車両の制御装置
【課題】車両の制御装置において、ドライバの操作に対する車両の挙動の応答性を向上させると共に、変速時に生じるショックを軽減する。
【解決手段】車両(100)の制御装置は、圧縮比が可変なエンジン(10)と、変速比が可変な変速手段(110)とを備えた車両を制御する。当該制御装置は、必要駆動力が変化した場合に、変化前のエンジン動作点から目標エンジン動作点まで実エンジン動作点を移行させる制御手段(60)と、圧縮比を変更する圧縮比変更手段(60)とを備える。目標動作点における圧縮比が、変化前のエンジン動作点よりも低く設定されており、目標動作点における回転速度比が変化前のエンジン動作点よりも小さく設定されている場合に、圧縮比変更手段は、変速比を変更させている最中に、圧縮比を変更する。
【解決手段】車両(100)の制御装置は、圧縮比が可変なエンジン(10)と、変速比が可変な変速手段(110)とを備えた車両を制御する。当該制御装置は、必要駆動力が変化した場合に、変化前のエンジン動作点から目標エンジン動作点まで実エンジン動作点を移行させる制御手段(60)と、圧縮比を変更する圧縮比変更手段(60)とを備える。目標動作点における圧縮比が、変化前のエンジン動作点よりも低く設定されており、目標動作点における回転速度比が変化前のエンジン動作点よりも小さく設定されている場合に、圧縮比変更手段は、変速比を変更させている最中に、圧縮比を変更する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変圧縮比エンジンを備えた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両の制御装置の一例として、各シリンダ内における混合気の圧縮比を変更することが可能な可変圧縮比エンジンを備えた車両を制御するものがある。可変圧縮比エンジンでは、車両の走行状態(例えば、ドライバの操作内容や走行路面の状態など)に応じて、エンジンの動力を機械的仕事に変換する際の効率(即ち、熱効率)の向上と、エンジンの最大出力の増加とを両立させるように圧縮比が制御される。例えば、高トルクが要求される条件下では圧縮比を低く設定することで充分な最大出力を確保させると共に、低中トルクが要求される条件下では圧縮比を高く設定することで熱効率を向上させることができる。
【0003】
ここで、車両に対する必要駆動力が変化した場合、エンジン動作点を当該必要駆動力に対応するように移行すべく、車両に備えられたトランスミッション等の変速機において変速が行われる場合がある。例えば、特許文献1には変速を完了させた後に、圧縮比の変更を行う技術が開示されている。特許文献2には、変速時にエンジンのイナーシャトルクに起因して生じるショックを軽減するように、変速を実行する前に圧縮比の変更を行う技術が開示されている。また、特許文献3には、エンジンの出力トルクを制御可能な手段を複数備えることにより、変速時のショックの軽減と、エンジンの応答性の向上の両立を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−064632号公報
【特許文献2】特開2008−014168号公報
【特許文献3】特開2007−327418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2では、圧縮比の変更が、変速が実行される期間外に行われるため、エンジン動作点の移行及び圧縮比の変更に係る一連の動作が完了するまでに要する期間が長くなってしまうという技術的な問題点がある。即ち、ドライバの要求操作によってエンジン動作点を移行する必要が生じた場合における車両の応答性が十分に得られないおそれがある。また、特許文献1では、変速時にエンジン等が有するイナーシャトルクに起因して生じるショックを軽減するための対策が何ら施されていないため、変速時に生じるショックにより、ドライバビリティが悪化してしまうという技術的問題点もある。また、特許文献3では可変圧縮比エンジンについて何ら言及されておらず、可変圧縮比エンジンを備える車両における変速時のショックの軽減及びエンジン動作点の移行の際における車両の応答性の改善を図ることが困難であるという技術的問題点がある。
【0006】
本発明は、例えば上記の問題点に鑑みなされたものであり、ドライバの要求操作に対する車両の挙動の応答性を向上させると共に、変速時に生じるショックを軽減可能な車両の駆動力制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため本発明に係る第1の車両の制御装置は、混合気の圧縮の程度を示す圧縮比を変更することが可能なエンジンと、該エンジンの出力軸と車軸に連結される出力部材との回転速度比が可変である変速手段とを備えた車両の制御装置であって、前記車両の必要駆動力が変化した場合において、変化前のエンジン動作点から変化後の必要駆動力に対応するエンジン動作点たる目標エンジン動作点まで実際のエンジン動作点たる実エンジン動作点を移行させる制御手段と、前記実エンジン動作点の移行に伴い、前記圧縮比を変更する圧縮比変更手段とを備え、前記目標動作点における圧縮比が、前記必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも低く設定されており、前記目標動作点における前記回転速度比が必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも小さく設定されている場合に、前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を変更する。
【0008】
本発明に係る第1の車両の制御装置の制御対象である車両には、エンジンと変速手段が備えられている。
【0009】
エンジンは、例えばバッテリから電力が供給されるアクチュエータを用いて、混合気の圧縮の程度を示す圧縮比が可変な可変圧縮比エンジンである。可変圧縮比エンジンは、例えば、機械的仕事への変換効率、即ち熱効率の向上と、最大出力の増加とを両立できるように、車両の運転条件に応じて圧縮比を変更する。具体的には、高トルク条件下では圧縮比を低く設定することで充分な最大出力を確保すると共に、低中トルク条件下では圧縮比を高く設定することで熱効率を向上させるとよい。
【0010】
変速手段は、エンジンの出力軸と車軸に連結される出力部材との回転速度比(以下、適宜「変速比」と呼ぶ)を変更することが可能な動力伝達機構である。変速手段は、例えば、摩擦係合式或いは噛合式等各種態様を採り得る複数の係合手段(ブレーキ装置やクラッチ装置を含む)により、出力部材とこれら複数の回転要素との接続状態(即ち、元より接続可能であるか否かによらず少なくとも接続の有無を含み、概念上は、どの程度接続されているかといった定量的状態を含む)を適宜に切り替えること(即ち、これら複数の回転要素のうち出力部材との接離可能に構成された少なくとも一部と出力部材とを適宜に係合及び離間させること等を好適な一形態として含む)等によって変速を行うことができる。変速は、エンジンの出力軸の回転速度(即ち、機関回転速度)と車軸に直接に又は間接的に連結された出力部材との回転速度比(即ち、変速比)を、理論的に、実質的に又は何らかの現実的な制約の範囲で変化させる。
【0011】
本発明に係る車両の制御装置は、例えばECU(Electronic Controlled Unit)であり、制御手段及び圧縮比変更手段を備える。
【0012】
制御手段は、前記車両の必要駆動力が変化した場合において、変化前のエンジン動作点から変化後の必要駆動力に対応するエンジン動作点たる目標エンジン動作点まで実際のエンジン動作点たる実エンジン動作点を移行させる。エンジン動作点は、例えば、エンジンの出力トルクや回転数等のエンジンの動作状態を規定するための一又は複数のパラメータによって規定される動作点である。ここで、エンジンの必要駆動力は、例えばドライバの車両に対する要求操作の内容や、走行路面の状況等に基づいて算出するとよい。このように、必要駆動力が変化する場合には、当該必要駆動力をエンジンから出力するために、エンジン動作点が制御手段によって移行される。尚、必要駆動力が変化する前後におけるエンジン動作点の移行経路については、複数の経路が考えられるが、例えば、機械的仕事への変換効率、即ち熱効率の向上と、最大出力の増加とを両立できるように適宜選択するとよい。
【0013】
圧縮比変更手段は、実エンジン動作点の移行に伴い、圧縮比を変更する。圧縮比変更手段は、例えば、エンジンのバルブタイミング、リフト量及びEGR量を調整することにより燃焼室の容量を変化させることによって、圧縮比を変更する。
【0014】
本発明では特に、目標動作点における圧縮比が、必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも低く設定されており、目標動作点における回転速度比が必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも小さく設定されている場合に、圧縮比変更手段は、制御手段が回転速度比を変更させている最中に、圧縮比を変更する。ここで、制御手段によりエンジン動作点が移行する際に変速手段の回転速度比が変更し(即ち、変速が行われ)、イナーシャトルクに起因して、車軸に連結される出力部材に印加されるトルク(以下、適宜「出力軸トルク」という)が変化する場合がある。このような出力軸トルクの変化はドライバにショックとして感知され、ドライバビリティの悪化につながるおそれがある。変化前に比べて回転速度比が小さく変更される場合(即ち、シフトアップが行われる場合)、回転速度比の変化量に応じたイナーシャトルクによって出力軸トルクが一時的に変動することにより、ショックが生じる可能性がある。本発明では、変速が実行されている最中(即ち、変速に伴って回転速度比が変化している最中に)に圧縮比を減少することでショックを軽減し、ドライバビリティを向上させることができる。このような場合に圧縮比を減少させると、変速時に生じるイナーシャトルクを打ち消す方向にエンジンの出力トルクが変化するので、イナーシャトルクに起因するショックを効果的に軽減することができる。
【0015】
また、本発明では、変速が実行されている最中に圧縮比の変更が行われるため、上述の特許文献1又は2のように、変速を実行する前後に圧縮比を変更するための期間を別途設ける必要がない。つまり、特許文献1又は2では、変速に関する一連の動作(即ち、エンジン動作点の移行及び圧縮比の変更)を完了するために要する時間は、少なくとも変速手段によって回転速度比を変更するために要する時間と、その前後において圧縮比を変更するために要する時間とを加えたものとなる。一方、本発明では、回転速度比を変更している最中に圧縮比も同時に変更するため、変速に関する一連の動作を完了するために要する時間を短く抑えることができる。そのため、ドライバの要求操作に対して、車両のレスポンスを向上させることが可能となる。
【0016】
以上説明したように本発明に係る車両の制御装置によれば、ドライバの要求操作に対する車両の挙動の応答性を向上させると共に、変速時に生じるショックを軽減することができる。
【0017】
上述した課題を解決するため本発明に係る第2の車両の制御装置は、混合気の圧縮の程度を示す圧縮比を変更することが可能なエンジンと、該エンジンの出力軸と車軸に連結される出力部材との回転速度比が可変である変速手段とを備えた車両の制御装置であって、前記車両の必要駆動力が変化した場合において、変化前のエンジン動作点から変化後の必要駆動力に対応するエンジン動作点たる目標エンジン動作点まで実際のエンジン動作点たる実エンジン動作点を移行させる制御手段と、前記実エンジン動作点の移行に伴い、前記圧縮比を変更する圧縮比変更手段とを備え、前記目標動作点における圧縮比が、前記必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも大きく設定されており、前記目標動作点における前記回転速度比が必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも大きく設定されている場合に、前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を変更する。
【0018】
本発明に係る車両の制御装置は、上述の第1の車両の制御装置と同様に、エンジンと変速手段とを備えた車両を制御対象とする。本発明に係る車両の制御装置は、例えばECU(Electronic Controlled Unit)であり、制御手段及び圧縮比変更手段を備える。
【0019】
本発明では特に、目標動作点における圧縮比が、前記必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも大きく設定されており、前記目標動作点における前記回転速度比が必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも大きく設定されている場合に、前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を変更する。ここで、変化前に比べて回転速度比が大きく変更される場合(即ち、シフトダウンが行われる場合)、回転速度比の変化量に応じたイナーシャトルクによって出力軸トルクが一時的に変動することにより、ショックが生じる可能性がある。本発明では、変速が実行されている最中(即ち、変速に伴って回転速度比が変化している最中に)に圧縮比を減少することでショックを軽減し、ドライバビリティを向上させることができる。このような場合に圧縮比を増加させると、変速時に生じるイナーシャトルクを打ち消す方向にエンジンの出力トルクが変化するので、イナーシャトルクに起因するショックを効果的に軽減することができる。
【0020】
また、本発明では、変速が実行されている最中に圧縮比が変更されるため、上述の第1の車両の制御装置の場合と同様に、変速に関する一連の動作を完了するために要する時間を短く抑えることができる。その結果、ドライバの要求操作に対する車両の挙動の応答性の向上と、変速時に生じるショックの軽減とを両立することができる。
【0021】
本発明に係る第1及び第2の車両の制御装置の一の態様では、前記実エンジン動作点の移行前後における前記エンジンの回転数の変化量が所定の閾値より大きい場合に、前記目標動作点における圧縮比を補正する補正手段を更に備え、前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を前記補正された圧縮比に変更する。
【0022】
この態様によれば、エンジン動作点が移行する際にエンジン回転数の変化量が大きいためにドライバビリティの改善が困難と見込まれる場合に、変速を実行している最中に圧縮比を変更することによってドライバビリティの向上が期待できるように、圧縮比に対して補正を行う。エンジン動作点の移行前後におけるエンジン回転数の変化量が大きくなると、変速時に駆動軸に印加されるイナーシャトルクが大きくなるために、変速を実行している最中に圧縮比を変更することによってドライバビリティを向上させようとしても、十分な効果を得ることが困難になる場合がある。所定の閾値は、このように圧縮比を、変速を実行している最中に変更することによってドライバビリティを向上させようとしても、十分な効果を得ることが困難になるエンジン回転数の変化量として規定される。実際には、閾値αは、このような条件下から理論的、実験的手法或いはシミュレーションなどによって算出するとよい。
【0023】
このようにエンジン動作点の移行前後におけるエンジン回転数の変化量が大きい場合、補正手段は目標動作点における圧縮比を補正する。ここで、この補正は、エンジンの出力トルクが、変速時に駆動軸に印加されるイナーシャトルクを軽減できるような値に調整されるように、目標エンジン動作点における圧縮比を補正する。このように圧縮比に補正を施すことにより、エンジン回転数の変化量が大きく、駆動軸に印加されるイナーシャトルクが大きくなる場合であっても、変速が実行されている最中に圧縮比を変更することによって、変速に関する一連の動作を完了するために要する時間を短く抑えると共に、ドライバからの要求操作に対する車両の応答性を向上させることができる。
【0024】
この場合、前記補正手段は、前記実エンジン動作点の移行が完了した後に、前記圧縮比を前記補正される前の圧縮比に設定し、前記圧縮比変更手段は、前記圧縮比が前記補正される前の圧縮比になるように前記圧縮比を変更するとよい。
【0025】
上述したように、変速時のエンジン回転数の変化量が大きい場合であっても、目標エンジン動作点における圧縮比を補正することによってドライバビリティを改善できる。この場合、変速に関する一連の動作が完了する時点において、圧縮比が補正されている分だけ本来の圧縮比からずれているため、変速の完了後に、圧縮比を本来の目標圧縮比に戻すように制御するとよい。
【0026】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態に係る車両の構成を概念的に表わしてなる概略構成図である。
