説明

路車間通信システム、車載機、及び光ビーコン

【課題】ドライバに対する安全運転支援を精度よく行うことができる路車間通信システムを提供する。
【解決手段】道路R上の所定範囲に設定された通信領域Aにおいて、所定のアップリンク情報35を繰り返し送信する車載機2と、アップリンク情報35を受信した後、所定のダウンリンク情報36を前記車載機2に送信する光ビーコン4と、を備える。光ビーコン4は、正常に受信された正常アップリンク情報と、一部異常で受信された擬似アップリンク情報とを判別し、この擬似アップリンク情報についての受信履歴情報を生成する判別部7Aを備え、通信領域Aから車両進行方向下流側の所定位置P0までの距離情報と、受信履歴情報とをダウンリンク情報に含ませる。車載機2は、受信履歴情報を用いて距離情報を補正し、所定位置P0までの距離を認識する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路側に設置された光ビーコンと車両に搭載された車載機との間で光信号による双方向通信を行う路車間通信システム、及び、この路車間通信システムに用いることができる車載機、光ビーコンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
路車間通信システムを利用した交通情報サービスとして、光ビーコン、電波ビーコン又はFM多重放送を用いたいわゆるVICS(Vehicle Information and Communication System)が既に展開されている。このうち、光ビーコンは近赤外線を通信媒体とした光通信を採用しており、車載機との双方通信が可能となっている。
具体的には、車両の保持するビーコン間の旅行時間情報等を含むアップリンク情報が車載機からインフラ側の光ビーコンに送信され、逆に、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報及び車線通知情報等を含むダウンリンク情報が光ビーコンから車載機に送信されるようになっている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記光ビーコンは、車載機との間で双方向通信を行うビーコンヘッド(投受光器)を備えており、例えば図4に示すように、このビーコンヘッド8は、その直下よりも上流側よりに通信領域Aが設定されている。この通信領域Aは、ビーコンヘッド8がダウンリンク情報を送信するダウンリンク領域DAと、車載機2から送信されたアップリンク情報を受信するアップリンク領域UAとからなる。光ビーコン(光学式車両感知器)の「近赤外線式インタフェース規格」によれば、アップリンク領域UAは、ダウンリンク領域DAの車両進行方向の上流部分(図4の右側部分)と重複しており、ダウンリンク領域DAとアップリンク領域UAの上流端は互いに一致するものとされている。
【特許文献1】特開2005−268925号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記路車間通信システムでは、光ビーコン4と車載機2との間で次のような通信が行われる。まず、光ビーコン4は、最初に、車線通知情報(車両ID無し)を含む第1のダウンリンク情報を道路のダウンリンク領域DAに所定の送信周期で常時送信する。このダウンリンク領域DAに車両Cが進入することで、その車両Cに搭載された車載機2の投受光器(車載ヘッド)が第1のダウンリンク情報を受信すると、当該車載機2は、自己の車両IDを格納した車線通知情報を含むアップリンク情報を所定の送信周期で繰り返し送信する。そして、上記アップリンク情報を光ビーコン4のビーコンヘッド8が受信すると、光ビーコン4は、ダウンリンクの切り替えを行い、車載機2に対して上記車両IDを有する車線通知情報を含む第2のダウンリンク情報の送信を開始する。この第2のダウンリンク情報は、所定時間内において可能な限り繰り返し送信され、車載機2において受信されると、車載機2はダウンリンクの切り替えを認識し、アップリンク情報の送信を停止する。
【0005】
このような光ビーコン4を用いた路車間通信システムにより、例えば、通信領域Aの車両進行方向の上流端を車両C(車載機2)の位置(図4の位置x1)と見立て、当該位置x1からその下流側の所定位置P0(例えば、信号機の手前に設けられた停止線)までの距離Lに関する「距離情報」を第2のダウンリンク情報に含ませておき、この「距離情報」を受信した車載機2により、当該距離情報を利用して、停止線の手前で強制停止するように車両を制動させたり、ドライバに停止や減速を促す報知を行ったりして、ドライバに対して安全運転支援を行うシステムが提案されている(例えば、本願出願人が提案した特願2006−121692号及び特願2006−121700号)。
【0006】
この場合、通信領域Aの車両進行方向の上流端(x1)を「距離情報」の始点としているのは、次の理由による。車両Cが通信領域A内に侵入することにより、通信領域Aの上流端付近で第1のダウンリンク情報が車載機2により受信されると、その後、車載機2から送信されたアップリンク情報や、光ビーコン4から送信された第2のダウンリンク情報は、それぞれ光ビーコン4及び車載機2に早い段階(例えば1回目の送信)で受信されると考えられる。そうすると、車載機2は、通信領域Aの上流端からそれほど進んでいない位置でアップリンク情報を送信し、且つ、光ビーコン4から第2ダウンリンク情報に含まれる「距離情報」を受信するためである。
【0007】
一方、光ビーコン4の受光部は、図5(a)に示すように、車載機2からのアップリンク情報を受信するフォトセンサ10と、フォトセンサ10の受光面に対向させた集光レンズ51とを備えており、アップリンク領域UAは、集光レンズ51を介してフォトセンサ10の受光面を道路に投影させた範囲として設定される。
したがって、上記のようにアップリンク領域UA(通信領域A)の上流端付近で送信されたアップリンク情報U1(アップリンク光)は、集光レンズ51で集光され、図5(b)に示すように、フォトセンサ10の端部10a付近に照射される。この場合、アップリンク光UOの全てがフォトセンサ10上に照射されるとは限らず、光量不足等のためにアップリンク情報の一部がデータ化けしてしまう場合がある。
【0008】
従来の光ビーコンは、データ化け等の誤りを含むアップリンク情報を受信すると、これを誤り検出手段により検出して破棄し、それ以降に送信されたアップリンク情報を正常に受信した後に第2のダウンリンクの送信を行っている。
しかし、以降のアップリンク情報は、その送信周期分だけ通信領域Aの上流端よりも車両が進行した状態で送信されるため、そのアップリンク情報を光ビーコンが正常に受信した後、車載機2が第2のダウンリンク情報を受信する際の車両Cの位置は、当然にアップリンク領域UAの上流端よりも下流側に位置することになる。そのため、第2のダウンリンク情報に含まれる「距離情報」と、実際の車両Cの位置から所定位置P0までの距離とに差が生じ、距離情報の精度が低下することになる。
【0009】
