説明

超音波診断装置

【課題】 超音波エコーに含まれている複数の周波数成分を有効に利用して、従来よりも分解能が高い、又は、従来とは情報の質が異なる超音波画像を表示することが可能な超音波診断装置を提供する。
【解決手段】 この超音波診断装置は、複数の周波数成分を有する超音波を送信するための駆動信号を生成する送信回路12〜14と、超音波を受信して得られた受信信号を処理する受信回路21〜26と、受信信号から複数の周波数成分を抽出する周波数成分抽出手段30と、複数の周波数成分の強度変化にそれぞれ基づく複数種類の画像データを生成する画像生成手段31a等と、少なくとも1種類の画像データに対して空間フィルタ処理を施す画像処理手段32a等と、画像処理手段による空間フィルタ処理後の複数種類の画像データによってそれぞれ表される複数種類の画像を合成する画像合成手段33とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を送受信することにより生体内の臓器や骨等の撮像を行って、診断のために用いられる超音波画像を生成する超音波診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用に用いられる超音波撮像装置においては、通常、超音波の送受信機能を有する複数の超音波トランスデューサを含む超音波用探触子(プローブ)が用いられる。このような超音波用探触子を用いて、複数の超音波を合波することにより形成される超音波ビームによって被検体を走査し、被検体内部において反射された超音波エコーを受信することにより、超音波エコーの強度に基づいて被検体に関する画像情報が得られる。さらに、この画像情報に基づいて、被検体に関する2次元又は3次元画像が再現される。
【0003】
ところで、人体には、筋肉等の軟部組織や骨等の硬部組織のような様々な組織が含まれている。超音波画像において、これらの組織を区別するための情報として、超音波エコーに含まれている複数の周波数成分を利用することが考えられる。
【0004】
関連する技術として、下記の特許文献1には、組織又は体液から戻る、発信周波数と異なる応答周波数、特に発信基本周波数の高調波エコーから、組織及び体液の画像処理をする超音波画像処理方法及び装置が開示されている。例えば、身体中の浅い領域から反射された高調波エコーについては高調波成分を多く用いて超音波画像を生成し、身体中の深い領域から反射された高調波エコーについては基本周波数成分を多く用いて超音波画像を生成して、これらの超音波画像がブレンドされる。しかしながら、このような高調波エコーがどの組織からも十分なレベルで発生するとは限らず、また、組織において発生する高調波エコーを受信しても、その組織が有する周波数応答特性が得られる訳ではない。
【0005】
また、下記の特許文献2には、Bモード画像データから、生体内の組織の構造を強調した構造強調画像データと生体内の組織の性状に起因するテクスチャパターンを強調したテクスチャ強調画像データを抽出して、これら抽出された2つの画像データを重み付けて合成した合成画像を得ることができる超音波イメージング装置が開示されている。しかしながら、超音波エコーに含まれている複数の周波数成分を利用することについては開示されていない。
【0006】
一方、下記の特許文献3には、測定対象によることなく、正確な診断をなし得るようにした生体組織性状診断装置が開示されている。この生体組織性状診断装置においては、信号解析手段が、受信した超音波パルスから得られた電気信号の信号パルス幅を設定するパルス幅設定手段と、設定された信号パルス幅内から、少なくとも領域の一部が異なる複数の信号領域を抽出する領域抽出手段と、抽出領域のそれぞれにおいて、所定の波形特徴値を計算する波形特徴値計算手段と、計算された波形特徴値間の差異を演算する差異演算手段と、差異演算の結果とその超音波パルスの受信時刻とを関連付けることにより差異演算の結果とその超音波パルスを発生させた生体組織の位置とを対応させる対応時刻決定手段とを含んでいる。波形特徴値としては、ピーク周波数、中心周波数、比帯域幅、6dB低下周波数、1次モーメント、2次モーメント等が用いられる。しかしながら、設定された信号パルス幅内から少なくとも領域の一部が異なる複数の信号領域を抽出するということは、被検体内の深さ方向の情報の差を利用することに相当するので、距離分解能が悪化してしまう。即ち、深さ方向の差分特性が求められることになり、1つの点における特徴を表す特性とはならない。
【0007】
また、下記の特許文献4には、測定対象物の音響インピーダンスを高い分解能で高速に画像表示できる、実現性のある音響インピーダンス測定装置が開示されている。この音響インピーダンス測定装置は、超音波応答信号の周波数特性を求める周波数変換手段と、周波数特性から所定のパラメータを抽出するパラメータ抽出手段と、抽出されたパラメータを用いて測定対象物の音響インピーダンスを計算する音響インピーダンス計算手段とを具備している。この音響インピーダンス測定装置においては、測定対象物の音響インピーダンスを測定するために、台形パルスや矩形パルスのような広帯域のパルス信号が用いられている。このようなパルス信号は、広帯域であっても、波形によって定まる固有の周波数成分しか含んでおらず、それらの成分の比率も限定される。
