説明

車両のステアリング装置

【課題】車体に支持するメインハウジングと、これに軸方向移動可能に支持する可動コラム部材との間のガタの防止を、少ない部品点数で安価に実現する。
【解決手段】軸方向に延在する一対の側壁部11、12間が開口すると共に軸方向の両端に開口部を有する筐体のメインハウジング10に対し、両端の開口部の一方を介して筒体の可動コラム部材20が収容される。単一の弾性部材(板ばね40)が、その一対の押圧部41、42にて(押圧部材50を介して)可動コラム部材を押圧した状態で、一対の固定部43、44にてメインハウジングに固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のステアリング装置に関し、特に、ステアリングホイールの車体前後方向の操作位置を調整し得るステアリング装置に係る。
【背景技術】
【0002】
ステアリング装置においては、連結されたコラム部材相互のガタを防止するため、従来から種々の対策が講じられている。このうち、ステアリングホイールの車体前後方向の操作位置を調整し得るステアリング装置については、特に、車体に支持される固定コラム部材と、これに移動可能に連結される可動コラム部材との間のガタ防止が肝要である。例えば下記の特許文献1には、「互いに連結される部材間の連結の剛性をより高くできるとともに、振動をより抑制することのできるステアリングコラムのガタ防止構造を提供すること」を目的とし、「ステアリングシャフトを回転可能に支持し、相対摺動可能に嵌合された、ステアリングコラムのアウターチューブおよびインナーチューブの間のガタを防止する、ステアリングコラムのガタ防止構造において、上記アウターチューブに形成され、上記アウターチューブの軸方向に離隔する複数の孔と、各上記孔に各上記孔の深さ方向に移動可能に嵌合され、上記インナーチューブを押圧可能な押圧部材と、各上記孔の内周面に弾性係止され、上記深さ方向とは反対方向への対応する押圧部材の移動を規制するプッシュナットと、各上記押圧部材を上記インナーチューブ側へ弾性的に付勢する付勢部材と」を備えた装置が提案されている。
【0003】
また、下記の特許文献2には、「テレスコピック動作における可動ブラケットの固定ブラケットに対する回転運動が発生せず、簡単な構成で円滑なテレスコピック動作が可能なテレスコピックステアリング装置を提供する」ことを課題とし、「車体に固定される固定ブラケットと、前記固定ブラケットに回転可能に支持された固定シャフトと、前記固定ブラケットに軸方向に摺動可能に嵌挿された可動ブラケットと、前記固定シャフトに対して移動可能且つ一体回転可能に連結されるとともに前記可動ブラケットに回転可能に支持された可動シャフトと、前記可動ブラケット及び前記可動シャフトを前記固定ブラケット及び前記固定シャフトに対して軸方向に移動させる移動機構とを有するテレスコピックステアリング装置において、前記可動ブラケットの前記固定ブラケットに嵌挿される外周部は、少なくとも一個所の平面部を有し、前記平面部に当接する平面端部を有する当接部材が前記固定ブラケットに固定されている」装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−208588号公報
【特許文献2】特開2001−310741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の固定コラム部材と可動コラム部材は夫々、特許文献1に記載のアウターチューブとインナーチューブに対応し、特許文献2に記載の固定ブラケット(ステアリングコラム及びロアチューブ)と可動ブラケット(テレスコピックチューブ及びアッパーチューブ)に対応しているが、何れも筒状部材(外筒と内筒)であり、両筒状部材間のガタ防止として、外筒に形成された孔を介して内筒を押圧する押圧部材が用いられている。具体的な構成としては、特許文献1では、プッシュナットや、付勢部材として板ばねや皿ばねが必要とされ、特許文献2では皿ばね、スペーサ、スナップリング及びブッシュが必要とされている。
【0006】
