説明

超音波診断装置

【課題】本発明の目的は、パワードプラにおいて、距離分解能の向上、感度の向上、クラッタ除去効果の向上、およびフレームレートの向上を図ることにある。
【解決手段】本発明に係る超音波診断装置は、超音波プローブ1と、超音波プローブを介して被検体を超音波で走査する送受信回路2,3と、送受信回路から出力される受信信号に基づいてBモードデータを発生するBモードプロセッサ4と、送受信回路から出力される受信信号であって、バースト波数がBモードデータと同一又は略同一であるという送信条件のもとで収集された受信信号に基づいてパワードプラデータを発生するパワードプラプロセッサ5と、Bモードデータとパワードプラデータとを部分的に合成して、1フレームの合成画像データを発生する合成部7と、合成画像データを表示するものであって、Bモードデータの部分をグレースケールの表示マップを用いて表示し、パワードプラデータの部分を前記表示マップと同じ表示マップを用いて表示する表示器とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラードプラ対応の超音波診断装置に係り、特に血流からのパワーを表示するパワードプラ画像の性能向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血流を2次元的に表示する方法として、カラードプラ法がある。カラードプラ法では、血液の流れにより生じるドプラシフト(周波数偏移)を抽出して、そのドプラシフトから平均流速、分散、パワーという3種類の血流情報を発生する。この血流情報に関する2次元の画像をカラーで表示する。典型的には、このカラー画像は、モノクロの断層像(Bモード画像)に重ねられる。
【0003】
なお、ここでは、血流のパワー情報を表示する方法をパワードプラ法と称し、血流の速度、分散情報を表示する方法をカラードプラ法と称して、両者を区別する。
【0004】
パワードプラは、感度および分解能が、カラードプラよりも優れている。従って、主に、心臓以外の部位の表示方法として好まれる傾向がある。
【0005】
しかし、パワードプラ(カラードプラも同様)では、組織の形態を映像化するBモードに比べて、フレームレート(時間分解能)がかなり低くなる。また、パワードプラは、距離分解能が、Bモードよりも劣る。
【0006】
パワードプラの距離分解能がBモードに比べて劣る原因はいくつかあるが、主な原因は、クラッタ信号に比べて血流信号がかなり小さいために、波連長を長く設定する必要があることにある。また、受信に際しては、狭帯域でフィルタをかける。このように波連長を長くするので、距離分解能の低下は避けられない。
【0007】
また、カラードプラやパワードプラの時間分解能がBモードよりも低い主な原因は、カラードプラやパワードプラでは、同一方向に超音波パルスの送受信を何回も繰り返すことにある。通常は8乃至20回、典型的には16回繰り返す。この繰り返し回数は、アンサンブル数と称される。このアンサンブル数が少ない場合には、ウォールフィルタでクラッタが完全に除去されずに残るという問題がある。このためにアンサンブル数をあまり少なくすることができない。従って、時間分解能の向上は望めない。
【0008】
ところで近年、マイクロバブルを主成分とする超音波造影剤を経静脈に注入して超音波診断を行いうコントラストエコー法が脚光を浴びている。その映像法としては大きく、ハーモニックスBモード法、基本波による通常のパワードプラ法、ハーモニックスパワードプラ法の3通りがある。これら3つの方法の中では、基本波によるパワードプラ法が最も血流感度が高いが、コントラストエコーの場合は、組織内血流、つまりパヒュージョンを観察する場合が多いので、基本波によるパワードプラ法ではクラッタが問題になることが多い。
【0009】
ハーモニックスパワードプラ法の場合、クラッタがなくなるという有利があるものの、分解能はハーモニックスBモードより劣り、また感度も大きな差がないことから、一般にハーモニックスBモードが使用される場合が多い。コントラストエコー法の場合は、血管内に入った造影剤がエコーを増強するので、Bモードでも血流を観察することができるのである。
【0010】
コントラストエコー法でパヒュージョンを効果的に映像化するためには、超音波の被検体におけるパワーを表すMI値(Mechanical Index)を高く設定することが有効である。通常、組織内血流からの反射エコーは小さいのであるが、高いMI値で超音波を送信することで、マイクロバブルを壊し、強い反射エコーを発生させることができる。これによりパヒュージョンを効果的に映像化することができる。その半面、高いMI値の超音波は殆どのマイクロバブルを崩壊してしまうので、フレッシュなマイクロバブルの流入を待って次の超音波送信を行う必要がある。そのため高いMI値で超音波送信を間欠的に繰り返すいわゆるフラッシュエコー法が開発されている。このフラッシュエコー法は、特開平8−280674号公報に開示されている。しかし、このフラッシュエコー法は、時間分解能が低いというデメリットを有している。
