説明

車両の動力伝達制御装置

【課題】AMTを搭載した車両において、クラッチストロークセンサが異常の場合においてクラッチストロークの制御を適切に行うこと。
【解決手段】クラッチストロークセンサ異常時において、車両の発進の際、クラッチストロークが、断側ストッパに当接する端位置まで移動し、その後、前記端位置からクラッチの接合側に向けて徐々に移動する。車両の加速度が所定値を超えたことに基づき、クラッチストロークがその時点での位置に維持される。これにより、クラッチが半接合状態に維持され、車両がスムーズに発進し得る。変速作動の際、クラッチストロークが前記端位置まで移動し、クラッチストロークを前記端位置に維持しながら変速機の変速段が変更される。内燃機関の出力軸の回転速度が変速機の入力軸の回転速度に一致したことに基づいて、クラッチストロークが前記端位置からクラッチの接合側に向けて移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の変速段を有し且つトルクコンバータを備えていない有段変速機と、内燃機関の出力軸と有段変速機の入力軸との間に介装されてクラッチトルク(クラッチが伝達し得るトルクの最大値)を調整可能なクラッチと、車両の走行状態に応じてクラッチアクチュエータ及び変速アクチュエータを用いてクラッチトルク及び有段変速機の変速段を制御する制御手段と、を備えた動力伝達制御装置が開発されてきている(例えば、特許文献1を参照)。係る動力伝達制御装置は、オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−97740号公報
【発明の概要】
【0004】
AMTを搭載した車両では、通常、クラッチのクラッチストローク(クラッチが備える摩擦板の軸方向の位置)を検出するストロークセンサが備えられる。AMTを搭載した車両では、通常、車両の走行状態、及び、ストロークセンサの検出結果に基づいてクラッチストロークが制御される。
【0005】
具体的には、例えば、車両の停止状態且つクラッチが分断状態にある場合にて車両が発進する際、「内燃機関の出力軸と有段変速機の入力軸との回転速度差(以下、単に「回転速度差」とも呼ぶ)に基づいて決定されるクラッチストロークの目標値」と「ストロークセンサの検出結果」とに基づいてクラッチストロークを調整することによって、クラッチが滑りを伴う「半接合状態」に制御される。これにより、車両が発進する。以下、この制御を「通常時発進クラッチ制御」と呼ぶ。
【0006】
また、車両の走行中且つクラッチが接合状態にある場合にて有段変速機の変速段が変更される際、クラッチストロークを調整してクラッチが接合状態から分断状態へと移行し、クラッチを分断状態に維持しながら変速アクチュエータを調整して有段変速機の変速段が変更される。そして、「回転速度差に基づいて決定されるクラッチストロークの目標値」と「ストロークセンサの検出結果」とに基づいて前記クラッチストロークを調整することによって、クラッチが「分断状態」から「接合状態」へと移行される。これにより、変速作動が達成される。以下、この制御を「通常時変速クラッチ制御」と呼ぶ。
【0007】
ところで、上述のようなストロークセンサの検出結果に基づくクラッチストロークの制御は、ストロークセンサが正常の場合においてのみ精度良く達成され得る。換言すれば、ストロークセンサが異常の場合、クラッチストローク実際値が目標値に精度良く追従し得ないので、クラッチストロークの制御が精度良く達成され得ない。ストロークセンサが異常の場合においてクラッチストロークの制御を適切に行うことが要求されているところである。
【0008】
本発明の目的は、AMTを搭載した車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、ストロークセンサが異常の場合においてクラッチストロークの制御を適切に行うことができるものを提供することにある。
【0009】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置は、上述した装置と同様、有段変速機(T/M)と、クラッチ(C/T)と、クラッチアクチュエータ(ACT1)と、変速アクチュエータ(ACT2)と、クラッチアクチュエータ及び変速アクチュエータを制御する制御手段(ECU)と、を備える。
【0010】
