説明

車両のスライドドアの開閉駆動装置

【課題】プッシュプルチェーンを用いるスライドドアの開閉駆動装置の騒音や摩擦、摩耗の問題を解消する。
【解決手段】ドア枠2と略平行の経路に沿って、かつ、閉じる直前から閉じる位置までは進行方向に対して横向きの湾曲経路に沿って移動するスライドドア3に一端が連結され、一方向に屈曲自在で他方向の屈曲が制限されるプッシュプルチェーン15と、ドア枠2近辺に上下方向に延びる回転軸J廻りに回転自在に設けられ、前記プッシュプルチェーン15と噛み合うスプロケット16と、そのスプロケットを往復回転駆動するモータ駆動の駆動機構17と、前記プッシュプルチェーン15のスプロケット16と噛み合っている部位とドア3との間の屈曲側への座屈を規制するガイド18とを備えているスライドドアの開閉駆動装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のスライドドアの開閉駆動装置に関し、特に自動車の側面のスライドドアなどに用いられる開閉駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、図8a、図8bに示すような、自動車100の側面の開口部101を開閉する後部座席用のスライドドア102を電動で開閉駆動する開閉駆動装置103が開示されている。この開閉駆動装置103は、図9に示すように、スライドドア102を支持するローラ104と、そのローラを支持するブラケット105に一端が連結され、他端がモータで駆動されるドラム106に係止される前進用および後退用のインナーケーブル107、108と、それらのインナーケーブル107、108をガイドするガイドプーリ109とからなる。このものはドラム106に前進用インナーケーブル107を巻き取り、後退用インナーケーブル108を送り出すことにより、スライドドア102を前進させることができ、逆の作用で後退させることができる。
【0003】
さらにこの種のスライドドア102では、ローラ104をガイドするガイドレール110の前端近辺が車内側に湾曲しており、そのため、ドアが閉じられる直前からドアが全閉状態になる位置の間では、スライドドア102は平行状態を維持しながら湾曲経路に沿って車内側に移動し、閉じたときはスライドドア102が自動車100の車体の側面と面一になる。インナーケーブル107、108としては、引っ張り力のみ伝達するプルコントロールケーブルのインナーケーブルが用いられる。
【0004】
特許文献2には、インナーケーブルに代えて、無端状の歯付きベルトを用いるスライドドアの開閉駆動装置が開示されている。また、特許文献3には、モータによって往復回転駆動されるスプロケットと噛み合うプッシュプルチェーンによって、スライドドアを前進・後退させるスライドドアの開閉駆動装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−25971号公報
【特許文献2】特開平7−293109号公報
【特許文献3】特開2002−227523号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の開閉駆動装置103は、前進および後退の駆動力をインナーケーブル107、108によってスライドドア102に伝達するので、巻き掛け伝導手段であるインナーケーブル107、108はスライドドアドア102の前方と後方の両側に延びている必要がある。そのため、配索スペースが大きい。歯付きベルトを用いる特許文献2の開閉駆動装置も同様である。
【0007】
他方、特許文献3のプッシュプルチェーンを利用する開閉駆動装置は、1本のプッシュプルチェーンで押し方向と引き方向の力を伝達することができるので、一方の側(通常は後方)のみにプッシュプルチェーンが延びており、他方の側(通常は前方)には延ばす必要がない。したがってプッシュプルチェーンの配置スペースが小さくて済む。しかし前述のようにスライドドアは閉じる直前から全閉位置まで、湾曲した経路に沿って車内側に平行移動するので、プッシュプルチェーンに座屈が生じないようにプッシュプルチェーンの走行経路の全体にチェーンガイドを設けている。そのため、ドアの開閉のたびにプッシュプルチェーンとチェーンガイドとが摺接し、摺動音が耳障りである。また、摩擦による摺動抵抗もあり、摩耗の問題もある。
【0008】