【0011】
このデメリットを解決するためにパワーパルスインバージョン法が開発されている。この方法では、バブルをあまり壊さないように、低いMI値で超音波が送信される。この低いMI値による血流の感度低下を、基本波のクラッタを除去するとともに、血流信号として基本波と高調波との両方を利用することで補っている。つまり、この方法は、高調波と共に基本波を使って血流を映像化するので、従来のハーモニックスドプラ法に比べて感度が向上する。また、パワードプラ法は、血流の描出感度がBモードよりも高いので、低いMI値でバブルをあまり壊さないで連続送信しながらパヒュージョンを観察することが可能になった。しかし、分解能はBモードの血流表示には及ばない。
【0012】
コントラストエコー法において距離分解能を向上させるために、パワードプラのバースト波数をBモード法のように1〜2波にすることが試みられている。しかし、距離分解能は、Bモードのそれには及ばない。
【0013】
一方、Bモードで直接的に血流をイメージングする方法が、特開平11−318902号公報に開示されている。この方法は、Bモード帯域(DC付近)の成分の一部をウォールフィルタをスルーさせることで、組織像と血流像とを同時に表示するものである。この方法では、組織像と血流像が完全に同一パルスから作られるために、組織像の分解能(高周波で広帯域パルスが有効)と血流像のペネトレーション(低周波で狭帯域が有効)を両立することが困難であるという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、パワードプラにおいて、距離分解能の向上、感度の向上、クラッタ除去効果の向上、およびフレームレートの向上を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る超音波診断装置は、超音波プローブと、前記超音波プローブを介して被検体を超音波で走査する送受信手段と、前記送受信手段から出力される受信信号に基づいてBモードデータを発生するBモード処理手段と、前記送受信手段から出力される受信信号であって、バースト波数が前記Bモードデータと同一又は略同一であるという送信条件のもとで収集された受信信号に基づいてパワードプラデータを発生するパワードプラ処理手段と、前記Bモードデータを前記パワードプラデータとを合成して、1フレームの合成画像データを発生する合成手段と、前記合成画像データを表示するものであって、前記Bモードデータと前記パワードプラデータとをグレースケールを用いて共に表示する表示器とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、従来において、スレッシュドテクニックを使って画像を合成する場合の問題点を示す図。
【図2】(a)は、本発明において、ディスプレイ上に単独で表示したパワードプラ画像の一例を示す中間調画像、(b)は、本発明において、ディスプレイ上に単独で表示したBモード画像の一例を示す中間調画像、(c)は、本発明において、ディスプレイ上に表示したパワードプラ画像とBモード画像との合成画像の一例を示す中間調画像。
【図3】本発明の実施形態による超音波診断装置の構成を示すブロック図。
【図4】(a)は、本実施形態において、Bモード単独のスキャンオペレーションによる超音波パルスの送信波形を示す図、(b)は、本実施形態において、パワードプラモード単独のスキャンオペレーションによる超音波パルスの送信波形を示す図、(c)は、本実施形態において、Bモードとパワードプラモードとを混成した新規なスキャンオペレーションによる超音波パルスの送信波形を示す図。
【図5】超音波走査線の一例を示す図。
【図6】本実施形態による走査手順を示す図。
【図7】図3の受信回路の出力信号の距離方向に関する周波数特性を示す図。
【図8】図3の受信回路の出力信号のドプラ周波数特性を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明による超音波診断装置を好ましい実施形態により説明する。
まず、本発明の特徴について簡単に説明する。本発明は、以下の処理を行うことを特徴とする。
(1)パワードプラモードに際して、Bモードと同等の1又は2波駆動の送信パルスを使用する。好ましくは2波駆動である。換言すると、パワードプラモード時には、Bモードと同等に、短い波連長で広帯域の送信パルスを使用する。
(2)パワードプラモード時のアンサンブル数は、2−10の中から選択され、好ましくは2−6の中から選択され、更に最も好ましいのは4である。なお、ドプラモードでは、同一方向に超音波パルスを何度も繰り返して送信することが必要とされるが、この繰り返し回数が、アンサンブル数と称される。カラードプラモードのアンサンブル数は、8−20回、典型的には16回である。
