説明

超音波診断方法および装置

【課題】超音波診断装置において、温度による診断支援を取入れる。
【解決手段】超音波探触子2から被検体3内に超音波を送受信し、その反射エコーに基づいて断層像を再構成し、表示するにあたって、断層像の撮影後も連続して所定時間に亘って被検体3の同じ部位に超音波を照射し、その間の断層像上の各点の温度分布を温度センサ11および温度計測部12で測定してフレームメモリ13にストアする。その後、演算部14において、それらの測定結果を比較することで、温度上昇率、すなわち上昇度合いの分布を求め、切換加算部16において、Bモードモノクロ画像などの前記断層像に、たとえばカラーで重畳或いは切換えて、画像表示部10に表示させる。したがって、超音波に温度分布を併用することで、前記生体組織の区分けを明瞭にし、病変部位3aをより正確に診断することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用して被験体の診断部位について断層像を得る超音波診断方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
前記超音波診断装置は、被験体を無浸襲に、その内部断層画像を得る装置であり、一般的な構成では、超音波探触子から被験体に超音波を送信し、受信した反射エコー信号を用いて、運動組織を含む被験体内の断層像データを所定周期で繰り返して得て、例えばBモード像として表示している。ところで、近年、このような断層画像だけでなく、付加情報も合わせて表示するものが登場している。たとえば、超音波エラストグラフィーと称される技術で、この方法では、被験体に圧を加え、その前後2枚の断層像間で各組織の移動量を差分演算し、この差分画像を各部分の硬さの指標として合成表示している。これによって、微小石灰化病変などの発見に役立てられている。
【0003】
一方、乳癌の診断に使用する方法として、たとえば特許文献1に示されるように、身体の微少温度変化を診断に応用するものもある。その従来技術は、皮膚温度の特定の変化が、乳癌の存在を示唆するので、体表面の温度を比較して観察する技術である。また、非特許文献1には、体表面の温度を下げ、体温が上昇する過程を比較した差分画像を観察して、乳癌がサーモグラフィーで示唆されることが述べられている。同様に、特許文献2には、遠赤外線(FIR)放射加熱によって能動的に体表面を加熱して、体表面付近の組織の熱伝導・熱容量・比熱の違いに基づく生体情報を画像化することで、悪性の腫瘍などを発見する検査装置が提案されている。
【特許文献1】米国特許第4055166号明細書
【特許文献2】特開2007−215809号公報
【非特許文献1】大橋靖彦他「非触知乳癌におけるサーモグラフィー診断に関する考察」(生物学サーモロジー,17(2):130−132,1998.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、温度を診断に用いることは有効に思われる。しかしながら、上述の各先行技術は、サーモグラフィーで、生体表面の温度を観察しており、内部断層像を得る超音波診断装置との組合わせは考え難い。
【0005】
本発明の目的は、温度による診断支援を取入れることができる超音波診断方法および装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の超音波診断方法は、被検体内に超音波を入射し、反射波から前記被検体の断層像を再構成する超音波診断方法において、予め定める時間に亘って前記超音波を入射する工程と、前記予め定める時間内の2つのタイミングで、前記被検体内の温度分布を測定する工程と、前記2つのタイミングでの温度分布の測定結果から、温度上昇率の分布を演算する工程と、前記温度上昇率の分布を前記断層像に付加または断層像に代えて表示する工程とを含むことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の超音波診断装置は、超音波探触子から被検体内に超音波を入射し、その受信信号(反射エコー)に基づいて画像処理部が断層像を再構成し、表示部に表示させるようにした超音波診断装置において、前記超音波探触子に、予め定める時間に亘って前記超音波を送信させる制御部と、前記予め定める時間内の2つのタイミングで、前記被検体内の温度分布を測定または推定し、記憶する温度センサおよびフレームメモリと、前記フレームメモリに格納された2つのタイミングでの温度分布の測定結果から、温度上昇率の分布を演算する演算部と、演算された前記温度上昇率の分布を前記断層像に付加または断層像に代えて前記表示部に与える加算部とを含むことを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、超音波探触子から被検体内に超音波を送受信し、その受信信号(反射エコー)に基づいて画像処理部が断層像を再構成し、表示部に表示させるようにした超音波診断方法および装置において、通常は所望の断層像が撮影されたら、超音波探触子は被検体から離されたり、次の部位や角度へ向きを変えたりされるのに対して、本発明では、連続して(或いは断続しても可)予め定める時間に亘って被検体の同じ部位に超音波を照射する。