説明

車両に搭載された状態で触媒の老化状態を検査するための方法

本発明は、車両において触媒のライトオフ温度を測定するための方法に関する。この方法によって、触媒の老化状態が検出される。触媒を検査するためには、この触媒が、たとえばCO/HC検査パルスで負荷される。触媒での付加的なCOとHCとの燃焼時には、軸方向の温度プロファイルが形成される。触媒に沿った軸方向の温度プロファイルの最大値の位置は目下のライトオフ温度に関連している。温度プロファイルは触媒を通して進行し、触媒の出口で時間依存性のプロファイルとして測定することができる。この時間依存性のプロファイルから、当初の軸方向の温度プロファイルを推測することができる。演算プログラムによって、車両において触媒の目下のライトオフ温度を検出することができる。この方法は、検査を、ライトオフ温度をはるかに上回る排ガス温度で行うことができるという利点を有している。これによって、検査パルスが、高められた排ガスエミッションに繋がらないことが確保される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両機関の排ガスを浄化するための触媒の老化状態を検査するための方法であって、排ガスが、可燃性の成分を含有しており、検査を車両において運転条件下で行って、触媒の老化状態を検査するための方法に関する。
【0002】
このような方法は、OBD法とも呼ばれる(OBD=On Board Diagnosis)。検査したい触媒は、有利にはディーゼル酸化触媒である。
【0003】
触媒の老化状態に対してしばしば使用される基準は、触媒のライトオフ温度である。ライトオフ温度T50とは、触媒が、観察された有害物質を変換して、無害の成分を50%生成する触媒温度を表している。触媒は、一般的に各有害物質に対して固有のライトオフ温度を有している。酸化触媒の事例では、一酸化炭素を変換するためのライトオフ温度および炭化水素を変換するための温度である。
【0004】
車両において触媒の活性を監視するための多数の提案が存在している。欧州特許第1136671号明細書によれば、触媒の残りの触媒活性を検査するために、一酸化炭素の変換に対して、触媒の目下の流出温度と新規の触媒のライトオフ温度との差が形成され、さらに、一酸化炭素に対する変換度が測定される。一酸化炭素に対する測定された変換度が限界値を下回っている一方、触媒流出温度が新規の触媒のライトオフ温度を、設定可能な値だけ上回っている場合には、このことが、触媒の誤機能と評価される。
【0005】
国際公開第92/03643号パンフレットは、排ガスによって通流される触媒の触媒活性を監視するために、触媒の温度を流れ方向に沿って一貫してまたは複数の測定箇所で測定して、温度平均値を形成し、触媒の温度を少なくとも1つの測定箇所で測定して、温度局所値を形成し、触媒の状態に関する情報を導き出すために、温度平均値と温度局所値とを比較することを提案している。
【0006】
国際公開第95/17588号パンフレットは、自動車の内燃機関における触媒の変換能の検査を取り扱っている。この場合、この検査は、触媒の下流側すぐ近傍での温度測定によって行われる。まず、自動車の燃料供給遮断段階に続く設定された回数のアイドリング運転段階にわたって、設定されたアイドリング運転段階の開始時の温度と終了時の温度とが測定される;その後、温度測定量から差が形成される。全ての温度測定結果の総和と、アイドリング運転段階の期間の総和とが形成され、その後、両結果から平均商が形成される。これにより検出された平均勾配が限界値と比較される。この場合、設定された限界値が上回られると、触媒が故障ありと認識される。
【0007】
特開平04−060106号公報によれば、通常運転の間に空燃比が通常運転の間のリッチな側にシフトされ、結果的に生ぜしめられる上昇温度勾配が許容可能な範囲内に位置しているかどうかが検査されることによって、触媒の老化が判断される。
【0008】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第4330997号明細書に記載の発明は、内燃機関の排ガス通路に設けられた触媒システムのライトオフ特性を監視するための方法に関する。触媒システムのライトオフ特性は、触媒システムの、排ガスによって最初に通流される領域の変換能に関連している。この領域の変換能は、ドイツ連邦共和国特許出願公開第4330997号明細書によれば、空気と、燃焼されていない燃料とから成る混合物が触媒システムに供給される場合に生ぜしめられる温度経過から検出することができる。