【図2】第1実施形態に係る車両の有するエンジンの全体構成を概略的に示す模式図である。
【図3】第1実施形態に係る車両の走行状態の変化に応じたエンジン動作点の移行の様子を概念的に示すグラフ図である。
【図4】第1実施形態に係る車両において、図3において(i)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合のエンジン回転数、圧縮比及び出力軸トルクの時間変化を示すタイムチャートである。
【図5】第1実施形態に係る車両の動作を実現するための制御処理のフローチャートである。
【図6】第2実施形態に係る車両の動作を実現するための制御処理のフローチャートである。
【図7】第2実施形態に係る車両における目標圧縮比の第1補正値の一例を示すグラフ図である。
【図8】第2実施形態に係る車両において、図3において(i)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合のエンジン回転数、圧縮比及び出力軸トルクの時間変化を示すタイムチャートである。
【図9】第3実施形態に係る車両の動作を実現するための制御処理のフローチャートである。
【図10】第3実施形態に係る車両の第2閾値γの一例を示すグラフ図である。
【図11】第3実施形態に係る車両において、図3において(ii)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合のエンジン回転数、圧縮比、第2補正値及び出力軸トルクの時間変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明に係る車両の制御装置の好適な実施形態について説明する。
【0029】
<第1実施形態>
まず図1から図5を参照して、本発明に係る第1実施形態について説明する。
【0030】
<実施形態の構成>
図1を参照して、本実施形態に係る車両100の概略構成について説明する。図1は、本実施形態に係る車両100の構成を概念的に表わしてなる概略構成図である。
【0031】
車両100は、エンジン10と、無段変速機110と、ECU(Electronic Controlled Unit)60と、アクセル開度センサ61とを備えている。尚、エンジン10は、本発明に係る「エンジン」の一例であり、無段変速機110は本発明に係る「変速手段」の一例であり、ECU60は本発明に係る「制御手段」及び「圧縮比変更手段」の一例である。
【0032】
エンジン10は、後に詳述するが、混合気の圧縮の程度を示す圧縮比が可変である可変圧縮比エンジンである。エンジン10は、複数のシリンダ(気筒)34を有する。本実施形態では、エンジン10は、直列4気筒のエンジンを例示してある。エンジン10は、各シリンダ34の燃焼室内に吸気を供給するための吸気通路50と、各シリンダ34の燃焼室内より排気を排出するための排気通路58とを有する。吸気通路50には、各シリンダ34の燃焼室内に供給される吸気量を調整するためのスロットルバルブ52と、吸気量を検出するためのエアフローセンサ57が設けられている。スロットルバルブ52の開度は、電動アクチュエータ53により調整することができる。エンジン10は、ECU(Electronic Controlled Unit)60から供給される制御信号により制御される。
【0033】
エンジン10の出力トルクは、クランクシャフト43を介して無段変速機110に伝達される。無段変速機110は、プライマリプーリ110a、セカンダリプーリ110b、及び、両プーリに巻掛けられた金属等からなるベルト111から構成される。両プーリの可動シーブ110aa、110baを軸方向(両端矢印に示す方向)に動かすことによりベルト有効径が変化する。エンジン10の出力トルクは、プライマリプーリ110aからセカンダリプーリ110bに伝達される際に変速される。セカンダリプーリ110bは、駆動軸143に接続されており、セカンダリプーリ110bからの出力は駆動軸143に伝達される。駆動軸143に伝達された出力は駆動輪に伝達され、車両100の走行に供される。このように無段変速機110の変速比は、連続的に可変である。尚、無段変速機110の変速比は、本発明に係る「回転速度比」の一例である。無段変速機110は、ECU60からの制御信号により制御される。尚、無段変速機110としては、ベルト式の無段変速機に限られず、代わりに、他の種々の有段変速機及び無段変速機を用いてもよい。
【0034】
ECU60は、図示しないCPU、ROM、RAM、及びA/D変換器等を含んで構成される。ECU60は、車両内の各種センサから供給される検出信号に基づいて、車両100内の制御を行う。例えば、ECU60は、アクセルの開度を検出するアクセル開度センサ61等のセンサから受信した検出信号に基づいて、車両に必要な駆動力である必要駆動力を求め、当該必要駆動力に基づいて、エンジン10や無段変速機110の制御を実行する。
【0035】
次に、本実施形態に係る車両100のエンジン10の具体的な構成について、図2を参照して説明する。ここに図2は、本実施形態に係る車両の有するエンジンの全体構成を概略的に示す模式図である。
【0036】
エンジン10は、主に、シリンダヘッド20と、シリンダブロックユニット30と、メインムービングユニット40とから構成される。
【0037】
シリンダブロックユニット30は、シリンダヘッド20が取り付けられるアッパーブロック31と、メインムービングユニット40が収納されているロアブロック32とから構成されている。アッパーブロック31とロアブロック32との間にはアクチュエータ33が設けられている。アクチュエータ33を駆動することで、アッパーブロック31をロアブロック32に対して上下方向に移動させることが可能となっている。アクチュエータ33は、例えば、電気式、油圧式又は空圧式の駆動装置であり、バッテリ(図不示)から駆動のための電力が供給される。アクチュエータ33の動作は、ECU60からの制御信号S33により制御される。また、アッパーブロック31の内部には、円筒形のシリンダ34が形成されており、シリンダ34の外面は冷却水によって冷却される。
【0038】
メインムービング40は、シリンダ34の内部に設けられたピストン41と、ロアブロック32の内部で回転するクランクシャフト43と、ピストン41をクランクシャフト43に接続するコネクティングロッド42等を含んで構成される。これらは、所謂クランク機構を構成しており、クランクシャフト43が回転するとそれにつれてピストン41がシリンダ34内で上下方向に動き、逆に、ピストン41が上下に動けばクランクシャフト43がロアブロック32内で回転する。
【0039】
クランクシャフト43の近傍には、クランク角を感知するためのクランク角センサ44が設けられている。クランク角センサ44は、検出したクランク角に対応する検出信号S44をECU60に送信する。
【0040】
シリンダヘッド20の下面側(アッパーブロック31に接する側)とシリンダ34とピストン41とで囲まれた部分には、燃焼室が形成されている。エンジン10は、アクチュエータ33を駆動させることにより、燃焼室の容量を変更し、圧縮比を変更することができる。例えば、アクチュエータ33を用いてアッパーブロック31を上方に移動させれば、これに伴ってシリンダヘッド20も上方に移動して燃焼室の容積が増加するため、圧縮比が低く変更される。逆に、アッパーブロック31と共にシリンダヘッド20を下方に移動させれば、燃焼室の容積が減少し、圧縮比を高く変更することができる。
【0041】
可変圧縮比エンジンでは、機械的仕事への変換効率、即ち熱効率の向上と、最大出力の増加とを両立させるべく、運転条件に応じて混合気の圧縮比を変化させる。例えば、ECU60は、高トルク条件では圧縮比を低く設定することで充分な最大出力を確保させるとともに、低中トルク条件では圧縮比を高く設定することで熱効率を向上させることができる。
【0042】
圧縮比は、ロアブロック32に設けられた圧縮比センサ63を用いて検出される。圧縮比センサ63としては、例えばストロークセンサが用いられ、ロアブロック32に対するアッパーブロック31の相対位置を検出することによって圧縮比を検出することが可能となっている。圧縮比センサ63は、検出した圧縮比に対応する検出信号S63をECU60に送信する。
【0043】
シリンダヘッド20には、燃焼室内に吸気を取り入れるための吸気ポート23と、燃焼室内から排気を排出するための排気ポート24とが設けられている。吸気ポート23には吸気通路50が接続されており、排気ポート24には排気通路58が接続されている。ここで、吸気ポート23が燃焼室に開口する部分には吸気バルブ21が、また、排気ポート24が燃焼室に開口する部分には排気バルブ22が設けられている。吸気バルブ21及び排気バルブ22は、夫々、電動アクチュエータ73及び74によって駆動される。ピストン41の動きに合わせて適切なタイミングで吸気バルブ21及び排気バルブ22を開閉することにより、燃焼室内に吸気を吸入したり、或いは燃焼室内から排気を排出することができる。吸気バルブ21及び排気バルブ22を駆動する電動アクチュエータ73及び74は、ECU60からの制御信号S73及びS74により制御される。
【0044】
吸気通路50に設けられたエアフローセンサ57は、検出した吸気量に対応する検出信号S57をECU60に送信する。スロットルバルブ52の開度を調整する電動アクチュエータ53は、ECU60からの制御信号S53によって制御される。
【0045】
シリンダヘッド20には、燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁26、及び、燃焼室内に形成された混合気に点火するための点火プラグ27が設けられている。燃料噴射弁26及び点火プラグ27は、ECU60からの制御信号S26及びS27により制御される。燃料噴射弁26が燃焼室内に燃料を噴射することにより、吸気通路50より吸気ポート23を介して吸入された吸気と燃料との混合気が燃焼室内に形成され、点火プラグ27が点火することにより、混合気は燃焼される。このときの燃焼により発生するピストン41を押す力がエンジン10の動力となる。その後、燃焼室内の排気は排気ポート24を介して排気通路58へ排出される。尚、燃料噴射弁としては、図2に示すような直噴式の燃料噴射弁26を設けるのには限られず、この代わりに、又は、加えて、吸気通路50に燃料噴射弁を設けてもよい。
【0046】
<実施形態の動作>
次に、図3を参照して、本実施形態に係る車両の動作について説明する。図3は、本実施形態に係る車両100の走行状態の変化に応じたエンジン動作点の移行の様子を概念的に示すグラフ図である。
【0047】
図3において、横軸はエンジン回転数Neを、縦軸はエンジントルクTeを示しており、図中に示す点線LPrl、LPrm、LPraは等圧縮比線を示している。図3では特に代表的な等圧縮比線としてLPrl、LPrm、LPraを示しており、LPrl、LPrm、LPraの順で圧縮比Crが大きくなる。
【0048】
図3では、エンジン動作点としてAp、Bp、Cpの3点を例示している。Ap、Bp、Cpは、夫々エンジントルクTe、エンジン回転数Ne及び圧縮比Crが互いに異なる3点のエンジン動作点を示している。図3における点線矢印は夫々、ドライバの操作や車両100の走行状態(例えば、車両100が走行しようとする路面状況など)の変化に伴ってエンジン動作点が移行するルートを示している。
【0049】
まず、エンジン動作点がApからBpに移行する場合(即ち、図3において(i)で示す場合)における車両100の動作について説明する。この場合、エンジン動作点が移行する前後でエンジントルクTeは増加する一方で、エンジン回転数Neは減少する。図3において(i)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合、無段変速機110はシフトアップを行う。
【0050】
ここで、図4を参照して、図3において(i)で示すルートに沿ってエンジン動作点が移行する場合の車両の挙動について説明する。図4は、図3において(i)で示すルートに沿ってエンジン動作点が移行する場合のエンジン回転数Ne、圧縮比Cr及び出力軸トルクToの時間変化を示すタイムチャートである。尚、出力軸トルクToは、駆動軸143に印加されるトルク値である。
【0051】
図4(a)は、エンジン回転数Neの時間変化を示すタイムチャートである。エンジン回転数Neは当初Ne1に保たれており、エンジン動作点の移行に伴い、無段変速機110によって変速が開始される時刻t1から徐々に減少する。その後、エンジン回転数Neは、時刻t4においてNe2に到達し、一定に保たれる。本実施形態に係る車両100は変速機として変速比が連続的に可変である無段変速機110を備えるため、エンジン回転数Neもまた連続的に変化している。
【0052】
図4(b)は、圧縮比Crの時間変化を示すタイムチャートである。圧縮比Crは当初Cr1に保たれており、エンジン動作点の移行に伴い、時刻t2から徐々に減少する。その後、時刻t3においてCr2に到達し、一定に保たれる。ここで、圧縮比Crが変化している期間(即ちt2からt3の期間)は、エンジン回転数Neが変化している期間(即ち、t1からt4の期間)に含まれる。言い換えると、圧縮比Crは、無段変速機110によって変速が行われている最中に変化するように、ECU60によって制御される。
【0053】
図4(c)は、本実施形態に係る車両100の出力軸トルクToの時間変化を実線で、比較例に係る車両の出力軸トルクToの時間変化を点線で示すタイムチャートである。
【0054】
ここで、本実施形態に係る車両100の出力軸トルクToの時間変化について、比較例を参照しつつ説明する。比較例は、変速が完了した後に圧縮比Crの変更が行われる点において、本実施形態に係る車両100と異なる(尚、本実施形態では、図4(b)に示すように、変速が実行されている最中に圧縮比Crの変更が行われる)。尚、当該比較例は、変速が完了した後に圧縮比Crの変更が行われる点を除いて、本実施形態に係る車両と同様の構造及び制御が行われるため、詳細な説明は省略することとする。
【0055】
図4(a)に示すように、シフトアップによりエンジン回転数NeがNe1からNe2に減少すると、当該エンジン回転数Neに応じたイナーシャトルクが駆動軸143に作用し、駆動軸143に印加されるトルク値である出力軸トルクToが変動する。比較例ではこのような出力軸トルクToの変動を軽減するための対策が施されていないため、出力軸トルクToの変動はドライバにショックとして伝達され、ドライバビリティの悪化を招いてしまう(図4(c)の一点鎖線を参照)。
【0056】
一方、本実施形態に係る車両100では、変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更することにより、このような出力軸トルクToの変動を軽減することができる。図3に示す(i)のルートに沿ってエンジン動作点を移行させる場合、移行の前後において圧縮比Crが減少するようにエンジン10が制御される。このように圧縮比Crを減少させると、変速時に生じるイナーシャトルクを打ち消す方向にエンジン10の出力トルクが変化するので、イナーシャトルクに起因するショックを効果的に軽減することができる(図4(c)の実線を参照)。
【0057】
また、比較例では、変速が実行されている最中に圧縮比Crが変更されないため、変速を実行する前後に圧縮比Crを変更するための期間を別途設ける必要がある。そのため、変速に関する一連の動作を完了するために要する時間は、少なくとも無段変速機110によって変速比を変更するために要する時間と、その前後において圧縮比Crを変更するために要する時間とを加えたものとなる。一方、本実施形態に係る車両100では、変速が実行されている最中に圧縮比Crも同時に変化するため、変速に関する一連の動作を完了するために要する時間を、比較例に比べて短く抑えることができる。そのため、ドライバからの要求操作に対して、車両100の応答性を向上させることができる。
【0058】
次に、エンジン動作点がCpからApに移行する場合(即ち、図3において(ii)で示す場合)における車両100の動作について説明する。この場合、エンジン動作点の移行の前後でエンジントルクTeとエンジン回転数Neは共には減少する。図3において(ii)で示すルートに沿ってエンジン動作点が移行する場合、無段変速機110はシフトアップを行う。
【0059】
図3(ii)で示すエンジン動作点の移行ルートでは、図3(i)の場合と同様に、無段変速機110においてシフトアップが行われるが、圧縮比Crは減少ではなく、逆に増加している点において異にしている。そのため、仮に変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更させると、図3(i)の場合とは逆に、エンジンの出力トルクの変化がイナーシャトルクを増幅する方向に作用してしまい、ドライバビリティを一層悪化させてしまうおそれがある。そのため、図3(ii)で示すエンジン動作点の移行ルートでは、図3(i)で示すエンジン動作点の移行ルートとは異なり、変速が実行されている最中に圧縮比Crの変更を敢えて行わないことによって、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0060】