特に、上記の固定コラム部材について、特許文献1では固定ブラケットの実施例として「円筒状のアウターチューブ2」を挙げ、特許文献2では「ステアリングコラム1とロアチューブ11」を挙げているように、筒状部材(外筒)が前提とされているので、可動コラム部材(内筒)との間のガタ防止構造には自ずから制限があり、必然的に部品点数が多くなる。例えば、特許文献1では、押圧部材のほかにプッシュナットや複数の皿ばねが必要とされ、部品点数が多く、押圧部材とプッシュナットとの組付けが困難である。また、特許文献2では、複数の皿ばねや、これらをアウターチューブに固定するスナップリングが必要となり、部品点数が多く、組付けも容易ではない。尚、以下においては、上記の固定コラム部材との混同を避けるため、メインハウジングを用いる。
【0007】
そこで、本発明は、少なくとも車体前後方向のステアリングホイール操作位置を調整し得る車両のステアリング装置において、車体に支持するメインハウジングと、これに軸方向移動可能に支持する可動コラム部材との間のガタの防止を、少ない部品点数で安価に実現し得るステアリング装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するため、本発明は、車体に支持するメインハウジングと、該メインハウジングに対し軸方向移動可能に支持する可動コラム部材を備え、該可動コラム部材に連結するステアリングホイールに対し少なくとも車体前後方向の操作位置を調整し得る車両のステアリング装置において、前記メインハウジングが、軸方向に延在する一対の側壁部を有し、該一対の側壁部間が開口すると共に軸方向の両端に開口部を有する筐体であって、前記可動コラム部材が、前記筐体の両端の開口部の一方を介して前記筐体内に収容する筒体であり、該筒体に対し軸方向に所定距離離隔した位置で押圧する一対の押圧部と、該一対の押圧部間で前記一対の側壁部の端面に夫々固定する一対の固定部を有する単一の弾性部材を備え、該弾性部材を、前記可動コラム部材に対し前記一対の押圧部を介して押圧した状態で前記一対の固定部にて前記メインハウジングに固定することとしたものである。
【0009】
前記可動コラム部材は、前記筒体の外面に軸方向に延在する平面部を有するものとし、該平面部に対し前記弾性部材の一対の押圧部が押圧するように配置するとよい。更に、前記弾性部材の一対の押圧部に夫々、押圧部材を具備したものとし、該押圧部材を介して前記可動コラム部材の平面部を押圧する構成とするとよい。
【0010】
特に、前記弾性部材を、前記一対の固定部及び前記一対の押圧部を有する板ばねで構成し、前記押圧部材は、前記可動コラム部材の平面部に当接する平面部を有し、該平面部が前記板ばねの弾性変形とは無関係に常時前記可動コラム部材の平面部と面接触するように、前記押圧部材を前記板ばねにフローティング支持する構成とするとよい。そして、前記板ばねは、平面視略菱形とし、対向する一対の角部に前記一対の固定部を有すると共に、対向する他の一対の角部に前記一対の押圧部を有し、前記一対の押圧部の一方と前記一対の固定部との間に折曲部を形成すると共に、前記一対の押圧部の他方と前記一対の固定部との間に折曲部を形成し、前記一対の押圧部を含む面と前記一対の固定部を含む面との間に段差を形成するとよい。
【0011】
上記のステアリング装置において、前記メインハウジングは、前記一対の側壁部間の寸法が前記可動コラム部材を構成する筒体の直径より大であって、前記筐体の内壁が前記可動コラム部材の外面に適合する曲面を有する形状とするとよい。例えば、前記メインハウジングは、軸方向に対し直交する断面形状を、前記一対の側壁部を含みU字形状とするとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、本発明のステアリング装置においては、メインハウジングが、一対の側壁部間が開口すると共に軸方向の両端に開口部を有する筐体であって、可動コラム部材が、両端の開口部の一方を介して筐体内に収容される筒体であり、この筒体に対し軸方向に所定距離離隔した位置で押圧する一対の押圧部と、これらの押圧部間で一対の側壁部の端面に夫々固定する一対の固定部を有する単一の弾性部材を備え、この弾性部材を、可動コラム部材に対し一対の押圧部を介して押圧した状態で一対の固定部にてメインハウジングに固定するように構成されているので、部品点数が少なく安価で確実にメインハウジングと可動コラム部材との間のガタを防止することができると共に、良好な組付性を確保することができる。しかも、メインハウジングを金属のダイキャストによって製造することができるので、部品点数が少なく、加工や組付が容易で、安価な装置を提供することができる。
【0013】
