説明

超高力アルミニウム粉末合金製メガネ部品及びその製造方法

【課題】高い引張強度と高い耐力を兼ね備え、かつ延性があり、軽くて強い素材であると共に、押出し、鍛造などの加工が可能な超高力アルミニウム合金粉末合金製メガネ部品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム合金粉末合金製メガネ部品の成分を、Zn:7.5〜10質量%、Mg:2.0〜3.5質量%、Cu:0.5〜2.5質量%、Ag:0.01〜0.06質量%、及びFeとSiの合計で0.15質量%以下を含み、残部が実質的にAlからなり、平均粉粒径を30〜60μm、最大粒径を200μm以下とする。上記成分のアルミニウム合金粉末をAl缶に入れ、熱間塑性加工によってメガネ用素材を作製し、次いで、メガネ用素材を冷間加工によってメガネ用部材を作製し、プレス加工,アルマイト処理,塗装処理及び焼付け処理等を行ってメガネ部品を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高機能部品として有名な高硬度、高引張強度、高耐力値、高い伸び及び高延性の超高力アルミニウム合金、例えば超高力Al−Zn−Mg−Cu系粉末合金製メガネ部品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のアルミニウム基合金は、一般に硬度が低く、また、引張強度,耐力値も低くメガネフレームとして要求されるばね性も劣るため、図1に示すメガネフレームを構成するリム1,両リム1を連結する連結部材2,ヨロイ3を介してリム1に連結するツル4等のメガネ部品用の合金としては、マグネシウム合金,チタン合金等が使用されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2001−56452(特許請求の範囲、段落番号0002,0003、図1)
【特許文献2】特開2003−41382(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、マグネシウム合金,チタン合金等は、アルミニウム合金に比べて引張強度,耐力値等には優れているが、アルミニウムに比べて重量が嵩む上、製造コストが嵩む等の問題がある。
【0004】
本発明は更に優れたメガネ部品を求め、高い引張強度と高い耐力を兼ね備え、かつ延性があり、軽くて強い素材であると共に、押出し、鍛造等の加工が可能な超高力アルミニウム合金粉末合金製メガネ部品及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、Zn:7.5〜10質量%、Mg:2.0〜3.5質量%、Cu:0.5〜2.5質量%、Ag:0.01〜0.06質量%、及びFeとSiの合計で0.15質量%以下を含み、残部が実質的にAlからなり、平均粉末粒径を30〜60μm、最大粒径を200μm以下としたことを特徴とする。
【0006】
ここで、Znの添加量を7.5〜10質量%としたのは、この範囲の下限を外れると、引張強度と耐力が著しく低下し、上限を超えると押出し及びその後の各加工を困難にし、時には割れ不良を生じるからである。
【0007】
また、Mgの添加量を2.0〜3.5質量%としたのは、この範囲を外れるとZnと同様な問題を生じる。下限未満では引張強度と耐力が著しく低下し、上限を超えると加工性を悪化するからである。
【0008】
また、Cuの添加量を0.5〜2.5質量%としたのは、この範囲の下限未満では、引張強度と耐力が低下し、上限を超えると加工性を悪くし、また耐食性を低下させるからである。
【0009】
また、Agの添加量を0.01〜0.06質量%としたのは、この範囲の下限未満では、やはり引張強度と耐力が低下し、上限を超えるとその強化効果が小さくなるからである。
【0010】
また、FeとSiの含有量の合計を0.15質量%以下としたのは、0.15質量%を越えると、伸びの低下と耐食性を低下させるからである。
【0011】
また、上記の粉末粒径を平均粉末粒径:30〜60μm、最大粒径:200μm以下としたのは、平均粉末粒径を60μmより大きい例えば65〜100μmにし、最大粒径を200μmより大きくした場合に比べ、強度のバラツキが少なく、伸びが高い傾向にあるからである。平均粉末粒径が30μm未満では、粉末同士で凝集が起こり、粉末同士を均一に混合することが困難になる。
【0012】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、Zrを0.05〜0.9質量%若しくはMnを0.5〜2質量%更に含有することを特徴とする。
【0013】
ここで、Zrの添加量を0.05〜0.9質量%若しくはMnの添加量を0.5〜2質量%としたのは、これらの添加により押出材組織とその加工材の熱処理後の結晶粒組織の粗大化を抑制しやすくなる効果があり、この範囲の下限を外れると押出材組織及びその後の加工組織を不均一にし、粗くして強度のバラツキを生じるからである。また、上限を越えると、その効果が小さくなり粉末製造を困難にするからである。
【0014】