本発明は上記のスライドドアの開閉駆動装置におけるプッシュプルチェーンの利点を維持しながら、騒音や摩擦、摩耗の問題を少なくすることを技術課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の車両のスライドドアの開閉駆動装置は、車両のドア枠と略平行の経路に沿って、かつ、閉じる直前から閉じる位置までは進行方向に対して横方向に湾曲する経路に沿ってドアが移動する、車両のスライドドアの開閉駆動装置であって、一端がドアに連結され、一方向に屈曲自在で他方向の屈曲が制限されるプッシュプルチェーンと、ドア枠近辺に、ドアの移動を案内する湾曲する経路を含む平面に対し略直角の回転軸廻りに回転自在に設けられ、前記プッシュプルチェーンと噛み合うスプロケットと、そのスプロケットを往復回転駆動する駆動機構と、前記ドアとの連結部位と前記プッシュプルチェーンのスプロケットと噛み合っている部位との間の屈曲側への座屈を規制する手段とを備えていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
(1)本発明の開閉駆動装置は、プッシュプルチェーンと噛み合って押し引き駆動するスプロケットが、ドアの移動を案内する湾曲する経路を含む平面に対し略直角の回転軸廻りに回転自在に設けられているので、ドアの湾曲経路に沿った移動に伴ってスプロケットから送り出されるプッシュプルチェーンの角度が変化しても、スプロケットへの巻き付け角度が変化することにより、対応することができる。この場合、プッシュプルチェーンは一方向に屈曲可能であるが、座屈を規制する手段がプッシュプルチェーンの屈曲を制限するので、開閉操作の途中に圧縮荷重による座屈が生ずるおそれが少なく、安全である。
【0011】
(2)前記座屈を規制する手段が、前記スプロケットの近辺に設けられた、プッシュプルチェーンをスプロケットから外れないように規制すると共に、スプロケットから離れていくプッシュプルチェーンのリンクの回動範囲を規制するガイドである場合は、スプロケットから押し出されようとするリンクが特定の角度範囲に規制され、それ以上は屈曲しない。この状態でそのリンクとドアと連結されているリンクとの間を屈曲可能な側に屈曲しようしても、他方向への屈曲が規制されるので、結局は屈曲が可能な方向にも屈曲できない。すなわち、屈曲可能な側に屈曲させて一方に凸となるように湾曲させる場合は、他方にも凸となる部分ができ、他方向の屈曲が必要になる。しかしその方向の屈曲は規制されているので、実際にはそのような屈曲は生じない。したがってプッシュプルチェーンの途中における座屈が防止される。
【0012】
(3)前記ガイドがスプロケットの回転軸廻りに回動自在であり、かつ、バネによってプッシュプルチェーンをスプロケットに巻き付ける方向に付勢されている場合は、ドアの移動に伴ってプッシュプルケーブルの角度が変化する場合に、その変化に追従しながらプッシュプルチェーンのスプロケットから離れた部位をスプロケットに巻き付けるように付勢することができる。そしてガイドによって付勢されたリンクのトルクないしモーメントは、順に隣接するリンクに伝えられ、スプロケットとドアの間のプッシュプルチェーン全体に対し、屈曲が制限される方向のトルクないしモーメントが与えられる。そのため、プッシュプルチェーンの回動角度が大きい場合でも、座屈が生じない。
【0013】
(4)前記駆動機構が、スプロケットを往復回転駆動する電動モータと減速機とを備えている場合は、ドアの開閉をスイッチ操作で容易に行うことができる。
【0014】
(5)前記減速機が自己拘束型の減速機であり、前記スプロケットと減速機との間に、トルク伝達のON/OFFを切り替えるクラッチ機構が介在されている場合は、電動モータへの通電をOFFにした場合でも、たとえば坂道に停車した自動車のドアが自重で勝手に閉じたりすることが防止される。また、クラッチをOFFにすることにより、手動操作でドアを開閉させることができる。
【0015】
(6)前記プッシュプルチェーンの、スプロケットに掛け回されて反転している部分の自由端を、スプロケットから離れる方向に引っ張る付勢手段を設ける場合は、クラッチをOFFにしたときでもプッシュプルチェーンに弛みが生じない。また、付勢手段の付勢力を適切に大きくすれば、電動モータを作動させずに自然とドアを閉じさせるようにすることも可能である。
【0016】
(7)前記電動モータとスプロケットの間に、回転力を伝えるトルクケーブルを介在させる場合は、電動モータの取り付け位置の自由度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の開閉駆動装置の一実施形態を自動車のスライドドアに適用した状態を示す要部側面図である。