続いて、エンジン動作点がBpからApに移行する場合(即ち、図3において(iii)で示す場合)における車両100の動作について説明する。この場合、エンジン動作点の移行の前後でエンジントルクTeは減少すると共に、エンジン回転数Neは増加する。そのため、図3において(iii)で示すルートに沿ってエンジン動作点が移行する場合、無段変速機110はシフトダウンを行う。
【0061】
図3において(iii)で示すルートに沿ってエンジン動作点が移行する場合、上述の図3(ii)と同様に圧縮比は増加する方向に変化する一方で、無断変速機は図3(ii)とは逆にシフトダウンを行う。従って、変速時に生ずるイナーシャトルクは、上述の図3(ii)の場合に比べて逆方向になる。そのため、図3(ii)では変速中に圧縮比を敢えて変更しないことによって出力軸トルクToの変動を軽減していたが、図3(iii)では逆に(即ち、図3(i)と同様に)、変速を実行されている最中に圧縮比を変更することによって出力軸トルクToの変動を軽減することができる。
【0062】
このように、図3(iii)の場合、図3(i)の場合と同様に、変速を実行している最中に圧縮比Crを同時に変更することによって、変速に関する一連の動作を完了するために要する時間を短く抑えることができ、ドライバからの要求操作に対する車両100の応答性を向上させることができる。
【0063】
続いて、エンジン動作点がApからCpに移行する場合(即ち、図3において(iv)で示す場合)における車両100の動作について説明する。この場合、エンジン動作点の移行の前後でエンジントルクTeとエンジン回転数Neとは共に増加する。図3において(iv)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合、無段変速機110はシフトダウンを行う。
【0064】
図3(iv)で示すエンジン動作点の移行ルートでは、図3(iii)の場合と同様に、無段変速機110においてシフトダウンが行われるが、圧縮比Crは増加ではなく、逆に減少している点において異なっている。そのため、仮に変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更させると、図3(iii)の場合とは逆に、エンジンの出力トルクの変化がイナーシャトルクを増幅する方向に作用してしまい、ドライバビリティを一層悪化させてしまうおそれがある。そのため、図3(iv)で示すエンジン動作点の移行ルートでは、図3(iii)で示すエンジン動作点の移行ルートとは異なり、変速が実行されている最中に圧縮比Crの変更を敢えて行わないことによって、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0065】
尚、図3(ii)及び(iv)の場合、圧縮比Crの変更は、変速が実行される前後に行う必要があるため、変速に関わる一連の動作に要する時間が長くなり、エンジン10のレスポンスが遅くなることも考えられる。しかしながら、出力軸トルクToの変動を軽減することによってドライバビリティを向上させるというメリットが大きいため、実質的に問題とはならない。但し、仮に変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更したとしても、出力軸トルクToの変動に伴うドライバビリティの悪化が微小である場合など、ドライバの要求操作に対する車両100の応答性の向上によるメリットが大きい場合には、図3(i)で示すエンジン動作点の移行ルートと同様に変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更してもよいことは言うまでもない。
【0066】
次に、図5を参照して、上述した本実施形態に係る車両の動作を実現するためにECU60が実行する処理について具体的に説明する。図5は、本実施形態に係る車両の動作を実現するための制御処理のフローチャートである。
【0067】
まず、ステップS101において、ECU60は、クランク角センサ44からの検出信号に基づいてエンジン回転数Neを求めるとともに、アクセル開度センサ61からの検出信号に基づいて、アクセル開度Accを求める。
【0068】
続くステップS102において、ECU60は、ステップS101で求められたエンジン回転数Ne及びアクセル開度Accに基づいて、アクセルが踏み込まれた後(即ち、エンジン動作点が移行した後)に必要とされるエンジントルク(以下、適宜「目標エンジントルクTet」という)、エンジン回転数(以下、適宜「目標エンジン回転数Net」という)及び圧縮比(以下、適宜「目標圧縮比Crt」という)を算出する。このような算出は、図3に示すようなエンジントルクTe、目標エンジン回転数Ne及び目標圧縮比Crを変数とするマップを参照することにより行うとよい。尚、目標エンジントルクTet、目標エンジン回転数Net及び目標圧縮比Crtは、アクセル開度Acc及びエンジン回転数に基づいて求められるとする代わりに、アクセル開度のみに基づいて算出されてもよい。
【0069】
ステップS103において、ECU60は、エンジン動作点が移行する際に実行される変速が変速比を増加させるものなのか否かについて判定する。言い換えれば、当該変速が変速比を小さく変更するシフトアップなのか、それとも変速比を大きく変更するシフトダウンなのかを判定する。
【0070】
当該変速が変速比を増加させるものである場合(ステップS103:Yes)、即ちシフトダウンである場合、ECU60は、エンジン動作点が移行する前後でエンジン10の圧縮比が増加するか否かについて判定する(ステップS104)。具体的には、ECU60は、現時点における圧縮比Cr(以下、適宜「実圧縮比Crr」という)と、ステップS102において求められた目標圧縮比Crtとの大小を比較する。例えば、図3に示すようなエンジン回転数、エンジントルク及び圧縮比を変数とするマップを予めメモリ等の記録手段に記録しておき、ECU60が当該マップを参照することにより、圧縮比の増減を判定するとよい。
【0071】
変速が実行される前後で圧縮比が減少する場合(ステップS104:No)、ECU60はステップS105において、エンジン動作点が、ステップS102において求められた目標エンジントルクTet、目標エンジン回転数Net及び目標圧縮比Crtになるように、エンジン10及び無段変速機110を制御する。このとき、圧縮比の変更は、無段変速機110の変速が完了した後に行われる(ステップS105)。即ち、エンジンの出力トルクの変化がイナーシャトルクを増幅する方向に作用してしまい、ドライバビリティを一層悪化させてしまうことを防止するために、変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更しない、図3(iv)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0072】
当該変速が実行される前後で圧縮比が増加する場合(ステップS104:Yes)、ECU60はステップS106において、エンジン動作点が、ステップS102において求められた目標エンジントルクTet、目標エンジン回転数Net及び目標圧縮比Crtになるように、エンジン10及び無段変速機110を制御する。このとき、圧縮比の変更は、無段変速機110の変速が実行されている最中に行われる(ステップS106)。即ち、変速が実行されている最中に圧縮比を増加させることによって出力軸トルクToの変動を軽減することができる、図3(iii)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0073】
一方、当該変速が変速比を減少させるものである場合(ステップS103:No)、即ちシフトアップである場合、ECU60は、エンジン動作点が移行する前後でエンジン10の圧縮比が減少するか否かについて判定する(ステップS107)。具体的には、ECU60は、実圧縮比Crrと、ステップS102において求められた目標圧縮比Crtとの大小を比較する。例えば、図3に示すようなエンジン回転数、エンジントルク及び圧縮比を変数とするマップを予めメモリ等の記録手段に記録しておき、ECU60が当該マップを参照することにより、圧縮比の増減を判定するとよい。
【0074】
当該変速が実行される前後で圧縮比が増加する場合(ステップS107:No)、ECU60は上述のステップS105を実行することにより、エンジン動作点の移行を行う。このとき、圧縮比の変更は、無段変速機110の変速が完了した後に行われる(ステップS105)。即ち、エンジンの出力トルクの変化がイナーシャトルクを増幅する方向に作用してしまい、ドライバビリティを一層悪化させてしまうことを防止するために、変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更しない、図3(ii)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0075】
当該変速が実行される前後で圧縮比が減少する場合(ステップS107:Yes)、ECU60は上述のステップS106を実行することにより、エンジン動作点の移行を行う。このとき、圧縮比の変更は、無段変速機110の変速が実行されている最中に行われる(ステップS106)。即ち、変速が実行されている最中に圧縮比を増加させることによって出力軸トルクToの変動を軽減することができる、図3(i)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0076】
以上説明したように第1実施形態に係る車両では、ドライバの要求操作に対する車両の挙動の応答性を向上させると共に、変速時に生じるショックを軽減することができる。
【0077】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る車両の動作について説明する。図6は、第2実施形態に係る車両100の動作を実現するための制御処理のフローチャートである。尚、図6において、上述の第1実施形態と共通する処理については共通の符号を付すものとする。
【0078】
まず、ステップS101において、ECU60は、クランク角センサ44からの検出信号に基づいてエンジン回転数Neを求めるとともに、アクセル開度センサ61からの検出信号に基づいて、アクセル開度Accを求める。
【0079】
続くステップS102において、ECU60は、ステップS101で求められたエンジン回転数Ne及びアクセル開度Accに基づいて、アクセルが踏み込まれた後(即ち、エンジン動作点が移行した後)に必要とされるエンジントルク(以下、適宜「目標エンジントルクTet」という)、エンジン回転数(以下、適宜「目標エンジン回転数Net」という)及び圧縮比(以下、適宜「目標圧縮比Crt」という)を算出する。このような算出は、図3に示すようなエンジントルクTe、目標エンジン回転数Ne及び目標圧縮比Crを変数とするマップを参照することにより行うとよい。尚、目標エンジントルクTet、目標エンジン回転数Net及び目標圧縮比Crtは、アクセル開度Acc及びエンジン回転数に基づいて求められるとする代わりに、アクセル開度のみに基づいて算出されてもよい。尚、このように算出された目標値に基づいて駆動軸143に印加される駆動力は、本発明に係る「必要駆動力」の一例である。
【0080】
ステップS201において、ECU60は、エンジン動作点が移行する前後におけるエンジン回転数Neの変化量が、第1閾値αより大きいか否かを判定する。具体的には、エンジン回転数Neの変化量は、現時点におけるエンジン回転数Ne(以下、適宜「実エンジン回転数Ner」という)とステップS102において求められた目標エンジン回転数Netとの差を算出することで求めることができる。
【0081】
ここで、エンジン動作点が移行する前後におけるエンジン回転数Neの変化量が大きくなると、変速に伴って生ずるイナーシャトルクが増大し、変速を実行している最中に圧縮比Crを変更することによってドライバビリティを向上させようとしても、十分な効果を得ることが困難になる場合がある。第1閾値αは、このように変速を実行している最中に圧縮比Crを変更した場合であっても、ドライバビリティを十分向上させることが困難になるエンジン回転数Neの変化量として規定され、理論的、実験的手法或いはシミュレーションなどによって求めるとよい。尚、第1閾値αは、本発明に係る「所定の閾値」の一例である。
【0082】
エンジン回転数Neの変化量が第1閾値αより大きい場合(ステップS201:Yes)、ECU60は、目標圧縮比Crtの第1補正値ΔCrt1を算出する(ステップS202)。ここで第1補正値ΔCrt1は、エンジン回転数Neの変化量が第1閾値αより大きい場合に、変速を実行している最中に圧縮比Crが変更されることによってドライバビリティの向上が期待できる圧縮比Crになるように、実圧縮比Crrと当該期待される圧縮比との差として規定される。
【0083】
ここで、第1補正値ΔCrt1の算出方法について、図7を参照して説明する。図7は、目標圧縮比Crtの第1補正値ΔCrt1の一例を示すグラフ図である。
【0084】
図7に示すように、第1補正値ΔCrt1は、エンジン回転数Neの変化量が第1閾値αより大きい場合に値を有するように規定される。一方、エンジン回転数Neの変化量が第1閾値α以下である場合には、第1補正値ΔCrt1によって目標エンジン回転数Netを補正するまでもなく十分なドライバビリティを得ることができるので、第1補正値ΔCrt1はゼロに設定される。エンジン回転数Neの変化量が第1閾値αより大きい場合、当該変化量が大きくなるに従い、ドライバビリティの悪化が顕著になるため、それに応じて第1補正量ΔCrt1もまた大きくなるように設定される。実際には、このような条件下から理論的、実験的手法或いはシミュレーションなどによって第1補正量ΔCrt1を規定するとよい。このように第1補正値ΔCrt1を算出した後、ECU60は、本制御処理をステップS103に処理を進める。
【0085】
ステップS103において、ECU60は、エンジン動作点が移行する際に実行される変速が変速比を増加させるものなのか否かについて判定する。言い換えれば、当該変速が変速比を小さく変更するシフトアップなのか、それとも変速比を大きく変更するシフトダウンなのかを判定する。
【0086】
当該変速が変速比を増加させるものである場合(ステップS103:Yes)、即ちシフトダウンである場合、ECU60は、エンジン動作点が移行する前後でエンジン10の圧縮比が増加するか否かについて判定する(ステップS104)。具体的には、ECU60は、現時点における圧縮比Cr(以下、適宜「実圧縮比Crr」という)と、ステップS102において求められた目標圧縮比Crtとの大小を比較する。例えば、図3に示すようなエンジン回転数、エンジントルク及び圧縮比を変数とするマップを予めメモリ等の記録手段に記録しておき、ECU60が当該マップを参照することにより、圧縮比の増減を判定するとよい。
【0087】
当該変速が実行される前後で圧縮比が減少する場合(ステップS104:No)、ECU60はステップS105において、エンジン動作点が、ステップS102において求められた目標エンジントルクTet、目標エンジン回転数Net及び目標圧縮比Crtになるように、エンジン10及び無段変速機110を制御する。このとき、圧縮比の変更は、無段変速機110の変速が完了した後に行われる(ステップS105)。即ち、エンジンの出力トルクの変化がイナーシャトルクを増幅する方向に作用してしまい、ドライバビリティを一層悪化させてしまうことを防止するために、変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更しない、図3(iv)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0088】
変速が実行される前後で圧縮比が増加する場合(ステップS104:Yes)、ECU60はステップS203において、目標圧縮比Crtを次式に基づいて再度算出する(ステップS203)。
【0089】
Crt=Crt+ΔCrt1 (1)
つまり、ECU60は、ステップS201において算出した目標圧縮比Crtに、ステップS202において算出した第1補正値ΔCrt1を加えた値を目標圧縮比Crtとして設定し直す。
【0090】
その後、ECU60は上述のステップS106を実行することにより、エンジン動作点の移行を行う。このとき、圧縮比の変更は、無段変速機110の変速が実行されている最中に行われる。
【0091】
その後、ECU60は、目標圧縮比Crtの第1補正値ΔCrt1を、次式に基づいて変更する(ステップS204)。
【0092】
ΔCrt1=ΔCrt1―β (2)
