説明

車両の後部構造

【課題】車両の音振性能の変化を抑制することができる車両の後部構造を提供すること。
【解決手段】車両後部に形成したスペアタイヤを収納可能なスペアタイヤ収納部2に、スペアタイヤに替わって収納され、スペアタイヤを固定するスペアタイヤ固定手段3で固定される収納部材10を有する。そして、この収納部材10は、スペアタイヤ固定手段3による固定力を、スペアタイヤ収納部2のスペアタイヤ接触部2b近傍に伝達する固定力伝達面14aを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両後部にスペアタイヤを収納するスペアタイヤ収納部と、このスペアタイヤ収納部にスペアタイヤを固定するスペアタイヤ固定手段と、を備えた車両の後部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両後部のスペアタイヤパンに形成したスペアタイヤを収納可能な凹部と、この凹部内にスペアタイヤを固定するスペアタイヤ固定手段と、を備えた車両の後部構造が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4239777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の車両の後部構造では、スペアタイヤが固定されている場合には、スペアタイヤ固定手段で凹部底面にスペアタイヤが押し付けられ、スペアタイヤパンの剛性が向上している。一方、スペアタイヤが固定されていない場合には、スペアタイヤが凹部底面に押し付けられていないのでスペアタイヤパンの剛性が低下する。そのため、共通のフロア構造でもスペアタイヤを装着する車両と、スペアタイヤレス(非装着)の車両ではスペアタイヤパンの剛性が異なってしまい、車両の音振性能が変化する懸念があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、車両の音振性能の変化を抑制することができる車両の後部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の車両の後部構造では、車両後部に形成したスペアタイヤを収納可能なスペアタイヤ収納部に、前記スペアタイヤに替わって収納され、スペアタイヤを固定するスペアタイヤ固定手段で固定される収納部材を有する。そして、この収納部材は、スペアタイヤ固定手段による固定力を、スペアタイヤ収納部のスペアタイヤ接触部近傍に伝達する固定力伝達面を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の車両の後部構造にあっては、収納部材を、スペアタイヤに替わってスペアタイヤ収納部に収納し、スペアタイヤを固定するスペアタイヤ固定手段で固定する。これにより、スペアタイヤ固定手段による固定力は、収納部材の固定力伝達面からスペアタイヤ接触部近傍に伝達することができ、車両の音振性能の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1の車両の後部構造を示す全体斜視図である。
【図2】図1におけるA−A断面図である。
【図3】実施例1の車両の後部構造の収納部材を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は平面図であり、(c)は図3(b)におけるB−B断面図であり、(d)は図3(b)におけるC−C断面図である。
【図4】スペアタイヤパンに伝達される固定力を示す説明図であり、(a)は比較例の車両の後部構造におけるスペアタイヤありの状態を示し、(b)は比較例の車両の後部構造におけるスペアタイヤなしの状態を示し、(c)は実施例1の車両の後部構造を示す。
【図5】振動周波数と加速度振動レベルとの相関関係を示すグラフである。
【図6】実施例1の車両の後部構造の変形例1を示す断面図である。
【図7】実施例1の車両の後部構造の変形例2を示す断面図である。
【図8】実施例1の車両の後部構造の変形例3を示す断面図である。
【図9】実施例1の車両の後部構造の変形例4を示す断面図である。
【図10】実施例1の車両の後部構造の変形例5を示す断面図である。
【図11】実施例1の車両の後部構造の変形例6を示す断面図である。
【図12】実施例1の車両の後部構造の変形例7を示す図であって、(a)は底面図であり、(b)は図12(a)におけるD−D断面図である断面図である。
【図13】実施例1の車両の後部構造の変形例8を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
