説明

車両のサイドシル構造

【課題】 ボディサイドシルの接合フランジ部を跨乗してハーネスを配索しても、該ハーネスが切断されるおそれのない車両のサイドシル構造を提供する。
【解決手段】 ボディサイドシルインナパネル11およびボディサイドシルアウタパネル12を、夫々の上面から上方に張り出すフランジ部同士で接合してなるボディサイドシル10と、前記ボディサイドシルアウタパネル12の上面に取り付けられるキッキングプレートアウタ30とを備えたサイドシル構造において、前記接合フランジ部40には、前記キッキングプレートアウタ30を電気的に装飾するための照明装置33に接続されるハーネス枝線61を貫通させる切り欠き部41を形成し、該切り欠き部41には、その端縁部を覆うクリップ70を跨設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサイドシル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のサイドシル構造に関しては、ボディサイドシルインナパネル上に、ボディサイドシルの肩面に沿ってハーネス幹線を配置し、その上をキッキングプレートで覆う構造が多くなっている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−16662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の車両のサイドシル構造において、ボディサイドシルアウタパネル上に取り付けられるキッキングプレートを電気的に装飾するために、上記ハーネス幹線から分岐したハーネス枝線を当該ボディサイドシルアウタパネル上に配設される照明装置に接続する場合、ハーネス枝線の長さを短くするには、ボディサイドシルの上面から上方に突設される接合フランジ部を跨乗してハーネス枝線を配索するのが好適である。
【0004】
しかしながら、そうすると、上方から作用する荷重によってハーネス枝線が前記跨乗部分で接合フランジ部の端縁に押し付けられ、断線してしまうおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、ボディサイドシルの接合フランジ部を跨乗してハーネスを配索しても、該ハーネスの断線を抑制できる車両のサイドシル構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にあっては、ボディサイドシルインナパネルおよびボディサイドシルアウタパネルを、夫々の上面から上方に張り出すフランジ部同士で接合してなるボディサイドシルと、前記ボディサイドシルアウタパネルの上面に取り付けられるキッキングプレートと、前記キッキングプレートを電気的に装飾するための照明装置と、を備えた車両のサイドシル構造において、前記接合フランジ部には、前記照明装置に接続されるハーネスを貫通させる切り欠き部が形成されていて、該切り欠き部には、その端縁部を覆うクリップが跨設され、該クリップ上に前記ハーネスが配索されていることを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ハーネスを接合フランジ部に形成した切り欠き部の内側を貫通させるとともに、当該切り欠き部の端縁部をクリップで被覆したため、ハーネスの断線を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
(第1実施形態)図1〜図5は本発明の第1実施形態を示しており、図1はドア開口部の外観図(斜視図)、図2はサイドシル構造(図1のA−A断面)の断面図、図3はキッキングプレートアウタの構造を示す斜視図、図4はクリップが取り付けられた接合フランジ部を示す斜視図、図5はクリップが取り付けられた接合フランジ部を示す側面図、図6はクリップの外観図(斜視図)、図7はクリップが取り付けられた接合フランジ部を示す平面図である。
【0009】
本実施形態にかかるサイドシル構造1では、図1に示すように、車両のドア2の乗降口下縁のボディサイドシル10の上面に、車両前後方向に延びるキッキングプレートインナ20と、キッキングプレートアウタ30とが設けられている。
【0010】
ボディサイドシル10は、図2に示すように、車両内側に配置されるボディサイドシルインナパネル11と、車両外側に配置されるボディサイドシルアウタパネル12とを有する。
【0011】