(3)Bモード専用の送信は行わず、パワードプラモードで収集した受信信号をパワードプラ処理とBモード処理とで共用する。
(4)(3)において、Bモード用のビームを作成するのに、パワードプラ用に送信した同一方向のビームを使用して平均演算処理を行う。
(5)同じ受信信号から生成され、スキャンコンバートされたBモード画像とパワードプラ画像とを部分的に合成して1フレーム分の画像を発生するに際して、画素ごとにBモード画像の画素値とパワードプラ画像の画素値とを比較し、その高いほうの値を選択する。
【0018】
上記5つの特徴について以下に補足説明をする。
(1´)パワードプラ用の送信パルスとして、Bモードと同等の1又は2波駆動の送信パルスを使用することで、パワードプラ画像がBモード画像と本質的に同等の情報を持つことができる。例えばウォールフィルタをスルーにすれば、パワードプラ画像とBモード画像とはほぼ同じ画像になる。このことは、画像の合成方法と密接な関係がある。
【0019】
(2´)ドプラのアンサンブル数は、通常、8−20に設定される。アンサンブル数が少ないと、ウォールフィルタでクラッタを十分に除去できない。しかし、本発明では、このアンサンブル数を非常に少ない例えば4に設定する。これによりクラッタ成分が多く残留するが、このクラッタは組織の動きに由来した情報、つまりBモードと略同等の組織情報である。従って、パワードプラ画像とBモード画像とを部分的に合成することで、組織形態がパワードプラ画像部分とBモード画像部分とで連続的につながる。また、アンサンブル数を少なくとすることで、時間分解能(フレームレート)の向上を図ることができる。
【0020】
(3´)パワードプラモードとBモードとで送信条件でがまったく同じでよいとき、Bモードのための超音波パルスをパワードプラモードのための超音波パルスとは別個にで送信する必要が無く、超音波パルスの送信を両モードで共用することができる。
【0021】
(4´)パワードプラモードとBモードとで送信条件でがまったく同じでよいとき、Bモード画像を作成するビームとして1本だけを使用するのではなく、同一方向のビーム全て使用することができる。アンサンブル数が4のとき、各方向のビーム数は4であり、この4つの信号を検波前に加算することにより、S/Nを向上することができる。また、4つの信号を異なる受信フィルタ特性を通し、検波し、加算することにより、スペックルノイズを虚序することも可能である。
【0022】
(5´)従来の問題で示したコントラストエコー法において、パワードプラ法の駆動条件をBモードのように1波で行っても、高い距離分解能が得られなかった原因について考える。もちろん距離方向のフィルタはBモードと同条件に設定する。コントラストエコー法なので、比較的高い血流感度が確保されている。高い距離分解能が得られなかった原因は、パワードプラ画像とBモード画像との合成方法にある。パワードプラ画像とBモード画像とを合成する方法としては、従来は、画素ごとにパワードプラ画像の画素値とBモード画像の画素値とのいずれかを選択し、それぞれ固有のカラーマップで表示している。選択アルゴリズムとしては、パワードプラ画像の画素値が所定のスレッショルド以上を示す場合、その画素にはパワードプラ画像の画素値を選択し、逆に、パワードプラ画像の画素値が所定のスレッショルド未満を示す場合、その画素にはBモード画像の画素値を選択する。そのためスレッショルドの設定値に依存して、血流の太さが決定される。つまり、図1に示すように、スレッショルドが過度に低く設定されたとき、血管が実際よりも太く表現され、分解能が低く見える。逆に、スレッショルドが過度に高く設定されたとき、血管が実際よりも細く表現され、感度が低く見える。コントラストエコー法の場合、感度は十分なので、相対的にスレッショルドが低くなり、血管が実際よりも太く表現される傾向が強く、Bモード画像よりも分解能が低く見えることになる。スレッショルド処理を排除して、パワードプラ画像を単独で表示する場合には、Bモードの組織像が分かり難くなる。また、パワードプラ画像を透過像としてBモード画像に重ねて表示する場合、微細な血流がBモード画像に埋もれて見えなくなってしまう。
【0023】
本発明では、上述した通り、画素ごとにBモード画像の画素値とパワードプラ画像の画素値とを比較し、その高いほうの値を選択することで、Bモード画像とパワードプラ画像とを部分的に合成する。この合成した画像では、パワードプラ画像部分とBモード画像部分とが滑らかにつながる。これが従来の合成方法と決定的な相違である。このつながりをより滑らかにするためには、表示カラーマップとしては、Bモード表示用のグレースケールを使用するのが好ましいと考えられる。このようにスレッショルドを使わないでパワードプラ画像とBモード画像とを部分的に合成するので、分解能の劣化は原理的に解消され得る。