【図2】図1の開閉駆動装置の平面図である。
【図3】図2の開閉駆動装置の要部拡大図である。
【図4】図3のIV-IV線断面図である。
【図5】本発明の開閉駆動装置の他の実施形態を示す平面図である。
【図6】本発明の開閉駆動装置の駆動機構の一実施形態を示す断面図である。
【図7】図7aおよび図7bはそれぞれ本発明に関わるプッシュプルチェーンの実施形態を示す平面図である。
【図8】図8aは従来の開閉駆動装置を備えた自動車を示す一部切り欠き側面図、図8bはその自動車の一部切り欠き平面図である。
【図9】その開閉駆動機構の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1および図2に示す開閉駆動装置10は、自動車1の後部のドア枠2に沿って前後にスライド自在に設けられるドア3を開閉駆動するものである。ドア3は自動車11の側面の上部に設けられるアッパーレール4、中央部に設けられるセンターレール5および下部に設けられロアレール6によってガイドされる。アッパーレール4とロアレール6はドア枠2の前端近辺まで延びており、センターレール5はドア枠2の後端近辺まで延びている。いずれのレール4、5、6も前端近辺では図2に示すように、車内側に湾曲している。
【0019】
ドア3にはそれぞれのレール4、5、6に対応するアーム7が設けられ、それらのアーム7にレール上を転動する走行ローラ8が回転自在に取付けられている。この実施形態では、開閉駆動装置10はセンターレール5を転動する走行ローラ8を支持するアーム7を駆動するようにしている。ただし他のアームを駆動するようにしてもよい。アーム7は車外に設けられているが、車体の側面パネル11には、車内と車外を貫通するスリットが形成され、そのスリットに通されるブラケット13がアーム7と共にローラ8を支持する軸14を支持している。
【0020】
開閉駆動装置10は、一端がドア3に回動自在に連結されるプッシュプルチェーン15と、自動車1の後端近辺に鉛直方向の回転軸J廻りに回転自在に設けられ、前記プッシュプルチェーン15と噛み合うスプロケット16と、そのスプロケットを往復回転駆動する駆動機構(図1の符号17)と、プッシュプルチェーン15の背面側の屈曲を規制するガイド18とを備えている。
【0021】
プッシュプルチェーン15は、押し引き両方向の力を伝達することができ、かつ、一方向に屈曲自在で他方向の屈曲が制限される機能を備えたチェーンである。本実施形態のプッシュプルチェーン15は、図4に示すように、略矩形状の外側リンク20と、それらのリンクの内側に設けられる内側リンク21と、外側リンク20と内側リンク21を回動自在に連結するピン22と、ピンの外周に回転自在に設けられる円筒状のローラ23とからなる、いわゆるローラチェーンである。
【0022】
図3に示すように、ピン22は、各リンク20、21の中心から一方の側(図3における右側)に偏って配列されており、その側における外側リンク20の角20aは略円弧状に形成されている。また、外側リンク20の両方の端面20bはリンク20の長手方向に対して略直角である。なお、ピン22から遠い側のリンク20の角20cは丸くされていない。内側リンク21についても外側リンク20と実質的に同一である。そのため、隣接する外側リンク20と内側リンク21、ひいては外側リンク20同士は、ピン22が偏っている側が凹状となるように屈曲可能であり、他の側では外側リンク20の隣接する端面20b同士が当接するので、屈曲が規制される。
【0023】
屈曲可能な側には、外側リンク20と内側リンク21は約90度程度まで屈曲可能であり、外側リンク20同士は180度程度まで屈曲可能である。ただし屈曲可能な側についても、たとえば90〜120度程度まで屈曲でき、それ以上は屈曲できないように規制することもできる。プッシュプルチェーン15の先端リンク15aは、図3に示す台形状のブラケット13、軸14およびアーム7を介してドア3に連結されている。
【0024】
