説明

車両のフード跳ね上げ装置

【課題】車両の前突時にフードの後端部を迅速に上昇させることができるとともに、フードの後端部を上昇させる過程で障害物がフード上に倒れ込むという事態の発生を効果的に防止できるようにする。
【解決手段】車両の前部上面に設けられたフード1をその後端側で車体に枢支するヒンジ機構2と、車両の衝突検出時に上記フードの後端部を上方に跳ね上げるアクチュエータ3とを備えた車両のフード跳ね上げ装置であって、上記ヒンジ機構2が、フード側および車体側に設けられたヒンジブラケット5,6と、その少なくとも一方に枢支されたヒンジアーム7とを有し、上記ヒンジ機構2には、アクチュエータ3の作動により上記ヒンジブラケット5,6の一方とヒンジアーム7との相対姿勢が変位する過程で塑性変形してフードの跳ね上げ速度を減速させる減速部材(突片部27)が設けられた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前部フードをその後端側で車体に枢支するヒンジ機構と、車両の衝突検出時に上記フードの後端部を上方に跳ね上げるアクチュエータとを備えた車両のフード跳ね上げ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の前部に歩行者などの障害物が当接して該障害物が、エンジンルームの上面を覆うように設置されたフード(ボンネット)上に倒れ込んだ際に、該フードを変形させることにより上記障害物が受ける衝撃を緩和することが行われている。しかし、上記フードの設置高さ低く、該フードとエンジンの上面との間隔を充分に確保することができない場合には、上記衝撃の緩和機能が充分に発揮されない可能性がある。このため、下記特許文献1に開示されているように、フードの後部に設けられたヒンジ機構の周辺にフードの後部を持ち上げるアクチュエータを設け、該アクチュエータを作動させて上記フードとエンジンの上面との間隔を拡大させることにより、上記障害物が受ける衝撃の緩和機能が充分に発揮されるように構成した跳ね上げの式フード構造が提案されている。
【0003】
また、特許文献1に係る跳ね上げ式フード構造では、フードの後端部を跳ね上げる際に、該フードの車幅方向両端部に配設された左右のヒンジ機構の間に位置するフードの中央部分が上下に撓むことに起因した障害物の衝撃を抑制するために、フード中央部分の跳ね上げ高さを規制するストラップを該フードの中央部分と車体本体との間に設けている。さらに特許文献1には、上記ベルト部材の設置部に設けられたブラケットに脆弱部となる切欠きを形成し、上記アクチュエータによりフードの後端部を上昇させてストラップが延びきった後に、上記ブラケットが切欠き部で折り曲げられるように構成し、これにより上記フードの運動エネルギーを吸収して上記フードの中央部分に生じる上下振動を効果的に抑制できる旨の開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−290230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されているように、車両の衝突時に上記アクチュエータによりフードの後部左右を持ち上げた後に、フードの中央部分に生じる上下振動を抑制するように構成した場合には、障害物がフードの中央部分上に倒れ込むことに起因した二次的な衝撃を軽減することが可能である。しかし、上記のようにフードの後部左右に配設されたアクチュエータと離間した位置に上記ストラップ等を設けた場合には、上記アクチュエータによるフードの後端部を上昇させる過程で、その上昇速度を効果的に抑制することができなかった。このため、上記フードの後端部を上昇させる動作の終期に障害物がフード上に倒れ込むことに起因した二次的な衝撃を効果的に軽減することができず、当該衝撃を抑制するには、上記アクチュエータによるフードの後端部を上昇させる速度を一定値以下に規制して該フードの後端部が高速で障害物に当接するという事態の発生を防止する必要があった。一方、上記のようにフードの上昇速度を一定値以下に規制すると、該フードをアクチュエータにより充分に上昇させる前に、障害物がフードの中央部分上に倒れ込む可能性があり、上記跳ね上げ式フード構造を設けることによる効果が充分に得られない可能性がある。