説明

車両の下部構造

【課題】フロアの下方の収容部に収容された電装機器が雨水で濡れることを防止できる車両の下部構造を提供する。
【解決手段】 ドア開口Hの上下方向中間部の奥側にフロア面1Mが位置し、フロア面1Mの下方に形成された収容部3に電装機器4〜7が収容され、ドア開口Hの下側周縁部40の車室内側W1に乗降ステップ8が配置され、フロア面1Mにフロアマット2が敷設され、ドア開口Hのほぼ全幅にわたる範囲において、フロアマット2のドア開口H側の端縁2Aが、フロア面1Mのドア開口H側の端縁1M1よりもドア開口H側に突出し、フロアマット2のドア開口H側の端縁2Aの直下に乗降ステップ8が位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
ドア開口の上下方向中間部の奥側にフロア面が位置し、
前記フロア面の下方に形成された収容部に電装機器が収容され、
前記ドア開口の下側周縁部の車室内側に乗降ステップが配置され、
前記フロア面にフロアマットが敷設されている車両の下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両の下部構造は商用の電気自動車等に採用されている。
従来、上記の車両の下部構造では、図10に示すように、ドア開口Hのほぼ全幅にわたる範囲において、フロアマット2のドア開口H側の端縁2Aがフロア面1Mのドア開口H側の端縁1M1よりもドア開口Hとは反対側に位置していた。図10において、符号3は収容部、8は乗降ステップ、50はドア、51はドアトリム、W1は車室内側、W2は車室外側である。
そのために、乗降時や荷物の積み下ろし時にフロアマット2に雨水がかかった場合、水滴Cがフロアマット2の上面を伝ってフロアマット2のドア開口H側の端縁2Aに達し、フロアマット2とフロア面1Mの間に浸入していた。そして、この水滴Cがドア開口Hとは反対側に流れて電装機器6側に滴下することがあった。
フロアマット2とフロア面1Mの間を流れる水滴Cが流下する雨樋がフロア1に形成されていれば、電装機器6側への水滴Cの滴下を回避することができるが、成形上の問題で雨樋を成形不可能な場合がある。
特許文献1の技術では、前記フロアの幅方向の端部とサイドシルの上端部との間を覆うスペーサを設け、スペーサとサイドシルの上端部の間にハーネスを収容し、さらに、スペーサの上方をサイドシルカバーで覆うことにより、ハーネス側への水の浸入を防いでいるが、このような構造は、乗降ステップを備えた上記の車両の下部構造には採用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−129369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記実状に鑑みて成されたもので、その目的は、フロアの下方の収容部に収容された電装機器が雨水で濡れることを防止できる車両の下部構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の特徴は、
ドア開口の上下方向中間部の奥側にフロア面が位置し、
前記フロア面の下方に形成された収容部に電装機器が収容され、
前記ドア開口の下側周縁部の車室内側に乗降ステップが配置され、
前記フロア面にフロアマットが敷設されている車両の下部構造であって、
前記ドア開口のほぼ全幅にわたる範囲において、前記フロアマットのドア開口側の端縁が、前記フロア面のドア開口側の端縁よりも前記ドア開口側に突出し、
前記フロアマットのドア開口側の端縁の直下に前記乗降ステップが位置している点にある。(請求項1)
【0006】
上記の構成によれば、フロアマットにかかってフロアマットの上面を伝った雨水の水滴がフロアマットのドア開口側の端縁に達した場合、この水滴は、フロアマットのドア開口側の端縁から直下の乗降ステップに滴下する。乗降ステップには一般に排水部が形成されおり、この排水部から水滴を排水することができる。これにより、フロア面の下方の収容部に収容された電装機器が水滴で濡れることを防止できる。また、電装機器を防水構造に構成する場合に比べて製作コストを低廉化することができる。(請求項1)
【0007】
本発明において、
前記フロア面のドア開口側の端縁よりも前記ドア開口側に位置する前記フロアマットの端部は自重で水平より下方に垂れ下がっていると、フロアマットのドア開口側の端部を乗降ステップに臨ませることができ、水滴を確実に乗降ステップ上に滴下させることができる。(請求項2)