さらに、アンサンブル数を少なくしたことでパワードプラ画像部分にクラッタが残留するが、このクラッタは、Bモード画像部分の組織像と滑らかにつながるので、血流像を邪魔するアーチファクトではなく、組織像として有効に活用することができる。上述したように、パワードプラ画像のクラッタは、Bモード画像と、本質的に同じ情報である。クラッタは、パワードプラ画像の中では、ノイズ(アーチファクト)として認識されてしまうが、Bモード画像と合成することで、ノイズではなく、意味のある情報として活かされる。仮に、ある画素において、パワードプラ画像のクラッタの階調レベルが、Bモードの階調レベルよりも高くて、その画素としてクラッタが選択されたとしても、それは組織像として認識することができる。従来、カラードプラ及びパワードプラでは、以下にしてクラッタを除去するかということを最大の課題として様々な技法が試みられてきたが、本発明では、クラッタの残留それ自体が問題にはならず、逆に有効に活用できることになる。また、従来では、フィルタでクラッタを十分除去するために、そのカットオフ周波数を比較的高く設定していて、そのために低速の血流成分がクラッタとともに除去される問題があったが、本発明では、クラッタを除去する必要が無いので、低速の血流に対する感度が向上する。
【0024】
図2(a),図2(b),図2(c)に実際の画像例を示している。図2(a)にパワードプラ画像、図2(b)にBモード画像、図2(c)に合成画像をそれぞれ示している。パワードプラ画像には、血流像とともに、クラッタ(組織像)が含まれている。このクラッタは、合成画像では、Bモード画像部分の組織像とつながり、アーチファクトではなく、組織像として認識され得る。
【0025】
なお、本発明では、組織が非常に高い輝度を示すとき、その高輝度の組織の中に血流が埋もれて隠れて見え難くなってしまうことが想定されるが、本法は本来的にコントラストエコー、つまり超音波造影剤の使用環境下での適用を想定したものであり、この場合、血流エコーが強く、しかも血流がチラチラと時間変動を伴って見えることから、血流像を組織像と容易に識別することができる。なお、このためには、パーシスタンス等のフレーム方向(時間軸方向)の画像処理は行わないことが好ましい。
【0026】
図3に本発明の好ましい実施形態に係る超音波診断装置のブロック図を示す。超音波プローブ1は、1次元又は2次元に配列された複数の振動子を備えている。送信回路2は、各振動子に駆動信号(高周波の電圧パルス)を供給する。それにより超音波プローブ1から超音波パルスが送信される。送信回路2は、後述する所定のパルスシーケンスに従って駆動信号を発生する。それにより所定のパルスシーケンスでスキャンオペレーションが行われる。受信回路3は、プローブ1を介して被検体から返ってきたエコー信号を受信し、整相加算処理を行った後、高周波信号からI,Qの直交信号に変換する。IQ信号は、2系統の増幅器13a,13bを介してBモード処理ユニット4とパワードプラ処理ユニット5に供給される。増幅器13aはBモード処理ユニット4の入力段に設けられ、また増幅器13bはパワードプラ処理ユニット5の入力段に設けられる。このように増幅器13a,13bを処理ユニット4、5に対してそれぞれ個別に設けたことにより、Bモード処理に関するゲインと、パワードプラ処理に関するゲインとを、ゲインコントローラ15により個別に設定することができる。
【0027】
Bモード処理ユニット4は、Bモード画像を発生するために、エコーフィルタ4a、検波回路4b、対数圧縮回路(LOG)4cを備えている。Bモード画像としては、送信パルス周波数と同じ基本波の成分を使って生成する方法と、基本波の2倍の周波数成分(2次高調波成分)を使って生成するいわゆるハーモニック法とがある。本実施形態としては、後者のハーモニック法でBモード画像を生成するものとする。
【0028】
超音波の各ビームは、ディジタルスキャンコンバータ(DSC)6aでTVに表示できる直交座標に変換される。一方、IQ信号はカラードプラ処理ユニット5にも入力され、一度、コーナーターニングバッファ5aに格納されてから、同一方向へのビームを取り出して、ウォールフィルタ5bに送られる。ウォールフィルタ5aは、ハイパス特性を備えており、静止した組織からのクラッタを除去し、また動いている組織からのクラッタを低減する。なお、ここではウォールフィルタ5aとしては、クラッタの平均周波数を求めて、その値によってフィルタ係数を適応的に変化させる方式を採用している。
【0029】
平均化/対数圧縮回路5cは、ウォールフィルタ5aの出力信号列のパワーを平均し、その平均信号を対数圧縮する。この出力信号は、ディジタルスキャンコンバータ6bで直交座標に変換される。Bモード系のDSC6aから出力されるBモード画像と、パワードプラ系のDSC6bから出力されるパワードプラ画像とは、画像合成ユニット7で部分的に合成され、そして後処理部9を介してディスプレイ8に送られ、濃淡画像として表示される。後処理部9は、ルックアップテーブルを使って入力信号をRGB信号に変換する。ルックアップテーブルを使い分ける、又はルックアップテーブルのパラメータを切り替えることで、入出力変換特性を変更して、表示ダイナミックレンジを変更する、表示ゲインを変更する、特定の階調を強調する、階調を反転する等の様々な処理を調整することができる。