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、車両の前突時にフードの後端部を迅速に上昇させることができるとともに、フードの後端部を上昇させる過程で障害物がフード上に倒れ込むという事態の発生を効果的に防止できる車両のフード跳ね上げ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、車両の前部上面に設けられたフードをその後端側で車体に枢支するヒンジ機構と、車両の衝突検出時に上記フードの後端部を上方に跳ね上げるアクチュエータとを備えた車両のフード跳ね上げ装置であって、上記ヒンジ機構が、フード側および車体側に設けられたヒンジブラケットと、その少なくとも一方に枢支されたヒンジアームとを有し、上記ヒンジ機構には、アクチュエータの作動により上記ヒンジブラケットとヒンジアームとの相対姿勢が変位する過程で塑性変形してフードの跳ね上げ速度を減速させる減速部材が設けられたものである。
【0008】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の車両のフード跳ね上げ装置において、上記ヒンジ機構およびアクチュエータがフードの左右両側に設けられるとともに、各ヒンジ機構に、それぞれ減速部材が設けられたものである。
【0009】
請求項3に係る発明は、上記請求項1または2に記載の車両のフード跳ね上げ装置において、上記ヒンジアームの基端部が、ヒンジピンを介して車体側ヒンジブラケットに枢支されるとともに、上記ヒンジアームの先端部またはフード側ヒンジブラケットの少なくとも一方に形成された長孔を挿通する連結ピンにより上記ヒンジアームとフード側ヒンジブラケットとが枢支され、かつ上記減速部材が、ヒンジアームとフード側ヒンジブラケットと連結するリンク部材に設けられて所定値以上の荷重で塑性変形する突片部と、該突片部に当接してその変位を規制することにより突片部を塑性変形させる当接規制部とを備えたものである。
【0010】
請求項4に係る発明は、上記請求項3に記載の車両のフード跳ね上げ装置において、フードの閉止状態で、上記長孔を挿通するように設置された第1連結ピンと上記リンク部材に設けられた第2,第3連結ピンとを結ぶ線が略一直線上に並ぶように設置され、かつ上記アクチュエータの作動時に、上記リンク部材の先端部に設けられた第3連結ピンを頂点とする三角形が上記第1〜第3連結ピンにより形成され、その形状が保持されるように構成されたものである。
【0011】
請求項5に係る発明は、上記請求項1または2に記載の車両のフード跳ね上げ装置において、上記ヒンジアームの基端部が、ヒンジピンを介して車体側ヒンジブラケットに枢支されるとともに、上記ヒンジアームの先端部またはフード側ヒンジブラケットの少なくとも一方に形成された長孔を挿通する連結ピンにより上記ヒンジアームとフード側ヒンジブラケットとが枢支され、かつ上記減速部材が、ヒンジアームとフード側ヒンジブラケットとの間に設けられた係合片部と、該係合片部に当接する当接部材とを有し、上記アクチュエータの作動時に、上記係合片部を当接部材に当接させて塑性変形させることによりフードの跳ね上げ速度を減速させるように構成されたものである。
【0012】
請求項6に係る発明は、上記請求項5に記載の車両のフード跳ね上げ装置において、上記係合片部が、フード側ヒンジブラケットの縦壁板から下方に延びるように設置されるとともに、その下端部には、上記ヒンジアーム7の設置部側に延びる突部が設けられ、フードの閉止状態では、上記突部がヒンジアームの下面から離間するように配設されたものである。
【0013】
請求項7に係る発明は、上記請求項6に記載の車両のフード跳ね上げ装置において、複数本の係合片部が所定間隔を置いて櫛歯状に配列されたものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、アクチュエータの作動によりヒンジブラケットとヒンジアームとの相対姿勢が変位する過程で塑性変形してフードの跳ね上げ速度を減速させる減速部材を上記ヒンジ機構に設けたため、上記フードの後端部を跳ね上げる動作の終期段階で上記減速作用を発揮させることにより、上記アクチュエータの付勢力に応じてフードの後端部を迅速に上昇させるように構成した場合においても、その終期段階におけるフードの上昇速度を効果的に低減することができる。したがって、上記フードの設置が高さ低いこと等に起因してフードとエンジンの上面との間隔が狭くならざるを得ない車両においても、その前部に歩行者などの障害物が当接する前突事故の発生時に、上記フードの後端部を速やかに上昇させることにより該フードとエンジンの上面との間隔を充分に確保し、上記障害物がフード上に倒れ込んだ際に、該フードを充分に変形させて上記障害物が受ける衝撃を効果的に緩和できるとともに、上記減速部材を上記ヒンジ機構に一体的に組み込むことにより、その構成を簡略して当該減速部材の設置スペースをコンパクトに形成できるという利点がある。
