説明

車両の充電蓄熱装置

【課題】車両の外部電源への接続中、バッテリの充電及び蓄熱器への蓄熱の完了のために消費される電力を小さく抑える。
【解決手段】車両の外部電源への接続中、外部電源を用いてバッテリ17の充電、及び、外部電源を用いたペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への蓄熱とが同時に完了するよう、それら充電及び蓄熱が行われる。それに際して、外部電源の電気容量を最大限に用いてバッテリ17の充電とペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への蓄熱とを同時に行い、充電のための電気エネルギと蓄熱のための電気エネルギとを分配するに当たり、その分配率「A:B」が上記充電及び上記蓄熱を最短で完了させることの可能な値とされる。このように、車両の外部電源への接続中にバッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を行うことで、それら充電及び蓄熱を効率よく行うことができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の充電蓄熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
停車時に外部電源に接続されてバッテリへの充電が行われる車両として、例えば、バッテリの電力に基づき駆動されるモータを用いて走行することの可能な車両(特許文献1参照)があげられる。
【0003】
同車両においても、車室の空調(空気温度の調節)を行うための空調装置が設けられている。こうした空調装置は、例えば特許文献2に示されるように、車両の廃熱を回収して車室の空調(暖房)に用いるべく水等の熱媒体を循環させる循環回路と、その循環回路の熱媒体を蓄えることで顕熱蓄熱を行う蓄熱器と、その蓄熱器の熱媒体に対し温熱を付与することの可能な熱移動装置(ヒートポンプ)とを備えている。上記熱移動装置は、バッテリの電力に基づき低温側から高温側への熱の移動を行うよう駆動される。そして、熱移動装置の高温側によって蓄熱器の熱媒体に対し温熱が付与される。
【0004】
同空調装置による車室の空調(ここでは暖房)は、車両の廃熱を回収して温度上昇した循環回路の熱媒体を、車室に送られる空気との間で熱交換させることによって実現される。また、このときに上記蓄熱器に蓄えられた温熱(高温の熱媒体)を循環回路の熱媒体に放出すれば、それによって車室の暖房がより一層効果的に行われるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−193901公報
【特許文献2】特開2010−23527公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記車両においては、停車中であって外部電源に接続されているとき、同車両の次回の運転開始に伴って外部電源から切り離されるまでに、上記外部電源を用いてバッテリの充電を完了させるとともに、上記外部電源に基づき熱移動装置を駆動して蓄熱器への温熱の蓄熱を完了させることが好ましい。
【0007】
ただし、上記外部電源を用いたバッテリの充電、及び、上記外部電源を用いた熱移動装置の駆動による蓄熱器への蓄熱を行うに当たり、それらバッテリの充電及び蓄熱器への蓄熱の仕方によっては充電及び蓄熱の効率が低下するおそれがある。このように充電及び蓄熱の効率が低下すると、充電及び蓄熱の完了に長い時間がかかるようになり、ひいては充電及び蓄熱を完了させるために消費される電力が多くなる。
【0008】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、車両の外部電源への接続中、バッテリの充電及び蓄熱器への蓄熱の完了のために消費される電力を小さく抑えることのできる車両の充電蓄熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明によれば、車両の外部電源への接続中、その外部電源によるバッテリの充電が行われるとともに、外部電源に基づき熱移動装置を駆動させることで蓄熱器への冷熱もしくは温熱の蓄熱が行われる。そして、それらバッテリの充電と蓄熱器への蓄熱とが同時に完了するよう、車両の外部電源への接続中におけるバッテリの充電及び蓄熱器への蓄熱が行われる。このように充電及び蓄熱を行うことで、少なくとも、そうした充電及び蓄熱の完了直前には、バッテリの充電と蓄熱器への蓄熱とが同時に行われるようになる。
【0010】
仮に、車両の外部電源への接続中、まず外部電源の電気容量を最大限に用いてバッテリの充電を完了させ、その後に外部電源の電気容量を最大限に用いて蓄熱器への蓄熱を完了させるようにした場合、上記蓄熱の効率が低下して充電及び蓄熱を完了させるために消費される電力が多くなる。これは、上記蓄熱を行うべく熱移動装置を動作させて同装置の低温側から高温側への熱の移動を行う際、それら低温側と高温側との温度差が小さいほど上記熱の移動が効率よく行われることが関係している。すなわち、上述したように外部電源の電気容量を最大限に用いて熱移動装置の駆動による上記熱の移動を行うと、熱移動装置の低温側から高温側への熱の移動が急速に行われて両者の温度差が大きくなることから、上記熱の移動が効率よく行えなくなり、ひいては蓄熱の効率が低下するためである。
【0011】
この点、請求項1記載の発明では、車両の外部電源への接続中、少なくともバッテリ充電及び蓄熱器への蓄熱が完了する直前には、それら充電と蓄熱とが同時に行われるため、そのときに熱移動装置が外部電源の電気容量を最大限に用いて動作することはなくなる。この場合、蓄熱を行うべく動作する熱移動装置での低温側から高温側への熱の移動が緩やかになる。このように熱移動装置の低温側から高温側への熱の移動が緩やかになると、それら低温側と高温側との温度差が過度に大きくなることは抑制され、更には熱移動装置の低温側から高温側への熱の移動が効率よく行えなくなることも抑制される。こうして熱移動装置の低温側から高温側への熱の移動を効率よく行うことが可能になり、それによって蓄熱の効率が低下することは抑制されるようになる。以上により、車両の外部電源への接続中、バッテリの充電及び蓄熱器への蓄熱を効率よく行うことができ、それら充電及び蓄熱の完了のために消費される電力を小さく抑えることができる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、車両の外部電源への接続中、その外部電源によるバッテリの充電が行われるとともに、外部電源に基づき熱移動装置を駆動させることで蓄熱器への冷熱もしくは温熱の蓄熱が行われる際、外部電源の電気容量を最大限に用いたバッテリの充電と熱移動装置の駆動による蓄熱器への蓄熱とが同時に行われる。更に、上記充電のための電気エネルギと上記蓄熱のための電気エネルギとを分配するに当たり、その分配率に関しては上記充電及び上記蓄熱が最短で完了する値とされる。その結果、車両の外部電源への接続中、バッテリの充電及び蓄熱器への蓄熱を効率よく行うことができるようになり、それら充電及び蓄熱の完了のために消費される電力を小さく抑えることができるようになる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、車両が前記外部電源に接続された後、同外部電源が車両から切り離される予測時刻である切り離し時刻にて充電及び蓄熱が完了する。すなわち、そのように充電及び蓄熱が完了するよう、車両が外部電源に接続された後、充電及び蓄熱が開始される。従って、車両を運転開始すべく、同車両を切り離し時刻に従って外部電源から切り離すときにバッテリの充電及び蓄熱器への蓄熱を完了させることができ、その完了が上記切り離しに対し早すぎたり遅すぎたりすることがない。