【0030】
画像合成ユニット7は、画素ごとにBモード画像の画素値とパワードプラ画像の画素値とを比較し、その高いほうの値を当該画素の値として選択する機能を備えるものである。画像合成ユニット7は、後処理を受けた画素値どうしで比較する必要がある。そのため画像合成ユニット7は、後処理部9と同じ処理を行うダミーの後処理部10a,10bを備えている。一方のダミー後処理部10aはBモード画像に対して後処理を行い、他方のダミー後処理部10bはパワードプラ画像に対して後処理を行うために設けられている。このようにダミーの後処理部10a,10bを2系統設けたことで、Bモードとパワードプラとで並列処理が可能になり、リアルタイム性を確保している。なお、上述したように後処理部9は変換特性が変更可能であるが、これと同様に、ダミーの後処理部10a,10bも変換特性が可変である。後処理部9の変換特性に合わせて、ダミーの後処理部10a,10bの変換特性も変更するために、後処理制御部14が設けられている。これにより比較回路11において、実際の表示階調に従って、Bモード画像の画素値とパワードプラ画像の画素値とを画素ごとに比較することができる。この比較結果は、マルチプレクサ(MUX)12に出力される。マルチプレクサ12は、比較回路11の比較結果に従って、Bモード画像の画素値とパワードプラ画像の画素値とを画素ごとに選択的に出力する。なお、後処理部9、ダミーの後処理部10a,10b、比較回路11、マルチプレクサ12、後処理制御部14は、RAM又はROMで実装するようにしてもよい。
【0031】
次に、本実施形態の特徴的な部分について詳しく説明する。図4(a)にはBモード単独で超音波走査する場合の超音波パルスの送信波形を示し、図4(b)にはパワードプラモード単独で超音波走査する場合の超音波パルスの送信波形を示している。Bモードでは、典型的には、送信パルスの波数(バースト波数)は2(又は1)に設定される。この場合、基本周波数をf0とすると、波連長は2/f0で与えられる。一方、パワードプラモードでは、典型的には、バースト波数は4に設定される。この場合、波連長は4/f0で与えられる。なお、PRFはパルス繰り返し周波数を表している。図4(c)には、Bモードも兼ねた新規なパワードプラモードによる超音波パルスの送信波形を示しており、送信回路2から発信する送信パルスの波数(バースト波数)は、Bモードの場合と同等の2(又は1)に設定される。
【0032】
さらに、図5、図6に示すように、同一方向への送信繰り返し回数、つまりアンサンブル数は、4に設定される。つまり、各方向に超音波パルスがそれぞれ4回ずつ繰り返し送信される。このシーケンスでは、Bモード専用のパルス送信は行わないで、パワードプラ用の送信と兼用する。Bモード表示用に使える受信信号は方向(走査線)ごとにそれぞれ4本ずつあるが、このうちの1本だけを使う。これ以外に、検波回路4b以前の段階で、4本の受信信号を加算平均してもよい。こうすると、S/Nが約6dB改善する。また、同じ方向の4つの受信信号にそれぞれ異なるエコーフィルタをかけて、LOG圧縮回路4cの後段で加算平均しても良い。こうすると、スペックルが低減したBモード画像が得られる。
【0033】
なお、受信回路3の後段には、Bモード画像のゲインと、パワードプラ画像のゲインとを別々に調節可能なように2系統の増幅器13a,13bが設けられており、これによりBモードの組織像の最高階調と、パワードプラの血流像の最高階調とが、画像合成ユニット7の入力段階で略同等になるようにそれぞれのゲインを調整することができる。画像合成ユニット7では、上述したように、Bモード系のDSC6aからのBモード画像とパワードプラ系のDSC6bからのパワードプラ画像の表示階調のうち大きい方を選択的に出力する。この出力をディスプレイ8においてグレースケールで表示する。合成後の画像が最適になるように、画像合成ユニット7には、Bモード画像、パワードプラ画像それぞれに適切な階調変換処理を行うためのダミーの後処理部10a,10bが設けられている。パワードプラ画像用の階調変換カーブとしては、振幅の小さいノイズを抑えて、中間階調を広げて、クラッタと思われる振幅の大きい信号を飽和させるようなS字型のカーブが適当である。
【0034】
なお、本方式を実施する場合は、パーシスタンス等のフレーム方向の画像処理を行わないか、ごく弱くすることが好ましい。これは、血流像が時間的に変化して見える様子を強調又は維持するためである。
【0035】