【0009】
国際公開第01/49989号パンフレットには、車両に用いられる内燃機関が記載されている。この内燃機関は触媒を備えている。この触媒は炭化水素で負荷され得る。温度センサが触媒の後方の排ガスの温度を測定する。制御装置によって、付加的な空気が触媒の前方で排ガスに供給され得る。これに基づき生ぜしめられる触媒内のかつ/または触媒の後方の排ガスの温度上昇から、制御装置が触媒の変換能を推測し得る。
【0010】
欧州特許出願公開第1052385号明細書によれば、内燃機関の排ガス系統に設けられた触媒の炭化水素酸化特性を診断するために、内燃機関のシリンダの排気行程の間、付加的な燃料供給が行われる。触媒の下流側の排ガスの温度経過が監視される。温度上昇が閾値未満にとどまっている場合には、触媒が欠陥ありと診断される。
【0011】
米国特許第6408616号明細書には、車両において触媒の活性を測定するための方法が記載されている。この目的のためには、排ガスに触媒の前方で特定の時間にわたって炭化水素が供給され、触媒での炭化水素の燃焼による温度上昇が測定される。見込まれた温度上昇との比較によって、触媒の老化状態に関する情報を作成することができる。この方法には、触媒前後の排ガス温度を測定するために、それぞれ1つの熱電対が必要となる。この方法の欠点は、この方法が触媒の既存の損害しか確認することができないという事実である。この方法によって、触媒の老化の増加を監視することは不可能である。この方法による触媒の判断は、触媒の目下のライトオフ温度付近にある排ガス温度でしか行うことができない。これによって、各測定が、燃焼されていない炭化水素の高められたエミッションに結び付けられている。
【0012】
本発明の課題は、触媒の老化状態を検査するための方法を改良して、簡単な測定に基づき、触媒の酸化活性と触媒の老化状態とに関する情報を作成することができるようにすることである。
【0013】
この課題を解決するために本発明の方法では、運転条件の変化と、これにより生ぜしめられる、触媒の背後の排ガス温度の変化との間の時間遅れを測定し、該時間遅れから触媒の老化状態を推測するようにした。
【0014】
本発明の方法の有利な態様によれば、触媒に対する運転条件の変化の開始と、触媒の背後の排ガスの時間的な温度プロファイルの特有の特徴の形成との間の遅れを、触媒の老化状態を判断するために評価する。
【0015】
本発明の方法の有利な態様によれば、特有の特徴として、時間的な温度プロファイルの上昇傾斜または下降傾斜または時間的な温度プロファイルの最大値を使用する。
【0016】
本発明の方法の有利な態様によれば、触媒の老化状態を、測定された遅れから、該測定された遅れに関連した老化状態が記入された予め作成された表を用いて検出し、検査の開始前の触媒の運転状態をパラメータとして使用する。
【0017】
本発明の方法の有利な態様によれば、表におけるデータを実験的にまたはシミュレーション演算によって検出する。
【0018】
本発明の方法の有利な態様によれば、触媒の老化状態を、測定された遅れから演算モデルを用いて測定する。
【0019】
本発明の方法の有利な態様によれば、限界触媒に対する特有の特徴の遅れを演算し、触媒の老化状態を判断するために、測定された遅れと比較する。
【0020】
本発明の方法の有利な態様によれば、触媒の運転条件を、検査のために、所定の期間Δtの間、触媒への流入前の排ガス内の可燃性の成分の濃度を増加させることによって変化させる。
【0021】
本発明の方法の有利な態様によれば、可燃性の成分が、一酸化炭素および/または炭化水素を含有している。
【0022】
本発明の方法の有利な態様によれば、排ガス内の可燃性の成分の濃度を、車両機関への燃料のポスト噴射または車両機関と触媒との間の排ガス内への燃料の噴射によって増加させる。
【0023】
本発明の方法の有利な態様によれば、排ガス内の可燃性の成分の濃度を、触媒の背後の温度プロファイルが、触媒での燃焼に基づき少なくとも5℃の振幅を有するように著しく増加させる。
【0024】
本発明の方法の有利な態様によれば、期間Δtを1〜10秒の間で選択する。