前記スプロケット16は、プッシュプルチェーン15の屈曲側に設けられ、プッシュプルチェーン15と噛み合っている。すなわちスプロケット16の周囲には、プッシュプルチェーン15のローラ23同士の隙間23a(図4参照)に嵌合され、ローラ23と係合する歯16aが列設されている。スプロケット16は、図4に示すように、略コ字状のブラケット25に取付けられる電磁クラッチ26の出力軸27に固定されており、ブラケット25はドア枠2に固定されるベース28に固定されている。電磁クラッチ26の入力側には、ウォームギヤ減速機Gと、図3に示すモータMとが取付けられている。この実施形態では、電磁クラッチ26と、ウォームギヤ減速機Gと、モータMとで駆動機構を構成している。電磁クラッチ26は、電気系統のトラブルでモータ駆動ができないときに手動でドア3を開閉できるようにするためのものである。そのため、非通電時に「切り」になり、通電時に「入り」になるものが好ましい。
【0025】
モータMの出力軸は図4に示すウォーム減速機Gのウォーム29に結合され、そのウォームはウォームホイール30と噛み合っている。ウォームホイール30は電磁クラッチ26の入力軸に共廻りするように固定されている。なお、ウォーム29は図3に示すように自動車の前後方向に延びているが、図4ではウォームホイール30との噛み合い状態を理解しやすいように、紙面に直角方向に延びるように記載している。符号31はウォーム29およびウォームホイール30をそれぞれ回転自在に支持するハウジングであり、そのハウジング31にモータMを取付ける取付け部(図3の符号32)が設けられている。符号33は電磁クラッチ26を収容するクラッチケースであり、ハウジング31はそのクラッチケース33にネジ34によって固定されている。
【0026】
前記ブラケット25には、さらに前述のプッシュプルチェーン15の背面側の屈曲を規制するガイド18がボルト35、スペーサ36およびナット37によって取付けられている。この実施形態では、ガイド18はプッシュプルチェーン15の内側リンク21の間に入り込み、ローラ23と接してガイドする板状のものである。ガイド18はボルト35の周囲に嵌合される筒状のスペーサ36によって支持され、ボルト35とナット37によってブラケット25に固定される。ガイド18の正面形状は、図3に示すように、自動車の壁面パネルに沿う部分(直線部)が前後に延びるように、スプロケット16の接線方向に延びており、他の部位(湾曲部)ではスプロケット16と同心状に円弧状に湾曲している。
【0027】
ガイド18の内面側は、プッシュプルチェーン15のリンク20、21が移動するときの外側の角20cの軌跡の円弧状にされている。ガイド18の湾曲部は、プッシュプルチェーン15がスプロケット16によって押し出されるときに、スプロケット16から外れないように支持する作用を奏する。さらにガイド18の直線部18aは、リンク20、21の回動範囲を規制し、プッシュプルチェーン15の座屈を防止する作用を奏する。
【0028】
すなわち、この実施形態ではプッシュプルチェーン15のスプロケット16とドア3の間の部分(作動側、図3の下側の部分。なお、「図3の下側」とは、図3の符号が正しく読める向きにおける下側の意味であり、そのときの上側を縦長紙面の左側になるように配置したときは、紙面の右側を意味する。以下、同様)では図3における上向き(車内向き)に凸となるようには湾曲しないので、座屈するとすれば図3における下向き(車外向き)に凸になるように湾曲することになる。また、ガイド18の直線部18aと接しているリンク20、21がガイド18によって図3における反時計方向の回動が規制されているので、先端リンク18aとスプロケット16と噛み合っているリンクとの間のプッシュプルチェーン15には図3における右向きのテンションがかかり、プッシュプルチェーン15は結局は下向きに凸になるように湾曲することも規制される。
【0029】
つぎに図2および図3を参照して上記のように構成される開閉駆動装置10の作用を説明する。ドア3が開いているときは、ドアは実線のように自動車の側壁パネルに重なるようにいくらか車外側に突出し、かつ、側壁パネルと略平行に配置されており、プッシュプルチェーン15は車内に引き込まれている。プッシュプルチェーン15のリンク20、21はピン22がある側に屈曲することができるので、スプロケット16に沿って湾曲することができ、スプロケット16に噛み合うことができる。プッシュプルチェーン15のスプロケット16に巻き付けられて180度方向を変え、自動車の前側に延びている部分(戻り側)の先端はスプリングに代表される付勢部材(図1の符号38)により引っ張られている。このように引っ張って張力を加えておくと、絡まるおそれがなく、プッシュプルチェーン15がスプロケット16と噛み合った状態を維持することができる。付勢部材38としては、引っ張りコイルスプリングのほか、エアシリンダ、圧縮コイルスプリングなどが用いられる。