【特許文献1】特開平10−179589号公報(第2頁、図1)
【特許文献2】特開2004−129773号公報(第1頁、図3)
【特許文献3】特開2001−170046号公報(第1、2、5頁、図4)
【特許文献4】特開2000−5180号公報(第2、5、6頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、上記の点に鑑み、本発明は、複数の周波数成分を含む超音波ビームを被検体に向けて送信すると共に、被検体から反射される超音波エコーに含まれている複数の周波数成分を有効に利用することにより、従来よりも分解能が高い、又は、従来とは情報の質が異なる超音波画像を表示することが可能な超音波診断装置を提供することを目的とする。さらに、本発明は、特定の組織を強調して表示することが可能な超音波診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明に係る超音波診断装置は、複数の周波数成分を有する超音波を被検体に送信するように超音波用探触子を駆動するための駆動信号を生成する送信回路と、被検体から反射され又は被検体を透過した超音波を受信して得られた受信信号を処理する受信回路と、受信回路によって処理された受信信号から複数の周波数成分を抽出する周波数成分抽出手段と、周波数成分抽出手段によって抽出された複数の周波数成分の強度変化にそれぞれ基づく複数種類の画像データを生成する画像生成手段と、画像生成手段によって生成された複数種類の画像データの内の少なくとも1種類の画像データに対して空間フィルタ処理を施す画像処理手段と、画像処理手段による空間フィルタ処理後の複数種類の画像データによってそれぞれ表される複数種類の画像を合成する画像合成手段とを具備する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、周波数成分抽出手段によって抽出された複数の周波数成分に基づいて複数種類の画像データをそれぞれ生成し、少なくとも1種類の画像データに対して空間フィルタ処理を施した後に複数種類の画像を合成することにより、従来よりも分解能が高い、又は、従来とは情報の質が異なる超音波画像を表示したり、あるいは、特定の組織を強調して表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、同一の構成要素には同一の参照番号を付して、説明を省略する。
図1は、本発明の一実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係る超音波診断装置は、超音波用探触子10と、走査制御部11と、送信遅延パターン記憶部12と、送信制御部13と、駆動信号発生部14とを含んでいる。
【0012】
被検体に当接させて用いられる超音波用探触子10は、トランスデューサアレイを構成する1次元又は2次元状に配列された複数の超音波トランスデューサ10aを備えている。これらの超音波トランスデューサ10aは、印加される駆動信号に従って超音波ビームを送信すると共に、伝搬する超音波エコーを受信して受信信号を出力する。
【0013】
各々の超音波トランスデューサは、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛:Pb(lead) zirconate titanate)に代表される圧電セラミックや、PVDF(ポリフッ化ビニリデン:polyvinylidene difluoride)に代表される高分子圧電素子等の圧電性を有する材料(圧電体)の両端に電極を形成した振動子によって構成される。このような振動子の電極に、パルス状の電気信号又は連続波の電気信号を送って電圧を印加すると、圧電体は伸縮する。この伸縮により、それぞれの振動子からパルス状の超音波又は連続波の超音波が発生し、これらの超音波の合成によって超音波ビームが形成される。また、それぞれの振動子は、伝搬する超音波を受信することによって伸縮し、電気信号を発生する。これらの電気信号は、超音波の受信信号として出力される。
【0014】
或いは、超音波トランスデューサとして、変換方式の異なる複数種類の素子を用いても良い。例えば、超音波を送信する素子として上記の振動子を用い、超音波を受信する素子として光検出方式の超音波トランスデューサを用いるようにする。光検出方式の超音波トランスデューサとは、超音波信号を光信号に変換して検出するものであり、例えば、ファブリーペロー共振器やファイバブラッググレーティングによって構成される。
【0015】
