説明

車両のカウル構造

【課題】 車両走行中のフロントウインドシールドガラスの振動を低減でき、且つ衝突体がフロントウインドシールドガラスの下部に衝突した際に衝突エネルギ吸収量を大きくする。
【解決手段】 カウルアウタ22の支持部22Bとブレース30の上側取付部30Bとの結合部の後端部K2からカウルインナ24のフランジ24Bとカウルアウタ22のフランジ22Cとの結合部の前端部K1までのカウルアウタ22における車体下方側面に沿った前後長さL2が、カウルインナ24のフランジ24Bとカウルアウタ22のフランジ22Cとの結合部の前端部K1から、屈曲部24Dまでのカウルインナ24における縦壁部24Aの車体前方側面に沿った、上下長さL1より長くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車等の車両に適用される車両のカウル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車等の車両に適用される車両のカウル構造においては、カウルの底壁部から立設し且つ上下方向中間位置に上方から作用する荷重によって上下に潰れ変形容易な易変形部を有する縦壁部と、該縦壁部の上縁から棚状に張り出しフロントウインドシールドガラスの前縁(下部)を支持する上壁部とを備えた構造が提案されている(例えば、特許文献1参照。)
【特許文献1】特開2004−217144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この特許文献1の車両のカウル構造においては、上壁部と底壁部との間に、上壁部と底壁部とを上下方向に架けわたし、カウルに上方から衝撃荷重が作用したときに上下に潰れ変形して衝撃を吸収する衝撃吸収部材を車幅方向に所定の間隔をおいて複数設置している。この構造では、変形時に縦壁部の易変形部の車体前方側への変形量は、縦壁部の易変形部が衝撃吸収部材と干渉するまでのストロークとなっている。
【0004】
本発明は上記事実を考慮し、車両走行中のフロントウインドシールドガラスの振動を低減でき、且つ衝突体がフロントウインドシールドガラスの下部に衝突した際に衝突エネルギ吸収量を大きくできる車両のカウル構造を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の本発明の車両のカウル構造は、車体前方上部がフロントウインドシールドガラスの支持部とされるカウルアウタと、車体上方端部が前記カウルアウタの車体後方側へ連なり、前記カウルアウタを支持するカウルインナと、前記カウルアウタの車体前方下部を支持すると共に前記カウルアウタからの下向き荷重を受けて変形可能な支持部材と、を有し、前記カウルインナは下向き荷重を受けて屈曲する屈曲部を備え、下向き荷重を受けた場合に、前記カウルインナにおける前記屈曲部より上方の部位と前記カウルアウタとが重なる位置まで移動する間に、前記支持部材と前記カウルインナの屈曲部との間に間隙が保たれることを特徴とする。
【0006】
支持部材によって、車体前方上部がフロントウインドシールドガラスの支持部とされるカウルアウタの車体前方下部を支持するため、フロントウインドシールドガラスの支持剛性が向上し、車両走行中のフロントウインドシールドガラスの振動が低減する。また、フロントウインドシールドガラスの下部に衝突体が衝突した場合には、カウルアウタからの下向き荷重を受けて支持部材が変形すると共に、カウルインナの屈曲部が屈曲する。この際、カウルインナにおける屈曲部より上方の部位とカウルアウタとが重なる位置まで移動する間に、支持部材とカウルインナの屈曲部との間に間隙が保たれる。この結果、衝突体がフロントウインドシールドガラスの下部に衝突した際に、フロントウインドシールドガラスの下部を支持する支持部の衝撃吸収ストロークを大きくできる。
【0007】