本実施形態の効果的な使用方法は、超音波造影剤を使用する方法(コントラストエコー法)である。超音波造影剤はパワードプラの血流像の感度を向上させる。Bモード単独で見た場合よりも、本実施形態による方式の方が血流描出感度が向上する。しかも、血流の空間分解能はBモードとほぼ同等である。血流の描出感度が向上しているので、Bモード単独で見ていた場合よりも、MI値を下げる、好ましくは0.3以下に落とすことができる。これにより、バブルから構成されている超音波造影剤の崩壊を少なくすることができ、超音波造影剤の持続時間を長くすることができる。
【0036】
MI値を高くした場合でも、従来のBモードのハーモニックイメージングに比べて優れている。高MIで連続スキャンをした場合に、造影剤のバブルの大部分は崩れてしまって、Bモードのハーモニックイメージングで映像化することは困難であるが、本発明ではドプラ法を使用するために、残っている造影剤を交換度に映像化することが可能である。
【0037】
造影剤使用時に、本実施形態の方法で映像化を行う利点は、血流をリアルタイムで高分解能に表示できる点にある。従来のハーモニック法やパルスインバージョン法では、組織由来の高調波成分と血流由来の高調波成分とを同一情報として表示するために、血流が非常に見え難いという問題があった。しかし、本実施形態の方法では、血流像と組織像とを画素ごとに選択して、部分的に合成するので、両画像のバランスを容易に調整することができる。従って必要に応じて血流像を組織像に対して強調することが容易に可能である。つまり、Bモードのゲインをドプラゲインよりも非常に低くした場合は、血流を最大の感度で観察することができる。また、本実施形態の方法では、パワードプラ像には血流像と共にクラッタ像が混入しているが、クラッタは組織に由来するもので、従ってBモード像と滑らかにつながって消える。また、本実施形態の方法にフラッシュエコー法を併用することにより、パヒュージョンをさらに高い感度で映像化することができる。
【0038】
従来、組織内血流(パヒュージョン)を観察するには、高いMI値の超音波パルスを間欠的に送信して、バブルを壊すことで行ってきた。これは、パヒュージョンを映像化するためには感度が足りないために、パルスを壊して強い超音波エコーを得るためである。しかし、本方式を使用すれば、低いMI値による連続送信でパヒュージョンを映像化することが可能となる。以下、コントラストエコー時における本実施形態の動作を説明する。
【0039】
エコーフィルタ4aの入力信号の周波数特性は、図7に示すように、基本波成分と、超音波造影剤(マイクロバブル)からの反射and/or非線形伝播による2次高調波成分とを主成分としている。エコーフィルタ4aにより、主に2次高調波だけが抽出される。ここでは、フィルタ法におけるハーモニックBモード画像の作成方法について説明しているが、極性の異なる2つのパルスから2次高調波を抽出するパルスインバージョン法も公知であり、ここで使用することができる。図7の信号はパワードプラ処理ユニット5にも入力される。
【0040】
図8はドプラ周波数特性である。ここで注目する点は、1波駆動の距離方向に広帯域な信号がパワードプラ処理ユニット5にも入力されるために、基本波のクラッタ、2次高調波のクラッタ、基本波もしくは2次高調波の血流が図8のように分布する点である。
【0041】
従来の4〜8波の送信駆動では、狭帯域なために、原理的に基本波のドプラ成分しか現れない。ここで、基本波のクラッタはある程度低減できるフィルタ特性をウォールフィルタ5bに与える。するとフィルタ5bを通過する信号は、基本波のクラッタの漏れと、2次高調波のクラッタの一部と、基本波の血流と、2次高調波の血流とである。すなわち、従来のハーモニックパワードプラ法が2次高調波の血流だけを出力していたのに比べて、基本波の血流成分も通過するので、血流描出感度は向上する。基本波、2次高調波のクラッタの漏れは、前述のBモード画像との合成により有効に活用され得る。なお、この説明は、パルスインバージョンを行わない方法で行ったが、パルスインバージョンドプラ法も公知であり、パルスインバージョンドプラ法で行った場合も同様な効果が得られる。
【0042】
本実施形態による方法で、超音波造影剤を用いない場合でも心臓血流や頸動脈、門脈、肝静脈といった太い血管内の血流や流速の速い血流は描出可能である。このような血流動態と組織像を高分解能で表示することが可能である。
【0043】
以下に、本実施形態の作用効果についてまとめる。
(1)パワードプラの送信条件をBモードと同等、具体的にはパワードプラ用の送信パルスはバースト波形(パルス列)であるが、このバースト波数を、従来の4乃至8波より少ないBモードと同等の1又は2波に設定する。これにより、パワードプラに、Bモードと本質的に同等の距離分解能を与えることを可能とする。例えば、ウォールフィルタ5bをスルーにすれば、パワードプラ画像とBモード画像は同一の情報を持つこととなる。この事象は、後述する画像の合成方法と密接な関係がある。
【0044】