また、超音波を送信する超音波用探触子と超音波を受信する超音波用探触子とを対向して配置することにより、被検体を透過する超音波を受信するようにしても良い。その場合には、送信用探触子と受信用探触子との間の距離を調節可能とし、それらの探触子を被検体に押し付けて使用する。
【0016】
走査制御部11は、超音波ビームの送信方向及び超音波エコーの受信方向を順次設定する。送信遅延パターン記憶部12は、超音波ビームを形成する際に用いられる複数の送信遅延パターンを記憶している。送信制御部13は、走査制御部11において設定された送信方向に応じて、送信遅延パターン記憶部12に記憶されている複数の遅延パターンの中から所定のパターンを選択し、そのパターンに基づいて、複数の超音波トランスデューサ10aの各々に与えられる遅延時間を設定する。
【0017】
駆動信号発生部14は、複数の周波数成分を有する信号を発生する信号発生回路と、信号発生回路が発生する信号に所望の遅延を与え、複数の超音波トランスデューサ10aに供給される複数の駆動信号をそれぞれ発生する複数の駆動回路とによって構成されている。これらの駆動回路は、送信制御部13において設定された遅延時間に基づいて、信号発生回路が発生する信号を遅延させる。
【0018】
本実施形態においては、駆動信号として、チャープ信号、バースト信号、又は、周波数多重信号のような複数の周波数成分を有する信号が用いられる。あるいは、駆動信号をパルス状として、広帯域の超音波トランスデューサにより、複数の周波数成分を有する広帯域の超音波信号を送信するようにしても良い。また、駆動信号の周波数帯域は、少なくとも0.5MHz〜3MHzであることが望ましい。これにより、少なくとも0.5MHz〜3MHzの周波数帯域を有する超音波が送信される。超音波撮像においては、送受信される超音波の周波数によってビーム径やペネトレーション等が異なるので、複数の周波数成分を有する超音波を送受信することにより、情報の質が異なる複数の超音波画像を取得することができるからである。
【0019】
また、本実施形態に係る超音波診断装置は、操作卓15と、CPUによって構成された制御部16と、ハードディスク等の記録部17とを含んでいる。制御部16は、操作卓15を用いたオペレータの操作に基づいて、走査制御部11、駆動信号発生部14、及び、画像合成部36を制御する。記録部17には、制御部16を構成するCPUに各種の動作を実行させる制御プログラムが記録されている。
【0020】
さらに、本実施形態に係る超音波診断装置は、プリアンプ21と、TGC(タイム・ゲイン・コンペンセーション)増幅器22と、A/D(アナログ/ディジタル)変換器23と、受信信号記憶部24と、受信遅延パターン記憶部25と、受信制御部26と、チャープ圧縮部27と、包絡線検波処理部28と、Bモード画像データ生成部29と、周波数成分抽出部30と、周波数成分画像生成部31a、31b、・・・と、画像処理部32a、32b、・・・と、周波数成分画像合成部33と、注目周波数自動決定部34と、パラメータ決定部35と、画像合成部36と、表示部37とを含んでいる。
【0021】
複数の超音波トランスデューサ10aの各々から出力される受信信号は、プリアンプ21によって増幅され、TGC増幅器22によって、被検体内において超音波が到達した距離による減衰の補正が施される。
【0022】
TGC増幅器22から出力される受信信号は、A/D変換器23によってディジタル信号に変換される。なお、A/D変換器23のサンプリング周波数としては、少なくとも超音波の周波数の10倍程度の周波数が必要であり、超音波の周波数の16倍以上の周波数が望ましい。また、A/D変換器23の分解能としては、10ビット以上が望ましい。受信信号記憶部24は、A/D変換器23から出力されるディジタルの受信信号を、超音波トランスデューサごとに時系列に記憶する。
【0023】
受信遅延パターン記憶部25は、複数の超音波トランスデューサ10aから出力された複数の受信信号に対して受信フォーカス処理を行う際に用いられる複数の受信遅延パターンを記憶している。受信制御部26は、走査制御部11において設定された受信方向に基づいて、受信遅延パターン記憶部25に記憶されている複数の受信遅延パターンの中から所定のパターンを選択し、そのパターンに基づいて複数の受信信号に遅延を与えて加算することにより、受信フォーカス処理を行う。この受信フォーカス処理により、超音波エコーの焦点が絞り込まれた音線信号を表す音線データが形成される。なお、受信フォーカス処理は、A/D変換の前、又は、TGC増幅器による補正の前に行うようにしても良い。
【0024】
チャープ圧縮部27は、超音波の送信時に駆動信号としてチャープ信号が用いられた場合に、受信制御部26から出力される音線データによって表されるチャープ信号に対して、送信波のエンコードに用いられたのと同じチャープコードを掛けて足し合わせることにより、自己相関係数を求める。このようにして音線データをデコードすることにより、広帯域のチャープ信号に含まれている複数の周波数成分が有する情報を圧縮して、時間分解能及びSN比の高い情報を得ることができる。