ここで定数βは第1補正値ΔCrt1より小さい任意の正数であり、第1補正値ΔCrt1を(2)式に基づいてゼロに近づけるためのインクリメントであれば足り、変数又は定数のいずれであってもよい。
【0093】
その後、ECU60は、ステップS204において変更された第1補正値ΔCrt1がゼロであるか否かを判定する(ステップS205)。ここで、ステップS204において変更された第1補正値ΔCrt1がゼロでない場合には(ステップS205:No)、ECU60は、処理をステップS203に戻し、上述の各ステップを繰り返し実行する。即ち、次第に第1補正値ΔCrt1を小さくしていき、ステップS203において補正された目標圧縮比Crtが、ステップS102において算出された本来の目標圧縮比Crtに戻るまで、ECU60はループ処理を行う。そして、ステップS204において変更された第1補正値ΔCrt1がゼロになった時点で(ステップS205:Yes)、ECU60は、当該ループを終了し、本制御処理をリターンする。このように変速に関する一連の動作が完了した後に、補正された圧縮比Crを本来の値に戻すことによって、ドライバの要求操作に沿った車両の挙動を実現しつつ、ドライバビリティの向上を図ることができる。
【0094】
変速が変速比を減少させるものである場合(ステップS103:No)、即ちシフトアップである場合、ECU60は、エンジン動作点が移行する前後でエンジン10の圧縮比が減少するか否かについて判定する(ステップS107)。具体的には、ECU60は、実圧縮比Crrと、ステップS102において求められた目標圧縮比Crtとの大小を比較する。例えば、図3に示すようなエンジン回転数、エンジントルク及び圧縮比を変数とするマップを予めメモリ等の記録手段に記録しておき、ECU60が当該マップを参照することにより、圧縮比Crの増減を判定するとよい。
【0095】
当該変速が実行される前後で圧縮比Crが増加する場合(ステップS107:No)、ECU60は上述のステップS105を実行することにより、エンジン動作点の移行を行う。このとき、圧縮比Crの変更は、無段変速機110の変速が完了した後に行われる(ステップS105)。即ち、エンジンの出力トルクの変化がイナーシャトルクを増幅する方向に作用してしまい、ドライバビリティを一層悪化させてしまうことを防止するために、変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更しない、図3(ii)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0096】
変速が実行される前後で圧縮比Crが減少する場合(ステップS107:Yes)、ECU60は上述のステップS106を実行することにより、エンジン動作点の移行を行う。このとき、圧縮比Crの変更は、無段変速機110の変速が実行されている最中に行われる(ステップS106)。即ち、変速が実行されている最中に圧縮比Crを増加させることによって出力軸トルクToの変動を軽減することができる、図3(i)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0097】
ここで、図8を参照して、図3において(i)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合の車両の挙動について説明する。図8は、第2実施形態に係る車両において、図3において(i)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合のエンジン回転数Ne、圧縮比Cr及び出力軸トルクToの時間変化を示すタイムチャートである。
【0098】
図8(a)は、エンジン回転数Neの時間変化を示すタイムチャートである。エンジン回転数Neは当初Ne1に保たれており、エンジン動作点の移行に伴い、無段変速機110によって変速が開始される時刻t1から徐々に減少する。その後、エンジン回転数Neは、時刻t4においてNe2に到達し、一定に保たれる。本実施形態に係る車両100は変速機として変速比が連続的に可変である無段変速機110を備えるため、エンジン回転数Neもまた連続的に変化している。
【0099】
図8(b)は、圧縮比Crの時間変化を示すタイムチャートである。ここで、図8(b)において、実線は上述のようにステップS204において、目標圧縮比Crtを第1補正値ΔCrt1によって補正した場合の圧縮比Crの時間変化を示し、点線はステップS204における目標圧縮比Crtに係る補正を行わない比較例における圧縮比Crの時間変化を示している。尚、当該比較例は、ステップS204における目標圧縮比Crtに係る補正を行わない点を除いて、本実施形態に係る車両と同様の構造及び制御が行われるため、詳細な説明は省略することとする。
【0100】
図8(c)は、本実施形態に係る車両100の出力軸トルクToの時間変化を実線で、比較例に係る車両の出力軸トルクToの時間変化を点線で示すタイムチャートである。図8(c)に示すように、ステップS204における目標圧縮比Crtに係る補正を行うことによって、変速が実行されている間における出力軸トルクToの変動が軽減され、ドライバビリティをより効果的に向上することができる。
【0101】
以上説明したように第2実施形態に係る車両では、変速時におけるエンジン回転数の変化量が大きい場合であっても、目標圧縮比を適宜補正することによって、ドライバビリティを効果的に向上させることができる。
【0102】
<第3実施形態>
続いて、第3実施形態に係る車両の動作について説明する。図9は、第3実施形態に係る車両100の動作を実現するための制御処理のフローチャートである。第3実施形態は、第2実施形態においてステップS106における処理内容を変更している点において、第2実施形態と相違点を有している。その他、図9において上述の第1及び第2実施形態と共通する処理については共通の符号を付すものとし、その詳細な説明については省略する。
【0103】
本実施形態では、変速が実行される前後で圧縮比が減少する場合(ステップS104:No)、ステップS301において、ECU60は、ステップS201において求められたエンジン回転数Neの変化量が第2閾値γより大きいか否かを判定する。上述の第1及び第2実施形態では、変速が実行される前後で圧縮比が減少する場合は(ステップS104:No)、変速の実行が完了した後に圧縮比を変更することによってドライバビリティの更なる悪化を防止していたが、本実施形態では、このような場合においても目標圧縮比Crtに適宜補正を行うことによって、変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更し、ドライバビリティを向上させることができる。但し、変速に伴うエンジン回転数Neの変化量が大きくなると、変速を実行している最中に圧縮比Crを変更することによってドライバビリティを向上させようとしても、十分な効果を得ることが困難になる場合がある。第2閾値γは、このように、変速を実行している最中に圧縮比Crを変更することによってドライバビリティを向上させようとしても、十分な効果を得ることが困難になるエンジン回転数Neの変化量として規定される。実際には、このような条件下から理論的、実験的手法或いはシミュレーションなどによって第2閾値γを求めるとよい。
【0104】
ここで、第2閾値γの算出方法について、図10を参照して説明する。図10は、第2閾値γの一例を示すグラフ図である。
【0105】
第2閾値γは、処理をステップS302に進めるか否かを規定するための閾値である。エンジン回転数Neの変化量が第2閾値γより大きい場合には、圧縮比Crを、変速を実行している最中に変更することによってドライバビリティを向上させようとしても、十分な効果を得ることが困難であるとして、ステップS302の処理に進まずに、通常の処理を行うと判断する(即ち、第1及び第2実施形態と同様に、ステップS105を実行する)。
【0106】
エンジン回転数Neの変化量が第2閾値γより大きい場合(ステップS301:Yes)、ECU60はステップS105において、エンジン動作点が、ステップS102において求められた目標エンジントルクTet、目標エンジン回転数Net及び目標圧縮比Crtになるように実エンジン動作点の経路を設定し、実エンジン動作点を目標動作点まで当該経路に沿って移行させる。このとき、圧縮比Crの変更は、無段変速機110の変速が完了した後に行われることによって、ドライバビリティの更なる悪化を防止する(ステップS106)。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0107】
一方、エンジン回転数Neの変化量が第2閾値γ以下である場合には(ステップS301:No)、圧縮比Crを補正すると共に、変速を実行している最中に変更することによってドライバビリティを向上させ得るとして、処理をステップS302に進める。ステップS302において、ECU60は、目標圧縮比Crtの第2補正値ΔCrt2を算出する(ステップS302)。ここで第2補正値ΔCrt2は、変速を実行している最中に圧縮比Crを変更することにより、変速に伴うエンジン回転数Neの変化量を軽減するように、実際の圧縮比Crと期待される圧縮比Crとの差として規定される。
【0108】
そして、ステップS303において、ECU60は目標圧縮比Crtを次式に基づいて再度算出する。
【0109】
Crt=Crt+ΔCrt2 (3)
つまり、ECU60は、ステップS201において算出した目標圧縮比Crtに、ステップS302において算出した第2補正値ΔCrt2を加えた値を目標圧縮比Crtとして設定し直す。
【0110】
その後、ECU60はステップS304において、エンジン動作点が、ステップS102において求められた目標エンジントルクTet及び目標エンジン回転数Net、並びにステップS303において設定され直した目標圧縮比Crtになるように実エンジン動作点の経路を設定し、実エンジン動作点を目標動作点まで当該経路に沿って移行させる。このとき、圧縮比Crの変更は、無段変速機110の変速が実行されている最中に行われる(ステップS304)。
【0111】
その後、ECU60は、目標圧縮比Crtの補正値ΔCrtを、次式に基づいて変更する(ステップS305)。
【0112】
ΔCrt2=ΔCrt2―δ (4)
ここで定数δは第2補正値ΔCrt2より小さい任意の正数であり、第2補正値ΔCrt2を(4)式に基づいてゼロに近づけるためのインクリメントであれば足り、変数又は定数のいずれであってもよい。
【0113】
その後、ECU60は、ステップS305において変更された第2補正値ΔCrt2がゼロであるか否かを判定する(ステップS306)。ここで、ステップS305において変更された第2補正値ΔCrt2がゼロでない場合には(ステップS306:No)、ECU60は、処理をステップS303に戻し、上述の各ステップを繰り返し実行する。即ち、次第に第2補正値ΔCrt2を小さく変更していき、ステップS306において補正された目標圧縮比Crtが、ステップS102において算出された本来の目標圧縮比Crtに戻るまで、ECU60はループ処理を行う。そして、ステップS305において変更された第2補正値ΔCrt2がゼロになった時点で(ステップS306:Yes)、ECU60は、当該ループを終了し、本制御処理をリターンする。
【0114】
ここで、図11を参照して、図3において(ii)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合の車両の挙動について説明する。図11は、第3実施形態に係る車両において、図3において(ii)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合のエンジン回転数Ne、圧縮比Cr、第2補正値ΔCrt2及び出力軸トルクToの時間変化を示すタイムチャートである。
【0115】
図11(a)は、エンジン回転数Neの時間変化を示すタイムチャートである。エンジン回転数Neは当初Ne1に保たれており、エンジン動作点の移行に伴い、無段変速機110によって変速が開始される時刻t1から徐々に減少する。その後、エンジン回転数Neは、時刻t4においてNe2に到達し、一定に保たれる。本実施形態に係る車両100は変速機として変速比が連続的に可変である無段変速機110を備えるため、エンジン回転数Neもまた連続的に変化している。
【0116】
図4(b)は、圧縮比Crの時間変化を示すタイムチャートである。圧縮比Crは当初Cr2に保たれており、エンジン動作点の移行に伴い、時刻t2から徐々に増加する。その後、時刻t3においてCr1に到達し、一定に保たれる。ここで、圧縮比Crが変化している期間(即ちt2からt3の期間)は、エンジン回転数Neが変化している期間(即ち、t1からt4の期間)に含まれる。言い換えると、圧縮比Crは、無段変速機110によって変速が行われている最中に変化するように、ECU60によって制御される。
【0117】
図11(c)は、第2補正値ΔCrt2の時間変化を示す。本実施形態では、圧縮比を変化させる期間において、出力軸トルクToの変動を軽減するように第2補正値ΔCrt2が設定される。第2補正値ΔCrt2は、圧縮比Crが不変に保たれている期間(即ち、時刻t2以前及び時刻t3以降の期間)においてはゼロに設定されており、圧縮比Crが変化する期間(即ち、時刻t2からt3の期間)において有限な値を持つように設定される。
【0118】
図11(d)は、本実施形態に係る車両100の出力軸トルクToの時間変化を実線で、比較例に係る車両の出力軸トルクToの時間変化を点線で示すタイムチャートである。図8(d)に示すように、目標圧縮比Crtについて第2補正値ΔCrt2を設けることにより、出力軸トルクToの変動を軽減しつつ、変速時のドライバビリティをより効果的に向上することができる。
【0119】
以上説明したように、第3実施形態に係る車両では、第1及び2実施形態において変速が完了した後に圧縮比を変更していた場合においても、変速を行っている最中に圧縮比を補正を伴って変更することにより、変速時に生ずる駆動軸トルクの変動を軽減すると共に、ドライバの要求操作に対する車両の応答性を向上させることができる。
【0120】
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、例えば、エンジンを備えた自動車等の車両の制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0122】
10 エンジン、 60 ECU、 61 アクセル開度センサ、 100 車両、 110 無段変速機
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変圧縮比エンジンを備えた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両の制御装置の一例として、各シリンダ内における混合気の圧縮比を変更することが可能な可変圧縮比エンジンを備えた車両を制御するものがある。可変圧縮比エンジンでは、車両の走行状態(例えば、ドライバの操作内容や走行路面の状態など)に応じて、エンジンの動力を機械的仕事に変換する際の効率(即ち、熱効率)の向上と、エンジンの最大出力の増加とを両立させるように圧縮比が制御される。例えば、高トルクが要求される条件下では圧縮比を低く設定することで充分な最大出力を確保させると共に、低中トルクが要求される条件下では圧縮比を高く設定することで熱効率を向上させることができる。
【0003】
ここで、車両に対する必要駆動力が変化した場合、エンジン動作点を当該必要駆動力に対応するように移行すべく、車両に備えられたトランスミッション等の変速機において変速が行われる場合がある。例えば、特許文献1には変速を完了させた後に、圧縮比の変更を行う技術が開示されている。特許文献2には、変速時にエンジンのイナーシャトルクに起因して生じるショックを軽減するように、変速を実行する前に圧縮比の変更を行う技術が開示されている。また、特許文献3には、エンジンの出力トルクを制御可能な手段を複数備えることにより、変速時のショックの軽減と、エンジンの応答性の向上の両立を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平03−064632号公報
【特許文献2】特開2008−014168号公報
【特許文献3】特開2007−327418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2では、圧縮比の変更が、変速が実行される期間外に行われるため、エンジン動作点の移行及び圧縮比の変更に係る一連の動作が完了するまでに要する期間が長くなってしまうという技術的な問題点がある。即ち、ドライバの要求操作によってエンジン動作点を移行する必要が生じた場合における車両の応答性が十分に得られないおそれがある。また、特許文献1では、変速時にエンジン等が有するイナーシャトルクに起因して生じるショックを軽減するための対策が何ら施されていないため、変速時に生じるショックにより、ドライバビリティが悪化してしまうという技術的問題点もある。また、特許文献3では可変圧縮比エンジンについて何ら言及されておらず、可変圧縮比エンジンを備える車両における変速時のショックの軽減及びエンジン動作点の移行の際における車両の応答性の改善を図ることが困難であるという技術的問題点がある。
