説明

車両のマスタシリンダ装置

【課題】 操向用バーハンドルを有する自動二輪車等において,バーハンドルにおける狭小なスペースでもマスタシリンダの設置を可能にする。
【解決手段】 操向用バーハンドル2のグリップ3近傍にシリンダボディ5が取付けられるマスタシリンダ4と,そのシリンダボディ5に枢軸25を介して支持されて,グリップ3側への回動によりマスタシリンダ4のピストン10を押動する操作レバー24とを備える,車両のマスタシリンダ装置において,シリンダボディ5を,その軸線Yがバーハンドル2の軸線Xの下方でバーハンドル2の軸線Xを含む鉛直面Vに略直交するように配置する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,操向用バーハンドルのグリップ近傍にシリンダボディが取付けられるマスタシリンダと,そのシリンダボディに枢軸を介して支持されて,前記グリップ側への回動によりマスタシリンダのピストンを押動する操作レバーとを備える,自動二輪車等の車両のマスタシリンダ装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】従来,かゝるマスタシリンダ装置では,例えば特開昭59−153679号公報に開示されるように,マスタシリンダのシリンダボディを,その軸線がバーハンドルの前方でバーハンドルの軸線と平行となるように配置している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記のように,マスタシリンダのシリンダボディを,その軸線がバーハンドルの軸線と平行となるように配置したものでは,バーハンドル上にシリンダボディの全長に対応するマスタシリンダの比較的広い設置スペースが必要である。このため,左右のバーハンドル間の余裕スペースが狭くなり,計器やスイッチ類の設置に際して制約を受けることになる。
【0004】本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,バーハンドルにおける狭小なスペースでもマスタシリンダの設置を可能にする,前記車両のマスタシリンダ装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明は,操向用バーハンドルのグリップ近傍にシリンダボディが取付けられるマスタシリンダと,そのシリンダボディに枢軸を介して支持されて,前記グリップ側への回動によりマスタシリンダのピストンを押動する操作レバーとを備える,車両のマスタシリンダ装置において,前記シリンダボディを,その軸線が前記バーハンドルの軸線の下方でバーハンドルの軸線を含む鉛直面に略直交するように配置したことを特徴とする。
【0006】この特徴によれば,シリンダボディの軸線の,バーハンドルの軸線を含む鉛直面に対する略直交配置により,バーハンドルにおけるマスタシリンダの設置スペースは,シリンダボディの略直径分で足りることになり,従来のものに比べて大幅に縮小することができる。したがって左右のバーハンドル間に広いスペースを確保して,計器,スイッチ類の設置を容易に行うことができる。
【0007】またシリンダボディの軸線の,バーハンドルの軸線に対する下方配置により,バーハンドル周辺部の前面を覆う後方傾斜のカウリングが車体フレームに取付けられる場合でも,マスタシリンダとカウリングとの干渉を容易に回避することができ,カウリングの設置レイアウトの自由度が増すことになる。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の一実施例に基づいて以下に説明する。
【0009】図1は本発明に係る自動二輪車のマスタシリンダ装置の要部縦断平面図,図2は図1の2−2線断面図である。
【0010】先ず,図1において,自動二輪車の図示しないフロントフォークのトップブリッジに形成される左右一対のハンドルホルダ1(図には右側のハンドルホルダのみを示す)によって左右一対の操向用バーハンドル2(図には右側のバーハンドルのみを示す)が支持される。各バーハンドル2は,内外両端部をハンドルホルダ1から突出させており,その外端部にはゴム製の筒状グリップ3が嵌め込まれ,また特に右側のバーハンドル2の内端部には,車輪ブレーキ用,例えば前輪ブレーキ用のマスタシリンダ4が取付けられる。