距離情報の精度が低下すると、この距離情報を利用した安全運転支援の精度も同様に低下することになり、例えば、車両を停止線の手前に停止させるように車両を制動したにもかかわらず、停止線をオーバーして車両が停止するといった事態が生じ得る。
本発明は、このような実情に鑑み、車両進行方向下流側の所定位置までの距離を正確に認識し、ドライバに対する安全運転支援等を精度よく行うことを可能とする路車間通信システム、車載機、及び、光ビーコンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の路車間通信システムは、道路上の所定範囲に設定された通信領域において、所定のアップリンク情報を繰り返し送信する車載機と、前記アップリンク情報を受信した後、所定のダウンリンク情報を前記車載機に送信する光ビーコンと、を備えている路車間通信システムにおいて、
前記光ビーコンは、
当該光ビーコンによって正常に受信された正常アップリンク情報と、一部に異常を含むかたちで受信された擬似アップリンク情報とを判別するとともに、この擬似アップリンク情報が受信された場合に当該擬似アップリンク情報についての受信履歴情報を生成する判別部と、
前記正常アップリンク情報の受信に応じて、前記所定のダウンリンク情報に、前記通信領域の上流端付近から車両進行方向下流側の所定位置までの距離に関する距離情報と、前記受信履歴情報とを含ませて送信する通信制御部と、を備えており、
前記車載機は、
前記所定のダウンリンク情報に含まれる前記受信履歴情報を用いて前記距離情報を補正し、前記所定位置までの距離を認識する距離認識部を有していることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の光ビーコンは、道路上の所定範囲に設定された通信領域において、車載機から繰り返し送信されるアップリンク情報を受信した後、所定のダウンリンク情報を送信する光ビーコンにおいて、
当該光ビーコンによって正常に受信された正常アップリンク情報と、一部に異常を含むかたちで受信された擬似アップリンク情報とを判別するとともに、この擬似アップリンク情報が受信された場合に、当該擬似アップリンク情報についての受信履歴情報を生成する判別部を有し、
前記所定のダウンリンク情報に前記受信履歴情報を含ませるように構成されていることを特徴とする。
【0012】
上記構成の路車間通信システム及び光ビーコンによれば、車載機からのアップリンク情報が通信領域の上流端付近で送信され、例えば光ビーコンのフォトセンサの端部付近に照射されることによって一部がデータ化けしてしまったような場合には、判別部は、そのアップリンク情報を擬似アップリンク情報として判別し、その受信履歴情報を生成する。そして、通信制御部は、距離情報とともに受信履歴情報を所定のダウンリンク情報に含ませた状態で当該ダウンリンク情報を車載機に送信する。車載機は、その受信履歴情報から、擬似アップリンク情報とされたアップリンク情報を送信した時に、自身が通信領域の上流端付近にいたことを認識することができる。したがって、車載機は、例えば、擬似アップリンク情報を送信した時から距離認識を行う時までの経過時間を用いて、アップリンク領域の上流端付近から距離認識を行う時点における車載機の位置までの距離を認識することが可能となり、当該距離を用いて前記距離情報を補正し、実際の車載機の位置からその下流側の所定位置までの正確な距離を認識することができる。したがって、この補正された距離情報を用いた安全運転支援も正確に行うことができる。
【0013】
前記受信履歴情報は、以下の少なくとも一つの情報を含むことが好ましい。
(1)擬似アップリンク情報を受信したことを示す情報
(2)擬似アップリンク情報を受信してから正常アップリンク情報を受信するまでの受信経過時間を示す情報
(3)擬似アップリンク情報を受信した回数を示す情報
【0014】
前記受信履歴情報が前記(1)の情報を含む場合、
前記距離認識部は、前記アップリンク情報を送信してからの送信経過時間を計測し、擬似アップリンク情報とされたアップリンク情報の送信経過時間と車両の走行速度とから車両の走行距離を求め、この走行距離を用いて前記距離情報を補正することができる。
【0015】
前記受信履歴情報が前記(2)の情報を含む場合、
前記距離認識部は、前記受信経過時間と車両の走行速度とから車両の走行距離を求め、この走行距離を用いて前記距離情報を補正することができる。
【0016】
前記受信履歴情報が前記(3)の情報を含む場合、
前記距離認識部は、前記アップリンク情報を送信してからの送信経過時間を計測し、擬似アップリンク情報とされたアップリンク情報のうち最初のものについての送信経過時間と車両の走行速度とから車両の走行距離を求め、この走行距離を用いて前記距離情報を補正することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、車載機において、車両進行方向下流側の所定位置までの正確な距離を認識させることができ、ドライバに対する安全運転支援を精度よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
〔システムの全体構成〕
図1は、本発明の実施形態に係る路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。図1に示すように、この路車間通信システムは、インフラ側の交通管制システム1と、道路Rを走行する車両Cに搭載された車載機2とを備えて構成されている。
交通管制システム1は、管制室に設けられた中央装置3と、道路Rの各所に多数設置された光ビーコン(光学式車両感知器)4とを有している。光ビーコン4は、近赤外線を通信媒体とした光通信によって車載機2との間で双方向通信を行う。なお、中央装置3は交通管制室に設けられている。
【0019】
〔光ビーコンの構成〕
光ビーコン4は、電話回線等の通信回線5を介して中央装置3と接続された通信インタフェースである通信部6と、この通信部6が接続されたビーコン制御機7と、このビーコン制御機7のセンサ用インタフェースに接続され、ビーコン制御機7によって制御されるビーコンヘッド(投受光器)8とを備えている。
図2は、光ビーコン4の平面図である。図2に示すように、本実施形態の光ビーコン4は、同じ方向の複数(図例では4つ)の車線R1〜R4を有する道路Rに設置されており、ビーコンヘッド8は、各車線R1〜R4に対応して複数設けられ、1台のビーコン制御機7によって一括制御される。ビーコン制御機7は道路脇に立設した支柱13に設置されており、各ビーコンヘッド8は、支柱13から道路側へ水平に架設した架設バー14に取り付けられ、道路Rの各車線R1〜R4の真上に配置されている。ビーコンヘッド8よりも車両進行方向の上流側には、車載機2との間で路車間通信を行うための通信領域Aが設定されている。
【0020】
図1に示すように、各ビーコンヘッド8は、送信部である発光ダイオード(LED)11、受信部であるフォトセンサ(フォトダイオード)10を備えている。このうち、LED11は、近赤外線よりなるダウンリンク情報(ダウンリンク光)を通信領域Aに発光し、フォトセンサ10は、通信領域Aにおいて、車載機2からの近赤外線よりなるアップリンク情報(アップリンク光)を受光する。