【図14】実施例1の車両の後部構造の変形例9を示す図であって、(a)は底面図であり、(b)は図14(a)におけるE−E断面図であり、(c)は図14(d)におけるF−F断面図である。
【図15】実施例2の車両の後部構造を示す分解斜視図である。
【図16】実施例2の車両の後部構造を示す断面図である。
【図17】実施例2の車両の後部構造の使用状態を説明する図であり、(a)はスペアタイヤ接触部が比較的小さい場合を示し、(b)はスペアタイヤ接触部が比較的大きい場合を示す。
【図18】実施例2の車両の後部構造の変形例1を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は図18(a)におけるG−G断面図である。
【図19】実施例2の車両の後部構造の変形例2を示す断面図である。
【図20】実施例2の車両の後部構造の変形例3を示す断面図である。
【図21】実施例2の車両の後部構造の変形例4に適用する脚部を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は図21(a)における矢印H方向から見た側面図であり、(c)は図21(a)におけるJ−J断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の車両の後部構造を実施するための形態を、図面に示す実施例1及び実施例2に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
図1は、実施例1の車両の後部構造を示す全体斜視図である。図2は、図1におけるA−A断面図である。図3は、実施例1の車両の後部構造の収納部材を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は平面図であり、(c)は図3(b)におけるB−B断面図であり、(d)は図3(b)におけるC−C断面図である。なお、図1中矢印FRで示す方向は車両前方を示し、矢印REで示すよう方向は車両後方を示す。
【0011】
車両の後部には、図示しない車体フレームの上方にフロアパネル1が配置されている。このフロアパネル1には、スペアタイヤ(図示せず)を収納可能なスペアタイヤ収納部2が凹設されている。このスペアタイヤ収納部2の中央には、スペアタイヤ固定手段3が設けられている。そして、このスペアタイヤ収納部2には、スペアタイヤに替わってスペアタイヤ固定手段3で収納部材10が固定されている。なお、通常、スペアタイヤ収納部2はトランクボード4(図2参照)によって覆われ、収納部材10が見えないようになっている。
【0012】
前記スペアタイヤ収納部2は、フロアパネル1の一般面をへこませることで形成されており、底面であるスペアタイヤパン2aは、スペアタイヤが接触するスペアタイヤ接触部2bを有している。このスペアタイヤ接触部2bは、スペアタイヤ固定手段3を取り囲む環形状を呈している。また、このスペアタイヤ収納部2の高さ(深さ)は、スペアタイヤの幅(高さ)よりも高くなっており、スペアタイヤを十分に収納可能となっている。
【0013】
前記スペアタイヤ固定手段3は、ブラケット3aと、ボルト3bと、クランプ3cと、を有している。ブラケット3aは、断面ハット形状を呈した金属鋼板であり、頂面にボルト貫通孔3dが形成されると共に、このボルト貫通孔3dに対応した内側にウエルドナット3eが固定されている。そして、このブラケット3aは、スペアタイヤパン2aにスポット溶接で固定されている。ボルト3bは、ブラケット3aのボルト貫通孔3dを貫通し、ウエルドナット3eに螺合する。クランプ3cは、ボルト3bの頭部に一体固定されており、スペアタイヤのディスクホイールに当接する押さえ面3fを有している。
【0014】
前記収納部材10は、収納部材本体11を備えている。この収納部材本体11は、ここでは、WPC(Wood Fiber-Polyomer Composites:木材-プラスチック複合材)を、ブロー成形で形成した中空成形品である。収納部材本体11の上面11aには、上方に開放した複数の収納凹部12,…と、上方に開放したクランプ固定スペース13と、が形成され、下面11bには、下方に突出した脚部14が形成されている。また、この収納部材10の高さは、スペアタイヤ収納部2の高さ(深さ)とほぼ同程度に設定されており、フロアパネル1と面一になっている。
【0015】
前記収納凹部12は、ここでは上面視矩形状を呈する凹部であり、小物等を収納可能になっている。各収納凹部12は、型抜きの都合上、開口端に向かうにつれて次第に内径が大きくなっている。また、ここでは、各収納凹部12は個々に任意の大きさに設定されている。
【0016】