ボディサイドシルインナパネル11は、中央部が車両内側へ膨出された断面略コ字状に形成されており、車両前後方向に延びている。その上部には水平面11aが設けられ、該水平面11aの車両外側端部には、フランジ部11bが上向きに折曲形成されている。また、下端部には、フランジ部11dが下向きに折曲形成されている。
【0012】
一方、ボディサイドシルアウタパネル12は、ボディサイドシルインナパネル11の車両外側に配置されている。そして、中央部が車両外側へ膨出された断面略コ字状に形成されており、車両前後方向に延びている。また、その上部には水平面12aが設けられ、該水平面12aの車両内側端部には、フランジ部12bが上向きに折曲形成されている。さらに、下端部には、フランジ部12dが下向きに折曲形成されている。
【0013】
また、ボディサイドシルアウタパネル12の上側には、補強材13が設けられている。該補強材13は、断面略S字状に形成され、その中央部には、水平面13aが設けてある。そして、該水平面13aの両端部には、それぞれ上向き、下向きに折り曲げ形成されたフランジ部13bおよび13cが設けられており、該フランジ部13bおよび13cを介して、ボディサイドシルアウタパネル12に接合されている。
【0014】
そして、上側のフランジ部11b、12b、13b同士、および下側のフランジ部11d、12d同士が、例えばスポット溶接によって相互に接合されることにより、閉断面構造のボディサイドシル10が形成される。なお、本明細書では、上側のフランジ部11b、12b、13b同士が接合された部分を接合フランジ部40と称する。
【0015】
接合フランジ部40の上方には、車両前後方向に延びるボディサイドウェルト50が取り付けられている。このボディサイドウェルト50は、車両内側に配置される略逆U字状部分と、その車両外側に形成される略O字状部分とを有しており、前記略逆U字状部分を接合フランジ部40に挟装してある。ドア2を閉じた状態では、該ドア2のトリム3の下端部分によって上記略O字状部分が押圧され、気密が確保される。
【0016】
キッキングプレートインナ20は、車両前後方向に延びる車両内側の側壁部20aと上壁部20bとを備えており、図示しないクリップ、ねじ等によってボディサイドシルインナパネル11に装着される。このキッキングプレートインナ20とボディサイドシルインナパネルの水平面11aとの間には、略矩形断面で車両前後方向に延びる空間が形成され、当該空間にハーネス幹線60が配索される。
【0017】
また、上壁部20bは、ボディサイドウェルト50の上方で接合フランジ部40よりも車両外側となる位置まで延びており、その先端部が下側に屈曲されて、ボディサイドウェルト50の略O字状部分の根元部の上面に当接している。なお、側壁部20aの下縁と、ボディサイドシルインナパネルの水平面12aとによって、フロアカーペット14の車両外側の端縁が挟持される。
【0018】
一方、ボディサイドシルアウタパネル12の補強材13の水平面13aの上には、平面視で短冊状のキッキングプレートアウタ30が、図示しないクリップ、ねじ等によって取り付けられている。
【0019】
このキッキングプレートアウタ30の外装材としてのカバー部31は、光を透過しない材料、例えば、各種の金属、合金、不透明な樹脂等の材料を、プレス加工、射出成形等によって、所定の形状に成型してある。さらに、このカバー部31には、図3に示すように、文字列、図形、模様等が光輝領域として現出するように、ポリ塩化ビニルやエポキシ樹脂等の透明な樹脂等を打ち抜き窓状に形成して、他の部分より光透過性を大きくした光透過部32を設けてある。なお、このカバー部31を透明樹脂により形成し、特定の文字列等からなる光透過部32を除く部分に光不透過性インク等を印刷して光透過部32を形成してもよい。
【0020】
そして、キッキングプレートアウタ30の内部には、該キッキングプレートアウタ30を電気的に装飾するための照明装置33が配設されている。該照明装置33は、LED、電球、エレクトロルミネッセンスパネル等の光源34を備えており、前記光透過部32に対して下方から光源34の光を照射する。この照射光により、光透過部32がその周囲に対して相対的に明るくなる。
【0021】
ここで、接合フランジ部40には、照明装置33へ電力を供給するハーネス枝線61を配索すべく、図4及び図5に示すように、略矩形の切り欠き部41が設けられている。この切り欠き部41には、その端縁部を覆うようにクリップ70が跨設されており、ハーネス幹線60より分岐されたハーネス枝線61は、このクリップ70を跨乗し、接合フランジ部40の端縁部とは直接当接しないようになっている。