【0015】
請求項2に係る発明では、上記ヒンジ機構およびアクチュエータをフードの左右両側に設けるとともに、各ヒンジ機構に、それぞれ減速部材を設けたため、上記前突事故の発生時に、アクチュエータの付勢力に応じてフードの後部左右を速やかに上昇させることができるとともに、該フードの後部を上昇させる動作の終期に、その上昇速度を左右バランスよく減速することができる。
【0016】
請求項3に係る発明では、上記ヒンジアームの基端部をヒンジピンにより車体側ヒンジブラケットに枢支するとともに、上記ヒンジアームの先端部またはフード側ヒンジブラケットの少なくとも一方に形成された長孔を挿通する連結ピンにより上記ヒンジアームとフード側ヒンジブラケットとを枢支し、かつ上記ヒンジアームとフード側ヒンジブラケットと連結するリンク部材に設けられて所定値以上の荷重で塑性変形する突片部と、該突片部に当接してその変位を規制することにより突片部を塑性変形させる当接規制部とで上記減速部材を構成し、フードの後端部を跳ね上げる動作の終期段階で上記フード側ヒンジブラケットの上面板等からなる当接規制部に上記突片部を当接させて塑性変形させることにより上記減速作用を発揮させるようにしたため、上記アクチュエータの付勢力に応じてフードの後端部を迅速に上昇させるように構成した場合においても、その終期段階におけるフードの上昇速度を簡単な構成で効果的に低減することができる。
【0017】
請求項4に係る発明では、フードの閉止状態で、上記長孔を挿通するように設置された第1連結ピンと上記リンク部材に設けられた第2,第3連結ピンとを結ぶ線を略一直線上に並ぶように設置し、かつ上記アクチュエータの作動時に、上記リンク部材の先端部に設けられた第3連結ピンを頂点とする三角形を上記第1〜第3連結ピンにより形成し、その形状が保持されるように構成したため、通常時には上記ヒンジアーム、フード側ヒンジブラケットおよびリンク部材をコンパクトに配設することができるとともに、上記アクチュエータの作動時には、簡単な構成で上記フードの後端部のさらなる上昇を規制して、その上限位置を適正に規定できるという利点がある。
【0018】
請求項5に係る発明では、ヒンジアームとフード側ヒンジブラケットとの間に設けられた係合片部と、該係合片部に当接する当接部材とで上記減速部材を構成し、上記アクチュエータの作動時に、上記係合片部を当接部材に当接させて塑性変形させることによりフードの跳ね上げ速度を減速させるようにしたため、フードの跳ね上げ速度を簡単かつ効果的に減速させることができ、上記アクチュエータの付勢力に応じてフードの後端部を迅速に上昇させるように構成した場合においても、その終期段階におけるフードの上昇速度を効果的に低減できるという利点がある。
【0019】
請求項6に係る発明では、上記係合片部を、フード側ヒンジブラケットの縦壁板から下方に延びるように設置するとともに、その下端部に、上記ヒンジアームの設置部側に延びる突部を設け、フードの閉止状態で上記突部をヒンジアームの下面から離間させるように構成したため、上記係合片部の下方への突出長を変化させることにより、上記フードの跳ね上げ速度を減速するタイミングを容易かつ適正に調整できるとともに、上記突部の突出長を変化させることにより、上記跳ね上げ速度の減速度合を容易かつ適正に調整できるという利点がある。
【0020】
請求項7に係る発明では、複数本の係合片部を所定間隔を置いて櫛歯状に配列したため、その配列間隔および係合片部の本数を適宜変化させることにより、上記フードの跳ね上げ操作の終期に上記係合片部を当接部材に当接させて塑性変形させる際に生じる抵抗を適正に調節することができ、これによって上記跳ね上げ速度の減速度合を、より容易かつ適正に調整できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る車両のフード跳ね上げ装置の第1実施形態を示す側面断面図である。
【図2】上記車両のフード跳ね上げ装置の要部構成を示す斜視図である。
【図3】フードの跳ね上げ状態を示す図1相当図である。
【図4】フードの跳ね上げ時おけるヒンジ機構の状態を示す図2相当図である。
【図5】フードの閉止状態を示す斜視図である。
【図6】フードの跳ね上げ状態を示す斜視図である。
【図7】上記第1実施形態に係るフード跳ね上げ装置の変形例を示す側面断面図である。
【図8】本発明に係る車両のフード跳ね上げ装置の第2実施形態を示す斜視図である。