更に、可動コラム部材の外面に形成した平面部に対し弾性部材の一対の押圧部が押圧するように配置すれば、可動コラム部材の軸を中心とする回転を容易且つ確実に防止することができる。そして、弾性部材の一対の押圧部に夫々具備した押圧部材を介して、可動コラム部材の平面部を押圧する構成とすれば、従来装置のようなプッシュナットやスナップリングを必要とすることなく、少ない部品点数で確実にメインハウジングと可動コラム部材との間のガタを防止することができる。
【0014】
特に、弾性部材を板ばねで構成し、押圧部材の平面部が板ばねの弾性変形とは無関係に常時可動コラム部材の平面部と面接触するように、押圧部材を板ばねにフローティング支持する構成とすれば、従来装置のように複数の皿ばねを必要とすることなく、一枚の板ばねによって所望の押圧力を確保することができる。また、上記の平面視略菱形の板ばねを用いれば、少ないばね材料によって薄く形成した場合にも所望の押圧力を確保することができるので、弾性部材を安価に構成することができる。
【0015】
上記のステアリング装置において、メインハウジングの側壁部間の寸法を可動コラム部材を構成する筒体の直径より大とし、例えばメインハウジングの断面形状をU字形状とすれば、メインハウジングの開口から可動コラム部材を容易に組み付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るステアリング装置の平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るステアリング装置の側面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るステアリング装置の横断面図である。
【図4】本発明の一実施形態の縦断面図で、図3のA−A線断面図である。
【図5】本発明の一実施形態の縦断面図で、図3のB−B線断面図である。
【図6】本発明の一実施形態における板ばねの変位−荷重特性図である。
【図7】本発明に供される板ばねの他の実施例を示す斜視図である。
【図8】本発明に供される板ばねの他の実施例を示す平面及び側面図である。
【図9】本発明に供される板ばねの更に他の実施例を示す斜視図である。
【図10】本発明に供される板ばねの更に他の実施例を示す平面及び側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の望ましい実施形態を図面を参照して説明する。図1乃至図5は本発明の一実施形態に係るステアリング装置を示すもので、本実施形態においては、ステアリングシャフト1は、後端部にステアリングホイール(図示せず)が接続される筒状のアッパシャフト1aと、このアッパシャフト1aの前端部とスプライン結合されるロアシャフト1bから成る。即ち、アッパシャフト1aとロアシャフト1bが軸方向に相対移動可能に連結されており、ロアシャフト1bの前端部が転舵機構(図示せず)に接続されている。この転舵機構はステアリングホイールの操作に応じて駆動されて車輪操舵機構(図示せず)を介して操舵輪(図示せず)を転舵するように構成されている。
【0018】
そして、ステアリングシャフト1と同軸にメインハウジング10が配置され、車体(図示せず)に対する揺動中心C回りに揺動可能に支持されると共に、固定ブラケット30に保持される。この固定ブラケット30は、車両の下方に延出して対向する一対の保持部(図2に一方の保持部31が表れている)を有し、これらの間にメインハウジング10が保持され、図1の紙面垂直方向で車体に固定される。更に、固定ブラケット30の一対の保持部(31)とメインハウジング10との間に、夫々押圧機構(図示せず)が介装され、これによってメインハウジング10が摺動自在に押圧支持される。
【0019】
メインハウジング10内には、可動コラム部材20が軸方向に移動可能、即ち、車体前後方向に移動可能に支持されている。この可動コラム部材20として、ステアリングシャフト1を収容し軸を中心に回転可能に支持する金属製のインナチューブ21と、このインナチューブ21を収容し常時はインナチューブ21を所定位置に保持する金属製のアウタチューブ22が設けられており、インナチューブ21はアッパチューブとも呼ばれ、アウタチューブ22はテレスコピックチューブとも呼ばれる。図3に二点鎖線で示すように、アッパシャフト1aは、インナチューブ21の後端部に軸受(図示せず)を介して回転可能に支持されるが、アッパシャフト1aとインナチューブ21との間の軸方向相対移動は規制され、アッパシャフト1aとインナチューブ21は一体となって軸方向移動し得るように構成されている。
【0020】