請求項2記載の本発明の車両のカウル構造は、車体前方上部がフロントウインドシールドガラスの支持部とされるカウルアウタと、車体上方端部が前記カウルアウタの車体後方側へ連なり、前記カウルアウタを支持するカウルインナと、前記カウルアウタの車体前方下部を支持すると共に前記カウルアウタからの下向き荷重を受けて変形可能な支持部材と、を有し、前記カウルインナは下向き荷重を受けて屈曲する屈曲部を備え、前記支持部材から前記カウルインナまでの前記カウルアウタの側断面形状に沿った長さが、前記カウルアウタから前記屈曲部までの前記カウルインナの側断面形状に沿った長さ以上であることを特徴とする。
【0008】
支持部材によって、車体前方上部がフロントウインドシールドガラスの支持部とされるカウルアウタの車体前方下部を支持するため、フロントウインドシールドガラスの支持剛性が向上し、車両走行中のフロントウインドシールドガラスの振動が低減する。また、フロントウインドシールドガラスの下部に衝突体が衝突した場合には、カウルアウタからの下向き荷重を受けて支持部材が変形すると共に、カウルインナの屈曲部が屈曲する。この際、支持部材からカウルインナまでのカウルアウタの側断面形状に沿った長さが、カウルアウタから屈曲部までの前記カウルインナの側断面形状に沿った長さ以上であるため、カウルインナにおける屈曲部から上方の部位と、カウルアウタとが互いに重なる位置まで移動する間に、カウルインナの屈曲部と支持部材とは当らず、底付き状態にならない。この結果、衝突体がフロントウインドシールドガラスの下部に衝突した際に、フロントウインドシールドガラスの下部を支持する支持部の衝撃吸収ストロークを大きくできる。
【0009】
請求項3記載の本発明の車両のカウル構造は、車体前方上部がフロントウインドシールドガラスの支持部とされるカウルアウタと、車体上方端部が前記カウルアウタの車体後方側へ連なり、前記カウルアウタを支持するカウルインナと、前記カウルアウタの車体前方下部を支持すると共に前記カウルアウタからの下向き荷重を受けて変形可能な支持部材と、を有し、前記カウルインナは下向き荷重を受けて屈曲する屈曲部と前記カウルアウタへの取付部との間が変形移動部とされ、前記カウルアウタには前記支持部材への取付部と前記カウルインナへの取付部との間に前記変形移動部当接用の変形受け部が設けられることを特徴とする。
【0010】
支持部材によって、車体前方上部がフロントウインドシールドガラスの支持部とされるカウルアウタの車体前方下部を支持するため、フロントウインドシールドガラスの支持剛性が向上し、車両走行中のフロントウインドシールドガラスの振動が低減する。また、フロントウインドシールドガラスの下部に衝突体が衝突した場合には、カウルアウタからの下向き荷重を受けて支持部材が変形すると共に、カウルインナの屈曲部が屈曲する。この際、カウルインナにおける屈曲部とカウルアウタへの取付部との間の変形移動部が、カウルアウタにおける支持部材への取付部とカウルインナへの取付部との間の変形受け部に当接するまでは、カウルインナの屈曲部と支持部材とは当らず、底付き状態にならない。この結果、衝突体がフロントウインドシールドガラスの下部に衝突した際に、フロントウインドシールドガラスの下部を支持する支持部の衝撃吸収ストロークを大きくできる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の本発明の車両のカウル構造は、上記の構成とすることで、車両走行中のフロントウインドシールドガラスの振動を低減でき、且つ衝突体がフロントウインドシールドガラスの下部に衝突した際に衝突エネルギ吸収量を大きくできる。
【0012】
請求項2記載の本発明の車両のカウル構造は、上記の構成とすることで、車両走行中のフロントウインドシールドガラスの振動を低減でき、且つ衝突体がフロントウインドシールドガラスの下部に衝突した際に衝突エネルギ吸収量を大きくできる。
【0013】
請求項3記載の本発明の車両のカウル構造は、上記の構成とすることで、車両走行中のフロントウインドシールドガラスの振動を低減でき、且つ衝突体がフロントウインドシールドガラスの下部に衝突した際に衝突エネルギ吸収量を大きくできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明における車両のカウル構造の第1実施形態を図1〜図6に従って説明する。
【0015】
