説明

車両のフード構造

【課題】フード閉状態でロック機構によってアウターパネルが下方へ引っ張られ歪みが生じることを防止したフード構造を提供する。
【解決手段】自動車のフード構造1は、インナーパネル20が、ボディ側のロック機構と係合するストライカー26を支持するサポート部21と、このサポート部21の後縁から後上方向に延出した傾斜部22と、を備え、傾斜部22の上端部22Aがアウターパネル27に接合されていて、傾斜部22が折れの切っ掛け部30を備えている。切っ掛け部30を横幅方向に延びた溝として形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両のフード構造に係り、特にフード閉状態でロック機構によってアウターパネルが下方へ引っ張られて歪みが生じることを防止したフード構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は従来のフード構造100を上面側から見た斜視図であり、図6は図5のB−B線断面図である。なお、図5ではインナーパネル120だけを表している。図中の符号Frは車両前方を、Upは車両上方を、Wは車幅方向を示す。これらの図に示すように、フード構造100は、フードの車体外側面を構成するアウターパネル110と、このアウターパネル110の下側に配置されるインナーパネル120と、を備えている。アウターパネル110とインナーパネル120とは、内部に空間Sが画成されるよう周縁で溶接等によって互いに接合されている。
【0003】
インナーパネル120は、フード閉時に、ボディ側のロック機構(図示省略)と係合するストライカー130を備えている。具体的には、ストライカー130は、インナーパネル120の前部における車幅の中央部に下方へ垂下するように配設されている。
【0004】
ストライカー130を支持するインナーパネル周辺部位は略平坦なサポート部121として形成されている。さらに、インナーパネル120は、サポート部121の後側に、サポート部121の後縁から後上方向に延出した傾斜部122と、傾斜部122の上端部122Aからフード後端に亘って皿状に形成した凹形部123とを備えている。また、インナーパネル120の各前隅部にはボディとの衝接を緩和するストッパーゴム128が配設されている。
【0005】
この種のフード構造100においては、アウターパネル110の張り剛性を高めるために、インナーパネル120を構成する傾斜部122の上端部122Aにマスチック127が塗布され、このマスチック127を介してインナーパネル120がアウターパネル110の中間部を支持している。
【特許文献1】特開2006−8048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のフード構造100によれば、フード閉時にストライカー130がロック機構と係合した状態において、フードの前両端部はストッパーゴム128により下方移動を規制されボディから上方へ若干浮き上がった位置で保持されるのに対して、フードの前部の車幅中央部はストライカー130が下方に押し下げられた位置でロック機構と係合する。そのためフードの前部は両端のストッパーゴム128を支点として中央部が図6に示すように下方に撓む。このようなフード前部の中央部の撓み変形は傾斜部122及びマスチック127を介してアウターパネル110に影響を及ぼし、アウターパネル110を下方へ引っ張る力Fとして作用する。この力Fによって、アウターパネル110にも歪みが生ずる。
【0007】
本発明は以上の点に鑑み創作されたものであり、フード閉状態でロック機構によってアウターパネルが下方へ引っ張られ歪みが生じることを防止した車両のフード構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、フードの車体外側面を構成するアウターパネルと、このアウターパネルの下方に配置され周縁をアウターパネルの周縁と接合したインナーパネルと、を備えた自動車のフード構造において、インナーパネルが、ボディ側のロック機構と係合するストライカーを支持するサポート部と、このサポート部の後縁から後上方向に延出した傾斜部と、を備え、傾斜部の上端部がアウターパネルに接合されていて、傾斜部が折れの切っ掛け部を備えていることを特徴としている。
【0009】
本発明の自動車のフード構造において、切っ掛け部は、例えば、横幅方向に延びた溝或いは稜線として形成され、傾斜部の上端部はマスチックを介してアウターパネルに接合されている。また、アウターパネルと傾斜部の上端部との接合構造は車幅方向に間欠的に並設されており、各接合構造の傾斜部に切っ掛け部が設けられている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フード閉時にストライカーを支持するサポート部が下方へ撓み、これに伴った下方へ引っ張る力がアウターパネルに伝わることを、傾斜部が折れ曲がることで防止できる。これにより、フード閉時にアウターパネルを下方へ引っ張る作用が無くなり、アウターパネルの歪み発生を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態に係るフード構造1を上面側から見た斜視図であり、図2は図1のA−A線断面図である。図中の符号Frは車両前方を、Upは車両上方を、Wは車幅方向を示す。なお、図1では、インナーパネル20だけを表している。
【0012】
フード構造1は、車体外側面を構成するアウターパネル10と、このアウターパネル10の下方に配置されるインナーパネル20と、図示省略するフードリインフォースメントパネルと、を備えている。アウターパネル10とインナーパネル20とは、内部に空間Sが画成されるよう周縁で溶接等によって互いに接合されている。この空間S内にフードリインフォースメントパネルが配設される。
【0013】
インナーパネル20は、フードの前端から略平坦状に後方へ延出した水平部21と、この水平部21の後縁から後上方向へ延出した平板状の傾斜部22と、傾斜部22の上端部22Aからフードの後端に亘って皿状に下方へ窪んだ凹形部23と、を備えている。さらに、インナーパネル20には、その中部領域に、車両前後方向に延びた断面逆ハット型の骨格25が幅方向に複数並設されている。
【0014】
水平部21は、インナーパネル前部においてフードの両側縁間に亘るように横長に形成されている。隣り合う骨格25の間に傾斜部22と凹形部23とが設けられる。骨格25の前端は水平部21に繋がっており、骨格25の後端はインナーパネル後縁に沿って平板状に横長に延びたインナーパネルリヤ部24に繋がっている。
