説明

車両の排気浄化装置配設構造

【課題】還元剤タンクを車両に配置するに際し、還元剤タンクが仮に破損したとしても、還元剤が車室内に侵入することを確実に防止でき、また、還元剤を補給する際に、還元剤タンクの注入口と燃料タンクの給油口やウォッシャタンクの注入口とを混同することを確実に防止できるようにする。
【解決手段】車室外に開口する給油口56を有する燃料タンクと、排気浄化に用いる還元剤としての尿素水溶液を貯蔵する尿素タンク71とを搭載した車両の排気浄化装置配設構造であって、前記尿素タンクは車室外に配設され、該尿素タンクの注入口81は車室内に設けられている、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の内燃機関からの排気ガスを還元物質を用いて浄化する排気浄化装置の車両への配設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の内燃機関(ディーゼルエンジンやガソリンエンジン等)からの排気ガス中に含まれる窒素酸化物(所謂NO)を浄化する場合、排気ガスをエンジン排気管の途中部に介設したNO還元触媒を通過させることで無害化を図るのが、従来、一般的である。
【0003】
また、近年では、NO還元触媒による浄化効率を高めるためにアンモニアを還元物質として用いることが提案されている。例えば、還元触媒上流側の排気管内に尿素水溶液を還元剤として添加すると、この添加された尿素水溶液はエンジンの排気により加熱され分解されてアンモニアを発生させる。このアンモニアが還元物質として作用し、排気ガス中のNOの無害化がより促進されるのである。尚、尿素を分解させるのではなく、アンモニアを直接に還元触媒上流側の排気管内に添加することも可能である。
【0004】
このような排気浄化システムを採用する場合、尿素水溶液やアンモニアを貯蔵するタンク(還元剤タンク)を設け、この還元剤タンクを車体に保持させる必要がある。例えば特許文献1には、かかる還元剤タンクの配置構造(レイアウト)が種々提案されている。
【0005】
この特許文献1に開示されたレイアウトでは、エンジンルームやサイドカウルの内部、車室内の前側シート下方、車両端部のバンパ内あるいは車体フレーム内などの空間を利用することで、タンクを複数設けることも含めて、還元剤タンクを大容量化し、還元剤の補給頻度を低く抑えることができる、とされている。
【特許文献1】特開2006−242092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
周知のように、アンモニアはある程度の毒性を有し強い刺激臭があるので、還元剤タンクが万一破損したとしても、内部の還元剤が漏れ出て車室内に侵入することは確実に防止されなければならない。尚、尿素が分解されてアンモニアになり易い温度(尿素分解温度)は一般に約150℃程度であるが、常温程度の温度でも微量であれば分解アンモニアガスが発生し得ることが知られている。従って、アンモニアのみならず、尿素水溶液の車室内への侵入も確実に防止することが好ましい。
【0007】
ところが、前記従来のレイアウトの殆どでは、還元剤タンクは車体フロアの上方に配置されており、タンク破損時には、タンク内に貯蔵されていた還元剤が漏れ出て車室内に侵入するおそれが多分にある。特に、エンジンルーム内には、表面温度が尿素分解温度を越える高温になる機器や部材が少なくないので、かかるエンジンルーム内に還元剤タンクが配置されていた場合には、漏れ出した尿素水溶液が容易に分解されてアンモニアになる傾向が強く、より悪影響を及ぼすことになる。
【0008】
また、還元剤タンクに還元剤を補給する場合や、車室外に開口する給油口を有する燃料タンクに燃料を補給する場合、更には、通常エンジンルーム内に開口する注入口を有するウォッシャタンクにワイパウォッシャ液を補給する場合などに、還元剤タンクの注入口と燃料タンクの給油口あるいはウォッシャタンクの注入口を混同し、還元剤タンクに燃料やウォッシャ液を誤注入したり、その逆の誤注入が生じることが考えられる。従って、還元剤タンクをレイアウトする際には、かかる誤注入を確実に防止できるようにすることが求められる。
【0009】
この発明は、これら技術的課題を解決するためになされたもので、還元剤タンクを車両に配置するに際し、還元剤タンクが仮に破損したとしても、還元剤が車室内に侵入することを確実に防止でき、また、還元剤タンクの注入口と燃料タンクの給油口やウォッシャタンクの注入口とを混同することを確実に防止できるようにすることを、基本的な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このため、本願の第1の発明は、車室外に開口する給油口を有する燃料タンクと、排気浄化に用いる還元剤を貯蔵する還元剤タンクとを搭載した車両の排気浄化装置配設構造であって、前記還元剤タンクは車室外に配設され、該還元剤タンクの注入口は車室内に設けられている、ことを特徴としたものである。
【0011】
また、本願の第2の発明は、前記第1の発明において、前記注入口は、車室内外方向において、車室内壁の前記還元剤タンクに対面する位置に配設されていることを特徴としたものである。
【0012】
更に、本願の第3の発明は、前記第1又は第2の発明において、前記還元剤タンクはフロアパネルの下方に配設されていることを特徴としたものである。
【0013】
また更に、本願の第4の発明は、前記第3の発明において、前記還元剤タンクは車体に対して揺動を許容する支持部材を介して支持され、前記注入口は揺動許容手段を有していることを特徴としたものである。
【0014】
また更に、本願の第5の発明は、前記第4の発明において、前記注入口は、車体側開口部と、該車体側開口部から離間したタンク側開口部とを備え、該タンク側開口部には蓋が備えられていることを特徴としたものである。