【図9】フードの跳ね上げ時おけるヒンジ機構の状態を示す図8相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜図6は、本発明に係る車両のフード跳ね上げ装置の第1実施形態を示している。この車両のフード跳ね上げ装置は、車両の前部上面を覆うように配設されて開閉可能に支持されたフード1をその後端側で車体に枢支するヒンジ機構2と、車両の衝突時にフード1の後端部を上方に跳ね上げるアクチュエータ3とを有し、該アクチュエータ3および上記ヒンジ機構2がフード1の左右両側にそれぞれ設けられている。上記フード1の閉止時には、車体の前端部に設けられたフードロック機構(図示せず)により閉止状態に保持され、かつ該フードロック機構によるロックを解除した状態でフード1の前端部を持ち上げることにより、上記ヒンジ機構2に設けられたヒンジピン6を支点に揺動変位することにより開放状態に移行するように構成されている。
【0023】
上記ヒンジ機構2は、車体側部材であるフロントフェンダー4の後部上面に固定される車体側ヒンジブラケット5と、該車体側ヒンジブラケット5にリベットからなるヒンジピン6により基端部が枢支されるヒンジアーム7と、フード1の後部下面に固定されるフード側ヒンジブラケット8と、該フード側ヒンジブラケット8と上記ヒンジアーム7の先端部とを連結するリンク部材9とを有している。
【0024】
上記車体側ヒンジブラケット5は、フロントフェンダー4にボルト止めされる取付基板10と、その車幅方向内側辺部から上方に延びる起立板11とを有している。該起立板11に形成された挿通孔12に上記ヒンジピン6が挿通され、該ヒンジピン6を介して上記ヒンジアーム7の後端部が車体側ヒンジブラケット5の起立板11により回動可能に支持されている。そして、上記フード1の開閉操作時に、ヒンジピン6を支点として上記フード1およびヒンジアーム7が一体的に揺動変位するように構成されている。
【0025】
上記フード側ヒンジブラケット8は、フード1の後端部下面にボルト止めされる上面板13と、その車幅方向外側辺部から下方に延びる縦壁板14とを有している。上記上面板13は、所定の面積を有する多角形状の板状部材からなり、上記アクチュエータ3の上方においてその設置部を覆うように設けられている。また、上記縦壁板14の前端部には、リベットからなる第1連結ピン15が挿通される長孔16が前後方向に延びるように形成されている。該長孔16の後方側には、上方に凹入する切欠き17と、上記リンク部材9を連結するリベットからなる第2連結ピン18の挿通孔19と、シェアピン21の設置孔22とが上記フード側ヒンジブラケット8の長手方向に沿って所定間隔で配設されている。
【0026】
そして、上記長孔16の前端部を挿通するよう設置された第1連結ピン15により上記フード側ヒンジブラケット8の縦壁板14と、上記ヒンジアーム7の前端部とが連結されている。また、上記切欠き17の設置部において、上記ヒンジアーム7とリンク部材9の基端部とがリベットからなる第3連結ピン23により連結されている。さらに、上記切欠き17の後方部に形成された挿通孔19を挿通するように設置されたリベットからなる第3連結ピン23により上記ヒンジアーム7とリンク部材9の先端部とが連結されている。
【0027】
また、通常時には、上記第1〜第3連結ピン15,18,23を結ぶ線がヒンジアーム7の長手方向に沿って略直線上に並ぶように設置された状態で、上記フード側ヒンジブラケット8の後端部に形成された設置孔22を挿通するように設置された小径のシェアピン21により、フード側ヒンジブラケット8の後端部と上記ヒンジアーム7の前後方向中間部とが回動不能に連結されている。そして、後述する衝突事故の発生時には、上記アクチュエータ3から入力される押上力に応じて上記シェアピン21が破断することにより、上記フード側ヒンジブラケット8とヒンジアーム7との連結状態が解除されるようになっている。
【0028】
上記リンク部材9は、フード側ヒンジブラケット8の縦壁板14の車幅方向内方側に配設されて、基端部が上記第3連結ピン23を介してヒンジアーム7に連結されるとともに、先端部が上記第2連結ピン18を介してヒンジアーム7に連結されることにより、上記シェアピン21の破断時にフード側ヒンジブラケット8とヒンジアーム7との連結状態を維持しつつ、その相対変位を許容するように構成されている。上記リンク部材9の先端部には、円形の頭部25と細幅の首部26とを有する突片部27が設けられている。該突片部27は、通常時に上記フード側ヒンジブラケット8の上面板13から所定距離を置いてその下方側に配設されている。