なお、図中矢印UPは車体上方方向を示し、図中矢印FRは車体前方方向を示し、図中矢印INは車幅内側方向を示している。
【0016】
図6に示される如く、本実施形態の車体10は、車体10の前部上面にフロントフード12を備えており、フロントフード12の車体後方上側にフロントウインドシールドガラス14を備えている。
【0017】
図1に示される如く、フロントウインドシールドガラス14の下端縁部14Aの上面には、板状のカウルルーバ18の後端が取付けられており、カウルルーバ18は、フロントフード12とフロントウインドシールドガラス14との間に、車幅方向に沿って取付けられている。なお、カウルルーバ18は、前端18Aにおいてフロントフード12の後端12Aをシール部材19を介して車体下方側から支持すると共に、後端18Bがフロントウインドシールドガラス14の下端縁部14Aに取付けられている。
【0018】
フロントウインドシールドガラス14の下部14Bとカウルルーバ18との下方には、カウル20がその長手方向を車幅方向に沿って車体10へ固定配置されており、カウル20の車幅方向から見た断面形状は車体上方が開口した枠状になっている。
【0019】
図2に示される如く、カウル20の車幅方向両端は、エンジンルーム21の左右の側壁の上縁に沿って車体前後方向に延びる左右のエプロンアッパメンバ23の後端と、左右のフロントピラー25の上下方向中間部25Aとの連結部に結合されている。
【0020】
図1に示される如く、カウル20は板材の組み合わせによって構成されており、カウルアウタ22、カウルインナ24、カウルフロント26及び支持部材としてのブレース30を備えている。
【0021】
カウルアウタ22の前後方向中間部22Aは車体前側上方から車体後側下方へ向かって傾斜しており、前後方向中間部22Aの上端部からは、車体前方下側へ屈曲された支持部22Bが形成されている。支持部22Bの上面には、接着剤27によってフロントウインドシールドガラス14の下部14Bが固定されており、支持部22Bはフロントウインドシールドガラス14の下部14Bを車体下方側から支持している。また、カウルアウタ22の前後方向中間部22Aにおける下端部には、車体後方へ屈曲されたフランジ22Cが形成されており、フランジ22Cがカウルインナ24との結合部となっている。
【0022】
カウルインナ24の縦壁部24Aは略上下方向に沿って配置されており、縦壁部24Aの上端は、略車体後方に向かって屈曲されフランジ24Bとなっている。カウルインナ24のフランジ24Bは、カウルアウタ22のフランジ22Cの下面に結合されている。カウルインナ24の縦壁部24Aの下端からは車体斜め後方下側に向かって屈曲された傾斜部24Cが形成されており、カウルインナ24における縦壁部24Aと傾斜部24Cとの境は、車体前方へ凸の屈曲部24Dとなっている。
【0023】
また、カウルインナ24の傾斜部24Cの下方側は、車体斜め前方下側に向かって屈曲され接合部24Eとなっており、この接合部24Eの車室側面(車体後方側面)にダッシュパネル28の上端縁部に形成されたフランジ28Aが結合されている。カウルインナ24の接合部24Eの下端からは、略車体前方に向かって屈曲された傾斜部24Fが形成されており、この傾斜部24Fの前端部からは車体斜め前方下側に向かって屈曲された支持部24Gが形成されている。
【0024】
カウルフロント26の底壁部26Aの後端部からは、車体斜め後方上側に向かって屈曲された支持部26Bが形成されており、この支持部26Bの車体後側面とカウルインナ24の支持部24Gの車体前側面とが結合されている。また、カウルフロント26の底壁部26Aの前端部からは、車体斜め前方上側に向かって屈曲された前壁部26Cが形成されている。カウルフロント26の前壁部26Cの上端部には、車体前方に向けてフランジ26Dが形成されている。カウルフロント26のフランジ26Dは、カウルルーバ18の前端18A近傍に車体下方側に向かって形成した凹部18Cを車体下方側から支持している。
【0025】
図2に示される如く、フロントウインドシールドガラス14の下部14Bにおける車両走行時に車体上下方向の振動振幅が大きくなる部位P1、P2の下方には、それぞれブレース30が取付けられている。