前記クランプ固定スペース13は、収納部材本体11の中央位置に配置され、中心に収納部材本体11を貫通するボルト貫通孔13aが形成されている。このボルト貫通孔13aの周囲には、クランプ3cの押さえ面3fに当接するクランプ当接面13bが形成されている。
【0017】
前記脚部14は、収納部材本体11の全周にわたって連続した環状突起となっており、先端部にスペアタイヤ接触部2bに接触する平滑な固定力伝達面14aを有している。
【0018】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の車両の後部構造とその課題」の説明を行い、続いて、実施例1の車両の後部構造における「固定力伝達作用」を説明する。
【0019】
[比較例の車両の後部構造とその課題]
図4は、比較例の車両の後部構造を示す説明図であって、(a)はスペアタイヤありの状態を示し、(b)はスペアタイヤなしの状態を示す。図5は、振動周波数と加速度振動レベルとの相関関係を示すグラフである。
【0020】
比較例の車両の後部構造では、通常、車両の後部に形成したスペアタイヤ収納部101にスペアタイヤ100を収納している(図4(a)参照)。このとき、スペアタイヤ100は、スペアタイヤ収納部101に設けられたスペアタイヤ固定手段102によって、固定される。
【0021】
このスペアタイヤ固定手段102は、スペアタイヤ収納部101の底面であるスペアタイヤパン101aに溶着固定されたブラケット102aと、ブラケット102aに螺合するボルト102bと、ボルト102bの頭部に一体固定したクランプ102cと、有している。
【0022】
そして、スペアタイヤ100を固定するには、まず、ボルト102bを外した状態でスペアタイヤ100をスペアタイヤ収納部101内に収納する。このとき、スペアタイヤ100のタイヤ部100aの一部がスペアタイヤパン101aのスペアタイヤ接触部101bに接触する。次に、ボルト102bをスペアタイヤ100のディスクホイール100bに挿入し、ブラケット102aに螺合させる。これにより、クランプ102cがスペアタイヤ100のディスクホイール100bに当接し、このディスクホイール100bを押さえつける。ここで、タイヤ部100aの一部がスペアタイヤ接触部101bに接触しているため、ボルト102bを締めることで発生するクランプ102cの固定力(軸重)は、ディスクホイール100bからタイヤ部100aと伝わり、このタイヤ部100aを介してスペアタイヤ接触部101bに伝達される。なお、このときの固定力(軸重)は、約100〜250kgfである。
【0023】
このように、スペアタイヤ100を固定すると、このときの固定力はスペアタイヤ接触部101bに伝達され、スペアタイヤパン101aにスペアタイヤ100が押し付けられて固定される。これにより、スペアタイヤ100が収納されている状態では、スペアタイヤパン101aの剛性は高くなっている。
【0024】
一方、スペアタイヤ100を使用等により取り外した場合では、スペアタイヤ収納部101には何もなくなる(図4(b)参照)。このため、スペアタイヤパン101aにクランプ102cからの固定力(軸重)を伝達することができず、スペアタイヤパン101aの剛性は低下する。
【0025】
この結果、車両の振動等によってスペアタイヤパン101aが振動しやすくなってしまう。そのため、図5に示すように、スペアタイヤ100がある場合(スペアタイヤあり時)と、スペアタイヤ100がない場合(スペアタイヤなし時)では、加速度振動レベルが大幅に変わってしまい、車両の音振性能が変化するという問題が発生していた。
【0026】
特に、車両を設計する場合には、スペアタイヤ100がスペアタイヤ収納部101にスペアタイヤ固定手段102で固定されていること、すなわち、スペアタイヤパン101aが所定の荷重で押えられ、一定の剛性になっていることが前提となっている。そのため、音振性能のチューニングはスペアタイヤ100を固定した前提で行っている。したがって、スペアタイヤ100がなくなると、音振性能のチューニングの前提(スペアタイヤパン101aの剛性)が変わってしまうため、音振性能が低下し、ドラミングやこもり音、ロードノイズ等が増大するおそれがあった。
【0027】
[固定力伝達作用]
実施例1の車両の後部構造では、比較例の車両の後部構造におけるスペアタイヤ100に替えて、収納部材10をスペアタイヤ収納部2に収納し、スペアタイヤ固定手段3によって固定する。
【0028】