【0022】
クリップ70は、ゴム、樹脂、金属等から構成することができ、図4及び図5に示すように、側面視略H字状に成形される。
【0023】
すなわち、クリップ70は、切り欠き部41の底部端縁に当接し、かつ、その上面でハーネス枝線61を支持する断面略矩形のハーネス支持部71を備え、該ハーネス支持部71の両端に、それぞれ、切り欠き部41の側部端縁に当接する脚部72が設けられている。
【0024】
脚部72は、図6に示すように、その車幅方向中央部に、脚部72の下面から上方に向かって切り込まれたスリット73を有しており、該スリット73とその両側の係合片74とで形成される係止部75が、接合フランジ部40の切り欠き部41の底部端縁より奥側(下側)の領域に係着される。また、クリップ70の車両前後方向の幅(一方の脚部72の側部端縁に対向する面と他方の脚部72の側部端縁に対向する面との距離)は、切り欠き部41の側部端縁間の距離より短くしてあり、該クリップ70の二つの脚部72が切り欠き部41の側部端縁間に丁度収まるようにしてある。
【0025】
この脚部72は、クリップ70が接合フランジ部40に装着された状態で接合フランジ部40の上端部近傍(ただし接合フランジ部40の上端以下)まで伸びており、該二つの脚部72、ハーネス支持部71、およびボディサイドウェルト50で囲まれる領域80内をハーネス枝線61が貫通するようになっている。すなわち、クリップ70は、装着状態で、接合フランジ部40の上端からハーネス枝線61を貫通させるのに十分な深さにハーネス支持部71が位置するともに、ハーネス支持部71の長手方向は、ハーネス枝線61を支持するのに十分な長さになるように構成されている。また、ハーネス枝線61は、ボディサイドウェルト50の逆U字状部分の両端によって、接合フランジ部40の切り欠き部41の底部端縁より奥側(下側)の領域に挟持されている。
【0026】
さらに、図7に示すように、接合フランジ部40の切り欠き部41が形成されている部分は、車両内側に迂曲され、クリップ70の車両外側の端縁部が、接合フランジ部40の一般部よりも車両内側に配置されるようにしてある。
【0027】
以上の構成により、本実施形態の車両のサイドシル構造によれば、接合フランジ部40に切り欠き部41を形成し、当該切り欠き部41にハーネス枝線61を貫通させるようにしたので、ハーネス枝線61を接合フランジ部40の上端より上方に張り出させることなく配索することができる。このため、上方から作用する荷重によってハーネス枝線61が接合フランジ部の端縁に押し付けられて断線されるのを抑制できる。
【0028】
また、切り欠き部41の端縁部を覆うクリップ70を設けるとともに、切り欠き部41の開放側(上側)にボディサイドウェルト50を設け、ハーネス枝線61が該クリップ70とボディサイドウェルト50とで囲まれる領域80内を貫通するようにしたので、当該ハーネス枝線61がボディサイドシルアウタパネル12上に露出することがなく、乗降時に乗員等に踏まれて損傷することを抑制することができる上、見栄えが悪くなるのを防ぐことができる。加えて、かかる構成によれば、ハーネス枝線61は、接合フランジ部40の端縁や、キッキングプレートインナ20とは直接的には当接しない。すなわち、外方からの押圧力が直接的に作用せず、また鋭利な部分に直接当接しないので、ハーネス枝線61の被覆が剥がれたり切断されたりするのを抑制することができる。また、ハーネス枝線61は、接合フランジ部40の切り欠き部41の底部端縁より奥側(下側)の領域で、ボディサイドウェルト50によって挟持される。このため、ハーネス枝線61のがたつきも抑制することができる。
【0029】
また、ハーネス支持部71は、接合フランジ部40の上端から、ハーネス枝線61を貫通させるのに十分な深さに位置しているので、キッキングプレートアウタ30側から荷重が作用した場合にも、ボディサイドウェルト50を介して、クリップ70の脚部72の上面が荷重を受けることとなり、ハーネス枝線61は当該荷重を受けることがなく、ハーネス枝線61の断線を抑制できる。
【0030】
また、クリップ70を装着した状態で、該クリップ70(の脚部72)の上端部が接合フランジ部40の上端の高さより低い位置となるように構成されているので、接合フランジ部40を被覆するボディサイドウェルト50が上方へ張り出すことがない。したがって、ボディサイドウェルト50の見栄えが損なわれるのを防ぐことができる。
【0031】