【0026】
なお、フロントウインドシールドガラス14の下部14Bにおける車両走行時に車体上下方向の振動振幅が大きくなる部位P1、P2は、各車体の特性によって異なるため、それぞれの車体に応じて決まる車幅方向に沿った部分的な位置となる。例えば、フロントウインドシールドガラス14の下部14Bの車幅方向全長の1/3及び2/3となる2点P1、P2が、車両走行時に車体上下方向の振動振幅が大きくなる部位となる車体においては、点P1、P2の下方にそれぞれブレース30を取付ける。
【0027】
図5に示される如く、ブレース30は帯状の板材で構成されている。また、ブレース30の基部30Aの上端に形成された折れ部29からは略車体前方へ向って上側取付部30Bが形成されており、ブレース30の下端に形成された折れ部31からは略車体後側下方へ屈曲された下側取付部30Cが形成されている。
【0028】
ブレース30の基部30Aの長手方向中間部となる上下方向略中央には、車幅方向に延びる折れ部32が形成されており、ブレース30の基部30Aは、車体前方へ凸の二つ折り形状となっている。また、ブレース30における上側取付部30Bの車幅方向両端部には、車体下方へ向ってフランジ30Dが形成されており、ブレース30における下側取付部30Cの車幅方向両端部には、車体前方へ向ってフランジ30Eが形成されている。また、ブレース30における基部30Aの車幅方向両端部には車体前方へ向ってフランジ30Fが形成されており、ブレース30のフランジ30D、30E、30Fは互いに一体的に連結されている。
【0029】
なお、ブレース30のフランジ30D、30E、30Fは、それぞれ上側取付部30B、下側取付部30C、基部30Aに対して垂直に形成されており、フランジ30D、30E、30Fの突出高さ(フランジ幅)は一定になっている。
【0030】
図1に示される如く、ブレース30の上側取付部30Bは、カウルアウタ22の支持部22Bの後面(下面)に結合されている。また、ブレース30の下側取付部30Cは、カウルインナ24の傾斜部24Cの前面に結合されている。
【0031】
従って、車両走行時にフロントウインドシールドガラス14の下部14Bの振動振幅が大きくなる部位P1、P2を取付けるカウルアウタ22の支持部22Bの部位を、それぞれブレース30によって支持することで、フロントウインドシールドガラス14の振動をブレース30の剛性によって抑制できるようになっている。
【0032】
また、カウルインナ24のフランジ24Bとカウルアウタ22のフランジ22Cとの結合部の前端部K1から、屈曲部24Dまでの側断面形状のカウルインナ24における縦壁部24Aの車体前方側面に沿った部位は上下長さがL1の変形移動部となっている。
【0033】
なお、側断面形状とは、車体前後方向に延びる垂直面で切断した断面形状である。
【0034】
また、カウルアウタ22の支持部22Bとブレース30の上側取付部30Bとの結合部の後端部K2からカウルインナ24のフランジ24Bとカウルアウタ22のフランジ22Cとの結合部の前端部K1までの側断面形状のカウルアウタ22における車体下方側面に沿った前後長さL2の変形移動部当接用の変形受け部となっており、長さL2は長さL1以上となっている(L2≧L1)。
【0035】
従って、図3に示される如く、下向き荷重を受けた際に、ブレース30が折れ部32、29、31で折れ曲がると共に、カウルアウタ22が前後方向中間部22Aと前部22Bとの間の屈曲部(図1のN1)と、前後方向中間部22Aとフランジ22Cとの間の屈曲部(図1のN2)とを中心として屈曲変形し(伸び)、カウルインナ24が屈曲部24Dで折れ曲がる。この際、図4に示される如く、仮にカウルインナ24の縦壁部24Aと、カウルアウタ22の前後方向中間部22Aと支持部22Bとが、車体上下方向に重なる位置まで変形し、カウルアウタ22の屈曲部(図1のN1)がカウルインナ24の縦壁部24Aに当ったとしても、即ち、変形移動部と変形受け部とが当接したとしても、この移動の間に、ブレース30の基部30Aとカウルインナ24の屈曲部24Dとの間に間隙が保たれ、カウルインナ24の屈曲部24Dとブレース30の基部30Aとが当らないようになっている。