この収納部材10を収納・固定するには、まず、スペアタイヤパン2aに収納部材10を載置して、スペアタイヤ収納部2に収納部材10を収納する。このとき、スペアタイヤパン2aのスペアタイヤ接触部2bと、収納部材10の脚部14の固定力伝達面14aとが接触するように位置決めする。なお、予めスペアタイヤ固定手段3のボルト3bは取り外しておく。
【0029】
次に、ボルト3bを、収納部材10のボルト貫通孔13aに挿入し、ブラケット3aのウエルドナット3eに螺合する。このとき、クランプ3cの押さえ面3fがクランプ当接面13bに当接するまで、ボルト3bを締める。
【0030】
これにより、収納部材10はスペアタイヤパン2aとクランプ3cとの間に挟持された状態になり、スペアタイヤ収納部2内にスペアタイヤ固定手段3で固定される。また、このとき、スペアタイヤ固定手段3のボルト3bを締めることで発生するクランプ3cの固定力(軸重)は、クランプ3cから収納部材10のクランプ当接面13bに伝わり、さらに脚部14の固定力伝達面14aからスペアタイヤ接触部2bに伝達される。なお、このときの固定力(軸重)は、約100〜250kgfである。
【0031】
このように、実施例1の車両の後部構造では、スペアタイヤの替わりにスペアタイヤ固定手段3を用いて収納部材10を固定することで、スペアタイヤをスペアタイヤ収納部2に収納したときと同様に、スペアタイヤ接触部2bにクランプ3cの固定力を伝達することができる。すなわち、スペアタイヤ接触部2bに収納部材10が押し付けられることで、スペアタイヤパン2aの剛性はスペアタイヤを収納した時と同程度になり、スペアタイヤがある場合(スペアタイヤあり時)と比べても加速度振動レベルに変化が発生しない(図5参照)。これにより、スペアタイヤパン2aの剛性によって影響を受けるドラミング、ロードノイズ、こもり音等の音振現象の変化を抑制することができ、音振性能の変化を抑えることができる。
【0032】
さらに、この収納部材10は、小物を収納可能な複数の収納凹部12,…を有しており、使い勝手に優れている。また、この収納部材10の高さは、スペアタイヤ収納部2の高さ(深さ)とほぼ同程度に設定されており、フロアパネル1と面一になっている。このため、収納部材10はスペアタイヤ収納部2を覆うトランクボード4の下に収まり、見栄えやトランクルームの使い勝手が良好となる。そして、スペアタイヤを固定するために使用するスペアタイヤ固定手段3によってこの収納部材10を固定することができるため、車体構造の変更をする必要がなくなり、ベンツリ費を大幅に削減することができる。
【0033】
特に、実施例1の車両の後部構造では、スペアタイヤ接触部2bがスペアタイヤ固定手段3の周囲を囲む環形状をなし、固定力伝達面14aがスペアタイヤ接触部2bのほぼ全面に接触する環状面となっている。このため、スペアタイヤ接触部2bにかかる荷重の分布は、スペアタイヤ収納時と同等となるため、スペアタイヤパン2aの剛性もほとんど変化せず、音振性能の変化をさらに抑制することができる。
【0034】
次に、効果を説明する。
実施例1の車両の後部構造にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0035】
(1) 車両後部に形成したスペアタイヤ100を収納可能なスペアタイヤ収納部2と、該スペアタイヤ収納部2に、前記スペアタイヤ100を固定するスペアタイヤ固定手段3と、を備えた車両の後部構造において、前記スペアタイヤ収納部2に前記スペアタイヤ100に替わって収納され、前記スペアタイヤ固定手段3で固定される収納部材10を有し、前記収納部材10は、前記スペアタイヤ固定手段3による固定力を、前記スペアタイヤ収納部2のスペアタイヤ接触部2b近傍に伝達する固定力伝達面14aを備えた構成とした。
このため、車両の音振性能の変化を抑制することができる。
【0036】
(2) 上記の(1)の効果に加え、前記スペアタイヤ接触部2bは、前記スペアタイヤ固定手段3の周囲を囲む環形状をなし、前記固定力伝達面14aは、前記スペアタイヤ接触部2bのほぼ全面に接触する環状面とする構成とした。
このため、スペアタイヤ接触部2bにかかる荷重の分布をスペアタイヤ収納時と同等にすることができ、音振性能の変化をさらに抑制することができる。
【0037】
(変形例1)
図6は、実施例1の車両の後部構造の変形例1を示す断面図である。
【0038】
この変形例1の車両の後部構造では、収納部材10Aの収納部材本体を、ポリプロピレン(PP)をブロー成形により中空成形品にした外郭部材10Aaと、外郭部材10Aa内に充填された発泡充填材10Abと、から構成した。
【0039】
この場合では、収納部材10Aの剛性を実施例1の収納部材10よりも高めることができ、トランクボード4を介した耐荷重を上げることができる。また、スペアタイヤ収納部2のスペアタイヤパン2aへの負荷荷重を上げることができる。