前記制御手段は、前記ストロークセンサが正常か異常かを判定する判定手段を備え、前記ストロークセンサが正常と判定された場合、前記車両の走行状態、及び前記ストロークセンサの検出結果に基づいて前記クラッチストロークを制御する。具体的には、例えば、前記「通常時発進クラッチ制御」、及び、前記「通常時変速クラッチ制御」が行われる。
【0011】
本発明に係る車両の動力伝達制御装置の特徴は、前記制御手段が、前記ストロークセンサが異常と判定された場合、前記ストロークセンサの検出結果を利用することなく前記車両の走行状態に基づいて前記クラッチストロークを制御するように構成されたことにある。
【0012】
具体的には、例えば、ストロークセンサが異常と判定された場合、前記「通常時発進クラッチ制御」に代えて、「異常時発進クラッチ制御」が実行され得る。「異常時発進クラッチ制御」では、先ず、前記クラッチストロークが、その移動可能範囲における前記クラッチの分断側の端位置まで移動し、その後、前記端位置から前記クラッチの接合側に向けて徐々に移動していく。そして、前記車両の加速度に相当する値が所定値を超えた時点以降にてクラッチストロークをその時点での位置に維持することによって、前記クラッチが「半接合状態」に制御される。これにより、車両が適切に発進し得る。
【0013】
また、ストロークセンサが異常と判定された場合、前記「通常時変速クラッチ制御」に代えて、「異常時変速クラッチ制御」が実行され得る。「異常時変速クラッチ制御」では、先ず、前記クラッチストロークが、その移動可能範囲における前記クラッチの分断側の端位置まで移動し、その後、前記クラッチストロークを前記端位置に維持しながら前記変速アクチュエータを調整して前記有段変速機の変速段が変更される。そして、前記内燃機関の出力軸の回転速度が前記有段変速機の入力軸の回転速度に一致したことに基づいて前記クラッチストロークを前記端位置から前記クラッチの接合側に向けて移動することによって、前記クラッチが分断状態から接合状態へと移行される。これにより、変速作動が適切になされ得る。
【0014】
以上、上記本発明に係る動力伝達制御装置によれば、ストロークセンサが異常の場合においてクラッチストロークの制御を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示したクラッチについての「ストローク−トルク特性」を規定するマップを示したグラフである。
【図3】図1に示した変速機についての「車速及びアクセル開度」と「選択されるべき変速段」との関係を規定するマップを示したグラフである。
【図4】本発明の実施形態により実行される、発進時・変速時の制御の概要を示したフローチャートである。
【図5】クラッチストロークセンサ異常時において本発明の実施形態によって実行されるクラッチストローク制御の一例を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0017】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関を備え、且つ、トルクコンバータを備えない有段変速機とクラッチとを使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)を搭載した車両である。
【0018】
この車両は、エンジンE/Gと、変速機T/Mと、クラッチC/Tと、を備えている。E/Gは、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/Gの出力軸A1は、C/Tを介してT/Mの入力軸A2と接続されている。
【0019】
変速機T/Mは、前進用の複数(例えば、6つ)の変速段、後進用の1つの変速段、及びニュートラル段を有するトルクコンバータを備えない周知の有段変速機の1つである。T/Mの出力軸A3は、図示しないプロペラシャフト、図示しないディファレンシャル等を介して車両の駆動輪と接続されている。T/Mの変速段の切り替えは、変速機アクチュエータACT2を制御することで実行される。変速段を切り替えることで、減速比(出力軸A3の回転速度Noに対する入力軸A2の回転速度Niの割合)が変更される。
【0020】
クラッチC/Tは、周知の構成の1つを備えていて、E/Gの出力軸A1とT/Mの入力軸A2との間で、伝達し得るトルクの最大値(クラッチトルクTc)を調整可能に構成されている。具体的には、クラッチC/Tは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦クラッチディスクである。クラッチディスクは、エンジンE/Gの出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールに対して互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールに対するクラッチディスクの軸方向の位置が調整可能となっている。クラッチC/T(具体的には、クラッチディスク)の軸方向位置は、クラッチアクチュエータACT1により調整される。即ち、この車両には、クラッチペダルは備えられていない。