【0015】
また更に、本願の第6の発明は、前記第5の発明において、前記車体側開口部にも蓋が備えられていることを特徴としたものである。
【0016】
また更に、本願の第7の発明は、前記第5又は第6の発明において、前記車体側開口部と前記タンク側開口部の間の空間部が柔軟性のある被覆カバーで覆われ、該被覆カバーは前記各開口部をそれぞれ形成する各部材よりも脆弱に構成されていることを特徴としたものである。
【0017】
また更に、本願の第8の発明は、前記第1の発明において、前記還元剤タンクの注入口の近傍に、車室内と車室外とを連通させる開口部と、該開口部を開閉可能に覆う開閉体と、前記給油口とが設けられていることを特徴としたものである。
【0018】
また更に、本願の第9の発明は、前記第8の発明において、前記還元剤タンクは車体後部の荷室フロアの下方に吊り下げ状態で支持されており、前記給油口は車体後部の側面に設けられ、前記開閉体は前記荷室の開口部を開閉可能に覆うことを特徴としたものである。
【0019】
また更に、本願の第10の発明は、前記第1の発明において、前記還元剤は、常温時に液体である尿素系化合物であることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0020】
本願の第1の発明によれば、還元剤タンクは車室外に配設されているので、万一還元剤タンクが破損してタンク内の還元剤が漏れ出たとしても、この漏れ出た還元剤が車室内に侵入することはない。また、還元剤タンクの注入口は車室内に設けられているので、車室外に開口する燃料タンクの給油口や、通常エンジンルーム内に開口するウォッシャタンクの注入口と混同されることはなく、還元剤タンクに燃料やウォッシャ液を誤注入したり、その逆の誤注入が生じることを確実に防止できる。
【0021】
また、本願の第2の発明によれば、基本的には前記第1の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、前記還元剤タンクの注入口が、車室内外方向において、車室内壁の還元剤タンクに対面する位置に配設されることにより、注入口を還元剤タンクの近傍に設けることができ、注入口から還元剤タンクに至る注入経路を、より短くより簡素化することができる。
【0022】
更に、本願の第3の発明によれば、基本的には前記第1又は第2の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、前記還元剤タンクはフロアパネルの下方に配設されているので、車室内とは前記フロアパネルによって確実に仕切られており、還元剤タンクの破損に伴って漏れ出た還元剤が車室内に侵入することが確実に防止される。また、容積および重量がある還元剤タンクをフロアパネル下方に配設することにより、従来、エンジンルームやサイドカウルの内部または車室内に配置していた場合に比して、車体の重心を低くすることができ、更に、従来、バンパ内に配置していた場合に比して、車体の重心を前後方向における中央側に寄せることができ、車両の操縦安定性の向上に寄与することができる。
【0023】
また更に、本願の第4の発明によれば、基本的には前記第3の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、還元剤タンクが、車体に対して揺動を許容する支持部材を介して支持されることにより、車両の走行等によりフロアパネルの下方に生じた振動が、還元剤タンクから車室へ伝達されることを有効に抑制できる。このとき、還元剤タンクの注入口は、揺動許容手段を有しているので、還元剤タンクの車体に対する揺動動作に支障なく追従することができる。
【0024】
また更に、本願の第5の発明によれば、基本的には前記第4の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、前記注入口は、車体側開口部と、該車体側開口部から離間したタンク側開口部とを備え、該タンク側開口部には蓋が備えられているので、車両衝突時などに、還元剤タンクと車体との間に相対移動が生じたとしても、タンク側開口部は蓋で密閉されており、注入口から還元剤が漏れ出ることを防止できる。
【0025】
また更に、本願の第6の発明によれば、基本的には前記第5の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、前記車体側開口部にも蓋が備えられることにより、注入口から還元剤が漏れ出て車室内へ侵入することを更に確実に防止でき、また、車室内へ外気や泥水が侵入することも防止できる。
【0026】
また更に、本願の第7の発明によれば、基本的には前記第5又は第6の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、車体側開口部とタンク側開口部の間の空間部は被覆カバーで覆われているので、車体側開口部を介して外気や泥水が車室内へ侵入することをより確実に防止できる。この場合において、前記被覆カバーは、その柔軟性の範囲内で、還元剤タンクの車体に対する微小な揺動動作を支障なく吸収することができる。しかも、被覆カバーは前記各開口部をそれぞれ形成する各部材よりも脆弱に構成されているので、被覆カバーの柔軟性により吸収できる範囲を越える還元剤タンクの車体に対する揺動動作が生じた場合には、被覆カバーが真っ先に破損することで、各開口部をそれぞれ形成する各部材に過大な力が作用することを回避できる。
【0027】
また更に、本願の第8の発明によれば、基本的には前記第1の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、還元剤タンクの注入口と燃料タンクの給油口とが同一の開閉体の近くで互いに近傍に配置されているので、還元剤を補給する場合と燃料を補給する場合とで、補給施設に対して停車位置を変える必要がない。すなわち、還元剤タンクと燃料タンクとが、例えば、車両の左側と右側とに分かれて設けられている場合や、同じ側であっても前後に大きく離間している場合のように、補給対象応じて車両の停車位置を変える必要はなく、利便性が向上する。また、停車位置を間違えることによる誤注入の発生を心配する必要もない。