【0014】
なお、上記充電のための電気エネルギと上記蓄熱のための電気エネルギとを分配するに当たっての分配率に関しては、請求項4のように次の式「(A:B)=(Qb−Qbnow):(lQs−Qsnowl)/COP」に基づき設定することが好ましい。
【0015】
更に、車両を外部電源に接続した後におけるバッテリの充電及び蓄熱器への蓄熱に関しては、請求項5のように最短時間Tfを次の式「Tf=(Qb−Qbnow)/[E・{A/(A+B)}]」に基づいて算出し、上記切り離し時刻から最短時間Tfを遡った時刻にて開始することが好ましい。
【0016】
また、上記最短時間Tfに関しては、請求項6のように、次の式「Tf={(lQs−Qsnowl)/COP}/[E・{B/(A+B)}]」に基づいて算出することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態における熱制御装置の全体構成を示す略図。
【図2】同熱制御装置の第1〜第3循環回路での熱媒体の循環態様を示す略図。
【図3】同熱制御装置の第1〜第3循環回路での熱媒体の循環態様を示す略図。
【図4】同熱制御装置の第1〜第3循環回路での熱媒体の循環態様を示す略図。
【図5】同熱制御装置の第1〜第3循環回路での熱媒体の循環態様を示す略図。
【図6】同熱制御装置の第1〜第3循環回路での熱媒体の循環態様を示す略図。
【図7】同熱制御装置の第1〜第3循環回路での熱媒体の循環態様を示す略図。
【図8】ペルチェ素子の性能の変化に対する電力効率の推移を示すグラフ。
【図9】ペルチェ素子の性能の変化に対する充電及び蓄熱の完了時間の推移を示すグラフ。
【図10】車両を外部電源に接続した状態のもとでバッテリの充電、及び蓄熱器への蓄熱を行うための処理の実行手順を示すフローチャート。
【図11】(a)〜(c)は車両を外部電源に接続した後のバッテリ残量及び蓄熱残量の推移を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を自動車等の車両に適用した一実施形態について、図1〜図11を参照して説明する。
この実施形態の車両は、バッテリの電力に基づき駆動されるモータにより走行可能であって、且つ停車時に上記バッテリを充電すべく外部電源と接続することが可能となっている。こうした車両には、熱制御の一つとして車室の空調などを行う熱制御装置が設けられる。この熱制御装置は、図1に示されるように、ポンプ4の駆動により水等の熱媒体が循環する第1循環回路1と、ポンプ5の駆動により水等の熱媒体が循環する第2循環回路2と、ポンプ8の駆動により水等の熱媒体が循環する第3循環回路3とを備えている。
【0019】
上記第1循環回路1では、ポンプ4の駆動により循環する熱媒体を用いて車室の空調を行うことが可能となっている。また、上記第2循環回路2では、ポンプ5の駆動により循環する熱媒体が室外熱交換器6を通過する際、同熱媒体と外気との間での熱交換を行うことが可能となっている。これら第1循環回路1と上記第2循環回路2との間には、上記バッテリや上記外部電源からの電力供給を受けて作動するペルチェ素子7が、第1循環回路1の熱媒体と第2循環回路2の熱媒体との間での熱の移動を行うことの可能な熱移動装置として設けられている。
【0020】
一方、上記第3循環回路3では、ポンプ8の駆動により循環する熱媒体が充電器9及びトランスアクスル10を通過するようになっている。上記充電器9は、車両に接続された外部電源の電圧をバッテリの充電を行うことの可能な値まで昇圧するためのものであって、例えば家庭用電源を上記外部電源として車両に接続した場合に作動される。そして、充電器9の作動中には、同充電器9からの廃熱が第3循環回路を循環する熱媒体によって回収される。このように熱媒体により回収された廃熱に関しては、同熱媒体がトランスアクスル10を通過する際に同トランスアクスル10に付与される。
【0021】
また、第3循環回路3は、サーモスタット11にて、放熱器12を通過して循環する経路と同放熱器12を迂回して循環する経路とに分岐している。上記サーモスタット11は、第3循環回路3の熱媒体の温度に応じて、同熱媒体の上記放熱器12の通過を禁止・許可するものである。すなわち、第3循環回路3の熱媒体の温度が高いときには、上記サーモスタット11の動作により上記放熱器12における熱媒体の通過が許可され、それによって上記熱媒体が放熱器12を通過して同放熱器12にて放熱を行うようにされる。その結果、第3循環回路3における熱媒体の温度の過上昇が抑制される。一方、第3循環回路3の熱媒体の温度が高いときには、上記サーモスタット11の動作により上記放熱器12における熱媒体の通過が禁止され、それによって上記熱媒体が放熱器12を迂回して循環するようにされる。その結果、放熱器12での熱媒体の放熱が行われることはなくなり、第3循環回路3における熱媒体の温度が過度に低くなることがないようにされる。
【0022】
次に、上記第1循環回路1について詳しく説明する。
第1循環回路1は、ポンプ4の下流に設けられた切換弁13にて、冷熱蓄熱器14を通過する経路1a、温熱蓄熱器15を通過する経路1b、バイパス通路16を通過する経路1c、及びバッテリ17を通過する経路1dといった四つの経路に分岐している。上記切換弁13は、前記第1循環回路1における熱媒体の循環経路を冷熱蓄熱器14(経路1a)、温熱蓄熱器15(経路1b)、バイパス通路16(経路1c)、及びバッテリ17(経路1d)のうちのいずれかに切り換えるよう動作する。なお、第1循環回路1における経路1a〜1cは、室内熱交換器18の上流で一つとなるように合流している。この室内熱交換器18は、そこを通過する熱媒体と車室に送られる空気との間での熱交換を行わせるものである。第1循環回路1における室内熱交換器18の下流側は、経路1dの下流と合流した後に遮断弁19に繋がっている。同遮断弁19は、その動作を通じて第1循環回路1を第2循環回路2に対し連通状態もしくは遮断状態とするものである。詳しくは、通常時においては、第1循環回路1と第2循環回路2とが遮断状態となるよう、上記遮断弁19が閉じられた状態とされる。一方、第1循環回路1の熱媒体を第2循環回路2に送って室外熱交換器6にて外気と熱交換させたいときには、上記遮断弁19が開かれて第1循環回路1と第2循環回路2とが連通状態とされる。