【0030】
開閉駆動装置10を作動させるときは、始めに電磁クラッチ26を「入り」にしておく。この状態からスプロケット16を図の時計廻り方向に回転させるようにモータMを回転させると、モータMの回転はウォーム減速機Gおよび電磁クラッチ26を介してスプロケット16に伝えられる。そしてスプロケット16の回転に伴い、プッシュプルチェーン15の作動部が前方に押し出されていく。このとき、プッシュプルチェーン15の背面側(図3の下側)がガイド18によって支持されるので、押し出されたプッシュプルチェーン15は図3の下向き(車外向き)に凸になるように屈曲できない。また、図3の上向き(車内側)に凸となるようには構造的に屈曲できない。そのため、前述の理由でプッシュプルチェーン15は真っ直ぐに前向きに延びていく。ドア3の重量は走行ローラ8を介してレール4、5、6によって支持されているので、プッシュプルチェーン15に加わる圧縮力は走行に伴う転動摩擦抵抗だけであり、プッシュプルチェーン15は充分に耐えることができる。
【0031】
そしてスプロケット16がさらに図3の時計方向に回転すると、図2の矢印Pで示すように、プッシュプルチェーン15がドア3を前端まで押し込んでいく。この場合、ドア3が開口部を閉じる位置の直前から湾曲しているレール4、5、6に案内されながら次第に車内側に入り込む。そのため、プッシュプルチェーン15の先端部もドア3の内側への移動に伴って次第に車内側に移動し、作動部全体が想像線のように傾斜していく。しかしプッシュプルチェーン15は、スプロケット16の近辺ではガイド18と接しているので、圧縮力が大きくなっても前述と同様の理由で屈曲しない。
【0032】
上記のように、ガイド18の直線部は、ドア3との連結部とスプロケット16との間の範囲でプッシュプルチェーン15を屈曲しないように規制する手段として作用する。なお、図3の実施形態では、ドア3と連結されているプッシュプルチェーン15の先端リンク15aはドア3に対して回動自在であるが、この先端リンク15aを所定の角度以上には回動しないように規制するストッパをドア3あるいはブラケット13に設けてもよい。その場合は一層座屈が防止される。また、先端リンク15aおよびブラケット13を図3の反時計方向(屈曲が規制されている方向)に付勢する手段、たとえばねじりコイルスプリングなどのバネをブラケット13とアーム7またはドア3との間に設けてもよい。
【0033】
ドア3を開くときは、モータMを前述とは逆に回転させる。それによりスプロケット16は反時計方向に回転し、プッシュプルチェーン15を引き込んでいく。この場合はプッシュプルチェーン15に張力が作用しているので、座屈が生じない。またプッシュプルチェーン15の戻り側(図3の上側)は付勢部材38で引っ張られているので、張力が作用しており、絡まったりしない。
【0034】
ドア3を途中まで閉じた状態で、あるいは開く途中で止めるときは、モータMの回転を止める。その場合は自動車が坂に止まっている場合は、ドア3の重量に基づき、プッシュプルチェーン15を介してスプロケット16にトルクが加わる。しかしこの実施形態では、電磁クラッチ26が「入り」になっており、かつ、自己拘束性を有するウォーム減速機Gを採用しているので、スプロケット16の回転が拘束される。そのため、ドア3は途中まで開いた状態が維持される。ドア3を手動操作で開閉する場合は、電磁クラッチ26を「切り」にする。
【0035】
なお、ドア3が全閉位置あるいは全開位置まで移動したとき、電磁クラッチ26を自動的に「切り」にすると共に、モータMを停止させるように制御してもよい。ドア3は全閉位置でも、いわゆるハーフラッチ状態であるので、その後、公知のモータ駆動によるオートクロージャによってフルラッチ状態までラッチを強制的に回転させる。ドアを開けるときは、モータ駆動で強制的にラッチを開くオープナが用いられる。
【0036】
