説明

車両のブレーキ特性の改善のための方法

【課題】ホイール停止時間を短縮し且つそれによって車両の制動特性を改善すること。
【解決手段】この方法は前輪と後輪のホイールブレーキのために、それぞれ一つのリターンポンプ6a、6bを備え、その際それ等の複数のリターンポンプ6a、6bが一つの共通のモータ12で駆動される、それぞれ一つの独立したブレーキ回路I、IIを持っているブレーキシステム用として設計されている。ABSコントロールの際の少なくとも一つの車輪の車輪停止時間を短縮するために、主ブレーキシリンダ3と後輪ブレーキ回路Iのリターンポンプ6aのインテーク側との間に配置されている弁4aが少なくとも部分的に開かれるので、後輪ブレーキ回路Iのリターンポンプ6aの上に掛かっている差圧が低下される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキ特性の改善のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ABSコントロール付きの車両は通常、ホイール回転数センサを含んでおり、このセンサを用いて車速が測定され又個々の車輪の上でのホイールスリップが監視される。何れかの車輪の上で高いホイールスリップが生じるや否や、対応している増圧弁が閉じられ且つ減圧弁が開かれるので、そのホイールブレーキに対して働いているブレーキ圧力が弱められる。その際ブレーキ液はホイールブレーキから減圧弁を通ってリザーブチャンバの中へ流入し又そこからリターンポンプによってメインブレーキシリンダの方向へ返送される。リターンポンプはその際リザーブチャンバ内の低い圧力のブレーキ液をメインブレーキシリンダの高い圧力に向かって送らなければならない。このことは後でもう一度図1と関連させながら説明する。
【0003】
図1は技術水準から知られているブレーキシステムを示しており、このシステムは後輪のためのホイールブレーキ10a、10bのための後輪ブレーキ回路Iと前輪のホイールブレーキ10c、10dのための前輪ブレーキ回路IIとを備えている(いわゆるブレーキ回路の黒=白分割)。このブレーキシステムはブレーキペダル1、ブレーキ力増幅器2及び、ブレーキ液タンクを備えたメインブレーキシリンダ3を含んでいる。後輪ブレーキ回路Iは周知の通り高圧開閉弁4a、切換え弁5a、リターンポンプ6a、中間リザーバ8a、及び逆止め弁11aを含んでいる。ホイールブレーキ10a及び10bの上にはそれぞれ増圧弁7a又は7bと減圧弁9a又は9bが備えられている。前輪ブレーキ回路IIは同一に作られており且つ独立のリターンポンプ6bを含んでいる。二つのリターンポンプ6a、6bはここでは一つの共通の電動モータ12によって駆動される。
【0004】
何れかの車輪の上のホイールスリップが前もって定められた目標値をオーバーすると、対応する増圧弁(例えば7c又は7d)が閉じられ且つ対応する減圧弁(例えば9c又は9d)が開かれる。すると油圧油がホイールブレーキ10c、から中間リザーバ8bの中へ流れる。更にポンプモータ12が駆動されるので、リターンポンプ6a、6bが油圧油を中間リザーバ8a或いは8bから主ブレーキシリンダ3の方向へ送り戻す。
【0005】
ドライバーがブレーキペダル1を非常に強く操作すると、リターンポンプ6a、6bは非常に高いドライバー予圧(Fahrer-Vordruck)に逆らって働かなければならない。これによって、ポンプが非常にゆっくりとしか動かず、望ましい回転数定格値に全く到達しないと云うことが起こり得る。それによってポンプ6a、6bが本来望まれているよりも少ない油圧油/時間しか送らず、その結果ホイールブレーキ10a−10dの上での圧力降下が想定よりもゆっくり行われる。このことが再びより長いホイール停止時間、即ちホイールがブロックされるタイムフェイズ、をもたらす。この時間の間は車両は操舵不能であり、それによって車両安全性が脅かされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の課題はホイール停止時間を短縮し且つそれによって車両の制動特性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によればこの課題は請求項1に記載されているメルクマールによって解決される。本発明のその他の実施態様は諸従属請求項の対象となっている。
【0008】
本発明によれば黒白=ブレーキ回路分割型(即ちブレーキ回路がアクスル毎に分割されている)の車両の場合に、後輪ブレーキ回路の中の弁を少なくとも部分的に開き、その結果、後輪ブレーキ回路のリターンポンプの上に掛かっている差圧を低下させることが提案される。弁は好ましくはリヤブレーキシリンダと後輪ブレーキ回路のリターンポンプのインテーク側との間に配置される。後輪ブレーキ回路のリターンポンプの上の差圧の引下げによってリターンポンプの電動駆動モータの負荷が軽減される。それによって駆動モータの駆動トルクはより多く前輪ブレーキ回路のリターンポンプのために利用出来る様になる。それによって前輪に対するブレーキ圧力が最大の勾配で立ち上げられることが出来、これによって前輪のホイール停止時間(即ち前輪がブロックされる時間長さ)が短縮される。かくして車両はより速やかに再び操舵可能となる。