【0029】
そして、上記アクチュエータ3の作動時に上記シェアピン21が破断されてフード側ヒンジブラケット8とヒンジアーム7とが相対変位すると、上記突片部27の頭部25が上面板13の下面に当接してその上昇が規制されるようになっている。この状態で上記アクチュエータ3の押上力が突片部27にさらに作用すると、該突片部27の首部26が図3および図4に示すにように塑性変形し、これによって上記荷重を吸収しつつ、フード1の上昇速度(跳ね上げ速度)を減速する減速手段が、上記リンク部材9の突片部27と、フード側ヒンジブラケット8の上面板13からなる当接規制部とにより構成されている。
【0030】
上記アクチュエータ3は、図外の衝突センサにより車体の前端部が障害物に当接したことが検出された時点等で出力される制御信号に応じて発火するインフレータ28と、該インフレータ28の発火時に放出されるガス圧に応じて上方に突出するように駆動される外筒部29とを有している。該外筒体29が上方に突出して上記上面板13の下面に当接することにより、フード1の後端部を上方に押し上げる駆動力が上記アクチュエータ3からフード側ヒンジブラケット8に付与されるようになっている。
【0031】
上記構成において、通常には、上記シェアピン21によりフード側ヒンジブラケット8と上記ヒンジアーム7との相対変位が規制された状態で、車体側ヒンジブラケット5に設けられたヒンジピン6を支点としてフード1の開閉操作が行われる。すなわち、フード1の前端部に設けられた図外のロック機構によるフード1のロック状態を解除した後、閉止位置にあるフード1の前端部を上方に持ち上げることにより、上記ヒンジピン6を支点にヒンジアーム7の先端部およびフード側ヒンジブラケット8を上昇させる方向に揺動変位させてフード1を開放状態に移行可能に構成されている。
【0032】
そして、車両の走行時に車体の前端部が障害物に当接したことが図外のセンサにより検出された場合には、フード側ヒンジブラケット8の下方に配設されたアクチュエータ3のインフレータ28が発火して外筒部29が上昇し、上記フード側ヒンジブラケット8の上面板13が上方に付勢されることにより、上記ヒンジピン6を支点としてヒンジアーム7の先端部が上方に押し上げられるとともに、前端のロック部を支点としてフード1の後部が上方に押し上げられる方向に駆動される。上記アクチュエータ3からフード側ヒンジブラケット8に入力される駆動力に応じ、上記ヒンジアーム7とフード側ヒンジブラケット8との相対変位を規制するシェアピン21が破断し、該シェアピン21による上記ヒンジアーム7がフード側ヒンジブラケット8との連結状態が解除されることになる。
【0033】
上記のようにしてフード1の前端部がロック手段により閉止位置に係止されつつ、アクチュエータ3の付勢力に応じ、上記ヒンジピン6を支点としてヒンジアーム7が揺動変位することが許容されるとともに、車体前端部のフードロック機構を支点としたフード1およびフード側ヒンジブラケット8の後部が押し上げられることにより、上記フード1が図5に示す閉止状態から図6に示す跳ね上げ状態に移行する。
【0034】
また、図3および図4に示すように、上記第1連結ピン15がフード側ヒンジブラケット8の長孔16に沿ってその後方側にスライド変位しつつ、上記ヒンジピン6を支点にヒンジアーム7が揺動変位してその先端部が所定位置まで上昇することにより、上記リンク部材9に設けられた突片部27の頭部25が上面板13の下面に当接して上記首部26が塑性変形し、突片部27が斜め後方に押し下げられつつ、上記リンク部材9が起立状態に移行する。そして、上記フード側ヒンジブラケット8に設けられた長孔16の後端部に第1連結ピン15が当接した時点で、上記リンク部材9の揺動変位が規制されることによりフード1の上昇位置が規制されるように構成されている。
【0035】
すなわち、車体の前端部が障害物に当接する前突時後の発生時に、上記フード1の後端部がある程度上昇すると、上記リンク部材9によりフード側ヒンジブラケット8とヒンジアーム7との連結状態が維持された状態で、図3に示すように、上記リンク部材9の先端部に設けられた第2連結ピン18を頂点とした三角形Sが、該第2連結ピンと第1,第3連結ピン15,23とで形成され、この形状が保持されることにより、上記アクチュエータ3の駆動力に応じたフード1の更なる上昇が規制されるようになっている。
【0036】