この予め定める時間に亘る超音波の照射によって、被検体は、赤外線照射された場合と同様に温度上昇を生じ、その上昇度合いは、骨、筋肉、臓器などの生体組織によって相互に差が生じる。そこで本実施形態では、前記予め定める時間、すなわち加熱期間内の任意の2つのタイミングにおいて、断層像上の各点の温度分布を赤外線センサなどの温度センサで測定してフレームメモリにストアし、演算部において、それらの測定結果を比較することで、温度上昇率、すなわち前記上昇度合いの分布を求め、加算部において、Bモードモノクロ画像などの前記断層像に、たとえばカラーで重畳或いは切換えて、表示部に表示させる。
【0009】
したがって、超音波の受信信号(反射エコー)だけでは、画面上で、骨などの反射の大きな組織の背後は黒く潰れて識別できなくなってしまうのに対して、前記赤外線などは、その反射の大きな組織を回り込んで背後の組織を明らかにすることができ、このように温度による診断支援を取入れ、超音波に温度分布を併用することで、前記生体組織の区分けを明瞭にし、病変部位をより正確に診断することができるようになる。
【0010】
さらにまた、本発明の超音波診断装置では、前記温度センサは複数の赤外線検出部を備えて成り、前記各赤外線検出部は前記超音波探触子を構成する複数の圧電素子に個別に対応して隣接配置されることを特徴とする。
【0011】
上記の構成によれば、1次元或いは2次元アレイ状に配列された複数の圧電素子から成る超音波探触子において、前記温度センサは素子数が多い程解像度が上がるので、該温度センサを複数の赤外線検出部を備えて構成し、各赤外線検出部を各圧電素子に個別に対応させて隣接配置する。
【0012】
したがって、高解像度で、また各圧電素子と赤外線検出部とを一体構成として作成することができる。
【0013】
また、本発明の超音波診断装置では、前記各赤外線検出部は、前記被検体に密着する赤外線レンズに、その赤外線を通過させるか遮断させるかを切換える開閉器とを備えて構成され、前記温度センサは、前記各開閉器の底面を連通するように形成される導光部材と、前記導光部材の基端側に設けられる赤外線検出器とをさらに備えることを特徴とする。
【0014】
上記の構成によれば、上述のように各圧電素子に対応して赤外線検出部を設けても、その赤外線検出部で検出される赤外線を、開閉器を順次切換えて1つずつ通過させてゆき、導光部材へ導くことで、1つの赤外線検出器で赤外線レベルを検出することができる。
【0015】
さらにまた、本発明の超音波診断装置では、前記圧電素子と赤外線検出部との間には、断熱隔壁をさらに備えることを特徴とする。
【0016】
上記の構成によれば、圧電素子が圧電振動によって自身が発する熱が、前記のように隣接配置されている赤外線検出部に直接回り込むことを防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の超音波診断方法および装置は、以上のように、超音波探触子から被検体内に超音波を送受信し、その受信信号(反射エコー)に基づいて画像処理部が断層像を再構成し、表示部に表示させるようにした超音波診断方法および装置において、通常は所望の断層像が撮影されたら、超音波探触子は被検体から離されたり、次の部位や角度へ向きを変えたりされるのに対して、本発明では、連続して(或いは断続しても可)予め定める時間に亘って被検体の同じ部位に超音波を照射し、その間の被検体の断層像上の各点の温度上昇率の分布を求め、加算部において、Bモードモノクロ画像などの前記断層像に、たとえばカラーで重畳或いは切換えて、表示部に表示させる。
【0018】
それゆえ、超音波の受信信号(反射エコー)だけでは、画面上で、骨などの反射の大きな組織の背後は黒く潰れて識別できなくなってしまうのに対して、前記赤外線などは、その反射の大きな組織を回り込んで背後の組織を明らかにすることができ、このように温度による診断支援を取入れ、超音波に温度分布を併用することで、前記生体組織の区分けを明瞭にし、病変部位をより正確に診断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