【0025】
本発明の方法の有利な態様によれば、車両をコンスタントな運転条件で運転する場合に老化状態の検査を行う。
【0026】
本発明の方法の有利な態様によれば、検査の間の車両の変動する運転条件を、可燃性の成分の濃度の増加なしの検査の間の運転状態に対する触媒の背後の見込まれた温度プロファイルを演算しかつ測定された温度プロファイルから差し引くことによって考慮する。
【0027】
本発明の方法の有利な態様によれば、検査を、老化させられた触媒もまだ新規の触媒に類似して可燃性の成分に対する変換率を有する範囲内にある触媒の前方の排ガス温度でのみ行う。
【0028】
本発明の方法の有利な態様によれば、所定の期間Δtの間、触媒への流入前の排ガスに付加的な可燃性の成分を添加し、触媒での付加的な可燃性の成分の燃焼時の発熱に基づく触媒の背後の排ガスの時間的な温度プロファイルを測定し、可燃性の成分の添加の開始と、触媒の背後の温度プロファイルの最大値の形成との間の時間差を検出し、該時間差が、設定された値を下回っている場合に、触媒が著しく損なわれているという信号をセットする。
【0029】
本発明の方法の有利な態様によれば、触媒の目下のライトオフ温度を、可燃性の成分の添加の開始と、触媒の背後の温度プロファイルの最大値の形成との間の測定された時間差を用いて、該測定された時間差に関連したライトオフ温度が記入された予め作成された表から取り出し、機関の運転状態をパラメータとして使用する。
【0030】
本発明の方法の有利な態様によれば、検査を、触媒の、最後の検査の間に検出された目下のライトオフ温度よりも大きい触媒の前方の排ガス温度でのみ行う。
【0031】
本発明の方法の有利な態様によれば、検査を、触媒の、最後の検査の間に検出された目下のライトオフ温度を10〜100℃だけ上回る触媒の前方の排ガス温度でのみ行う。
【0032】
独立請求項に記載の方法は、車両機関の排ガスを浄化するための触媒の老化状態を検査するための方法であって、排ガスが、可燃性の成分を含有しており、検査を車両において運転条件下で行って、触媒の老化状態を検査するための方法に関する。本発明による方法は、運転条件の変化と、これにより生ぜしめられる、触媒の背後の排ガス温度の変化との間の時間遅れが測定され、この時間遅れから触媒の老化状態が推測されることによって特徴付けられている。
【0033】
触媒の運転条件の変化は、有害物質の触媒変換に基づき触媒に発生させられる熱の変化ひいては触媒の背後の排ガス温度の変化に繋がる。この場合、触媒の背後の排ガス温度は、運転条件の変化に遅れて反応する。この遅れは、反応熱がまず触媒の内部に発生させられ、排ガスによって触媒出口に輸送されなければならないことによって説明することができる。観察すべき遅れの量は、反応ゾーンの位置ひいては触媒内の熱発生プロファイルの位置に関連している。さらに、この熱発生プロファイルの位置は触媒の活性状態もしくは老化状態に関連している。したがって、触媒の背後の時間的な温度プロファイルの測定可能な遅れから、触媒の活性状態を推測することが可能となる。
【0034】
すなわち、本発明によれば、触媒の背後の時間的な温度プロファイルが測定される。この時間的な温度プロファイルは、触媒に対する運転条件の変化の結果として得られる。有利には、運転条件の変化の開始と、触媒の背後の排ガスの時間的な温度プロファイルの特有の特徴の形成との間の観察された遅れが、触媒の老化状態を判断するために評価される。特有の特徴として、時間的な温度プロファイルの上昇傾斜または下降傾斜または時間的な温度プロファイルの最大値が使用されてよい。
【0035】
本発明による方法を実際に実施するためには、測定された時間的な遅れを触媒の活性に関連させることが必要となる。簡単な解決手段は、測定された遅れに関連した老化状態が記入された予め作成された表の使用である。この場合、検査の開始前の触媒の運転状態がパラメータとして使用される。触媒の老化状態に対する基準として、ここでは、たとえば触媒の目下のライトオフ温度が使用されてよい。触媒の運転状態は、触媒への流入前の排ガスの温度、組成および質量流量によって記載される。これらのパラメータは機関の回転数および負荷に直接関連している。この表のデータは実験的にまたはシミュレーション演算によって獲得されてよい。測定された遅れを触媒の老化状態に関連させるための別の可能性は、演算モデルの使用にある。