【0028】
また更に、本願の第9の発明によれば、基本的には前記第8の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、具体的には、還元剤タンクの注入口と燃料タンクの給油口とを、車体後部の荷室を開閉する開閉体の近くで、互いに近傍に配置することができる。
【0029】
また更に、本願の第10の発明によれば、基本的には前記第1の発明と同様の作用効果を奏することができる。特に、還元剤は、比較的毒性や刺激臭が低く常温時に液体である尿素系化合物であるので、取り扱いが比較的容易である。また、仮に還元剤タンクが破損してタンクから漏れ出たとしても、常温では熱分解によってアンモニアガスが生じることは殆どないので、大きな悪影響を及ぼさずに済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本実施形態に係る排気浄化装置を備えた自動車の車体フロアの下面側を示す底面図(下方から見て示した図)、図2は図1における車体後部を拡大して示す部分拡大底面図、図3は車体後部における前記車体フロアの上面側を示す平面図である。また、図4は図1におけるA−A線に沿った断面図、図5は図3におけるB−B線に沿った部分断面図、図6は図1におけるC−C線に沿った部分断面図、図7は図1におけるD−D線に沿った部分断面図である。
【0031】
図1から良く分かるように、本実施形態に係る自動車は、車体フロアパネル2の下側に、エンジンユニット20からリヤ・デファレンシャル装置26(所謂リヤデフ)に至る動力伝達系と、前記エンジンユニット20から車体後端にまで延びるエンジン排気系とが備えられている。
前記動力伝達系は、基本的には、従来公知のものと同様の構成を備えており、前記エンジンユニット20は、例えばディーゼルエンジンとされた内燃機関(エンジン)とトランスミッションとを一体的に連結して構成され、このトランスミッションの出力がプロペラシャフト25を介してリヤ・デファレンシャル装置26に伝達され、このリヤ・デファレンシャル装置26から、左右のドライブシャフト27(図2参照)をそれぞれ介して左右のホイールサポート28に伝達されることで左右の後輪29(後述する図8(a)〜図8(c)参照)が駆動される。
【0032】
前記フロアパネル2には、車体前後方向に延びる閉断面状のフロアメンバ3が形成されている。これらフロアメンバ3はプロペラシャフト25及びエンジン排気系の左右両側に形成されている。そして、これらフロアメンバ3の間には、正面視で上方に膨出した形状が車体前後方向に延びるトンネル部4が形成されている。プロペラシャフト25及びエンジン排気系は、このトンネル部4が形成する空間部4S(トンネル空間)内を通されている。このトンネル空間4Sは、前記リヤ・デファレンシャル装置26の直後方まで延設されている。
車両走行中は、このトンネル空間4Sを吹き抜ける床下走行風(図7における破線矢印Wd参照)により、プロペラシャフト25,リヤ・デファレンシャル装置26などの動力伝達系の構成要素、及びエンジン排気系の構成要素を効果的に冷却することができる。
【0033】
図1及び図2に示されるように、車体1の後部のフロアパネル2の下面側の左右両端の近傍は、車体前後方向に延びる左右一対のリヤサイドフレーム6で支持されており、各リヤサイドフレーム6の後端部は、車体後端において車幅方向に延設された後端クロスメンバ8に結合されている。リヤバンパ16は、車体後端に立設されたリヤエンドパネル9を介して、この後端クロスメンバ8に取り付けられている。
左右のリヤサイドフレーム6の略中間で、若干何れか一方に(例えば車体左方に)偏った箇所には、リヤサイドフレーム6と略平行に車体前後方向へ延びるセンタフレーム7が配設されている。このセンタフレーム7の後端も、前記リヤエンドパネル9を介してリヤバンパ16に結合されている。
【0034】
左右のリヤサイドフレーム6の前後方向における途中部は、車幅方向に延びるクロスメンバ11(ロアクロスメンバ)によって掛け渡すようにして連結されている。前記センタフレーム7の前端は、このロアクロスメンバ11に結合されている。また、フロアパネル2の上面側には、前記ロアクロスメンバ11よりも若干前方に、車幅方向へ延びるアッパクロスメンバ12(図3参照)が配設されている。
前記ロアクロスメンバ11よりも所定距離だけ隔てた前方には、車幅方向へ延びる中間クロスメンバ13が左右のリヤサイドフレーム6間を掛け渡すようにして配設されている。この中間クロスメンバ13と前記ロアクロスメンバ11の間に燃料タンク51が配置されている。
【0035】
この燃料タンク51は、例えば合成樹脂製で、図5及び図6に示されるように、その下面側を(好ましくは、タンク51の略下半分を)例えばアルミニウム製の板材で形成されたカバー体52(インシュレータ)で覆われており、該インシュレータ52の下面を掛け渡して張設された複数(例えば左右2本)の支持バンド53により、中間クロスメンバ13とロアクロスメンバ11の間に吊り下げ支持されている。前記支持バンド53は、例えば金属製で帯状に形成された公知のものである。尚、この支持バンド53を、所要の機械的特性を有する樹脂製のものとしてもよい。
燃料タンク51に燃料を給油する給油管54(図2参照)は、燃料タンク51の後部から導出され、車体1の後部の左側面に設けられて車室外に開口する給油口56を有する給油部55(図3参照)に至るまで延設されている。この給油部55は、車室後端を車室外に開放する(つまり、車室内と車室外とを連通させる)リヤ開口部10の近傍に位置している。このリヤ開口部10は、リヤゲート17(図5,図6参照)によって開閉可能に覆われている。