図1は、本発明の実施の一形態に係る超音波診断装置1の電気的構成を示すブロック図である。先ずこの超音波診断装置1は、超音波探触子2と、前記超音波探触子2から被検体3へ超音波信号を入射させる送信回路4と、前記超音波探触子2で受信された受信信号(反射エコー)を処理する受信回路5と、前記送信回路4および受信回路5を制御する送受信制御回路6と、受信回路5からの信号を整相加算する整相加算回路7と、整相加算された信号から断層画像を再構成する信号処理部8と、得られた画像信号を白黒走査(Bモード画像)に変換する白黒走査変換部9と、前記Bモード画像を表示する画像表示部10とを備えて構成される従来の超音波診断装置の構成に加えて、さらに前記超音波探触子2には被検体3の温度分布を測定する温度センサ11が併設されるとともに、その温度センサ11の検出出力から被検体3の超音波照射位置における体内方向への温度分布を計測する温度計測部12と、前記温度計測部12における所定タイミングのフレーム画像を記憶するフレームメモリ13と、前記フレームメモリ13に記憶されている2つのタイミング間の温度変化の分布を演算する温度変化演算部14と、前記温度変化演算部14で得られた温度変化の分布をカラー画像に変換するカラー走査変換部15と、得られたカラー画像を前記白黒(Bモード)画像に合成または切換えて前記画像表示部10に与える切換加算器16とを備えて構成される。
【0020】
前記超音波探触子2は、機械的または電子的にビーム走査を行って被験体3に超音波を送信および受信するもので、図示省略したがその中には超音波の発生源であると共に反射エコーを受信する振動子が内蔵されている。送信回路4は、前記超音波探触子2を駆動して超音波を発生させるための送波パルスを生成すると共に、内蔵の送波整相加算回路によって、送信される超音波の収束点をある深さに設定するものである。受信回路5は、前記超音波探触子2で受信した反射エコーの信号について所定のゲインで増幅するものである。また、整相加算回路7は、前記受信回路5で増幅された受波信号を入力して位相制御し、1点または複数の収束点に対して超音波ビームを形成するものである。さらに、信号処理部8は、前記整相加算回路7からの受波信号を入力してゲイン補正、ログ圧縮、検波、輪郭強調、フィルタ処理等の信号処理を行うものである。そして、これらの送信回路4と受信回路5と整相加算回路7と信号処理部8とで画像処理部を構成し、さらに超音波探触子2を加えて超音波送受信手段を構成しており、前記超音波探触子2で超音波ビームを被験体3の体内で一定方向に走査させることによって、1枚の断層像を得るようになっている。
【0021】
前記白黒走査変換部9は、前記超音波送受信手段の信号処理部8から出力される反射エコー信号を用いて運動組織を含む被験体内の断層像データを超音波送波周期で得、このデータを画像表示部10に表示させるためにテレビ同期で読出させるための断層走査手段およびシステムの制御を行うための手段となるもので、前記信号処理部8からの反射エコー信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、このA/D変換器でディジタル化された断層像データを時系列に記憶する複数枚のフレームメモリと、これらの動作を制御するコントローラなどとから成る。また、画像表示部10は、前記白黒走査変換部9によって得た時系列の断層像データを表示する手段となるもので、該白黒走査変換部9から出力され、切換加算器16を介して入力された画像データをアナログ信号に変換するD/A変換器と、このD/A変換器からのアナログビデオ信号を入力して画像として表示するカラーテレビモニタとから成る。
【0022】
前記温度センサ11は、温度計測部12と合わせて、赤外腺(IR)を用いて間接的に、被験体3の診断部位の体腔内温度変化を計測または推定する手段となるもので、例えば乳癌や甲状腺癌の診断に必要な3cm程度の深さまで、体内の温度分布を測定することができる。前記温度変化演算部14は、前記温度計測部12で計測され、フレームメモリ13に記憶されている2つのタイミング間の温度分布から、微少温度変化の分布を演算するもので、得られたデータはカラー走査変換部15において、断層像に合成するカラー画像に変換される。たとえば、温度変化率の大きい画素は赤色コードに変換し、温度変化率の小さいまたはマイナスな画素は青色コードに変換するようになっている。前記切換加算器16は、前記白黒走査変換部9からの白黒の断層像データ(Bモード画像)と、前記カラー走査変換部15からのカラーの微少温度変化率分布の画像データとを入力し、何れか一方のみを出力、または両画像データを加算合成して出力の出力選択が可能となっている。
【0023】
