説明

車両の動力伝達制御装置

【課題】AMT付ハイブリッド車両において、EV走行モードにおいて変速作動に起因する作動音によって乗員が不快感を受ける事態の発生を抑制すること。
【解決手段】この動力伝達制御装置では、クラッチトルクがゼロに維持された状態で電動機駆動トルクのみを利用して走行するEV走行モードと、クラッチトルクがゼロより大きい値に調整された状態で内燃機関駆動トルクを利用して走行するEG走行モード(又はHV走行モード)とが、走行状態に応じて選択的に実現される。EV走行モード選択時において、車速が所定速度Vthより大きいと判定された場合には「実現される変速段」が車両の走行状態(変速マップ)に応じて変更され、車速が所定速度Vth以下と判定された場合には「実現される変速段」が車両の走行状態に依存することなく現在の変速段に維持される(変速段の変更が禁止される)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の動力伝達制御装置に関し、特に、動力源として内燃機関と電動機とを備え、且つクラッチを備えた車両に適用されるものに係わる。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の変速段を有し且つトルクコンバータを備えていない有段変速機と、内燃機関の出力軸と有段変速機の入力軸との間に介装されてクラッチトルク(クラッチが伝達し得るトルクの最大値)を調整可能なクラッチと、車両の走行状態に応じてアクチュエータを用いてクラッチトルク及び有段変速機の変速段を制御する制御手段と、を備えた動力伝達制御装置が開発されてきている(例えば、特許文献1を参照)。係る動力伝達制御装置は、オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)とも呼ばれる。
【0003】
AMTを搭載した車両では、通常、「アクセル開度及び車速」と「実現すべき変速段」との関係を規定する事前に作製されたマップと、アクセル開度及び車速の現在値とに基づいて、実現される変速段が決定・変更される。
【0004】
また、近年、動力源としてエンジンと電動機(電動モータ、電動発電機)とを備えた所謂ハイブリッド車両が開発されてきている(例えば、特許文献2を参照)。ハイブリット車両では、電動機の出力軸が、内燃機関の出力軸、変速機の入力軸、及び変速機の出力軸の何れかに接続される構成が採用され得る。以下、内燃機関の出力軸の駆動トルクを「内燃機関駆動トルク」と呼び、電動機の出力軸の駆動トルクを「電動機駆動トルク」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−97740号公報
【特許文献2】特開2000−224710号公報
【発明の概要】
【0006】
以下、AMTを搭載し、且つ、電動機の出力軸が変速機の出力軸に接続される構成を備えたハイブリッド車両(以下、「AMT付ハイブリッド車両」と呼ぶ。)を想定する。AMT付ハイブリッド車両では、クラッチトルクがゼロに維持された状態で電動機駆動トルクのみを利用して走行する「電動機走行モード」と、クラッチトルクがゼロより大きい値に調整された状態で内燃機関駆動トルクのみ又は「内燃機関駆動トルク及び電動機駆動トルクの両方」を利用して走行する「内燃機関走行モード」と、が選択的に実現され得る。
【0007】
電動機走行モードでは、電動機駆動トルクは、有段変速機を介することなく電動機の出力軸から変速機の出力軸(従って、駆動輪)に伝達される。従って、上述したマップに基づいて「実現される変速段」を逐次変更していく必要性が少ない。加えて、「実現される変速段」を変更する際、係る変更に伴って作動音が不可避的に発生する。この作動音によって、乗員は不快感を受ける可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、AMT付ハイブリッド車両に適用される車両の動力伝達制御装置であって、電動機走行モードにおいて、「実現される変速段」の変更に起因する作動音によって乗員が不快感を受ける事態の発生を抑制できるものを提供することにある。
【0009】
本発明によるAMT付ハイブリッド車両に適用される車両の動力伝達制御装置の特徴は、電動機走行モードが選択された状態において、前記車両の速度が所定速度より大きいと判定された場合には実現される変速段を車両の走行状態に応じて変更し、前記車両の速度が前記所定速度以下と判定された場合には実現される変速段を車両の走行状態に依存することなく現在の変速段に維持するように構成されたことにある。