【0023】
第1循環回路1における遮断弁19の下流かつポンプ5の上流には、車両のモータを駆動するためのインバータ20が廃熱回収対象として設けられている。従って、モータを駆動するためのインバータ20の動作中には、同インバータ20からの廃熱が第1循環回路1を循環する熱媒体によって回収されるようになる。また、第1循環回路1における遮断弁19の下流かつインバータ20の上流に対応する部分には上述したペルチェ素子7が位置している。このペルチェ素子7は、第2循環回路2に対しては、室外熱交換器6の下流かつポンプ5の上流に対応する部分に位置している。そして、同ペルチェ素子7の駆動を通じて、第2循環回路2の熱媒体の熱を第1循環回路1の熱媒体に移動させたり、第1循環回路1の熱媒体の熱を第2循環回路2の熱媒体に移動させたりすることが行われる。なお、こうしたペルチェ素子7の駆動による熱の移動は、第1循環回路1の熱媒体と第2循環回路2の熱媒体とのうち、低温の熱媒体から高温の熱媒体に向けて行うことも可能となっている。
【0024】
次に、車両の熱制御装置の電気的構成について説明する。
この熱制御装置は、バッテリ17の充電、及び、冷熱蓄熱器14や温熱蓄熱器15を用いた蓄熱を制御する充電蓄熱装置としても機能する。こうした熱制御装置には、車両におけるモータの駆動制御及び車室の空調制御などの各種制御を行う電子制御装置21が設けられている。この電子制御装置21は、上記制御に係る各種演算処理を実行するCPU、その制御に必要なプログラムやデータの記憶されたROM、CPUの演算結果等が一時記憶されるRAM、外部との間で信号を入・出力するための入・出力ポート等を備えている。
【0025】
電子制御装置21の入力ポートには、冷熱蓄熱器14内の温度を検出する第1温度センサ22、温熱蓄熱器15内の温度を検出する第2温度センサ23、及び室内熱交換器18の通過後に車室内に吹き出される空気の温度(吹き出し温度)を検出する第3温度センサ24といった各種センサ等が接続されている。更に、上記入力ポートには、車両の運転開始や運転停止の際に操作されて操作位置に対応した信号を出力するレディースイッチ25、及び、車両の外部電源に対する接続の有無に応じた信号を出力するプラグイン検出回路26も接続されている。一方、電子制御装置21の出力ポートには、ポンプ4、ポンプ5、ペルチェ素子7、ポンプ8、充電器9、切換弁13、及び遮断弁19といった各種機器のそれぞれの駆動回路等が接続されている。
【0026】
電子制御装置21は、車両の運転中などに車室の空調を行うべく、上記各種センサから入力した検出信号及び車室の冷房要求や暖房要求等に基づいて、ポンプ4、ペルチェ素子7、及び切換弁13といった機器の駆動回路に対し指令信号を出力する。こうして車室の空調を行うためのポンプ4の駆動制御、ペルチェ素子7の駆動制御、及び切換弁13の駆動制御等が電子制御装置21を通じて実施される。
【0027】
なお、車室の冷房要求の大きさや暖房要求の大きさは、第3温度センサ24の検出信号から求められる吹き出し温度と、その吹き出し温度の目標値である目標吹き出し温度とに基づいて求めることが可能である。上記目標吹き出し温度は、車両の乗員により定められる車室内の設定温度、車室内の実際の温度、及び、車室内への日射量などに基づいて求められる値である。そして、上記目標吹き出し温度が第3温度センサ24の検出信号から求められる吹き出し温度に対し低い値であるほど、車室の冷房要求が大きいと判断することができる。一方、上記目標吹き出し温度が第3温度センサ24の検出信号から求められる吹き出し温度に対し高い値であるほど、車室の暖房要求が大きいと判断することができる。
【0028】
また、電子制御装置21は、停止中の車両に対する外部電源の接続中などに、上記各種センサから入力した検出信号に基づき冷熱蓄熱器14の蓄熱残量や温熱蓄熱器15の蓄熱残量を把握する。そして、把握した蓄熱残量に基づいて冷熱蓄熱器14への冷熱の蓄熱や温熱蓄熱器15への温熱の蓄熱を行うべく、ポンプ4、ペルチェ素子7、及び切換弁13といった機器の駆動回路に対し指令信号を出力する。こうして冷熱蓄熱器14への冷熱の蓄熱や温熱蓄熱器15への温熱の蓄熱を行うためのポンプ4の駆動制御、ペルチェ素子7の駆動制御、及び切換弁13の駆動制御等が電子制御装置21を通じて実施される。
【0029】
更に、電子制御装置21は、停止中の車両に対する外部電源(家庭用電源)の接続中、同外部電源の接続開始時におけるバッテリ17の残量を把握し、その把握したバッテリ17の残量等に基づき同バッテリ17の充電を行う。このとき、電子制御装置21は、家庭用電源の電圧をバッテリ17の充電を行うことの可能な値まで昇圧すべく充電器9の駆動回路に対して指令信号を出力し、それに基づく充電器9の駆動制御により家庭用電源を用いたバッテリ17の充電を行う。
【0030】
次に、第1循環回路1、第2循環回路2、及び第3循環回路3での熱媒体の循環態様について、車両の各種状況毎に図2〜図7を参照して詳しく説明する。
図2は、夏期での車両の運転中、冷熱蓄熱器14に蓄えられた冷熱を用いて車室を冷房する際の第1循環回路1、第2循環回路2、及び第3循環回路3での熱媒体の循環態様を示している。こうした蓄熱器を用いた車室の空調(以下、蓄熱器空調という)、より詳しくは冷熱蓄熱器14に蓄えられた冷熱を用いた車室の冷房では、第1循環回路1における熱媒体の循環経路が冷熱蓄熱器14(経路1a)となるよう切換弁13が切り換えられる。更に、遮断弁19を閉じ動作させて第1循環回路1と第2循環回路2とが遮断状態とされるとともに、第1循環回路1のポンプ4及び第2循環回路2のポンプ5が駆動される。これにより、第1循環回路1を循環する熱媒体が冷熱蓄熱器14を通過するようになり、冷熱蓄熱器14に蓄えられた冷熱が上記熱媒体を通じて室内熱交換器18に運ばれることになる。そして、室内熱交換器18での熱媒体と車室に送られる空気との熱交換により同空気が冷やされる。こうして冷やされた空気が車室に送られることで、冷熱蓄熱器14に蓄えられた冷熱を用いた車室の冷房が行われるようになる。なお、このときの第3循環回路3ではポンプ8の駆動により熱媒体の循環が行われる。
【0031】