上記のように車両の前部上面に設けられたフード1をその後端側で車体に枢支するヒンジ機構2と、車両の衝突検出時に上記フード1の後端部を上方に跳ね上げるアクチュエータ3とを備えた車両のフード跳ね上げ装置であって、上記ヒンジ機構2に、フード1側および車体側(フロントフェンダー4)に固定されたヒンジブラケット5,8と、その少なくとも一方に枢支されたヒンジアーム7とを設けるとともに、上記ヒンジ機構2には、アクチュエータ3の作動により上記ヒンジブラケット5,8とヒンジアーム7との相対姿勢が変位する過程で塑性変形してフード1の跳ね上げ速度を減速させる減速部材を設けたため、上記アクチュエータ3によるフード1の上昇速度を低下させることなく、車両の前突時にフード1の後端部を迅速に上昇させることができるとともに、フード1の後端部を上昇させる過程で障害物がフード1上に倒れ込むことに起因した二次的な衝撃を効果的に軽減できるという利点がある。
【0037】
すなわち、上記第1実施形態では、ヒンジアーム7の基端部を、車体側ヒンジブラケット5に枢支するとともに、上記ヒンジアーム7の先端部を、フード側ヒンジブラケット8に形成された長孔16に第1連結ピン15を介して枢支し、かつヒンジアーム7とフード側ヒンジブラケット8とをリンク部材9により連結したフードヒンジ構造において、上記リンク部材9の先端部に設けられた突片部27と、該突片部27に当接してその変位を規制することにより突片部27を塑性変形させるフード側ヒンジブラケット8の上面板13からなる当接規制部とで上記減速部材を構成したため、上記フード1の後端部を跳ね上げる動作の終期段階で上記フード側ヒンジブラケット8の上面板13に突片部27を当接させて塑性変形させることにより上記アクチュエータ3の付勢力を吸収することができ、該アクチュエータ3により上記フード1の後端部を迅速に上昇させるように構成した場合においても、その終期段階におけるフード1の上昇速度を簡単な構成で効果的に低減することができる。
【0038】
したがって、上記フード1の設置が高さ低いこと等に起因してフード1とエンジンの上面との間隔が狭くならざるを得ない車両においても、その前部に歩行者などの障害物が当接する前突事故の発生時に、上記フード1の後端部を速やかに上昇させて該フード1とエンジンの上面との間隔を充分に確保することができ、上記障害物がフード1上に倒れ込んだ際に、該フード1を充分に変形させることにより上記障害物が受ける衝撃を効果的に緩和することができる。そして、上記アクチュエータ3によりフード1の後端部を上昇させる動作の終期には、上記リンク部材9に設けられた突片部27と、該突片部27を塑性変形させる当接規制部とからなる減速部材により上記フード1の上昇速度を充分に低減することができるため、高速で上昇状態しつつあるフード1上に障害物が倒れ込むという事態の発生を防止し、該障害物が二次的な衝撃を受けるのを効果的に防止できるという利点がある。さらに、上記突片部27および当接規制部からなる減速部材を上記ヒンジ機構2に一体的に組み込むことにより、その構成を簡略して当該減速部材の設置スペースをコンパクトに形成できるという利点がある。
【0039】
また、上記第1実施形態に示すように、ヒンジ機構2およびアクチュエータ3をフード1の左右両側に設けるとともに、各ヒンジ機構2に、それぞれ上記突片部27とフード側ヒンジブラケット8の上面板13とからなる減速部材を設けた場合には、上記前突事故の発生時に、アクチュエータ3の付勢力に応じてフード1の後部左右を速やかに上昇させることができるとともに、該フード1の後部を上昇させる動作の終期に、その上昇速度を左右バランスよく減速することができる。
【0040】
さらに、上記第1実施形態では、フード1の閉止状態において、上記フード側ヒンジブラケット8に設けられた長孔16を挿通するように設置された第1連結ピン15と上記リンク部材9に設けられた第2,第3連結ピン18,23とを結ぶ線がヒンジアーム7の長手方向に沿って略直線上に並ぶように設置したため、上記ヒンジアーム7、フード側ヒンジブラケット8およびリンク部材9をコンパクトに配設することができる。そして、上記アクチュエータ3の作動時には、図3に示すように、リンク部材9の先端部に設けられた第3連結ピン23を頂点とする三角形Sが、該第3連結ピン23と上記第1,第2連結ピン15,18とにより形成されてその形状が保持されるように構成したため、簡単な構成で上記フード1の後端部のさらなる上昇を規制して、その上限位置を適正に規定できるという利点がある。
【0041】