【0021】
図3に示すように、上記ビーコン制御機7は、CPU41、メモリ(RAM、ROM等の記憶装置)42を有するプログラマブルなマイコンよりなり、通信部6(図1)による中央装置3との双方向通信と、ビーコンヘッド8による車載機2との路車間通信とを行う通信制御部としての機能を有する。また、ビーコン制御機7は、受信コントローラ43及び送信コントローラ44を有しており、受信コントローラ43は、フォトセンサ10によって受光されたアップリンク情報に係る信号をA/D変換部45を介して受け取り、送信コントローラ44は、CPU41からの命令に従って、ダウンリンク情報に係る信号をD/A変換部46を介してLED11から発光させる。
【0022】
〔光ビーコン及び車載機の通信領域〕
図4は、光ビーコン4及び車載機2の通信領域Aを示す側面図である。
図4に示すように、通信領域Aは、車載機2がダウンリンク情報を受信することができるダウンリンク領域DAと、光ビーコン4のビーコンヘッド8が車載機2からのアップリンク情報を受信することができるアップリンク領域UAとからなる。
図4において、ダウンリンク領域DAは、ビーコンヘッド8の投受光位置d、道路R上の位置a及びcを頂点とする△dacで示された範囲に設定されている。また、アップリンク領域UAは、前記位置dと、道路R上の位置b及びcを頂点とする△dbcで示された範囲に設定されている。したがって、ダウンリンク領域DAとアップリンク領域UAの上流端(線分cd)は互いに一致し、アップリンク領域UAは、ダウンリンク領域DAの車両進行方向の上流部分(図3の右側部分)と重複している。また、ダウンリンク領域DAの車両進行方向長さは通信領域A全体の同方向長さと一致している。
【0023】
アップリンク領域UAについてより詳しく説明すると、図5(a)に示すように、ビーコンヘッド8のフォトセンサ10は基板50上に固定され、フォトセンサ10の受光面には、集光レンズ51が対向するように配置されている。フォトセンサ10及び集光レンズ51は、ビーコンヘッド8の車両進行方向上流側にアップリンク領域UAを設定するように、後斜め下方に向けて配置されている。アップリンク領域UAは、フォトセンサ10の受光面が集光レンズ51を介して道路に投影された領域として設定される。なお、図5において、符号Lは集光レンズ51の光軸であり、符号Fは集光レンズ51の焦点である。
【0024】
〔車両及び車載機の構成〕
図6は、光ビーコン4と路車間通信する前記車載機2と、この車載機2が搭載された車両Cの概略構成図である。図6に示すように、この車両Cは、ドライバの搭乗席(図示せず)を有する車体21と、この車体21に搭載された前記車載機2と、車両Cの各部を統合制御する電子制御装置(ECU)22と、車体を駆動するエンジン23と、車体21を制動するブレーキ装置24と、車両Cの現時の速度を常時検出している速度検出器25とを備えている。ECU22は、ドライバのアクセル操作に基づくエンジン23の駆動制御や、ブレーキ操作に基づく制動制御等、車両Cに対する各種の制御を行う。
【0025】
車載機2は、車載コンピュータ26と、この車載コンピュータ26のセンサ用インタフェースに接続された車載ヘッド(投受光器)27と、搭乗席のドライバに対するヒューマンインタフェースとしてのディスプレイ28及びスピーカ装置29とを備えている。
上記車載ヘッド27は、光ビーコン4のビーコンヘッド8と同様に、発光ダイオード(LED)等からなる送信部とフォトセンサ(フォトダイオード)等からなる受信部を備えている(図示せず)。このうち、LEDは、近赤外線よりなるアップリンク情報を発光し、フォトセンサは、通信領域Aに発光された近赤外線よりなるダウンリンク情報を受光する。
【0026】
車載コンピュータ26は、CPU、メモリ(RAM)及び記憶装置(ROM)を有するプログラマブルなマイコンよりなり、車載ヘッド27による光ビーコン4との路車間通信の制御処理を行う。
また、車載コンピュータ26は、所定の各機能を実行するプログラムを記憶装置に格納しており、このプログラムが実行する機能部として、距離認識部30(補正部31)及び支援制御部32を備えている。なお、これらの各機能部の処理内容については後述する。
【0027】
〔路車間通信の内容〕
図7は、通信領域Aにおいて、ビーコンヘッド8と車載ヘッド27との間で行われる双方向での路車間通信の手順を示している。以下、図7を参照しつつ、本実施形態の路車間通信の内容を説明する。
まず、光ビーコン4のビーコン制御機7は、車線R1〜R4に対応するビーコンヘッド8から、ダウンリンクの切り替え前の第1情報として、車線通知情報を含む第1のダウンリンク情報34を、道路上に設定されたダウンリンク領域DA(図4)に所定の送信周期で常に送信し続けている(図7のF1)。なお、この段階では、車線通知情報には未だ車両IDは格納されていない。
【0028】
車載機2を搭載した車両Cが実際のダウンリンク領域DAに進入すると、車載機2の車載ヘッド27が車線通知情報(車両ID無し)を含む第1のダウンリンク情報34を受信する。
この際、車載機2の車載コンピュータ26は、当該車両Cが実際の通信領域A内に存在していることを認識する。その後、車載コンピュータ26は、アップリンク情報35の送信を開始し(図7のF2)、このアップリンク情報35をビーコンヘッド8に対して所定の送信周期(アップリンク送信周期)で送信する(図7のF3)。
【0029】
車載コンピュータ26は、車両Cに特定の車両IDを上記アップリンク情報35に格納して当該アップリンク情報35を送信し、ビーコン間の旅行時間情報を有している場合には、この情報もアップリンク情報35に含ませる。また、車載コンピュータ26は、光ビーコン4のビーコン制御機7がダウンリンクの切り替えを行ったことを認識するまで、当該アップリンク情報35を送信し続ける。
【0030】
一方、光ビーコン4のビーコンヘッド8がアップリンク情報35を受信すると(図7のF4)、ビーコン制御機7は、ダウンリンクの切り替えを行い(図7のF5)、第2情報として、車両ID情報を有する車線通知情報を含む第2のダウンリンク情報36の送信を開始し、この第2のダウンリンク情報36の送信を所定時間内において可能な限り繰り返す(図7のF6)。車載機2の車載コンピュータ26は、第2のダウンリンク情報36を受信した時点(図7のF7)で光ビーコン4でのダウンリンクの切り替えを認識し、この時点でアップリンク情報35の送信を停止する。
【0031】
上記車線通知情報には、車線R1〜R4(図2)ごとに車両IDを格納するフィールドがあり、各車両IDに対して車線番号を付与することができる。このため、異なる車線R1〜R4を走行する各車両Cの車載コンピュータ26は、その格納フィールド内のいずれに自車両の車両IDが含まれるかを判断することにより、自車両がどの車線R1〜R4を走行しているかを認識できる。
【0032】