【0036】
択一的には、限界触媒に対する特有の特徴の遅れが演算され、触媒の老化状態を判断するために、測定された遅れと比較されてよい。限界触媒とは、ここでは、法規された走行サイクルに対して排ガス限界値をどうにか遵守している触媒を意味している。米国特許第6408616号明細書には、特にこのような触媒をどのように製作することができるのかが記載されている。
【0037】
有利には、触媒に対する運転条件が、所定の期間Δtの間、触媒への流入前の排ガス内の可燃性の成分の濃度を増加させることによって変化させられる。排ガスの可燃性の成分には、知られている有害物質である一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)および水素(H)が含まれている。排ガス内の可燃性の成分の濃度は、機関的な手段、たとえば車両機関への燃料のポスト噴射または車両機関と触媒との間の排ガス内への燃料の噴射によって簡単に増加させられてよい。
【0038】
排ガスの可燃性の成分の濃度の増加は、触媒の出口における測定したい温度上昇を規定している。したがって、時間的な温度プロファイルを確実に検出するためには、触媒の背後の温度プロファイルが、少なくとも5℃、有利には少なくとも10℃の振幅を有するように、濃度増加を設定することが有利である。特に有利には、触媒の背後の温度プロファイルの20〜50℃の間の振幅を保証する有害物質濃度が選択される。温度プロファイルの振幅が約50℃を上回ると、触媒が検査自体によって熱的に損なわれる危険がある。
【0039】
排ガスの可燃性の成分、特に一酸化炭素および/または炭化水素の濃度のほんの短時間の増加が特に適している。以下、排ガス内の有害物質濃度の短時間の増加を有害物質パルスまたはCO/HCパルスと呼び、触媒の背後の時間的な温度経過を時間的な温度プロファイルと呼ぶ。有害物質パルスの期間Δtは1〜10秒の間で選択されてよい。このΔtは、いずれにせよ、軸方向の温度プロファイルが触媒の入口から出口にまで進行するために必要とする時間よりも著しく短いことが望ましい。有利には、Δtは、温度プロファイルの進行時間のほんの1/10ないし1/4であることが望ましい。
【0040】
触媒の後方の排ガス温度の時間的な経過には、触媒内に発生させられる反応熱のほかに、触媒への流入前の排ガス温度の時間的な経過によって影響が与えられる。さらに以下に示すように、触媒の背後の温度プロファイルに対する測定時間は通常の条件下で約1分である。この時間の間、車両機関の運転状態が変化させられ、したがって、測定を悪化させ得る。したがって、触媒の老化状態の検査は、有利には、車両がコンスタントな運転条件で運転される場合、すなわち、たとえば比較的長い高速道路走行の間に行われる。運転条件が検査期間の間に著しく変化させられる場合には、検査結果は拒否される。
【0041】
しかし、運転条件の変化時の検査結果の拒否は、可燃性の成分の濃度の増加なしの検査の間の運転状態に対する触媒の背後の見込まれた温度プロファイルが算出され、測定された温度プロファイルから差し引かれることによって、検査の間の車両の変動する運転条件が考慮される場合には不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】触媒の温度に関連した触媒の有害物質変換率を3種類の老化状態に対して概略的に示す図である。
【図2】有害物質パルスと触媒の背後の時間的な温度プロファイルとの概略図である。
【図3】ライトオフ温度を上回るそれぞれ異なる温度に対する触媒内の一酸化炭素プロファイルを示す図である。
【図4】熱発生プロファイルを示す図である。
【図5】触媒内の温度プロファイルの時間的な進展を示す図である。
【図6】3秒続いたCOパルス後の触媒出口における温度の時間的な進展を示す図である。
【図7】検査の開始と、触媒の背後の時間的な温度プロファイルの最大値の形成との間の測定された時間差と、ライトオフ温度との原理的な関係を示す図である。
【0043】
以下に、触媒の運転条件を変化させるために短い有害物質パルスが使用される事例に対して本発明を説明する。この場合に付与される状況を図1〜図7につき説明する。
【0044】