【0009】
本発明の一つの好ましい実施態様によれば後輪ブレーキ回路の弁は完全に開かれる。その場合には対応するリターンポンプの上に掛かっている差圧はゼロバール(Bar)に等しくなる。すると後輪ブレーキ回路のリターンポンプは無負荷で作動される。
【0010】
後輪ブレーキ回路の弁は好ましくは、油圧ブレーキ圧力、例えばドライバーによるフットブレーキペダルの操作によって生み出されるブレーキ圧力、が前もって定められた閾値をオーバーした時にのみ開かれる。この閾値は車両のタイプによって、例えば細孔ブレーキ圧力の70%−90%とすることが出来る。これに対して、それよりも低いブレーキ圧力の場合には弁は制御されてはならない。
【0011】
本発明の一つの実施態様によれば後輪ブレーキ回路の弁は、少なくとも一つの後輪の上でのホイールスリップが前もって定められている閾値よりも小さい制動状況の下でのみ制御される。車両の四つの車輪の全てがブロックされるフルブレーキングの場合には、弁は開かれてはならない。
【0012】
減圧弁が開かれている限り、弁は、後輪の上のホイールスリップがスリップ閾値をオーバーすると、再び閉じられることが好ましい。この様な状況は例えば、車両が摩擦係数の高い走路から滑り易い路面の上への入った時のブレーキ操作の際に生じ得る。この場合には先ず前輪だけがブロックし、それからわずか後に後輪がブロックする。減圧弁は先ず一旦開かれ、後輪も滑り易い路面の上に到達した後で、後輪のスリップに応じて、再び閉じられる。
【0013】
後輪ブレーキ回路の弁としては、とりわけ、いわゆる高圧開閉弁を考えることが出来る。この弁はとりわけリターンポンプのインレット側とブレーキパイプの中の主ブレーキシリンダとの間に配置される。
【0014】
本発明が以下に、添付の図面に基づいて詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は閉じられた高圧開閉弁を持つ、本発明の一つの実施態様に基づく自動車のブレーキシステムを示す。
【図2】図2は後輪ブレーキ回路開かれた高圧開閉弁を持つ、図1に基づく自動車のブレーキシステムを示す。
【図3】図3は高圧開閉弁の制御のための方法の幾つかのプロセスステップを示すための流れ図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は技術水準から知られている、後輪の車輪ブレーキ10a、10bのための後輪ブレーキ回路Iと前輪の車輪ブレーキ10c、10dのための前輪ブレーキ回路IIとを備えた油圧式の自動車のブレーキシステムを示している。このブレーキシステムはフットブレーキペダル1とブレーキ力増幅器2とそれに接続された主ブレーキシリンダ3を含み、主ブレーキシリンダの上にはブレーキ液容器が配置されている。フットブレーキペダル1を操作すると主ブレーキシリンダ3に接続されている主ブレーキパイプの中に対応するブレーキ圧力が生み出され、この圧力が切換え弁5a、5b、及び予備増圧弁7a−7dを介してホイールブレーキ10a−10dに対して働きかける。切換え弁5a、5bはこの状態の時には開かれている(ノーマルオープン)。切換え弁5a、5及びポンプ6a又は6bに対して並列に配置されている高圧開閉弁4a、4bはこの状態の時には閉じられている(ノーマルクローズ)。
【0017】
ABS制御の際にはホイールブレーキ10a−10dに対して働くブレーキ圧力が増圧弁7a−7d及び減圧弁9a−9dによって調節される。ホイールブレーキ10a−10dから出て来た油圧油は中間リザーバ8a又は8bの中に蓄えられる。リターンポンプ6a又は6bはホイールブレーキ10a−10dから出て来た油圧油を最終的に主ブレーキシリンダ3の方向へ返送する。二つのリターンポンプ6a、6bはここでは一つの共通の電動モータ12によって操作される。
【0018】
ドライバーがフットブレーキペダル1に高いブレーキ圧力を加えてABS制御が開始されるようなブレーキ操作の際には、リターンポンプ6a、6bが比較的高い予圧に逆らいながら起動しなければならない。電動モータ12は通常出来る限り小さく寸法決定されているので、リターンポンプ6a、6bがより低い回転数で作動することが起こり得る。それによって僅かな油圧油しかホイールブレーキ10a−10dから送り出せなくなる。ホイールブレーキ10a−10dに対して働いているブレーキ圧力はそれによって非常にゆっくりとしか低下されず、その結果ホイール停止時間が比較的長くなってしまう。