【0036】
この結果、フロントウインドシールドガラス14の下部14Bに衝突体Kが衝突し、車体前方上側から車体後方下側へ向かって荷重(図3の矢印F)が作用した場合には、ブレース30は折れ部32、29、31を中心にして大きく屈曲変形すると共にカウルインナ24も屈曲部24Dを中心にして大きく屈曲変形するようになっている。
【0037】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0038】
本実施形態では、図2に示される如く、フロントウインドシールドガラス14の下部14Bにおける車両走行時に振動振幅が大きくなる部位P1、P2の下方に、それぞれブレース30が取付けられている。また、図1に示される如く、ブレース30の下側取付部30Cは、カウルインナ24の傾斜部24Cの前面に結合されている。更に、ブレース30のフランジ30D、30E、30Fは互いに連結されている。
【0039】
従って、連続するフランジ30D、30E、30Fを有することで所定の剛性が確保されたブレース30によって、車両走行時に振動振幅が大きくなるフロントウインドシールドガラス14の下部14Bの部位P1、P2を、支持することができる。このため、車両走行時に発生するフロントウインドシールドガラス14の振動を効果的に抑制できる。
【0040】
一方、図3に示される如く、フロントウインドシールドガラス14の下部14Bに衝突体Kが衝突し、フロントウインドシールドガラス14の下部14Bに車体前方上側から車体後方下側へ向かって荷重Fが作用した場合には、カウルアウタ22は前後方向中間部22Aと前部22Bとの間の屈曲部(図1のN1)と、前後方向中間部22Aとフランジ22Cとの間の屈曲部(図1のN2)とを中心として屈曲変形することで、図3に示される如く、支持部22Bが下方へ移動する。
【0041】
また、カウルインナ24は、縦壁部24Aとフランジ24Bとの間の屈曲部(図1のN3)を中心として屈曲変形すると共に、カウルインナ24の屈曲部24Dを中心として、二つ折れ方向(図3の矢印A方向)へ屈曲変形する。また、ブレース30は車幅方向に延びる折れ部32、29、31を中心にして容易に折れ曲がる。
【0042】
この際、図1に示される如く、カウルアウタ22の支持部22Bとブレース30の上側取付部30Bとの結合部の後端部K2からカウルインナ24のフランジ24Bとカウルアウタ22のフランジ22Cとの結合部の前端部K1までの側断面形状のカウルアウタ22における車体下方側面に沿った前後長さL2が、カウルインナ24のフランジ24Bとカウルアウタ22のフランジ22Cとの結合部の前端部K1から、屈曲部24Dまでの側断面形状のカウルインナ24における縦壁部24Aの車体前方側面に沿った、上下長さL1以上となっている(L2≧L1)。
【0043】
この結果、図4に示される如く、仮に、カウルインナ24の縦壁部24Aと、カウルアウタ22の前後方向中間部22Aと支持部22Bとが、車体上下方向に重なる位置まで変形したとしても、即ち、変形移動部と変形受け部とが当接したとしても、この移動の間に、ブレース30の基部30Aとカウルインナ24の屈曲部24Dとの間に間隙が保たれ、カウルインナ24の屈曲部24Dとブレース30の基部30Aとが当らない。
【0044】
このため、ブレース30とカウルインナ24とが衝突体Kにダメージを与えない程度に突っ張ることになり、衝突体Kの衝突による衝撃荷重の一部が打ち消される。また、打ち消されなかった荷重の作用により、ブレース30は折れ部32、29、31を中心にして大きく屈曲変形すると共にカウルインナ24も屈曲部24Dを中心にして大きく屈曲変形する。従って、カウル20の衝突エネルギ吸収量を大きくでき、衝突体Kの障害値を充分に下げることができる。
【0045】
また、本実施形態では、ブレース30とカウルインナ24との各剛性(変形耐力)を板厚の変更や折り曲げ角度の変更等で調整することで、車両走行中のフロントウインドシールドガラスの振動低減と、衝突体がフロントウインドシールドガラスの下部に衝突した際にカウルの充分な変形とを容易に両立できる。