【0010】
一般に、車室内の騒音レベルが大きい場合には車室内で発生する作動音は乗員に感知され難く、騒音レベルが小さい場合には車室内で発生する作動音は乗員に感知され易い。ここで、車室内の騒音レベルは、車速が大きくなるにつれて大きくなる。上記構成によれば、車速が大きい場合(従って、車室内の騒音レベルが大きい場合)には、変速段の変更に起因する作動音が乗員に感知されることなく、「実現される変速段」が車両の走行状態に応じて適切に変更されていく。また、車速が小さい場合(従って、車室内の騒音レベルが小さい場合)には、変速段が変更されないので、変速段の変更に起因する作動音が発生しない。従って、係る作動音によって乗員が不快感を受ける事態が発生しない。
【0011】
上記本発明に係る動力伝達制御装置においては、前記電動機走行モードが選択された状態において、走行していた前記車両が停止することに基づいて、前記実現される変速段を前記複数の変速段のうち前記減速比が最も大きい変速段(典型的には「1速」)に設定するように構成されることが好適である。これによれば、車両の停止時、或いは、停止直前において、減速比が最も大きい変速段が既に実現された状態が得られる。従って、例えば、車両の停止後、内燃機関走行モードで直ちに車両が発進するような場合、減速比が最も大きい変速段を用いて速やかに車両を発進させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態に係る車両の動力伝達制御装置を搭載した車両の概略構成図である。
【図2】図1に示した変速機の概略構成図である。
【図3】図1に示したクラッチについての「ストローク−トルク特性」を規定するマップを示したグラフである。
【図4】車速及びアクセル開度と、シフト位置との関係を規定したマップを示したグラフである。
【図5】本発明の実施形態によって、EV走行中において変速段の変更が禁止される場合の一例を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明による車両の動力伝達制御装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0014】
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る動力伝達制御装置(以下、「本装置」と称呼する。)を搭載した車両の概略構成を示している。この車両は、動力源として内燃機関とモータジェネレータとを備え、且つ、トルクコンバータを備えない有段変速機とクラッチとを使用した所謂オートメイティッド・マニュアル・トランスミッション(AMT)を備えたハイブリッド車両である。
【0015】
この車両は、エンジンE/Gと、変速機T/Mと、クラッチC/Dと、モータジェネレータM/Gと、を備えている。E/Gは、周知の内燃機関の1つであり、例えば、ガソリンを燃料として使用するガソリンエンジン、軽油を燃料として使用するディーゼルエンジンである。E/Gの出力軸A1は、フライホイールF/W、及び、クラッチC/Dを介して、変速機T/Mの入力軸A2と接続されている。
【0016】
変速機T/Mは、前進用の複数(例えば、5つ)の変速段(シフト位置)、後進用の1つの変速段(シフト位置)、及びニュートラルを有するトルクコンバータを備えない周知の有段変速機の1つである。T/Mの出力軸A3は、ディファレンシャルD/Fを介して車両の駆動輪と接続されている。
【0017】
図2に示すように、T/Mは、
それぞれが入力軸A2又は出力軸A3(本例では、入力軸A2)に相対回転不能に設けられるとともに、それぞれが前進用の複数の変速段のそれぞれに対応する複数の固定ギヤG1i、G2i、G3i、G4i、G5iと、
それぞれが入力軸A2又は出力軸A3(本例では、出力軸A3)に相対回転可能に設けられるとともに、それぞれが前進用の複数の変速段のそれぞれに対応するとともに、対応する変速段の固定ギヤと常時歯合する複数の遊転ギヤG1o、G2o、G3o、G4o、G5oと、
それぞれが入力軸A2及び出力軸A3のうち「対応する軸」(本例では、出力軸A3)に相対回転不能且つ軸方向に相対移動可能に設けられるとともに、それぞれが複数の遊転ギヤのうち対応する遊転ギヤを「対応する軸」(本例では、出力軸A3)に対して相対回転不能に固定するために対応する遊転ギヤと係合可能な複数のスリーブS1、S2、S3と、