図3は、冬季での車両の運転中、温熱蓄熱器15に蓄えられた温熱を用いて車室を暖房する際の第1循環回路1、第2循環回路2、及び第3循環回路3での熱媒体の循環態様を示している。こうした蓄熱器を用いた車室の空調(以下、蓄熱器空調という)、より詳しくは温熱蓄熱器15に蓄えられた温熱を用いた車室の暖房では、第1循環回路1における熱媒体の循環経路が温熱蓄熱器15(経路1b)となるよう切換弁13が切り換えられる。更に、遮断弁19を閉じ動作させて第1循環回路1と第2循環回路2とが遮断状態とされるとともに、第1循環回路1のポンプ4及び第2循環回路2のポンプ5が駆動される。これにより、第1循環回路1を循環する熱媒体が温熱蓄熱器15を通過するようになり、温熱蓄熱器15に蓄えられた温熱が上記熱媒体を通じて室内熱交換器18に運ばれることになる。そして、室内熱交換器18での熱媒体と車室に送られる空気との熱交換により同空気が温められる。こうして温められた空気が車室に送られることで、温熱蓄熱器15に蓄えられた温熱を用いた車室の暖房が行われるようになる。なお、このときの第3循環回路3ではポンプ8の駆動により熱媒体の循環が行われる。
【0032】
図4は、夏期での車両の運転中、ペルチェ素子7を用いて車室を冷房する際の第1循環回路1、第2循環回路2、及び第3循環回路3での熱媒体の循環態様を示している。こうしたペルチェ素子7を用いた車室の空調(以下、ペルチェ空調という)、より詳しくはペルチェ素子7を用いた車室の冷房では、第1循環回路1における熱媒体の循環経路がバイパス通路16(経路1c)となるよう切換弁13が切り換えられる。更に、遮断弁19を閉じ動作させて第1循環回路1と第2循環回路2とが遮断状態とされるとともに、第1循環回路1のポンプ4及び第2循環回路2のポンプ5が駆動される。この状態で、第1循環回路1の熱媒体から第2循環回路2の熱媒体へと熱の移動が行われるようにペルチェ素子7が駆動される。なお、図中のペルチェ素子7における白抜き矢印は、同ペルチェ素子7の駆動による熱の動きを示している。この場合、第1循環回路1を循環する熱媒体は、ペルチェ素子7の近傍で冷やされた後に室内熱交換器18を通過するようになる。そして、室内熱交換器18での熱媒体と車室に送られる空気との熱交換により同空気が冷やされる。こうして冷やされた空気が車室に送られることで、ペルチェ素子7を用いた車室の冷房が行われるようになる。なお、このときの第3循環回路3ではポンプ8の駆動により熱媒体の循環が行われる。
【0033】
図5は、冬季での車両の運転中、ペルチェ素子7を用いて車室を暖房する際の第1循環回路1、第2循環回路2、及び第3循環回路3での熱媒体の循環態様を示している。こうしたペルチェ素子7を用いた車室の空調(以下、ペルチェ空調という)、より詳しくはペルチェ素子7を用いた車室の暖房では、第1循環回路1における熱媒体の循環経路がバイパス通路16(経路1c)となるよう切換弁13が切り換えられる。更に、遮断弁19を閉じ動作させて第1循環回路1と第2循環回路2とが遮断状態とされるとともに、第1循環回路1のポンプ4及び第2循環回路2のポンプ5が駆動される。この状態で、第2循環回路2の熱媒体から第1循環回路1の熱媒体へと熱の移動が行われるようにペルチェ素子7が駆動される。なお、図中のペルチェ素子7における白抜き矢印は、同ペルチェ素子7の駆動による熱の動きを示している。この場合、第1循環回路1を循環する熱媒体は、ペルチェ素子7の近傍で温められた後に室内熱交換器18を通過するようになる。そして、室内熱交換器18での熱媒体と車室に送られる空気との熱交換により同空気が暖められる。こうして温められた空気が車室に送られることで、ペルチェ素子7を用いた車室の暖房が行われるようになる。なお、このときの第3循環回路3ではポンプ8の駆動により熱媒体の循環が行われる。
【0034】
図6は、夏期に停止状態の車両を外部電源(家庭用電源)に接続したときの第1循環回路1、第2循環回路2、及び第3循環回路3での熱媒体の循環態様を示している。このように車両を外部電源に接続した状態のもとでバッテリ17が充電される。詳しくは、充電器9の作動を通じて家庭用電源の電圧がバッテリ17の充電を行うことの可能な値まで昇圧され、それによって外部電源を用いたバッテリ17の充電が可能とされる。こうしたバッテリ17の充電中には、第3循環回路3の熱媒体がポンプ8の駆動を通じて循環されることで、充電器9の作動時の廃熱が上記循環する熱媒体によって回収され、その後に同熱媒体によってトランスアクスル10に付与される。
【0035】
夏期においては、上述したようにバッテリ17の充電が行われる一方、ペルチェ素子7の駆動制御及び切換弁13の切り換え制御を通じて冷熱蓄熱器14に対する冷熱の蓄熱も行われる。具体的には、まず第1循環回路1の熱媒体がポンプ4の駆動を通じて循環されるとともに、第2循環回路2の熱媒体がポンプ5の駆動を通じて循環された状態のもと、第1循環回路1と第2循環回路2とが遮断弁19の閉じ動作を通じて遮断状態とされる。このような状態で、第1循環回路1の熱媒体から第2循環回路2の熱媒体への熱の移動が行われるようペルチェ素子7が家庭用電源を用いて駆動される。なお、図中のペルチェ素子7における白抜き矢印は、同ペルチェ素子7の駆動による熱の動きを示している。これにより、第1循環回路1を循環する熱媒体の温度が低下するようになる。更に、第1循環回路1における熱媒体の循環経路が冷熱蓄熱器14(経路1a)となるよう切換弁13を切り換えることで、低温の熱媒体が冷熱蓄熱器14を通過するようになって同冷熱蓄熱器14に冷熱が蓄えられる。なお、冷熱蓄熱器14への冷熱の蓄熱が完了した場合、第1循環回路1における熱媒体の循環経路が冷熱蓄熱器14(経路1a)以外の経路となるよう切換弁13を切り換えれば、冷熱蓄熱器14に蓄えられた冷熱を保持することが可能になる。
【0036】
図7は、冬季に停止状態の車両を外部電源(家庭用電源)に接続したときの第1循環回路1、第2循環回路2、及び第3循環回路3での熱媒体の循環態様を示している。このように車両を家庭用電源に接続した状態のもとで、上述した夏期での充電態様と同様にバッテリ17の充電が行われる。更に、第3循環回路3での熱媒体の循環も行われ、それによって充電器9の廃熱が回収されるとともに、その回収された廃熱のトランスアクスル10への付与も行われる。
【0037】
冬季においては、上記バッテリ17の充電が行われる一方、ペルチェ素子7の駆動制御及び切換弁13の切り換え制御を通じて温熱蓄熱器15に対する温熱の蓄熱も行われる。具体的には、夏期と同様、第1循環回路1の熱媒体がポンプ4の駆動を通じて循環されるとともに、第2循環回路2の熱媒体がポンプ5の駆動を通じて循環された状態のもと、第1循環回路1と第2循環回路2とが遮断弁19の閉じ動作を通じて遮断状態とされる。このような状態で、夏期とは逆に第1循環回路1の熱媒体から第2循環回路2の熱媒体への熱の移動が行われるようペルチェ素子7が家庭用電源を用いて駆動される。なお、図中のペルチェ素子7における白抜き矢印は、同ペルチェ素子7の駆動による熱の動きを示している。これにより、第1循環回路1を循環する熱媒体の温度が上昇するようになる。更に、第1循環回路1における熱媒体の循環経路が温熱蓄熱器15(経路1b)となるよう切換弁13を切り換えることで、高温の熱媒体が温熱蓄熱器15を通過するようになって同温熱蓄熱器15に温熱が蓄えられる。なお、温熱蓄熱器15への冷熱の蓄熱が完了した場合、第1循環回路1における熱媒体の循環経路が温熱蓄熱器15(経路1b)以外の経路となるよう切換弁13を切り換えれば、温熱蓄熱器15に蓄えられた温熱を保持することが可能になる。