【0021】
以下、クラッチC/T(クラッチディスク)の軸方向の位置をクラッチストロークと呼ぶ。クラッチストロークの「原位置」は、例えば、クラッチディスクの軸方向の可動範囲内における基準となる位置や、前記可動範囲におけるフライホイールから遠い側(クラッチの分断側)の端位置(断側ストッパに当接する位置(図2を参照))である。
【0022】
図2に示すように、クラッチストロークを調整することにより、クラッチトルクTcが調整される。「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。
【0023】
また、接合状態において、クラッチC/Tに滑りが発生していない状態(出力軸A1の回転速度Neと入力軸A2の回転速度Niとが一致している状態)を特に「完全接合状態」と呼び、クラッチC/Tに滑りが発生している状態(NeとNiとが一致していない状態)を特に「半接合状態」と呼ぶ。
【0024】
また、本装置は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサS1と、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサS2と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサS3と、出力軸A1の回転速度(エンジン回転速度)Neを検出する回転速度センサS4と、入力軸A2の回転速度Niを検出する回転速度センサS5と、クラッチストロークを検出するクラッチストロークセンサS6と、車輪の回転速度を検出する車輪速度センサS7と、を備えている。
【0025】
更に、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S7、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータACT1、ACT2を制御することで、C/Tのクラッチストローク(従って、クラッチトルクTc)、及び、T/Mの変速段を制御する。また、ECUは、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでE/Gの出力軸A1の駆動トルク(エンジントルクTe)を制御する。具体的には、アクセル開度が大きくなるに従ってエンジントルクTeが大きくなるように燃料噴射量(スロットル弁の開度)が制御される。
【0026】
本装置は、ECU内のROM(図示せず)において、図3に示すような変速マップを記憶している。図3は、前進用の変速段として1速〜6速を備えられた場合の一例を示す。本装置では、変速マップに基づいて変速機T/Mの変速段が決定される。より具体的には、本装置では、シフトレバーSFの位置が「自動モード」に対応する位置にある場合、車輪速度センサS7から得られる車輪速度に基づいて算出される車速と、アクセル開度センサS1から得られるアクセル開度との組み合わせが、変速マップ上におけるどの変速段の領域に対応するかによって、達成すべき1つの変速段(以下、「選択変速段」と呼ぶ。)が選択される。例えば、現在の車速がαで現在のアクセル開度がβである場合(図3に示す黒点を参照)、選択変速段として「3速」が選択される。
【0027】
このような変速マップは、車速とアクセル開度との組み合わせに対して最適な変速段を適合する実験を、前記組み合わせを種々変更しながら繰り返し行うことにより作製され得る。一方、シフトレバーSFの位置が「手動モード」に対応する位置にある場合、運転者によるシフトレバーSFの操作に基づいて選択変速段が選択される。
【0028】
変速機T/Mでは、複数の変速段のうち現在の選択変速段が実現(確立)される。変速段が選択変速段に確立している(固定された)状態で車両が走行する場合、通常、クラッチC/Tは、完全接合状態に維持される。
【0029】