図7に示すように、第2のダウンリンク情報は、単一又は複数の最小フレーム37で構成されている。光ビーコンの「近赤外線式インタフェース規格」によれば、この最小フレーム37のデータ量は合計128バイトと規定され、ヘッダ部38に5バイト、実データ部39に123バイトが割り当てられている。また、最小フレーム37には、ヘッダ部38及び実データ部39に加え、特定の同期用符号やCRC符号(誤り検定符号)等も含まれる。
前記規格によれば、第2のダウンリンク情報36は、1〜80個の最小フレーム37で構成することができ、送信可能時間は250msに設定されている。また、このダウンリンク情報36は送信すべき情報量に対応した任意数の最小フレーム37で構成され、上記送信可能時間の範囲内で繰り返し送信される。
【0033】
最小フレーム37の送信周期は約1msである。従って、例えば、三つの最小フレーム37で一つのダウンリンク情報を構成する場合には、ダウンリンク情報36の送信周期は約3msになるので、当該ダウンリンク情報36は所定の送信可能時間(250ms)の間に約80回繰り返して送信されることになる。
【0034】
第2のダウンリンク情報36には、車両IDを含む車線通知情報の他に、渋滞情報、区間旅行時間情報、事象規制情報、及び、ドライバに対する安全運転支援のための支援情報等が含まれている。
この支援情報には、例えば、光ビーコン4より下流側の信号機の灯色が変わるタイミング情報である信号情報の他、通信領域Aからその下流側の所定位置(例えば、停止線)P0(図4)までの長さ情報である「距離情報」等が含まれている。また、本実施形態では、光ビーコン4によってアップリンク情報35が正常に受信(図7のF4)される前に、このアップリンク情報35に酷似している情報(以下、擬似アップリンク情報という)が受信(図7のF4′)されていた場合には、その擬似アップリンク情報に関する「受信履歴情報」が光ビーコン4において生成され、当該受信履歴情報が支援情報に含まれる。
【0035】
車載コンピュータ26は、第2のダウンリンク情報36に含まれる「距離情報」に基づいて、図4に示すように、通信領域Aからその下流側の所定位置P0までの距離Lを認識して位置標定を行い(図7のF8)、これに基づいて、ドライバに対する安全運転支援を行う。
また、車載コンピュータ26は、第2のダウンリンク情報36に擬似アップリンク情報に関する「受信履歴情報」が含まれている場合には、この「受信履歴情報」を用いて「距離情報」に係る距離Lを補正し(補正量E)、実際の車両Cの位置に応じた距離L1を認識して位置標定を行うようになっている。
以下、前記「距離情報」の内容と、この距離情報を用いた距離認識の処理について説明する。次に、擬似アップリンク情報の「受信履歴情報」の内容と、この受信履歴情報を用いた距離認識の処理について説明する。
【0036】
〔「距離情報」の内容及び「距離情報」を用いた車載機による距離認識〕
図4に示すように、光ビーコン4のビーコン制御機7は、通信領域Aの所定位置からその下流側の所定位置P0までの距離Lの数値(以下、基準距離Lという。)である前記「距離情報」を予めメモリ(記憶装置)42に記憶している。そして、この距離Lについての「距離情報」を第2のダウンリンク情報の送信フレームに格納して、当該フレームをビーコンヘッド8から繰り返し送出する。
基準距離Lの始端(上流端)は、通信領域Aの上流端(線分cd)と同位置、又は、その上流端と実質的に同位置と見なせる近傍位置に設定されている。当該位置をx1で示す。基準距離Lの終端(下流端)は、例えば、光ビーコン4の下流側に設置されている信号機の手前の停止線P0に設定されている。
【0037】
車載機2は、第2のダウンリンク情報に含まれる「距離情報」を受信することにより、距離認識部32(図6)において、通信領域Aから下流側の所定位置P0までの距離Lを認識することが可能となる。「距離情報」の上流端位置x1は、通信領域Aの上流端と略同位置に設定されているので、車載機2が第2のダウンリンク情報を通信領域Aの上流端で受信した場合には、実際の車両Cの位置から下流側の所定位置P0までの距離と、前記「距離情報」に係る距離Lとはほぼ一致し、当該「距離情報」をそのまま利用した安全運転支援を行うことが可能となる。
【0038】
この場合、車載コンピュータ26の支援制御部32は、図6に示すように、距離認識部30で認識した「距離情報」を利用して、ドライバに対する安全運転支援を行う。例えば、支援制御部32は、停止線P0までの距離Lと現時の車両Cの走行速度とから、その停止線Pの手前で停止するための減速度(負の加速度)を算出し、その減速度をECU22に通知する。ECU22は、当該減速度となるようにブレーキ装置24を作動させ、これにより、車両Cを停止線Pの手前で自動停止させることができる。
また、支援制御部32の安全運転支援としては、ディスプレイ28やスピーカ装置29を用いたドライバに対する注意喚起であってもよい。例えば、支援制御部32により、停止線P0までの残存距離をディスプレイ28に表示させてもよい。また、現時の車両Cの走行速度が速すぎる場合には、支援制御部32により、停車や減速を促す注意喚起をディスプレイ28に表示させたり、その注意喚起をスピーカ装置29から音声出力させたりしてもよい。
【0039】
〔擬似アップリンク情報の内容〕
図4に示すように、車両Cがダウンリンク領域DAに進入すると、車載機2は、当該領域DAの上流端付近で第1のダウンリンク情報を受信する。第1のダウンリンク情報を受信した車載機2は、その直後にアップリンク情報を送信するが、ダウンリンク領域DAの上流端とアップリンク領域UAの上流端とは規格上一致しているため、アップリンク情報は、アップリンク領域UAの上流端付近で送信されるものと考えられる。
【0040】
一方、図5(a)を参照して説明したように、アップリンク領域UAは、光ビーコン4のフォトセンサ10の受光面積が集光レンズ51を介して道路上に投影された領域として設定されるため、上記のようにアップリンク情報U1がアップリンク領域UAの上流端付近で送信されると、図5(b)に示すように、そのアップリンク光UOは、集光レンズ51で集光されてフォトセンサ10の端部10a付近に照射されることになる。フォトセンサ10に照射されるアップリンク光UOは、集光レンズ51の収差等の影響で「点」ではなく所定の面積を有しているので、アップリンク光UOの全体がフォトセンサ10上に照射されず、一部がフォトセンサ10からはみ出してしまう。この場合、フォトセンサ10の受光レベルが低くなるため、データの一部欠落やビット反転等の異常を伴いやすくなるが、このような情報は、例えば、太陽の反射光等を受信した場合とは明らかに異なり、正常なアップリンク情報に酷似した情報となる。本実施形態では、このような情報を擬似アップリンク情報として規定し、これを判別するようになっている。
【0041】
なお、本願出願人は、図4に示すようにアップリンク領域UAの上流端を挟んで、道路R上の進行方向の距離にして数十センチ程度の領域(図4に2点差線で示す領域;以下、グレー領域Gという)では、図5(b)の如くフォトセンサ10の端部10a付近にアップリンク光UOが照射されることにより、フォトセンサ10の中央部でアップリンク光UOが照射される場合よりも、データ化け等が生じる確率が所定値以上に高くなる(擬似アップリンク情報を受信しやすくなる)ことを実験的に突き止めている。