【0036】
前記リヤサイドフレーム6の前後方向における途中部に対応する箇所には、後輪サスペンション装置30を支持するサブフレーム31が配設されている。図2から分かるように、このサブフレーム31は、車幅方向に延びる前後一対のクロスメンバ(フロントクロスメンバ32,リヤクロスメンバ33)と、車体前後方向に延びてこれらフロント及びリヤのクロスメンバ32,33の左右両端の近傍どうしを前後方向に連結する左右一対のサイドクロスメンバ34,35とで、平面視で略矩形枠状に形成されている。
より好ましくは、前記リヤクロスメンバ33の車幅方向における中央には、平面視で、その中心が後方へ膨出するように湾曲した後方湾曲部33bが形成されている。この後方湾曲部の作用については、後述する。
【0037】
後輪サスペンション装置30を構成するロアアーム41,各種リンク部材42A〜42D,スプリング43,ダイナミックダンパ44等の各構成要素を前記サブフレーム31に組み付けてサスペンション・アッセンブリを構成し、このサスペンション・アッセンブリが、弾性マウント部材をそれぞれ介して複数箇所で車体1に対して取り付けられるようになっている。
【0038】
次に、前記エンジン排気系について説明する。
エンジン排気系は、図1に示されるように、動力伝達系のプロペラシャフト25に略沿うようにして車体前後方向に延設されており、基本的には、尿素水溶液を還元剤に用いる排気浄化装置を設けた従来公知のものと同様に構成され、エンジンの排気ポートから下流側へ順番に、第1排気管61、上流側触媒ユニット62、第2排気管63、下流側触媒ユニット64、第3排気管65、サイレンサ66、第4排気管67を備えている。
【0039】
前記第1排気管61は、その上流端部がエンジンの排気ポートに連通し、下流端部は上流側触媒ユニット62に接続されている。第2排気管63は、上流側触媒ユニット62と下流側触媒ユニット64の間に位置しており、後述するように、還元剤としての尿素水溶液はこの第2排気管63内に注入される。前記第3排気管65は、その上流端部が下流側触媒ユニット64に連通し、下流端部はサイレンサ66に接続されている。また、第4排気管67は、その上流端部がサイレンサ66に連通し、下流端部には排気口68が形成されている。前記サイレンサ66は、表面積が非常に大きいので、この部分で排気ガスの温度が大幅に低下する。尚、第4排気管67および前記第1排気管61は、その少なくとも一部を、屈曲自在なフレキシブルチューブで構成してもよい。
【0040】
前記上流側触媒ユニット62は、従来公知のものと同様のもので、酸化触媒と排気微粒子捕集器(所謂DPF)とを内蔵しており、酸化触媒によって排気ガス中の炭化水素(HC)や一酸化炭素(CO)を酸化し、多孔質のフィルタを備えたDPFを通過させることによって排気ガス中の粒子状物質(所謂PM)を捕集し、排気ガスの浄化を図るものである。
【0041】
前記上流側触媒ユニット62の下流側において排気系に組み込まれた排気浄化装置70は、所謂SCR法によって排気ガス中の窒素酸化物(NO)を浄化するものである。前記下流側触媒ユニット64も、それ自体は従来公知のものと同様のもので、上流触媒と下流触媒とを内蔵している。上流触媒は、排気ガス中のNOをアンモニア等の還元物質と触媒反応させて浄化するもので、いわゆる選択接触還元触媒である。一方、下流触媒は、余剰アンモニアを分解し、所謂アンモニアスリップ(アンモニアが大気に放出される現象)を防止するための、余剰還元剤酸化触媒である。
【0042】
本実施形態に係る排気浄化装置70では、NO還元触媒による浄化効率を高めるためにアンモニアを還元物質として用いるに際して、下流側触媒ユニット64の上流触媒の上流側に位置する第2排気管63内に尿素水溶液を還元剤として添加するようにしている。
このため、フロアパネル2の下方に保持された還元剤タンク71(尿素タンク)から尿素配管72が導かれ、その端末が第2排気管63の分岐管63bに繋ぎ込まれている。この尿素配管63の接続端末は、より好ましくは、前記分岐管63b内に備えられた噴射ノズル(不図示)に接続されている。具体的には図示しなかったが、前記尿素タンク71内にはポンプが内蔵されており、このポンプの吐出作用により、尿素水溶液が尿素配管72を通じて送給され、第2排気管63内の下流部分に噴射供給される。
【0043】
このようにして、下流側触媒ユニット64の上流に添加された尿素水溶液は、エンジンの排気により加熱され分解されてアンモニアを発生させる。このアンモニアが還元物質として作用し、排気ガス中のNOの無害化がより促進されるのである。
尿素水溶液は、アンモニアに比して、比較的毒性や刺激臭が低く、また、常温時に液体であるので、取り扱いが比較的容易である。つまり、この場合、エンジン排気に含まれるNO成分を浄化するための還元物質(アンモニア)が、該還元物質よりも低毒性で且つ燃料よりも難燃性の還元剤(尿素水溶液)を熱分解して生成され、この生成した還元物質を用いて排気浄化が行われることになる。
【0044】
また、この場合、仮に還元剤タンク(尿素タンク71)が破損してタンクから漏れ出たとしても、常温では熱分解によってアンモニアガスが生じることは殆どないので、大きな悪影響を及ぼさずに済む。
前記尿素タンク71及び尿素配管72を含む尿素供給系と、尿素水溶液が供給される第2排気管63と、前記下流側触媒ユニット64とで、本実施形態に係る排気浄化装置70が構成されている。
【0045】
本実施形態では、前記尿素タンク71をレイアウトするに際して、該尿素タンク71を、前述のようにフロアパネル2の下方に配置し、また、燃料タンク51よりも後方で、且つ、排気系に対して車幅方向に所定の隙間Gを隔てた箇所に配置するようにしている。