【0006】
本発明は、例えば上記の問題点に鑑みなされたものであり、ドライバの要求操作に対する車両の挙動の応答性を向上させると共に、変速時に生じるショックを軽減可能な車両の駆動力制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため本発明に係る第1の車両の制御装置は、混合気の圧縮の程度を示す圧縮比を変更することが可能なエンジンと、該エンジンの出力軸と車軸に連結される出力部材との回転速度比が可変である変速手段とを備えた車両の制御装置であって、前記車両の必要駆動力が変化した場合において、変化前のエンジン動作点から変化後の必要駆動力に対応するエンジン動作点たる目標エンジン動作点まで実際のエンジン動作点たる実エンジン動作点を移行させる制御手段と、前記実エンジン動作点の移行に伴い、前記圧縮比を変更する圧縮比変更手段とを備え、前記目標動作点における圧縮比が、前記必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも低く設定されており、前記目標動作点における前記回転速度比が必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも小さく設定されている場合に、前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を変更する。
【0008】
本発明に係る第1の車両の制御装置の制御対象である車両には、エンジンと変速手段が備えられている。
【0009】
エンジンは、例えばバッテリから電力が供給されるアクチュエータを用いて、混合気の圧縮の程度を示す圧縮比が可変な可変圧縮比エンジンである。可変圧縮比エンジンは、例えば、機械的仕事への変換効率、即ち熱効率の向上と、最大出力の増加とを両立できるように、車両の運転条件に応じて圧縮比を変更する。具体的には、高トルク条件下では圧縮比を低く設定することで充分な最大出力を確保すると共に、低中トルク条件下では圧縮比を高く設定することで熱効率を向上させるとよい。
【0010】
変速手段は、エンジンの出力軸と車軸に連結される出力部材との回転速度比(以下、適宜「変速比」と呼ぶ)を変更することが可能な動力伝達機構である。変速手段は、例えば、摩擦係合式或いは噛合式等各種態様を採り得る複数の係合手段(ブレーキ装置やクラッチ装置を含む)により、出力部材とこれら複数の回転要素との接続状態(即ち、元より接続可能であるか否かによらず少なくとも接続の有無を含み、概念上は、どの程度接続されているかといった定量的状態を含む)を適宜に切り替えること(即ち、これら複数の回転要素のうち出力部材との接離可能に構成された少なくとも一部と出力部材とを適宜に係合及び離間させること等を好適な一形態として含む)等によって変速を行うことができる。変速は、エンジンの出力軸の回転速度(即ち、機関回転速度)と車軸に直接に又は間接的に連結された出力部材との回転速度比(即ち、変速比)を、理論的に、実質的に又は何らかの現実的な制約の範囲で変化させる。
【0011】
本発明に係る車両の制御装置は、例えばECU(Electronic Controlled Unit)であり、制御手段及び圧縮比変更手段を備える。
【0012】
制御手段は、前記車両の必要駆動力が変化した場合において、変化前のエンジン動作点から変化後の必要駆動力に対応するエンジン動作点たる目標エンジン動作点まで実際のエンジン動作点たる実エンジン動作点を移行させる。エンジン動作点は、例えば、エンジンの出力トルクや回転数等のエンジンの動作状態を規定するための一又は複数のパラメータによって規定される動作点である。ここで、エンジンの必要駆動力は、例えばドライバの車両に対する要求操作の内容や、走行路面の状況等に基づいて算出するとよい。このように、必要駆動力が変化する場合には、当該必要駆動力をエンジンから出力するために、エンジン動作点が制御手段によって移行される。尚、必要駆動力が変化する前後におけるエンジン動作点の移行経路については、複数の経路が考えられるが、例えば、機械的仕事への変換効率、即ち熱効率の向上と、最大出力の増加とを両立できるように適宜選択するとよい。
【0013】
圧縮比変更手段は、実エンジン動作点の移行に伴い、圧縮比を変更する。圧縮比変更手段は、例えば、エンジンのバルブタイミング、リフト量及びEGR量を調整することにより燃焼室の容量を変化させることによって、圧縮比を変更する。
【0014】
本発明では特に、目標動作点における圧縮比が、必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも低く設定されており、目標動作点における回転速度比が必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも小さく設定されている場合に、圧縮比変更手段は、制御手段が回転速度比を変更させている最中に、圧縮比を変更する。ここで、制御手段によりエンジン動作点が移行する際に変速手段の回転速度比が変更し(即ち、変速が行われ)、イナーシャトルクに起因して、車軸に連結される出力部材に印加されるトルク(以下、適宜「出力軸トルク」という)が変化する場合がある。このような出力軸トルクの変化はドライバにショックとして感知され、ドライバビリティの悪化につながるおそれがある。変化前に比べて回転速度比が小さく変更される場合(即ち、シフトアップが行われる場合)、回転速度比の変化量に応じたイナーシャトルクによって出力軸トルクが一時的に変動することにより、ショックが生じる可能性がある。本発明では、変速が実行されている最中(即ち、変速に伴って回転速度比が変化している最中に)に圧縮比を減少することでショックを軽減し、ドライバビリティを向上させることができる。このような場合に圧縮比を減少させると、変速時に生じるイナーシャトルクを打ち消す方向にエンジンの出力トルクが変化するので、イナーシャトルクに起因するショックを効果的に軽減することができる。
【0015】
また、本発明では、変速が実行されている最中に圧縮比の変更が行われるため、上述の特許文献1又は2のように、変速を実行する前後に圧縮比を変更するための期間を別途設ける必要がない。つまり、特許文献1又は2では、変速に関する一連の動作(即ち、エンジン動作点の移行及び圧縮比の変更)を完了するために要する時間は、少なくとも変速手段によって回転速度比を変更するために要する時間と、その前後において圧縮比を変更するために要する時間とを加えたものとなる。一方、本発明では、回転速度比を変更している最中に圧縮比も同時に変更するため、変速に関する一連の動作を完了するために要する時間を短く抑えることができる。そのため、ドライバの要求操作に対して、車両のレスポンスを向上させることが可能となる。
【0016】
以上説明したように本発明に係る車両の制御装置によれば、ドライバの要求操作に対する車両の挙動の応答性を向上させると共に、変速時に生じるショックを軽減することができる。
【0017】
上述した課題を解決するため本発明に係る第2の車両の制御装置は、混合気の圧縮の程度を示す圧縮比を変更することが可能なエンジンと、該エンジンの出力軸と車軸に連結される出力部材との回転速度比が可変である変速手段とを備えた車両の制御装置であって、前記車両の必要駆動力が変化した場合において、変化前のエンジン動作点から変化後の必要駆動力に対応するエンジン動作点たる目標エンジン動作点まで実際のエンジン動作点たる実エンジン動作点を移行させる制御手段と、前記実エンジン動作点の移行に伴い、前記圧縮比を変更する圧縮比変更手段とを備え、前記目標動作点における圧縮比が、前記必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも大きく設定されており、前記目標動作点における前記回転速度比が必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも大きく設定されている場合に、前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を変更する。
【0018】
本発明に係る車両の制御装置は、上述の第1の車両の制御装置と同様に、エンジンと変速手段とを備えた車両を制御対象とする。本発明に係る車両の制御装置は、例えばECU(Electronic Controlled Unit)であり、制御手段及び圧縮比変更手段を備える。
【0019】
本発明では特に、目標動作点における圧縮比が、前記必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも大きく設定されており、前記目標動作点における前記回転速度比が必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも大きく設定されている場合に、前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を変更する。ここで、変化前に比べて回転速度比が大きく変更される場合(即ち、シフトダウンが行われる場合)、回転速度比の変化量に応じたイナーシャトルクによって出力軸トルクが一時的に変動することにより、ショックが生じる可能性がある。本発明では、変速が実行されている最中(即ち、変速に伴って回転速度比が変化している最中に)に圧縮比を減少することでショックを軽減し、ドライバビリティを向上させることができる。このような場合に圧縮比を増加させると、変速時に生じるイナーシャトルクを打ち消す方向にエンジンの出力トルクが変化するので、イナーシャトルクに起因するショックを効果的に軽減することができる。
【0020】
また、本発明では、変速が実行されている最中に圧縮比が変更されるため、上述の第1の車両の制御装置の場合と同様に、変速に関する一連の動作を完了するために要する時間を短く抑えることができる。その結果、ドライバの要求操作に対する車両の挙動の応答性の向上と、変速時に生じるショックの軽減とを両立することができる。
【0021】
本発明に係る第1及び第2の車両の制御装置の一の態様では、前記実エンジン動作点の移行前後における前記エンジンの回転数の変化量が所定の閾値より大きい場合に、前記目標動作点における圧縮比を補正する補正手段を更に備え、前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を前記補正された圧縮比に変更する。
【0022】
この態様によれば、エンジン動作点が移行する際にエンジン回転数の変化量が大きいためにドライバビリティの改善が困難と見込まれる場合に、変速を実行している最中に圧縮比を変更することによってドライバビリティの向上が期待できるように、圧縮比に対して補正を行う。エンジン動作点の移行前後におけるエンジン回転数の変化量が大きくなると、変速時に駆動軸に印加されるイナーシャトルクが大きくなるために、変速を実行している最中に圧縮比を変更することによってドライバビリティを向上させようとしても、十分な効果を得ることが困難になる場合がある。所定の閾値は、このように圧縮比を、変速を実行している最中に変更することによってドライバビリティを向上させようとしても、十分な効果を得ることが困難になるエンジン回転数の変化量として規定される。実際には、閾値αは、このような条件下から理論的、実験的手法或いはシミュレーションなどによって算出するとよい。
【0023】
このようにエンジン動作点の移行前後におけるエンジン回転数の変化量が大きい場合、補正手段は目標動作点における圧縮比を補正する。ここで、この補正は、エンジンの出力トルクが、変速時に駆動軸に印加されるイナーシャトルクを軽減できるような値に調整されるように、目標エンジン動作点における圧縮比を補正する。このように圧縮比に補正を施すことにより、エンジン回転数の変化量が大きく、駆動軸に印加されるイナーシャトルクが大きくなる場合であっても、変速が実行されている最中に圧縮比を変更することによって、変速に関する一連の動作を完了するために要する時間を短く抑えると共に、ドライバからの要求操作に対する車両の応答性を向上させることができる。
【0024】
この場合、前記補正手段は、前記実エンジン動作点の移行が完了した後に、前記圧縮比を前記補正される前の圧縮比に設定し、前記圧縮比変更手段は、前記圧縮比が前記補正される前の圧縮比になるように前記圧縮比を変更するとよい。
【0025】
上述したように、変速時のエンジン回転数の変化量が大きい場合であっても、目標エンジン動作点における圧縮比を補正することによってドライバビリティを改善できる。この場合、変速に関する一連の動作が完了する時点において、圧縮比が補正されている分だけ本来の圧縮比からずれているため、変速の完了後に、圧縮比を本来の目標圧縮比に戻すように制御するとよい。
【0026】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施形態に係る車両の構成を概念的に表わしてなる概略構成図である。
【図2】第1実施形態に係る車両の有するエンジンの全体構成を概略的に示す模式図である。
【図3】第1実施形態に係る車両の走行状態の変化に応じたエンジン動作点の移行の様子を概念的に示すグラフ図である。
【図4】第1実施形態に係る車両において、図3において(i)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合のエンジン回転数、圧縮比及び出力軸トルクの時間変化を示すタイムチャートである。
【図5】第1実施形態に係る車両の動作を実現するための制御処理のフローチャートである。
【図6】第2実施形態に係る車両の動作を実現するための制御処理のフローチャートである。
【図7】第2実施形態に係る車両における目標圧縮比の第1補正値の一例を示すグラフ図である。
【図8】第2実施形態に係る車両において、図3において(i)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合のエンジン回転数、圧縮比及び出力軸トルクの時間変化を示すタイムチャートである。
【図9】第3実施形態に係る車両の動作を実現するための制御処理のフローチャートである。
【図10】第3実施形態に係る車両の第2閾値γの一例を示すグラフ図である。
【図11】第3実施形態に係る車両において、図3において(ii)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合のエンジン回転数、圧縮比、第2補正値及び出力軸トルクの時間変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明に係る車両の制御装置の好適な実施形態について説明する。
【0029】
<第1実施形態>
まず図1から図5を参照して、本発明に係る第1実施形態について説明する。
【0030】
<実施形態の構成>
図1を参照して、本実施形態に係る車両100の概略構成について説明する。図1は、本実施形態に係る車両100の構成を概念的に表わしてなる概略構成図である。
【0031】
車両100は、エンジン10と、無段変速機110と、ECU(Electronic Controlled Unit)60と、アクセル開度センサ61とを備えている。尚、エンジン10は、本発明に係る「エンジン」の一例であり、無段変速機110は本発明に係る「変速手段」の一例であり、ECU60は本発明に係る「制御手段」及び「圧縮比変更手段」の一例である。
【0032】
エンジン10は、後に詳述するが、混合気の圧縮の程度を示す圧縮比が可変である可変圧縮比エンジンである。エンジン10は、複数のシリンダ(気筒)34を有する。本実施形態では、エンジン10は、直列4気筒のエンジンを例示してある。エンジン10は、各シリンダ34の燃焼室内に吸気を供給するための吸気通路50と、各シリンダ34の燃焼室内より排気を排出するための排気通路58とを有する。吸気通路50には、各シリンダ34の燃焼室内に供給される吸気量を調整するためのスロットルバルブ52と、吸気量を検出するためのエアフローセンサ57が設けられている。スロットルバルブ52の開度は、電動アクチュエータ53により調整することができる。エンジン10は、ECU(Electronic Controlled Unit)60から供給される制御信号により制御される。
【0033】
エンジン10の出力トルクは、クランクシャフト43を介して無段変速機110に伝達される。無段変速機110は、プライマリプーリ110a、セカンダリプーリ110b、及び、両プーリに巻掛けられた金属等からなるベルト111から構成される。両プーリの可動シーブ110aa、110baを軸方向(両端矢印に示す方向)に動かすことによりベルト有効径が変化する。エンジン10の出力トルクは、プライマリプーリ110aからセカンダリプーリ110bに伝達される際に変速される。セカンダリプーリ110bは、駆動軸143に接続されており、セカンダリプーリ110bからの出力は駆動軸143に伝達される。駆動軸143に伝達された出力は駆動輪に伝達され、車両100の走行に供される。このように無段変速機110の変速比は、連続的に可変である。尚、無段変速機110の変速比は、本発明に係る「回転速度比」の一例である。無段変速機110は、ECU60からの制御信号により制御される。尚、無段変速機110としては、ベルト式の無段変速機に限られず、代わりに、他の種々の有段変速機及び無段変速機を用いてもよい。