図1には、触媒温度に関連した触媒の有害物質変換率(ここでは、排ガスの可燃性の成分の燃焼率)の概略図が、3種類の老化状態I,II,IIIに対して示してある。このような曲線から、各老化状態に対するライトオフ温度(活性化温度)を検出することができる。符号Iが、たとえば新規の触媒に対する変換率曲線を表しているのに対して、符号IIIは、著しく損なわれた触媒に対する変換率曲線を表している。一般的には、もはや法的な要求を満たさない有害物質変換率を有する触媒の場合でも、有害物質変換率がまだ新規の触媒の有害物質変換率に近い、ライトオフ温度を上回る温度範囲が存在する。この範囲は図1に、たとえば符号Mで示してある。
【0045】
したがって、有利には、触媒への流入前の排ガス温度における検査が行われる。この排ガス温度は、老化させられた触媒もまだ新規の触媒のような可燃性の成分に対する変換率を有する範囲内にある。これによって、検査による望ましくない有害物質エミッションが十分に回避される。なぜならば、触媒がこの排ガス温度で十分に活性であり、これによって、検査のために付加的に供給される有害物質が完全に変換されるからである。
【0046】
貴金属触媒での、たとえば一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)との変換は、これらの物質自体によって阻害される。すなわち、これらの排ガス成分の触媒変換は自己加速的な過程である:最初まず、有害物質の一部が変換されており、このことが、更なる反応を加速させる。この自己加速的な特性に基づき、変換が触媒全体にわたって均一に分配されて行われず、触媒に沿って、局所的に制限された軸方向の熱発生プロファイルの形成ひいては触媒内の軸方向の温度プロファイルが生ぜしめられる。
【0047】
排ガス温度が触媒への流入時にそのライトオフ温度を著しく上回っている場合には、可燃性の成分が触媒入口の背後の短い区間ですでに完全に燃焼され、この区間に沿って触媒を加熱する。その後、排ガスが下流側で触媒のまだ低温の部分に接触し、場合により連行された熱を触媒に付与する。したがって、触媒を通る排ガスの流過時間が、排ガス浄化に対して一般的な空間速度でほんの数分の一秒でしかないにもかかわらず、触媒から流出した排ガスは、有害物質パルスの開始直後に温度上昇を有していない。有害物質パルスの終了後には、最初徐々に軸方向の温度プロファイルが触媒の出口に進行する。この進行は、触媒を通流する排ガスとの相互作用中に行われる。また、この進行には、触媒の熱的な特性、特に触媒の熱伝導率および熱容量によって影響が与えられる。
【0048】
図2には、有害物質パルス(ここでは、CO/HCパルス)と、触媒の背後の温度プロファイルとが、有害物質パルスの開始と目下の時点との間の時間差に関連して概略的に示してある。検査は、触媒の前方の排ガスの可燃性の有害物質成分の濃度が期間Δtの間に短時間増加させられることで開始される。同時に触媒の背後の温度上昇の測定が開始される。触媒が、選択された排ガス温度において活性であればあるほど、触媒の背後の排ガスの温度はますます遅く上昇する。なぜならば、活性の触媒では、供給された有害物質がすでに触媒への流入直後に変換され、この箇所で触媒の温度を上昇させるからである。触媒の背後の排ガスの著しい温度上昇は、触媒の加熱されたゾーンが、熱伝導と、排ガスとの相互作用とによって触媒出口にまで進行した場合に初めて生ぜしめられる。これに対して、触媒の入口における排ガス温度がライトオフ温度に丁度相当している場合には、有害物質の変換が触媒全体に沿って分配され、これによって、触媒で丁度有害物質の50%が変換されている。触媒の出口での有害物質変換は、排ガスの高い空間速度のため、触媒の背後の排ガス温度の極めて迅速な上昇に繋がる。すなわち、排ガスの入口温度で触媒が活性であればあるほど、触媒の背後の排ガスの温度プロファイルがその最大値にますます遅く到達することが認められる。
【0049】
この関係によって、触媒の背後の時間的な温度プロファイルから、触媒内の軸方向の熱発生プロファイルを検出することが可能となる。このための演算法は当業者に周知である。さらに、触媒内の熱発生プロファイルから、供給された有害物質に対する目下のライトオフ温度を検出することができる。
【0050】