なお、上記第1〜第3連結ピン15,18,23により第2連結ピン18を頂点とする三角形が形成されてその形状が保持されるように構成することにより、上記フード後端部の上限位置を規制してなる上記第1実施形態に代え、あるいは上記構成とともに、図7に示すように、上記フード側ヒンジブラケット8を構成する縦壁板14の下端部に車幅方向外方側に向けて突出する突部30を設け、上記アクチュエータ3の作動時に、上記突部30をヒンジアーム7の前部下面に当接させることにより、上記フード1のさらなる上昇を規制して、その上限位置を規定するように構成してもよい。
【0042】
また、上記第1実施形態では、フード側ヒンジブラケット8の縦壁板14に設けられた長孔16に、上記ヒンジアーム7の先端部を連結するための第1連結ピン15を挿通させることにより、該フード側ヒンジブラケット8と上記ヒンジアーム7との相対変位を許容しつつ、両部材を連結するように構成した例について説明したが、この構成に代え、上記第1連結ピン15が挿通する長孔をヒンジアーム7の先端部に設け、あるいは上記フード側ヒンジブラケット8の縦壁板14およびヒンジアーム7の両方に、上記第1連結ピン15が挿通する長孔を設けた構造としてもよい。
【0043】
さらに、上記実施形態では、通常時にフード側ヒンジブラケット8の後端部と上記ヒンジアーム7の前後方向中間部とを小径のシェアピン21で回動不能に連結したため、上記ヒンジ機構3のヒンジピン6を支点としてフード1を開閉操作する際にがたつきが生じるのを効果的に防止することができる。そして、衝突事故の発生時には、上記アクチュエータ3から入力される押上力に応じて破断させることにより、上記フード側ヒンジブラケット8とヒンジアーム7との連結状態を解除するように構成したため、上記フード1の後端部を迅速かつ適正に上昇させることができる。
【0044】
図8〜図9は、本発明に係る車両のフード跳ね上げ装置の第2実施形態を示している。該第2実施形態に係る車両のフード跳ね上げ装置では、フード側ヒンジブラケット8の縦壁板14に、所定間隔を置いて櫛歯状に配列された複数本の係合片部32が下方に延びるように設置されるとともに、その下端部に、上記ヒンジアーム7の設置部側(車幅方向外方側)に延びる突部33が設けられている。フード1の閉止状態では、上記突部33が、図8に示すようにヒンジアーム7の下方に離間した位置に配設されている。
【0045】
そして、上記アクチュエータ3の作動時に入力される駆動力に応じ、上記フード側ヒンジブラケット8の後部が押し上げられるとともに、上記ヒンジピン6を支点にヒンジアーム7が揺動変位してその先端部が上昇すると、上記係合片部32の下端部に設けられた突部33が上記ヒンジアーム7からなる当接部材に当接して塑性変形しつつ、該ヒンジアーム7の側面に沿って上方に摺動することにより、フード1の跳ね上げ速度を減速させるように構成されている。
【0046】
上記第2実施形態に示すように、フード側ヒンジブラケット8に設けられた係合片部32と、該係合片部32に当接する上記ヒンジアーム7からなる当接部材とで上記減速部材を構成した場合には、上記アクチュエータ3の作動時に、上記係合片部32を当接部材に当接させて塑性変形させることにより、フード1の跳ね上げ速度を簡単かつ効果的に減速させることができ、上記アクチュエータ3の付勢力に応じてフード1の後端部を迅速に上昇させるように構成した場合においても、その終期段階におけるフード1の上昇速度を効果的に低減できるという利点がある。
【0047】
なお、上記フード側ヒンジブラケット8に設けられた係合片部32と、該係合片部32に当接する上記ヒンジアーム7からなる当接部材とで減速部材を構成した上記第2実施形態に代え、ヒンジアーム7に設けられた係合片部をフード側ヒンジブラケット8の上面板13等からなる当接部材に当接させて塑性変形させることにより、フード1の跳ね上げ速度を減速させるように構成してもよい。
【0048】
また、上記第2実施形態では、フード側ヒンジブラケット8の縦壁板14から下方に延びるように係合片部32を設置するとともに、その下端部に、上記ヒンジアーム7の設置部側に延びる突部33を設け、フード1の閉止状態では、上記突部33ヒンジアームの下面から離間させるように配設した場合には、上記係合片部32の下方への突出長を変化させることにより、上記フード1の跳ね上げ速度を減速するタイミングを容易かつ適正に調整できるとともに、上記突部33の突出長を変化させることにより、上記跳ね上げ速度の減速度合を容易かつ適正に調整できるという利点がある。
【0049】