【0038】
次に、車両が外部電源(家庭用電源)に接続されたときの同外部電源を用いたバッテリ17の充電、及び蓄熱器14,15への蓄熱について、更に詳しく説明する。
この実施形態では、車両の外部電源への接続中、その外部電源によるバッテリ17の充電が行われるとともに、外部電源に基づきペルチェ素子7を駆動させることで蓄熱器14,15への冷熱もしくは温熱の蓄熱が行われる。そして、それらバッテリ17の充電と蓄熱器14,15への蓄熱とが同時に完了するよう、車両の外部電源への接続中におけるバッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱が行われる。このように充電及び蓄熱を行うことで、少なくとも、そうした充電及び蓄熱の完了直前には、バッテリ17の充電と蓄熱器14,15への蓄熱とが同時に行われるようになる。
【0039】
また、車両が接続される外部電源(家庭用電源)の電気容量には限りがある。このため、外部電源を用いてバッテリ17の充電とペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への蓄熱とを同時に行う際には、充電のための電気エネルギと蓄熱のための電気エネルギとの分配が次のように行われる。すなわち、外部電源の電気容量を最大限に用いてバッテリ17の充電とペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への蓄熱とを同時に行い、充電のための電気エネルギと蓄熱のための電気エネルギとを分配するに当たり、その分配率「A:B」を上記充電及び上記蓄熱が最短で完了する値となるようにする。そして、上記分配率「A:B」で分配された電気エネルギを用いて上記充電及び上記蓄熱を行う。
【0040】
より詳しくは、夏期には、バッテリ17の充電のための電気エネルギと冷熱蓄熱器14への冷熱の蓄熱のための電気エネルギとが、それら充電及び蓄熱を最短で完了させることの可能な分配率「A:B」でもって分配される。そして、その分配率「A:B」で分配された電気エネルギを用いて上記バッテリ17の充電、及びペルチェ素子7の駆動による冷熱蓄熱器14への冷熱の蓄熱が行われる。一方、冬季には、バッテリ17の充電のための電気エネルギと温熱蓄熱器15への温熱の蓄熱のための電気エネルギとが、それら充電及び蓄熱を最短で完了させることの可能な分配率「A:B」でもって分配される。そして、その分配率「A:B」で分配された電気エネルギを用いて上記バッテリ17の充電、及びペルチェ素子7の駆動による温熱蓄熱器15への温熱の蓄熱が行われる。
【0041】
上述したように車両の外部電源への接続中にバッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を行うことにより、それら充電及び蓄熱を効率よく行うことができ、ひいては上記充電及び上記蓄熱の完了のために消費される電力を小さく抑えることができるようになる。
【0042】
ここで、上述したようにバッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を行う代わりに、例えば、外部電源の電気容量を最大限に用いて充電を完了させ、その後に同じく外部電源の電気容量を最大限に用いて蓄熱を完了させるようにしたとすると、上記蓄熱の効率が低下して充電及び蓄熱を完了させるために消費される電力が多くなる。このように充電及び蓄熱を行った場合、ペルチェ素子7の電力効率は図8に破線で示される状態となる。なお、ここでの電力効率とは、ペルチェ素子7を駆動する際における単位消費電力当たりの移動可能な熱量のことである。同図の破線から分かるように、外部電源の電気容量を最大限に用いて充電を完了させた後、同じく外部電源の電気容量を最大限に用いて蓄熱を完了させるようにした場合、ペルチェ素子7の電力効率が小さい値になる。
【0043】
これは、ペルチェ素子7を動作させて同ペルチェ素子7の低温側から高温側への熱の移動を行う際、それら低温側と高温側との温度差が小さいほど上記熱の移動が効率よく行われることが関係している。すなわち、上述したように外部電源の電気容量を最大限に用いてペルチェ素子7の駆動による上記熱の移動を行うと、ペルチェ素子7の低温側から高温側への熱の移動が急速に行われて両者の温度差が大きくなることから、上記熱の移動が効率よく行えなくなってペルチェ素子7の電力効率が小さい値(破線)になる。そして、ペルチェ素子7の電力効率が小さい値になると、同ペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への蓄熱の効率が低下する。このため、バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を開始してから、それら充電及び蓄熱が完了するまでの時間(完了時間)が長くなって例えば図9に破線で示される状態となる。そして、このように完了時間が長くなると、バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を完了させるために消費される電力が多くなる。
【0044】
これに対し、本実施形態のようにバッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を行えば、それら充電及び蓄熱を効率よく行うことができ、ひいては充電及び蓄熱を完了するために消費される電力を小さく抑えることができる。本実施形態のように充電及び蓄熱を行った場合、ペルチェ素子7の電力効率は図8に実線で示される状態となり、外部電源の電気容量を最大限に用いて充電を完了させた後、同じく外部電源の電気容量を最大限に用いて蓄熱を完了させるようにした場合(破線)と比較して、ペルチェ素子7の電力効率が大きい値になる。
【0045】