を備える。
【0018】
T/Mの変速段の変更・設定は、変速機アクチュエータACT2(図1を参照)によってスリーブS1、S2、S3を駆動し、スリーブS1、S2、S3の軸方向位置を制御することで実行される。変速段を変更することで、減速比(出力軸A3の回転速度Noに対する入力軸A2の回転速度Niの割合)が調整される。具体的には、「N」速の「減速比」は、「GNoの歯数/GNiの歯数)(N:1,2,3,4,5)で表される。「1速」から「5速」に向けて、減速比は次第に小さくなっていく。
【0019】
クラッチC/Dは、変速機T/Mの入力軸A2に一体回転するように設けられた周知の構成の1つを有する摩擦クラッチディスクである。より具体的には、エンジンE/Gの出力軸A1に一体回転するように設けられたフライホイールF/Wに対して、クラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)が互いに向き合うように同軸的に配置されている。フライホイールF/Wに対するクラッチC/D(より正確には、クラッチディスク)の軸方向の位置が調整可能となっている。クラッチC/Dの軸方向位置は、クラッチアクチュエータACT1(図1を参照)により調整される。なお、このクラッチC/Dは、運転者によって操作されるクラッチペダルを備えていない。
【0020】
以下、クラッチC/Dの原位置(クラッチディスクがフライホイールから最も離れた位置)からの接合方向(圧着方向)への軸方向の移動量をクラッチストロークCStと呼ぶ。クラッチC/Dが「原位置」にあるとき、クラッチストロークCStが「0」となる。図3に示すように、クラッチストロークCStを調整することにより、クラッチC/Dが伝達可能な最大トルク(クラッチトルクTc)が調整される。「Tc=0」の状態では、エンジンE/Gの出力軸A1と変速機T/Mの入力軸A2との間で動力が伝達されない。この状態を「分断状態」と呼ぶ。また、「Tc>0」の状態では、出力軸A1と入力軸A2との間で動力が伝達される。この状態を「接合状態」と呼ぶ。
【0021】
モータジェネレータM/Gは、周知の構成(例えば、交流同期モータ)の1つを有していて、例えば、ロータ(図示せず)がM/Gの出力軸と一体回転するようになっている。図2に示す例では、M/Gの出力軸は、T/Mの出力軸A3と一体且つ同軸的に接続されているが、所定の歯車列を介してT/Mの出力軸A3と接続されていてもよい。M/Gの出力軸の駆動トルクは、T/Mを介することなくT/Mの出力軸A3(従って、駆動輪)に伝達される。
【0022】
本装置は、アクセルペダルAPの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサS1と、シフトレバーSFの位置を検出するシフト位置センサS2と、ブレーキペダルBPの操作の有無を検出するブレーキセンサS3と、を備えている。
【0023】
また、本装置は、電子制御ユニットECUを備えている。ECUは、上述のセンサS1〜S3、並びにその他のセンサ等からの情報等に基づいて、上述のアクチュエータACT1、ACT2を制御することで、C/DのクラッチストロークCSt(従って、クラッチトルクTc)、及び、T/Mの変速段を制御する。また、ECUは、E/Gの燃料噴射量(スロットル弁の開度)を制御することでE/Gの出力軸A1の駆動トルクを制御するとともに、インバータ(図示せず)を制御することでM/Gの出力軸の駆動トルクを制御する。
【0024】
以上、この車両は、AMTを搭載し、且つ、M/Gの出力軸がT/Mの出力軸A3に接続される構成を備えた「AMT付ハイブリッド車両」である。以下、説明の便宜上、E/Gの燃焼により出力軸A1に発生する駆動トルクを「EGトルクTe」と呼び、M/Gの出力軸の駆動トルクを「MGトルクTm」と呼ぶ。Te,Tmは、車両の加速方向について正の値を採り、減速方向について負の値を採るものとする。
【0025】
本装置では、EV走行モードと、EG走行モードと、HV走行モードとが選択的に実現される。EV走行モード、EG走行モード、及びHV走行モードのうち何れが実現されるかは、例えば、車速、アクセル開度等の車両の走行状態に基づいて決定される。
【0026】