すなわち、尿素タンク71は、フロアパネル2の下方において車体後部のサスペンション・アッセンブリのサブフレーム31と後端クロスメンバ8の間で、排気系のサイレンサ66と車幅方向に所定の隙間Gを隔てて配置されている。従って、中間クロスメンバ13とロアクロスメンバ11の間に配置された燃料タンク51よりも、かなり後方に位置している。
【0046】
このように、尿素タンク71をフロアパネル2の下方に配置したことにより、尿素タンク71は、車室内とはフロアパネル2によって確実に仕切られることになり、万一尿素タンク71が破損してタンク71内の尿素水溶液が漏れ出たとしても、この漏れ出た尿素水溶液が車室内に侵入することが確実に防止される。また、容積および重量がある尿素タンク71をフロアパネル2の下方に配設することにより、従来、エンジンルームやサイドカウルの内部または車室内に配置していた場合に比して、車体の重心を低くすることができ、更に、従来、バンパ内に配置していた場合に比して、車体の重心を前後方向における中央側に寄せることができ、車両の操縦安定性の向上に寄与することができる。
【0047】
また、尿素タンク71を燃料タンク51よりも後方に配置したことにより、尿素水溶液よりも可燃性が強い燃料を貯えた燃料タンク51を、尿素タンク71に比して車両前後方向における中央側に位置させることができ、車両後突(後方からの衝突)時の安全性をより高めることができる。一方、尿素タンク71は、燃料タンク51に比して後方で、比較的低温となる比較的下流側の排気系(具体的にはサイレンサ66)に対し車幅方向に所定の隙間Gを隔てた部位に配置されるので、尿素タンク71が万一破損してタンク71内の尿素水溶液が漏れ出たとしても、その周囲の温度はさほど高温ではないので、漏れ出た尿素水溶液は加熱分解し難く、若干の毒性と刺激臭のあるアンモニアを発生させることを抑制できるのである。
【0048】
特に、尿素タンク71を、車体1の後部に配設することで、上流側に比して大幅に低温となる下流側の排気系に対し車幅方向に所定の隙間Gを隔てた部位に配置することができる。しかも、尿素タンク71の側方の排気系には表面積が広く排気温度を更に低下せせるサイレンサ66が位置しているので、尿素タンク71が万一破損しタンク71内の尿素水溶液が漏れ出てサイレンサ66に飛散したとしても、サイレンサ66の表面温度は比較的低いので、尿素水溶液は熱分解し難く、アンモニアを発生させることをより効果的に抑制できる。
【0049】
次に、尿素タンク71の具体的な配設構造等について説明する。
前記尿素タンク71は、例えば合成樹脂製で、少なくとも排気系(この場合サイレンサ66)に対面する右側の略全面と下面とがカバー体73(インシュレータ)で覆われている。該カバー体73は、例えばアルミニウム製の板材を用いて、図4〜図6に示すように、より好ましくは、下方に凹んだ所謂「たらい」状に形成され、尿素タンク71の下側全面と側面の大部分が前記カバー体73で覆われている。
従って、尿素タンク71が万一破損してタンク71内の尿素水溶液が漏れ出たとしても、この漏れ出た尿素水溶液が直接に排気系に飛散することが防止され、尿素素溶液の熱分解によりアンモニアを発生させることが抑制される。
【0050】
そして、尿素タンク71は、その下面を掛け渡して張設された複数(例えば左右2本)の支持バンド74により、サスペンション・アッセンブリのサブフレーム31と後端クロスメンバ8の間に吊り下げ支持されている。尚、図2においては、支持バンド74による尿素タンク71の支持構造を明示するために、尿素タンク71はカバー体73を取り外した状態で示されている。
【0051】
より詳しく説明すれば、図1,図2及び図6から分かるように、尿素タンク71の右端近傍部分は、センタフレーム7の下側に位置し、好ましくは弾性を有するクッション材75(図6参照)を介して、該センタフレーム7の下面に当接している。そして、右側の支持バンド74の前後の端部は、このセンタフレーム7の下面にネジ部材76を用いて固定されている。
一方、図1,図2,図4及び図5から分かるように、尿素タンク71の左端近傍部分は、リヤサイドフレーム6の下側に位置し、弾性を有するクッション材(不図示)を介して、該リヤサイドフレーム6の下面に当接している。また、尿素タンク71の中央の前端部分は、リヤサイドフレーム6とセンタフレーム7との間に掛け渡して設けられたガセット14の下方に位置している。そして、左側の支持バンド74の後端はリヤサイドフレーム6の下面に固定され、前端は前記ガセット14の下面にネジ部材77(図5参照)を用いて固定されている。
【0052】
尿素タンク71のこの配設位置は、図3に示すように、車室後部の左側に対応しており、尿素タンク71に尿素水溶液を補給するための注入口81は、タイヤパン5の側方で車室後部左隅の近傍に配置されている。
【0053】
図6に示されるように、支持バンド74と尿素タンク71の下面との間には、より好ましくは、バンドカバー78が介装されており、前記カバー体73は、上方に膨出した複数の取付部73mで、支持バンド74及びバンドカバー78に対して、両者74,78を挟み込んだ状態でボルト79b及びナット79nを用いて固定されている。そして、前記支持バンド74を尿素タンク71の下面に掛け渡して張設することにより、尿素タンク71の下側全面と側面の大部分とがカバー体73で覆われる。前記取付部73m以外の領域では、カバー体73と尿素タンク71の表面との間には、空間部80が形成されており、この空間部80のエア層により、カバー体73で覆うことによる遮熱効果が高められる。尚、前記支持バンド74及びバンドカバー78は、燃料タンク51の支持バンド53と同じく、例えば金属製で帯状に形成された公知のものである。これら支持バンド74,バンドカバー78を、所要の機械的特性を有する樹脂製のものとしてもよい。
【0054】