【0034】
ECU60は、図示しないCPU、ROM、RAM、及びA/D変換器等を含んで構成される。ECU60は、車両内の各種センサから供給される検出信号に基づいて、車両100内の制御を行う。例えば、ECU60は、アクセルの開度を検出するアクセル開度センサ61等のセンサから受信した検出信号に基づいて、車両に必要な駆動力である必要駆動力を求め、当該必要駆動力に基づいて、エンジン10や無段変速機110の制御を実行する。
【0035】
次に、本実施形態に係る車両100のエンジン10の具体的な構成について、図2を参照して説明する。ここに図2は、本実施形態に係る車両の有するエンジンの全体構成を概略的に示す模式図である。
【0036】
エンジン10は、主に、シリンダヘッド20と、シリンダブロックユニット30と、メインムービングユニット40とから構成される。
【0037】
シリンダブロックユニット30は、シリンダヘッド20が取り付けられるアッパーブロック31と、メインムービングユニット40が収納されているロアブロック32とから構成されている。アッパーブロック31とロアブロック32との間にはアクチュエータ33が設けられている。アクチュエータ33を駆動することで、アッパーブロック31をロアブロック32に対して上下方向に移動させることが可能となっている。アクチュエータ33は、例えば、電気式、油圧式又は空圧式の駆動装置であり、バッテリ(図不示)から駆動のための電力が供給される。アクチュエータ33の動作は、ECU60からの制御信号S33により制御される。また、アッパーブロック31の内部には、円筒形のシリンダ34が形成されており、シリンダ34の外面は冷却水によって冷却される。
【0038】
メインムービング40は、シリンダ34の内部に設けられたピストン41と、ロアブロック32の内部で回転するクランクシャフト43と、ピストン41をクランクシャフト43に接続するコネクティングロッド42等を含んで構成される。これらは、所謂クランク機構を構成しており、クランクシャフト43が回転するとそれにつれてピストン41がシリンダ34内で上下方向に動き、逆に、ピストン41が上下に動けばクランクシャフト43がロアブロック32内で回転する。
【0039】
クランクシャフト43の近傍には、クランク角を感知するためのクランク角センサ44が設けられている。クランク角センサ44は、検出したクランク角に対応する検出信号S44をECU60に送信する。
【0040】
シリンダヘッド20の下面側(アッパーブロック31に接する側)とシリンダ34とピストン41とで囲まれた部分には、燃焼室が形成されている。エンジン10は、アクチュエータ33を駆動させることにより、燃焼室の容量を変更し、圧縮比を変更することができる。例えば、アクチュエータ33を用いてアッパーブロック31を上方に移動させれば、これに伴ってシリンダヘッド20も上方に移動して燃焼室の容積が増加するため、圧縮比が低く変更される。逆に、アッパーブロック31と共にシリンダヘッド20を下方に移動させれば、燃焼室の容積が減少し、圧縮比を高く変更することができる。
【0041】
可変圧縮比エンジンでは、機械的仕事への変換効率、即ち熱効率の向上と、最大出力の増加とを両立させるべく、運転条件に応じて混合気の圧縮比を変化させる。例えば、ECU60は、高トルク条件では圧縮比を低く設定することで充分な最大出力を確保させるとともに、低中トルク条件では圧縮比を高く設定することで熱効率を向上させることができる。
【0042】
圧縮比は、ロアブロック32に設けられた圧縮比センサ63を用いて検出される。圧縮比センサ63としては、例えばストロークセンサが用いられ、ロアブロック32に対するアッパーブロック31の相対位置を検出することによって圧縮比を検出することが可能となっている。圧縮比センサ63は、検出した圧縮比に対応する検出信号S63をECU60に送信する。
【0043】
シリンダヘッド20には、燃焼室内に吸気を取り入れるための吸気ポート23と、燃焼室内から排気を排出するための排気ポート24とが設けられている。吸気ポート23には吸気通路50が接続されており、排気ポート24には排気通路58が接続されている。ここで、吸気ポート23が燃焼室に開口する部分には吸気バルブ21が、また、排気ポート24が燃焼室に開口する部分には排気バルブ22が設けられている。吸気バルブ21及び排気バルブ22は、夫々、電動アクチュエータ73及び74によって駆動される。ピストン41の動きに合わせて適切なタイミングで吸気バルブ21及び排気バルブ22を開閉することにより、燃焼室内に吸気を吸入したり、或いは燃焼室内から排気を排出することができる。吸気バルブ21及び排気バルブ22を駆動する電動アクチュエータ73及び74は、ECU60からの制御信号S73及びS74により制御される。
【0044】
吸気通路50に設けられたエアフローセンサ57は、検出した吸気量に対応する検出信号S57をECU60に送信する。スロットルバルブ52の開度を調整する電動アクチュエータ53は、ECU60からの制御信号S53によって制御される。
【0045】
シリンダヘッド20には、燃焼室内に燃料を噴射する燃料噴射弁26、及び、燃焼室内に形成された混合気に点火するための点火プラグ27が設けられている。燃料噴射弁26及び点火プラグ27は、ECU60からの制御信号S26及びS27により制御される。燃料噴射弁26が燃焼室内に燃料を噴射することにより、吸気通路50より吸気ポート23を介して吸入された吸気と燃料との混合気が燃焼室内に形成され、点火プラグ27が点火することにより、混合気は燃焼される。このときの燃焼により発生するピストン41を押す力がエンジン10の動力となる。その後、燃焼室内の排気は排気ポート24を介して排気通路58へ排出される。尚、燃料噴射弁としては、図2に示すような直噴式の燃料噴射弁26を設けるのには限られず、この代わりに、又は、加えて、吸気通路50に燃料噴射弁を設けてもよい。
【0046】
<実施形態の動作>
次に、図3を参照して、本実施形態に係る車両の動作について説明する。図3は、本実施形態に係る車両100の走行状態の変化に応じたエンジン動作点の移行の様子を概念的に示すグラフ図である。
【0047】
図3において、横軸はエンジン回転数Neを、縦軸はエンジントルクTeを示しており、図中に示す点線LPrl、LPrm、LPraは等圧縮比線を示している。図3では特に代表的な等圧縮比線としてLPrl、LPrm、LPraを示しており、LPrl、LPrm、LPraの順で圧縮比Crが大きくなる。
【0048】
図3では、エンジン動作点としてAp、Bp、Cpの3点を例示している。Ap、Bp、Cpは、夫々エンジントルクTe、エンジン回転数Ne及び圧縮比Crが互いに異なる3点のエンジン動作点を示している。図3における点線矢印は夫々、ドライバの操作や車両100の走行状態(例えば、車両100が走行しようとする路面状況など)の変化に伴ってエンジン動作点が移行するルートを示している。
【0049】
まず、エンジン動作点がApからBpに移行する場合(即ち、図3において(i)で示す場合)における車両100の動作について説明する。この場合、エンジン動作点が移行する前後でエンジントルクTeは増加する一方で、エンジン回転数Neは減少する。図3において(i)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合、無段変速機110はシフトアップを行う。
【0050】
ここで、図4を参照して、図3において(i)で示すルートに沿ってエンジン動作点が移行する場合の車両の挙動について説明する。図4は、図3において(i)で示すルートに沿ってエンジン動作点が移行する場合のエンジン回転数Ne、圧縮比Cr及び出力軸トルクToの時間変化を示すタイムチャートである。尚、出力軸トルクToは、駆動軸143に印加されるトルク値である。
【0051】
図4(a)は、エンジン回転数Neの時間変化を示すタイムチャートである。エンジン回転数Neは当初Ne1に保たれており、エンジン動作点の移行に伴い、無段変速機110によって変速が開始される時刻t1から徐々に減少する。その後、エンジン回転数Neは、時刻t4においてNe2に到達し、一定に保たれる。本実施形態に係る車両100は変速機として変速比が連続的に可変である無段変速機110を備えるため、エンジン回転数Neもまた連続的に変化している。
【0052】
図4(b)は、圧縮比Crの時間変化を示すタイムチャートである。圧縮比Crは当初Cr1に保たれており、エンジン動作点の移行に伴い、時刻t2から徐々に減少する。その後、時刻t3においてCr2に到達し、一定に保たれる。ここで、圧縮比Crが変化している期間(即ちt2からt3の期間)は、エンジン回転数Neが変化している期間(即ち、t1からt4の期間)に含まれる。言い換えると、圧縮比Crは、無段変速機110によって変速が行われている最中に変化するように、ECU60によって制御される。
【0053】
図4(c)は、本実施形態に係る車両100の出力軸トルクToの時間変化を実線で、比較例に係る車両の出力軸トルクToの時間変化を点線で示すタイムチャートである。
【0054】
ここで、本実施形態に係る車両100の出力軸トルクToの時間変化について、比較例を参照しつつ説明する。比較例は、変速が完了した後に圧縮比Crの変更が行われる点において、本実施形態に係る車両100と異なる(尚、本実施形態では、図4(b)に示すように、変速が実行されている最中に圧縮比Crの変更が行われる)。尚、当該比較例は、変速が完了した後に圧縮比Crの変更が行われる点を除いて、本実施形態に係る車両と同様の構造及び制御が行われるため、詳細な説明は省略することとする。
【0055】
図4(a)に示すように、シフトアップによりエンジン回転数NeがNe1からNe2に減少すると、当該エンジン回転数Neに応じたイナーシャトルクが駆動軸143に作用し、駆動軸143に印加されるトルク値である出力軸トルクToが変動する。比較例ではこのような出力軸トルクToの変動を軽減するための対策が施されていないため、出力軸トルクToの変動はドライバにショックとして伝達され、ドライバビリティの悪化を招いてしまう(図4(c)の一点鎖線を参照)。
【0056】
一方、本実施形態に係る車両100では、変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更することにより、このような出力軸トルクToの変動を軽減することができる。図3に示す(i)のルートに沿ってエンジン動作点を移行させる場合、移行の前後において圧縮比Crが減少するようにエンジン10が制御される。このように圧縮比Crを減少させると、変速時に生じるイナーシャトルクを打ち消す方向にエンジン10の出力トルクが変化するので、イナーシャトルクに起因するショックを効果的に軽減することができる(図4(c)の実線を参照)。
【0057】
また、比較例では、変速が実行されている最中に圧縮比Crが変更されないため、変速を実行する前後に圧縮比Crを変更するための期間を別途設ける必要がある。そのため、変速に関する一連の動作を完了するために要する時間は、少なくとも無段変速機110によって変速比を変更するために要する時間と、その前後において圧縮比Crを変更するために要する時間とを加えたものとなる。一方、本実施形態に係る車両100では、変速が実行されている最中に圧縮比Crも同時に変化するため、変速に関する一連の動作を完了するために要する時間を、比較例に比べて短く抑えることができる。そのため、ドライバからの要求操作に対して、車両100の応答性を向上させることができる。
【0058】
次に、エンジン動作点がCpからApに移行する場合(即ち、図3において(ii)で示す場合)における車両100の動作について説明する。この場合、エンジン動作点の移行の前後でエンジントルクTeとエンジン回転数Neは共には減少する。図3において(ii)で示すルートに沿ってエンジン動作点が移行する場合、無段変速機110はシフトアップを行う。
【0059】
図3(ii)で示すエンジン動作点の移行ルートでは、図3(i)の場合と同様に、無段変速機110においてシフトアップが行われるが、圧縮比Crは減少ではなく、逆に増加している点において異にしている。そのため、仮に変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更させると、図3(i)の場合とは逆に、エンジンの出力トルクの変化がイナーシャトルクを増幅する方向に作用してしまい、ドライバビリティを一層悪化させてしまうおそれがある。そのため、図3(ii)で示すエンジン動作点の移行ルートでは、図3(i)で示すエンジン動作点の移行ルートとは異なり、変速が実行されている最中に圧縮比Crの変更を敢えて行わないことによって、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0060】
続いて、エンジン動作点がBpからApに移行する場合(即ち、図3において(iii)で示す場合)における車両100の動作について説明する。この場合、エンジン動作点の移行の前後でエンジントルクTeは減少すると共に、エンジン回転数Neは増加する。そのため、図3において(iii)で示すルートに沿ってエンジン動作点が移行する場合、無段変速機110はシフトダウンを行う。
【0061】
図3において(iii)で示すルートに沿ってエンジン動作点が移行する場合、上述の図3(ii)と同様に圧縮比は増加する方向に変化する一方で、無断変速機は図3(ii)とは逆にシフトダウンを行う。従って、変速時に生ずるイナーシャトルクは、上述の図3(ii)の場合に比べて逆方向になる。そのため、図3(ii)では変速中に圧縮比を敢えて変更しないことによって出力軸トルクToの変動を軽減していたが、図3(iii)では逆に(即ち、図3(i)と同様に)、変速を実行されている最中に圧縮比を変更することによって出力軸トルクToの変動を軽減することができる。
【0062】
このように、図3(iii)の場合、図3(i)の場合と同様に、変速を実行している最中に圧縮比Crを同時に変更することによって、変速に関する一連の動作を完了するために要する時間を短く抑えることができ、ドライバからの要求操作に対する車両100の応答性を向上させることができる。
【0063】
続いて、エンジン動作点がApからCpに移行する場合(即ち、図3において(iv)で示す場合)における車両100の動作について説明する。この場合、エンジン動作点の移行の前後でエンジントルクTeとエンジン回転数Neとは共に増加する。図3において(iv)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合、無段変速機110はシフトダウンを行う。
【0064】
図3(iv)で示すエンジン動作点の移行ルートでは、図3(iii)の場合と同様に、無段変速機110においてシフトダウンが行われるが、圧縮比Crは増加ではなく、逆に減少している点において異なっている。そのため、仮に変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更させると、図3(iii)の場合とは逆に、エンジンの出力トルクの変化がイナーシャトルクを増幅する方向に作用してしまい、ドライバビリティを一層悪化させてしまうおそれがある。そのため、図3(iv)で示すエンジン動作点の移行ルートでは、図3(iii)で示すエンジン動作点の移行ルートとは異なり、変速が実行されている最中に圧縮比Crの変更を敢えて行わないことによって、ドライバビリティの悪化を抑制することができる。
【0065】
尚、図3(ii)及び(iv)の場合、圧縮比Crの変更は、変速が実行される前後に行う必要があるため、変速に関わる一連の動作に要する時間が長くなり、エンジン10のレスポンスが遅くなることも考えられる。しかしながら、出力軸トルクToの変動を軽減することによってドライバビリティを向上させるというメリットが大きいため、実質的に問題とはならない。但し、仮に変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更したとしても、出力軸トルクToの変動に伴うドライバビリティの悪化が微小である場合など、ドライバの要求操作に対する車両100の応答性の向上によるメリットが大きい場合には、図3(i)で示すエンジン動作点の移行ルートと同様に変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更してもよいことは言うまでもない。
【0066】