【0042】
光ビーコン4が、アップリンク領域UAの上流端付近のグレー領域G(図4の位置x1)で送信されたアップリンク情報U1を正常に受信することができた場合、その後、光ビーコン4から送信される第2のダウンリンク情報はダウンリンク領域DAの上流端付近で車載機2に受信されると考えられる。この場合、上述のように、第2のダウンリンク情報に含まれる「距離情報」のみを用いて、下流側の所定位置P0までの位置標定を正確に行うことが可能となる。
しかしながら、光ビーコン4が、アップリンク領域UAの上流端付近のグレー領域G(図4の位置x1)で送信されたアップリンク情報U1を正常に受信できなかった場合、光ビーコン4は、それ以降のアップリンク情報U2を正常に受信したあとに第2のダウンリンク情報を送信する。以降のアップリンク情報U2は、その送信周期分だけ通信領域Aの上流端よりも車両Cが進行した位置(図4の位置x2)で送信されるため、車載機2が第2のダウンリンク情報を受信する際の車両Cの位置もアップリンク領域UAの上流端よりも下流側に位置することになる。したがって、第2のダウンリンク情報に含まれる「距離情報」に係る距離Lと、現実の車両Cの位置から所定位置P0までの距離L1とに差が生じ、「距離情報」の精度が低下する。
【0043】
本実施形態では、アップリンク領域UAの上流端付近(グレー領域G)で送信されたアップリンク情報U1が、正常なアップリンク情報として受信されなかった場合でも、そのアップリンク情報U1を擬似アップリンク情報として判別し、さらに、その受信記録(受信履歴情報)をメモリ42に残しておき、これを第2のダウンリンク情報に含ませて車載機2に送信する。これによって、例えば、車両Cがアップリンク領域UAの上流端付近にいた時期(すなわち、擬似アップリンク情報となったアップリンク情報U1を送信した時期)を車載機2側で把握でき、その時期から、実際に距離認識を行う時までに車両Cが走行した距離Eを求めることによって、「距離情報」(距離L)を補正できるようにしている。
【0044】
図6に示すように、ビーコン制御機7は、ビーコンヘッド8のフォトセンサ10によって受信したアップリンク情報が正常か否かを判別し、更に、異常であった場合には、所定の条件を満たす擬似アップリンク情報であるか否かを判別する判別部7Aを備えている。具体的に、判別部7Aは、アップリンク情報のフレーム構造を検査することによって、これらの判別を行う。以下、アップリンク情報のフレーム構造について説明し、次に、判別部7Aによるアップリンク情報の判別手順について説明する。
【0045】
〔アップリンク情報のフレーム構成〕
図8に示すように、アップリンク情報は、単一又は複数の最小フレーム61で構成されている。光ビーコンの「近赤外線式インタフェース規格」によれば、この最小フレーム61は1〜4フレームで構成され、1バイトの同期用符号(開始フラグ)62、10バイトのヘッダ部63、最大59バイト(0〜59バイト)の実データ部64、1バイトのアイドル符号65、2バイトのCRC符号66、1バイトの同期用符号(エンドフラグ)67とから構成されている。ヘッダ部63には、フレーム内容を表すデータが納められ、そのなかには、UTMS規格(新交通管理システム規格)であるか否か(「0」又は「1」)の情報68、フレームの順序に関する情報69、実データ部のバイト長に関する情報70等が含まれる。同期用符号62,67及びアイドル符号65は、予め規定された固定符号である。CRC符号66は、ヘッダ部63、実データ部64及びアイドル符号65までの誤り検定符号である。
【0046】
〔疑似アップリンク情報の判別手順〕
図9は、光ビーコン4で受信したアップリンク情報が正常であるか否かを判別する手順を示すフローチャートである。なお、同図では、アップリンク情報を“UL”と省略して記載し、ダウンリンク情報を“DL”と省略して記載している。
ステップS1において、ビーコン制御機7の受信コントローラ43(図3)は、アップリンク情報のフレームを構成する所定の開始フラグ(同期用符号)62の受信を常時監視している。ステップS2において、当該開始フラグ62が受信されると、受信コントローラ43は、データの取込を開始する(ステップS3)。そして、ステップS4において、アップリンク情報のフレームを構成するエンドフラグ(同期用符号)67或いは所定長以上のブランクが受信されると、受信コントローラ43は、データの取込を終了する(ステップS5)。その後、受信コントローラ43は、受信した1連のデータ列を1データフレームとしてメモリ42内に設定されたバッファ領域に書き込む。
【0047】
このバッファ領域は、例えばリングバッファとすることができ、車線毎に例えば100個のデータフレームを格納し、101個目のデータを受信すると1個目のデータフレームに上書きして記憶する構成とすることができる。また、リングバッファに格納されてから所定以上経過したデータフレームが、順次消去されるように構成してもよい。
【0048】
次に、ステップS6において、受信したデータフレームのCRC値を算出する。具体的には、受信コントローラ43は、データフレームのメモリ42への書き込みを終了すると、CPU41に対してデータフレーム受信を通知する割込信号を送信する。CPU41は、この割込信号に従い、バッファ領域に記憶されたデータフレームのCRC値の計算を行う。ステップS7において、CPU41は、算出されたCRC値と、データフレームに含まれているCRC値との比較を行い、両者が一致した場合は、正常なアップリンク情報が受信されたと判断する(ステップS8)。一方、両者のCRC値が不一致であった場合、ステップS13に進み、CPU41は、受信したデータフレームが擬似アップリンク情報(擬似UL)であるか否か、すなわち、擬似アップリンク情報を構成するための所定の条件を満たすかどうかを判別する。この擬似アップリンク情報の判別については後で詳述する。
【0049】
ステップS13において、受信したデータフレームが擬似アップリンク情報の条件を満たしていない場合、CPU41は、当該データフレームはエラーフレームであると判断し(ステップS16)、処理をステップS1に戻す。ステップS13において、受信したデータフレームが擬似アップリンク情報の条件を満たしている場合、ステップS14において、CPU41は、擬似アップリンク情報が受信されたと判断し、その受信に関する「受信履歴情報」を生成してメモリ42に記憶する(ステップS15)。
本実施形態では、擬似アップリンク情報の受信に関する「受信履歴情報」として、
(1)擬似アップリンク情報を受信した旨の情報
(2)擬似アップリンク情報を受信した時刻(又は、擬似アップリンク情報を受信してから正常アップリンク情報を受信するまでの受信経過時間)
(3)擬似アップリンク情報の受信回数
のうち少なくとも1つを記憶する。
【0050】