【0011】図1及び図2に示すように,マスタシリンダ4のシリンダボディ5は,その軸線Yがバーハンドル2の軸線Xの下方でバーハンドル2の軸線Xを含む鉛直面Vに略直交し,且つバーハンドル2から車体前方へ突出した姿勢でバーハンドル2に固着される。その固着は,シリンダボディ5の後端に一体に形成された取付け部6と,それに一対のボルト7で結合されるキャップ8とでバーハンドル2を挟持することにより果たされる。
【0012】シリンダボディ5の,前端を開放したシリンダ孔5aには,油圧室9を画成すべくピストン10が摺動自在に嵌装され,このピストン10の抜け止め用サークリップ11がシリンダ孔5aの前方開口部内周面に係止される。ピストン10は,コイル状の戻しばね12により後退方向,即ち車体前方へ付勢される。この戻しばね12は,油圧室9の端壁に支持されるガイドピン13に支持されると共に,ピストン10に設けられた袋孔14にガイドピン13と共に挿入される。こうすることにより,狭い油圧室9でも充分に長い戻しばね12の収納が可能となり,しかも該ばね12の倒れを防ぐことができる。
【0013】シリンダボディ5の上部には,作動油を貯留するリザーブタンク15が一体に形成されており,このリザーブタンク15の底壁に,それぞれシリンダ孔5aに開口するリリーフポート16及びサプライポート17が穿設される。
【0014】ピストン10の外周には,内端側にカップシール18,外端側にシール部材19が装着されており,前記リリーフポート16は,ピストン10が所定の後退位置を占めるとき,カップシール18に近接して油圧室9に開口するように配置され,前記サプライポート17は,常時,カップシール18及びシール部材19間でシリンダ孔5aに開口するように配置される。
【0015】またシリンダボディ5の一側に形成されて油圧室9に連なる出力ポート20には,ジョイント21を介して油圧導管22の一端が接続され,その他端は車輪ブレーキ,例えば前輪ブレーキのホイールシリンダ(図示せず)に接続される。
【0016】シリンダボディ5の車体前方側端部には,ハンドルホルダ1と反対側に突出するレバーホルダ23が一体に形成されており,このレバーホルダ23に,グリップ3の車体前方に配置されるブレーキ操作レバー24の基端部24aが鉛直方向の枢軸25を介して回動自在に支持される。したがって,ブレーキ操作レバー24は,枢軸25回りに車体の前後方向へ揺動することができる。
【0017】このブレーキ操作レバー24及び前記ピストン10の両対向面には半球状の凹部26,27がそれぞれ形成され,両凹部26,27にプッシュロッド28の両端に球状端部28a,28bが係合される。こうして,ブレーキ操作レバー24及びピストン10はプッシュロッド28を介して相互に連結される。
【0018】ブレーキ操作レバー24の基端部24aにはストッパアーム29が一体に形成されており,このストッパアーム29がシリンダボディ5の車体中心側の側面に当接することにより,ブレーキ操作レバー24及びピストン10の後退限が規定されるようになっている。
【0019】尚,図2中,符号30は,図示しない車体フレームに支持されてバーハンドル周辺部前面を覆うカウリングであって,後方に傾斜して配設される。
【0020】次に,この実施例の作用について説明する。
【0021】いま,自動二輪車の操縦者がグリップ3を握っている手でブレーキ操作レバー24をグリップ3側へ引き寄せると,ブレーキ操作レバー24からプッシュロッド28を介してピストン10に押圧力が加わり,それにより前進するピストン10がリリーフポート16の開口端を通り過ぎてから油圧室9に油圧が発生し,その油圧は出力ポート20から出力され,油圧導管22を経て図示しない車輪ブレーキに供給されて,それを作動する。
【0022】ブレーキ操作レバー24から操作力を解放すると,ピストン10及びブレーキ操作レバー24は戻しばね12の反発力をもって後退する。その際,ピストン10の急速後退により油圧室9が減圧すると,カップシール18のシールリップが内方へ撓んでシリンダ孔5a内周面から離れるので,サプライポート17から油圧室9への作動油の補給が行われる。そして,ピストン10が所定の後退限まで後退すると,リリーフポート16が油圧室9の開口するようになるから,油圧室9への作動油の補給余剰分がこのリリーフポート16を通してリザーブタンク15側へ還流する。