一方、車両走行中において、選択変速段が変化したとき、変速機T/Mの変速作動(変速段が変更される際の作動)が行われる。変速作動の開始は、変速段の変更に関連して移動する部材(具体的には、スリーブ)の移動の開始に対応し、変速作動の終了は、その部材の移動の終了に対応する。変速作動が行われる際、変速作動の開始前にクラッチC/Tが接合状態(完全接合状態、Tc>0)から分断状態(Tc=0)へと変更され、クラッチが分断状態に維持された状態で変速作動が行われ、変速作動の終了後にクラッチが分断状態から接合状態(完全接合状態)へと戻される。以上、この車両は、AMTを搭載した車両である。
【0030】
(発進時・変速時の制御)
以下、図4を参照しながら、本装置による発進時・変速時のクラッチトルクTcの制御について説明する。図4から理解できるように、クラッチストロークセンサS6が正常か異常かに応じて、Tcの制御手法が異なる。クラッチストロークセンサS6が正常か異常か(ステップ405)は、ショート、断線等を検出する方法などの周知の手法によって判定され得る。
【0031】
具体的には、ステップ405にて、センサS6が「正常」と判定されると、ステップ410にて、Tcについて、通常制御がなされる。この通常制御では、車両の停止状態且つC/Tが分断状態にある場合にて車両が発進する際、通常時発進クラッチ制御がなされる。
【0032】
この通常時発進クラッチ制御では、先ず、E/Gの出力軸A1とT/Mの入力軸A2との回転速度差ΔNに基づいて、クラッチトルクTcの目標値が逐次決定され、このTcの目標値と図2に示した予め作製されたマップとに基づいてクラッチストロークの目標値(目標位置)が逐次決定されていく。換言すれば、回転速度差ΔNに基づいてクラッチストロークの目標値が逐次決定されていく。そして、クラッチアクチュエータACT1の制御によって、センサS6から得られるクラッチストロークの実際値(実際位置)が前記目標値に一致するように逐次調整される。これによって、クラッチC/Tが「半接合状態」に調整されて、車両がスムーズに発進し得る。具体的には、ΔNが大きいほどTcがより大きい値に調整される。ただし、ΔNがゼロのとき、Tcはゼロより大きい値に調整される。なお、ΔNは、センサS4、S5の検出結果に基づいて算出され得る。
【0033】
また、この通常制御では、車両の走行中且つC/Tが接合状態にある場合にてT/Mの変速段が変更される際、通常時変速クラッチ制御がなされる。この通常時変速クラッチ制御では、先ず、クラッチストロークを調整してC/Tが接合状態から分断状態へと移行される。なお、C/Tが分断状態にある限りにおいて、クラッチストロークは、ゼロ(原位置に対応する値)、断側ストッパ(図2を参照)に当接する位置に対応する値等、如何なる値に調整されてもよい。
【0034】
そして、C/Tが分断状態に維持されながら、変速アクチュエータACT2を調整して、T/Mの変速段が変更される(前記変速作動が実行される)。その後、回転速度差ΔNに基づいて、クラッチトルクTcの目標値が逐次決定され、このTcの目標値と図2に示した予め作製されたマップとに基づいてクラッチストロークの目標値が逐次決定されていく。換言すれば、回転速度差ΔNに基づいてクラッチストロークの目標値が逐次決定されていく。そして、クラッチアクチュエータACT1の制御によって、センサS6から得られるクラッチストロークの実際値が前記目標値に一致するように逐次調整される。これによって、クラッチC/Tが分断状態から接合状態へと移行する。具体的には、ΔNが大きいほどTcがより大きい値に調整される。ただし、ΔNがゼロのとき、Tcはゼロより大きい値に調整される。
【0035】
一方、ステップ405にて、センサS6が「異常」と判定されると、ステップ415にて、Tcについて、特殊制御がなされる。この特殊制御では、車両の停止状態且つC/Tが分断状態にある場合にて車両が発進する際、異常時発進クラッチ制御がなされる。
【0036】
この異常時発進クラッチ制御では、先ず、クラッチストロークが、断側ストッパ(図2を参照)に当接する端位置まで移動し、その端位置からC/Tの接合側に向けて徐々に移動していく。そして、「車両の加速度に相当する値」が所定値を超えた時点以降、クラッチストロークがその時点での位置に維持される。これにより、C/Tが「半接合状態」に調整され、車両がスムーズに発進し得る。ここで、「車両の加速度に相当する値」としては、例えば、車両の前後加速度そのもの、T/Mの入力軸A2の回転角加速度等が挙げられる。車両の前後加速度は、センサS7の検出結果から算出され得、入力軸A2の回転角加速度は、センサS5の検出結果から算出され得る。
【0037】