請求項3記載の発明は、上記超高力Al−Zn−Mg−Cu系粉末合金製メガネ部品の製造方法であって、請求項1又は2記載の成分の粉末合金粉をAl缶に入れ、例えばアルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下にて、350〜500℃の温度範囲で0.5〜10時間加熱し、その後、400〜500℃の温度で押出加工等の熱間塑性加工を行ってメガネ部品の素材を得る工程と、 上記メガネ部品の素材を300〜400℃で0.5〜2時間加熱し、その後、10〜50℃/時間の冷却速度で室温まで冷却し、冷間加工例えば鍛造,転造,引き抜き加工,絞り加工によって、1〜3mm厚の板材を作製し、その後、溶体化処理後、時効処理を行ってメガネ部材を得る工程と、を有することを特徴とする。この場合、粉末合金粉をAl缶に入れる方法としては、粉末合金粉を直接Al缶に入れてもよく、あるいは、粉末合金粉を室温で圧縮成形したものをAl缶に入れてもよい(請求項4)。
【0015】
また、請求項5記載の発明は、請求項3記載の方法で作製されたメガネ部材を、プレス加工後、アルマイト処理をし、その後、様々な色調を有する塗装をし、160〜180℃で1〜2時間焼付けすることによって、メガネ部品に耐食性,耐磨耗製,装飾性をもたせたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明によれば、高い引張強度と高い耐力を兼ね備え、かつ延性があり、軽くて強い素材であると共に、押出し、鍛造などの加工が可能な超高力Al−Zn−Mg−Cu系粉末合金製であり、耐食性,耐磨耗性,装飾性をもたせたメガネ部品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、この発明に係る超高力Al−Zn−Mg−Cu系粉末合金製メガネ部品及びその製造方法の最良の実施形態について詳細に説明する。
【0018】
メガネ部品とは、図1に示したように、メガネフレームを構成するリム1,両リム1を連結する連結部材2,ヨロイ3を介してリム1に連結するツル4等の一部又は全部であるが、ここではツル4を製造する場合について説明する。
【0019】
ツル4(メガネ部品)を製造するには、図2に示すように、まず、以下に示す成分の
Al−Zn−Mg−Cu系のアルミニウム合金急冷凝固粉末を作製し(ステップ1)、次に、アルミニウム合金急冷凝固粉末を熱間塑性加工によってメガネ用素材を作製する(ステップ2)。次いで、メガネ用素材を冷間加工によってメガネ用部材を作製し(ステップ3)、その後、メガネ用部材をプレス加工,アルマイト処理,塗装処理及び焼付け処理等を行ってメガネ部品を作製する(ステップ4)。
【0020】
以下に、各製造工程について詳細に説明する。
【0021】
<アルミニウム合金急冷凝固粉末の作製>
まず、質量%で(以下、単に%で表示する)、Zn:7.5〜10質量%(例えば8%)、Mg:2.0〜3.5質量%(例えば3.0%)、Cu:0.5〜2.5質量%(例えば1.5%)、Ag:0.01〜0.06質量%(例えば0.3%)、及びFeとSiの合計で0.15質量%以下を含み(例えば0.05%)、Zrを0.05〜0.9質量%若しくはMnを0.5〜2質量%更に含有し(例えばZrを0.4%若しくはMnを1%)、残部が実質的にAlからなり、平均粉末粒径を30〜60μm(例えば45μm以下)、最大粒径を200μm以下(例えば100μm以下)からなるアルミニウム合金急冷凝固粉末を作製する。
【0022】
急冷凝固粉末は、アトマイズ法,メルトスピニング法,回転円盤法あるいは回転電極法等の公知の製造方法で行えばよく、この実施形態では、工業生産に適しているという点でアトマイズ法(ガスアトマイズ法が良好であるが、この発明では大気アトマイズ法による)が適している。
【0023】
<メガネ用素材の作製>
次に、上記アルミニウム合金急冷凝固粉末を室温で圧縮成形した後にAl缶に入れ、アルゴンガス,窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下にて、350〜500℃の温度範囲で0.5〜10時間加熱(例えば5時間)加熱し、その後、400〜500℃の温度で押出加工等の熱間塑性加工を行って、メガネ用素材を得る。
【0024】
<メガネ用部材の作製>
次に、上記メガネ用素材を300〜400℃で0.5〜2時間加熱し、その後10〜50℃/時間の冷却速度で室温まで冷却し、冷間加工例えば鍛造,転造,絞り加工によって、メガネ用部材として1〜3mm厚の板材を作製し、その後、490℃1時間の溶体化処理後、水焼入れを行い、110℃で24時間の時効処理を行ってメガネ用部材(中間品)を作製する。
【0025】
その結果、硬度値(ビッカース硬度)が190以上で、引張強度が730〜800MPa,耐力値が680〜750MPa,及び伸びが6〜10%の高延性を有するメガネ用部材が得られた。
【0026】
<メガネ部品の作製>
上記メガネ用部材をプレス加工した後、アルマイト処理を行い、その後、様々な色調を有する塗装を行った後、160〜180℃で1〜2時間焼付けを行ってメガネ部品を作製する。これにより、耐食性,耐磨耗性,装飾性をもたせたメガネ部品を得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下に、上記工程を経て得られるメガネ用素材及びメガネ用部材の特性について説明する。
【0028】
まず、表1に示す成分の元素を含むアルミニウム合金急冷凝固粉末{発明合金No1〜10,26〜30、比較合金No11〜25参照}を大気アトマイズ法で製造(作製)する。得られたアルミニウム合金粉末を室温で圧縮成形した後、内径95mmのAl缶に入れ大気中、又は、窒素ガス雰囲気にて、表2に示す押出前加熱温度で保持後、表2に示す押出温度で5mm径丸棒を押し出した。その場合における機械的特性の引張強度,耐力値,伸びと水素ガス含有量を調べたところ、表2に示すような結果が得られた{発明例No1〜8、比較例No9〜30参照}。
【表1】