EV走行モードでは、E/Gが停止し、クラッチC/Dが分断状態(Tc=0)に維持された状態で、MGトルクTm(>0)のみを利用して車両が走行する。EG走行モードでは、MGトルクTmがゼロに維持され、且つ、クラッチC/Dが接合状態(Tc>0)に調整されてEGトルクTe(>0)のみを利用して車両が走行する。HV走行モードでは、クラッチC/Dが接合状態(Tc>0)に調整されてEGトルクTe(>0)及びMGトルクTm(>0)の両方を利用して車両が走行する。EV走行モード及びHV走行モードでは、Tmはアクセル開度等の車両の走行状態に基づいて調整される。EG走行モード及びHV走行モードでは、Teはアクセル開度等の車両の走行状態に基づいて調整される。
【0027】
本装置では、シフトレバーSLが「自動モード」に対応する位置(例えば、Dレンジ)にある場合、ECU内のROMに記憶された変速マップ(図4を参照)と、車速及びアクセル開度等の車両の走行状態とに基づいてシフト位置(選択・実現すべき変速段)が選択される。例えば、現在の車速がαで現在のアクセル開度がβの場合、シフト位置として「3速」が選択される。一方、シフトレバーSLが「手動モード」に対応する位置(例えば、M(マニュアル)レンジ)にある場合、シフトレバーSLの位置に基づいてシフト位置が選択される。
【0028】
変速機T/Mでは、通常、選択されたシフト位置に対応する変速段が実現される。シフト位置が変化したとき、T/Mの変速作動(変速段が変更される際の作動)が行われる。変速作動の開始前にクラッチC/Dが接合状態(クラッチトルク>0)から分断状態(クラッチトルク=0)へと変更され、クラッチが分断状態に維持された状態で変速作動が行われ、変速作動の終了後にクラッチが分断状態から接合状態へと戻される。なお、変速作動の開始とは、変速段の変更に関連して移動する部材(具体的には、スリーブ)の移動の開始に対応し、変速作動の終了とは、その部材の移動の終了に対応する。
【0029】
(EV走行モードにおける変速段の変更の禁止)
本装置では、SLによって「自動モード」が選択されている場合、通常、EV走行モード、EG走行モード、及びHV走行モードのうち何れが実現されているかに依存することなく、シフト位置(従って、実現される変速段)が、上述した変速マップ及び車両の走行状態(アクセル開度及び車速等)に基づいて選択・変更されていく。
【0030】
ところで、EV走行モードでは、MGトルクTmは、T/Mの内部を介することなくM/Gの出力軸からT/Mの出力軸A3(従って、駆動輪)に伝達される。従って、上述した変速マップ(図4を参照)に基づいて「実現される変速段」を逐次変更していく必要性が少ない。加えて、「実現される変速段」を変更する際、「変速作動」に伴う作動音が不可避的に発生する。この作動音によって、乗員は不快感を受ける可能性がある。
【0031】
他方、車室内の騒音レベルが大きい場合には車室内で発生する作動音は乗員に感知され難く、騒音レベルが小さい場合には車室内で発生する作動音は乗員に感知され易い。ここで、車室内の騒音レベルは、車速が大きくなるにつれて大きくなる。
【0032】
そこで、本装置では、EV走行モードにおいて、車速が所定速度Vthより大きいと判定された場合(即ち、車室内の騒音レベルが所定レベルより大きいと判定された場合)、「実現される変速段」が上述した変速マップ及び車両の走行状態(車速及びアクセル開度)に応じて変更される。一方、車速が所定速度Vth以下と判定された場合(即ち、車室内の騒音レベルが所定レベル以下と判定された場合)、「実現される変速段」が車両の走行状態に依存することなく現在の変速段に維持される。換言すれば、変速段の変更が禁止される。
【0033】
以下、このことについて、図5を参照しながら説明する。図5では、SLによって「自動モード」(Dレンジ)が選択・維持され、且つ、時刻t1以前にてEV走行モード以外の走行モード(具体的には、EG走行モード)が選択され、時刻t1以降にてEV走行モードが選択される場合の一例が示されている。図5の「変速段」の欄において、破線は、上述の「変速段の変更」が禁止されない場合を示し、実線は、本装置によって「変速段の変更」が禁止される場合を示す。
【0034】
図5に示す例では、時刻t1におけるEG走行モードからEV走行モードへの切り替えに伴い、時刻t1以降、EGトルクTe及びクラッチトルクTcがゼロに向けて減少し、MGトルクTmがゼロから増大する。時刻t2にてTeがゼロに達し、時刻t2以降、エンジン回転速度NEはゼロに向けて減少し、時刻t4にてゼロになる。時刻t4以降、E/Gは停止状態(NE=0)に維持される。