図1〜3の開閉駆動装置10では、前述のように、スプロケット16の回転軸が自動車の上下方向、すなわち湾曲しているセンターレール7を含む平面(ここでは水平面)に対して略直角の軸心廻りに回転するので、プッシュプルチェーン15の先端とスプロケット16に巻き付けられた部位の間の棒状の部分がスプロケット16の回転軸を中心にして回動する。そのため、ドア3の車内側への移動に対して追従することができる。しかしガイド18はブラケット25に固定されているので、ドア3が全閉位置近くまで閉じる場合は、スプロケット16から離れようとするリンク20、21がガイド18によって充分にガイドされないことがある。すなわち各リンク20、21の2本のピン22およびローラ23のうち、1本がスプロケット16の歯に係合し、他の1本がスプロケットから離れている場合は、そのリンクは係合しているピン22廻りに回動自在で、ドアの開き始めではガイド18とスプロケット16の間で向きが定まりにくい。
【0037】
図5の開閉駆動装置40は、このような問題を解決するものであり、この開閉駆動装置40では、略円弧状のガイド部41と扇状の側壁42を備えた回動部材43をスプロケット16の回転軸Jを中心として回動自在に設けると共に、その回動部材43を渦巻きスプリング(ゼンマイバネ)44などのバネに代表される付勢部材で図の時計回り方向に付勢する構成としている。ガイド部41の先端側41aはスプロケット16の接線方向にいくらか突出している。他の構成は図1〜4の開閉駆動装置10と同様である。渦巻きスプリング44の外側あるいは内側の一端はブラケット25に係止し、あるいはブラケット25に固定したスプロケット16のケースなどに係止し、他の一端はスプロケット16に係止する。なお、回動部材43の回動範囲を規制するためのストッパを設けるようにしてもよい。
【0038】
この開閉駆動装置40は、ドア3の全閉位置の状態では、図5の想像線で示すように、先端リンク15aがドア3に対して所定の傾斜角θで傾斜すると、回動部材43が渦巻きスプリング44の付勢力で図4の時計回り方向に回動し、ガイド部41が略水平方向に延びるリンク20をスプロケット16側に押しつけ、ドア3から受ける押し方向の力を支える。そのため、そのリンク20が1本のピン22で歯と係合しているにもかかわらず、姿勢が安定する。それに伴い先端リンク15aの姿勢も安定する。
【0039】
他方、図5の実線で示すように、ドア3が開き、プッシュプルチェーン15のドア3とスプロケット16の間の作動部が図5の反時計回り方向に回動したときは、それにつれて回動部材43も反時計方向に回動して元の位置に戻る。そしてその位置でガイド部41がプッシュプルチェーン15をガイドし、ドア3から受ける力を支える。さらにドア3の閉じるのに伴って回動部材43が時計回りに回動したときでも、また、ドア3が開いていくのに伴って回動部材43が反時計回りに回動したときでも、回動部材43がプッシュプルチェーン15をガイドする角度範囲は一定であるので、プッシュプルチェーン15に係合しているスプロケット16の歯16aの数が変わらず、動力伝達機能も充分に高い。
【0040】
なお図5には記載していないが、スプロケット16および回動部材43の全体を囲むケースあるいはハウジングを設け、そのケースをブラケット(図3の符号25)などに固定することもできる。このような固定式のケースを設けると、回動する部品が外部に現れないので、安全性が高くなる。
【0041】
図6の開閉駆動装置50では、スプロケット16が軸51の周囲に固定されており、その軸51はボールベアリング52を介してブラケットなどによって回転自在に支持されている。軸51は自動車の上下方向の軸心廻りに回転自在である。そしてこの軸51は電磁クラッチ26を介してウォーム減速機Gの出力軸53にトルク伝達入り/切り自在に連結されている。出力軸53はウォームホイール30に結合されており、そのウォームホイール30にウォーム29が噛み合っている。さらにこの開閉駆動装置50では、駆動源としてのモータMとウォーム29とが、トルク伝達が可能なトルクケーブル54を介して連結されている。ただしこの開閉駆動装置50においても、図3、図4のように、ウォーム29を直接モータMに連結することもできる。
【0042】
また、この開閉駆動装置50では、スプロケット16を覆うケース55を固定せず、ケース55全体を軸51の廻りに回動させるようにしている。それによりケース55に図5の回動部材43と同様の作用を奏させることができ、シンプルに構成することができる。さらにモータMとウォームギヤ減速機Gとをトルクケーブル54で連結しているので、モータMおよびその付属要素の設置位置および設置の向きの自由度が高い。トルクケーブル54は、可撓性を有するチューブ状のアウターケーシングの内部にトルク伝達が可能な可撓性を有するインナーケーブルを回転自在に収容した公知のものである。