【表2】

【0029】
表2から判るように、押出前の加熱温度と雰囲気によって、押出材料中の水素ガス量が異なり、大気中加熱では、押出前に十分脱ガス処理を行っても水素ガス除去が不十分であり、引張強度,伸びが低くなる。窒素ガス雰囲気加熱の効果は明らかであり、押出前の加熱温度が350℃以上であれば、水素ガス量は9cc/100g以下となる。
【0030】
また、押出前の加熱温度が500℃を超えると引張強度と伸びが小さくなる。また、押出温度は、400〜500℃であれば、水素ガス量は3.4cc/100g〜7.6cc/100gであり、多くなることはない。
【0031】
次に、上記実施例の適性条件で作製した5mm径丸棒を、表3に示す焼鈍条件で2mm板への冷間鍛造を行った。その後の溶体化処理,時効処理を行ったT6処理材の機械的特性を調べたところ、表3に示すような結果が得られた{発明例No1〜4、比較例No5〜8参照}。
【表3】

【0032】
表3から判るように、焼鈍温度は、400℃を超える、例えば450℃であると薄板への鍛造は微割れを生じた。また、焼鈍温度が300〜400℃の範囲、あるいは冷却速度が10〜50℃/時間の範囲を外れると、引張強度(硬度)に大きなバラツキを生じ、また伸びが小さくなる。
【0033】
次に、上記実施例の適性条件で作製したT6処理材(溶体化処理・時効処理材)をプレス加工後、アルマイト処理をし、その後、色調塗装をし、表4に示す温度と時間で焼付けたメガネ部品の耐食性,耐摩耗性を調べたところ、表4に示すような結果が得られた{発明例No1,2、比較例3,4参照}。
【表4】

【0034】
表4から判るように、焼付け温度が160〜180℃で、焼付け時間1.0〜2.0時間の範囲を外れると、耐食性及び耐摩耗性が悪化する。これに対して、焼付け温度が160〜180℃で、焼付け時間が1.0〜2.0時間の範囲においては、耐食性及び耐摩耗性が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明に係るメガネ部品によって構成されるメガネフレームの一例を示す斜視図である。
【図2】この発明に係るメガネ部品の製造方法の概略の工程を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0036】
1 リム
2 連結部材
3 ヨロイ
4 ツル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zn:7.5〜10質量%、Mg:2.0〜3.5質量%、Cu:0.5〜2.5質量%、Ag:0.01〜0.06質量%、及びFeとSiの合計で0.15質量%以下を含み、残部が実質的にAlからなり、平均粉粒径を30〜60μm、最大粒径を200μm以下としたことを特徴とする超高力アルミニウム粉末合金製メガネ部品。
【請求項2】
請求項1記載の超高力アルミニウム粉末合金製メガネ部品において、
Zrを0.05〜0.9質量%若しくはMnを0.5〜2質量%更に含有することを特徴とする超高力アルミニウム粉末合金製メガネ部品。
【請求項3】
請求項1又は2記載の超高力アルミニウム粉末合金製メガネ部品の製造方法であって、
請求項1又は2記載の成分の粉末合金粉をAl缶に入れ、不活性ガス雰囲気下にて、350〜500℃の温度範囲で0.5〜10時間加熱し、その後、400〜500℃の温度で熱間塑性加工を行ってメガネ部品の素材を得る工程と、
上記メガネ部品の素材を300〜400℃で0.5〜2時間加熱し、その後、10〜50℃/時間の冷却速度で室温まで冷却し、冷間加工によって、1〜3mm厚の板材を作製し、その後、溶体化処理後、時効処理を行ってメガネ部材を得る工程と、
を有することを特徴とする超高力アルミニウム粉末合金製メガネ部品の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の超高力アルミニウム粉末合金製メガネ部品の製造方法において、
上記粉末合金粉を室温で圧縮成形したものをAl缶に入れる、ことを含むことを特徴とする超高力アルミニウム粉末合金製メガネ部品の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載の超高力アルミニウム粉末合金製メガネ部品の製造方法において、
上記メガネ部材をプレス加工後、アルマイト処理をし、その後、色調塗装をし、160〜180℃で1〜2時間焼付けする工程を更に有することを特徴とする超高力アルミニウム粉末合金製メガネ部品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−45157(P2008−45157A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220068(P2006−220068)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(390014041)株式会社ホリカワ (6)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【出願人】(502444733)日軽金アクト株式会社 (107)
【Fターム(参考)】