これは、バッテリ17の充電と蓄熱器14,15への蓄熱とを同時に完了させるために充電と蓄熱とを同時に行う際、上記分配率「A:B」で分配された電気エネルギを用いて、上記バッテリ17の充電、及びペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への温熱の蓄熱が同時に行われているためである。このように分配された電気エネルギを用いて充電及び蓄熱が同時に行われているときには、ペルチェ素子7が外部電源の電気容量を最大限に用いて動作されることはなくなるため、蓄熱を行うべく動作するペルチェ素子7における低温側から高温側への熱の移動が緩やかになる。同ペルチェ素子7における低温側から高温側への熱の移動が緩やかになると、それら低温側と高温側との温度差が小さく抑えられる。このため、ペルチェ素子7の駆動による同素子7の低温側から高温側への熱の移動が効率良く行われてペルチェ素子7の電力効率が大きい値(実線)になる。そして、ペルチェ素子7の電力効率が大きい値になると、同ペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への蓄熱の効率が向上する。これにより、バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を開始してから、それら充電及び蓄熱が完了するまでの時間(完了時間)が短くなって例えば図9に実線で示される状態となる。このように完了時間が短くなると、バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を完了させるために消費される電力が小さく抑えられる。
【0046】
なお、図9に実線で示される完了時間は上記分配率「A:B」の変化に伴って変わる。この実施形態では、上記完了時間が最短となるよう上記分配率「A:B」が設定されている。ちなみに、この図9及び上記図8において、横軸はペルチェ素子7における個々の設計上の性能を表している。従って、ペルチェ素子7においては、図8及び図9の横軸で表される設計上の性能が高くなるほど、電力効率が図8に示されるように大きくなるとともに完了時間が図9に示されるように短くなる傾向がある。
【0047】
次に、車両を外部電源に接続した状態のもとでバッテリ17の充電、及び蓄熱器14,15への蓄熱を行うための処理について、充電蓄熱ルーチンを示す図10のフローチャートを参照して詳しく説明する。この充電蓄熱ルーチンは、電子制御装置21を通じて、所定時間毎の時間割り込みにて周期的に実行される。
【0048】
同ルーチンにおいては、レディースイッチ25がオフ位置、すなわち運転停止位置に操作されているか否か(S101)、及び、車両が外部電源に接続(プラグイン)されているか否か(S102)が判断される。そして、S101の処理とS102の処理とで共に肯定判定がなされると、バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱の実行中であるか否かを判断するために用いられるフラグFが「0(実行中でない)」であるか否かが判断される(S103)。ここで肯定判定であれば、分配率「A:B」で分配された電気エネルギを用いてのバッテリ17の充電、及びペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への蓄熱を開始するための処理(S104〜S110)が実行される。
【0049】
この一連の処理では、まずバッテリ容量Qb、バッテリ残量Qbnow、蓄熱器容量Qs、蓄熱残量Qsnow、ペルチェ素子7の電力効率COPに基づき、次の式(1)を用いて上述した分配率「A:B」が算出される(S104)。
【0050】

(A:B)=(Qb−Qbnow):(lQs−Qsnowl)/COP …(1)

式(1)から分かるように、分配率「A:B」における「A」は、バッテリ容量Qbとバッテリ残量Qbnowとの差に対応する値となる。上記バッテリ容量Qbはバッテリ17に蓄えられる電力量の上限値であり、上記バッテリ残量Qbnowはバッテリ17に蓄えられている実際の電力量である。なお、上記バッテリ残量Qbnowは、バッテリ17におけるそれまでの充電履歴や車両の電気機器を作動させる際のバッテリ17からの放電履歴等に基づき、計算によって求められる。
【0051】
一方、分配率「A:B」における「B」は、蓄熱器容量Qsと蓄熱残量Qsnowとの差の絶対値をペルチェ素子7の電力効率COPで除算して得られる値に対応している。上記蓄熱器容量Qsは蓄熱器14,15に蓄えられる熱量の上限値であり、蓄熱残量Qsnowは蓄熱器14,15に蓄えられている実際の熱量である。なお、ここで用いられる蓄熱器容量Qs及び蓄熱残量Qsnowとしては、夏期に冷熱蓄熱器14に冷熱が蓄えられる際には同冷熱蓄熱器14に対応する値がそれぞれ用いられ、冬季に温熱蓄熱器15に温熱が蓄えられる際には同温熱蓄熱器15に対応する値がそれぞれ用いられる。ちなみに、冷熱蓄熱器14の蓄熱残量Qsnowは、第1温度センサ22によって検出される同冷熱蓄熱器14内の温度等に基づき求められる。また、温熱蓄熱器15の蓄熱残量Qsnowは、第2温度センサ23によって検出される同温熱蓄熱器15内の温度等に基づき求められる。更に、上記電力効率COPに関しては、ペルチェ素子7を蓄熱器14,15への蓄熱のために駆動する際の実際の電力効率を表す値として、ペルチェ素子7の駆動電力(入力電力)等に基づき算出された値が用いられる。
【0052】
その後、バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を開始してから、それら充電及び蓄熱が完了するまでの時間(完了時間)の最小値である最短時間Tfが算出される(S105)。この最短時間Tfは、S104の処理によって求められた分配率「A:B」で分配された電気エネルギを用いて上記バッテリ17の充電、及びペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への蓄熱が同時に行ったときの上記完了時間を表している。最短時間Tfは、外部電源の電気容量E、上記バッテリ容量Qb、上記バッテリ残量Qbnow、及び上記分配率「A:B」に基づき、次の式(2)を用いて算出される。
【0053】

Tf=(Qb−Qbnow)/[E・{A/(A+B)}] …(2)

式(2)において、外部電源の電気容量Eとは、その外部電源によって供給可能な電力の上限値のことである。ここでの電気容量Eとしては、上記外部電源毎に定められる固定値が用いられる。
【0054】
続いて、車両が外部電源から切り離される時刻(切り離し時刻Ta)が取得される(S106)。この切り離し時刻Taとしては、車両の使用者により設定されて電子制御装置21のRAMに記憶された値や、車両の使用状況に応じて学習されて電子制御装置21のRAMに記憶された値が用いられる。その後、上記切り離し時刻Taから上記最短時間Tfだけ遡った時刻が、バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱の開始時刻Tbとして設定される(S107)。
【0055】