さらに、上記第2実施形態に示すように、複数本の係合片部33を所定間隔で櫛歯状に配列した場合には、その配列間隔および係合片部33の本数を適宜変化させることにより、上記フード1の跳ね上げ操作の終期に上記係合片部32を当接部材に当接させて塑性変形させる際に生じる抵抗を適正に調節することができ、これによって上記跳ね上げ速度の減速度合を、より容易かつ適正に調整できるという利点がある。
【符号の説明】
【0050】
1 フード
2 ヒンジ機構
3 アクチュエータ
4 フロントフェンダー(車体側部材)
5 車体側ヒンジブラケット
6 ヒンジピン
7 ヒンジアーム(当接部材)
8 フード側ヒンジブラケット
9 リンク部材
13 上面板(当接規制部)
14 縦壁板
15 第1連結ピン
16 長孔
18 第2連結ピン
23 第3連結ピン
27 突片部(減速部材)
32 係合片部(減速部材)
33 突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前部上面に設けられたフードをその後端側で車体に枢支するヒンジ機構と、車両の衝突検出時に上記フードの後端部を上方に跳ね上げるアクチュエータとを備えた車両のフード跳ね上げ装置であって、上記ヒンジ機構が、フード側および車体側に設けられたヒンジブラケットと、その少なくとも一方に枢支されたヒンジアームとを有し、上記ヒンジ機構には、アクチュエータの作動により上記ヒンジブラケットとヒンジアームとの相対姿勢が変位する過程で塑性変形してフードの跳ね上げ速度を減速させる減速部材が設けられたことを特徴とする車両のフード跳ね上げ装置。
【請求項2】
上記ヒンジ機構およびアクチュエータがフードの左右両側に設けられるとともに、各ヒンジ機構に、それぞれ減速部材が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の車両のフード跳ね上げ装置。
【請求項3】
上記ヒンジアームの基端部が、ヒンジピンを介して車体側ヒンジブラケットに枢支されるとともに、上記ヒンジアームの先端部またはフード側ヒンジブラケットの少なくとも一方に形成された長孔を挿通する連結ピンにより上記ヒンジアームとフード側ヒンジブラケットとが枢支され、かつ上記減速部材が、ヒンジアームとフード側ヒンジブラケットと連結するリンク部材に設けられて所定値以上の荷重で塑性変形する突片部と、該突片部に当接してその変位を規制することにより突片部を塑性変形させる当接規制部とを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両のフード跳ね上げ装置。
【請求項4】
フードの閉止状態で、上記長孔を挿通するように設置された第1連結ピンと上記リンク部材に設けられた第2,第3連結ピンとを結ぶ線が略一直線上に並ぶように設置され、かつ上記アクチュエータの作動時に、上記リンク部材の先端部に設けられた第3連結ピンを頂点とする三角形が上記第1〜第3連結ピンにより形成され、その形状が保持されるように構成されたことを特徴とする請求項3に記載の車両のフード跳ね上げ装置。
【請求項5】
上記ヒンジアームの基端部が、ヒンジピンを介して車体側ヒンジブラケットに枢支されるとともに、上記ヒンジアームの先端部またはフード側ヒンジブラケットの少なくとも一方に形成された長孔を挿通する連結ピンにより上記ヒンジアームとフード側ヒンジブラケットとが枢支され、かつ上記減速部材が、ヒンジアームとフード側ヒンジブラケットとの間に設けられた係合片部と、該係合片部に当接する当接部材とを有し、上記アクチュエータの作動時に、上記係合片部を当接部材に当接させて塑性変形させることによりフードの跳ね上げ速度を減速させるように構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の車両のフード跳ね上げ装置。
【請求項6】
上記係合片部が、フード側ヒンジブラケットの縦壁板から下方に延びるように設置されるとともに、その下端部には、上記ヒンジアーム7の設置部側に延びる突部が設けられ、フードの閉止状態では、上記突部がヒンジアームの下面から離間するように配設されたことを特徴とする請求項5に記載の車両のフード跳ね上げ装置。
【請求項7】
複数本の係合片部が所定間隔を置いて櫛歯状に配列されたことを特徴とする請求項6に記載の車両のフード跳ね上げ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−81843(P2012−81843A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−228871(P2010−228871)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】