【0040】
(変形例2)
図7は、実施例1の車両の後部構造の変形例2を示す断面図である。
【0041】
この変形例2の車両の後部構造における収納部材10Bは、ポリプロピレン(PP)をブロー成形により中空成形品にした収納部材本体10Baと、この収納部材本体10Baの裏面側に設けた補強部材10Bbと、を有している。補強部材10Bbは、金属鋼板又は硬質樹脂板によって形成され、収納部材本体10Baの裏面ほぼ全体を覆っている。
【0042】
この場合では、収納部材10Bの剛性を実施例1の収納部材10よりも高めることができ、トランクボード4を介した耐荷重を上げることができる。また、スペアタイヤ収納部2のスペアタイヤパン2aへの負荷荷重を上げることができる。
【0043】
(変形例3)
図8は、実施例1の車両の後部構造の変形例3を示す断面図である。
【0044】
この変形例3の車両の後部構造では、収納部材10Cの脚部14Cの固定力伝達面14Caと、スペアタイヤパン2aとの間にゴムからなるシート18を挟み込む。
【0045】
この場合では、性能要件から固定力伝達面14Caやスペアタイヤパン2aにビードが形成されたり、製造上の理由から固定力伝達面14Caやスペアタイヤパン2aを平滑にできなかったりしても、シート18を介して固定力伝達面14Caからスペアタイヤ接触部2bへ荷重伝達することができる。すなわち、固定力伝達面14Caとスペアタイヤ接触部2bとの接触を確保することができる。また、シート18の厚みを調整することで、収納部材10Cの共振周波数をコントロールすることができ、さらに音振性能の向上を図ることができる。
【0046】
(変形例4)
図9は、実施例1の車両の後部構造の変形例4を示す断面図である。
【0047】
この変形例4の車両の後部構造では、収納部材10Dの脚部14Dの固定力伝達面14Daが、スペアタイヤ接触部2bよりもスペアタイヤ固定手段3に近い位置に接触している。つまり、固定力伝達面14Daは、スペアタイヤ接触部2bの内側に接触している。
【0048】
この場合では、収納部材10Dの脚部14Dがスペアタイヤ固定手段3に近い位置に接触することで、スペアタイヤ固定手段3による固定力が小さくても、スペアタイヤパン2aに収納部材10Dを十分に押し付けることができる。そのため、スペアタイヤパン2aのさらなる剛性向上や、振動抑制をすることができる。
【0049】
なお、この変形例4では、固定力伝達面14Daがスペアタイヤ接触部2bの内側に接触しているが、例えばスペアタイヤ接触部2bの外側に接触してもよい。この場合であっても、スペアタイヤ固定手段3の固定力を調整することで、スペアタイヤパン2aのさらなる剛性向上や、振動抑制をすることが可能となる。
【0050】
(変形例5)
図10は、実施例1の車両の後部構造の変形例5を示す断面図である。
【0051】
この変形例5の車両の後部構造では、収納部材10Eをプレス成形した金属鋼板によって形成し、下方に開放した開断面とする。また、この収納部材10Eのクランプ固定スペース13Eの裏面側には、マス15を溶接等により設ける。
【0052】
この場合では、収納部材10Eを開断面形状とすることで、上下方向の剛性と左右方向(側方向)の剛性をそれぞれ調整することが可能となり、設計の自由度が向上する。つまり、例えば、収納部材10Eの上下方向に作用する荷重には強くし、左右方向(側方向)からの荷重には弱くすることができる。そのため、例えば、車両方向からの衝突時に必要な潰れスペースを確保したり、変形時の反力を高める設計にしたりすることができる。
【0053】
また、車両によっては、スペアタイヤがダイナミックダンパのような効果をもち、特定の周波数でスペアタイヤパン2aの振動を抑制することがある。これに対し、クランプ固定スペース13Eの裏面側にマス15を設けることで、収納部材10Eにダイナミックダンパのような効果を持たせることができる。このため、スペアタイヤの共振周波数と同等の周波数帯で収納部材10Eを共振させることができ、音振性能の悪化を抑制することができる。
【0054】
(変形例6)
図11は、実施例1の車両の後部構造の変形例6を示す断面図である。
【0055】
この変形例6の車両の後部構造では、収納部材10Fのクランプ固定スペース13Fに、スペアタイヤ固定手段3のブラケット3aの頂面に当接する筒状支持部13Fcを形成した。この筒状支持部13Fcは、クランプ固定スペース13Fのクランプ当接面13Fbよりも内側位置(中心に近い位置)でブラケット3aに当接している。
【0056】