【0023】このようなマスタシリンダ4において,シリンダボディ5は,その軸線Yがバーハンドル2の軸線Xを含む鉛直面Vに略直交するように配置されるので,バーハンドル2におけるマスタシリンダ4の設置スペースは,シリンダボディ5の略直径分で足りることになり,シリンダボディをバーハンドルに平行配置した従来のものに比べて大幅に縮小することができる。その結果,左右のバーハンドル2間に広いスペースを確保して,計器,スイッチ類の設置を容易に行うことができる。
【0024】しかも,マスタシリンダ4は,そのシリンダボディ5の軸線Yがバーハンドル2に軸線Xの下方にくるように配置されるので,バーハンドル2周辺部の前面を覆う後方傾斜のカウリング30が車体フレームに取付けられる場合でも,操向時,バーハンドル2と共に回動するマスタシリンダ4と回動しないカウリング30との干渉を容易に回避することができ,即ちカウリング30の設置レイアウトの自由度が増すことになる。また,シリンダボディ5の上側にリザーブタンク15を連設する場合でも,そのリザーブタンク15の,バーハンドル2上方への突出を抑え,若しくはその突出量を減少させることになるから,そのリザーブタンク15とカウリング30との干渉も容易に回避することができる。
【0025】尚,本発明は上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,大型のリザーブタンクを採用する場合には,それとカウリング30との干渉を回避するために,そのリザーブタンクをシリンダボディ5から切り離して適当箇所に設置して,シリンダボディ5との間を導管で連通させることもできる。また本発明は,左側のバーハンドルに取付けられるクラッチ用マスタシリンダに適用可能である。
【0026】
【発明の効果】以上のように本発明によれば,マスタシリンダを,そのシリンダボディの軸線がバーハンドルの軸線を含む鉛直面に略直交するように配置したので,バーハンドルにおけるマスタシリンダの設置スペースを従来のものに比べて大幅に縮小することができ,したがって左右のバーハンドル間に広いスペースを確保して,計器,スイッチ類の設置を容易に行うことができる。さらにマスタシリンダは,シリンダボディの軸線がバーハンドルの軸線の下方にくるように配置したので,バーハンドル周辺部の前面を覆う後方傾斜のカウリングが車体フレームに取付けられる場合でも,マスタシリンダとカウリングとの干渉を容易に回避することができ,カウリングの設置レイアウトの自由度が増すことになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る自動二輪車のマスタシリンダ装置の要部縦断平面図。
【図2】図1の2−2線断面図。
【符号の説明】
2・・・・バーハンドル
3・・・・グリップ
4・・・・マスタシリンダ
5・・・・シリンダボディ
10・・・ピストン
24・・・操作レバー
25・・・枢軸
X・・・・バーハンドルの軸線
V・・・・バーハンドルの軸線Xを含む鉛直面
Y・・・・シリンダボディの軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】 操向用バーハンドル(2)のグリップ(3)近傍にシリンダボディ(5)が取付けられるマスタシリンダ(4)と,そのシリンダボディ(5)に枢軸(25)を介して支持されて,前記グリップ(3)側への回動によりマスタシリンダ(4)のピストン(10)を押動する操作レバー(24)とを備える,車両のマスタシリンダ装置において,前記シリンダボディ(5)を,その軸線(Y)が前記バーハンドル(2)の軸線(X)の下方でバーハンドル(2)の軸線(X)を含む鉛直面(V)に略直交するように配置したことを特徴とする,車両のマスタシリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2001−63546(P2001−63546A)
【公開日】平成13年3月13日(2001.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−241526
【出願日】平成11年8月27日(1999.8.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】