そして、現在の時刻が上記開始時刻Tbになると(S108:YES)、分配率「A:B」で分配された電気エネルギを用いてのバッテリ17の充電、及びペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への蓄熱が開始される(S109)。更に、バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱の実行中であるか否かを判断するために用いられる上記フラグFが「1(実行中)」に設定される(S110)。
【0056】
このようにフラグFが「1」に設定されると、次回のS103の処理で否定判定がなされる。この場合、分配率「A:B」で分配された電気エネルギを用いてのバッテリ17の充電、及びペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への蓄熱を開始するための処理(S111〜S114)が実行される。この一連の処理では、現在の時刻が切り離し時刻Taであるか否かの判断(S111)や、外部電源からの車両の切り離し(プラグオフ)が実行されたか否かの判断(S112)が行われる。そして、これら判断のうちのいずれかで肯定判定がなされると、上記バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱が終了される(S113)。更に、上記フラグFが「0(実行中でない)」に設定される(S114)。
【0057】
次に、車両が外部電源に接続された後のバッテリ残量Qbnow及び蓄熱残量Qsnowの推移について、図11のタイムチャートを参照して説明する。
車両が外部電源に接続されると(タイミングt1)、切り離し時刻Taが取得されるとともに、分配率「A:B」や開始時刻Tb等が求められる。そして、現在の時刻が開始時刻Tbになると(タイミングt2)、上記分配率「A:B」で分配された電気エネルギを用いてのバッテリ17の充電、及びペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への蓄熱が開始される。
【0058】
こうしたバッテリ17の充電に基づき、バッテリ残量Qbnowが図11(a)に示されるようにバッテリ容量Qbに向けて徐々に多くなる。また、夏期には上記ペルチェ素子7の駆動により冷熱蓄熱器14への冷熱の蓄熱が行われるため、冷熱蓄熱器14の蓄熱残量Qsnowが蓄熱器容量Qsに向けて徐々に小さくなる。一方、冬季には上記ペルチェ素子7の駆動により温熱蓄熱器15への温熱の蓄熱が行われるため、温熱蓄熱器15の蓄熱残量Qsnowが蓄熱器容量Qsに向けて徐々に大きくなる。
【0059】
そして、現在の時刻が切り離し時刻Taになるか(タイミングt3)、あるいは現在の時刻が切り離し時刻Taとなる前に車両が外部電源から切り離されると、バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱が終了される。現在の時刻が切り離し時刻Taになるまで車両の外部電源への接続状態が維持された場合には、バッテリ残量Qbnowが図11(a)に示されるようにバッテリ容量Qbに達してバッテリ17の充電が完了する。また、蓄熱残量Qsnowが図11(b)もしくは図11(c)に示されるように蓄熱器容量Qsに達して蓄熱器14,15への蓄熱も完了する。従って、切り離し時刻Taにて車両が外部電源から切り離された場合には、バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱が完了した状態となる。
【0060】
以上詳述した本実施形態によれば、以下に示す効果が得られるようになる。
(1)車両の外部電源への接続中に、同外部電源によるバッテリ17の充電、及び、同外部電源に基づくペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への冷熱もしくは温熱の蓄熱を行う際には、バッテリ17の充電と蓄熱器14,15への蓄熱とが同時に完了するよう、それら充電及び蓄熱が行われるようになる。その結果、少なくともバッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱が完了する直前には、それら充電と蓄熱とが同時に行われるため、そのときにペルチェ素子7が外部電源の電気容量を最大限に用いて動作することはなくなる。この場合、蓄熱を行うべく動作するペルチェ素子7での低温側から高温側への熱の移動が緩やかになり、それによって同ペルチェ素子7における低温側と高温側との温度差が過度に大きくなることは抑制される。その結果、ペルチェ素子7における低温側から高温側への熱の移動を効率よく行うことが可能になり、それによって蓄熱の効率が低下することは抑制されるようになる。従って、車両の外部電源への接続中、バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を効率よく行うことができ、それら充電及び蓄熱の完了のために消費される電力を小さく抑えることができる。
【0061】
(2)車両の外部電源への接続中、外部電源の電気容量を最大限に用いてバッテリ17の充電とペルチェ素子7の駆動による蓄熱器14,15への蓄熱とを同時に行い、充電のための電気エネルギと蓄熱のための電気エネルギとを分配するに当たり、その分配率「A:B」が上記充電及び上記蓄熱を最短で完了させることの可能な値とされる。このように車両の外部電源への接続中にバッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を行うことにより、それら充電及び蓄熱を効率よく行うことができ、ひいては上記充電及び上記蓄熱の完了のために消費される電力を小さく抑えることができるようになる。
【0062】
(3)車両が前記外部電源に接続された後、同外部電源が車両から切り離される時刻の予測値である切り離し時刻Taにてバッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱が完了するよう、その切り離し時刻Taから最短時間Tfだけ遡った開始時刻Tbにてバッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱が開始される。従って、車両を運転開始すべく、同車両を切り離し時刻Taに従って外部電源から切り離すときにバッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を完了させることができ、その完了が上記切り離しに対し早すぎたり遅すぎたりすることがない。
【0063】
(4)上記分配率「A:B」を式(1)に基づき算出することで、その分配率「A:B」がバッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を最短で完了させる値として適切な値になる。
【0064】