次に、図5を参照して、上述した本実施形態に係る車両の動作を実現するためにECU60が実行する処理について具体的に説明する。図5は、本実施形態に係る車両の動作を実現するための制御処理のフローチャートである。
【0067】
まず、ステップS101において、ECU60は、クランク角センサ44からの検出信号に基づいてエンジン回転数Neを求めるとともに、アクセル開度センサ61からの検出信号に基づいて、アクセル開度Accを求める。
【0068】
続くステップS102において、ECU60は、ステップS101で求められたエンジン回転数Ne及びアクセル開度Accに基づいて、アクセルが踏み込まれた後(即ち、エンジン動作点が移行した後)に必要とされるエンジントルク(以下、適宜「目標エンジントルクTet」という)、エンジン回転数(以下、適宜「目標エンジン回転数Net」という)及び圧縮比(以下、適宜「目標圧縮比Crt」という)を算出する。このような算出は、図3に示すようなエンジントルクTe、目標エンジン回転数Ne及び目標圧縮比Crを変数とするマップを参照することにより行うとよい。尚、目標エンジントルクTet、目標エンジン回転数Net及び目標圧縮比Crtは、アクセル開度Acc及びエンジン回転数に基づいて求められるとする代わりに、アクセル開度のみに基づいて算出されてもよい。
【0069】
ステップS103において、ECU60は、エンジン動作点が移行する際に実行される変速が変速比を増加させるものなのか否かについて判定する。言い換えれば、当該変速が変速比を小さく変更するシフトアップなのか、それとも変速比を大きく変更するシフトダウンなのかを判定する。
【0070】
当該変速が変速比を増加させるものである場合(ステップS103:Yes)、即ちシフトダウンである場合、ECU60は、エンジン動作点が移行する前後でエンジン10の圧縮比が増加するか否かについて判定する(ステップS104)。具体的には、ECU60は、現時点における圧縮比Cr(以下、適宜「実圧縮比Crr」という)と、ステップS102において求められた目標圧縮比Crtとの大小を比較する。例えば、図3に示すようなエンジン回転数、エンジントルク及び圧縮比を変数とするマップを予めメモリ等の記録手段に記録しておき、ECU60が当該マップを参照することにより、圧縮比の増減を判定するとよい。
【0071】
変速が実行される前後で圧縮比が減少する場合(ステップS104:No)、ECU60はステップS105において、エンジン動作点が、ステップS102において求められた目標エンジントルクTet、目標エンジン回転数Net及び目標圧縮比Crtになるように、エンジン10及び無段変速機110を制御する。このとき、圧縮比の変更は、無段変速機110の変速が完了した後に行われる(ステップS105)。即ち、エンジンの出力トルクの変化がイナーシャトルクを増幅する方向に作用してしまい、ドライバビリティを一層悪化させてしまうことを防止するために、変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更しない、図3(iv)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0072】
当該変速が実行される前後で圧縮比が増加する場合(ステップS104:Yes)、ECU60はステップS106において、エンジン動作点が、ステップS102において求められた目標エンジントルクTet、目標エンジン回転数Net及び目標圧縮比Crtになるように、エンジン10及び無段変速機110を制御する。このとき、圧縮比の変更は、無段変速機110の変速が実行されている最中に行われる(ステップS106)。即ち、変速が実行されている最中に圧縮比を増加させることによって出力軸トルクToの変動を軽減することができる、図3(iii)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0073】
一方、当該変速が変速比を減少させるものである場合(ステップS103:No)、即ちシフトアップである場合、ECU60は、エンジン動作点が移行する前後でエンジン10の圧縮比が減少するか否かについて判定する(ステップS107)。具体的には、ECU60は、実圧縮比Crrと、ステップS102において求められた目標圧縮比Crtとの大小を比較する。例えば、図3に示すようなエンジン回転数、エンジントルク及び圧縮比を変数とするマップを予めメモリ等の記録手段に記録しておき、ECU60が当該マップを参照することにより、圧縮比の増減を判定するとよい。
【0074】
当該変速が実行される前後で圧縮比が増加する場合(ステップS107:No)、ECU60は上述のステップS105を実行することにより、エンジン動作点の移行を行う。このとき、圧縮比の変更は、無段変速機110の変速が完了した後に行われる(ステップS105)。即ち、エンジンの出力トルクの変化がイナーシャトルクを増幅する方向に作用してしまい、ドライバビリティを一層悪化させてしまうことを防止するために、変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更しない、図3(ii)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0075】
当該変速が実行される前後で圧縮比が減少する場合(ステップS107:Yes)、ECU60は上述のステップS106を実行することにより、エンジン動作点の移行を行う。このとき、圧縮比の変更は、無段変速機110の変速が実行されている最中に行われる(ステップS106)。即ち、変速が実行されている最中に圧縮比を増加させることによって出力軸トルクToの変動を軽減することができる、図3(i)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0076】
以上説明したように第1実施形態に係る車両では、ドライバの要求操作に対する車両の挙動の応答性を向上させると共に、変速時に生じるショックを軽減することができる。
【0077】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る車両の動作について説明する。図6は、第2実施形態に係る車両100の動作を実現するための制御処理のフローチャートである。尚、図6において、上述の第1実施形態と共通する処理については共通の符号を付すものとする。
【0078】
まず、ステップS101において、ECU60は、クランク角センサ44からの検出信号に基づいてエンジン回転数Neを求めるとともに、アクセル開度センサ61からの検出信号に基づいて、アクセル開度Accを求める。
【0079】
続くステップS102において、ECU60は、ステップS101で求められたエンジン回転数Ne及びアクセル開度Accに基づいて、アクセルが踏み込まれた後(即ち、エンジン動作点が移行した後)に必要とされるエンジントルク(以下、適宜「目標エンジントルクTet」という)、エンジン回転数(以下、適宜「目標エンジン回転数Net」という)及び圧縮比(以下、適宜「目標圧縮比Crt」という)を算出する。このような算出は、図3に示すようなエンジントルクTe、目標エンジン回転数Ne及び目標圧縮比Crを変数とするマップを参照することにより行うとよい。尚、目標エンジントルクTet、目標エンジン回転数Net及び目標圧縮比Crtは、アクセル開度Acc及びエンジン回転数に基づいて求められるとする代わりに、アクセル開度のみに基づいて算出されてもよい。尚、このように算出された目標値に基づいて駆動軸143に印加される駆動力は、本発明に係る「必要駆動力」の一例である。
【0080】
ステップS201において、ECU60は、エンジン動作点が移行する前後におけるエンジン回転数Neの変化量が、第1閾値αより大きいか否かを判定する。具体的には、エンジン回転数Neの変化量は、現時点におけるエンジン回転数Ne(以下、適宜「実エンジン回転数Ner」という)とステップS102において求められた目標エンジン回転数Netとの差を算出することで求めることができる。
【0081】
ここで、エンジン動作点が移行する前後におけるエンジン回転数Neの変化量が大きくなると、変速に伴って生ずるイナーシャトルクが増大し、変速を実行している最中に圧縮比Crを変更することによってドライバビリティを向上させようとしても、十分な効果を得ることが困難になる場合がある。第1閾値αは、このように変速を実行している最中に圧縮比Crを変更した場合であっても、ドライバビリティを十分向上させることが困難になるエンジン回転数Neの変化量として規定され、理論的、実験的手法或いはシミュレーションなどによって求めるとよい。尚、第1閾値αは、本発明に係る「所定の閾値」の一例である。
【0082】
エンジン回転数Neの変化量が第1閾値αより大きい場合(ステップS201:Yes)、ECU60は、目標圧縮比Crtの第1補正値ΔCrt1を算出する(ステップS202)。ここで第1補正値ΔCrt1は、エンジン回転数Neの変化量が第1閾値αより大きい場合に、変速を実行している最中に圧縮比Crが変更されることによってドライバビリティの向上が期待できる圧縮比Crになるように、実圧縮比Crrと当該期待される圧縮比との差として規定される。
【0083】
ここで、第1補正値ΔCrt1の算出方法について、図7を参照して説明する。図7は、目標圧縮比Crtの第1補正値ΔCrt1の一例を示すグラフ図である。
【0084】
図7に示すように、第1補正値ΔCrt1は、エンジン回転数Neの変化量が第1閾値αより大きい場合に値を有するように規定される。一方、エンジン回転数Neの変化量が第1閾値α以下である場合には、第1補正値ΔCrt1によって目標エンジン回転数Netを補正するまでもなく十分なドライバビリティを得ることができるので、第1補正値ΔCrt1はゼロに設定される。エンジン回転数Neの変化量が第1閾値αより大きい場合、当該変化量が大きくなるに従い、ドライバビリティの悪化が顕著になるため、それに応じて第1補正量ΔCrt1もまた大きくなるように設定される。実際には、このような条件下から理論的、実験的手法或いはシミュレーションなどによって第1補正量ΔCrt1を規定するとよい。このように第1補正値ΔCrt1を算出した後、ECU60は、本制御処理をステップS103に処理を進める。
【0085】
ステップS103において、ECU60は、エンジン動作点が移行する際に実行される変速が変速比を増加させるものなのか否かについて判定する。言い換えれば、当該変速が変速比を小さく変更するシフトアップなのか、それとも変速比を大きく変更するシフトダウンなのかを判定する。
【0086】
当該変速が変速比を増加させるものである場合(ステップS103:Yes)、即ちシフトダウンである場合、ECU60は、エンジン動作点が移行する前後でエンジン10の圧縮比が増加するか否かについて判定する(ステップS104)。具体的には、ECU60は、現時点における圧縮比Cr(以下、適宜「実圧縮比Crr」という)と、ステップS102において求められた目標圧縮比Crtとの大小を比較する。例えば、図3に示すようなエンジン回転数、エンジントルク及び圧縮比を変数とするマップを予めメモリ等の記録手段に記録しておき、ECU60が当該マップを参照することにより、圧縮比の増減を判定するとよい。
【0087】
当該変速が実行される前後で圧縮比が減少する場合(ステップS104:No)、ECU60はステップS105において、エンジン動作点が、ステップS102において求められた目標エンジントルクTet、目標エンジン回転数Net及び目標圧縮比Crtになるように、エンジン10及び無段変速機110を制御する。このとき、圧縮比の変更は、無段変速機110の変速が完了した後に行われる(ステップS105)。即ち、エンジンの出力トルクの変化がイナーシャトルクを増幅する方向に作用してしまい、ドライバビリティを一層悪化させてしまうことを防止するために、変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更しない、図3(iv)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0088】
変速が実行される前後で圧縮比が増加する場合(ステップS104:Yes)、ECU60はステップS203において、目標圧縮比Crtを次式に基づいて再度算出する(ステップS203)。
【0089】
Crt=Crt+ΔCrt1 (1)
つまり、ECU60は、ステップS201において算出した目標圧縮比Crtに、ステップS202において算出した第1補正値ΔCrt1を加えた値を目標圧縮比Crtとして設定し直す。
【0090】
その後、ECU60は上述のステップS106を実行することにより、エンジン動作点の移行を行う。このとき、圧縮比の変更は、無段変速機110の変速が実行されている最中に行われる。
【0091】
その後、ECU60は、目標圧縮比Crtの第1補正値ΔCrt1を、次式に基づいて変更する(ステップS204)。
【0092】
ΔCrt1=ΔCrt1―β (2)
ここで定数βは第1補正値ΔCrt1より小さい任意の正数であり、第1補正値ΔCrt1を(2)式に基づいてゼロに近づけるためのインクリメントであれば足り、変数又は定数のいずれであってもよい。
【0093】
その後、ECU60は、ステップS204において変更された第1補正値ΔCrt1がゼロであるか否かを判定する(ステップS205)。ここで、ステップS204において変更された第1補正値ΔCrt1がゼロでない場合には(ステップS205:No)、ECU60は、処理をステップS203に戻し、上述の各ステップを繰り返し実行する。即ち、次第に第1補正値ΔCrt1を小さくしていき、ステップS203において補正された目標圧縮比Crtが、ステップS102において算出された本来の目標圧縮比Crtに戻るまで、ECU60はループ処理を行う。そして、ステップS204において変更された第1補正値ΔCrt1がゼロになった時点で(ステップS205:Yes)、ECU60は、当該ループを終了し、本制御処理をリターンする。このように変速に関する一連の動作が完了した後に、補正された圧縮比Crを本来の値に戻すことによって、ドライバの要求操作に沿った車両の挙動を実現しつつ、ドライバビリティの向上を図ることができる。
【0094】
変速が変速比を減少させるものである場合(ステップS103:No)、即ちシフトアップである場合、ECU60は、エンジン動作点が移行する前後でエンジン10の圧縮比が減少するか否かについて判定する(ステップS107)。具体的には、ECU60は、実圧縮比Crrと、ステップS102において求められた目標圧縮比Crtとの大小を比較する。例えば、図3に示すようなエンジン回転数、エンジントルク及び圧縮比を変数とするマップを予めメモリ等の記録手段に記録しておき、ECU60が当該マップを参照することにより、圧縮比Crの増減を判定するとよい。
【0095】
当該変速が実行される前後で圧縮比Crが増加する場合(ステップS107:No)、ECU60は上述のステップS105を実行することにより、エンジン動作点の移行を行う。このとき、圧縮比Crの変更は、無段変速機110の変速が完了した後に行われる(ステップS105)。即ち、エンジンの出力トルクの変化がイナーシャトルクを増幅する方向に作用してしまい、ドライバビリティを一層悪化させてしまうことを防止するために、変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更しない、図3(ii)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0096】
変速が実行される前後で圧縮比Crが減少する場合(ステップS107:Yes)、ECU60は上述のステップS106を実行することにより、エンジン動作点の移行を行う。このとき、圧縮比Crの変更は、無段変速機110の変速が実行されている最中に行われる(ステップS106)。即ち、変速が実行されている最中に圧縮比Crを増加させることによって出力軸トルクToの変動を軽減することができる、図3(i)に示すルートに沿ってエンジン動作点を移行した場合に対応する。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0097】
ここで、図8を参照して、図3において(i)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合の車両の挙動について説明する。図8は、第2実施形態に係る車両において、図3において(i)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合のエンジン回転数Ne、圧縮比Cr及び出力軸トルクToの時間変化を示すタイムチャートである。
【0098】
図8(a)は、エンジン回転数Neの時間変化を示すタイムチャートである。エンジン回転数Neは当初Ne1に保たれており、エンジン動作点の移行に伴い、無段変速機110によって変速が開始される時刻t1から徐々に減少する。その後、エンジン回転数Neは、時刻t4においてNe2に到達し、一定に保たれる。本実施形態に係る車両100は変速機として変速比が連続的に可変である無段変速機110を備えるため、エンジン回転数Neもまた連続的に変化している。