而して、メインハウジング10に対し、アウタチューブ22、インナチューブ21、ステアリングシャフト1及びステアリングホイール(図示せず)が一体となって軸方向に移動可能とされてテレスコピック機構2が構成され、これにより、ステアリングホイールを所望の車体前後方向位置に調整することができる。更に、ステアリングシャフト1に対し所定値以上の荷重が印加されたときには、アウタチューブ22に対するインナチューブ21の軸方向相対移動(ひいてはアッパシャフト1aの軸方向移動)を許容するように構成されており、本実施形態のインナチューブ21及びアウタチューブ22は、両者間に介装される環状の摩擦材(例えば、金属製弾性ブッシュ)等と共に、エネルギー吸収手段として機能する。
【0021】
本実施形態のメインハウジング10は、図1乃至図3に示すように、軸方向に延在する一対の側壁部11及び12を有する金属(例えばアルミニウム)ダイキャスト製の筐体で構成されており、側壁部11及び12間が車体上方に開口すると共に軸方向の両端に開口部10a、10bが設けられている。側壁部11及び12間の寸法は可動コラム部材20を構成するアウタチューブ22の直径より大とされており、メインハウジング10の内壁は可動コラム部材20の外面に適合する曲面を有し、図4に示すように、メインハウジング10は、その軸方向に対し直交する断面形状が、側壁部11及び12を含みU字状に形成されている。このように、メインハウジング10は軸方向に延在する側壁部11及び12間で(図4の上方に)開口している筐体であるので、例えばアルミダイキャストで容易に製造することができ、その内壁も、製造時に所望の形状(アウタチューブ22の外面に適合する曲面)に容易に形成することができる。一方、アウタチューブ22は金属製の円筒体で、その外面に軸方向に延在する平面部22aが形成されている。そして、単一の弾性部材たる板ばね40が、アウタチューブ22の平面部22aを押圧した状態でメインハウジング10に固定される。尚、本実施形態では、図3に示すように、アウタチューブ22は車体前方側の開口部10bを介してメインハウジング10内に収容され、この開口部10bに、ロアシャフト1bを回転自在に支持する軸受部13(図2)が装着される。
【0022】
本実施形態の板ばね40は、図1乃至図3に示すように、アウタチューブ22の平面部22aに対し軸方向に所定距離離隔した位置で押圧する一対の押圧部41及び42と、これらの押圧部41及び42間でメインハウジング10の側壁部11及び12の端面に夫々固定する一対の固定部43及び44を有する一枚の板状ばね部材である。そして、図1に示すように、押圧部41及び42の一方(41)と固定部43及び44との間に折曲部45が形成されると共に、押圧部41及び42の他方(42)と固定部43及び44との間に折曲部46が形成されており、図3に示すように、押圧部41及び42を含む面と固定部43及び44を含む面との間に段差が形成されている。而して、板ばね40の押圧部41及び42がアウタチューブ22の平面部22aを押圧するように配置され、固定部43及び44にて夫々ボルトBによって固定されると、アウタチューブ22に対し所望の押圧力が付与される。尚、板ばね40のメインハウジング10への固定方法としてはボルト固定に限らず、カシメあるいはピン圧入等、板ばね40を確実にメインハウジング10に固定できる方法であれば何れの方法でもよい。
【0023】
本実施形態では、板ばね40の押圧部41及び42に、穴(図示せず)が形成されており、これらの穴に夫々、若干のクリアランスを以って合成樹脂製の押圧部材(代表して50で表す)が装着され、この押圧部材50を介してアウタチューブ22の平面部22aを押圧するように構成されている。本実施形態の押圧部材50は有底筒体形状で、その底面が、図3及び図4に示すように、アウタチューブ22の平面部22aに当接する平面部50aとなっており、その先端に係止用の爪部51が形成されている。而して、押圧部材50が、板ばね40の穴に挿入されると、爪部51が板ばね40に係止され、押圧部材50の平面部50aが、板ばね40の弾性変形とは無関係に常時アウタチューブ22の平面部22aと面接触するように、板ばね40にフローティング支持される。
【0024】