図2は、前記温度センサ11を備える超音波探触子2の構造を示す図であり、(a)は正面図であり、(b)は超音波探触子2の構造を示す縦断面図であり、(c)は温度センサ11の構造を示す縦断面図である。この温度センサ11は、複数の赤外線検出部21を備えて成り、前記各赤外線検出部21は前記超音波探触子2を構成する複数の圧電素子22に個別に対応して隣接配置される。この図2の例では、圧電素子22は、x方向に16個の1次元アレイ配列で示されるけれども、任意の個数で、また2次元アレイ配列であってもよい。これによって、温度センサ11は素子数が多い程解像度が上がるので、高解像度を得ることができるとともに、各圧電素子22と赤外線検出部21とを一体構成として作成することができる。
【0024】
超音波探触子2は、任意のものを用いることができるが、この図2(b)の例では、各圧電素子22は、整合層22a、圧電素子層22bおよびバッキング層22cから成り、バッキング層22cの中央を信号電極22dが貫通している。圧電素子層22bの上部には、接地電極(GND)22eを設けている。
【0025】
一方、図2(c)で示す温度センサ11の各赤外線検出部21は、前記被検体3に密着し、熱線を収集する赤外線レンズ21aに、その赤外線を通過させるか遮断させるかを切換える開閉器21bとを備えて構成され、前記温度センサ11は、前記各開閉器21bの底面を連通するように形成される導光部材23と、前記導光部材23の基端側に設けられる赤外線検出器24とをさらに備えて構成される。このように構成することで、各圧電素子22に対応して赤外線検出部21を設けても、その赤外線検出部21で検出される赤外線を、開閉器21bを順次切換えて1つずつ通過させてゆき、導光部材23へ導くことで、1つの赤外線検出器24で赤外線レベルを検出することができる。
【0026】
前記開閉器21bとしては、薄膜形成技術やフォトリソグラフィ技術を基本にして、エッチングすることなどで立体的に微細加工を行うマイクロマシン技術を利用し、光スイッチの原理で作製することができる。光スイッチ装置は、たとえば固定構造体と可動する反射構造体とから構成される。反射構造体は、ミラーが形成された可動部材と、この可動部材を支持する支持部材とを有し、可動部材が、トーションバネなどのバネ部材によって支持部材に接続されている。このように構成された光スイッチは、固定構造体と反射構造体との間に働く引力、あるいは反発力によって反射構造体の可動部がその姿勢を変えることで、光路を切り替えるスイッチング動作を行うことができる。たとえば、パメラ・R・パターソン(Pamela.R.Patterson)らの「MOEMSエレクトロスタティックスキャニングマイクロミラーズデザインアンドファブリケーション(MOEMS ELECTROSTATIC SCANNING MICROMIRRORS DESIGN AND FABRICATION)」,エレクトロケミカルソサイエティプロシーディングス(Electrochemical Society Proceedings),ボリューム2002−4(Volume 2002-4),ISBN1−56677−370−9,p.369−380の非特許文献を参考にすることができる。
【0027】
一方、前記圧電素子22が圧電振動によって熱を発生すると、その熱は、前記のように隣接配置されている赤外線検出部21に直接回り込む。このため、図3で示すように、前記圧電素子22と赤外線検出部21との間に、断熱隔壁25が設けられている。ここで、本実施の形態の温度変化は赤外線として検出される。赤外線は0nm〜1mmの電磁波で、波長域によって深達性が異なり、近赤外線(波長:760〜2500nm)は皮膚を良く透過するので、本実施の形態の温度分布を計測する熱線として好ましく利用することができる。また、中間赤外線(波長:2500nm〜0.25mm)や遠赤外線(波長:0.25mm以上)を計測の熱線としてもよい。そこで、前記断熱隔壁25としては、熱伝導性を有する金属板(たとえば、銅、銀、金)や熱伝導樹脂(グラファイト)等を使用することができる。
【0028】
また、有機の赤外線吸収材料を樹脂中に含有させたものも、前記断熱隔壁25に使用することができる。前記赤外線吸収材料としては、最大吸収波長が750nm〜1100nmである近赤外線吸収機能を有する色素が好ましく、金属錯体系化合物、アミニウム系化合物(アミニウム誘導体)、フタロシアニン系化合物(フタロシアニン誘導体)、ナフタロシアニン系化合物(ナフタロシアニン誘導体)、ジイモニウム系化合物(ジイモニウム誘導体)、スクワリウム系化合物(スクワリウム誘導体)等が特に好ましく用いられる。赤外線吸収材料は、単独で使用してもよいが、赤外領域の吸収効率を高めるために複数の材料を組み合わせて使用してもよい。また、赤外線吸収材料の形状には特に制限はなく、粒子状、ブロック状、フィルム状、不定形状、繊維状などの種々のものが使用可能である。中でも特に、粒子状の形態は赤外線吸収性が高いことや応用範囲が広いなどの特徴から特に好ましい。粒子状における形態にも特に制限はないが、球体、立方体、楕円体、紡錘体、多面体、多孔質体、星状、針状、中空状、りん片状などのものが適用できる。また、粒子の場合の好ましい大きさは、平均粒子径で0.01μm〜500μmの範囲、より好ましくは0.05μm〜100μmの範囲である。