検査のためには、短時間、排ガス内の有害物質濃度が増加させられる。したがって、検査が車両の有害物質エミッションを高める危険がある。このことは、検査が、触媒のライトオフ温度を上回る排ガス温度でのみ実施される場合に十分に回避することができる。触媒の酸化活性は老化の増加につれて減少し、ライトオフ温度が上昇する。したがって、検査は、有利には、触媒の、最後の検査の間に検出された目下のライトオフ温度よりも大きい排ガス温度で行われる。特に有利には、検査は、触媒の、最後の検査の間に検出された目下のライトオフ温度を10〜100℃、特に10〜50℃だけ上回る排ガス温度で行われる。
【0051】
前記方法の有利な形態では、本発明の課題は以下の方法ステップ:すなわち、
a)所定の期間Δtの間、触媒への流入前の排ガスに付加的な可燃性の成分を添加し、
b)触媒での付加的な可燃性の成分の燃焼時の発熱に基づく触媒の背後の排ガスの時間的な温度プロファイルを測定し、
c)可燃性の成分の添加の開始と、触媒の背後の温度プロファイルの最大値の形成との間の時間差を検出し、
d)この時間差が、設定された値を下回っている場合に、触媒が著しく損なわれているという信号をセットする:
によって解決される。
【0052】
この事例では、触媒の目下のライトオフ温度を以下のように検出することができる:観察される触媒に対する表が予め作成される。この表は、本発明により測定された時間差に関連した、それぞれ異なる老化状態に対する触媒のライトオフ温度を有している。この場合、負荷および回転数による機関の運転状態がパラメータとして使用される。図7には、このような表のデータのグラフが示してある。この場合、たとえば検査の開始前の排ガス温度しかパラメータとして使用されなかった。この線図から、排ガスの既知の入口温度と、測定された時間差とにおいて、目下のライトオフ温度を読み取ることができ、次回の検査時の排ガス温度の選択のために使用することができる。
【0053】
択一的には、目下のライトオフ温度が、シミュレーション演算によって、測定された時間的な温度プロファイルから検出されてよい。
【0054】
触媒への流入前の排ガスへの付加的な可燃性の成分の添加は、種々異なる形式によって:すなわち、機関的な手段、たとえば燃料のポスト噴射、遅めの燃焼位置または多段燃焼;排ガス管路内への燃料の噴射または燃料の改質により得られた水素リッチなガスの添加によって行うことができる。
【0055】

検査の間の触媒内の過程が、商用の演算プログラムによって、有害物質パルスとして純粋なCOパルスを仮定して検査された。このシミュレーション演算の結果は、以下の図3〜図6に示してあり、本発明をさらに詳しく説明するために使用される。
【0056】
図3および図4には、一酸化炭素に対する触媒の200℃のライトオフ温度と、触媒の前方の一酸化炭素の1体積%のコンスタントな濃度と、排ガスの36000h−1の空間速度とを仮定して、1秒あたりの触媒内の排ガスの10回の変化に相応して、一定の排ガス条件に対する触媒内の一酸化炭素に対する濃度プロファイルと相応の熱発生プロファイルとが示してある。触媒の長さは10cm(0.1m)に規定された。演算は、触媒への流入前の4種類の排ガス温度に対して行われた:
曲線a):TAbgas=200℃(ライトオフ温度に相当)
曲線b):TAbgas=220℃
曲線c):TAbgas=240℃
曲線d):TAbgas=260℃。
【0057】
図3には、触媒に沿った一酸化炭素の演算された濃度プロファイルが示してある。排ガス温度がライトオフ温度(曲線a))に等しい場合には、一酸化炭素が、規定通り、触媒の終端部で50%しか変換されていない。ライトオフ温度を20℃上回る温度では、一酸化炭素がすでに触媒内で完全に変換される。排ガス温度の増加につれて、変換がますます触媒入口にシフトされる。この場合、貴金属触媒での一酸化炭素の変換の増加による一酸化炭素の酸化の自己加速作用を明確に認めることができる:一酸化炭素の変換は、排ガス内の濃度がより僅かになることによって加速させられる。
【0058】
図4には、図3の濃度プロファイルから得られた熱発生プロファイルが示してある。ここでも観察されるように、熱発生は触媒全体にわたって均一に行われず、局所的に制限されて行われる。ライトオフ温度を上回る排ガス温度に対して、自己加速作用に基づき、明確に特徴付けられた最大値を認めることができる。この最大値の位置は、排ガス温度の増加につれて触媒の入口の方向にシフトされる。