また、この特殊制御では、車両の走行中且つC/Tが接合状態にある場合にてT/Mの変速段が変更される際、異常時変速クラッチ制御がなされる。この異常時変速クラッチ制御では、先ず、クラッチストロークが、断側ストッパ(図2を参照)に当接する端位置まで移動する。その後、クラッチストロークをその端位置に維持しながら変速アクチュエータACT2を調整してT/Mの変速段が変更される(前記変速作動が実行される)。E/Gの出力軸A1の回転速度NeがT/Mの入力軸A2の回転速度Niに一致したこと(ΔN=0)に基づいて、クラッチストロークが、前記端位置からC/Tの接合側に向けて移動する。このとき、クラッチストロークが、可動範囲におけるフライホイールに近い側(クラッチの接合側)の端位置(接合側ストッパに当接する位置)まで移動してもよい。これにより、C/Tが分断状態から接合状態へと移行する。
【0038】
図5は、クラッチストロークセンサS6が異常であると判定されていることに伴い、Tcについて前記特殊制御(異常時発進クラッチ制御及び異常時変速クラッチ制御)がなされる場合の一例を示す。この例では、時刻t1以前にて、「1速」が選択された状態で車両が停止し、且つ、クラッチストロークが断側ストッパに当接する端位置まで移動・維持されている。時刻t1にて、運転者によってアクセルペダルAPが踏み込まれると(アクセル開度がゼロからゼロより大きい値に変化すると)、クラッチストロークが前記端位置からC/Tの接合側に向けて徐々に移動する。これに伴い、C/Tが分断状態から半接合状態に移行すると、車両が発進する(車速がゼロからゼロより大きい値に変化する)。この直後の時刻t2にて、「車両の加速度に相当する値」が所定値を超えたことに基づき、クラッチストロークが時刻t2の時点での位置に維持される。これにより、C/Tが「半接合状態」に維持・調整され、車両が「1速」でスムーズに発進している(異常時発進クラッチ制御)。
【0039】
時刻t2以降の時刻t3にて、エンジン回転速度Neが入力軸A2の回転速度Niに一致したこと(ΔN=0、即ち、C/Tが半接合状態から完全接合状態に移行したこと)に基づいて、クラッチストロークがC/Tの接合側に向けて移動する。このとき、クラッチストロークが、前記接合側ストッパに当接する位置まで移動してもよい。これにより、C/Tが完全接合状態に確実に維持される。
【0040】
時刻t3以降の時刻t4にて、運転者によるシフトレバーSFの操作によって要求変速段が「1速」から「2速」に変更される。これに伴い、クラッチストロークが、断側ストッパ(図2を参照)に当接する端位置まで移動する(従って、C/Tが接合状態から分断状態へと移行する)。その後、クラッチストロークをその端位置に維持しながら変速アクチュエータACT2を調整してT/Mの変速段が「1速」から「2速」へ変更される(前記変速作動が実行される)。この変速作動の間、クラッチが分断状態に維持されていることに起因して、エンジン回転速度Neが、「1速」選択時における現在の車速に対応する入力軸A2の回転速度(1速車速対応回転速度)から、「2速」選択時における現在の車速に対応する入力軸A2の回転速度(2速車速対応回転速度)に向けて減少していく。
【0041】
そして、変速作動完了後(且つ、C/Tが分断状態に維持されている状態)において、エンジン回転速度Neが入力軸A2の回転速度Ni(=2速車速対応回転速度)に一致したこと(ΔN=0)に基づいて、クラッチストロークが、前記端位置からC/Tの接合側に向けて移動する。このとき、クラッチストロークが、前記接合側ストッパに当接する位置まで移動してもよい。これにより、C/Tが分断状態から接合状態へと移行する(異常時変速クラッチ制御)。
【0042】
以上、説明したように、本装置によれば、クラッチストロークセンサS6が異常の場合においてクラッチストロークの制御を適切に行うことができる。本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、1本の入力軸を備えた変速機と、その1本の入力軸に接続された1つのクラッチと、を含む動力伝達制御装置が適用されているが、2本の入力軸を備えた変速機と、それら2本の入力軸のそれぞれと接続された2つのクラッチと、を含む動力伝達制御装置が適用されてもよい。この装置は、ダブル・クラッチ・トランスミッション(DCT)とも呼ばれる。
【符号の説明】
【0043】