【0029】
一方、赤外線を分散させる樹脂としては、エポキシ樹脂を挙げることができる。たとえば、フェノールノボラック型グリシジルエーテル、クレゾールノボラック型グリシジルエーテル、およびナフタレン型グリシジルエーテル等が挙げられる。これらのうち、好ましくは芳香族エポキシ樹脂である。これらのものであると、機械的強度および耐熱性が優れる上に、赤外線吸収剤の分散性も優れる。樹脂は市販品をそのまま使用することができ、たとえば、「エピコ−ト EP−154」(フェノールノボラックエポキシ樹脂、ジャパンエポキシレジン株式会社製、Mw650、エポキシ当量 176)等が使用できる。
【0030】
本実施形態では、赤外線吸収剤としてアミニウム系赤外線吸収剤、具体例としては、日本化薬社製Kayasorb IRG−002を上記エピコートEPー154樹脂に40質量%分散したものを銅箔上にコートして、前記断熱隔壁25を作成した。
【0031】
また本実施の形態では、前記赤外線検出器24に、ウーハンガイドエレクトロニックインダストリー社製(Wuhan Guide Electornic Industrial)IR913+(登録商標)の赤外センサを使用した。感度波長は8−14μm、温度分解能は0.08℃、周波数50Hzであった。
【0032】
このように構成される超音波診断装置1は、高密度焦点式プローブを備えた市販品を改良して試作した。そして、超音波発信の周波数は7.5MHz、アレイ素子数128、出力を0.1W/秒・cmに調整した。被験者(被検体3)に5分間の安静時間を与え、経過後、超音波を入射して断層像を撮像するとともに、赤外線センサ11からの信号を前記温度計測部12となるサーモビデオカメラに接続し、1枚目の温度分布の画像を得た。その後、超音波発信を継続したまま、30秒後に、2枚目の温度分布の画像を得て、上述のようにしてカラー映像を超音波断層像に重畳した。
【0033】
具体的には、図4で示すように、ステップS1で被検体3内に超音波の入射を開始し、さらにステップS2で関心領域(ROI)を設定した後、ステップS3で反射波から前記被検体3の断層像を得るとともに、ステップS4で、温度センサ11および温度測定部12によって1枚目の温度分布画像を得て、フレームメモリ13に記憶する。その後、加熱用にステップS5で超音波の送信を継続し、ステップS6で前記ステップS4と同様にして2枚目の温度分布画像を得る。さらにステップS7で、温度変化演算部14が、フレームメモリ13の記憶内容から温度上昇率の分布を演算し、ステップS8で、切換加算部16において断層像に合成するか、或いは断層像に切換えて、画像表示部10に表示させる。
【0034】
ここで、文献値を参考にして熱伝導率を、脂肪が0.0005cal/(s・cm・℃)、筋肉が0.001cal/(s・cm・℃)、直径0.1mmの血管が0.24cal/(s・cm・℃)として、前記温度変化演算部14に温度分布をカラー表示する際の指標として予め設定した。血管は循環しているので、生体の温度を一定に保つために血管は熱伝導が良いことが知られている。その結果、悪性腫瘍の場合には、近傍の癌細胞の増殖によって血管密度が増すために、温度が冷却側になる(青色)こと、および脂肪は血管よりも熱伝導が低いために、赤方に変位することが確認された。
【0035】
以上のように、本実施の形態の超音波診断装置1では、超音波探触子2から被検体3内に超音波を送受信し、その受信信号(反射エコー)に基づいて断層像を再構成し、表示するにあたって、通常は前記ステップS4で所望の断層像が撮影されたら、超音波探触子2は被検体3から離されたり、次の部位や角度へ向きを変えたりされるのに対して、本実施の形態では、連続して(或いは断続しても可)予め定める時間に亘って被検体3の同じ部位に超音波を照射し、その間の断層像上の各点の温度分布を温度センサ11および温度計測部12で測定してフレームメモリ13にストアし、演算部14において、それらの測定結果を比較することで、温度上昇率、すなわち上昇度合いの分布を求め、切換加算部16において、Bモードモノクロ画像などの前記断層像に、たとえばカラーで重畳或いは切換えて、画像表示部10に表示させるので、超音波の受信信号(反射エコー)だけでは、画面上で、骨などの反射の大きな組織の背後は黒く潰れて識別できなくなってしまうのに対して、前記赤外線などは、その反射の大きな組織を回り込んで背後の組織を明らかにすることができ、このように温度による診断支援を取入れ、超音波に温度分布を併用することで、前記生体組織の区分けを明瞭にし、病変部位3aをより正確に診断することができるようになる。