上記ステップS8において、正常アップリンク情報を受信したと判断した場合は、さらに、ステップS9において、この正常アップリンク情報を受信する前に擬似アップリンク情報が既に受信されていたか否かを確認する。擬似アップリンク情報が受信されていた場合(メモリ42に擬似アップリンク情報の「受信履歴情報」が記憶されている場合)には、ステップS10において、正常アップリンク情報の受信時刻と、擬似アップリンク情報の受信時刻との差が所定の閾値(例えば、100ms)以下であるかを判断し、閾値以下である場合、ステップS11において、「距離情報」とともに擬似アップリンク情報の「受信履歴情報」を第2のダウンリンク情報に格納し、送信コントローラ44を介して車載機2に送信する。
【0051】
ステップS9において、擬似アップリンク情報が受信されていなかった場合、及び、ステップS10において、正常アップリンク情報の受信時刻と擬似アップリンク情報の受信時刻との差が所定の閾値以上であった場合には、CPU41は、第2のダウンリンク情報に「距離情報」を格納し、送信コントローラ44を介して車載機2に送信する。
【0052】
次に、上記ステップS13において行われる、擬似アップリンク情報であるか否かの判別処理について説明する。図10は、当該処理の手順を示すフローチャートである。この判別には、擬似アップリンク情報らしさを示す度数、すなわち、正常アップリンク情報にどの程度似ているかを示す度数である擬似アップリンク度数Cを用い、S22〜S28の7つのステップにおいて規定された条件を満たす毎に当該度数Cをインクリメントするようになっている。
具体的には、まず、ステップS21において、擬似アップリンク度数Cをゼロに初期化し、ステップS22において、取り込んだデータフレームの先頭に1バイトの同期用符号(開始フラグ)62が格納されているか否かを判別する。そして、同期用符号62が格納されている場合には、度数Cを1つインクリメントする。
【0053】
次に、ステップS23において、取り込んだデータフレームの2バイト目、すなわち、図8に示すアップリンク情報のフレーム構成におけるヘッダ部63の1バイト目に相当する部分の最上位ビットが「0」であるか「1」であるかを判別する。当該ビットは、上記UTMS規格に適合するか否かを示しており、当該規格に適合する場合(「0」の場合)は、擬似アップリンク情報らしきものと判断して度数Cを1つインクリメントする。
【0054】
次に、ステップS24において、取り込んだデータフレームの10バイト目、すなわち、アップリンク情報のヘッダ部63の9バイト目に相当する部分の下位7ビットが「1〜4」の値であるかを判別する。当該ビットは、アップリンク情報の構成フレーム数を示しており、前記「近赤外線式インタフェース規格」において規定されている「1〜4」に適合する場合は、擬似アップリンク情報らしきものと判断して度数Cを1つインクリメントする。
【0055】
ステップS25において、取り込んだデータフレームの11バイト目、すなわち、アップリンク情報のヘッダ部63の10バイト目に相当する部分が、「0〜59」の範囲内にあるか否かを判別する。当該バイトは、実データ部64のバイト数を示すものであり、前記「近赤外線式インタフェース規格」において規定されている「0〜59」に適合する場合は、擬似アップリンク情報らしきものとして度数Cを1つインクリメントする。
【0056】
ステップS26において、取り込んだデータフレームの11バイト目、すなわち、アップリンク情報のヘッダ部63の10バイト目に相当する部分の値(「0〜59」)と、それ以下の実データ部64に相当する部分のバイト数とが一致するか否かを判別する。一致する場合は、度数Cを1つインクリメントする。
【0057】
ステップS27において、取り込んだデータフレームの最後から4バイト目にアイドル符号が1バイトが格納されているかを判断し、格納されていれば度数Cを1つインクリメントする。
ステップS28において、取り込んだデータフレームの最終1バイト目に同期用符号(エンドフラグ)1バイトが格納されているかを判断し、格納されていれば、度数Cを1つインクリメントする。
【0058】
以上の7つのステップを経た結果、擬似アップリンク度数Cが4以上となれば、当該データフレームは、正常なアップリンク情報に酷似する擬似アップリンク情報であると判別し、図9のステップS14に処理を進め、度数Cが3以下となれば、当該データフレームは、正常アップリンク情報との相違が大きいエラーフレームであると判別し、図9のステップS16に処理を進める。
【0059】
〔「受信履歴情報」を用いた車載機による距離認識〕
次に、光ビーコン4から送信された第2のダウンリンク情報に、擬似アップリンク情報の「受信履歴情報」が含まれていた場合(図9のステップS11を経た場合)の、車載機2による距離認識について説明する。この「受信履歴情報」には、(1)擬似アップリンク情報を受信した旨、(2)擬似アップリンク情報を受信してから正常アップリンクを受信するまでの受信経過時間、(3)擬似アップリンク情報の受信回数、のうち少なくとも1つが含まれる。
【0060】
図11は、車載機2におけるアップリンク情報の送信及びダウンリンク情報の受信の時間的経過を示す図である。車載機2の車載コンピュータ26(補正部31)は、アップリンク情報を送信してからの経過時間ΔTを常時計測している。アップリンク情報を複数回送信した場合には、それぞれについての経過時間ΔT、・・・ΔT(n−2)、ΔT(n−1)、ΔTを常時計測する。
擬似アップリンク情報に関する「受信履歴情報」として、上記(1)の情報が含まれている場合、車載コンピュータ26の補正部31は、車載機2が最後に送信したn回目のアップリンク情報が光ビーコン4に正常に受信され、その前の(n−1)回目のアップリンク情報が擬似アップリンク情報として受信されたものと認識する。
【0061】
(n−1)回目のアップリンク情報(擬似アップリンク情報)は、アップリンク領域UAの上流端のグレー領域Gで送信された蓋然性が高いので、補正部31は、(n−1)回目のアップリンク情報を送信した時点で、車両がアップリンク領域UAの上流端に位置していたと判断する。したがって、補正部31は、(n−1)回目のアップリンク情報を送信してから、距離認識部30において距離認識を行うまでの経過時間ΔT(n−1)と、そのときの車両Cの走行速度Vとから、距離認識を行う時点におけるアップリンク領域UAの上流端からの車両Cの走行距離(図4におけるE)を求める(E=ΔT(n−1)・V)。そして、補正部31は、第2のダウンリンク情報に含まれる「距離情報」に係る距離Lと、車両の走行距離(補正距離)Eとから、下流側の所定位置P0までの距離L1を求める(L1=L−E)。これによって、実際の車両Cの位置から下流側の所定位置P0までの距離L1を正確に認識することができ、この距離L1を用いた安全運転支援も正確に行うことができる。
【0062】
擬似アップリンク情報に関する「受信履歴情報」として、上記(2)の情報、すなわち、擬似アップリンク情報を受信してから正常アップリンク情報を受信するまでの受信経過時間が含まれている場合は、その車載コンピュータ26の補正部31は、この受信経過時間(ΔT′)と、距離認識部30において距離認識を行うときの車両の走行速度Vとから、アップリンク領域UAの上流端からの車両Cの走行距離(図4におけるE)を求め(E=ΔT′・V)、上記と同様の手順で、距離Lを補正して距離L1を求める。