【0035】
時刻t2以降、クラッチトルクTcがゼロに維持される(即ち、クラッチC/Dが分断状態に維持される)。換言すれば、時刻t2以降、MGトルクのみを利用して車両が走行する。
【0036】
アクセル開度が時刻t3まで一定に維持され、時刻t3以降、ゼロに向けて減少していく。これに伴い、時刻t3以降、MGトルクTmが減少していき、時刻t4の直前以降、Tmが負で推移する(所謂、回生状態)。この結果、車速も、時刻t3まで一定に維持され、時刻t3以降、ゼロに向けて減少していく。
【0037】
「実現される変速段」は、上述の変速マップ(図4を参照)に従って、時刻t3までは「4速」に維持される。時刻t3〜t4において、車速及びアクセル開度の減少に応じて、上述の変速マップ(図4を参照)に従って、「4速」から「3速」への変速作動(変速段の変更)がなされている。これは、この段階では、車速が前記所定速度Vthより大きいことに基づく。即ち、この段階では、車室内の騒音レベルが大きいので、変速作動に起因する作動音が乗員に感知され難い。従って、変速作動に起因する作動音が乗員に感知されることなく「実現される変速段」が車両の走行状態に応じて適切に変更されている。
【0038】
時刻t5以降では、車速が所定速度Vth未満となる。ここで、上述の「変速段の変更」が禁止されない場合(破線を参照)、時刻t5以降も、車速及びアクセル開度の減少に応じて、上述の変速マップ(図4を参照)に従って、「3速」から「2速」、そして、「2速」から「1速」への変速作動(変速段の変更)が順次なされている。この段階では、車室内の騒音レベルが小さいので、変速作動に起因する作動音が乗員に感知されてしまう。
【0039】
これに対し、本装置では、時刻t5以降、車両が停止する時刻t6まで、「実現される変速段」が現在の変速段(この例では、「3速」)に維持される。換言すれば、この間、変速作動がなされない。このように、本装置では、車室内の騒音レベルが小さい場合には変速作動がなされない。従って、変速作動に起因する作動音が発生しない。従って、係る作動音によって乗員が不快感を受ける事態が発生しない。
【0040】
本装置では、車両が停止する時刻t6にて、それまで維持されてきた変速段(この例では、「3速」)から「1速」への変速作動がなされる。この結果、車両の停止直後において、「減速比が最も大きい変速段」(即ち、発進用の変速段)が既に実現された状態が得られる。従って、例えば、車両の停止後(この例では、時刻t6以降)、EG走行モード又はHV走行モードで直ちに車両が発進するような場合、「減速比が最も大きい変速段」を用いて速やかに車両を発進させることができる。
【0041】
なお、この例では、車両が停止したと判定された時点(即ち、車速がゼロ以外からゼロに変更されたと判定された時点)で「実現される変速段」が「減速比が最も大きい変速段」に変更されているが、車両が停止する直前と判定された時点(即ち、車速がゼロより大きい微小値を減少しながら通過したと判定された時点)で「実現される変速段」が「減速比が最も大きい変速段」に変更されてもよい。
【0042】
以上、本装置によれば、EV走行モードにおいて、車速が所定速度Vthより大きい場合(即ち、車室内の騒音レベルが大きい場合)には、変速作動に起因する作動音が乗員に感知されることなく、「実現される変速段」が車両の走行状態に応じて適切に変更されていく。また、車速が所定速度Vth以下の場合(即ち、車室内の騒音レベルが小さい場合)には、変速段が変更されないので、変速段の変更に起因する作動音が発生しない。従って、係る作動音によって乗員が不快感を受ける事態が発生しない。
【0043】
また、本装置によれば、EV走行モードにおいて走行していた車両が停止することに基づいて、「実現される変速段」が「1速」(減速比が最も大きい変速段)に変更される。従って、車両停止後、EG走行モード又はHV走行モードで車両が直ちに発進するような場合、減速比が最も大きい変速段を用いて速やかに車両を発進させることができる。