【0008】
本発明において、
前記電装機器を側方から覆う収容部側壁が前記乗降ステップの車室内側の端部の上側に配置され、
前記収容部側壁にベンチレータが設けられていると、次の作用を奏することができる。(請求項3)
【0009】
上記のように、水滴をフロアマットのドア開口側の端縁から直下の乗降ステップに滴下させることができるから、水滴がベンチレータ側に向かうのを防止して、水滴がベンチレータ側から電装機器側に浸入するのを防止することができる。(請求項3)
【0010】
本発明において、
前記ベンチレータは前記ドア開口の幅方向外方側の車体側壁に間隔を空けて覆われていると、ドアを開放した時に、水滴がベンチレータ側に向かうのを前記車体側壁で阻止して、水滴が電装機器側に浸入するのを防止することができる。(請求項4)
【0011】
本発明において、
前記フロアマットは撥水加工されていると、フロアマットに水が浸み込むことがなく、フロアマット側から乗降ステップ側に排水しやすくすることができる。(請求項5)
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、
フロアの下方の収容部に収容された電装機器が雨水で濡れることを防止できる車両の下部構造を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】電気自動車の側面図
【図2】ドア開口から車室内側を見た斜視図
【図3】フロアマットが敷かれたフロアの平面図であり、フロアマットの一部分を切り欠いてフロアマットの下側のフロアを示した平面図
【図4】フロアマットが敷かれる前のフロアの平面図
【図5】フロアマットの平面図
【図6】電装機器の配置を示す模式図
【図7】フロアマットの側部を上方に開いてあるフロアの側部の斜視図
【図8】図7のA−A断面図
【図9】図7のB−B断面図
【図10】図7のA−A断面に対応する従来の技術を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、商用の電気自動車(例えば郵便配達車)の側部にドア開口Hが形成され、車体に対して車両前後方向にスライド移動してドア開口Hを開閉するスライドドア50(図8,図9参照)が設けられている。図8,図9の符号51はドアトリムである。この電気自動車において、運転席を含む前席の後方の空間は荷室に構成されている。
【0015】
ドア開口Hの上下方向中間部の奥側には荷室のフロア1のフロア面1Mが位置している。フロア面1Mは荷室全体にわたってフラットに形成され、フロア面1Mにフロアマット2(図3,図5参照)が敷設されている。
【0016】
前記フロアマット2の全表面は樹脂コーティング(撥水加工の一例)されている。そして、図3,図6,図8,図9に示すように、フロア面1Mの下方に形成された収容部3に、EVコントローラ4・ジャンクションボックス5・充電器6・DCDCコンバータ7(以上、それぞれ電装機器に相当)が収容され、ドア開口Hの下側周縁部40の車室内側W1に乗降ステップ8が配置されている。
【0017】
[収容部3の構造]
前記収容部3は、フロアパネル55(図4参照)の車両前後方向中間部を側面視コの字状に下方に凹ませて構成されている。図2〜図4に示すように、収容部3の前半部(車両前方側Frの収容部部分)の上部には、前記収容部3の前半部の底壁に対向するアッパーパネル9が配設されている。前記電装機器4〜7は、収容部3の後半部(車両後方側Rrの収容部部分)の底壁に載置固定され、電装機器4〜7を上方から覆うリッド10が収容部3の後半部の上部に設けられている。
【0018】
そして、アッパーパネル9の上面と、リッド10の上面と、リッド10よりも車両後方側Rrのフロアパネル55の上面とがほぼ同一高さに設定され、各上面が前記フロア面1Mに構成されている。また、アッパーパネル9の上面と、リッド10よりも車両後方側Rrのフロアパネル55の上面に、車両前後方向に沿う複数のビード15が形成されている。
【0019】
[フロアマット2の構造]