【0025】
包絡線検波処理部28は、デコードされた音線データに対して包絡線検波処理を施すことにより、音線信号のエンベロープを表すエンベロープデータを求める。Bモード画像データ生成部29は、エンベロープデータに対して走査変換等の処理を施すことにより、Bモード画像データを生成する。
【0026】
周波数成分抽出部30は、受信制御部26から出力される音線データに対して、高速フーリエ変換(FFT)を施すことにより、音線信号に含まれている複数の周波数成分を抽出し、それらの周波数成分の振幅(強度)の変化に基づいて、それらの周波数成分のエンベロープを表すエンベロープデータを求める。あるいは、周波数成分抽出部30は、受信制御部26から出力される音線データに対して、互いに通過帯域が異なる複数の狭帯域バンドパスフィルタ処理を施すことにより、音線信号に含まれている複数の周波数成分を表すデータを得ると共に、それらの周波数成分を表すデータに対して包絡線検波処理を施すことにより、それらの周波数成分のエンベロープを表すエンベロープデータを求めるようにしても良い。
【0027】
ここで、周波数成分抽出部30は、受信制御部26から出力される音線データによって表される音線信号から、超音波用探触子10から送信された超音波に含まれる複数の周波数をそれぞれ有する複数の周波数成分を抽出するようにしても良い。例えば、送信される超音波が0.5MHz〜3MHzの周波数帯域を有する場合に、周波数成分抽出部30は、fa=1MHzの周波数成分と、fb=2MHzの周波数成分とを抽出する。また、各々の周波数成分は、fa=1MHz±Δfで表されるように、一定の帯域幅を有するようにしても良い。
【0028】
周波数成分画像生成部31a、31b、・・・は、周波数成分抽出部30によって抽出された複数種類のエンベロープデータに対して走査変換等の処理を施すことにより、被検体に関する複数種類の画像データ(周波数成分画像データ)をそれぞれ生成する。
【0029】
画像処理部32a、32b、・・・は、周波数成分画像生成部31a、31b、・・・によって生成された複数種類の周波数成分画像データの内、少なくとも1種類の周波数成分画像データに対して、空間フィルタ処理を施す。あるいは、画像処理部32a、32b、・・・は、周波数成分画像生成部31a、31b、・・・によって生成された複数種類の周波数成分画像データに対して、空間フィルタ処理を独立に施すようにしても良い。空間フィルタ処理としては、周波数強調処理、ノイズ除去処理、モフォロジー処理等が、単独で、又は、組み合わせて施される。
【0030】
例えば、周波数fa=1MHzの超音波ビームは、ビーム径が比較的太いので、fa=1MHzの周波数成分に基づいて得られた画像(fa画像)においては、解像度(縦横とも)は比較的低くなるがSN比は比較的良好となる。一方、周波数fb=2MHzの超音波ビームは、ビーム径が比較的細いので、fb=2MHzの周波数成分に基づいて得られた画像(fb画像)においては、解像度(縦横とも)は比較的高くなるがSN比は悪化する。従って、fa画像に対しては、1MHzの受信周波数に対応する空間周波数付近において周波数強調処理を施し、fb画像に対しては、2MHzの受信周波数に対応する空間周波数以外の成分を低減させるようにノイズ除去処理を施すと共に、レベルを上昇させることが望ましい。
【0031】
周波数成分画像合成部33は、画像処理部32a、32b、・・・によって空間フィルタ処理が施された複数種類の周波数成分画像データによってそれぞれ表される複数種類の画像を合成する。例えば、上記のように空間フィルタ処理が施されたfa画像とfb画像とにおける画素値を加算して合成することにより、通常のBモード画像と比較して、SN比が同等で高周波情報が豊富な画像を作成することができる。
【0032】
あるいは、周波数成分画像合成部33は、画像処理部32a、32b、・・・によって空間フィルタ処理が施された複数種類の周波数成分画像データの画素値に重み付けを施した後に、一方の種類の画像データの画素値から他方の種類の画像データの画素値を減算して合成することにより、複数種類の周波数成分画像データがそれぞれ特有の組織の性状を表すものである場合に、組織の性状の差を強調した画像を表す画像データを生成することができる。
【0033】
ここで、複数種類の周波数成分に基づくそれぞれの画像は、解像度やノイズ成分等が異なるので、そのまま双方の画像の差分をとると、ノイズが増大したり、解像度の差によってエッジにアーチファクトが生じるおそれがある。そこで、画像処理部32a、32b、・・・が、複数種類の周波数成分画像データによってそれぞれ表される複数種類の画像における空間分解能を合わせるように空間フィルタ処理を施し、不要な周波数成分をカットした後に、周波数成分画像合成部33が、双方の画像の差分をとると、見易い画像を得ることができる。例えば、fa画像に対しては、1MHzの受信周波数に対応する空間周波数を中心としてノッチフィルタ処理を施し、fb画像に対しては、1MHzの受信周波数に対応する空間周波数の解像度に相当するように解像度を落とす処理を施すことにより解像度を1/2にしてから、両方の画像の差分をとることにより、周波数差分画像データが生成される。