更に、板ばね40の押圧部材50との接触部を曲面形状(R形状)とし、組付圧縮による板ばね40の変形状態において頂部(R頂点)が押圧部材50の中心と略一致するような形状とするとよい。このように形成することで、組付圧縮により板ばね40が撓んでも押圧部材50との接触状態が点接触となることを防ぎ、且つ、押圧部材50の中心で板ばね40の荷重を受けるため、押圧部材50のアウタチューブ22との接触面全体で均一な押圧荷重を確保することができる。
【0025】
一方、図1及び図3に示すように、メインハウジング10の内壁には、軸方向に所定距離離隔した位置に夫々、溝10dが形成されており、これらの溝10dに、軸受部材60を構成するブッシュ60a、60bが嵌合される。本実施形態の軸受部材60は、図3及び図4に示すように、半円形あるいはU字形状のブッシュ60a、60bが板状部60cで連結された合成樹脂製の一体成型部材で構成されているが、ブッシュ60a、60bを別体としてもよい。而して、メインハウジング10に対し軸方向移動可能のアウタチューブ22は、ブッシュ60a、60bを介して円滑に摺動することができる。この場合において、アウタチューブ22に対する軸受部材60の摺動面は押圧部材50と反対側に存在すればよく、従って、アウタチューブ22の全周に亘って摺動面を確保する必要は無い。但し、ブッシュ60a、60bの内径とアウタチューブ22の外径との差は前述のガタを生じないクリアランスに設定される。
【0026】
次に、図3及び図5に示すように、メインハウジング10の車体後方側の開口部10aの内径とアウタチューブ22の外径とのクリアランスは、運転者がステアリングホイール(図示せず)に荷重を加えた際にガタ感を感じない程度のクリアランスに設定される。このクリアランスは、少なくとも押圧部材50が設置される方向に設定されておればよく、その他の方向のクリアランスは大きくてもよい。尚、アウタチューブ22の全周に亘ってブッシュ(図示せず)で支持する場合には、このブッシュの内径とアウタチューブ22の外径との差は上記のクリアランスと等しくなるように設定するとよい。
【0027】
換言すれば、メインハウジング10の車体後方側の開口部10aの内径は、アウタチューブ22とのクリアランスが車体上方のみ所定の閾値以下となるように設定される。この閾値は、運転者がステアリングホイール(図示せず)に対し車体上方に力を加えたときにガタ感を感じないクリアランスの上限値とするとよい。アウタチューブ22は板ばね40の付勢力により車体下方に押し付けられており、運転者によって付与されるステアリングホイール上方への力が、組付け状態での板ばね40の発生荷重を上回ると、アウタチューブ22は板ばね40を変形させながら上方に動くことになるが、この動きが微小であれば、運転者はその動きをガタ感を感ずることはない。
【0028】
また、上記のクリアランスが0以下の場合には、テレスコピック作動時にメインハウジング10に対するアウタチューブ22の摺動抵抗が大きくなり、テレスコピック作動を妨げ、あるいは異音の原因となるおそれがある。従って、メインハウジング10の内径とアウタチューブ10の外径は、部品寸法のバラツキを考慮し、両者間のクリアランスの最小値が0より大きく、最大値が上記の閾値より小さくなるように設定される。これにより、アウタチューブ22がクリアランス分だけ上方に動くと、アウタチューブ22がメインハウジング10の開口部10aに当接するため、ステアリングホイール入力に対するステアリングコラムとしての剛性は大幅に増加する。図6はこの間の関係を説明するもので、板ばね40の設定荷重(F)を超えた車体上方へのステアリングホイール入力が付与されたときにも、アウタチューブ22がメインハウジング10の開口部10aに当接すると高剛性のメインハウジング10で移動が阻止されるので、運転者がガタ感を感じない範囲(N)を超えないように保持される。従って、破線で示すクリアランスが大きい場合に比べ、運転者がガタ感を感じない範囲を大きく超えることはない。
【0029】
ここで、図1乃至図3を参照して本実施形態の組み付け手順を説明すると、軸受部材60及びアウタチューブ22がメインハウジング10内に収容された後、板ばね40及び押圧部材50が車体上方からメインハウジング10に組みつけられ、板ばね40がメインハウジング10にボルト結合される。このとき、メインハウジング10の板ばね40の固定座面の高さ(図3に寸法Xで示す)は、板ばね40の圧縮高さ(図3の寸法(X−Y))が所望のばね荷重となるように設定される。
【0030】