前記支持バンド74は、尿素タンク71と車体(図6の例ではセンタフレーム7)との間に介装されたクッション材75,75が、尿素タンク71の揺動や振動を吸収する微小なストロークを微小な伸縮や弾性変形によって吸収するために、ごく僅かながら伸び縮みするものであるので、車両走行中に車体へ(特にフロアパネル2及びその下方の構成要素へ)振動が入力されると、これに伴って、尿素タンク71及びカバー体73は、支持バンド74の伸縮範囲内でごく僅かながら揺動する。すなわち、尿素タンク71は、更に、これに加えて前記カバー体73は、車体1に対して揺動を許容する支持部材(支持バンド74)を介して支持されていることになる。
【0055】
これにより、車両の走行等によりフロアパネル2の下方に生じた振動が、尿素タンク71から車室へ伝達されることが有効に抑制される。
また、特に、尿素タンク71とカバー体73とは共に、車体1に対して揺動を許容する前記支持バンド74を介して支持されているので、仮に支持バンド74が破断した場合でも、尿素タンク71はカバー体73と一緒に落下し、尿素水溶液がカバー体73の外側へ飛散することが防止される。
【0056】
前述のように、尿素タンク71はサイレンサ66との間に車幅方向に所定の隙間Gを隔てて配置されているが(図1参照)、この両者71,66間の隙間部Gは前記トンネル部4の直後方に位置している。このトンネル部4は、前述のように、正面視で上方へ膨出するように形成され車体前後方向に延びるもので、プロペラシャフト25及びエンジン排気系がトンネル空間4S内を通されおり、このトンネル空間4Sは前記リヤ・デファレンシャル装置26の直後方まで延設されている。つまり、尿素タンク71はサイレンサ66との間の前記隙間部Gは、リヤ・デファレンシャル装置26の直後方に位置している。
【0057】
かかるレイアウトを採用することで、車両走行中、前記トンネル部4Sを吹き抜ける床下走行風Wd(図7参照)により、尿素タンク71の側方の排気系(この場合、サイレンサ66)をより効果的に冷却でき、また、尿素タンク71とサイレンサ66の間を有効に遮熱することができる。
【0058】
また、尿素タンク71とサイレンサ66との間の車幅方向の前記隙間部Gの直前方で、前記リヤ・デファレンシャル装置26の直後方には、後突(後方からの衝突)時における尿素タンク71の安全性を高めるためのガイド部材91が配設されている(図2,図7参照)。
このガイド部材91は、例えば、前記サスペンション・アッセンブリのサブフレーム31に取り付けられるダイナミックダンパ44のケース体を利用して構成され、平面視において、前方へ向かうに連れて拡開するテーパを形成する左右の斜面部91aと、これら斜面部91aの基点から後方へ所定長さだけ伸びる平板状の後端片91bとを有している。
【0059】
このようなガイド部材91を尿素タンク71とサイレンサ66との間の車幅方向の前記隙間部Gの直前方に設けたことにより、車両後突時に尿素タンク71とサイレンサ66とが前動する際には、前記ガイド部材91の左右の斜面部91aにより、少なくとも一方が他方に対して車幅方向へ離間する方向へ案内される。
従って、後突により尿素タンク71が万一破損してタンク71内の尿素水溶液が漏れ出たとしても、この漏れ出た尿素水溶液がサイレンサ66に降り掛かることが有効に抑制される。
【0060】
前記ガイド部材91は、前方へ向かうに連れて拡開する(つまり、後方へ向かうに連れて先尖りとなる)テーパを形成する左右の斜面部91aと、これら斜面部91aの基点から後方へ所定長さだけ伸びる平板状の後端片91bとを有しているので、フロアパネル2の下方を(特に前記トンネル空間4Sを)走行風Wdが流れる場合には、この走行風Wdを、尿素タンク71とサイレンサ66との間の車幅方向の前記隙間部Gを通るように整流することができる。これにより、尿素タンク71側方のサイレンサ66をより一層効果的に冷却でき、また、両者71,66間をより有効に遮熱することができる。
【0061】
尚、サスペンション・アッセンブリのサブフレーム31の形状を利用して、前記ガイド部材91の後突時における作用と類似した作用を行わせることができる。
図8(a),(b),(c)は、前記サブフレーム31の形状を利用した尿素タンク71の潰れモード制御を説明する一連の説明図で、図8(a)は通常状態における尿素タンク71を示す底面図、図8(b)は大衝突時の尿素タンク71の潰れモードを示す底面図、また、図8(c)は軽衝突時の尿素タンク71の潰れモードを示す底面図ある。
【0062】
前述のように、サスペンション・アッセンブリのサブフレーム31のリヤクロスメンバ33には、車幅方向における中央に、平面視で、その車幅方向の中心が後方へ膨出するように湾曲した後方湾曲部33bが形成されている。この後方湾曲部33bの平面形状は、前記ガイド部材91における「前方へ向かうに連れて拡開するテーパ」と類似の作用をなすものである。
【0063】
尿素タンク71が前記サブフレーム31のリヤクロスメンバ33に大荷重を及ぼさない程度の軽衝突時(衝突荷重F2)にあっては、図(c)に示すように、尿素タンク71及びサイレンサ66は前方移動するのみで、尿素タンク71は殆どダメージを受けない。
一方、尿素タンク71が前記リヤクロスメンバ33に大荷重を及ぼす大衝突時(衝突荷重F1)にあっては、図(b)に示すように、尿素タンク71は大きなダメージを受けることになるが、この場合には、前記リヤクロスメンバ33の車幅方向における中央部分の前側がリヤ・デファレンシャル装置26の後端部に当接し、リヤクロスメンバ33の左右両端側が前方へ移動するようにリヤクロスメンバ33が折れ曲がるので、前動する尿素タンク71とサイレンサ66とは、少なくとも一方が他方に対して車幅方向へ離間する方向へ案内されることになる。従って、尿素タンク71とサイレンサ66との間の車幅方向の前記隙間部Gの直前方に前記ガイド部材91を設けた場合と類似の作用効果を奏することができる。