【0044】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。例えば、上記実施形態では、EV走行モードと、EG走行モードと、HV走行モードとの3種類の走行モードが選択的に実現されるように構成されているが、EV走行モードと、EG走行モードとの2種類の走行モードが選択的に実現されるように(即ち、HV走行モードが実現できないように)構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
T/M…変速機、E/G…エンジン、C/D…クラッチ、M/G…モータジェネレータ、A1…エンジンの出力軸、A2…変速機の入力軸、A3…変速機の出力軸、ACT1…クラッチアクチュエータ、ACT2…変速機アクチュエータ、ECU…電子制御ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源として内燃機関と電動機とを備えた車両に適用され、
前記内燃機関の出力軸から動力が入力される入力軸と、前記車両の駆動輪へ動力を出力する出力軸とを備え、前記出力軸の回転速度に対する前記入力軸の回転速度の割合である減速比が異なる予め定められた複数の変速段を有する有段変速機であって、前記入力軸と前記出力軸との間の動力伝達系統を介することなく前記電動機の出力軸から動力が有段変速機の出力軸に入力される有段変速機と、
前記内燃機関の出力軸と前記有段変速機の入力軸との間に介装されたクラッチであってクラッチが伝達し得るトルクの最大値であるクラッチトルクを調整可能なクラッチと、
前記クラッチを制御して前記クラッチトルクを調整する第1アクチュエータと、
前記有段変速機を制御して前記複数の変速段のうちから実現される変速段を変更する第2アクチュエータと、
前記車両の走行状態に基づいて、前記内燃機関の出力軸の駆動トルクである内燃機関駆動トルク、前記電動機の出力軸の駆動トルクである電動機駆動トルク、前記第1アクチュエータ、及び前記第2アクチュエータを制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記車両の走行状態に基づいて、前記クラッチトルクがゼロに維持された状態で前記電動機駆動トルクのみを利用して走行する電動機走行モードと、前記クラッチトルクがゼロより大きい値に調整された状態で前記内燃機関駆動トルクのみを利用して又は前記内燃機関駆動トルク及び前記電動機駆動トルクの両方を利用して走行する内燃機関走行モードと、を選択的に実現するように構成された車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記電動機走行モードが選択された状態において、前記車両の速度が所定速度より大きいと判定された場合には前記実現される変速段を前記車両の走行状態に応じて変更し、前記車両の速度が前記所定速度以下と判定された場合には前記実現される変速段を前記車両の走行状態に依存することなく現在の変速段に維持するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記電動機走行モードが選択された状態において、走行していた前記車両が停止することに基づいて、前記実現される変速段を前記複数の変速段のうち前記減速比が最も大きい変速段に設定するように構成された車両の動力伝達制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両の動力伝達制御装置において、
前記制御手段は、
前記電動機走行モードが選択された状態において、前記車両の速度が所定速度より大きいと判定された場合には、少なくとも運転者により操作される加速操作部材の操作量及び前記車両の速度と実現すべき変速段との間の事前に定められた関係と、少なくとも前記加速操作部材の現在の操作量及び前記車両の現在の速度とに基づいて、前記実現される変速段を変更し、前記車両の速度が前記所定速度以下と判定された場合には、前記関係及び前記加速操作部材の現在の操作量及び前記車両の現在の速度に依存することなく前記実現される変速段を現在の変速段に維持するように構成された車両の動力伝達制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−63715(P2013−63715A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204076(P2011−204076)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】