T/M…変速機、E/G…エンジン、C/T…クラッチ、A1…エンジンの出力軸、A2…変速機の入力軸、A3…変速機の出力軸、ACT1…クラッチアクチュエータ、ACT2…変速機アクチュエータ、ECU…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である減速比が異なる予め定められた複数の変速段を有する有段変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記有段変速機の入力軸との間に介装された、摩擦板を備えたクラッチであって、前記摩擦板の軸方向の位置であるクラッチストロークを調整することによって、前記摩擦板が伝達し得るトルクの最大値であるクラッチトルクを調整可能なクラッチと、
前記クラッチのクラッチストロークを調整するクラッチアクチュエータと、
前記有段変速機の変速段を選択する変速アクチュエータと、
前記車両の走行状態に基づいて、前記クラッチアクチュエータ及び前記変速アクチュエータを制御する制御手段と、
を備えた車両の動力伝達制御装置であって、
前記クラッチのクラッチストロークを検出するストロークセンサを備え、
前記制御手段は、
前記ストロークセンサが正常か異常かを判定する判定手段を備え、
前記ストロークセンサが正常と判定された場合、前記車両の走行状態、及び前記ストロークセンサの検出結果に基づいて前記クラッチストロークを制御し、
前記ストロークセンサが異常と判定された場合、前記ストロークセンサの検出結果を利用することなく前記車両の走行状態に基づいて前記クラッチストロークを制御するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記ストロークセンサが正常と判定された場合、
前記車両の停止状態且つ前記クラッチが分断状態にある場合にて前記車両が発進する際、前記内燃機関の出力軸と前記有段変速機の入力軸との回転速度差に基づいて決定される前記クラッチストロークの目標値と前記ストロークセンサの検出結果とに基づいて前記クラッチストロークを調整することによって、前記クラッチを滑りを伴う半接合状態に制御する通常時発進クラッチ制御を実行するように構成され、
前記ストロークセンサが異常と判定された場合、
前記車両の停止状態且つ前記クラッチが分断状態にある場合にて前記車両が発進する際、前記クラッチストロークを、その移動可能範囲における前記クラッチの分断側の端位置まで移動し、前記端位置から前記クラッチの接合側に向けて徐々に移動していき、前記車両の加速度に相当する値が所定値を超えた時点以降にてその時点での位置に維持することによって、前記クラッチを滑りを伴う半接合状態に制御する異常時発進クラッチ制御を実行するように構成された、車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記ストロークセンサが正常と判定された場合、
前記車両の走行中且つ前記クラッチが接合状態にある場合にて前記有段変速機の変速段が変更される際、前記クラッチストロークを調整して前記クラッチを接合状態から分断状態へと移行し、前記クラッチを分断状態に維持しながら前記変速アクチュエータを調整して前記有段変速機の変速段を変更し、前記内燃機関の出力軸と前記有段変速機の入力軸との回転速度差に基づいて決定される前記クラッチストロークの目標値と前記ストロークセンサの検出結果とに基づいて前記クラッチストロークを調整することによって、前記クラッチを分断状態から接合状態へと移行する通常時変速クラッチ制御を実行するように構成され、
前記ストロークセンサが異常と判定された場合、
前記車両の走行中且つ前記クラッチが接合状態にある場合にて前記有段変速機の変速段が変更される際、前記クラッチストロークをその移動可能範囲における前記クラッチの分断側の端位置まで移動し、前記クラッチストロークを前記端位置に維持しながら前記変速アクチュエータを調整して前記有段変速機の変速段を変更し、前記内燃機関の出力軸の回転速度が前記有段変速機の入力軸の回転速度に一致したことに基づいて前記クラッチストロークを前記端位置から前記クラッチの接合側に向けて移動することによって、前記クラッチを分断状態から接合状態へと移行する異常時変速クラッチ制御を実行するように構成された、車両の動力伝達制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−61050(P2013−61050A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201390(P2011−201390)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】