【0063】
「受信履歴情報」として、上記(3)の情報、すなわち、擬似アップリンク情報の受信回数が含まれている場合、受信回数が1回であれば、上記(1)で説明した処理と同じ処理を行う。
受信回数が2回の場合、車載コンピュータ26の補正部31は、車載機2が最後に送信したn回目のアップリンク情報が正常に受信され、その1つ前と2つ前((n−1)回目及び(n−2)回目)に送信したアップリンク情報が擬似アップリンク情報として受信されたものと認識する。
このうち(n−2)回目のアップリンク情報(擬似アップリンク情報)は、アップリンク領域UAの上流端のグレー領域Gで送信された蓋然性が高いので、補正部31は、(n−2)回目のアップリンク情報を送信した時点で、車両Cがアップリンク領域UAの上流端に位置していたと判断する。したがって、補正部31は、(n−2)回目のアップリンク情報を送信してから、距離認識部30において距離認識を行うまでの経過時間ΔT(n−2)と、そのときの車両Cの走行速度Vとから、距離認識を行う時点における、アップリンク領域UAの上流端からの車両Cの走行距離(図4におけるE)を求める(E=ΔT(n−2)・V)。そして、補正部31は、第2のダウンリンク情報に含まれる「距離情報」に係る距離Lと、車両Cの走行距離(補正距離)Eとから、下流側の所定位置P0までの距離L1を求める(L1=L−E)。
【0064】
以上のように、本実施形態によれば、アップリンク領域UAの上流端付近で送信されたアップリンク情報が正常に受信されなかった場合でも、そのアップリンク情報が正常なアップリンク情報に酷似する擬似アップリンク情報であった場合には、その「受信履歴情報」を残し、これを「距離情報」とともに第2のアップリンク情報に含めて車載機2に送信することで、車載機2において、「受信履歴情報」を用いた「距離情報」の補正が可能となり、その下流側の所定位置P0までの距離L1を正確に認識することができる。したがって、この距離L1を用いた安全運転支援も正確に行うことができる。
なお、車両Cがジャイロセンサ(図示略)を搭載している場合には、走行する車両Cの向きを取得することも可能となるので、車両Cの走行速度Vに加えて車両Cの向きを加味して車両Cの走行距離Eをより一層正確に算出するようにしてもよい。
【0065】
本発明は上記実施形態に限定されることなく適宜設計変更可能である。例えば、次のように設計変更することができる。
(1)上記実施形態では、アップリンク情報が正常か否かを判別するために、データフレームのCRC値の演算をCPU41で行っているが、受信コントローラ43で行ってもよい。この場合、受信コントローラ43は、取り込んだデータフレームをメモリのバッファ領域に書き込んだ後にCRC値の演算を行う。そして、CRC比較によって正常アップリンク情報が受信されたものと判断すると、受信コントローラ43はその旨をCPU41に通知し、CPU41は、メモリに記憶されているデータフレームの中から擬似アップリンクが存在するか否かを判別すればよい。
【0066】
(2)擬似アップリンク情報の判別方法は、上記実施形態で説明したものに限定されず、適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、アップリンク情報のフレームに含まれるヘッダ部63の一部の内容を判別項目として採り上げたが、ヘッダ部63における他の内容を判別項目としたり、実データ部64に含まれる内容を判別項目としたりすることができる。また、車載機2から送信されるアップリンク情報に、擬似アップリンク判別用の専用データ列を含ませておき、そのデータ列の有無により擬似アップリンク情報の判別を行ってもよい。また、受信したデータフレームから演算したCRC値と、そのデータフレームに含まれるCRC値とを比較した結果、その差が微差である場合に擬似アップリンク情報を受信したと判断してもよい。
【0067】
また、正常なアップリンク情報を受信した後、擬似アップリンク情報を受信していたかどうかを判断する方法を用いた場合は、正常なアップリンク情報に含まれる車両IDを示すデータ(5バイト程度)と同じデータが含まれているか否かによって擬似アップリンク情報であるか否かを判別してもよい。例えば、受信した正常アップリンク情報から車両IDを取り出し、擬似アップリンク情報か否かを判別しようとする対象に、当該車両IDと同一の車両IDが含まれている場合には、擬似アップリンク度数Cを用いるまでもなく即座に擬似アップリンク情報であると判断するようにしてもよい。
けだし、通常、車両IDには車両Cにユニークなデータ列が割り当てられているため、当該データ列が完全に一致するのであれば、非常に高い確率で同一の車載機が送信した擬似アップリンク情報と見なすことができるからである。
【0068】
(3)上記実施形態では、正常アップリンク情報をCRC値の比較によって判別しているが、さらに、データフレームの具体的内容を検査することによって判別してもよい。例えば、正常なアップリンク情報に所定の決められたデータ列が含まれる場合には、受信したデータフレームにそのデータ列が存在するか否かによって正常アップリンク情報か否かを判別することができ、正常なアップリンク情報に数値範囲の限られたデータ列が含まれる場合には、受信したデータフレームのデータ列が当該範囲内にあるか否かによって正常アップリンク情報か否かを判別することができる。また、正常なアップリンク情報に互いに関連性を有する複数のデータ項目が含まれる場合には、受信したデータフレームに関連性の矛盾がないかどうかを検査することによって、正常アップリンク情報か否かを判別することができる。
【0069】
(4)上記実施形態において、アップリンク領域UAの上流端とダウンリンク領域DAの上流端とは一致されているが、ダウンリンク領域DAの上流端をアップリンク領域UAの上流端よりも上流側に設定してもよい。この場合、車載機2は、第1のダウンリンク情報をアップリンク領域UAよりも上流側で受信することが多くなり、その後のアップリンク情報は、アップリンク領域UAの上流端付近にあるグレー領域Gで送信される可能性がより高くなる。したがってこの場合、本発明を適用することがより有用である。
【0070】
(5)擬似アップリンク情報についての「受信履歴情報」としては、「距離情報」を補正可能な内容であれば上記実施形態で説明したものに限定されるものではない。
【0071】
(6)光ビーコンが送信する「距離情報」は、所定位置P0までの距離の値を直接格納する形式に限らず、所定位置P0までの距離を一意に決定しうる情報であれば、どのような形式であってもよい。