【0034】
また、注目周波数自動決定部34は、周波数成分抽出部30が音線データに対してFFTを施すことにより求めた多数の周波数成分の中から、注目すべき複数の周波数成分を自動的に決定する。例えば、注目周波数自動決定部34は、予め定められている周波数を有する成分を注目すべき周波数成分として決定しても良いし、強度の大きい周波数成分を注目すべき周波数成分として決定しても良いし、被検体の深さ方向の全部又は一部の領域において大きなピーク又はディップを有する周波数成分を注目すべき周波数成分として決定しても良い。
【0035】
図2〜図4に、被検体内の組織の違いによる超音波の相対透過率の違いを示す。図2は背骨A部、図3は背骨B部、図4は背骨C部における相対透過率の周波数特性を示している。駆動信号としては、中心周波数1MHzのチャープ信号と、中心周波数2.25MHzのチャープ信号とを用いている。ここで、背骨A部及び背骨B部は、比較的軟らかい組織であり、背骨C部は、比較的硬い組織である。図2〜図4に示すように、各部における相対透過率の周波数特性は、大きく異なっている。
【0036】
超音波エコー強度の大きい部分における特定の組織の周波数特性に関する特徴に基づいて各々の周波数成分の周波数を決定することにより、被検体に含まれている複数の組織の性状の差をより強調して表示することができる。一方、超音波エコー強度の小さい部分に着目して複数の周波数成分の周波数を決定することにより、多数の弱いエコーが加算され干渉した結果として生じるスペックル成分を低減することも可能である。いずれにしても、SN比を改善することができる。
【0037】
具体的には、周波数成分抽出部30によって抽出された1.6MHzの周波数成分の強度に対する2MHzの周波数成分の強度の比が、背骨A部において+8dB、背骨B部において+24dB、背骨C部において−14dBである場合において、周波数成分画像生成部31a及び31bは、周波数成分1.6MHz及び2MHzにそれぞれ対応する2種類の画像データを生成して出力する。これら2種類の画像データは、画像処理部32a及び32bにおいて空間フィルタ処理がそれぞれ施されて、不要な周波数成分がカットされる。
【0038】
さらに、周波数成分画像合成部33が、2種類の画像データによってそれぞれ表される2種類の画像の差分をとることにより、周波数差分画像データを生成する。この周波数差分画像データにおいては、1.6MHzの周波数成分の強度に対する2MHzの周波数成分の強度の比が、背骨A部において+8dB、背骨B部において+24dB、背骨C部において−14dBとなるので、これらの部分の違いを明確に画像化することができる。
【0039】
単に1つの周波数成分に基づいて画像データを生成する場合には、画像データは、その周波数成分の強度変化の影響を強く受けてしまうが、本実施形態におけるように、複数の周波数成分の相対関係に基づいて画像データを生成する場合には、それらの周波数成分の強度変化の影響が軽減され、被検体における組織性状の特徴を表す周波数特性の差を反映した画像データを生成することが可能である。
【0040】
パラメータ設定部35は、注目周波数自動決定部34によって決定された注目すべき複数の周波数成分の周波数に基づいて、画像処理部32a、32b、・・・によって施される空間フィルタ処理において使用されるパラメータの値を設定する。
【0041】
画像合成部36は、Bモード画像データ生成部29によって生成されたBモード画像データと、周波数成分画像合成部33によって生成された周波数成分画像データとを合成して、或いは、これらの内の一方を選択して出力する。表示部37は、例えば、CRTやLCD等のディスプレイ装置を含んでおり、画像処理部37によって画像処理が施された画像データに基づいて超音波画像を表示する。
【0042】
図5に、本実施形態に係る超音波診断装置において表示される超音波画像の例を模式的に示す。図5の(a)は、Bモード画像を示す図であり、硬部組織(骨)の内部はほとんど不明であるが、硬部組織(骨)の外側に存在する軟部組織(筋)が表された超音波画像が生成される。一方、図5の(b)は、周波数成分画像を示す図であり、適切な周波数成分を抽出することにより、硬部組織(骨)の内部を強調して表示することができる。また、硬部組織(骨)と軟部組織(筋)との分離もはっきりと表されており、骨から表皮までを撮像することが可能である。
【0043】