【0099】
図8(b)は、圧縮比Crの時間変化を示すタイムチャートである。ここで、図8(b)において、実線は上述のようにステップS204において、目標圧縮比Crtを第1補正値ΔCrt1によって補正した場合の圧縮比Crの時間変化を示し、点線はステップS204における目標圧縮比Crtに係る補正を行わない比較例における圧縮比Crの時間変化を示している。尚、当該比較例は、ステップS204における目標圧縮比Crtに係る補正を行わない点を除いて、本実施形態に係る車両と同様の構造及び制御が行われるため、詳細な説明は省略することとする。
【0100】
図8(c)は、本実施形態に係る車両100の出力軸トルクToの時間変化を実線で、比較例に係る車両の出力軸トルクToの時間変化を点線で示すタイムチャートである。図8(c)に示すように、ステップS204における目標圧縮比Crtに係る補正を行うことによって、変速が実行されている間における出力軸トルクToの変動が軽減され、ドライバビリティをより効果的に向上することができる。
【0101】
以上説明したように第2実施形態に係る車両では、変速時におけるエンジン回転数の変化量が大きい場合であっても、目標圧縮比を適宜補正することによって、ドライバビリティを効果的に向上させることができる。
【0102】
<第3実施形態>
続いて、第3実施形態に係る車両の動作について説明する。図9は、第3実施形態に係る車両100の動作を実現するための制御処理のフローチャートである。第3実施形態は、第2実施形態においてステップS106における処理内容を変更している点において、第2実施形態と相違点を有している。その他、図9において上述の第1及び第2実施形態と共通する処理については共通の符号を付すものとし、その詳細な説明については省略する。
【0103】
本実施形態では、変速が実行される前後で圧縮比が減少する場合(ステップS104:No)、ステップS301において、ECU60は、ステップS201において求められたエンジン回転数Neの変化量が第2閾値γより大きいか否かを判定する。上述の第1及び第2実施形態では、変速が実行される前後で圧縮比が減少する場合は(ステップS104:No)、変速の実行が完了した後に圧縮比を変更することによってドライバビリティの更なる悪化を防止していたが、本実施形態では、このような場合においても目標圧縮比Crtに適宜補正を行うことによって、変速が実行されている最中に圧縮比Crを変更し、ドライバビリティを向上させることができる。但し、変速に伴うエンジン回転数Neの変化量が大きくなると、変速を実行している最中に圧縮比Crを変更することによってドライバビリティを向上させようとしても、十分な効果を得ることが困難になる場合がある。第2閾値γは、このように、変速を実行している最中に圧縮比Crを変更することによってドライバビリティを向上させようとしても、十分な効果を得ることが困難になるエンジン回転数Neの変化量として規定される。実際には、このような条件下から理論的、実験的手法或いはシミュレーションなどによって第2閾値γを求めるとよい。
【0104】
ここで、第2閾値γの算出方法について、図10を参照して説明する。図10は、第2閾値γの一例を示すグラフ図である。
【0105】
第2閾値γは、処理をステップS302に進めるか否かを規定するための閾値である。エンジン回転数Neの変化量が第2閾値γより大きい場合には、圧縮比Crを、変速を実行している最中に変更することによってドライバビリティを向上させようとしても、十分な効果を得ることが困難であるとして、ステップS302の処理に進まずに、通常の処理を行うと判断する(即ち、第1及び第2実施形態と同様に、ステップS105を実行する)。
【0106】
エンジン回転数Neの変化量が第2閾値γより大きい場合(ステップS301:Yes)、ECU60はステップS105において、エンジン動作点が、ステップS102において求められた目標エンジントルクTet、目標エンジン回転数Net及び目標圧縮比Crtになるように実エンジン動作点の経路を設定し、実エンジン動作点を目標動作点まで当該経路に沿って移行させる。このとき、圧縮比Crの変更は、無段変速機110の変速が完了した後に行われることによって、ドライバビリティの更なる悪化を防止する(ステップS106)。その後、ECU60は、本制御処理をリターンする。
【0107】
一方、エンジン回転数Neの変化量が第2閾値γ以下である場合には(ステップS301:No)、圧縮比Crを補正すると共に、変速を実行している最中に変更することによってドライバビリティを向上させ得るとして、処理をステップS302に進める。ステップS302において、ECU60は、目標圧縮比Crtの第2補正値ΔCrt2を算出する(ステップS302)。ここで第2補正値ΔCrt2は、変速を実行している最中に圧縮比Crを変更することにより、変速に伴うエンジン回転数Neの変化量を軽減するように、実際の圧縮比Crと期待される圧縮比Crとの差として規定される。
【0108】
そして、ステップS303において、ECU60は目標圧縮比Crtを次式に基づいて再度算出する。
【0109】
Crt=Crt+ΔCrt2 (3)
つまり、ECU60は、ステップS201において算出した目標圧縮比Crtに、ステップS302において算出した第2補正値ΔCrt2を加えた値を目標圧縮比Crtとして設定し直す。
【0110】
その後、ECU60はステップS304において、エンジン動作点が、ステップS102において求められた目標エンジントルクTet及び目標エンジン回転数Net、並びにステップS303において設定され直した目標圧縮比Crtになるように実エンジン動作点の経路を設定し、実エンジン動作点を目標動作点まで当該経路に沿って移行させる。このとき、圧縮比Crの変更は、無段変速機110の変速が実行されている最中に行われる(ステップS304)。
【0111】
その後、ECU60は、目標圧縮比Crtの補正値ΔCrtを、次式に基づいて変更する(ステップS305)。
【0112】
ΔCrt2=ΔCrt2―δ (4)
ここで定数δは第2補正値ΔCrt2より小さい任意の正数であり、第2補正値ΔCrt2を(4)式に基づいてゼロに近づけるためのインクリメントであれば足り、変数又は定数のいずれであってもよい。
【0113】
その後、ECU60は、ステップS305において変更された第2補正値ΔCrt2がゼロであるか否かを判定する(ステップS306)。ここで、ステップS305において変更された第2補正値ΔCrt2がゼロでない場合には(ステップS306:No)、ECU60は、処理をステップS303に戻し、上述の各ステップを繰り返し実行する。即ち、次第に第2補正値ΔCrt2を小さく変更していき、ステップS306において補正された目標圧縮比Crtが、ステップS102において算出された本来の目標圧縮比Crtに戻るまで、ECU60はループ処理を行う。そして、ステップS305において変更された第2補正値ΔCrt2がゼロになった時点で(ステップS306:Yes)、ECU60は、当該ループを終了し、本制御処理をリターンする。
【0114】
ここで、図11を参照して、図3において(ii)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合の車両の挙動について説明する。図11は、第3実施形態に係る車両において、図3において(ii)で示すルートでエンジン動作点が移行する場合のエンジン回転数Ne、圧縮比Cr、第2補正値ΔCrt2及び出力軸トルクToの時間変化を示すタイムチャートである。
【0115】
図11(a)は、エンジン回転数Neの時間変化を示すタイムチャートである。エンジン回転数Neは当初Ne1に保たれており、エンジン動作点の移行に伴い、無段変速機110によって変速が開始される時刻t1から徐々に減少する。その後、エンジン回転数Neは、時刻t4においてNe2に到達し、一定に保たれる。本実施形態に係る車両100は変速機として変速比が連続的に可変である無段変速機110を備えるため、エンジン回転数Neもまた連続的に変化している。
【0116】
図4(b)は、圧縮比Crの時間変化を示すタイムチャートである。圧縮比Crは当初Cr2に保たれており、エンジン動作点の移行に伴い、時刻t2から徐々に増加する。その後、時刻t3においてCr1に到達し、一定に保たれる。ここで、圧縮比Crが変化している期間(即ちt2からt3の期間)は、エンジン回転数Neが変化している期間(即ち、t1からt4の期間)に含まれる。言い換えると、圧縮比Crは、無段変速機110によって変速が行われている最中に変化するように、ECU60によって制御される。
【0117】
図11(c)は、第2補正値ΔCrt2の時間変化を示す。本実施形態では、圧縮比を変化させる期間において、出力軸トルクToの変動を軽減するように第2補正値ΔCrt2が設定される。第2補正値ΔCrt2は、圧縮比Crが不変に保たれている期間(即ち、時刻t2以前及び時刻t3以降の期間)においてはゼロに設定されており、圧縮比Crが変化する期間(即ち、時刻t2からt3の期間)において有限な値を持つように設定される。
【0118】
図11(d)は、本実施形態に係る車両100の出力軸トルクToの時間変化を実線で、比較例に係る車両の出力軸トルクToの時間変化を点線で示すタイムチャートである。図8(d)に示すように、目標圧縮比Crtについて第2補正値ΔCrt2を設けることにより、出力軸トルクToの変動を軽減しつつ、変速時のドライバビリティをより効果的に向上することができる。
【0119】
以上説明したように、第3実施形態に係る車両では、第1及び2実施形態において変速が完了した後に圧縮比を変更していた場合においても、変速を行っている最中に圧縮比を補正を伴って変更することにより、変速時に生ずる駆動軸トルクの変動を軽減すると共に、ドライバの要求操作に対する車両の応答性を向上させることができる。
【0120】
本発明は、上述した実施例に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、例えば、エンジンを備えた自動車等の車両の制御装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0122】
10 エンジン、 60 ECU、 61 アクセル開度センサ、 100 車両、 110 無段変速機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合気の圧縮の程度を示す圧縮比を変更することが可能なエンジンと、該エンジンの出力軸と車軸に連結される出力部材との回転速度比が可変である変速手段とを備えた車両の制御装置であって、
前記車両の必要駆動力が変化した場合において、変化前のエンジン動作点から変化後の必要駆動力に対応するエンジン動作点たる目標エンジン動作点まで実際のエンジン動作点たる実エンジン動作点を移行させる制御手段と、
前記実エンジン動作点の移行に伴い、前記圧縮比を変更する圧縮比変更手段と
を備え、
前記目標動作点における圧縮比が、前記必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも低く設定されており、前記目標動作点における前記回転速度比が必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも小さく設定されている場合に、前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を変更することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
混合気の圧縮の程度を示す圧縮比を変更することが可能なエンジンと、該エンジンの出力軸と車軸に連結される出力部材との回転速度比が可変である変速手段とを備えた車両の制御装置であって、
前記車両の必要駆動力が変化した場合において、変化前のエンジン動作点から変化後の必要駆動力に対応するエンジン動作点たる目標エンジン動作点まで実際のエンジン動作点たる実エンジン動作点を移行させる制御手段と、
前記実エンジン動作点の移行に伴い、前記圧縮比を変更する圧縮比変更手段と
を備え、
前記目標動作点における圧縮比が、前記必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも大きく設定されており、前記目標動作点における前記回転速度比が必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも大きく設定されている場合に、前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を変更することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
前記実エンジン動作点の移行前後における前記エンジンの回転数の変化量が所定の閾値より大きい場合に、前記目標動作点における圧縮比を補正する補正手段を更に備え、
前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を前記補正された圧縮比に変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記補正手段は、前記実エンジン動作点の移行が完了した後に、前記圧縮比を前記補正される前の圧縮比に設定し、
前記圧縮比変更手段は、前記圧縮比が前記補正される前の圧縮比になるように前記圧縮比を変更することを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置。
【請求項1】
混合気の圧縮の程度を示す圧縮比を変更することが可能なエンジンと、該エンジンの出力軸と車軸に連結される出力部材との回転速度比が可変である変速手段とを備えた車両の制御装置であって、
前記車両の必要駆動力が変化した場合において、変化前のエンジン動作点から変化後の必要駆動力に対応するエンジン動作点たる目標エンジン動作点まで実際のエンジン動作点たる実エンジン動作点を移行させる制御手段と、
前記実エンジン動作点の移行に伴い、前記圧縮比を変更する圧縮比変更手段と
を備え、
前記目標動作点における圧縮比が、前記必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも低く設定されており、前記目標動作点における前記回転速度比が必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも小さく設定されている場合に、前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を変更することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
混合気の圧縮の程度を示す圧縮比を変更することが可能なエンジンと、該エンジンの出力軸と車軸に連結される出力部材との回転速度比が可変である変速手段とを備えた車両の制御装置であって、
前記車両の必要駆動力が変化した場合において、変化前のエンジン動作点から変化後の必要駆動力に対応するエンジン動作点たる目標エンジン動作点まで実際のエンジン動作点たる実エンジン動作点を移行させる制御手段と、
前記実エンジン動作点の移行に伴い、前記圧縮比を変更する圧縮比変更手段と
を備え、
前記目標動作点における圧縮比が、前記必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも大きく設定されており、前記目標動作点における前記回転速度比が必要駆動力の変化前のエンジン動作点よりも大きく設定されている場合に、前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を変更することを特徴とする車両の制御装置。
【請求項3】
前記実エンジン動作点の移行前後における前記エンジンの回転数の変化量が所定の閾値より大きい場合に、前記目標動作点における圧縮比を補正する補正手段を更に備え、
前記圧縮比変更手段は、前記制御手段が前記回転速度比を変更させている最中に、前記圧縮比を前記補正された圧縮比に変更することを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記補正手段は、前記実エンジン動作点の移行が完了した後に、前記圧縮比を前記補正される前の圧縮比に設定し、
前記圧縮比変更手段は、前記圧縮比が前記補正される前の圧縮比になるように前記圧縮比を変更することを特徴とする請求項3に記載の車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−144784(P2011−144784A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8316(P2010−8316)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]