図5に示すように、フロアマット2は長方形状の第1マット11と、車両前方側Frの第1マット部分の上面に積層された長方形状の第2マット12と、第2マット12よりも車両後方側Rrの第1マット部分の上面に積層された第3マット13と、車両後方側Rrの第3マット部分の上面に積層された第4マット14とから成る。前記第1マット11と第4マット14はPVC(ポリ塩化ビニル)で形成され、第2マット12と第3マット13はフェルト材で形成されている。
【0020】
図8,図9に示すように、前記乗降ステップ8はドア開口Hの下側周縁部40を形成する外側フレーム16の上端部と、外側フレーム16よりも車室内側W1の内側フレーム17の下端部とにわたって架け渡されている。図2に示すように、この乗降ステップ8に車幅方向に沿う複数のビード15が形成されている。
【0021】
また、内側フレーム17の上端部に、前記電装機器4〜7を側方(車幅方向外側、車室外側)から覆う収容部側壁18の下端部が連結されている。すなわち、前記収容部側壁18が乗降ステップ8の車室内側W1の端部8Aの上側に配置されて、前記乗降ステップ8の車室内側W1の端部8Aから立ち上がった状態に構成されている。
【0022】
前記内側フレーム17と収容部側壁18は左右一対ずつ設けられ、両収容部側壁18の上端部18Jの前端部同士が前側連結部材45(図2参照)で連結されるとともに、両収容部側壁18の上端部18Jの後端部同士が後ろ側連結部材で連結されている。
【0023】
図3,図4に示すように、前記リッド10は左右一対設けられ、図8,図9に示すように、一方のリッド10の車室外側W2の側部が一方の収容部側壁18の上端部18Jに連結され、他方のリッド10の車室外側W2の側部が他方の収容部側壁18の上端部18Jに連結されている。
【0024】
前記収容部側壁18の上端部18Jは車室内側W1に折曲し、フロア1の側部を形成するサイドパネル21の車室内側W1の端部が収容部側壁18の折曲した上端部18Jに上方から連結して、前記サイドパネル21が前記収容部側壁18の上端部18Jから車室外側W2に張り出している。前記サイドパネル21の上面はフロア面1Mに構成されている。
【0025】
前記サイドパネル21の車室内側W1の端部は、サイドパネル21の本体部21Aの車室内側W1の端部から下方に延びる第1縦壁21Tと、第1縦壁21Tの下端部から車室内側W1に延びる第1横壁21Yとを備え、前記リッド10の車室外側W2の側部は、リッド本体10Aの車室外側W2の端部から下方に延びる第2縦壁10Tと、第2縦壁10Tの下端部から車室外側W2に延びる第2横壁10Yとを備えている。
【0026】
そして、前記第1横壁21Yが前記収容部側壁18の折曲した上端部18Jに上方から重なり、第1横壁21Yに第2横壁10Yが上方から重なって、前記収容部側壁18の折曲した上端部18Jと第1横壁21Yと第2横壁10YとがボルトB・ナットNで一体に共締め固定されている。前記第1縦壁21Tと、第1横壁21Y及び第2横壁10Yと、第2縦壁10Tとにより上側が開放した断面コの字状の排水用の樋80を形成している。この樋80は収容部側壁18の車両前方側Frの端部には設けられていない(図7,図8参照)。
【0027】
図8,図9に示すように、前記ドア開口Hのほぼ全幅にわたる範囲において、前記フロアマット2のドア開口H側の端縁2Aが、前記フロア面1Mのドア開口H側の端縁1M1(サイドパネル21の上面のドア開口H側の端縁)よりも前記ドア開口H側に突出し、フロアマット2のドア開口H側の端縁2Aの直下に前記乗降ステップ8が位置している。
【0028】
そして、前記フロア面1Mのドア開口H側の端縁1M1よりもドア開口H側に位置するフロアマット2の端部1Aが自重で水平より下方に垂れ下がるように前記フロアマット2に可撓性が付与されている。つまり、前記フロアマット2の端部1Aが自重で水平より下方に垂れ下がるようにフロアマット2の材質・厚さ・剛性が設定されている。
【0029】
また、図2に示すように、前記収容部側壁18にベンチレータ25が設けられている。ベンチレータ25は電装機器4〜7が発する熱を冷却する空気の吸気口となる部品であり、ドア開口Hの幅方向外方側(車両後方側Rr)の車体側壁35(図1,図2参照)に間隔を空けて覆われている。
【0030】
上記の構成によれば、