【0064】
次に、尿素タンク71に尿素水溶液を補給するための注入口81と、燃料タンク51の給油口56との位置関係等について説明する。
図3に示すように、燃料タンク51の給油口56を有する給油部55は、前述のように、車体1の後部の左側面に設けられており、この給油部55は、給油口56を開閉するキャップ57を有し、車室後端において車室内と車室外とを連通させるリヤ開口部10の近傍に位置している。
【0065】
一方、尿素タンク71は、前述のように、フロアパネル2の下方において、サスペンション・アッセンブリのサブフレーム31と後端クロスメンバ8との間で、車室後部の左側に対応した箇所に吊り下げ支持されており、尿素タンク71に尿素水溶液を補給するための注入口81は、フロアパネル2のタイヤパン5の側方で車室後部左隅の近傍に配置されている。
【0066】
このように、本実施形態では、尿素タンク71を車室外(フロアパネル2の下方)に配設したにも拘わらず、尿素タンク71の注入口81は車室内に設けられている。従って、万一尿素タンク71が破損してタンク71内の尿素水溶液が漏れ出たとしても、この漏れ出た尿素水溶液が車室内に侵入することを確実に防止すると共に、車室外に開口する燃料タンク51の給油口56や、通常エンジンルーム内に開口するウォッシャタンクの注入口(不図示)と混同されることが防止される。これにより、尿素タンク71に燃料やウォッシャ液を誤注入したり、その逆の誤注入が生じることを確実に防止できる。
【0067】
また、図4及び図5に示されるように、尿素タンク71の注入口81は、車室内外方向において、車室内壁(フロアパネル2)の尿素タンク71に対面する位置に配設されている。これにより、注入口81を尿素タンク71の近傍に設けることができ、注入口81から尿素タンク71に至る注入経路が、より短くされ、より簡素化されている。
【0068】
前記注入口81は、フロア側開口部85と、該フロア側開口部85から離間したタンク側開口部83とを備えている。タンク側開口部83は、尿素タンク71の上面から突き出した例えば合成樹脂製の注入筒82の上端に形成され、これを開閉するキャップ84(タンク側キャップ)が備えられている。フロア側開口部85は、フロアパネル2に設けた穴部で形成され、このフロア側開口部85にも、これを開閉するキャップ86(フロア側キャップ)が備えられている。このフロア側キャップ86は、複数のネジ部材89(図3参照)を用いて、取り外し可能にフロアパネル2の穴部(フロア側開口部85)を覆って取り付けられる。尿素タンク71の車体1への組付状態において、前記タンク側キャップ84の上面はフロア側キャップ86の下面から所定距離以上離間している。
【0069】
このように、タンク側開口部83はキャップ84を備えているので、車両衝突時などに、尿素タンク71と車体1との間に相対移動が生じたとしても、タンク側開口部83はキャップ84で密閉されており、注入口81から尿素水溶液が漏れ出ることを防止できる。
更に、フロア側開口部85にもキャップ86が備えられることにより、注入口81から尿素水溶液が漏れ出て車室内へ侵入することを更に確実に防止できる。また、フロアパネル2の下方から車室内へ外気や泥水が侵入することも防止できる。
【0070】
前述のように、尿素タンク71は、車体1に対して揺動を許容する支持部材(支持バンド74)を介して支持されており、車両の走行等によりフロアパネル2の下方に生じた振動が、尿素タンク71から車室へ伝達されることが有効に抑制されているが、尿素タンク71の注入口81は、互いに上下に離間したフロア側開口部85とタンク側開口部83とで構成され、両者85,83間には(より具体的には、タンク側キャップ84の上面とフロア側キャップ86の下面との間には)、所定距離以上の間隙Kが設けられている。従って、車両走行中などにおいて尿素タンク71が車体1に対して(フロアパネル2に対して)揺動したとしても、タンク側キャップ83の上面とフロア側キャップ86の下面とが干渉することはなく、何ら支障なく尿素タンク71の揺動動作に追従することができる。
【0071】
また、フロア側開口部85とタンク側開口部83の間の空間部87は、例えばゴム或いは布または軟質樹脂で製作されたフレキシブルな被覆カバー88で覆われている。この被覆カバー88は、その下端部がタンク71側の注入筒82の外周部に取り付けられ、上端部は、フロア側開口部85の周縁の近傍に取り付けられている。前記被覆カバー88は、フロア側開口部85を形成する部材(フロアパネル2)及びタンク側開口部83を形成する部材(注入筒82)よりも脆弱に(つまり、破損し易く)構成されている。
【0072】
このように、フロア側開口部85とタンク側開口部83の間の空間部87が被覆カバー88で覆われることにより、フロア側開口部85を介して外気や泥水が車室内へ侵入することをより確実に防止できる。この場合において、前記被覆カバー88は、その柔軟性の範囲内で、尿素タンク71の車体1に対する微小な揺動動作を支障なく吸収することができる。しかも、被覆カバー88は各開口部85,83をそれぞれ形成する各部材2,82よりも脆弱に構成されているので、被覆カバー88の柔軟性により吸収できる範囲を越える尿素タンク71の車体1に対する揺動動作が生じた場合には、被覆カバー88が真っ先に破損することで、各開口部85,83をそれぞれ形成する各部材2,82に過大な力が作用することを回避できる。
【0073】
前述のように、燃料タンク51の給油口56は車体1の後部の左側面に設けられ、車室後端において車室内と車室外とを連通させるリヤ開口部10の近傍(従って、リヤゲート17の近傍)に位置している。一方、尿素タンク71に注入口81は、タイヤパン5の側方で車室後部左隅の近傍に配置されており、やはりリヤゲート17の近傍に位置している。つまり、尿素タンク71の注入口81と燃料タンク51の給油口56とは共に、車体後部の左側部分に配置されている。