例えば、アップリンク領域UAからその下流側の所定位置P0までの間に1又は複数のノードを設定し、これらのノードに応じた複数の距離値群によって距離情報を構成することもできる。例えば、始点となるアップリンク領域UAの上流端付近からアップリンク領域UA直近のノードまでの距離、各ノード間の距離、及び所定位置P0直近のノードから所定位置P0までの距離によって距離情報を構成することができる。この場合、この距離情報を受信した車載コンピュータ26は、各距離の合計値を求めることで、所定位置P0までの距離を認識することができる。
【0072】
また、光ビーコン4が送信する「距離情報」は、始点(通信領域A)と終点(所定位置P0)の絶対位置(緯度・経度や任意の点を原点とする3次元空間の座標値等)を示す情報の組合せでもよい。この場合、始点と終点との絶対位置を基に、車載機2は所定位置P0までの距離を算出することができる。また、車載機2側に終点の絶対位置に関する情報が記憶されている場合には、光ビーコン4は、前記距離情報として始点の絶対位置に関する情報のみを送信してもよい。
【0073】
また、光ビーコン4は、距離情報として、所定位置P0の地点を含む道路形状の情報や地図とともに、この道路形状情報等における所定位置P0に対応した情報を車載機に送信してもよい。前記道路形状情報等は、予め車載機に記憶させておいてもよいし、別の通信手段によって車載機に送信してもよく、この場合、光ビーコンは、距離情報として道路形状情報等における前記通信領域Aに対応した情報(車載機の位置に対応した情報)のみを送信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施形態に係る路車間通信システムの全体構成を示すブロック図である。
【図2】光ビーコンの平面図である。
【図3】光ビーコンの構成図である。
【図4】光ビーコンの通信領域を示す側面図である。
【図5】(a)はビーコンヘッドの受信部を示す概略側面図、(b)はフォトセンサの正面図である。
【図6】光ビーコンと路車間通信する車載機と、この車載機が搭載された車両の概略構成図である。
【図7】通信領域で行われる路車間通信の手順とデータ内容を示す概念図である。
【図8】アップリンク情報のフレーム構成を示す概念図である。
【図9】正常アップリンク情報及び擬似アップリンク情報を判別し、第2のダウンリンク情報を送信するまでの手順を示すフローチャートである。
【図10】擬似アップリンク情報の判別手順を示すフローチャートである。
【図11】車載機におけるダウンリンク情報の受信及びアップリンク情報の送信の時間的経過を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
2 車載機
4 光ビーコン
7 ビーコン制御機(通信制御部)
7A 判別部
8 ビーコンヘッド(投受光器)
10 発光ダイオード(LED)
11 フォトセンサ(受信部)
30 距離認識部
31 補正部
35 アップリンク情報
36 第2のダウンリンク情報
A 通信領域
C 車両
R 道路
P0 停止線(所定位置)
DA ダウンリンク領域
UA アップリンク領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路上の所定範囲に設定された通信領域において、所定のアップリンク情報を繰り返し送信する車載機と、前記アップリンク情報を受信した後、所定のダウンリンク情報を前記車載機に送信する光ビーコンと、を備えている路車間通信システムにおいて、
前記光ビーコンは、
当該光ビーコンによって正常に受信された正常アップリンク情報と、一部に異常を含むかたちで受信された擬似アップリンク情報とを判別するとともに、この擬似アップリンク情報が受信された場合に当該擬似アップリンク情報についての受信履歴情報を生成する判別部と、
前記正常アップリンク情報の受信に応じて、前記所定のダウンリンク情報に、前記通信領域の上流端付近から車両進行方向下流側の所定位置までの距離に関する距離情報と前記受信履歴情報とを含ませて送信する通信制御部と、を備えており、
前記車載機は、
前記所定のダウンリンク情報に含まれる前記受信履歴情報を用いて前記距離情報を補正し、前記所定位置までの距離を認識する距離認識部を有していることを特徴とする路車間通信システム。
【請求項2】
前記受信履歴情報が、以下の少なくとも一つの情報を含むことを特徴とする請求項1記載の路車間通信システム。
(1)擬似アップリンク情報が受信されたことを示す情報
(2)擬似アップリンク情報を受信してから正常アップリンク情報を受信するまでの受信経過時間を示す情報
(3)擬似アップリンク情報が受信された回数を示す情報
【請求項3】
前記受信履歴情報が前記(1)の情報を含む場合、
前記距離認識部は、前記アップリンク情報を送信してからの送信経過時間を計測し、擬似アップリンク情報とされたアップリンク情報の送信経過時間と車両の走行速度とから車両の走行距離を求め、この走行距離を用いて前記距離情報を補正する機能を有している請求項2記載の路車間通信システム。
【請求項4】
前記受信履歴情報が前記(2)の情報を含む場合において、
前記距離認識部は、前記受信経過時間と車両の走行速度とから車両の走行距離を求め、この走行距離を用いて前記距離情報を補正する機能を有している請求項2記載の路車間通信システム。
【請求項5】
前記受信履歴情報が前記(3)の情報を含む場合、
前記距離認識部は、前記アップリンク情報を送信してからの送信経過時間を計測し、擬似アップリンク情報とされたアップリンク情報のうち最初のものについての送信経過時間と車両の走行速度とから車両の走行距離を求め、この走行距離を用いて前記距離情報を補正する機能を有している請求項2記載の路車間通信システム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの路車間通信システムに用いられることを特徴とする車載機。
【請求項7】
道路上の所定範囲に設定された通信領域において、車載機から繰り返し送信されるアップリンク情報を受信した後、所定のダウンリンク情報を送信する光ビーコンにおいて、
当該光ビーコンによって正常に受信された正常アップリンク情報と、一部に異常を含むかたちで受信された擬似アップリンク情報とを判別するとともに、この擬似アップリンク情報が受信された場合に、当該擬似アップリンク情報についての受信履歴情報を生成する判別部を有し、
前記所定のダウンリンク情報に前記受信履歴情報を含ませるように構成されていることを特徴とする光ビーコン。
【請求項8】
前記受信履歴情報が、以下の少なくとも一つの情報を含むことを特徴とする請求項7記載の光ビーコン。
(1)擬似アップリンク情報が受信されたことを示す情報
(2)擬似アップリンク情報を受信してから正常アップリンク情報を受信するまでの受信経過時間を示す情報
(3)擬似アップリンク情報が受信された回数を示す情報

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−269005(P2008−269005A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107118(P2007−107118)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】