(1) 図8に示すように、フロアマット2にかかってフロアマット2の上面を伝った雨水の水滴Cがフロアマット2のドア開口H側の端縁2Aに達した場合、この水滴Cは、フロアマット2のドア開口H側の端縁2Aから直下の乗降ステップ8に滴下する。乗降ステップ8には排水部(図示せず)が形成されおり、この排水部から水滴Cを排水することができる。これにより、フロア面1Mの下方の収容部3に収容された電装機器4〜7が水滴Cで濡れることを防止できる。また、電装機器4〜7を防水構造に構成する場合に比べて製作コストを低廉化することができる。
【0031】
(2) 前記フロア面1Mのドア開口H側の端縁1M1よりもドア開口H側に位置するフロアマット2の端部1Aは自重で水平より下方に垂れ下がっているから、フロアマット2のドア開口H側の端部1Aを乗降ステップ8に臨ませることができ、水滴Cを確実に乗降ステップ8上に滴下させることができる。
【0032】
(3) 前記電装機器4〜7を側方から覆う収容部側壁18が前記乗降ステップ8の車室内側W1の端部8Aの上側に配置され、前記収容部側壁18にベンチレータ25が設けられ、水滴Cをフロアマット2のドア開口H側の端縁2Aから直下の乗降ステップ8に滴下させることができるから、水滴Cがベンチレータ25側に向かうのを防止して、水滴Cがベンチレータ25側から電装機器4〜7側に浸入するのを防止することができる。
【0033】
(4) 前記ベンチレータ25は前記ドア開口Hの幅方向外方側の車体側壁35に間隔を空けて覆われているから、スライドドア50を開放した時に、水滴Cがベンチレータ25側に向かうのを前記車体側壁35で阻止して、水滴Cが電装機器4〜7側に浸入するのを防止することができる。
【0034】
(5) 前記フロアマット2の表面は樹脂コーティングされているから、フロアマット2に水が浸み込むことがなく、フロアマット2側から乗降ステップ8側に排水しやすくすることができる。
【0035】
[別実施形態]
上記の実施形態では前記フロアマット2の全表面を樹脂コーティングしたが、ドア開口Hの範囲のフロアマット2の端部1Aだけを樹脂コーティング(又はその他の手段による撥水加工)してあってもよい。この構成によれば、撥水加工の加工コストを削減することができる。
【符号の説明】
【0036】
1A フロアマットの端部
1M フロア面
1M1 フロア面のドア開口側の端縁
2 フロアマット
2A フロアマットのドア開口側の端縁
3 収容部
4 電装機器(EVコントローラ)
5 電装機器(ジャンクションボックス)
6 電装機器(充電器)
7 電装機器(DCDCコンバータ)
8 乗降ステップ
8A 乗降ステップの車室内側の端部
18 収容部側壁
25 ベンチレータ
35 車体側壁
40 ドア開口の下側周縁部
H ドア開口
W1 車室内側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドア開口の上下方向中間部の奥側にフロア面が位置し、
前記フロア面の下方に形成された収容部に電装機器が収容され、
前記ドア開口の下側周縁部の車室内側に乗降ステップが配置され、
前記フロア面にフロアマットが敷設されている車両の下部構造であって、
前記ドア開口のほぼ全幅にわたる範囲において、前記フロアマットのドア開口側の端縁が、前記フロア面のドア開口側の端縁よりも前記ドア開口側に突出し、
前記フロアマットのドア開口側の端縁の直下に前記乗降ステップが位置している車両の下部構造。
【請求項2】
前記フロア面のドア開口側の端縁よりも前記ドア開口側に位置する前記フロアマットの端部は自重で水平より下方に垂れ下がっている請求項1記載の車両の下部構造。
【請求項3】
前記電装機器を側方から覆う収容部側壁が前記乗降ステップの車室内側の端部の上側に配置され、
前記収容部側壁にベンチレータが設けられている請求項1又は2記載の車両の下部構造。
【請求項4】
前記ベンチレータは前記ドア開口の幅方向外方側の車体側壁に間隔を空けて覆われている請求項3記載の車両の下部構造。
【請求項5】
前記フロアマットは撥水加工されている請求項1〜4のいずれか一つに記載の車両の下部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−166576(P2012−166576A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26492(P2011−26492)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】