【0046】
次に、本発明における車両のカウル構造の第2実施形態を図7〜図10に従って説明する。
【0047】
なお、第1実施形態と同一部材に付いては、同一符号を付してその説明を省略する。
【0048】
図8に示される如く、第1実施形態と異なり本実施形態のカウル40は、カウルアウタとカウルインナと支持部材とが一体となったカウルアッパ42と、カウルロア44との二つのパネルにより形成されている。
【0049】
図7に示される如く、カウルロア44は車体前後方向に延びる板材で構成されており、後端部44Aが、ダッシュパネル28の上端部に車体前方へ向けて形成されたフランジ28Bの上面に結合されている。また、カウルアッパ42のカウルインナ部42Aの下端部には車体後方へ向ってフランジ42Bが形成されており、フランジ42Bがカウルロア44の後端部44Aの上面に結合されている。
【0050】
カウルアッパ42におけるカウルインナ部42Aの上端部には、車体前方斜め下方へ屈曲されたカウルアウタ部42Cが形成されている。また、カウルアウタ部42Cの上面には、接着剤27によってフロントウインドシールドガラス14の下部14Bが固定されており、カウルアウタ部42Cはフロントウインドシールドガラス14の下部14Bを車体下方側から支持している。
【0051】
カウルアウタ部42Cの後端42Dからは、車体下方へ屈曲されたカウルインナ部42Aの上部42Eが形成されており、上部42Eの下端の屈曲部42Fからは、車体後方下側へ屈曲されたカウルインナ部42Aの傾斜部42Gが形成されている。また、カウルインナ部42Aにおける傾斜部42Gの下端42Hからは車体下方へ屈曲されたカウルインナ部42Aの下部42Nが形成されている。
【0052】
図8に示される如く、カウルアッパ42には車幅方向全幅にわたって、カウルアウタ部42Cの前端部42Jから斜め後方下側に向って屈曲して上下幅の狭い前壁部42Kが形成されている。この前壁部42Kからは、車幅方向に所定の間隔を隔てて帯状の支持部材としてのブレース部42Lが一体形成されている。また、ブレース部42Lの下端からは、車体前側へ屈曲されたフランジ42Mが形成されており、このフランジ42Mは、カウルロア44の前端部44Bの上面に結合されている。
【0053】
図7に示される如く、カウルアッパ42のブレース部42Lの上下方向中間部には、薄肉部等からなる脆弱部48が、その長手方向を車幅方向に沿って形成されている。従って、フロントウインドシールドガラス14の下部14Bに衝突体Kが衝突し、車体前方上側から車体後方下側へ向かって荷重(図9の矢印F)が作用した場合には、カウルアッパ42のブレース部42Lは、図9に示される如く、脆弱部48を中心にして車体前方側へ凸の二つ折り形状に屈曲変形するようになっている。
【0054】
側断面形状のカウルアッパ42におけるカウルインナ部42Aの上部42Eにおける前側面は、上下方向の長さがL3の変形移動部となっている。また、側断面形状のカウルアッパ42におけるカウルアウタ部42Cの下面は前後方向の長さL4の変形移動部当接用の変形受け部となっており、長さL4は長さL3以上となっている(L4≧L3)。
【0055】
従って、図9に示される如く、ブレース部42Lが脆弱部48で折れ曲がると共に、カウルアッパ42がカウルインナ部42Aの屈曲部42Fで折れ曲がり、図10に示される如く、仮に、カウルアッパ42のカウルインナ部42Aの上部42Eとカウルアッパ42のカウルアウタ部42Cとが車体上下方向に重なる位置まで変形したとしても、即ち、変形移動部と変形受け部とが当接したとしても、その間にカウルアッパ42のカウルインナ部42Aの屈曲部42Fとブレース部42Lまたは前壁部42Kとが当らないようになっている。
【0056】
この結果、フロントウインドシールドガラス14の下部14Bに衝突体Kが衝突し、車体前方上側から車体後方下側へ向かって荷重Fが作用した場合には、ブレース部42Lは脆弱部48を中心にして大きく屈曲変形すると共にカウルアッパ42もカウルインナ部42Aの屈曲部42Fを中心にして大きく屈曲変形するようになっている。