【0036】
ところで、光照射によって吸収領域で生じた温度上昇による弾性定数の変化を超音波の速度変化として抽出し、画像化することで、生体組織の微妙な変化や薬剤分布などを画像化する技術が、大阪府立大学の堀中教授グループの研究で発表されているが、本願発明は、超音波照射による温度上昇を温度センサ11によって検出するもので、関心領域(ROI)において、生体の血流や組織の違いを、一定の超音波エネルギーの吸収による温度上昇の変化として直接捉えるもので、赤外線照射で生じた組織の温度上昇による音速変化の画像化とは本質的に構成を異にするものである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施の一形態に係る超音波診断装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】温度センサを備える超音波探触子の構造を示す図である。
【図3】温度センサを備える超音波探触子の構造を示す図である。
【図4】本発明の実施の一形態の超音波診断装置の動作を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0038】
1 超音波診断装置
2 超音波探触子
3 被検体
3a 病変部位
4 送信回路
5 受信回路
6 送受信制御回路
7 整相加算回路
8 信号処理部
9 白黒走査変換部
10 画像表示部
11 温度センサ
12 温度計測部
13 フレームメモリ
14 温度変化演算部
15 カラー走査変換部
16 切換加算器
21 赤外線検出部
21a 赤外線レンズ
21b 開閉器
22 圧電素子
23 導光部材
24 赤外線検出器
25 断熱隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体内に超音波を入射し、反射波から前記被検体の断層像を再構成する超音波診断方法において、
予め定める時間に亘って前記超音波を入射する工程と、
前記予め定める時間内の2つのタイミングで、前記被検体内の温度分布を測定する工程と、
前記2つのタイミングでの温度分布の測定結果から、温度上昇率の分布を演算する工程と、
前記温度上昇率の分布を前記断層像に付加または断層像に代えて表示する工程とを含むことを特徴とする超音波診断方法。
【請求項2】
超音波探触子から被検体内に超音波を入射し、その受信信号(反射エコー)に基づいて画像処理部が断層像を再構成し、表示部に表示させるようにした超音波診断装置において、
前記超音波探触子に、予め定める時間に亘って前記超音波を送信させる制御部と、
前記予め定める時間内の2つのタイミングで、前記被検体内の温度分布を測定または推定し、記憶する温度センサおよびフレームメモリと、
前記フレームメモリに格納された2つのタイミングでの温度分布の測定結果から、温度上昇率の分布を演算する演算部と、
演算された前記温度上昇率の分布を前記断層像に付加または断層像に代えて前記表示部に与える加算部とを含むことを特徴とする超音波診断装置。
【請求項3】
前記温度センサは複数の赤外線検出部を備えて成り、前記各赤外線検出部は前記超音波探触子を構成する複数の圧電素子に個別に対応して隣接配置されることを特徴とする請求項2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記各赤外線検出部は、前記被検体に密着する赤外線レンズに、その赤外線を通過させるか遮断させるかを切換える開閉器とを備えて構成され、
前記温度センサは、前記各開閉器の底面を連通するように形成される導光部材と、前記導光部材の基端側に設けられる赤外線検出器とをさらに備えることを特徴とする請求項3記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記圧電素子と赤外線検出部との間には、断熱隔壁をさらに備えることを特徴とする請求項3または4記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−279355(P2009−279355A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−137201(P2008−137201)
【出願日】平成20年5月26日(2008.5.26)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】