図5の(c)は、Bモード画像と周波数成分画像とを合成して表示したものであり、例えば、画像合成部36(図1参照)は、Bモード画像データ生成部29によって生成された画像データに基づいて輝度信号(又は色度信号)を出力し、周波数成分画像合成部33によって生成された画像データに基づいて色度信号(又は輝度信号)を出力するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、超音波を送受信することにより生体内の臓器や骨等の撮像を行って、診断のために用いられる超音波画像を生成する超音波診断装置において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施形態に係る超音波診断装置の構成を示すブロック図である。
【図2】背骨A部における相対透過率の周波数特性を示す図である。
【図3】背骨B部における相対透過率の周波数特性を示す図である。
【図4】背骨C部における相対透過率の周波数特性を示す図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係る超音波診断装置において表示される超音波画像の例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0046】
10 超音波用探触子
10a 超音波トランスデューサ
11 走査制御部
12 送信遅延パターン記憶部
13 送信制御部
14 駆動信号発生部
15 操作卓
16 制御部
17 記録部
21 プリアンプ
22 TGC増幅器
23 A/D変換器
24 受信信号記憶部
25 受信遅延パターン記憶部
26 受信制御部
27 チャープ圧縮部
28 包絡線検波処理部
29 Bモード画像データ生成部
30 周波数成分抽出部
31a、31b、・・・ 周波数成分画像生成部
32a、32b、・・・ 画像処理部
33 周波数成分画像合成部
34 注目周波数自動決定部
35 パラメータ設定部
36 画像合成部
37 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の周波数成分を有する超音波を被検体に送信するように超音波用探触子を駆動するための駆動信号を生成する送信回路と、
前記被検体から反射され又は前記被検体を透過した超音波を受信して得られた受信信号を処理する受信回路と、
前記受信回路によって処理された受信信号から複数の周波数成分を抽出する周波数成分抽出手段と、
前記周波数成分抽出手段によって抽出された複数の周波数成分の強度変化にそれぞれ基づく複数種類の画像データを生成する画像生成手段と、
前記画像生成手段によって生成された複数種類の画像データの内の少なくとも1種類の画像データに対して空間フィルタ処理を施す画像処理手段と、
前記画像処理手段による空間フィルタ処理後の複数種類の画像データによってそれぞれ表される複数種類の画像を合成する画像合成手段と、
を具備する超音波診断装置。
【請求項2】
前記画像合成手段が、複数種類の画像データの画素値に重み付けを施した後に、一方の種類の画像データの画素値から他方の種類の画像データの画素値を減算することにより、前記被検体に含まれている複数の組織の性状の差を強調した画像を表す画像データを生成する、請求項1記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記送信回路が、少なくとも0.5MHz〜3MHzの周波数帯域を有する超音波を送信するように超音波用探触子を駆動するための駆動信号を生成する、請求項1又は2記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記周波数成分抽出手段が、前記受信回路によって処理された受信信号から、前記送信回路によって送信された超音波に含まれる複数の周波数をそれぞれ有する複数の周波数成分を抽出する、請求項1〜3のいずれか1項記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記画像処理手段が、前記画像生成手段によって生成された複数種類の画像データに対して空間フィルタ処理を独立に施す、請求項1〜4のいずれか1項記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記画像処理手段が、前記画像生成手段によって生成された複数種類の画像データに対して、空間フィルタ処理として周波数強調処理及び/又はノイズ除去処理を施す、請求項1〜5のいずれか1項記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記画像処理手段が、複数種類の画像データによってそれぞれ表される複数種類の画像における空間分解能を合わせるように空間フィルタ処理を施す、請求項1〜6のいずれか1項記載の超音波診断装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−204594(P2006−204594A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21328(P2005−21328)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】