この場合では、収納部材10Fとブラケット3aとが接触する構成になり、ボルト3bを締めこむ際に、脚部14Fの固定力伝達面14Faからスペアタイヤ接触部2bに安定的に荷重を伝達することができる。
【0057】
(変形例7)
図12は、実施例1の車両の後部構造の変形例7を示す図であって、(a)は底面図であり、(b)は図12(a)におけるD−D断面図である断面図である。
【0058】
この変形例7の車両の後部構造の収納部材10Gでは、スペアタイヤ接触部2bに接触する固定力伝達面14Gaを有する環状の脚部14Gが、周方向に複数に分割されている。
【0059】
この場合では、分割した複数の脚部14Gの間に隙間Sが生じるため、この隙間に例えば車載ジャッキやツール類Jといったものを配置することができ、収納部材10Gとスペアタイヤパン2aとの間の空間を有効利用することができる。
【0060】
(変形例8)
図13は、実施例1の車両の後部構造の変形例8を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は断面図である。
【0061】
この変形例8の車両の後部構造では、収納部材10Hの上面10Haの外周が、スペアタイヤ収納部2の開口部2cと同形状を呈しており、収納部材10Hは、この開口部2cに嵌り込むようになっている。また、収納部材10Hに形成された複数の収納凹部12H,…と、クランプ固定スペース13Hとは、それぞれ蓋部材16,…で閉成され、フロアパネル1と面一にされている。
【0062】
この場合では、スペアタイヤ収納部2の上方に重量物を載置する際、トランクボードを設定することなく、収納部材10Hによってフロアパネル1と面一で重量物の荷重を支持することができる。また、必要に応じてカーペット等で収納部材10Hを覆うことで、見栄えの低下を防止することができる。
【0063】
(変形例9)
図14は、実施例1の車両の後部構造の変形例9を示す図であって、(a)は底面図であり、(b)は図14(a)におけるE−E断面図であり、(c)は図14(a)におけるF−F断面図である。
【0064】
この変形例9の車両の後部構造の収納部材10Jは、中心を挟んで対向する位置に配置した一対の脚部14J,14Jと、この一対の脚部14J,14Jと直交する方向に沿って中心を挟んで対向する位置に配置した一対のマス17,17と、を有している。ここで、マス17,17は収納部材10Jの底面10Jbに固定されている。
【0065】
車両によっては、スペアタイヤがダイナミックダンパのような効果をもち、特定の周波数でスペアタイヤパン2aの振動を抑制することがある。これに対し、この変形例9の場合では、収納部材10Jの底面10Jbにマス17を設けることで、収納部材10Jにダイナミックダンパのような効果を持たせることができる。このため、スペアタイヤの共振周波数と同等の周波数帯で収納部材10Jを共振させることができ、音振性能の悪化を抑制することができる。
【実施例2】
【0066】
実施例2の車両の後部構造は、収納部材を上下方向に分割した例である。
【0067】
まず、構成から説明する。なお、実施例1と同等の構成については、実施例1と同じ符号を付し、説明を省略する。
図15は、実施例2の車両の後部構造を示す分解斜視図である。図16は、実施例2の車両の後部構造を示す断面図である。
【0068】
実施例2の車両の後部構造における収納部材20は、収納部材本体21と、この収納部材本体21と別体であって、収納部材本体21をスペアタイヤパン2a上に支持する脚部24と、収納部材本体21と別体であって、収納部材本体21に載置される介装部材25と、を備えている。
【0069】
前記収納部材本体21は、ここでは、内部に無数の気泡を含む発泡材からなる成形品である。この収納部材本体21の上面21aには、上方に開放した複数の収納凹部22,…と、上方に開放したクランプ固定スペース23と、が形成されている。また、この収納部材本体21の下面21bは、脚部24に沿う形状となっている。
【0070】
前記脚部24は、金属鋼板を円錐状にプレス加工したプレス成形品である。この脚部24は、周縁部にスペアタイヤパン2aのスペアタイヤ接触部2bに接触する平滑な固定力伝達面24aを有している。ここで、固定力伝達面24aは、環形状のスペアタイヤ接触部2bのほぼ全面に接触する環状面となっている。また、この脚部24の中心部には、スペアタイヤ固定手段3の固定力を受ける平坦な固定力受部24bが形成されている。この固定力受部24bの中心には、ボルト3bが貫通するボルト貫通孔24cが形成されている。
【0071】