【0057】
次に、本実施形態の作用を説明する。
【0058】
本実施形態では、所定の剛性が確保されたブレース部42Lによって、フロントウインドシールドガラス14の下部14Bを支持するカウルアッパ42におけるカウルアウタ部42Cの前端部と、カウルロア44の前端部44Bとを連結したため、第1実施形態と同様に、車両走行時に振動振幅が大きくなるフロントウインドシールドガラス14の下部14Bを支持することができる。このため、車両走行時に発生するフロントウインドシールドガラス14の振動を効果的に抑制できる。
【0059】
一方、図9に示される如く、フロントウインドシールドガラス14の下部14Bに衝突体Kが衝突した場合には、車体前方上側から車体後方下側へ向かって荷重Fが作用して、ブレース部42Lが脆弱部48で折れ曲がると共に、カウルアッパ42がカウルインナ部42Aの屈曲部42Fで折れ曲がる。
【0060】
この際、側断面形状のカウルアッパ42におけるカウルアウタ部42Cの下面の前後方向の長さL4が、カウルインナ部42Aの上部42Eにおける前側面の上下方向の長さL3以上となっている。この結果、図10に示される如く、仮に、カウルアッパ42のカウルインナ部42Aの上部42Eとカウルアッパ42のカウルアウタ部42Cとが車体上下方向に重なる位置まで変形したとしても、即ち、変形移動部と変形受け部とが当接したとしても、この移動の間に、カウルインナ部42Aの屈曲部42Fとブレース部42Lまたは前壁部42Kとの間に間隙が保たれ、カウルインナ部42Aの屈曲部42Fとブレース部42Lまたは前壁部42Kとが当らない。
【0061】
このため、図9に示される如く、カウルアッパ42のブレース部42Lとカウルインナ部42Aの上部42Eとが衝突体Kにダメージを与えない程度に突っ張ることになり、衝突体Kの衝突による衝撃荷重の一部が打ち消され、打ち消されなかった荷重の作用により、カウルアッパ42のブレース部42Lは脆弱部48を中心にして大きく屈曲変形すると共にカウルインナ部42Aの上部42Eも屈曲部42Fを中心にして大きく屈曲変形する。従って、カウル40の衝突エネルギ吸収量を大きくでき、衝突体Kの障害値を充分に下げることができる。
【0062】
以上に於いては、本発明を特定の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内にて他の種々の実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。例えば、上記第1実施形態では、図1に示される如く、ブレース30の下側取付部30Cをカウルインナ24の傾斜部24Cに結合したが、これに代えて、ブレース30の下側取付部30Cをカウルインナ24の接合部24Eやカウルフロント26の底壁部26A等の他の位置に結合した構成としても良い。
【0063】
また、カウル20、40の支持部材は、ブレース30やブレース部42Lに限定されず、カウルアウタの車体前方下部を支持すると共にカウルアウタからの下向き荷重を受けて変形可能な部材であれば、他の支持部材でも良い。
【0064】
また、カウルの側断面形状は、第1実施形態の断面形状や第2実施形態の断面形状に限定さず、下向き荷重を受けた場合に、カウルインナにおける屈曲部より上方の部位とカウルアウタとが重なる位置まで移動する間に、支持部材とカウルインナの屈曲部との間に間隙が保たれる構成であれば他の形状としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図6の1−1線に沿った拡大断面である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る車両のカウル構造を示す車体斜め前方から見た斜視図である。
【図3】本発明の第1実施形態に係る車両のカウル構造の変形状態を示す図1に対応する断面図である。
【図4】本発明の第1実施形態に係る車両のカウル構造の変形状態を示す図1に対応する断面図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る車両のカウル構造のブレースを示す車体斜め前方から見た斜視図である。