【0015】
上記水平部(サポート部)21は、フード閉時にボディ側のロック機構(図示省略)と係合するストライカー26を支持している。具体的には、ストライカー26は水平部21の車幅中央の下面から垂下するように配設されている。
【0016】
傾斜部22の上端部22Aにはマスチック27が塗布されており、このマスチック27を介してインナーパネル20がアウターパネル10の中間部を支持している。これにより、アウターパネル10の張り剛性が高められる。
【0017】
また、ストッパーゴム28が、ボディとの衝接を緩和するために、インナーパネル20の各前隅部に配設されている。
【0018】
以上の構成は従来のフード構造100と同様であるが、本発明の実施形態に係るフード構造1は以下のように構成されている点に特徴がある。
図3はインナーパネル20の中部領域に設けられる傾斜部22及び凹形部23を示す斜視図である。本実施形態に係るフード構造1では、各傾斜部22が、マスチック27が塗布された上端部22Aの前側に折れの切っ掛け部30を設けていることを特徴としている。即ち、フード構造100では、アウターパネル10と傾斜部22の上端部22Aとの接合構造が車幅方向に間欠的に並設されており、各接合構造の傾斜部22に切っ掛け部30が設けられている。
【0019】
切っ掛け部30は、図示例では、傾斜部22のアウターパネル10と対向する面で横幅方向に延びた溝として形成されている。この溝は、インナーパネル20をプレス成形して表面側を部分的に凹ませこれに対応して裏面側が膨出するように形成されるものの他、インナーパネル自体を削って形成されたものであってもよい。なお、切っ掛け部30は、好ましくは、上端部22Aより前方の傾斜面に形成される。また、切っ掛け部30は、溝の代わりに、例えば、図4に示すように傾斜部22の傾斜角度が変わる屈曲部、即ち横幅方向へ延びた折れ線として形成されていてもよく、この場合傾斜部22の前部αと後部βとが横幅方向に延びた折れ線を境に屈曲して形成される。
【0020】
このように構成されたフード構造1では、フード閉時にストライカー26がロック機構と係合した状態において、フード前部の両端部はストッパーゴム28により下方移動を規制されボディから上方へ若干浮き上がった位置で保持されるのに対して、フード前部の車幅中央部はストライカー26が下方に押し下げられた位置でロック機構と係合する。そのためフードの前部は両端のストッパーゴム28を支点としてサポート部21の中央が下方へ撓む。この撓み変形によって傾斜部22を介してアウターパネル10を下方へ引っ張る力が生じる。この力はアウターパネル10に伝わる前に傾斜部22に設けられた切っ掛け部30に作用する。この際、下方へ引っ張ろうとする力によって図2に点線で示すように傾斜部22が切っ掛け部30で折れる。
【0021】
本発明の実施形態に係るフード構造1によれば、フード閉時におけるサポート部21の下方への撓み変形に伴って生じる、アウターパネル10を下方へ引っ張る力を、傾斜部22が折れ曲がることで吸収する。これにより、アウターパネル10の歪み発生を防止できる。
【0022】
以上説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施をすることができる。例えば、インナーパネル10の中部領域に配設される骨格25の数は図示例に限るものではない。また、フード構造1は、アウターパネル10とインナーパネル20とによって画成される空間S内に、他の補強パネル(数は限定されない)を備えても、逆に配設せずに構成されてもよい。また、インナーパネル20は、一枚の鉄製パネルをプレス成形によってサポート部21と傾斜部22と凹形部23と骨格25とが一体成形される他に、それぞれ別々に成形されたサポート部と傾斜部と凹形部と骨格とが一体に接合されて構成されるものであってもよい。また、インナーパネルの上端部22Aはマスチックを介さずにアウターパネルと接合されていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係るフード構造を上面側から見た斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1のフード構造における傾斜部と凹形部とを示す斜視図である。
【図4】本実施形態に係る切っ掛け部の他の構成例を示す部分断面図である。
【図5】従来のフード構造を上面側から見た斜視図である。
【図6】図5のB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 フード構造
10 アウターパネル
20 インナーパネル
21 水平部(サポート部)
22A 上端部
23 凹形部
24 インナーパネルリヤ部
25 骨格
26 ストライカー
27 マスチック
28 ストッパーゴム
30 切っ掛け部
α 傾斜部の前部
β 傾斜部の後部
S 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フードの車体外側面を構成するアウターパネルと、このアウターパネルの下方に配置され周縁を上記アウターパネルの周縁と接合したインナーパネルと、を備えた自動車のフード構造において、
上記インナーパネルが、ボディ側のロック機構と係合するストライカーを支持するサポート部と、このサポート部の後縁から後上方向に延出した傾斜部と、を備え、
上記傾斜部の上端部が上記アウターパネルに接合されていて、
上記傾斜部が折れの切っ掛け部を備えていることを特徴とする、自動車のフード構造。
【請求項2】
前記切っ掛け部が横幅方向に延びた溝であることを特徴とする、請求項1に記載の自動車のフード構造。
【請求項3】
前記傾斜部の上端部がマスチックを介して前記アウターパネルに接合されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の自動車のフード構造。
【請求項4】
前記アウターパネルと前記傾斜部の上端部との接合構造が車幅方向に間欠的に並設されていることを特徴とする、請求項1〜3の何れかに記載の自動車のフード構造。
【請求項5】
前記切っ掛け部が横幅方向に延びた折れ線であることを特徴とする、請求項1に記載の自動車のフード構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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