さらに、収納部材本体21のクランプ固定スペース23のボルト貫通孔23aの内側には、カラー26が配置されている。このカラー26は、両端が開放した金属製の円筒であり、上端面がスペアタイヤ固定手段3のクランプ3cの押さえ面3fに当接し、下端面が脚部24の固定力受部24bに当接する。
【0072】
前記介装部材25は、ここでは、内部に無数の気泡を含む発泡材からなる成形品であり、収納部材本体21の上面21aを覆う円板形状を呈している。この介装部材25は、収納部材本体21の上に位置し、スペアタイヤ収納部2を覆うトランクボード4にかかる荷重を支持する。この介装部材25は、収納部材本体21の上に位置したとき、上面25aがスペアタイヤ収納部2から突出することはなく、フロアパネル1と面一になる厚みに設定されている。なお、ここでは、介装部材25はトランクボード4に固定されている。
【0073】
次に、作用を説明する。
図17は、実施例2の車両の後部構造の使用状態を説明する図であり、(a)はスペアタイヤ接触部が比較的小さい場合を示し、(b)はスペアタイヤ接触部が比較的大きい場合を示す。
【0074】
実施例2の車両の後部構造では、収納部材20が、収納部材本体21と、脚部24と、介装部材25とに分割されている。そのため、図17(a),(b)に示すように、スペアタイヤ接触部2bの大きさが異なる場合、スペアタイヤ接触部2bに合わせて脚部24の大きさを変更すれば、収納部材本体21は共通のものを使用することができる。
【0075】
また同様に、スペアタイヤ収納部2の高さ(深さ)に応じて、介装部材25の厚みを調整することで、収納部材本体21を共通にしながらも、収納部材20の上面位置とフロアパネル1とを面一にすることができる。このため、トランクボード4に作用する荷重を介装部材25を介して収納部材本体21で支持することができる。
【0076】
このように、製造コストのかかる収納部材本体21を多車種で共用化することができ、コストアップを抑制することができる。また、音振性能の変化抑制効果を脚部24の設計変更で対応することで、収納部材20の全体としてコストアップを抑えることができる。
【0077】
さらに、ここでは、脚部24を金属鋼板によって形成することで、樹脂製品よりも厚み(高さ)を抑えることができ、収納凹部22の容量を大きく確保することができる。
【0078】
また、この実施例2の車両の後部構造では、収納部材本体21を発泡部材により形成することで、見栄えの向上を図ると共に、遮音性を高めることができる。
【0079】
次に、効果を説明する。
実施例2の車両の後部構造にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0080】
(3) 上記の(1)の効果に加え、前記収納部材20は、収納凹部22を有する収納部材本体21と、該収納部材本体21と別体であって、前記スペアタイヤ接触部2bとの間に配置されると共に前記固定力伝達面24aを有する脚部24と、を備えた構成とした。
これにより、スペアタイヤ接触部2bに合わせて脚部24の大きさを変更すれば、製造コストのかかる収納部材本体21を多車種間で共用することができ、製造コストの抑制を図ることができる。
【0081】
(変形例1)
図18は、実施例2の車両の後部構造の変形例1を示す図であって、(a)は斜視図であり、(b)は図18(a)におけるG−G断面図である。
【0082】
この実施例2の変形例1の車両の後部構造では、収納部材20Aの収納部材本体21Aを、樹脂をブロー成形した中空成形品から構成する。また、介装部材25Aは、収納部材本体21Aの上面21Aaのうち、収納凹部22A及びクランプ固定スペース23Aと干渉しない位置に配置するように複数に分割されている。
【0083】
この場合では、実施例2と比較して、収納部材本体21Aを安価に形成することができると共に、介装部材25Aを小さくすることができる。このため、製造コストの低減を図ることができる。
【0084】
(変形例2)
図19は、実施例2の車両の後部構造の変形例2を示す断面図である。
【0085】
この変形例2の車両の後部構造の収納部材20Bでは、収納部材本体21Bのクランプ固定スペース23Bのボルト貫通孔23Baの内側に挿入されるカラー26Bと、脚部24Bとを、金属鋼板のプレス成形により一体成形している。
【0086】
この場合では、部品点数を低減することができて、コスト低減を図ることができると共に、カラー26Bと脚部24Bとのずれが発生しないため、荷重伝達を均等に行うことができる。
【0087】
(変形例3)
図20は、実施例2の車両の後部構造の変形例3を示す断面図である。
【0088】