【図6】本発明の第1実施形態に係る車両のカウル構造が適用された車体前部を示す車体斜め前方から見た斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る車両のカウル構造を示す図1に対応する断面図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る車両のカウル構造を示す車体斜め前方から見た斜視図である。
【図9】本発明の第2実施形態に係る車両のカウル構造の変形状態を示す図7に対応する断面図である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る車両のカウル構造の変形状態を示す図7に対応する断面図である。
【符号の説明】
【0066】
14 フロントウインドシールドガラス
20 カウル
22 カウルアウタ
22A カウルアウタの前後方向中間部
22B カウルアウタの支持部
22C カウルアウタのフランジ
24 カウルインナ
24A カウルインナの縦壁部
24B カウルインナのフランジ
24C カウルインナの傾斜部
24D カウルインナの屈曲部
26 カウルフロント
26A カウルフロントの底壁部
30 ブレース(支持部材)
40 カウル
42 カウルアッパ
42A カウルアッパのカウルインナ部(カウルインナ)
42C カウルアッパのカウルアウタ部(カウルアウタ)
42F カウルアッパのカウルインナ部の屈曲部
42L カウルアッパのブレース部(支持部材)
44 カウルロア(カウルの底壁部)
48 脆弱部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前方上部がフロントウインドシールドガラスの支持部とされるカウルアウタと、
車体上方端部が前記カウルアウタの車体後方側へ連なり、前記カウルアウタを支持するカウルインナと、
前記カウルアウタの車体前方下部を支持すると共に前記カウルアウタからの下向き荷重を受けて変形可能な支持部材と、
を有し、前記カウルインナは下向き荷重を受けて屈曲する屈曲部を備え、下向き荷重を受けた場合に、前記カウルインナにおける前記屈曲部より上方の部位と前記カウルアウタとが重なる位置まで移動する間に、前記支持部材と前記カウルインナの屈曲部との間に間隙が保たれることを特徴とする車両のカウル構造。
【請求項2】
車体前方上部がフロントウインドシールドガラスの支持部とされるカウルアウタと、
車体上方端部が前記カウルアウタの車体後方側へ連なり、前記カウルアウタを支持するカウルインナと、
前記カウルアウタの車体前方下部を支持すると共に前記カウルアウタからの下向き荷重を受けて変形可能な支持部材と、
を有し、前記カウルインナは下向き荷重を受けて屈曲する屈曲部を備え、前記支持部材から前記カウルインナまでの前記カウルアウタの側断面形状に沿った長さが、前記カウルアウタから前記屈曲部までの前記カウルインナの側断面形状に沿った長さ以上であることを特徴とする車両のカウル構造。
【請求項3】
車体前方上部がフロントウインドシールドガラスの支持部とされるカウルアウタと、
車体上方端部が前記カウルアウタの車体後方側へ連なり、前記カウルアウタを支持するカウルインナと、
前記カウルアウタの車体前方下部を支持すると共に前記カウルアウタからの下向き荷重を受けて変形可能な支持部材と、
を有し、前記カウルインナは下向き荷重を受けて屈曲する屈曲部と前記カウルアウタへの取付部との間が変形移動部とされ、前記カウルアウタには前記支持部材への取付部と前記カウルインナへの取付部との間に前記変形移動部当接用の変形受け部が設けられることを特徴とする車両のカウル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−264538(P2006−264538A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−86628(P2005−86628)
【出願日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】