【0043】
前記実施形態のプッシュプルチェーン15では、いずれも屈曲が拘束されてる側に屈曲させようとしても、真っ直ぐな状態以上は屈曲させることができない。しかしリンク20、21同士が鈍角まで屈曲するように構成してもよい。たとえば図7aに示すプッシュプルチェーン60では、隣接する外側のリンク20、20同士の端面20b、20bの間に、屈曲方向の回動をスムーズにするために、いくらかの遊びないし隙間がある。そのため、屈曲が規制されている側にも緩く湾曲する。しかし屈曲を規制している側にいくらか湾曲しても、ドアの開閉操作にはほとんど影響しない。
【0044】
図7bに示すプッシュプルチェーン61は、外側リンク20の側縁に係止突起62を設け、その係止突起62と隣接する外側リンク20の側縁とを係合させることにより、回動角度を規制するようにしている。このものも、屈曲側へは図3、図4のプッシュプルチェーン15と同様に、180度程度まで屈曲可能である。ただし90〜120度程度までに規制することもできる。なお、図1の開閉駆動装置10や図5の開閉駆動装置40でも、プッシュプルチェーン15のリンクの端面の間にリンク同士の回動を許すためにわずかな隙間があるので、実際にはいくらか図面の上向き(車内側)に凸となるように湾曲することがある。しかし前述のように、直線状に延びていると考えても問題はない。
【0045】
また、屈曲規制側に対し、いくらかの屈曲を許しているプッシュプルチェーン60、61では、スプロケット16から前側に延びる戻り側をスプロケット16への巻き方向と逆向きに湾曲させることができる。その場合はスプロケット16の歯と係合するリンクが多くなり、動力伝達の効率が高くなる。ただし図2などと同様に真っ直ぐ前側に延ばすようにしてもよい。なお、図2の実施形態ではプッシュプルチェーン15の戻り側の先端を付勢部材38で引っ張っているが、渦巻きスプリング(ゼンマイバネ)などで回転付勢されたスプロケットに巻き取るようにすることもできる。この場合も、プッシュプルチェーン15が真っ直ぐに延ばされるので、絡まったりしない。また、自動車の走行中の揺れも少なくなる。必要であれば、プッシュプルチェーン15のスプロケット16から出てくる戻り側を案内・収容するレールガイドを設けてもよい。
【0046】
図7a、図7bのように、回動が規制される側にもいくらか湾曲するプッシュプルチェーン60、61を用いる場合は、圧縮力に対して座屈するおそれがある。そのため、図2のガイド18、図4のガイド部41を備えた回動部材43、あるいは図6のケース55により、プッシュプルチェーン61に対して常時回動が規制される向きにトルク(曲げモーメント)を与えておくのが好ましい。図5の想像線64は、スプロケット16から出てくるプッシュプルチェーン15の背面側(回動が規制される側)をスプロケット16側に弾力的に加圧するローラ65を設け、プッシュプルチェーン15を回動が規制される側に反らせるトルク(図5では時計方向のトルク)を与える場合を示している。また、スプロケット16の近辺のリンクに与えられたトルクは、順次隣接するリンクに伝達され、結局は円弧状に湾曲するプッシュプルチェーン15の全体にそのようなトルクが付与される。
【0047】
なお、前述のように、先端リンク15aに対してドア3から離れる方向(図5の反時計方向)のトルクをバネなどで与えるようにしてもよく、先端リンク15aとスプロケット16近辺のリンクの両側からトルクを与えるようにしてもよい。このようなトルクを与えることにより、座屈が一層防止される。
【0048】
前述の開閉駆動装置は、従来のスライドドアの電動式の開閉駆動装置と同様に、ドアを閉じたときにモータ駆動でラッチを閉じるオートクロージャや、モータ駆動でラッチを開くオープナと共に用いられ、それぞれの駆動モータは順次作動するように制御する。
【0049】
前記実施形態ではいずれもモータMでスプロケット16を回転させるようにしている。しかしクランクレバーなどによる手動駆動にすることもできる。また、前記実施形態では、減速機としてウォーム減速機Gを採用しているが、平歯車を組み合わせた減速機、遊星ギヤタイプの減速機など、他の減速機を採用することもできる。
【0050】
前記実施形態では減速機とスプロケットの間の入り切りを行うクラッチとして電磁クラッチ26を採用しているが、他の駆動手段を用いた自動的にオンオフさせるクラッチあるいは手動操作によるクラッチを用いることもできる。また、減速機として平歯車を組み合わせた減速機、遊星ギヤタイプの減速機などの自己拘束性を有しないものを採用する場合は、クラッチを設けなくてもよい。