【0059】
すなわち、原理的には、触媒に沿った温度プロファイルの測定によって、触媒のライトオフ温度に関する情報を得ることが可能となる。しかし、この目的のためには、温度プロファイルが触媒に沿った複数の測定箇所によって十分正確に検出されなければならない。このことは、技術的に手間を要し、著しいコストに結び付けられている。
【0060】
これに対して、本発明によれば、触媒の背後の時間的な温度プロファイルしか温度測定プローブによって測定されない。この温度測定プローブは、触媒から流出した全ての流れ筋が良好に互いに混合されていて、こうして、高信頼性の温度測定を可能にする箇所に容易に取り付けることができる。しかし、触媒の背後の時間的な温度プロファイルの測定には、触媒を短時間、より高い濃度の可燃性の排ガス成分で負荷することが必要となる。その後、この場合に生ぜしめられる触媒の背後の排ガス温度の時間的な変化を容易に測定することができる。
【0061】
図5および図6のシミュレーション演算では、ライトオフ温度、空間速度および触媒長さに関して、図3および図4の一定の演算と同じ前提条件が当てられた。一定の演算と異なり、いま、3秒のパルス期間と、このパルス内での一酸化炭素の1体積%の濃度とによる、触媒の前方の排ガスへの一酸化炭素のパルス状の添加しか仮定されなかった。
【0062】
図5には、触媒の前方の240℃の排ガス温度と、COパルスの開始後のそれぞれ異なる時間とに対する触媒温度の演算された軸方向のプロファイルが示してある。縦座標には、触媒に沿った各箇所に形成された触媒温度Tと、触媒の前方の排ガス温度Tinとの差が示してある。排ガス温度Tinはライトオフ温度(200℃)を著しく上回っているので、COパルスの一酸化炭素はすでに触媒の最初の半分で完全に燃焼され、熱発生プロファイルにほぼ相当する触媒内の軸方向の温度プロファイルを発生させる。排ガスと相互作用して、触媒ボディの熱的な特性に基づき、触媒内の温度プロファイルが下流側で触媒出口に移動し、この場合、拡幅される。約30秒後、温度プロファイルの最大値が触媒出口に到達した。
【0063】
触媒の出口では、局所的な温度プロファイルを時間依存性の温度プロファイルとして測定することができる。図6には、触媒の背後において得られた時間的な温度プロファイルが、触媒の前方の上述した4種類の排ガス温度a),b),c),d)に対して示してある。触媒のライトオフ温度を排ガス温度が上回れば上回るほど、一酸化炭素添加の開始と、触媒の背後の時間的な温度プロファイルの最大値の形成との間の時間差がますます大きくなる。
【0064】
本発明による方法には、触媒の背後の排ガス温度を測定するための少なくとも1つの温度センサが必要となる。触媒の排ガス温度は、有利には機関制御装置によって機関の目下の運転データから演算される。択一的には、触媒の前方に第2の温度センサが設けられてもよい。温度センサ、特に触媒の背後の温度センサには、測定精度および長期安定性に関して僅かな要求しか課せられない。なぜならば、主として、温度の絶対的な高さは重要とならず、たとえば温度経過の最大値の形成の時間的な遅れしか重要とならないからである。
【0065】
提案された方法の利点は、ライトオフ温度を著しく上回る温度で作業することができ、これによって、損なわれた触媒の事例でも、検査の間にまだ有害物質パルスの完全な変換が得られることである。こうして、検査による付加的なエミッションを回避することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両機関の排ガスを浄化するための触媒の老化状態を検査するための方法であって、排ガスが、可燃性の成分を含有しており、検査を車両において運転条件下で行って、触媒の老化状態を検査するための方法において、
運転条件の変化と、これにより生ぜしめられる、触媒の背後の排ガス温度の変化との間の時間遅れを測定し、該時間遅れから触媒の老化状態を推測することを特徴とする、触媒の老化状態を検査するための方法。
【請求項2】
触媒に対する運転条件の変化の開始と、触媒の背後の排ガスの時間的な温度プロファイルの特有の特徴の形成との間の遅れを、触媒の老化状態を判断するために評価する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