【0074】
このように、尿素タンク71の注入口81と燃料タンク51の給油口56とが同一の開閉体(リヤゲート17)の近くで互いに近傍に配置されているので、尿素水溶液を補給する場合と燃料を補給する場合とで、補給施設に対して停車位置を変える必要がない。すなわち、尿素タンク71の注入口81と燃料タンク51の給油口56とが、例えば、車両の左側と右側とに分かれて設けられている場合や、同じ側であっても前後に大きく離間している場合のように、補給対象応じて車両の停車位置を変える必要はなく、利便性が向上する。また、停車位置を間違えることによる誤注入の発生を心配する必要もない。この場合、車体1の後部の左側部分が尿素水溶液または燃料の補給設備に面するように、停車位置を選べばよい。
【0075】
尚、本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において、変更および改良等がなされるものであることは、いうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、車両の内燃機関からの排気ガスを還元物質を用いて浄化する排気浄化装置の車両への配設構造に関し、還元剤タンクを車両に配置するに際し、還元剤タンクが仮に破損したとしても、還元剤が車室内に侵入することを確実に防止でき、また、還元剤を補給する際に、還元剤タンクの注入口と燃料タンクの給油口やウォッシャタンクの注入口とを混同することを確実に防止でき、自動車等の車両に排気浄化装置を配設する際の配設構造として、有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施形態に係る排気浄化装置を備えた自動車の車室フロアの下面側を示す底面図である。
【図2】図1における車体後部を拡大して示す部分拡大底面図である。
【図3】前記車体後部における前記車体フロアの上面側を示す平面図である。
【図4】図1におけるA−A線に沿った断面図である。
【図5】図3におけるB−B線に沿った部分断面図である。
【図6】図1におけるC−C線に沿った部分断面図である。
【図7】図1におけるD−D線に沿った部分断面図である。
【図8】サブフレームの形状を利用した尿素タンクの潰れモード制御を説明する一連の説明図で、図8(a)は通常状態における尿素タンクを示す底面図、図8(b)は大衝突時の尿素タンクの潰れモードを示す底面図、図8(c)は軽衝突時の尿素タンクの潰れモードを示す底面図ある。
【符号の説明】
【0078】
1 車体
2 フロアパネル
10 リヤ開口部
17 リヤゲート(開閉体)
51 燃料タンク
56 給油口
70 排気浄化装置
71 尿素タンク
73 カバー体
74 支持バンド
81 注入口
82 注入筒
83 タンク側開口部
84 タンク側キャップ
85 フロア側開口部
86 フロア側キャップ
87 (フロア側開口部とタンク側開口部の間の)空間部
88 被覆カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室外に開口する給油口を有する燃料タンクと、排気浄化に用いる還元剤を貯蔵する還元剤タンクとを搭載した車両の排気浄化装置配設構造であって、
前記還元剤タンクは車室外に配設され、該還元剤タンクの注入口は車室内に設けられている、ことを特徴とする車両の排気浄化装置配設構造。
【請求項2】
前記注入口は、車室内外方向において、車室内壁の前記還元剤タンクに対面する位置に配設されている、ことを特徴とする請求項1に記載の車両の排気浄化装置配設構造。
【請求項3】
前記還元剤タンクはフロアパネルの下方に配設されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の車両の排気浄化装置配設構造。
【請求項4】
前記還元剤タンクは車体に対して揺動を許容する支持部材を介して支持され、前記注入口は揺動許容手段を有している、ことを特徴とする請求項3に記載の車両の排気浄化装置配設構造。
【請求項5】
前記注入口は、車体側開口部と、該車体側開口部から離間したタンク側開口部とを備え、該タンク側開口部には蓋が備えられている、ことを特徴とする請求項4に記載の車両の排気浄化装置配設構造。
【請求項6】
前記車体側開口部にも蓋が備えられていることを特徴とする請求項5に記載の車両の排気浄化装置配設構造。
【請求項7】
前記車体側開口部と前記タンク側開口部の間の空間部が柔軟性のある被覆カバーで覆われ、該被覆カバーは前記各開口部をそれぞれ形成する各部材よりも脆弱に構成されている、ことを特徴とする請求項5又は6に記載の車両の排気浄化装置配設構造。
【請求項8】
前記還元剤タンクの注入口の近傍に、車室内と車室外とを連通させる開口部と、該開口部を開閉可能に覆う開閉体と、前記給油口とが設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の車両の排気浄化装置配設構造。
【請求項9】
前記還元剤タンクは車体後部の荷室フロアの下方に吊り下げ状態で支持されており、前記給油口は車体後部の側面に設けられ、前記開閉体は前記荷室の開口部を開閉可能に覆う、ことを特徴とする請求項8に記載の車両の排気浄化装置配設構造。
【請求項10】
前記還元剤は、常温時に液体である尿素系化合物である、ことを特徴とする請求項1に記載の車両の排気浄化装置配設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−96223(P2009−96223A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266754(P2007−266754)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】