【0051】
前記実施形態では、開閉駆動装置を自動車の側部のスライドドアに採用する場合を説明したが、いわゆる引き違いタイプの左右にスライドして開閉する窓や、サンルーフなどのスライド開閉式の天井窓など、車両に用いられるスライド部材に対しても採用することもできる。特許請求の範囲にいう「ドア」には、このようなスライド操作によって開口部を開閉する閉鎖体も含まれる。さらに自動車のほか、建設機械、軌道車両などの各種の車両のスライドドアやスライド開閉式の窓(サンルーフなど)などに使用することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 自動車
2 ドア枠
3 ドア
4 アッパーレール
5 センターレール
6 ロアレール
7 アーム
8 走行ローラ
10 開閉駆動装置
11 側面パネル
13 ブラケット
14 軸
15 プッシュプルチェーン
15a 先端リンク
16 スプロケット
16a 歯
17 駆動機構
18 ガイド
M モータ
20 外側リンク
21 内側リンク
20a、21a 角
20b、21b 端面
20c、21c 角
22 ピン
23 ローラ
23a 隙間
25 ブラケット
26 電磁クラッチ
27 出力軸
28 ベース
G ウォームギヤ減速機
29 ウォーム
30 ウォームホイール
31 ハウジング
32 取付け部
33 クラッチケース
34 ネジ
35 ボルト
36 スペーサ
37 ナット
38 付勢部材
40 開閉駆動装置
41 ガイド部
42 側壁
43 回動部材
44 渦巻きスプリング
50 開閉駆動装置
51 軸
52 ボールベアリング
53 出力軸
54 トルクケーブル
55 ケース
60、61 プッシュプルチェーン
62 係止突起
64 錘
65 ローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のドア枠と略平行の経路に沿って、かつ、閉じる直前から閉じる位置までは進行方向に対して横方向に湾曲する経路に沿ってドアが移動する、車両のスライドドアの開閉駆動装置であって、
一端がドアに連結され、一方向に屈曲自在で他方向の屈曲が制限されるプッシュプルチェーンと、
ドア枠近辺に、前記湾曲する経路を含む平面に対し、略直角の回動軸廻りに回転自在に設けられ、前記プッシュプルチェーンと噛み合うスプロケットと、
そのスプロケットを往復回転駆動する駆動機構と、
前記ドアとの連結部位と前記プッシュプルチェーンのスプロケットと噛み合っている部位との間の屈曲側への座屈を規制する手段
とを備えている、
車両のスライドドアの開閉駆動装置。
【請求項2】
前記座屈を規制する手段が、前記スプロケットの近辺に設けられた、スプロケットから離れていくプッシュプルチェーンのリンクの回動範囲を規制するガイドである請求項1記載の開閉駆動装置。
【請求項3】
前記ガイドがスプロケットの回転軸廻りに回動自在であり、かつ、プッシュプルチェーンをスプロケットに巻き付ける方向に付勢部材によって付勢されている請求項2記載の開閉駆動装置。
【請求項4】
前記駆動機構が、スプロケットを往復回転駆動する電動モータと減速機とを備えている請求項1〜3のいずれかに記載の開閉駆動装置。
【請求項5】
前記減速機が自己拘束型の減速機であり、前記スプロケットと減速機との間に、トルク伝達のON/OFFを切り替えるクラッチ機構が介在されている請求項4記載の開閉駆動装置。
【請求項6】
前記プッシュプルチェーンの、スプロケットに掛け回されて反転している部分の自由端を引っ張る付勢手段を備えている請求項1〜5のいずれか記載の開閉駆動装置。
【請求項7】
前記電動モータとスプロケットの間に、回転力を伝えるトルクケーブルが介在されている請求項4または5記載の開閉駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−94426(P2011−94426A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250951(P2009−250951)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(390000996)株式会社ハイレックスコーポレーション (362)
【Fターム(参考)】