このように構成することで、アウタチューブ22と軸受部材60が内蔵されたメインハウジング10に対し、板ばね40及び押圧部材50のサブアッセンブリをボルト結合すれば、所望の押圧荷重がアウタチューブ22に付与されることになる。また、押圧部材50の平面部50aがアウタチューブ22の平面部22aに当接した状態で、板ばね40の付勢力によって、押圧部材50がアウタチューブ22の軸中心方向に押圧されているので、アウタチューブ22の軸を中心とする回転は確実に阻止される。そして、軸受部材60がメインハウジング10内の車体下側に配置され、アウタチューブ22の下側外周面と軸受部材60の内壁が接触した状態で、軸受部材60によってアウタチューブ22が適切に支持されているので、その軸方向の摺動を円滑に行うことができる。
【0031】
次に、テレスコピック機構2の駆動部について説明する。本実施形態では、図2に示すように、メインハウジング10の側壁12に形成された開口部10c内を軸方向(車体前後方向)に移動可能にアタッチメント2aが配置され、アウタチューブ22に固着されている。このアタッチメント2aは金属製の有底筒体で、メインハウジング10の開口部10cの前端及び後端に当接し得るように配置され、その底部が、車体前方及び車体後方でアウタチューブ22の側面に溶接されている。
【0032】
また、メインハウジング10には電動モータ70が支持されており、その出力軸に螺子軸72が連結され、この螺子軸72に螺合するナット73が、アタッチメント2a内に配設されている。而して、電動モータ70による螺子軸72の回転駆動に応じて、アタッチメント2a内のナット73が螺子軸72の軸方向に移動し、ナット73(及び、アタッチメント2a)と共にアウタチューブ22(ひいては、インナチューブ21、アッパシャフト1a及びステアリングホイール(図示せず))が車体前後方向に移動するように構成されている。尚、電動モータ70の出力軸と螺子軸72との間に減速機構(図示せず)が介装されており、電動モータ70の出力が適切に減速されて螺子軸72に伝達される。更に、本実施形態においては、図1に示すように、固定ブラケット30の下方にチルト機構3が配設されているが、本願発明と直接関係するものではないので、これについては説明を省略する。
【0033】
上記の構成に成るテレスコピック機構2を駆動するときには、電動モータ70を起動し、その出力軸を回転駆動すると、その回転が減速機構(図示せず)を介して減速されて螺子軸72に伝達され、これに螺合するナット73が軸方向に移動し、このナット73が収容されたアタッチメント2aと共に、アウタチューブ22が軸方向に移動する。このアウタチューブ22の移動に伴い、インナチューブ21、アッパシャフト1a及びステアリングホイール(図示せず)が軸方向に移動するので、ステアリングホイールが所望の車体前後方向位置となったときに電動モータ70を停止すれば、ステアリングホイールを所望の操作位置に調整することができる。
【0034】
更に、本実施形態は、前述のようにエネルギー吸収手段としても機能し、以下のように衝撃吸収作動が行われる。例えば、図3に示す通常状態で、ステアリングホイール(図示せず)に対して、後方から所定以上の荷重が入力されると、アッパシャフト1aと一体的に連結されたインナチューブ21がアウタチューブ22に対し軸方向に移動する。即ち、インナチューブ21は、アッパシャフト1a及びステアリングホイール(図示せず)と共に、図3の通常状態の位置から前進し、所定の停止位置(図示せず)まで移動する。この間のインナチューブ21、アッパシャフト1a及びステアリングホイール(図示せず)の移動により、ステアリングホイールに対する衝撃が吸収される。即ち、ステアリングホイールに対して所定荷重を越える荷重が作用すると、インナチューブ21が漸次アウタチューブ22内に収容され、両者間に介装されている環状の摩擦材(符号省略)の摩擦力に抗してインナチューブ21が前進することにより、衝撃が吸収される。
【0035】
図7及び図8は弾性部材(図1では板ばね40)の他の実施例を示すもので、平面視略菱形の板ばね40xで構成され、対向する一対の角部に一対の固定部43x及び44xを有すると共に、対向する他の一対の角部に一対の押圧部41x及び42xを有し、押圧部41x及び42xの一方(41x)と固定部43x及び44xとの間に折曲部45xが形成されると共に、押圧部41x及び42xの他方(42x)と固定部43x及び44xとの間に折曲部46xが形成されている。これにより、図8に示すように、押圧部41x及び42xを含む面と固定部43x及び44xを含む面との間に段差が形成され、所望の押圧力が確保される。この板ばね40xは平面視略菱形で、図1に示す板ばね40に比べ、固定部43x及び44x近傍の面積が大きくなっているので、板ばね40xが、板ばね40より少ないばね材料によって薄く形成された場合にも所望の押圧力を確保することができる。