この変形例3の車両の後部構造の収納部材20Cでは、脚部24Cが、固定力受部24Cbを有する共用部27Caと、固定力伝達面24Caを有する車種対応部27Cbとに分割されている。ここで、共用部27Ca及び車種対応部27Cbは、共に金属鋼板をプレス加工することで形成されている。
【0089】
共用部27Caは、収納部材本体21Cと一体化しており、車種に拘らず共通のものを使用することが可能になっている。一方、車種対応部27Cbは、共用部27Caと分割でき、スペアタイヤ接触部2bの大きさに応じて適宜個別のものを使用可能になっている。このため、車種に応じて車種対応部27Cbのみを変更すればよく、製造コストの低減を図ると共に、車種対応部27Cbの追従性、簡素化、軽量化を図ることができる。
【0090】
なお、この変形例3では、介装部材25Cが、収納部材本体21Cの上面21Caのうち、収納凹部22Cと干渉しない位置に配置するように分割されている。このため、さらにコスト低減を図ることができる。
【0091】
(変形例4)
図21は、実施例2の車両の後部構造の変形例4に適用する脚部を示す図であって、(a)は平面図であり、(b)は図21(a)における矢印H方向から見た側面図であり、(c)は図21(a)におけるJ−J断面図である。
【0092】
この変形例4の車両の後部構造では、脚部24Dを、金属鋼板と金属棒材との組み合わせによって形成している。ここでは、中心部分に位置する固定力受部24Dbを有する円板部材24Db´と、周縁部に位置する固定力伝達面24Daを有するリング部材24Da´とが、金属鋼板のプレス加工によって形成されている。そして、円板部材24Db´とリング部材24Da´を複数の金属棒28,…によって連結すると共に、複数の金属棒28,…をリング状の金属棒29によって連結している。これにより、軽量化を図ることができる。
【0093】
以上、本発明の車両の後部構造を実施例1及び変形例1〜変形例9と実施例2及び変形例1〜変形例4に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例・変形例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0094】
上述の実施例・変形例では、複数の収納凹部を形成したが、収納凹部は一つでも良い。また、形状や配置も任意の形状にすることができる。
【0095】
また、収納部材の全体形状も円板状に限らず、スペアタイヤパン2aのスペアタイヤ接触部2bに固定力を伝達できれば、任意の形状にすることができる。
【符号の説明】
【0096】
1 フロアパネル
2 スペアタイヤ収納部
2a スペアタイヤパン
2b スペアタイヤ接触部
3 スペアタイヤ固定手段
3a ブラケット
3b ボルト
3c クランプ
3f 押さえ面
4 トランクボード
10 収納部材
11 収納部材本体
12 収納凹部
13 クランプ固定スペース
13b クランプ当接面
14 脚部
14a 固定力伝達面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両後部に形成したスペアタイヤを収納可能なスペアタイヤ収納部と、該スペアタイヤ収納部に、前記スペアタイヤを固定するスペアタイヤ固定手段と、を備えた車両の後部構造において、
前記スペアタイヤ収納部に前記スペアタイヤに替わって収納され、前記スペアタイヤ固定手段で固定される収納部材を有し、
前記収納部材は、前記スペアタイヤ固定手段による固定力を、前記スペアタイヤ収納部のスペアタイヤ接触部近傍に伝達する固定力伝達面を備えたことを特徴とする車両の後部構造。
【請求項2】
請求項1に記載された車両の後部構造において、
前記収納部材は、収納凹部を有する収納部材本体と、該収納部材本体と別体であって、前記スペアタイヤ接触部との間に配置されると共に前記固定力伝達面を有する脚部と、を備えたことを特徴とする車両の後部構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された車両の後部構造において、
前記スペアタイヤ接触部は、前記スペアタイヤ固定手段の周囲を囲む環形状をなし、
前記固定力伝達面は、前記スペアタイヤ接触部のほぼ全面に接触する環状面とすることを特徴とする車両の後部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−246084(P2011−246084A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123872(P2010−123872)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】