特有の特徴として、時間的な温度プロファイルの上昇傾斜または下降傾斜または時間的な温度プロファイルの最大値を使用する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
触媒の老化状態を、測定された遅れから、該測定された遅れに関連した老化状態が記入された予め作成された表を用いて検出し、検査の開始前の触媒の運転状態をパラメータとして使用する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
表におけるデータを実験的にまたはシミュレーション演算によって検出する、請求項4記載の方法。
【請求項6】
触媒の老化状態を、測定された遅れから演算モデルを用いて測定する、請求項3記載の方法。
【請求項7】
限界触媒に対する特有の特徴の遅れを演算し、触媒の老化状態を判断するために、測定された遅れと比較する、請求項3記載の方法。
【請求項8】
触媒の運転条件を、検査のために、所定の期間Δtの間、触媒への流入前の排ガス内の可燃性の成分の濃度を増加させることによって変化させる、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
可燃性の成分が、一酸化炭素および/または炭化水素を含有している、請求項8記載の方法。
【請求項10】
排ガス内の可燃性の成分の濃度を、車両機関への燃料のポスト噴射または車両機関と触媒との間の排ガス内への燃料の噴射によって増加させる、請求項9記載の方法。
【請求項11】
排ガス内の可燃性の成分の濃度を、触媒の背後の温度プロファイルが、触媒での燃焼に基づき少なくとも5℃の振幅を有するように著しく増加させる、請求項8記載の方法。
【請求項12】
期間Δtを1〜10秒の間で選択する、請求項8記載の方法。
【請求項13】
車両をコンスタントな運転条件で運転する場合に老化状態の検査を行う、請求項8記載の方法。
【請求項14】
検査の間の車両の変動する運転条件を、可燃性の成分の濃度の増加なしの検査の間の運転状態に対する触媒の背後の見込まれた温度プロファイルを演算しかつ測定された温度プロファイルから差し引くことによって考慮する、請求項8記載の方法。
【請求項15】
検査を、老化させられた触媒もまだ新規の触媒に類似して可燃性の成分に対する変換率を有する範囲内にある触媒の前方の排ガス温度でのみ行う、請求項1記載の方法。
【請求項16】
a)所定の期間Δtの間、触媒への流入前の排ガスに付加的な可燃性の成分を添加し、
b)触媒での付加的な可燃性の成分の燃焼時の発熱に基づく触媒の背後の排ガスの時間的な温度プロファイルを測定し、
c)可燃性の成分の添加の開始と、触媒の背後の温度プロファイルの最大値の形成との間の時間差を検出し、
d)該時間差が、設定された値を下回っている場合に、触媒が著しく損なわれているという信号をセットする、請求項1記載の方法。
【請求項17】
触媒の目下のライトオフ温度を、可燃性の成分の添加の開始と、触媒の背後の温度プロファイルの最大値の形成との間の測定された時間差を用いて、該測定された時間差に関連したライトオフ温度が記入された予め作成された表から取り出し、機関の運転状態をパラメータとして使用する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
検査を、触媒の、最後の検査の間に検出された目下のライトオフ温度よりも大きい触媒の前方の排ガス温度でのみ行う、請求項17記載の方法。
【請求項19】
検査を、触媒の、最後の検査の間に検出された目下のライトオフ温度を10〜100℃だけ上回る触媒の前方の排ガス温度でのみ行う、請求項18記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−537123(P2010−537123A)
【公表日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522387(P2010−522387)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/EP2008/061392
【国際公開番号】WO2009/027505
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】