【0036】
図9及び図10は弾性部材の更に他の実施例を示すもので、板ばね40yは、固定部43y及び44yを含む面に、押圧部41y及び42yの中心を結ぶ線と平行に、一対の矩形のリブ47y及び48yを一体的に形成したものであり、これらのリブ47y及び48yによって、板ばね40yが、板ばね40より少ないばね材料によって薄く形成された場合にも所望の押圧力を確保することができる。尚、この板ばね40yは、固定部43y及び44yを含む面と押圧部41y及び42yを含む面が緩やかな面で接続されている。
【符号の説明】
【0037】
1 ステアリングシャフト
2 テレスコピック機構
3 チルト機構
10 メインハウジング
20 可動コラム部材
21 インナチューブ
22 アウタチューブ
30 固定ブラケット
40,40x,40y 板ばね(弾性部材)
50 押圧部材
60 軸受部材
60a,60b ブッシュ
70 電動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に支持するメインハウジングと、該メインハウジングに対し軸方向移動可能に支持する可動コラム部材を備え、該可動コラム部材に連結するステアリングホイールに対し少なくとも車体前後方向の操作位置を調整し得る車両のステアリング装置において、前記メインハウジングが、軸方向に延在する一対の側壁部を有し、該一対の側壁部間が開口すると共に軸方向の両端に開口部を有する筐体であって、前記可動コラム部材が、前記筐体の両端の開口部の一方を介して前記筐体内に収容する筒体であり、該筒体に対し軸方向に所定距離離隔した位置で押圧する一対の押圧部と、該一対の押圧部間で前記一対の側壁部の端面に夫々固定する一対の固定部を有する単一の弾性部材を備え、該弾性部材を、前記可動コラム部材に対し前記一対の押圧部を介して押圧した状態で前記一対の固定部にて前記メインハウジングに固定して成ることを特徴とする車両のステアリング装置。
【請求項2】
前記可動コラム部材は、前記筒体の外面に軸方向に延在する平面部を有し、該平面部に対し前記弾性部材の一対の押圧部が押圧するように配置して成ることを特徴とする請求項1記載の車両のステアリング装置。
【請求項3】
前記弾性部材の一対の押圧部に夫々、押圧部材を具備して成り、該押圧部材を介して前記可動コラム部材の平面部を押圧することを特徴とする請求項2記載の車両のステアリング装置。
【請求項4】
前記弾性部材を、前記一対の固定部及び前記一対の押圧部を有する板ばねで構成し、前記押圧部材は、前記可動コラム部材の平面部に当接する平面部を有し、該平面部が前記板ばねの弾性変形とは無関係に常時前記可動コラム部材の平面部と面接触するように、前記押圧部材を前記板ばねにフローティング支持して成ることを特徴とする請求項3記載の車両のステアリング装置。
【請求項5】
前記板ばねは、平面視略菱形で、対向する一対の角部に前記一対の固定部を有すると共に、対向する他の一対の角部に前記一対の押圧部を有し、前記一対の押圧部の一方と前記一対の固定部との間に折曲部を形成すると共に、前記一対の押圧部の他方と前記一対の固定部との間に折曲部を形成し、前記一対の押圧部を含む面と前記一対の固定部を含む面との間に段差を形成することを特徴とする請求項4記載の車両のステアリング装置。
【請求項6】
前記メインハウジングは、前記一対の側壁部間の寸法が前記可動コラム部材を構成する筒体の直径より大であって、前記筐体の内壁が前記可動コラム部材の外面に適合する曲面を有することを特徴とする請求項1乃至5の何れか一項に記載の車両のステアリング装置。
【請求項7】
前記メインハウジングは、軸方向に対し直交する断面形状が、前記一対の側壁部を含みU字形状であることを特徴とする請求項6記載の車両のステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−67309(P2013−67309A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208390(P2011−208390)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】