振動子と、圧電たわみ型振動子との内の1つを含む、請求項1〜5のいずれか1項記載の超音波探触子。
【請求項7】
前記少なくとも1層の音響媒体が、複数の音響整合層を含み、前記複数の音響整合層の内で前記音響レンズに隣接する音響整合層が、前記音響レンズと反対側に凸面を有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の超音波探触子。
【請求項8】
前記少なくとも1層の音響媒体が、複数の音響整合層を含み、前記音響レンズの中心部から送信される超音波の帯域と前記音響レンズの周辺部から送信される超音波の帯域とが略同一となるように、前記複数の音響整合層が構成されている、請求項1〜7のいずれか1項記載の超音波探触子。
【請求項9】
前記振動子アレイの超音波送受信面に対向する面上に配置されたバッキング材をさらに具備し、前記音響レンズの中心部から送信される超音波の帯域と前記音響レンズの周辺部から送信される超音波の帯域とが略同一となるように、前記バッキング材が構成されている、請求項1〜8のいずれか1項記載の超音波探触子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−112379(P2009−112379A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286043(P2007−286043)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】