【0019】
前輪のホイールブレーキ10c、10dの上での圧力低下を加速するために、後輪ブレーキ回路Iの高圧切換え弁4aが、特定の条件が存在している時に、開かれる。図2は高圧開閉弁4aが開かれている時の油圧式ブレーキシステムを示している。開かれている状態の下ではリターンポンプ6aの入口にもドライバー予圧(Fahrer-Vordruck)が掛かっているので、リターンポンプ6aの上で低下する差圧は0に等しくなる。かくしてリターンポンプ6aは無負荷で作動するので、最早駆動モータ12に負担を掛けることが無くなる。電動モータ12の駆動トルクはかくして全て前輪のブレーキ回路IIのリターンポンプ6bの駆動のために用いられることが出来る。
【0020】
高圧開閉弁4aは好ましくは、例えば図3に示されている流れ図の中に示されている様に、定められた限界条件の下でのみ開かれる。図3によればステップ13では先ず、どちらかの前輪のホイールスリップλが前もって定められている閾値λよりも大きいか否かがチェックされる。「はい」の場合には、ステップ14で更にどちらかの後輪のホイールスリップλが前もって定められている閾値λよりも小さいか否かがチェックされる。閾値λとλは同じであることも違っていることもあり得る。「はい」の場合には、ステップ15で、ドライバー予圧(Fahrer-Vordruck)が前もって定められている閾値よりも大きいか否かがチェックされる。以上の三つの条件が満たされている場合には高圧開閉弁4aがステップ16で開かれ且つそれによってリターンポンプ6aに対する負荷が解除される。これに対してステップ13から15までのチェックの何れかが「いいえ」となった場合には、このプロセスはステップ13へ戻され、前と同様にもう一度処理される。
【符号の説明】
【0021】
1 ブレーキペダル
2 ブレーキ力増幅器
3 主ブレーキシリンダ
4a、4b 高圧開閉弁
5a、5b 切換え弁
6a、6b リターンポンプ
7a、7b 増圧弁
8a、8b 中間リザーバ
9a、9b 減圧弁
10a、10b 後輪のためのホイールブレーキ
10c、10d 前輪のためのホイールブレーキ
11a、11b 逆止め弁
12 電動モータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの共通のモータ(12)によって駆動されるそれぞれ一つのリターンポンプ(6a、6b)を備えた、前輪と後輪のブレーキ回路(I、II)を持つ、油圧式車両ブレーキシステム付きの車両のブレーキ特性の改善のための方法において、
少なくともどちらかの前輪で過度の制動スリップが生じるブレーキ操作の際には、主ブレーキシリンダ(3)と後輪ブレーキ回路Iのリターンポンプ(6a)のインテーク側との間に配置されている弁(4a)が、後輪ブレーキ回路のリターンポンプ(6a)の上での差圧が低下されるように制御される、ことを特徴とする方法。
【請求項2】
後輪ブレーキ回路(I)の弁(4a)が部分的に或いは完全に開かれることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
後輪ブレーキ回路(I)の弁(4a)が、ブレーキ回路(I、II)の中で支配的なブレーキ圧力(p)が前もって定められている閾値をオーバーした時にのみ開かれる、ことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
後輪ブレーキ回路(I)の弁(4a)が、少なくともどちらかの後輪でのホイールスリップが前もって定められている閾値よりも小さい時にのみ開かれることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
後輪ブレーキ回路(I)の弁(4a)が、少なくともどちらかの前輪でのホイールスリップが前もって定められている閾値よりも小さくなると、閉じられることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の方法の実施のための手段を含む制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−173587(P2011−173587A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−31843(P2011−31843)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(591245473)ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (591)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【Fターム(参考)】