(2)パワードプラのアンサンブル数、つまり同一方向に繰り返し送受信する回数を、2−10のいずれか、好ましくは2−6のいずれか、更に好ましくは4に設定する。従来のパワードプラのアンサンブル数は8−20のいずれか、典型的には16に設定される。アンサンブル数が少ないと、ウォールフィルタ5bでクラッタが十分に除去できない。しかし、本実施形態ではアンサンブル数を4程度に小さく設定するので、クラッタを除去しきれないが、そもそもクラッタは動く組織を発生源とするもので、つまりは、このクラッタのパワーはBモードと同等の組織情報を表している。このクラッタは、パワードプラ画像をBモード画像と部分的に合成することで、Bモード画像部分の組織像とつながって組織情報として活用することができる。このようにアンサンブル数を4程度にすることで、従来のパワードプラ法に比べて、2倍以上のフレームレート(時間分解能)の向上が図れる。
【0045】
(3)Bモード専用の送受信は行わずに、パワードプラのために送信した超音波パルスの受信信号をBモード画像生成のために使用する、具体的にはスキャンで得た受信信号を、Bモード画像生成とパワードップラ画像生成とで兼用(共用)する。つまり、パワードプラの送信条件がBモードと全く同一でよいのなら、Bモード用に超音波をパワードプラと別個に送信する必要がなくなる。このようにスキャンをBモードとパワードプラとで兼用する場合、パワードプラのために収集した方向が同じ4つ(アンサンブル数が4)の受信信号のいずれかを使ってBモード画像を生成してもよいし、又は検波前に4つの受信信号を加算平均してその出力に基づいてBモード画像を生成すれば、S/Nを向上することができるし、若しくは受信フィルタ特性を変えて検波後に加算平均すれぱスペックル除去効果を得ることができる。
【0046】
(4)直交座標変換を行い、かつ後処理と同等の処理(ダミー後処理)を施したBモード画像とパワードプラ画像とを、画素ごとに階調が大きい方を選択して部分的に合成する。このような合成法によれば、従来のスレッショルド法による合成に起因する問題を解決することができる。この理由は上述したとおりである。
【0047】
以上のようにパワードプラのクラッタの起源はBモード組織像と同一のものである。パワードプラ画像として表示されるとクラッタ(ノイズ)となるが、Bモード画像と合成することで、パワードプラのクラッタの方がBモード画像よりも階調が高くて合成後に残留したとしても、それは組織像として認識することができるのである。従来、カラードプラ法やパワードプラ法ではいかにしてクラッタを除去するかが最大の問題であった。しかし、本実施形態により、クラッタの発生が大きな問題ではなくなった点を強調したい。従来は、クラッタを除去するために、低流速の血流も除去してしまったが、本実施形態ではクラッタを完全に除去する必要がないので、低流速の血流感度が向上する効果も達成され得る。
【0048】
(変形例)
上述の説明では、Bモードとパワードプラで、送信パルスを兼用したが、Bモードの高分解能とパワードプラの感度を両立させるために、Bモードでは1波駆動、パワードプラでは2波駆動というように、別の送信パルスを使用しても良い。
【0049】
また、画像合成方法として、Bモード画像とパワードプラ画像とで画素ごとに階調の高い方を選択的に出力する方法を説明したが、これ以外に、加算する方法もある。画像合成方法として重要なことは、Bモード画像とパワードプラ画像で処理を区別しないことである。
【0050】
さらに、加算するBモード画像、パワードプラ画像は、座標変換後として説明したが、座標変換前に同様な合成論理により合成し、その後に座標変換を行っても良い。こうすることで、表示系に関わる回路規模を小さくすることができる。
【0051】
以上のように本発明によれば、バースト波数をBモード画像と同一又は略同一に短縮することで、距離分解能が向上する。また、アンサンブル数、つまり同一方向に超音波パルスを送受する回数を2乃至6に少なくすることで、時間分解能が向上する。このように距離分解能及び時間分解能の向上を図ると、クラッタが増大するものであるが、Bモード画像とパワードプラ画像とを階調の大小に従って部分的に合成することにより、そもそも組織エコーであるクラッタを、Bモードの組織像の中に埋め込んでBモードと共に組織構造を表す有用な情報として活用し、実質的にノイズとしての側面を解消することができる。また、血流とクラッタ(組織)とを合成すると、両者の識別が困難になるおそれがあるが、血流は、クラッタに比べて動きが速く、しかも時間分解能が向上することもあって、フリッカー効果(チラチラ感)が増し、それが少ないクラッタとの識別性は十分確保され得るものである。
【0052】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することが可能である。さらに、上記実施形態には種々の段階が含まれており、開示される複数の構成要件における適宜な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件から幾つかの構成要件が削除されてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…超音波プローブ、