さらに、接合フランジ部40の切り欠き部41が形成されている部分を車両内側に迂曲するようにしたので、接合フランジ部40の一般部の車室外側端縁よりも車室内側に、クリップ70の設置スペースを確保することができる。これにより、ボディサイドウェルト50を取り付けた際に、該ボディサイドウェルト50が車両外側へ張り出すのを抑制することができ、ドア2の乗降口の外観が損なわれるのを防ぐことができる。また、取り付け作業時に、クリップ70を取り付ける部位を容易に視認できるようになり、作業性が向上するという利点もある。この場合、特に、接合フランジ部40の一般部の車室外側端縁と、クリップ70の車室外側端縁とが略一直線上に配置されるようにするのが好適である。
【0032】
(第2実施形態)図8は本発明の第2実施形態を示しており、図8はクリップ一体型キッキングプレートアウタの斜視図である。なお、以下では第1実施形態と同一構成部分に同一符号を付し、重複する説明部分を省略する。
【0033】
この第2実施形態にかかるサイドシル構造1Aでは、図8に示すように、キッキングプレートアウタ30Aとクリップ70Aとが一体に成形され、クリップ一体型キッキングプレート90を形成している。すなわち、脚部72の車両外側の側面が、キッキングプレートアウタ30の車両内側の側面と結合している。
【0034】
本実施形態の車両のサイドシル構造によれば、キッキングプレートアウタ30Aとクリップ70Aとが一体成形されることによって、クリップ70Aとキッキングプレートアウタ30Aとの取り付け位置の調整が不要となり、これらの部品の取り付け精度が向上する。また、部品点数が削減される分、コスト的にも有利である。
【0035】
ところで、本発明のサイドシル構造は、上記実施形態には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態におけるドア開口部の外観図(斜視図)。
【図2】本発明の第1実施形態におけるサイドシル構造(図1のA−A断面)の断面図。
【図3】本発明の第1実施形態におけるサイドシル構造の要部を示す斜視図。
【図4】本発明の第1実施形態におけるキッキングプレートアウタの斜視図。
【図5】本発明の第1実施形態におけるクリップが取り付けられた接合フランジ部を示す側面図。
【図6】本発明の第1実施形態におけるクリップの外観図(斜視図)。
【図7】本発明の第1実施形態におけるクリップが取り付けられた接合フランジ部を示す平面図。
【図8】本発明の第2実施形態におけるクリップ一体型キッキングプレートアウタの斜視図。
【符号の説明】
【0037】
10 ボディサイドシル
11 ボディサイドシルインナパネル
12 ボディサイドシルアウタパネル
30、30A キッキングプレートアウタ(キッキングプレート)
33 照明装置
40 接合フランジ部
41 切り欠き部
70、70A クリップ
90 クリップ一体型キッキングプレートアウタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボディサイドシルインナパネルおよびボディサイドシルアウタパネルを、夫々の上面から上方に張り出すフランジ部同士で接合してなるボディサイドシルと、前記ボディサイドシルアウタパネルの上面に取り付けられるキッキングプレートと、前記キッキングプレートを電気的に装飾するための照明装置と、を備えた車両のサイドシル構造において、
前記接合フランジ部には、前記照明装置に接続されるハーネスを貫通させる切り欠き部が形成されていて、
該切り欠き部には、その端縁部を覆うクリップが跨設され、該クリップ上に前記ハーネスが配索されていることを特徴とする車両のサイドシル構造。
【請求項2】
前記接合フランジ部の前記切り欠き部が形成されている部分は、車両内側に迂曲していることを特徴とする請求項1に記載の車両のサイドシル構造。
【請求項3】
前記キッキングプレートと前記クリップとは、一体に成形されていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両のサイドシル構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−96198(P2006−96198A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−285124(P2004−285124)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】