(5)上記最短時間Tfを式(2)に基づき算出することで、その最短時間Tfがバッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を開始してから完了するまでの最短の時間として適切な値になる。更に、その最短時間Tfと切り離し時刻Taとから算出される開始時刻Tbも、バッテリ17の充電及び蓄熱器14,15への蓄熱を開始する時刻として適切な値になる。
【0065】
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・最短時間Tfについては、電気容量E、蓄熱器容量Qs、蓄熱残量Qsnow、及び分配率「A:B」に基づき、次の式(3)を用いて算出してもよい。
【0066】

Tf={(lQs−Qsnowl)/COP}/[E・{B/(A+B)}] …(3)

この場合も、上記(5)と同等の効果が得られる。
【0067】
・上記分配率「A:B」については、必ずしも最短時間Tfの得られる値である必要はなく、その値以外の任意の値に変更することが可能である。
・熱移動装置としてペルチェ素子7以外のもの、例えば蒸気圧縮式のヒートポンプを採用してもよい。
【0068】
・経路1a〜1dの分岐部分に切換弁13を設ける代わりに、経路1a〜1dの各々に経路の連通遮断を行う切換弁を設けるようにしてもよい。
・上記切換弁13を設ける代わりに、経路1a〜1cの合流部分に経路1a〜1cのいずれかの経路への切り換えを行う切換弁を設けるとともに、経路1dに同経路1dの連通遮断を行う切換弁を設けるようにしてもよい。
【0069】
・蓄熱器として冷熱蓄熱器14と温熱蓄熱器15とのうちの一方のみを設けて冷熱蓄熱と温熱蓄熱との一方のみを行うようにしてもよい。
・冷熱蓄熱器14と温熱蓄熱器15との両方の機能を有する蓄熱器を設け、同蓄熱器により冷熱蓄熱や温熱蓄熱を行うようにしてもよい。この場合、夏季には上記蓄熱器により冷熱蓄熱を行い、冬季には上記蓄熱器により温熱蓄熱を行うことが好ましい。
【符号の説明】
【0070】
1…第1循環回路、1a〜1d…経路、2…第2循環回路、3…第3循環回路、4,5…ポンプ、6…室外熱交換器、7…ペルチェ素子、8…ポンプ、9…充電器、10…トランスアクスル、11…サーモスタット、12…放熱器、13…切換弁、14…冷熱蓄熱器、15…温熱蓄熱器、16…バイパス通路、17…バッテリ、18…室内熱交換器、19…遮断弁、20…インバータ、21…電子制御装置(制御手段、設定手段)、22…第1温度センサ、23…第2温度センサ、24…第3温度センサ、25…レディースイッチ、26…プラグイン検出回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
停車時に外部電源に接続される車両の充電蓄熱装置であって、
車室の空調を行うための熱媒体が循環する第1循環回路と、
外気との間での熱交換を行うべく熱媒体が循環する第2循環回路と、
前記第1循環回路に設けられて熱媒体の冷熱もしくは温熱を蓄熱する一方、その蓄熱した冷熱もしくは温熱を同第1循環回路の熱媒体に対し放出可能な蓄熱器と、
前記車両の前記外部電源への接続中、その外部電源に基づき駆動して前記第1循環回路の熱媒体と前記第2循環回路の熱媒体との間での熱の移動を行うことの可能な熱移動装置と、
前記車両の前記外部電源への接続中、その外部電源によるバッテリの充電、及び、前記外部電源に基づき熱移動装置を駆動して前記蓄熱器への冷熱もしくは温熱の蓄熱を行う制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記バッテリの充電と前記熱移動装置の駆動による前記蓄熱器への蓄熱とが同時に完了するよう、それら充電及び蓄熱を行うものである
ことを特徴とする車両の充電蓄熱装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記外部電源の電気容量を最大限に用いて前記バッテリの充電と前記熱移動装置の駆動による前記蓄熱器への蓄熱とを同時に行い、前記充電のための電気エネルギと前記蓄熱のための電気エネルギとを分配するに当たり、その分配率を前記充電及び前記蓄熱が最短で完了する値とする
請求項1記載の車両の充電蓄熱装置。
【請求項3】
請求項2記載の車両の充電蓄熱装置において、
前記車両が前記外部電源に接続された後に同外部電源が前記車両から切り離される予測時刻である切り離し時刻を設定する設定手段を更に備え、
前記制御手段は、車両が前記外部電源に接続された後、切り離し時刻にて前記充電及び前記蓄熱が完了するよう、それら充電及び蓄熱を開始するものである
ことを特徴とする車両の充電蓄熱装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記充電のための電気エネルギと前記蓄熱のための電気エネルギとの分配率を「A:B」、前記バッテリの容量を「Qb」、前記車両が前記外部電源に接続されたときの前記バッテリの残量を「Qbnow」、前記蓄熱器の容量を「Qs」、前記車両が前記外部電源に接続されたときの前記蓄熱器の残量を「Qsnow」、前記熱移動装置の電力効率を「COP」としたとき、前記分配率「A:B」を次の式「(A:B)=(Qb−Qbnow):(lQs−Qsnowl)/COP」に基づいて設定する
請求項2記載の車両の充電蓄熱装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記充電及び前記蓄熱の完了までに要する最短時間を「Tf」とし、前記外部電源の電気容量を「E」としたとき、その最短時間Tfを次の式「Tf=(Qb−Qbnow)/[E・{A/(A+B)}]」に基づいて算出し、切り離し時刻から前記最短時間Tfを遡った時刻にて上記分配率「A:B」での前記充電及び前記蓄熱を開始する
請求項4記載の車両の充電蓄熱装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記充電及び前記蓄熱の完了までに要する最短時間を「Tf」とし、前記外部電源の電気容量を「E」としたとき、その最短時間Tfを次の式「Tf={(lQs−Qsnowl)/COP}/[E・{B/(A+B)}]」に基づいて算出し、切り離し時刻から前記最短時間Tfを遡った時刻にて上記分配率「A:B」での前記充電及び前記蓄熱を開始する
請求項4記載の車両の充電蓄熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−96590(P2012−96590A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243933(P2010−243933)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】