2…送信回路、
3…受信回路、
4…Bモード処理ユニット、
4a…エコーフィルタ、
4b…検波回路、
4c…対数圧縮回路(LOG)、
5…パワードプラ処理ユニット、
5a…コーナーターニングバッファ、
5b…ウォールフィルタ、
5c…平均化/対数圧縮回路、
6a、6b…ディジタルスキャンコンバータ(DSC)、
7…画像合成ユニット、
8…ディスプレイ、
9…後処理部、
10a,10b…ダミーの後処理部、
11…比較回路、
12…マルチプレクサ、
13a、13b…増幅器、
14…後処理制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波プローブと、
前記超音波プローブを介して被検体を超音波で走査する送受信手段と、
前記送受信手段から出力される受信信号に基づいてBモードデータを発生するBモード処理手段と、
前記送受信手段から出力される受信信号であって、バースト波数が前記Bモードデータと同一又は略同一であるという送信条件のもとで収集された受信信号に基づいてパワードプラデータを発生するパワードプラ処理手段と、
前記Bモードデータを前記パワードプラデータとを合成して、1フレームの合成画像データを発生する合成手段と、
前記合成画像データを表示するものであって、前記Bモードデータと前記パワードプラデータとをグレースケールを用いて共に表示する表示器とを具備することを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記Bモード処理手段は、前記バースト波数が1又は2であるという送信条件のもとで収集された受信信号に基づいて前記Bモードデータを発生し、
前記パワードプラ処理手段は、前記バースト波数が1又は2であるという送信条件もとで収集された受信信号に基づいて前記パワードプラデータを発生する
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記パワードプラ処理手段は、前記バースト波数が前記Bモードデータと同一であるという送信条件のもとで収集された受信信号に基づいて前記パワードプラデータを発生する
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記表示器は、前記Bモードデータをグレースケールの表示マップを用いて表示し、前記パワードプラデータを前記表示マップと同じグレースケールの表示マップを用いて表示する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記送信条件においてアンサンブル数は2〜10の中のいずれかであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記信号変換手段により処理されたBモードデータの画素値とパワードプラデータの画素値とを比較する比較手段を更に備え、
前記合成手段は、前記比較手段に出力に基づいて前記Bモードデータの画素値と前記パワードプラデータの画素値との高い方の値を選択した選択結果を合成されたデータとして出力する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記Bモード処理手段と前記合成手段との間に内挿され、前記Bモードデータに対して後処理を施す第1のダミー後処理手段と、
前記パワードプラ処理手段と前記合成手段との間に内挿され、前記パワードプラデータに対して、前記第1のダミー後処理手段と同等の後処理を施す第2のダミー後処理手段と
を更に有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記Bモード処理手段は、アンサンブル送受信により得られた複数の前記受信信号のいずれか又は加重平均した受信信号に基づいて前記Bモードデータを発生する
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の超音波診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−254373(P2012−254373A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−221530(P2012−221530)
【出願日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【分割の表示】特願2001−3841(P2001−3841)の分割
【原出願日】平成13年1月11日(2001.1.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】